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特許7382088光エネルギーにより調節される自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】光エネルギーにより調節される自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/56 20170101AFI20231109BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20231109BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20231109BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20231109BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
A61K47/56
A61K47/61
A61K47/59
A61K47/58
A61P43/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022094123
(22)【出願日】2022-06-10
(65)【公開番号】P2023113545
(43)【公開日】2023-08-16
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】10-2022-0014028
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユリ
(72)【発明者】
【氏名】ペ,グン-ヒュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン-グ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ナ-ヨン
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-270860(JP,A)
【文献】ACS Macro Lett.,2021年,10,pp.914-920
【文献】Langmuir,2020年,36,pp.13051-13059
【文献】J. Phys. Chem. B,2020年,124,pp.6913-6923
【文献】Langmuir,2014年,30,pp.10818-10825
【文献】Macromolecules,2009年,42,pp.4775-4786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンド及び負に荷電したポリマーを含むポリマー複合体と、
正に荷電して、前記ポリマー複合体と結合し、光エネルギーにより異性化する光切替異性体と、を含み、
前記光切替異性体は、可逆的にシス(cis)異性体またはトランス(trans)異性体として備えられ、
前記光切替異性体のトランス異性体は、化学式1の構造を有し、
(化学式1)
【化1】
前記化学式1において、Aは、C0乃至C15のうちいずれか一つであり、Rは、水素、メチル、エチル、及びプロピルのうちいずれか一つであり、Xは、3であり、
前記光切替異性体の異性化により、体積が可逆的に膨張または収縮するものである、光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項2】
前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、光エネルギーにより可逆的に膨張及び収縮し、
前記自己組織化複合体は、前記水溶性液体のある環境で、ヒドロゲルの形態で備えられるが、
前記自己組織化複合体が膨張する過程で、前記水溶性液体を吸収し、
前記自己組織化複合体が収縮する過程で、前記水溶性液体を放出する、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項3】
前記自己組織化複合体に吸収された水溶性液体は、採取して分析可能であり、
前記水溶性液体は、血液、血漿、血清、尿、唾、脳脊髄液、涙、汗、大便、腹水、羊水、精液、乳、細胞培地、組織抽出物、及び癌組織のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項2に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項4】
前記光切替異性体の異性化により、前記自己組織化複合体は、最大膨張または最大収縮が可能であり、
前記自己組織化複合体は、紫外線照射後、前記最大膨張まで30秒乃至90秒が所要され、
前記自己組織化複合体の前記最大膨張時の重量は、前記最大収縮時の重量の3倍乃至5倍である、請求項2に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項5】
前記自己組織化複合体は、前記自己組織化複合体の内部に伝達物質をさらに含み、
前記伝達物質は、前記自己組織化複合体が膨張して放出され、
前記伝達物質は、前記自己組織化複合体の収縮時、内部に維持される、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項6】
前記伝達物質は、タンパク質、核酸、及び小分子薬物のうち少なくともいずれか一つを含んでもよく、
前記タンパク質は、サイトカイン(cytokine)、ケモカイン(chemokine)、免疫抗癌治療抗体、成長因子、ボツリヌストキシン(botulinum toxin)、及び抗原のうち少なくともいずれか一つを含み、
前記核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(micro RNA)、及びプラスミドDNA(plasmid DNA)のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項5に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項7】
前記自己組織化複合体は、少なくとも一つのポリマー複合体と、少なくとも一つの光切替異性体と、を含み、
前記自己組織化複合体は、
前記ポリマー複合体が、互いに隣り合うポリマー複合体または前記光切替異性体と結合され、前記光切替異性体が、互いに隣り合う光切替異性体と相互作用して形成され、
前記光切替異性体と互いに隣り合う光切替異性体の相互作用は、π-カチオン相互作用及びπ-π相互作用のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項8】
前記光切替異性体は、紫外線により、シス異性体に変換して、前記自己組織化複合体が膨張し、
前記光切替異性体は、可視光線により、トランス異性体に変換して、前記自己組織化複合体が収縮する、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項9】
前記ポリマーは、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginate)、ポリ(L-グルタミン酸)(poly(L-glutamic acid))、ポリ(L-アスパラギン酸)(poly(L-aspartic acid))、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)、ゼラチン、及びコラーゲンのうち少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項10】
前記リガンドは、ブラシカステロール(brassicasterol)、スチグマステロール(stigmasterol)、アスコルブ酸(ascorbic acid)、サイアノコバラミン(cyanocobalamin)、トコフェロール(tocopherol)、レチノール(retinol)、アミノ酪酸(aminobutyric acid)、アミン-Boc塩酸塩(amine-Boc hydrochloride)、シクロRGD(cyclo RGD)、VH 032アミド-PEG2-アミン(VH 032 amide-PEG2-amine)、ヒスタミン(histamine)、チラミン(tyramine)、β-フェニルエチルアミン(β-phenylethylamine)、トリプタミン(tryptamine)、セロトニン(serotonin)、プトレシン(putrescine)、カダベリン(cadaverine)、スペルミジン(spermidine)、及びスペルミン(spermine)のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項11】
前記自己組織化複合体のうち、
前記光切替異性体と前記ポリマー複合体は、0.1:10乃至1.0:10の重量比で含まれる、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項12】
前記光切替異性体は、シス異性体に変換され、前記自己組織化複合体を膨張させ、
前記自己組織化複合体とマクロファージの付着及びM2分極を促進するか、または
前記光切替異性体は、トランス異性体に変換され、前記自己組織化複合体を収縮させ、
前記自己組織化複合体とマクロファージの付着を抑制し、M1分極を促進する、請求項1に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体。
【請求項13】
請求項1及び請求項12のうちいずれか一項に記載の光エネルギーにより調節される自己組織化複合体と、
前記自己組織化複合体の少なくとも一部が備えられる基板と、
前記基板に結合したアップコンバージョンナノ粒子と、を含み、
前記アップコンバージョンナノ粒子は、
コアシェル部と、前記コアシェル部の表面にコートされるコーティング部と、を含み、
前記コアシェル部は、赤外線を吸収し、前記赤外線のエネルギーを紫外線または可視光線のうち少なくともいずれか一つにアップコンバージョンさせ、
前記コーティング部は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた可視光線を吸収し、
前記アップコンバージョンナノ粒子は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた紫外線を放出する、光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項14】
前記コアシェル部は、970nm乃至990nm波長の光を吸収する、請求項13に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項15】
前記コアシェル部は、中心部に備えられるコアと、前記コアの外面を取り囲むように備えられるシェルと、を含み、
前記コアは、NaYbF、NaYF、NaGdF、KGdF、YOF、BaLaF、LaF、NaLuF、及びSrFのうち少なくともいずれか一つを含み、
前記シェルは、CaF、Na(Yb,Gd)F、NaGdF、及びTiOのうち少なくともいずれか一つを含み、
前記コアシェル部は、ドーパントでドープされ、
前記ドーパントは、Yb3+、Tm3+、Ln3+、及びEr3+のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項13に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項16】
前記コーティング部は、第1コーティング剤及び第2コーティング剤のうち少なくともいずれか一つを含み、
前記第1コーティング剤は、β-カロチン(β-carotene)、クルクミン(curcumin)、蛍光タンパク質(fluorescent protein)、R-フィコエリトリン(R-phycoerythrin)、ローダミン(rhodamine)、FDB-003、FDB-004、及びFDB-005のうち少なくともいずれか一つを含み、
前記第2コーティング剤は、ツイーン20(Tween 20)、ツイーン80(Tween 80)、オレイン酸ナトリウム(sodium oleate)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、sodium dodecyl sulphate)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecyl benzene sulphonate)、ステアリン酸ナトリウム(sodium stearate)、ドデシルアミン塩酸塩(dodecylamine hydrochloride)、スパン-60(span-60)、スパン-80(span-80)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)、及びドデシルベタイン(dodecyl betaine)のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項13に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項17】
前記第1コーティング剤は、420nm乃至500nm波長の光を吸収する、請求項16に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項18】
前記ナノシステムは、生体内部で作動するが、生体外部から印加される光エネルギーにより調節され、
前記ナノシステムに生体外部から赤外線が印加される場合、生体内部において、前記光切替異性体は、シス異性体に変換され、前記自己組織化複合体は、生体内部において膨張し、
前記ナノシステムに生体外部から可視光線が印加される場合、生体内部において、前記光切替異性体は、トランス異性体に変換され、前記自己組織化複合体は、生体内部において収縮する、請求項13に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【請求項19】
前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、光エネルギーにより可逆的に膨張及び収縮し、
前記ナノシステムに赤外線を照射し、前記自己組織化複合体が膨張して、前記水溶性液体を吸収し、
前記ナノシステムに可視光線を照射し、前記自己組織化複合体が収縮して、前記水溶性液体を放出する、請求項13に記載の光エネルギーにより調節されるナノシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーにより調節される自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステムに係り、さらに詳しくは、光エネルギーを吸収して異性化する自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
光は、分子システムを、非浸湿的、かつ極めて選択的な方式で、高い空間及び時間分解能で処理することができる独特な機会を提供する。形、生物学的及び化学的活性、比誘電率及び屈折率が、光の制御下で、可逆的に切り替えられる化合物は、分子プローブから分子ナノテクノロジー及び光線力学に至る領域まで広範囲な応用分野に適用され得る。
【0003】
アゾベンゼン及びその誘導体は、このような化合物の主な例の一つである。広範囲な実験条件下で、光安定性及び機能的活性のような有利な特性は、多くの側面で光変色性システムの追加開発及び適用の可能性を有する。アゾベンゼンは、機能的挙動に基づき、光励起時、N=N結合の可逆的なトランス(E)→シス(Z)の異性化が可能である。したがって、アゾベンゼンの吸収スペクトルは、長期間関心を引いた。
【0004】
また、生体に適用される検査、治療等は、生体に無害であり、最大限生体を損なわない方法が要求される。
【0005】
このようなアゾベンゼン及びその誘導体の光切替特性を用いて、生体に非浸湿的に適用できる技術を開発する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】大韓民国公開特許第10-2014-0107810号(2014.09.05.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、光エネルギーを用いて、自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステムを調節して、生体試料を採取することができ、生体内に物質を伝達することができ、マクロファージの付着及び分極化を調節する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、本発明の実施形態は、リガンド及び負に荷電したポリマーを含むポリマー複合体と、正に荷電して、前記ポリマー複合体と結合し、光エネルギーにより可逆的に異性化する光切替異性体と、を含み、前記光切替異性体は、可逆的にシス(cis)異性体またはトランス(trans)異性体として備えられ、前記光切替異性体の異性化により、体積が可逆的に膨張または収縮するものである、光エネルギーにより調節される自己組織化複合体を含んでもよい。
