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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】潤滑油貯留機構
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20231109BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231109BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20231109BHJP
   F16N 9/02 20060101ALI20231109BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
F16C19/36
F16N9/02
F16N31/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019130080
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014887
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-203141(JP,U)
【文献】特開2015-132314(JP,A)
【文献】特開2009-174682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16H 57/04
F16C 19/36
F16N 9/02
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の内輪部に固定され前記内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、前記内輪部における前記回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、
前記貯留部本体は、
前記内輪部、または、前記回転体本体に接続され、前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在した底部と、
前記底部から前記内輪部の径方向外方に立設した側部と、
前記側部の先端から前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在したガイド部と、
を有し、
車両が停止している間、前記底部および前記側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される潤滑油貯留機構。
【請求項2】
転がり軸受の内輪部に固定され前記内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、前記内輪部における前記回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、
前記貯留部本体は、
前記内輪部、または、前記回転体本体に接続され、前記内輪部における外径側の端面よりも前記回転体本体側から、前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在した底部と、
前記底部から前記内輪部の径方向外方に立設した側部と、
前記側部の先端から前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在したガイド部と、
を有し、
前記底部および前記側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される潤滑油貯留機構。
【請求項3】
転がり軸受の内輪部に固定され前記内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、前記内輪部における前記回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、
前記貯留部本体は、
前記内輪部、または、前記回転体本体に接続され、前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在した底部と、
前記底部から前記内輪部の径方向外方に立設した側部と、
前記側部の先端から前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に延在したガイド部と、を有し、
前記底部および前記側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される潤滑油貯留機構。
【請求項4】
前記転がり軸受の外輪部は、前記内輪部よりも、前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に突出した突出部を備え、
