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特許7382302溶接装置、溶接作業手順作成装置、溶接作業支援装置、溶接方法、溶接作業手順作成方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】溶接装置、溶接作業手順作成装置、溶接作業支援装置、溶接方法、溶接作業手順作成方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20231109BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20231109BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20231109BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K9/12 301A
B23K9/29 N
B23K31/00 K
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020184485
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2021130134
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020027290
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-185529(JP,A)
【文献】特開平09-010940(JP,A)
【文献】特開2017-064720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して当該溶加材に給電を行うコンタクトチップと、当該溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチと、
パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、
前記溶接作業情報に基づいて、パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出する算出手段と、
特定のパスまでの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の積算値が予め定められた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを、前記溶接作業情報に基づいて決定する決定手段と、
前記メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間に当該メンテナンスが行われるように制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記パス間時間と前記メンテナンスに要する時間との比較結果に基づいて、当該メンテナンスを当該パス間時間に行うことを決定することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間に当該メンテナンスを行うように促す情報を表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間に当該メンテナンスを自動で行う装置が当該メンテナンスを行うように制御することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項5】
溶接作業中の溶接電流を計測する計測手段と、
パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を前記計測手段で計測された溶接電流によって修正することにより、前記メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段と
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記トーチを撮像する撮像手段と、
前記ノズルについての作業負荷の限界値を前記撮像手段で撮像された画像に基づいて修正することにより、前記メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段と
を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記算出手段は、前記コンタクトチップの摩耗量の推定値を用いて、パスごとの前記コンタクトチップについての作業負荷を算出し、
前記決定手段は、前記特定のパスまでの前記コンタクトチップについての作業負荷の積算値が前記コンタクトチップについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項8】
送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して当該溶加材に給電を行うコンタクトチップと、当該溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成装置であって、
パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、
前記溶接作業情報に基づいて、パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出する算出手段と、
特定のパスまでの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の積算値が予め定められた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを、前記溶接作業情報に基づいて決定する決定手段と
を備えたことを特徴とする溶接作業手順作成装置。
【請求項9】
前記算出手段は、前記パスごとの溶加材の送給方法に応じた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出することを特徴とする請求項8に記載の溶接作業手順作成装置。
【請求項10】
前記算出手段は、前記コンタクトチップの摩耗量の推定値を用いて、パスごとの前記コンタクトチップについての作業負荷を算出し、
前記決定手段は、前記特定のパスまでの前記コンタクトチップについての作業負荷の積算値が前記コンタクトチップについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定することを特徴とする請求項8に記載の溶接作業手順作成装置。
【請求項11】
請求項8に記載の溶接作業手順作成装置から前記溶接作業情報と、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷と、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を含む情報を取得する情報取得手段と、
前記情報を画面に表示する表示手段と
を備えたことを特徴とする溶接作業支援装置。
【請求項12】
送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して当該溶加材に給電を行うコンタクトチップと、当該溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いて溶接を行う溶接方法であって、
パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得するステップと、
前記溶接作業情報に基づいて、パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出するステップと、
特定のパスまでの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の積算値が予め定められた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを、前記溶接作業情報に基づいて決定するステップと、
前記メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間に当該メンテナンスが行われるように制御するステップと
を含むことを特徴とする溶接方法。
【請求項13】
送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して当該溶加材に給電を行うコンタクトチップと、当該溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成方法であって、
パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得するステップと、
前記溶接作業情報に基づいて、パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出するステップと、
