(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/60 20180101AFI20231109BHJP
【FI】
G16H20/60
(21)【出願番号】P 2019080327
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507214108
【氏名又は名称】株式会社新明和
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 譲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 喜子
(72)【発明者】
【氏名】山路 祐子
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 文
【審査官】今井 悠太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-214108(JP,A)
【文献】特開2003-246753(JP,A)
【文献】株式会社サイキンソー,便秘についてのタイプ判定,オンライン,2018年10月05日,p.1,https://web.archive.org/web/20181005140219/https://mykinso.com/,検索日2023年05月30日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の療養のための病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置であって、
腸内細菌叢の細菌に対する餌が、腸内細菌を対象とした栄養供給のための栄養素であり、
腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力するための腸内細菌叢測定結果入力手段と、
入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定手段と、
腸内細菌叢の種類に基づいて、腸内細菌叢の種類と、餌とを関連付けて記憶するための餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定手段と、
腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示するための餌表示手段と
を含む装置。
【請求項2】
腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を入力するための再測定結果入力手段と、
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断するための餌供給効果判断手段と、
腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶するための、餌の供給効果記憶手段と
を更に含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果が、細菌のゲノム情報を用いる測定結果、又は腸内細菌の代謝産物の測定に基づく測定結果である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
細菌のゲノム情報が、16SリボゾームRNAである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
腸内細菌叢の種類の判定が、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の少なくとも1つの種類及び割合を特定することにより、腸内細菌叢の種類を判定することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
患者の療養のための病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす、腸内細菌叢の細菌に対する餌を情報処理装置により選択するためのプログラムであって、
腸内細菌叢の細菌に対する餌が、腸内細菌を対象とした栄養供給のための栄養素であり、
情報処理装置が、入力部と、表示部と、演算部と、腸内細菌情報記憶部と、腸内細菌叢の種類及び餌とを関連付けて記憶するための餌リスト記憶部とを含み、
プログラムが情報処理装置の演算部に対して、
腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力部から入力するための腸内細菌叢測定結果入力処理と、
入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定処理と、
腸内細菌叢の種類に基づいて、餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定処理と、
腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示部に表示するための餌表示処理と
を実行させるプログラム。
【請求項7】
プログラムが情報処理装置の演算部に対して、
腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を、入力部から入力するための再測定結果入力処理と、
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断するための餌供給効果判断処理と、
腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶するための、餌の供給効果記憶処理と
を更に含む、請求項6に記載のプログラム。
【請求項8】
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果が、細菌のゲノム情報を用いる測定結果、又は腸内細菌の代謝産物の測定に基づく測定結果である、請求項6又は7に記載のプログラム。
【請求項9】
細菌のゲノム情報が、16SリボゾームRNAである、請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
腸内細菌叢の種類の判定が、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の少なくとも1つの種類及び割合を特定することにより、腸内細菌叢の種類を判定することを含む、請求項6~9のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項11】
医師と管理栄養士が
患者の療養のために扱う病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置又はプログラムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置又は請求項6~10のいずれか1項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌の代謝のための餌、例えば有機化合物を選択するための装置及びプログラムの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な高齢化と医療の近代化による医療費の高騰のために、病院からの早期退院を促し、その受け皿としての在宅医療の在り方が検討されている。在宅医療の場合、適切な療養食(病者用食事)の供給が必要である。また、病院においても適切な療養食を供給することが必要である。
【0003】
特許文献1には、利用者に提供すべきサプリメントの配合を決定する配合決定装置及び利用者に提供すべきサプリメントの配合を決定するプログラムが開示されている。
【0004】
特許文献2には、病者に提供すべき病者用食事に配合又は添加するための食品を選択するための装置が開示されている。特許文献2には、その装置が、病者に処方された少なくとも一つの処方薬品及びその薬品の処方投与量を入力して記憶するための、薬品入力手段と、食品を入力して記憶するための、食品入力手段と、薬品と、その薬品に対する配合禁忌の食品とを関連付けて記憶するための、第1食品リスト記憶部と、処方薬品及び食品に基づいて、第1食品リスト記憶部を検索し、食品と、処方薬品とが、配合禁忌であるか否かを判定するための、適合食品判定手段と、判定結果を表示するための、結果表示手段と、を備えることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、病者用食事に配合又は添加するための食品を選択するための装置が開示されている。特許文献3には、その装置が、病名情報入力手段と、病名判定手段と、病名及び微量元素リスト記憶部と、微量元素判定手段と、微量元素及び好適食品リスト記憶部と、好適食品判定手段と、結果表示手段とを備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3895746号公報
【文献】特開2012-238200号公報