【0009】
一実施形態において、前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、光エネルギーにより可逆的に膨張及び収縮し、前記自己組織化複合体は、前記水溶性液体のある環境で、ヒドロゲルの形態で備えられるが、前記自己組織化複合体が膨張する過程で、前記水溶性液体を吸収し、前記自己組織化複合体が収縮する過程で、前記水溶性液体を放出するものであってもよい。
【0010】
一実施形態において、前記自己組織化複合体に吸収された水溶性液体は、採取して分析可能であり、前記水溶性液体は、血液、血漿、血清、尿、唾、脳脊髄液、涙、汗、大便、腹水、羊水、精液、乳、細胞培地、組織抽出物、及び癌組織のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0011】
一実施形態において、前記光切替異性体の異性化により、前記自己組織化複合体は、最大膨張または最大収縮が可能であり、前記自己組織化複合体は、紫外線照射後、前記最大膨張まで30秒乃至90秒が所要され、前記自己組織化複合体の前記最大膨張時の重量は、前記最大収縮時の重量の3倍乃至5倍であるものであってもよい。
【0012】
一実施形態において、前記自己組織化複合体は、内部に伝達物質をさらに含み、前記伝達物質は、前記自己組織化複合体が膨張して放出され、前記伝達物質は、前記自己組織化複合体の収縮時、内部に維持されるものであってもよい。
【0013】
一実施形態において、前記伝達物質は、タンパク質、核酸、及び小分子薬物のうち少なくともいずれか一つを含んでもよく、前記タンパク質は、サイトカイン(cytokine)、ケモカイン(chemokine)、免疫抗癌治療抗体、成長因子、ボツリヌストキシン(botulinum toxin)、及び抗原のうち少なくともいずれか一つを含み、前記核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(micro
RNA)、及びプラスミドDNA(plasmid DNA)のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0014】
一実施形態において、前記自己組織化複合体は、少なくとも一つのポリマー複合体と、少なくとも一つの光切替異性体と、を含み、前記自己組織化複合体は、前記ポリマー複合体が、互いに隣り合うポリマー複合体または前記光切替異性体と結合され、前記光切替異性体が、互いに隣り合う光切替異性体と相互作用して形成され、前記光切替異性体と互いに隣り合う光切替異性体の相互作用は、π-カチオン相互作用及びπ-π相互作用のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0015】
一実施形態において、前記光切替異性体は、紫外線により、シス異性体に変換して、前記自己組織化複合体が膨張し、可視光線により、トランス異性体に変換して、前記自己組織化複合体が収縮するものであってもよい。
【0016】
一実施形態において、前記ポリマーは、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)、
ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginate)、ポリ(L-グルタミン酸)(poly(L-glutamic acid))、ポリ(L-アスパラギン酸)(poly(L-aspartic acid))、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)、ゼラチン、及びコラーゲンのうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0017】
一実施形態において、前記リガンドは、ブラシカステロール(brassicasterol)、スチグマステロール(stigmasterol)、アスコルブ酸(ascorbic acid)、サイアノコバラミン(cyanocobalamin)、トコフェロール(tocopherol)、レチノール(retinol)、アミノ酪酸(aminobutyric acid)、アミン-Boc塩酸塩(amine-Boc hydrochloride)、シクロRGD(cyclo RGD)、VH 032アミド-PEG2-アミン(VH 032 amide-PEG2-amine)、ヒスタミン(histamine)、チラミン(tyramine)、β-フェニルエチルアミン(β-phenylethylamine)、トリプタミン(tryptamine)、セロトニン(serotonin)、プトレシン(putrescine)、カダベリン(cadaverine)、スペルミジン(spermidine)、及びスペルミン(spermine)のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0018】
一実施形態において、前記光切替異性体のトランス異性体は、化学式1の構造を有してもよい。
【0019】
(化学式1)
【0020】
前記化学式1において、Aは、C0乃至C15のうちいずれか一つであり、Rは、水素、メチル、エチル、及びプロピルのうちいずれか一つであり、Xは、1乃至3のうちいずれか一つの整数である。
【0021】
一実施形態において、前記自己組織化複合体のうち、前記光切替異性体と前記ポリマー複合体は、0.1:10乃至1.0:10の重量比で含まれてもよい。
【0022】
一実施形態において、前記光切替異性体は、シス異性体に変換され、前記自己組織化複合体を膨張させ、前記自己組織化複合体とマクロファージの付着及びM2分極を促進するか、または前記光切替異性体は、トランス異性体に変換され、前記自己組織化複合体を収縮させ、前記自己組織化複合体とマクロファージの付着を抑制し、M1分極を促進するものであってもよい。
【0023】
また、本発明において、一実施形態は、前記光エネルギーにより調節される自己組織化複合体と、前記自己組織化複合体の少なくとも一部が備えられる基板と、前記基板に結合したアップコンバージョンナノ粒子と、を含み、前記アップコンバージョンナノ粒子は、コアシェル部と、前記コアシェル部の表面にコートされるコーティング部と、を含み、前記コアシェル部は、赤外線を吸収し、前記赤外線のエネルギーを紫外線または可視光線のうち少なくともいずれか一つにアップコンバージョンさせ、前記コーティング部は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた可視光線を吸収し、前記アップコンバージョンナノ粒子は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた紫外線を放出する、光エネルギーにより調節されるナノシステムをさらに含んでもよい。
【0024】
一実施形態において、前記コアシェル部は、970nm乃至990nm波長の光を吸収するものであってもよい。
【0025】
一実施形態において、前記コアシェル部は、中心部に備えられるコアと、前記コアの外面を取り囲むように備えられるシェルと、を含み、前記コアは、NaYbF、NaYF、NaGdF、KGdF、YOF、BaLaF、LaF、NaLuF、及びSrFのうち少なくともいずれか一つを含み、前記シェルは、CaF、Na(Yb,Gd)F、NaGdF、及びTiOのうち少なくともいずれか一つを含み、前記コアシェル部は、ドーパントでドープされ、前記ドーパントは、Yb3+、Tm3+、Ln3+、及びEr3+のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0026】
一実施形態において、前記コーティング部は、第1コーティング剤及び第2コーティング剤のうち少なくともいずれか一つを含み、前記第1コーティング剤は、β-カロチン(β-carotene)、クルクミン(curcumin)、蛍光タンパク質(fluorescent protein)、R-フィコエリトリン(R-phycoerythrin)、ローダミン(rhodamine)、FDB-003、FDB-004、及びFDB-005のうち少なくともいずれか一つを含み、前記第2コーティング剤は、ツイーン20(Tween 20)、ツイーン80(Tween 80)、オレイン酸ナトリウム(sodium oleate)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、sodium dodecyl sulphate)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecyl benzene sulphonate)、ステアリン酸ナトリウム(sodium stearate)、ドデシルアミン塩酸塩(dodecylamine hydrochloride)、スパン-60(span-60)、スパン-80(span-80)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)、及びドデシルベタイン(dodecyl betaine)のうち少なくともいずれか一つを含むものであってもよい。
【0027】
一実施形態において、前記第1コーティング剤は、420nm乃至500nm波長の光を吸収してもよい。
【0028】
一実施形態において、前記ナノシステムは、生体内部で作動するが、生体外部から印加される光エネルギーにより調節され、前記ナノシステムに生体外部から赤外線が印加される場合、前記光切替異性体は、シス異性体に変換され、前記自己組織化複合体は膨張し、前記ナノシステムに可視光線が印加される場合、前記光切替異性体は、トランス異性体に変換され、前記自己組織化複合体は収縮するものであってもよい。
【0029】
一実施形態において、前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、光エネルギーにより可逆的に膨張及び収縮し、前記ナノシステムに赤外線を照射し、前記自己組織化複合体が膨張して、前記水溶性液体を吸収し、前記ナノシステムに可視光線を照射し、前記自己組織化複合体が収縮して、前記水溶性液体を放出するものであってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、光エネルギーを用いて、自己組織化複合体、及びそれを含むナノシステムを調節して、生体試料を採取することができ、生体内に物質を伝達することができ、マクロファージの付着及び分極化を調節する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの付着及び分極化を調節し、物質伝達を調節するものを模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施例による光切替異性体の合成メカニズムである。
図3】本発明の一実施例による光切替異性体の合成ステップ別の化合物のH NMR分析である。
図4】本発明の一実施例による光切替異性体の特性を分析したものである。
図5】本発明の一実施例によるリガンドが付着したポリマーの合成メカニズムである。
図6】本発明の一実施例による自己組織化複合体の形成メカニズムの模式図及び光切替異性体の相互作用の数を比較したものである。
図7】本発明の一実施例による自己組織化複合体の異性化による分子動力学(MD;molecular Dynamics)シミュレーションの分析結果である。
図8】本発明の一実施例によるアップコンバージョンナノ粒子の特性分析を分析した結果である。
図9】本発明の一実施例によるアップコンバージョンナノ粒子の特性分析を分析した結果である。
図10】本発明の一実施例によるアップコンバージョンナノ粒子におけるコーティング部の有無による蛍光を分析した結果である。
図11】本発明の実施例1を用いて、自己組織化複合体の膨張/収縮を実験した結果である。
図12】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの付着実験を行った結果及び模式図である。
図13】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの付着実験を行った結果及び模式図である。
図14】本発明の一実施例による比較例を用いて、マクロファージの付着実験を行った結果である。
図15】本発明の一実施例による比較例を用いて、マクロファージの付着実験を行った結果である。
図16】本発明の一実施例による比較例を用いて、マクロファージの付着実験を行った結果である。
図17】本発明の一実施例による比較例を用いて、マクロファージの付着実験を行った結果である。
図18】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、自己組織化複合体の膨張/収縮に対する時間制御試験結果である。
図19】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、自己組織化複合体の膨張/収縮に対する時間制御試験結果である。
図20】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの分極化調節実験を行った結果である。
図21】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの分極化調節実験を行った結果である。
図22】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの分極化調節実験を行った結果である。
図23】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、マクロファージの分極化調節実験を行った結果である。
図24】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、物質伝達調節実験を行った結果である。
図25】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、物質伝達調節実験を行った結果である。
図26】本発明の一実施例によるナノシステムを用いて、物質伝達調節実験を行った結果である。
図27】本発明の一実施例によるナノシステムの生体内安定性を実験した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
その他、実施例の具体的な事項は、詳細な説明及び図面に含まれている。
【0033】
本発明の利点及び特徴、またそれらを達成する方法は、添付した図面とともに詳細に後述されている実施例を参照すれば、明確になるであろう。しかしながら、本発明は、以下で開示される実施例に限定されるものではなく、相違した様々な形態で実現されてもよく、以下の説明において、他に明示されない限り、本明細書で使用された成分、反応条件、成分の含量を表す数字、値、及び/または表現はいずれも、これらの数字が本質的に異なるものの中からこのような値を得る上で発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合、「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。また、本記載から数値範囲が開示される場合、このような範囲は、連続的であり、他に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値の含まれた前記最大値までの全ての値を含む。ひいては、このような範囲が整数を指し示す場合、他に指摘されない限り、最小値から最大値の含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0034】
また、本明細書において、範囲が変数について記載される場合、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載範囲内の全ての値を含むと理解されるべきである。例えば、「5乃至10」の範囲は、5、6、7、8、9及び10の値だけでなく、6乃至10、7乃至10、6乃至9、7乃至9等の任意の下位範囲を含み、5.5、6.5、7.5、5.5乃至8.5、及び6.5乃至9等の記載範囲の範疇に妥当な整数の任意の値も含むと理解されるべきである。また、例えば、「10%乃至30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%等の値と30%までを含む全ての整数だけでなく、10%乃至15%、12%乃至18%、20%乃至30%等の任意の下位範囲を含み、10.5%、15.5%、25.5%等のように記載された範囲の範疇内の妥当な整数の任意の値も含むと理解されるべきである。
