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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】歯科矯正ブラケット及び歯科矯正装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/28 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
A61C7/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020516585
(86)(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 IB2018057231
(87)【国際公開番号】W WO2019064127
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】17193625.5
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ゴルヒャー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ペール,ラルフ エム.
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1301886(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第2000-0037379(KR,A)
【文献】特開平08-150154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科矯正ブラケットを患者の歯に接合するための歯対向面と、アーチワイヤを受け入れるためのスロットと、を含む歯科矯正ブラケットを有する歯科矯正装置であって、前記スロットは、アーチワイヤ軸に沿って前記歯科矯正ブラケットを通って延びており、前記スロットは、スロットベース面、反対側のスロットカバー面、及び2つの対向するスロット側面によって前記アーチワイヤ軸の半径方向に定められており、前記スロットカバー面は、前記歯対向面から前記スロットの反対側にあり、前記スロットは、前記スロット側面のうちの一方と前記スロットカバー面との間の間隙によって形成された開放側面を有し、
前記歯科矯正装置は、前記歯科矯正ブラケットの前記スロットを通って延びる歯科矯正アーチワイヤと、歯科矯正結紮と、を更に有し、前記歯科矯正結紮の少なくとも一部分は、前記歯科矯正アーチワイヤと前記スロットカバー面との間の前記スロット内に配置されており、これにより前記2つのスロット側面、前記スロットベース面、及び前記歯科矯正結紮の前記少なくとも一部分の間に前記歯科矯正アーチワイヤを捕捉し、前記歯科矯正結紮は、前記アーチワイヤと前記スロットカバー面との間の空間を充填する、歯科矯正装置。
【請求項2】
前記スロットベース面及び前記2つのスロット側面は平面であり、前記2つのスロット側面は、互いに平行であり、かつ前記スロットベース面に対して垂直である、請求項1に記載の歯科矯正装置。
【請求項3】
前記間隙は、前記アーチワイヤ軸に対して垂直な方向において間隙幅を有し、前記スロットは、同じ方向において前記スロットベース面と前記スロットカバー面との間にスロット幅を有し、前記スロット幅は、前記間隙幅の2倍以下である、請求項1又は2に記載の歯科矯正装置。
【請求項4】
前記間隙は、前記歯科矯正ブラケットの咬合面に配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科矯正装置。
【請求項5】
前記歯対向面は、前記患者の歯の形状に対してカスタマイズされた形状を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科矯正装置。
【請求項6】
前記歯科矯正ブラケットは、舌側歯科矯正ブラケットである、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科矯正ブラケットに関し、具体的には、アーチワイヤを受け入れるためのスロットを有する歯科矯正ブラケットに関する。スロットは、アーチワイヤ軸の4半径方向全てで定められている。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正ブラケットは、歯を患者の歯列の初期位置から所望位置まで移動するための歯列矯正治療において使用される。初期位置は、通常、歯科矯正治療の開始時の位置、例えば、歯(複数)の唇側面同士が互いに整列していない位置を指し、一方、所望位置では同じ歯(複数)の唇側面同士が通常は概ね整列され得る。
