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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
A61N5/10 K
A61N5/10 H
A61N5/10 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019027424
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020130572
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】馬場 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】菊地 雄司
(72)【発明者】
【氏名】平井 敦彦
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-234874(JP,A)
【文献】特開2014-228401(JP,A)
【文献】特開平11-197258(JP,A)
【文献】特開2017-215412(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02805745(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に中性子線を照射して治療を行う中性子捕捉療法システムであって、
前記中性子線の照射野を規定するコリメータを取付けるコリメータ取付部と、
前記コリメータ取付部に取り付けられる前記コリメータに付与された固有の識別情報を読み取る識別情報読取部と、
前記識別情報読取部で読み取られた前記識別情報が、治療の対象である前記患者に対応した前記コリメータの識別情報と一致するか否かを判定する識別情報判定部と、を備え、
前記識別情報は、電子部品を含まない記録手段に記録され、
前記コリメータ取付部は中性子遮蔽能力を備え、
前記コリメータは、前記コリメータ取付部に対し嵌め込まれた状態で取付けられ、
前記コリメータにおいては、前記記録手段が、前記コリメータ取付部に嵌め合わされる部分とは異なる部分に付される、中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記識別情報判定部は、
前記識別情報読取部で読み取られた前記識別情報と、前記患者の治療計画に含まれる使用すべき前記コリメータの識別情報と、の比較によって前記判定を実行する、
請求項1に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
患者に中性子線を照射して治療を行う中性子捕捉療法システムであって、
前記中性子線の照射野を規定するコリメータを取付けるコリメータ取付部と、
前記コリメータ取付部に取り付けられる前記コリメータに付与された固有の識別情報を読み取る識別情報読取部と、
前記識別情報読取部で読み取られた前記識別情報が、治療の対象である前記患者に対応した前記コリメータの識別情報と一致するか否かを判定する識別情報判定部と、を備え、
前記識別情報は、前記コリメータ取付部に表示された第1断片と、前記コリメータに表示された第2断片と、が合わされて完成する識別コードによって表現される、中性子捕捉療法システム。
【請求項4】
前記コリメータが前記コリメータ取付部に対して正常な位置関係で取付けられた場合に、前記識別コードが完成し前記識別情報読取部によって前記識別情報が読取可能となる、請求項3に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項5】
前記識別コードは1次元バーコード又は2次元コードである、請求項3又は4に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項6】
前記コリメータの開口が、前記中性子線の照射方向を軸として回転非対称の形状をなす、請求項1~5の何れか1項に記載の中性子捕捉療法システム。
【請求項7】
前記中性子線の照射を制御する照射制御部を更に備え、
前記照射制御部は、
