(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】糖化ヘモグロビン(%)の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231109BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20231109BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20231109BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20231109BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G01N33/53 V
G01N33/531 A
G01N33/536 F
G01N33/545 B
G01N33/543 581J
(21)【出願番号】P 2020549418
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038076
(87)【国際公開番号】W WO2020067396
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018184017
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大田 美恵子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 理子
(72)【発明者】
【氏名】山本 光章
(72)【発明者】
【氏名】西尾 朋久
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-031250(JP,A)
【文献】特開2013-076713(JP,A)
【文献】特開平10-010127(JP,A)
【文献】特開平07-035752(JP,A)
【文献】特開2002-365290(JP,A)
【文献】国際公開第2002/095407(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/018953(WO,A1)
【文献】特開2013-511717(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HbS及びHbCのいずれかあるいは両方を含む可能性のある試料中の糖化ヘモグロビン(%)を液中で測定する方法であって、
緩衝液に含まれる不溶性担体と試料とを接触させることにより試料中の糖化ヘモグロビンを不溶性担体に吸着させる工程と、
不溶性担体に吸着した糖化ヘモグロビンと抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体とを接触させることにより抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体、糖化ヘモグロビン、及び不溶性担体の複合体を形成する工程と、
当該複合体と抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体とを接触させることにより不溶性担体を液中で凝集させる工程と、
を含む前記糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
【請求項2】
不溶性担体がラテックスである請求項1に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
【請求項3】
試料が全血又は血球である請求項1又は2に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
【請求項4】
凝集度合いを光学的に検出する工程を含む請求項1~3のいずれかに記載の測定方法。
【請求項5】
少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体及び不溶性担体を含む緩衝液を含む
、HbS及びHbCのいずれかあるいは両方を含む可能性のある試料を測定するための、糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体
【請求項6】
第1試薬と第2試薬を含む糖化ヘモグロビン(%)測定試薬であって、 第1試薬は、不溶性担体を含む緩衝液を含み、第2試薬は、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体を含む請求項5に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体
【請求項7】
不溶性担体がラテックスである請求項5又は6に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬 。
【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬を含む糖化ヘモグロビン(%)測定キット。
【請求項9】
HbS及びHbCのいずれかあるいは両方を含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の乖離低減方法であって 、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体、不溶性担体を含む緩衝液及び試料とを接触させる工程を含む前記乖離低減方法。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体
【請求項10】
HbS及びHbCのいずれかあるいは両方を含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の高値化抑制方法であって、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体、不溶性担体を含む緩衝液及び試料とを接触させる工程を含む前記高値化抑制方法。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体
【請求項11】
HbS及びHbCのいずれかあるいは両方を含む可能性のある試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の乖離低減あるいは高値化抑制のための測定方法であって、
緩衝液に含まれる不溶性担体と試料とを接触させることにより試料中の糖化ヘモグロビンを不溶性担体に吸着させる工程と、
