(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】燃料ホース用ゴム組成物およびそれを用いて得られる燃料ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20231109BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231109BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231109BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20231109BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20231109BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20231109BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
F16L11/04
C08K3/04
C08K3/34
C08K5/10
C08K9/06
C08L9/02
C08L27/06
(21)【出願番号】P 2019216146
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】平 真由香
(72)【発明者】
【氏名】平井 亮
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-254178(JP,A)
【文献】特開2007-077270(JP,A)
【文献】特開2011-012132(JP,A)
【文献】特開2019-199549(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138463(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/141153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
C08K 3/04
C08K 3/34
C08K 5/10
C08K 9/06
C08L 9/02
C08L 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(D)成分を含有
し、(A)成分のアクリロニトリル量が45~52重量%であり、(B)成分を(A)成分100重量部に対し5~120重量部の割合で含有し、(C)成分を(A)成分100重量部に対し15~30重量部の割合で含有することを特徴とする燃料ホース用ゴム組成物。
(A)アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー。
(B)シリチン。
(C)エーテルエステル系可塑剤。
(D)カーボンブラック。
【請求項2】
上記(B)成分が、シランカップリング剤で表面処理されたシリチンである、請求項1記載の燃料ホース用ゴム組成物。
【請求項3】
上記(B)成分が、スルフィド系シランカップリング剤で表面処理されたシリチンである、請求項1記載の燃料ホース用ゴム組成物。
【請求項4】
上記(B)成分を、上記(A)成分100重量部に対し5~100重量部の割合で含有する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
【請求項5】
単層ないし複数の層からなる燃料ホースであって、請求項1~
4のいずれか一項に記載の燃料ホース用ゴム組成物の架橋体からなる層を備えていることを特徴とする燃料ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ホース用ゴム組成物およびそれを用いて得られる燃料ホースに関するものであり、詳しくは、ガソリン、アルコール混合ガソリン、ディーゼル燃料等の自動車用燃料輸送ホース等に用いられる、燃料ホース用ゴム組成物およびそれを用いて得られる燃料ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車に用いられる燃料ホースの形成材料には、ホースに柔軟性を付与するとともに、ホース内を流れる燃料に対するバリア性(燃料低透過性)を高めるために、フッ素ゴム等の、燃料との親和性の低いポリマーが適用されている。
しかしながら、フッ素ゴムは材料コストが高いため、その代替として、例えば、アクリロニトリルブタジエン(NBR)等のポリマーに板状フィラーを分散させたホース材料の使用が、従来において検討されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4461932号公報
【文献】特許第5044912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように板状フィラーを含有させると、燃料低透過性は向上するものの、同時に耐寒性が低下してしまう問題がある。
