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特許7382037ゲル化膜、その製造方法、および、それを用いた熱電発電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】ゲル化膜、その製造方法、および、それを用いた熱電発電素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20231109BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20231109BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20231109BHJP
【FI】
H10N10/856
H10N10/01
H10K85/10
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019129734
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021015890
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼2018年 第79回応用物理学会秋季学術講演会 Webプログラムにおいて発表 ▲2▼2018年 第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,第08-068頁において発表 ▲3▼第15回日本熱電学会学術講演会(TSJ2018)講演予稿集,第157頁において発表 ▲4▼第15回日本熱電学会学術講演会(TSJ2018)において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】前田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】篠原 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】川上 博司
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康成
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慶次
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-145987(JP,A)
【文献】特開2006-152251(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034258(WO,A1)
【文献】特開2016-157942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/856
H10N 10/01
H10K 85/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有し、前記PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTにおける炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比(カチオン/C)が、0.002以上0.43未満であり、100S/cm以上10000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有する、ゲル化膜。
【請求項2】
前記原子比(カチオン/C)は、0.002以上0.36以下の範囲である、請求項1に記載のゲル化膜。
【請求項3】
前記カウンターカチオンは、Li、Na、K、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンである、請求項1または2に記載のゲル化膜。
【請求項4】
極性溶媒である有機溶媒をさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載のゲル化膜。
【請求項5】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である、請求項4に記載のゲル化膜。
【請求項6】
前記有機溶媒は、0.01wt%以上10wt%以下の範囲で含有される、請求項4または5に記載のゲル化膜。
【請求項7】
前記有機溶媒は、0.2wt%以上1wt%以下の範囲で含有される、請求項4~6のいずれかに記載のゲル化膜。
【請求項8】
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有するゲル化膜を製造する方法であって、
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、前記分散媒の比重よりも小さい比重を有し、前記分散液の量に対して2倍以上の容量である第1の有機溶媒に添加し、静置することと、
前記第1の有機溶媒を、極性溶媒である第2の有機溶媒に置換し、さらに静置することと
を包含する、方法。
【請求項9】
前記分散媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の有機溶媒は、25℃における比重(g/cm)が0.90以下を有する有機溶媒である、請求項またはに記載の方法。
【請求項11】
前記第1の有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である、請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記第2の有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である、請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の間、静置する、請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、40℃以上70℃以下の温度範囲において、30分以上10時間以下の時間の間、静置する、請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、10℃以上40℃未満の温度範囲において、5時間以上30時間以下の時間の間、静置する、請求項13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記さらに静置することを、繰り返すことをさらに包含する、請求項15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記静置することの後、前記さらに静置することに先立って、前記静置することによって得られたPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなるゲル化膜を乾燥させることをさらに包含する、請求項16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記さらに静置することによって得られたPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTのゲル化膜を乾燥させることをさらに包含する、請求項17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
少なくともp型熱電材料を備えた熱電発電素子であって、
前記p型熱電材料は、請求項1~のいずれかに記載のゲル化膜である、熱電発電素子。
【請求項20】
前記p型熱電材料と交互に直列に接続されるn型熱電材料を備える、請求項19に記載の熱電発電素子。
【請求項21】
前記n型熱電材料は、カーボンナノチューブ、フラーレン、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、シリコン(Si)およびテルル(Te)からなる群から選択される、請求項20に記載の熱電発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEDOTを用いたゲル化膜、その製造方法、および、それを用いた熱電発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSSと称する)膜は、軽くて柔らかく、湾曲面や身体の可動部などへの順応性が高く、多様な環境下で活用できるため、注目されている。
【0003】
PEDOT:PSS等を、エチレングリコールを用いて薄膜化する技術が知られている(例えば、特許文献1および2)。特許文献1によれば、導電性高分子と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)とトシレート(TOS)と塩素と過塩素酸塩からなる群から選ばれる物質と、溶媒としてエチレングリコールとエタノールとジメチルスルホキシドとイソプロパノールからなる群から選ばれる物質を、含む材料から、熱処理温度が125℃~200℃であり熱処理時間が5分~12時間である熱処理工程を含む製造工程によって、例えばPEDOT:PSS薄膜が作製され、熱電モジュールに適用される。
【0004】
また、特許文献2によれば、PEDOT/PSSの水溶液にエチレングリコールを添加し、乾燥させたPEDOT/PSS薄膜が、熱化学電池の電極として使用できることを開示する。特許文献1、2では、ドロップキャストによって成膜される。
【0005】
近年、PEDOT:PSSをゲル化した膜(PEDOT:PSSゲル化膜)が開発され、高い熱電性能が期待されている(例えば、非特許文献1および2)。
【0006】
非特許文献1および2では、PEDOT:PSSを水に分散させた水分散液をエタノールに滴下し、静置することにより、PEDOT:PSSがゲル化し、PEDOT:PSSゲル化膜が得られることを報告する。しかしながら、PEDOT:PSSゲル化膜を熱電発電素子に適用するにはさらなる改良が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/034258号
【文献】国際公開第2018/079325号
【非特許文献】
【0008】
【文献】R. Maeda, H. Kawakami, Y. Shinohara, I. Kanazawa, and M. Mitsuishi, “Thermoelectric Properties of PEDOT/PSS Films Prepared by a Gel-film Formation Process” Mater. Lett., vol. 251, pp. 169-171, 2019.
