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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】電子顕微鏡及び収差補正方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/28 20060101AFI20231109BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
H01J37/28 C
H01J37/153 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021120564
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016326
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 啓人
(72)【発明者】
【氏名】中道 智寛
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】西藤 哲史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 隆亮
(72)【発明者】
【氏名】植松 文徳
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-331773(JP,A)
【文献】特開2007-180013(JP,A)
【文献】Introduction to the Ronchigram and its Calculation with Ronchigram.com,Microscopy Today,2019年05月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01J 37/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムを撮像する撮像部と、
前記ロンキグラムに基づいてロンキグラム中心を決定し、前記ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御するセンタリング部と、
前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて特定収差の収差値として第1特定収差値を推定し、前記第1特定収差値に基づいて前記特定収差の事前補正を制御する事前補正部と、
前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて複数の収差からなる収差群についての収差値列を演算し、前記収差値列に基づいて前記収差群の補正を制御する主補正部と、
を含むことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムを撮像する撮像部と、
前記ロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御するセンタリング部と、
前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事前補正を制御する事前補正部と、
前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、複数の収差からなる収差群の補正を制御する主補正部と、
を含み、
更に、前記特定収差の事前補正後に取得されたロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を前記撮像中心に合わせる精密センタリングを制御する精密センタリング部を含み、
前記主補正部は、前記特定収差の事前補正及び前記精密センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、前記収差群の補正を制御する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項2記載の電子顕微鏡において、
前記センタリング部は、第1デフォーカス範囲においてデフォーカス値を変更しながら取得された第1ロンキグラム変化像に基づいて、前記ロンキグラム中心を決定する第1中心決定部を含み、
前記精密センタリング部は、前記第1デフォーカス範囲よりも小さい第2デフォーカス範囲においてデフォーカス値を変更しながら取得された第2ロンキグラム変化像に基づいて、前記ロンキグラム中心を決定する第2中心決定部を含む、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3記載の電子顕微鏡において、
前記第1デフォーカス範囲及び前記第2デフォーカス範囲を設定するための設定画面を生成する表示処理部を含む、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記収差群の補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて前記特定収差の収差値として第2特定収差値を推定し、前記第2特定収差値に基づいて前記特定収差の事後補正を制御する事後補正部を含む、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5記載の電子顕微鏡において、
前記事前補正部は、
第1機械学習過程を経た第1推定モデルを有し、前記第1特定収差値を推定する第1推定器と、
前記第1特定収差値に基づいて、前記特定収差の事前補正を制御する第1制御器と、
を含み、
前記事後補正部は、
第2機械学習過程を経た第2推定モデルを有し、前記第2特定収差値を推定する第2推定器と、
前記第2特定収差値に基づいて、前記特定収差の事後補正を制御する第2制御器と、
を含む、ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項5記載の電子顕微鏡において、
前記特定収差の事前補正についての終了条件及び前記特定収差の事後補正についての終了条件を設定するための設定画像を生成する表示処理部を含む、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記主補正部は、
前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、前記収差群についての前記収差値列を演算するアルゴリズムを実行する演算器と、
前記収差値列に基づいて前記収差群の補正を制御する制御器と、
を含むことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項1記載の電子顕微鏡において、
前記特定収差はコマ収差である、
ことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
電子顕微鏡における情報処理部が、試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムに基づいてロンキグラム中心を決定し、前記ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御する工程と、
前記情報処理部が、前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて特定収差の収差値を推定し、前記特定収差の収差値に基づいて前記特定収差の事前補正を制御する工程と、
前記情報処理部が、前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて複数の収差からなる収差群についての収差値列を演算し、前記収差値列に基づいて前記収差群の補正を制御する工程と、
を含むことを特徴とする収差補正方法。
【請求項11】
情報処理装置において収差補正方法を実行するためのプログラムであって、
試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムに基づいてロンキグラム中心を決定し、前記ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御する機能と、
前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて特定収差の収差値を推定し、前記特定収差の収差値に基づいて前記特定収差の事前補正を制御する機能と、
前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて複数の収差からなる収差群についての収差値列を演算し、前記収差値列に基づいて前記収差群の補正を制御する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡及び収差補正方法に関し、特に、ロンキグラムに基づく収差補正に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡、特に、高い空間分解能を有する走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)においては、電子ビーム(電子プローブ)の焦点を十分に絞り込むために、収差補正が必要となる。電子顕微鏡で生じる収差として、球面収差(Spherical aberration)、非点収差(Astigmatism)、コマ収差(Coma aberration)、等が知られている。
【0003】
走査透過電子顕微鏡には、一般に、収差補正器(Aberration corrector)が設けられている。収差補正器には、例えば、複数の多極子(Multipole)、及び、複数のトランスファーレンズが含まれる。個々の多極子は、例えば6極子(Hexapole)である。6極子により3回対称場が形成される。ここで、「n回対称」は、ある図形の(360/n)度の回転を考えた場合、回転後の図形が回転前の図形に重なることを意味する。
【0004】
収差補正に際しては、通常、Ronchigramが取得される(日本語表現上、それを「ロンチグラム」と称することもあるが、本願明細書では原音に倣って「ロンキグラム」と称する。)。ロンキグラムは、規則性のないランダムな原子配列を有する領域(具体的にはアモルファス領域)に対して電子ビームを照射することにより生じる投影像である。ロンキグラムには、電子ビーム照射系(特に対物レンズ)で生じる多様な収差を反映した模様が現れる。収差補正に際しては、ロンキグラムが解析され、これにより複数の収差値からなる収差値列が演算される。収差値列に基づいて、収差補正器に与える励磁電流群が制御される。
【0005】
非特許文献1及び特許文献1には、収差値列を演算するSRAM(Segmented Ronchigram Auto-correlation function Matrix)法が開示されている。SRAM法では、例えば、アンダーフォーカス条件で取得された第1ロンキグラム、及び、オーバーフォーカス条件で取得された第2ロンキグラムが解析対象となる。個々のロンキグラムに対してセグメントアレイが設定され、個々のセグメントごとに自己相関関数が演算される。第1ロンキグラムから演算された複数の自己相関関数、及び、第2ロンキグラムから演算された複数の自己相関関数に基づいて、収差値列が演算される。
【0006】
特許文献2には、ロンキグラムに基づいて収差値列を演算する他の方法が記載されている。特許文献3には、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせる幾つかの技術が記載されている。いずれの特許文献にも、以下に説明する幾つかの課題を総合的に解決する構成又は方法は開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】H. Sawada, et al., Measurement method of aberration from Ronchigram by autocorrelation function, Ultramicroscopy 108, 2008, pp.1467-1475.