そして、上記特許文献に開示の技術では、燃料ホースに要求される燃料低透過性と耐寒性との両立が充分になされているとは言えず、未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、燃料低透過性および耐寒性に優れる燃料ホース用ゴム組成物およびそれを用いて得られる燃料ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、燃料ホース用ゴム組成物において、フィラーとしてシリチンを配合することを検討した。シリチンは、通常のフィラーに比べ、耐寒性を低下させることなく、燃料低透過性を向上させる利点を有するが、燃料ホース市場において、更なる耐寒性および燃料低透過性の向上効果が要求されていることから、本発明者らは更なる研究を重ねた。その結果、アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー(NBR-PVC)と、エーテルエステル系可塑剤との組み合わせにおいて、シリチンがへき開しやすくなり、シリチンの凝集が抑制されるようになることから、ゴム組成物中でのシリチンの分散がより均一になり、本発明に要求されるレベルの燃料低透過性および耐寒性の両立がなされるようになることを突き止めた。
【0007】
すなわち、本発明は、上記の目的を達成するために、以下の[1]~[7]を、その要旨とする。
[1]下記の(A)~(D)成分を含有することを特徴とする燃料ホース用ゴム組成物。
(A)アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー。
(B)シリチン。
(C)エーテルエステル系可塑剤。
(D)カーボンブラック。
[2]上記(B)成分が、シランカップリング剤で表面処理されたシリチンである、[1]に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
[3]上記(B)成分が、スルフィド系シランカップリング剤で表面処理されたシリチンである、[1]に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
[4]上記(A)成分のアクリロニトリル量が43~52重量%である、[1]~[3]に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
[5]上記(B)成分を、上記(A)成分100重量部に対し5~100重量部の割合で含有する、[1]~[4]に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
[6]上記(C)成分を、上記(A)成分100重量部に対し15~35重量部の割合で含有する、[1]~[5]に記載の燃料ホース用ゴム組成物。
[7]単層ないし複数の層からなる燃料ホースであって、[1]~[6]に記載の燃料ホース用ゴム組成物の架橋体からなる層を備えていることを特徴とする燃料ホース。
【発明の効果】
【0008】
以上のことから、本発明の燃料ホース用ゴム組成物およびそれを用いて得られる燃料ホースは、燃料低透過性と耐寒性との両立による優れた特性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0010】
本発明の燃料ホース用ゴム組成物は、下記の(A)~(D)成分を用いて得ることができる。本発明の燃料ホース用ゴム組成物は、単層ないし複数の層からなる燃料ホースにおける各層の形成材料として用いられるが、特に燃料に接する層(燃料ホースが多層構造のときは最内層)の形成材料として好適に用いられる。また、本発明の燃料ホース用ゴム組成物は、耐オゾン性にも優れていることから、単層構造のホースの形成材料もしくは複数の層からなるホースの最外層形成材料としても、好ましく用いることができる。なお、本発明の燃料ホースは、製造コスト、製造設備等の点からは、単層構造が好ましい。
(A)アクリロニトリルブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドポリマー(NBR-PVC)。
(B)シリチン。
(C)エーテルエステル系可塑剤。
(D)カーボンブラック。
【0011】
以下に、上記各成分について詳しく説明する。
【0012】
[NBR-PVC(A)]
NBR-PVC(A)は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)とポリ塩化ビニル(PVC)とのブレンドポリマーである。
本発明において、上記NBR-PVC(A)中のPVCの含有量は、特に限定されないが、一般的な耐オゾン性を考慮して、上記NBR-PVC(A)中の25~40重量%とすることが好ましい。すなわち、PVCの含有量が25重量%未満であると耐オゾン性が不足するおそれがあり、PVCの含有量が40重量%を超えると加工性等の面で問題を生じ得るからである。
また、上記NBR-PVC(A)については、そのNBRにおけるアクリロニトリル量(AN量)が43~52重量%の範囲内のものが好ましく、より好ましくは上記AN量が45~48重量%の範囲内のものである。すなわち、AN量が上記範囲よりも少ないと、ゴム劣化を生じやすくなる傾向がみられるからであり、AN量が上記範囲よりも多いと、耐寒性等が低下する傾向がみられるからである。
なお、本発明の燃料ホース用ゴム組成物において、そのポリマー成分の80重量%以上が上記NBR-PVC(A)であることが好ましく、より好ましくは、上記ポリマー成分の90重量%以上が上記NBR-PVC(A)であり、さらに好ましくは、上記ポリマー成分が上記NBR-PVC(A)のみからなることである。
【0013】
[シリチン(B)]
上記シリチン(B)は、天然に産出される鉱物であり、球状穏微晶質で非結晶のシリカと板状のカオリナイトからなる天然結合物である。なお、本発明の燃料ホース用ゴム組成物において、上記シリチン(B)は、シリカとカオリナイトを併用して加えたものと比べ、よりへき開しやすく、凝集が抑制される挙動を示す。そのため、本発明の作用効果を効果的に得るには、シリカとカオリナイトを併用したものではなく、上記シリチン(B)を使用する必要がある。