不溶性担体に吸着した糖化ヘモグロビンと抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体とを接触させることにより抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体、糖化ヘモグロビン、及び不溶性担体の複合体を形成する工程と、
当該複合体と抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体であってヒトIgGとは反応しないモノクローナル抗体とを接触させることにより不溶性担体を液中で凝集させる工程と、
を含む前記測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫反応を利用した糖化ヘモグロビン(%)の測定方法及び測定試薬に関する。さらに詳しくは、複数のモノクローナル抗体を用いる糖化ヘモグロビン(%)の測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビンA1c(以下、単にHbA1cと表すことがある)は、2本のα鎖と2本のβ鎖からなりヘテロテトラマー構造を有するヘモグロビンのβ鎖N末端のアミノ酸残基のα-アミノ基にグルコースが非酵素的に結合した糖化ヘモグロビンである。このHbA1cの血中割合は糖尿病の比較的長期の血糖コントロール状態を反映することが知られており、HbA1cを測定することは血糖コントロール状態を知る上で臨床的に極めて有意義である。HbA1cの免疫学的な測定方法としては次のような技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、未感作のラテックスとHbA1cを含む試料とを反応させ、次に、抗HbA1c抗体を反応させ、HbA1cが吸着したラテックスの抗HbA1c抗体を介した凝集を測定するHbA1c(%)の測定方法が開示されている。この測定方法ではモノクローナル抗体は、HbA1cに対する抗体1種類しか使われていない。
【0004】
特許文献2には、試料中のHbA1cを、ラテックスなどの不溶性担体粒子に吸着させ、抗HbA1cモノクローナル抗体(第一抗体)と反応させた後に、該モノクローナル抗体に選択的に結合する第二抗体を更に反応させて、不溶性担体粒子を選択的に凝集させる凝集イムノアッセイ法が開示されている。このアッセイ法では、抗体を2種類使っているが、モノクローナル抗体は第一抗体の抗HbA1cモノクローナル抗体のみで、第二抗体は抗HbA1cモノクローナル抗体に結合するポリクローナル抗体であってモノクローナル抗体ではない。
【0005】
また、従来の製品としては、ラテックスを含む第1試薬と、抗ヒトHbA1cモノクローナル抗体及び抗マウスIgG抗体との結合物を含む第2試薬とからなるHbA1c(%)測定試薬が知られている(非特許文献1、非特許文献2)。本測定試薬によれば、血液中のHbA1cがラテックスに吸着し、ラテックスに吸着しているHbA1cに前記抗体の結合物が免疫反応し、このときに生ずるラテックスの凝集を濁度として求めている。
【0006】
ところで、正常なヘモグロビンは前述のとおり、2本のα鎖と2本のβ鎖からなるヘテロテトラマーであるが、一部のアフリカ人やアメリカ黒人の血液には、β鎖の一部が変異した異常ヘモグロビンが存在することが知られている。具体的にはヘモグロビン(Hb)のβ鎖のN末端から6番目のGluがValに変異したHbSや、同じく6番目のGluがLysに変異したHbCなどである。そのような変異した配列を有する異常ヘモグロビンを保持するHbS症状、HbC症状を有する者は日本人では極めて少ないものの一定の割合でやはり存在する。そして、このような異常ヘモグロビン症状の患者血液を従来のHbA1c測定方法で測定したところ、HbA1c(%)の測定値(厳密には糖化HbS、糖化HbCなどの糖化ヘモグロビン(%)の測定値)がHPLC法に比べて高値化し、正確な測定が出来ないことが判明した(後記実施例中の比較例2参照)。
【0007】
特許文献3には、試料中のすべての糖化ヘモグロビンを、糖化ヘモグロビンの形態に関わりなく検出すること、すなわち、糖化ヒトヘモグロビンA、糖化ヒトヘモグロビンS、糖化ヒトヘモグロビンCを検出することを目的として、エンドペプチダーゼ処理されたヒトヘモグロビン含有試料をプロリン特異的エンドペプチダーゼで消化して、得られる糖化ペンタペプチドのレベルを定量化することにより、試料中に存在する糖化ヘモグロビンを検出する方法が記載されている。プロリン特異的エンドペプチダーゼによる、ヘモグロビンA、ヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含有する試料の消化は、ヘモグロビンA、ヘモグロビンS及びヘモグロビンCそれぞれの場合で同じ糖化ペンタペプチドを生じさせることを利用したものである。
前記糖化ペンタペプチドの定量は、マウスモノクロナール抗HbA1c抗体を用いた凝集阻害測定法により行われる。しかし、本方法では2種類のペプチダーゼ処理工程が必要であり、操作が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-66795号公報
【文献】特開平6-167495号公報
【文献】特表2011-503632
【非特許文献】
【0009】
【文献】ラピディア(登録商標)オートHbA1c添付文書
【文献】デタミナ-(登録商標)LHbA1c添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヘモグロビンを含む血液検体にHbSやHbCなどの異常ヘモグロビンが含まれている場合であっても、その影響を受けず、血中の糖化ヘモグロビン(%)を正確に測定することができる糖化ヘモグロビン(%)測定方法及び測定試薬の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、抗HbA1cモノクローナル抗体と、抗HbA1cモノクローナル抗体に対するモノクローナル抗体を組み合わせることにより、異常ヘモグロビン検体であっても血液中の糖化ヘモグロビン(%)を正確に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)試料中の糖化ヘモグロビン(%)を測定する方法であって、
不溶性担体と試料とを接触させることにより試料中の糖化ヘモグロビンを不溶性担体に吸着させる工程と、
不溶性担体に吸着した糖化ヘモグロビンと抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体とを接触させることにより抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体、糖化ヘモグロビン、及び不溶性担体の複合体を形成する工程と、