前記貯留部本体の前記側部の先端または前記ガイド部の先端は、前記突出部よりも前記回転軸方向における前記転がり軸受の外方に位置する請求項1から3のいずれか1項に記載の潤滑油貯留機構。
【請求項5】
前記転がり軸受は、テーパローラベアリングであり、
前記貯留部本体は、前記内輪部の小径側、または、前記内輪部の小径側に固定された前記回転体本体に設けられる請求項1からのいずれか1項に記載の潤滑油貯留機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油貯留機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるデファレンシャル装置は、エンジンの駆動力を一方の駆動輪と他方の駆動輪とに分配する装置である(例えば、特許文献1)。デファレンシャル装置を囲繞するハウジングの下部には潤滑油が貯留されている。貯留された潤滑油は、デファレンシャル装置を構成するリングギヤの回転によって掻き上げられて、デファレンシャル装置の転がり軸受および各ギヤに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-82530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記デファレンシャル装置では、車両が停止するとリングギヤの回転が停止するため、転がり軸受への潤滑油の供給が停止される。また、潤滑油は、時間の経過に伴って、転がり軸受の潤滑面から流下する。このため、長期間停止状態にあった車両の始動時等において、転がり軸受の潤滑面に潤滑油がない場合がある。
【0005】
このため、転がり軸受が回転を開始する際に、潤滑面に潤滑油を供給できる技術の開発が希求されている。
【0006】
本発明は、転がり軸受が回転を開始する際に、潤滑面に潤滑油を供給することが可能な潤滑油貯留機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の潤滑油貯留機構は、転がり軸受の内輪部に固定され内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、内輪部における回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、貯留部本体は、内輪部、または、回転体本体に接続され、回転軸方向における転がり軸受の外方に延在した底部と、底部から内輪部の径方向外方に立設した側部と、側部の先端から回転軸方向における転がり軸受の外方に延在したガイド部と、を有し、車両が停止している間、底部および側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される。
上記課題を解決するために、本発明の他の潤滑油貯留機構は、転がり軸受の内輪部に固定され内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、内輪部における回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、貯留部本体は、内輪部、または、回転体本体に接続され、内輪部における外径側の端面よりも回転体本体側から、回転軸方向における転がり軸受の外方に延在した底部と、底部から内輪部の径方向外方に立設した側部と、側部の先端から回転軸方向における転がり軸受の外方に延在したガイド部と、を有し、底部および側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される。
【0008】
記課題を解決するために、本発明の他の潤滑油貯留機構は、転がり軸受の内輪部に固定され内輪部とともに回転する回転体本体における回転軸方向の端面、または、内輪部における回転軸方向の端面の周方向に複数設けられる貯留部本体を備え、貯留部本体は、内輪部、または、回転体本体に接続され、回転軸方向における転がり軸受の外方に延在した底部と、底部から内輪部の径方向外方に立設した側部と、側部の先端から回転軸方向における転がり軸受の外方に延在したガイド部と、を有し、底部および側部によって囲繞された空間に潤滑油が貯留される。
【0009】
また、転がり軸受の外輪部に設けられ、回転軸方向における転がり軸受の外方に突出した突出部を備え、貯留部本体の側部の先端またはガイド部の先端は、突出部よりも回転軸方向における転がり軸受の外方に位置してもよい。
【0010】
また、転がり軸受は、テーパローラベアリングであり、貯留部本体は、内輪部の小径側、または、内輪部の小径側に固定された回転体本体に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転がり軸受が回転を開始する際に、潤滑面に潤滑油を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態にかかるデファレンシャル装置を説明する図である。
図2】潤滑油貯留機構の鉛直断面図である。
