IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7382293塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法
<>
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図1
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図2
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図3
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図4
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図5
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図6
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図7
  • 特許-塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】塊状回転子、回転電機、および回転子スロット形成方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/26 20060101AFI20231109BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H02K1/26 A
H02K15/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020118963
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022015846
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 聡
(72)【発明者】
【氏名】米谷 晴之
(72)【発明者】
【氏名】笹井 拓真
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036193(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116438(WO,A1)
【文献】特開2012-039775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/26
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びて回転軸回りに回転可能に支持されるシャフト部と、
前記シャフト部と一体で形成されて前記シャフト部より大きな径を有し周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心部と、
前記回転子スロット内を貫通する複数の電気的な導体と、
を有する塊状回転子であって、
数の前記回転子スロットのそれぞれは、
前記回転軸を含み径方向に拡がる仮想平面に対して第1の傾斜角で傾斜する第1の側面と、第1の底面と、前記第1の側面と前記第1の底面とを接続する第1の接続面と、
前記仮想平面に対して第2の傾斜角で傾斜する第2の側面と、第2の底面と、前記第2の側面と前記第2の底面とを接続する第2の接続面と、
を有し、
前記第2の傾斜角前記第1の傾斜角より小さく、当該回転子鉄心部の外側表面での幅に比べて底部の幅が大きい、
ことを特徴とする塊状回転子。
【請求項2】
前記第1の接続面の曲率半径は、前記第2の接続面の曲率半径より大きいことを特徴とする請求項1に記載の塊状回転子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塊状回転子と、
前記回転子鉄心部の径方向外側に設けられた円筒状の固定子鉄心と、前記固定子鉄心の径方向の内側表面に周方向に互いに間隔をあけて形成され前記軸方向に延びた複数の固定子スロットの内部を貫通する固定子巻線とを有する固定子と、
前記回転子鉄心部を挟んで前記軸方向の前記シャフト部の両側のそれぞれで前記塊状回転子を支持する2つの軸受と、
を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
軸方向に延びて回転軸回りに回転可能に支持されるシャフト部と、前記シャフト部と一体で形成されて前記シャフト部より大きな径を有し周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心部と、複数の前記回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心部の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の電気的な導体と、を有する塊状回転子に周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の前記回転子スロットを形成する回転子スロット形成方法であって、
前記回転軸を含み径方向に拡がる仮想平面に対して第1の傾斜角で傾斜する第1の側面と、第1の底面と、前記第1の側面と前記第1の底面を接続する第1の接続面とを有する第1溝の加工を実施する第1溝加工ステップと、