【文献】特開2017-59228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
我が国の急速な高齢化と医療の近代化による医療費の高騰は、将来の医療制度維持に崩壊にもつながりかねず、その対策として国民の健康を維持する医療制度の抜本的改革を目指し、病院からの早期退院を策定し、その受け皿である在宅医療の在り方が検討されてきている。高齢患者用の病者用食事の供給は、在宅及び通院患者が医薬品投与によって治療されている以上、医療行為の範疇にあり、治療に関する食品(例えば、治療用の機能性食品や健康食品)は、薬事法に抵触するとして一般市場での販売が規制されている。そのため療養生活をサポートする機能性食品を販売することができないため、在宅患者への給食体制が欠落している。現在のこのような状況では、病院での治療食と同様の病者用食事を、在宅にも延長して退院後に供給する体制を作ることは不可能である。この結果、長年、在宅医療における治療補完のための治療食(病者用食事)による疾病の発症・重症化予防の成果挙げることができず、医療費全体の削減の大きな障害になっている。
【0008】
上述の治療食(病者用食事)の問題は、永年の課題として指摘されてきた。また、在宅医療の補完治療として、疾患の発症・重症化予防のための治療食による栄養指導ができない理由は多岐にわたっており、多角的に検証しないと真の解決につながらない。重要なことは、管理栄養士の在り方である。すなわち、在宅医療における治療食及び療養食(病者用食事)の供給の際に、医師と連携した管理栄養士が参入するためには、従来の基礎栄養学による在宅の病者用食事の概念を変え、医療の研究部門と共通する分子栄養学を理解することが、管理栄養士にとって必要である。
【0009】
一方、医師が疾患に対応する場合は、患者の臓器疾患を特定し、機能の修復を図るための処方箋を作成し、医薬品の投与で治療する。医師は、薬との配合禁忌は当然考慮したうえで、通院・在宅で日常の生活の中での病者用食事を薬品投与中の治療補完とすることができる。しかしながら、医療サイドから見て通常、病者用食事そのものが、複雑な有機物で構成されているため、医薬品と異なり、科学的にエビデンスを証明することが困難である。そのため、医師の病者用食事に対する関心は薄い。
【0010】
このように、在宅医療で欠けていた病者用食事の供給の具体的な解決の手段といえる病者用食事は大きな問題を抱えている。従来の医療行為の中で、従来の栄養指導の現状を見るかぎり、解決はおぼつかない。
【0011】
一方、通院・在宅の高齢者に多い生活習慣病については、日常の食習慣の偏りから、腸内細菌叢の調和が崩れ、臓器や組織の恒常性に影響を与え、疾病を招いている。このような実状を、医療と共に在宅療養サポートの共通の課題として追究する必要がある。
【0012】
また、疾患対応の食品である機能性食品は、薬事法で規制されている。そのため、上記のような病者用食事の問題を解決するためには、医学的にも疾患の発症に関与している分野で、難培養性細菌などの腸内細菌叢(腸内フローラ)に対象を絞り、急速に進展しているメタゲノム解析技術で医学の共通の課題として研究すべきである。
【0013】
ここで治療や予防効果を謳うすべての食品は、すべて薬品と見なされ薬事法に抵触するので許可しないという前提がある以上、薬事法、健康増進法等による規制の生じない新しいカテゴリーとして、実質的に医療行為を補完する食品供給のジャンルを創設できるのかを検討する必要がある。
【0014】
一方、近年、医療現場では技術進歩により近代化が急速に進んでいる。また、高度医療に対応するため、医療に従事する多種多様なスタッフが高い専門性を前提に、目的を共有し、業務を分担しつつ、お互いに連携、補完し合っている。そのような状況の中、患者(病者)の状況に適格に対応した医療を提供するチーム医療体制を構築するために、看護師、薬剤師及び臨床検査技師らともに管理栄養士の参加が求められている。
【0015】
現在の医療現場の実態を検証すると、医師による医薬品の処方及び投与についての情報は、医師、薬剤師及び看護師の共通の言語で形成されたプロトコールにより交換されているため、医師の指示が薬剤師及び看護師に対して的確に伝えられている。それに対して、管理栄養士の扱う食品は、多種多様な動植物細胞で構成され、多くの食品を組み合わせて病者に提供する食事(病者用食事)の調理を指示して作られているため、特定の効果を示すエビデンスが得られていない。そのため、医師の医療に対する信頼を築けないのが現状である。
【0016】
医療現場には、病者に提供する食事(病者用食事)の重要性は概念的な理解はあるものの、治療食のような病者用食事は、急性治療には直接寄与しないとの認識がある。そのため、治療行為から見た病者用食事に対する関心度も低く、病者用食事の担当者は、他の直接治療に関与しているグループとの交流も阻害されがちで、チーム医療が実施されても傍流の存在から脱却できない。
【0017】
急性疾患の治療に関する医薬品についてのエビデンスについては、薬剤師と医師とは共通の知識を共有し、その上に共通の言語が形成され、事前のプロトコールで医師の指示が伝えられている。これに対して、管理栄養士が扱う病者用食品(病者用食事に配合する食品)は、治療の速効的効果が見られず、病者用食品による人体の特定疾患の治療としての機能性を特定できないため、エビデンスの構築ができない。また、病者用食事の重要性については概念的な理解はあるものの、病者用食事に対する医師の関心度も薄く、日常の賄いの延長と見られやすい。
【0018】
病院において、管理栄養士は、基礎栄養学と臨床栄養学とを基に、疾病の未然防止、疾病の早期回復、重症化の防止を業務として、医師のクリティカルパスといわれる包括的指導のもとに、独立した給食部門を主体に担当している。一般的に、管理栄養士は、個々の患者(病者)の対応でなく、大枠の疾病対応の集団給食的色彩の多い医療食(病者用食事)の供給にあたっている。管理栄養士は、概念的に、病者用食品を含む病者用食事が健康維持に重要であることは理解しているが、医療の中心である医師とは治療に関する直接的な対話があまりない。
【0019】
更に病院以外の場所においても、病者用食事の重要性は理解されているものの、どのようなメニューの病者用食事を摂取することが必要なのかが明確ではない。また、管理栄養士が病者用食事を扱う場合であっても、どのような食品を選択すればよいのかが明確ではない。
【0020】
医療現場における患者に対する病者用食事の供給の実態は、食材そのものが多数の細胞素材で構成されているため、薬のように薬事効果を特定するためのエビデンスが取れない。治療食、療養食等の病者用食事は、また薬品と異なり遅効性のため、病者用食事の重要性は認識されているものの、医師と管理栄養士との間で疾病治療効果の協議が行われることはほとんど見られない。
【0021】
医学と栄養学は、長い歴史の中で人体の健康を維持するために、互いに努力されてきたが、薬と食品の効果が、即効性と遅効性からくるエビデンスの取り方、認識の違いから神学的論争に終始し、未だに相互不信がある。医学では理論と臨床との検証は厳しく、栄養学の経験則からくる効果認証とは開きがある。そのため、このままでは緊急の整備が求められている在宅医療と、療養に必要な療養食及び介護食のような病者用食事が適切に供給されることが困難になる。更に、このままでは今、まさに求められている、病院と介護が一体になった、病者用食事を通しての地域医療の実現が危ぶまれる事態を招いている。
【0022】
医学と栄養学では、よって立つ研究基盤が異なるために、医師の診断内容を管理栄養士に具体的に伝える言語を策定するのは甚だ難しい。それは食物が人体に与える栄養の評価について、その重要性についての概念的な認識があるものの、医師と管理栄養士の価値観の評価には大きな差異があるという実態があるためである。
【0023】
本発明は、上述のような病者用食事の置かれている状況を踏まえてなされた発明である。すなわち、本発明は、薬事法、健康増進法等による規制の生じない新しいカテゴリーとして医療行為を補完する食品供給を可能にすることのできる装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【0024】
特に、本発明は、薬事法、健康増進法等による規制の生じない新しいカテゴリーとして、実質的に医療行為を補完する食品供給を可能にする際に、管理栄養士が、病者の腸内細菌叢の細菌に対して所定の餌(例えば有機化合物)を摂取させるために、病者に提供すべき病者用食事へ配合するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、医療行為を補完する食品供給を可能にすることのできる装置及びプログラムを供給することを目的とする。本発明では、通常の食品の枠から離れ、単純に人に栄養素を与える食品でなく、間接的に生体維持に存在している腸内細菌を対象とした栄養供給のジャンルに対して検証の枠を広げることで、薬事法規制食品外として人体の健康に大きく関与できる。本発明を実施するうえで、腸内細菌叢毎の栄養素を特定し、医学と食品分野の共通学理である分子生物学分野で研究開発することができる。本発明により、これらの研究成果として栄養素のジャンルの食品が特定された段階で、管理栄養士がこれらの栄養素を選択し、在宅医療を補完する病者用食事として、在宅医療の中で今まで欠落していた病者用食事の供給を行うことができる。また、本発明により、病者用食事の供給の際に、管理栄養士にとって、分子栄養学という分野が始動するためのシステムを策定し、具体的に参加できる条件を整備することができる。
