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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】吹付緑化資材及び吹付緑化工法
(51)【国際特許分類】
   A01G 20/00 20180101AFI20231109BHJP
【FI】
A01G20/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020020532
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021122265
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】597067862
【氏名又は名称】東急リニューアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506394924
【氏名又は名称】株式会社グリーンプロデュース
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳
(72)【発明者】
【氏名】村野 隆
(72)【発明者】
【氏名】海老沢 正治
(72)【発明者】
【氏名】大出 真隆
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-196074(JP,A)
【文献】特開2010-259386(JP,A)
【文献】特開2004-222646(JP,A)
【文献】特開2007-252206(JP,A)
【文献】特開2011-062162(JP,A)
【文献】特開平09-271259(JP,A)
【文献】特開2012-161276(JP,A)
【文献】特開2015-186470(JP,A)
【文献】特開昭53-117543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0104693(US,A1)
【文献】米国特許第05806445(US,A)
【文献】特許第5322259(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラピア茎を4cm程度に切ったクラピアカット苗と、
不稔1年生植物の種子と、
客土と、を混合して構成する、
吹付緑化資材。
【請求項2】
請求項1に記載の吹付緑化資材において、
前記不稔1年生植物は、インターミディエイトライグラス種又はアニュアルライグラス種であることを特徴とする、
吹付緑化資材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の吹付緑化資材において、
前記不稔1年生植物の種子の配合量は、吹付面積1mあたり15乃至30gであることを特徴とする、
吹付緑化資材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の吹付緑化資材を、客土吹付機によって対象位置に吹き付けて行う、吹付緑化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、のり面等に植物苗を植えて緑化するための吹付緑化資材及び吹付緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、のり面等を緑化する方法として、以下のような方法が行われていた。
(1)シバ吹付工法
(2)張シバ工法
(3)アレロパシーを持つ1年生植物による緑化工法
(4)アレロパシーを持つ多年生植物による緑化工法
(5)アレロパシーのない地被植物による緑化工法
(6)ソバとセンチピートグラスによる緑化工法
【0003】
(1)シバ吹付工法は、シバの種子を地表面に吹き付ける工法であり、道路のり面等で多く用いられている。
シバ吹付工法は、地表面が植物で被覆されていることを目的にした植栽工法であり、シバの目的は早期に生育することで、1年以内にシバが枯れた後は雑草が生育し、雑草地になる。そのため、除草作業を毎年行う必要がある。また、吹付で使用されるシバは外来種である。
(2)張シバ工法は、約30cm×30cmの平板状の切シバを地表面に敷き並べる緑化工法であり、河川堤防等で多く用いられている。