【0035】
この明細書における用語の意味は、次の通りである。
【0036】
「光切替異性体」は、特定波長の光を吸収して、トランス異性体またはシス異性体へ切り替えられる化合物を意味する。「自己組織化体」または「自己組織化複合体」は、リガンドが付着したポリマーと光切替異性体が組織化されたものを意味する。「アップコンバージョンナノ粒子」は、吸収した赤外線をアップコンバージョンさせる機能を有し、コアシェル部にコーティング部がコートされたことを意味する。「アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板」は、前記アップコンバージョンナノ粒子が基板の表面を全体的にコートしている基板を意味する。「ナノシステム」は、前記アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板に前記自己組織化複合体の少なくとも一部が結合したものを意味し、特定波長の光を吸収して異性化することにより、水溶性液体の吸収を調節し、細胞の付着及び分極化を調節し、担持された物質の放出を調節することができるシステムを意味する。
【0037】
また、光、光エネルギー、ライト、及びライトエネルギーは、同じ意味で用いられてもよい。
【0038】
図1は、本発明の一実施例によるナノシステムに光を照射して、マクロファージの付着及び分極化を調節し、自己組織化複合体に担持された物質の放出を調節することを模式的に示す図である。
【0039】
本発明の実施例は、光エネルギーにより調節される自己組織化複合体に関するものであって、前記自己組織化複合体は、リガンド及び負に荷電したポリマーを含むポリマー複合体と、正に荷電して、前記ポリマー複合体と結合し、光エネルギーにより可逆的に異性化する光切替異性体と、を含む自己組織化複合体を含んでもよい。前記光切替異性体は、光エネルギーにより異性化して、前記自己組織化複合体を可逆的に膨張または収縮させ、前記光切替異性体のシス(cis)異性体は、前記自己組織化複合体を膨張させ、前記光切替異性体のトランス(trans)異性体は、前記自己組織化複合体を収縮させてもよい。
【0040】
前記自己組織化複合体は、少なくとも一つのポリマー複合体と、少なくとも一つの光切替異性体と、を含み、前記自己組織化複合体は、前記ポリマー複合体が互いに隣り合うポリマー複合体または前記光切替異性体と結合され、前記光切替異性体が互いに隣り合う光切替異性体と相互作用して形成されるものであってもよい。
【0041】
具体的に、前記自己組織化複合体は、複数個のポリマー複合体と、複数個の光切替異性体とが互いに結合されるか、または相互作用して形成されてもよい。例えば、前記自己組織化複合体を構成する前記ポリマー複合体とポリマー複合体との間には、物理的または化学的結合が形成され、前記ポリマー複合体と前記光切替異性体との間には、静電気的結合が形成され、前記光切替異性体と光切替異性体との間に相互作用が形成されて前記自己組織化複合体が形成されてもよい。
【0042】
前記自己組織化複合体の膨張及び収縮は、このような前記光切替異性体と光切替異性体との間の相互作用が変更されて行われてもよい。
【0043】
前記光切替異性体は、芳香族官能基を含んでもよく、前記芳香族官能基により、前記光切替異性体と光切替異性体との間に相互作用が形成されてもよい。前記光切替異性体と光切替異性体との間の相互作用は、光切替異性体と隣り合った光切替異性体との間に形成されると言え、ここで、隣り合うとは、ある光切替異性体の周辺に他の光切替異性体が存在することを言ってもよい。
【0044】
前記光切替異性体と光切替異性体との間の相互作用は、いずれかの光切替異性体の芳香族官能基と他の光切替異性体のカチオンとの間にπ-カチオン相互作用(π-cation interaction)を形成するものであってもよい。また、前記光切替異性体と光切替異性体との間の相互作用は、いずれかの光切替異性体の芳香族官能基と他の光切替異性体の芳香族官能基との間にπ-π相互作用(π-π interaction)を形成するものであってもよい。
【0045】
前記光切替異性体の芳香族官能基は、ベンゼン官能基であってもよい。前記光切替異性体は、トランス異性体及びシス異性体のうちいずれかの形態で存在してもよく、さらに安定した形態は、トランス異性体であってもよい。前記光切替異性体のシス異性体は、可視光線を吸収して、トランス異性体に異性化してもよい。また、前記トランス異性体は、紫外線を吸収して、シス異性体に異性化してもよい。このようなトランス異性体とシス異性体との間の切替は、可逆的に繰り返して速く形成されてもよい。
【0046】
前記光切替異性体のトランス異性体は、化学式1の構造を有してもよい。
【0047】
(化学式1)

【0048】
前記化学式1において、Aは、C0乃至C15のうちいずれか一つであり、Rは、水素、メチル、エチル、及びプロピルのうちいずれか一つであってもよく、Xは、1乃至3のうちいずれか一つの整数である。前記Xは、好ましくは、3であってもよい。具体的に、Aは、C1乃至C15またはC1乃至C10であってもよい。
【0049】
また、前記光切替異性体のシス異性体は、化学式2の構造を有してもよい。
【0050】
(化学式2)

【0051】
前記化学式2において、Aは、C0乃至C15のうちいずれか一つであり、Rは、水素、メチル、エチル、及びプロピルのうちいずれか一つであってもよく、Xは、1乃至3のうちいずれか一つの整数である。前記Xは、好ましくは、3であってもよい。具体的に、Aは、C1乃至C15またはC1乃至C10であってもよい。
【0052】
前記自己組織化複合体において、前記光切替異性体と前記ポリマー複合体は、0.1:10乃至1.0:10の重量比を有して含まれてもよい。前記自己組織化複合体は、光エネルギーにより可逆的に収縮及び膨張することができ、前記光切替異性体と前記ポリマー複合体の重量比を制御することにより、収縮及び膨張の大きさ及び/または速度の差を多様に変化させてもよい。
【0053】
前記ポリマー複合体において、前記ポリマーは、前記自己組織化複合体の全体的なフレームを形成してもよい。前記自己組織化複合体が収縮するとき、前記ポリマー複合体は、凝縮されてもよい。また、前記自己組織化複合体が膨張するとき、前記ポリマー複合体は、凝縮が緩んでもよい。前記ポリマーは、負に荷電した部位を含んでおり、前記光切替異性体が静電気的に結合可能な部位を提供してもよい。前記ポリマーは、カルボン酸塩(carboxylate)を有してもよい。
【0054】
前記ポリマーは、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose)、
ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、アルギン酸(alginate)、ポリ(L-グルタミン酸)(poly(L-glutamic acid))、ポリ(L-アスパラギン酸)(poly(L-aspartic acid))、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)、ゼラチン、及びコラーゲンのうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0055】
前記ポリマー複合体において、前記リガンドは、前記ポリマーに結合して存在してもよい。前記自己組織化複合体が収縮すると、前記ポリマーがコイリングされて凝縮され、前記リガンドの殆どが前記自己組織化複合体の内部に存在し、前記自己組織化複合体の外部では、前記リガンドが認識され難くなり得る。したがって、前記自己組織化複合体の外部に露出するリガンドは、極めて少なくてもよい。これに対して、前記自己組織化複合体が膨張すると、前記ポリマーがアンコイリング(uncoiling)され、少なくとも一部は、互いに離隔して、前記リガンドの殆どが前記自己組織化複合体の外部に現れ、前記自己組織化複合体の外部において、前記リガンドが認識されやすくなり得る。したがって、前記自己組織化複合体の外部に露出するリガンドは、相対的に増加してもよい。
【0056】
前記リガンドは、細胞付着性質を有し、細胞が付着のために認識する部位であってもよい。したがって、前記自己組織化複合体が膨張する場合は、前記自己組織化複合体の外部に備えられる細胞が認識する前記リガンドの数及び密度が大きくなるので、前記細胞の付着が増加し得る。これに対して、前記自己組織化複合体が収縮する場合は、前記自己組織化複合体の外部に備えられる細胞が認識する前記リガンドの数及び密度が小さくなるので、前記細胞の付着が減少し得る。
【0057】
前記リガンドは、ヒドロキシル基(-OH、hydroxyl group)及びアミノ基(-NR、amino
group)のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0058】
前記リガンドは、ブラシカステロール(brassicasterol)、スチグマステロール(stigmasterol)、アスコルブ酸(ascorbic acid)、サイアノコバラミン(cyanocobalamin)、トコフェロール(tocopherol)、レチノール(retinol)、アミノ酪酸(aminobutyric acid)、アミン-Boc塩酸塩(amine-Boc hydrochloride)、シクロRGD(cyclo RGD)、VH 032アミド-PEG2-アミン(VH 032 amide-PEG2-amine)、ヒスタミン(histamine)、チラミン(tyramine)、β-フェニルエチルアミン(β-phenylethylamine)、トリプタミン(tryptamine)、セロトニン(serotonin)、プトレシン(putrescine)、カダベリン(cadaverine)、スペルミジン(spermidine)、及びスペルミン(spermine)のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0059】
前記自己組織化複合体は、前記ポリマー複合体により、フレームの形態で形成されてもよく、前記フレームの内部空間を有してもよい。前記フレームの内部空間には、伝達物質を担持してもよい。
【0060】
前記伝達物質は、前記自己組織化複合体に担持され、前記伝達物質の作用部位まで運搬されてもよい。前記伝達物質は、前記自己組織化複合体が膨張するとき、前記自己組織化複合体の外部に放出されてもよく、前記自己組織化複合体が収縮するときは、放出されなくてもよい。したがって、前記自己組織化複合体が収縮するとき、前記伝達物質は、前記自己組織化複合体の内部に維持されてもよい。前記伝達物質は、前記自己組織化複合体が膨張するとき、一定の時間、持続的に放出されてもよい。
【0061】
前記伝達物質は、前記ポリマー複合体に対して、1:100乃至1:1000の重量比で含まれてもよい。例えば、本実施形態による自己組織化複合体は、上述した範囲で、前記伝達物質及び前記ポリマー複合体の重量比を制御することにより、前記自己組織化複合体の内部に担持される伝達物質の量または/及び伝達物質の種類を多様に変えてもよく、前記伝達物質の放出速度を制御することができる。
【0062】
前記伝達物質は、タンパク質、核酸、及び小分子薬物のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。具体的に、前記タンパク質は、サイトカイン(cytokine)、ケモカイン(chemokine)、免疫抗癌治療抗体、成長因子、ボツリヌストキシン(botulinum toxin)、及び抗原のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。また、具体的に、前記核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)、マイクロRNA(micro
RNA)、及びプラスミドDNA(plasmid DNA)のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0063】
さらに具体的に、前記伝達物質は、サイトカインであってもよく、好ましくは、ANG、BDNF、CCL1、CCL11、CCL13、CCL15、CCL17、CCL18、CCL2、CCL20、CCL22、CCL23、CCL24、CCL26、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CSF1、CSF2、CSF3、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL12、CXCL13、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL6、CXCL8、CXCL9、EGF、FGF4、FGF6、FGF7、FGF9、FLT3LG、GDNF、HGF、IFNG、IGF1、IGFBP1、IGFBP2、IGFBP3、IGFBP4、IL10、IL12A、IL13、IL15、IL16、IL1A、IL1B、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、KITLG、LEP、LIF、LTA、MIF、NTF3、NTF4、OSM、PDGFB、PGF、PPBP、SPP1、TGFB1、TGFB2、TGFB3、THPO、TIMP1、TIMP2、TNF、TNFRSF11B、TNFSF14、TPO、VEGFA、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0064】
またさらに具体的に、前記伝達物質は、ケモカインであつてもよく、好ましくは、IFN-γ、IFNL1、AXL、BTC、CCL13、CCL14、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL4、CCL7、CCL8、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL16、CXCL2、CXCL3、CXCL5、及びCXCL6のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0065】
またさらに具体的に、前記伝達物質は、免疫抗癌治療抗体であってもよく、好ましくは、anti-PD-1抗体及びanti-PD-L1抗体のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0066】
またさらに具体的に、前記伝達物質は、成長因子であってもよく、好ましくは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF、Vascular endothelial growth factor)、骨形成タンパク質(BMP、Bone morphogenetic protein)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β、Transforming growth factor-β)、及びインスリン様成長因子(IGF、Insulin-Like growth factor)のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0067】
またさらに具体的に、前記伝達物質は、小分子薬物であってもよく、好ましくは、デキサメタゾン(dexamethasone)、ビタミンB3、ビタミンC、ドキソルビシン(doxolubicin)、アデノシン(adenosine)、トリアムシノロン(triamcinolone)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、non-steroidal anti-inflammatory drugs)、アラントイン(Allantoin)、及びゲンタマイシン(Gentamicine)のうち少なくともいずれか一つであってもよい。
【0068】
前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、光エネルギーの照射により、可逆的に膨張及び収縮し、前記自己組織化複合体が膨張して、前記水溶性液体を吸収し、前記自己組織化複合体が収縮して、前記水溶性液体を放出するものであってもよい。したがって、前記自己組織化複合体は、前記水溶性液体を吸収して、ヒドロゲルの形態で備えられてもよい。例えば、前記自己組織化複合体は、ヒドロゲルは、形成されたヒドロゲルが合わせられてさらに大きなヒドロゲルを形成してもよい。