【0026】
関連の在宅医療サービスは純然たる医療行為関連である以上、病者用食事の供与も医療行為の一環として、在宅、通院に関わらず、薬を投与されているという実態から、医療の関与を外しての病者用食事はあり得えない。そこで、本発明の目的は、法律的許容範囲の医療補完食の添加栄養素とは別途のカテゴリーを検討し、腸内細菌をターゲットにした病者用食事に含まれる栄養(本明細書では、「餌」という。)の供給である。本発明では、腸内細菌に対する餌の供給のエビデンスを、ゲノム解析で医療と栄誉の分子栄養学における関連において科学的に立証し、医師と管理栄養士の連携のもとに、法律的許容範囲で最適の栄養素を供給することができる装置及びプログラムを提供する。
【0027】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。本発明は、下記の構成の装置又はプログラムである。
【0028】
(構成1)
本発明の構成1は、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置であって、
腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力するための腸内細菌叢測定結果入力手段と、
入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定手段と、
腸内細菌叢の種類に基づいて、腸内細菌叢の種類と、餌とを関連付けて記憶するための餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定手段と、
腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示するための餌表示手段と
を含む装置である。
【0029】
本発明の構成1によれば、腸内細菌叢の細菌に対する適切な餌を選択することができるので、実質的に医療行為を補完する食品供給のために用いることができる、食品(餌)の選択を可能にすることのできる装置を得ることができる。なお、腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力することについては、細菌相の変化及び関連する疾患情報を含めて入力することができる。
【0030】
(構成2)
本発明の構成2は、腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢の組成の変化を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を入力するための再測定結果入力手段と、
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断するための餌供給効果判断手段と、
腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶するための、餌の供給効果記憶手段と
を更に含む、構成1の装置である。
【0031】
本発明の構成2によれば、装置が、餌供給効果判断手段及び餌の供給効果記憶手段を有することにより、餌リスト記憶部に対して、所定の腸内細菌叢の組成の変化に対して、所定の餌の供給による効果があったかどうかをフィードバックして記憶させることができる。この結果、腸内細菌叢に対する餌の選択の精度を向上させることができる。
【0032】
(構成3)
本発明の構成3は、腸内細菌叢の細菌を特定した種類及び量の測定結果が、細菌のゲノム情報を用いる測定結果、又は腸内細菌の代謝産物の測定に基づく測定結果である、構成1又は2の装置である。
【0033】
本発明の構成3によれば、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定のために、所定の測定方法を用いることにより、精度よく腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果を得ることができる。
【0034】
(構成4)
本発明の構成4は、細菌のゲノム情報が、16SリボゾームRNAである、構成3の装置である。
【0035】
本発明の構成4によれば、細菌のゲノム情報として16SリボゾームRNAを用いることにより、腸内細菌叢の細菌の種類及び量を更に精度よく測定することができる。
【0036】
(構成5)
本発明の構成5は、腸内細菌叢の種類の判定が、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の少なくとも1つの種類及び割合を特定することにより、腸内細菌叢の種類を判定することを含む、構成1~4のいずれかの装置である。
【0037】
本発明の構成5によれば、腸内細菌叢の細菌を、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌に分類して、腸内細菌叢の種類を判定することにより、簡便に腸内細菌叢の種類を判定することができる。
【0038】
(構成6)
本発明の構成6は、腸内細菌叢の細菌に対する餌を情報処理装置により選択するためのプログラムであって、
情報処理装置が、入力部と、表示部と、演算部と、腸内細菌情報記憶部と、腸内細菌叢の種類及び餌とを関連付けて記憶するための餌リスト記憶部とを含み、
プログラムが情報処理装置の演算部に対して、
腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力部から入力するための腸内細菌叢測定結果入力処理と、
入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定処理と、
演算部によって、腸内細菌叢の種類に基づいて、餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定処理と、
腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示部に表示するための餌表示処理と
を実行させるプログラムである。
【0039】
本発明の構成6によれば、腸内細菌叢の細菌に対する適切な餌を選択することでマイクロバイオータの組成変動による病状の変化を知ることができるので、医療行為を補完する食品供給のために用いることができる、食品(餌)の選択を可能にすることのできるプログラムを得ることができる。
【0040】
(構成7)
本発明の構成7は、プログラムが情報処理装置の演算部に対して、
腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を、入力部から入力するための再測定結果入力処理と、
腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断するための餌供給効果判断処理と、
腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶するための、餌の供給効果記憶処理と
を更に含む、構成6のプログラムである。
【0041】
本発明の構成7によれば、プログラムが演算部に対して、餌供給効果判断処理及び餌の供給効果記憶処理を実行させることにより、餌リスト記憶部に対して、所定の腸内細菌叢に対して、所定の餌の供給による効果があったかどうかをフィードバックして記憶させることができる。この結果、餌の選択の精度を向上させることができる。なお、腸内細菌叢の再測定の際に、腸内細菌叢の組成の変化について、再測定することができる。
【0042】
(構成8)
本発明の構成8は、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果が、細菌のゲノム情報を用いる測定結果、又は腸内細菌の代謝産物の測定に基づく測定結果である、構成6又は7のプログラムである。
【0043】
本発明の構成8によれば、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定のために、所定の測定方法を用いることにより、精度よく腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果を得ることができる。
【0044】
(構成9)
本発明の構成9は、細菌のゲノム情報が、16SリボゾームRNAである、構成8のプログラムである。
【0045】
本発明の構成9によれば、細菌のゲノム情報として16SリボゾームRNAを用いることにより、腸内細菌叢の細菌の種類及び量を更に精度よく測定することができる。
【0046】
(構成10)