【0003】
例えば、歯列により審美的に好感度の高い外観を与えるために患者の歯を相互に対して整列させることができる。更に、1本以上の歯を、不正咬合を相殺するように歯列内で移動させてもよい。歯(1本又は複数)のこのような移動は、通常は、歯に装着された歯科矯正ブラケットを使用することにより実現することができる。歯科矯正ブラケットは、通常は、長期間にわたり所望位置に向けて歯に力をかけるための弾性歯科矯正アーチワイヤに連結されている。歯科矯正アーチワイヤは、典型的には、歯科矯正結紮によって、歯科矯正ブラケットのそれぞれに設けられるスロット内に固定される。歯科矯正結紮は、典型的には、歯科矯正アーチワイヤをスロット内へ付勢するために、歯科矯正ブラケットにわたって伸張される弾性バンドによって形成される。アーチワイヤに連結された、いくつかの歯科矯正ブラケットは、歯科矯正分野においては通常、歯科矯正装置と呼ばれる。
【0004】
歯科矯正ブラケットは多くの場合、異なる患者の臨床状況での使用のために構成した既成の製品である。更に、通常、ある特定の患者の個別の臨床状況に適合するように製造された、カスタマイズされた歯科矯正ブラケットが存在する。
【0005】
例えば、米国特許出願公開第2012/0015315(A1)号(Wiechmannら)は、歯科矯正ブラケットを患者の歯に接合するためのカスタマイズされた歯科矯正ブラケット接合パッドと、カスタマイズされたアーチワイヤを受け入れるように適合された歯科矯正ブラケットスロットと、を有する歯科矯正ブラケットを備えた歯科矯正ブラケットシステムを開示している。カスタマイズされたアーチワイヤは、歯科矯正ブラケットスロットとアーチワイヤとの正確なインタフェースを形成するように歯科矯正ブラケットスロットに配置されるようになっている。
【0006】
歯科矯正装置に対しては、各歯の3次元での移動を、こうした3次元を軸とするねじりを含めて制御可能とすることが望まれている。歯列矯正においては、この3次元は、通常は、それぞれの歯について個別に定義された3次元デカルト座標系に基づいている。更に、これらの軸を中心とするねじりの方向は、通常は「トルク」、「回転」、「アンギュレーション」と呼ばれる。通常は、用語「トルク」は、歯の近心遠心軸を中心とする歯のねじれを意味し、これは、歯列弓が沿って延びる中立線の接線の方向において定義される。用語「回転」は、通常は、歯軸(すなわち歯冠と根尖の軸)を中心とするねじれを意味し、歯根と歯の咬合側又は切縁側との間の方向において定義される。歯軸は、通常は、又は望ましくは、解剖学上の垂直な体軸と一致するほぼ垂直な線である。更に、用語「アンギュレーション」は、通常は口腔前庭-舌側歯軸を中心とする歯のねじれを指し、頬又は唇と舌との間の方向において定義される。近心遠心歯軸、歯軸、及び口腔前庭と舌側との歯軸は、通常は歯のほぼ中央で交わる。
【0007】
種々の異なる歯科矯正ブラケット及び歯科矯正ブラケットシステムが販売されているが、異なる方向及び配向における移動を制御する能力を最大化する歯科矯正ブラケットシステムを提供することがなお望まれている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は歯科矯正ブラケットに関する。歯科矯正ブラケットは、アーチワイヤを受け入れるためのスロットを形成する。スロットは、アーチワイヤ軸に沿って歯科矯正ブラケットを通って延びる。スロットは、スロットベース面、反対側のスロットカバー面、及び2つの対向するスロット側面によって、アーチワイヤ軸の半径方向に定められている。スロットは、スロット側面のうちの一方とスロットカバー面との間の間隙によって形成された開放側面を有する。
【0009】