当該複合体と抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体とを接触させることにより不溶性担体を凝集させる工程と、
を含む前記糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
(2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体が、ヒトIgGとは反応しない抗体である(1)に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
(3)不溶性担体がラテックスである(1)又は(2)に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
(4)試料が全血又は血球である(1)~(3)のいずれかに記載の糖化ヘモグロビン(%)測定方法。
(5)凝集度合いを光学的に検出する工程を含む(1)~(4)のいずれかに記載の測定方法。
(6)少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体を含む糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体
(7)さらに、不溶性担体を含む(6)に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
(8)第1試薬と第2試薬を含む糖化ヘモグロビン(%)測定試薬であって、
第1試薬は、不溶性担体を含み、第2試薬は、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体を含む(7)に記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体
(9)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体が、ヒトIgGとは反応しない抗体である(6)~(8)のいずれかに記載の測定試薬。
(10)不溶性担体がラテックスである(6)~(9)のいずれかに記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬。
(11)(6)~(10)のいずれかに記載の糖化ヘモグロビン(%)測定試薬を含む糖化ヘモグロビン(%)測定キット。
(12)ヒト糖化ヘモグロビンに結合しているモノクローナル抗体と反応し、かつ、ヒトIgGに反応しないモノクローナル抗体。
(13)異常ヘモグロビンを含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の乖離低減方法であって、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体、不溶性担体及び試料とを接触させる工程を含む前記乖離低減方法。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体
(14)異常ヘモグロビンを含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の高値化抑制方法であって、少なくとも以下の2種のモノクローナル抗体、不溶性担体及び試料とを接触させる工程を含む前記高値化抑制方法。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体
2)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応するモノクローナル抗体
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、血液検体が正常なヘモグロビンだけではなく、HbSやHbCなどの異常なヘモグロビンを含む場合であっても、正確な糖化ヘモグロビン(%)の免疫測定が可能である。また、本発明によれば、異常ヘモグロビン検体を特に選別することなくいずれも同様に測定できることから自動連続測定に適した試薬を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体)
本発明のモノクローナル抗体には、少なくとも第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体があり、糖化ヘモグロビン(%)の測定に際してはこれらを組み合わせて用いる。第1のモノクローナル抗体は、ヒトの糖化ヘモグロビンと特異的に反応するモノクローナル抗体であればいずれのモノクローナル抗体でもよい。ヒトの糖化ヘモグロビンと特異的に反応するとは、ヒト糖化ヘモグロビンには反応するが、糖化されていないヒトヘモグロビンには実質的に反応しないことを言う。
【0014】
本発明の第1のモノクローナル抗体は、HbA1cなどの糖化ヘモグロビンに特異的なβ鎖N末端領域を認識するモノクローナル抗体であるが、このβ鎖N末端領域はヘモグロビンの高次構造中に埋没して存在するため、抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体で糖化ヘモグロビンを免疫測定するためには検体の変性処理が通常必要となる。しかしながら、ラテックスなどの不溶性担体に糖化ヘモグロビンを吸着させることにより糖化ヘモグロビンの構造が変化することで、糖化ヘモグロビンのβ鎖N末端領域が露出し、抗糖化ヘモグロビン抗体による免疫測定が可能になると考えられている。
【0015】
(抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に対するモノクローナル抗体)
本発明の第2のモノクローナル抗体は、少なくとも以下の1)の性質を有するモノクローナル抗体であればいずれのモノクローナル抗体でもよい。望ましくはさらに2)の性質を有するモノクローナル抗体である。
1)抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応する
2)ヒトIgGに反応しない
【0016】
本発明の第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体を組み合わせた糖化ヘモグロビン(%)の測定方法は、試料中に正常ヘモグロビンの変異体であるHbSやHbCなどの異常ヘモグロビンがあってもこれらの変異による影響を受けにくい糖化ヘモグロビン(%)の測定方法である。本発明の糖化ヘモグロビンの測定対象には、このような異常なヘモグロビンが糖化された糖化HbS、糖化HbCと正常な糖化ヘモグロビン(HbA1c)のいずれも含まれる。すなわち、いずれの糖化ヘモグロビンを含む検体であっても、正確な糖化ヘモグロビン(%)測定値が得られる。