前記識別情報判定部において、前記識別情報読取部で読み取られた前記識別情報が、治療の対象である前記患者に対応した前記コリメータの識別情報と一致すると判定されない限り前記中性子線の照射開始を許容しないように制御を行う、請求項1~6の何れか1項に記載の中性子捕捉療法システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子捕捉療法システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この分野の技術として、下記特許文献1に記載の中性子捕捉療法システムが知られている。この種の中性子捕捉療法システムで実行される治療は、例えばホウ素等の腫瘍集積性をもつ中性子捕捉元素化合物を事前に患者に投与し、この患者に対して中性子線を照射するものである。この治療では、腫瘍に集積した中性子捕捉元素化合物と中性子線とが反応して放射線が発生することで、患者の腫瘍に対して選択的に損傷を与える。この中性子捕捉療法システムにおいては、患者の治療に適した中性子線の照射野を形成するため、中性子線の照射野を規定するコリメータが適切に選択され使用される。患者に対して使用されるべきコリメータは、当該患者の治療計画で定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-83351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の中性子捕捉療法システムにおいては、患者に対して使用されるべきコリメータが正しくセットされていることを、作業者の目視等によって確認することが一般的であるが、このような確認の確実性を更に高めるための仕組みが求められる。本発明は、患者の治療に際して、当該患者に対応する正しいコリメータが装着されていることを確実に確認可能な中性子捕捉療法システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の中性子捕捉療法システムは、患者に中性子線を照射して治療を行う中性子捕捉療法システムであって、中性子線の照射野を規定するコリメータを取付けるコリメータ取付部と、コリメータ取付部に取り付けられるコリメータに付与された固有の識別情報を読み取る識別情報読取部と、識別情報読取部で読み取られた識別情報が、治療の対象である患者に対応したコリメータの識別情報と一致するか否かを判定する識別情報判定部と、を備える。
【0006】
識別情報判定部は、識別情報読取部で読み取られた識別情報と、患者の治療計画に含まれる使用すべきコリメータの識別情報と、の比較によって判定を実行することとしてもよい。
【0007】
識別情報は、コリメータ取付部に表示された第1断片と、コリメータに表示された第2断片と、が合わされて完成する識別コードによって表現されてもよい。また、コリメータがコリメータ取付部に対して正常な位置関係で取付けられた場合に、識別コードが完成し識別情報読取部によって識別情報が読取可能となるようにしてもよい。
【0008】
識別コードは1次元バーコード又は2次元コードであることとしてもよい。コリメータの開口は、中性子線の照射方向を軸として回転非対称の形状をなすこととしてもよい。
【0009】
本発明の中性子捕捉療法システムは、中性子線の照射を制御する照射制御部を更に備え、照射制御部は、識別情報判定部において、識別情報読取部で読み取られた識別情報が、治療の対象である患者に対応したコリメータの識別情報と一致すると判定されない限り中性子線の照射開始を許容しないように制御を行うこととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者の治療に際して、当該患者に対応する正しいコリメータが装着されていることを確実に確認可能な中性子捕捉療法システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る中性子捕捉療法システムを示す図である。
図2】中性子捕捉療法システムの中性子線出力部の近傍を示す断面図である。
図3】(a)~(c)は、各コリメータの正面図である。
図4】(a)は、コリメータホルダの正面図であり、(b)は、コリメータをコリメータホルダに装着した状態を示す正面図である。
図5】第2実施形態のコリメータを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、「上流」「下流」の語は、出射する荷電粒子線及び中性子線の上流(加速器側)、下流(患者側)をそれぞれ意味している。
【0013】
(第1実施形態)
図1に示す中性子捕捉療法システム1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)を用いたがん治療を行うシステムであり、ホウ素10(10B)が投与された患者(被照射体)40に対し中性子線Nを照射する。中性子捕捉療法システム1は、加速器10(例えば、サイクロトロン)を備え、加速器10は、荷電粒子(例えば、陽子)を加速して、荷電粒子線P(例えば、陽子線)を作り出し、出射する。ここでの加速器10は、例えば、ビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Pを生成する能力を有している。
【0014】