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4790567号公報
【文献】特開2006-173027号公報
【文献】特許第4891736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ロンキグラムに基づいて収差値列を演算する幾つかの方法が提案されているが、ロンキグラム取得時の状況によっては、それらの方法が旨く機能しないことがある。特に、ロンキグラム中心が撮像中心から大きくずれている場合、収差値列の演算精度が低下してしまうことがある。また、大きな特定収差が生じている場合、収差値列又は特定収差値の演算精度が低下してしまうことがある。
【0010】
これに対し、ユーザーに対して、ロンキグラム中心の事前調整及び特定収差の事前調整を求めると、ユーザーに大きな負担が生じてしまう。そもそも、ロンキグラムに多様な収差が反映されている場合、目視によるロンキグラム中心の特定及び特定収差のマニュアル調整は困難である。
【0011】
本発明の目的は、電子顕微鏡において収差群の補正精度を高めることにある。あるいは、本発明の目的は、収差群の補正に際してユーザーの負担を軽減することにある。あるいは、本発明の目的は、収差値列を演算するアルゴリズムを適正に機能させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電子顕微鏡は、試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムを撮像する撮像部と、前記ロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御するセンタリング部と、前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事前補正を制御する事前補正部と、前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、複数の収差からなる収差群の補正を制御する主補正部と、を含むことを特徴とする。
【0013】
実施形態に係る収差補正方法は、試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御する工程と、前記センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事前補正を制御する工程と、前記特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、複数の収差からなる収差群の補正を制御する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子顕微鏡において、収差群の補正精度を高められる。あるいは、本発明によれば、収差群の補正に際してユーザーの負担を軽減できる。あるいは、本発明によれば、収差値列を演算するアルゴリズムを適正に機能させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る電子顕微鏡を示す概念図である。
図2】電子顕微鏡の一部の構成の具体例を示すブロック図である。
図3】推定モデルの生成方法を示す概念図である。
図4】ロンキグラム中心を特定する方法の一例を示す模式図である。
図5】収差値列を演算するアルゴリズムの一例を示す模式図である。
図6】条件設定画面の一例を示す図である。
図7】実施形態に係る収差補正方法を示すフローチャートである。
図8】センタリング方法の一例を示すフローチャートである。
図9】特定収差の事前補正及び事後補正の方法を示すフローチャートである。
図10】収差群を補正する前のロンキグラムの一例を示す図である。
図11】ロンキグラム変化像の一例を示す図である。
図12】収差群を補正した後のロンキグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る電子顕微鏡は、撮像部、センタリング部、事前補正部、及び、主補正部を有する。撮像部は、試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムを撮像する。センタリング部は、ロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングを制御する。事前補正部は、センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事前補正を制御する。主制御部は、特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、複数の収差からなる収差群の補正を制御する。
【0018】
上記構成によれば、事前センタリング及び特定収差の事前補正により、主補正部に与えるロンキグラムを適正化又は優良化できるので、主補正部による収差値列の演算精度を高められ、すなわち、収差群の補正精度を高められる。収差群の補正に際し、ユーザーにおいて特段の負担は生じない。別の見方をすると、上記構成は、主補正部を機能させる前に、観察部(又は電子線照射系)を部分的に事前調整し、これにより、必ずしも万能ではない主補正部の弱点を補うものである。
【0019】
一般に、事前センタリング又は特定収差の事前補正のいずれか一方のみを実行しただけでは、収差値列の演算精度を十分に高められない。事前センタリング及び特定収差の事前補正の両方つまりそれらの組み合わせを実行することが望まれる。また、一般に、事前補正部に与えられるロンキグラムにおいて、ロンキグラム中心が撮像中心から大きくずれている場合、特定収差の事前補正を行えず又はその事前補正の精度が低下してしまう。センタリングは最も基本的な事前調整であり、最初に事前センタリングを実行した上で、それに続いて特定収差の事前補正を実行することが望まれる。