【文献】Ryota Maeda, Hiroshi Kawakami, Yoshikazu Shinohara and Ikuzo Kanazawa, “Thermoelectric properties of Functionally Graded PEDOT/PSS films Synthesized by an Original Gel Film Formation Process”, 15th International Symposium on Functionally Graded Materials,2018/8/5-8, Kitakyushu International Conference Center, Fukuoka, Japan.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上から、本発明の課題は、優れた熱電特性を有するPEDOTを用いたゲル化膜、その製造方法およびそれを用いた熱電発電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のゲル化膜は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有し、前記PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTにおける炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比(カチオン/C)が、0.002以上0.43未満であり、これにより上記課題を達成する。
前記原子比(カチオン/C)は、0.002以上0.36以下の範囲であってもよい。
前記カウンターカチオンは、Li、Na、K、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンであってもよい。
極性溶媒である有機溶媒をさらに含有してもよい。
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒であってもよい。
前記有機溶媒は、0.01wt%以上10wt%以下の範囲で含有されてもよい。
前記有機溶媒は、0.2wt%以上1wt%以下の範囲で含有されてもよい。
100S/cm以上10000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有してもよい。
本発明のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有するゲル化膜を製造する方法は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、前記分散媒の比重よりも小さい比重を有する第1の有機溶媒に添加し、静置することと、前記第1の有機溶媒を、極性溶媒である第2の有機溶媒に置換し、さらに静置することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記分散媒は、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒であってもよい。
前記第1の有機溶媒は、25℃における比重(g/cm)が0.90以下を有する有機溶媒であってもよい。
前記第1の有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒であってもよい。
前記第2の有機溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒であってもよい。
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の間、静置してもよい。
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、40℃以上70℃以下の温度範囲において、30分以上10時間以下の時間の間、静置してもよい。
前記静置すること、および/または、前記さらに静置することは、前記添加された分散液を、10℃以上40℃未満の温度範囲において、5時間以上30時間以下の時間の間、静置してもよい。
前記さらに静置することを、繰り返すことをさらに包含してもよい。
前記静置することの後、前記さらに静置することに先立って、前記静置することによって得られたPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTからなるゲル化膜を乾燥させることをさらに包含してもよい。
前記さらに静置することによって得られたPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTのゲル化膜を乾燥させることをさらに包含してもよい。
本発明による熱電発電素子は、少なくともp型熱電材料を備え、前記p型熱電材料は、上述のゲル化膜であり、これにより上記課題を解決する。
前記p型熱電材料と交互に直列に接続されるn型熱電材料を備えてもよい。
