(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】Hspa5遺伝子のプロモーター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231109BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231109BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231109BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231109BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231109BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231109BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20231109BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13 ZNA
C12N15/85 Z
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2018543881
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2017035773
(87)【国際公開番号】W WO2018066492
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-07-31
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2016195564
(32)【優先日】2016-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【氏名又は名称】竹元 利泰
(72)【発明者】
【氏名】増田 兼治
(72)【発明者】
【氏名】野中 浩一
(72)【発明者】
【氏名】種村 裕幸
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】吉森 晃
【審判官】福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504922(JP,A)
【文献】特表2013-531967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0065100(US,A1)
【文献】Oncotarget,2016年03月28日,Vol.7, No.18, pp.26480-26495
【文献】Homo sapiens heat shock 70kDa protein 5 (glucose-regulated protein, 78kDa) (HSPA5) gene, complete cd,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No. DQ385847, 11-FEB-2006 uploaded, [retrieved on 2017-12-05],<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/DQ385847>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)、CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)、Genebank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャイニーズハムスター由来Hspa5遺伝子のプロモーターであって、配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、配列番号1に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列の部分配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号5に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号6に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号7に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号8に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
ヒト由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項9】
マウス由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号3に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項10】
ラット由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号4に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1乃至
10のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含むことからなる、外来遺伝子発現ユニット。
【請求項12】
外来遺伝子が多量体蛋白質をコードする遺伝子である、請求項
11に記載の外来遺伝子発現ユニット。
【請求項13】
外来遺伝子がヘテロ多量体蛋白質をコードする遺伝子である、請求項
11に記載の外来遺伝子発現ユニット。
【請求項14】
外来遺伝子が抗体又はその抗原結合性断片をコードする遺伝子である、請求項
11に記載の外来遺伝子発現ユニット。
【請求項15】
請求項
11乃至
14のいずれか一つに記載の外来遺伝子発現ユニットを含む外来遺伝子発現ベクター。
【請求項16】
請求項
11乃至
14のいずれか一つに記載の外来遺伝子発現ユニット及び下記A群の(a)乃至(e)に記載のポリヌクレオチドから選択されるいずれか一つ又は複数のポリヌクレオチドを含む外来遺伝子発現ベクター;
A群
(a)配列表の配列番号35に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列表の配列番号36に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(c)配列表の配列番号37に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(d)前記(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列の全長に対して95%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、外来遺伝子発現亢進活性を有するポリヌクレオチド、
(e)上記(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列の全長に対して99%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、外来遺伝子発現亢進活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項
15又は
16に記載の外来遺伝子発現ベクターが導入された形質転換細胞。
【請求項18】
細胞が哺乳動物由来の培養細胞である、請求項
17に記載の形質転換細胞。
【請求項19】
哺乳動物由来の培養細胞が、COS-1細胞、293細胞、又はCHO細胞である、請求項
18に記載の形質転換細胞。
【請求項20】
請求項
17乃至
19のいずれか一つに記載の形質転換細胞を培養し、培養物から外来遺伝子由来の蛋白質を取得することを特徴とする、該蛋白質の製造方法。
【請求項21】
形質転換細胞において外来遺伝子を発現させることを目的とする、請求項1乃至
10のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項22】
形質転換細胞において外来遺伝子を発現させることを目的とする、請求項
15又は
16に記載の外来遺伝子発現ベクターの使用。
【請求項23】
外来遺伝子由来の蛋白質が、単量体蛋白質又は多量体蛋白質である、請求項
20に記載の製造方法。
【請求項24】
多量体蛋白質が、ヘテロ多量体蛋白質である、請求項
23に記載の製造方法。
【請求項25】
ヘテロ多量体蛋白質が、抗体蛋白質である、請求項
24に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Hspa5遺伝子のプロモーターを有する外来遺伝子発現ベクターで哺乳動物宿主細胞を形質転換して構築した哺乳動物細胞を用いた該外来蛋白質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の発展によって、治療用蛋白質や抗体医薬といった蛋白質性医薬品が急速にその市場を拡大している。中でも、抗体医薬は人体に投与しても有害な免疫反応を引き起こさず、その特異性の高さから開発が盛んに進められている。
【0003】
抗体医薬に代表される蛋白質性医薬を生産させる宿主としては、微生物や酵母、昆虫、動植物細胞、トランスジェニック動植物等を挙げることができる。蛋白質性医薬の生理活性や抗原性には、フォールディングや糖鎖修飾といった翻訳後修飾が必須であるため、複雑な翻訳後修飾を行うことができない微生物や糖鎖構造の大きく異なる植物は宿主として不適である。ヒトと類似した糖鎖構造を有し、翻訳後修飾が可能、さらには安全性の面を考慮し、CHO細胞(Chinese Hamster Ovary:チャイニーズハムスターの卵巣)等の哺乳動物培養細胞が現在の主流となっている。
【0004】
哺乳動物培養細胞を宿主とする場合、微生物等と比較して、増殖速度の低さ、生産性の低さ、高価なコスト等の問題を抱えている(非特許文献1)。また、蛋白質性医薬品を臨床で利用するためには大量の投与が必要となるため、世界的にもその生産能力の不足が問題となっている。哺乳類培養細胞発現系で蛋白質性医薬品を製造する場合、合成低分子医薬品に比べて製造コストが高いため、各製造工程の改良によって製造コストの低減が図られているが、哺乳類培養細胞発現系における生産量の向上も製造コスト低減の有力な方法である(非特許文献2、3)。そこで、哺乳動物培養細胞における外来遺伝子の生産性を向上させるため、これまでに、プロモーターやエンハンサー、薬剤選択マーカー、遺伝子増幅、培養工学的手法等多くのアプローチが試行錯誤されてきている。CHO細胞を宿主細胞として用いられる場合、外来遺伝子の発現、すなわち蛋白質性医薬品の生産にはウイルス由来のHuman cytomegalovirus major immediate early promoter(以下CMVプロモーター)が一般的に用いられている(非特許文献4、5、6)。また、CHO細胞において、elongation factor-1 alpha であるEF-1α(特許文献1、非特許文献7)、ヒトリボソーム蛋白質遺伝子であるRPL32やRPS11の転写開始点の上流域のポリヌクレオチド(プロモーター領域)を単独または他の異種プロモーターと組み合わせて蛋白質発現に使用できることが知られている(非特許文献8、特許文献2)。しかしながら、これらのプロモーターは、宿主となる哺乳動物培養細胞の細胞内の生理状況に応答して下流の外来遺伝子の発現を調整しており、多くは哺乳動物培養細胞の増殖が活発である対数増殖期にその活性が最大になる。従って、最大細胞密度の到達以降の定常期では、その発現調節機能は減弱することが多いため、哺乳動物培養細胞の培養期間を通して外来遺伝子の強力な発現が可能なプロモーターの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3051411号
【文献】WO2013/080934
【非特許文献】
【0006】
【文献】Florian M.Wurm.,Nat. Biotechnol. 22(11):1393-1398,2004
【文献】Farid SS., J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 848(1):8-18,2007
【文献】Werner RG. Economic aspects of commercial manufacture of biopharmaceuticals. J Biotechnol. 113(1-3):171-182,2004
【文献】Durocher Y et al., Curr Opin Biotechnol. 20(6):700-707,2009
【文献】Boshart M et al., Cell. 41(2):521-530,1985
【文献】Foecking MK et al., Gene. 45(1):101-105,1986
【文献】Deer JR. and Allison DS.,Biotechnol. Prog. 20:880-889,2004
【文献】Hoeksema F. et al., Biotechnology Research International、Volume2011, Article ID 492875, 11pages
【文献】Okumura T et al., J Biosci Bioeng., 120(3):340-346,2015
【文献】Langmead B et al., Genome Biology. 10:1186,2009