本発明の構成10は、腸内細菌叢の種類の判定が、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の少なくとも1つの種類及び割合を特定することにより、腸内細菌叢の種類を判定することを含む、構成6~9のいずれかのプログラムである。
【0047】
本発明の構成10によれば、腸内細菌叢の細菌を、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌に分類して、腸内細菌叢の種類を判定することにより、簡便に腸内細菌叢の種類を判定することができる。
【0048】
本発明の構成11は、管理栄養士が、病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置又はプログラムである、構成1~5のいずれかの装置又は構成6~10のいずれかのプログラムである。
【0049】
本発明の構成11によれば、管理栄養士が、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択して、餌を病者用食事に配合又は添加することにより、病者の腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす餌を細菌に供給することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、薬事法、健康増進法等による規制の生じない新しいカテゴリーとして、実質的に医療行為を補完する食品供給を可能にすることのできる装置及びプログラムを提供することができる。
【0051】
特に、本発明によれば、薬事法、健康増進法等による規制の生じない新しいカテゴリーとして、実質的に医療行為を補完する食品供給を可能にする際に、管理栄養士が、病者の腸内細菌叢の細菌に対して所定の餌(例えば有機化合物)を摂取させるために、病者に提供すべき病者用食事へ配合するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図4】本発明のプログラムの別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、腸内細菌叢の細菌の代謝のための餌、例えば有機化合物を選択するための装置及びプログラムの提供に関する。
【0054】
本明細書において、「餌」とは、腸内細菌叢の細菌の代謝のために必要な物質(例えば有機化合物で炭素数6以下の短鎖脂肪酸)のことをいう。具体的には、「餌」とは、通常の食品に含まれる化合物で、難消化性の食物繊維、又は動物性タンパク質等の物質を挙げることができる。そのため、本明細書では、「餌」のことを、栄養、栄養素、又はプレバイオティクスという場合がある。また、これらの物質を食品から分離、精製したものを「餌」とすることができる。なお、「餌」は、管理栄養士が、在宅及び通院の患者の腸内細菌の代謝のために、食事に添加することができる。
【0055】
本明細書において、「腸内細菌叢」とは、ヒトを含む動物の腸の内部に生息している菌種やその微生物相の生態系のことをいう。本明細書では、腸内細菌叢の細菌のことを、単に「腸内細菌」という場合がある。なお、本明細書では、ヒトの腸内細菌に対する餌の供給を例に説明するが、それに限られない。本発明の装置及びプログラムは、ヒト以外の腸内細菌に対する餌の選択のために用いることができる。
【0056】
本明細書において、「病者」とは、所定の病気を有する人間(ヒト)のことをいう。
【0057】
本明細書において、「病者用食事」とは、病者に提供する食事のことをいう。また、「病者用食品」とは、病者用食事に含まれる食品のことをいう。なお、本明細書では、病者用食事のことを、「治療食」又は「療養食」という場合がある。
【0058】
本明細書において、「情報処理装置」とは、単体の情報処理装置を意味するだけでなく、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置を連結した形態の情報処理をするためのネットワークの概念を含む。
【0059】
本明細書において、「記憶部」(又は「記憶手段」)とは、メモリー及びハードディスク等のように、入力された情報を読み出し可能なように書き込むことのできるものをいう。記憶部は、所定の情報処理装置の内部に配置することができる。また、記憶部は、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置の内部に存在することができる。
【0060】
本明細書において、「記憶する」とは、本発明の装置のメモリー及びハードディスク等、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置の内部等の「記憶部」に対して、入力された情報を、少なくとも本発明の装置による所定の処理が終わるまで、読み出し可能なようにその情報を書き込み、その情報を記憶することをいう。
【0061】
本明細書において、「演算部」とは、CPU等の演算機能を有するものをいう。演算部は、所定の情報処理装置の内部に配置することができる。また、記憶部は、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置の内部に存在することができる。
【0062】
本明細書において、「入力部」(又は「入力手段」)とは、例えばキーボードのように、情報処理装置に所定の情報を入力することができるものをいう。入力部は、所定の情報処理装置に接続して配置することができる。また、入力部は、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置から、所定の情報を入力するためのインターフェースであることができる。具体的には、入力部として、キーボード、音声入力及びマウス等のポインティングデバイスによるプルダウンメニュー等からの選択等、公知の入力装置を入力手段として用いることができる。
【0063】
本明細書において、「表示部」とは、ディスプレイ及びプリンターのように、所定の情報を読み取り可能なように表示することのできるものをいう。表示部は、所定の装置に接続して配置することができる。また、表示部は、ローカルネットワークやインターネット等の通信回線により接続された他の装置に所定の情報を送り、他の装置内部に接続された表示機能を有するものとすることができる。
【0064】
本発明の装置について、図面を参照し、具体的に説明する。
【0065】
図1に、本発明の装置の一つの態様を示す。本発明の装置は、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための装置である。本発明の装置は、腸内細菌叢測定結果入力手段と、腸内細菌叢判定手段と、餌特定手段と、餌表示手段とを有する。本発明の装置によれば、実質的に医療行為を補完する食品供給のために用いることができる、食品(餌)の選択を可能にすることのできる装置を得ることができる。
【0066】
図1に示すように、本発明の装置は、腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力するための腸内細菌叢測定結果入力手段を有する。
【0067】
なお、腸内細菌叢測定結果入力手段の具体的な入力手段としては、キーボード、音声入力及びマウス等のポインティングデバイスによるプルダウンメニュー等からの選択等、公知の入力装置を入力手段として用いることができる。その他の入力手段についても同様である。
【0068】
腸内細菌叢の測定は、細菌のゲノム情報を用いることにより、生活習慣病等の発症を知ることができる。また、腸内細菌叢の測定は、腸内細菌の代謝産物の測定することにより、行うことができる。これらの測定方法を用いることにより、精度よく腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果を得ることができる。細菌のゲノム情報に基づく測定結果及び/又は腸内細菌の代謝産物の測定結果に基づき、腸内細菌叢の細菌の種類及び量を特定することができる。腸内細菌叢測定結果入力手段により、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果を入力することができる。
【0069】
腸内細菌の総数は100兆といわれるが、胃、小腸には1/1000しか存在せず、その大半は下部消化管(大腸)に存在している。腸内細菌のメタゲノムのDNA配列の70~80%以上が既調査済みのリファレンスゲノムに帰属しているため、その機能性も個別化されていると考えており、それによってゲノム解析で栄養素も特定できる。ただし、短期的な食事への介入でマイクロバイオーム(腸内細菌叢)のバランスを変化させる実験例を見ると、野菜及び穀物豆類などの植物性成分に富んで食事を摂取すると、炭水化物発酵が盛んになり、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸産生が増加するという学会での報告がある。一方、肉及び卵などの動物性成分に富む食事をすると、アミノ酸発酵するためにイソ吉草酸及びイソ酪酸が増加するという学会での報告もある。腸内細菌の菌組成は個人差が多く、東洋系と欧米人では異なっており、特に日本人の場合は、遺伝子の水平伝播といって、周辺の海洋にある水性植物である海苔やわかめ等に関わる遺伝子の伝統的食文化に由来している。このように、腸内細菌叢の細菌の種類等の測定は、広くなされている。本発明では、このような学術分野で広く用いられている細菌のゲノム情報を用いることにより、腸内細菌叢の細菌の種類等の測定を行うことができる。