【0014】
また、上記シリチン(B)は、よりへき開しやすく、より凝集が抑制されてゴム組成物中での分散がより均一になる観点から、シランカップリング剤で表面処理されたシリチン(以下、適宜「表面処理シリチン」と略す。)であることが好ましい。上記表面処理シリチンとしては、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、およびメルカプト系シランカップリング剤からなる群から選ばれた少なくとも一つのシランカップリング剤で表面処理されたシリチンが用いられる。なかでも、よりポリマーとの共有結合に優れるようになることから、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤で表面処理されたシリチンが好ましく用いられる。
【0015】
上記スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0016】
また、上記アミン系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0017】
また、上記エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0018】
また、上記ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0019】
また、上記メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0020】
そして、本発明の燃料ホース用ゴム組成物における上記シリチン(表面処理シリチンを含む)(B)の含有割合は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対し、通常2.5~120重量部の範囲であり、5~100重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは10~90重量部、さらに好ましくは20~60重量部の範囲である。すなわち、上記シリチン(B)が少なすぎると、所望の燃料低透過性が得られない傾向がみられ、上記シリチン(B)が多すぎると、耐寒性に劣る傾向がみられるからである。
【0021】
[エーテルエステル系可塑剤(C)]
上記エーテルエステル系可塑剤(C)としては、例えば、ジブチルグリコールアジペート、ジブチルカルビトールアジペート、ジブチルグリコールアジペート縮合物、ジブチルカルビトールアジペート縮合物が、シリチン(B)の分散性、耐熱性、柔軟性、低温性等を向上させる観点から好ましく用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。また、上記エーテルエステル系可塑剤としては、その重量平均分子量(Mw)が、200~1000の範囲内のものが好ましく、特に好ましくは、重量平均分子量(Mw)が400~900の範囲のものである。すなわち、上記エーテルエステル系可塑剤の重量平均分子量(Mw)が上記範囲未満であると、ブリードアウトしやすいからであり、逆に、重量平均分子量(Mw)が上記範囲を超えると、上記可塑剤自身が結晶化しやすくなり、シリチン(B)の分散性向上効果に乏しくなるからである。なお、このようなエーテルエステル系可塑剤としては、市販のものでは、ADEKA社製のアデカサイザーRS-107、RS-700、RS-735等が好ましく用いられる。
【0022】
そして、本発明の燃料ホース用ゴム組成物における上記エーテルエステル系可塑剤(C)の含有割合は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対し、15~35重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは20~30重量部の範囲である。すなわち、上記エーテルエステル系可塑剤(C)が少なすぎると、シリチン(B)の分散が効果的になされず、耐寒性および燃料低透過性に劣る傾向がみられ、上記エーテルエステル系可塑剤(C)が多すぎると、所望の燃料低透過性が得られない傾向がみられるからである。
【0023】
[カーボンブラック(D)]
上記カーボンブラック(D)としては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のグレードのものがあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0024】
そして、本発明の燃料ホース用ゴム組成物における上記カーボンブラック(D)の含有割合は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対し、20~120重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは30~100重量部、さらに好ましくは40~80重量部の範囲である。すなわち、上記カーボンブラック(D)が少なすぎると、ゴム組成物の強度に劣る傾向がみられ、上記カーボンブラック(D)が多すぎると、練り加工性に劣る傾向がみられるからである。
【0025】
なお、本発明の燃料ホース用ゴム組成物には、上記各成分とともに、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤、老化防止剤、加硫遅延剤、着色剤等を、必要に応じて配合しても差し支えない。
【0026】
《加硫剤》