加速器10から出射された荷電粒子線Pは、水平型ステアリング12、4方向スリット14、水平垂直型ステアリング16、四重極電磁石18,19,20、90度偏向電磁石22、四重極電磁石24、水平垂直型ステアリング26、四重極電磁石28、4方向スリット30、電流モニタ32、荷電粒子線走査部34を順次に通過し、中性子線出力部36に導かれる。中性子線出力部36では荷電粒子線PがターゲットTに照射されることで生成された中性子線Nを出射(出力)し、当該中性子線Nが治療台38上の患者40に照射される。
【0015】
水平型ステアリング12、水平垂直型ステアリング16,26は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビーム軸調整を行うものである。同様に、四重極電磁石18,19,20,24,28は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Pのビームの発散を抑制するものである。4方向スリット14,30は、端のビームを切ることにより、荷電粒子線Pのビーム整形を行うものである。
【0016】
90度偏向電磁石22は、荷電粒子線Pの進行方向を90度偏向するものである。なお、90度偏向電磁石22には、切替部42が設けられており、切替部42によって荷電粒子線Pを正規の軌道から外してビームダンプ44に導くことが可能になっている。ビームダンプ44は、治療前などにおいて荷電粒子線Pの出力確認を行うことができる。
【0017】
電流モニタ32は、中性子線出力部36のターゲットTに照射される荷電粒子線Pの電流値(つまり、電荷,照射線量率)をリアルタイムで測定するものである。電流モニタ32は、荷電粒子線Pに影響を与えずに電流測定可能な非破壊型のDCCT(DC Current Transformer)が用いられている。この電流モニタ32には、所定のコントローラが接続されている。なお、「線量率」とは、単位時間当たりの線量を意味する。
【0018】
荷電粒子線走査部34は、荷電粒子線Pを走査し、ターゲットTに対する荷電粒子線Pの照射制御を行うものである。ここでの荷電粒子線走査部34は、例えば、荷電粒子線PのターゲットTに対する照射位置や、荷電粒子線Pのビーム径等を制御する。
【0019】
図2に示すように、中性子線出力部36は、荷電粒子線Pを通すビームダクト48の下流端部に配設されたターゲット(中性子線生成部)Tと、ターゲットTで発生した中性子線Nを減速させるモデレータ(減速部)50と、これらを覆うように設けられた遮蔽体52と、遮蔽体52の下流端に取り付けられたコリメータ46と、を含んで構成されている。
【0020】
ターゲットTは、荷電粒子線Pの照射を受けて中性子線Nを発生させるものである。ここでのターゲットTは、例えば、ベリリウム(Be)により形成され、直径160mmの円板状を成している。ターゲットTの種類は、加速器10の荷電粒子線Pのエネルギーに応じて設定される。
【0021】
モデレータ50は、ターゲットTから出射される中性子線Nを減速させ、エネルギーが低減された治療用中性子線Nとするものである。モデレータ50は、例えば異なる複数の材料から成る積層構造とされている。モデレータ50の材料は、荷電粒子線Pのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。
【0022】
遮蔽体52は、中性子線N、及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等が外部へ放出されないよう遮蔽するものであり、治療室の床に取り付けられている。コリメータ46は、治療用中性子線Nの出力口となる円形の開口47を備え、治療用中性子線Nの照射野を規定する。
【0023】
中性子線出力部36においては、荷電粒子線走査部34で走査された荷電粒子線Pがターゲット(中性子線生成部)Tに照射され、これにより中性子線が発生する。発生した中性子線は、モデレータ50で減速されて治療用中性子線Nとなる。そして、モデレータ50から出射された治療用中性子線Nが、コリメータ46の開口47を通過して治療台38上の患者40へ照射される。治療用中性子線Nのビームには、ガンマ線、速中性子線、熱外中性子線、及び熱中性子線が含まれている。このうちの熱中性子線が、主に、患者40体内の腫瘍中に取り込まれたホウ素10と核反応し、有効な治療効果を発揮する。なお、治療用中性子線Nのビームに含まれる熱外中性子線の一部も、患者40の体内で減速されて上記治療効果を発揮する熱中性子線となる。熱中性子線は、0.5eV以下のエネルギーの中性子線である。
【0024】
