IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カワサキモータース株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハイブリッド車両 図1
  • 特許-ハイブリッド車両 図2
  • 特許-ハイブリッド車両 図3
  • 特許-ハイブリッド車両 図4
  • 特許-ハイブリッド車両 図5
  • 特許-ハイブリッド車両 図6
  • 特許-ハイブリッド車両 図7
  • 特許-ハイブリッド車両 図8
  • 特許-ハイブリッド車両 図9
  • 特許-ハイブリッド車両 図10
  • 特許-ハイブリッド車両 図11
  • 特許-ハイブリッド車両 図12
  • 特許-ハイブリッド車両 図13
  • 特許-ハイブリッド車両 図14
  • 特許-ハイブリッド車両 図15
  • 特許-ハイブリッド車両 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/36 20071001AFI20231109BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231109BHJP
   B60K 6/383 20071001ALI20231109BHJP
   B60K 6/405 20071001ALI20231109BHJP
   B60K 6/40 20071001ALI20231109BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231109BHJP
   B62M 23/02 20100101ALI20231109BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231109BHJP
   F16H 57/031 20120101ALI20231109BHJP
   B60K 17/04 20060101ALI20231109BHJP
   B60K 17/02 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B60K6/36
B60K6/48 ZHV
B60K6/383
B60K6/405
B60K6/40
B60K6/547
B62M23/02 110
F16H57/04 J
F16H57/031
B60K17/04 G
B60K17/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019123349
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2021008215
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西藪 正貴
(72)【発明者】
【氏名】市 聡顕
(72)【発明者】
【氏名】和泉 恭平
(72)【発明者】
【氏名】飛田 裕司
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/121785(WO,A1)
【文献】特開2007-269253(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121783(WO,A1)
【文献】特開2017-061893(JP,A)
【文献】特開2007-154998(JP,A)
【文献】特開2012-228982(JP,A)
【文献】特開2010-254289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/36
B60K 6/48
B60K 6/383
B60K 6/405
B60K 6/40
B60K 6/547
B62M 23/02
F16H 57/04
F16H 57/031
B60K 17/04
B60K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒及びクランク軸を有するエンジンと
モータハウジング、及び、前記モータハウジングから側方に突出したモータ駆動軸を有する駆動モータと、
入力軸、出力軸及びギヤ列を有し、前記エンジン及び前記駆動モータから前記入力軸に伝達される回転動力を変速して駆動輪に出力する変速機と、
前記エンジンの前記クランク軸と前記変速機の前記入力軸との間の動力伝達経路に介設されるように前記変速機の前記入力軸の一端部に接続されたメインクラッチと、
前記クランク軸、前記入力軸、前記出力軸、前記ギヤ列及び前記メインクラッチを収容するクランクケースと、
前記モータ駆動軸からの動力を前記入力軸に伝達する動力伝達機構と、を備え、
前記クランクケースは、前記モータ駆動軸に直交する方向において前記駆動モータに並んで配置される本体部と、前記本体部に繋がって前記モータハウジングの側方に配置され、前記モータ駆動軸の前記一端部が挿入される延長部と、を有し、
前記動力伝達機構は、前記本体部により画定される第1領域と、前記延長部により画定されて前記第1領域に連通した第2領域とに配置され、
前記クランクケースは、前記エンジンを潤滑するための潤滑油が流れるエンジン潤滑油流路と、前記エンジン潤滑油流路から分岐したモータ動力系潤滑油流路と、を有し、
前記延長部は、前記モータ動力系潤滑油流路を流れる潤滑油を前記第2領域に吐出する吐出口を有する、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記クランクケースは、ケース本体と、前記ケース本体に着脱可能に取り付けられるカバーとを有し、
前記モータ動力系潤滑油流路は、前記ケース本体及び前記カバーに形成され、
前記吐出口は、前記カバーに形成されている、請求項に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記カバーのうち前記第2領域を車幅方向外側から閉鎖する部分は、前記カバーのうち前記第1領域を車幅方向外側から閉鎖する部分よりも車幅方向内側に位置している、請求項に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記カバーは、前記第1領域を車幅方向外側から閉鎖する第1カバーと、前記第1カバーとは別体であって前記第2領域を車幅方向外側から閉鎖する第2カバーと、に分割されている、請求項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び駆動モータを備えたハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行駆動源としてのエンジン及び駆動モータが駆動輪に動力伝達可能に接続されたハイブリッド車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-269253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンから変速機までの動力経路の近傍には様々な周辺部品が配置され得る。そのため、駆動モータからの駆動力を当該動力経路に入力する動力伝達機構は、周辺部品を回避して配置しなければならず、動力系統の全体が大型化してしまう。また、当該動力伝達機構を複雑に配置すると、当該動力伝達機構を潤滑するための構造も複雑になる。