【文献】Mortazavi A et al., Nature Methods. 5:621-628,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、哺乳動物培養細胞等の宿主細胞において、高い外来遺伝子発現亢進活性を有するプロモーターを用いて、蛋白質性医薬品となる外来蛋白質の生産量を亢進させる手段を提供することにある。CHO細胞等においてヒトEF-1αプロモーターと同程度以上のプロモーター活性を有し、且つ、哺乳動物培養細胞の対数増殖期から定常期までの広範な期間において高いプロモーター活性を維持するプロモーターを見出すことにより、哺乳動物細胞が安定的に外来遺伝子の高発現を達成する手段を提供し、哺乳類培養細胞発現系における蛋白質生医薬品の生産量の向上、すなわち製造コスト低減に貢献する手段を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒートショックプロテインA5(Hspa5/GRP78)遺伝子の開始コドンの上流約3kbpのポリヌクレオチドが、優れたプロモーター活性を有し、哺乳動物培養細胞において発現対象となる外来蛋白質の生産性を著しく向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)チャイニーズハムスター由来Hspa5遺伝子のプロモーターであって、配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とする、配列番号1に記載のヌクレオチド配列又は該ヌクレオチド配列の部分配列からなるポリヌクレオチド。
(2)配列番号1に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(3)配列番号5に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(4)配列番号6に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(5)配列番号7に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(6)配列番号8に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(7)配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなる、前記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(8)ヒト由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
(9)マウス由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号3に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
(10)ラット由来Hspa5遺伝子のプロモーターである、配列表の配列番号4に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
(11)前記(1)乃至(10)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に対して95%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、プロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
(12)前記(1)乃至(10)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に対して99%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、プロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
(13)前記(1)乃至(12)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、プロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
(14)前記(1)乃至(13)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドを含むことからなる、外来遺伝子発現ユニット。
(15)外来遺伝子が多量体蛋白質をコードする遺伝子である、前記(14)に記載の外来遺伝子発現ユニット。
(16)外来遺伝子がヘテロ多量体蛋白質をコードする遺伝子である、前記(14)に記載の外来遺伝子発現ユニット。
(17)外来遺伝子が抗体又はその抗原結合性断片をコードする遺伝子である、前記(14)に記載の外来遺伝子発現ユニット。
(18)前記(14)乃至(17)のいずれか一つに記載の外来遺伝子発現ユニットを含む外来遺伝子発現ベクター。
(19)前記(14)乃至(17)のいずれか一つに記載の外来遺伝子発現ユニット及び下記A群の(a)乃至(e)に記載のポリヌクレオチドから選択されるいずれか一つ
又は複数のポリヌクレオチドを含む外来遺伝子発現ベクター;
A群
(a)配列表の配列番号35に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列表の配列番号36に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(c)配列表の配列番号37に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
(d)前記(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に対して95%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、外来遺伝子発現亢進活性を有するポリヌクレオチド、
(e)上記(a)乃至(c)のいずれか一つに記載のヌクレオチド配列に対して99%以上同一性を有するヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであって、外来遺伝子発現亢進活性を有するポリヌクレオチド。
(20)前記(18)又は(19)に記載の外来遺伝子発現ベクターが導入された形質転換細胞。
(21)細胞が哺乳動物由来の培養細胞である、前記(20)に記載の形質転換細胞。
(22)哺乳動物由来の培養細胞が、COS-1細胞、293細胞、又はCHO細胞である、前記(21)に記載の形質転換細胞。
(23)前記(20)乃至(22)のいずれか一つに記載の形質転換細胞を培養し、培養物から外来遺伝子由来の蛋白質を取得することを特徴とする、該蛋白質の製造方法。
(24)形質転換細胞において外来遺伝子を発現させることを目的とする、前記(1)乃至(13)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドの使用。
(25)形質転換細胞において外来遺伝子を発現させることを目的とする、前記(18)又は(19)に記載の外来遺伝子発現ベクターの使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の外来遺伝子の製造方法によって、治療用蛋白質や抗体等の外来遺伝子の発現を著しく亢進することが可能になる。また、本発明のプロモーターは、DNAエレメントと組み合わせることにより、治療用蛋白質や抗体等の外来遺伝子の発現をさらに亢進することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】1L Jarを用いたヒト化抗体X発現株X#1およびX#2の流加培養結果を示した。
図1Aは生細胞数の経時変化を示す。
【
図1B】1L Jarを用いたヒト化抗体X発現株X#1およびX#2の流加培養結果を示した。
図1Bは生産量の経時変化を示す。
【
図2A】流加培養の各サンプリング日での各遺伝子の発現量を示した。
図2Aは、Jar#1の結果を示し、Jar#1の4日目の細胞における発現量上位20遺伝子をプロットした。
【
図2B】流加培養の各サンプリング日での各遺伝子の発現量を示した。
図2Bは、Jar#2の結果を示し、Jar#1の4日目の細胞における発現量上位20遺伝子をプロットした。
【
図2C】流加培養の各サンプリング日での各遺伝子の発現量を示した。
図2Cは、Jar#3の結果を示し、Jar#1の4日目の細胞における発現量上位20遺伝子をプロットした。
【
図3】各プロモーターを挿入したホタルルシフェラーゼ発現ベクターでトランスフェクションし、その1日後に測定したホタルルシフェラーゼ(luc2)の発光量をウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)の発光量で標準化した値を示した図。
【
図4】抗体H鎖およびL鎖遺伝子のプロモーターとしてHspa5遺伝子、ヒトRPS7遺伝子、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子由来のプロモーターを用いた、ヒト化抗体遺伝子Y発現ベクターpDSLHA4.1-Hspa5-Y、pDSLHA4.1-hRPS7-Y、および、pDSLHA4.1-hEF1α-Yの概略図。
【
図5A】ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いた流加培養にて、Hspa5遺伝子プロモーターにより発現された抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図5Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。
【
図5B】ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いた流加培養にて、Hspa5遺伝子プロモーターにより発現された抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図5Bは、各サンプリング日における生産量を示す。
【
図5C】ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いた流加培養にて、Hspa5遺伝子プロモーターにより発現された抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図5Cは、各サンプリング日における1細胞1日当たりの抗体生産量を示す。
【
図6】ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いた流加培養におけるH鎖遺伝子の経時的な相対発現量を、Hspa5遺伝子プロモーターと、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターとで比較した図。
【
図7A】ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)発現ステーブルプールを用いた流加培養にて、Hspa5遺伝子プロモーター(3 kbp)により発現されたウミシイタケルシフェラーゼ生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図7Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。
【
図7B】ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)発現ステーブルプールを用いた流加培養にて、Hspa5遺伝子プロモーター(3 kbp)により発現されたウミシイタケルシフェラーゼ生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図7Bは、各サンプリング日における10
3細胞当たりのウミシイタケルシフェラーゼ発光量を示す。
【
図8A】各プロモーター長のHspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図8Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。
【
図8B】各プロモーター長のHspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図8Bは、各サンプリング日における生産量を示す。
【
図8C】各プロモーター長のHspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を、ヒトRPS7遺伝子プロモーター、あるいは、ヒトEF1-α遺伝子プロモーターと比較した図。
図8Cは、各サンプリング日における1細胞1日当たりの抗体生産量を示す。
【
図9A】Hspa5遺伝子プロモーター(0.6kbp)を使用して取得したヒト化抗体Y発現モノクローンの流加培養による抗体生産量評価結果を示した。
図9Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。
【
図9B】Hspa5遺伝子プロモーター(0.6kbp)を使用して取得したヒト化抗体Y発現モノクローンの流加培養による抗体生産量評価結果を示した。
図9Bは、各サンプリング日における生産量を示す。
【
図9C】Hspa5遺伝子プロモーター(0.6kbp)を使用して取得したヒト化抗体Y発現モノクローンの流加培養による抗体生産量評価結果を示した。
図9Cは、各サンプリング日における1細胞1日当たりの抗体生産量を示す。
【
図10A】各生物種由来Hspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図10Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。ch 1.1kb、ch 0.6kbは、それぞれチャイニーズハムスターHspa5遺伝子プロモーターの1.1kbp、0.6kbpの部分配列を抗体発現用プロモーターに使用して取得したステーブルプールの流加培養結果を示す。
【
図10B】各生物種由来Hspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図10Bは、各サンプリング日における生産量を示す。ch 1.1kb、ch 0.6kbは、それぞれチャイニーズハムスターHspa5遺伝子プロモーターの1.1kbp、0.6kbpの部分配列を抗体発現用プロモーターに使用して取得したステーブルプールの流加培養結果を示す。
