(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】膨張弁および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 41/335 20210101AFI20231109BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
F25B41/335 B
F16K31/68 S
(21)【出願番号】P 2019174966
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】西村 康徹
(72)【発明者】
【氏名】呉羽 敏道
(72)【発明者】
【氏名】富澤 直毅
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/128529(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 41/335
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を導入する流入路と当該熱媒体を排出する流出路とに連通する弁室を有する弁本体と、
前記弁室の内部に配置され、弁座に着座した閉弁状態と前記弁座から離間した開弁状態との間で前記弁座に対して進退動することにより前記熱媒体の流量を変更する弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて付勢する付勢部材と、
前記弁体に接触して前記付勢部材による付勢力に抗し前記弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、
前記作動棒を駆動する駆動部と
を備えた膨張弁であって、
前記作動棒は、当該作動棒の外周面から外方へ張り出す張出部を備え、
前記膨張弁は、前記作動棒が閉弁方向へ移動するにつれ前記張出部により
圧縮されて弾性変形させられるダンパーを備え
、
前記ダンパーは、前記作動棒が閉弁方向へ移動するほど変形量が大きくなり、これにより前記張出部に作用する弾性力が大きくなる
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記ダンパーは、
前記弁本体に固定されており、
前記作動棒の閉弁方向への移動に伴って前記張出部により押し潰されるように弾性変形する
請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記張出部は、前記作動棒の長さ方向の中間部の外周面から周囲に張り出すフランジ部である
請求項1または2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記ダンパーは、粘弾性を有する材料からなる塊状部材である
請求項1から3のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記弾性材料は、ゴムである
請求項4に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記弁本体は、前記作動棒及び前記ダンパーを収容する凹部を有し、
前記ダンパーは、前記凹部及び前記作動棒と接し前記凹部の上下間における冷媒通過を抑制する
請求項1から5のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項7】
前記ダンパーは、前記作動棒が貫通する貫通孔を有し、
当該貫通孔は、前記閉弁方向と一致する方向に形成されている
請求項1から6のいずれか一項に記載の膨張弁。
【請求項8】
熱媒体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮された前記熱媒体を冷却して液化する凝縮器と、
前記凝縮器で液化された前記熱媒体を減圧膨張させる膨張弁と、
前記膨張弁で減圧膨張された前記熱媒体を蒸発気化する蒸発器と
を備えた冷凍サイクル装置であって、
前記膨張弁が、前記請求項1から7のいずれか一項に記載の膨張弁であることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁および冷凍サイクル装置に係り、特にエアコンなどの冷凍サイクルに備えられる膨張弁の弁振動を抑制し、異音が発生することを防ぐ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンのような冷凍サイクル装置では、エバポレータ(蒸発器)の能力を十分に引き出すために膨張弁が備えられる。この膨張弁は、エバポレータの出口側配管の冷媒温度に感応してエバポレータに供給される冷媒の流れを絞り、最適流量に制御する。
【0003】