前記仮想平面に対して第2の傾斜角で傾斜する第2の側面と、第2の底面と、前記第2の側面と前記第2の底面を接続する第2の接続面とを有する第1溝の加工を実施する第2溝加工ステップと、
を有し、
複数の前記回転子スロットのそれぞれは、前記第2の傾斜角前記第1の傾斜角より小さく当該回転子鉄心部の外側表面での幅に比べて底部の幅が大きい、
ことを特徴とする回転子スロット形成方法。
【請求項5】
前記第2の接続面の曲率半径は、前記第1の接続面の曲率半径より大きいことを特徴とする請求項に記載の回転子スロット形成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊状回転子、これを用いた回転電機、および回転子スロット形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塊状回転子を用いた誘導回転電機または同期回転電機においては、その鉄心部分の径方向の表面近傍に、周方向に互いに間隔をあけて配置されて軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成される。それぞれの回転子スロットを、導体バーあるいは回転子巻線などの二次導体が貫通する。
【0003】
回転数の高い領域で使用する高速機においては、より機械的な強度を確保する目的で、回転子鉄心を電磁鋼板の積層構造とする代わりに、回転子鉄心をロータシャフトと一体にした塊状磁極型の回転子(塊状回転子)が採用される場合がある。このような場合、二次導体に働く遠心力が増大するので、二次導体の径方向外側への抜け止めを確実にする必要がある。遠心力の方向は、スロットが形成されている方向に一致するため、たとえば、二次導体を回転子鉄心に圧接する等の方法がとられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6933647号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁鋼板の積層タイプの場合は、電磁鋼板同士が絶縁材により電気的に絶縁され、軸方向の漏れ電流の発生が防止されている。一方、塊状回転子の場合は、鉄心部分が電気的に一体であるため、軸方向の漏れ電流も発生するため、効率低下の要因となる。
【0006】
また、塊状回転子は、主に、高速機において採用されることから、回転子スロット内の二次導体に印加される遠心力が大きいため、遠心力に対する構造健全性の確保が重要である。
【0007】
さらに、回転子スロットの形成は、電磁鋼板の積層タイプの場合は、積層状態で回転子スロットが形成されるような形状に電磁鋼板を打ち抜くことにより可能である一方、塊状回転子の場合は、鉄心部分の表面に、周方向に互いに間隔をおいて配されて軸方向に貫通する回転子スロットを形成するための溝加工を行う必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、塊状回転子について、効率の低下を抑制し、かつ、構造健全性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明に係る塊状回転子は、軸方向に延びて回転軸回りに回転可能に支持されるシャフト部と、前記シャフト部と一体で形成されて前記シャフト部より大きな径を有し周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心部と、前記回転子スロット内を貫通する複数の電気的な導体と、を有する塊状回転子であって、数の前記回転子スロットのそれぞれは、前記回転軸を含み径方向に拡がる仮想平面に対して第1の傾斜角で傾斜する第1の側面と、第1の底面と、前記第1の側面と前記第1の底面とを接続する第1の接続面と、前記仮想平面に対して第2の傾斜角で傾斜する第2の側面と、第2の底面と、前記第2の側面と前記第2の底面とを接続する第2の接続面と、を有し、前記第2の傾斜角前記第1の傾斜角より小さく、当該回転子鉄心部の外側表面での幅に比べて底部の幅が大きい、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る回転電機は、前述の塊状回転子と、前記回転子鉄心部の径方向外側に設けられた円筒状の固定子鉄心と、前記固定子鉄心の径方向の内側表面に周方向に互いに間隔をあけて形成され前記軸方向に延びた複数の固定子スロットの内部を貫通する固定子巻線とを有する固定子と、前記回転子鉄心部を挟んで前記軸方向の前記シャフト部の両側のそれぞれで前記塊状回転子を支持する2つの軸受と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る回転子スロット形成方法は、軸方向に延びて回転軸回りに回転可能に支持されるシャフト部と、前記シャフト部と一体で形成されて前記シャフト部より大きな径を有し周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心部と、前記回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心部の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の電気的な導体と、を有する塊状回転子に周方向に互いに間隔をあけて配置されて前記軸方向に延びた複数の前記回転子スロットを形成する回転子スロット形成方法であって、前記回転軸を含み径方向に拡がる仮想平面に対して第1の傾斜角で傾斜する第1の側面と、第1の底面と、前記