従来のような、第二抗体としてポリクローナル抗体を用いた免疫凝集法では、異常ヘモグロビンが存在すると糖化ヘモグロビン(%)の測定値が高値化して真値から乖離するという問題があった。しかし、本発明の測定方法のように、第二抗体を、抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に対するモノクローナル抗体とすることで、理由は定かではないが、試料中に異常ヘモグロビンが存在しても正確に糖化ヘモグロビン(%)を測定することが可能となった。
本明細書中、第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体は、それぞれの抗原と反応させる工程が順次行われる場合は、第1のモノクローナル抗体は1次抗体、第2のモノクローナル抗体は2次抗体と呼ぶことがある。
【0017】
また、モノクローナル抗体と抗原との反応性について、「反応する」、「認識する」、「結合する」は、同義の意味で用いられる。
本発明の抗体と、ある化合物が「反応しない」とは、ある化合物と実質的に反応しないことをいい、例えば、後述する実施例では、抗原固相化ELISAのプレートリーダーによる測定で0.1Abs未満をいう。
【0018】
第1のモノクローナル抗体を取得するための抗原は、糖化ヘモグロビンであればよく、典型的にはHbA1cが好ましく用いられ、HbA1cは、HbA1c全体であってもよく、その一部であってもよい。後述する実施例では、糖化ヘモグロビンとしてHbA1c、糖化していないヘモグロビンとしてHbA0を用いて本発明の第1のモノクローナル抗体を取得した。したがって、その場合の抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体を特に、抗HbA1cモノクローナル抗体という。
また、第2のモノクローナル抗体を取得するための抗原として認識される第1のモノクローナル抗体はモノクローナル抗体全体であってもよく、その一部であってもよい。
【0019】
本発明の抗体は、抗原としてキャリア蛋白に糖化ペプチド(f-VHLT、f-VHLTPEEKYYC:fはフルクトシル化を意味する)を結合させた物質(以下、糖化ペプチド結合蛋白という)をリン酸緩衝生理食塩水などの溶媒に溶解し、この溶液を動物に投与して免疫することによりに容易に製造できる。キャリア蛋白としては、ウシ血清アルブミン、スカシ貝ヘモシアニン、卵白アルブミンなどを用いてもよい。必要に応じて前記溶液に適宜のアジュバントを添加した後、エマルジョンを用いて免疫を行ってもよい。アジュバントとしては、油中水型乳剤、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲルなどの汎用されるアジュバントのほか、生体成分由来のタンパク質やペプチド性物質などを用いてもよい。例えば、フロイントの不完全アジュバント又はフロイントの完全アジュバントなどを好適に用いることができる。アジュバントの投与経路、投与量、投与時期は特に限定されないが、抗原を免疫する動物において所望の免疫応答を増強できるように適宜選択することが望ましい。
【0020】
免疫に用いる動物の種類も特に限定されないが、哺乳動物が好ましく、例えばマウス、ラット、ウサギなどを用いることができ、より好ましくはマウスを用いることができる。動物の免疫は、一般的な手法に従って行えばよく、例えば、抗原の溶液、好ましくはアジュバントとの混合物を動物の皮下、皮内、静脈、又は腹腔内に注射することにより免疫を行うことができる。免疫応答は、一般的に免疫される動物の種類及び系統によって異なるので、免疫スケジュールは使用される動物に応じて適宜設定することが望ましい。抗原投与は最初の免疫後に何回か繰り返し行うことが好ましい。
【0021】
モノクローナル抗体を得る場合、引き続き以下の操作が行われるが、それに限定されることはなく、モノクローナル抗体それ自体の製造方法については、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,(1988))に記載の方法に準じて行うことができる。
【0022】
最終免疫後、免疫した動物から抗体産生細胞である脾臓細胞あるいはリンパ節細胞を摘出し、高い増殖能を有するミエローマ細胞と細胞融合させることによりハイブリドーマを作製することができる。細胞融合には抗体産生能(質・量)が高い細胞を用いることが好ましく、またミエローマ細胞は融合する抗体産生細胞の由来する動物と適合性があることが好ましい。細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行うことができるが、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などを採用することができる。得られたハイブリドーマは公知の方法に従って増殖させることができ、産生される抗体の性質を確認しつつ所望のハイブリドーマを選択することができる。ハイブリドーマのクローニングは、例えば限界希釈法や軟寒天法などの公知の方法により行うことが可能である。
【0023】
第1のモノクローナル抗体を取得する方法について説明する。
第1のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、産生される抗体が実際の測定に用いられる条件を考慮し、効率的に行うことができる。例えば、ELISA法、RIA法等により、HbA1cに反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより得られる。具体的には、まず、培養上清中のモノクローナル抗体を、固相化した糖化ペプチド結合蛋白と反応させ、次いで固相化したHbA0と反応させる抗原固相化ELISA法などにより、HbA1cに対し高い反応性を示し、かつ、HbA0とは反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することなどにより得ることができる。
【0024】
このようにして選別されたハイブリドーマを大量培養することにより、所望の特性を有するモノクローナル抗体を製造することができる。大量培養の方法は特に限定されないが、例えば、ハイブリドーマを適宜の培地中で培養してモノクローナル抗体を培地中に産生させる方法や、哺乳動物の腹腔内にハイブリドーマを注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法などを挙げることができる。モノクローナル抗体の精製は、例えば陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0025】
