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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/38 20060101AFI20231109BHJP
   B29B 7/72 20060101ALI20231109BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20231109BHJP
   B29C 48/385 20190101ALI20231109BHJP
   B29C 48/51 20190101ALI20231109BHJP
   B29C 48/74 20190101ALI20231109BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20231109BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20231109BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20231109BHJP
【FI】
B29B7/38
B29B7/72
B29B7/90
B29C48/385
B29C48/51
B29C48/74
B29C48/92
B29C70/06
B29K105:12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023519162
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2022029732
(87)【国際公開番号】W WO2023032569
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021140931
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】笹井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 華穂
(72)【発明者】
【氏名】瀧 健太郎
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/163197(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/170616(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068049(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0333896(US,A1)
【文献】国際公開第2021/132175(WO,A1)
【文献】特開2020-189916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00- 7/94
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 48/00-48/96
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と繊維とを重量比(繊維/樹脂)2/8以上5/5以下で混練して、前記樹脂中に前記繊維を分散させて繊維分散樹脂とする繊維分散工程と、
前記繊維分散樹脂を低分子量化して繊維強化複合材料とする低分子量化工程と、を備え、
前記低分子量化工程は、内部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って前記繊維分散樹脂を搬送する際、前記外周面における前記通路の入口と出口との間に設けられた障壁部により前記繊維分散樹脂の搬送を制限して前記障壁部の直前に前記繊維分散樹脂の充満率が100%である樹脂溜りを形成し、前記スクリュ本体の回転数を1000rpm以上3200rpm以下として前記繊維分散樹脂にせん断力を加えるとともに、前記繊維分散樹脂を前記通路の前記入口から前記通路の出口へ通過させるものであり
前記繊維強化複合材料による成形品の引張強度が53.3MPa以上である、
繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記低分子量化工程は、前記低分子量化工程の前における重量平均分子量の30%以上65%以下となるように、前記繊維分散樹脂を低分子量化する、
請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホンおよびポリフェニレンサルファイドからなる群から選ばれた、一または複数である、
請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記繊維が、ガラス繊維である、
請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記低分子量化工程は、前記繊維分散樹脂の重量平均分子量を小さくして、成形温度235℃、1次射出圧力99MPa、金型冷却温度50℃の条件において、流路断面が半径2.38mmの半円状である渦巻状金型を用いて測定したスパイラル長が100cm以上である繊維強化複合材料とする、
請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項6】
繊維強化複合材料が射出成形用の繊維強化複合材料である、
請求項1に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形により製造される、例えば、スピーカーの振動板などの薄物成形品の材料として好適な繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
力学的特性を向上させるために強化繊維が添加された繊維強化複合樹脂(材料)は、樹脂に強化繊維を分散させて製造される。混練不足による樹脂の未開繊や凝集した繊維が残ることを防いで分散性の良い繊維強化複合材料を得るためには、二軸混練押出機を用いて混練する際の粘度をある程度高くする必要がある。また、樹脂に強化繊維を添加することによって粘度が高くなるため、低粘度の繊維強化複合材料を製造することは、従来、困難であった。
【0003】