張シバ工法で使用されるシバはノシバやコウライシバの在来種であるが、約30cm×30cmの平板状の切シバを地表面に手作業で敷き並べるため、施工量は300m/日程度しかなく、施工効率が悪い。また、シバの緑地を維持するには年4回以上の除草が必要であり、維持管理手間がかかる。
(3)アレロパシーを持つ1年生植物による緑化方法は、ヘアリーベッチやソバ等を用いる緑化工法である。
ソバや外来種のヘアリーベッチは1年生植物のため、毎年植栽する必要があり、永続的な緑地ではない。また、ソバは草高が1m弱まで生育する。
(4)アレロパシーを持つ多年生植物による緑化工法は、センチピードグラスを用いて雑草生育を低減する。
外来種のセンチピードグラスは生育が緩慢であり、生育途中で雑草と競合することが多く、植栽1年目は4回程度の除草と補植が必要であり、繁茂するまで平均で2年かかる。
(5)アレロパシーのない地被植物であるシバザクラ、リュウノヒゲ等による緑化工法であり、地被植物は地表面を草高低く密に被覆するため、雑草生育を低減する効果がある。
シバザクラ、リュウノヒゲは多年草であるため、毎年の植栽は必要ないが、ポットを人力で植栽する必要がある上、成長が緩慢なため、植栽ポット数はシバザクラ16~25ポット/m、リュウノヒゲ25~30ポット/mと植栽手間が多い。また、被覆するまでは除草手間が必要である。
(6)ソバとセンチピートグラスによる緑化工法は、1年生のソバによる早期被覆と多年生のセンチピードグラスによる永続的な被覆により、雑草生育を低減する緑化工法である。
ソバは霜が当たると枯死する植物である。降霜は気温4℃以下で平均風速3m以下の気象条件で発生するため、ソバの播種時期は降霜のない5月~8月であるため、この緑化工法は公共工事の多い3月には施工できない。また、ソバは草高が1m弱まで生育する。センチピードグラスは上記(4)に記載した課題がある。
【0004】
上述のように従来の工法にはそれぞれ短所を有しており、近年は特許文献1に記載の「クラピアカット苗吹付緑化工法」が広く行われるようになってきている。
クラピアは、日本原産のイワダレソウの改良品種であり、シバの約10倍の成長速度で葉が密生して生育するため、早期に地表面を緻密に被覆して緑地を形成し、雑草種子の活着を妨げる雑草抑制機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5222259号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
のり面緑化工事の多くは公共工事であるため、3月に施工が行われるのが一般的である。
クラピアは気温15℃以上で生育し始めるため、例えば3月に関東平野で施工された場合、気温が15℃以上となる5月上旬から生育が始まり、生育したクラピアが地表面を被覆するのは8月頃となり、施工からクラピアが地表面を被覆するまでに時間がかかる。
このため、従来のクラピアカット苗吹付緑化工法は、以下のような問題点があった。
(1)地表面を被覆するクラピアは飛来してくる雑草種子の活着を妨げる雑草抑制機能があるが、クラピアが被覆していない期間は雑草抑制機能がない。このため、クラピアが被覆するまでの期間は裸地状態の場所と同様の除草作業が必要である。
(2)クラピアが地表面を被覆することにより土壌の侵食が防止されるが、クラピアが被覆していない裸地では土壌侵食が発生するおそれがある。
(3)クラピアが被覆するまでは裸地状態の箇所から土埃が立ち、施工現場周辺の生活環境を悪化させるおそれがある。
【0007】
本発明は、早期に地表面を被覆するとともに、永続的にはクラピアにより雑草抑制、土壌侵食の防止等を行うことができる、吹付緑化資材及びそれを用いた吹付緑化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本願の第1発明は、クラピア茎を4cm程度に切ったクラピアカット苗と、不稔1年生植物の種子と、客土とを混合して構成する、吹付緑化資材を提供する。
本願の第2発明は、第1発明の吹付緑化資材において、前記不稔1年生植物は、インターミディエイトライグラス種又はアニュアルライグラス種であることを特徴とする、吹付緑化資材を提供する。
本願の第3発明は、第1発明又は第2発明の吹付緑化資材において、前記不稔1年生植物の種子の配合量は、吹付面積1mあたり15乃至30gであることを特徴とする、吹付緑化資材を提供する。