図3】貯留ユニットの分解斜視図である。
図4】貯留ユニットの正面図である。
図5】貯留ユニットの鉛直断面図である。
図6】変形例にかかる潤滑油貯留機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
[デファレンシャル装置100]
図1は、本実施形態にかかるデファレンシャル装置100を説明する図である。なお、図1中、理解を容易にするために、ハウジング10、転がり軸受130、140、および、潤滑油貯留機構200の鉛直断面図を示し、リングギヤ110およびデフケース120の外観図を示す。また、本実施形態の図1をはじめとする以下の図では、垂直に交わる±X軸(水平方向)、±Y軸(水平方向)、±Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0015】
デファレンシャル装置100は、車両に設けられ、エンジンの駆動力(トルク)を一方の駆動輪と他方の駆動輪に分配する。図1に示すように、デファレンシャル装置100は、ハウジング10内に収容される。ハウジング10の下部12には、潤滑油が貯留される。デファレンシャル装置100は、リングギヤ110と、デフケース120と、転がり軸受130、140とを含む。
【0016】
リングギヤ110は、転がり軸受130を介して、ハウジング10に回転可能に固定される。リングギヤ110は、不図示のドライブピニオンギヤに噛合されており、ドライブピニオンギヤを介してエンジンの駆動力を受け付け、図1中±X軸方向を回転軸として回転する。
【0017】
デフケース120(回転体本体)は、転がり軸受140を介して、ハウジング10に回転可能に固定される。デフケース120は、リングギヤ110に接続され、図1中±X軸方向を回転軸としてリングギヤ110と一体回転する。デフケース120の内部には、不図示のピニオンギヤおよびサイドギヤが設けられる。デフケース120の回転は、ピニオンギヤ、サイドギヤを介して、ドライブシャフト、駆動輪に伝達される。
【0018】
転がり軸受130、140は、テーパローラベアリングである。転がり軸受130は、内輪部132と、外輪部134と、転動体136とを含む。内輪部132は、リングギヤ110に接続される。外輪部134は、ハウジング10に接続される。転動体136は、円錐形状であり、内輪部132と外輪部134との間に転動可能に設けられる。本実施形態において、転がり軸受130は、内輪部132(転動体136)の大径側がリングギヤ110に接続される。
【0019】
転がり軸受140は、内輪部142と、外輪部144と、転動体146とを含む。内輪部142は、デフケース120に圧入される。外輪部144は、ハウジング10に接続される。転動体146は、円錐形状であり、内輪部142と外輪部144との間に転動可能に設けられる。本実施形態において、転がり軸受140は、内輪部142(転動体146)の大径側がデフケース120に接続される。
【0020】
上記デファレンシャル装置100は、エンジン(トランスミッション)の回転に伴いリングギヤ110が回転することにより、ハウジング10の下部12に貯留された潤滑油が掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油は、ハウジング10の上部14等の壁面に衝突して落下する。落下過程において潤滑油は、デフケース120に形成された開口部122を通じて、デフケース120内に設けられたピニオンギヤおよびサイドギヤに供給される。また、潤滑油は、転がり軸受130の潤滑面(内輪部132および外輪部134と、転動体136との間)および転がり軸受140の潤滑面(内輪部142および外輪部144と、転動体146との間)に供給される。
【0021】
しかし、車両が停止すると、リングギヤ110の回転が停止する。このため、転がり軸受130、140への潤滑油の供給が停止されるとともに、潤滑面からハウジング10の下部12に潤滑油が流下する。したがって、長期間停止状態にあった車両の始動時等において、転がり軸受130、140の潤滑面に潤滑油がない(油膜が形成されない)場合がある。そうすると、潤滑面が焼き付いて、転がり軸受130、140が破損するおそれがある。
【0022】
そこで、従来、潤滑油の静油面(図1中、破線で示す)を転がり軸受130、140が位置する高さHに設定し、転がり軸受130、140が潤滑油に常時浸漬されるように構成していた。つまり、ハウジング10の下部12は、車両が停止している状態(停車時)において、転がり軸受130、140が浸漬される位置まで潤滑油を貯留していた。しかし、この従来技術では、リングギヤ110による撹拌負荷が大きくなり、燃費が悪化してしまうという問題があった。
【0023】
そこで、本実施形態では、転がり軸受130、140または転がり軸受130、140の近傍に潤滑油貯留機構200を備える。以下、転がり軸受140に設けられる潤滑油貯留機構200について説明する。なお、転がり軸受130に設けられる潤滑油貯留機構200は、転がり軸受140に設けられる潤滑油貯留機構200と実質的に等しいため、ここでは、説明を省略する。