特定のパスまでの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の積算値が予め定められた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを、前記溶接作業情報に基づいて決定するステップと
を含むことを特徴とする溶接作業手順作成方法。
【請求項14】
送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して当該溶加材に給電を行うコンタクトチップと、当該溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、
前記溶接作業情報に基づいて、パスごとの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷を算出する算出手段と、
特定のパスまでの前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の積算値が予め定められた前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータについての作業負荷の限界値を超えた場合に、前記コンタクトチップ、前記ノズル、及び、前記送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、当該特定のパスの後のパス間時間に行うことを、前記溶接作業情報に基づいて決定する決定手段と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶加材に給電を行うコンタクトチップと溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いて溶接を行う溶接装置、そのようなトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成装置、そのようなトーチを用いて溶接を行う溶接方法、そのようなトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
内部に所定の材料からなる棒状のワイヤを保持するチップが配設されたノズルを有するアーク溶接装置への電流の通電時間を累積計算するとともに、この累積計算値と、あらかじめ設定されたノズル清掃およびチップ交換の設定時間とを比較し、累積時間があらかじめ設定されたノズル清掃の設定時間を越えたら、ノズル清掃またはチップ交換の警報信号を出力するアーク溶接監視装置は、知られている(特許文献1参照)。
【0003】
溶接チップのアライメントを測定し、アライメントを、アライメントに対する少なくとも1つの期待値に対して解析し、解析に基づいて、警報を生成し、解析に基づいて、障害を生成する、溶接プロセスの監視方法において、溶接チップの温度を測定し、溶接チップの圧搾力を測定し、温度および圧搾力を、少なくとも1つの予期値に対して解析する溶接プロセスの監視方法も、知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
送給抵抗の上下限値設定記憶手段と、送給抵抗の計測結果を上下限設定値と比較し、計測結果が上下限設定値を超えた場合には警告を発する比較警告手段を設けた溶接ワイヤの送給抵抗モニタ装置も、知られている(特許文献3参照)。
【0005】
溶接電流の変化を数ヘルツ以下の変化を通すフィルタを介して検出し、溶接電流の変化の第1周期を特定し、第1周期の変動間にあらわれる第2周期の発生頻度を計測し、溶接チップが使用限界にあるかどうかを判断する溶接チップの寿命評価方法も、知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平07-227671号公報
【文献】特表2004-535302号公報
【文献】特許第4719953号公報
【文献】特開2000-024779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータのうちせいぜい2つの部品のメンテナンスを行う構成を採用したのでは、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータをトータルでメンテナンスすることはできない。
【0008】
本発明の目的は、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータをトータルでメンテナンスすることを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもと、本発明は、送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して溶加材に給電を行うコンタクトチップと、溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチと、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、溶接作業情報に基づいて、パスごとの作業負荷を算出する算出手段と、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを、溶接作業情報に基づいて決定する決定手段と、メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間にメンテナンスが行われるように制御する制御手段とを備えた溶接装置を提供する。
【0010】
決定手段は、パス間時間とメンテナンスに要する時間との比較結果に基づいて、メンテナンスをパス間時間に行うことを決定する、ものであってよい。
【0011】
制御手段は、メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間にメンテナンスを行うように促す情報を表示するように制御する、ものであってよい。
【0012】
制御手段は、メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間にメンテナンスを自動で行う装置がメンテナンスを行うように制御する、ものであってもよい。
【0013】
溶接装置は、溶接作業中の溶接電流を計測する計測手段と、パスごとの作業負荷を計測手段で計測された溶接電流によって修正することにより、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段とを更に備えた、ものであってよい。
【0014】
溶接装置は、トーチを撮像する撮像手段と、作業負荷の限界値を撮像手段で撮像された画像に基づいて修正することにより、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段とを更に備えた、ものであってもよい。
【0015】
算出手段は、コンタクトチップの摩耗量の推定値を用いて、パスごとの作業負荷を算出し、決定手段は、特定のパスまでの積算値が限界値を超えた場合に、コンタクトチップのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定する、ものであってよい。
【0016】
また、本発明は、送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して溶加材に給電を行うコンタクトチップと、溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成装置であって、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、溶接作業情報に基づいて、パスごとの作業負荷を算出する算出手段と、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを、溶接作業情報に基づいて決定する決定手段とを備えた溶接作業手順作成装置も提供する。
【0017】
算出手段は、パスごとの溶加材の送給方法に応じた作業負荷を算出する、ものであってよい。
【0018】
算出手段は、コンタクトチップの摩耗量の推定値を用いて、パスごとの作業負荷を算出し、決定手段は、特定のパスまでの積算値が限界値を超えた場合に、コンタクトチップのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定する、ものであってよい。
【0019】
また、本発明は、上記溶接作業手順作成装置から溶接作業情報、作業負荷、及び限界値を含む情報を取得する情報取得手段と、情報を画面に表示する表示手段とを備えた溶接作業支援装置も提供する。
【0020】
更に、本発明は、送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して溶加材に給電を行うコンタクトチップと、溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いて溶接を行う溶接方法であって、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得するステップと、溶接作業情報に基づいて、パスごとの作業負荷を算出するステップと、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを、溶接作業情報に基づいて決定するステップと、メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間にメンテナンスが行われるように制御するステップとを含む溶接方法も提供する。
