(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】シミュレータ、シミュレーションシステム、生成プログラム、及び生成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20231109BHJP
A61M 5/142 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
A61B6/03 330Z
A61B6/03 375
A61M5/142 530
(21)【出願番号】P 2019166295
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【氏名又は名称】内田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】増田 和正
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0013280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
5/055
8/00 - 8/15
A61M 3/00 - 9/00
31/00
39/00 -39/28
G06T 1/00 - 1/40
3/00 - 7/90
11/60 -13/80
17/05
19/00 -19/20
G06V 10/00 -20/90
30/418
40/16
40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成する予測部と、
目標画素値を取得する目標値取得部と、
前記組織の当初画素値を取得する組織情報取得部と、
前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成する判定部とを備え、
前記評価処理において、前記判定部は、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、シミュレータ。
【請求項2】
前記第1角度が上限角度以上である場合、前記判定部は、注入速度を低減するように前記第1フェーズに用いられる第1注入プロトコルを調整する、請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
前記第1角度が上限角度以上である場合、前記判定部は、注入速度を低減するように前記第1フェーズに用いられる第1注入プロトコルを調整し、
前記第1角度が上限角度未満である場合、前記判定部は、前記第1角度が下限角度未満であるか否かを判定し、前記第1角度が前記下限角度未満である場合は、注入速度を増加するように前記第1注入プロトコルを調整する、請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項4】
前記判定部は、前記時間強調曲線におけるピーク画素値が前記目標画素値を超える部分が、前記目標画素値を基準として所定の範囲内であるか否かを判定し、
前記超える部分が所定の範囲内ではない場合、前記判定部は、前記超える部分が所定の範囲内に含まれるように画素値調整処理を行う、請求項1から3のいずれか一項に記載のシミュレータ。
【請求項5】
前記目標値取得部は、目標維持時間をさらに取得し、
前記判定部は、前記予測画素値が前記時間強調曲線におけるピーク画素値に達した後に前記目標画素値に達する第4時点から前記第2時点を減じて予測維持時間を算出し、前記予測維持時間が前記目標維持時間を基準として所定の範囲内であるか否かを判定し、
前記予測維持時間が所定の範囲内ではない場合、前記判定部は、前記予測維持時間が所定の範囲内に含まれるように時間調整処理を行う、請求項1から4のいずれか一項に記載のシミュレータ。
【請求項6】
前記判定部は、前記予測維持時間が所定の範囲内である場合、前記予測画素値が前記ピーク画素値に達する第3時点から前記第2時点を減じて前半維持時間を算出するとともに、前記第4時点から前記第3時点を減じて後半維持時間を算出し、前記前半維持時間と前記後半維持時間とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定し、
前記判定部は、前記前半維持時間と前記後半維持時間との少なくとも一方が所定の基準内ではない場合、前記第2フェーズに用いられる第2注入プロトコルを調整する、請求項5に記載のシミュレータ。
【請求項7】
前記時間調整処理において、前記判定部は、前記ピーク画素値から前記目標画素値を減じて得た第2辺から正規化した第2辺を算出し、前記第3時点から前記第2時点を減じて得た第2底辺から正規化した第2底辺を算出するとともに、前記正規化した第2辺と前記正規化した第2底辺とを含む第2三角形における正規化した第2斜辺と前記正規化した第2底辺とがなす第2角度を算出して、前記第2角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、請求項6に記載のシミュレータ。
【請求項8】
前記判定部は、前記第2角度が所定角度より小さい場合、合計注入量を減らすように前記第2注入プロトコルを調整し、前記第2角度が前記所定角度より大きい場合、注入時間を長くするように前記第2注入プロトコルを調整する、請求項7に記載のシミュレータ。
【請求項9】
造影剤を注入する注入ヘッドと、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシミュレータとを備える、シミュレーションシステム。
【請求項10】
被写体を撮像する撮像装置と、
請求項1から8のいずれか一項に記載のシミュレータとを備える、シミュレーションシステム。
【請求項11】
薬液の予測注入プロトコルを生成する生成プログラムであって、コンピュータを、
第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、
前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成する予測部と、
目標画素値を取得する目標値取得部と、
前記組織の当初画素値を取得する組織情報取得部と、
前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成する判定部として機能させ、
前記評価処理において、前記判定部は、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、生成プログラム。
【請求項12】
薬液の予測注入プロトコルの生成方法であって、
第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得し、
前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成し、
目標画素値を取得し、
前記組織の当初画素値を取得し、
前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成し、
前記評価処理において前記時間強調曲線を評価する際には、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の注入フェーズを含む注入プロトコルを用いて予測注入プロトコルを生成するシミュレーションするシミュレータ、シミュレーションシステム、生成プログラム、及び生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、注入プロトコル及び造影剤量に基づいて、被写体の組織の画素値の経時変化をシミュレーションして、予測維持時間を求める予測部を備えたシミュレータが記載されている。この予測部は、予測維持時間が目標画素値の目標維持時間より短い場合には、シミュレーションで使用した使用造影剤量よりも多量の造影剤を注入する場合の経時変化を再シミュレーションして、予測維持時間を再度求めている。また、予測部は、予測維持時間が目標維持時間より長い場合には、使用造影剤量よりも少量の造影剤を注入する場合の経時変化を再シミュレーションして、予測維持時間を再度求めている。
【0003】
特許文献2の
図3には、複数の注入フェーズとして二つの注入フェーズを含む注入プロトコルが開示されている。この注入プロトコルでは、所定の時間が経過するまでの間は、造影剤の注入速度が一定である。そして、所定の時間が経過した後は、造影剤の注入速度が時間の経過に伴って減少している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-013296号公報