前記n型熱電材料は、カーボンナノチューブ、フラーレン、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、シリコン(Si)およびテルル(Te)からなる群から選択されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゲル化膜は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有するため、熱電特性を有し、軽くて柔らかい順応性の高い膜を提供できる。さらに、PSSおよび/TosがドープされたPEDOTにおける炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比カチオン/Cが、0.002以上0.43未満であるため、膜厚に依存することなく高い電気伝導率を有し、優れた熱電性能および耐久性を発揮する。このようなゲル化膜は、熱電発電素子に適用でき、特にフレキシブルな熱電発電素子に有利である。
【0012】
本発明のPEDOTを含有するゲル化膜を製造する方法は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散媒に分散した分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有する第1の有機溶媒に添加し、静置することと、第1の有機溶媒を、極性溶媒である第2の有機溶媒に置換し、さらに静置することとを包含する。所定の条件を満たす第1の有機溶媒中で静置することにより、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTのゲル化を促進できる。さらに、本願発明者らは、第1の有機溶媒を所定の条件を満たす第2の有機溶媒に置換し、静置するだけで、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTゲル化膜の電気伝導率および耐久性を向上させることができることを見出した。特別な装置や技術を用いる必要がないので、本発明の方法は汎用性があり、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のゲル化膜を製造する工程を示すフローチャートである。
図2】本発明のゲル化膜を用いた熱電発電素子を示す模式図である。
図3】例1~例12のゲル化膜を製造するプロシージャを示す図である。
図4】例13~例15のゲル化膜を製造するプロシージャを示す図である。
図5】例6および例16のゲル化膜、ならびに、例22および例23のキャスト膜のSEM像を示す図である。
図6】例6のゲル化膜の昇温脱離ガス分析のプロファイルを示す図である。
図7】例6および例17のゲル化膜の電気伝導率の保持率の経時変化を示す図である。
図8】例6および例17のゲル化膜のゼーベック係数の保持率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0015】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のポリスチレンスルホン酸(PSS)および/またはトルエンスルホン酸(Tos)がドープされたポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含有するゲル化膜およびその製造方法について説明する。以降では簡単のためPSSがドープされたPEDOTをPEDOT:PSS、TosがドープされたPEDOTをPEDOT:Tos、PSSおよびTosがドープされたPEDOTをPEDOT:PSS,Tosと称する場合がある。
【0016】
本発明のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有するゲル化膜は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを主として含有する。
【0017】
PEDOT:PSSとは、次式で表される。
【化1】
【0018】
ここで、PEDOTの繰り返し単位nは、特に制限はないが、例示的には、10~20を満たす。PSSの繰り返し単位mは、特に制限はないが、例示的には、100~10000を満たす。また、PSSは、通常、カウンターカチオン(式中には表示せず)を含有し、Li、Na、K、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンである。これにより電荷の中性を取り得る。
【0019】
ここで、PEDOT:Tosとは、次式で表される。
【化2】
【0020】
PEDOTの繰り返し単位xは、特に制限はないが、例示的には、10~20を満たす。また、Tosは、通常、カウンターカチオン(式中には表示せず)を含有し、Li、Na、K、Mg2+およびCa2+からなる群から少なくとも1つ選択されるカチオンである。これにより電荷の中性を取り得る。
【0021】
PEDOT:PSSおよびPEDOT:Tosのいずれにおいても、特性を損なわない範囲で、PEDOTあるいはPSS/Tosがスルホ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル等の官能基を有していてもよく、これら誘導体も本願のPEDOT:PSSおよびPEDOT:Tosに含めるものとする。