第1の側面と前記第1の底面を接続する第1の接続面とを有する第1溝の加工を実施する第1溝加工ステップと前記仮想平面に対して第2の傾斜角で傾斜する第2の側面と、第2の底面と、前記第2の側面と前記第2の底面を接続する第2の接続面とを有する第1溝の加工を実施する第2溝加工ステップと、を有し、複数の前記回転子スロットのそれぞれは、前記第2の傾斜角が前記第1の傾斜角より小さく当該回転子鉄心部の外側表面での幅に比べて底部の幅が大きい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塊状回転子について、効率の低下を抑制し、かつ、構造健全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る回転電機の構成を示す縦断面図である。
図2】実施形態に係る塊状回転子および固定子の構成を示す部分横断面図である。
図3】実施形態に係る回転子スロット形成方法の手順を示すフロ―図である。
図4】実施形態に係る回転子スロット形成方法における第1溝加工時の状態を示す横断面図である。
図5】実施形態に係る回転子スロット形成方法における第2溝加工時の状態を示す横断面図である。
図6】実施形態に係る回転子スロット形成方法の変形例の手順を示すフロ―図である。
図7】実施形態に係る塊状回転子の回転子スロットを示す部分横断面図である。
図8】比較例による溝加工時の状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る塊状回転子、これを用いた回転電機、および回転子スロット形成方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る回転電機の構成を示す縦断面図である。
回転電機100は、塊状回転子10、固定子20、軸受31、およびフレーム40を有する。以下は、回転電機100として、かご形誘導回転電機の場合を例にとって示すが、巻線形誘導回転電機および同期回転電機の場合にも同様に適用可能である。
【0016】
塊状回転子10は、より機械的な強度を確保する目的で、回転子鉄心をロータシャフトと一体にした塊状磁極型の回転子であり、一体型ロータ11、塊状回転子10を貫通する回転子導体としての複数の二次導体15、および2つの短絡環16を有する。なお、以下では、二次導体15は、かご型回転電機の導体バーの場合を例にとって示すが、巻線形誘導回転電機および同期回転電機の場合には、二次導体を、回転子巻線と読み替えればよい。
【0017】
一体型ロータ11は、回転対称の一体物であり、回転軸方向(以下、軸方向)に径が異なる円柱形状を組合せた形状を有する。軸方向の中央付近は、径が大きな円柱状で、回転子鉄心部13を形成している。回転子鉄心部13を挟んで軸方向の両側は、回転子鉄心部13より径の小さな細径部12を形成している。軸方向の両側の細径部12は、それぞれ、軸受31により回転可能に支持されている。
【0018】
回転子鉄心部13の径方向の表面の近傍を、後述するように、複数の二次導体15が貫通して軸方向に延びている。それぞれの二次導体15は、回転子鉄心部13の軸方向の両外側にそれぞれ同じ長さだけ突出している。軸方向の両外側のそれぞれにおいて、複数の二次導体15の端部は、環状の短絡環16と電気的および機械的に結合することにより、互いに電気的に結合している。二次導体15および短絡環16は、回転子鉄心部13に比べて導電率の高い材料が用いられている。たとえば、回転子鉄心部13は、鉄鋼あるいは低合金鋼等であるのに対して、二次導体15および短絡環16は、銅やアルミニウム等である。
【0019】
固定子20は、固定子鉄心21および複数の固定子巻線22を有する。固定子鉄心21は、塊状回転子10の回転子鉄心部13の径方向外側に、環状の空隙19を介して設けられている。固定子鉄心21は、円筒状であり、固定子鉄心21の内側表面近傍を固定子巻線22が貫通している。
【0020】
フレーム40は、固定子20および回転子鉄心部13を収納する。フレーム40の軸方向の両端には、軸受ブラケット32がそれぞれ設けられている。軸受ブラケット32は、それぞれ軸受31を静止支持している。
【0021】
図2は、実施形態に係る塊状回転子および固定子の構成を示す部分横断面図である。
塊状回転子10の一体型ロータ11の回転子鉄心部13の、細径部12の径方向の外側部分には、径方向外側表面に開放された複数の回転子スロット70が形成されている。回転子スロット70は、周方向に互いに間隔を空けて、軸方向に貫通している。
【0022】
それぞれの回転子スロット70は、その径方向外側の開口部分が、鉛直上方にあるときに、塊状回転子10の回転軸Xを含み開口部分の中央を通る平面Sに対して、周方向に傾いている。また、互いに周方向に隣接する回転子スロット70により回転子ティース13aが形成されるが、回転子ティース13aも周方向に傾いている。
【0023】
それぞれの回転子スロット70には、回転子導体としての二次導体15が収納されている。
【0024】
固定子20の固定子鉄心21には、周方向に互いに間隔をおいて配されて、軸方向に貫通する固定子スロット21aが形成されている。それぞれの固定子スロット21aには、固定子巻線22の導体が収納されている。固定子スロット21aの両側の内側面は、前述の平面Sに平行になるように形成されている。
【0025】
図3は、実施形態に係る回転子スロット形成方法の手順を示すフロ―図である。