【
図10C】各生物種由来Hspa5遺伝子プロモーターを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図10Cは、各サンプリング日における1細胞1日当たりの抗体生産量を示す。ch 1.1kb、ch 0.6kbは、それぞれチャイニーズハムスターHspa5遺伝子プロモーターの1.1kbp、0.6kbpの部分配列を抗体発現用プロモーターに使用して取得したステーブルプールの流加培養結果を示す。
【
図11A】DNAエレメントA7を含む、あるいは、含まないヒト化抗体Y発現ベクターを用いて作製したステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図11Aは、各サンプリング日における生細胞数を示す。
【
図11B】DNAエレメントA7を含む、あるいは、含まないヒト化抗体Y発現ベクターを用いて作製したステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図11Bは、各サンプリング日における生産量を示す。
【
図11C】DNAエレメントA7を含む、あるいは、含まないヒト化抗体Y発現ベクターを用いて作製したステーブルプールの流加培養にて、抗体生産量を比較した図。
図11Cは、各サンプリング日における1細胞1日当たりの抗体生産量を示す。
【
図12A】チャイニーズハムスター由来Hspa5遺伝子のプロモーターであるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列(
図12Bに続く)
【
図12B】チャイニーズハムスター由来Hspa5遺伝子のプロモーターであるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列
【
図13】ヒト由来Hspa5遺伝子のプロモーターであるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列
【
図14】マウス由来Hspa5遺伝子のプロモーターであるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列
【
図15】ラット由来Hspa5遺伝子のプロモーターであるポリヌクレオチドのヌクレオチド配列
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
本明細書において、「遺伝子」とは、mRNAに転写され、蛋白質に翻訳される部分を意味し、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及びそのRNAも含まれるものとする。
【0013】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」とは核酸と同じ意味で用いており、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーも含まれている。
【0014】
本明細書において、「ポリペプチド」と「蛋白質」は区別せずに用いている。
【0015】
本明細書において、「遺伝子発現」とは、ある遺伝子がmRNAに転写される現象、及び/又は該mRNAから蛋白質が翻訳される現象を意味している。
【0016】
本明細書において、「外来遺伝子」とは、人工的に宿主細胞に導入される遺伝子を意味している。
【0017】
本明細書において、「外来蛋白質」とは、外来遺伝子にコードされる蛋白質を意味している。
【0018】
本明細書において、「遺伝子発現ユニット」とは、転写の読み枠の方向に、少なくともプロモーター領域、外来遺伝子、転写ターミネーター領域(ポリA付加シグナル)を有するポリヌクレオチドを意味している。
【0019】
本明細書において、「プロモーター」とは、DNAからRNAへの転写の開始に関与する転写因子が結合する領域を意味する。本明細書においては、「プロモーター領域」ということもある。プロモーターとして、例えば、開始コドンの上流約3kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列直前のヌクレオチドまでのポリヌクレオチドを例示でき、5’UTR、及びイントロンを含んでもよい。
【0020】
本明細書において、「プロモーター活性」とは、転写因子がプロモーターに結合し、転写を開始し、遺伝子にコードされる蛋白質の生産を行う活性をいい、ホタルルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子にコードされる蛋白質の活性を指標として検定することが可能である。
【0021】
本明細書において、「プロモーター活性を有する」とは、後記(実施例5)に記載の流加培養での抗体発現量を指標としたプロモーター活性の評価と同様の条件で、ヒトEF-1α遺伝子プロモーターと同等以上の抗体発現量を示すことをいう。
【0022】
本明細書中において、「DNAエレメント」とは、遺伝子発現ユニットの近傍又は、遺伝子発現ユニットの含まれる外来遺伝子発現ベクター上に配置された場合に、外来遺伝子発現亢進活性を有するポリヌクレオチドを意味する。
【0023】
本明細書中において、「抗体の抗原結合性断片」とは、抗原との結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2等を含むが、抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。
【0024】
本明細書中において、「同一性」とは、当該分野で公知のように、配列の比較によって決定される、2つ以上のヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の、配列間の関係をいう。当該分野において、「同一性」はまた、場合に応じて、一列の2つ以上のヌクレオチド配列間または2つ以上のアミノ酸配列間の一致によって決定したときの、核酸分子間またはポリペプチド間の配列関連性の程度を意味する。「同一性」は、2つ以上の配列のうち小さなものと、特定の数理的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によってアドレス指定されるギャップアラインメント(存在する場合)との間の同一一致のパーセントを算出することにより評価することができる。具体的には、European Molecular Biology Laboratory-European Bioinformatics Institute(EMBL-EBI)が提供するClustalW2等のソフトを使用することにより評価することができるが、当業者において使用されるものであればこれに限定されない。
【0025】
本明細書中において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、ある核酸に対する同一性が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましく99%以上のヌクレオチド配列からなる核酸の相補鎖がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列からなる核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件を挙げることができる。より具体的には、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、68℃でハイブリダイズすること、又は、DNAを固定したフィルターを用いて0.7乃至1.0MのNaCl存在下68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1乃至2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150 mM NaCl、15 mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄する条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることを意味する。
【0026】
1.外来遺伝子の発現亢進に使用されるプロモーター
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来プロモーターは、ヒートショックプロテインA5遺伝子(以下、「Hspa5」という)のプロモーターである。Hspa5プロモーターとしての活性を有するポリヌクレオチドであれば特に限定されないが、Hspa5のプロモーターとしては、開始コドンの上流約3kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでのポリヌクレオチドが好ましい。
【0027】
Hspa5のプロモーターの由来は特に限定されないが、哺乳類由来であってもよく、例えばチャイニーズハムスター、ヒト、マウス、ラット等由来のHspa5のプロモーターを挙げることができる。
【0028】
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用されるプロモーターとして、好適には、チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーターであり、さらに好適には配列表の配列番号1及び
図12に記載のポリヌクレオチドである。配列番号1のヌクレオチド配列は、チャイニーズハムスター由来Hspa5の開始コドンの上流約3kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドからなる配列である。配列番号2、3、及び4のヌクレオチド配列は、それぞれ、ヒト、マウス、ラット由来Hspa5の開始コドンの上流約1kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドからなる配列である。配列番号2、3、及び4のヌクレオチド配列を、それぞれ、
図13、
図14、
図15にも示す。
【0029】
チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーターとしては配列番号1に記載の配列の部分配列からなるヌクレオチド配列であってもよく、それぞれHspa5の開始コドンの上流約2.5、2.0、1.5、1.1及び0.6kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドからなる配列の配列番号5、6、7、8及び9記載の配列を含むポリヌクレオチドが例示され、配列番号7、8及び9に記載のポリヌクレオチドが好ましく、配列番号8及び9に記載のポリヌクレオチドがより好ましい。
【0030】
また、本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用されるプロモーターは配列番号1乃至9に示すいずれか一つのヌクレオチド配列に対して80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドであっても良い。
【0031】
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用されるプロモーターは、配列番号1乃至9に記載のヌクレオチド配列からなる群から選択されるいずれか一つのヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドであってもよい。
【0032】
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用されるプロモーターは、配列番号1乃至9に記載のヌクレオチド配列からなる群から選択されるいずれか一つのヌクレオチド配列において、1又は複数、好ましくは1乃至300個、さらに好ましくは1乃至30個のヌクレオチドが欠失、置換、及び/又は付加されたヌクレオチド配列からなる変異ポリヌクレオチドであって、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチドであってもよい。
【0033】
前記ヌクレオチド配列の変異(欠失、置換、及び/又は付加)の導入は、Kunkel法若しくはGapped duplex法等の当該技術分野で公知の手法、又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)若しくはMutant-G(タカラバイオ社製)、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキット等が利用できる。このような変異ポリヌクレオチドも本発明のプロモーターとして使用することができる。
【0034】
本発明のプロモーターの有する外来遺伝子発現亢進活性は、ホタルルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子にコードされる蛋白質の活性、あるいは、流加培養での抗体生産量を指標として検定することが可能である。ヒトEF-1αプロモーターを使用した場合と本発明のプロモーターを使用した場合を比較して、流加培養での抗体生産量が同等以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上に上昇した場合、該プロモーターが外来遺伝子発現亢進活性を有すると判断することができる。1.2倍程度以上の亢進によっても、細胞の培養スケールの削減、培養時間、及び精製工程の短縮が期待され、結果として収量の向上と培養コストの削減が可能となる。収量が向上すれば、医薬としての外来蛋白質を安定して供給することが可能となる。又、培養コストが削減されれば、医薬としての外来蛋白質の原価が軽減される。
【0035】
2.外来遺伝子発現ユニット
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来遺伝子発現ユニット(以下、「本発明の遺伝子発現ユニット」ということもある)は、転写の読み枠の方向に、少なくとも前記1.に記載の本発明のプロモーター、外来遺伝子、及び転写ターミネーター領域(ポリA付加シグナル)を有するものである。