本発明は、患者の歯(1本又は複数)の移動中に最大化されたトルク、回転、及びトルク制御を提供する歯科矯正ブラケット及び歯科矯正装置を提供するという点で有益である。一般的な歯科矯正結紮は、歯科矯正ブラケットのスロット内に歯科矯正アーチワイヤを固定することができるが、スロットが開放している方向にアーチワイヤによって及ぼされる力は、場合によっては、歯科矯正結紮がアーチワイヤをスロット内に付勢することができる力を超える場合のあることが分かっている。このような場合、歯科矯正アーチワイヤは、張力を幾分失い、歯科矯正ブラケットに所望の力全体を加えることができない。したがって、従来技術の歯科矯正ブラケットでは、歯の運動の制御は、スロット開口が配向される場所に応じて、口腔前庭-舌側歯軸、歯冠-根尖歯軸、又は近心-遠心歯軸のうちの1つに影響され得る。本発明の歯科矯正ブラケット及び歯科矯正装置は、口腔前庭-舌側歯軸、歯冠-根尖歯軸、及び更には近心-遠心歯軸における運動の最大化された制御を提供する。更に、歯科矯正ブラケット及び歯科矯正装置は、3つの軸全てを中心としたねじれ及び3つの軸全てに沿った移動を同時に制御することができる。これにより、いくつかの特定の状況において1本以上の歯をねじる又は移動させるための任意の追加又は拡張治療を省くことができるため、治療時間の最小化に役立つ。
【0010】
本発明によれば、スロットは、好ましくは、スロットベース面、スロットカバー面、及び2つの対向するスロット側面の4つの面によって形成される。これら4つの面は、好ましくは、アーチワイヤ軸に向かって異なる方向に配向される。これは、4つの表面のそれぞれが、好ましくは、アーチワイヤ軸に面していることを意味する。こうした異なる方向は、好ましくは、アーチワイヤ軸に向かう方向に、それぞれの表面に対して垂直であるベクトルを指す。好ましくは、これらのベクトルは、アーチワイヤ軸に対して横断する又は垂直である共通の平面内に配置される。4つの面は平面であってもよく、平面の1つの方向は、アーチワイヤ軸に平行に配向されてもよい。
【0011】
本明細書で言及するとき、用語「通って延びる」は、具体的には、スロットが歯科矯正ブラケット全体を通って延びることを意味する。つまり、スロットが、好ましくは、アーチワイヤ軸線に沿った両方向に開放されていることを意味する。
【0012】
アーチワイヤ軸は、典型的には、歯科矯正ブラケットに関連付けられる歯の近心-遠心歯軸に平行又は略平行である。更に、アーチワイヤ軸は、歯科矯正ブラケットの歯対向面に平行又は略平行であってもよい。歯科矯正ブラケットの歯対向面は、歯科矯正ブラケットを患者の歯に接合するために使用される。
【0013】
一実施形態では、スロットベース面及び2つのスロット側面は平面である。2つのスロット側面は、好ましくは、互いに平行である。更に、2つのスロット側面は、スロットベース面に垂直である。したがって、スロットベース面及び2つのスロット側面は、2つの側面の間にぴったりと嵌合するようにサイズ決めされた矩形アーチワイヤと係合するように構成される。スロットカバー面は平面であり、スロットベース面に対して平行であってもよい。しかしながら、スロットカバー面は、適宜異なる形状を有してもよい。
【0014】
一実施形態では、スロットは、アーチワイヤ軸に垂直な平面内でL字形である。スロットは、具体的には、スロットがアーチワイヤ軸に沿って延びるL字形プロファイルを有し得る。更に、アーチワイヤ軸に垂直な平面上のスロットの輪郭の少なくとも突出部は、L字形であってもよい。これにより、スロットベース面及び2つのスロット側面はL字形の水平部分を形成してもよく、スロットカバー面はL字形状の垂直部分に属してもよい。この点に関して、用語「水平」及び「垂直」は、用語「L字型」で言及される文字「L」を指すことに留意されたい。
【0015】
一実施形態では、間隙は、アーチワイヤ軸に垂直な口腔前庭-舌側歯方向における間隙幅を有する。更に、スロットは、同じ口腔前庭-舌側歯方向におけるスロットベース面とスロットカバー面との間のスロット幅を有する。したがって、間隙幅とスロット幅は、互いに平行に延びる。スロット幅は、好ましくは、間隙幅の2倍以下である。したがって、間隙を通って嵌合するアーチワイヤ幅を呈するアーチワイヤは、カバー面とアーチワイヤとの間に空間が提供されるように、スロットベース面に向かって変位させることができる。この空間は、歯科矯正結紮によって充填されて、アーチワイヤがスロットベース面から離れるように変位するのを妨げることができる。したがって、スロットから離れるアーチワイヤのいかなる移動も、歯科矯正結紮を圧縮させる。これは、歯科矯正結紮が典型的には伸長される先行技術とは対照的である。更に、間隙は、好ましくは、スロット側面とスロットカバー面とを互いに完全に分離させる。したがって、開放スロットが設けられる。