続いて、図2図4を参照しながらコリメータ46について更に詳細に説明する。遮蔽体52には円環状のコリメータホルダ45(コリメータ取付部)が取付けられる。そして、コリメータ46は、コリメータホルダ45の中央部の円孔に対してコリメータホルダ45と同心に嵌め込まれて装着される。図3(a)~(c)に示されるように、中性子捕捉療法システム1においては、複数(本実施形態では3つ)の既製のコリメータ46が予め準備されており、3つのうちの1つが選択的にコリメータホルダ45及び遮蔽体52に装着され、治療に使用される。3つのコリメータ46は、例えば、互いに、開口47の大きさ、厚さ等が異なっている。
【0025】
以下、3つのコリメータ46同士を区別する場合には、図3(a),(b),(c)に各符号を付すように、それぞれコリメータ46a,46b,46cと呼ぶものとする。なお、中性子捕捉療法システム1では1つのコリメータホルダ45が使用され、3つのコリメータ46a,46b,46cは何れも、当該コリメータホルダ45に装着することができる。また、3つのコリメータ46a,46b,46cには、それぞれ固有の識別情報(例えば、数字とアルファベットとで構成される情報など)が付与されている。
【0026】
図3(b)に示されるように、例えば、コリメータ46bの外縁部の右上部には、バーコードを二分割してなるバーコード断片53b(第2断片)が表示されている。これに対して、図4(a)に示されるように、コリメータホルダ45の内縁部の右上部には、バーコードを二分割してなるバーコード断片54b(第1断片)が表示されている。図4(b)に示されるように、コリメータ46bがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されたとき、すなわち正常な位置関係で装着されたときには、バーコード断片53bとバーコード断片54bとが一連に繋がる。そして、バーコード断片53bとバーコード断片54bとが一体に合わさって、バーコードリーダ71(図1参照)で読み取り可能な1つのバーコード55bが完成する。
【0027】
バーコード断片53b,54bは、例えば、コリメータ46b及びコリメータホルダ45の表面に貼付されたバーコードシール等であってもよく、コリメータ46b及びコリメータホルダ45の表面に直接印刷等されたバーコードパターンであってもよい。また、バーコード55bは、1次元バーコードであってもよく、2次元バーコードであってもよい。
【0028】
バーコード55bは、コリメータ46bに付与された固有の識別情報をバーコード化したものであり、コリメータ46bの識別情報を表現する識別コードとして機能する。なお、バーコード断片53b又はバーコード断片54bのそれぞれ単独では、コードが成立せずバーコードリーダ71で読み取ることはできない(例えば、読取エラーが発生する)。また、バーコード断片53bとバーコード断片54bとが位置ずれしている場合にもバーコードリーダ71で読み取ることはできない(例えば、読取エラーが発生する)。従って、バーコードリーダ71でバーコード55bが読み取られたことは、コリメータ46bがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されていることを意味する。
【0029】
同様に、コリメータ46aの外縁部の左上部にはバーコード断片53a(第2断片)が表示され、コリメータホルダ45の内縁部の左上部にはバーコード断片54a(第1断片)が表示されている。コリメータ46aがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されたときには、バーコード断片53a(第2断片)とバーコード断片54a(第1断片)とが合わさって、コリメータ46aに付与された固有の識別情報を表すバーコード55aが完成する。バーコードリーダ71でバーコード55aが読み取られたことは、コリメータ46aがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されていることを意味する。
【0030】
更に同様に、コリメータ46cの外縁部の下部にはバーコード断片53c(第2断片)が表示され、コリメータホルダ45の内縁部の下部にはバーコード断片54c(第1断片)が表示されている。コリメータ46cがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されたときには、バーコード断片53c(第2断片)とバーコード断片54c(第1断片)とが合わさって、コリメータ46cに付与された固有の識別情報を表すバーコード55cが完成する。バーコードリーダ71でバーコード55cが読み取られたことは、コリメータ46cがコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されていることを意味する。
【0031】
なお、例えば、バーコード断片53aとバーコード断片54b、バーコード断片53bとバーコード断片54c、といったような誤った組み合わせでバーコード断片同士を合わせても、バーコードが成立せず、バーコードリーダ71で読み取ることはできない(例えば、読取エラーが発生する)。
