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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】キャビティ、及びアース板
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/00 20060101AFI20231109BHJP
   H05H 7/18 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H05H13/00
H05H7/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019161446
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021039907
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸明
(72)【発明者】
【氏名】三堀 仁志
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-217099(JP,A)
【文献】特開2000-310470(JP,A)
【文献】特開平10-340799(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107081410(CN,A)
【文献】特開昭62-181508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/00
H05H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティであって、
ディー電極と、アース板と、ステムと、を備え、
前記アース板の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成され、
前記アース板は、第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、
前記冷却流路は、前記第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された前記第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成され
前記アース板は、前記ディー電極の縁周面と対向する部分を有し、当該縁周面に沿って湾曲する側板を備え、
前記冷却流路は、前記側板において湾曲して延びるように形成される、キャビティ。
【請求項2】
前記冷却流路は、前記側板において、前記ディー電極の縁周面と対向する位置に形成される、請求項1に記載のキャビティ。
【請求項3】
前記第2の部材は、溶接部を介して前記第1の部材に固定される、請求項1又は2に記載のキャビティ。
【請求項4】
前記アース板には、前記冷却流路に対して前記冷却媒体を供給する供給管が接続されており、前記アース板に対する前記供給管の接続部にはシール部が形成されている、請求項1~3の何れか一項に記載のキャビティ。
【請求項5】
荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティのアース板であって、
第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、
板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成され、
前記冷却流路は、前記第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された前記第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成され
前記アース板は、ディー電極の縁周面と対向する部分を有し、当該縁周面に沿って湾曲する側板を備え、
前記冷却流路は、前記側板において湾曲して延びるように形成される、アース板。
【請求項6】
ディー電極と、アース板と、ステムとを有し、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティを備え、
前記アース板の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成され、
前記アース板は、第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、
前記冷却流路は、前記第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された前記第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成され
前記アース板は、前記ディー電極の縁周面と対向する部分を有し、当該縁周面に沿って湾曲する側板を備え、
前記冷却流路は、前記側板において湾曲して延びるように形成される、荷電粒子加速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ、及びアース板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のキャビティが知られている。キャビティ内では荷電粒子を加速する電場が生成される。キャビティは、ディー電極と、アース板と、ステムと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-110040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで上述のようなキャビティは、アース板を冷却するために、冷却媒体を流通させる冷却流路を有することがある。冷却流路は配管によって構成され、当該配管が、アース板の側面又はアース板の内部に取り付けられる。このような冷却構造では、冷却効率及び機械的強度を確保しながら、荷電粒子線のビーム引き出し効率を上げることが求められていた。