【0024】
[潤滑油貯留機構200]
図2は、潤滑油貯留機構200の鉛直断面図である。図3は、貯留ユニット210の分解斜視図である。なお、図3中、理解を容易にするために、ガイド部270を省略する。
【0025】
図2に示すように、潤滑油貯留機構200は、貯留ユニット210と、突出部220とを含む。貯留ユニット210は、デフケース120に接続(固定)され、デフケース120と一体回転する。貯留ユニット210は、後述する複数の貯留部本体300を含む。突出部220は、転がり軸受140の外輪部144に設けられ、回転軸方向における転がり軸受140の外方(図2中+X軸方向、以下、単に「回転軸方向外方」という)に突出する。
【0026】
図2図3に示すように、貯留ユニット210は、固定部230(側部)と、複数の底部240と、複数の壁部250(側部)と、複数の仕切部260(側部)と、複数のガイド部270とを含む。
【0027】
固定部230は、円板形状であり、中央に円形の開口232が形成される。固定部230の内径(開口232)は、デフケース120の内径126以上である。固定部230の外径は、内輪部142の内径よりも大きく、内輪部142の小径側の外径と実質的に等しい。固定部230は、デフケース120の回転軸方向の端面であって、リングギヤ110が接続される端面とは逆の端面124、および、転がり軸受140の内輪部142の小径側の端面142aのいずれか一方または両方に固定される。本実施形態において、固定部230は、デフケース120の端面124にネジ234で固定される。
【0028】
底部240は、固定部230に接続(例えば、溶接)され、回転軸方向外方(図2図3中+X軸方向)に延在した平板部材である。図3に示すように、本実施形態において、底部240は、6つ連続して設けられ、6つの底部240は、六角筒242を形成する。六角筒242は、中心軸が回転軸と実質的に一致するように固定部230に接続される。
【0029】
壁部250は、底部240から内輪部142の径方向外方(図2図3中±Z軸方向)に立設した平板部材である。図3に示すように、本実施形態において、壁部250は、6つ連続して設けられ、6つの壁部250は、六角形状の平板部材の中央に六角形の開口252aが形成された六角板252を形成する。
【0030】
仕切部260は、固定部230、六角筒242、および、六角板252で囲繞された空間を複数(本実施形態では6つ)に仕切る(区画する)。本実施形態において、仕切部260は、6つ設けられる。仕切部260は、六角筒242の頂点から垂線方向に立設した板部材である。仕切部260の幅(図2図3中±X軸方向の長さ)は、底部240の幅(六角筒242の長さ)と実質的に等しい。仕切部260は、例えば、底部240と一体成形される。
【0031】
つまり、貯留ユニット210は、1つの底部240、1つの壁部250、および、2つの仕切部260を含む貯留部本体300を6つ備える。換言すれば、貯留部本体300は、内輪部142における回転軸方向の端面142aの周方向に複数(6つ)設けられる。
【0032】
図2に示すように、ガイド部270は、壁部250の先端から回転軸方向外方に延在した部材である。ガイド部270の先端は、突出部220よりも回転軸方向外方に位置する。
【0033】
続いて、潤滑油貯留機構200による潤滑油の貯留態様について説明する。図4は、貯留ユニット210の正面図である。図5は、貯留ユニット210の鉛直断面図である。また、図4(a)、図4(b)中、潤滑油をクロスハッチングで示す。なお、図4(a)、図4(b)中、理解を容易にするために、底部240を黒い塗りつぶしで示し、壁部250を破線で示す。また、図4(a)、図4(b)中、ガイド部270を省略する。また、図5中、潤滑油を黒い塗りつぶしで示す。
【0034】
上記したように、貯留ユニット210は、デフケース120と一体回転する。車両の停止に伴ってデフケース120の回転が停止されると、これに伴い、貯留ユニット210の回転も停止される。図4(a)、図4(b)に示すように、貯留ユニット210を構成する複数の底部240のうち、少なくともいずれか1つの底部240は、どの角度で停止しても鉛直方向(図4(a)、図4(b)中±Z軸方向)と交差する方向に延在する。
【0035】
したがって、車両が停止した際に、ハウジング10の上部14から落下する潤滑油および転がり軸受140の潤滑面から流下した潤滑油は、底部240、壁部250、および、仕切部260で区画された空間(図4(a)、図4(b)において破線で囲んだ空間)に貯留されることになる。つまり、車両が停止している間、貯留ユニット210が回転することはないため、複数の貯留部本体300のうち少なくともいずれか1つの貯留部本体300は、潤滑油を貯留し続けることができる。
【0036】