【0069】
前記自己組織化複合体が膨張するとき、水溶性液体を吸収してもよく、前記自己組織化複合体が収縮するときは、水溶性液体を放出してもよい。前記自己組織化複合体は、水溶性液体のある環境で、挙動することができ、すなわち親水性環境で挙動することができる。したがって、前記自己組織化複合体の周辺は、水溶性液体を含んでもよく、前記自己組織化複合体は、水溶性液体を、周辺から吸収するか、周辺へ放出することができる。
【0070】
また、前記自己組織化複合体の内部は、収縮した状態でも、少しの水溶性液体を含んでいてもよい。したがって、前記自己組織化複合体が膨張して、水溶性液体を吸収してから収縮し、水溶性液体を放出する場合にも、前記自己組織化複合体の内部には、少しの水溶性液体を含んでもよい。
【0071】
前記光切替異性体の異性化により、前記自己組織化複合体が水溶性液体を吸収または放出するときに、前記自己組織化複合体は、最大膨張または最大収縮することができる。ここで、最大膨張及び最大収縮は、光切替異性体の異性化または/及び水溶性液体の吸収-放出により、前記自己組織化複合体内の結合乃至相互作用が維持される限度で、最大限膨張するか収縮することを言う。前記自己組織化複合体の最大膨張と最小膨張は、極めて高速で切り替えられてもよい。例えば、前記自己組織化複合体は、最大収縮から、紫外線を照射した後、30秒乃至90秒の時間内で、最大膨張に到達してもよい。
【0072】
また、前記自己組織化複合体の最大膨張時は、吸収された水溶性液体により重量が増加してもよい。前記自己組織化複合体の最大膨張時の重量は、最大収縮時の重量の3倍乃至5倍であってもよい。
【0073】
例えば、前記自己組織化複合体の前記光切替異性体が紫外線を吸収すると、シス異性化され、このとき、前記自己組織化複合体が膨張しながら、前記自己組織化複合体の内部に水溶性液体が吸収されてもよい。また、例えば、前記自己組織化複合体の前記光切替異性体が可視光線を吸収すると、トランス異性化され、このとき、前記自己組織化複合体が収縮しながら、前記自己組織化複合体の内部の水溶性液体が放出されてもよい。
【0074】
具体的に、前記自己組織化複合体に光を照射して、前記光切替異性体が紫外線を吸収すると、シス異性化が起こる。前記シス異性体は、π-π相互作用は形成しやすいが、π-カチオン相互作用は形成し難い。前記シス異性体が形成する相互作用が弱くなるにつれて、前記自己組織化複合体は膨張し、このとき、周辺にある水溶性液体が吸収されてもよい。また、このとき、前記自己組織化複合体の内部に担持されている場合は、前記伝達物質が放出されてもよく、前記ポリマー複合体に付着したリガンドが外部に多く露出してもよい。
【0075】
また、具体的に、前記自己組織化複合体に光を照射して、前記光切替異性体が可視光線を吸収すると、トランス異性化が起こる。前記トランス光切替異性体は、π-カチオン及びπ-π相互作用を全て形成する。前記光切替異性体が形成する相互作用が強くなるにつれて、前記自己組織化複合体は収縮され、このとき、前記自己組織化複合体の内部の水溶性液体が周辺に放出されてもよい。このときは、前記自己組織化複合体の内部に担持されている場合は、前記伝達物質の放出が抑制されてもよく、前記ポリマー複合体に付着したリガンドが外部に殆ど露出しなくてもよい。
【0076】
前記自己組織化複合体の内部に水溶性液体が吸収される場合、前記水溶性液体の吸収は、前記自己組織化複合体が膨張することを助けてもよい。また、前記自己組織化複合体の内部の水溶性液体が放出される場合、前記水溶性液体の放出は、前記自己組織化複合体が収縮することを助けてもよい。
【0077】
前記水溶性液体は、水、水溶性分子、及び生体内で体液に存在できる生体分子のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。前記水溶性液体は、血液、血漿、血清、尿、唾、脳脊髄液、涙、汗、大便、腹水、羊水、精液、乳、細胞培地、組織抽出物、及び癌組織のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0078】
上記したような自己組織化複合体が可逆的に膨張及び収縮する特性を用いて、前記自己組織化複合体を生体内に移植して活用することができる。
【0079】
前記自己組織化複合体は、肌、組織、及び臓器のような部位に移植することができる。このとき、前記自己組織化複合体に光エネルギーを照射して、当該部位の水溶性液体を吸収するように操作することができ、前記自己組織化複合体を回収し、吸収した水溶性液体を抽出して、生体試料として用いることができる。前記生体試料は、疾病検査、細胞分析等に活用され得る。
【0080】
また、前記自己組織化複合体は、血管及びリンパ管のような生体内の管に移植され得る。このとき、前記自己組織化複合体に光エネルギーを照射して、当該部位の水溶性液体を吸収するように操作してもよい。また、前記自己組織化複合体に光エネルギーを照射し、管内で膨張するようにして、管内を流れる液体の流れを止めるか、管の成長を妨害してもよい。例えば、前記自己組織化複合体を血管内で膨張するように操作して、癌細胞の成長を妨害することができる。この場合、前記自己組織化複合体に抗癌剤が担持されている場合は、癌の治療を誘導することができる。
【0081】
また、前記自己組織化複合体は、前記伝達物質を担持して、生体内に移植されてもよい。このとき、前記自己組織化複合体に光エネルギーを照射して、前記伝達物質の放出を調節してもよい。したがって、前記自己組織化複合体を用いて、所望の部位に前記伝達物質を直接かつ速く伝達することができる。
【0082】
また、前記自己組織化複合体は、例えば、マクロファージのような細胞とともに移植されてもよい。このとき、前記自己組織化複合体に光エネルギーを照射して、移植された部位におけるマクロファージの付着及び分極化を調節することができる。前記自己組織化複合体は、生体内または生体外に備えられ、体積が可逆的に膨張または収縮してもよく、前記光エネルギーは、前記生体内または生体外において、前記自己組織化複合体に印加されてもよい。具体的に、前記自己組織化複合体が生体内にある場合、前記光エネルギーを生体外から印加しても、前記自己組織化複合体は、可逆的に体積が膨張または収縮することができる。
【0083】
また、本発明の実施形態において、光照射により挙動するナノシステムは、前記光照射により挙動する自己組織化複合体と、前記自己組織化複合体の少なくとも一部と結合される基板と、前記基板に結合したアップコンバージョンナノ粒子と、を含んでもよい。前記アップコンバージョンナノ粒子は、コアシェル部と、前記コアシェル部の表面にコートされるコーティング部と、を含み、前記コアシェル部は、赤外線を吸収して、前記赤外線のエネルギーを可視光線または紫外線へアップコンバージョンさせ、前記コーティング部は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた可視光線を吸収し、前記アップコンバージョンナノ粒子は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた紫外線を放出するものであってもよい。
【0084】
前記コアシェル部は、中心部に備えられるコアと、前記コアの外面の全体を取り囲むように備えられるシェルと、を含んでもよい。前記コアシェル部は、特定波長の光を吸収し、吸収した光のエネルギーをアップコンバージョンさせてもよい。
【0085】
例えば、前記コアシェル部は、赤外線を吸収して紫外線に変換させてもよい。この過程で、吸収された赤外線は、可視光線及び紫外線のうち少なくとも一つに変換されてもよい。
【0086】
前記コアシェル部は、970nm乃至990nm波長の光を吸収するものであってもよい。
【0087】
前記コアシェル部において、コアは、NaYbF、NaYF、NaGdF、KGdF、YOF、BaLaF、LaF、NaLuF、及びSrFのうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。また、前記コアシェル部において、シェルは、CaF、Na(Yb,Gd)F、NaGdF、及びTiOのうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0088】
また、前記コアは、トパンドでドープされてもよく、前記ドーパントは、Yb3+、Tm3+、Ln3+、及びEr3+のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。好ましくは、前記ドーパントにおいて、Yb3+及びTm3+のうち少なくともいずれか一つは、必須にドープされるものであってもよい。
【0089】
前記コアシェル部は、前記コアシェル部の外面を全体的に取り囲むコーティング部でコートされてもよい。前記コーティング部は、前記コアシェル部において変換された光から可視光線を吸収し、紫外線を吸収しなくてもよい。言い換えれば、前記コアシェル部において吸収された赤外線から変換された光のうち、可視光線は、前記コーティング部により吸収され、紫外線のみが外部に放出されてもよい。したがって、前記コーティング部により、前記アップコンバージョンナノ粒子は、赤外線を吸収して、紫外線を選択的に放出することができる。
【0090】
したがって、前記コーティング部は、420nm乃至500nm波長の光を吸収し、320nm乃至380nm波長の光を吸収しなくてもよい。
【0091】
前記コーティング部は、第1コーティング剤及び第2コーティング剤を混合して形成されてもよい。前記第1コーティング剤は、前記コアシェル部においてアップコンバージョンされた可視光線を吸収し、紫外線を吸収しなくてもよく、好ましくは、染料であってもよい。前記第2コーティング剤は、前記第1コーティング剤が安定的にコートされるように助けてもよく、好ましくは、界面活性剤であってもよい。前記第2コーティング剤は、前記第1コーティング剤の表面を取り囲む形態であってもよい。
【0092】
前記第1コーティング剤は、染料であってもよく、β-カロチン(β-carotene)、クルクミン(curcumin)、R-フィコエリトリン(R-phycoerythrin)、ローダミン(rhodamine)、FDB-003、FDB-004、及びFDB-005のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0093】
前記第2コーティング剤は、界面活性剤であってもよく、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0094】
前記第2コーティング剤は、陽イオン界面活性剤を含んでもよく、オレイン酸ナトリウム(sodium oleate)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、sodium dodecyl sulphate)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecyl benzene sulphonate)、及びステアリン酸ナトリウム(sodium stearate)のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0095】
また、前記第2コーティング剤は、陰イオン界面活性剤を含んでもよく、ドデシルアミン塩酸塩(dodecylamine hydrochloride)を含んでもよい。
【0096】
また前記第2コーティング剤は、非イオン界面活性剤を含んでもよく、ツイーン20(Tween 20)、ツイーン80(Tween 80)、スパン-60(span-60)、スパン-80(span-80)、及びポリエチレンオキシド(polyethylene oxide)のうち少なくともいずれか一つを含んでもよい。
【0097】
また、前記第2コーティング剤は、両性界面活性剤を含んでもよく、ドデシルベタイン(dodecyl betaine)であってもよい。
【0098】
前記光エネルギーにより調節されるナノシステムにおいて、前記アップコンバージョンナノ粒子は、前記基板に結合し、前記自己組織化複合体は、前記基板及び前記アップコンバージョンナノ粒子のうち少なくともいずれか一つに結合したものであってもよい。
【0099】
前記ナノシステムに赤外線を照射して、前記光切替異性体をシス異性化させてもよい。このとき、前記自己組織化複合体は、可逆的に体積が膨張または収縮してもよい。
【0100】
例えば、前記自己組織化複合体が膨張する場合、前記自己組織化複合体の内部に水溶性液体が吸収されてもよく、前記自己組織化複合体に前記伝達物質が担持された場合、前記伝達物質が前記自己組織化複合体の外部に放出されてもよい。前記ナノシステムに照射された赤外線は、前記アップコンバージョンナノ粒子を介して紫外線にアップコンバージョンされてもよく、前記光切替異性体は、アップコンバージョンされた紫外線を吸収して、シス異性化してもよい。
【0101】
あるいは、前記ナノシステムに可視光線を照射して、前記光切替異性体をトランス異性化させてもよい。このとき、前記自己組織化複合体が収縮し、前記自己組織化複合体の内部にある前記水溶性液体が放出されてもよい。前記ナノシステムに照射された可視光線は、前記アップコンバージョンナノ粒子に吸収されず、前記光切替異性体に直ちに吸収されて、トランス異性化を誘導してもよい。
【0102】
ここで、前記自己組織化複合体が膨張して、水溶性液体を吸収し、担持された前記伝達物質を放出してもよい。あるいは、前記自己組織化複合体が収縮して、水溶性液体を放出してもよく、このときは、担持された前記伝達物質が放出されなくてもよい。
【0103】
また、前記自己組織化複合体は、前記自己組織化複合体に細胞付着性リガンドを含んでおり、細胞の付着及び分極化を調節することができる。前記細胞は、マクロファージであってもよい。
【0104】
前記自己組織化複合体に紫外線を照射すると、前記光切替異性体は、紫外線を吸収し、シス異性化して、前記自己組織化複合体を膨張させてもよい。このとき、前記リガンドが前記自己組織化複合体の外部に多く露出し、マクロファージの付着及びM2分極を促進することができる。
【0105】
あるいは、前記自己組織化複合体に可視光線を照射すると、前記光切替異性体をトランス異性化させ、前記自己組織化複合体は、収縮してもよい。このとき、前記リガンドが自己組織化複合体の外部に殆ど露出せず、マクロファージの付着を抑制し、M1分極を促進することができる。
【0106】
前記自己組織化複合体が、前記基板及びアップコンバージョンナノ粒子とともに前記ナノシステムを形成する場合は、前記ナノシステムに赤外線を照射して、マクロファージの付着及びM2分極化を促進することができ、前記ナノシステムに可視光線を照射して、マクロファージの付着を抑制し、M1分極化を促進することができる。
【0107】
このような赤外線または可視光線は、生体の外部から照射されて、生体の内部にある前記ナノシステムに作用することができる。
【0108】
紫外線は、前記光切替異性体をシス異性化するが、生体毒性が高くて、生体透過性が低いという問題があり得る。また、アップコンバージョンナノ粒子を用いることなく、光切替異性体を用いるか、従来のアップコンバージョン物質を用いる場合、生体に有害な紫外線を照射しなければならないので、問題になり得る。これに対して、前記ナノシステムに直ちに照射される赤外線及び可視光線は、生体に無害であり、前記アップコンバージョンナノ粒子が含まれたナノシステムの挙動を調節することができる。したがって、前記アップコンバージョンナノ粒子を含む場合、紫外線を直ちに照射せず、前記ナノシステムを調節することができる。
【0109】
したがって、前記ナノシステムは、生体に無害な赤外線及び可視光線を生体の外部から照射して、生体の内部にあるナノシステムの挙動を調節し、これにより、水溶性液体の吸収を調節し、物質伝達を調節し、マクロファージの付着及び分極化を調節することができる。
【0110】
以下、本発明の実施例及び比較例を記載する。しかしながら、下記の実施例は、本発明の好適な一実施例であるだけで、本発明の権利の範囲が下記の実施例により制限されるものではない。
【0111】
[製造例]
1.光切替異性体の合成
自己組織化複合体の収縮/膨張を可逆的に調節する光切替異性体として、Azo-C10-N+を合成した。
【0112】
まず、4-アミノフェノール(4-aminophenol、27.49mmol)3.00g及びニトロソベンゼン(nitrosobenzene、30.24mmol)3.24gを、二口丸底フラスコで、酢酸(acetic acid)100mLと混合し、次いで、室温、Nの条件で一晩中撹拌して、Azo-OHを合成した。この混合溶液に、DIウォーターを添加して、赤茶色(Reddish-Brown)の沈殿物を得た。この沈殿物を、酢酸エチル(EA、ethyl acetate)を用いて収集し、MgSOを用いて乾燥させた後、MgSOを濾過して除去し、EAは、蒸発させて除去した。最後に、6:1(v/v)のヘキサン/酢酸エチルを溶離液(eluent)として、ゲルカラムクロマトグラフィを行った。