一方、射出成形によって薄物や複雑な形状などを成形する場合、凹凸の多い金型の狭小部などに高圧で材料を流し込むために、流動性が高い低粘度の材料を用いる必要がある。しかし、上述したとおり、射出成形に適した低粘度の繊維強化複合材料を製造することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、強度、剛性と共に成形流動性や表面外観にも優れた強化ポリアミド樹脂組成物を安定的に製造するために、樹脂を溶融混練して、ポリアミド樹脂の溶融粘度を低下させながら、無機充填材をサイドフィードより配合する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許3464242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の製造方法では、狭小部をもつ射出成形用の金型へ流し込むことが容易な、高い流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料を製造することが困難であった。
本発明は、高い流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料の製造方法を提供することを目的とする。また、繊維によって向上した成形品の力学的特性を維持しながら、繊維強化複合材料の低粘度化を実現することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、樹脂と繊維とを重量比(繊維/樹脂)2/8以上5/5以下で混練して、前記樹脂中に前記繊維を分散させて繊維分散樹脂とする繊維分散工程と、前記繊維分散樹脂を低分子量化して繊維強化複合材料とする低分子量化工程と、を備え、前記低分子量化工程は、内部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って前記繊維分散樹脂を搬送する際、前記外周面における前記通路の入口と出口との間に設けられた障壁部により前記繊維分散樹脂の搬送を制限して前記障壁部の直前に前記繊維分散樹脂の充満率が100%である樹脂溜りを形成し、前記スクリュ本体の回転数を1000rpm以上3200rpm以下として前記繊維分散樹脂にせん断力を加えるとともに、前記繊維分散樹脂を前記通路の前記入口から前記通路の出口へ通過させるものであり、前記繊維強化複合材料による成形品の引張強度が53.3MPa以上である
【発明の効果】
【0008】
樹脂中に繊維を分散させる繊維分散工程の後に、繊維が分散した繊維分散樹脂を低分子量化する低分子量化工程を行うことにより、繊維強化複合材料を低粘度化できる。このため、高い流動性を備えた、射出成形の材料として好適な低粘度の繊維強化複合材料を製造することができる。
また、繊維分散工程により繊維を分散させた後に、低分子量化工程により繊維分散樹脂を短時間で低粘度化することで、繊維の破断を抑えて繊維長を維持できる。したがって、繊維強化複合材料の成形品の力学的特性を維持しながら、繊維強化複合材料を低粘度化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の製造方法に用いられる連続式高せん断加工装置を概略的に示す斜視図
図2】二軸混練押出部の断面図
図3】二軸混練押出部における二本のスクリュが互いに噛み合った状態を示す斜視図
図4】脱泡部の断面図
図5】高せん断加工部の断面図
図6】バレルおよびスクリュをともに断面で示した高せん断加工部の断面図
図7図6のF15-F15線に沿う断面図
図8】筒体の斜視図
図9】スクリュに対する繊維分散樹脂の流動方向を示す側面図
図10】スクリュが回転した時の繊維分散樹脂の流動方向を示す高せん断加工部の断面図
図11】複数の通路が平行に並んで設けられた例を示す、図7に相当する部分の断面図
図12】スクリュ本体の回転数と繊維強化複合材料の成形品の引張強度との関係を示すグラフ
図13】スクリュ本体の回転数と繊維強化複合材料の成形品の曲げ強度との関係を示すグラフ
図14】スクリュ本体の回転数と繊維強化複合材料の成形品の引張弾性率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施態様について、適宜、図面を参照して説明する。
本実施形態の繊維強化複合材料の製造方法は、繊維分散工程と、低分子量化工程と、を備えている。
(繊維分散工程)
繊維分散工程は、樹脂と繊維とを混練して、樹脂中に繊維を分散させる工程であり、連続式高せん断加工装置(以下、適宜、高せん断加工装置ともいう)の二軸混練押出部や二軸混練押出機などを用いて行う。二軸混練押出機としては、例えば、二軸混練押出機TEMシリーズ(芝浦機械(株)製)等が挙げられる。
【0011】
原料に含まれる樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリスルホン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、芳香族ポリアミド(PA)、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種類を用いても、2種以上を併用してもよい。
【0012】
原料に含まれる繊維としては、ガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF、未使用品および再生品)、アラミド繊維(ケブラー繊維)、ボロン繊維などが挙げられ、1種類を用いても、2種以上を併用してもよい。
【0013】
繊維強化複合材料は、上述した樹脂および強化繊維以外の成分を含有してもよい。含有してもよい成分としては、例えば、酸化防止剤(硫黄系、リン系)、無水カルボン酸、マレイン酸、可塑剤、UV吸収剤、難燃剤、結晶核剤などの添加剤や各種フィラー(カーボンブラック、タルク、金属粉、CNT、シリカ粒子、マイカ)等が挙げられ、配合量は、繊維強化複合材料が用途に応じた強度および弾性を維持することができる範囲とする。
【0014】
繊維分散工程で用いられる樹脂と繊維との重量比は、製造する繊維強化複合材料に要求される力学的特性等に応じて適宜設定すればよい。繊維強化複合材料において樹脂に繊維を均一に分散させ、ペレット製造においてストランドを引く際の作業性をよくする観点から、重量比(繊維/樹脂)は、7/3以下が好ましく、6/4以下がより好ましく、5/5以下がさらに好ましい。また、繊維強化複合材料の機械的強度を高くする観点から、重量比(繊維/樹脂)は、1/9以上が好ましく、2/8以上がより好ましく、3/7以上がさらに好ましい。
【0015】
二軸混練押出機を用いて繊維分散工程を行う場合、その回転数、温度などの条件は、樹脂および繊維の種類、重量比などに応じて、樹脂中に繊維を均一に分散することができるように、適宜設定すればよい。たとえば、樹脂としてポリプロピレン(PP)、繊維としてガラス繊維(GF)を用い、重量比(GF/PP)を2/8~6/4とする場合、押出量10~50kg/h、回転数100~500rpm、バレル温度150~250℃、処理時間60~180秒程度とすれば、二軸混練押出機を用いて、PPにGFが均一に分散した繊維分散樹脂とすることができる。