まず、溝加工装置の設定を行う(ステップS01)。溝加工装置としては、一体型ロータ11を搭載し、周方向に指定する角度ずつ回転させる搭載装置(図示せず)と、回転子スロット70を形成するバイト類を回転駆動しながら軸方向に移動する回転駆動部85(図4図5)等がある。
【0026】
次に、第1溝加工を実施する(ステップS02)。
図4は、実施形態に係る回転子スロット形成方法における第1溝加工時の状態を示す横断面図である。
【0027】
第1溝用バイト81は回転駆動部85により把持されている。第1溝用バイト81は、側部81a、底部81b、およびこれらを接続する接続部81cを有する。接続部81cの横断面の曲率半径はR1aである。
【0028】
斜線部は、第1溝用バイト81の刃先を有する切削部である。また、回転駆動部85は、第1溝用バイト81を把持して、第1溝用バイト81をその軸中心の周りに回転させる。第1溝用バイト81は、斜線部の側部81a、底部81b、および接続部81cのいずれにも刃先が形成されている。
【0029】
回転子スロット70の第1溝部71は、たとえば、回転子鉄心部13の軸方向外側において、第1溝用バイト81を平面Sに対して第1の傾斜角Θ1だけ傾けた方向にして、回転子スロット70の深さに対応する位置になるように、回転駆動部85にセットする。この状態で、第1溝用バイト81を回転させる。次に、第1溝用バイト81を支持する回転駆動部85を、軸方向(図4の奥方向)に移動させる。
この結果、図4の奥方向に貫通する第1溝部71が形成される。
【0030】
次に、周方向に第1溝部71の加工を全数実施したか否かを判定する(ステップS03)。全数実施したとは判定されなかった場合(ステップS03 NO)には、一体型ロータ11の角度を変更する(ステップS04)。具体的には、搭載装置により一体型ロータ11を次の周方向角度位置まで回転する。その上で、ステップS02以降を繰り返す。
【0031】
全数実施したと判定された場合(ステップS03 YES)には、第1溝部71の加工状態の確認を行う(ステップS05)。具体的には、たとえば、加工表面の状態に異常がないか等の確認となる。後述するステップS09も同様である。
【0032】
次に、第2溝加工を実施する(ステップS06)。
図5は、実施形態に係る回転子スロット形成方法における第2溝加工時の状態を示す横断面図である。
【0033】
第2溝用バイト82は、回転駆動部85により把持されている。第2溝用バイト82は、側部82a、底部82b、およびこれらを接続する接続部82cを有する。接続部82cの横断面の曲率半径はR2aである。なお、前述の第1溝用バイト81の接続部81cの曲率半径R1aは、この曲率半径R2aより大きい。
【0034】
斜線部は、第2溝用バイト82の刃先を有する切削部である。また、回転駆動部85は、第2溝用バイト82を把持して、第2溝用バイト82をその軸中心の周りに回転させる。第2溝用バイト82は、斜線部の側部82a、底部82b、および接続部82cのいずれにも刃先が形成されている。
【0035】
回転子スロット70の第2溝部72は、たとえば、回転子鉄心部13の軸方向外側において、第2溝用バイト82を平面Sに対して第2の傾斜角Θ2だけ傾けた方向にして、回転子スロット70の深さに対応する位置になるように、回転駆動部85にセットする。ここで、第2の傾斜角Θ2は、第1溝用バイト81の第1の傾斜角Θ1より小さい。
【0036】
この状態で、第2溝用バイト82を回転させる。次に、第2溝用バイト82を支持する回転駆動部85を、軸方向(図5の奥方向)に移動させる。
この結果、図5の奥方向に貫通する第2溝部72が形成される。
【0037】
次に、周方向に第2溝部72の加工を全数実施したか否かを判定する(ステップS07)。全数実施したとは判定されなかった場合(ステップS07 NO)には、一体型ロータ11の角度を変更する(ステップS08)。具体的には、搭載装置により一体型ロータ11を次の周方向角度位置まで回転する。その上で、ステップS06以降を繰り返す。
【0038】
全数実施したと判定された場合(ステップS07 YES)には、第2溝部72の加工状態の確認を行う(ステップS09)。
【0039】
次に、仕上げ・検査を実施する(ステップS10)。
第2溝用バイト82による第2溝部72の形成は、すでに第1溝部71が形成されている状態での加工となる。この場合、第2溝用バイト82にとっては、既に形成されている第1溝部71の空間を片側にして、空間が未形成の対象部分の切削を行う、すなわち、片当たりの状態で切削を行うため、第1溝部71の形成時に比べて、条件が厳しくなる。
【0040】
このため、第2の傾斜角Θ2を小さくしている。この結果、第1溝部71の形成時より切削深さが浅くなり、切削抵抗が減少する。
【0041】
また、第2溝用バイト82の接続部82cの曲率半径を、第2溝用バイト82の接続部82cの曲率半径より小さくしている。この点も、切削抵抗を減少する効果を有する。
【0042】
図6は、実施形態に係る回転子スロット形成方法の変形例の手順を示すフロ―図である。図3のフロー図で示す場合には、全周に亘り第1溝部71を形成した後に、全周に亘り第2溝部72を形成する手順である。
【0043】
一方、図6のフロー図で示す変形例においては、一体型ロータ11のそれぞれの角度位置において、第1溝部71の形成およびその後の第2溝部72の形成を行う。
【0044】