【文献】特許第5117376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシミュレータにおいては、目標画素値に達しかつ目標維持時間を満たす注入プロトコルを得るために、注入速度と注入量を調整した再シミュレーションが多数行われる。そのため、シミュレーションに長時間を要することになり、実用的な時間(例えば数秒)で注入プロトコルを得ることは困難である。特に、特許文献2に記載のような複数の注入フェーズを含む注入プロトコルが用いられる場合には、シミュレーションに要する時間がより長くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るシミュレータは、第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成する予測部と、目標画素値を取得する目標値取得部と、前記組織の当初画素値を取得する組織情報取得部と、前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成する判定部とを備え、前記判定部は、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一態様に係るシミュレーションシステムは、造影剤を注入する注入ヘッドと、上記シミュレータとを備える、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係るシミュレーションシステムは、被写体を撮像する撮像装置と、上記シミュレータとを備える、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る生成プログラムは、薬液の予測注入プロトコルを生成する生成プログラムであって、コンピュータを、第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部と、前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成する予測部と、目標画素値を取得する目標値取得部と、前記組織の当初画素値を取得する組織情報取得部と、前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成する判定部として機能させ、前記判定部は、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る生成方法は、薬液の予測注入プロトコルの生成方法であって、第1フェーズと、前記第1フェーズに続く第2フェーズとを含む薬液の注入プロトコルを取得し、前記注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、前記経時変化を示す時間強調曲線を作成し、目標画素値を取得し、前記組織の当初画素値を取得し、前記時間強調曲線の評価処理を行い、前記評価処理の結果に応じて前記注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成し、前記時間強調曲線を評価する際には、前記目標画素値から前記当初画素値を減じて得た第1辺から正規化した第1辺を算出し、かつシミュレーションされた予測画素値が前記目標画素値に達する第2時点から前記予測画素値が前記当初画素値を超える第1時点を減じて得た第1底辺から正規化した第1底辺を算出するとともに、前記正規化した第1辺と前記正規化した第1底辺とを含む第1三角形における正規化した第1斜辺と前記正規化した第1底辺とがなす第1角度を算出して、前記第1角度が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによって前記時間強調曲線を評価する、ことを特徴とする。
【0011】
これにより、シミュレーションの回数を削減して、予測注入プロトコルの生成時間を短縮できる。
【0012】
本発明のさらなる特徴は、添付図面を参照して例示的に示した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図9】シミュレーションシステムの概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態において説明する寸法、材料、形状及び構成要素の相対的な位置は任意に設定でき、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施形態に限定されない。
【0015】
特に言及した場合を除き、造影剤という用語は、造影剤単体と、造影剤に加えて他の溶媒及び添加物を含む薬液との両方を含む。また、以下では、特に言及した場合を除き、画素値という用語には、造影されている撮像部位における、CT値、関心領域(ROI)に含まれる画素のCT値の和若しくは平均値、又は関心領域のSD値(標準偏差値)が含まれる。さらに、画素値は、これらの値から造影されていない撮像部位における値(例えば、単純CTにおける撮像部位のCT値)を減算して得られた値を含む。関心領域は予め設定されているか、又はユーザが関心領域を選択することができる。
【0016】
図1に示すように、被写体の組織における画素値の経時変化を予測するシミュレータ20は、被写体である被験者に関する被写体情報を取得する被写体情報取得部11を備えている。この被写体情報は、例えば、体重当たりヨード量、性別、体重、身長、体表面積、心機能、心拍数、一回拍出量、心拍出量、ヘモグロビン量、推定糸球体濾過量(eGFR)、クレアチニン値、年齢、除脂肪体重、ボディマス指数、循環血液量、被験者番号(被験者ID)、被験者の疾病及び副作用の履歴、被験者氏名、生年月日、血液量、及び血流速度を含んでいる。
【0017】
被写体情報取得部11は、シミュレータ20に対する入力部又は操作部として機能するタッチパネル26を介して、ユーザが入力した被写体情報を取得する。また、被写体情報取得部11は、シミュレータ20の記憶部24又は外部記憶装置であるサーバSから被写体情報を取得してもよい。この場合、シミュレータ20とサーバSとは、全体としてシミュレーションシステムとして機能する。このサーバSとしては、例えば、RIS(Radiology Information System)、PACS(Picture Archiving and Communication System)、HIS(Hospital Information System)、検像システム、及び画像作成用ワークステーションがある。さらに、被写体情報取得部11は、後述する撮像装置3又は注入装置2(
図9)から被写体情報を取得してもよい。
【0018】
サーバSは、複数のコンピュータとしてのサーバユニットが組み合わされることにより一台の論理的なサーバSとして構成されている。ただし、単一のサーバユニットによりサーバSが構成されてもよい。あるいは、クラウドコンピューティングを利用して論理的にサーバSが構成されてもよい。また、サーバSは、所定のプログラムに従って各種の演算処理及び動作制御を実行するプロセッサと、プロセッサの動作に必要な内部メモリと、その他の周辺装置とを組み合わせたコンピュータとして構成されている。
【0019】
また、シミュレータ20は、複数のフェーズを含む造影剤の注入プロトコルを取得するプロトコル取得部12を備える。一例として、プロトコル取得部12は、注入装置2から取得した薬液情報等に基づいて生成することによって、標準注入プロトコルを取得する。また、プロトコル取得部12は、シミュレータ20を介してユーザが入力した注入プロトコルを取得してもよい。また、プロトコル取得部12は、記憶部24、サーバS又は注入装置2から注入プロトコルを取得してもよい。注入プロトコルは、一例として、薬液の注入時間及び注入速度を含んでおり、第1フェーズと、第1フェーズに続く第2フェーズとを含んでいる。また、複数の注入フェーズは、三つ以上のフェーズであってもよい。なお、以下では二つの注入フェーズを含む注入プロトコルを用いる場合について説明する。
【0020】