【0016】
(低分子量化工程)
低分子量化工程は、繊維が分散した繊維分散樹脂を低分子量化して、粘度が低く流動性が高い繊維強化複合材料とする工程であり、連続式高せん断加工装置を用いて行う。
樹脂の粘度が低下する要因には、温度の上昇、せん断速度の増加、分子量の低下の3つがある。これらのうち、温度の上昇およびせん断速度の増加による粘度低下は可逆的であるのに対し、樹脂の分子量の低下による粘度低下は不可逆的である。このため、所定の条件の下で繊維強化複合材料の粘度やスパイラル長を測定することにより、低分子量化工程により繊維分散樹脂が低分子量化した程度を間接的に評価できる。
【0017】
低分子量化工程は、連続式高せん加工装置の高せん断加工部における、内部に通路を備えたスクリュ本体の外周面に沿って前記繊維分散樹脂を搬送する際、前記外周面における前記通路の入口と出口との間に設けられた障壁部により前記繊維分散樹脂の搬送を制限して、前記障壁部の直前に前記繊維分散樹脂の充満率が100%である樹脂溜りを形成し、例えば、前記スクリュ本体の回転数を1000rpm以上3600rpm以下として前記繊維分散樹脂にせん断力を加えるとともに、前記繊維分散樹脂を前記通路の入口から前記通路の出口へ通過させることにより行われる。連続式高せん加工装置の構成については、図を参照して後に説明する。
【0018】
二軸混練押出機を用いて繊維分散樹脂を低分子量化する場合、外的な加熱であるため時間を要し、温度設定にも限界があるため超低粘度の繊維強化複合材料を製造することが困難であった。
本実施形態の低分子量化工程は、スクリュ本体によりせん断力を加えることにより、樹脂溜りの繊維分散樹脂にせん断発熱が生じる。このせん断発熱によって繊維分散樹脂の温度をバレル温度よりも高くして、短時間で繊維分散樹脂を低分子量化することが可能になる。したがって、射出成形に使用できる超低粘度の繊維強化複合材料を製造することができる。
【0019】
本発明において、繊維分散樹脂を低分子量化するとは、繊維分散樹脂に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)を小さくすることをいう。例えば、樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、重量平均分子量を、繊維分散工程の後、低分子量化工程の前における250,000~1,200,000程度から、低分子量化工程によって50,000~200,000程度とする。
【0020】
繊維破断の臨界応力に至る前に繊維分散樹脂の分子量が低下するため、繊維の破断を防いで繊維長を維持できる。したがって、射出成形に適した流動性を繊維強化複合材料に付与しつつ、繊維の破断によって繊維強化複合材料の機能が低下することを抑制できる。このため、良好な力学的特性を備えた成形品を形成可能な、複雑形状や薄物の成形に適した射出成形用の繊維強化複合材料を製造することができる。
【0021】
強度に優れた成形品となる繊維強化複合材料とする観点から、低分子量化工程は、低分子量化工程の前における繊維分散樹脂の重量平均分子量100%に対して、低分子量化工程後における繊維強化複合材料中の樹脂の重量平均分子量が30%以上65%以下となるように、繊維分散樹脂を低分子量化することが好ましい。
【0022】
低分子量化工程は、後述する連続式高せん断加工装置における高せん断加工部を用いて繊維分散樹脂にせん断力を加えることにより、熱分解反応を促す過酸化物などの添加剤を添加せずに、繊維分散樹脂を低分子量化して、射出成形に適した流動性を備えた繊維強化複合材料とすることができる。熱分解反応を促すための添加剤を用いず、繊維分散樹脂にせん断力を加えて低分子量化することで、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が小さい均質な繊維強化複合材料を製造できる。
【0023】
低分子量化工程に要する時間は、過度の熱劣化を抑制する観点から短いことが好ましい。例えば、低分子量化工程に要する時間は、合計で30秒以下が好ましく、20秒以下がより好ましい。低分子量化工程が繰り返される場合、分断された各低分子量化工程の時間は、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。低分子量化工程の時間を短くすることにより、繊維分散樹脂の熱劣化が抑えられるため、バレル温度を高温に設定することができる。
【0024】
短時間で低分子量化できるため、樹脂としては、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイドが好ましい。これらの短時間で低粘度化する樹脂を用いることで、低分子量化工程における繊維の破断を抑制することができる。したがって、繊維強化複合材料を低粘度化するとともに、力学的特性に優れた繊維強化複合材料の成形品を製造できる。
【0025】
(繊維強化複合材料の力学的特性)
本実施形態の製造方法によれば、流動性が高く、低粘度の繊維強化複合材料が得られる。例えば、スパイラル長(スパイラルフロー長)が100cm以上、110cm以上さらには120cm以上であり、温度200℃におけるゼロせん断粘度が1600Pa・s以下、1200Pa・s以下さらには500Pa・s以下である、繊維強化複合材料を製造することができる。本発明において、スパイラル長および粘度(ゼロせん断粘度)は後述する実施例に記載した評価方法により測定した値をいう。
【0026】
本実施形態の製造方法により製造される繊維強化複合材料は、粘度が低く流動性に優れることから、射出成形用の材料として好適である。また、低分子量化工程において、繊維分散工程によって樹脂中に分散された繊維の破断が過度に進行しない。このため、樹脂に繊維を添加したことによる効果を維持し、射出成形により力学的特性に優れた成形品が得られる。例えば、引張強度が30MPa以上、さらには40MPa以上、そして、曲げ強度が40MPa以上、さらには50MPa以上の成形品を製造できる。なお、力学的特性は、後述する実施例に記載の評価方法を用いて評価した値をいう。
【0027】
(連続式高せん断加工装置)
以下、繊維強化複合材料の製造に用いる連続式高せん断加工装置1について説明する。
図1に示すように、連続式高せん断加工装置1は、混練部である二軸混練押出部2、樹脂に高せん断力を付加する高せん断加工部3および脱泡部4を備えており、これらが、この順に直列に接続されている。
【0028】
二軸混練押出部2は、樹脂10aと繊維10bとを含む原料10を溶融・混練して、樹脂中に繊維を分散させる繊維分散工程に用いられる。例えば、樹脂10aはペレットとして、繊維10bは粉末として二軸混練押出部2に供給される。
【0029】