そして、車両が始動され、エンジンの駆動力がリングギヤ110に伝達されてリングギヤ110が回転すると、デフケース120が回転し、これに伴い貯留ユニット210が回転する。
【0037】
そうすると、図5(a)に示すように、貯留部本体300に貯留された潤滑油は、遠心力で内輪部142の径方向外方(図5(a)中±Z軸方向および±Y軸方向)に移動する。そして、図5(a)中、矢印で示すように、潤滑油は、突出部220に衝突した後、転がり軸受140の潤滑面に導かれることになる。また、遠心力によって移動されなかった潤滑油は、図5(b)中、矢印で示すように、潤滑油の自重(重力)によって突出部220に落下した後、転がり軸受140の潤滑面に導かれることになる。
【0038】
こうして、潤滑油貯留機構200は、車両の始動に伴って、転がり軸受140に潤滑油を供給することができる。そして、車両が駆動(車輪が回転)されている間、潤滑油貯留機構200には遠心力が付与されるため、潤滑油が貯留されないことになる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の潤滑油貯留機構200は、車両が停止した際に、潤滑油を貯留することができる。また、潤滑油貯留機構200は、車両が始動した際に、貯留した潤滑油を転がり軸受140の潤滑面に供給することができる。つまり、潤滑油貯留機構200は、転がり軸受140が回転を開始する際に、潤滑面に潤滑油を供給することが可能となる。これにより、潤滑油貯留機構200は、潤滑面の焼き付きを防止することができ、転がり軸受140の破損を回避することが可能となる。
【0040】
また、潤滑油貯留機構200は、専用の駆動機構(アクチュエータ等)を備えずとも、デフケース120(リングギヤ110)の回転によって、貯留した潤滑油を転がり軸受140の潤滑面に供給することができる。したがって、潤滑油貯留機構200は、低コストで潤滑油を供給することが可能となる。
【0041】
また、潤滑油貯留機構200は、転がり軸受140が回転を開始する際に、潤滑面に潤滑油を供給することができるため、潤滑油の静油面を従来技術(転がり軸受130、140が位置する高さH)よりも低くすることが可能となる。これにより、潤滑油貯留機構200は、デファレンシャル装置100のリングギヤ110による撹拌負荷を小さくすることができ、燃費の悪化を抑制することが可能となる。
【0042】
また、潤滑油貯留機構200は、ガイド部270を備えることにより、ハウジング10の上部14等の壁面から落下した潤滑油を効率よく貯留部本体300に貯留(回収)することができる。
【0043】
また、潤滑油貯留機構200は、突出部220を備えることにより、貯留部本体300で貯留した潤滑油を、転がり軸受140の潤滑面に効率よく供給することが可能となる。
【0044】
[変形例]
図6は、変形例にかかる潤滑油貯留機構を説明する図である。図6(a)は、第1の変形例にかかる潤滑油貯留機構400を説明する図である。図6(b)は、第2の変形例にかかる潤滑油貯留機構500を説明する図である。図6(c)は、第3の変形例にかかる潤滑油貯留機構600を説明する図である。なお、図6(a)中、潤滑油を黒い塗りつぶしで示す。
【0045】
[第1の変形例]
図6(a)に示すように、第1の変形例にかかる潤滑油貯留機構400は、貯留ユニット410と、突出部220とを含む。貯留ユニット410は、固定部430と、複数の底部240と、複数の壁部250と、複数の仕切部260と、複数のガイド部270とを含む。なお、上記貯留ユニット210と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
固定部430は、円板形状であり、中央に円形の開口が形成される。固定部430の内径は、デフケース120の内径126よりも小さい。固定部430の外径は、デフケース120の内径126よりも大きく、内輪部142の内径よりも小さい。固定部430は、デフケース120の内径126に形成された溝126aに嵌入される。
【0047】
底部240は、固定部430に接続され、回転軸方向外方(図6(a)中+X軸方向)に延在する。したがって、潤滑油貯留機構400の底部240は、潤滑油貯留機構200の底部240よりも回転軸方向の長さが長い。また、潤滑油貯留機構400の底部240と、デフケース120の内径126との間に空間が形成され、この空間にも潤滑油を貯留することができる。
【0048】
以上説明したように、第1の変形例の潤滑油貯留機構400は、潤滑油貯留機構200と比較して、潤滑油を大量に貯留することが可能となる。
【0049】
[第2の変形例]
図6(b)に示すように、第2の変形例にかかる潤滑油貯留機構500は、貯留ユニット210と、突出部520とを含む。なお、上記貯留ユニット210と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