【0005】
本発明は、冷却効率及び機械的強度を確保しながら、荷電粒子線のビーム引き出し効率を上げるキャビティ、及びアース板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のキャビティは、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティであって、ディー電極と、アース板と、ステムと、を備え、アース板の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成され、アース板は、第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、冷却流路は、第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成される。
【0007】
本発明に係るキャビティでは、アース板の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成される。このような構造では、アース板の側面に冷却流路を取り付ける構造に比して、アース板周辺のスペースを確保することができる。従って、アース板とディー電極との間のスパン角を大きくすることができる。これにより、荷電粒子線のビーム引き出し効率を向上できる。また、アース板は、第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、冷却流路は、第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成される。このような構造は、アース板内部に冷却配管を取り付ける構造に比して、冷却配管の肉厚を省略できる分、冷却効率を下げることなく、機械強度を確保することができる。以上より、冷却効率及び機械的強度を確保しながら、荷電粒子線のビーム引き出し効率を上げることができる。
【0008】
冷却流路は、アース板において、ディー電極の縁周面と対向する位置に形成されてよい。この場合、アース板のうち、ディー電極の縁周面と対向する部分を冷却することができる。
【0009】
第2の部材は、溶接部を介して第1の部材に固定されてよい。この場合、第2の部材の固定を容易に行うことができる。
【0010】
アース板には、冷却流路に対して冷却媒体を供給する供給管が接続されており、アース板に対する供給管の接続部にはシール部が形成されていてよい。この場合、外部から冷却流路に対してシール性を確保した状態で冷却媒体を供給することができる。
【0011】
アース板は、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティのアース板であって、第1の部材と、当該第1の部材と別体の第2の部材と、を有し、板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路が形成され、冷却流路は、第1の部材と、当該第1の部材に対して固定された第2の部材と、の間に形成された内部空間によって構成される。
【0012】
このアース板によれば、上述のキャビティと同様な作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却効率及び機械的強度を確保しながら、荷電粒子線のビーム引き出し効率を上げるキャビティ、及びアース板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るキャビティを備えるサイクロトロンの内部を示す斜視図である。
図2図1のキャビティを模式的に示す断面図である。
図3】実施形態に係るアース板の分解斜視図である。
図4図3のアース板を含むキャビティの断面図である。
図5】キャビティのアース板を冷却する冷却構造を示す概略断面図である。
図6】冷却流路の詳細な構成を示す概略断面図である。
図7】冷却流路の供給口付近の構成を示す断面図である。
図8】比較例に係るキャビティの冷却構造を示す概略断面図である。
図9】スパン角を説明するための模式図である。
図10】変形例に係るキャビティのアース板を冷却する冷却構造を示す概略断面図である。
図11】変形例に係るキャビティの冷却流路の詳細な構成を示す概略断面図である。
図12】変形例に係るキャビティの冷却流路の詳細な構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一の符号を付し重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。
【0016】
まず、本実施形態に係るキャビティ6を備えるサイクロトロン1について説明する。図1は、サイクロトロン1の内部を示す斜視図である。図1では、サイクロトロン1の上部側が取外され内蔵部品が見えるような状態が図示されている。
【0017】
サイクロトロン1は、陽子ビームを生成するものであり、イオン源(図示せず)から供給される水素の陽イオン(荷電粒子)を真空容器3の内部で加速させて、陽子ビームを生成し、出射する。真空容器3は、例えば、ステンレス鋼などにより形成されている。また、真空容器3には、図示しない真空ポンプが接続されている。真空容器3は、イオンが加速する真空環境を内部に形成する。
【0018】
サイクロトロン1は、上下に対向して配置されたヨーク4と、真空容器3内に磁場を形成する励磁コイル5と、を備えている。また、サイクロトロン1は、陽子ビームにエネルギを付与するために、高周波電場を発生させるキャビティ6と、キャビティ6の共振周波数を調整するRFチューナー11を備えている。
【0019】
ヨーク4及び励磁コイル5によって真空容器3内に磁場が形成され、キャビティ6によって高周波電場が形成されることにより、陽子ビームがらせん状の軌道で周回運動し、周回軌道の半径が大きくなるにつれて陽子ビームの進行速度が増加する。なお、図1では、下側のヨーク4が図示され、上側のヨーク4の図示は省略されている。