一方、かかる膨張弁では、弁の開度が小さいときに弁振動が生じ、弁振動によって膨張弁から異音が発生することがある。このため、例えば下記特許文献1の第2実施形態にあるように、作動棒の外周面から当該作動棒に押圧力を付与して弁振動を抑制する提案が従来からなされている。この特許文献1の膨張弁では、作動棒の外周面を押圧するリングばねが設けられており、このリングばねの弾性による押圧力により作動棒に摺動抵抗を付与して弁振動を抑制しており、更に、作動棒の外周面のうちリングばねが接触する部位をテーパー状とすることで、作動棒の長手方向の移動に応じてリングばねの変位量が変化し押圧力が変化するように構成されている。
【0004】
具体的には、弁開度が微小となる位置に作動棒があるとき、リングばねは作動棒のテーパー部位の大径部と接することによりその変形量が大きくなり、弁開度が大きくなる位置に作動棒があるとき、リングばねは作動棒のテーパー部の小径部と接することによりその変形量が小さくなる。これにより、リングばねは、弁開度が微小であるときに作動棒との摺動抵抗が大きくなり、弁振動の抑制効果が高くなる。対して、弁開度が大きいときは、リングばねと作動棒との摺動抵抗が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の特許文献1に記載の膨張弁では、作動棒の外周面をテーパー状に構成し、作動棒の上下移動に応じてリングばねの変位量を変化させている(摺動抵抗を変化させている)ため、弁開度が微小であるときに防振性を十分に高め、弁開度が大きいときに摺動抵抗を十分に抑制するためには、作動棒のテーパー角を大きくすることが考えらえるが、テーパー角を大きくすると、作動棒の本来の動作(軸方向の動作)の円滑性を阻害する虞がある。また、膨張弁の組立に関していえば、作動棒をリングばねに挿嵌する際、リングばねを径方向外側に変位させた状態で作動棒を挿嵌することとなり、その工程が複雑となる。
【0007】
また、特許文献1の膨張弁によれば、オリフィス下流側の中間室と戻り流路とを結ぶ貫通孔に作動棒が嵌挿され、この貫通孔と作動棒とのクリアランスを通して冷媒がエバポレータを介さずに通過する。一般的な膨張弁にあっては、このクリアランスを通じた冷媒通過を防止或いは低減するためにOリングを設けている。しかし、特許文献1の膨張弁において冷媒通過を防止或いは低減するには、リングばねに加えてOリングを付設する必要があり、部品コスト及び組立コストの観点から不利である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、作動棒の軸方向の円滑な移動を阻害することなく、弁開度が微小であるときに大きな弁振動抑制効果を奏し、且つ、弁開度が比較的大きいときに作動棒の動作を不要に拘束することを抑制することができる、弁振動抑制機能付き膨張弁を提供することにある。また、本発明の別の目的は、弁振動の抑制を行う機能を有する膨張弁において、組立工程を簡素化することにある。さらに、本発明の別の目的は、弁振動の抑制を行う機能を有する膨張弁において、作動棒が嵌挿される貫通孔を通じた冷媒漏れを、部品点数の増加を伴うことなく有効に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る膨張弁は、熱媒体を導入する流入路と熱媒体を排出する流出路とに連通する弁室を有する弁本体と、弁室の内部に配置され、弁座に着座した閉弁状態と弁座から離間した開弁状態との間で弁座に対して進退動することにより熱媒体の流量を変更する弁体と、弁体を弁座に向けて付勢する付勢部材と、弁体に接触して付勢部材による付勢力に抗し弁体を開弁方向へ移動させる作動棒と、作動棒を駆動する駆動部とを備えた膨張弁であって、作動棒は、当該作動棒の外周面から外方へ張り出す張出部を備え、前記膨張弁は、作動棒が閉弁方向に移動するにつれ前記張出部により圧縮されて弾性変形させられるダンパーを備え、当該ダンパーは、作動棒が閉弁方向へ移動するほど変形量が大きくなり、これにより張出部に作用する弾性力が大きくなる。
【0010】
本発明の膨張弁では、作動棒の閉弁方向への移動に伴いダンパーが弾性変形を受け、その変形量に応じて生じる弾性力が張出部を介して作動棒に伝達され、更に弁体にも伝達されることになり、弁開度に応じて作動棒や弁体に生じる振動を効果的に吸収し抑制することが出来る。また、ダンパーの材料及び形状を適切に設定することにより、作動棒の移動範囲に亘り吸振性能の変化特性を適宜設定できる。
【0011】
本発明の好ましい一態様では、ダンパーは、弁本体に固定されており、作動棒の閉弁方向への移動に伴って張出部により押し潰されるように弾性変形する。
【0012】
また、張出部の好ましい態様としては、当該張出部を、作動棒の長さ方向の中間部の外周面から周囲に張り出すフランジ部とする。
【0013】
さらに、ダンパーは、粘弾性を示す材料からなる塊状部材により構成することが可能である。また当該粘弾性を示す材料には、例えば粘弾性を有するゴム(天然ゴムや合成ゴム、再生ゴムなど)、一例を挙げればNBR(ニトリルゴム)やHNBR(水素化ニトリルゴム)を好ましく使用することが出来る。