図2に示すように、二軸混練押出部2は、バレル6と、バレル6の内部に収容された二本のスクリュ7a,7bと、を備えている。バレル6は、二つの円筒を組み合わせた形状を有するシリンダ部8および原料10を溶融するヒータを備えている。樹脂10aはバレル6の一端部に設けた供給口9aから、繊維10bはバレル6の真ん中あたりに設けた供給口9bから、シリンダ部8に連続的に供給される。
【0030】
スクリュ7a,7bは、互いに噛み合った状態でシリンダ部8に収容されており、図示しないモータから伝わるトルクを受けて互いに同方向に回転される。同方向回転型とすることで、原料10の樹脂10aと繊維10bとを強く混練、溶融することができる。
【0031】
図3に示すように、スクリュ7a,7bは、それぞれ、フィード部11、混練部12およびポンピング部13を備えており、これらはスクリュ7a,7bの軸方向に沿って一列に並んでいる。供給口9bはフィード部11と混練部12との間に位置しており、繊維10bが供給口9bからサイドフィード等により供給されて樹脂9a中に分散される。
【0032】
フィード部11は、螺旋状に捩じれたフライト14を有している。スクリュ7a,7bのフライト14は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、供給口9aから供給された樹脂10aと、供給口9bから供給された繊維10bとを含む原料10を混練部12に向けて搬送する。
【0033】
混練部12は、スクリュ7a,7bの軸方向に並んだ複数のディスク15を有している。スクリュ7a,7bのディスク15は、互いに向かい合った状態で回転するとともに、フィード部11から送られた原料10を混練する。混練された原料10は、スクリュ7a,7bの回転によりポンピング部13に送り込まれる。
【0034】
ポンピング部13は、螺旋状に捩じれたフライト16を有している。スクリュ7a,7bのフライト16は、互いに噛み合った状態で回転するとともに、繊維分散樹脂をバレル6の吐出端から押し出す。
【0035】
二軸混練押出部2の供給口9a,9bに供給された樹脂10a、繊維10bは、ヒータの熱を受けて溶融され、混練される。この際、繊維10bが開繊し樹脂10aに均一に分散され繊維分散樹脂となる。繊維分散樹脂は、図1に矢印Aで示すように、バレル6の吐出端から高せん断加工部3に連続的に供給される。
【0036】
繊維分散樹脂は、二軸混練押出部2から高せん断加工部3に対し、適切な粘度で所定量として安定して供給される。このため、二軸混練押出部2における繊維分散工程に続いて低分子量化工程を行う高せん断加工部3の負担を軽減できる。なお、二軸混練押出部2により原料10に加えられるせん断力は、繊維10bを樹脂10aに分散させることを目的とするが、この際に樹脂10bの低分子量化が生じることはある。ただし、二軸混練押出部2と高せん断加工部3とでは、樹脂10b低分子量化の程度が大きく異なる、このため、二軸混練押出部2のみを用いて、射出成形に適した流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料を製造することは困難である。射出成形に適した流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料を製造するためには、高せん断加工部3を用いた低分子量化工程により繊維分散樹脂を低粘度化する必要がある。
【0037】
図4に示す脱泡部4は、高せん断加工部3から吐出された繊維強化複合材料に含まれるガス成分を吸引・除去する要素である。脱泡部4は、バレル22と、バレル22に収容された一本のベントスクリュ23と、を備えている。バレル22は、真っ直ぐな円筒状のシリンダ部24を含んでいる。高せん断加工部3から押し出された十分に低分子量化された繊維強化複合材料は、その一端側からバレル22のシリンダ部24に連続的に供給される。
【0038】
バレル22は、ベント口25を有している。ベント口25は、バレル22の中間部に開口されているとともに、真空ポンプ26に接続されている。さらに、バレル22のシリンダ部24の他端部は、吐出口28を備えたヘッド部27で閉塞されている。
【0039】
ベントスクリュ23は、螺旋状に捩じれたフライト29を有しており、シリンダ部24に収容され、図示しないモータから伝わるトルクを受けて一方向に回転される。フライト29は、ベントスクリュ23と一体的に回転するとともに、シリンダ部24に供給された混練物をヘッド部27に向けて連続的に搬送する。繊維強化複合材料は、ベント口25に対応する位置に搬送された時に、真空ポンプ26のバキューム圧を受ける。すなわち、真空ポンプによってシリンダ部24内を負圧に引くことで、繊維強化複合材料に含まれるガス状物質やその他の揮発成分が混練物から連続的に吸引・除去される。繊維強化複合材料は、ガス状物質やその他の揮発成分が取り除かれたのち、ヘッド部27の吐出口から吐出される。
【0040】
図5図6に示すように、高せん断加工部3は、繊維分散樹脂を低分子量化する単軸押出機であり、バレル20と、一本のスクリュ21と、を備えている。スクリュ21は、二軸混練押出部2から供給される繊維分散樹脂にせん断作用を付与する。バレル20は、真っ直ぐな筒状であって、水平に配置されている。バレル20は、複数のバレルエレメント31に分割されている。
【0041】
各バレルエレメント31は、円筒状の貫通孔32を有している。バレルエレメント31は、それぞれの貫通孔32が同軸状に連続するようにボルト締結により一体的に結合されている。バレルエレメント31の貫通孔32は、互いに協働してバレル20の内部に円筒状のシリンダ部33を規定している。シリンダ部33は、バレル20の軸方向に延びている。
【0042】
バレル20の軸方向に沿う一端部に供給口34が形成されている。供給口34は、シリンダ部33に連通しており、二軸混練押出部2によって溶融された繊維分散樹脂が連続的に供給口34に供給される。
【0043】
バレル20は、図示しないヒータを備えている。ヒータは、必要に応じてバレル20の温度を調整する。バレル20は、シリンダ部33を取り囲むように配置された冷媒通路35を備えている。冷媒は、バレル20の温度が予め決められた上限値を超えた時に冷媒通路35に沿って流れ、バレル20を強制的に冷却する。冷媒として、例えば水や油などが用いられる。
【0044】
バレル20の軸方向に沿う他端部は、ヘッド部36で閉塞されている。ヘッド部36は、吐出口36aを有している。吐出口36aは、供給口34に対しバレル20の軸方向に沿う反対側に位置されるとともに、脱泡部4に接続されている。
【0045】
スクリュ21は、繊維分散樹脂の搬送方向に沿った直線状の軸線を有し、スクリュ本体37を備えている。スクリュ本体37は、一本の回転軸38と、複数の円筒状の筒体39と、で構成されている。