【0020】
上記の特定収差は、例えば、コマ収差であり、具体的には、二次コマ収差である(次数は幾何収差の観点から見た次数である)。上記の収差群は、例えば、5個,6個又はそれ以上の収差により構成される。その中に特定収差が含まれてもよい。撮像中心はカメラ中心とも言い得る。
【0021】
実施形態に係る電子顕微鏡は、更に、精密センタリング部を有する。精密センタリング部は、特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせる精密センタリングを制御する。主補正部は、特定収差の事前補正及び精密センタリングの実行後に取得されたロンキグラムに基づいて、収差群の補正を制御する。
【0022】
収差補正プロセスの開始時点では、ロンキグラム中心が撮像中心から大きくずれていることが多い。そのような状況において、最初から精密センタリングを実行することは困難である。これに対し、上記構成においては、精密センタリング部に対して一定の事前調整を経たロンキグラムを与えられるので、精密センタリングの適切な実行を期待できる。また、上記構成によれば、主補正部に対して与えるロンキグラムをより優良化できるので、収差値列の演算精度をより高められる。センタリング部は、後述する第1センタリング部に相当する。精密センタリング部は、後述する第2センタリング部に相当する。
【0023】
実施形態において、センタリング部は、第1デフォーカス範囲においてデフォーカス値を変更しながら取得された第1ロンキグラム変化像に基づいて、ロンキグラム中心を決定する第1中心決定部を含む。精密センタリング部は、第1デフォーカス範囲よりも小さい第2デフォーカス範囲においてデフォーカス値を変更しながら取得された第2ロンキグラム変化像に基づいて、ロンキグラム中心を決定する第2中心決定部を含む。第1デフォーカス範囲は粗調整用であり、第2デフォーカス範囲は微調整用である。
【0024】
実施形態に係る電子顕微鏡は、収差群の補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事後補正を制御する事後補正部を含む。上記構成によれば、主補正部における特定収差値の演算精度が低い場合、その弱点を補強することが可能である。あるいは、主補正部の演算機能を補うことが可能である。
【0025】
実施形態において、事前補正部は、第1機械学習過程を経た第1推定モデルを有し、第1特定収差値を推定する第1推定器と、第1特定収差値に基づいて、特定収差の事前補正を制御する第1制御器と、を含む。事後補正部は、第2機械学習過程を経た第2推定モデルを有し、第2特定収差値を推定する第2推定器と、第2特定収差値に基づいて、特定収差の事後補正を制御する第2制御器と、を含む。
【0026】
実施形態によれば、事前のセンタリングを前提として、機械学習用の教師データセットを用意すればよい。例えば、教師データセットの生成又は収集に際して、大きな中心ずれを有する多数のロンキグラムを生成又は収集する必要がない。よって、教師データセットを構成する教師データ数を少なくでき、あるいは、教師データセットを容易に生成又は収集することが可能となる。
【0027】
実施形態に係る電子顕微鏡は、第1デフォーカス範囲及び第2デフォーカス範囲を設定するための設定画面を生成する表示処理部を含む。実施形態に係る電子顕微鏡は、特定収差の事前補正についての終了条件及び特定収差の事後補正についての終了条件を設定するための設定画像を生成する表示処理部を含む。実施形態においては、設定画面上において、工程ごとに、工程実行の要否を選択できる。すなわち、状況に応じて、収差補正プロセスの内容をカスタマイズできる。複数の工程の実行順序を変更してもよい。例えば、特定収差の事前補正の後にセンタリングを実行する変形例、センタリング及び精密センタリングを連続して実行する変形例が考えられる。
【0028】
実施形態において、主補正部は、特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、収差群についての収差値列を演算するアルゴリズムを実行する演算器と、収差値列に基づいて収差群の補正を制御する制御器と、を含む。当該アルゴリズムの一例として上記のSRAM法が挙げられる。主補正部が他のアルゴリズムを実行してもよい。
【0029】
実施形態に係る収差補正方法は、センタリング工程、事前補正工程、及び、主補正工程を有する。センタリング工程では、試料に対する電子線の照射により生成されたロンキグラムに基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングが制御される。事前補正工程では、センタリングの後に取得されたロンキグラムに基づいて、特定収差の事前補正が制御される。主補正工程では、特定収差の事前補正の後に取得されたロンキグラムに基づいて、複数の収差からなる収差群の補正が制御される。
【0030】
上記方法は、ハードウエアの機能又はソフトウエアの機能として実現され得る。後者の場合、上記方法を実行するプログラムが、ネットワーク又は可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置にインストールされる。情報処理装置の概念には、コンピュータ、電子顕微鏡、電子顕微鏡システム等が含まれる。情報処理装置には、上記プログラムを記憶した非一時的記憶媒体が含まれる。
【0031】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る電子顕微鏡が示されている。電子顕微鏡は、具体的には、高分解能を有する走査透過電子顕微鏡(STEM)である。電子顕微鏡は、観察部10及び情報処理装置12により構成される。
【0032】