【0014】
張出部とダンパーの位置関係については、前述のように弁振動は弁開度が小さいときに生じやすいから、必ずしも弁の全動作範囲、つまり閉弁状態から弁の全開状態の全動作範囲に亘って張出部がダンパーを弾性変形させている構造とする必要はない。例えば、弁振動が生じ難い全開状態(弁体が弁座から最も離れた状態)や弁が十分に開かれた状態にあるときには、張出部がダンパーから離れるなどしてダンパーを弾性変形させない構造としても構わない(勿論当該弁の全動作範囲に亘って張出部がダンパーを弾性変形させた状態にあり、ダンパーから弾性力を受ける構造としても良い)。
【0015】
また、ダンパーは、作動棒の位置に関わらず(換言するに、ダンパーの弾性変形の状態に関わらず)、作動棒と弁本体との間の気密性を向上する機能を有していても良く、これにより熱媒体(冷媒)の漏れを防止乃至軽減することが出来る。このような態様として本発明では、弁本体が作動棒とダンパーを収容する凹部を有し、ダンパーが当該凹部及び作動棒と接し当該凹部の上下間における冷媒通過を抑制することがある。さらにダンパーは、作動棒が貫通する貫通孔を有し、当該貫通孔が閉弁方向と一致する方向に形成されている場合がある。
【0016】
また、本発明に係る冷凍サイクル装置は、熱媒体を圧縮する圧縮機と、圧縮機で圧縮された熱媒体を冷却して液化する凝縮器と、凝縮器で液化された熱媒体を減圧膨張させる膨張弁と、膨張弁で減圧膨張された熱媒体を蒸発気化する蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置であり、膨張弁として前述した本発明に係る膨張弁を使用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作動棒の軸方向の円滑な移動を阻害することなく、弁開度が微小であるときに大きな弁振動抑制効果を奏し、且つ、弁開度が比較的大きいときに作動棒の動作を不要に拘束することを抑制することができる、弁振動抑制機能付き膨張弁を提供することが出来る。また、本発明の一態様によれば、弁振動の抑制を行う機能を有する膨張弁において、組立工程を簡素化することが出来る。さらに、本発明の別の一態様によれば、弁振動の抑制を行う機能を有する膨張弁において、作動棒が嵌挿される貫通孔を通じた冷媒漏れを、部品点数の増加を伴うことなく有効に抑制することが可能となる。
【0018】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基づいて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膨張弁を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、前記第1実施形態に係る膨張弁(閉弁状態)のダンパー設置部(
図1の符号A部分)を拡大して示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、前記第1実施形態に係る膨張弁(開弁状態)のダンパー設置部(
図1の符号A部分)を拡大して示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、前記第1実施形態に係る膨張弁に備えられる張出部の別の構成例を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、前記第1実施形態に係る膨張弁のダンパー設置部(
図1の符号A部分)を分解して示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る冷凍サイクル装置を示す概念図である。
【
図7】
図7は、前記第1実施形態に係る膨張弁に備えられる作動棒の別の構成例を拡大して示す縦断面図である。
【
図8】
図8は、前記第1実施形態に係る膨張弁に備えられる作動棒と張出部の別の構成例を拡大して示す縦断面図である。
【
図9】
図9は、前記第1実施形態に係る膨張弁に備えられる作動棒と張出部のさらに別の構成例を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
図1から
図5を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。なお、
図1には上下左右の各方向を表す二次元直交座標を、また
図5には上下左右前後の各方向を示す三次元直交座標をそれぞれ示し、これらの方向に基いて説明を行う。
【0021】
図1から