【0070】
また、腸内マイクロバイオータ(細菌集合体の微生物相)はヒトの食生活の変化に対して速く順応するという驚くべき性質がある。腸内細菌は短時間で分裂する。すなわち、30~40分で腸内細菌の数は倍増する。ここで100兆もいる微生物を分類しそれぞれの機能を解析し、それぞれに見合う栄養素を決定することが分子栄養学の核として重要である。腸内細菌叢は、一般的に難培養菌種を多く含んでいる。そのため、腸内細菌叢を調べるための解析法は、腸内細菌叢全体から抽出したメタゲノムのDNA配列をシークエンシングして取得したのち、クラスタリングし、既公開の菌種間で配列相同性が保持されている領域に設定したユニバーサルプライマーセットの16配列と照合し、腸内細菌叢の菌種組成を明らかにすることができる。そこで腸内細菌叢は得られたメタゲノムのDNA配列の70~80%以上がレファレンスゲノムに帰属しており、マイクロバイオータグループ毎の機能に必要な栄養素の特定も可能にしている。
【0071】
本発明において、腸内細菌叢の測定の際に、細菌のゲノム情報を用いる場合には、ゲノム情報として、16SリボゾームRNAを用いることが好ましい。細菌のゲノム情報として16SリボゾームRNAを用いることにより、その菌株が菌叢中に占める割合を反映しているために菌叢の菌種組成を明らかにすることができる。
【0072】
図1に示すように、本発明の装置は、入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定手段を有する。腸内細菌情報記憶部は、記憶部の一部として配置される。
【0073】
また、腸内細菌叢の種類の一例としては、腸内細菌を、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の三種類に種類分けをすることができる。腸内細菌情報記憶部には、各細菌の名称と、その細菌の種類が、腸内細菌、善玉細菌、日和見細菌又は悪玉細菌のいずれであるかを対応付けて記憶することができる。腸内細菌叢の細菌を、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌に分類して、腸内細菌叢の種類を判定することにより、より簡便に、腸内細菌叢の種類を判定することができる。
【0074】
なお、腸内細菌のうち、日和見細菌は、共存するだけの存在なのかを検証すると、先住的に共存し定住するスペースを確保しているために、侵入する病原菌に餌を与えず死滅させて排除させるという重要な役割を果たしており、善玉細菌と同様に、重要な腸内細菌であるといえる。
【0075】
図1に示すように、本発明の装置は、腸内細菌叢の種類に基づいて、餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定手段を有する。
【0076】
腸内細菌情報記憶部は、記憶部の一部として配置される。餌リスト記憶部には、腸内細菌叢の種類と、餌とを関連付けて記憶される。すなわち、腸内細菌情報記憶部には、腸内細菌叢の種類によって、最適な餌が何であるかを検索可能なように、腸内細菌叢の種類及びそれに対応する餌が記憶されている。
【0077】
腸内細菌叢の種類及びそれに対応する餌は、例えば、以下に述べることを考慮して、決めることができる。
【0078】
腸内細菌については、最近になり、50万から100万のメタゲノムのDNA配列で、100兆個に及ぶ大腸内の細菌を分類特定して、腸内細菌叢毎の代謝する栄養素を解析できるようになっている。
【0079】
メタボローム解析技術の急速な進展は、医学・薬学サイドからヒトの腸内細菌の解析が進み、今まで難培養性細菌であるため培養が難しく、腸内にいる数100種類、100兆個の嫌気性菌の実態の解明が進まなかったが、メタゲノムの多配列の相同性の特性を見ると、70~80%以上が、公示されている個別の細菌のゲノムのDNA配列に帰属していることが分かる。これは、便中から採取した微生物の細菌のゲノムのDNA配列をシークエンシングしてクラスタリングすることで、それぞれの腸内フローラの特性を分類化することにより得られる。
【0080】
上述のように、腸内細菌叢を構成する腸内細菌の種類の生態解析では、バクテロイデス門のパクテロイデス属、プレポラ属又はフィルミクス門のルミノコッカス属に分かれ、いずれかが優勢な3つの腸内細菌叢の種類に分類することができる。パクテロイデス属は動物性食事の摂取により増加し、プレポラ属は炭水化物を含む食事の摂取に連動で増減する傾向を知ることができる。したがって、食事に含まれる餌の種類により、腸内細菌の生態を制御することができる。
【0081】
一般に、ヒトなどの宿主に有益な効果を与える生きた微生物(腸内細菌)のことをプロバイオティクスといわれている。また、ヒトなどの宿主に有益な効果を与える生きた微生物(腸内細菌)に対する食品成分のことをプレバイオティクスといわれている。したがって、本発明の餌は、プレバイオティクスと同義であるといえる。プレバイオティクス(腸内細菌に有用な食品成分)は、腸内細菌内の善玉細菌を増やすことを目的としている。プレバイオティクスは食品に含まれる化合物で多数の単糖分子が直鎖的につながった複合炭水化物で食物繊維を分離、精製したものあり、これらの化合物はヒトには吸収・代謝されず大腸に届き、腸内細菌によって発酵、分解され腸内細菌自身の成長と増殖を促すことでヒトの健康に良好な影響を与えている。これら腸内細菌と栄養素との関係を、ヒトの腸内細菌叢(腸内細菌フローラ)の医学と栄養学との研究により、明らかになりつつある。医学・薬学の学界では、難消化性食物繊維が腸内細菌叢で短鎖脂肪酸として代謝され、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを生成し、大腸から吸収された後に血液で全身に輸送されたり、大腸皮質で代謝されるエネルギー源となったり、シグナル伝達分子として、宿主の代謝機能制御に関与している。また、供給される栄養素の違いにより、腸内細菌叢に構造異常が起こることが、多くの疾患の発症に関連しているとの報告が得られている。
【0082】
最近の研究では、腸内細菌叢のマイクロバイオーム解析の結果として、構造異常が多くの疾患に関連することが既に示されている。また、それぞれの腸内細菌属の生態と特性を解析することで、混在する腸内細菌の相互間の、腸内細菌叢の中での役わりが特定されつつある。そのため、それぞれの腸内細菌に合った栄養素を供給することで、正常なバランスの取れた恒常性ある腸内細菌叢の環境を創り出すことができる。有用な腸内細菌も、そうでない腸内細菌も疾患の発症が予防するという観点に立っての腸内細菌の栄養素の研究開発が必要と思われる。また100兆個に及ぶ腸内細菌が、ヒトなどの宿主にとって善玉細菌、日和見細菌、悪玉細菌に想定して分類されているが、それぞれがバランスを取りながら共生し相関しているのを見ると、一概にその分類が正しいとはいえず、さまざまな微生物間の情報の交換での対応を解析してみる必要がある。例えば、あまり役に立たないと思われている日和見細菌は、腸内の物理的空間と貴重な資源を占有することで、病原体が増殖するためのエネルギーと空間を与えず、他の免疫系のマイクロバイオータに働きかけ死滅させるという働きかけも解析によって明らかにされつつある。
【0083】
健常者と比較した腸内細菌叢の構造異常が、多くの疾患と関連することが報告されている。有用菌だけを特定するのではなく、共生のバランスを取っている腸内細菌叢の機構性を検討し、腸内細菌の生存の環境を整えることで、免疫機能を改善することができる。腸内細菌の代謝による短鎖脂肪酸の産生による酢酸、プロピオン酸、酪酸などの生理活性についての生化学研究を基にして、機能性食品関連の開発が進められている。微生物製剤プロバイオティクスや既存の関連研究を調査し、腸内細菌の代謝による短鎖脂肪酸産生による酢酸、プロピオン酸、酪酸などの生理活性についての研究を基にして、メタゲノムのDNA配列を解析し、シークエンシングで配列データを取得して、クラスタリングして腸内細菌などの特性と栄養素との関連を検討する必要がある。
【0084】