注入プロトコルは、各フェーズにおける注入速度の上限速度及び注入量の下限量を、さらに含んでいる。また、注入プロトコルは、注入方法、造影剤注入箇所、注入量、注入タイミング、造影剤濃度、注入圧力、及び注入速度の加速度を含んでいてもよい。さらに、注入プロトコルは、造影剤の注入時間及び注入速度、生理食塩水の注入時間及び注入速度、造影剤の後押し注入の有無、注入速度の増減、クロス注入の有無、リンク速度設定の有無、及び注入用チューブの体積等の情報を含んでいてもよい。クロス注入とは、注入開始から設定された時間が経過するまで、生理食塩水の注入速度より高速で造影剤を注入した後、注入速度が徐々に減少するように造影剤を注入すると同時に、注入速度が徐々に増加するように生理食塩水を注入する注入方法である。また、リンク速度設定とは、造影剤と生理食塩水の注入速度が同一になるように、両者の注入速度をリンクさせる設定である。
【0021】
シミュレータ20は、タッチパネル26を介してユーザが入力した被写体の組織情報を取得する組織情報取得部13を備えている。具体的に、組織情報取得部13は、組織の当初画素値を取得する。また、組織情報は、シミュレーションの対象組織の他の情報を含んでいてもよい。この対象組織には、例えば、大動脈及び冠動脈等の血管、心臓(右心室及び左心室)、腎臓、尿管、その他の臓器及び筋肉が含まれる。また、組織情報取得部13は、記憶部24、サーバS又は注入装置2から組織情報を取得してもよい。
【0022】
また、シミュレータ20は、薬液に関する薬液情報を取得する薬液情報取得部14を備えている。具体的に、薬液情報取得部14は、注入装置2に内蔵された読取部からヨード含有量を取得する。この読取部は、後述する注入ヘッド21(
図9)に搭載されるシリンジに取り付けられたデータキャリアから薬液情報を読み取る。データキャリアは、例えば、RFIDチップ、ICタグ、又はバーコードである。また、薬液情報取得部14は、タッチパネル26を介してユーザが入力した薬液情報を取得してもよい。この薬液情報は、例えば、ヨード含有量、単位当たりヨード量、粘稠度、浸透圧比、造影剤量、生理食塩水量、製品ID、製品名称、化学分類、含有成分、濃度、消費期限、シリンジ容量、シリンジ耐圧、シリンダ内径、ピストンストローク、及びロット番号を含んでいる。また、薬液情報取得部14は、記憶部24、サーバS又は注入装置2から薬液情報を取得してもよい。
【0023】
また、シミュレータ20は、目標画素値を取得する目標値取得部15を備えている。この目標値取得部15は、目標維持時間をさらに取得することができる。ユーザは、対象組織の読影に必要な目標画素値と、当該目標画素値を維持する所望の目標維持時間とを、タッチパネル26から入力できる。代替的に目標値取得部15は、記憶部24又はサーバSなどから目標画素値及び目標維持時間の少なくとも一方を取得してもよい。
【0024】
また、シミュレータ20は、制御部25と、制御プログラムPG1を記憶している記憶部24とを備えている。この制御部25は、記憶部24に記憶された制御プログラムPG1に従ってシミュレータ20の各部を制御している。また、制御部25は、被写体情報取得部11、プロトコル取得部12、組織情報取得部13、薬液情報取得部14、目標値取得部15、予測部16、及び判定部17を有している。そして、記憶部24に実装された生成プログラムPG2に対応して制御部25が各種処理を実行することにより、各部が各種機能として論理的に実現される。さらに、制御部25は、表示部として機能するタッチパネル26に画像を表示させる表示制御部としても機能する。
【0025】
一例として、制御部25は、不図示のプロセッサを有している。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、又はMPU(Micro-Processing Unit)であり、記憶部24に記憶された制御プログラムPG1に基づいて、シミュレータ20の全体を制御すると共に、各種処理についても統括的に制御する。本実施形態では、CPUが、記憶部24に記憶された制御プログラムPG1に従って、種々の演算、制御、及び判別等の処理動作を実行できる。また、制御部25には、所定の指令及びデータを入力する入力部としてタッチパネル26が接続されている。タッチパネル26は、装置の入力状態、設定状態、計測結果、及び各種情報を表示する表示部としても機能する。さらに、制御部25は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、CF(Compact Flash)カード、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬記録媒体、又はインターネット上のサーバ等の外部記憶媒体に記憶されたプログラムに従って制御を行うこともできる。
【0026】
記憶部24は、制御部25が動作するためのシステムワークメモリであるRAM(Random Access Memory)、プログラム若しくはシステムソフトウェアを格納するROM(Read Only Memory)、又はハードディスクドライブを有する。また、記憶部24は、造影剤の予測注入プロトコルを生成する生成プログラムPG2を記憶している。この生成プログラムPG2は、コンピュータを、プロトコル取得部12、予測部16、目標値取得部15、組織情報取得部13、及び判定部17として機能させる。また、生成プログラムPG2は、コンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体に記憶させることができる。
【0027】
また、シミュレータ20は、取得した注入プロトコルに基づいて、被写体の組織の造影剤濃度の経時変化をシミュレーションして、経時変化を示す時間強調曲線(以下、TEC (Time Enhancement Curve)という)を作成する予測部16を備えている。一例として、予測部16は、被写体情報取得部11から、被写体情報として、体重当たりヨード量(mgI/kg)、体重(kg)、及び身長(cm)を受け取る。また、予測部16は、プロトコル取得部12から、注入プロトコルとして、第1及び第2フェーズにおける造影剤の注入時間(sec)及び注入速度(mL/sec)を取得する。さらに、予測部16は、組織情報取得部13から、シミュレーションの対象組織の名称を取得する。また、予測部16は、薬液情報取得部14から、薬液情報として、ヨード含有量(mgI/mL)を取得する。そして、予測部16は、体重当たりヨード量と被写体の体重から、総ヨード量(mgI)を算出する。さらに、予測部16は、総ヨード量(mgI)及びヨード含有量(mgI/mL)から総注入量(mL)を算出する。そして、予測部16は、被写体の組織における画素値の経時変化をシミュレーションする。このシミュレーションは、被写体情報と、注入プロトコルと、組織情報とに基づいて実行される。その後、予測部16は、時間ごとの画素値の変化を記憶部24に記憶させて、対象組織のTECを作成する。
【0028】
例えば、予測部16は、血流方向における上流及び下流のそれぞれに向かって順に各組織の造影剤濃度の経時変化を予測する。具体的に予測部16は、画素値の経時変化をシミュレーションするために、対象組織における画素値の変化を時間関数として求める。一例として、予測部16は、下記式1のような微分方程式を用いる。ここでは、対象組織に流入する造影剤の濃度をC1とし、対象組織から流出する造影剤の濃度をC2とし、対象組織の体積をVとし対象組織における単位組織あたりの血流量(血流速度)をQとしている。
【0029】
【0030】
さらに、予測部16は、右心室、左心室、血管以外の組織における画素値の変化を求めるために、造影剤が毛細血管から細胞外液腔へと透過する際の染み出し速度と、細胞外液腔から毛細血管へと透過する際の染み戻り速度とを考慮する。そのため、予測部16は、例えば下記式2及び式3のような微分方程式を用いている。ここでは、細胞外液腔の体積をVecとし、細胞外液腔の造影剤の濃度をCecとし、毛細血管の体積をVivとし、毛細血管の造影剤の濃度をCivとし、染み出し速度をPS1とし、染み戻り速度をPS2としている。
【0031】
【0032】
【0033】
上記微分方程式を解くことにより、注入開始からの経過時間と画素値(造影剤濃度)の変化が時間関数として求められる。さらに、予測部16は、所定の排出速度に基づく造影剤の排出量を算出し、当該排出量を減じるようにシミュレーションしてもよい。シミュレーションが終了すると、予測部16は、シミュレーション結果を記憶部24に順次記憶させて、対象組織のTECを作成する。このシミュレーション結果は、組織に関連付けられた時間ごとの画素値の情報が含んでいる。また、予測部16は、造影剤の体循環シミュレーションとして、公知の他の手法を用いてもよい。
【0034】