【0016】
一実施形態では、歯科矯正ブラケットは、患者の歯に接合するように構成される。好ましくは、歯科矯正ブラケットは、歯科矯正ブラケットを患者の歯に接合するための歯対向面を形成する。歯対向面は、患者の歯の形状に関してカスタマイズされた形状を有してもよい。歯科矯正ブラケットは、好ましくは、患者の歯の外側歯面の一部(例えば、唇側又は舌側歯面の一部)に適合する形状を有する歯対向面を有する。例えば、歯対向面は、患者の歯の一部のネガ形状に対応する形状を有してもよい。歯対向面は、例えばグリッド構造又はメッシュ構造などの接合形状を呈してもよい。このような接合構造は、歯科矯正ブラケットを歯に接合するために使用される接着剤と歯対向面との間の接合強度を最大化するのに役立ち得る。歯対向面は接合構造を有してもよいが、歯対向面はなお、外側歯面に応じた全体形状を有し得ることに留意されたい。
【0017】
一実施形態では、歯科矯正ブラケットは、舌側歯科矯正ブラケットである。舌側歯科矯正ブラケットは、好ましくは、患者の歯の舌側面の一部に適合する形状を有する歯対向面を有する。
【0018】
一実施形態では、歯科矯正ブラケットは、歯対向面を形成するベース部分と、キャップ部とを有する。キャップ部は、好ましくは、歯対向面の反対側に歯科矯正ブラケットの端面を形成する。歯科矯正ブラケットは、更に好ましくは、キャップ部とベース部分とを連結する中間部分を有する。歯科矯正ブラケットは、更に好ましくは、狭窄部を有する。好ましくは、中間部分は、歯科矯正結紮を内部に保持するための狭窄部を形成する。
【0019】
一実施形態では、歯科矯正ブラケットのキャップは、ボール形状の外面を呈する。ボール形状面は、例えば、半球又は部分球形状を有してもよい。したがって、歯科矯正ブラケットは、比較的組織に優しい。つまり、典型的には、患者の組織(例えば、舌、頬、又は唇)に配向されるキャップの外面が比較的滑らかであり、具体的には、露出した鋭い縁部又は角部を有さないことを意味する。
【0020】
更なる態様において、本発明は歯科矯正装置に関する。歯科矯正装置は、本発明による歯科矯正ブラケットと、歯科矯正アーチワイヤと、を備える。歯科矯正アーチワイヤは、歯科矯正ブラケットのスロットを通って延びるように作製される。
【0021】
一実施形態では、歯科矯正アーチワイヤは、歯科矯正ブラケットのスロットを通って延びる。歯科矯正アーチワイヤは、好ましくは矩形断面上を延びる。したがって、歯科矯正装置に装着された歯科矯正アーチワイヤは、歯科矯正処置中に歯のアンギュレーション(=近心-遠心軸を中心とするねじれ)を制御することができる。しかしながら、当業者は、アンギュレーション制御が望まれない、又は重要性が低い場合には、異なる断面を有する歯科矯正アーチワイヤを使用することができる。例えば、円形アーチワイヤ(円形又は楕円形の断面を有する)を本発明の装置と共に使用することができる。歯科矯正アーチワイヤは、NiTi又はステンレス鋼又はチタンのような超弾性材料で作製されてもよい。
【0022】
更なる実施形態では、歯科矯正装置は、複数の異なる形状のアーチワイヤを備えてもよい。様々な形状は、歯科矯正治療中の歯の移動を考慮に入れる。例えば、第1のアーチワイヤは概ね、治療開始時に患者の歯列の舌側又は唇側歯面の形状に従い、更なるアーチワイヤは、治療終了時の患者の歯列の舌側又は唇側歯面の形状に、よりぴったりと従い得る。
【0023】
一実施形態において、歯科矯正装置は、歯科矯正結紮を更に含む。好ましくは、歯科矯正結紮の少なくとも一部は、歯科矯正アーチワイヤとカバー面との間のスロット内に配置される。したがって、歯科矯正結紮は、2つのスロット側面、スロットベース面、及び歯科矯正結紮の少なくとも一部との間に歯科矯正アーチワイヤを捕捉する。歯科矯正結紮は、アーチワイヤとスロットカバー面との間の空間全体を充填することができる。
【0024】
一実施形態では、歯科矯正結紮は、歯科矯正ブラケットに保持される。これにより、歯科矯正結紮の一部は、好ましくは、スロット内にロックされる。
【0025】
更なる実施形態では、歯科矯正結紮は、歯科矯正ブラケットの保持構造と係合するための保持構造を有する。代替的に又は追加的に、歯科矯正結紮は、アーチワイヤと係合するための保持構造を有してもよい。
【0026】