【0036】
また、ポリA付加配列は、プロモーターからの転写に対して転写終結を起こす活性を有する配列であればよく、プロモーターの遺伝子と同じ又は異なる遺伝子のものであってもよい。
【0037】
3.外来遺伝子の発現亢進に使用されるDNAエレメント
前記2.に記載の本発明の遺伝子発現ユニットとDNAエレメントを組み合わせて使用することにより、外来遺伝子の発現をさらに亢進することができる。組み合わせて使用するDNAエレメントは、アセチル化ヒストンH3との相互作用を指標として取得することが可能である。一般にヒストン(H3、H4)のアセチル化は転写の活性化に関与しているといわれており、主に2つの説が考えられている。ヒストンテールがアセチル化することで電荷的に中和され、DNAとヒストンとの結合が緩くなるというヌクレオソームの立体構造変化が関係している説(Mellor J. (2006) Dynamic nucleosomes and gene transcription. Trends Genet. 22(6):320-329)と、様々な転写因子のリクルートに関与するという説(Nakatani Y. (2001) Histone acetylases-versatile players. Genes Cells. 6(2):79-86)である。いずれの説においても、ヒストンのアセチル化が転写活性化に関与している可能性は高く、抗アセチル化ヒストンH3抗体を用いたクロマチン免疫沈降(Chromatin Immunoprecipitation;ChIP)によって、アセチル化ヒストンH3と相互作用するDNAエレメントを濃縮することが可能である。
【0038】
本発明のプロモーターと組み合わせて使用する、外来遺伝子の発現亢進に使用されるDNAエレメントとして、A2、A7、及び、A18を挙げることができる。
【0039】
A2はヒト15番染色体80966429~80974878に位置しており、AT含量62.2%、8450bpのポリヌクレオチドである。A2のヌクレオチド配列は、配列表の配列番号35に記載されている。
【0040】
A7はヒト11番染色体88992123~89000542に位置しており、AT含量64.52%、8420bpのポリヌクレオチドである。A7のヌクレオチド配列は、配列表の配列番号36に記載されている。
【0041】
A18は、ヒト4番染色体111275976~111284450に位置しており、AT含量62.54%、8475bpのポリヌクレオチドである。A18のヌクレオチド配列は、配列表の配列番号37に記載されている。
【0042】
本発明のプロモーターと組み合わせて使用する、DNAエレメントの有する外来遺伝子発現亢進活性は、SEAP等のレポーター遺伝子にコードされる蛋白質の活性を指標として検定することが可能である。
【0043】
本発明のプロモーターと組み合わせて使用する場合、前記DNAエレメントのいずれか1種を単独で使用しても良く、DNAエレメントの1種を2コピー以上使用しても良い。あるいは2種以上DNAエレメントを組み合わせて使用しても良い。
【0044】
本発明において使用されるDNAエレメントは、配列番号35乃至37に示すヌクレオチド配列に対して80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ外来遺伝子発現亢進活性を有するヌクレオチド配列であっても良い。ヌクレオチド配列のホモロジー検索は、例えば、日本DNAデータバンク(DNA Databank of JAPAN)等を対象に、FASTAやBLAST等のプログラムを用いて行うことができる。
【0045】
当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、本発明のプロモーターのこうしたホモログ遺伝子を容易に取得することができる。また、前記のヌクレオチド配列の同一性は、同様に、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。
【0046】
前記ポリヌクレオチドの変異(欠失、置換、及び/又は付加)の導入は、Kunkel法若しくはGapped duplex法等の当該技術分野で公知の手法、又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)若しくはMutant-G(タカラバイオ社製)、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキット等が利用できる。このような変異ポリヌクレオチドも本発明のDNAエレメントとして使用することができる。
【0047】
4.ポリヌクレオチドの取得
本発明において、後記の産生亢進の対象となる外来蛋白質をコードする外来遺伝子を含むポリヌクレオチドは、以下に示す一般的な方法により取得することができる。例えば、外来遺伝子が発現している細胞や組織に由来するcDNAライブラリーを、当該遺伝子断片をもとにして合成したDNAプローブを用いてスクリーニングすることにより単離することができる。mRNAの調製は、当該技術分野において通常用いられる手法により行うことができる。例えば、前記細胞又は組織を、グアニジニン試薬、フェノール試薬等で処理して全RNAを得、その後、オリゴ(dT)セルロースカラムやセファロース2Bを担体とするポリU-セファロース等を用いたアフィニティーカラム法により、あるいはバッチ法によりポリ(A)+RNA(mRNA)を得る。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりポリ(A)+RNAをさらに分画してもよい。次いで、得られたmRNAを鋳型として、オリゴdTプライマー及び逆転写酵素を用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからDNA合成酵素I、DNAリガーゼ及びRNaseH等を用いて二本鎖cDNAを合成する。合成した二本鎖cDNAをT4DNA合成酵素によって平滑化後、アダプター(例えば、EcoRIアダプター)の連結、リン酸化等を経て、λgt11等のλファージに組み込んでin vivoパッケージングすることによってcDNAライブラリーを作製する。また、λファージ以外にもプラスミドベクターを用いてcDNAライブラリーを作製することもできる。その後、cDNAライブラリーから目的のDNAを有する株(ポジティブクローン)を選択すればよい。
【0048】
また、蛋白質の産生に用いる前記プロモーター、ターミネーター領域を含むポリヌクレオチド、前記DNAエレメント又は外来遺伝子を含むポリヌクレオチドをゲノムDNAから単離する場合は、一般的手法(Molecular Cloning(1989),Methods in Enzymology 194(1991))に従い、採取源となる生物の細胞株よりゲノムDNAを抽出し、ポリヌクレオチドを選別することにより行う。ゲノムDNAの抽出は、例えば、Cryer らの方法(Methods in Cell Biology, 12, 39-44(1975))及びP. Philippsenらの方法(Methods Enzymol., 194, 169-182(1991))に従って行うことができる。
【0049】
目的とするプロモーター、DNAエレメント、又は外来遺伝子を含むポリヌクレオチドの取得は、例えばPCR法(PCR Technology.Henry A.Erlich,Atockton press(1989))によって行うこともできる。PCR法を用いたポリヌクレオチドの増幅には、プライマーとして20~30merの合成1本鎖DNAを、鋳型としてゲノムDNAを用いる。増幅された遺伝子はポリヌクレオチド配列を確認した後、用いる。PCRの鋳型としては、バクテリア人工染色体(BAC)等のゲノムDNAライブラリーを使用することが可能である。
【0050】
一方、配列未知の外来遺伝子を含むポリヌクレオチドの取得は、(a)常法により遺伝子ライブラリーを作製し、(b)作製された遺伝子ライブラリーから所望のポリヌクレオチドを選択し、当該ポリヌクレオチドを増幅する、ことによって行うことができる。遺伝子ライブラリーは、採取源となる生物の細胞株から常法により得た染色体DNAを適当な制限酵素によって部分消化して断片化し、得られた断片を適当なベクターに連結し、該ベクターを適当な宿主に導入することによって調製することができる。また、細胞よりmRNAを抽出し、ここからcDNAを合成後、適当なベクターに連結し、該ベクターを適当な宿主に導入することによっても調製することができる。この際用いられるベクターとしては、通常公知の遺伝子ライブラリー調製用ベクターとして知られるプラスミドを用いることができ、ファージベクター又はコスミド等も広く用いることができる。形質転換又は形質導入を行う宿主は、前記ベクターの種類に応じたものを用いればよい。外来遺伝子を含むポリヌクレオチドの選択は、前記遺伝子ライブラリーから、外来遺伝子に特有の配列を含む標識プローブを用いるコロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法等によって行う。
【0051】
また外来遺伝子を含むポリヌクレオチドを化学的に全合成することもできる。例えば相補的な2対のオリゴヌクレオチドを作製しこれらをアニールさせる方法や、数本のアニールされたDNAをDNAリガーゼにより連結する方法、又は一部相補的な数本のオリゴヌクレオチドを作製しPCRによりギャップを埋める方法等により、遺伝子を合成することができる。
【0052】
ポリヌクレオチド配列の決定は、通常の方法、例えばジデオキシ法(Sanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 5463-5467(1977))等により行うことができる。更に前記ポリヌクレオチド配列の決定は、市販のシークエンスキット等を用いることによっても容易に行い得る。
【0053】
5.外来遺伝子発現ベクター
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来遺伝子発現ベクターとしては、前記1.に記載のプロモーターを含む前記2.に記載の外来遺伝子発現ユニットを含むベクターが提供される。本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来遺伝子発現ベクターは、前記3.に記載のDNAエレメントの1種、DNAエレメントの1種を2個以上のコピー数、DNAエレメントの2種以上の組み合わせを含んでもよい。前記の外来遺伝子発現ベクターによって外来遺伝子を宿主細胞内で発現させる際には、DNAエレメントを遺伝子発現ユニットの直前又は直後に配置してもよく、又は遺伝子発現ユニットから離れた位置に配置しても良い。また、複数のDNAエレメントを含む1つの外来遺伝子発現ベクターを用いてもよい。なお、DNAエレメントの向きは、遺伝子発現ユニットに対して順方向又は逆方向のいずれであっても良い。
【0054】
外来遺伝子としては、特に限定はされないが、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)、緑色蛍光蛋白質(GFP)、ルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子、α-アミラーゼ遺伝子、α-ガラクトシダーゼ遺伝子等の各種酵素遺伝子、医薬上有用な生理活性蛋白質であるインターフェロンα、インターフェロンγ等の各種インターフェロン遺伝子、IL1、IL2等の各種インターロイキン遺伝子、エリスロポエチン(EPO)遺伝子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)遺伝子等の各種サイトカイン遺伝子、成長因子遺伝子、又は多量体蛋白質をコードする遺伝子、例えば抗体又はその抗原結合性断片であるヘテロ多量体をコードする遺伝子等を挙げることができる。これらの遺伝子はいかなる手法によって得られるものでもよい。
【0055】
「抗体の抗原結合性断片」とは、抗原との結合活性を有する抗体の部分断片を意味しており、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、diabody、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を含む。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の抗原結合性断片に含まれる。但し、抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。また、これらの抗原結合性断片には、抗体蛋白質の全長分子を適当な酵素で処理したもののみならず、遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0056】
また、本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来遺伝子発現ベクターには、形質転換体を選抜するための選択マーカーを含めることができる。例えば、セルレニン、オーレオバシジン、ゼオシン、カナバニン、シクロヘキシミド、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ブラストシジン、テトラサイクリン、カナマイシン、アンピシリン、ネオマイシン等の薬剤に対して耐性を付与する薬剤耐性マーカー等を使用することで、形質転換体の選抜を行うことが可能である。また、エタノール等に対する溶剤耐性や、グリセロールや塩等に対する浸透圧耐性、銅等の金属イオン耐性等を付与する遺伝子をマーカーにすることで、形質転換体の選抜を行うことも可能である。
【0057】
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される外来遺伝子発現ベクターは、染色体DNAに組込まれないベクターであってもよい。一般的に、外来遺伝子発現ベクターは宿主細胞に遺伝子導入された後、ランダムに染色体に組込まれるが、simian virus 40(SV40)やpapillomavirus(BPV、HPV)、EBV等の哺乳動物ウイルス由来の構成成分を用いることにより、導入された宿主細胞中で自己複製が可能なepisomal vectorとして使用することができる。例えば、SV40由来の複製起点及びtrans-acting factorであるSV40 large T抗原をコードした配列を有するベクターやEBV由来のoriP及びEBNA-1をコードした配列を有するベクター等が広く用いられている。DNAエレメントの効果はベクターの種類、あるいは染色体への組込み有無を問わず、外来遺伝子発現亢進活性を示すことが可能である。