【0113】
自己組織化複合体内において、Azo-C10-N+分子の芳香族基と陽イオンとの間の相互作用を容易にするために、芳香族基とBrとの間に疎水性尾部を形成して間隔を置いた。このようなAzo-C10-Br分子を得るために、Azo-OHに、1,10-ジブロモデカン(1,10-dibromodecane)を結合した。Azo-OH(2.52mmol)0.5gを、ジメチルホルムアミド(DMF、dimethylformamide)40mLに溶かし、ここに、水素化ナトリウム(sodium hydride、5.04mmol)40mLを、氷浴(ice bath)内で添加した。この溶液を、30分間撹拌し、1,10-ジブロモデカン(12.60mmol)3.78gを含むDMF
5mLを添加し、次いで、室温で一晩中かき混ぜた。その後、この溶液にメタノール5mLを添加して、反応をクエンチング(quenching)し、ここで、合成されたAzo-C10-Brを、DIウォーター及びジクロロメタン(dichloromethane)の混合物を用いて抽出した。ジクロロメタンに溶解させたAzo-C10-Brを、DIウォーターを除去するために、MgSOで乾燥させ、ついで、溶離剤として1:4(v/v)のジクロロメタン/ヘキサンが含まれたゲルカラムクロマトグラフィを用いて、MgSOを濾過して除去し、ジクロロメタンを蒸発させた。
【0114】
以降、Azo-C10-Br分子において、Brは、窒素陽イオンを有するトリエチルアミン(triethylamine)に代替され、芳香族基と窒素陽イオンとの間に疎水性尾部による間隔があるAzo-C10-N+分子を生成した。この分子は、カチオン(π-cation)及びπ-π相互作用(π-
π interaction)を通じて積層され、リガンドが含まれた自己組織化複合体を形成した。Azo-C10-Br(0.72mmol)0.3g及びトリエチルアミン(8.63mmol)0.87gを含むアセトニトリル(acetonitrile)40mLの混合溶液を、N条件、60℃で一晩中撹拌した。アセトニトリルを蒸発させた後、黄色の固体生成物をテトラヒドロフラン(THF、tetrahydrofuran)に溶解して、過量のトリエチルアミンを除去した。この溶液に、ヘキサンを添加して、Azo-C10-N+生成物を沈殿させ、それを濾過し、真空オーブンで乾燥させた。
【0115】
2.リガンドを含むポリマーの合成
自己組織化複合体に細胞付着性のRGDリガンドを結合するために、リガンドがあり、負に荷電したポリマーであるポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)を、正に荷電して積層されたAzo-C10-N+分子と静電気的に結合させた。ここで、RGDリガンドは、アミン基を有するリシン残基のある環状-RGDyK(cyclo-RGDyK、cyclo-Arg-Gly-Asp-d-Tyr-Lys)を用いた。
【0116】
RGDyKのアミン基とPAAのカルボキシレート基との間に(ベンゾトリアゾール-1-イロキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート[BOP、(benzotriazol-1-yloxy)tris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate]が介されたアミド連結を通じて、RGDリガンドとPAAを連結した。PAA(Mw=1800Da、0.065mmol)116mg、環状-RGDyK(RGDリガンドペプチド、AnaSpec社、0.016mmol)10mg、BOP(0.129mmol)57.1mg、及びヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt、hydroxybenzotriazole hydrate、0.129mmol)17.4mgを、N、N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、N、N-diisopropylethylamine、0.258mmol)を含むDMF2mLの中で一緒に混合した。
【0117】
この混合物を、室温、N条件で、一晩中激しく撹拌した。リガンドが付着したPAAを選択的に収集するために、生成物を、500Daの分子量カットオフを有する透析袋(dialysis bag)を用いて、DIウォーターに対して透析した。
【0118】
3.自己組織化複合体の用意
リガンドが付着した自己組織化複合体を、収縮/膨張する可逆的な光切替のために、リガンドが付着したPAA(16.8μmol)を含む生理学的水溶液であるリン酸緩衝液(PBS、phosphate-buffered saline)3mLを、Azo-C10-N+(Mw=438.7Da、3.42μmol)を含むPBS3mLと10分間超音波処理して混合し、これらが静電気的相互作用を介して連結された自己組織化複合体を製造した。
【0119】
以降、前記溶液を1000rpmで10分間簡単に遠心分離し、均一なリガンドが付着した自己組織化複合体(大きな沈殿物は、除去した)が含まれた上澄液を収集した。
【0120】
4.アップコンバージョンナノ粒子の合成
UVのない(したがって、相対的に組織透過性である)二重波長の光刺激(NIR及びVis光)により、ナノアセンブリーの収縮/膨張を調節するために、アップコンバージョンナノ粒子(UCNT、upconversion nanotransducer)を合成した。
【0121】
(1)コアシェル部の製造
前記アップコンバージョンナノ粒子のコアシェル部(NaRF:Rb、Tm@NaYF)を製造した。コアシェル部のコアの上に、等角シェルコーティング(conformal shell coating)を通じて、表面欠陥から発生する光ルミネセンスの消滅を制限するために、コアシェル部の表面を不動態化し、これは、照射されたNIRをアップコンバージョンさせ、高光ルミネセンス強度のUVを放出させた。
【0122】
コアシェル部において、49%Yb-及び1%Tm-ドープされたNaYFコアは、イットリウム(III)クロリドヘキサハイドレート(YCl・6HO、yttrium(III)chloride hexahydrate、99.99%)0.5mmol、イッテルビウム(III)クロリドヘキサハイドレート(YbCl・6HO、ytterbium(III)chloride hexahydrate、99.99%)0.49mmol、ツリウム(III)クロリドヘキサハイドレート(TmCl・6HO、thulium(III)chloride hexahydrate、99.99%)1mmol、オレイン酸(oleic acid、90%)6mL、及びオクタデセン(octadecene、90%)15mLを、三口フラスコで混合し、次いで、150℃で、40分間加熱して製造した。その後、NaOH2.5mmol及びNHF4mmolを含むメタノール10mLを混合液に添加した後、40分間撹拌した。その後、メタノールを蒸発させ、混合溶液を、320℃、アルゴン雰囲気で、60分間加熱した。この混合溶液を、エタノールで3回洗浄し、合成されたコア(NaYF:Yb、Tm)をシクロヘキサン(cyclohexane)10mLに分散させた。
【0123】
NaYFシェルは、コアの上に表面欠陥を最小化し、光ルミネセンス強度を高めるために、エピタキシアル成長(epitaxial growth)で形成した。YCl・6HO 1mmol、オレイン酸6mL、及び1-オクタデセン15mLを三口フラスコで混合して混合溶液を作り、150℃で、40分間加熱した。その後、この混合溶液に上記で製造したコア懸濁液10mL、NaOH2.5mmol、及びNHF4mmolを含むメタノール溶液を順次添加し、40分間撹拌した。メタノールを蒸発させた後、この混合溶液を、アルゴン雰囲気で、60分間320℃まで加熱した後、エタノールで3回洗浄した。
【0124】
最後に、製造されたコア@シェル部(NaYF:Yb、Tm@NaYF)をシクロヘキサン10mLに分散させた。
【0125】
(2)コアシェル部へのコーティング部の形成
自己組織化複合体に光エネルギーを照射し、選択的な異性化を誘導するために、アップコンバージョンナノ粒子にNIRを照射し、Vis光だけではなく、UVまで最大限アップコンバージョンさせるように製造した。このため、前記(1)で製造したコアシェル部の表面に、400nm乃至500nm範囲の可視光線を吸収する天然染料(β-カロチン)をコートし、このコーティング部は、光切替異性体をトランス異性化することができるアップコンバージョンされた可視光線を吸収した。
【0126】
コアシェル部(10mg/mL)500μL、臨床的に用いられる天然染料であるβ--カロチン(β-carotene、1mg/mL)100μL、及び臨床的に用いられるTween 80(10mg/mL)200μLを含むシクロヘキサン溶液を激しくボルテックシングして混合した。この溶液を空気乾燥(air-dried)して、シクロヘキサンを蒸発させ、乾燥した残留物をDIウォーター2mLに分散させた。以降、この分散液を連続的に超音波処理し、形成されたアップコンバージョンナノ粒子(コア@シェル@コーティング部)が固まらないように2分間撹拌した。
【0127】
得られたアップコンバージョンナノ粒子は、使用前、暗室で貯蔵した。
【0128】
(3)アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板の形成
(2)で製造したアップコンバージョンナノ粒子をガラス基板の表面に、全体的にコートした。
【0129】
細胞培養用レベルの有機基板及びシリコン基板(天然の酸化ケイ素の表面が形成され、ガラス基板に似た表面化学を有する)を12mm×12mmの大きさに切って実験に用いた。前記基板を、HClに30分間漬け、表面をきれいにし、HSOを1時間の間処理して、ヒドロキシル基を活性化した。その後、基板をDIウォーターで3回濯ぎ、アップコンバージョンナノ粒子400μLを含むDIウォーターでインキュベートし、基板の表面にアップコンバージョンナノ粒子をコートした。以降、40℃の乾燥オーブンで6時間の間乾燥させた。
【0130】
アップコンバージョンナノ粒子の表面は、基板表面のヒドロキシル基と親水性相互作用を形成して、均一に分散し、アップコンバージョンナノ粒子は、基板表面を全体的に覆った。このアップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板は、追加で天然染料(β-carotene)400μLを含むDIウォーターでコートされた後、40℃のオーブンで、6時間の間完全に乾燥した。
【0131】
このように製造された基板は、細胞培養前、1時間の間、UV光で殺菌された。
【0132】
5.ナノシステムの用意
上記で製造した自己組織化複合体及びアップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板を結合させて、ナノシテムを用意した。
【0133】
アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板を、自己組織化複合体1mLを含む生理学的水溶液(PBS)で、室温条件で、30分間インキュベートし、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS、Dulbecco’s phosphate-buffered saline)で洗浄した。
【0134】
この過程で、アップコンバージョンナノ粒子と自己組織化複合体との間の親水性相互作用により、自己組織化複合体が、アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板に結合して、広がった形態(spread shape)を形成した。
【0135】
したがって、光エネルギーを照射して光切替異性体を異性化することにより、自己組織化複合体を可逆的に収縮/膨張させることができるナノシステムが製造された。
【0136】
[実施例]
上記した製造例により実施例を製造した。
【0137】
1.実施例1
Azo-C10-N+構造の光切替異性体を、RGDリガンドが付着しているPAAポリマーに静電気的に結合させて、自己組織化複合体を形成した。
【0138】
また、NaYF:Yb、Tm@NaYF@コーティング部構造のアップコンバージョンナノ粒子を、基板上に、親水性相互作用を通じて、全体的にコートした。コーティング部の内層を形成する染料は、β-カロチンを用いており、内層の表面を、界面活性剤であるTween 80で全体的にコートして、コーティング部の外層を形成した。
【0139】
前記自己組織化複合体を、前記アップコンバージョンナノ粒子の外層に親水性相互作用で付着した。
【0140】
前記自己組織化複合体の内部は、染料としてβ-カロチン(β-carotene)を担持した。
【0141】
2.実施例2
前記実施例1において、自己組織化複合体内に担持される物質をローダミンに変えたことを除いては、同様にして製造した。
【0142】
3.実施例3
前記実施例1において、自己組織化複合体内に担持される物質をIL-4に変えたことを除いては、同様にして製造した。
【0143】
[比較例]
1.比較例1
前記実施例1において、自己組織化複合体及びアップコンバージョンナノ粒子を除き、基板のみの物質を製造した。
【0144】
2.比較例2
前記実施に1において、基板上に、シェルとコーティング部を除き、コアだけあるアップコンバージョンナノ粒子及び自己組織化複合体がある物質を製造した。
【0145】
3.比較例3
前記実施例1において、基板上に、コーティング部を除き、コアシェル部だけあるアップコンバージョンナノ粒子及び自己組織化複合体がある物質を製造した。
【0146】
4.比較例4
前記実施例1において、アップコンバージョンナノ粒子を除き、基板上に自己組織化複合体がある物質を製造した。
【0147】
5.比較例5
前記実施例1において、自己組織化複合体を除き、基板上にアップコンバージョンナノ粒子がある物質を製造した。
【0148】
6.比較例6
前記実施例1において、基板上に、リガンドのない自己組織化複合体及びアップコンバージョンナノ粒子がある物質を製造した。
【0149】
[実験方法]
1.H NMR分光法(H NMR spectrometry)
Azo-OH、Azo-C10-Br、及びAzo-C10-N+分子において、一連の化学結合変化を確認するために、H NMR分光(Bruker Advance 400 spectrometer、400MHz)を用いた。
【0150】
分析に先立って、Azo-OHを、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解させ、Azo-C10-Br及びAzo-C10-N+は、重水素化クロロホルム(CDCl)に溶解させた。特性ピークは、それぞれの試料の合成後、索引付けされた。
【0151】
Azo-OHの試料は、黄色-オレンジ色(yellow-orange color)であった(1.4g、収率25.7%)。Azo-OH(400MHz、DMSO-d6、δ(ppm))のH NMRは、10.34(s、1H)、7.84-7.82(m、4H)7.59-7.49(m、3H)、6.99-6.95(m、2H)であった。Azo-OH分子の特性ピークとして、フェノール基が確認された。
【0152】
Azo-C10-Br分子の試料は、黄色-オレンジ色(yellow-orange color)であった(0.5g、収率:47.6%)。Azo-C10-Br(400
MHz、CDCl, δ(ppm))のH NMRは、7.93-7.85(m、4H)、7.52-7.41(m、3H)、7.00-6.99(d、J=9.2Hz、2H)、4.05-4.02(t、J=6.4Hz、2H)、3.42-3.39(t、J=7.2Hz、2H)、1.89-1.78(m、4H)、1.51-1.38(m、4H)、1.32(s、8H)であった。Azo-C10-Br分子の特性ピークでは、エーテル基が確認された。
【0153】
Azo-C10-N+分子の試料は、黄色であった(0.24g、収率:64.9%)。Azo-C10-N+(400MHz、CDCl、δ(ppm))のH NMRは、7.92-7.86(m、4H)、7.52-7.42(m、3H)、7.02-6.99(d、J=8.8Hz、2H)、4.06-4.03(t、J=6.4Hz、2H)、3.54-3.46(m、6H)、3.29-3.25(m、2H)、1.49-1.33(m、25H)であった。Azo-C10-N+分子の特性ピークとして、三級アミンのα-ハイドロゲンが確認された。