上記加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリン、ジスルフィド等の硫黄化合物、有機過酸化物等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0027】
上記加硫剤の含有量は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対して、通常、0.2~5重量部の範囲に設定される。
【0028】
《加硫促進剤》
上記加硫促進剤としては、例えば、酸化亜鉛、活性亜鉛華、酸化マグネシウム等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0029】
上記加硫促進剤の含有量は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対して、通常、0.5~10重量部の範囲に設定され、好ましくは3~10重量部の範囲である。
【0030】
《加工助剤》
上記加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、炭化水素樹脂等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0031】
上記加工助剤の含有量は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対して、通常、0.1~10重量部の範囲に設定され、好ましくは0.1~1.5重量部の範囲である。
【0032】
《老化防止剤》
上記老化防止剤としては、例えば、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、ワックス類等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0033】
上記老化防止剤の含有量は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対して、通常、0.1~10重量部の範囲に設定される。
【0034】
《加硫遅延剤》
上記加硫遅延剤としては、例えば、N-(シクロヘキシルチオ)フタルイミド等があげられる。
【0035】
上記加硫遅延剤の含有量は、前記NBR-PVC(A)100重量部に対して、通常、0.1~5重量部の範囲に設定される。
【0036】
本発明の燃料ホース用ゴム組成物は、例えば、前記(A)~(D)成分とともに、必要に応じて、上記の、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤、老化防止剤、加硫遅延剤、着色剤等を配合し、これらをニーダー,バンバリーミキサー,ロール等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0037】
本発明の燃料ホースは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、上記と同様にして、燃料ホース用ゴム組成物を調製し、これを単軸の押出成形機を用いて円筒状に押し出した後、所定の条件で加熱して加硫(架橋)することにより、単層構造の燃料ホースを作製することができる。なお、上記押出成形に際し、必要に応じて、マンドレルを使用しても差し支えない。
【0038】
本発明の燃料ホースは、上記のような単層構造に限定されるものではなく、必要に応じ、樹脂層、補強糸層、他のゴム組成物からなる層等を、上記単層構造のホースの外周に形成してもよい。また、このような複数の層からなる燃料ホースとする場合、本発明の燃料ホース用ゴム組成物の架橋体からなる層は、燃料に接する層(最内層)に限定されず、中間層や最外層であってもよい。
【0039】
このようにして得られる本発明の燃料ホースは、ホース内径が2~100mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは5~50mmの範囲である。また、ホース肉厚が0.5~20mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1~10mmの範囲である。
【0040】
本発明の燃料ホースは、ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、ディーゼル燃料(軽油)、アルコール、水素、液体石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、ジメチルエーテルのような燃料の輸送用配管等として用いられる。特に、本発明の燃料ホースは、自動車用の燃料ホースとして好適に用いられるが、トラクター、耕運機等の自動車以外の燃料ホースとして用いることも可能である。
【実施例】
【0041】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0043】
〔NBR-PVC(i)〕
Nipol DN003(日本ゼオン社製のNBR、AN量:50重量%)70重量%と、TH-1400(大洋塩ビ社製のPVC)30重量%とをブレンドし、PVC含有量が30重量%のNBR-PVCを調製した。
【0044】
〔NBR-PVC(ii)〕
Nipol DN003(日本ゼオン社製のNBR、AN量:50重量%)35重量%と、Nipol DN101(日本ゼオン社製のNBR、AN量:43重量%)35重量%と、TH-1400(大洋塩ビ社製のPVC)30重量%とをブレンドし、PVC含有量が30重量%のNBR-PVCを調製した。
【0045】
〔NBR-PVC(iii)〕
Nipol DN101(日本ゼオン社製のNBR、AN量:43重量%)70重量%と、TH-1400(大洋塩ビ社製のPVC)30重量%とをブレンドし、PVC含有量が30重量%のNBR-PVCを調製した。