【0046】
回転軸38は、第1の軸部40および第2の軸部41を備えている。第1の軸部40は、バレル20の一端部の側である回転軸38の基端に位置している。第1の軸部40は、継手部42およびストッパ部43を含んでいる。継手部42は、図示しないカップリングを介してモータのような駆動源に連結される。ストッパ部43は、継手部42に同軸状に設けられている。ストッパ部43は、継手部42よりも径が大きい。
【0047】
第2の軸部41は、第1の軸部40のストッパ部43の端面から同軸状に延びている。第2の軸部41は、バレル20の略全長に亘る長さを有するとともに、ヘッド部36と向かい合う先端を有している。第1の軸部40および第2の軸部41を同軸状に貫通する真っ直ぐな軸線O1は、回転軸38の軸方向に水平に延びている。
【0048】
搬送部81と障壁部82とは、一組のみ配置された構成、または複数組が配置された構成のいずれとしてもよい。いずれの場合も、低分子量化した直後に通路88を通過させることにより、繊維分散樹脂の熱劣化が過度に進むことを抑制できる。バレル20の供給口34は、スクリュ本体37の基端の側に配置された搬送部81に向けて開口している。
【0049】
回転軸38は、第1の軸部40および第2の軸部41を備えている。第1の軸部40は、バレル20の一端部の側である回転軸38の基端に位置している。第1の軸部40は、継手部42およびストッパ部43を含んでいる。継手部42は、図示しないカップリングを介してモータのような駆動源に連結される。ストッパ部43は、継手部42に同軸状に設けられている。ストッパ部43は、継手部42よりも径が大きい。
【0050】
各搬送部81は、螺旋状に捩じれたフライト84を有している。フライト84は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト84は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、当該スクリュ本体37の基端から先端に向けて原料を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト84は、当該フライト84の捩じれ方向が右ねじと同じように右に捩じれている。
【0051】
各障壁部82は、螺旋状に捩じれたフライト86を有している。フライト86は、筒体39の周方向に沿う外周面から搬送路53に向けて張り出している。フライト86は、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転した時に、スクリュ本体37の先端から基端に向けて繊維分散樹脂を搬送するように捩じれている。すなわち、フライト86は、当該フライト86の捩じれ方向が左ねじと同じように左に捩じれており、フライト84とは逆方向の逆スクリュになっている。
【0052】
各障壁部82のフライト86の捩じれピッチは、搬送部81のフライト84の捩じれピッチと同じか、それよりも小さく設定されている。さらに、フライト84,86の頂部とバレル20のシリンダ部33の内周面との間には、僅かなクリアランスが確保されている。
【0053】
障壁部82の外径部(フライト84,86の頂部)と、シリンダ部33の内周面との間のクリアランスは、0.1mm以上かつ2mm以下の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、当該クリアランスを、0.1mm以上かつ0.7mm以下の範囲に設定する。これにより、繊維分散樹脂が当該クリアランスを通過して搬送されることを制限できる。
【0054】
スクリュ本体37は、スクリュ要素として、スクリュ本体37の軸方向に延びる複数の通路88を有している。通路88は、一つの障壁部82と、当該障壁部82を挟んだ二つの搬送部81とを一つのユニットとすると、双方の搬送部81の筒体39に各ユニットの障壁部82を跨いで形成されている。この場合、通路88は、スクリュ本体37の軸方向に沿った同一の直線上において、所定の間隔(例えば、等間隔)で一列に整列されている。通路88は、搬送部81に挟まれた障壁部82に設けられている。
【0055】
各筒体39は、第2の軸部41が同軸状に貫通するように構成されている。
第2の軸部41は、ストッパ部43よりも径が小さいソリッドな円柱状である。
【0056】
図7に示すように、第2の軸部41の外周面に一対のキー45a,45bが取り付けられている。キー45a,45bは、第2の軸部41の周方向に180°ずれた位置で第2の軸部41の軸方向に延びている。
図8に示すように、筒体39の内周面に一対のキー溝49a,49bが形成されている。キー溝49a,49bは、筒体39の周方向に180°ずれた位置で筒体39の軸方向に延びている。
【0057】
筒体39は、キー溝49a,49bを第2の軸部41のキー45a,45bに合わせた状態で第2の軸部41の先端の方向から第2の軸部41の上に挿入される。第2の軸部41の上に最初に挿入された筒体39と第1の軸部40のストッパ部43の端面との間に第1のカラー44が介在している。さらに、全ての筒体39を第2の軸部41の上に挿入した後、第2の軸部41の先端面に第2のカラー51を介して固定ねじ52がねじ込まれている(図5図6参照)。このねじ込みにより、全ての筒体39が、第1のカラー44と第2のカラー51との間で第2の軸部41の軸方向に締め付けられ、隣り合う筒体39の端面が隙間なく密着する。
【0058】
通路88は、筒体39の内部において、回転軸38の軸線O1から偏心した位置に設けられている。言い換えると、通路88は、軸線O1から外れており、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1の周りを公転するようになっている。
【0059】
通路88は、例えば円形の断面形状を有する孔である。通路88は、繊維分散樹脂の流動のみを許容する中空の空間として構成されている。通路88の壁面89は、スクリュ本体37が回転した時に、軸線O1を中心に自転することなく軸線O1の周りを公転する。
【0060】
通路88を円形の断面形状を有する孔とする場合、円の直径は、例えば1~5mm程度とすればよい。また、通路88の距離(長さL2、図9参照)は、例えば15~90mm程度とすればよい。繊維分散樹脂を円滑に通過させるとともに、これらの搬送部81における充満率を高くする観点から、通路88の断面の円の直径は1~3mmが好ましく、通路88の距離は40~60mmが好ましい。
【0061】