【0005】
そこで本発明は、ハイブリッド車両において、動力系統の大型化を防止すると共に、駆動モータから変速機に駆動力を伝達する動力伝達機構の潤滑を簡単にできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るハイブリッド車両は、気筒及びクランク軸を有するエンジンと、モータハウジング、及び、前記モータハウジングから側方に突出したモータ駆動軸を有する駆動モータと、入力軸、出力軸及びギヤ列を有し、前記エンジン及び前記駆動モータから前記入力軸に伝達される回転動力を変速して駆動輪に出力する変速機と、前記エンジンのクランク軸と前記変速機の前記入力軸との間の動力伝達経路に介設されるように前記変速機の前記入力軸の一端部に接続されたメインクラッチと、前記クランク軸、前記入力軸、前記出力軸、前記ギヤ列及び前記メインクラッチを収容するクランクケースと、前記モータ駆動軸からの動力を前記入力軸に伝達する動力伝達機構と、を備え、前記クランクケースは、前記モータ駆動軸に直交する方向において前記駆動モータに並んで配置される本体部と、前記本体部に繋がって前記モータハウジングの側方に配置され、前記モータ駆動軸の一端部が挿入される延長部と、を有し、前記動力伝達機構は、前記本体部により画定される第1領域と、前記延長部により画定されて前記第1領域に連通した第2領域とに配置される。
【0007】
前記構成によれば、モータ駆動軸から入力軸まで駆動力を伝達する動力伝達機構の全体がクランクケース内に収容される。よって、動力系統の大型化を防止できると共に、当該動力伝達機構の潤滑を簡単に行うことができる。
【0008】
一例として、前記駆動モータは、前記気筒の後方、かつ、前記クランクケースの前記本体部の上方に配置され、前記延長部は、前記モータハウジングの側方において前記本体部から上方に突出している構成としてもよい。
【0009】
前記構成によれば、動力系統をコンパクトに形成できる。
【0010】
一例として、前記モータハウジングは、前記モータ駆動軸が挿通される凸状筒部を有し、前記延長部は、シール部材を介して前記凸状筒部が挿入される挿入孔を有し、前記モータ駆動軸は、前記挿入孔及び前記凸状筒部を通って前記延長部に内部に到達している構成としてもよい。
【0011】
前記構成によれば、モータハウジングとケース本体とを嵌合によって簡単に接続できる。
【0012】
一例として、前記クランクケースは、ケース本体と、前記ケース本体に着脱可能に取り付けられるカバーとを有し、前記ケース本体には、少なくとも前記クランク軸、前記入力軸、前記出力軸及び前記ギヤ列を収容する主室が形成され、前記ケース本体と前記カバーとの間には、少なくとも前記メインクラッチを収容する副室が形成され、前記第1領域及び前記第2領域は、前記副室に設けられている構成としてもよい。
【0013】
前記構成によれば、モータ駆動軸から入力軸まで駆動力を伝達する動力伝達機構がクランクケースの副室に配置されるため、当該動力伝達機構の潤滑をメインクラッチの潤滑とともに簡単に行うことができる。
【0014】
一例として、前記クランクケースは、前記エンジンを潤滑するための潤滑油が流れるエンジン潤滑油流路と、前記エンジン潤滑油流路から分岐したモータ動力系潤滑油流路と、を有し、前記延長部は、前記モータ動力系潤滑油流路を流れる潤滑油を前記第2領域に吐出する吐出口を有する構成としてもよい。
【0015】
前記構成によれば、エンジンの潤滑のためのメイン潤滑油流路を流れる潤滑油を一部利用して、駆動モータからの動力を入力軸に伝達する動力伝達機構を潤滑でき、潤滑構造を簡素化できる。
【0016】
一例として、前記モータ動力系潤滑油流路は、前記ケース本体及び前記カバーに形成され、前記吐出口は、前記カバーに形成されている構成としてもよい。
【0017】
前記構成によれば、カバー側から動力伝達機構に向けて潤滑油を吐出でき、潤滑油の吐出位置の自由度を高めることができる。
【0018】
一例として、前記カバーのうち前記第2領域を車幅方向外側から閉鎖する部分は、前記カバーのうち前記第1領域を車幅方向外側から閉鎖する部分よりも車幅方向内側に位置している構成としてもよい。
【0019】
前記構成によれば、クランクケースを効果的に小型化して第2領域の車幅方向外側の空間に他部品(例えば、車体フレーム)を配置可能となり、車幅増加を防止できる。
【0020】
一例として、前記カバーは、前記第1領域を車幅方向外側から閉鎖する第1カバーと、前記第1カバーとは別体であって前記第2領域を車幅方向外側から閉鎖する第2カバーと、に分割されている構成としてもよい。
【0021】
前記構成によれば、カバーが第1カバーと第2カバーとに分割されるので、副室が大きくなっても個々のカバーの面積増加が防止され、カバーの振動による騒音を抑制できる。
【0022】
一例として、前記ハイブリッド車両は、ライダーが跨って乗る鞍乗車両であり、前記クランク軸、前記入力軸及び前記出力軸は、前記鞍乗車両の車幅方向に延びている構成としてもよい。
【0023】
前記構成によれば、車幅を小さくする必要のある鞍乗車両(例えば、自動二輪車)において、車幅増加を抑制してコンパクトに保つことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ハイブリッド車両において、動力系統の大型化を防止できると共に、モータ駆動軸から入力軸まで駆動力を伝達する動力伝達機構の潤滑を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
図2図2は、図1の自動二輪車の動力系統の模式図である。
図3図3は、図1のパワーユニットの要部断面図である。
図4図4は、図1の自動二輪車の動力系統の各軸等を車幅方向から見た模式図である。
図5図5は、図1の自動二輪車のパワーユニットのカバー取外し状態での右斜め後側から見た斜視図である。