【0021】
更にまた、本発明は、送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して溶加材に給電を行うコンタクトチップと、溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成方法であって、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得するステップと、溶接作業情報に基づいて、パスごとの作業負荷を算出するステップと、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを、溶接作業情報に基づいて決定するステップとを含む溶接作業手順作成方法も提供する。
【0022】
加えて、本発明は、送給モータの駆動により送給されるワイヤ状の溶加材に接触して溶加材に給電を行うコンタクトチップと、溶加材を外気からシールドするシールドガスを供給するノズルとを有するトーチを用いた溶接作業の手順を作成する溶接作業手順作成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報を取得する取得手段と、溶接作業情報に基づいて、パスごとの作業負荷を算出する算出手段と、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、特定のパスの後のパス間時間に行うことを、溶接作業情報に基づいて決定する決定手段として機能させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータをトータルでメンテナンスすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
図2】本発明の実施の形態における金属積層造形システムに設けられた溶接トーチの構成例を示した断面図である。
図3】本発明の実施の形態における積層計画装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】パス間時間が増大していく場合における部品のメンテナンスを行うタイミングの一例を示した図である。
図5-1】本発明の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
図5-2】本発明の実施の形態における積層計画支援装置の機能構成例を示した図である。
図6】本発明の実施の形態における制御装置の機能構成例を示した図である。
図7】本発明の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
図8-1】本発明の実施の形態における積層計画装置が行うメンテナンス時期設定処理の第1の例を示したフローチャートである。
図8-2】本発明の実施の形態における積層計画装置が行うメンテナンス時期設定処理の第2の例を示したフローチャートである。
図9】本発明の実施の形態における制御装置の動作例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0027】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接装置の一例であり、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、溶接電流計測器15と、カメラ16と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0028】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層体の一例である積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層のビード101を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0029】
溶接電流計測器15は、積層造形物100を造形中に溶接電源(図示せず)と溶接トーチ13との間に流れる溶接電流を計測し、計測した溶接電流の電流値を制御装置50に出力する。本実施の形態では、溶接作業中の溶接電流を計測する計測手段の一例として、溶接電流計測器15を設けている。
【0030】
カメラ16は、積層造形物100を造形中の例えば次のパスの溶接を開始する前に溶接トーチ13を撮影し、その撮影画像を制御装置50に出力する。本実施の形態では、トーチを撮像する撮像手段の一例として、カメラ16を設けている。
【0031】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0032】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビード101を形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。本実施の形態では、溶接作業手順作成装置の一例として、積層計画装置30を設けている。
【0033】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0034】
[溶接トーチの構成]
図2は、図1の金属積層造形システム1に設けられた溶接トーチ13の構成例を示した断面図である。
【0035】
図示するように、溶接トーチ13は、トーチ本体131と、ノズル132と、チップ基部133と、コンタクトチップ134と、支持部135とを備えている。
【0036】
ノズル132は、筒状の形状を有しており、筒状に形成されたトーチ本体131のうち図中下側となる開口側にはめ込まれることで、トーチ本体131に固定されている。このノズル132は、溶加材14を外気からシールドするシールドガス(例えば炭酸ガス)を積層造形物100(図1参照)に対して噴射するために設けられる。
【0037】
チップ基部133は、導電体で構成されると共に筒状の形状を有しており、トーチ本体131及びノズル132の内側に配置されると共にトーチ本体131の内周面に接触することで、トーチ本体131に固定されている。また、チップ基部133のうち空間を介してノズル132の内周面と対向する部位には、チップ基部133の側面を貫通するガス供給口133aが複数個設けられている。
【0038】
コンタクトチップ134は、導電体で構成されると共に筒状の形状を有しており、チップ基部133のうち図中下側となる開口側にはめ込まれることで、ノズル132の内側において、チップ基部133を介してトーチ本体131に固定されている。そして、コンタクトチップ134は、溶加材14に接触してこれに給電を行うものである。また、このコンタクトチップ134は、チップ基部133に対して着脱可能となっており、長期間の使用に伴ってコンタクトチップ134が消耗した場合には、コンタクトチップ134を交換することが可能となっている。
【0039】
支持部135は、筒状の形状を有しており、トーチ本体131のうち図中上側の開口においてトーチ本体131よりも上方に突出するチップ基部133にはめ込まれることで、チップ基部133を介してトーチ本体131に固定されている。この支持部135の図中上方には、図示しない基材が設けられており、支持部135は、この基材に支持されるようになっている。
【0040】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図3は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
【0041】
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0042】
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、図3は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0043】
また、図3に示したハードウェア構成は、制御装置50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御装置50について述べるときは、図3のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0044】
[本実施の形態の概要]
このような構成を備えた金属積層造形システム1による積層造形では、パスが非常に多いので、ビード101の品質の低下を招かないために、適切な時期に部品のメンテナンスを行う必要がある。
【0045】
また、積層造形では、パスが非常に多いので、造形中は無人化及び自動化がなされることが生産上好ましい。しかしながら、連続稼働による装置への負荷が大きいため、何らかの不具合が発生して生産性の低下や自動化の妨げとなっている。このことからも、部品のメンテナンスを適宜挟んで、金属積層造形システム1を適正な状態に保つ必要がある。