図9に示すように、スクリュ本体37は、スクリュ要素として、繊維分散樹脂を搬送するための複数の搬送部81と、繊維分散樹脂の流動を制限するための複数の障壁部82と、を有している。すなわち、バレル20の一端部に対応するスクリュ本体37の基端に複数の搬送部81が配置され、バレル20の他端部に対応するスクリュ本体37の先端に複数の搬送部81が配置されている。さらに、これら搬送部81の間において、スクリュ本体37の基端から先端に向かって、搬送部81と障壁部82とが軸方向に交互に並べて配置されている。搬送部81と障壁部82とを一組として配置する数により、高せん断加工部3による低分子量化工程の回数が決定される。
【0062】
図9に矢印Cで示すように、高せん断加工部3に供給された繊維分散樹脂は、スクリュ本体37の基端の側に位置された搬送部81の外周面に投入される。このとき、スクリュ本体37の基端から見てスクリュ21が逆時計回りに左回転すると、搬送部81のフライト84は、繊維分散樹脂を、同図に実線の矢印で示すように、スクリュ本体37の先端に向けて連続的に搬送する。
【0063】
搬送部81と障壁部82がスクリュ本体37の軸方向に交互に並んでいるとともに、通路88がスクリュ本体37の軸方向に間隔をあけて設けられている。このため、供給口34からスクリュ本体37に投入された繊維分散樹脂は、せん断作用を断続的に繰り返し受けながらスクリュ本体37の基端から先端の方向に搬送される際、低分子量化される。
【0064】
図10に示すように、各通路88は、入口91、出口92、通路本体93を有している。入口91および出口92は、通路本体93により連通されており、一つの障壁部82の両側に接近して設けられている。別の捉え方をすると、隣り合う二つの障壁部82の間に隣接した一つの搬送部81において、入口91は、搬送部81の下流端の付近の外周面に開口されているとともに、出口92は、搬送部81の上流端の付近の外周面に開口されている。同じ搬送部81の外周面において開口されている入口91と出口92とは、通路本体93によって連通されていない。入口91は障壁部82を介して隣り合う下流側の搬送部81の出口92と連通されており、出口92は障壁部82を介して隣り合う上流側の搬送部81の入口91と連通されている。
【0065】
通路88を通過するときは、スクリュ21によるせん断力が繊維分散樹脂に印加されない。通路88を通過させる際の冷却効果を高めるため、回転軸38の軸線O1に沿って同軸状に延びた冷媒通路(図示せず)を回転軸38の内部に形成してもよい。冷媒通路を形成する場合、その一端は出口配管につながれており、他端は回転軸38の先端で液密にふさがれた構造とすることができる。冷媒導入管を冷媒通路の内部に同軸状に挿入してもよい。これにより、冷媒が回転軸38の軸方向に沿って循環するので、冷媒を利用して通路88を通過する際の冷却効率が向上する。
【0066】
図10には、搬送部81のうちスクリュ本体37の搬送部81に対応した箇所の繊維分散樹脂の充満率がグラデーション(濃淡)で表されている。すなわち、搬送部81において、色調が濃くなる程に充満率が高くなっている。搬送部81において、障壁部82に近づくに従い充満率が高まっており、障壁部82の直前で、充満率が100%となっている。このように、樹脂溜りRの近傍において、充満率が約100%となっている繊維分散樹脂に、スクリュ21の回転により高いせん断力が加えられる。これにより、繊維分散樹脂を低分子量化することができる。
【0067】
樹脂溜りRでは、流動が堰き止められたことで、圧力が上昇している。圧力が上昇した繊維分散樹脂は、図10に破線の矢印で示すように、搬送部81の外周面に開口された入口91から通路88に連続的に流入し、通路88内を連続的に流動する。搬送方向に沿って繊維分散樹脂が充満する長さである充満長は、通路88と障壁部82との位置関係によって規定される。
【0068】
図10に示す、通路88の長さL2(図9参照)は、通路88が跨ぐ障壁部82の長さL1よりも大きい必要があるが、繊維分散樹脂が通路88を通過する際の流動抵抗を低くする観点から、通路88が跨いでいる障壁部82の長さL1の2倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、1.3倍以下がさらに好ましい。
【0069】
低分子量化の条件として、スクリュ本体37の回転数、通路88の内径、距離、せん断作用を付与する回数などが挙げられる。搬送を制限する回数(樹脂溜りRの数)は、高せん断加工部3における、スクリュ本体37の間の通路88が設けられている障壁部82の数によって規定される。
【0070】
スクリュ21は、駆動源からのトルクを受けて回転する。低分子量化に好適なスクリュ21の回転数は、スクリュ21の外径によって異なる。一般に、スクリュ21の外径が小さくなるにしたがって、好適な回転数が大きくなる傾向にある。外径が30mm以上50mm以下であり、フライト84の高さ、すなわち溝の深さが2mm以上4mm以下のスクリュ21を用いる場合、スクリュ21の回転数を1000rpm以上3600rpm以下とすることで、強度の高い成形品となる低粘度の繊維強化複合材料が得られる。成形品の強度を高くする観点から、スクリュ21の回転数は、1000rpm以上3000rpm以下が好ましく、1500rpm以上3000rpm以下がより好ましい。
【0071】
また、せん断速度を850(/秒間)以上3000(/秒間)以下とすることで、強度の高い成形品となる低粘度の繊維強化複合材料が得られる。成形品の強度を高くする観点から、スクリュ21のせん断速度は、850(/秒間)以上2500(/秒間)以下が好ましく、1250(/秒間)以上2500(/秒間)以下がより好ましい。
【0072】
図11に示すように、スクリュ本体37の内部に複数の通路88が並行して均等に配置された構成が好ましい。この場合、通路88の入口91および出口92(図8参照)もそれぞれ、スクリュ本体37の外周面に均等に設けられる。
【0073】
図11には、スクリュ本体37の内部に4つの通路88a,88b,88c,88dが並行して設けられた例を示している。同図に示すように、複数の通路88が均等に配置されるとは、スクリュ本体37の断面の軸線(中心点)O1と隣り合う通路88を結ぶ線の角度が等しいことをいう。O1と隣り合う通路88を結ぶ線の角度は、通路88が4つの場合90°であり、通路88が2つの場合180°である。なお、D1はスクリュ本体37の外径を示している。
【0074】
以上のように、本発明の製造方法は、二軸混練押出部2により繊維を樹脂に分散させて繊維分散樹脂とした後、さらに高せん断加工部3を用いて繊維分散樹脂を低分子量化する低分子量化工程を備えている。これにより、射出成形により得られる成形品の力学的特性(力学物性)を良好に保ちながら、射出成形に適した流動性の高い低粘度の繊維強化複合材料を製造できる。例えば、樹脂としてポリプロピレンを含有する繊維強化複合材料100重量%中にガラス繊維を30重量%以上含有させた場合でも、成形性の指標であるスパイラル長が100cm以上となる高い流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料を製造することができる。また、高せん断加工部3の回転数により、繊維強化複合材料の粘度を制御することができる。