観察部10は、光軸上において並ぶ、電子銃18、集束レンズ20、収差補正器22、偏向走査器24、対物レンズ26、結像系レンズ28、及び、カメラ30を有する。電子銃18により電子ビームが生成され、電子ビームは集束レンズ20を介して収差補正器22を通過する。集束レンズ20には、開口としての絞りが含まれる。
【0033】
収差補正器22は、対物レンズ26あるいはそれを含む電子線照射系で生じる複数の収差を打ち消す作用を発揮するものである。理想的には、試料27上の焦点において電子ビームが1点に集束するように収差補正が実行される。
【0034】
収差補正器22は、光軸上に並ぶ複数の要素を有し、それらには、複数の多極子及び複数のトランスファーレンズが含まれる。実施形態において、収差補正器22の中に、2つの6極子22A,22Bが設けられている。個々の6極子22A,22Bは、3回対称場を生成するものである。
【0035】
収差補正器22において補正可能な収差として、2回非点収差、二次コマ収差、3回非点収差、三次球面収差、三次スター収差、4回非点収差、四次コマ収差、四次スリーローブ収差、5回非点収差、五次球面収差、・・・が挙げられる(各次数は幾何収差の観点から見た次数である)。収差補正器22に与える励磁電流群を制御することにより、収差補正器22の動作が制御される。
【0036】
対物レンズ26の中に試料27が配置されている。図示の構成例では、対物レンズ26は、試料27の手前側及び奥側に磁場を形成する。試料27は保持装置に保持されているが、保持装置の図示は省略されている。収差補正時つまりロンキグラム取得時には、スポットモードが選択され、試料27におけるアモルファス部分に対して電子ビームが照射される。試料27を保持している部材(例えばグリッド)にアモルファス部分を設け、そこに電子ビームを照射してもよい。電子銃18から対物レンズ26までの構成が照射部又は照射手段に相当する。
【0037】
結像系レンズ28には、中間レンズ、投影レンズ等が含まれる。カメラ30は撮像部であり、それは例えばCCDカメラにより構成される。カメラ30により、試料27を透過した電子が検出される。カメラ30は撮像中心(カメラ中心)を有する。撮像中心を光軸が通過しており、撮像中心は不動の固定点である。収差補正時には、カメラ30により、アモルファス領域の投影像としてのロンキグラムが撮像される。
【0038】
対物レンズ26とカメラ30との間に、複数の検出器が設けられているが、それらの図示が省略されている。各検出器からの出力信号に基づいて、試料27の二次元画像が生成され、あるいは、試料27の分析が実行される。
【0039】
ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリングに際しては、例えば、偏向走査器24が制御される。他の方法により、センタリングが実行されてもよい。
【0040】
情報処理装置12は、コンピュータにより構成される。情報処理装置12が、ネットワークによって相互に接続された複数のコンピュータによって構成されてもよい。
【0041】
情報処理装置12は、情報処理部(演算制御部)14及びユーザーインターフェイス(UI)16を有する。情報処理部14は、プログラムを実行するプロセッサを含む。プロセッサは例えばCPUである。UI16は、入力器及び表示器を含む。入力器は例えばキーボードである。表示器は例えばLCDである。図1においては、プロセッサにより実現される複数の機能が複数のブロックにより表現されている。
【0042】
カメラ画像形成部32は、カメラ30からの出力信号に基づいて、所定フォーマットを有するカメラ画像を形成する。カメラ画像形成部32はカメラコントローラとして機能する。アモルファス領域に対して電子ビームを照射した場合、ロンキグラムを表すカメラ画像(以下、その画像もロンキグラムと言うことにする。)が形成される。収差補正プロセスの進行に伴って、複数のロンキグラムが取得される。図示の構成例において、各ロンキグラムは、第1推定器38、第2推定器40、又は、演算器42に送られる。
【0043】
実施形態に係るカメラ画像形成部32は、ロンキグラム変化像を形成する機能も有している。ロンキグラム変化像は、複数のロンキグラムからなる積算像、又は、ロンキグラム動画像に相当する連続撮影像である。ロンキグラム変化像の生成方法については後に詳述する。第1センタリングの実行に際し、ロンキグラム変化像が第1センタリング部34に送られる。第2センタリングの実行に際し、ロンキグラム変化像が第2センタリング部36に送られる。なお、第1センタリング部34及び第2センタリング部36において、ロンキグラム変化像が形成されてもよい。
【0044】
第1センタリング部34は、収差補正プロセスの開始段階で、ロンキグラム変化像に基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリング(粗いセンタリング)を制御するものである。第2センタリング部は、収差補正プロセスにおける中間段階で、具体的には主補正工程の直前で、ロンキグラム変化像に基づいて、ロンキグラム中心を撮像中心に合わせるセンタリング(精密センタリング)を制御するものである。
【0045】
第1センタリング部34は、一次センタリング部、初期センタリング部、又は、粗いセンタリング部と言い得る。第2センタリング部36は、二次センタリング部、再センタリング部、又は、精密センタリング部と言い得る。第1センタリング部34及び第2センタリング部36は、それぞれ、ロンキグラム変化像に基づいて中心ずれを演算する機能、及び、中心ずれに基づいてロンキグラム中心を撮像中心へ移動させる制御を実行する機能、を有する。第1センタリング部34及び第2センタリング部36を一体化させて単一のセンタリング部を構成してもよい。
【0046】