【0046】
ここで、本実施の形態では、金属積層造形システム1における部品として、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータを想定する。そして、これらの部品のメンテナンスとして、コンタクトチップ134の交換、ノズル132の清掃、送給抵抗の計測(例えばワイヤインチングした状態で送給モータの負荷電流を計測)を想定する。尚、ノズル132については清掃ではなく交換を行ってもよいが、以下では清掃を行うものとして説明する。
【0047】
まず、本実施の形態の基本的な考え方について説明する。
【0048】
本実施の形態では、溶接ロボット10の使用率をメンテナンスの一指標として考える。使用率は、以下のように定義される。
【0049】
使用率(%)=(使用電流/基準電流)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
【0050】
この使用率では、使用電流及びアークタイムが加味されている。使用電流はコンタクトチップ134の摩耗量及び溶加材14の先端に発生する熱量と相関するため、コンタクトチップ134の交換時期及び送給抵抗の計測時期を予測する指標に使える。また、アークタイムはコンタクトチップ134の摩耗量及びノズル132の汚れ量と相関するため、コンタクトチップ134の交換時期及びノズル132の清掃時期を予測する指標に使える。
【0051】
具体的には、コンタクトチップ134の交換時期を予測するための使用率t、ノズル132の清掃時期を予測するための使用率n、送給抵抗の計測時期を予測するための使用率wを、以下のように定めるとよい。
【0052】
使用率t(%)=(使用電流/基準電流t)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
使用率n(%)=(使用電流/基準電流n)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
使用率w(%)=(使用電流/基準電流w)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
【0053】
ここで、使用率及び基準電流に付したt,n,wの添え字は、それぞれ、コンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期を予測するための値であることを表している。
【0054】
更に、使用率には、溶加材14の送給方法に関する溶接モードに応じた係数を乗じることがあるものとする。例えば、溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する溶接モードで溶接を行う場合を考える。
【0055】
この場合、コンタクトチップ134の摩耗が多くなるので、使用率tは、1より大きな係数αを乗じて以下のような式とすればよい。
【0056】
使用率t(%)=α×(使用電流/基準電流t)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
【0057】
また、この場合、スパッタ量が少なくなりノズル132の汚れも少なくなるので、使用率nは、1より小さな係数βを乗じて以下のような式とすればよい。
【0058】
使用率n(%)=β×(使用電流/基準電流n)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間))×100
【0059】
一方で、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を予測するための使用率の限界値(以下、「許容限界値」という)は、例えば100%としてよい。但し、コンタクトチップ134の交換時期を予測するための許容限界値t、ノズル132の清掃時期を予測するための許容限界値n、送給抵抗の計測時期を予測するための許容限界値wは、異なる値としてもよい。
【0060】
このように、使用率t、使用率n、使用率wをそれぞれ許容限界値t、許容限界値n、許容限界値wと比較することで、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を1つの指標で予測することができる。
【0061】
また、パスごとに算出された使用率を複数パス分積算する場合、コンタクトチップ134の交換、ノズル132の清掃、送給抵抗の計測を行うべきかを、それぞれ、次の3つの式で判断する。
【0062】
許容限界値t≦Σ(使用率t(i))
許容限界値n≦Σ(使用率n(i))
許容限界値w≦Σ(使用率w(i))
【0063】
ここで、Σ(使用率t(i))、Σ(使用率n(i))、Σ(使用率w(i))は、それぞれ、i番目のパスの使用率t、使用率n、使用率wを複数パス分積算した値を表している。
【0064】
このような式により、パスごとの使用率のばらつきを考慮した総合的な使用率の判断を行うことができる。
【0065】
但し、コンタクトチップ134は、アークONOFFの回数、つまりパス数によっても摩耗量が増減する。即ち、アークON時の導通によって、溶加材14とコンタクトチップ134との接触部にジュール熱が発生し、微視的な溶融及び凝着が発生する。そして、その後の溶加材14の送給により、凝着の剥離が繰り返されることで、摩耗が発生する。
【0066】
そこで、コンタクトチップ134の交換時期については、使用率tだけでなく負荷率tも考慮して判断するのが好ましい。例えば、使用率tと負荷率tとの和を基準に判断することが考えられる。ここで、負荷率に付したtの添え字も、コンタクトチップ134の交換時期を予測するための値であることを表している。使用率tと負荷率tとの和は、以下のように定義される。
【0067】
使用率tと負荷率tとの和(%)=(σ+(使用電流/基準電流t)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間)))×100
【0068】
ここで、σは1パスあたりの負荷率tである。σとしては、1パスあたりの摩耗量と相関する値を用いるとよい。1パスあたりの摩耗量は、計測が困難であるため、次のような推定式を用いて算出するとよい。
【0069】
Δd =Nstart×Start+xAT×ATkx+yAT×ATky+zAT×ATkz+・・・
【0070】
この式において、Δd はk番目のコンタクトチップ134の摩耗量[mm]を表す。kはコンタクトチップ134の交換順に割り振られた番号を示す。摩耗量は便宜的にコンタクトチップ134の先端の径dの変化量の3乗値としてよい。また、NstartはアークON1回あたり、つまり1パスあたりの摩耗量[mm]を表し、Startはk番目のコンタクトチップ134でのアークONの回数、つまりパス数を表す。jATは条件jでのアーク発生中の単位時間あたりの摩耗量[mm]を表し、ATkjはk番目のコンタクトチップ134で使用した条件jのアークタイムを表す(j=x,y,z,・・・)。ここで条件とは例えば使用電流であり、その場合、条件jとは使用電流の具体的な電流値を示す。
【0071】
そして、実験で得られた値を上記推定式に当てはめて、1パスあたりの摩耗量Nstartを求め、この1パスあたりの摩耗量Nstartの1パスあたりの許容摩耗量に対する比率を1パスあたりの負荷率tであるσとする。尚、σは、積層計画を作成する前に求めておくとよい。
【0072】
更に、ここでも、使用率tには、溶加材14の送給方法に関する溶接モードに応じた係数を乗じることがあるものとする。例えば、溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する溶接モードで溶接を行う場合を考える。
【0073】
この場合、コンタクトチップ134の摩耗が多くなるので、使用率tと負荷率tとの和は、使用率tに1より大きな係数αを乗じて以下のような式とすればよい。
【0074】
使用率tと負荷率tとの和(%)=(σ+α×(使用電流/基準電流t)×(アークタイム/(アークタイム+パス間時間)))×100
【0075】
また、この場合も、パスごとに算出された使用率tと負荷率tとの和を複数パス分積算する場合、コンタクトチップ134の交換を、次の式で判断する。
【0076】
許容限界値t≦Σ(使用率tと負荷率tとの和(i))
【0077】
ここで、Σ(使用率tと負荷率tとの和(i))は、i番目のパスの使用率tと負荷率tとの和を複数パス分積算した値を表している。
【0078】
次に、本実施の形態におけるパス間時間とメンテナンス時期との関係について説明する。
【0079】
造形が進むにつれて、造形物は蓄熱されるのでその分パス間時間は増大していく傾向にある。図4は、このような場合に部品のメンテナンスを行うタイミングの一例を示した図である。図では、ハッチングを施した時間がアークON時間を示し、ハッチングを施していない時間がアークOFF時間を示す。図示するように、送給抵抗の計測及びコンタクトチップ134の交換(図では「送給抵抗計測+チップ交換」と表記)、ノズル132の清掃(図では「ノズル清掃」と表記)等の比較的時間のかかるメンテナンスは造形工程の後半に実施するとよい。一方、送給抵抗の計測のみのように短時間で済むメンテナンスは造形の前半でも実施できる。尚、メンテナンス頻度を調整することで1回あたりのメンテナンス時間を短縮できるが、どの程度の頻度とするかは生産性との兼ね合いで決定すればよい。