次に、第2のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、第1のモノクローナル抗体である抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより行われる。また、非特異的反応を低減するためには、上記工程の後に、さらに、ヒトIgGとの反応性がマウスIgGよりも低い抗体を選択する工程を追加することが好ましい。
具体的には、まず、培養上清中のモノクローナル抗体から、抗原固相化ELISA法などにより、抗糖化ヘモグロビンモノクローナル抗体に対し高い反応性を示すハイブリドーマを選択する工程、及びヒトIgGとの反応性がマウスIgGよりも低いものを選択する工程の2つの工程を経て得ることができる。
【0026】
本発明の抗体としては、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体の機能性断片を使用することも可能であり、前記のように動物への免疫工程を経て得られたもののほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られるものや、キメラ抗体を用いることも可能である。抗体の機能性断片としては、例えば、F(ab’)2、Fabが挙げられ、これらの機能性断片は前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理することにより製造できる。
【0027】
また、本発明の第2のモノクローナル抗体は、不溶性担体上に固定された固定(固相)化抗体として使用したり、後述する当業者に周知慣用の標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体はいずれも本発明の範囲に包含される。例えば、不溶性担体にモノクローナル抗体を物理的に吸着させ、あるいは化学的に結合(適当なスペーサーを介してもよい)させることにより固定化抗体を製造することができる。不溶性担体としては、ポリスチレン樹脂などの高分子基材、ガラスなどの無機基材、セルロースやアガロースなどの多糖類基材などからなる不溶性担体を用いることができ、その形状は特に限定されず、板状(例えば、マイクロプレートやメンブレン)、ビーズあるいは微粒子状(例えば、ラテックス粒子)、筒状(例えば、試験管)など任意の形状を選択できる。
【0028】
本発明の第2のモノクローナル抗体を結合可能な標識物質で標識して標識抗体とすることにより、試料中の糖化ヘモグロビン(%)を測定することができる。また、本発明の第2のモノクローナル抗体と結合可能な標識抗体、標識プロテインA又は,標識プロテインG等を使用することもできる。標識物質としては、例えば酵素、蛍光物質、化学発光物質、ビオチン、アビジン、又は放射性同位体、金コロイド粒子、着色ラテックスなどが挙げられる。標識物質と抗体との結合法としては、当業者に利用可能なグルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、又は過ヨウ素酸法などの方法を用いることができるが、固定化抗体や標識抗体の種類、及びそれらの製造方法は前記の例に限定されることはない。例えば、パーオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素を標識物質として用いる場合にはその酵素の特異的基質(酵素が西洋ワサビパーオキシダーゼの場合には、例えばO-フェニレンジアミンあるいは3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、ALPの場合には、p-ニトロフェニル・ホスフェートなど)を用いて酵素活性を測定することができ、ビオチンを標識物質として用いる場合には少なくともアビジンあるいは酵素修飾アビジンを反応させるのが一般的である。
【0029】
本明細書において、「不溶性担体」を「固相」、抗原や抗体を不溶性担体に物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」、「結合」と表現することがある。また、「検出」又は「測定」という用語は、糖化ヘモグロビンの存在の証明及び/又は定量などを含める意味で用いられる。
【0030】
本発明の抗体を用いる測定方法における検出対象の「試料」としては、糖化ヘモグロビンを含みうる試料であればいずれでもよく、主に生体(生物)由来の体液を挙げることができる。具体的には、血球または全血である。これらの試料はそのまま使用されることもあるが、検体希釈液で希釈されたり、その他の前処理を施されてから使用されることもある。
【0031】
本発明により提供される測定用試薬の態様としては、糖化ヘモグロビン(%)の測定ができる試薬であれば、特に限定されるものではない。以下、代表的な粒子凝集イムノアッセイ法であるラテックス免疫凝集法(以下、LTIA法という)を例にそれぞれを説明する。
【0032】
<粒子凝集イムノアッセイ法:(LTIA法)>
試料中に存在する糖化ヘモグロビン(%)を検出するための測定用試薬はそれぞれ少なくとも以下の要素:
(a)第1のモノクローナル抗体
(b)第2のモノクローナル抗体
(c)不溶性担体粒子
が必要とされる。
【0033】
本測定用試薬はLTIA法に好適に使用できる。使用されるラテックス粒子は、感度向上などの所望の性能を得るため、粒径や種類を適宜選択することができる。ラテックス粒子としては、抗原であるHbA1cの吸着・結合に適したものであれば良い。例えば、ポリスチレン、スチレン-スルフォン酸(塩)共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。ラテックス粒子の形状は特に限定されないが、その平均粒子径は、ラテックス粒子表面のHbA1cと抗体との免疫反応及び抗体同士の凝集反応の結果生じる凝集体が、肉眼又は光学的に検出できるに十分な大きさを有することが好ましい。好ましい平均粒子径としては0.02~1.6μmであり、特に0.03~0.5μmが好ましい。また、金属コロイド、ゼラチン、リポソーム、マイクロカプセル、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、セラミックス又は磁性体等の材質よりなる粒子をラテックス粒子に代えて使用することもできる。これらの粒子は蛍光物質を含んでいてもよい。
本発明の不溶性担体は未感作のものが好ましい。本発明のラテックス粒子を含む試薬は、適宜緩衝成分(緩衝液)を含む。
【0034】
本発明に用いることが出来る緩衝液としては、一般的に使用されるものであればよく、例えばトリス塩酸、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、フタル酸、グルタル酸、マレイン酸、グリシン及びそれらの塩などや、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES等のグット緩衝液などが挙げられる。