【0022】
また、PSSおよびTosを両方用いることも可能であり、当業者であれば、容易に改変し、上述のPSSおよびTosがドープされたPEDOTであるPEDOT:PSS,Tosを得ることができる。
【0023】
本発明のゲル化膜は、上述のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを主成分とするが、詳細には、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTにおける炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比が、0.002以上0.43未満の範囲を満たす。これにより、膜がゲル化を経て得られたゲル化膜であると特定できるとともに、膜厚に関わらず高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0024】
好ましくは、炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比が、0.002以上0.36以下の範囲を満たす。これにより、ゲル化膜は、さらに高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。
【0025】
さらに好ましくは、炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比が、0.26以上0.36以下の範囲を満たす。これにより、ゲル化膜は、なおさらに高い電気伝導率を有し、さらに熱電性能および耐久性に優れる。
【0026】
なお、炭素(C)に対するカウンターカチオンの原子比は、エネルギー分散型X線分析(EDX)あるいはX線光電子分光(XPS)によって算出することができる。
【0027】
本発明のゲル化膜は、極性溶媒である有機溶媒を含有してもよい。これにより、高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れる。含有し得る有機溶媒は、極性溶媒であれば特に制限はないが、製造工程から、好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒を含有し得る。
【0028】
含有される有機溶媒は、好ましくは、0.01wt%以上10wt%以下の範囲である。この範囲であれば、本発明のゲル化膜は、高い電気伝導率を有し得る。含有される有機溶媒は、さらに好ましくは、0.1wt%以上5wt%以下の範囲であり、なおさらに好ましくは、0.2wt%以上3wt%以下の範囲であり、なおさらに好ましくは、0.2wt%以上1wt%以下の範囲である。これにより、本発明のゲル化膜は取り扱いが容易となり、熱電発電素子に適用され得る。なお、含有される有機溶媒の量は、TG/DTAおよび昇温脱離ガス分析の測定結果から算出可能である。
【0029】
本発明のゲル化膜は、水を含有してもよい。後述する製造方法において水を用いた場合には、ゲル化膜に水が残留する場合があるが、その場合であっても、本発明のゲル化膜は高い熱電性能を有する。例えば、含有される水は、0wt%より多く20wt%以下であり得、好ましくは、5wt%以上10wt%以下であり得る。これにより、本発明のゲル化膜はフレキシビリティが高くなる。
【0030】
本発明のゲル化膜は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTそのものの電気伝導率よりも高い電気伝導率を有し、好ましくは、100S/cm以上10000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有する。本発明のゲル化膜は、その膜厚に関わらず、高い電気伝導率を有するため、厚膜であっても熱電材料として機能し得る。本発明のゲル化膜は、さらに好ましくは、400S/cm以上3000S/cm以下の範囲の電気伝導率を有し、なおさらに好ましくは、500S/cm以上2500S/cm以下の範囲の電気伝導率を有する。このような範囲の電気伝導率を有するゲル化膜は、後述する製造方法において歩留まりよく得られる。
【0031】
本発明のゲル化膜は、PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを主成分とするため、p型伝導である。また、本発明のゲル化膜は、上述の電気伝導率に加えて、室温においてもゼーベック係数の絶対値が少なくとも15μV/Kを有するため、体温および廃熱を利用したウェアラブルデバイスおよびIoT電源としてフレキシブル熱電発電素子に有利である。
【0032】
次に、このような本発明のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTを含有するゲル化膜を製造する例示的な製造方法を説明する。
図1は、本発明のゲル化膜を製造する工程を示すフローチャートである。
【0033】
ステップS110:PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTが分散された分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散液の分散媒の比重よりも小さい比重を有する第1の有機溶媒に添加し、静置する。