【0058】
6.形質転換細胞
本発明の外来遺伝子由来の蛋白質の製造方法に使用される形質転換細胞は、前記5.の外来遺伝子発現ベクターを用いて導入した形質転換細胞である。
【0059】
形質転換させる宿主細胞としては、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、さらに好ましくはヒト、マウス、ラット、ハムスター、サル、又はウシ由来の細胞である。哺乳動物細胞としては、COS-1細胞、293細胞、CHO細胞(CHO-K1、DG44、CHO dhfr-、CHO-S)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明において、宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、導入遺伝子が宿主内にて安定に存在し、かつ適宜発現させることができる方法であればいかなる方法でもよく、一般的に用いられている方法、例えば、リン酸カルシウム法(Ito et al., (1984) Agric.Biol.Chem.,48,341)、エレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. (1990) Methods. Enzymol., 194,182-187)、スフェロプラスト法(Creggh et al., Mol.Cell.Biol.,5,3376(1985))、酢酸リチウム法(Itoh, H. (1983) J. Bacteriol. 153, 163-168)、リポフェクション法等を挙げることができる。
【0061】
7.外来蛋白質の製造方法
本発明の外来蛋白質の製造方法は、前記6.の項目に記載の形質転換細胞を公知の方法により培養し、その培養物から採取し、精製することにより行うことができる。「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞、又は細胞の破砕物のいずれをも意味するものである。なお、6.の項目に記載の形質転換細胞を用いて産生することのできる外来蛋白質としては、単量体蛋白質のみならず多量体蛋白質を選択することも可能である。異なる複数のサブユニットから構成されるヘテロ多量体蛋白質の生産を行う場合、これらのサブユニットをコードしている複数の遺伝子を、それぞれ6.の項目に記載の宿主細胞に導入する必要がある。
【0062】
形質転換細胞を培養する方法は、その宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0063】
形質転換細胞が哺乳動物細胞の場合は、例えば37℃、5%又は8%CO2条件下で培養し、培養時間は24~1000時間程度であり、培養は静置、振とう、攪拌、通気下の回分培養、流加培養、灌流培養又は連続培養等により実施することができる。
【0064】
前記の培養物(培養液)から外来蛋白質遺伝子の発現産物の確認は、SDS-PAGE、ウエスタン解析、ELISA等により行うことができる。
【0065】
8.抗体蛋白質の製造方法
前記7.の項目に記載の製造方法を用いて製造されるヘテロ多量体蛋白質としては抗体蛋白質を挙げることができる。抗体蛋白質は、2分子の重鎖ポリペプチド及び2分子の軽鎖ポリペプチドからなる4量体蛋白質である。従って、抗原結合能を維持した形態で抗体蛋白質を取得するためには、前記6.の項目に記載の形質転換細胞において、重鎖及び軽鎖の遺伝子の双方が導入されている必要がある。この場合に、重鎖及び軽鎖の遺伝子発現ユニットは、同じ発現ベクター上に存在しても良く、あるいは異なる発現ベクター上に存在していても良い。
【0066】
本発明において製造される抗体としては、ウサギ、マウス、ラット等実験動物を所望の抗原で免疫して作製された抗体を挙げることができる。また、前記の抗体を原料とするキメラ抗体、及びヒト化抗体も本発明において製造される抗体として挙げることができる。さらに、遺伝子改変動物又はファージディスプレイ法によって取得されるヒト抗体についても、本発明において製造される抗体である。
【0067】
抗体製造に用いる抗体遺伝子としては、該抗体遺伝子より転写・翻訳される重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドの組合せが、任意の抗原蛋白質と結合する活性を保持している限り、特定のポリヌクレオチド配列を持つ抗体遺伝子に限定されない。
【0068】
また、抗体遺伝子としては、必ずしも抗体の全長分子をコードしている必要はなく、抗体の抗原結合性断片をコードしている遺伝子を用いることができる。これらの抗原結合性断片をコードする遺伝子は、抗体蛋白質の全長分子をコードする遺伝子を遺伝子工学的に改変することによって取得することができる。
【0069】
9.その他の外来蛋白質の製造方法
本発明の製造方法の対象となる外来蛋白質としては、前述の抗体に加え、ヒト又は非ヒト動物由来の各種蛋白質、その抗原結合性断片、その改変体等を挙げることができる。そのような蛋白質等としては、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、バソプレッシン、ソマトスタチン、成長ホルモン(GH)、インスリン、オキシトシン、グレリン、レプチン、アディポネクチン、レニン、カルシトニン、オステオプロテジェリン、インスリン様成長因子(IGF)等のペプチドホルモン、インターロイキン、ケモカイン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNFα/βほかTNFスーパーファミリー等)、神経成長因子(NGF)、細胞増殖因子(EGF、FGF、PDGF、HGF、TGF等)、造血因子(CSF、G-CSF、エリスロポエチン等)、アディポカイン等のサイトカイン、ТNF受容体等の受容体、リゾチーム、プロテアーゼ、プロテイナーゼ、ペプチダーゼ等の酵素、その機能性断片(元の蛋白質の生物活性を一部又は全部保持している断片)、それらの蛋白質を含むことからなる融合蛋白質等を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の技術的範囲をなんら限定するものではない。本発明の実施例で用いるプラスミド、制限酵素、DNA修飾酵素等は市販のものであり、常法に従って使用することができる。また、DNAのクローニング、ポリヌクレオチド配列の決定、宿主細胞の形質転換、形質転換細胞の培養、得られる培養物からの蛋白質の採取、精製等に用いた操作についても当業者によく知られているものであるか、文献により知ることのできるものである。
【0071】
(実施例1)ヒト化抗体遺伝子X発現株の構築
1-1)ヒト化抗体遺伝子X発現ベクターの構築
非特許文献9記載のpDSLH4.1をベクター基本骨格として有する、ヒト化抗体遺伝子X発現ベクターpDSLH4.1-Xを構築した。
【0072】
1-2)ヒト化抗体X発現ステーブルプールの作製
CHO-K1細胞(ATCC)を無血清培地を用いた浮遊状態での培養が可能となるように馴化し、宿主細胞CHO-O1細胞を得た。CHO-O1細胞に、(1-1)で構築したヒト化抗体遺伝子X発現ベクターpDSLH4.1-Xを遺伝子導入装置Neon Transfection System(Invitrogen)を用いて遺伝子導入し、T-25フラスコにて5%CO2、37℃で培養した。遺伝子導入の1日後にGeneticin(Life Technologies Corporation)を終濃度800 μg/mLで添加し、1週間薬剤選択培養を行った。その後、125mL容三角フラスコにて5%CO2、37℃で培養し、ヒト化抗体X発現ステーブルプールを作製した。
【0073】
1-3)ヒト化抗体X発現株の構築
(1-2)で作製したヒト化抗体X発現ステーブルプールをモノクローン化してヒト化抗体X発現株X#1およびX#2を取得した。
【0074】
具体的には、(1-2)で作製したヒト化抗体X発現ステーブルプールを軟寒天培地に懸濁、6 wellプレートに播種し、5%CO2、37℃で培養した。培養後、ClonePix 2(Genetix)を用いてヒト化抗体X高発現コロニーを96 wellプレートにピックした。ピッキングしたコロニーは、24 wellプレート、6 wellプレート、T-25フラスコ、125mL容三角フラスコと順次拡大培養し、ヒト化抗体X発現株X#1およびX#2を取得した。
【0075】
(実施例2)ヒト化抗体X発現株X#1およびX#2のトランスクリプトーム解析
実施例1で構築したヒト化抗体X発現株X#1およびX#2を用いて流加培養を行い、その経時サンプルについてトランスクリプトーム解析を実施し、高発現遺伝子を特定した。
【0076】
2-1)ヒト化抗体X発現株X#1およびX#2の流加培養
実施例1で構築したヒト化抗体X発現株を、1L Jarにて流加培養を行った。Jar#1は、細胞株にX#1、基礎培地/フィード培地にG13(JXエネルギー製カスタム培地)/F13(JXエネルギー製カスタム培地)を、Jar#2は、細胞株にX#1、基礎培地/フィード培地にDA1(Life Technologies Corporation製カスタム培地)/DAFM3(Life Technologies Corporation製カスタム培地)を、Jar#3は、細胞株にX#2、基礎培地/フィード培地に、G13/F13を用いた。
【0077】
生細胞数と抗体生産量の推移をそれぞれ
図1A、
図1Bに示す。抗体生産量は、細胞株間で比較するとX#1のほうがX#2より高く、基礎培地/フィード培地間の比較ではG13/F13のほうがDA1/DAFM3より高かった。
【0078】
2-2)ヒト化抗体X発現株X#1およびX#2のトランスクリプトーム解析
(2-1)で実施した流加培養の4、7、9、11、14日目の細胞からRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いてtotal RNAを抽出した。続いて、TruSeq RNA Sample Prep Kit v2(illumina)を用いてシーケンスライブラリーを作製した。具体的には、total RNAからPolyA+ RNAを単離、断片化して取得したRNA断片を鋳型として二本鎖cDNAを合成した。合成した二本鎖cDNAの両末端を平滑化・リン酸化処理した後、3’-dA突出処理を行い、Index付きアダプターを連結した。アダプターを連結した二本鎖cDNAを鋳型とし、PCRによる増幅を行った後、AMPure XP(BECKMAN COULTER)を用いた磁気ビーズ法にて得られたPCR産物を精製し、シーケンスライブラリーとした。そして、シーケンスライブラリーを用いてシーケンスの鋳型となるクラスターを形成し、HiSeq 2000システム(illumina)に供し、高速シーケンス解析を実施、シーケンスデータを取得した。
【0079】
2-3)トランスクリプトーム解析結果のデータ解析
シーケンス解析によって得られたリード配列は非特許文献10記載のBowtie(version. 1.0.0)を用いてリファレンス配列にマッピングした。リファレンス配列はNCBIに登録されているチャイニーズハムスターの染色体配列に、NCBIに登録されているチャイニーズハムスターの遺伝子情報に基づき抽出したsplices配列を加えて作成した。また、リード配列の発現量(RPKM:Reads per kilobase of exon[intron/intergenic] model per million mapped reads)と新規遺伝子発現領域は非特許文献11記載のERANGE 3.2を用いて検討した。
【0080】
Jar#1の4日目の細胞での発現量上位20遺伝子を表1に、Jar#1、Jar#2、Jar#3の各サンプリング日における前記20遺伝子の発現量を、それぞれ、
図2A、
図2B、
図2Cに示す。Hspa5(heat shock protein 5)遺伝子はJar#1、2、3の全ての条件で、Fth1(ferritin heavy chain 1)遺伝子はJar#2、3の条件で、培養後期での発現量上昇が見られた。Hspa5遺伝子は、細胞株、培地の条件によらず、培養後期に発現量が上昇していて、培養後期にそのプロモーター活性が向上していると示唆された。
【0081】
【0082】
(実施例3)高発現遺伝子のプロモーター領域のクローニング
実施例2で見出した発現量上位20遺伝子のうち、tRNAを除く18遺伝子について、各遺伝子のプロモーター領域のクローニングを行った。
【0083】
3-1)Hspa5のプロモーター領域のクローニング
Hspa5のプロモーター領域としては、GenBankにNM_001246739.1で登録されているmRNAの配列およびNW_003615108.1で登録されているチャイニーズハムスターゲノムのスキャフォールド配列を参考にして、Hspa5の開始コドン配列の上流約3.0kbpのヌクレオチドから開始コドン配列に対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでの配列を用いた。
【0084】
Hspa5のプロモーター領域は、CHO細胞のゲノムDNAをテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとKOD FX Neo(TOYOBO)を用いたPCRで増幅し、QIAquick PCR Purification kit(QIAGEN)で精製した。精製したDNA断片をKpnI-HindIIIで消化した後、pGL4.10[luc2](PROMEGA)のKpnI-HindIIIサイト間に挿入して、pGL4.10-Hspa5を構築した。クローニングしたHspa5のプロモーター領域のヌクレオチド配列を配列表の配列番号1に示す。
Hspa5プロモーターのプライマーセット