歯科矯正結紮は、スロット内の任意の自由空間を完全に又は部分的にのみ充填することができる。これにより、歯の運動の制御レベルを制御することができ、アーチワイヤと歯科矯正ブラケットとの間に生じる摩擦力を最小限に抑えることができる。治療終了頃には、歯科矯正結紮は、歯科矯正アーチワイヤをスロット内に押し込むように、スロット内の自由空間を超えた大きさであってもよい。これは、ワイヤがスロット内に完全に係合するように確保するためである。歯科矯正結紮は、様々な硬度の材料から選択される材料から作製されてもよい。歯科矯正結紮は、超軟質材料(例えば、シリコン)、中硬度材料(例えば、プラスチック)、又は硬質材料(例えば、鋼又は超弾性金属)から作製されてもよい。本明細書で言及されるカテゴリ「超軟質」、「中硬度」、及び「硬質」は、本明細書の文脈においてのみ選択されることに留意されたい。
【0027】
一実施形態において、歯科矯正装置は、本発明による複数の歯科矯正ブラケットと、歯科矯正ブラケットそれぞれの歯科矯正結紮と、を備える。歯科矯正装置は、本発明の歯科矯正ブラケットとは異なる少なくとも1つの歯科矯正ブラケットを更に備えてもよい。
【0028】
本明細書で言及される歯科矯正ブラケットは、以下の方法に従って設計されてもよい。本方法は、患者の歯の形状を捕捉する工程を含んでもよい。患者の歯の形状の捕捉は、光学的口腔内スキャナを使用して患者の歯を直接走査する、又は患者の歯の石膏モデルを走査することによって行われてもよい。患者の歯の形状を捕捉する工程は、好ましくは、患者の歯の仮想モデルの形態での形状を提供する。仮想モデルは、データに基づき、コンピュータ支援設計(CAD)システムでの使用に適する。
【0029】
本方法は、患者の歯の仮想モデルに対してアーチワイヤ軸を画定する工程を更に含んでもよい。これは、アーチワイヤ軸が患者の歯の咬合面に略平行な1つの共通平面内に形成される、いわゆる直線ワイヤアプローチに基づいて実施されてもよい。直線ワイヤアプローチは、平面アーチワイヤに限定されず、必要に応じてアーチワイヤがその平面から逸脱することを可能にすることに留意されたい。にもかかわらず、共通面は、典型的には、直線ワイヤアプローチにおける基準として使用される。更に、アーチワイヤ軸は、患者の歯の唇側又は舌側からの距離で画定されてもよい。距離は予め決定されてもよい、及び/又は調節可能であり、歯科矯正ブラケットを患者の歯に配置するのに必要な空間を考慮してもよい。
【0030】
本方法は、歯科矯正ブラケットが接合される患者の歯の仮想モデルで表される仮想歯上の領域を決定する工程を更に含んでもよい。これは、その仮想歯上の領域の周辺を示す線を、コンピュータ支援で引くことによって実行されてもよい。このような線は、例えば、所定のサイズの円、又はCADシステムの操作者によって決定される自由形状に対応してもよい。他の形状も可能である。示された領域は、歯科矯正ブラケットの歯対向側の仮想モデルを作成するために使用されてもよい(例えば、コピーされてもよい)。この工程は、歯科矯正ブラケットが設計される各歯に対して繰り返すことができる。
【0031】
歯対向面に基づいて、歯科矯正ブラケットの全体形状は、コンピュータ支援で設計され得る。スロットは、アーチワイヤ軸に沿って歯科矯正ブラケットの全体形状を自動的に仮想的に切り出すことができる。
【0032】
このように形成された歯科矯正ブラケットの仮想設計は、物理的な歯科矯正ブラケット及び/又は歯科矯正ブラケットの物理的モデルを機械加工する製造機械において使用され得る。歯科矯正ブラケットは、例えば、選択的レーザー溶融(SLM)又は選択的レーザー焼結(SLS)によって(例えば、金若しくはステンレス鋼などの金属、又はセラミックから)直接製造されてもよい。更に、歯科矯正ブラケットは、光造形(SLA)、熱溶解積層(FDM)、又は任意の他の適切な付加製造プロセスによって製造されてもよい。
【0033】
あるいは、歯科矯正ブラケットの物理的モデルは、鋳造成形型を作製するためのコアとして、ワックスなどの溶融可能材料から作製されてもよい。次いで、鋳造成形型を使用して、歯科矯正ブラケットをセラミック又は金属から鋳造してもよい。
【0034】