また、シミュレータ20は、注入装置2のコンソール23に接続されており、タッチパネル26がシミュレータ20の入力部及び表示部して機能する。例えば、タッチパネル26は、シミュレータ20の表示部としてシミュレーション結果を表示する。また、シミュレータ20は、複数の注入装置2に接続されていてもよい。さらに、予測部16は、注入装置2又は撮像装置3から、管電圧等のシミュレーションに用いる他の情報を取得してもよい。
【0035】
[シミュレーションの概要]
図2及び
図3を参照して、シミュレーションの概要を説明する。
図2に示すTECにおいて、横軸は注入開始からの経過時間(sec)に対応し、縦軸は対象組織の画素値(HU)に対応する。このTECは、被写体の組織における、注入開始後の造影剤濃度の経時変化を示す曲線である。また、
図2においては、第1辺C1、第1底辺B1、及び第2辺C2に対して後述する正規化が行われる前のTECを示している。また、
図3は、複数の注入フェーズを含む注入プロトコルの一例として、第1フェーズにおいて一定の注入速度で注入するとともに、第2フェーズにおいては時間とともに注入速度が低下するように注入する可変注入プロトコルを示している。なお、以下ではシミュレーションの対象組織として上行大動脈が選択され、シミュレーションに用いる注入プロトコルとして可変注入プロトコルが選択された場合について説明する。
【0036】
図2に示すTECにおいて、対象組織の造影前の画素値である当初画素値OVは50HUであり、目標画素値TVは400 HUであり、予測部16が予測した予測画素値が最も高くなるピーク画素値PVは437HUである。また、予測画素値が当初画素値OVを超える第1時点T1は注入開始から13.0sec経過時である。そして、予測画素値が目標画素値TVに達する第2時点T2は注入開始から24.5sec経過時であり、予測画素値がピーク画素値PVに達する第3時点T3は注入開始から32.5sec経過時である。さらに、予測画素値がピーク画素値PVに達した後に目標画素値TVに達する第4時点T4は、注入開始から42.5sec経過時である。
【0037】
また、
図2は、目標画素値TVから当初画素値OVを減じて得られる第1辺C1と、第2時点T2から第1時点T1を減じて得られる第1底辺B1とを含む第1三角形D1における第1斜辺A1とを示している。さらに、
図2は、ピーク画素値PVから目標画素値TVを減じて得られる第2辺C2と、第3時点T3から第2時点T2を減じて得られる第2底辺B2(以下前半維持時間B2ともいう)とを含む第2三角形D2の第2斜辺A2とを示している。また、
図2は、第1斜辺A1と第1底辺B1とがなす第1角度θ1と、第2斜辺A2と第2底辺B2とがなす第2角度θ2とを示している。さらに、
図2は、第4時点T4から第3時点T3を減じて得られる後半維持時間B3を示している。
【0038】
第1角度θ1及び第2角度θ2を評価することによって、注入プロトコルを大まかに評価できる。そのため、理想的なTECを得るために注入プロトコルをどの様に調整すべきかを、TECに基づいて推測できる。この推測を用いることにより、複数の注入フェーズを含む注入プロトコルを用いたシミュレーションにおいて、再シミュレーションの回数を減らすことができる。
【0039】
図3に示す標準注入プロトコルでは、第1フェーズにおいて注入速度3.42mL/secと注入時間2.9secが設定され、第2フェーズにおいて開始注入速度3.42mL/secから終了注入速度2.36mL/secまで漸減する注入速度の傾き-0.034と注入時間26.9secが設定されている。なお、注入プロトコルに含まれるフェーズとしては、注入速度が時間の経過とともに増減するフェーズ、注入速度が一定のフェーズ、生理食塩水等の他の薬液を同時に注入するフェーズ、他の薬液のみを注入するフェーズ、及びこれらを組み合わせたフェーズなどがある。
【0040】
[シミュレーション]
図4から
図8を参照して、シミュレーションについて説明する。シミュレーションが開始されると、予測部16は各種情報を取得する。具体的に、予測部16は、プロトコル取得部12から、シミュレーションに用いる注入プロトコルとして標準注入プロトコルを取得する。一例として、プロトコル取得部12は、薬液情報取得部14から取得した薬液情報と、被写体情報取得部11から取得した被写体情報とに基づいて、標準注入プロトコルを生成して取得する。また、予測部16は、目標値取得部15から目標画素値及び目標維持時間を取得する。さらに、予測部16は、組織情報取得部13から組織の当初画素値OVを取得する。
【0041】
その後、予測部16は、取得した注入プロトコルに従って、被写体の組織の画素値の経時変化をシミュレーションする。そして、予測部16は、シミュレーション結果から当該組織のTECを作成する(S401)。ここで、予測部16は、ユーザが選択した組織の画素値のみをシミュレーションしてもよく、複数の組織の画素値をシミュレーションしてもよい。なお、TECは曲線の形で作成されなくともよく、TECを導き出せるデータであってもよい。例えば、時間の経過に伴う画素値の変化を示す表の形式でTECが作成されてもよい。そして、判定部17は、作成されたTECの評価処理を行い、評価処理の結果に応じて第1フェーズに用いられる第1注入プロトコルを調整して、予測注入プロトコルを生成する。
【0042】
すなわち、判定部17は、評価処理として、第1角度θ1が所定の範囲に含まれるか否かの判定を含む第1判定を行うことによってTECを評価する(S402)。この第1判定によって、目標画素値に到達する注入プロトコルへ調整される。続いて、判定部17は、評価処理として、第2角度θ2が所定の範囲に含まれるか否かの判定を含む第2判定を行うことによってTECを再評価する(S403)。
【0043】
その後、判定部17は、注入プロトコルの第1フェーズの調整が必要である場合(S404でYES)、評価処理の結果に応じて第1フェーズを調整する(S405)。具体的には、第1判定において第1フェーズの調整フラグが立てられた場合、判定部17は、第1フェーズを調整する。また、第1フェーズの調整が不要であって(S404でNO)、且つ注入プロトコルの第2フェーズの調整が必要である場合(S406でYES)、判定部17は、評価処理の結果に応じて第2フェーズを調整する(S407)。具体的には、第2判定において第2フェーズの調整フラグが立てられた場合、判定部17は第2フェーズを調整する。
【0044】
ここで、判定部17は、第1フェーズの調整が必要である場合、第2フェーズの調整が必要であっても、第2フェーズを調整する前に第1フェーズを調整する。具体的には、第1フェーズ及び第2フェーズの調整フラグが立てられた場合、判定部17は、第2フェーズを調整する前に第1フェーズを調整する。その後、第2フェーズの調整フラグが立てられた場合、判定部17は、第2フェーズを調整する。一方、第2フェーズの調整が不要である場合(S406でNO)、判定部17は評価処理を終了する。ただし、第1フェーズの調整と同時に第2フェーズの調整を行ってもよい。
【0045】
そして、判定部17は、当該シミュレーションで最後に使用した注入プロトコルを、予測注入プロトコルとして記憶部24に記憶させる。代替的に判定部17は、第1判定及び第2判定を経て第2フェーズの調整が不要であると判定された複数の注入プロトコルのうち、最も目標値に近似するプロトコルを予測注入プロトコルとして記憶部24に記憶させてもよい。例えば、判定部17は、最も目標画素値TV及び目標維持時間に近似する予測画素値及び維持時間が得られるプロトコルを、予測注入プロトコルとして記憶部24に記憶させてもよい。さらに、判定部17は、第1フェーズ及び第2フェーズを通して、使用される造影剤量が最も少ないプロトコルを、予測注入プロトコルとして記憶部24に記憶させてもよい。
【0046】
なお、標準注入プロトコルにおける第1フェーズ及び第2フェーズの注入量が少ない場合、判定部17は、TECを作成する(S401)前に、第1フェーズの合計注入量及び第2フェーズの合計注入量の少なくとも一方を増加させてもよい。注入量が少なすぎる場合には、目標画素値TVに到達しないと判定される可能性が高い。そのため、予め判定部17が注入量を増加させることにより、シミュレーションの繰り返し回数を減らすことができる。
【0047】
[第1判定]