【0154】
2.分子動態シミュレーション(Molecular dynamic simulation)
trans-Azo-C10-N+と比較して、cis-Azo-C10-N+の水吸収量がさらに多いことを確認するために、シュレディンガースイーツ
を用いて、水和エネルギーを計算し、水に対するAzo-C10-N+のそれぞれの親和度を決めた。
【0155】
(1)分子の予備コンフォマーに対する検索は、次の媒介変数を持って、マクロモデルを通じて行った。
【0156】
1)力場(force field):OPLS3
2)溶媒:H
3)力場において充電
4)カットオフ:無し
5)最小化方法:PRCG(Polak-Ribiere Conjugate Gradient)
6)最大繰り返し回数:2,500
7)収束(converge on):勾配(gradient)
8)収束閾値(convergence threshold):0.05
9)コンホメーション探索法(conformational search method):混合捩れ/低モード(torsional/low-mode)サンプリング
10)捩れサンプリングオプション:中間
11)最大ステップ数:1,000
12)構造節約のためのエネルギー窓(energy window for saving structures):
21kJ/mol
13)最大原子偏差カットオフを用いた重複コンフォマーの除去:0.5
【0157】
(2)微細幾何最適化(fine geometry optimization)は、次の媒介変数を有する密度汎関数理論(DFT、density functional theory)に基づき、ジャガー(Jaguar)モジュールで行った。
【0158】
1)理論:B3LYP-D3
2)電荷:1
3)基準:6-31G**
4)スピン多重度:1
5)ハミルトニアン(Hamiltonian):非相対論的(nonrelativistic)
6)SCF正確度の水準:速い
7)初期推測:原子重複
8)収束基準:最大繰り返し回数48回、エネルギー変化5e-05、及びRMS密度行列変化回数(RMS density matrix change)5e-06
9)融合計画:DIIS
10)溶媒和モデル:H
11)気相基準エネルギー:最適化された気相構造
【0159】
(3)MDシミュレーションは、次の媒介変数を有するシュレディンガースイーツにおいて、デズモンドモジュールを通じて、アクリル酸を有する2つのAzo-C10-N+に対するパッキングモードを用いることにより、自己組織化複合体内に主要分子間相互作用を調査するために行われた。
【0160】
1)力場(force field):OPLS3e
2)溶媒和モデル:TIP4PD
3)イオン配置:2つの臭化物イオン
4)境界条件(boundary conditions):斜方晶系箱型(orthorhombic box shape)、箱サイズの計算方法(バッファー)
5)シミュレーション時間:20ns、記録間隔:40ps
6)凡そのフレーム数:500
7)アンサンブルクラス(ensemble class):NPT
8)温度:300K
9)圧力:1.01325Bar
10)温度調節機方式(thermostat method):
ノーズ-フーバーチェーン(Nose-Hoover chain)
11)クーロン相互作用のカットオフ半径(coulombic interaction cutoff radius):9.0Å。10フレーム毎に分子間相互作用を分析した。
【0161】
3.UV-Vis分光法(UV-Vis spectroscopy)
Azo-C10-N+分子の異性状態の吸収スペクトルを確認するために、UV-Vis分光計測定(Agilent社 8453)は、UV光(365nm、0.25W/cm、30s)またはVis光(448nm、0.2W/cm、30s)を交互に処理して、200nm乃至700nm範囲の波長で行った。
【0162】
315nm及び345nmにおける最大吸収ピークは、自己組織化複合体のそれぞれのcis-Azo-C10-N+及びtrans-Azo-C10-N+に相当するものであった。速いUV処理(365nm、0.25W/cm、30s)後、多様な時間ポイントにおいて、Azo-C10-N+分子の残留シス-割合(百分率)は、多様な時間ポイントでの375nmにおいて、相対的な吸収値を用いて決めた。UV処理後、約375nmにおいて、さらに低い吸収値はシス-割合を示し、これに対して、Vis処理後、約375nmにおいて、さらに高い吸収値はトランス-割合を示す。可視光線-吸収の天然染料であるβ-カロチン(β-carotene)のUV-Vis吸収スペクトルも測定した。
【0163】
4.透過型電子顕微鏡(TEM、Transmission electron microscopy)
アップコンバージョンナノ粒子のコア及びコアシェルの大きさ及び形態の均一性を、TEMイメージング(Tecnai F20、FEI社)で特性化した。
【0164】
5.アップコンバージョンナノ粒子(コアシェル部)の高解像度透過型電子顕微鏡(HR-TEM、High resolution-transmission electron microscopy)
HR-TEMイメージング(Tecnai F20、FEI社)は、原子分解能において、コア及びコアシェルの格子模様を識別するために、200kVの作動電圧で行われた。隣り合う格子模様間の平均間隔は、六方晶相(hexagonal crystalline phase)を確認するためにラベリングされ、コア上でエピタキシャル成長されたシェルを確認した。
【0165】
6.アップコンバージョンナノ粒子(コアシェル部)の高角環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF-STEM、High-angle annular dark field-scanning transmission electron microscopy)
アップコンバージョンナノ粒子において、コアシェルナノ構造の大きさ及び形態の均一性を特性化するために、HAADF-STEMイメージングは、Talos 200x TEM(FEI社)を用いて、6のスポットサイズ、2nmのプローブサイズを用いて、200kVで行った。イメージにおいて、アップコンバージョンナノ粒子のシェルは、コアよりもさらに暗く現れた。
【0166】
7.エネルギー分散X線分光マッピング(EDS、Energy-dispersive X-Ray spectroscopy mapping)
アップコンバージョンナノ粒子のコア及びシェルにおいて、F及びY元素の均一な分布及びコアにのみ存在するYb及びTm元素の存在を確認するために、HAADF-STEMに用いられたものと同じ設定で、EDSマッピングを行った。
【0167】
8.動的光散乱分析(DLS、dynamic light scattering analysis)
アップコンバージョンナノ粒子のコア及びコアシェルの均一な直径分布を確認するために、室温で、DLS分析(Zetasizer Nano ZS、Malvern、UK)を行った。これにより、34±0.9nmサイズのコアが、47±1.2nmサイズのコアシェルに成長することを確認した。
【0168】
9.光ルミネセンス測定(photoluminescence measurement)
可視光線を吸収する天然染料(β-carotene)でコートされたアップコンバージョンナノ粒子の効率を確認するために、980nm NIRダイオードレーザーを照射するHitachi F-7000分光光度計を用いて、光ルミネセンススペクトルを分析した。コア、コア@シェル、及びコア@シェル@コーティング部をそれぞれ測定した。光ルミネセンス強度は、340nmにおいて、UV領域の最大ピーク強度で正規化された。UV対Vis光ルミネセンスの割合は、UV(340nm)の最大ピーク強度を、青色Vis領域(450nm)で割って計算された。UVピークは、Tm3+元素において、及びの電子遷移に由来したことに対して、青色ピークは、Tm3+元素において、及びの電子遷移に由来した。
【0169】
10.走査型電子顕微鏡(SEM、scanning electron microscopy)
基板の表面がアップコンバージョンナノ粒子で完全にコートされたかを確認するために、SEMイメージング(FEI社、Quanta 250 FEG)を行った。SEMイメージングの前、アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板を完全に乾燥させた後、90秒間、白金コーティングを行った。
【0170】
11.自己組織化複合体の形成過程において、蛍光染料を担持して自己組織化複合体の蛍光追跡
蛍光を通じて自己組織化複合体を追跡するために、リガンドが付着したPAA(16.8μmol)を含むPBS3mLを、Azo-C10-N+分子(3.42μmol)を含むPBS3mLと混合し、5分間、超音波処理した。その後、ここに、0.2M赤色蛍光ローダミン6G染料(Red-fluorescent rhodamine 6G dye)30μLを含むPBS溶液を添加し、自己組織化複合体内に染料(ローダミン6G)を担持するために、この混合溶液を5分間さらに超音波処理した。この溶液を、1000rpmで、10分間遠心分離した後、担持されていないローダミン6Gが残っている上澄液を捨てた。ローダミン6Gが担持された自己組織化複合体1mLを、アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板上に、室温で、30分間処理して付着させた。その後、この基板上の自己組織化複合体の数を可視化及び定量化するために、この基板を共焦点顕微鏡でイメージ化した。
【0171】
12.自己組織化複合体におけるRGDリガンド数の定量化
自己組織化複合体に含まれたRGDリガンドが飽和され、光異性体の切替中、一定に維持されるかを確認するために、Nanodrop A280方法(NanoDrop 2000 Spectrophotometer、Thermofisher Scientific)を用いた。自己組織化複合体は、PBSで合成され、UV光(365nm、0.25W/cm、1分間照射)処理して膨張させ、Vis光(448nm、0.2W/cm、10分間照射)処理して収縮させた。以降、遠心分離(1000rpmで10分間行う)し、1.2μm気孔サイズの注射器フィルターを用いて、自己組織化複合体を濾過した。上澄液で反応せずに残ったリガンドが付着したPAAの量は、PAAに結合した環状-RGDyK(cyclo-Arg-Gly-Asp-d-Tyr-Lys)のチロシン(tyrosine)基を追跡して測定した。自己組織化複合体に結合していないリガンドの量は、初期に添加されたリガンドが付着したPAAの量から、上澄液にある反応していないリガンドが付着したPAAの量を差し引いて決めた。測定されたリガンドの数は、計算された自己組織化複合体の数で割って、自己組織化複合体当たりのリガンドの数を決めた。
【0172】
13.自己組織化複合体の切替時の膨張程度
自己組織化複合体の水吸収が媒介された膨張を確認するために、膨張の程度を湿潤重量の比で計算し、これは、UV処理が媒介された膨張(0.25W/cmで365nm)またはVis処理が媒介された収縮(0.2W/cmで448nm)の後に測定し、自己組織化複合体の乾燥重量で割った。Azo-C10-N+1.5mgを含むPBS3mL及びリガンドが付着したPAA30mgを含むPBS3mLを混合し、自己組織化複合体の形成を誘導するために、10分間超音波処理した。UVまたはVis処理し、1000rpmで10分間遠心分離し、上澄液を廃棄して、反応していないPAAを除去した後、自己組織化複合体の湿潤重量を測定した。湿潤自己組織化複合体は、空気中に7日間乾燥させ、乾燥重量を測定した。膨張の程度は、自己組織化複合体の湿潤重量に対する乾燥重量の比で計算された。
【0173】
14.基板上における速くて可逆的な自己組織化複合体の収縮/膨張に対するリアルタイムの共焦点顕微鏡イメージング
基板上において、自己組織化複合体が速くて可逆的に収縮/膨張することをリアルタイムイメージングで確認するために、リアルタイム共焦点顕微鏡イメージング(K1 Fluo、Nanoscope systems)を行った。自己組織化複合体の鮮明なイメージングのために、自己組織化複合体400μLを含む溶液に基板をインキュベートして、親水性相互作用を通じて、ガラス基板に自己組織化複合体を付着させた。映像及びタイムラプスのスナップショットイメージで製作されたリアルタイムイメージングは、1分間、UV光(0.25W/cmで365nm)を照射して自己組織化複合体を膨張させた後、引き続き、9分間、Vis光(0.2W/cmで448nm)を照射して収縮させて行った。タイムラプスのスナップショットイメージは、自己組織化複合体が同一平面に焦点が合わせられていることを確認し、側面膨張及び収縮を確認した。
【0174】
また、これらのイメージは、単位面積当たりの自己組織化複合体の数を定量化(4992.7±233.0自己組織化体/mm)するために用いられ、基板上で、収縮/膨張するとき、自己組織化複合体の直径及び側面領域を測定するために用いられた。単位面積当たりの自己組織化複合体の数にそれぞれの自己組織化複合体の側面領域を掛けて、自己組織化複合体の全体の側面領域のパーセントを求めた。
【0175】
15.細胞調節のために、それぞれNIR及びVis光の照明を通じて、自己組織化複合体の収縮及び膨張を切替
ナノシステムにおいて、NIRをUV光に変換して、自己組織化複合体の収縮/膨張を遠隔で調節する効果を試験するために、マクロファージを用いて実験した。アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板だけで実験した場合は、表面を不活性化して、自己組織化複合体の細胞調節効果のための後続付着を防止した。マクロファージ(RAW 264.7、ATCCの5回継代)を、ナノシステムの上に、5.3×10cells/cm(0hにのみ培養)の密度でプレーティングし、10%熱不活性化ウシ胎児血清及び50U/mlのペニシリンとストレプトマイシン抗生体が補充された基本成長培地(DMEM、Dulbecco Modified Eagle Medium)で、37℃、5%CO条件で培養した。基板には、自己組織化複合体の膨張/収縮を誘導するために、NIR(980nm、1W/cm、1分間照射)またはVis光(448nm、0.2W/cm、10分間照射)を交互に繰り返して照射した。
【0176】
細胞機能(例:マクロファージの炎症/再生特性)に対するこのような遠隔制御の効果は、炎症性のM1分極培地(10ng/mLの脂質多糖類を含む)または再生性のM2分極培地(インターロイキン(IL)-4及びIL-3を、それぞれ20ng/mLずつ含む)で調査された。マクロファージの付着及び炎症/再生機能特性間の相関関係は、ROCK(抑制剤であるY27632を50μMを含む)、アクチン重合(抑制剤であるサイトカラシンDを2μg/mL含む)、及びミオシンII(抑制剤であるブレビスタチンを10μM含む)の特定の薬理学的抑制剤を用いて調査した。
【0177】
陰性対照群は、自己組織化複合体/アップコンバージョンナノ粒子、アップコンバージョンナノ粒子、アップコンバージョンナノ粒子のシェルとコーティング部、アップコンバージョンナノ粒子におけるコーティング部または自己組織化複合体のうちいずれか一つがないナノシステムを用いて実験した。
【0178】
16.共焦点免疫蛍光イメージング(confocal immunofluorescence imaging)
ナノシステムの上に細胞を培養し、自己組織化複合体を膨張/収縮させて、遠隔で調節する効果を評価するために、共焦点免疫蛍光イメージングを行った。
【0179】
培養されたマクロファージは、D-PBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA、paraformaldehyde)で10分間固定した後、D-PBSで4回洗浄した。固定されたマクロファージは、遮断バッファー(3%ウシ血清アルブミン及び0.1%Triton-X 100を含むPBS)を用いて、37℃で、1時間の間遮断及び透過化させ、次いで、遮断バッファーを用いて、4℃で、16時間の間、一次抗体とともにインキュベートした。
【0180】
以降、0.5%(v/v)Tween
20を含むPBSで4回洗浄し、マクロファージは、二次抗体及びファロイジン(phalloidin)を含む遮断バッファーを用いて、室温で、45分間処理した。以降、マクロファージを、0.5%(v/v)Tween 20を含むPBSで4回洗浄し、DAPIアンチフエードで覆った後、スライドガラスに載せた。