更に、物理的歯科矯正ブラケットは、例えば、金属射出成形(MIM)、鋳造、CNC加工などの製造プロセスによって作製された、標準化歯科矯正ブラケットブランクのセットから製造されてもよい。これらのブランクは、デジタル設計データを利用してCNC切削又は研削によって個別化されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態による、歯科矯正ブラケットの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による、更なる歯科矯正ブラケットの側面図である。
図3図2に示される歯科矯正ブラケットの部分図である。
図4図1に示される歯科矯正ブラケットへのアーチワイヤの装着を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による、アーチワイヤ及び歯科矯正結紮具を装着した歯科矯正ブラケットの斜視図である。
図6】本発明の一実施形態による、歯科矯正装置の一部の斜視図である。
図7】本発明の一実施形態による、歯科矯正装置の上面図である。
図8】本発明の一実施形態による、歯科矯正ブラケットの断面図である。
図9】本発明の一実施形態による、更なる歯科矯正ブラケットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、本発明による例示的な歯科矯正ブラケット1を示す。歯科矯正ブラケット1は、患者の歯100に配置又は接合される。本実施例における歯100は、臼歯である。歯科矯正ブラケット1は、アーチワイヤ(この図には示さず)を受け入れるためのスロット13と、歯対向面14(図示された視点からは見えない)と、を含むベース部分11を有する。本実施例では、歯科矯正ブラケット1は、患者の歯に対してカスタマイズされる。具体的には、歯対向面14は、歯科矯正ブラケット1が配置された患者の歯100の一部の外側ネガ形状に対応する。歯対向面の周辺形状内に画定される領域は、「本明細書の設置領域」とも称する。カスタマイズされた歯科矯正ブラケット1は、歯科矯正ブラケットが患者の歯の舌側に配置されるいわゆる舌側処置に特に好適であるが、唇側処置も可能である。更に、当業者であれば、別の実施例では、歯科矯正ブラケットが、任意の所望の歯に適宜接合するための標準(例えば、平坦な)形状を有するベース部分を有してもよいことを更に認識するであろう。この場合、歯科矯正ブラケットと歯との間の形状の差は、歯科矯正ブラケットを歯に接合するために使用される接着剤によって補填されてもよい。
【0037】
歯科矯正ブラケット1のカスタマイズは、歯科矯正ブラケット1の設置領域及びベース部分の関連形状に更に関連し得る。本実施例では、設置領域は、歯科矯正ブラケットを所望の歯に配置するために利用可能な空間に応じて、円形とは他の形状が可能である。しかしながら、本発明によれば、標準設置領域を、(少なくとも、このような歯科矯正ブラケットに十分な空間を提供する歯に関して)歯対向面のカスタマイズされた形状と組み合わせて使用することが好ましい。このため、歯科矯正ブラケットの設計が容易になり、患者の歯に配置される歯科矯正ブラケットのセットの特定の美的外観を提供する。本実施例では、歯科矯正ブラケット1は、ボール形状の全体構造を有する。
【0038】
歯科矯正ブラケット100は、キャップ部12を更に有する。キャップ部12は、スロット13を覆う。キャップ部12は、歯対向面から離れて配向された組織対向面121を更に形成する。舌側歯科矯正ブラケットの組織対向面121は、例えば患者の舌に面してもよく、唇側歯科矯正ブラケットの組織対向面は、患者の頬又は唇に面してもよい。実施例における組織対向面12は、ボール形状である。したがって、歯科矯正ブラケット1と接触している患者の組織(例えば舌)は、滑らかな表面と接触している。したがって、患者の快適性を最大に高めることができる。更に、スロットを覆うキャップ部12により、患者の組織は、スロット13、並びにスロット13を形成する構造体の任意の縁部又は角部に直接接触することが妨げられる。
【0039】