図6図6は、図5のパワーユニットの左斜め後側から見た斜視図である。
図7図7は、図5のパワーユニットの右側面図である。
図8図8は、図7のパワーユニットのカバー取付け状態での右側面図である。
図9図9は、図5のパワーユニットのクランクケースの延長部及びその近傍の後方から見た縦断面図である。
図10図10は、図5のパワーユニットのカバー取付け状態での前方から見た正面図である。
図11図11は、図6のパワーユニットの駆動モータ取外し状態での斜視図である。
図12図12は、図6のパワーユニットの駆動モータの近傍を拡大した左側面図である。
図13図13は、図5のパワーユニットのオイル経路を説明するブロック図である。
図14図14は、図8のパワーユニットの下方から見た底面図である。
図15図15は、図14のパワーユニットのオイル経路におけるバイパス路の縦断面図である。
図16図16は、図14のパワーユニットの二次フィルタ及びその近傍の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0027】
図1は、実施形態に係る自動二輪車1の側面図である。図2は、図1の自動二輪車1の動力系統の模式図である。図1に示すように、自動二輪車1は、ライダーが跨って乗る鞍乗車両の一例であり、ハイブリッド車両である。自動二輪車1は、前輪2と、後輪3(駆動輪)と、車体フレーム4と、前輪2を車体フレーム4の前部に接続する前サスペンション5と、後輪3を車体フレーム4の後部に接続する後サスペンション6とを備える。前サスペンション5は、上下方向に間隔をあけて配置されるブラケット7に連結されている。ブラケット7に接続される操舵軸が車体フレーム4の一部であるヘッドパイプ4aに角変位可能に支持されている。当該操舵軸には、運転者が手で握るハンドル8が設けられる。ハンドル8の後側には、燃料タンク9が設けられ、燃料タンク9の後側に運転者が着座するシート10が設けられる。車体フレーム4には、前輪2と後輪3と間において走行駆動源となるパワーユニット11が搭載されている。
【0028】
図1及び2に示すように、パワーユニット11は、原動機としての内燃機関であるエンジンEと、原動機としての電動モータである駆動モータM(原動機)とを備える。エンジンEの後側には、変速機12が配置されている。変速機12は、入力軸12aと、出力軸12bと、減速比の異なる複数組のギヤ列12cとを有する。変速機12は、ギヤ列12cを介して入力軸12aから出力軸12bに動力伝達可能に構成され、ギヤ列12cのうち任意の一組を選択して変速する。例えば、変速機12は、ドッグクラッチ式の変速機である。エンジンEのクランク軸Eaの一端部は、プライマリギヤ17に動力伝達可能に接続されている。クランク軸Eaの他端部は、インテグレーテッド・スタータジェネレータISGに動力伝達可能に接続されている。
【0029】
プライマリギヤ17は、入力軸12aの軸線方向におけるメインクラッチ13とギヤ列12cとの間において入力軸12a周りに設けられる。プライマリギヤ17は、入力軸12aに対して相対回転自在である。プライマリギヤ17は、クランク軸Eaからの回転動力をメインクラッチ13に伝達する。プライマリギヤ17は、メインクラッチ13を介して変速機12の入力軸12aに動力伝達可能に接続されている。メインクラッチ13は、入力軸12aの端部に設けられ、クランク軸Eaから入力軸12aへの動力経路の切断及び接続を行う。メインクラッチ13は、油圧駆動式である。メインクラッチ13は、例えば、多板クラッチである。
【0030】
入力軸12aの近傍には、入力軸12aの回転に機械的に連動して駆動されるクラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2が設けられる。クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の被駆動軸Paは、互いに同軸である。エンジンEのクランク軸Ea、変速機12の入力軸12a及び出力軸12b、メインクラッチ13、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2は、クランクケース14(パワーユニットケース)に収容されている。クランク軸Ea、入力軸12a、出力軸12b及び被駆動軸Paは、互いに平行であり、自動二輪車1の車幅方向(左右方向)に延びている。車体フレーム4には、後輪3を支持して前後方向に延びるスイングアーム15が角変位可能に支持されている。変速機12の出力軸12bの回転動力は、出力伝達部材16(例えば、チェーン、ベルト等)を介して後輪3に伝達される。
【0031】
プライマリギヤ17とギヤ列12cとの間には、入力軸12a周りに入力軸12aと共回転するスプロケット18(回転部材)が設けられる。駆動モータMは、モータハウジングMaと、モータハウジングMaから突出するモータ駆動軸Mbとを備え、モータ駆動軸Mbにはスプロケット19がモータ駆動軸Mbと共回転するように設けられる。なお、スプロケット18,19の代わりに、回転部材としてギヤやプーリが用いられてもよい。そして、入力軸12a側のスプロケット18とモータ駆動軸Mb側のスプロケット19とに、チェーン20(動力伝達部材)が接続されている。これにより、駆動モータMの駆動力が、スプロケット18を介して入力軸12aに伝達される。即ち、スプロケット19、チェーン20及びスプロケット18の組が、モータ駆動軸Mbからの動力を入力軸12aに伝達する動力伝達機構40の一例である。
【0032】
エンジンEの駆動力は、プライマリギヤ17を介して第1ワンウェイクラッチ21に伝達される。駆動モータMの駆動力は、スプロケット18を介して第2ワンウェイクラッチ22に伝達される。第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22は、動力伝達機構23を介してクラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の被駆動軸Paに動力伝達可能に接続されている。即ち、第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22は、エンジンE又は駆動モータMの駆動力をクラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2を動作させるポンプ動力伝達器30を構成する。
【0033】