【0034】
このような分散液を、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有する第1の有機溶媒に添加することによって、分散液は、第1の有機溶媒の底部に凝集し、膜の形態となりゲル化し得る。また、膜厚は、第1の有機溶媒を収容する容器と、添加される分散液の量とによって調整され得るが、ゲル化するためには、添加される分散液に対して第1の有機溶媒が十分に存在する必要がある。少なくとも、添加された分散液が、第1の有機溶媒に浸漬する状態でなければいけない。このような観点から、第1の有機溶媒を収容する容器の大きさにもよるが、第1の有機溶媒は、添加される分散液の量(体積)に対して少なくとも2倍、好ましくは、10倍、より好ましくは20倍以上の容量であればよい。なお、このようなゲル化させる処理を一次処理と呼ぶ場合がある。
【0035】
PSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTは上述したとおりであるため説明を省略する。これを分散させる分散媒は、好ましくは、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される分散媒である。
【0036】
分散液中のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTの濃度は、特に制限はないが、例示的には、0.1wt%以上3wt%以下である。この範囲の濃度であれば、第1の有機溶媒への添加が容易である。
【0037】
第1の有機溶媒は、極性溶媒であり、かつ、分散媒の比重よりも小さい比重を有せば特に制限はないが、25℃における比重(g/cm)が0.90以下を有する有機溶媒が好ましい。例示的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、酢酸エチルおよびN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である。なお、第1の有機溶媒に使用可能な溶媒には、分散媒と同じ溶媒が挙げられるが、分散媒の比重よりも小さくなるよう適宜選択すればよい。参考までに、各種溶媒の比重を表1に示す。なお、表1に示す比重は、25℃における値である。
【0038】
【表1】
【0039】
静置は、分散液を添加後、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の時間、行われる。-30℃より低い温度にすると、分散媒あるいは第1の有機溶媒の固化、あるいは、100℃を超えると分散媒あるいは第1の有機溶媒の気化が生じ得るため、安定して静置できない虞がある。静置時間が短いと、ゲル化が十分でない場合があり得、72時間を超えても、ゲル化はそれ以上進行しないため非効率である。
【0040】
静置を加熱下で行う場合には、静置は、好ましくは、40℃以上70℃以下の温度範囲で、30分以上10時間以下の時間行う。マイルドな条件での加熱によって、ゲル化が促進されるため、静置時間を短縮できる。
【0041】
静置を室温(10℃以上40℃未満)で行う場合には、静置は、好ましくは、5時間以上30時間以下の時間行う。これにより、均質にゲル化するため高品質なゲル化膜が得られ得る。
【0042】
ステップS120:ステップS110の第1の有機溶媒を、極性溶媒である第2の有機溶媒に置換し、さらに静置する。
【0043】
本願発明者らは、第1の有機溶媒を極性溶媒である第2の有機溶媒に置換することにより、ゲル化膜から不要なPSSあるいはTosが除去され、電気伝導率が向上し、優れた熱電性能を発揮するとともに、耐久性が向上することを見出した。このような溶媒の置換処理を二次処理と呼ぶ場合がある。
【0044】
このような第2の有機溶媒は、極性溶媒であれば、特に制限はないが、例示的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、i-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸、酢酸エチル、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から少なくとも1つ選択される有機溶媒である。これらであれば、上述のゲル化膜から不要な余剰のPSSあるいはTosが除去され、溶解し得る。
【0045】
ここでも、さらなる静置は、ステップS110の静置と同じ条件で行ってよい。さらなる静置は、-30℃以上100℃以下の温度範囲において、30分以上72時間以下の時間、行われる。これによりPSSあるいはTosの除去を促進する。静置を加熱下で行う場合には、好ましくは、40℃以上70℃以下の温度範囲で、30分以上10時間以下の時間行う。マイルドな条件での加熱によって、除去が促進されるため、静置時間を短縮できる。静置を室温(10℃以上40℃未満)で行う場合には、静置は、好ましくは、5時間以上30時間以下の時間行う。これにより、除去が促進され、高品質なゲル化膜が得られる。