第1判定において、まず判定部17は、予測部16にシミュレーションされた予測画素値が目標画素値TVに到達しているか否かを判定する(S501)。そして、判定部17は、目標画素値TVに到達していないと判定すると(S501でNO)、第1フェーズの合計注入量を増加する調整フラグを立てて(S502)第1判定を終了する。その後、第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は第1フェーズを調整する(S405)。一例として、判定部17は、目標画素値TVに対するピーク画素値PVの割合を算出し、当該割合を第1フェーズの注入速度に乗算する。例えば、目標画素値TVが400HUであり、ピーク画素値PVが380HUである場合、割合1.05(=400HU /380HU)を、第1フェーズの注入速度3.42mL/secに乗算して、調整後の注入速度3.59mL/secを算出して置き換える。ここで、判定部17は、第1フェーズの注入時間を変更しないため、第1フェーズの合計注入量が増加する。これにより、目標画素値TVに到達しない注入プロトコルと比較して、予測画素値が大きく増加するため、シミュレーションの繰り返し回数を減らすことができる。
【0048】
代替的に、判定部17は、第1フェーズの注入時間を長くして、第1フェーズの合計注入量を増加させてもよい。さらに、判定部17は、目標画素値TVとピーク画素値PVとの差が所定の値(一例として50HU)よりも小さい場合には、所定の値よりも大きい場合と比較して、調整時の注入量の増加量を少なくしてもよい。
【0049】
次に、判定部17は、目標画素値TVに到達していると判定すると(S501でYES)、第1フェーズの注入速度が、予め設定された所定速度を超過しているか否かを判定する(S503)。この所定速度は、注入可能な上限速度としてユーザが設定してもよい。一例として、所定速度は10mL/sec又は7mL/secである。そして、判定部17は、所定速度を超過していると判定すると(S503でYES)、第1フェーズの注入速度を低減する調整フラグを立てて(S504)、第1判定を終了する。その後、第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は第1フェーズを調整する(S405)。一例として、判定部17は、第1フェーズの注入速度を設定された所定速度まで低減させる。なお、所定速度を超過しているか否かの判定(S503)は、上限速度の設定が不要であれば省略してもよい。
【0050】
続いて、判定部17は、所定速度を超過していないと判定すると(S503でNO)、第1フェーズの合計注入量が、予め設定された所定量に達しているか否かを判定する(S505)。この所定量は、注入装置2に搭載されるシリンジの容量の観点から、注入可能な下限量として設定される。一例として、所定量は10mLである。そして、判定部17は、第1フェーズの注入量が所定量未満であると判定すると(S505でYES)、第1フェーズの合計注入量を増加する調整フラグを立てて(S506)、第1判定を終了する。その後、第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は第1フェーズを調整する(S405)。一例として、判定部17は、第1フェーズの合計注入量を所定量まで増加させる。なお、第1フェーズの合計注入量は、注入速度に注入時間を乗算して算出できる。例えば、注入速度3.59mL/secであり且つ注入時間が2.9secである場合、合計注入量は10.41mL(=3.59mL/sec×2.9sec)である。なお、所定量に達しているか否かの判定(S505)は、下限量の設定が不要であれば省略してもよい。
【0051】
次に、第1角度θ1が所定の範囲に含まれるか否かを判定するために、判定部17は、目標画素値TVから当初画素値OVを減じて得た第1辺C1から、数式4に基づいて正規化した第1辺C1(第1辺C1の正規化値)を算出する。また、判定部17は、予測部16が予測した予測画素値が目標画素値TVに達する第2時点T2から予測画素値が当初画素値OVを超える第1時点T1を減じて得た第1底辺B1から、数式5に基づいて正規化した第1底辺B1(第1底辺B1の正規化値)を算出する。さらに、判定部17は、数式6に基づいて、正規化した第1辺C1と正規化した第1底辺B1とを含む第1三角形D1における、第1斜辺A1(第1斜辺A1の正規化値)と正規化した第1底辺B1とがなす第1角度θ1(第1角度θ1の正規化値)を算出する。
【0052】
数式4においては、目標画素値TVから当初画素値OVを減じて、1000HUで除算することによって第1辺C1の正規化値が求められる。ここで、1000HUが用いられる理由は、1000HUを超える場合には骨(カルシウム)を示す画素値であると推定され、実用上の上限画素値として1000HUを採用できるからである。また、数式5においては、第2時点T2から第1時点T1を減じて、40secで除算することによって、第1底辺B1の正規化値を求めている。ここで、40secが用いられる理由は、通常は第1フェーズにおいて40secを超えないため、実用上の上限時間として40secを採用できるからである。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
図2の例では、第1フェーズの定速注入速度が3.42mL/secであり、目標画素値TVが400HUであり、当初画素値OVが50HUであり、第2時点T2が24.5secであり、第1時点T1が13.0secである。そのため、これらを数式4から数式6に代入すると、第1辺C1の正規化値が0.35であり、第1底辺B1の正規化値が0.29であるため、第1角度θ1の正規化値は50.4度となる。そして、判定部17は、第1角度θ1が所定の範囲に含まれるか否かを判定する(S507)。具体的に、判定部17は、第1角度θ1が予め定められた上限角度以上であるか否かを判定する。一例として、上限角度は70.0度である。
【0057】
そして、判定部17は、第1角度θ1が上限角度以上であると判定すると(S507でYES)、第1フェーズの注入速度を低減する調整フラグを立てて(S508)、第1判定を終了する。その後、当該評価処理の結果に応じて第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は注入速度を低減するように第1フェーズを調整する(S405)。これにより、TECにおける第1角度θ1の立上り角度が小さくなる。一例として、判定部17は、1より小さい所定の定数を第1フェーズの注入速度に乗算することによって、注入速度を低減する。
【0058】
一方、第1角度θ1が上限角度未満であると判定すると(S507でNO)、判定部17は、第1角度θ1が所定の範囲に含まれるか否かを判定するために、第1角度θ1が予め設定された下限角度に達しているか否かを判定する(S509)。一例として、下限角度は35.0度であり、より好ましくは20.0度である。そして、判定部17は、第1角度θ1が下限角度未満であると判定すると(S509でYES)、第1フェーズの注入速度を増加する調整フラグを立てて(S510)、第1判定を終了する。その後、当該評価処理の結果に応じて第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は第1フェーズを調整する(S405)。一例として、判定部17は、下限角度に対する第1角度θ1の割合を算出し、当該割合を第1フェーズの注入速度に乗算する。例えば、下限角度が35度であり、第1角度θ1が30度である場合、判定部17は、割合1.17(=35度/30度)を、第1フェーズの注入速度3.42mL/secに乗算して、調整後の注入速度4.00mL/secを算出する。なお、下限角度に達しているか否かの判定は、下限角度の設定が不要であれば省略してもよい。
【0059】
[第2判定]
第2判定において、まず判定部17は、ピーク画素値PVが目標画素値TVを超える部分が、目標画素値TVを基準として所定の範囲内であるか否かを判定する(S601)。一例として、この所定の範囲は、ピーク画素値PVが目標画素値TVを超える部分に対する目標画素値TVの割合、すなわち目標画素値TVを超える割合が0.1(10%)以下の範囲である。例えば、ピーク画素値PVが437HUであり、目標画素値TVが400HUである場合、判定部17は、割合0.09(=(437HU-400HU)/400HU)を算出する。そして、判定部17は、当該割合が0.1を超えるか否かを判定する。画素値が所定の範囲内ではない場合、すなわち目標画素値TVを超える割合が0.1を超える場合(S601でNO)、判定部17は、当該超える部分が所定の範囲内に含まれるように、後述する画素値調整処理(S602)を行う。なお、所定の範囲はユーザが設定してもよい。