【0080】
次いで、本実施の形態におけるメンテナンス時期の修正について説明する。
【0081】
上記において、使用率及び許容限界値を算出する際に用いた使用電流及びアークタイムは、積層の軌道計画で設計された値としている。しかしながら、造形中はスラグやスパッタの発生等の溶接現場現象により計画とのずれが生じ得る。そこで、溶接電流計測器15により計測された溶接電流の電流値や、カメラ16により撮影された溶接トーチ13の画像に基づいて、メンテナンス時期を適宜修正する。この場合の修正の仕方は特に限定しない。例えば、実際の溶接電流が計画時に想定したものと異なっている場合にそれに応じて使用率を修正することでメンテナンス時期を修正するものでもよい。また、溶接トーチ13の撮影画像により異常の兆候が検出された場合に許容限界値から所定のオフセット値を減ずることでメンテナンス時期を修正するものでもよい。
【0082】
[本実施の形態の詳細]
以下、このような概要を実現する金属積層造形システム1について、積層計画装置30及び制御装置50の構成及び動作を中心に詳細に説明する。
【0083】
(積層計画装置の機能構成)
図5-1は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、メンテナンス時期設定部44と、制御プログラム生成部45と、制御プログラム出力部46とを備える。
【0084】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
【0085】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0086】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビード101を溶着する際の溶接条件やアーク狙い位置を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビード101の高さや幅の他、ビード101の断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。本実施の形態では、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、アーク狙い位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。また、積層計画部43には、積層計画中にパス間時間の情報も含める。本実施の形態では、パスごとの溶接作業条件及びパス間時間を示す溶接作業情報の一例として、積層計画を用いており、溶接作業情報を取得する取得手段の一例として、積層計画部43を設けている。
【0087】
メンテナンス時期設定部44は、積層計画部43が生成した積層計画から、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を算出し、パス間時間にこれらのメンテナンス時期を設定する。
【0088】
具体的には、メンテナンス時期設定部44は、積層計画部43が生成した積層計画から、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのそれぞれについて、前回のメンテナンス以降の使用率t、使用率n、使用率wを算出する。これらの使用率t、使用率n、使用率wは、パスごとの使用率t、使用率n、使用率wを積算した値としてよい。ここで、積層造形では、パスごとにその特徴に応じた溶加材14の送給方法に関する溶接モードで溶接を行うのが一般的である。そのような溶接モードには、溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと、溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとがある。そこで、パスごとの使用率も溶接モードを考慮した算出式を用いて算出するとよい。この溶加材14の送給方法を考慮した算出式としては、例えば、上述したように、使用率を算出する式の右辺全体に部品の種類及び溶接モードに応じた係数を乗じたものを用いるとよい。本実施の形態では、溶接作業情報に基づいてパスごとの作業負荷を算出する算出手段の一例として、メンテナンス時期設定部44における使用率t、使用率n、使用率wを算出する機能を設けている。
【0089】
また、メンテナンス時期設定部44は、あるパスの造形中に使用率tが許容限界値tを超えれば、コンタクトチップ134の交換時期が近付いていると判断し、そのパスの後のパス間時間にコンタクトチップ134の交換時期を設定する。あるパスの造形中に使用率nが許容限界値nを超えれば、ノズル132の清掃時期が近付いていると判断し、そのパスの後のパス間時間にノズル132の清掃時期を設定する。あるパスの造形中に使用率wが許容限界値wを超えれば、送給抵抗の計測時期が近付いていると判断し、そのパスの後のパス間時間に送給抵抗の計測時期を設定する。その際、あるパスの後のパス間時間は、積層計画部43が生成した積層計画から特定する。本実施の形態では、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップ、ノズル、及び、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定する決定手段の一例として、メンテナンス時期設定部44におけるコンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期を設定する機能を設けている。
【0090】
或いは、メンテナンス時期設定部44は、積層計画部43が生成した積層計画から、コンタクトチップ134について、前回のメンテナンス以降の使用率tを算出し、これにコンタクトチップ134の摩耗量の推定値に基づく負荷率tを加算した和を算出してもよい。この使用率tと負荷率tとの和は、パスごとの使用率tと負荷率tとの和を積算した値としてよい。ここで、積層造形では、パスごとにその特徴に応じた溶加材14の送給方法に関する溶接モードで溶接を行うのが一般的である。そのような溶接モードには、溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと、溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとがある。そこで、パスごとの使用率tも溶接モードを考慮した算出式を用いて算出するとよい。この溶加材14の送給方法を考慮した算出式としては、例えば、上述したように、使用率tと負荷率tとの和を算出する式の使用率tの項全体に溶接モードに応じた係数を乗じたものを用いるとよい。また、負荷率tは、コンタクトチップ134の摩耗量の推定値を用いて予め求めておくとよい。本実施の形態では、コンタクトチップの摩耗量の推定値を用いてパスごとの作業負荷を算出する算出手段の一例として、メンテナンス時期設定部44における使用率tと負荷率tとの和を算出する機能を設けている。
【0091】
また、メンテナンス時期設定部44は、あるパスの造形中に使用率tと負荷率tとの和が許容限界値tを超えれば、コンタクトチップ134の交換時期が近付いていると判断し、そのパスの後のパス間時間にコンタクトチップ134の交換時期を設定してもよい。その際、あるパスの後のパス間時間は、積層計画部43が生成した積層計画から特定する。本実施の形態では、特定のパスまでの作業負荷の積算値が予め定められた作業負荷の限界値を超えた場合に、コンタクトチップのメンテナンスを特定のパスの後のパス間時間に行うことを決定する決定手段の一例として、メンテナンス時期設定部44におけるコンタクトチップ134の交換時期を設定する機能を設けている。
【0092】
更に、メンテナンス時期設定部44は、パス間時間とそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間とを比較する。そして、パス間時間の方が短い場合は、例えば、何れかのメンテナンスを1つ以上前のパスで行うようにして、パス間時間がそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間よりも長くなるようにするとよい。本実施の形態では、パス間時間とメンテナンスに要する時間との比較結果に基づいて、メンテナンスをパス間時間に行うことを決定する決定手段の一例として、メンテナンス時期設定部44を設けている。
【0093】
制御プログラム生成部45は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。また、その際、制御プログラムには、メンテナンス時期設定部44がコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定したパス間時間の設定情報を組み込む。例えば、この設定情報は、そのパス間時間にコンタクトチップ134の交換、ノズル132の清掃、送給抵抗の計測を作業者に促す情報を表示する命令として組み込むとよい。或いは、そのパス間時間にコンタクトチップ134の自動交換を行う装置、ノズル132の自動清掃を行う装置、送給抵抗の自動計測を行う装置がこれらの処理を行うように制御する命令として組み込んでもよい。