【0020】
また、サイクロトロン1には、真空容器3の側壁の内面側に設置されて、加速された陽子ビームを引き出すためのデフレクター(偏向器)7と、磁場勾配を補正するグラディエントコレクター(勾配補正器)8と、陽子ビームを所定の方向(水平方向)に出射するコリメーター9と、出射された陽子ビームの焦点を調整するパーマネントクワドロポールマグネット(四極子)10とが設けられている。真空容器3内で加速された陽子ビームは、デフレクター7によって引き出され、グラディエントコレクター8によって磁場勾配が補正されて、コリメーター9によって出射方向が調整される。出射された陽子ビームはパーマネントクワドロポールマグネット10によってビームの焦点が調整される。
【0021】
図2はキャビティ6の模式的な断面図である。サイクロトロン1では、一対のキャビティ6が陽子ビームBの通路を挟んで上下に設けられている。図2に示されるように、一対のキャビティ6は、互いにほぼ上下対称で同一又は同等の構造を有している。よって以下では、重複する説明を省略すべく、下方に位置するキャビティ6の構造についてのみ説明する。
【0022】
キャビティ6は、ディー電極21と、アース板23と、ステム27と、を有している。アース板23は、ディー電極21と離間し、ディー電極21を内部に収容する有底のカップ状をなしており、ヨーク4の凹部に嵌め込まれている。アース板23は、例えば無酸素銅からなる。アース板23の底面から上方に向けてステム27が延びており、ディー電極21はステム27の上端に固定されている。
【0023】
アース板23の上端縁部はカウンターディー29を構成している。また、アース板23の上端縁部とディー電極21との間には間隙が設けられており、この間隙が、ディー電極21とカウンターディー29との間の加速ギャップGを構成している。ディー電極21とカウンターディー29との間に、陽子ビームBの回転位相に応じた高周波電場が発生することで、陽子ビームBが加速ギャップGを通過する毎に加速される。
【0024】
図3はアース板23の分解斜視図である。図4は、アース板23を含めたキャビティ6がヨーク4に設置された状態の断面図である。図に示されるように、アース板23は、底板31と、底板31から垂直に立ち上がる側板33と、側板33の上端から外側方に鍔状に張り出すカウンターディー29と、を備えている。
【0025】
底板31は、ディー電極21に平行な平面内に延びている。底板31の中央には貫通穴35が設けられている。貫通穴35は、カプラ(図示せず)を挿通させるための穴が設置されている。また、底板31には、ステム27(図4参照)を取付けるための取付座37が2箇所設けられている。底板31は、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。底板31の板厚は、機械的強度を確保するために、5mm以上とされる。なお、板金加工は、金属性の平板材に対する切断加工、穴あけ加工、打抜き加工、曲げ加工、又はそれらの加工の組み合わせを含む。
【0026】
側板33は、複数(図3の例の場合は5つ)の側板部品33A,33B,33C,33D,33Eが組み合わされて筒状に形成される。各側板部品33A~33Eは、湾曲又は屈曲された薄板状をなし、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。各側板部品33A~33Eの板厚は、側板33の機械的強度を確保するために、5mm以上とされる。また、カウンターディー29も薄板状をなしており、無酸素銅の平板材の板金加工によって製作される。
【0027】
次に、図5及び図6を参照して、本実施形態に係るキャビティ6の冷却構造について詳細に説明する。図5は、キャビティ6のアース板23を冷却する冷却構造を示す概略断面図である。なお、冷却構造の説明のために、図5の各構成要素は、図4に比してデフォルメされて示されている。図6は、冷却流路40の詳細な構成を示す概略断面図である。図5に示すように、アース板23の側板33の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路40が形成される。冷却流路40は、側板部品33A,33Dの湾曲形状とともに湾曲するように延びている(図3参照)。また、冷却流路40は、上下方向に互いに離間した状態で複数配列されるように配置される。なお、各配列に係る冷却流路40は、蛇行するようにはい回されることで、互いに連続した流路を形成するように、互いに接続される(図3の破線を参照)。
【0028】
上下方向の各位置における冷却流路40は、アース板23の側板33において、水平方向にステム27と対向する位置に形成される。最上部における冷却流路40は、アース板23の側板33において、水平方向にディー電極21の縁周面22と対向する位置に形成される。アース板23の側板33は、ステム27と対向する箇所と、ディー電極21の縁周面22と対向する箇所とが、水平方向において同じ位置となるようにまっすぐに上下方向に延びている。従って、各冷却流路40は、水平方向において互いに同位置に配置される。
【0029】
図6(b)に示すように、アース板23の側板33は、ベース部材41(第1の部材)と、当該ベース部材41と別体の蓋部材42(第2の部材)と、を有する。冷却流路40は、ベース部材41と、当該ベース部材41に対して固定された蓋部材42と、の間に形成された内部空間によって構成される。
【0030】
図6(a)に示すように、ベース部材41は、アース板23の側板33の側面33a,33bを有する。また、ベース部材41は、側面33aに溝部44を有する。溝部44は、底面44aと、底面44aから側面33a側へ水平方向に延びる端面44b,44cを備える。また、溝部44は、端面44b,44cの端部から底面44aよりも広がる方向へ延びる段差面44d,44eを有する。また、溝部44は、段差面44d,44eの端部から側面33a側へ水平方向に延びる端面44f,44gを有する。側面33aは、端面44f,44gの位置にて開口している。段差面44d,44e及び端面44f,44gは、蓋部材42を収容するための収容部46として機能する。