【0035】
本発明の試薬は2試薬(2ステップ法)が望ましく3試薬(3ステップ法)とすることもできる。2試薬の場合は、不溶性担体を含む第1試薬と2種類のモノクローナル抗体を含む第2試薬に分けることが望ましい。また、(a)、(b)、(c)をそれぞれ別の試薬構成とする3試薬系(3ステップ法)に構成することもできる。
ラテックスの凝集の測定は、生じた凝集の程度を光学的あるいは電気化学的に観察することにより糖化ヘモグロビン(%)を測定できる。光学的に観察する方法としては、散乱光強度、吸光度、又は透過光強度を光学機器で測定する方法(エンドポイント法、レート法等)が挙げられる。
試料を測定して得た吸光度等の測定値を、標準物質(糖化ヘモグロビン(%)が既知の試料)を測定して得た吸光度等の測定値と比較して、試料中に含まれていた測定対象物質の濃度(定量値)を算出する。なお、透過光又は散乱光などの吸光度等の測定は、1波長測定であっても、又は2波長測定(2つの波長による差又は比)であってもよい。測定波長は、400nmから800nmの中から選ばれるのが一般的である。
【0036】
本発明の試料中の測定対象物質の測定は、用手法により行ってもよいし、又は測定装置等の装置を用いて行ってもよい。測定装置は、汎用自動分析装置であっても、専用の測定装置(専用機)であってもよい。専用の測定装置として、微小流路(マイクロ流路)を利用して試料と試薬を混合し、反応させて検出を行うような以下のような検査用デバイス装置であってもよい。具体的には、水平な回転軸回りに回転操作される反応カセットを採用し、この反応カセットは、微小流路と、微小流路と連通し液体試料を微小流路に導入する注入孔とを具備しており、簡易に希釈液を導入できる手段を備えている。当該反応流路は、分析試薬を組み込んだ試薬域と、液体試料を分析試薬に接触させ、かつ液体試料が分析試薬とともに攪拌されることで、所定の反応を促すことが十分に行われるように、微小流路に沿って液体試料の重力による流れを乱す手段とを具備している。このように構成された反応カセットが、回転および振動させられることにより、液体試料を微小流路を通じて流動させて分析試薬に接触させ、かつ液体試料が分析試薬とともに攪拌されることで、所定の反応を促し、液体試料中の検出可能な反応を測定するという仕組みの装置である。
【0037】
また、本発明の測定は、2ステップ法(2試薬法)等の複数の操作ステップにより行う方法によって実施することが好ましい。
【0038】
また、本発明によれば、血液検体が正常なヘモグロビンだけではなく、変異体であるHbSやHbCなどの異常なヘモグロビンを含む場合であっても、正確な糖化ヘモグロビン(%)の免疫測定が可能となった。したがって、本発明の測定方法は、異常ヘモグロビンを含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の乖離低減方法でもあり、また、異常ヘモグロビンを含む試料中の糖化ヘモグロビン(%)測定値の高値化抑制方法でもある。
【0039】
また、本発明において前記測定試薬を複数に分けて糖化ヘモグロビン(%)測定キットとすることもできる。または、他の構成とともに糖化ヘモグロビン(%)測定キットとすることもできる。また、当該他の構成としては、他に検出に必要な試薬、検体の希釈液、検体採取用の用具、または取り扱い説明書などが挙げられる。
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
[実施例]本発明測定試薬の製造
1.第1のモノクローナル抗体の取得
本発明の第一のモノクローナル抗体として、抗HbA1cモノクローナル抗体を以下のように製造した。
(1)精製HbA0及び精製HbA1cの調製
HbA0及びHbA1cは、非特許文献(Melisenda J.McDonald et al、JBC、253(7)、2327-2332、1978)記載のBio-Rex70(バイオラッド社)を用いるイオン交換クロマトグラフィーにより、ヒト赤血球溶血液から精製し、以降の実験に用いた。
【0041】
(2)各種ペプチド、及び糖化ペプチドの調製
2種類のアミノ配列のペプチド(VHLTC(配列番号1)及びVHLTPEEKYYC(配列番号2):アルファベットはアミノ酸の一文字表記を示す)は、ペプチド自動合成装置を用いFmoc法により合成、及び精製した。各ペプチドの純度は、HPLCにより95%以上であることを確認した。また、各ペプチドの分子量は、質量分析(MALDI-TOF法)により理論値と同じであることを確認した。
前記2種類のペプチドを特開昭61-172064記載の方法にて糖化し、糖化ペプチド(f-VHLTC及びf-VHLTPEEKYYC:fは、フルクトシル化を意味する)を精製した。すなわち、各配列のペプチドそれぞれとグルコースを無水ピリジン中で反応させて糖化ペプチドを合成し、HPLCで精製した。各糖化ペプチドの分子量は、質量分析(MALDI-TOF法)により理論値、すなわち各ペプチドの分子量に162を加算した分子量と同じであることを確認した。
【0042】
(3)第1のモノクローナル抗体の取得
第1のモノクローナル抗体である抗HbA1cモノクローナル抗体は、以下のように製造した。まず、前記(2)で合成した糖化ペプチド(f-VHLTPEEKYYC)をスカシ貝ヘモシアニンに結合させ、これを免疫原としてマウスに免疫した。ハイブリドーマのスクリーニングでは、抗原固相化ELISAで糖化ペプチド結合蛋白と反応し、かつ精製HbA0と反応しない株を6株選択した。クローニングを経て、最終的に抗原固相化ELISAで精製HbA1cと反応し、かつ精製HbA0と反応しないモノクローナル抗体(抗体68207、68208、68210、68211、68213、68214)を得た。
【0043】
2.第2のモノクローナル抗体の取得
本発明の第2のモノクローナル抗体として、抗HbA1cモノクローナル抗体に対するモノクローナル抗体を以下のように製造した。
(1)免疫
前記1.で得られた3種の異なるマウス抗HbA1cモノクローナル抗体(68210、68211、68213:積水メディカル社製)を免疫原とし、ラットを宿主として、定法にて免疫した。最終免疫は細胞融合の3~4日前に行い、脾臓細胞及びリンパ節細胞を回収し、電気融合法またはPEG法でミエローマ細胞(SP2/O)と融合した。融合細胞は96穴プレートで培養し、細胞融合から7~8日後に培養上清を回収して下記に示すスクリーニングを行った。
【0044】
(2)スクリーニング
ハイブリドーマのスクリーニングでは、抗原固相化ELISAで、マウスIgGと反応し、且つヒトIgGと反応しない株を選択した。
(2-1)抗原固相化ELISA