【0094】
制御プログラム出力部46は、制御プログラム生成部45が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0095】
ここで、積層計画装置30は、図1には示さなかったが、積層計画支援装置80に接続されていてもよい。
【0096】
図3に示したハードウェア構成は、積層計画支援装置80のハードウェア構成としても捉えられる。但し、積層計画支援装置80について述べるときは、図3のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU81、メインメモリ82、磁気ディスク装置83、通信I/F84、表示機構85、入力デバイス86、ドライバ87と表記するものとする。
【0097】
図5-2は、本実施の形態における積層計画支援装置80の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画支援装置80は、情報取得部91と、表示制御部92とを備える。
【0098】
情報取得部91は、積層計画装置30から、積層計画部43が生成した積層計画、メンテナンス時期設定部44が算出した使用率t、使用率n、使用率w、及び、メンテナンス時期設定部44が保持する許容限界値t、許容限界値n、許容限界値wを含む情報を取得する。本実施の形態では、溶接作業手順作成装置から溶接作業情報、作業負荷、及び限界値を含む情報を取得する情報取得手段の一例として、情報取得部91を設けている。
【0099】
表示制御部92は、情報取得部91が取得した情報を表示機構85に表示するように制御する。本実施の形態では、情報を画面に表示する表示手段の一例として、表示制御部92を設けている。
【0100】
(制御装置の機能構成)
図6は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63と、電流値受信部64と、撮影画像受信部65と、制御プログラム修正部66とを備える。
【0101】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
【0102】
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0103】
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、積層計画部43が生成した積層計画に従ってビード101を形成するよう、溶接ロボット10を制御する。また、制御プログラム実行部63は、メンテナンス時期設定部44がメンテナンス時期を設定したパス間時間にコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンスが行われるように制御する。例えば、そのパス間時間にコンタクトチップ134の交換、ノズル132の清掃、送給抵抗の計測を作業者に促す情報を表示してよい。或いは、そのパス間時間にコンタクトチップ134の自動交換を行う装置、ノズル132の自動清掃を行う装置、送給抵抗の自動計測を行う装置がこれらの処理を行うように制御してもよい。本実施の形態では、メンテナンスを行うことが決定されたパス間時間にメンテナンスが行われるように制御する制御手段の一例として、制御プログラム実行部63を設けている。
【0104】
電流値受信部64は、溶接電流計測器15から溶接電流の電流値を受信する。
【0105】
撮影画像受信部65は、カメラ16から溶接トーチ13の画像を受信する。
【0106】
制御プログラム修正部66は、電流値受信部64が受信した溶接電流の電流値又は撮影画像受信部65が受信した溶接トーチ13の画像に基づいて、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムに組み込まれた設定情報におけるパス間時間を修正する。
【0107】
具体的には、電流値受信部64が受信した溶接電流の電流値を使用電流として使用率t、使用率n、使用率wを再度算出し、これによって計画時に算出した使用率t、使用率n、使用率wを修正する。そして、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのそれぞれについて、これまでの使用率の積算値に修正後の使用率を加算した値と許容限界値との大小関係が計画時と異なっていれば、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する。本実施の形態では、パスごとの作業負荷を溶接電流によって修正することにより、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段の一例として、制御プログラム修正部66における溶接電流の電流値に基づいてメンテナンスが行われるパス間時間を変更する機能を設けている。
【0108】
また、撮影画像受信部65が受信した溶接トーチ13の画像に基づいて許容限界値nを修正する。例えば、計画時に想定していたよりもノズル132に汚れが付いた場合は、許容限界値nを小さくする。そして、ノズル132について、これまでの使用率の積算値と修正後の許容限界値との大小関係が計画時と異なっていれば、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する。本実施の形態では、作業負荷の限界値を撮像された画像に基づいて修正することにより、メンテナンスが行われるパス間時間を変更する変更手段の一例として、制御プログラム修正部66における溶接トーチ13の画像に基づいてメンテナンスが行われるパス間時間を変更する機能を設けている。
【0109】
尚、このようにメンテナンスが行われるパス間時間を変更するために、計画時にメンテナンス時期をパス間時間に設定するのに用いたデータは、制御プログラムに含められて、積層計画装置30から制御プログラム実行部63へと渡されているものとする。そして、制御プログラム修正部66は、このデータを用いて、メンテナンスが行われるパス間時間を変更可能となっているものとする。
【0110】
(積層計画装置の動作)
図7は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0111】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
【0112】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
【0113】
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
【0114】
次いで、メンテナンス時期設定部44が、ステップ303で生成された積層計画を用いて、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定するメンテナンス時期設定処理を行う(ステップ304)。このメンテナンス時期設定処理の詳細については、後述する。
【0115】
その後、制御プログラム生成部45が、ステップ303で生成された積層計画と、ステップ304のメンテナンス時期設定処理で設定されたメンテナンス時期とに基づいて、制御プログラムを生成する(ステップ305)。具体的には、積層計画に従ってビード101を形成するように溶接ロボット10を制御し、メンテナンス時期にメンテナンスが行われるように制御する制御プログラムを生成する。
【0116】
最後に、制御プログラム出力部46が、ステップ305で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ306)。
【0117】
図8-1は、図7のステップ304のメンテナンス時期設定処理の第1の例を示したフローチャートである。尚、ここでは、コンタクトチップ134の交換時期を判断するための使用率の積算値及び許容限界値をそれぞれRt,Ltと表記し、ノズル132の清掃時期を判断するための使用率の積算値及び許容限界値をそれぞれRn,Lnと表記し、送給抵抗の計測時期を判断するための使用率の積算値及び許容限界値をそれぞれRw,Lwと表記する。そして、メンテナンス時期設定部44が、メンテナンス時期設定処理を実行するに先立ち、許容限界値Lt,Ln,Lwを、図示しない記憶領域から読み出して保持しているものとする
【0118】
メンテナンス時期設定処理を開始すると、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiを1に設定する(ステップ351)。つまり、1つ目のパスに着目する。
【0119】
次に、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiをパスの個数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについてステップ361~ステップ391の処理を行う。
【0120】