Hspa5-KpnI-F:GGGGGGGTACCTATAGCCCAGGCACACATGAACTTG(配列番号10)
Hspa5-HindIII-R:GGGGGAAGCTTCTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号11)
【0085】
3-2)他の高発現遺伝子のプロモーター領域のクローニング
前記3-1)に記載の方法に準じて、Rps14(ribosomal protein S14)、Gapdh(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、Eef1a1(eukaryotic translation elongation factor 1 alpha 1)、Rps11(40S ribosomal protein S11-like)、Rplp0(60S acidic ribosomal protein P0-like)、Rps4(ribosomal protein S4)、PKM(pyruvate kinase isozymes M1/M2-like)、Rps2(ribosomal protein S2)、Actb(actin, beta)、Chub2(polyubiquitin)、Rps3(40S ribosomal protein S3a-like)、Prdx1(peroxiredoxin 1)、Rpsa(ribosomal protein SA)、Rps25(40S ribosomal protein S25-like)、Rpl8(60S ribosomal protein L8-like)、Fth1(ferritin heavy chain 1)、Hspd1(heat shock protein 1)のプロモーター領域のクローニングを行い、pGL4.10[luc2]のマルチクローニングサイトに挿入した。
【0086】
3-3)pGL4.10-hEF1αの構築
次に、pEF1/V5-His A(Invitorogen)をテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとKOD -Plus- Ver.2(TOYOBO)を用いたPCRでヒトEF1-αプロモーターを増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をNheI-HindIIIで消化した後、pGL4.10[luc2]のNheI-HindIIIサイト間に挿入して、pGL4.10-hEF1αを構築した。
hEF1αプロモーターのプライマーセット
hEF1α-NheI-F:GAGTGGGCTAGCGAATTGGCTCCGGTGCCCGTCAGTG(配列番号12)
hEF1α-HindIII-R:GAGTGGAAGCTTCCTCACGACACCTGAAATGGAAG(配列番号13)
(実施例4)ホタルルシフェラーゼの一過性発現量を指標とした各プロモーターの活性評価
【0087】
4-1)トランスフェクション
(1-2)に記載のCHO-O1細胞を、Opti-MEM I Reduced Serum Medium(Life Technologies Corporation)にて2.5×105 cells/mLに懸濁し、24 wellプレートに1mLずつ播種した。実施例3で構築した各プロモーターを挿入したpGL4.10[luc2] 3.2μgとトランスフェクション効率補正用のコントロールベクターpGL4.74[hRluc/TK](PROMEGA) 0.4μgをOptiPro SFM(Life Technologies Corporation) 68μLで希釈した。一方、Lipofectamine 2000 CD(Life Technologies Corporation) 8μLをOptiPro SFM 68μLで希釈し、前記プラスミド溶液と混合し、20分間、室温で放置した。その後、半量ずつ2 wellに添加し、5%CO2、37℃で培養した。
【0088】
4-2)ルシフェラーゼアッセイ
トランスフェクションの翌日、Dual-Luciferase Reporter Assay System(PROMEGA)を用いてルシフェラーゼの一過性発現量を測定した。具体的には培養液を9000G×1分間遠心して上清を除去し、PBSで1回洗浄した後、キット添付のPassive Lysis Bufferを用いて細胞ライセートを調製した。そして前記キットとルミノメーターを用いて、ホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼの発光量を測定した。
【0089】
図3に各プロモーターを挿入したルシフェラーゼ発現ベクターでトランスフェクションし、その翌日に測定したホタルルシフェラーゼ(luc2)の発光量をウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)の発光量で標準化した値を示す。Eef1a1は強いプロモーター活性を示し、コントロールとして用いたヒトEF1-αと同程度であった。Hspa5は検討したプロモーターの中ではEef1a1の次に強いプロモーター活性を示した。
【0090】
(実施例5)抗体発現量を指標としたHspa5プロモーターの流加培養による評価
Hspa5遺伝子は、トランスクリプトーム解析で培養後期に発現量が上昇していたことから、培養後期でのプロモーター活性の増強が示唆された。また、Hspa5遺伝子のプロモーターは、ルシフェラーゼアッセイを利用した一過性発現による評価において強いプロモーター活性を示した。そこで、本プロモーターの評価を、抗体の安定発現細胞を作製し、流加培養により行った。
【0091】
5-1)抗体発現ベクターの構築
非特許文献9記載のpDSLH4.1をベクター基本骨格として有し、抗体H鎖およびL鎖遺伝子のプロモーターに特許文献2に記載のヒトRPS7、DNAエレメントに特許文献2に記載のA7を使用したヒト化抗体遺伝子Y発現ベクターpDSLHA4.1-hRPS7-Yを構築した。続いて、ヒト化抗体遺伝子Y発現ベクターpDSLHA4.1-hRPS7-Yの、抗体H鎖およびL鎖遺伝子のプロモーターをHspa5、あるいは、ヒトEF1-αに置換した、pDSLHA4.1-Hspa5-Y、および、pDSLHA4.1-hEF1α-Yを構築した。ベクター概略を
図4に示す。
【0092】
pDSLHA4.1-Hspa5-Yは、以下の方法により構築した。まず、pGL4.10-Hspa5をテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いたPCRでチャイニーズハムスターHspa5プロモーターを増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をNotI-XbaIで消化した後、H鎖遺伝子発現ベクターpDSH1.1-hRPS7-Y、および、L鎖遺伝子発現ベクターpDSL2.1-hRPS7-YのNotI-NheIサイト間に挿入して、それぞれpDSH1.1-Hspa5-Y、pDSL2.1-Hspa5-Yを構築した。次に、pDSL2.1-Hspa5-YをAatII-HindIIIで消化して得られたDNA断片をpDSH1.1-Hspa5-YのAatII-HindIII間に挿入して、pDSLH3.1-Hspa5-Yを構築した。pDSLH3.1-Hspa5-Yの発現カセット上流に特許文献2に記載のDNAエレメントA7を挿入して、pDSLHA4.1-Hspa5-Yを構築した。
Hspa5プロモーターのプライマーセット
Hspa5-NotI-F:GGGGGGCGGCCGCTATAGCCCAGGCACACATGAACTTG(配列番号14)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
【0093】
一方、pDSLHA4.1-hEF1α-Yは、以下の方法により構築した。まず、pGL4.10-hEF1αをテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとKOD -Plus- Ver.2を用いたPCRでヒトEF1-αプロモーターを増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をNotI-NheIで消化した後、H鎖遺伝子発現ベクターpDSH1.1-hRPS7-Y、および、L鎖遺伝子発現ベクターpDSL2.1-hRPS7-YのNotI-NheIサイト間に挿入して、それぞれpDSH1.1-hEF1α-Y、pDSL2.1-hEF1α-Yを構築した。次に、pDSL2.1-hEF1α-YをAatII-HindIIIで消化して得られたDNA断片をpDSH1.1-hEF1α-YのAatII-HindIII間に挿入して、pDSLH3.1-hEF1α-Yを構築した。pDSLH3.1-hEF1α-Yの発現カセット上流に特許文献2に記載のDNAエレメントA7を挿入して、pDSLHA4.1-hEF1α-Yを構築した。
hEF1αプロモーターのプライマーセット
hEF1α-NotI-F:GAGTGGGCGGCCGCGAATTGGCTCCGGTGCCCGTCAGTG(配列番号16)
hEF1α-NheI-R:GAGTGGGCTAGCCCTCACGACACCTGAAATGGAAG(配列番号17)
【0094】
5-2)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの作製
(5-1)で構築した抗体発現ベクターpDSLHA4.1-Hspa5-Y、pDSLHA4.1-hRPS7-Y、あるいは、pDSLHA4.1-hEF1α-Yを、(1-2)に記載のCHO-O1細胞に(4-1)に記載の方法でトランスフェクションした。遺伝子導入の1日後、培養液を遠心して上清を除去、Geneticin 800 μg/mLを含む培地で懸濁し、6 wellプレートで1週間薬剤選択培養を行った。その後、T-25フラスコ、続いて、125 mL容三角フラスコにて5%CO2、37℃で培養し、ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを作製した。ステーブルプールはそれぞれの抗体発現ベクターでN=2で作製した。
【0095】
5-3)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養による抗体生産量評価
(5-2)で作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。
【0096】
生細胞数、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量(SPR:specific production rate)の推移を、それぞれ、
図5A、
図5B、
図5Cに示す。1細胞1日当たりの抗体生産量は、サンプリング時点での抗体生産量を、サンプリング時点までの積算生細胞数で割って算出した。培養初期では、Hspa5のプロモーターでの抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量共に、コントロールとして用いたヒトRPS7プロモーターと同程度、ヒトEF1-αプロモーターよりも低かった。しかしながら、Hspa5プロモーターでは培養の中期以降で1細胞1日当たりの抗体生産量が大幅に上昇し、培養10日目の時点ではそれぞれヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターの1.3、0.9倍、培養14日目の時点ではそれぞれヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターの1.8、1.4倍の値を示した。その結果、培養14日目のHspa5プロモーターでの抗体生産量は、それぞれヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターの1.5、1.4倍の値に達し、現在頻繁に使用されているプロモーターでの抗体生産量を大きく上回った。
【0097】
5-4)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養によるmRNA発現量評価
(5-3)で実施した流加培養で経時的に取得した細胞を用いて、目的の抗体Y遺伝子のmRNAレベルでの発現量をリアルタイムPCRにより比較した。流加培養の4、6、9、10、11日目の細胞からRNeasy Micro Kit(QIAGEN)を用いて抽出したtotal RNAをテンプレートとして、PrimeScript High Fidelity RT-PCR Kit(タカラバイオ)を用いて逆転写反応を行い、cDNAを合成した。次に、逆転写反応液をテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとSYBR Premix Ex Taq II(タカラバイオ)を用いて、リアルタイムPCRを実施した。H鎖遺伝子は遺伝子導入時に使用したヒト化抗体Y発現ベクター、Gapdh遺伝子は以下に示すプライマーセットで増幅したDNA断片をTOPOクローニングしたプラスミドDNAを用いて検量線を作成し、各サンプルのH鎖遺伝子およびGapdh遺伝子のコピー数を算出した。各サンプルのH鎖遺伝子のコピー数をGapdh遺伝子のコピー数で割って標準化したH鎖遺伝子の発現量を
図6に示す。Hspa5プロモーターでのH鎖遺伝子のmRNA発現量は、培養初期ではコントロールとして用いたヒトRPS7プロモーターと同程度、ヒトEF1-αプロモーターよりも低かった。しかしながら、培養中期以降ではHspa5プロモーターでのH鎖遺伝子の発現量は大きく上昇し、ヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターの値を大きく上回った。このmRNA発現量の経時変化は
図5Cで示したタンパク質発現量の結果と同様の結果であった。以上から、Hspa5プロモーターでの培養後期におけるタンパク質発現量の上昇がプロモーター活性の上昇によるものと示された。
H鎖遺伝子のプライマーセット
HC-F:TGGCTGAACGGCAAAGAGTA(配列番号18)
HC-R:TTGGCCTTGGAGATGGTCTT(配列番号19)
Gapdh遺伝子のプライマーセット