クラッチ用ポンプP1から吐出されるオイルは、油制御弁ユニット24を介してメインクラッチ13に作動油として供給される。油制御弁ユニット24は、クラッチ用ポンプP1からメインクラッチ13に向かう油の流路を開閉する。エンジン用ポンプP2から吐出されるオイルは、エンジンE及び変速機12に潤滑油として供給される。ECU25(電子制御ユニット)は、エンジンEを制御する。具体的には、スロットル装置T、燃料噴射装置F及び点火装置Iを制御する。また、ECU25は、油制御弁ユニット24の開閉を制御することにより、メインクラッチ13の接続及び切断を制御する。
【0034】
図3は、図2のパワーユニット11の要部断面図である。図3に示すように、クランクケース14は、後述の本体部31及び延長部32(図5参照)を有するケース本体27と、ケース本体27に側方から着脱可能に取り付けられる第1カバー28とを備える。なお、ケース本体27には、後述する第2カバー29も取り付けられる。ケース本体27の内部には、主室MR(クランク室)が形成されている。主室MRには、クランク軸Ea及び変速機12が収容されている。ケース本体27の本体部31の側壁部31aには孔Hが形成され、孔Hには軸受33が装着されている。軸受33は、入力軸12aを回転自在に支持する。側壁部31aは、プライマリギヤ17とギヤ列12cとの間に介在する。
【0035】
ケース本体27と第1カバー28(及び第2カバー29)との間には、副室SRが形成されている。入力軸12aの一端部は、副室SRに突出している。なお、図3には現れていないが、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の被駆動軸Pa(図4参照)も副室SRに突出している。副室SRには、クランク軸Eaの一端部、入力軸12aの一端部、メインクラッチ13、プライマリギヤ17、ポンプ動力伝達器30及びオイルポンプPの被駆動軸Paが収容されている。
【0036】
メインクラッチ13は、外ケース(図示せず)と、内ケース(図示せず)と、多板ユニット(図示せず)とを有する。多板ユニットが圧接状態になると、外ケースに対して内ケースが相対回転不能になりクラッチ接続状態となる。多板ユニットが非圧接状態になると、外ケースに対して内ケースが相対回転自在になりクラッチ切断状態となる。メインクラッチ13の外ケースは、プライマリギヤ17と共回転するようにプライマリギヤ17に結合されている。メインクラッチ13の内ケースは、入力軸12aと共回転するように入力軸12aに結合されている。プライマリギヤ17の内径は入力軸12aの外径よりも大きく、プライマリギヤ17の内周面は、入力軸12aの外周面から径方向外側に隙間をあけて離間している。
【0037】
入力軸12aは中空状である。入力軸12aの内部には、互いに仕切られた第1流路S1及び第2流路S2が形成されている。第1流路S1は、入力軸12aの一端部において外部に開放され、第2流路S2は、入力軸12aの他端部において外部に開放されている。入力軸12aは、第1流路S1をメインクラッチ13の流入ポート13aに連通する第1開口12dを有する。入力軸12aは、第2流路S2からメインクラッチ13に潤滑油を供給する第2開口12eを有する。第1カバー28は、入力軸12aの一端部に密嵌する嵌合部28aを有する。
【0038】
第1カバー28には、油制御弁ユニット24(図2参照)に連通する圧油通路28bが形成されている。圧油通路28bは、嵌合部28aにおいて第1流路S1に連通する。第1カバー28の圧油通路28bから入力軸12aの第1流路S1を介してメインクラッチ13に所定圧を超える油圧が付与されると、メインクラッチ13が接続状態となる。第1カバー28の圧油通路28bから入力軸12aの第1流路S1を介してメインクラッチ13に伝わる油圧が所定圧未満になると、メインクラッチ13が切断状態になる。
【0039】
ポンプ動力伝達器30は、エンジンEのクランク軸Eaからプライマリギヤ17を介して伝わる動力と、駆動モータMから入力軸12a及びスプロケット18を介して伝わる動力とを、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の被駆動軸Paに適切に伝達するものである。ポンプ動力伝達器30は、第1ワンウェイクラッチ21と、第2ワンウェイクラッチ22と、共通ギヤ34(筒状部材)とを備える。なお、共通ギヤ34の代わりに、筒状部材としてスプロケットやプーリ等を用いてもよい。
【0040】
駆動モータMの駆動力が伝達されるスプロケット18は、プライマリギヤ17に対してギヤ列12c側に位置する。具体的に、スプロケット18は、ケース本体27の側壁部31aに配置された軸受33とプライマリギヤ17との間に配置されている。これにより、スプロケット18に接続されるチェーン20(図2及び5参照)がメインクラッチ13よりも車幅方向外側に配置されることが防がれ、車幅増加を防止できる。
【0041】
プライマリギヤ17は、その内周部からスプロケット18側に突出する筒部17aを有する。プライマリギヤ17の筒部17aには、第1ワンウェイクラッチ21が外嵌されている。スプロケット18は、入力軸12aに共回転するよう外嵌される内周部である筒部18aと、筒部18aから径方向外方に突出する環状板部18bと、環状板部18bの外周部に設けられてチェーン20が接続される爪部である動力受部18cとを有する。筒部18aは、環状板部18bよりもプライマリギヤ17側に突出している。なお、スプロケット18は一体成形される必要なく、例えば筒部18aと環状板部18bとが互いに固定されたものであってもよい。
【0042】
スプロケット18の筒部18aには、第2ワンウェイクラッチ22が外嵌されている。第2ワンウェイクラッチ22は、第1ワンウェイクラッチ21に対してスプロケット18側に配置されている。第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22は、入力軸12aの軸線X方向に互いに隣接して入力軸12a周りに配置されている。プライマリギヤ17の回転動力は第1ワンウェイクラッチ21に伝達され、入力軸12aの回転動力は第2ワンウェイクラッチ22に伝達される。
【0043】
第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22は、共通ギヤ34に内嵌されている。第1ワンウェイクラッチ21は、プライマリギヤ17から共通ギヤ34に向かう動力を伝達する一方、共通ギヤ34からプライマリギヤ17に向かう動力を伝達しない。第2ワンウェイクラッチ22は、スプロケット18から共通ギヤ34に向かう動力を伝達する一方、共通ギヤ34からスプロケット18に向かう動力を伝達しない。2つのワンウェイクラッチ21,22が隣接して1つの共通ギヤ34に内嵌されるので、部品点数の増加を抑制しながらポンプ動力伝達器30の軸線X方向の寸法低減が図られる。共通ギヤ34は、動力伝達機構23としてのギヤを介して、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の被駆動軸Paに動力伝達可能に接続されている。