即ち、メンテナンス時期設定部44は、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのそれぞれについて、前回のメンテナンス以降に算出した使用率の積算値Rt,Rn,Rwを、許容限界値Lt,Ln,Lwと比較することにより、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定する。具体的には、コンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期を設定する。尚、コンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期の設定は順次行ってもよいが、この動作例では並行して行うものとしている。
【0121】
第一に、コンタクトチップ134の交換時期を設定する処理について説明する。
【0122】
この処理において、メンテナンス時期設定部44は、インデックスiのパスP(i)を溶接する際の溶接モードに応じた使用率Rt(i)を算出する(ステップ361)。ここで、溶接モードに応じた使用率Rt(i)は、例えば、上述した使用率の算出式の右辺全体に溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとで異なる係数を乗じたものを用いて、算出すればよい。
【0123】
次に、メンテナンス時期設定部44は、前回のコンタクトチップ134の交換以降に算出した使用率の積算値Rtに、ステップ361で算出した使用率Rt(i)を加算する(ステップ362)。そして、使用率の積算値Rtが許容限界値Ltを超えたかどうか判定する(ステップ363)。
【0124】
その結果、使用率の積算値Rtが許容限界値Ltを超えたと判定すれば、コンタクトチップ134の交換時期が近付いているので、メンテナンス時期設定部44は、パスP(i)を溶接した後のパス間時間にコンタクトチップ134の交換時期を設定する(ステップ364)。そして、使用率の積算値Rtを0に設定し(ステップ365)、処理をステップ391へ進める。
【0125】
一方、使用率の積算値Rtが許容限界値Ltを超えていないと判定すれば、コンタクトチップ134の交換時期は近付いていないので、メンテナンス時期設定部44は、そのまま処理をステップ391へ進める。
【0126】
第二に、ノズル132の清掃時期を設定する処理について説明する。
【0127】
この処理において、メンテナンス時期設定部44は、インデックスiのパスP(i)を溶接する際の溶接モードに応じた使用率Rn(i)を算出する(ステップ371)。ここで、溶接モードに応じた使用率Rn(i)は、例えば、上述した使用率の算出式の右辺全体に溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとで異なる係数を乗じたものを用いて、算出すればよい。
【0128】
次に、メンテナンス時期設定部44は、前回のノズル132の清掃以降に算出した使用率の積算値Rnに、ステップ371で算出した使用率Rn(i)を加算する(ステップ372)。そして、使用率の積算値Rnが許容限界値Lnを超えたかどうか判定する(ステップ373)。
【0129】
その結果、使用率の積算値Rnが許容限界値Lnを超えたと判定すれば、ノズル132の清掃時期が近付いているので、メンテナンス時期設定部44は、パスP(i)を溶接した後のパス間時間にノズル132の清掃時期を設定する(ステップ374)。そして、使用率の積算値Rnを0に設定し(ステップ375)、処理をステップ391へ進める。
【0130】
一方、使用率の積算値Rnが許容限界値Lnを超えていないと判定すれば、ノズル132の清掃時期は近付いていないので、メンテナンス時期設定部44は、そのまま処理をステップ391へ進める。
【0131】
第三に、送給抵抗の計測時期を設定する処理について説明する。
【0132】
この処理において、メンテナンス時期設定部44は、インデックスiのパスP(i)を溶接する際の溶接モードに応じた使用率Rw(i)を算出する(ステップ381)。ここで、溶接モードに応じた使用率Rw(i)は、例えば、上述した使用率の算出式の右辺全体に溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとで異なる係数を乗じたものを用いて、算出すればよい。
【0133】
次に、メンテナンス時期設定部44は、前回の送給抵抗の計測以降に算出した使用率の積算値Rwに、ステップ381で算出した使用率Rw(i)を加算する(ステップ382)。そして、使用率の積算値Rwが許容限界値Lwを超えたかどうか判定する(ステップ383)。
【0134】
その結果、使用率の積算値Rwが許容限界値Lwを超えたと判定すれば、送給抵抗の計測時期が近付いているので、メンテナンス時期設定部44は、パスP(i)を溶接した後のパス間時間に送給抵抗の計測時期を設定する(ステップ384)。そして、使用率の積算値Rwを0に設定し(ステップ385)、処理をステップ391へ進める。
【0135】
一方、使用率の積算値Rwが許容限界値Lwを超えていないと判定すれば、送給抵抗の計測時期は近付いていないので、メンテナンス時期設定部44は、そのまま処理をステップ391へ進める。
【0136】
これらの処理によりコンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期が設定されると、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiに1を加算する(ステップ391)。つまり、次のパスに着目する。そして、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたかどうかを判定する(ステップ392)。
【0137】
その結果、パスのインデックスiがパスの個数nを超えていないと判定すれば、メンテナンス時期設定部44は、処理をステップ361、ステップ371、ステップ381へ戻す。
【0138】
一方、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたと判定すれば、メンテナンス時期設定部44は、ステップ364、ステップ374、ステップ384で設定されたメンテナンス時期を、パス間時間に収まるように調整する(ステップ393)。具体的には、各パス間時間について、そのパス間時間とそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間とを比較する。そして、パス間時間の方が短い場合は、例えば、何れかのメンテナンスを1つ以上前のパスで行うようにして、パス間時間がそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間よりも長くなるようにする。その後、メンテナンス時期設定部44は、処理を図7に戻す。
【0139】
尚、この動作例では、パスP(i)までの使用率の積算値Rt,Ru,Rwがそれぞれ許容限界値Lt,Lu,Lwを超えた場合に、パスP(i)の後のパス間時間にそれぞれコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定するようにしたが、これには限らない。パスP(i)までの使用率の積算値Rt,Ru,Rwがそれぞれ許容限界値Lt,Lu,Lwを超えていない場合であっても、パスP(i+1)における使用率が一定以上であれば、パスP(i)の後のパス間時間にそれぞれコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定するようにしてもよい。
【0140】
図8-2は、図7のステップ304のメンテナンス時期設定処理の第2の例を示したフローチャートである。尚、ここでは、コンタクトチップ134の交換時期を判断するための使用率と負荷率との和の積算値及び許容限界値をそれぞれRt,Ltと表記し、ノズル132の清掃時期を判断するための使用率の積算値及び許容限界値をそれぞれRn,Lnと表記し、送給抵抗の計測時期を判断するための使用率の積算値及び許容限界値をそれぞれRw,Lwと表記する。また、コンタクトチップ134の交換時期を判断するためにコンタクトチップ134の摩耗量の推定値を用いて予め求めておいた負荷率をσと表記する。そして、メンテナンス時期設定部44が、メンテナンス時期設定処理を実行するに先立ち、許容限界値Lt,Ln,Lw及び負荷率σを、図示しない記憶領域から読み出して保持しているものとする
【0141】
メンテナンス時期設定処理を開始すると、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiを1に設定する(ステップ451)。つまり、1つ目のパスに着目する。
【0142】
次に、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiをパスの個数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについてステップ461~ステップ491の処理を行う。
【0143】