ヒトはエネルギーと栄養分を米やパンなどの有機物を食べて獲得している。その残滓が微生物の餌となるが菌の種類によってさまざまである。最終的には有機素材から創られるエネルギーと栄養分習得は、微生物からヒトに至るまでの全生物のほとんどが共通であり、その生存のためのメカニズムは自然界で共通である。ヒトと腸内常在細菌の共存関係を見ると、腸内細菌の代謝物で生き、その構造異常は病気発症に関与し、それを予防するために恒常性の中で免疫機能を高めている。ヒトも細菌も相互にバランスを取り適合する共存関係が保たれている。通常の栄養素が腸内細菌に及ぼす傾向についてみてみると、腸内細菌の代謝による食物中の短鎖脂肪酸は生理活性化効果を多大の影響力をもつが、一般的な食素材の中には、膨大な種類の分子の中で菌が代謝した中には有毒なものもあり、産出分子の中には血液の流れに乗って臓器に影響するものもある。赤い肉などの脂肪分の多いカルニチンを含む食物は心臓病のリスク因子になるし、他に腎臓病に影響を与える物質も産生することもある。人体と特定の腸内細菌の複雑な関係も見られ、大腸の表皮で免疫に関与する腸内細菌のムチン層に共存する腸内細菌も特定されている。通常はムチンと共存関係にある腸内細菌が飢餓状態になると、ムチンそのものを餌として侵食するため、皮膜の厚みが削減され、免疫力が低下し、疾患の発症を引き起こすといわれている。その中で短鎖脂肪酸産生による酢酸、プロピオン酸、酪酸などの宿主の生理活性についての分子生物学的研究を基にした機能性食品関連の開発が進められつつある。
【0085】
本発明は、われわれ人類が「内なる味方」である腸内細菌を理解し、これを利用すれば、今までにない体質改善、疾患予防のメソッドになる可能性がある。われわれの摂る栄養は腸内細菌の栄養素(餌)にもなる。有益な細菌を腸内に定住させるには、どのような栄養素が必要かを考える必要がある。従来の食事の摂取法とは異なり、ヒトが腸内細菌代謝活動を介してエネルギー源だけでなく、シグナル伝達分子として摂取しているという現実がある。生体内での代謝機能制御やエネルギー代謝は細胞間ではどのような現象を起こすのかという、体内で刻々と変化する物質代謝の流れを把握することができる。この点について、生化学において、栄養素と遺伝子発現というメタゲノム分野の研究が著しく進歩し多因子疾患の解明が進んでいる。そのため、病気発症の原因が、個人の遺伝子的によるものであるか、あるいは栄養代謝に深く関与しているのかも明らかになってきている。そのため、疾患予防のためには、基礎栄養学に加え、分子生物学や生化学を基盤にした分子栄養学の導入は必須である。
【0086】
腸内細菌がゲノムの中に保有している必須遺伝子16SリボゾームRNAの配列を基として、細菌種間での遺伝子配列の相同性が保持されている。そのため、腸内細菌叢の数千から1万程度ある検体の腸内細菌のDNA配列を、シークエンシングして各配列の相同性に基づきクラスタリングすることで、腸内細菌叢のもつ機能を判別することができる。医療サイドからは、宿主に対しての有用度から判断して善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌などに分類している。一方、メタゲノムのDNAで解析することにより、クラスタリングされた腸内細菌叢のもつ機能性を解析し、腸内細菌の生態を見ると、腸内細菌は長期にわたって腸内での一定のバランスの上に立って共存し恒常性を維持していることが理解できる。その腸内細菌叢の構造異常が起こると疾患を発症する。そのため、腸内細菌に対して、必要な栄養素を特定栄養素材として供与できるようにすることが重要である。
【0087】
以上述べたことを考慮に入れることにより、腸内細菌叢の種類及びそれに対応する餌を決めることができる。その情報を餌リスト記憶部に記憶する。その結果、本発明の装置では、腸内細菌叢の種類に基づいて、餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定することができる。
【0088】
図1に示すように、腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示するための餌表示手段を有する。
【0089】
上述の餌特定手段により特定された餌を、餌表示手段により表示することができる。餌表示手段に表示された餌に基づいて、例えば病者に対して適切な病者用食事のメニューを決定する人、例えば管理栄養士は、餌が含まれる食品を選択することができる。また、餌表示手段では、その表示内容を適宜選択することができる。すなわち、上記餌特定手段によって特定された餌のみを表示することもできるし、特定された餌が含まれる食品を表示することもできる。また、必要に応じて、餌又は食品の必要量を表示することもできる。また、特定された餌又はそれを含む食品と、病者に処方された処方薬品とが配合禁忌であるかどうかを判定することができる場合には、その判定結果を表示することができる。
【0090】
なお、餌表示手段としては、ディスプレイ、印刷装置、音声出力装置及びローカルネットワークやインターネット等の通信回線による外部への出力等、公知の表示手段を用いることができる。
【0091】
図2に示すように、本発明の装置は、細菌菌叢の菌種の組成に連動する疾病発症判断手段(図示せず)、再測定結果入力手段、餌供給効果判断手段及び餌の供給効果記憶手段を更に有することが好ましい。
【0092】
今迄は腸内細菌と病気との関係は、消化器系の疾患例えば炎症性腸疾患や大腸がんなどが腸内細菌叢と関係すると考えられていたが、今日では肥満や糖尿病などの代謝系やアレルギーや喘息などの免疫系、多発性硬化症や自閉症などの神経系、さらには肝硬変や肝臓がんなど、その影響は遠隔臓器や組織の全身に及ぶことが明かになっている。腸内細菌の変容は、疾患患者群と健常者群の腸内細菌叢の比較解析としてUniFrac解析という細菌叢の変容を評価する解析法や細菌数の違いも変容を評価する方法もある。多くの疾患では菌種数が健常者よりも有意に少なくなり多様性が減少しており、細菌数の変容は疾患による結果であり、原因でもある。
【0093】
本発明の装置は、これらの情報についての再測定をするための再測定結果入力手段を有することが好ましい。本発明の装置が再測定結果入力手段を有することにより、腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を入力することができる。再測定結果を入力するための入力手段としては、上述の腸内細菌叢測定結果入力手段に用いることのできる入力手段と同様の、具体的な入力手段を用いることができる。
【0094】
本発明の装置は、餌供給効果判断手段を有することが好ましい。本発明の装置は、餌供給効果判断手段を有することにより、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断することができる。
【0095】
本発明の装置は、餌の供給効果記憶手段を有することが好ましい。本発明の装置は、餌の供給効果記憶手段により、腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶することができる。その結果、所定の腸内細菌叢の種類に対して、所定の餌の供給による効果があったかどうかを、餌リスト記憶部にフィードバックして記憶させることができる。この結果、餌の選択の精度を向上させることができる。
【0096】
次に、
図3及び
図4を用いて、本発明のプログラムについて説明する。
【0097】
本発明は、腸内細菌叢の細菌に対する餌を情報処理装置により選択するためのプログラムである。情報処理装置としては、上述の本発明の装置を用いることができる。本発明のプログラムにより、医療行為を補完する食品供給のために用いることができる、食品(餌)の選択を可能にすることができる。
【0098】
本発明のプログラムが用いられる情報処理装置は、入力部と、表示部と、演算部と、腸内細菌情報記憶部と、腸内細菌叢の種類及び餌とを関連付けて記憶するための餌リスト記憶部とを含む。入力部、表示部、演算部及び記憶部については、具体的には、上記の説明のように、所定の装置等を用いることができる。
【0099】
図3に示すように、本発明のプログラムは、プログラムが情報処理装置の演算部に対して、以下に述べる所定の処理を実行させる。
【0100】
本発明のプログラムは、腸内細菌叢の測定結果に基づいて得られた腸内細菌叢の細菌の種類及び量を入力部から入力するための腸内細菌叢測定結果入力処理を実行する。
【0101】
腸内細菌叢の測定方法及び測定結果の入力方法については、本発明の装置の腸内細菌叢測定結果入力手段についての説明と同様である。すなわち、本発明のプログラムは、腸内細菌叢の細菌の種類、及び組成の変化量の測定結果が、細菌のゲノム情報を用いる測定結果、又は腸内細菌の代謝産物の測定に基づく測定結果であることが好ましい。また、本発明のプログラムは、細菌のゲノム情報が、16SリボゾームRNAであることが好ましい。
【0102】
図3に示すように、本発明のプログラムは、入力された腸内細菌叢の細菌の種類及び量に基づいて、腸内細菌情報記憶部を検索して、腸内細菌叢の種類を判定するための腸内細菌叢判定処理を実行する。
【0103】
腸内細菌叢の測定方法及び測定結果の入力方法については、本発明の装置の腸内細菌叢測定結果入力手段についての説明と同様である。
【0104】
本発明のプログラムは、腸内細菌叢の種類の判定が、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌の少なくとも1つの種類及び割合を特定することにより、腸内細菌叢の種類を判定することを含むことが好ましい。本発明のプログラムによれば、腸内細菌叢の細菌を、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌に分類して、腸内細菌叢の種類を判定することにより、より簡便に、腸内細菌叢の種類を判定することができる。