【0060】
一方、画素値が所定の範囲内である場合(S601でYES)、判定部17は、シミュレーションされた予測維持時間が目標維持時間を基準として所定の範囲内であるか否かを判定する(S603)。具体的に、判定部17は、予測画素値がピーク画素値PVに達した後に目標画素値TVに達する第4時点T4から第2時点T2を減じて予測維持時間を算出する。一例として、上記所定の範囲は、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が1以上1.1以下(100%以上110%以下)の範囲である。例えば、第4時点T4が42.5secであり、第2時点T2が24.5secである場合、予測維持時間は18sec(=42.5sec-24.5sec)となる。そして、目標維持時間が18secである場合、判定部17は、割合1(=18sec/18sec)を算出して、当該割合が1以上1.1以下であるか否かを判定する。予測維持時間が所定の範囲内ではない場合(S603でNO)、判定部17は、予測維持時間が所定の範囲内に含まれるように、後述する時間調整処理(S604)を行う。
【0061】
一方、予測維持時間が所定の範囲内である場合(S603でYES)、判定部17は、TECにおける前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定する(S605)。一例として、判定部17は、予測維持時間の半分に対する前半維持時間B2の割合と 予測維持時間の半分に対する後半維持時間B3の割合とが、それぞれ0.95以上1.05以下(95%以上105%以下)の範囲である場合に、所定の基準内であると判断する。一例として、前半維持時間B2が8secであり、後半維持時間B3が10secである場合、予測維持時間の半分に対応する時間は9secとなる。そして、判定部17は、予測維持時間の半分に対する前半維持時間B2の割合1.12(=9sec/8sec)と、予測維持時間の半分に対する後半維持時間B3の割合0.9(=9sec/10sec)とを算出して、それぞれの割合が0.95以上1.05以下であるか否かを判定する。
【0062】
前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内である場合(S605でYES)、判定部17は第2判定を終了する。この場合、既に調整されているため第1フェーズの調整が不要であり(S404でNO)、且つ第2フェーズの調整が不要になる(S406でNO)。そのため、判定部17は、第2判定を経た注入プロトコルを、予測注入プロトコルとして記憶部24に記憶させると共に、予測結果としてタッチパネル26に表示させる。また、判定部17は、当該注入プロトコルを注入装置2に送り、注入装置2は当該注入プロトコルに従って薬液を注入可能となる。
【0063】
一方、前半維持時間B2と後半維持時間B3との少なくとも一方が所定の基準内ではない場合(S605でNO)、判定部17は、第2フェーズに用いられる第2注入プロトコルを調整する。具体的に、判定部17は、前半維持時間B2が後半維持時間B3よりも長いか否かを判定する(S606)。前半維持時間B2がより長い場合(S606でYES)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を長くするフラグを立てて(S607)、第2判定を終了する。その後、第2フェーズの調整が必要となるので(S406でYES)、判定部17は第2フェーズを調整する(S407)。例えば、判定部17は、第2フェーズの開始注入速度及び第2フェーズの合計注入量を変更せずに、終了注入速度を変えることによって、第2フェーズの注入時間を長くする。代替的に、判定部17は、第2フェーズの注入速度の傾きを変えることにより、第2フェーズの注入時間を長くしてもよい。
【0064】
一方、前半維持時間B2が後半維持時間B3より短い場合(S606でNO)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を短くするフラグを立てて(S608)、第2判定を終了する。その後、第2フェーズの調整が必要となるので(S406でYES)、判定部17は第2フェーズを調整する(S407)。例えば、判定部17は、第2フェーズの開始注入速度及び第2フェーズの合計注入量を変更せずに、終了注入速度を変えることによって、第2フェーズの注入時間を短くする。代替的に、判定部17は、第2フェーズの注入速度の傾きを変えることにより、第2フェーズの注入時間を短くしてもよい。
【0065】
[時間調整処理]
予測維持時間が所定の範囲内ではない場合(S603でNO)、判定部17は、予測維持時間が所定の範囲内に含まれるように、
図7に示す時間調整処理を行う。具体的に、判定部17は、予測維持時間が所定の基準よりも大きく目標維持時間を超過しているか否かを判定する(S701)。一例として、判定部17は、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が1.1を超えているか否かを判定する。そして、予測維持時間が大きく目標維持時間を超過している場合(S701でYES)、判定部17は、前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定する(S702)。なお、S702の処理は、S605の処理を同じであるため、その説明は省略する。
【0066】
前半維持時間B2と後半維持時間B3とのそれぞれが所定の基準内である場合(S702でYES)、判定部17は、第2フェーズの合計注入量を減らすフラグを立てて(S703)、時間調整処理を終了する。その後、第2フェーズの調整が必要となるので(S406でYES)、判定部17は第2フェーズを調整する(S407)。例えば、判定部17は、第2フェーズの注入速度の傾きと開始注入速度とを変更せずに、第2フェーズの注入時間を短くすることによって、第2フェーズの合計注入量を減らす。
【0067】
一方、前半維持時間B2と後半維持時間B3とが所定の基準内ではない場合(S702でNO)、判定部17は、前半維持時間B2が後半維持時間B3よりも長いか否かを判定する(S704)。前半維持時間B2がより短い場合(S704でNO)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を短くするフラグを立てて(S705)、時間調整処理を終了する。なお、S705の処理は、S608の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0068】
また、時間調整処理において、判定部17は、第2角度θ2が所定の範囲に含まれるか否かを判定する。そのために、判定部17は、TECにおけるピーク画素値PVから目標画素値TVを減じて得た第2辺C2から正規化した第2辺C2(第2辺C2の正規化値)を算出する。また、判定部17は、第3時点T3から第2時点T2を減じて得た第2底辺B2から正規化した第2底辺B2(第2底辺B2の正規化値)を算出する。さらに、判定部17は、正規化した第2辺C2と正規化した第2底辺B2とを含む第2三角形D2における正規化した第2斜辺A2(第2斜辺A2の正規化値)と正規化した第2底辺B2とがなす第2角度θ2(第2角度θ2の正規化値)を算出する。そして、判定部17は、第2角度θ2が所定の範囲に含まれるか否かを判定することによってTECを再評価する。
【0069】
数式7において判定部17は、ピーク画素値PVから目標画素値TVを減じて、1000HUで除算することによって第2辺C2の正規化値を求める。また、数式5においては、第3時点T3から第2時点T2を減じて、40secで除算することによって、第2底辺B2の正規化値を求めている。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
図2の例では、目標画素値TVが400HUであり、ピーク画素値PVが437HUである。そのため、これを数式7に代入すると、第2辺C2の正規化値が0.037となる。さらに、第2時点T2が24.5secであり、第3時点T3が32.5secである。そのため、これを数式8に代入すると、第2底辺B2の正規化値が0.2となる。そのため、これらを数式9に代入すると、第2角度θ2の正規化値が10.5度となる。
【0074】