【0044】
プライマリギヤ17は、軸線X方向においてメインクラッチ13側に向けて窪んだ凹部17bを有する。凹部17bは、筒部17aの径方向外側に隣接配置されている。第1ワンウェイクラッチ21及び共通ギヤ34の一部は、凹部17bに収容されている。言い換えると、プライマリギヤ17の径方向から見て、第1ワンウェイクラッチ21及び共通ギヤ34は、プライマリギヤ17に重なっている。これにより、車幅方向のコンパクト化を図ることができる。
【0045】
スプロケット18において、動力受部18cは、環状板部18bに対して側壁部31aから車幅方向外方に離れる側にオフセットされている。これにより、スプロケット18を大径にしても、ケース本体27の側壁部31aがスプロケット18に干渉し難くなり、ケース本体27の形状自由度を高めることができる。スプロケット18は、筒部18aと動力受部18cとの間において、軸線X方向のメインクラッチ13から離れる側(主室MR側)に向けて窪んだ凹部18dを有する。凹部18dは、筒部18aの径方向外側に隣接配置されている。第2ワンウェイクラッチ22及び共通ギヤ34の一部は、凹部18dに収容されている。言い換えると、スプロケット18の径方向から見て、第2ワンウェイクラッチ22及び共通ギヤ34は、スプロケット18に重なっている。これにより、車幅方向のコンパクト化を図ることができる。
【0046】
スプロケット18は、ギヤ列12cの各ギヤよりも大径である。スプロケット18は、共通ギヤ34よりも大径である。スプロケット18は、変速機12が配置される主室MRではなく、比較的大径のメインクラッチ13が配置される副室SRに配置されるので、スプロケット18が大径であっても、クランクケース14の大型化を防止できる。また、スプロケット18を副室SRに配置することで、スプロケット18を大径化して駆動モータMから入力軸12aに伝達される駆動力を十分な減速比で減速し、駆動モータMの大型化を防止できる。よって、駆動モータMの駆動力を変速機12の入力軸12aに伝達するハイブリッド式の自動二輪車1において、動力系統の大型化を防止できる。
【0047】
図5は、図1の自動二輪車1のパワーユニット11のカバー取外し状態での右斜め後側から見た斜視図である。図6は、図5のパワーユニット11の左斜め後側から見た斜視図である。図7は、図5のパワーユニット11の右側面図である。図8は、図7のパワーユニットのカバー取付け状態での右側面図である。図9は、図5のパワーユニット11のクランクケース14の延長部32及びその近傍の後方から見た縦断面図である。図10は、図5のパワーユニット11のカバー取付け状態での前方から見た正面図である。図5乃至8に示すように、パワーユニット11は、エンジンE及び駆動モータMを備える。エンジンEは、クランクケース14の前部から上方に延びた気筒Ebを有する。クランクケース14は、気筒Ebの下部から後方に突出する本体部31を有する。駆動モータMは、気筒Ebの後方において本体部31の上面に搭載されている。即ち、駆動モータMは、本体部31に対して上下に並んで配置されている。
【0048】
駆動モータMは、略円筒形状のモータハウジングMaを有し、モータ駆動軸Mbが車幅方向一方(副室SR側)に突出するように配置されている。クランクケース14は、モータハウジングMaの側方において本体部31から上方に突出した延長部32を更に有する。即ち、延長部32は、車幅方向一方から見て駆動モータMと重なる。延長部32の上端は、駆動モータMの上端よりも低い。延長部32には、モータ駆動軸Mbの一端部が挿入されている。
【0049】
ケース本体27は、主室MRを画定する本体部31の側壁部31aから車幅方向外方(メインクラッチ13側)に突出する周壁部31bを有する。周壁部31bは、車幅方向外方に開放される開口部31cを有する。周壁部31bの車幅方向外側の端面には、開口部31cを閉鎖するように第1カバー28が着脱可能に固定されている。延長部32は、車幅方向外方に向けて開放された開口部32dを有し、延長部32の車幅方向外側の周状の端面には、開口部32dを閉鎖する第2カバー29が着脱可能に固定されている。ケース本体27は、開口部31cと開口部32dとを区切るように周壁部31bの端面と周壁部32bの端面とを接続するブリッジ部37を有する。
【0050】
側壁部31a、周壁部31b及び第1カバー28で囲まれた空間と、延長部32及び第2カバー29で囲まれた空間とは、副室SRを構成する。副室SRは、本体部31により画定される第1領域R1と、延長部32により画定される第2領域R2とを有する。第2領域R2は、第1領域R1に上下方向に連通している。第1カバー28は、第1領域R1を車幅方向外側から閉鎖する。第2カバー29は、第2領域R2を車幅方向外側から閉鎖する。副室SRを閉鎖するカバーが、互いに別体である第1カバー28と第2カバー29とに分かれているため、延長部32の存在により副室SRが大きくなっても個々のカバー28,29が大面積になることが防止され、カバーの振動による騒音を抑制できる。
【0051】
図9に示すように、駆動モータMのモータハウジングMaは、モータ駆動軸Mbが挿通される凸状筒部Mcを有する。クランクケース14の延長部32は、モータハウジングMaに対向する側壁部32aと、側壁部32aの周縁から車幅方向外方に突出して本体部31に連続する周壁部32bとを有する。延長部32の側壁部32aには、挿入孔32cが形成されている。挿入孔32cには、モータハウジングMaの凸状筒部Mcが挿入されている。挿入孔32cの内周面と凸状筒部Mcの外周面との間には、環状のシール部材35が挟まる。モータ駆動軸Mbは、凸状筒部Mcから車幅方向外方に突出している。即ち、モータ駆動軸Mbは、挿入孔32c及び凸状筒部Mcを通って延長部32に内部の第2領域R2に到達している。これにより、モータハウジングMaと延長部32とが嵌合によって簡単に接続されている。なお、モータ駆動軸Mbと凸状筒部Mcの間の隙間には、環状のシール部材36が介装されている。
【0052】
副室SRの第2領域R2において、モータ駆動軸Mbの先端部にスプロケット19が設けられる。モータ駆動軸Mbに設けたスプロケット19と入力軸12aに設けたスプロケット18とに巻き掛けられたチェーン20は、第2領域R2から第1領域R1にかけて配置された状態で副室SRに収容されている。