【0105】
図3に示すように、本発明のプログラムは、腸内細菌叢の種類に基づいて、餌リスト記憶部を検索して、腸内細菌叢の細菌のための餌を特定するための餌特定処理を実行する。
【0106】
腸内細菌情報記憶部については、本発明の装置の餌特定手段についての説明と同様である。同様に、腸内細菌叢の種類及びそれに対応する餌についても、本発明の装置の餌特定手段についての説明と同様である。
【0107】
図3に示すように、本発明のプログラムは、腸内細菌叢の細菌のための特定された餌を表示部に表示するための餌表示処理を実行する。餌表示処理を実行することにより、表示部に特定された餌を表示することができる。
【0108】
表示部に表示する情報、及び表示部の具体例としては、本発明の装置の餌表示手段についての説明と同様である。
【0109】
図4に示すように、本発明のプログラムは、情報処理装置の演算部に対して、更に、再測定結果入力処理、再測定結果入力処理及び餌の供給効果記憶処理を実行することが好ましい。
【0110】
図4に示すように、本発明のプログラムは、腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び組成の変化の再測定結果を、入力部から入力するための再測定結果入力処理を実行することが好ましい。本発明のプログラムが再測定結果入力処理を実行することにより、腸内細菌叢に対して特定された餌を供給した後に、腸内細菌叢を再測定することによって得られた、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の再測定結果を入力することができる。再測定結果を入力するための入力手段としては、本発明の装置の腸内細菌叢測定結果入力手段に用いることのできる入力手段と同様の、具体的な入力手段を用いることができる。
【0111】
図4に示すように、本発明のプログラムは、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断するための餌供給効果判断処理を実行することが好ましい。本発明のプログラムは、餌供給効果判断処理を実行することにより、腸内細菌叢の細菌の種類及び量の測定結果及び再測定結果に基づいて、腸内細菌叢の細菌に対する餌の供給の効果の有無を判断することができる。
【0112】
図4に示すように、本発明のプログラムは、腸内細菌叢の所定の種類の細菌に対する特定された餌の供給の効果の有無を、餌リスト記憶部に記憶するための、餌の供給効果記憶処理を実行することが好ましい。本発明のプログラムによって、餌の供給効果記憶処理を実行させることにより、餌リスト記憶部に対して、所定の腸内細菌叢に対して、所定の餌の供給による効果があったかどうかをフィードバックして記憶させることができる。この結果、餌の選択の精度を向上させることができる。
【0113】
本発明の装置及びプログラムは、管理栄養士が、病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するために用いることができる。本発明によれば、管理栄養士が、腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす餌を選択して、その餌を病者用食事に配合又は添加することにより、病者の腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす餌を供給することができる。
【0114】
本発明者らは、食材で薬事法に適合する治療を補完するための病者用食事の在り方の新しいカテゴリーのジャンルを創設できるかを検討し、本発明に至った。
【0115】
従来、宿主であるヒトなどの動物と共存する腸内細菌を如何にサポートする環境を造り、有用菌を特定して増殖して供給することなどが研究開発されている。在宅医療の欠落部分として、通院・在宅患者対象の病者用食事の栄養処方を挙げることができる。本発明では、在宅医療を補完する通院・在宅患者対象の病者用食事の栄養処方について、単なる病者用食事による健康増進・健康管理ではなく、腸内細菌を介しての栄養供給をすることに特徴がある。腸内細菌叢に対して、特定の栄養素(腸内細菌に対する餌)を供給することで、宿主の臓器や組織を正常に機能させ、生存することができるので、宿主の疾病の発症を予防し、健康を増進することができる。そのために、メタゲノムのDNA配列を解析し、シークエンシングしてクラスタリングし、腸内細菌が分別され特定された腸内細菌叢に対して、必要な栄養素(腸内細菌に対する餌)を供給する。例えば、栄養素(餌)としては、例えば、難消化性食物のように胃や小腸に消化されず大腸まで届く、抽出選別された栄養化合物であることができる。このような栄養化合物を製造し、栄養素(餌)を部品化(パーツ化)を進めることにより、供給を容易にすることができる。
【0116】
本発明の実施態様の一つとして、個々の分別された腸内細菌叢に対して、栄養素(餌)をどのような形で供給され代謝されて、人体にどのような効果をもたらすのかを検証のうえ、部品化(パーツ化)することができる。栄養素(餌)の供給を在宅医療の補完をするための病者用食事として、地域医療の中で医師の信任を得て、生かすことができるかが重大な課題である。ただし、宿主に対しての有用度から判断して、善玉細菌、日和見細菌及び悪玉細菌などに分類するだけでなく、日和見細菌は共存するだけの存在なのかを検証すると、先住的に共存し定住するスペースを確保しているために、侵入する病原菌に餌を与えず死滅させて排除させるという重要な役割を果たしていると考えられる。そのため、本発明では、善玉細菌だけに栄養素(餌)を供給すれば良いというわけではなく、日和見細菌も含め、腸内細菌叢全体のために、腸内細菌の生存のための栄養化合物を供給する必要がある。そのため、腸内細菌叢の機能を解析する必要がある。これらのことからも、管理栄養士が関与する特定範囲までの疾患、病態に対しての分子生物学や生化学を基礎にした分子栄養学を、管理栄養士に取得研修するプログラム(ソフトウェア)を提供することにより、在宅医療の欠落部門を補完する確保することできる。このような目的のために、本発明の装置及びプログラムは、管理栄養士が、病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するために用いることができる。
【0117】
治療補完用の病者用食事に添加する腸内細菌別栄養素(餌)を決定するためには、疾患発症のメカニズムを理解し、遺伝子、タンパク質分子、化学反応、代謝の流れなどでの腸内細菌の免疫性異常がどのような段階で起こり疾患が生じるのか、またその治療にはどのような対処方法があるかを検索できる必要がある。また、腸内細菌叢が示すマイクロバイオータ(微生物相)が免疫系をどのように支配し、中心的な役割を果たしているのか、恒常性の変化が健康と疾患にどのように関わっているか知ることが重要である。腸内細菌叢に対して、適切な栄養素(餌)を供給することにより、遺伝子や生化学の反応レベルで生活習慣病のような病気の発症を、薬以外で抑え、予防することができる。腸内細菌叢に対する栄養素(餌)は、通常の食品に含まれる化合物であり、例えば、多数の単糖分子が直鎖的につながった複合炭水化物の食物繊維であることができる。食物繊維を分離、精製することで、腸内細菌叢に対する栄養素(餌)である化合物を得ることができる。
【0118】
糖尿病、肥満、動脈硬化、がんなどの疾患発症を、遺伝子レベルでの生化学や分子栄養学の導入により、理解することが必要である。そのため、分子栄養学とあまり関係のない医師にも、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するための情報検索は必要である。また、管理栄養士も、腸内細菌叢に対する栄養素(餌)の供給のために、メタボローム解析の技術情報を取得する必要がある。本発明の装置及びプログラムは、実際の栄養指導に取り入れられる食品の選択の際に、食品に添加する腸内細菌最適栄養素(餌)の化合物を判定して選定することができる。
【0119】
医療では、既にDNA、RNSなど分子生物学、分子化学などが既に医療の中に取り入れられている。それらをベースにした医師が出すプロトコールを理解するために、実際に現場で実践する管理栄養士は、今までとは異質の学問及び理論を容易に理解できるような装置及びプログラムが求められる。通常、栄養学的には口腔で食物を取り、栄養素が消化器で直接吸収されてエネルギーとなり、生物として活動している。一方、ヒトは眠っているだけでも、体の維持するためにエネルギーを消費している。これと同じように腸内細菌も、たとえ成長しなくても体を維持するために、周辺の貯蔵物質を使って基礎代謝に必要なエネルギーを獲得し、代謝し、必須栄養素を希求している。腸内細菌のエネルギー取得については、今まで栄養学では取り組んでいなかった分子生物学の分野にも踏み込む必要がある。
【0120】