【0032】
上記のような3つのコリメータ46の何れを治療に使用すべきかは、患者40ごとに決定され、当該患者40の治療計画63に記録されている。すなわち、治療対象の患者40ごとに、患者40の治療に使用すべき1つのコリメータ46が3つの中から選択され、当該患者40の治療計画63に記録されている。なお、患者40ごとの治療計画63には、患者40を特定するための患者IDと、治療に使用すべきコリメータ46の識別情報と、が少なくとも含まれている。また、治療計画63は制御部61(図1参照)に記憶されている。
【0033】
図1に示されるように、制御部61は、照射制御部65と、識別情報判定部67と、識別情報読取部69と、を備えている。制御部61は、中性子捕捉療法システム1の運転を統合的に制御するものである。制御部61は例えばコンピュータシステムであり、このようなコンピュータシステムが所定の制御プログラムに従って動作することにより、次に説明するように機能する照射制御部65、識別情報判定部67、及び識別情報読取部69が実現される。
【0034】
識別情報読取部69は、バーコードリーダ71を含んでいる。識別情報読取部69は、治療の準備としてコリメータ46がコリメータホルダ45に装着された後に、バーコードリーダ71から前述のバーコード55a,55b又は55cを読み取り、現在装着されているコリメータ46の識別情報を認識する。なお、上記の55a,55b又は55cの読み取りは、治療の準備作業において、作業者によって適宜実行される。この場合、作業者は、バーコード55a,55b又は55cのうちの何れか一見して完成している1つをバーコードリーダ71で読み取る作業を行う。
【0035】
識別情報判定部67は、制御部61に入力された患者ID64をキーにして該当する患者40の治療に使用すべきコリメータ46の識別情報を、治療計画63から読み出す。そして、上記の識別情報読取部69で認識された識別情報と、治療計画63から読み出した認識情報とを比較し、これらが一致するか否かを判定する。なお、上記の患者ID64の入力は、治療の準備作業において、作業者によって適宜実行される。
【0036】
照射制御部65は、患者40に対する治療用中性子線Nの照射を制御する。照射制御部65は、作業者が入力した指示に従って加速器10等に駆動信号を送信し、患者40に対する治療用中性子線Nの照射を開始/終了する。ここで、照射制御部65は、識別情報判定部67において、識別情報読取部69で認識された識別情報と、治療計画63から読み出した認識情報とが一致すると判定されない場合には、所謂インターロック処理を行う。このインターロック処理では、照射制御部65は、作業者が開始指示を入力したとしても、患者40に対する治療用中性子線Nの照射が開始を許容しないように制御する。すなわち、識別情報判定部67において、識別情報読取部69で認識された識別情報と、治療計画63から読み出した認識情報とが一致すると判定されない限り、患者40に対する治療用中性子線Nの照射を開始することはできない。
【0037】
以上のような中性子捕捉療法システム1による治療の手順は次の通りである。作業者は治療に係る患者40の治療計画で定められたコリメータ46を選択し、バーコード55a,55b又は55cの位置を合わせながらコリメータホルダ45に装着する。更に作業者は、治療に係る患者40の患者ID64を制御部61に入力する。次に作業者は、バーコードリーダ71でバーコード55a,55b又は55cを読み取る。バーコードの読取りエラーが発生する場合には、コリメータ46の装着をやり直してバーコード読み取りを再度行う。また、作業者は患者40を治療台38上で治療計画に合わせた姿勢にセッティングする。
【0038】
識別情報判定部67による判定で、コリメータ46が正しいものであることが確認されれば、治療開始(治療用中性子線Nの照射開始)が可能になる。この場合、作業者は治療用中性子線Nの照射の開始指示を入力して、治療が開始される。一方、識別情報判定部67による判定で、コリメータ46が正しいものであることが確認されない場合には、インターロック処理により治療用中性子線Nの照射は開始不可能とされる。この場合、作業者は、コリメータ46の選択からやり直す。
【0039】
続いて、以上説明した中性子捕捉療法システム1による作用効果について説明する。
【0040】
中性子捕捉療法システム1によれば、コリメータ46の装着後、バーコード55a,55b又は55cの何れかが読み取られることにより、コリメータホルダ45に装着されたコリメータ46の識別情報が認識される。そして、認識された識別情報と、治療計画63から読み出した認識情報との一致/不一致により、装着されたコリメータ46が、治療に使用すべきコリメータ46であるか否かが確実に判定可能である。
【0041】