【0031】
図6(b)に示すように、蓋部材42は、断面矩形状の帯状の部材である。蓋部材42は、水平方向に対向する側面42a,42bと、上下方向に対向する端面42c,42dと、を有する。蓋部材42は、収容部46に収容される。このとき、側面42aは、段差面44d,44eに支持される。端面42c,42dは、端面44f,44gに支持される。なお、側面42bは、側面33aと略面一となるように配置される。蓋部材42は、溶接部47を介してベース部材41に固定される。溶接部47は、端面44f,44gと端面42c,42dとが互いに対向する箇所を、側面33a側から溶接することによって形成される。以上によって、溝部44の底面44a、端面44b,44c及び蓋部材42の側面42aによって囲まれる断面矩形状の内部空間によって、冷却流路40が構成される。
【0032】
図7は、冷却流路40の供給口付近の構成を示す断面図である。図7に示すように、アース板23の側板33には、冷却流路40に対して冷却媒体を供給する供給管51が接続されている。具体的に、側板33の外表面となるいずれかの面では、冷却流路40が開口することで供給口52が形成される。供給管51は、当該供給口52に挿入されている。アース板23に対する供給管51の接続部54にはシール部56が形成されている。シール部56は、接続部54に銀ろうつけ等を用いて接続することによって形成される。シール部56は、供給管51の全周にわたって形成されている。
【0033】
続いて、図3及び図4を参照して、キャビティ6の製造手順について説明する。ここでは、アース板23の部品(底板31、側板部品33A~33E、及びカウンターディー29)を板金加工で製作し、当該部品同士を溶接してアース板23を組立てる方式が採用されている。このとき、側板部品33A~33Eのうち、冷却流路40が形成される部材に対しては、図6(a)に示す溝部44が形成されるとともに、図6(b)に示すように蓋部材42が溶接によってベース部材41に固定される。
【0034】
アース板23の製造においては、底板31に対して各側板部品33A~33Eが取付けられて側板33が形成される。底板31の周縁31pと各側板部品33A~33Eの下縁33pとの接合は、レーザ溶接によって行われる。また、各側板部品33A~33E同士の接合も、レーザ溶接によって行われる。その後、カウンターディー29の周縁部が、対応する側板33の上端縁部に対してレーザ溶接で接合される。上記の各部分のレーザ溶接には、例えばYAGレーザが用いられる。また、各部分のレーザ溶接は、完全溶込み溶接とされる。また、各部品の溶接部分には、位置合わせのための段加工が予め施されてもよい。
【0035】
ここで、側板33の上端縁部の内周面34は、ディー電極21の縁周面22に対面する部分であり、内周面34と縁周面22との間隙が加速ギャップGとなる。加速ギャップGには高精度の寸法精度が要求されるが、板金加工及びレーザ溶接でアース板23を組立てただけでは、内周面34の寸法精度が確保できず、ひいてはキャビティ6の完成後における加速ギャップGの寸法精度が確保できない。例えば、一般的には板金加工による公差が0.5mm程度であるのに対し、加速ギャップGには0.5mm以下の公差が求められる。その後、底板31に2本のステム27が設置され、ステム27の上端にディー電極21が取付けられる。これにより、ディー電極21の縁周面22と側板33の内周面34とが間隙を空けて対面し、加速ギャップGが形成される。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係るキャビティ6及びアース板23の作用・効果について説明する。
【0037】
まず、比較例に係るキャビティ106について説明する。図8(a)に示す比較例に係るキャビティ106は、側板33の側面33bに冷却配管140を取り付けることによって構成された冷却構造を有している。冷却配管140は、ロウ付けやハンダ付けによって、側面33bに手作業で取り付けられている。従って、取付作業にコストと時間がかかるという問題があった。また、側板33の周囲には、冷却配管140を配置するためのスペースが必要となる。そのため、側板33とディー電極21の縁周面22との間の加速ギャップGの隙間の大きさが小さくなってしまう。
【0038】
ここで、図9に示すように、径方向における所定の位置におけるスパン角θは、一方の加速ギャップGの中点と中心を結ぶ線分と、他方の加速ギャップGの中点と中心を結ぶ線分、とによって決定される。スパン角θは大きいほどビーム引き出し効率が良くなるため、加速ギャップGを広くすることが求められる。以上より、図8(a)に示すように、キャビティ106では、冷却配管140がアース板23の外部に配置されている分、加速ギャップGが小さくなってしまい、ビーム引き出し効率が低下するという問題がある。その一方、加速ギャップGを大きくするために、ディー電極21の縁周面22と水平方向に対向する位置における冷却配管140だけを省略し、当該部分だけディー電極21から離す構造が考えられる。しかし、アース板23には全域にわたって高周波による入熱があるため、冷却配管140が配置されない箇所の温度が上昇してしまう。これにより、アース板23が温度上昇することで電気抵抗が上がり、加速のために必要な加速電圧を得るための消費電力が上がってしまうという問題がある。
【0039】
次に、図8(b)に示す比較例に係るキャビティ206について説明する。このキャビティ206は、側板33を削って、内部に冷却配管140を埋め込むことによって構成された冷却構造を有している。キャビティ206では、側板33の外部に冷却配管140のためのスペースを確保しなくてよいので、スパン角θを大きくしつつも、ディー電極21と対応する箇所の冷却配管140を省略してなくてよいため、冷却効率も確保できる。しかし、側板33を削る際は、冷却配管140の肉厚も含めた分も削る必要があるため、側板33の薄肉部33dが薄くなり、機械的強度が低下するという問題がある。構造の制約上、側板33の肉厚を増やすことができない場合、薄肉部33dを厚くするためには、冷却配管140を小さくする必要がある。しかし、その場合は、冷却配管140の流量が低下して冷却効率が低下してしまう。また、冷却配管140は、ロウ付けやハンダ付けによって取り付ける必要があるため、取付作業にコストと時間がかかる。