【実施例
【0075】
連続式高せん断加工装置を用いて、繊維強化複合材料を製造した。以下に、用いた原料および、各部の構成、製造条件を記載する。
<原料>
樹脂:F704NP(商品名、プライムポリマー製、Mw451、000、ポリプロピレン(PP))
繊維(フィラー):ガラス繊維(GF)
【0076】
<二軸混練押出部(繊維分散工程用):TEM26SX(芝浦機械(株)製)>
構成:フィード部、第1混練部、第1ポンピング部、第2混練部、第2ポンピング部
回転数:250rpm(回転/分間)
バレル温度:195℃
供給量(押出量):20kg/時間
【0077】
<高せん断加工部(低分子量化工程用)>
バレルユニットのスクリュ径(D、外径):48mm
スクリュの溝深さ(フライトの高さ):3mm
バレルユニットのスクリュ有効長(スクリュ有効長さL/スクリュ径D):6.25
通路長(L2、図9参照)45mm、断面円形、直径2mm、通路数4(並行して均等に配置)
回転数:500rpm、800rpm、1000rpm、2000rpm、3000rpm、3500rpm
堰き止め数:1
供給量(押出量):20kg/時間
【0078】
<実施例1~8、比較例1、2、5、6>
樹脂および繊維を以下の表に示す比率、条件により、図1に示す連続式高せん断加工装置1の二軸混練押出部2を用いて混練して繊維分散樹脂とした。そして、繊維分散樹脂を以下の表に示す条件により連続式高せん断加工装置1の高せん断加工部3を用いて低分子量化して繊維強化複合材料を製造した。
【0079】
<比較例3、4、7、8>
樹脂および繊維を以下の表に示す比率、条件により、二軸混練押出部2のみを備えた二軸混練押出機を用いて混練して繊維強化複合材料を製造した。比較例4および8では、二軸混練押出機における第2ポンピング部の温度を300℃として繊維強化複合材料を製造した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
<力学的特性の評価方法>
上述のようにして製造した繊維強化複合材料について、以下の評価方法を用いて測定した結果を表1、表2および図12図14に示す。
【0083】
[粘度]
装置:アントンパール製回転式レオメーターMCR102
測定方法:温度200℃におけるゼロせん断粘度を測定
[スパイラル長(流動性)]
射出成形機を用いて渦巻状金型に射出成形した際に試料樹脂が金型内にて流動した距離(渦巻の長さ)を測定する。射出成形機は芝浦機械EC100Nを用いた。
成形温度:235℃
射出圧力(1次/2次):99MPa/70MPa
スクリュ回転数:100rpm
金型冷却温度:50℃
金型:渦巻状金型(流路断面:半円状/半径2.38mm、最大168cm)
【0084】
[平均繊維長(D50)(ペレット)]
繊維強化複合材料のペレットを500℃の大気雰囲気下で樹脂を飛ばし、ガラス繊維を採取した。得られたガラス繊維を形状・粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製PartAn SI)に投入して、繊維長分布を測定し繊維長の中央値(D50)を求めた。
【0085】
[繊維長(テストピース)]
繊維強化複合材料を射出成形して製造した成形品(テストピース)を、上述したペレット同様の方法でガラス繊維を採取し、繊維長分布を測定し繊維長の中央値(D50)を求めた。
【0086】
[引張強度]
JIS K 7161に準拠して測定した。
射出成形により、中央幅が10mm、長さが175mm、厚み4mmのダンベル形状の試験片を作製した。試験片の形状はダンベル状1A号形とした。引張試験は、卓上形精密万能試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG-50kN型)を用い、クロスヘッド速度を5mm/分とし、試験片の破断まで荷重を負荷した。引張強度について以下の計算式から算出した。
F=P/W×D
F:強度(MPa)
P:破壊荷重(MPa)
W:試験片の幅(mm)
D:試験片の厚さ(mm)
【0087】
[引張弾性率]
引張試験は、JIS K 7161に準拠して測定した。引張弾性率は、引張強度と同様の方法で作製した試験片を用いて行い、試験で得られた応力-歪の関係から、ε1及びε2の歪み2点間に対応する応力/歪み曲線の傾きから求めた。尚、歪は測定前に校正した伸び計(イプシロン社製)にて計測した。
E=((σ2-σ1)/(ε2-ε1))/1000
E:弾性率(GPa)
ε1:歪み0.1%(0.001)
ε2:歪み0.3%(0.003)
σ1:ε1における応力(MPa)
σ2:ε2における応力(MPa)
【0088】
[曲げ強度]
JIS K 7171に準拠して測定した。
射出成形により、幅が10mm、長さが80mm、厚み4mmの短冊形状の試験片を作製した。曲げ試験は3点曲げとし、卓上形精密万能試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG-50kN型)を用いて試験した。クロスヘッド速度を2mm/分とし、試験片の破断まで荷重を負荷した。曲げ強度について以下の計算式から算出した。
F=3×P×L/2×W×D2
F:強度(MPa)
P:破壊荷重(MPa)
L:支点間距離 64mm
W:試験片の幅(mm)
D:試験片の厚さ(mm)
【0089】
[曲げ弾性率]
JIS K 7171に準拠して測定した。
射出成形により、幅が10mm、長さが80mm、厚み4mmの短冊形状の試験片を作製した。曲げ試験は3点曲げとし、卓上形精密万能試験機(島津製作所(株)製オートグラフAG-50kN型)を用いて試験した。クロスヘッド速度を2mm/分とし、試験片の破断まで荷重を負荷した。曲げ弾性率は、試験で得られた応力-歪の関係から、ε1及びε2の歪み2点間に対応する応力/歪み曲線の傾きから求めた。
E=((σ2-σ1)/(ε2-ε1))/1000
E:弾性率(GPa)
ε1:歪み0.05%(0.0005)
ε2:歪み0.25%(0.0025)
σ1:ε1における応力(MPa)
σ2:ε2における応力(MPa)
【0090】
表1、2に示すように、連続式高せん断加工装置の高せん断加工部を用いた低分子量化工程により、繊維強化複合材料の重量平均分子量が小さくなって粘度が低下し、流動性が高くなった。また、低分子量化工程におけるスクリュ本体の回転数と繊維強化複合材料の粘度との間には相関があり、回転数を大きくすることで、繊維強化複合材料の粘度が低くなり、流動性が高くなった。