【0053】
第1カバー28及び第2カバー29の取り外しにより開放される副室SRにスプロケット18,19が配置されるので、スプロケット18,19に対するチェーン20の組付及び分解の作業を簡単にすることができる。そして、モータ駆動軸Mbから入力軸12aまで駆動力を伝達する動力伝達機構40の全体がクランクケース14内に収容されるので、動力系統の大型化を防止されると共に、動力伝達機構40の潤滑をメインクラッチ13の潤滑とともに簡単に行うことができる。
【0054】
図7に示すように、チェーン20は前側からチェーンガイド38,39により前後両側から挟まれて案内されている。クランクケース14のケース本体27の背面には、後のチェーンガイド39をチェーン20に向けて付勢するチェーンテンショナ41が設けられる。これにより、チェーン20の弛みが防止される。また、気筒Ebの背面にも、気筒Ebの上部の動弁装置(図示せず)をクランク軸Eaに機械的に接続するチェーン(図示せず)の弛みを防止するチェーンテンショナ42が設けられる。
【0055】
図6及び9に示すように、延長部32の周壁部32bの端面は、上方に向かうにつれて車幅方向内方に向かうように傾斜している。これにより、背面視において、チェーンテンショナ42が延長部32から車幅方向外側に食み出す。そのため、延長部32とチェーンテンショナ42とが上下方向位置において重なっても、チェーンテンショナ42に背面側からアクセスしやすくなる。
【0056】
図8に示すように、クランクケース14は、エンジンEを潤滑するための潤滑油が流れるエンジン潤滑油流路43と、エンジン潤滑油流路43から分岐したモータ動力系潤滑油流路44とを有する。モータ動力系潤滑油流路44は、延長部32に形成されている。具体的には、モータ動力系潤滑油流路44は、ケース本体27及び第2カバー29に形成されている。モータ動力系潤滑油流路44は、延長部32の周壁部32bに形成された上流側流路44aと、第2カバー29に形成されて上流側流路44aに連通する下流側流路44bとを有する。上流側流路44aと下流側流路44bとは、周壁部32b及び第2カバー29の互いに当接する端面において連通する。
【0057】
第2カバー29には、下流側流路44bを流れる潤滑油を第2領域R2に吐出する吐出口44cを有する。吐出口44cは、スプロケット19とチェーン20との噛合部に向けてオイルを吹き付ける。このようにエンジンの潤滑のためのエンジン潤滑油流路43を流れる潤滑油を一部利用して、第2領域R2におけるスプロケット19及びチェーン20を潤滑でき、潤滑構造を簡素化できる。また、ケース本体27からではなく第2カバー29から潤滑油を吐出するため、潤滑油の吐出位置の自由度が高まる。クランクケース14の下部には、主室MR及び副室SRから下方に落下する油を貯留するオイルパン45が設けられている。
【0058】
図5,7,8及び10に示すように、クランクケース14のケース本体27には、メインクラッチ13の作動油を制御する油制御弁ユニット24が固定されている。油制御弁ユニット24が第1カバー28に固定されずにケース本体27に固定されるので、第1カバー28を着脱する際に油制御弁ユニット24が邪魔にならず、メンテナンス作業性が良好になる。また、油制御弁ユニット24が車体フレーム4に固定されずにケース本体27に固定されるので、油制御弁ユニット24からメインクラッチ13までの圧油通路を短くできる。具体的には、油制御弁ユニット24は、ケース本体27の前側の下部に固定されている。これにより、他部品との干渉を回避しながら、油制御弁ユニット24をコンパクトに配置できる。油制御弁ユニット24は、長尺形状を有し、その長手方向が前後方向を向くように配置されている。これにより、車幅方向にコンパクト化を図ることができる。
【0059】
図7に示すように、車幅方向から見て、油制御弁ユニット24の上端は、ケース本体27の下端より上方に位置し、油制御弁ユニット24の後端は、ケース本体27の前端よりも後方に位置する。これにより、車幅方向から見て、ケース本体27からの油制御弁ユニット24の突出量を小さくできる。ケース本体27の本体部31の周壁部31bは、下端部31baと、前端部31bbと、下端部31baと前端部31bbとの間で前方かつ上方に斜めに延びた傾斜部31bcとを有する。本体部31の側壁部31aは、車幅方向から見て傾斜部31cの前方かつ下方に位置する取付面31g(図10参照)を有する。
【0060】
図10に示すように、取付面31gは、周壁部31bの車幅方向外側の端面よりも車幅方向内側に位置する。油制御弁ユニット24は、取付面31gに固定されている。車幅方向位置において、油制御弁ユニット24の後部が、副室SRに重なっている。油制御弁ユニット24の車幅方向外側の端は、クランクケース14の車幅方向外側の端よりも車幅方向内側に位置する。これにより、クランクケース14からの油制御弁ユニット24の突出量を小さくして、パワーユニット11をコンパクト化できると共に、転倒時に油制御弁ユニット24が地面と干渉することを抑制できる。油制御弁ユニット24は、取付面31gに対して車幅方向外側から車幅方向内側に向けて締結具Bを締結することで取付面31gに固定されている。これにより、油制御弁ユニット24の取り付け及び取り外しを車幅方向外側から簡単に行うことができる。
【0061】
図3,7及び8に示すように、メインクラッチ13は、作動油が供給される流入ポート13aを有する。第1カバー28は、油制御弁ユニット24から流出した油が流入する圧油通路28bを有する。油制御弁ユニット24から流出した油は、第1カバー28の圧油通路28bを流れ、入力軸12aの第1流路S1を介してメインクラッチ13の流入ポート13aに流入する。これにより、油制御弁ユニット24からメインクラッチ13までの圧油経路を少ない部品点数で形成できる。なお、油制御弁ユニット24の流出口と圧油通路28bの流入口とは、互いに直接的に接続されてもよいし、本体部31に形成した流路を介して接続されてもよいし、チューブを介して接続されてもよい。
【0062】
図10に示すように、第2カバー29は、第1カバー28よりも車幅方向内側に位置している。これにより、クランクケース14を効果的に小型化して第2カバー29の車幅方向外側の空間に他部品(例えば、車体フレーム4の一部4b)を配置可能となり、車幅増加を防止できる。ケース本体27の本体部31の下面には、前方から見て、上方に窪んだ凹部31eが形成されている。気筒Ebの排気ポートに接続された排気管46は、凹部31eを前から後に通過する。