図5に示すように、本発明の第1の実施形態に係る膨張弁11は、弁室13を内部に備えた弁本体12と、弁室内上部に形成された弁座14と、弁座14に対向し且つ弁座14に対して進退動(上下動)可能に設置された弁体15と、弁体15を下方から支持する弁体支持部材16と、弁本体12の下面部に装着されることにより弁室13を封止するプラグ18と、プラグ18と弁体支持部材16との間に配置されて弁体支持部材16を介し弁体15を弁座14に向け上方へ付勢するコイルばね(付勢部材)17と、弁体15をコイルばね17の付勢力に抗して弁座14から後退させる(下方へ移動させる)作動棒31と、弁本体12の上面部に備えられて作動棒31を上下動させるダイアフラム装置(駆動部)26と、弁振動を抑えるダンパー41とを有する。
【0022】
また弁本体12は、弁室13に冷媒(熱媒体)を導入する流入路21と、弁室13から外部へ冷媒を排出する流出路22と、弁本体12の上部を左右に貫通するように冷媒を流通させる戻り流路23とをさらに備える。なお、戻り流路23と上記ダイアフラム装置26の詳細については、本実施形態の膨張弁11を使用する後述の第2実施形態において説明する。
【0023】
流入路21と流出路22は弁室13を介して互いに連通するが、コイルばね17の上方への付勢力によって弁体15が弁座14に当接し着座した閉弁状態では流入路21と流出路22とは連通せずに遮断状態となる。一方、作動棒31の下方への押圧力により弁体15が下方へ移動し弁座14から離れると、流入路21と流出路22とが連通し、流入路21から弁室13の内部に流入した冷媒は、流出路22を通じて膨張弁11の外へ排出される。そして、弁体15と弁座14との距離が変更されることにより当該冷媒の流量が調整される。
【0024】
弁の開閉を行う作動棒31は、弁本体12の内部において上下方向に延びるように備えられ、上下方向に継ぎ足すように配置した2本の棒状部材、すなわち、上側に配置した上部ロッド31aと、下側に配置した下部ロッド31bとからなる。また上部ロッド31aは、上端をダイアフラム装置26に接続し、下端に張出部32を形成してある。張出部32は、上部ロッド31aの外周面からフランジ状に張り出した円盤状の構成部分である。下部ロッド31bは、上端を上部ロッド下端の張出部32の下面に当接させ、下端は弁体15に接触させてある。
【0025】
一方、上記張出部32とともにダンパー41を収容するため、弁本体12の戻り流路23の下部に円筒状の凹部24を形成する。ダンパー41は、粘弾性を有するゴム材料からなり、円柱体の中心を上下方向に貫く貫通孔42,43を有するリング状の部材とする。なお、当該ダンパー41を構成するゴム材料としては、天然ゴムや合成ゴム、再生ゴムなどを用いることができ、例えばNBR(ニトリルゴム)またはHNBR(水素化ニトリルゴム)を好ましく使用することが出来る。
【0026】
また、ダンパーの貫通孔42,43は、上側の孔部分42は径が小さく(この部分を「上孔」と言う)、下側の孔部分43は径が大きい(この部分を「下孔」と言う)。これは、上部ロッド31aがダンパー41の上面側を貫通することを許容しつつ、径の大きな張出部32を下孔43の中に収容し、下孔43の上面(すなわち上孔42と下孔43の径の差異によって形成される段差部)に張出部32が押し当てられるようにするためである。
【0027】
言い換えれば、ダンパー41は張出部32の上面と周面を取り囲むような内部空間(下孔43)を有し、張出部32は当該内部空間内において下方への移動は制限されないが、上方への移動はダンパー41に突き当たることにより制限されている。
【0028】
凹部24の底面(下面)には下部ロッド31bを通す孔25を形成し、この孔25を通じて下部ロッド31bの上端部が凹部24内のダンパー41の下孔43内に侵入し張出部32の下面に当接している。なお、当該当接部分(上部ロッド31aと下部ロッド31bの接続部分)において上部ロッド31aと下部ロッド31bとが水平方向に相対的にずれること防ぐため、例えば
図4に示すように張出部32の下面に穴33を形成し、この穴33に下部ロッド31bの上端が差し込まれるような構造としても良い。
【0029】
さらに、ダンパー41を凹部24内に固定するため、ダンパー41の上面には環状の留め輪51を備える。この留め輪51は凹部24内に圧入することにより設置し、これにより、張出部32により上方へ押圧されるダンパー41が凹部24から戻り流路23内に抜け出てしまうことを防ぐことが出来る。或いは、留め輪51を略C字形状とする一方で、凹部24の段差部相当位置の内周面に環状溝を設け、留め輪51を環状溝に嵌め込むことにより固定しても良い。その他、カシメ止め等の固定方法を適用しても良い。
【0030】
このような本実施形態の膨張弁11では、
図3に示す開弁状態においては、作動棒31が下方に位置している。作動棒31が最下位置となる弁全開状態においては、上部ロッド31aの張出部32も最下位置となり、ダンパー41の上側部分(上孔42の周囲部分)は張出部32から受ける押圧力は最小となる。このため、ダンパー41の上部部分の弾性変形量は最小となり張出部32に付与する弾性力も最小となるため、上部ロッド31a及び下部ロッド31bに対する制振性は低くなる。或いは、張出部32が最下位置にあるとき、ダンパー41の上側部分は弾性変形を受けない寸法関係としても良く、この場合、ダンパー41は弁全開状態において上部ロッド31aに対する制振性を示さない。