【0091】
繊維強化複合材料中における繊維の繊維長は、回転数が大きいほど、長くなった。これは、連続式高せん断加工装置の高せん断加工部内でせん断発熱が発生することにより、ポリプロピレンの分子量が急激に低下したことによると考えられる。すなわち、低分子量化工程において繊維強化複合材料の粘度が急激に低下したことにより、ガラス繊維に加わるせん断応力が弱くなり、繊維の破断が抑えられたと推定できる。
【0092】
表1および表2に示すように、繊維の破断が抑えられた結果として、連続式高せん断加工装置を用いて低分子量化工程を行った実施例1~4および5~8の繊維強化複合材料は、二軸混練押出機を単体で用いて繊維分散工程のみを行った比較例3および7との比較において、流動性が向上したにも関わらず、成形品の力学的特性は同等以上であった。
【0093】
二軸混練押出機を単体で用いて繊維分散工程および低分子量化工程を行った比較例4および8の繊維強化複合材料は、繊維長が長く繊維配向がよいことが流動性の向上に寄与したと考えられる。連続式高せん断加工装置を用いて低分子量化工程を行うことで、二軸混練押出機を単体で用いた場合には実現できない超低粘度の繊維強化複合材料を製造できることが分かった。
【0094】
図12図14は、実施例1~4および比較例1~3についての測定結果のグラフであり、低分子量化工程におけるスクリュ本体の回転数と、成形品の引張強度、曲げ強度および引張弾性率との関係を示している。これらの図では、低分子量化工程を行わなかった比較例3の繊維分散樹脂の成形品の測定結果を回転数0として示している。図12図14に示すように、スクリュ本体の回転数を1000rpm以上3500rpm以下として低分子量化工程を行った実施例1~4の繊維強化複合材料の成形品は、比較例3の成形品よりも引張強度および曲げ強度が向上していた。
【0095】
スクリュ本体の回転数を1000rpm以上とすることにより、繊維分散工程のみを行い低分子量化工程を行わなかった比較例3よりも、成形品の引張強度および曲げ強度が高くなった。また、スクリュ本体の回転数を500rpmおよび800rpmとした比較例1および2の成形品は、引張強度および曲げ強度が比較例3よりもやや低くなった。これらの結果から、低粘度化工程におけるスクリュ本体回転数を1000rpm以上とすることによって、繊維強化複合材料の成形品の強度が高くなることが分かる。
【0096】
表1に示すように、低粘度化工程におけるスクリュ本体の回転数を大きくするにしたがって、繊維強化複合材料の粘度が低くなっている。この結果より、スクリュ本体の回転数によって、繊維強化複合材料の粘度を調整できることが分かる。
【0097】
図12図14に示す結果から、低分子量化工程におけるスクリュ本体の回転数を2000rpm以上とすると、成形品の引張強度および引張弾性率が低下する傾向があり、回転数を3500rpmとした実施例4の成形品は、比較例3よりも引張弾性率がやや低くなった。このため、低分子量化工程におけるスクリュ本体の回転数を3200rpm以下とすることが好ましい。
【0098】
上述した結果から、低分子量化工程におけるスクリュ本体の回転数を1000rpm以上3600rpm以下とすることにより、引張強度、曲げ強度および弾性率に優れた成形品となる、低粘度の繊維強化複合材料を製造できるといえる。
【0099】
各実施例および比較例における低分子量化工程のせん断速度(/秒間)は、[π×バレルユニットのスクリュ径×回転数]/[60×スクリュの溝深さ]として算出できる。例えば、スクリュ本体の回転数を1000rpmとした実施例1における低分子量化工程のせん断速度は838(/秒間)である。
【0100】
表1に示すように、繊維強化複合材料の重量平均分子量は、低分子量化工程前の比較例3が392,000であり、低分子量化工程後の実施例1(1000rpm)が230,000であり、実施例3(3000rpm)が143,000であった。低分子量化工程の前における比較例3の繊維強化複合材料の重量平均分子量を100%とした場合、実施例1の繊維強化複合材料は比較例3の重量平均分子量の約59%に低分子量化され、実施例3の繊維強化複合材料は比較例3の重量平均分子量の約36%に低分子量化された。これらの結果から、強度および弾性率に優れた成形品となる繊維強化複合材料を製造する観点から、低分子量化工程は、低分子量化工程後の重量平均分子量が低分子量化工程前の重量平均分子量の30%以上65%以下となるように行うことが好ましい。
【0101】
実施例および比較例の結果から以下のことがいえる。
連続式高せん断加工装置における、二軸混練押出部を用いて樹脂に繊維を分散される繊維分散工程の後に、高せん断加工部を用いて低分子量化工程を行うことにより、高い流動性を備えた低粘度の繊維強化複合材料が得られた。
高せん断加工部による低分子量化工程における回転数などの処理条件により、繊維強化複合材料の粘度を制御することができた。
繊維分散工程および低分子量化工程により製造された繊維強化複合材料は、射出成形に適した低い粘度、高い流動性を実現しつつ、射出成形による成形品の力学的特性が高く維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の製造方法によれば、射出成形用に適した、流動性が高い繊維強化複合材料を提供することができる。また、繊維強化複合材料は、射出成形により力学的特性に優れた成形品を成形できるから、例えば0.5mm厚以下の薄物成形品などを形成するための材料として好適である。
【符号の説明】
【0103】
1:連続式高せん断加工装置、2:二軸混練押出部、3:高せん断加工部、4:脱泡部、6:バレル、7a,7b:スクリュ、8:シリンダ部、9a,9b:供給口、10:原料、10a:樹脂、10b:繊維、11:フィード部、12:混練部、13:ポンピング部、14,16:フライト、15:ディスク、20:バレル、21:スクリュ、22:バレル、23:ベントスクリュ、24:シリンダ部、25:ベント口、26:真空ポンプ、27:ヘッド部、28:吐出口、29:フライト、31:バレルエレメント、32:貫通孔、33:シリンダ部、34:供給口、35:冷媒通路、36:ヘッド部、36a:吐出口、37:スクリュ本体、38:回転軸、39:筒体、40:第1の軸部、41:第2の軸部、42:継手部、43:ストッパ部、44:カラー、45a,45b:キー、49a,49b:キー溝、51:第2のカラー、52:固定ねじ、53:搬送路、81:搬送部、82:障壁部、84,86:フライト、88,88a~88d:通路、91:入口、92:出口、93:通路本体、R:樹脂溜り、O1:軸線、D1:外径、L1,L2:長さ
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