【0063】
図11は、図6のパワーユニット11の駆動モータM取外し状態での斜視図である。図12は、図6のパワーユニット11の駆動モータMの近傍を拡大した左側面図である。図11及び12に示すように、クランクケース14の本体部31の上壁部31fは、前マウント部47、後マウント部48及びケース上面49を有する。前マウント部47及び後マウント部48は、例えば、ボルト穴が形成された台座であり、本体部31の上壁部31fから上方に突出している。前マウント部47には、モータハウジングMaの前部が締結具Bにより上方から固定されている。後マウント部48には、モータハウジングMaの後部が締結具Bにより上方から固定されている。即ち、電動モータMは、クランクケース14の前マウント部47及び後マウント部48により支持されている。
【0064】
ケース上面49は、前マウント部47と後マウント部48との間に形成され、モータハウジングMaの外周面に沿った円弧形状を有する。モータハウジングMaは、ケース上面49に対して離間した状態で近接配置されている。駆動モータMは、前マウント部47と後マウント部48との間にモータハウジングMaの下部が挟まれるように配置されている。これにより、クランクケース14に駆動モータMを安定的に支持させることができる。
【0065】
クランクケース14のケース本体27は、クランク軸Ea及び変速機12を収容する本体部31から上方に突出するブリーザ部50を有する。ブリーザ部50は、主室MRのブローバイガスが導かれるブリーザ室BRを画定する。ブリーザ室BRは、例えばラビリンス構造を有し、主室MRのオイルミストを空気と油とに分離する。ブリーザ部50は、ケース上面49が下方に凹な円弧形状を有することを利用して、ケース上面49の前部と本体部31との間に形成されている。
【0066】
即ち、ブリーザ部50は、モータハウジングMaの外周面に対向する対向面50aを有し、その対向面50aが車幅方向から見て円弧形状を有する。言い換えると、ブリーザ部50の対向面50aは、ケース上面49の一部を構成する。駆動モータMは、エンジンEの気筒Ebから後方に隙間Gをあけて配置されている。そして、ブリーザ部50は、気筒Ebの後方かつ駆動モータMの前方において隙間Gに配置されている。前マウント部47は、エンジンEの気筒Ebから後方に離間している。
【0067】
このような構成により、駆動モータMをエンジンEの気筒Ebの後方にてクランクケース14の上面に搭載した構成としても、ブリーザ部50を効率良く配置できる。よって、エンジンEとクランクケース14と駆動モータMとを密集配置でき、自動二輪車1の小型化を図ることができる。また、気筒Ebから駆動モータMへの熱伝達を抑制できると共に、気筒Ebと前マウント部47とが互いに独立するため、加工等を行い易くできる。
【0068】
ブリーザ部50の上部には、ブリーザチューブ51が接続される接続口50bが形成されている。接続口50bは、前マウント部47と前後方向位置が重なる。具体的には、前マウント部47は、車幅方向に複数(図11では2個)並んでいる。接続口50bは、車幅方向に離れた一対の前マウント部47の間に配置されている。接続口50bには、ブリーザチューブ51の一端部が接続されている。ブリーザチューブ51の他端部は、駆動モータの上方に配置されたエアクリーナボックス52に接続されている。エアクリーナボックス52は、気筒Ebに吸気を導く吸気通路を構成し、当該吸気を浄化する。ブリーザ室BRで油が分離されたブローバイガスはブリーザチューブ51を通ってエアクリーナボックス52の内部に供給される。
【0069】
ブリーザチューブ51は、ブリーザ部50からエアクリーナボックス52に向けて隙間Gを通過して上下方向に延びている。これにより、エンジンEの気筒Ebと駆動モータMとの間の隙間Gを利用してブリーザチューブ51を効率良く配置できるので、スペース効率が向上する。また、気筒Ebから後方に離間した前マウント部47と前後方向位置が重なる位置に接続口50bが配置されるため、ブリーザチューブ51を気筒Ebから極力離間させながらも、ブリーザチューブ51を接続口50bに組み付け易くすることができる。
【0070】
図13は、図5のパワーユニット11のオイル経路を説明するブロック図である。図13に示すように、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2が発生する吸引圧により、オイルパン45に貯留された油がストレーナ60から吸い上げられ、ストレーナ60に設けられた一次フィルタ61で濾過されてからクラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2にそれぞれ吸い込まれる。
【0071】
クラッチ用ポンプP1から吐出される油は、リリーフ弁62を通過して二次フィルタ63で濾過されてから油制御弁ユニット24に到達する。リリーフ弁62は、クラッチ用ポンプP1から油制御弁ユニット24に向かう油の圧力が所定のリリーフ圧を超えると、当該油をバイパス路64に排出する。バイパス路64は、一次フィルタ61とクラッチ用ポンプP1(及びエンジン用ポンプP2)との間の流路に連通している。
【0072】
即ち、油制御弁ユニット24の流出口が閉じられた状態では、リリーフ弁62に付与される油圧がリリーフ圧を超えることで、リリーフ弁62がリリーフ状態になって、クラッチ用ポンプP1から供給される油がリリーフ弁62からバイパス路64に排出され、クラッチ用ポンプP1(及びエンジン用ポンプP2)の上流側に戻される。これにより、オイルパン45から一次フィルタ61を介して吸引する油を低減できるので、油の一次フィルタ61の通過によるエネルギー損失を低減できる。
【0073】
油制御弁ユニット24の流出口が開かれると、リリーフ弁62が通常状態になって、クラッチ用ポンプP1から供給される油がリリーフ弁62を通過して二次フィルタ63で濾過されてから、油制御弁ユニット24を介してメインクラッチ13(の流入ポート13a)に作動油として供給される。エンジン用ポンプP2から吐出される油は、二次フィルタ65で濾過されてからエンジンEのエンジン潤滑油流路43のメインギャラリ67に供給される。
【0074】
クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2は、一次フィルタ61を共用するので、部品点数及び配置スペースの増加を抑制できる。そして、クラッチ用ポンプP1とエンジン用ポンプP2とは互いに独立して共用されないので、エンジンEの始動時でもメインギャラリ67に油が満たされるのを待つことなくメインクラッチ13に迅速に圧油を付与できる。よって、エンジンEの始動時でもメインクラッチ13が動作可能になるまでの時間を短縮できる。