【0031】
本実施形態では、弁全開状態において、ダンパー41の外周面は凹部24の内周面と接し、下孔43の内周面は上部ロッド31aの張出部32の外周面と接しており、これにより戻り流路23と孔25との間の気密性が保たれ冷媒漏れが防止ないし低減される。他方、ダンパー41の上孔42の内周面は上部ロッド31aの外周面と離間しており、弁全開状態においてダンパー41が不要に上部ロッド31aの動作を阻害しないようになっている。
【0032】
図3に示す開弁状態から作動棒31が閉弁方向(上方)へ動作することにより張出部32が上方へ移動すると、
図2に示すようにダンパー41の上側部分(上孔42の周囲部分)が張出部32によって押し潰されるように弾性変形する。この弾性変形によりダンパー41は上下方向に圧縮されるため、ダンパー41は張出部32を下方に押圧し、この押圧力が下部ロッド31bを介して弁体15に伝達され、縦方向(上下方向)成分の振動が抑制される。また、弁体15が縦方向の振動成分を起こすと、この振動成分は下部ロッド31bを介して張出部32に伝えられるが、この縦方向の振動成分は張出部32に押し付けられているダンパー41の粘弾性によって吸収され、弁体15や作動棒31の縦振動が抑えられる。
【0033】
さらに、この弾性変形によりダンパー41は径中心方向に拡張するため、ダンパー41は上部ロッド31aの外周面をロッド軸の中心方向に向かって押圧し、上部ロッド31aの横方向(径方向)の振動成分が抑制され、また弁体15から伝達される横方向の振動成分はこの中心方向に向かって押圧しているダンパー41の粘弾性により吸収され抑制される。
【0034】
また、前述したように弁振動は弁開度が小さいときに生じやすくなるが、本実施形態の膨張弁11によれば、弁体15(作動棒31)が閉弁方向へ移動するほど張出部32によって押圧されるダンパー41の変形量が大きくなり、したがってダンパー41から作動棒31や弁体15に伝達される弾性力が大きくなるから、振動を効果的に抑制することが出来る。なお、本実施形態においては、閉弁状態においてもダンパー41の外周面は凹部24の内周面と接し、下孔43の内周面は上部ロッド31aの張出部32の外周面と接している。これにより戻り流路23と孔25との間の気密性が保たれ冷媒漏れが防止ないし低減される(冷媒の通過が抑制される)。
【0035】
本実施形態の場合、ダンパー41による弾性力は、作動棒31(すなわち張出部32)が上方(閉弁方向)へ移動するほど大きくなり、弁体15が弁座14に着座した閉弁状態で最大となるが、コイルばね17による閉弁動作を阻害することがないように当該ダンパー41による弾性力がコイルばね17による付勢力より小さくなるようにしておくことは勿論である。
【0036】
また、本実施形態による粘弾性を有する材料からなるダンパー41を用いた弁振動の抑制に加え、前記特許文献1(特開2019-11885号)に記載の発明のように弁支持部材に作用して弁振動を抑制できる防振ばね(例えば当該特許文献1の第1実施形態のばね)を適用すれば、膨張弁の弁振動をより一層良好に防ぐことも可能となる。
【0037】
なお、本実施形態においては、
図5から明らかなように、上部ロッド31a、ダンパー41、留め輪51は、凹部24に対して上方から下方に向かう方向(即ち、膨張弁11の組立後における弁の開閉方向と一致する方向)に組付けられる。この組付けにおいて、ダンパー41を冶具等により弾性変形する必要はなく、これら部材を凹部24に順次、或いは同時に組み付けるという比較的単純な工程により組付けを行うことができる。そして、最終的に膨張弁11の完成後、作動棒31が閉弁方向に移動するにつれ、ダンパー41は上部ロッド31aの張出部32により弾性変形させられることとなる。
【0038】
〔第2実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る冷凍サイクル装置は、前記第1実施形態の膨張弁を用いたものである。
【0039】
具体的には、
図6に示すようにこの冷凍サイクル装置61は、熱媒体(冷媒)を圧縮するコンプレッサ(圧縮機)62と、コンプレッサ62で圧縮された冷媒を冷却して液化するコンデンサ(凝縮器)63と、コンデンサ63で液化された冷媒を減圧膨張させる膨張弁11と、膨張弁11で減圧膨張された冷媒を蒸発気化するエバポレータ(蒸発器)64とを備え、膨張弁として前記第1実施形態に係る膨張弁11を使用する。
【0040】