即ち、メンテナンス時期設定部44は、コンタクトチップ134について、前回のメンテナンス以降に算出した使用率と負荷率との和の積算値Rtを、許容限界値Ltと比較することにより、コンタクトチップ134のメンテナンス時期を設定する。また、メンテナンス時期設定部44は、ノズル132、送給モータのそれぞれについて、前回のメンテナンス以降に算出した使用率の積算値Rn,Rwを、許容限界値Ln,Lwと比較することにより、ノズル132、送給モータのメンテナンス時期を設定する。具体的には、コンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期を設定する。尚、コンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期の設定は順次行ってもよいが、この動作例では並行して行うものとしている。
【0144】
第一に、コンタクトチップ134の交換時期を設定する処理について説明する。
【0145】
この処理において、メンテナンス時期設定部44は、インデックスiのパスP(i)を溶接する際の溶接モードに応じた使用率Rt(i)を算出する(ステップ461)。ここで、溶接モードに応じた使用率Rt(i)は、例えば、上述した使用率と負荷率との和の算出式の使用率の項全体に溶加材14を一定速度で送給する場合の溶接モードと溶加材14をその正送及び逆送を高速に繰り返しながら送給する場合の溶接モードとで異なる係数を乗じたものを用いて、算出すればよい。
【0146】
次に、メンテナンス時期設定部44は、前回のコンタクトチップ134の交換以降に算出した使用率と負荷率との和の積算値Rtに、予め保持していた負荷率σと、ステップ461で算出した使用率Rt(i)とを加算する(ステップ462)。そして、使用率と負荷率との和の積算値Rtが許容限界値Ltを超えたかどうか判定する(ステップ463)。
【0147】
その結果、使用率と負荷率との和の積算値Rtが許容限界値Ltを超えたと判定すれば、コンタクトチップ134の交換時期が近付いているので、メンテナンス時期設定部44は、パスP(i)を溶接した後のパス間時間にコンタクトチップ134の交換時期を設定する(ステップ464)。そして、使用率と負荷率との和の積算値Rtを0に設定し(ステップ465)、処理をステップ491へ進める。
【0148】
一方、使用率と負荷率との和の積算値Rtが許容限界値Ltを超えていないと判定すれば、コンタクトチップ134の交換時期は近付いていないので、メンテナンス時期設定部44は、そのまま処理をステップ491へ進める。
【0149】
第二に、ノズル132の清掃時期を設定する処理についてであるが、ステップ471~ステップ475は図8-1のステップ371~375と同じなので、説明を省略する。
【0150】
第三に、送給抵抗の計測時期を設定する処理についてであるが、ステップ481~ステップ485は図8-1のステップ381~385と同じなので、説明を省略する。
【0151】
これらの処理によりコンタクトチップ134の交換時期、ノズル132の清掃時期、送給抵抗の計測時期が設定されると、メンテナンス時期設定部44は、パスのインデックスiに1を加算する(ステップ491)。つまり、次のパスに着目する。そして、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたかどうかを判定する(ステップ492)。
【0152】
その結果、パスのインデックスiがパスの個数nを超えていないと判定すれば、メンテナンス時期設定部44は、処理をステップ461、ステップ471、ステップ481へ戻す。
【0153】
一方、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたと判定すれば、メンテナンス時期設定部44は、ステップ464、ステップ474、ステップ484で設定されたメンテナンス時期を、パス間時間に収まるように調整する(ステップ493)。具体的には、各パス間時間について、そのパス間時間とそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間とを比較する。そして、パス間時間の方が短い場合は、例えば、何れかのメンテナンスを1つ以上前のパスで行うようにして、パス間時間がそのパス間時間に設定された全てのメンテナンスが完了するまでの時間よりも長くなるようにする。その後、メンテナンス時期設定部44は、処理を図7に戻す。
【0154】
尚、この動作例では、パスP(i)までの使用率と負荷率との和の積算値Rtが許容限界値Ltを超えた場合に、パスP(i)の後のパス間時間にコンタクトチップ134のメンテナンス時期を設定するようにしたが、これには限らない。パスP(i)までの使用率と負荷率との和の積算値Rtが許容限界値Ltを超えていない場合であっても、パスP(i+1)における使用率と負荷率との和が一定以上であれば、パスP(i)の後のパス間時間にコンタクトチップ134のメンテナンス時期を設定するようにしてもよい。
【0155】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。そして、制御プログラム実行部63が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0156】
図9は、この制御プログラム実行部63の動作例を示したフローチャートである。
【0157】
制御プログラム実行部63は、まず、パスのインデックスiを1に設定する(ステップ501)。つまり、1つ目のパスに着目する。
【0158】
次に、制御プログラム実行部63は、パスのインデックスiをパスの個数nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについてステップ502~ステップ505の処理を行う。
【0159】
即ち、制御プログラム実行部63は、インデックスiのパスP(i)を溶接するよう溶接ロボット10を制御する(ステップ502)。
【0160】
次に、制御プログラム実行部63は、パスP(i)の溶接が終了したかどうかを判定する(ステップ503)。パスP(i)の溶接が終了していないと判定すれば、制御プログラム実行部63は、ステップ502を繰り返し、パスP(i)の溶接が終了したと判定すれば、制御プログラム実行部63は、パスP(i)の後のパス間時間にメンテナンス時期が設定されているかどうかを判定する(ステップ504)。
【0161】
その結果、パスP(i)の後のパス間時間にメンテナンス時期が設定されていると判定すれば、制御プログラム実行部63は、パスP(i)の後のパス間時間にメンテナンスが行われるように制御する(ステップ505)。例えば、そのパス間時間にコンタクトチップ134の交換、ノズル132の清掃、送給抵抗の計測を作業者に促す情報を表示する。或いは、そのパス間時間にコンタクトチップ134の自動交換を行う装置、ノズル132の自動清掃を行う装置、送給抵抗の自動計測を行う装置がこれらの処理を行うように制御する。そして、制御プログラム実行部63は、処理をステップ506へ進める。
【0162】
一方、パスP(i)の後のパス間時間にメンテナンス時期が設定されていないと判定すれば、制御プログラム実行部63は、そのまま処理をステップ506へ進める。
【0163】
その後、制御プログラム実行部63は、パスのインデックスiに1を加算する(ステップ506)。つまり、次のパスに着目する。そして、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたかどうかを判定する(ステップ507)。
【0164】
その結果、パスのインデックスiがパスの個数nを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部63は、処理をステップ502へ戻す。
【0165】
一方、パスのインデックスiがパスの個数nを超えたと判定すれば、制御プログラム実行部63は、処理を終了する。
【0166】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータについて、使用率が許容限界値を超えた場合にメンテナンスを行うようにした。これにより、コンタクトチップ134、ノズル132、送給モータの少なくとも何れか1つのメンテナンスを、1つの指標を用いて設定できるようになった。
【0167】
[変形例]
上記では、積層造形においてコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンスを行う時期を設定するものとしたが、これには限らない。一般的な多層盛りにおいてコンタクトチップ134、ノズル132、送給モータのメンテナンスを行う時期を設定するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0168】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…メンテナンス時期設定部、45…制御プログラム生成部、46…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、64…電流値受信部、65…撮影画像受信部、66…制御プログラム修正部、70…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9