情報処理部14は、事前補正部37A、事後補正部37B、及び、主補正部37Cを有する。事前補正部37Aは、特定収差の事前補正を制御するものであり、事後補正部37Bは、特定収差の事後補正を制御するものである。主補正部37Cは、収差群の補正(主補正)を制御するものである。
【0047】
図示の構成例において、事前補正部37Aは、第1推定器38及び第1制御器44Aにより構成される。事後補正部37Bは、第2推定器40及び第2制御器44Bにより構成される。主補正部37Cは、演算器42及び第3制御器44Cにより構成される。第1制御器44A、第2制御器44B、及び、第3制御器44Cが補正制御部44を構成している。以下、個々の構成を具体的に説明する。
【0048】
第1推定器38は、特定収差の事前補正時に、ロンキグラムに基づいて、特定収差の収差値を推定する。第2推定器40は、特定収差の事後補正時に、ロンキグラムに基づいて、特定収差の収差値を推定する。演算器42は、主補正時に機能するものであり、それは、ロンキグラムに基づいて収差値列を演算する。実施形態においては、上記SRAM法に基づいて収差値列が演算されている。
【0049】
補正制御部44は、収差補正器22の動作を制御するものであり、具体的には、収差補正器22に与える励磁電流群を制御している。第1制御器44Aは、特定収差の事前補正時に、推定される特定収差値が小さくなるように、収差補正器22の動作を制御する。第2制御器44Bは、特定収差の事後補正時に、推定される特定収差値が小さくなるように、収差補正器22の動作を制御する。第3制御器44Cは、収差群の補正時に、演算される収差値列を構成する個々の収差値が小さくなるように、収差補正器22の動作を制御する。収差補正時において、収差補正器22以外の構成が調整されてもよい。例えば、偏向走査器24等の動作が制御されてもよい。
【0050】
システム制御部48は、情報処理部14が有する複数の構成要素の動作を制御するものである。システム制御部48にはUI16が接続されている。ユーザーはUI16に表示された設定画像上において収差補正条件を設定し得る。設定された収差補正条件に基づいて、システム制御部48が各構成要素の動作を制御する。システム制御部48は、収差補正プロセスの実行を制御する。
【0051】
表示処理部49は、上記の設定画像を生成する。設定画像を示すデータがUI16に出力されている。STEM画像等を示すデータもUI16に出力される。
【0052】
図2には、図1に示した第1推定器38、第2推定器40、及び、演算器42の構成例が示されている。
【0053】
第1推定器38は、機械学習過程を経て生成された第1推定モデル50を有する。第1推定モデル50は、特定収差の事前補正時に、ロンキグラムを入力し、特定収差値を出力する。第2推定器40は、機械学習過程を経て生成された第2推定モデル52を有する。第2推定モデル52は、特定収差の事後補正時に、ロンキグラムを入力し、特定収差値を出力する。第1推定器38及び第2推定器40は、それぞれ、機械学習型推定器であり、例えばCNN(Convolutional Neural Network)で構成される。
【0054】
演算器42は、アルゴリズム54を有する。アルゴリズム54の実体は、1又は複数のロンキグラムに基づいて収差係数列を演算するプログラムである。実施形態において、アルゴリズム54はSRAM法に従うアルゴリズムである。
【0055】
図3には、第1推定モデル及び第2推定モデルの作成方法が示されている。第1推定モデル及び第2推定モデルが、図3において、推定モデル64と表現されている。教師データ生成器56は、ロンキグラムを生成するシミュレータである。シミュレーション条件58を変更しながら、個々のシミュレーション条件58に従って、教師データ生成器56により教師データ60が順次生成される。各教師データ60は、ロンキグラム60A及びそれに対応する特定収差値60Bにより構成される。ロンキグラム60Aが入力データとして利用され、特定収差値60Bが正解データとして利用される。
【0056】
実施形態においては、中心ずれを想定せずに又は小さな中心ずれを想定しつつ、複数の教師データ60を生成できるから、機械学習用教師データセットの規模を小さくでき、機械学習用教師データセットの生成時間を短くできる。
【0057】
学習器62は、例えばCNNで構成され、それは推定モデル64を有する。学習器62に複数の教師データ60が順次与えられ、推定モデル64の内容が段階的に優良化される。具体的には、推定モデル64に対してロンキグラム60Aを与えた場合に、推定モデル64から、そのロンキグラム60Aに対応する特定収差値60Bが出力されるように、推定モデル64を構成するパラメータ群が修正される。
【0058】
事前補正用の推定モデル64を生成する際には、シミュレーション条件に含まれる特定収差値の変動幅が大きくされ、事後補正用の推定モデル64を生成する際には、シミュレーション条件に含まれる特定収差値の変動幅が小さくされる。これにより、事前補正用の推定モデル64として低分解能型の推定モデルが生成され、事後補正用の推定モデル64として高分解能型の推定モデルを生成できる。前者の推定モデルが第1推定モデルとして第1推定器に組み込まれる。後者の推定モデルが第2推定モデルとして第2推定器に組み込まれる。
【0059】
図4には、第1センタリング及び第2センタリングにおける中心点特定方法が模式的に示されている。その方法は、ロンキグラム変化像66を受け入れる第1センタリング部及び第2センタリング部において実行される。
【0060】
例えば、デフォーカス値を段階的に変化させながら複数のロンキグラムを取得し、それらを積算することにより積算ロンキグラムとしてのロンキグラム変化像66を生成し得る。一定時間にわたる撮像期間(露光期間)内において、デフォーカス値を連続的又は段階的に変化させながら、ロンキグラム動画像を撮像(集積)することによりロンキグラム変化像66を生成し得る。他の方法でロンキグラム変化像が作成されてもよい。