【0181】
免疫蛍光染色されたマクロファージは、全てのグループに対して同じレーザー露出及びイメージ獲得セッティングされた共焦点顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss)を用いてイメージ化された後、ImageJソフトウェアを用いて定量的に分析した。細胞付着数は、5つの異なるイメージからDAPI-陽性細胞核を用いて計算され、これに対して、付着した細胞面積及び伸長因子(長軸と短軸の割合)は、5つの異なるイメージからF-アクチン染色された細胞を用いて計算した。細胞のタンパク質発現は、5つの異なるイメージを用いて、F-アクチン染色された細胞のタンパク質蛍光強度を定量化して計算した。
【0182】
17.ウエスタンブロッティング分析(Western blotting analysis)
ナノシステムを膨張/収縮することにより、マクロファージに対する効果を定量化するために、ウエスタンブロッティング分析を行った。培養されたマクロファージの全体タンパク質は、10μLのタンパク質分解抑制剤カクテルを混合した400μLのPRO-PREPTMタンパク質抽出溶液(iNtRON biotechnology)を適用して抽出した。抽出されたタンパク質の濃度は、Thermo ScientificTM PierceTM BCA Protein Assay Kitを用いて定量化した。抽出されたタンパク質は、変性させ、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル(SDS-gel、polyacrylamide sodium dodoecyl sulfate-gels、10%)を用いて、110Vで、55分間、ゲル電気泳動して分離し、その後、120Vで、90分間、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、polyvinylidene fluoride)膜に移した。移したタンパク質は、0.1%Tween 20(TBST)バッファーを含むトリス緩衝生理食塩水(tris-buffered saline)で、10分間、洗浄し、遮断バッファー(5%脱脂乳を含むTBST)で、4℃で、一晩中遮断した。
【0183】
その後、iNOS(135kDa)、Arg-1(37kDa)、及びGAPDH(36kDa)に対する一次抗体が溶解された遮断バッファーを、遮断されたタンパク質に室温で1時間の間適用した。このように処理されたタンパク質は、その後、TBSTバッファーでそれぞれ5分間隔で3回洗浄し、抗-HRP-接合された二次抗体で、室温で、1時間の間インキュベートした。その後、タンパク質は、TBSTバッファーで洗浄され、ECLウエスタンブロッティング試薬(Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate、MERCK-Millipore)で処理した。その後、タンパク質は、Linear Image Quant LAS 4000の化学発光イメージングシステムを用いて分析された。標的タンパク質の発現レベルは、GAPDHのそれに対して正規化した後、提示した。
【0184】
18.自己組織化複合体への二重波長光(dual-wavelength light)を介したタンパク質伝達の時間調節の遠隔制御
自己組織化複合体が、二重波長で調節されたタンパク質伝達輸送体として用いられるかを調査するために、リガンドが付着したPAA(16.8μmol)を含むPBS3mLを、Azo-C10-B+分子(3.42μmol)を含むPBS3mLと混合した後、5分間超音波処理した。その後、ここに、組み替えネズミIL-4(Peprotech、catalog#:214-14、10μg/mL)60μLを含むPBSを添加し、次いで、自己組織化複合体の上にIL-4タンパク質がロードされるように、5分間ボルテックシングした。その後、溶液は、1000rpmで、15分間遠心分離し、ロードされなかったIL-4を含む上澄液を捨てた。PBS40mLを、タンパク質がロードされた自己組織化複合体にスムーズに添加して懸濁させた後、100kDa分子量カットオフを有する透析袋に入れた。UV光(365nm、0.25W/cm)及びVis光(448nm、0.2W/cm)を、タンパク質がロードされた自己組織化複合体に、30分間隔で、それぞれ1分間2回照射した。多様な時間で、透析袋を通過した上澄液400μLを収集し、反応していない自己組織化複合体を除去するために、10000rpmで、15分間遠心分離した。上澄液は、適宜希釈させ、放出されたIL-4タンパク質の濃度を、ELISA(Abcam、catalog#:ab100710)を用いて定量化した。これにより、最終的に自己組織化複合体の時間調節された膨張/収縮に対する累積タンパク質放出プロファイルが得られた。
【0185】
19.生体内における、NIR及びVis光の照射を通じて、自己組織化複合体の膨張/収縮の切替
生体内で、NIR及びVis光の照射を用いて、宿主細胞調節の効果を確認するための概念の証明として、ナノシステムをマウスに皮下(subcutaneouse)移植した。
【0186】
大韓民国高麗大学校動物管理委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の承認を得た後、生後2ヶ月のbalb/cマウス44匹を、アルファキサン(alfaxan)及びロムパン(rompun)を2:1(v/v)で混合した溶液100μLを腹腔内注射して麻酔した。炎症が誘発された初期宿主反応に対応するために、宿主細胞にタンパク質(再生性/抗炎症性IL-4)が一定に伝達されるように、IL-4タンパク質をロードするために、ナノシステム1mLを含むPBSを用いて、室温で、30分間インキュベートした。その後、IL-4タンパク質がロードされたナノシステムを、1.8cm長さの切開部を通じてマウスの背中に移植した後、縫合した。移植後、0時間及び12時間に、マウスの背中(基板に向けて)にNIR(980nm、1W/cm、1分間照射)またはVis(448nm、0.2W/cm、10分間照射)レーザーを外部から交互に繰り返し照射して、自己組織化複合体の膨張/収縮を促進した。
【0187】
自己組織化複合体の生体内安定性を確認するために、ローダミン6Gがカプセル化されたナノシステムも移植し、共焦点イメージングを通じて分析した。移植前及び移植から6時間後に、赤色蛍光ナノシステムが確認され、これを、ImageJソフトウェアを用いて定量化した。移植から24時間後に、ナノシステムに付着した宿主マクロファージは、共焦点免疫蛍光イメージング及び柔細胞分析で分析した。全炎症性iNOS及び全再生性Arg-1マーカーのうちいずれか一つが発現される宿主細胞は、宿主マクロファージと確認された。ナノシステムの生体内で局所的及び全体的な毒性は、組織学的分析を通じて評価された。
【0188】
20.生体内細胞調節の柔細胞分析(Flow cytometry analysis of cell regulation in vivo)
宿主細胞の調節に(UV-free)NIR及びVis光の照射が及ぼす影響を定量的に分析するために、柔細胞分析を行った。移植から24時間後、回収されたナノシステムを、10%
FBSを含む冷たいPBSでスムーズに洗浄し、次いで、宿主細胞を収集するために、3000rpmで、5分間遠心分離した。収集された細胞は、4%PFAで、10分間再懸濁された後、3%BSAを含むPBSで、1時間の間暗室で遮断された。遮断された細胞は、3%BSAを含むPBSにおいて、炎症性(CD68)または再生性(CD163)の一次抗体で、1時間の間、適切なアイソタイプ対照群がある暗室で処理された。その後、細胞は、遠心分離した後、PBSで洗浄し、次いで、3%BSAを含むPBSにおいて、二次蛍光抗体で、30分間暗室で処理された。蛍光ラベルされた細胞は、3%BSA、1%アジ化ナトリウム(sodium azide)を含むPBSで洗浄した後、FACS Caliburを用いて分析し、Bd CellQuest
Proソフトウェア(BD Bioscences)を用いて定量化した。このデータは、それぞれのアイソタイプ対照群で正規化した後、平均蛍光強度のヒストグラムを生成するために、FlowJoソフトウェアを用いて分析した。
【0189】
21.局所及び全身生体内における毒性
ナノシステムの材料には、臨床試験中のアップコンバージョンナノ粒子だけでなく、β-カロチン(β-carotene)染料及びTween 80も含まれているが、これらが、生体内で(UV-free)NIR及びVis光を照射することにより、潜在的な毒性を示すかを実験した。
【0190】
まず、ナノシステムを、マウスに皮下移植した。組織学的分析は、移植前及び移植から7日後、細胞構造を確認するために行われた。皮下組織は、生体内の局所的な毒性を評価するために分析され、これに対して、多様な臓器(例えば、肝、腎臓、脾臓、及び心臓)は、生体内の全体的な毒性を評価するために分析された。多様な組織及び臓器は、4%PFAを用いて、48時間の間固定された。その後、固定された組織サンプルを、DIウォーターで洗浄し、エタノール-DIウォーター混合物で、エタノールの濃度勾配(順序通りに、70%、80%、90%、95%、及び100%エタノール)を用いて、1時間の間(それぞれ2回ずつ)脱水し、次いで、60℃で、一晩中パラフィン包埋(paraffin embedding)を行った。パラフィン包埋サンプルの5μm厚さ部分をマイクロトーム(HistoCore Multicut、Leica RM2125 RTS Biosystem)を用いて切断し、スライドガラスに載せ、キシレン代替物を用いて、パラフィンを除去した後、DIウォーター-エタノール混合物で、エタノールの濃度勾配(順序通りに、70%、80%、90%、95%、及び100%エタノール)を用いて、再水和(re-hydrate)した。再水和された部分は、ナノシステムを移植して、NIRまたはVis光を照射する前と7日後の多様な組織及び臓器の細胞組織で生じる変化を調査するために、ヘマトキシリン及びエオジン(H&E、hematoxylin and eosin)溶液で脱水して、スライドガラスに載せた。
【0191】
22.統計分析
全ての実験は、独立的に2回または3回再現された。グラフパッドプリズム8(Graphpad Prism8)ソフトウェアは、全ての統計処理に用いられた。グループ間に統計的に有意味な差は、0.05未満のp値と設定された。スチューデントの両側t検定(Two-tailed Student’s t-test)は、二つのグループの比較に用いられるのに対して、チューキー・クレーマー事後検定(Tukey-Kramer post-hoc test)を用いた一元分散分析(ANOVA)は、多重グループ比較で行われた。
【0192】
下記の実験及び図面において、NIR、Vis(またはVis光)及びUVは、該当光を照射したという意味である。すなわち、例えば、NIR-Visは、NIR光を照射した後、Vis光を照射したという意味である。
【0193】
アップコンバージョンナノ粒子において、コアは、シェル及びコーティング部がなく、コアだけある構造を意味する。また、アップコンバージョンナノ粒子において、コアシェル、コアシェル部、コア@シェル、コア@シェル部、及びcore@shellは、コーティング部がなく、コア及びその表面を全体的に取り囲むシェルだけある構造を意味する。また、アップコンバージョンナノ粒子において、構成要素の制限がない場合、及びcore@shell@dyeは、コアシェルの表面をコーティング部が全体的に取り囲む構造のアップコンバージョンナノ粒子を意味する。
【0194】
[実験例1]ナノシステムの特性分析
1.光切替異性体の特性分析
自己組織化複合体の自己組織を媒介する光切替異性体として、Azo-C10-N+分子を合成した。
【0195】
Azo-C10-N+分子の合成メカニズムは、図2に示した。まず、Azo-OHを合成した後、芳香族基とBrとの間に疎水性尾部スペーサを含むAzo-C10-Brに変換した。以降、Azo-C10-Br分子におけるBrは、π-カチオン及びπ-π相互作用を通じて、自己組織化複合体において積層させることができるAzo-C10-N+分子を得るために、N+で代替された。
【0196】
当該分子の合成を確認するために、H NMRスペクトルを、図3に示した。Azo-OH、Azo-C10-Br、及びAzo-C10-N+分子のH NMRスペクトルは、フェノール基(10.34ppm)、エーテル基(4.05ppm)、及び四次アミンのα-水素(3.54-3.25ppm)の特性ピークを示し、光切替可能なAzo-C10-N+分子が成功的に合成されたことを示す。
【0197】
図4は、Azo-C10-N+分子の分子動力学(MD;molecular Dynamics)シミュレーションを分析して示すものである。
【0198】
分子動力学シミュレーションは、Azo-C10-N+分子のトランス-及びシス-状態の切替が、分子内の積層及び水の吸収を調節することを示す。トランス及びシス状態のAzo-C10-N+分子に対するMDシミュレーションのスナップショットは、Azo-C10-N+分子の分子内のπ相互作用がトランス状態で促進されることを示す(図4a)。これは、窒素陽イオンと疎水性尾部スペーサがAzo-C10-N+分子の積層を媒介するからである。
【0199】
MDシミュレーションの20nsにおける、Azo-C10-N+分子のπ-カチオン相互作用に対するヒートマップチャート(heat map chart)及び頻度数から、これらの相互作用がシス状態よりもトランス状態において極めて促進されることがさらに確認される。これに対して、π-π相互作用の程度は、シスとトランスの状態が似ている。このような特性は、図6b、c及び図4b、cにより確認される。
【0200】
Azo-C10-N+分子のそれぞれの異性体に対する密度汎関数理論(DFT、density functional theory)の計算に対する数値を、図4d、eに示した。シス状態のAzo-C10-N+分子がさらに高い水素エネルギー及びさらに大きな極性表面積を見せることを示し、これは、トランス状態よりも水に対する親和度が極めて大きいことを示す。
【0201】
まとめると、π-カチオン相互作用が抑制されたcis-Azo-C10-N+分子のねじれた構造は、分子の極性及び親水性を向上させ、したがって、水を吸収して自己組織化複合体の膨張を促進させる。また、これに対して、相対的に弱い極性であるtrans-Azo-C10-N+分子におけるπ-カチオン相互作用は、自己組織化複合体内に水が吸収されることを抑制して、自己組織化複合体を稠密にする。
【0202】
2.リガンドが付着したポリマー及び自己組織化複合体の特性分析
自己組織化複合体にRGDリガンドを取り込むために、リガンドが付着し、負に荷電したポリマーを合成し、ここに、静電気的相互作用を通じて積層されたAzo-C10-N+分子を結合させた。ここで、ポリマーは、ポリアクリル酸(PAA、polyacrylic acid)を用い、RGDリガンドは、アミン基を有するリジン残基のある環状-RGDyKを用いた。PAAのカルボキシレート基にリガンドが結合する過程は、図5に示した。
【0203】
自己組織化複合体は、π-カチオン及びπ-π相互作用を通じて、Azo-C10-N+分子の積層を促進すると同時に、リガンドが付着したPAAが固まることを媒介として形成されてもよい。このような自己組織化複合体の形成過程は、図6aに模式的に示した。
【0204】
前記自己組織化複合体のAzo-C10-N+分子のトランス及びシス型を用いたMDシミュレーションを行い、図7に示した。
【0205】
図7aは、トランス及びシスの状態で、Azo-C10-N+分子がアクリル酸と連結された状態で残っていることを示す。
【0206】
自己組織化複合体内において、cis-Azo-C10-N+分子の安定性(例えば、寿命)を評価するために、シス状態を促進するように、UV光を照射した後、シス状態からトランス状態への時間分解切替(time-resolved conversion)を調査した。このため、UV-Vis分光を用いて実験して、図7b-eに示した。
【0207】
UV-Vis分光法の結果は、トランス状態の形成のための可視光線処理後、最大ピーク強度は、345nmを示し、シス状態の形成のために0時間からUV処理後は、315nmを示す。この結果から、30秒間UV処理してから24時間になる時点に、シス状態が殆ど80%以上残っていることが確認され、1日スケールのシス状態の安定性を確認することができる(図7b、c)。
【0208】
このように、シス状態の長い寿命は、トランス状態で吸収ピークの青方偏移(blue-shifted)を示すように設計されたアゾベンゼン誘導体に相応するものである。30秒間、UV処理後、引き続き、30秒間Vis処理することを5サイクル以上繰り返すUV-Vis吸収スペクトル、及び時間-依存残留シス集団から、5サイクルの間、シスとトランス集団間に、速くて可逆的な変換が可能であることが確認される(図7d、e)。