Gapdh-F:GTATTGGACGCCTGGTTACCAG(配列番号20)
Gapdh-R:AGTCATACTGGAACATGTAGAC(配列番号21)
【0098】
(実施例6)ウミシイタケルシフェラーゼ発現量を指標としたHspa5プロモーターの流加培養による評価
【0099】
6-1)ウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターの構築
ウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターpGL4.82[hRluc/Puro](PROMEGA)のマルチクローニングサイトにHspa5プロモーター、ヒトRPS7プロモーター、あるいは、ヒトEF1-αプロモーターを挿入し、pGL4.82-Hspa5、pGL4.82-hRPS7、あるいは、pGL4.82-hEF1αを構築した。
【0100】
具体的には、(3-1)で調製したKpnI-HindIIIで消化済みのHspa5のプロモーター配列を、pGL4.82[hRluc/Puro]のKpnI-HindIIIサイト間に挿入して、pGL4.82-Hspa5を構築した。
【0101】
次に、pDSLHA4.1-hRPS7-Yをテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いたPCRでヒトRPS7プロモーターを増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をXhoI-HindIIIで消化した後、pGL4.82[hRluc/Puro]のXhoI-HindIIIサイト間に挿入して、pGL4.82-hRPS7を構築した。
hRPS7プロモーターのプライマーセット
hRPS7-XhoI-F:GGGGGCTCGAGTGTATATTAACAGCACATTA(配列番号22)
hRPS7-HindIII-R:GGGGGAAGCTTCGGCTTTCTCCTGGGAGAAC(配列番号23)
また、(3-3)で調製したNheI-HindIIIで消化済みのヒトEF1-αプロモーター配列を、pGL4.82[hRluc/Puro]のNheI-HindIIIサイト間に挿入して、pGL4.82-hEF1αを構築した。
【0102】
6-2)ウミシイタケルシフェラーゼ発現ステーブルプールの作製
(6-1)で構築したウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターpGL4.82-Hspa5、pGL4.82-hRPS7、あるいは、pGL4.82-hEF1αを、(1-2)に記載のCHO-O1細胞に(4-1)に記載の方法でトランスフェクションした。遺伝子導入の1日後、培養液を遠心して上清を除去、Puromycin 8 μg/mLを含む培地で懸濁し、6 wellプレートで12日間薬剤選択培養を行った。その後、T-25フラスコ、続いて、125 mL容三角フラスコにて5%CO2、37℃で培養し、ウミシイタケルシフェラーゼ発現ステーブルプールを作製した。ステーブルプールはそれぞれのウミシイタケルシフェラーゼ発現ベクターでN=3で作製した。
【0103】
6-3)ウミシイタケルシフェラーゼ発現ステーブルプールの流加培養による生産量評価
(6-2)で作製したウミシイタケルシフェラーゼ発現ステーブルプールを用いて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。流加培養の3,4,7,9,11日目の細胞についてRenilla Luciferase Assay System(PROMEGA)を用いて、ウミシイタケルシフェラーゼの発現量を測定した。
【0104】
具体的には培養液を9000G×1分間遠心して上清を除去し、PBSで1回洗浄した後、キット添付のRenilla Luciferase Assay Lysis Bufferを用いて細胞ライセートを調製した。そして前記キットとルミノメーターを用いて、ウミシイタケルシフェラーゼの発光量を測定した。
【0105】
生細胞数、および、10
3細胞当たりのウミシイタケルシフェラーゼ発光量の推移を、それぞれ、
図7A、
図7Bに示す。培養初期の細胞では、Hspa5プロモーターでのウミシイタケルシフェラーゼ発光量は、コントロールとして用いたヒトRPS7プロモーターよりも高く、ヒトEF1-αプロモーターと同程度であった。しかしながら、培養の中期以降の細胞におけるウミシイタケルシフェラーゼ発光量は、Hspa5プロモーターでは経時的に上昇した一方、ヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターでは大きく低下した。そのため、培養11日目時点の細胞では、Hspa5プロモーターでのウミシイタケルシフェラーゼ発光量は、それぞれヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターの4.5、4.8倍と大きな値を示した。すなわち、ウミシイタケルシフェラーゼの発現を試みた結果、Hspa5プロモーターでは、既存のヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターと比較して、抗体発現系を上回る生産量の増強効果を確認することができた。以上より、抗体以外のタンパク質の生産においてもHspa5プロモーターが有用であることが示された。
【0106】
(実施例7)流加培養での抗体発現量を指標としたHspa5プロモーター長の検討
【0107】
7-1)抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗体遺伝子Y発現ベクターpDSLHA4.1-hRPS7-Yの、抗体H鎖およびL鎖遺伝子のプロモーターをHspa5プロモーターの部分配列に置換した、pDSLHA4.1-Hspa5-2.5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-2.0-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.1-Y、および、pDSLHA4.1-Hspa5-0.6-Yを構築した。それぞれの発現ベクターで、Hspa5の開始コドン配列の上流約2.5、2.0、1.5、1.1、0.6kbpのヌクレオチドから開始コドン配列に対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでの配列を、Hspa5プロモーターの部分配列として用いた。
【0108】
pDSLHA4.1-Hspa5-2.5-Yは、以下の方法により構築した。まず、pGL4.10-Hspa5をテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとPrimeSTAR Max DNA Polymeraseを用いたPCRでチャイニーズハムスターHspa5プロモーターの部分配列を増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をNotI-XbaIで消化した後、H鎖遺伝子発現ベクターpDSH1.1-hRPS7-Y、および、L鎖遺伝子発現ベクターpDSL2.1-hRPS7-YのNotI-NheIサイト間に挿入して、それぞれpDSH1.1-Hspa5-2.5-Y、pDSL2.1-Hspa5-2.5-Yを構築した。次に、pDSL2.1-Hspa5-2.5-YをAatII-HindIIIで消化して得られたDNA断片をpDSH1.1-Hspa5-2.5-YのAatII-HindIII間に挿入して、pDSLH3.1-Hspa5-2.5-Yを構築した。pDSLH3.1-Hspa5-2.5-Yの発現カセット上流に特許文献2に記載のDNAエレメントA7を挿入して、pDSLHA4.1-Hspa5-2.5-Yを構築した。同様の方法で、pDSLHA4.1-Hspa5-2.0-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.1-Y、および、pDSLHA4.1-Hspa5-0.6-Yを構築した。
Hspa5プロモーター 2.5kbpのプライマーセット
Hspa5-NotI-2500F:GGGGGGCGGCCGCTGGTCGGTGGTTAAGAGCAC(配列番号24)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
Hspa5プロモーター 2.0kbpのプライマーセット
Hspa5-NotI-2000F:GGGGGGCGGCCGCTCCCAACTGGACACAGTAAT(配列番号25)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
Hspa5プロモーター 1.5kbpのプライマーセット
Hspa5-NotI-1500F:GGGGGGCGGCCGCAATTCTACCTGTACCACTCA(配列番号26)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
Hspa5プロモーター 1.1kbpのプライマーセット
Hspa5-NotI-1100F:GGGGGGCGGCCGCCGGGAACATTATGGGGCGAC(配列番号27)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
Hspa5プロモーター 0.6kbpのプライマーセット
Hspa5-NotI-600F:GGGGGGCGGCCGCGGAACTGACACGCAGACCCC(配列番号28)
Hspa5-XbaI-R:GGGGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGGCCAGTGCT(配列番号15)
【0109】
7-2)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの作製
(5-1)および(7-1)で構築した抗体発現ベクターpDSLHA4.1-hRPS7-Y、pDSLHA4.1-hEF1α-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-2.5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-2.0-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.5-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-1.1-Y、あるいは、pDSLHA4.1-Hspa5-0.6-Yを、(1-2)に記載のCHO-O1細胞に(4-1)に記載の方法でトランスフェクションした。そして、(5-2)に記載の方法で薬剤選択培養を行い、ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを作製した。ステーブルプールはそれぞれの抗体発現ベクターでN=3で作製した。
【0110】
7-3)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養による抗体生産量評価
(7-2)で作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。
【0111】
生細胞数、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量(SPR:specific production rate)の推移を、それぞれ、
図8A、
図8B、
図8Cに示す。意外にも、Hspa5プロモーターの長さを3.0kbpから0.6あるいは1.1kbpに短くしたところ、培養初期段階から高い生産性を示し、培養5日目の時点で、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量共に、コントロールとして用いたヒトRPS7プロモーター、ヒトEF1-αプロモーターよりも高かった。更に、Hspa5プロモーターの長さに関わらず、培養の中期以降で1細胞1日当たりの抗体生産量が上昇し、培養14日目時点における0.6および1.1kbpのHspa5プロモーターでの値は、共にヒトEF1-αプロモーターの2.3倍の値を示した。その結果、培養14日目の0.6および1.1kbpのHspa5プロモーターでの抗体生産量は共に0.5 g/Lを上回り、それぞれヒトEF1-αプロモーターでの2.1、2.0倍の値に達した。Hspa5プロモーターの長さを最適化することで、そのプロモーター能を最大限発揮できるようになり、現在頻繁に使用されているプロモーターでの抗体生産量を凌駕する結果が得られた。
【0112】
7-4)ヒト化抗体Y発現モノクローンの流加培養による抗体生産量評価
(7-2)で、Hspa5プロモーターの部分配列0.6kbpを使用して作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールからモノクローンを取得し、流加培養による抗体生産量の評価を行った。
【0113】
まず、フローサイトメーターを利用して、高発現細胞の濃縮を行った。具体的には培養液を200G×3分間遠心して上清を除去し、2% BSA-PBSで2回洗浄した後、2% BSA-PBSで再懸濁した。得られた細胞浮遊液にfluorescein isothiocyanate(FITC)-conjugated Goat F(ab’)2 Fragment Anti-Human IgG (H + L)(Beckman Coulter)を添加し、4℃で30分間静置して染色した。その後、200G×3分間遠心して上清を除去し、2% BSA-PBSで2回洗浄した後、2% BSA-PBSで再懸濁した。得られた細胞浮遊液をBD FACS Aria Fusionsorter(Becton Dickinson)を利用してソーティングした。ソーティングは以下の条件で実施した。最初に、横軸にFSC-Area、縦軸にSSC-Areaを取ったドットプロットにて、SSCの値で2つに、更にFSCの値で4つに分画した。そして、FSCの値が最も小さく、かつ、SSCの値が小さい分画の細胞集団において、高蛍光強度を示した上位5%の細胞集団をソーティングした。
【0114】