【0046】
なお、ステップS110およびステップS120において、第1の有機溶媒と第2の有機溶媒とが同じであってもよいし、異なっていてもよい。同じ場合であっても、ステップS110で使用した第1の有機溶媒を破棄し、新たな第2の有機溶媒に入れ替えるものとする。
【0047】
また、ステップS120は、1回以上繰り返してもよい。これにより、不要なPSSあるいはTosの除去が促進されるので、電気伝導率が向上し得る。
【0048】
ステップS110の後、ステップS120に先立って、ステップS110で得られたゲル化膜を乾燥させてもよい。本願発明者らは、ステップS110とステップS120との間にゲル化膜を乾燥させることによって、電気伝導率が劇的に向上することを見出した。乾燥はゲル化膜の表面が目視にて乾燥状態となるように行われれば特に制限はないが、例示的には、大気中、24時間風乾させればよい。
【0049】
ステップS120に続いて、ステップS120で得られたゲル化膜を乾燥させてもよい。ここでも乾燥は、ゲル化膜の表面が目視にて乾燥状態となるように行われれば特に制限はないが、例示的には、大気中、24時間風乾させればよい。
【0050】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の熱電材料を用いた熱電発電素子について説明する。
【0051】
図2は、本発明のゲル化膜を用いた熱電発電素子を示す模式図である。
【0052】
本発明による熱電発電素子200は、少なくともp型熱電材料220を備え、p型熱電材料220は、実施の形態1で説明した本発明のゲル化膜を含有する。
【0053】
詳細には、本発明による熱電発電素子200は、一対のn型熱電材料210およびp型熱電材料220、ならびに、これらのそれぞれの端部に電極230、240を含む。電極230、240により、n型熱電材料210およびp型熱電材料220は、電気的に直列に接続される。
【0054】
ここで、n型熱電材料210は、特に制限はないが、例示的には、カーボンナノチューブ、フラーレン、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、テルル(Te)等が挙げられる。
【0055】
一方、p型熱電材料220は、実施の形態1で説明した本発明のゲル化膜である。本発明のゲル化膜は、フレキシブルであるため、シート型熱電発電素子を提供できる。なお、図2では分かりやすさのために、n型熱電材料210およびp型熱電材料220をバルクの様態で示すが、実際の厚さを反映するものではないことに留意されたい。
【0056】
電極230、240は、通常の電極材料であり得るが、例示的には、Al、Ni、Cu等である。
【0057】
図2では、低温となる側の電極240に半田、Au、カーボン等によってn型熱電材料210からなるチップが接合され、n型熱電材料210のチップの反対側の端部と、高温となる側の電極230とが半田等によって接合されている様子が示される。同様に、高温側となる側の電極230に半田等によってp型熱電材料220からなるチップが接合され、p型熱電材料220のチップの反対側の端部と、低温となる側の電極240とが半田等によって接合されている様子が示される。
【0058】
電極230が高温、電極240が、電極230に比べて低温となるような環境に、本発明の熱電発電素子200を設置して、端部の電極を電気回路等に接続すると、ゼーベック効果によって電圧が発生し、図2の矢印で示すように、電極240、n型熱電材料210、電極230、p型熱電材料220の順で電流が流れる。詳細には、n型熱電材料210内の電子が、高温側の電極230から熱エネルギーを得て、低温側の電極240へ移動し、そこで熱エネルギーを放出し、それに対して、p型熱電材料220の正孔が高温側の電極230から熱エネルギーを得て、低温側の電極240へ移動して、そこで熱エネルギーを放出するという原理によって電流が流れる。
【0059】
本発明では、p型熱電材料220として実施の形態1で説明した本発明のPEDOT:PSS、PEDOT:TosまたはPEDOT:PSS,Tosからなるゲル化膜を用いるので、フレキシブルで素子の曲げにも追随する熱電発電素子200を実現できる。また、本発明のPSSおよび/またはTosがドープされたPEDOTゲル化膜は、高い電気伝導率を有し、とりわけ200℃以下の低温領域において高い熱電性能にも優れるため、体温および廃熱を利用したウェアラブルデバイスおよびIoT電源としてフレキシブル熱電発電素子を提供できる。
【0060】
図2では、π型の熱電発電素子を用いて説明したが、本発明の熱電材料は、U字型熱電発電素子(図示せず)に用いてもよい。この場合も同様に、本発明の熱電材料からなるn型熱電材料およびp型熱電材料が、交互に電気的に直列に接続されて構成される。
【0061】
図2では、n型熱電材料210を用いて説明してきたが、n型熱電材料210に代えて、金属材料やp型熱電材料を用いてもよい。例えば、n型熱電材料210に代えて金属材料を用いる場合、金属材料は電極230、240と同様の材料であってよい。n型熱電材料210に代えてp型熱電材料を用いる場合、p型熱電材料は、p型熱電材料220である本発明のゲル化膜のゼーベック係数と異なるゼーベック係数を有する材料を採用できる。好ましくは、p型熱電材料は、ゲル化膜のゼーベック係数よりも小さいゼーベック係数を有する。このような構成であっても、上述のように熱エネルギーを電気に効率的に変えることができる。