【0209】
3.アップコンバージョンナノ粒子の特性分析
UVのない(このため、組織透過的な)刺激を通じて、自己組織化複合体の可逆的な膨張/収縮を遠隔で調節するために、NIRをUV光にアップコンバージョンさせるアップコンバージョンナノ粒子を合成した。アップコンバージョンナノ粒子は、表面欠陥を防止するために、コア上に、シェルをエピタキシアル成長(epitaxial growth)させ、コア@シェル構造(NaYF:Yb、Tm@NaYF)で設計された。アップコンバージョンナノ粒子に対する分析結果は、図8及び9に示した。
【0210】
図8a及び図9におけるHR-TEMイメージは、合成されたコアとシェルが、サイズ分布及び形態が均一に合成されたことを示す。また、イメージは、コア(NaYF:Yb、Tm)とシェル(NaYF)がいずれも、欠陥のない六方晶構造を有することを示す。当該図面のHAADF-STEMイメージとEDSマッピングは、コアとシェルの構造にF及びY元素が均一に分布されているだけではなく、Yb及びTmのドーパント元素がコアにのみ均一に存在することを示す。
【0211】
図8bは、合成されたアップコンバージョンナノ粒子のコアがNIR(980nm)励起以下のUV及びVis(青色)領域において光ルミネセンスピークを見せることを示す。また、図8b、cは、アップコンバージョンナノ粒子のシェルが、コア上においてエピタキシアル成長したとき、コアシェルの蛍光強度及び直径が、コアだけあるときと比べて、顕著に増加することが確認される。
【0212】
図10は、アップコンバージョンナノ粒子において、コーティング部の有無による蛍光を分析した結果である。NIRが変換されたUV(NIR-converted-UV)光により、自己組織化複合体の膨張を媒介するcis-Azo-C10-N+の形成を選択的に誘導するために、NIRからUVまたはVisへの変換を天然染料を用いて最大化した。ここで、使った天然染料は、青色領域において可視光線を吸収するβ-カロチンである。これに対して、trans-Azo-C10-N+の形成は、自己組織化複合体の可視光線により誘導されてもよく、このとき、自己組織化複合体は、収縮される。
【0213】
したがって、NIRは、cis-Azo-C10-N+を選択的に誘導するために、Visを超えてUV光に変換される必要がある。結局、コアシェルは、NIRを照射して、cis-Azo-C10-N+を形成するために、可視光線を吸収する染料で表面をコートして、アップコンバージョンナノ粒子を得ることができる。図8dは、このように形成されたアップコンバージョンナノ粒子を基板上にコートしたことを示す図である。NIR(980nm)が励起された光ルミネセンススペクトルは、340nmのUV領域のピークにおいて正規化され、コア、コアシェル、及びコーティング部まで形成されたアップコンバージョンナノ粒子へ行くほど、450nmにおけるピーク強度が次第に減少した(図8e)。NIRが励起された光ルミネセンスを示す図(図8f)は、コアシェルでは、青色の光ルミネセンスが極めて強く現れるが、コーティング部まで形成されたアップコンバージョンナノ粒子へ行くほど、強度が顕著に減少することが確認される。
【0214】
図8gでは、UV(340nm)及びVis(450nm)の光ルミネセンス強度比を定量化して示し、アップコンバージョンナノ粒子において、NIRからUVへアップコンバージョンされることが、NIRからVis光へアップコンバージョンされることよりも、さらに好まれることを示す。
【0215】
図8d及び図10b、cでは、親水性相互作用を通じて、アップコンバージョンナノ粒子が、基板の表面を均一な分布で全体的に覆っていることが確認され、極めて高いUV/Visの強度比を示す。
【0216】
したがって、このような結果から、アップコンバージョンナノ粒子が、NIRをUVへ選択的にアップコンバージョンさせ、その強度も強く示されることが確認される。
【0217】
4.ナノシステムの特性分析
自己組織化複合体を、アップコンバージョンナノ粒子がコートされた基板に、親水性相互作用を通じて、結合させて、ナノシステムを形成した。このナノシステムは、NIRを照射すると、NIRが、アップコンバージョンナノ粒子を通じて、UVへアップコンバージョンされ、このUVが、自己組織化複合体を刺激し、自己組織化複合体の光切替異性体(Azo-C10-N+)をシス異性化して、自己組織化複合体を膨張させる。また、ナノシステムにVis光を照射すると、自己組織化複合体の光切替異性体がトランス異性化して、自己組織化複合体を収縮させる。
【0218】
このようなナノシステムの挙動を確認するために、自己組織化複合体にローダミンを担持して、余膨張/収縮実験を行い、その結果を図11に示した。
【0219】
図11aは、自己組織化複合体内にローダミンが担持される過程を模式的に示す図である。図11bは、自己組織化複合体の蛍光イメージであり、自己組織化複合体に担持されたローダミンにより、強い赤色蛍光が示すことが確認される。
【0220】
図11cは、自己組織化複合体の膨張/収縮による様々な数値を定量化して示すグラフである。自己組織化複合体当たりのリガンドの数は、二重波長光で自己組織化複合体を調節して、膨張/収縮させた後に調査しており、膨張(2.23±0.11×1010)及び収縮(2.03±0.03×1010)の状態において殆ど類似した。
【0221】
これは、リガンドの飽和数よりも露出数が重要であることを意味する。また、光が媒介されて膨張した状態で、自己組織化複合体の完全に飽和された湿潤重量を乾燥重量で割ったものは、膨張状態では、水を吸収するので、収縮状態と比べて、308%まで極めて増加した。自己組織化複合体の膨張は、Azo-C10-N+分子の積層構造が減少することにより、リガンドが付着したポリマーがねじれるを防止し、拡がった自己組織化複合体の内部に水を吸収する。このとき、ポリマーに付着したリガンドが外部に極めて露出する。これに対して、自己組織化複合体の収縮は、Azo-C10-N+分子の積層構造が増加して、自己組織化複合体の内部構造が稠密になり、ポリマーのねじれも増加する。したがって、自己組織化複合体の内部に水が吸収されず、ポリマーに付着したリガンドも外部に少しだけ露出するようになる。
【0222】
図11dは、自己組織化複合体のリアルタイムの共焦点顕微鏡イメージのスナップショットであり、自己組織化複合体を1分間膨張させ、引き続き、9分間収縮させて変化を確認したものである。図面において、自己組織化複合体の膨張/収縮により、軸変化が最小化されることに対して、側面(lateral)の膨張/収縮が起こることが確認される。これは、自己組織化複合体と基板表面との間に可逆的な親水性相互作用に起因したものである。
【0223】
自己組織化複合体の膨張/収縮に対する図11c-eを総合すると、自己組織化複合体の可逆的な膨張/収縮により、直径、側面断面積、及び全体断面積の百分率は、それぞれ極めて大きな差を有して、可逆的に増加され減少された。自己組織化複合体の全体断面積の百分率は、自己組織化複合体の膨張/収縮により、細胞の付着を、敏感かつ一時的に調節することができることを意味する。
【0224】
[実験例2]ナノシステムのマクロファージ付着の調節実験
ナノシステムの膨張/収縮する特性を用いて、細胞の付着及び分極化を調節することができるかを実験した。このため、ポリマーに付着したリガンドとして、細胞付着性RGDリガンド(Arg-Gly-Asp)を用いた。細胞タイプは、細胞と自己組織化複合体との間の直接的な相関関係を調査するために、自己組織化複合体のサイズ(3-5μm)に似ているマクロファージを用いた。
【0225】
マクロファージをナノシステムの上に位置させ、NIR(980nm、1W/cm、1分間照射)及びVis光(448nm、0.2W/cm、10分間照射)を照射し、照射されたNIRは、UVへアップコンバージョンされた。
【0226】
図12及び図13は、ナノシステムがマクロファージに作用する効果を実験した結果及びナノシステムによるマクロファージの付着過程を模式的に示す図である。
【0227】
図12a、bにおいて、NIRグループの共焦点免疫蛍光イメージを通じて、高い付着細胞数、サイズ、及び伸長において、リガンドが極めて露出し、インテグリンβ1組立体、F-アクチンフィラメント、及び焦点付着複合体の発現が増加することが確認され、これは、マクロファージが膨張した自己組織化複合体に付着しやすいことを意味する。
【0228】
また、図14乃至図17は、陰性対照群に対する実験結果であり、それぞれ、順序通りに、ナノシステムにおいて、アップコンバージョンナノ粒子がない場合、及び基板だけある場合、アップコンバージョンナノ粒子がコアのみで形成された場合、アップコンバージョンナノ粒子がコアシェル部だけある場合、自己組織化複合体またはリガンドがない場合に対する実験結果である。それぞれの陰性対照群において、NIRまたはVis光の照射にもかかわらず、マクロファージの付着細胞、付着した細胞の面積及び細胞の伸長因子において有意味な変化がないことが確認される。これは、ナノシステムにおいて、アップコンバージョンナノ粒子の各構成要素、リガンドが、細胞付着及び調節に必須要素であることを意味する。
【0229】
図18及び図19は、ナノシステムに、NIRまたはVis光を交互に照射した後、細胞付着の効果を実験した結果である。
【0230】
それぞれ、0時間及び12時間にNIRまたはVis光を照射し、12時間及び36時間に細胞付着を観察した。実験グループは、照射方式により、それぞれ「NIR-NIR」、「NIR-Vis」、「Vis-NIR」、及び「Vis-Vis」グループとした。
【0231】
注目すべきことは、「NIR-Vis」グループにおいて、12時間で、NIRが媒介された膨張により細胞付着が促進され、36時間では、Visが媒介された収縮により細胞付着が可逆的に抑制された。これは、本発明の光切替可能なナノシステムが、Vis光により誘導された自己組織化複合体内において、cis-Azo-C10-N+分子の長時間(24h)安定性に寄与された時間-調節細胞付着を効率的に行うことができることを意味する(図7b、c参照)。
【0232】
したがって、このような結果は、ナノシステムに、NIRまたはVis光を照射して、マクロファージの付着を調節することができることを意味する。
【0233】
[実験例3]ナノシステムの光切替によるマクロファージの分極化実験
次に、ナノシステムを用いて、マクロファージの付着を調節し、引き続き、マクロファージの分極化を調節することができるかを実験し、その結果を、図20乃至図23に示した。
【0234】
マクロファージにおいて、細胞骨格のF-アクチンフィラメントの明らかな組立を含む強力な細胞付着及び細胞の伸長された形態の付着複合体が、全再生性/抗炎症性機能を有するように刺激するROCK(rho-associated protein kinase)を活性化することが明らかになっている。
【0235】
共焦点免疫蛍光イメージ及びウエスタンブロッティングイメージは、NIRが後に照射されるグループ(「NIR-NIR」及び「Vis-NIR」グループ)が、それぞれの培地条件において、全再生性/抗炎症性機能を示し、これに対して、Visが後に照射されるグループ(「NIR-Vis」及び「Vis-Vis」グループ)は、高い全炎症性機能を示すことが確認される(図20、21)。
【0236】
また、細胞付着を妨害するそれぞれのタンパク質の抑制剤を入れて実験した場合、全再生性/抗炎症性機能が損なわれることが確認され、これにより、細胞付着及び細胞の機能間に相関関係があることが確認される(図22、23)。この実験において、それぞれのタンパク質は、ROCK、アクチン重合、及びミオシンIIであり、これに対する抑制剤として、それぞれY27632、サイトカラシンD(cytochalasin D)、及びブレビスタチン(blebbistatin)を用いた。
【0237】
このような結果は、ナノシステムに、NIRまたはVis光を照射して、マクロファージの付着だけでなく、分極化まで調節することができることを意味する。
【0238】
[実験例4]ナノシステムの光切替によるタンパク質伝達実験
ナノシステムに、NIRまたはVis光を照射して、自己組織化複合体の膨張/収縮される時間を調節することにより、ナノシステムを用いた物質伝達が可能であるかを実験し、実験結果を図24に示した。
【0239】
図24aは、NIRまたはVis光の照射により、光切替異性体であるAzo-C10-N+が、シス及びトランスで異性化して、物質が伝達される過程を模式的に示すものである。Azo-C10-N+分子は、シス及びトランスの形態に応じて、分子内相互作用により、リガンドが付着したPAAと絡んだり解けたりするようになる。ここで、伝達物質は、インターロイキン-4(IL-4)タンパク質を用い、自己組織化複合体内に担持された。
【0240】
図24bにおいて、0分及び30分に、ナノシステムにVis光を1分間照射して、自己組織化複合体を収縮させると、担持されたタンパク質が、60分間、自己組織化複合体内で維持される。しかし、60分及び90分に、ナノシステムに、UV(NIRからアップコンバージョンされたUV)を1分間照射して、自己組織化複合体を膨張させると、60分から、担持されたタンパク質が、時間により拡散して、自己組織化複合体の外部に出ることが確認される。
【0241】
したがって、ナノシステムに、NIRまたはVis光を照射して、自己組織化複合体内に担持された物質を特定部位に伝達することができ、伝達される時間も調節することができる。
【0242】
[実験例5]ナノシステムの生体内実験
ナノシステムを生体内に注入して、マクロファージ及び物質伝達に関する実験を行った。
【0243】
実験過程において、ナノシステムの挙動は、組織、及び肺、心臓、並びに脳のような臓器を模倣し、これにより、液体の移動を通じて、自己組織化複合体の膨張/収縮が繰り返され、生体高分子ネットワークの構造を動的に変更することが確認された。宿主マクロファージは、初期炎症反応を調節して、線維症(fibrosis)及び組織再生性のような後期反応を調節するという重要な役割のため、本実験で分析された。
【0244】
まず、全再生性IL-4タンパク質が担持されたナノシステムを、マウスの皮下に移植した後、試験管と生体内における光による安定性が同じかを観察し、図24c、dに示した。免疫蛍光イメージ、及びそれを定量化したグラフのいずれにおいても、移植されたナノシステムの数が殆ど変わらないことが確認される。
【0245】
また、共焦点免疫蛍光及び柔細胞分析は、膨張が媒介されたタンパク質が放出され、高いリガンドの露出が後の反応において示されるように設計された「NIR-NIR」及び「Vis-NIR」グループにおいて行われ、図24e、図25、及び図26に示した。ここで、「Vis-NIR」及び「Vis-Vis」グループと比較して、好中球の募集とともに、宿主マクロファージの付着及び全再生性/抗炎症性機能がシナジー効果を出して促進されることが確認される。
【0246】
図27は、ナノシステムに、NIRまたはVis光を照射した場合、生体に無毒性を実験した結果である。無毒性実験は、7日間行われ、局所皮下組織、及び肝、腎臓、脾臓、心臓のような全体の臓器に対して照射した。図面は、ナノシステムの移植前、移植から7日後、及び光照射から7日後における、それぞれの部位に対するイメージであり、特別な細胞構造の差は見られなかった。
【0247】
前記ナノシステムは、UV無しに可逆的に調節することができるシステムであり、これは、生体に有害なUVを用いず、NIR及びVis光を照射して、マクロファージ及び物質伝達を調節することができることを意味する。
【0248】
本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が、その技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されてもよいことが理解されるであろう。そのため、上述した実施例は、全ての面において、例示的なものであり、限定的なものではないと理解されなければならない。本発明の範囲は、上記した詳細な説明よりも、後述する特許請求の範囲により定められ、特許請求の範囲の意味及び範囲、また、その均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が、本発明の範囲に含まれると解析されなければならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
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