かかる冷凍サイクル装置61では、コンプレッサ62で加圧された冷媒は、コンデンサ63で液化されて膨張弁11に送られる。また、膨張弁11で断熱膨張された冷媒はエバポレータ64に送り出され、エバポレータ64で、エバポレータ64の周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ64から戻る冷媒は、膨張弁11の戻り流路23を通ってコンプレッサ62へ戻される。
【0041】
膨張弁11には、コンデンサ63から高圧の冷媒が供給される。より具体的には、コンデンサ63から送られた高圧冷媒は、流入路21を通って弁室13に流れ込む。コイルばね17によって弁体15が弁座14に押し付けられて着座した閉弁状態にあれば、弁室13と流出路22とが連通していないから、弁室13内の冷媒は膨張弁11から排出されない。
【0042】
一方、コイルばね17の付勢力に抗して作動棒31が下方へ移動し、弁体15を弁座14から後退させると、弁室13と流出路22とが連通状態(開弁状態)となり、弁室13内の冷媒が流出路22から排出されてエバポレータ64へ送り出される。かかる作動棒31の動作は、弁本体12の上面部に備えられたダイアフラム装置26により行われる。
【0043】
ダイアフラム装置26は、上蓋部材27と、中央部に開口を有する受け部材28と、上蓋部材27と受け部材28との間に配置されたダイアフラム(図示せず)とを備える。そして、上蓋部材27とダイアフラムとによって囲まれる第1空間には、作動ガスを充填してある。また、ダイアフラムには作動棒31(上部ロッド31aの上端)が接続されており、第1空間内の作動ガスが液化されると、作動棒31はダイアフラムによって上方へ引き上げられ、液化された作動ガスが気化されると、作動棒31はダイアフラムによって下方へ押し下げられる。このようにして、膨張弁11の開弁状態と閉弁状態との間の切り換えが行われる。
【0044】
また、ダイアフラムと受け部材28との間の第2空間は、前記受け部材中央の開口を通じて戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒の温度と圧力に応じて、第1空間内の作動ガスの相(気相か液相か)が変化し、この変化に応じて作動棒31が駆動される。このようにして膨張弁11では、エバポレータ64から膨張弁11に戻る冷媒の温度と圧力に応じて、膨張弁11からエバポレータ64に向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0045】
また、本実施形態の冷凍サイクル装置61では、前記第1実施形態の膨張弁11を使用しているため、弁振動、特に弁体15や作動棒31に生じる振動をダンパー41によって効果的に吸収し抑制することができ、膨張弁11から異音が発生することを防ぐことが出来る。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0047】
例えば、前記実施形態では作動棒31を2本のロッド31a,31bからなるものとしたが、
図7に示すように連続した1本の棒状部材により作動棒31を構成することも可能である。また、前記実施形態では張出部32と作動棒31(上部ロッド31a)とを一体に構成したが、
図8に示すように別部材として形成した張出部(例えばリング状部材)32を作動棒31に取り付けるようにしても良い。さらに、
図9に示すように外径を変えた段差部71を作動棒31の中間部に形成し、この段差部71を本発明に言う張出部とすることも可能である。
【0048】
また前記実施形態では、ダンパー41を弁本体12(凹部24の内部)に固定し、作動棒31の閉弁方向への移動に伴って張出部32によりダンパー41が押し潰されるように弾性変形する構造としたが、例えば、作動棒31の張出部32にダンパー(弾性部材)41を固定しておき、作動棒31が閉弁方向へ移動したときに当該ダンパーが弁本体12の内壁や弁本体12に固定された他の部材などに当接して押し潰されるような構造とすることも可能である。
【0049】
また前記実施形態では弁体15と弁体支持部材16を別部材として構成したが、これらは一体に成形された1つの部材であっても良い。さらに、本発明はカーエアコンの膨張弁に好ましく使用することが出来るものであるが、用途や適用対象はカーエアコンに限られず、ルームエアコンや冷凍機など他の様々な冷凍サイクル装置の膨張弁に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
11 膨張弁
12 弁本体
13 弁室
14 弁座
15 弁体
16 弁体支持部材
17 コイルばね(付勢部材)
18 プラグ
21 流入路
22 流出路
23 戻り流路
24 凹部
25 下部ロッドを通す孔
26 ダイアフラム装置
27 上蓋部材
28 受け部材
31 作動棒
31a 上部ロッド
31b 下部ロッド
32 張出部
33 穴
41 ダンパー
42 上孔
43 下孔
51 留め輪
61 冷凍サイクル装置
62 コンプレッサ(圧縮機)
63 コンデンサ(凝縮器)
64 エバポレータ(蒸発器)
71 段差部(張出部)