【0062】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0063】
[例1~例21:ゲル化膜]
例1~例21では、PEDOTを用いたゲル化膜を製造した。
【0064】
図3は、例1~例12のゲル化膜を製造するプロシージャを示す図である。
【0065】
ビーカー310に表2のS110(一次処理)に示す第1の有機溶媒320を50mL入れ、PSSがドープされたPEDOT水分散液330(Heraeus Clevios PH1000、水の比重0.997g/cm、カウンターカチオンはNaである)を2mL、ビーカー内に注入し、表に示す温度および時間、静置させた(図1のステップS110)。このようにしてゲル化膜340を得た。次いで、例1~例12については、第1の有機溶媒320をビーカーから除去し、表2のS120(二次処理)に示す第2の有機溶媒350を25mL追加し、表2に示す温度および時間、静置させた(図1のステップS120)。その後、第2の有機溶媒350を除去し、ゲルを取り出し、大気中、25℃で、24時間乾燥させた。このようにしてゲル化膜360を得た。
【0066】
図4は、例13~例15のゲル化膜を製造するプロシージャを示す図である。
【0067】
例13~例15は、S110(一次処理)とS120(二次処理)との間にゲル化膜340を乾燥させた以外は、図3に示すプロシージャと同様であった。なお、一次処理後のゲル化膜の乾燥条件は、大気中、24時間であった。
【0068】
なお、例16~例20については、表2のS120(二次処理)を行わず、第1の有機溶媒を除去し、ゲルを取り出し、大気中、25℃で24時間乾燥させた。また、例21については、ゲル化しなかったため、それ以降の処理を行わなかった。このことから一次処理に用いる第1の有機溶媒の比重は、分散媒の比重よりも小さくなければいけないことが示された。
【0069】
【表2】
【0070】
例1~例20で得られたゲル化膜は、いずれも、藍色を有しており、柔らかい膜であった。例1~例20で得られたゲル化膜の断面を、エネルギー分散型X線分析(EDX)を備えた電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU8000)で観察し、ゲル化膜の垂直方向の元素分布のライン分析を行った。また、例1~例20で得られたゲル化膜の表面を、X線光電子分光(XPS、サーモフィッシャー製、K-Alpha)で測定し、元素の含有率の測定を行った。結果を図5および表3に示す。
【0071】
例1~例20で得られたゲル化膜について昇温脱離ガス分析を行った。昇温脱離ガス分析装置(アドバンス理工製、型番TDS-M202R)を用い、超高真空(真空度≦1×10-5Torr)下において室温(25℃)から300℃まで昇温速度10K/分で昇温し、ガス検出を行った。結果を図6に示す。
【0072】
例1~例20で得られたゲル化膜の熱電特性を、四端子法および定常温度法によって測定した。測定には、ソースメータ(Keithley社製、2420)、ナノボルトメータ(Keithley社製、2182)、スイッチシステム(Keithley社製、7001)および直流安定化電源(KENWOOD社製、PER20-4H)を用いた。結果を表4に示す。
【0073】
例6および例17で得られたゲル化膜の耐久性を調べた。大気中、室温(25℃)において、電気伝導率およびゼーベック係数を最大1100時間測定し、経時変化を調べた。結果を図7および図8に示す。
【0074】
[例22~例23:キャスト膜]
例22および例23では、PEDOTを用いたキャスト膜を製造した。
【0075】
例22のキャスト膜は、スチレンケース上にPSSがドープされたPEDOT水分散液(Heraeus Clevios PH1000)を4mL滴下し、大気中、25℃で、72時間乾燥させることによって製造した。
【0076】
例23のキャスト膜は、例22と同様にして得たキャスト膜をエタノール(25mL)に25℃で24時間浸漬させた後、大気中、25℃で、24時間乾燥させることによって製造した。
【0077】
例22および例23のキャスト膜の断面をSEMで観察し、元素分布のライン分析を行った。結果を図5および表3に示す。
【0078】
以上の実験結果をまとめて説明する。
【0079】
図5は、例6および例16のゲル化膜、ならびに、例22および例23のキャスト膜のSEM像を示す図である。
【0080】
図5(A)~(D)は、それぞれ、例6および例16のゲル化膜、ならびに、例22および例23のキャスト膜の断面のSEM像を示す。図中の矢印は、膜の厚さ(膜厚)方向を表す。例22および例23のキャスト膜は、膜厚方向に積層構造が見られ、異方性を有したが、例6および例16のゲル化膜は、積層方向にクラスタ構造(例えば、図5(A)、(B)に分かりやすさのために代表的なクラスタ構造を点線で示す)が見られ、等方的であった。クラスタ構造は、膜厚にもよるが、0.2μm以上2μm以下の大きさであった。なお、クラスタ構造の大きさは、電子顕微鏡による画像(5視野)からクラスタ(例えば、100個)の長径および短径を測定し、その平均値であり得る。