すなわち、溝加工装置の設定(ステップS21)した後、第1溝加工の実施(ステップS22)、加工状態の確認(ステップS23)、第2溝加工の実施(ステップS24)、加工状態の確認(ステップS25)の後、周方向に全数実施したか否かの判定(ステップS26)を行い、全数実施していなければ(ステップS26 NO)、一体型ロータ11の角度を変更(ステップS27)した上で、ステップS22以降を繰り返す。
【0045】
このような変形例では、図3に示す手順に比べて、第1溝用バイト81と第2溝用バイト82とをその都度切り替える必要があるが、一体型ロータ11の角度の変更回数が半分で済む。1台の駆動装置に第1溝用バイト81と第2溝用バイト82をそれぞれ交代に設定するのではなく、第1溝用バイト81と第2溝用バイト82の両者が、それぞれ一体型ロータ11にアクセス可能なように設定されている場合には、有効な方法である。
【0046】
図7は、実施形態に係る塊状回転子の回転子スロットを示す部分横断面図である。
回転子スロット70はそれぞれ、第1溝部71の部分と、第2溝部72の部分とを有する。第1溝部71の部分は、第1溝部側面71a、第1溝部底面71b、および第1溝部接続面71cを有し、第2溝部72は、第2溝部側面72a、第2溝部底面72b、および第2溝部接続面72cを有する。
【0047】
第1溝部71の部分と、第2溝部72の部分とは、第1溝部底面71bと第2溝部底面72bとの境界で、互いに隣接している。一方、第1溝部71の第1溝部側面71aと、第2溝部72の第2溝部側面72aは、互いに対向している。また、第1溝部71の第1溝部側面71aの径方向に対する傾き角度である第1の傾斜角Θ1は、第2溝部72の第2溝部側面72aの径方向に対する傾き角度である第2の傾斜角Θ2より大きいため、回転子スロット70の中心面に垂直方向の、回転子鉄心部13の外側表面での幅D1に比べて、底部の幅D2の方が大きくなっている。このため、二次導体15が径方向外側に突出するのを防止することができる。
【0048】
また、塊状回転子10が回転中に二次導体15に付加される遠心力により、二次導体15から回転子ティース13aに径方向外側に向けての荷重が付加される。この荷重の周方向の成分により、回転子ティース13aには、破線の矢印Mで示す周方向への曲げ荷重が付加される。
【0049】
回転子ティース13aに対する曲げ荷重により、特に、第1溝部側面71aと第1溝部底面71bの間の第1溝部接続面71cには、引張り応力が付加される。一方、第2溝部側面72aと第2溝部底面72bの間の第2溝部接続面72cには、圧縮応力が付加される。
【0050】
第1溝部接続面71cは、第2溝部接続面72cの曲率半径よりも大きな曲率半径を有しており、応力集中を緩和することができる。
【0051】
図8は、比較例による溝加工時の状態を示す横断面図である。比較例は、1回の加工によって、本実施形態と同様の回転子スロット、すなわち、対向する面の間隔が、スロットの底部になるにつれて広がるようなスロットを形成しようとするものである。
【0052】
このために、バイト3は、回転中心軸Yに関して回転対称の部分である回転対称部3aと、回転対称部3aより一方に突出している突出部3bを有する。このようなバイト3を回転させながら、回転子鉄心部13の軸方向外側から軸方向に移動させることにより、理想的には、所期の回転子スロットが形成されるはずである、
【0053】
しかしながら、バイト3は、軸回りに偏心していること、このため、バイト3の切削部に比べてバイト3の付け根部が細くならざるを得ないことなどにより、安定な切削加工を継続することが難しい。
【0054】
これに対して、本実施形態による回転子スロット70の形成方法においては、第1溝用バイト81および第2溝用バイト82ともに、切削部に対しての付け根部の太さは十分に確保可能であり、かつ、偏心もしていないため、安定な切削が可能である。
【0055】
また、本実施形態の場合は、第1溝用バイト81および第2溝用バイト82の2種類のバイトを使用することにより、曲げ応力が集中する第1溝部接続面71cの曲率半径を、他方の接続部72cと異なる十分大きな曲率半径とすることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態においては、回転子スロット70を径方向に対して角度を有するように形成することにより効率の低下を抑制し、かつ、曲げ応力が集中する側の第1溝部接続面71cの曲率半径を十分大きな曲率半径とすることにより、構造健全性を確保することができる。
また、2種類のバイトを使用することにより、安定な加工が可能となる。
【0057】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
3…バイト、3a…回転対称部、3b…突出部、10…回転子、11…ロータシャフト、12…細径部、13…回転子鉄心部、13a…回転子ティース、15…二次導体、16…短絡環、19…空隙、20…固定子、21…固定子鉄心、21a…固定子スロット、22…固定子巻線、31…軸受、32…軸受ブラケット、40…フレーム、70…回転子スロット、71…第1溝部、71a…第1溝部側面、71b…第1溝部底面、71c…第1溝部接続面、72…第2溝部、72a…第2溝部側面、72b…第2溝部底面、72c…第2溝部接続面、80…溝加工装置、81…第1溝用バイト、81a…側部、81b…底部、81c…接続部、82…第2溝用バイト、82a…側部、82b…底部、82c…接続部、85…回転駆動部、100…回転電機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8