次に、ソーティングした細胞集団を培養した後、軟寒天培地に懸濁、6 wellプレートに播種し、5%CO2、37℃で培養した。培養後、ClonePix 2を用いてヒト化抗体Y高発現コロニーを96 wellプレートにピックした。ピッキングしたコロニーは、24 wellプレート、6 wellプレート、T-25フラスコ、125 mL容三角フラスコと順次拡大培養した。
【0115】
得られたヒト化抗体Y発現モノクローンについてbatch培養を行って高発現モノクローンを選択した。続いて、選択したヒト化抗体Y発現モノクローンについて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。
【0116】
生細胞数、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量(SPR:specific production rate)の推移を、それぞれ、
図9A、
図9B、
図9Cに示す。ステーブルプールの場合と同様に、多数のクローンにおいて培養の中期以降で1細胞1日当たりの抗体生産量が上昇していた。また、評価した12クローンのうち、5クローンが2 g/L以上を示し、最も生産量が高い#48では約4 g/Lに達した。以上より、プロモーター長を最適化したHspa5プロモーターを用いることで、多数のクローンを評価しなくても高生産クローンを取得可能であり、その中に約4 g/Lと非常に高い生産量を示すクローンが含まれていることがわかった。
【0117】
(実施例8)抗体発現量を指標とした、ヒト、マウス、ラットHspa5プロモーターの流加培養による評価
【0118】
8-1)抗体発現ベクターの構築
ヒト化抗体遺伝子Y発現ベクターpDSLHA4.1-hRPS7-Yの、抗体H鎖およびL鎖遺伝子のプロモーターをヒト、マウス、ラットHspa5プロモーターに置換した、pDSLHA4.1-hHspa5-Y、pDSLHA4.1-mHspa5-Y、pDSLHA4.1-rHspa5-Yを構築した。それぞれ、Hspa5の開始コドン配列の上流約1.0kbpのヌクレオチドから開始コドン配列に対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでの配列を、Hspa5プロモーターとして用いた。クローニングしたヒト、マウス、ラットHspa5プロモーターののヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号2、3、4に示す。
【0119】
pDSLHA4.1-hHspa5-Yは、以下の方法により構築した。まず、ヒトゲノムDNAをテンプレートとして、以下に示すプライマーセットとPrimeSTAR Max DNA Polymeraseを用いたPCRでヒトHspa5プロモーターを増幅し、QIAquick PCR Purification kitで精製した。精製したDNA断片をNotI-NheIで消化した後、H鎖遺伝子発現ベクターpDSH1.1-hRPS7-Y、および、L鎖遺伝子発現ベクターpDSL2.1-hRPS7-YのNotI-NheIサイト間に挿入して、それぞれpDSH1.1-hHspa5-Y、pDSL2.1-hHspa5-Yを構築した。次に、pDSL2.1-hHspa5-YをAatII-HindIIIで消化して得られたDNA断片をpDSH1.1-hHspa5-YのAatII-HindIII間に挿入して、pDSLH3.1-hHspa5-Yを構築した。pDSLH3.1-hHspa5-Yの発現カセット上流に特許文献2に記載のDNAエレメントA7を挿入して、pDSLHA4.1-hHspa5-Yを構築した。同様の方法で、pDSLHA4.1-mHspa5-Y、pDSLHA4.1-rHspa5-Yを構築した。
ヒトHspa5プロモーターのプライマーセット
Hspa5-human-NotI-F:GTGTTGCGGCCGCACAGTAGGGAGGGGACTCAGAGC(配列番号29)
Hspa5-human-NheI-R:GTGGGGCTAGCCTTGCCAGCCAGTTGGGCAGCAG(配列番号30)
マウスHspa5プロモーターのプライマーセット
Hspa5-mouse-NotI-F:GGTGGGCGGCCGCATGGTGGAAAGTGCTCGTTTGACC(配列番号31)
Hspa5-mouse-XbaI-R:GGTGGTCTAGAGCCGGCGCTGAGGACCAGTCGCTC(配列番号32)
ラットHspa5プロモーターのプライマーセット
Hspa5-rat-NotI-F:GGTGAGCGGCCGCCTCAACGGAGAAGGGCTCCGGAC(配列番号33)
Hspa5-rat-XbaI-R:GGTAGGTCTAGACTTGCCGGCGCTGTGGACCAGTC(配列番号34)
【0120】
8-2)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの作製
(7-1)および(8-1)で構築した抗体発現ベクターpDSLHA4.1-Hspa5-1.1-Y、pDSLHA4.1-Hspa5-0.6-Y、pDSLHA4.1-hHspa5-Y、pDSLHA4.1-mHspa5-Y、あるいは、pDSLHA4.1-rHspa5-Yを、(1-2)に記載のCHO-O1細胞に(4-1)に記載の方法でトランスフェクションした。そして、(5-2)に記載の方法で薬剤選択培養を行い、ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを作製した。ステーブルプールはそれぞれの抗体発現ベクターでN=2で作製した。
【0121】
8-3)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養による抗体生産量評価
(8-2)で作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。
【0122】
生細胞数、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量(SPR:specific production rate)の推移を、それぞれ、
図10A、
図10B、
図10Cに示す。ヒト、マウス、ラットのいずれのHspa5プロモーターを用いて作製したステーブルプールでも、チャイニーズハムスターのHspa5プロモーターと同様に、培養の中期以降で1細胞1日当たりの抗体生産量が上昇し、高い抗体生産量を達成することができた。以上より、ヒト、マウス、ラット、チャイニーズハムスターのいずれのHspa5プロモーターを用いた場合でも、抗体生産性を向上させることができ、その効果が生物種によらないと示唆された。
【0123】
(実施例9)流加培養での抗体発現量を指標としたHspa5プロモーターとA7の組み合わせ効果の検討
【0124】
9-1)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの作製
(7-1)で構築したDNAエレメントA7を含む抗体発現ベクターpDSLHA4.1-Hspa5-1.1-Y、あるいは、pDSLHA4.1-Hspa5-0.6-Y、または、DNAエレメントA7を含まない抗体発現ベクターpDSLH3.1-Hspa5-1.1-Y、あるいはpDSLH3.1-Hspa5-0.6-Yを、(1-2)に記載のCHO-O1細胞に(4-1)に記載の方法でトランスフェクションした。そして、(5-2)に記載の方法で薬剤選択培養を行い、ヒト化抗体Y発現ステーブルプールを作製した。ステーブルプールはそれぞれの抗体発現ベクターでN=2で作製した。
【0125】
9-2)ヒト化抗体Y発現ステーブルプールの流加培養による抗体生産量評価
(9-1)で作製したヒト化抗体Y発現ステーブルプールを用いて、125 mL容三角フラスコにて流加培養を行った。基礎培地にG13、フィード培地にF13を用いた。
【0126】
生細胞数、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量(SPR:specific production rate)の推移を、それぞれ
図11A、
図11B、
図11Cに示す。0.6および1.1kbpのHspa5プロモーターのどちらを用いた場合でも、A7を含む抗体発現ベクターでは、A7を含まない抗体発現ベクターと比較して、抗体生産量、1細胞1日当たりの抗体生産量共に高かった。培養14日目時点におけるA7を含む0.6および1.1kbpのHspa5プロモーターでの抗体生産量は、A7を含まない0.6および1.1kbpのHspa5プロモーターのそれぞれ2.1、1.5倍の値を示した。また、A7の有無に関わらず、培養の中期以降で1細胞1日当たりの抗体生産量が上昇していた。以上より、DNAエレメントA7とHspa5プロモーターを組み合わせて使用することで、相乗効果によって効果的に高生産を実現していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の外来遺伝子の製造方法によって、治療用蛋白質や抗体等の外来遺伝子の生産性を向上させることが可能となる。特に、哺乳動物細胞の培養期間を通して、外来遺伝子発現調節機能を減弱させず、哺乳動物培養細胞の培養期間を通して外来遺伝子の強力な発現が可能なヒートショックプロテインA5遺伝子のプロモーターを用いる本発明の製造方法によって、生産性を向上させることが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0128】
配列番号1:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター
配列番号2:ヒト由来Hspa5のプロモーター
配列番号3:マウス由来Hspa5のプロモーター
配列番号4:ラット由来Hspa5のプロモーター
配列番号5:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター Hspa5の開始コドンの上流約2.5kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでからなるヌクレオチド配列
配列番号6:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター Hspa5の開始コドンの上流約2.0kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでからなるヌクレオチド配列
配列番号7:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター Hspa5の開始コドンの上流約1.5kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでからなるヌクレオチド配列
配列番号8:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター Hspa5の開始コドンの上流約1.1kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでからなるヌクレオチド配列
配列番号9:チャイニーズハムスター由来Hspa5のプロモーター Hspa5の開始コドンの上流約0.6kbpのヌクレオチドから開始コドンに対応するヌクレオチド配列の直前のヌクレオチドまでからなるヌクレオチド配列
配列番号10:Hspa5プロモーターのプライマー Hspa5-KpnI-F
配列番号11:Hspa5プロモーターのプライマー Hspa5-HindIII-R
配列番号12:hEF1αプロモーターのプライマー hEF1α-NheI-F
配列番号13:hEF1αプロモーターのプライマー hEF1α-HindIII-R
配列番号14:Hspa5プロモーターのプライマー Hspa5-NotI-F
配列番号15:Hspa5プロモーターのプライマー Hspa5-XbaI-R
配列番号16:hEF1αプロモーターのプライマー hEF1α-NotI-F
配列番号17:hEF1αプロモーターのプライマー hEF1α-NheI-R
配列番号18:ヒト化抗体YのH鎖遺伝子のプライマー HC-F
配列番号19:ヒト化抗体YのH鎖遺伝子のプライマー HC-R
配列番号20:Gapdh遺伝子のプライマー Gapdh-F
配列番号21:Gapdh遺伝子のプライマー Gapdh-R
配列番号22:hRPS7プロモーターのプライマー hRPS7-XhoI-F
配列番号23:hRPS7プロモーターのプライマー hRPS7-HindIII-R
配列番号24:Hspa5プロモーター 2.5kbpのプライマー Hspa5-NotI-2500F
配列番号25:Hspa5プロモーター 2.0kbpのプライマー Hspa5-NotI-2000F
配列番号26:Hspa5プロモーター 1.5kbpのプライマー Hspa5-NotI-1500F
配列番号27:Hspa5プロモーター 1.1kbpのプライマー Hspa5-NotI-1100F
配列番号28:Hspa5プロモーター 0.6kbpのプライマー Hspa5-NotI-600F
配列番号29:ヒトHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-human-NotI-F
配列番号30:ヒトHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-human-NheI-R
配列番号31:マウスHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-mouse-NotI-F
配列番号32:マウスHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-mouse-XbaI-R
配列番号33:ラットHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-rat-NotI-F
配列番号34:ラットHspa5プロモーターのプライマー Hspa5-rat-XbaI-R
配列番号35:DNAエレメントA2のヌクレオチド配列
配列番号36:DNAエレメントA7のヌクレオチド配列
配列番号37:DNAエレメントA18のヌクレオチド配列
【配列表】