突出部520は、本体522と、突起部524と、テーパ部526とを含む。本体522は、転がり軸受140の外輪部144に設けられ、回転軸方向外方(図6(b)中+X軸方向)に突出する。突起部524は、本体522の先端から外輪部144の径方向内方に突出する。突起部524の先端は、内輪部142(貯留ユニット210)と離隔する。テーパ部526は、突起部524の基端から外輪部144の内径側に連続し、突起部524から外輪部144に向かって径方向外方に傾斜する。
【0051】
以上説明したように、第2の変形例の潤滑油貯留機構500は、突出部520(突起部524)を備えるため、遠心力によって移動した潤滑油を転がり軸受140の潤滑面側に移動させることができる。これにより、潤滑油の転がり軸受140外への移動を抑制することが可能となる。また、潤滑油貯留機構500は、テーパ部526を備えるため、転がり軸受140の潤滑面に潤滑油をスムーズに供給することができる。
【0052】
[第3の変形例]
図6(c)に示すように、第3の変形例にかかる潤滑油貯留機構600は、貯留ユニット610と、突出部220とを含む。貯留ユニット610は、固定部230と、複数の底部640と、複数の壁部250と、複数の仕切部260と、複数のガイド部270とを含む。なお、上記貯留ユニット210と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
底部640は、径方向内方(図6(c)中±Z軸方向)に陥没(湾曲)している。これにより、第3の変形例にかかる潤滑油貯留機構600は、潤滑油貯留機構200と比較して、潤滑油を大量に貯留することが可能となる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
なお、上記実施形態において、潤滑油貯留機構200は、底部240を6つ備える(6つの底部240が六角筒242を形成する)構成を例に挙げた。つまり、潤滑油貯留機構200が、6つの貯留部本体300を備える構成を例に挙げた。しかし、貯留部本体300は、デフケース120における回転軸方向の端面124、または、転がり軸受140の内輪部142における回転軸方向の端面142aの周方向に複数設けられれば、数に限定はない。例えば、潤滑油貯留機構200は、貯留部本体300を8つ備えてもよい。この場合、底部240を8つ備え、8つの底部240が八角筒を形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態において、固定部230の外径が、内輪部142の外径と実質的に等しい場合を例に挙げた。しかし、固定部230の外径は、内輪部142の外径より小さくてもよい。
【0057】
また、上記実施形態において、貯留部本体300が、内輪部142における回転軸方向の端面142aの周方向に複数設けられる場合を例に挙げた。しかし、貯留部本体300は、デフケース120における回転軸方向の端面124の周方向に複数設けられてもよい。
【0058】
また、上記実施形態において、貯留部本体300がガイド部270を備える構成を例に挙げた。しかし、ガイド部270は必須の構成ではない。ガイド部270を備えない場合、貯留部本体300の壁部250の先端は、突出部220よりも回転軸方向外方に位置するとよい。これにより、ハウジング10の上部14から落下した潤滑油を効率よく貯留部本体300に貯留(回収)することができる。
【0059】
また、上記実施形態において、貯留部本体300が、転がり軸受140の内輪部142の小径側に固定されたデフケース120に設けられる構成を例に挙げた。しかし、貯留部本体300は、転がり軸受140の内輪部142の小径側に設けられてもよい。また、貯留部本体300は、転がり軸受140の内輪部142の大径側、または、内輪部142の大径側に固定されたデフケース120に設けられてもよい。
【0060】
また、上記実施形態において、転がり軸受130、140がテーパローラベアリングである場合を例に挙げた。しかし、転がり軸受130、140は、内輪部と、外輪部と、内輪部および外輪部の間に設けられた転動体とを備える他の転がり軸受であってもよい。転がり軸受130、140は、例えば、玉軸受け、ころ軸受、針軸受、球面ころ軸受であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態において、転がり軸受140の内輪部142に固定され内輪部142とともに回転する回転体本体としてデフケース120を例に挙げた。しかし、回転体本体に限定はない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、潤滑油貯留機構に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
200、400、500、600 潤滑油貯留機構
220、520 突出部
240、640 底部
250 壁部(側部)
260 仕切部(側部)
270 ガイド部
300 貯留部本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6