すなわち、中性子捕捉療法システム1によれば、治療に係る患者40に対して、当該患者40の治療に使用されるべき正しいコリメータ46が装着されていることを確実に確認可能である。また、識別情報読取部69で認識された識別情報と、治療計画63から読み出した認識情報とが一致すると判定されない限り、患者40に対する治療用中性子線Nの照射を開始することはできない(インターロック処理)ので、誤ったコリメータ46が装着された状態で患者40へ治療用中性子線Nが照射されることが回避される。
【0042】
また、上記のバーコード55a,55b又は55cが読取り可能であることをもって、コリメータ46がコリメータホルダ45に対して正しい位置及び正しい向きで装着されていることを更に確認することができる。また、作業者は、バーコード55a,55b又は55cの読み取りといった簡易な作業を行えばよいので、作業時間が抑えられ作業者の被曝も抑えられる。
【0043】
また、コリメータ46及びコリメータホルダ45は、中性子束に晒されて使用されるものであるので、コリメータ46の識別のために、仮に、半導体等の電子部品を含む識別媒体を取付けた場合には、当該識別媒体には中性子束に起因する不具合が発生する虞がある。これに対し、中性子捕捉療法システム1では、バーコード55a,55b,55cといった電子部品を含まない識別コードをコリメータ46及びコリメータホルダ45に表示することで、中性子束に起因する不具合は回避される。また、装着されたコリメータ46の確認を機械的なスイッチ等で行うことも考えられるが、スイッチの存在がコリメータ46及びコリメータホルダ45放射線の遮蔽構造に影響を及ぼす場合がある。これに対してバーコード55a,55b,55cを用いる方式では、コリメータ46及びコリメータホルダ45の遮蔽構造にほとんど影響を及ぼさない。
【0044】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態に係る中性子捕捉療法システムについて説明する。本実施形態の中性子捕捉療法システムで使用されるコリメータ46dは、図5に示されるように、矩形の開口47を有する点において第1実施形態とは異なり、それ以外の点においては第1実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0045】
コリメータ46dの開口47は例えば正方形であり、治療用中性子線Nの照射方向を軸として回転非対称の形状をなす。このような回転非対称形状のコリメータ46dは、治療用中性子線Nの照射方向を軸として周方向に位置ずれして装着された場合に、患者40に対する開口47の形状が変化するので、周方向への位置ずれを回避する必要性が特に高い。
【0046】
ここで、本実施形態の中性子捕捉療法システムでは、コリメータ46d側に表示されたバーコード断片53cと、コリメータホルダ45側に表示されたバーコード断片54cと、が合わされ、読取り可能なバーコードが完成したことをもって、コリメータ46dの周方向の位置が正しいことが保証される。従って、このような回転非対称形状の開口47をもつコリメータが使用される場合には、上記のようなバーコード断片53d,54cを備える構成がより好適に適用される。
【0047】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、実施例の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0048】
例えば、上記実施形態におけるバーコード55a,55b,55cに代えて、2次元コード(例えば、2次元バーコード)をコリメータ46の識別コードとして採用してもよい。また、識別コードは、光学的に読み取り可能な他のパターン図形であってもよい。また、コリメータ46の識別情報は、例えば、コリメータ46に設置された情報記録媒体(例えばICタグ)に記憶されてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、中性子捕捉療法システム1のコリメータ46を例として説明しているが、X線治療装置や粒子線治療装置のコリメータに対しても、上記実施形態に倣って、装置に装着されたコリメータの確認手法を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…中性子捕捉療法システム、40…患者、45…コリメータホルダ(コリメータ取付部)、46,46a,46b,46c,46d…コリメータ、47…開口、53a,53b,53c,53d…バーコード断片(第2断片)、54a,54b,54c…バーコード断片(第1断片)、55a,55b,55c…バーコード(識別コード)、65…照射制御部、67…識別情報判定部、69…識別情報読取部、N…中性子線。
図1
図2
図3
図4
図5