【0061】
ロンキグラム変化像66においては、ロンキグラム中心からおよそ放射状に各点が運動する。具体的には、ロンキグラム中心から離れるように各点が運動し、あるいは、ロンキグラム中心に近付くように各点が運動する。複数の点の運動により複数の軌跡が生じる。ロンキグラム変化像66に対して直線検出法を適用することにより、複数の直線68を抽出し得る。その際にはハフ変換等の公知の手法を利用することが可能である。図4においては、図面複雑化を避けるために、少数の直線68が示されている。各直線68が線分として検出されてもよい。
【0062】
続いて、複数の直線68に基づいて複数の交点70が特定される。通常、複数の交点70がロンキグラム中心72付近に密集する。例えば、複数の交点70の重心として、ロンキグラム中心72が決定される。
【0063】
第1センタリング実行時においてはデフォーカス値の変動幅(第1デフォーカス範囲)が大きくされ、第2センタリング実行時においてはデフォーカス値の変動幅(第2デフォーカス範囲)が小さくされる。すなわち、第1デフォーカス範囲>第2デフォーカス範囲である。これにより、第1センタリングとして低分解能型センタリングを行え、第2センタリングとして高分解能型センタリングを行える。
【0064】
ロンキグラム中心が決定されると、その後、そのロンキグラム中心が撮像中心に一致するように、偏向走査器の動作が制御される。他の構成の制御により、ロンキグラム中心を撮像中心に一致させてもよい。
【0065】
図5には、SRAM法が概念図として示されている。ロンキグラム200に対して、セグメントアレイ202が設定される。セグメントアレイ202は、例えば、格子状に並ぶn×n個のセグメントにより構成される。個々のセグメントごとに、自己相関関数が演算される。セグメントアレイ202からn×n個の自己相関関数204が求められる。n×n個の自己相関関数204に基づいて収差値列206が演算される。アンダーフォーカス条件の下で取得されたロンキグラムから演算されたn×n個の自己相関関数204、及び、オーバーフォーカス条件の下で取得されたロンキグラムから演算されたn×n個の自己相関関数204に基づいて、収差値列206が演算されてもよい。
【0066】
図6には、設定画像の一例が示されている。収差補正プロセスの実行開始に先立って、設定画像74が表示器に表示される。設定画像74上においてユーザーによって収差補正条件が設定される。設定画像74は、第1センタリングのための設定領域76、特定収差の事前補正のための設定領域78、第2センタリングのための設定領域80、主補正のための設定領域82、及び、特定収差の事後補正のための設定領域84、を有する。図示の例において、特定収差は、二次コマ収差である。他の収差を特定収差としてもよい。他の収差として、2回非点収差が挙げられる。複数の収差を特定収差としてもよい。
【0067】
設定領域76には、チェックボックス86、及び、デフォーカス範囲入力欄98が含まれる。チェックボックス86にチェックを入れておくと、第1センタリングが自動的に実行される。デフォーカス範囲入力欄98は、デフォーカス値を変更する範囲(第1デフォーカス範囲)を指定するための欄である。
【0068】
設定領域78には、チェックボックス88、閾値入力欄100、回数入力欄102、デフォーカス値入力欄104、及び、選択ボタンペア106が含まれる。チェックボックス88にチェックを入れておくと、特定収差の事前補正が自動的に実行される。閾値入力欄100は、閾値(第1閾値)を指定するための欄である。回数入力欄102は、判定値としての回数(第1回数)を指定するための欄である。特定収差値が第1閾値を連続して下回った回数(連続数)が第1回数に到達した場合、特定収差の事前補正が終了する。第1閾値及び第1回数は、それぞれ、終了条件又は終了パラメータである。ロンキグラムの取得に際しては、選択ボタンペア106にて選択されたアンダーフォーカス又はオーバーフォーカスの下で、デフォーカス値入力欄104に入力されたデフォーカス値(第1デフォーカス値)が設定される。無限ループを生じさせないための対策を付加してもよい。例えば、最大のループ繰り返し回数を所定数(例えば5回)と定めてもよい。
【0069】
設定領域80には、チェックボックス90、及び、デフォーカス範囲入力欄108が含まれる。チェックボックス90にチェックを入れておくと、第2センタリングが自動的に実行される。デフォーカス範囲入力欄108は、デフォーカス値を変更する範囲(第2デフォーカス範囲)を指定するための欄である。第2デフォーカス範囲は、基本的に、第1デフォーカス範囲よりも小さい。
【0070】
設定領域82には、チェックボックス92、デフォーカス値入力欄110、繰り返し回数入力欄112、及び、収差選択欄114が含まれる。チェックボックス92にチェックを入れておくと、繰り返し回数入力欄112に入力された回数分、主補正が繰り返し自動的に実行される。各主補正に際しては、デフォーカス値入力欄110に入力されたデフォーカス値に基づいて、オーバーフォーカスでロンキグラムが取得され、且つ、アンダーフォーカスでロンキグラムが取得される。収差選択欄114は、補正対象とする1又は複数の収差(収差群)を選択するためのものである。通常、すべての収差が補正対象となる。
【0071】
設定領域84には、チェックボックス94、閾値入力欄116、回数入力欄118、デフォーカス値入力欄120、及び、選択ボタンペア122が含まれる。チェックボックス94にチェックを入れておくと、特定収差の事後補正が自動的に実行される。閾値入力欄116は、閾値(第2閾値)を指定するための欄である。回数入力欄118は、判定値としての回数(第2回数)を指定するための欄である。特定収差値が第2閾値を連続して下回った回数(連続数)が第2回数に到達した場合、特定収差の事後補正が終了する。第2閾値及び第2回数は、それぞれ、終了条件又は終了パラメータである。ロンキグラムの取得に際しては、選択ボタンペア122にて選択されたアンダーフォーカス又はオーバーフォーカスの下で、デフォーカス値入力欄120に入力されたデフォーカス値(第2デフォーカス値)が設定される。第2閾値は、基本的に、第1閾値よりも小さい。第2デフォーカス値は、基本的に、第1デフォーカス値よりも小さい。無限ループを生じさせないための対策を付加してもよい。