ヒトが栄養素を摂取するときの、体内で刻々と変化する物質代謝の流れは、今までの栄養学の範疇を越え、分子生物学、生化学及び基礎栄養学をベースがないと理解ができない。一方で近年、栄養素と遺伝子発現という分野の研究が著しく進歩し、個人の遺伝子的な違いが、栄養代謝に深く関与していることが明らかになってきた。在宅医療における治療補完の病者用食事の問題では、従来の基礎栄養学に加えて、分子生物学及び生化学を基にした分子栄養学の導入することが必須となる。そのためには、腸内細菌叢の構造異常が疾患の発症に関連することの理解が必要である。また、遺伝子、タンパク質分子、化学反応、代謝の流れなどの異常がどのような段階で生じ、またその治療にはどのような対処方法が可能か、遺伝子や生化学の反応レベルで理解する必要がある。更に病気の発症を抑える場合に、分子栄養学の立場から医学と同一基礎理論の上に立って見るためには、生化学や栄養学の知識が重要となる。これらの栄養素代謝における分子栄養学は、生成される化合物を遺伝子レベルで理解するうえで欠かせない情報であり、医師、管理栄養士をはじめ医療関係者共有し解読できるプロクラムと装置の導入が必須である。
【0121】
ヒトは有機物である食品の成分である炭素骨格を、いったん糖やアミノ酸に消化したうえで利用していが、微生物は有機素材を代謝し、炭素骨格を作り、これを水素、酸素、窒素及びリンなどと結合したり組み替えたりして、糖、アミノ酸、脂肪、ビタミンなどを作っているという学会報告もある。更に、必須微量元素も過剰摂取の危険を少なくするためにも、自然の植物代謝及び海洋細菌によって有機化されたものを選択し供給することが望ましい。一方、腸内細菌は、難消化性食物繊維も発酵の過程で代謝し、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを生成している。また、乳酸菌が発酵する場合、アミノ酸や同系異菌種によってはグルタミン酸の要求性を示していることが確認されており、腸内細菌の種類により異なった栄養素が要求されるという報告もある。すなわち、ヒトも腸内細菌も、生存のための機構としては、おしなべて同じである。
【0122】
腸内細菌叢についての分野では、メタゲノム解析の技術の進歩があり、腸内細菌の働きが明らかになりつつある。従来の栄養学では、難消化性食物繊維が整腸剤としか認めていなかった。近年、難消化性食物繊維が、大腸における腸内細菌に供与され、発酵され、代謝物が産生されていて、酢酸、プロピオン酸、酪酸となどの分子が生成されることが明らかになってきた。また、これらの代謝物が大腸に吸収されることにより、宿主のエネルギー源になったり、シグナル伝達分子として宿主の代謝機能の制御に関与するという基本現象が解明されてきた。腸内細菌叢マイクロバイオータが正常であることにより、健常人の態勢を維持することできる。また、腸内細菌叢の構造異常が起こると、疾患の発症が起こる。これを、疾患の発症を予防するための医療補完という業務として、医学的にもこれから解明すべき課題として認知されつつある。医師と管理栄養士間のコミュニケーションをするための翻訳プログラムを用いることにより、医師と管理栄養士が在宅医療に共同で取り組むべきとの認識がある。
【0123】
本発明における「餌」は、通常、食品に含まれる多数の単糖分子が直鎖的につながった複合炭水化物の腸内細菌の代謝のために必要となる化合物であり、従来の健康食品や機能性食品とは異なる。本発明における「餌」は、薬事法、健康増進法の規制に抵触しないジャンルであり、しかも薬とは異なり、すべて植物由来の有機物を使用する。また、本発明に必要なことは、病者用食事を補完する腸内細菌の栄養素のエビデンスを証明するためのメタゲノム解析理論であり、その理論でバックアップされた化合物として、標的腸内細菌叢が代謝する分子が疾病発症に関わる情報を索引することができる。これらの情報が適宜牽引できる分子栄養学システムを造ることにより、医学とは異なる業務に従事している管理栄養士が、これら一連の情報を、本発明の装置及びプログラムを用いることにより、在宅医療の治療補完のために認識することができる。本発明の装置及びプログラムでは、基礎栄養学と、分子生物学及び生化学とを融合させ、病気の発症・重症化予防に資する腸内細菌対応の餌になる複合炭水化物の化合物を、対象腸内細菌叢毎に決定することができる。
【0124】
本発明の装置及びプログラムを用いることにより、医療現場における分子栄養学導入により、食品に含まれる化合物で多数の単糖分子が直鎖的につながった複合炭水化物の含有している食物が、医療の補完として位置付けることができる。これらを在宅医療の現場で生かすためには、医師のプロトコールを管理栄養士に翻訳する共通の言語の必要性は、既に特許文献2及び3で述べた。今までの栄養素に関するメタボローム解析情報は、医師の診断にも必要であり、分子栄養学的の関連情報を、IoTやAIによって相互に必要に応じ検索収得できる装置とプログラムが必要である。更に、本発明の装置及びプログラムを用いることにより、給食係者にも指導連携できるシステムを構築することもできる。本発明により、医療行為の一環として、法律的な適合性があり、医療界における科学的検証に基づくエビデンスの確立したITプログラムを執行するシステムと装置を提供することができる。
【0125】
次に、現在、在宅療養食(病者用食事)が置かれている現状について説明し、適切な病者用食事を病者に提供するために、管理栄養士の役割は重要であることを説明する。
【0126】
現在、農水省、消費者庁で進められている病者のための病者用食事は、在宅における食機能が低下した高齢者の介護食のみが対象であり、病院から早期退院を求められた大半の疾病治療者(患者)、及び薬剤を医師の指示で服用している高齢者の疾病に対する病者用食事は対象にされていない。また、食品に対して、疾病に効果の機能性を表示し販売することを禁止されている。一方、病院サイドが病院給食の延長で在宅療養食(病者用食事)を供給する体制は整備されておらず、このままでは、退院後の高齢者やクリニックで投薬されている高齢者は、安心して療養生活が送れない状態が続いている。
【0127】
少しでも健康で長生きさせることは、国の目標であり、医療費の高騰を少しでも軽減できるにもかかわらず、疾病の悪化を座視しながら、病者用食事で高齢者の健康を回復させ健康体にして、医療費の削減に寄与させることもできないでいる。確かにこの分野については、一般食品業界の過剰広告を見ても、薬との配合禁忌の立場から医療が関与すべきであるという政策も、理解はできる。であるならば、早急に医療の機能を活用しながら、在宅での病者用食事の供給環境を整備する必要がある。
【0128】
高齢者が自宅において安心して療養生活を送れるためには、見守りと食事(病者用食事)が供給されていることが必要であるが、それに加え、医師がいないと不安であることも事実である。地域医療には地域病院として介護、療養には従来の病院と異なった仕組みが必要であると指摘され、新たな地域病院のあり方が論議されている。しかし、現在大半の病院で行われている施術後の病者用食事では、医師の指示が管理栄養士にクリティカルパスで伝えられた概略の症状に合わせた集団給食的レシピーが作成されているにすぎない。病者である患者個々の病状に合わせた調理が行われないまま、病者用食事が患者のもとに届けられているのが現状である。更に、その延長線上で適切な在宅給食体制が取れるかというと、それは不可能に近い。
【0129】
薬を服用している多くの在宅患者が、症状改善ための病者用食事を受けられるには、管理栄養士の協力体制を整備する必要がある。病院の内外を問わず、医師の診断内容が、在宅患者の近くにいる管理栄養士を通して、病者用食事の調理関係者に伝わることが望ましい。しかし、医師の診断内容に関する情報は患者のプライバシーに関わり、外部に漏洩させることは厳に慎む必要がある。とすれば、医療の外郭ではあるが、管理栄養士は、国家資格を有し、守秘義務に関する理解もあるので、管理栄養士に最前線で病者用食事の指導を当たらせることが望ましい。
【0130】
先述の通り、医師及び管理栄養士では、よって立つ学問が異なるため、従来から意思の疎通ができていない。そのため、ここで共通の情報伝達方法を同定し、伝達する手段を確立する必要がある。医師と管理栄養士は、患者の療養という共通の目的をもつ。
【0131】
例えば、栄養素のミネラル(微量元素)は、栄養学として地位が既に確立されている。老化によって起こる動脈硬化、糖尿病、消化器疾患、慢性疾患、アルコール依存症などの生活習慣病等の発症は、ビタミン及びミネラルの不足、又は両者のバランスを崩すことに関連していることを、管理栄養士は十分理解している。
【0132】
以上述べたように、適切な病者用食事を病者に提供するために、管理栄養士の役割は重要である。本発明の装置及びプログラムは、管理栄養士が、病者用食事に配合又は添加するための、腸内細菌叢の細菌に対する餌を選択するために用いることができる。管理栄養士は、腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす餌を選択して、その餌を病者用食事に配合又は添加することにより、病者の腸内細菌叢の細菌に対して好影響を及ぼす餌を供給することができる。