【0081】
このことから、ゲル化膜とキャスト膜とは、膜内部の構造に違いがあることが分かった。特許文献1、2における薄膜は、ドロップキャストによって製造されるため、本発明のゲル化膜とは異なる。なお、図示しないが、ゲル化膜は、いずれも膜厚方向に等方的であることを確認した。また、得られたゲル化膜は、いずれも、10μm以上20μm以下の範囲であった。
【0082】
【表3】
【0083】
表3には、例1~例20のゲル化膜のうち、例1~例6、例8~例10、例16のゲル化膜、および、例22~例23のキャスト膜のNa/Cの原子比を示す。表3によれば、図1を参照して説明した本発明の製造方法を用いて得られるゲル化膜は、カウンターカチオンの原子比(カチオン/C)が、0.002以上0.43未満を満たすことが示された。これは、二次処理によって不要なPSSやTosが除去されるためと考えられる。詳細には、例6のゲル化膜のカチオン/C比は0.31と算出され、誤差も考慮すれば、0.36以下であれば、本発明の製造方法を用いて得られる、高い熱電性能を有するゲル化膜といえる。また、ゲル化していない例22および例23のキャスト膜の原子比は、0.5を超えていることから、特許文献1、2における薄膜も同様に0.5を超える原子比を有すると想定される。
【0084】
図6は、例6のゲル化膜の昇温脱離ガス分析のプロファイルを示す図である。
【0085】
図6では、例6のゲル化膜を55℃に昇温した際の昇温脱離ガス分析のプロファイルを示す。ピーク610は、第1の有機溶媒であるエタノールに起因するピークであり、ピーク620は、第2の有機溶媒である1-プロパノールに起因するピークであった。なお、そのほかにもピークが検出されているが、これらは、炭素(C)、一酸化硫黄(SO)等に基づき、有機溶媒ではなかった。このことから、本発明のゲル化膜は、極性溶媒である有機溶媒を含有してもよいことが示された。なお、図6のピーク610および620から、例6のゲル化膜に含有される有機溶媒は、0.4wt%であると算出された。
【0086】
【表4】
【0087】
表4によれば、二次処理を行ったゲル化膜の電気伝導率は、一次処理のみを行ったゲル化膜のそれに比べて劇的に向上した。一方で、ゲル化膜のゼーベック係数は、一次処理および二次処理にかかわらず、いずれもほぼ一定の値を維持した。詳細には、例1~例3のゲル化膜の電気伝導率と、例17のゲル化膜のそれとの比較、例4~例6のゲル化膜の電気伝導率と、例16のゲル化膜のそれとの比較、例8~例10のゲル化膜の電気伝導率と、例18のゲル化膜のそれとの比較、例11のゲル化膜の電気伝導率と、例20のゲル化膜のそれとを比較されたい。
【0088】
また、例11および例12のゲル化膜の熱電特性から、一次処理および二次処理を加熱下で行うことにより、静置時間を短縮できることが示された。さらに、例13~例15のゲル化膜の電気伝導率は、例4~例6のゲル化膜のそれよりさらに向上したことから、一次処理と二次処理との間にゲル化膜を乾燥させることが有効であることが示された。
【0089】
また、膜厚(上述したようにいずれも10μm以上20μm以下であった)に着目すると、二次処理をしたゲル化膜は、膜厚にかかわらず、高い電気伝導率を有することが分かった。
【0090】
図7は、例6および例17のゲル化膜の電気伝導率の保持率の経時変化を示す図である。
図8は、例6および例17のゼーベック係数の保持率の経時変化を示す図である。
【0091】
図7によれば、一次処理のみの例17のゲル化膜の電気伝導率は、時間の経過とともに低減したが、二次処理を行った例6のゲル化膜の電気伝導率は、1000時間後も70%を超える高い保持率を有した。
【0092】
図8によれば、同様に、一次処理のみの例17のゲル化膜のゼーベック係数は、時間の経過とともに低減したが、二次処理を行った例6のゲル化膜のゼーベック係数は、1000時間後も80%を超える高い保持率を有した。これらから二次処理を行うことによって、ゲル化膜の熱電性能の耐久性が向上することが分かった。
【0093】
以上より、本発明の二次処理を行う製造方法によって得られるゲル化膜は、膜厚にかかわらず高い電気伝導率を有し、熱電性能および耐久性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のゲル化膜は、高い電気伝導率を有し、優れた熱電特性および耐久性を有する。また、フレキシブルな膜であるため、ウェアラブルデバイスおよびIoT電源としてフレキシブル熱電発電素子を提供できる。
【符号の説明】
【0095】
200 熱電発電素子
210 n型熱電材料
220 p型熱電材料
230、240 電極
310 ビーカー
320 第1の有機溶媒
330 分散液
340、360 ゲル化膜
350 第2の有機溶媒
610 エタノールに基づくピーク
620 1-プロパノールに基づくピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8