本願の第4発明は、第1発明乃至第3発明のいずれかの吹付緑化資材を、客土吹付機によって対象位置に吹き付けて行う、吹付緑化工法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果を得ることができる。
(1)早期に不稔1年生植物が地表面を被覆して緑地を形成することで、雑草を抑制する。
(2)早期に不稔1年生植物が地表面を被覆して緑地を形成することで、土壌の侵食が防止される。
(3)早期に不稔1年生植物が地表面を被覆して緑地を形成することで、土埃を抑制する。
(4)クラピアが地表面を被覆する頃に不稔1年生植物が枯れ、その後はクラピアが緑地を形成する。
(5)2年目以降、不稔1年生植物は出芽、生育せず、多年生植物であるクラピアにより被覆した緑地が継続され、永続的に雑草抑制、土壌侵食の防止、土埃の抑制が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来のクラピアカット苗吹付緑化工法の施工実験における地表面の被覆率を表す図
図2】本発明の吹付緑化資材を用いた吹付緑化工法の施工実験における地表面の被覆率を表す図(1)
図3】本発明の吹付緑化資材を用いた吹付緑化工法の施工実験における地表面の被覆率を表す図(2)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
[実施例]
[1]吹付緑化資材
(1)吹付緑化資材の構成
本発明の吹付緑化資材は、のり面等の地表面を緑化するために用いるものである。
本発明の吹付緑化資材は、クラピアカット苗、不稔1年生植物の種子、客土、土壌侵食防止材、粘着剤、及び肥料等を混合した物である。
吹付緑化資材は、従来知られた客土吹付機によって地表面に吹き付ける。
【0013】
(2)クラピア
クラピアは、日本原産のイワダレソウの改良品種である。
クラピアは、芝の約10倍の成長速度で、葉が密生して生育するため、地表面を緻密に被覆し、雑草種子の活着を妨げる雑草抑制機能を有する。このため、雑草の除去回数及び1回あたりの除草手間が減少し、緑地化に係るコスト及び維持管理コストを低減することができる。
また、クラピアは多年生植物であるため、2年目以降も被覆した緑地が継続される。
吹付には、クラピア茎を4cm程度に切断したクラピアカット苗を用いる。
クラピア茎のカット方法としては、上述の特許文献1に記載のカット方法があるが、これに限らず、従来知られた方法により行う。
【0014】
(2.1)クラピアの生育
クラピアは気温15℃以上で生育し始めるため、例えば3月に関東平野で吹付施工した場合、気温が15℃以上となる5月上旬から生育が始まり、生育したクラピアが地表面を被覆するのは6~9月頃となる。
【0015】
(3)不稔1年生植物
不稔1年生植物は、不稔性を有し、かつ1年生である植物である。
不稔1年生植物の種類としては、インターミディエイトライグラス種や、アニュアルライグラス種が好適である。
不稔1年生植物は、種子の状態で吹付を行う。
【0016】
(3.1)不稔1年生植物の生育
不稔1年生植物は、例えば3月に関東平野で吹付施工した場合、1ヶ月程度で早期に地表面を被覆する。そして、その後夏枯れする。
また、不稔1年生植物は不稔性のため、2年目以降は出芽、生育はしない。
【0017】
(4)クラピアと不稔1年生植物の組み合わせ
クラピアカット苗と不稔1年生植物の種子を混合して吹き付けることにより、以下のように緑化が行われる。
(a)3月に関東平野で吹付施工した場合、1ヶ月程度で、クラピアより早く不稔1年生植物が地表面を被覆して緑地を形成する。不稔1年生植物が早期に地表面を被覆して雑草種子の活着を妨げて雑草を抑制するとともに、土壌侵食を防止し、土埃を抑制する。
(b)不稔1年生植物による緑地は6月下旬まで継続する。7月に入ると不稔1年生植物は枯れ始め、地表面は生育したクラピアにより被覆されてゆき、8月頃にはクラピアが地表面を被覆して緑地を形成する。8月以降は、クラピアが地表面を被覆して雑草を抑制するとともに、土壌侵食を防止し、土埃を抑制する。
(c)冬になると、クラピアが冬枯れするが、2年目以降も、多年生植物であるクラピアにより被覆した緑地が継続され、永続的に雑草抑制、土壌侵食の防止等を行うことができる。不稔1年生植物は、2年目以降は出芽、生育しない。
【0018】
(5)混合
クラピアカット苗、不稔1年生植物の種子は、混合機に投入する。
混合機には、クラピアカット苗、不稔1年生植物の他、客土、土壌侵食防止材、粘着剤、肥料等、及び水を合わせて投入して混合し、スラリー状の混合体を形成する。