(i)ELISA用96穴プレートに固相化抗原としてPBSで1μg/mLに希釈したマウス抗HbA1cモノクローナル抗体(68208、あるいは68214)またはヒトIgGを50μL/wellずつ分注し、室温で2時間静置した。
(ii)0.05%Tween20-PBS(PBST)(400μL/well)で3回洗浄後、ブロッキング液として1%BSA-PBST(100μL/well)を分注し、室温で1時間静置した。
(iii)ブロッキング液を除去後、2倍希釈した培養上清を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(iv)3回洗浄後、10000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ラットポリクローナル抗体を50μL/wellずつ分注し、室温で1時間静置した。
(v)3回洗浄後、OPD発色液を50μL/wellずつ分注し、室温で10分間静置した。
(vi)停止液を50μL/wellずつ分注し、反応停止後プレートリーダーで吸光度を測定した(Abs.492nm)。
【0045】
(2-2)結果
計13株(S07201R~S072013R)のハイブリドーマを取得した(表1)。
【0046】
【0047】
(3)獲得抗体の反応性の確認
スクリーニングで選択したハイブリドーマを限界希釈法で単クローン化し、定法によりマウス腹腔に投与して、腹水を得た。得られた腹水から抗体を精製し、抗原固相化ELISAにて反応性を確認した。
(3-1)抗原固相化ELISA
固相化抗原として68210、68213を用いた以外は、(2)スクリーニングと同様の方法で行った。
【0048】
(3-2)結果
得られた13種の抗体は、いずれの固相化抗原に対してもヒトIgGよりマウスIgG(抗マウスIgGモノクローナル抗体)に対して強い反応性を示した。
【0049】
【0050】
3.免疫学的測定方法
(1)実施例処方
(i)第一試薬の組成を以下に示す。
10mM EPPS(pH8.0)
ラテックス粒子(平均粒径約120nm)
(ii)第二試薬の組成を以下に示す。
10mM Bis-Tris(pH6.0)
1次抗体(0.1mg/mL マウス抗HbA1cモノクローナル抗体)(表3)
2次抗体(0.1mg/mL ラット抗マウスIgGモノクローナル抗体)(表3)
500mM NaCl
0.05% Tween-20
0.09%アジ化ナトリウム
【0051】
【0052】
(2)測定方法
測定には、日立7170形自動分析装置を使用した。検体6.3μLと第一試薬150μLを反応セルに添加し、37℃で5分間反応させた後、さらに第二試薬50μLを反応セルに添加し、37℃で5分間反応させ、2ポイントエンド法(測光ポイント19-34)、主波長660nm、副波長800nmで吸光度変化量を測定した。検量線は、標準品として協和メデックス社製 デタミナーキャリブレーターHbA1c液状試薬用を、メーカー指定の方法で調整して作製した。
【0053】
(3)比較例
(i)比較例1:HPLC法(アークレイ社製アダムスHA-8180T)
メーカーにより指定された方法で使用して、各種検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定をおこなった。
(ii)比較例2:2次抗体としてポリクローナル抗体を用いたLTIA法(1)(協和メデックス社製デタミナーL HbA1c)
協和メデックス社製のデタミナーL HbA1cをメーカーにより指定された方法で使用して、各種検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定をおこなった。測定の際、装置は日立7170形自動分析装置を使用した。
【0054】
(4)参考例:2次抗体としてポリクローナル抗体を用いたLTIA法(2)(積水メディカル社製)
実施例2に示した第一試薬、および、1次抗体として68210を0.06mg/mL、2次抗体としてヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(Fc特異的抗体:蛋白精製工業社製)0.05mg/mLを添加した以外は実施例2と同一組成である第二試薬を用いて、各種検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定をおこなった。測定の際、装置は日立7170形自動分析装置を使用した。
【0055】
[試験例1]血球検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
(1)正常検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
既製品である比較例2(協和メデックス社製デタミナーL HbA1c)に対して、参考例および実施例1~17において正常検体の糖化ヘモグロビン(%)を高精度に測定できていることを確認した。
EDTA採血管で採血された任意の正常血液検体(同意を得たボランティアより入手)を、800Gで5分間遠心分離し、得られた下層の血球層を精製水で100倍希釈したものの糖化ヘモグロビン(%)を測定した。50検体測定した際の、各試薬のデタミナーL HbA1cに対する相関式および相関係数を表4に示す。
いずれも相関係数は良好であり、参考例、実施例1~17において、正常検体について高精度に糖化ヘモグロビン(%)を測定できることが示された。
【0056】
【0057】
(2)各異常Hb検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
市販の異常Hb検体(ビジコムジャパンより購入)について糖化ヘモグロビン(%)を測定した。これらは血球検体であり、採血後、遠心分離により血球層を分離した後、-70℃以下で凍結保存されたものである。
(2-1)HbS含有検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
比較例1に示したHPLC法であるアークレイ社製アダムスHA-8180Tは、バリアントモード(Variant mode)にて、血球および全血検体について、異常HbであるHbSとHbCを検出できる。使用したHbSを含有する血球検体のHbS(%)は、33.2%であった。
上記のHbSを含有する検体の糖化ヘモグロビン(%)をHPLC法で測定したところ、6.2%であった。また、上記のHbSを含有する検体を実施例1~10、比較例2、参考例の試薬で測定した糖化ヘモグロビン(%)と、HPLC法で測定した際の糖化ヘモグロビン(%)との差(糖化ヘモグロビン(%))を表5に示す。
2次抗体としてポリクローナル抗体を使用している比較例2では、測定値は6.9%となり、HPLC法に対して0.7%も高値化した。また、2次抗体としてポリクローナル抗体を組み合わせた参考例においても、測定値は6.7%となり、HPLC法に対して0.5%の高値化が認められた。