そして、前半維持時間B2がより長い場合(S704でYES)、判定部17は、正規化した第2角度θ2が予め定められた所定角度よりも小さいか否かを判定する(S706)。この所定角度は、一例として3度~5度である。正規化した第2角度θ2が所定角度より小さい場合(S706でYES)、判定部17は、第2フェーズの合計注入量を減らすフラグを立てて(S707)時間調整処理を終了する。なお、S707の処理は、S703の処理と同じであるため、その説明は省略する。正規化した第2角度θ2が所定角度より大きい場合(S706でNO)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を長くするフラグを立てて(S708)、時間調整処理を終了する。なお、S708の処理は、S607の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0075】
そして、予測維持時間が大きく目標維持時間を超過していない場合(S701でNO)、予測維持時間は目標維持時間よりも短かいことになる。この場合、判定部17は、前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定する(S709)。前半維持時間B2は、ピーク画素値PVに達する前の予測維持時間の前半部分に対応する。また、後半維持時間B3は、ピーク画素値PVに達した後の予測維持時間の後半部分に対応する。
図2の例では、前半維持時間B2が8.0sec(=32.5sec-24.5sec)であり、後半維持時間B3が10.0sec(=42.5sec-32.5sec)である。なお、S709の処理は、S605の処理を同じであるため、その説明は省略する。
【0076】
前半維持時間B2と後半維持時間B3とのいずれもが所定の基準内である場合(S709でYES)、判定部17は、第2フェーズの合計注入量を増やすフラグを立てて(S710)、時間調整処理を終了する。その後、第2フェーズの調整が必要となるので(S406でYES)、判定部17は第2フェーズを調整する(S407)。例えば、判定部17は、第2フェーズの注入速度の傾きと開始注入速度とを変更せずに、第2フェーズの注入時間を長くすることによって、第2フェーズの合計注入量を増やす。
【0077】
前半維持時間B2と後半維持時間B3との少なくとも一方が所定の基準内ではない場合(S709でNO)、判定部17は、前半維持時間B2が後半維持時間B3よりも長いか否かを判定する(S711)。前半維持時間B2がより短い場合(S711でNO)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を短くするフラグを立てて(S712)、時間調整処理を終了する。なお、S712の処理は、S608の処理と同じであるため、その説明は省略する。前半維持時間B2がより長い場合(S711でYES)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を長くするフラグを立てて(S713)、時間調整処理を終了する。なお、S713の処理は、S607の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0078】
[画素値調整処理]
ピーク画素値PVが所定の範囲内ではない場合(S601でNO)、判定部17は、ピーク画素値PVが目標画素値TVを超える部分が所定の範囲内に含まれるように、
図8に示す画素値調整処理を行う。まず判定部17は、予測維持時間が目標維持時間を基準として所定の範囲内であるか否かを判定する(S801)。一例として、この所定の範囲は、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が0.85以上1.1以下(85%以上110%以下)の範囲である。予測維持時間が所定の範囲内である場合(S801でYES)、判定部17は、前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定する(S802)。なお、S802の処理はS605の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0079】
前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内である場合(S802でYES)、判定部17は、第1フェーズの注入速度を低減するフラグを立てて(S803)、画素値調整処理を終了する。また、前半維持時間B2と後半維持時間B3とが所定の基準内ではない場合(S802でNO)、判定部17は、前半維持時間B2が後半維持時間B3よりも長いか否かを判定する(S804)。前半維持時間B2が後半維持時間B3より短い場合(S804でNO)、判定部17は、第1フェーズの注入量を低減するフラグを立てて(S805)、画素値調整処理を終了する。その後、第1フェーズの調整が必要となるので(S404でYES)、判定部17は第1フェーズを調整する(S405)。例えば、判定部17は、第1フェーズの注入速度を変更せずに第1フェーズの注入時間を短くすることによって、第1フェーズの合計注入量を低減する。前半維持時間B2がより長い場合(S804でYES)、判定部17は、第2フェーズの注入時間を長くするフラグを立てて(S806)画素値調整処理を終了する。なお、S806の処理はS607の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0080】
予測維持時間が所定の範囲内ではない場合(S801でNO)、判定部17は、予測維持時間が所定の基準よりも大きく目標維持時間を超過しているか否かを判定する(S807)。一例として、判定部17は、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が1.1を超えているか否かを判定する。そして、予測維持時間が大きく目標維持時間を大きく超過している場合(S807でYES)、判定部17は、前半維持時間B2と後半維持時間B3とがそれぞれ所定の基準内であるか否かを判定する(S808)。なお、S808の処理は、S605の処理を同じであるため、その説明は省略する。
【0081】
前半維持時間B2と後半維持時間B3とが所定の基準内である場合(S808でYES)、判定部17は、第1フェーズの注入速度を低減するフラグを立てて(S809)画素値調整処理を終了する。また、前半維持時間B2と後半維持時間B3とが所定の基準内ではない場合(S808でNO)、判定部17は、前半維持時間B2が後半維持時間B3よりも長いか否かを判定する(S810)。前半維持時間B2が後半維持時間B3より短い場合(S810でNO)、判定部17は、第1フェーズの注入速度を低減するフラグを立てて(S811)画素値調整処理を終了する。なお、S809及びS811の処理は、S803又はS805の処理を同じであるため、その説明は省略する。前半維持時間B2が後半維持時間B3より長い場合(S810でYES)、判定部17は、第2フェーズの合計注入量を減らすフラグを立てて(S812)時間調整処理を終了する。なお、S812の処理は、S703の処理と同じであるため、その説明は省略する。
【0082】
予測維持時間が所定の基準よりも大きく目標維持時間を超過していない場合(S807でNO)、予測維持時間が所定の基準よりも大きく目標維持時間を下回っていることになる。例えば 、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が0.85未満となる。この場合、判定部17は、予測維持時間に対する目標維持時間の割合が予め定められた所定割合より低いか否かを判定する(S813)。この所定割合は、一例として0.8(80%)である。例えば、目標維持時間が20secであり且つ維持時間が18secである場合、判定部17は、当該割合0.9(=18sec/20sec)を算出して、0.8より低いか否かを判定する。所定割合より低い場合(S813でYES)、判定部17は、第2フェーズの合計注入量を増やすフラグを立てて(S814)画素値調整処理を終了する。なお、S814の処理は、S710の処理と同じであるため、その説明は省略する。一方、所定割合より高い場合(S813でNO)、判定部17は、第1フェーズの合計注入量を低減するフラグを立てて(S815)画素値調整処理を終了する。なお、S815の処理は、S803又はS805の処理を同じであるため、その説明は省略する。
【0083】