【0046】
〔NBR(i)〕
Nipol DN003(日本ゼオン社製のNBR、AN量:50重量%)50重量%と、Nipol DN101(日本ゼオン社製のNBR、AN量:43重量%)50重量%とをブレンドし、NBR(i)を調製した。
【0047】
〔シリチン〕
sillitin Z86、HOFFMANN MINERAL社製
【0048】
〔表面処理シリチン〕
aktisil PF216(スルフィド系シランカップリング剤で表面処理されたシリチン)、HOFFMANN MINERAL社製
【0049】
〔タルク〕
ミストロンベーパー、Sierra Talc社製
【0050】
〔シリカ〕
ニプシールER、日本シリカ工業社製
【0051】
〔エーテルエステル系可塑剤〕
アデカサイザー RS-107、ADEKA社製
【0052】
〔エーテル系可塑剤〕
TP95、Morton International社製
【0053】
〔エステル系可塑剤〕
P200、ADEKA社製
【0054】
〔カーボンブラック〕
シースト SO、東海カーボン社製
【0055】
〔酸化亜鉛〕
酸化亜鉛2種、ハクスイテック社製
【0056】
〔ステアリン酸〕
ルナック S-70V、花王社製
【0057】
〔老化防止剤(i)〕
アンテージ 3C、川口化学工業社製
【0058】
〔老化防止剤(ii)〕
アンテージ RD、川口化学工業社製
【0059】
〔硫黄〕
硫黄、鶴見化学工業社製
【0060】
〔加硫促進剤(i)〕
サンセラー TT-PTC、三新化学工業社製
【0061】
〔加硫促進剤(ii)〕
アクセルCZ、川口化学工業社製
【0062】
〔実施例1~10、比較例1~8〕
後記の表1および表2に示す、硫黄および加硫促進剤以外の各成分を同表に示す割合で配合し、バンバリーミキサーを用いて混練した。つぎに、硫黄および加硫促進剤を同表に示す割合で配合し、ロールを用いて混合することにより、燃料ホース用ゴム組成物を調製した。
【0063】
このようにして得られた実施例および比較例の燃料ホース用ゴム組成物を用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1および表2に併せて示した。
【0064】
≪燃料低透過性≫
各燃料ホース用ゴム組成物を用い、これを180℃で10分間プレス加硫して、架橋シート(厚み2mm)に成形した。そして、Fuel C(イソオクタン/トルエン=50/50体積%)中にエタノールを10体積%の割合で混合した模擬アルコール添加ガソリンを用意し、上記架橋シート(厚み2mm)の片面を浸漬し、40℃の恒温槽中に14日間(336時間)放置した。1日毎の模擬アルコール添加ガソリンの重量減少量を測定し、一番多い日の重量減少量から、燃料透過量を求めた。ここで、燃料透過量(mg・mm/cm2 ・day)=模擬アルコール添加ガソリンの重量減少量(mg/day)×架橋シートの厚み(mm)/架橋シートの面積(cm2 )で示される。
そして、以下の基準で燃料低透過性の評価を行った。
◎:燃料透過量が40(mg・mm/cm2 ・day)未満。
○:燃料透過量が40(mg・mm/cm2 ・day)以上で50(mg・mm/cm2 ・day)未満。
△:燃料透過量が50(mg・mm/cm2 ・day)以上で65(mg・mm/cm2 ・day)未満。
×:燃料透過量が65(mg・mm/cm2 ・day)以上。
【0065】
≪耐寒性≫
各燃料ホース用ゴム組成物を用い、これを180℃で10分間プレス加硫して、架橋シート(厚み2mm)に成形した。そして、JIS K 6261に規定する低温衝撃脆化試験に準拠し、低温脆化温度(℃)を測定した。
そして、以下の基準で耐寒性の評価を行った。
◎:低温脆化温度が-24℃未満。
○:低温脆化温度が-24℃以上で-20℃未満。
△:低温脆化温度が-20℃以上で-15℃未満。
×:低温脆化温度が-15℃以上。
【0066】
【0067】
【0068】
上記表1および表2の結果より、実施例の燃料ホース用ゴム組成物は、いずれも、燃料低透過性および耐寒性に優れた結果が得られた。
これに対して、比較例の燃料ホース用ゴム組成物は、燃料低透過性、耐寒性のいずれか、あるいは双方の評価に、劣る結果となった。
【0069】
すなわち、比較例1のゴム組成物は、実施例と同じく、シリチンおよびエーテルエステル系可塑剤を含有するものであるが、ポリマーがNBRであるため、本発明に要求されるレベルの燃料低透過性は得られなかった。比較例2のゴム組成物は、実施例と同じく、NBR-PVCにシリチンを含有させているが、可塑剤が不含であり、燃料低透過性にも耐寒性にも劣る結果となった。比較例3~5のゴム組成物は、実施例と同じく、NBR-PVCにエーテルエステル系可塑剤を含有させているが、フィラーをタルクやシリカに変更しており、いずれも、燃料低透過性と耐寒性との両立がなされない結果となった。比較例6および7のゴム組成物は、実施例と同じく、NBR-PVCにシリチンを含有させているが、可塑剤が実施例とは異なるものであり、耐寒性に劣る結果となった。比較例8のゴム組成物は、実施例と同じく、NBR-PVCにエーテルエステル系可塑剤を含有させているが、シリチンが不含であり、燃料低透過性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の燃料ホース用ゴム組成物は、ガソリン、アルコール混合ガソリン(ガソホール)、ディーゼル燃料(軽油)、アルコール、水素、液体石油ガス(LPG)、圧縮天然ガス(CNG)、ジメチルエーテルのような燃料の輸送用配管等の材料として好ましく用いられる。