図2は、本発明による更なる例示的な歯科矯正ブラケット2を示す。歯科矯正ブラケット2は、患者の歯101に配置される。本実施例では、歯101は、前歯である。歯科矯正ブラケット2の構成は、図1に示す歯科矯正ブラケット1の構成にほぼ相当する。特に、歯科矯正ブラケット2は、ベース部分21とキャップ部22とを有する。キャップ部22は、スロット23を覆う。キャップ部22及びベース部分21は、中間部分26を介して接続されている。中間部分26は、キャップ部22及びベース部分21に対して狭窄部261を形成する。狭窄部261は、歯科矯正結紮(この図には図示せず)を内部に保持することを可能にする。したがって、図1の歯科矯正ブラケット1及び歯科矯正ブラケット2は、ベース部分11/21、キャップ部12/22、及び中間部分16/26を共通に有しているが、これらの部分は異なる形状を有してもよい。図1の歯科矯正ブラケット1及び歯科矯正ブラケット2は、スロット23及び歯対向面24の配向が、図1のスロット13及び歯対向面14の配向と異なるという点で異なる。歯科矯正ブラケット1の設置領域から変えられた(縮小された)設置領域は、歯科矯正ブラケット2を配置するために前歯101によって提供される有限の空間を考慮したためである。更に、歯科矯正ブラケット1のスロット13の配向から変えられたスロット23の配向は、前方歯101の傾斜を考慮したためである。
【0040】
図3は、スロット23を形成する歯科矯正ブラケット2の一部を示す。スロット23は、スロットベース面231、反対側のスロットカバー面232、及び2つの対向するスロット側面234、233によって定められている。したがって、スロット23は、口腔前庭-舌側歯軸X及び歯軸Yによって示される2次元デカルト座標系において4方向に定められている。アーチワイヤ(この図には示されていない)は、口腔前庭-舌側歯軸X及び歯軸Yに垂直な(又は図の平面に垂直な)アーチワイヤ軸Zにおいてスロット23を通って延びてもよい。アーチワイヤ軸は、歯科矯正ブラケットが設置される患者の歯の近心-遠心歯軸に対して略平行に延びる。スロット23に挿入されたアーチワイヤは、好ましくは、アーチワイヤ軸Zに沿った方向でスロット23を通って延びる。
【0041】
スロット23は、間隙235によって形成された開放側面を有する。開放側面は、アーチワイヤのための「入口」を提供し、これは、歯科矯正ブラケット2を歯に接合した後、アーチワイヤが開放側面を通ってスロット23内に挿入され得ることを意味する。間隙235は、スロット側面234に設けられている。更に、間隙235は、アーチワイヤ軸Zの方向に沿って延びる。スロット23は開放スロットであるため、図4に示されるようにアーチワイヤ軸を横断するアーチワイヤの運動によってアーチワイヤをスロット内に挿入することができる。これは、チューブによって提供される穴を通ってアーチワイヤを軸方向に移動させることによってアーチワイヤを装着する必要がある、いわゆる歯科矯正用チューブへのアーチワイヤの挿入とは全く異なる。したがって、本発明の歯科矯正ブラケット1、2は、歯の運動の制御性に関して歯科矯正用チューブの利点のいくつかを提示するが、歯科矯正ブラケット1、2は更に、患者の口腔内で2つ、3つ又はそれ以上の歯科矯正ブラケット1、2にアーチワイヤを装着することを可能にし得る。したがって、本発明の歯科矯正ブラケットは、患者の歯列のいくつか又は全ての歯に使用することができる(概ね、歯科矯正チューブでは不可能である)。
【0042】
図4は、5つの異なる使用段階における歯科矯正ブラケット1を示す。歯科矯正ブラケット1は、図1に示す歯科矯正ブラケット1に対応する。段階3aにおいて、歯科矯正ブラケット1は側面図で示されている。アーチワイヤ30の断面は、歯科矯正ブラケット1のスロット13の外側に示されている。段階3bにおいて、アーチワイヤ30は、間隙135を通ってスロット13内に配置される。段階3cにおいて、アーチワイヤ30は、スロットベース面131に向かって変位する。図示されるように、段階3dにおいて、歯科矯正結紮40(以下、更に記載する)が提供される。段階3eにおいて、歯科矯正結紮40は、スロット13内に配置される。歯科矯正結紮40は、アーチワイヤ30とスロットカバー面132との間の空間を充填する。したがって、アーチワイヤ30は、歯科矯正結紮40を介してスロットベース面131とスロットカバー面132との間に移動不能に拘束される。更に、アーチワイヤ30もまた、スロット側面133、134間に移動不能に拘束される。したがって、スロット13に歯科矯正結紮40を装着した後、アーチワイヤ30は、口腔前庭-舌側歯軸X及び歯軸Yの方向に自由に変位できず、アーチワイヤ30は、スロット13内で口腔前庭-舌側歯軸X、歯軸Y、及び/又はアーチワイヤ軸Zのいずれを中心にしても自由に回転できない。これにより、アーチワイヤ30を介して3つ全ての軸X、Y、及びZを中心に歯科矯正ブラケット1に加えられ得るトルクが完全に制御される。更に、これにより、少なくとも口腔前庭-舌側歯軸X及び歯軸Yに沿って歯科矯正ブラケット1に加えられ得る力も完全に制御される。なお、本発明の歯科矯正ブラケットでは、歯科矯正結紮40が、歯科矯正結紮への圧縮荷重によってアーチワイヤに力を加えることができる一方、従来技術では、歯科矯正結紮は引張荷重下に置かれる。同じ歯科矯正結紮の場合、最大圧縮荷重は、最大引張荷重よりも著しく高いことが分かっている。