なお、判定部17は、シミュレーションの繰り返し回数が上限回数に到達した場合、シミュレーションを終了してもよい。一例として、第1判定又は第2判定が25回を超えた場合、判定部17は、シミュレーションを終了して上限回数に到達した旨をタッチパネル26に表示させる。
【0084】
[シミュレーションシステム]
続いて、注入装置2及び撮像装置3と、不図示のサーバS(外部記憶装置)とを備えるシミュレーションシステム100の概略図である
図9を参照して、シミュレータ20(
図1)を備えるシミュレーションシステム100について説明する。シミュレータ20は、撮像装置3及び注入装置2の少なくとも一方に搭載される。
【0085】
図9に示すように、シミュレーションシステム100は、造影剤を注入する注入装置2と、注入装置2に有線又は無線で接続され且つ被写体を撮像する医療用の撮像装置3とを備えている。この撮像装置3としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、及び血管撮像装置等の各種医療用の撮像装置がある。以下ではCT装置について説明する。
【0086】
撮像装置3は、撮像プランに従って被写体を撮像する撮像部31と、撮像装置3の全体を制御する制御装置32を有している。この撮像プランには、例えば、撮像部位、実効管電圧、機種名、メーカー名、撮像時間、管電圧、撮像範囲、回転速度、ヘリカルピッチ、曝射時間、線量、及び撮像方法が含まれている。そして、制御装置32は、撮像プランに従うように撮像部31を制御して被写体を撮像する。さらに、制御装置32は、不図示のシミュレータ20と接続させることができる。代替的に、シミュレータ20は、制御装置32に内蔵されてもよい。また、制御装置32は、撮像部31、注入装置2、及び不図示のサーバSと有線又は無線によって通信できる。
【0087】
撮像部31は、寝台と、被写体にX線を照射するX線源と、被写体を透過したX線を検出するX線検出器とを有している。この撮像部31は、被写体にX線を曝射し、被写体を透過したX線に基づいて被写体の体内を逆投影することで、被写体の透視画像を撮像する。代替的に、撮像部31は、ラジオ波又は超音波を用いて撮像してもよい。
【0088】
撮像装置3は、表示部としてのディスプレイ33を有している。このディスプレイ33は、制御装置32に接続されており、装置の入力状態、設定状態、撮像結果、及び各種情報を表示する。代替的に、制御装置32とディスプレイ33とは、一体的に構成することもできる。さらに、撮像装置3は、入力部34として、キーボード等のユーザインタフェースを有している。ユーザは、薬液情報、注入プロトコル、組織情報、被写体情報及び目標値を、入力部34から撮像装置3に入力することができる。
【0089】
注入装置2は、注入プロトコルに従って造影剤を注入する注入ヘッド21を備えている。そして、注入装置2は、シリンジに充填された薬液、例えば、生理食塩水及び各種造影剤を被写体に注入する。また、注入装置2は、注入ヘッド21を保持するスタンド22と、注入ヘッド21に有線又は無線で接続されたコンソール23とを備えている。
【0090】
コンソール23は、注入ヘッド21を制御する制御装置として機能すると共に、不図示のシミュレータ20が接続されている。代替的に、シミュレータ20はコンソール23に内蔵されていてもよい。さらに、シミュレータ20は
図1のサーバSに接続されていてもよく、サーバSがシミュレータ20として機能してもよい。このコンソール23は、入力表示部として機能するタッチパネル26を備え、注入ヘッド21及び撮像装置3と有線又は無線で通信できる。このタッチパネル26は、注入プロトコル、装置の入力状態、設定状態、注入結果、及び各種情報を表示でき、シミュレータ20の入力部及び表示部として機能する。注入装置2は、タッチパネル26に代えて、表示部としてのディスプレイと、入力部としてのキーボードとを備えていてもよい。
【0091】
注入装置2は、コンソール23に代えて、注入ヘッド21に接続された制御装置と、該制御装置に接続され且つ薬液の注入状況が表示される表示部(例えばタッチパネルディスプレイ)とを有していてもよい。この場合、制御装置にシミュレータ20が接続される。また、注入ヘッド21及び制御装置は、スタンド22と一体的に構成することもできる。さらに、スタンド22に代えて天吊部材を設け、該天吊部材を介して天井から注入ヘッド21を天吊することもできる。
【0092】
また、注入装置2は、注入ヘッド21を遠隔操作する遠隔操作装置(例えばハンドスイッチ又はフットスイッチ)を有していてもよい。この遠隔操作装置は、注入ヘッド21を遠隔操作して注入を開始又は停止することができる。さらに、注入装置2は、電源又はバッテリーを有していてもよい。この電源又はバッテリーは、注入ヘッド21又は制御装置のいずれかに設けることができ、これらとは別に設けることもできる。
【0093】
注入ヘッド21は、薬液が充填されたシリンジが搭載されるシリンジ保持部と、注入プロトコルに従ってシリンジ内の薬液を押し出す駆動機構とを備えている。また、注入ヘッド21は、駆動機構の動作を入力するための操作部212を有している。操作部212には、例えば駆動機構の前進ボタン、駆動機構の後進ボタン、及び最終確認ボタンが設けられている。さらに、注入ヘッド21は、注入条件、注入状況、装置の入力状態、設定状態、及び各種注入結果が表示されるヘッドディスプレイを備えていてもよい。
【0094】
造影剤が注入される際には、注入ヘッド21に搭載されたシリンジの先端部に延長チューブ等の付属品が接続される。そして、注入準備が完了すると、ユーザが操作部212の最終確認ボタンを押す。これにより、注入ヘッド21は、注入を開始できる状態で待機する。注入を開始すると、シリンジから押し出された造影剤は、延長チューブを介して被写体の体内へ注入される。
【0095】
また、注入ヘッド21には、RFIDチップ、ICタグ、又はバーコード等のデータキャリアを有するプレフィルドシリンジ、及び種々のシリンジを搭載することができる。そして、注入ヘッド21は、シリンジに取り付けられたデータキャリアの読み取りを行う読取部(不図示)を備えている。このデータキャリアには、薬液に関する薬液情報が記憶されている。さらに、注入ヘッド21は、3つ以上のシリンジ保持部を有していてもよく、又は1つのみのシリンジ保持部を有していてもよい。
【0096】
注入装置2は、サーバSから情報を受信することができ、サーバSへ情報を送信することもできる。また、撮像装置3も、サーバSから情報を受信することができ、サーバSへ情報を送信することもできる。サーバSには、予め検査オーダーが記憶されている。この検査オーダーは、被写体に関する被写体情報と、検査内容に関する検査情報とを備えている。また、サーバSは、撮像装置3から送信された画像のデータ等の撮像結果に関する情報と、注入装置2から送信された注入結果に関する情報を記憶することができる。なお、注入装置2及び撮像装置3を操作するために、外部の検像システム又は画像作成用ワークステーションを用いることもできる。
【0097】
ユーザは、予測部16による予測結果に応じて撮像プランを変更できる。また、撮像装置3は、予測部16による予測結果に応じて撮像プランを変更してもよい。具体的に、撮像装置3は、目標画素値又は目標維持時間に達するように、例えば管電圧又は管電流を変更できる。ユーザは、生成された予測注入プロトコルを用いて造影剤を注入できる。また、注入装置2は、生成された予測注入プロトコルと一致するように、例えば注入速度又は注入時間を変更してもよい。
【0098】
以上説明した実施形態に係る発明によれば、第2フェーズの調整前に第1フェーズを調整することにより、シミュレーションの回数を削減して、予測注入プロトコルの生成時間を短縮できる。
【0099】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、各実施形態及び各変形形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0100】
例えば、シミュレータ20は、撮像装置3及び注入装置2の少なくとも一方に有線又は無線接続される外部コンピュータに搭載してもよい。この場合、シミュレータ20は、シミュレーション結果及び最適な予測注入プロトコルを、撮像装置3及び注入装置2に送信する。
【符号の説明】
【0101】
3:撮像装置
12:プロトコル取得部
13:組織情報取得部
15:目標値取得部
16:予測部
17:判定部
20:シミュレータ
21:注入ヘッド
100:シミュレーションシステム