【0019】
(5.1)混合する材料
混合機で混合する材料は、以下のようなものである。
土壌侵食防止材は、例えば商品名「クリコート(登録商標)C-710」であり、合成樹脂エマルジョンを主成分とするものである。
粘着剤としては、例えば商品名「クリコートC-402」であり、水溶性合成高分子を主成分とするものである。
肥料は、高度化成肥料であり、主成分として、窒素、リン酸、カリウムをそれぞれ15%ずつ含むものである。
【0020】
(5.2)配合量
上記の材料を吹付面積あたりの配合量は以下の量が好適である。
大量の客土を混合する理由は、吹付時のクラピアカット苗の損傷を避けるためであり、クラピアカット苗に対して、10倍以上の客土を混合することが好適である。
このような配合であると、吹付時にスラリー状の混合体の客土がクッションとなって吹付圧力を軽減して苗が傷つくのを避けることができる。
なお、水の量は、客土の約半分を目安とし、客土の含水量に合わせて作業員が適宜調整する。
【0021】
【表1】
【0022】
(6)吹付緑化工法
混合後のスラリー状の混合体を、以下の手順によって客土吹付機によって対象位置に吹き付ける。
(i)吹付対象の地表面に、客土吹付機による1回の施工範囲を、事前にマーカー等で明示しておく。
(ii)1回の施工範囲分の使用材料を、所定の配合に計量する。
(iii)客土吹付機タンク内に、計量した全ての吹付資材を投入し、材料が均一に混合されるように撹拌混合する。
(iv)客土吹付機により吹付を行う。
【0023】
(7)施工実験
上記した発明について、以下の通り施工実験を行った。
施工日時:2015年3月26日
施工場所:神奈川県横浜市
【0024】
図1図3はそれぞれ、参考データ、実施データ1、実施データ2の施工実験における地表面の被覆率である。
参考データ(図1)は、従来技術であるクラピアカット苗吹付緑化工法を行ったものである。
2015年5月の被覆率はクラピアが25%、雑草が20%であった。雑草被覆率20%は、従来の工法における除草実施基準であるため、雑草の除草を1回実施し、クラピアが緑化の目安である被覆率75%((社)日本道路協会 道路土工 切土工・斜面安定工指針(平成21年度版)p.258)に達したのは2015年6月中旬であった。
【0025】
実施データ1(図2)は、本発明の施工(クラピアカット苗96g/m、不稔1年生種子15g/m、不稔1年生への刈払い2回)を行ったものである。
不稔1年生は5月上旬に被覆率75%に達した。これは図1に示すクラピアカット苗のみのクラピア被覆率が75%に達したのが6月中旬であったことに比べて1ヶ月以上早く被覆したことになる。また、不稔1年生は5月下旬には被覆率100%に達した。
次に、不稔1年生から多年生のクラピアへの切り替えを促進するため、5月下旬と6月下旬の2回、不稔1年生の刈払いを行った。不稔1年生は2回の刈払い後に気温上昇とともに衰退し、代わりにクラピアが被覆率を伸ばし9月上旬に75%に達し、9月下旬以降はほぼ90%を維持している。雑草は実験を開始した2015年3月から2016年6月までほとんど発生していない。
【0026】
実施データ2(図3)は、本発明の施工(クラピアカット苗96g/m、不稔1年生種子30g/m、不稔1年生への刈払い2回)を行ったものである。
不稔1年生の被覆率は4月下旬に75%に達し、5月下旬には被覆率100%に達した。
次に、5月下旬と6月下旬の2回刈払いを行った。
その後、不稔1年生は衰退し、代わりにクラピアが被覆率を伸ばし、8月下旬に被覆率75%に達した。雑草は実験を開始した2015年3月から2016年6月まで10%以下の被覆率で雑草を抑制していた。
【0027】
これらの実験結果より、以下のことが分かる。
(a)不稔1年生種子とクラピアカット苗を混合して吹き付ける本発明は、従来技術である「クラピアカット苗吹付緑化工法」のクラピアのみが地表面被覆するより1ヶ月以上早く、本発明の不稔1年生が被覆している。よって、本発明は土壌侵食および土埃の発生を低減する。
(b)従来技術「クラピアカット苗吹付緑化工法」が5月に雑草被覆率が20%となり、除草したのに対し、本発明は5月を含めて雑草被覆率は低く、実施した刈払い対象は不稔1年生であり、雑草の除草は実施していない。よって、本発明は従来技術より、雑草を低減し、除草手間を少なくする効果がある。
図1
図2
図3