【0075】
図14は、図8のパワーユニット11の下方から見た底面図である。図14に示すように、クランクケース14(のケース本体27)の下面には、オイルパン45を取り付ける周状の取付座79が設けられている。周状の取付座79で囲まれた内側におけるクランクケース14の下面に、一次フィルタ61を有するストレーナ60及び二次フィルタ63が配置されており、オイルパン45で下方から覆われる。オイルパン45を取り外した状態では、下方から見てストレーナ60及び二次フィルタ63が露出する。これにより、オイルパン45を取り外せば一次フィルタ61及び二次フィルタ63のいずれにも容易にアクセスでき、両フィルタ61,63のメンテナンス性が向上する。
【0076】
ストレーナ60は、クランクケース14の下面に開口した流入口70に接続されている。ストレーナ60で吸引されて一次フィルタ61で濾過された油は、流入口70に流入する。クランクケース14は、流入口70から流入した油がクラッチ用ポンプP1(及びエンジン用ポンプP2)の吸引口に向けて流れる第1流路71を有する。クランクケース14は、クラッチ用ポンプP1から吐出された油が二次フィルタ63に向けて流れる第2流路72を有する。第2流路72は、第1流路71に近接して第1流路71と平行に延びる部分を有する。クランクケース14は、二次フィルタ63で濾過された油が油制御弁ユニット24の流入口に向けて流れる第3流路73を有する。
【0077】
図15は、図14のパワーユニット11のオイル経路におけるバイパス路64の縦断面図である。図14及び15に示すように、クランクケース14の下面には、一次フィルタ61とクラッチ用ポンプP1との間の第1流路71に連通してオイルパン45側に開放される開口71aが形成されている。クランクケース14の下面には、クラッチ用ポンプP1から二次フィルタ63との間の第2流路72に連通してオイルパン45側に開放された開口72aが形成され、その開口72aにリリーフ弁62が接続されている。開口72aは、第2流路72のうち第1流路71と平行に延びて第1流路71に近接した部分に形成されている。
【0078】
クランクケース14の下面には、下方から見て、開口71a及びリリーフ弁62の両方を囲むように下方に突出した包囲壁部74が形成されている。包囲壁部74の下端は、オイルパン45に対向している。クランクケース14の下面とクランクケース14の包囲壁部74の内周面とオイルパン45の上面とで連通室75が形成されている。リリーフ弁62がリリーフ状態になって排出された油は、連通室75及び開口71aを介して第1流路71に戻される。即ち、連通室75がバイパス路64の役目を果たす。
【0079】
このような構成により、クランクケース14にオイルパン45を組み付けることで簡単にバイパス路64を形成できる。なお、包囲壁部74の下端面とオイルパン45との間にはシール部材が介在してもよい。また、包囲壁部74は、クランクケース14から突出させる代わりにオイルパン45から突出させた構成としてもよいし、クランクケース14及びオイルパン45の両方から互いに向き合うように突出させた構成としてもよい。
【0080】
図16は、図14のパワーユニット11の二次フィルタ63及びその近傍の縦断面図である。図14及び16に示すように、クランクケース14(のケース本体27)の下面には、上方に窪んだ凹部76が形成されている。第2流路72は、凹部76に向けて開放されており、第3流路73も凹部76に向けて開放されている。即ち、第2流路72は凹部76を介して第3流路73と連通している。
【0081】
オイルパン45の上面には、下方に窪んだ凹部77が形成されている。クランクケース14にオイルパン45が取り付けられることで、凹部76と凹部77とが合わさって収容室78が形成されている。二次フィルタ63は、この収容室78に収容されている。これにより、クランクケース14にオイルパン45を組み付けるだけで簡単に二次フィルタ63の収容室78を形成できる。なお、クランクケース14とオイルパン45とが合わさって収容室78を形成する形状であれば、必ずしもオイルパン45に凹部77を形成しなくてもよい。
【0082】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、前記実施形態では、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2はエンジンEの動力で駆動される機械式としたが、クラッチ用ポンプP1及びエンジン用ポンプP2の少なくとも一方を電動式にしてもよい。前記実施形態では、パワーユニットケースとしてクランクケースを例示したが、原動機としてエンジンEを備えずに駆動モータのみを備える場合には、駆動モータを収容するケースをパワーユニットケースとしてもよい。また、副室SRを閉鎖するカバーとして第1カバー28及び第2カバー29の2つを設けたが、1つの大きなカバーで副室SRの全体を閉鎖してもよい。鞍乗車両は、自動二輪車に限られず自動三輪車等でもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 自動二輪車(ハイブリッド車両、鞍乗車両)
11 パワーユニット
12 変速機
12a 入力軸
12b 出力軸
12c ギヤ列
13 メインクラッチ
14 クランクケース(パワーユニットケース)
17 プライマリギヤ
17b 凹部
18 スプロケット
18b 環状板部
18c 動力受部
18d 凹部
20 チェーン(動力伝達部材)
21 第1ワンウェイクラッチ
22 第2ワンウェイクラッチ
23 動力伝達機構
24 油制御弁ユニット
27 ケース本体
28 第1カバー
28a 嵌合部
28b 圧油通路
29 第2カバー
31 本体部
31a 側壁部
31b 周壁部
31ba 下端部
31bb 前端部
31bc 傾斜部
31g 取付面
32 延長部
32c 挿入孔
33 軸受
34 共通ギヤ(回転部材)
40 動力伝達機構
43 エンジン潤滑油流路
44 モータ動力系潤滑油流路
44c 吐出口
45 オイルパン
47 前マウント部
48 後マウント部
49 ケース上面
50 ブリーザ部
50a 対向面
50b 接続口
51 ブリーザチューブ
52 エアクリーナボックス
61 一次フィルタ
62 リリーフ弁
63 二次フィルタ
64 バイパス路
75 連通室
78 収容室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16