【0072】
初期状態では、すべてのチェックボックス86,88,90,92,94に対してチェックが入れられている。また、初期状態では、第1デフォーカス範囲は第2デフォーカス範囲よりも大きく、第1閾値は第2閾値よりも大きく、第1デフォーカス値は第2デフォーカス値よりも大きい。
【0073】
但し、既にセンタリングが完了している状況においては、チェックボックス86のチェックを外してもよく、あるいは、チェックボックス86,90のチェックを外してもよい。既に特定収差の補正が完了している状況においては、チェックボックス88のチェックを外してもよく、あるいは、チェックボックス88,94のチェックを外してもよい。このように、設定画像74上において、収差補正プロセスを構成する一連の工程をカスタマイズすることが可能である。
【0074】
スタートボタン124の操作により収差補正プロセスの実行が開始される。ストップボタン126の操作により収差補正プロセスの実行が停止される。
【0075】
図7には、実施形態に係る収差補正プロセス(つまり収差補正方法)がフローチャートとして示されている。そのフローチャートの内容は、情報処理部の動作を示すものであり、また、情報処理部内のプロセッサが発揮する複数の機能を示すものでもある。
【0076】
S10では、図6に示した設定画像上において収差補正条件がユーザーにより設定される。S12では、第1センタリングの実行が設定されているか否かが判断される。S14では、第1センタリングが実行される。その具体的内容については後に図8を用いて説明する。S16では、特定収差の事前補正の実行が設定されているか否かが判断される。S18では、特定収差の事前補正が実行される。その具体的内容については後に図9を用いて説明する。S20では、第2センタリングの実行が設定されているか否かが判断される。S22では、第2センタリングが実行される。その具体的内容については後に図8を用いて説明する。
【0077】
S24では、主補正の実行が設定されているか否かが判断される。S26では、SRAM法に従って、主補正が繰り返し実行される。各主補正では、例えば、2つのロンキグラムに基づいて2つの収差値列が演算され、2つの収差値列に基づいて収差群が補正される。第1センタリング及び特定収差の事前補正が既に実行されている場合、優良化されたロンキグラムに基づいて収差群を補正できるので、補正精度を高められる。第1センタリング、特定収差の事前補正、及び、第2センタリングが既に実行されている場合、より優良化されたロンキグラムに基づいて、収差群をより高精度に補正できる。
【0078】
S28では、特定収差の事後補正の実行が設定されているか否かが判断される。S30では、特定収差の事後補正が実行される。その具体的内容については後に図9を用いて説明する。主補正後に特定収差の事後補正を行うことにより、特定収差の補正精度を更に引き上げることが可能となる。
【0079】
以上の収差補正プロセスの実行が完了した後、試料の電子顕微鏡画像が取得される。収差補正プロセスの実行により、電子プローブの品質を高めることができるので、高分解能を有する電子顕微鏡画像を得られる。
【0080】
図8には、第1センタリング及び第2センタリングの具体的内容がフローチャートとして示されている。
【0081】
センタリング方法として、以下に説明する方法の他、例えば、特許文献3に示されている方法が挙げられる。特許文献3に示されている方法では、フォーカスを変えながら取得された2つの画像の相互相関から不動点が求められている。そのため、アモルファス領域のロンキグラムのような画像に対して、つまり、フォーカス変動によって拡大・縮小以外の変化が起こる画像に対して、特許文献3に示されている方法を適用することは困難である。何らかの物体が写るようにステージを移動した上で、センタリングを行う必要がある。以下に説明する方法は、視野移動を必要とせずに、アモルファス領域を観察対象とすることが可能なセンタリング方法である。
【0082】
S40では、指定されたデフォーカス範囲内においてデフォーカス値を段階的に変化させながら、試料に対して電子線が照射され、これにより複数のロンキグラムが取得される。それらのロンキグラムの積算により、積算画像としてのロンキグラム変化像が作成される。積算枚数は、例えば、4枚から数十枚の範囲内において指定し得る。
【0083】
指定されたデフォーカス範囲内においてデフォーカス値を連続的に変化させながら、試料に対して電子線を連続的に照射し、これにより、ロンキグラム動画像を1枚のロンキグラム変化像として撮像してもよい。対物レンズに供給する励磁電流を変更することによりフォーカスの高さが変更される。試料位置の変更、電子線の加速電圧の変更、等によって、フォーカスの高さが変更されてもよい。デフォーカス範囲内にジャストフォーカスに相当する値が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0084】
S42では、ロンキグラム変化像に基づいて開口(アパーチャ)の適用の有無が判断される。開口が適用されていると判断された場合、ロンキグラム変化像における円形領域以外の外側領域が除去される。これはロンキグラム中心の特定精度を高めるための第1の前処理である。必要に応じて、ロンキグラム変化像を段階的にトリミングしてもよい。
【0085】