一方、2次抗体として本発明のモノクローナル抗体を組み合わせた実施例1~10においては、測定値は5.9%~6.4%となり、HPLC法との差異は-0.2%~0.2%であった。変異HbであるHbSを含む血球検体において、2次抗体としてモノクローナル抗体を使用した場合に、測定精度が向上したと言える。
【0058】
【0059】
(2-2)HbC含有検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
使用したHbCを含有する血球検体のHbC(%)をHPLC法にて測定したところ、31.8%~40.9%であった。
上記のHbCを含有する検体の糖化ヘモグロビン(%)をHPLC法にて測定したところ、4.8~5.9%であった。また、上記のHbCを含有する検体を比較例2、参考例、実施例1の試薬で測定した糖化ヘモグロビン(%)と、HPLC法で測定した際の糖化ヘモグロビン(%)との差 (糖化ヘモグロビン(%))を表6に示す。
上記の検体を、2次抗体としてポリクローナル抗体を使用している比較例2で測定したところ、HPLC法に対する差は0.9~3.1%と高く、比較例2の試薬ではHbCを含有する血球検体の糖化ヘモグロビン(%)を正確に測定することはできなかった。参考例においては、HPLC法に対する差は0.5~1.7%であり、比較例2より正確に糖化ヘモグロビン(%)を測定することができた。
さらに、2次抗体として本願発明のモノクローナル抗体を組み合わせた実施例1においては、HPLC法に対する差は-0.4~-0.2%であり、HbCを含有する血球検体においても糖化ヘモグロビン(%)を高い精度で測定することができた。
【0060】
【0061】
さらに、検体番号HbC-1について、実施例8~17の試薬で測定した結果を表7に示す。比較例1~2、参考例、実施例1の測定結果は、表6と同一である。HbC-1の糖化ヘモグロビン(%)は、比較例1のHPLC法で測定した場合、5.8%だった。この検体を、2次抗体としてポリクローナル抗体を使用している比較例2で測定したところ、HPLC法に対する測定値の差は0.9%と参考例や本発明の方法と比較して高く、比較例2の試薬ではHbCを含有する検体の糖化ヘモグロビン(%)を正確に測定することはできなかった。参考例においては、HPLC法に対する測定値の差は0.5%であり、比較例2よりも正確に測定することができた。さらに、2次抗体として本願発明のモノクローナル抗体を組み合わせた実施例8~17においては、HPLC法に対する測定値の差は-0.1~0.3%であり、HbCを含有する検体においても糖化ヘモグロビン(%)を高い精度で測定することができた。
【0062】
【0063】
[試験例2]全血検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
(1)正常検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
既製品である比較例2(協和メデックス社製デタミナーL HbA1c)の血球検体の糖化ヘモグロビンの測定値に対して、比較例3および実施例3、4、8、9、11-13,15おいて全血の正常検体について高精度に糖化ヘモグロビン(%)を測定できていることを確認した。
試験例1(1)正常検体の測定で使用した、EDTA採血管で採血された任意の正常血液検体の糖化ヘモグロビン(%)を測定した。各検体は、遠心分離することなく全血状態のまま使用し、精製水で50倍希釈して調製した。50検体測定した際の各試薬の全血検体の測定結果について、デタミナーL HbA1cで血球検体を測定した際の測定値に対する相関係数を表8に示す。比較例2の試薬では、他の試薬を用いた場合と比較して相関係数が最も低く、全血検体について精度よく糖化ヘモグロビン(%)を測定できなかった。一方、参考例、実施例3、4、8、9、11-13,15においては、いずれも相関係数は良好であり、全血の正常検体について高精度に糖化ヘモグロビン(%)を測定できていることが示された。
【0064】
【0065】
(2)各異常Hb検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
市販の異常Hb検体(ビジコムジャパンより購入)を測定に使用した。これらは全血検体であり、採血後、-70℃以下で凍結保存されたものである。
(2-1)HbS含有検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
使用したHbSを含有する全血検体のHbS(%)および糖化ヘモグロビン(%)をHPLC法にて測定したところ、それぞれ28.8~37.1%および4.6~6.5%であった。
比較例2、参考例、実施例3、4、11、13、15の試薬で測定した際の測定値およびHPLC法に対する測定値の差 糖化ヘモグロビン(%)を表9に示す。
比較例2の試薬で測定した場合の含量は、HPLC法対して0.5~1.4%高値化し、測定精度は不良であった。
次に、参考例の試薬で測定した場合の含量は、HPLC法に対して0.3~0.6%高値化したものの比較例2より良好であった。
これに対し、実施例3、4、11、13、15の試薬で測定した場合の測定値は、HPLC法との差が-0.1~0.3%と小さく、測定精度は良好であった。また、2次抗体として本発明のモノクローナル抗体を使用した場合、2次抗体としてポリクローナル抗体使用した場合(参考例)に比べて測定精度がさらに向上した。
【0066】
【0067】
(2-2)HbC含有検体の糖化ヘモグロビン(%)の測定
使用したHbCを含有する全血検体のHbC(%)および糖化ヘモグロビン(%)をHPLC法にて測定したところ、それぞれ34.9%~39.4%および5.0~5.5%であった。
比較例2、参考例、実施例3、8、9、12、13の試薬で測定した場合の測定値のHPLC法に対する差(糖化ヘモグロビン(%))を表10に示す。
まず、比較例2で測定した場合の測定値は、HPLC法に対して3.4~4.7%と大幅に高値化した。
次に、参考例では、HPLC法に対して0.9~1.1%高値化したものの比較例2より良好であった。
これに対し、実施例3、8、9、12、13の試薬は、HPLC法に対する差は0.1~0.4%と小さく、測定精度は良好であった。2次抗体として本発明のモノクローナル抗体を使用した場合に、測定精度が向上したと言える。
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、血液検体が正常なヘモグロビンを含む場合だけではなく、HbS、HbC等の異常なヘモグロビンを含む場合であっても、正確な糖化ヘモグロビン(%)の免疫測定が可能となった。