【0040】
これに対し、本実施形態に係るキャビティ6では、アース板23の板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路40が形成される。このような構造では、図8(a)のようにアース板23の側面33bに冷却配管140を取り付ける構造に比して、アース板23周辺のスペースを確保することができる。従って、アース板23とディー電極21との間の加速ギャップGを大きくして、スパン角θを大きくすることができる。これにより、荷電粒子線のビーム引き出し効率を向上できる。また、アース板23は、ベース部材41と、当該ベース部材41と別体の蓋部材42と、を有する。また、冷却流路40は、ベース部材41と、当該ベース部材41に対して固定された蓋部材42と、の間に形成された内部空間によって構成される。このような構造は、図8(b)のようにアース板23内部に冷却配管140を取り付ける構造に比して、冷却配管140の肉厚を省略できる分、冷却効率を下げることなく、機械強度を確保することができる。以上より、冷却効率及び機械的強度を確保しながら、荷電粒子線のビーム引き出し効率を上げることができる。
【0041】
冷却流路40は、アース板23において、ディー電極21の縁周面22と対向する位置に形成される。この場合、アース板23のうち、ディー電極21の縁周面22と対向する部分を冷却することができる。すなわち、図8(a)の構成とは異なり、ディー電極21の縁周面22と対向する位置の冷却流路を省略しなくとも、スパン角θを大きくできるため、当該位置における温度上昇を抑制できる。
【0042】
蓋部材42は、溶接部47を介してベース部材41に固定される。この場合、蓋部材42の固定を容易に行うことができる。すなわち、図8に示す冷却配管140のようにロウ付けやハンダ付けではなく、電子ビーム溶接やレーザ溶接によって蓋部材42を固定できる。このように、非常に短時間、且つ低コストで冷却流路40を形成することができる。そして、そのように蓋部材42が固定された側板33を組み立てればよいため(図3参照)、容易にキャビティ6を製造することが可能となる。
【0043】
アース板23には、冷却流路40に対して冷却媒体を供給する供給管51が接続されており、アース板23に対する供給管51の接続部54にはシール部56が形成されている。この場合、外部から冷却流路40に対してシール性を確保した状態で冷却媒体を供給することができる。
【0044】
アース板23は、荷電粒子を加速する電場を生成するキャビティ6のアース板23であって、ベース部材41と、当該ベース部材41と別体の蓋部材42と、を有し、板厚内部には、冷却媒体を流通させる冷却流路40が形成され、冷却流路40は、ベース部材41と、当該ベース部材41に対して固定された蓋部材42と、の間に形成された内部空間によって構成される。
【0045】
このアース板23によれば、上述のキャビティ6と同様な作用・効果を得ることができる。
【0046】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0047】
例えば、図10に示すような構造を採用してもよい。図10に示すアース板23では、冷却流路40の上下方向における寸法が大きくなっている。この場合、アース板23の肉厚が薄くなっても、その分、上下方向の寸法を大きくすることで、冷却流路40の断面積を確保することができる。このように、冷却配管を用いる場合とは異なり、ベース部材に対する溝の寸法を調整するだけで、アース板23の厚みに応じて、冷却流路40の形状を容易に調整可能である。これにより、本発明によれば、実質的にアース板23の厚みの制約を受けることなく、所望の流路断面積を得ることが可能となる。
【0048】
また、ベース部材及び蓋部材の構造は特に限定されるものではない。例えば、図11(a)に示すように、蓋部材42が、側面33aに固定されることで、アース板23から突出する形で、ベース部材41の溝部44を塞いでもよい。また、図11(b)に示すように、大きな蓋部材42が、複数の溝部44を塞いでもよい。
【0049】
また、図12(a)に示すように、アース板23を半割構造にしてもよい。すなわち、アース板23を半割したベース部材81と、半割したベース部材82と、を組み合わせることでアース板23が構成されてよい。この場合、少なくとも一方のベース部材81に溝部44を形成しておくことで、冷却流路40が形成される。この場合、ベース部材81,82同士は、上下の端部における溶接部47,47だけで固定される。
【0050】
また、図12(b)に示すように、溝部44の端面44b,44cを傾斜面としてよい。この場合、蓋部材42の端面42c,42dも傾斜面とする。これにより、段差面が不要となる。
【0051】
また、実施形態では、側板33が5つの側板部品33A~33Eからなる構成を例として説明したが、側板部品の数は適宜変更可能であり、また、側板33が一体の側板部品からなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…サイクロトロン、6…キャビティ、21…ディー電極、23…アース板、40…冷却流路、41…ベース部材(第1の部材)、42…蓋部材(第2の部材)、44…溝部、47…溶接部、51…供給管、54…接続部、56…シール部、81…ベース部材(第1の部材)、82…ベース部材(第2の部材)、G…加速ギャップ。
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