【0043】
例えば、歯科矯正結紮は、著しく変形又は破断することなく特定の圧力に耐えることができるが、引張力として作用するのと同じ力は典型的には、歯科矯正結紮を伸張又は破断させる。
【0044】
歯科矯正結紮の種類及び材料は、アーチワイヤが移動するための特定の自由度を提供するように選択され得ることに更に留意されたい。しかしながら、このような移動は、歯科矯正アーチワイヤを圧縮して、スロットから逃れることを最終的にとどめる歯科矯正結紮によって制限される。例えば、歯科矯正処置における特定の臨床状況を考慮して、アーチワイヤに対する移動の自由度が提供されてもよい。特定の状況下では、本発明の歯科矯正ブラケットは更に、断面が縮小されたアーチワイヤと共に使用されてもよい。例えば、歯科矯正処置の開始時に、スロット内に遊びを設けるために比較的薄いアーチワイヤが使用されてもよい。このようなアーチワイヤは、(この場合に所望される)変位して回転する自由度を有するが、アーチワイヤはなお、歯科矯正ブラケットのスロット内に捕捉される。更に、従来のスロット及び歯科矯正結紮を使用する、従来技術による歯科矯正ブラケットは、典型的には、歯科矯正ブラケットがスロットとアーチワイヤとの間の遊びを可能にするように、断面が縮小された均一なアーチワイヤを常にクランプする。これは、処置の開始時に患者の快適性を最大に高めるのに役立ち、厄介な状況の歯の処置を容易にする。加えて、これは、アーチワイヤと歯科矯正ブラケットとの間の摩擦を最小限に抑えるのにも役立ち、特に、処置の第1段階で、密集した歯がアーチワイヤに沿って摺動しほどける必要がある場合に好適である。
【0045】
図5は、アーチワイヤ30及び歯科矯正結紮40が組み立てられて歯科矯正装置を形成する歯科矯正ブラケット2を示す。本実施例では、歯科矯正結紮40は、一部がスロット(図示されず)を通って延びて、アーチワイヤ30を定位置にロックする弾性バンドである。本実施例における歯科矯正結紮40は、把持部41を有する。把持部41により、例えば、歯科矯正医が歯科矯正結紮40を取り扱う、特に歯科矯正結紮40をスロット内に配置し、歯科矯正結紮を狭窄部に保持することができる。把持部41は任意であるが、存在する場合には上述の利点を提供する。アーチワイヤ30を介して接続された複数の歯科矯正ブラケット1、2は、典型的には、図6及び7に示されるように患者の歯102に配置される。
【0046】
図8は、本発明による更なる例示的な歯科矯正ブラケット1を示す。歯科矯正ブラケット1は、臼歯上で接合するように構成されている。歯科矯正ブラケット1は、歯対向面14を形成するベース部分11と、歯対向面14から離れて配向される反対側の組織対向面121を形成するキャップ部12と、を有する。キャップ部12は、スロット13を覆う。スロット13は、スロットベース面131及び反対側のスロットカバー面132、並びに2つの対向するスロット側面133、134を有する。図示されるように、2つのスロット側面133、134はいずれも、スロットカバー面132まで延びない。具体的には、2つのスロット側面133、134は、アーチワイヤを案内するのに十分な長さで延びる限り、アーチワイヤ30を越えて延びる必要はない。歯科矯正ブラケット1は、歯科矯正結紮40を定位置に保持する保持構造111を更に有する。このような保持構造は、本発明の任意の実施形態において存在され得る。
【0047】
図9は、アーチワイヤ30が装着されている、本発明による更なる例示的な歯科矯正ブラケット1を示す。歯科矯正結紮50を(歯科矯正ブラケットの代わりに)アーチワイヤ30に保持するための保持構造体51を有する、別の歯科矯正結紮50が提供される。図9の左側では、歯科矯正結紮は、アーチワイヤ30にまだ装着されておらず、図9の右側では、歯科矯正結紮は、アーチワイヤ30に保持されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9