S46では、ロンキグラム変化像に対してフィルタ処理が適用される。その際、例えば、バンドパスフィルタ(BPF)が利用される。フィルタ処理により、ロンキグラム変化像に含まれるノイズが除去又は低減され、また、ロンキグラム変化像に含まれる不均一なコントラスト成分(試料の組成や厚さ等に由来する成分)が除去又は低減される。フィルタ処理は、ロンキグラム中心の特定精度を高めるための第2の前処理である。
【0086】
ロンキグラム変化像において、各点は、ロンキグラム中心から外側へ移動し、あるいは、ロンキグラム中心の方へ移動する。これにより複数の放射状の軌跡が生じる。S48では、複数の放射状の軌跡に基づいて複数の直線が検出される。S50では、複数の直線によって生じる複数の交点が特定される。S52では、複数の交点に基づいてロンキグラム中心が決定される。例えば、複数の交点から求められる重心がロンキグラム中心として決定される。
【0087】
S54では、不動点としての撮像中心に対してロンキグラム中心が一致するように、電子線照射系の動作、例えば、偏向走査器の動作が制御される。第1センタリングでは、基本的に、大きな第1デフォーカス範囲が設定され、また、大きな第1閾値が設定される。よって、第1センタリングは粗いセンタリングである。一方、第2センタリングでは、基本的に、小さな第2デフォーカス範囲が設定され、また、小さな第2閾値が設定される。よって、第2センタリングは精密センタリングである。特定収差の事前補正工程を挟んで、2つのセンタリングを段階的に実行することにより、高精度のセンタリングを実現できる。
【0088】
実施形態においては、画像解析によりロンキグラム中心を特定したが、機械学習型推定器つまりAI(Artificial Intelligence)技術を用いてロンキグラム中心を特定してもよい。
【0089】
図9には、特定収差の事前補正及び事後補正の具体的内容がフローチャートとして示されている。S60では、設定画像上において設定されたパラメータセット(閾値、回数、デフォーカス値、及び、デフォーカスタイプ)が取得される。
【0090】
S62では、使用する推定モデルとして、第1推定モデル又は第2推定モデルが選択される。特定収差の事前補正では、第1推定モデルが選択され、特定収差の事後補正では、第2推定モデルが選択される。第1推定モデルは、比較的に大きな特定収差を推定できるモデルであり、それは第1推定精度を有する。第2推定モデルは、比較的に小さな特定収差を推定できるモデルであり、それは第1推定精度よりも高い第2推定精度を有する。
【0091】
S64では、指定されたデフォーカス値及びデフォーカスタイプに従って試料に対して電子線が照射され、これによりロンキグラムが取得される。S66では、ロンキグラムのサイズを推定モデルに適合させるために、ロンキグラムのサイズが調整される。S68では、推定モデルを有する推定器に対してロンキグラムが入力される。これにより、推定器から、推定された特定収差値が出力される。
【0092】
S70では、推定された特定収差値が閾値を下回っているか否かが判断される。推定された特定収差値が閾値以上なら、S74において、推定された特定収差値に基づいて、特定収差が補正される。具体的には、特定収差が小さくなるように、収差補正器の動作が調整される。その後、S64以降の各工程が再び実行される。
【0093】
一方、S70において、推定された特定収差値が閾値未満であると判断された場合、S72において、特定収差値が連続して閾値未満となった回数(連続数)が、指定した回数に到達したか否かが判断される。到達していない場合、S74において上記同様に特定収差が補正され、その後、S64以降の各工程が再び実行される。S72において、到達したと判断された場合、特定収差の事前補正又は事後補正が終了する。推定された特定収差値が閾値未満となった時点で、特定収差の事前補正及び事後補正を直ちに終了させてもよい。
【0094】
特定収差の事前補正においては、比較的に大きな第1閾値が設定され、また、比較的に大きな第1デフォーカス値が設定される。特定収差の事後補正においては、比較的に小さな第2閾値が設定され、また、比較的に小さな第2デフォーカス値が設定される。
【0095】
図10には、収差補正プロセスを実行する前のロンキグラムの一例が示されている。そのロンキグラムは多様な収差を反映したものであり、そこにおいてロンキグラム中心を特定することは非常に困難である。図11には、第1センタリングにおいて取得されるロンキグラム変化像の一例が示されている。ロンキグラム変化像には縞模様が認められ、縞模様に含まれる不動点としてロンキグラム中心を絞り込むことが可能である。
【0096】
図12には、実施形態に係る収差補正プロセス(第1センタリング、特定収差の事前補正、第2センタリング、主補正、特定収差の事後補正)を実行した後に取得されるロンキグラムの一例が示されている。図示の例では、ロンキグラム130における円形領域(開口領域)以外の外側領域132は除去されている。円形領域には、ほぼ一様なコントラストを有する中央部分134が含まれる。その中央部分134はかなり大きなサイズを有している。これは、補正困難な複数の高次収差を除いて、補正可能な収差群が高精度に補正されていることを示している。
【0097】
上記の実施形態に係る構成によれば、電子顕微鏡において、収差群の補正精度を高められる。また、収差補正に際してユーザーの負担を軽減できる。更に、収差値列を演算するアルゴリズムを適正に機能させることが可能となる。
【0098】
上記実施形態において、収差補正プロセスを構成する各工程の実行要否を自動的に判定してもよい。第1センタリング及び第2センタリングにおいて機械学習型推定器を利用してもよく、特定収差の事前補正及び事後補正において機械学習型推定器ではない画像解析器を利用してもよい。上記実施形態においては、二次コマ収差を特定収差としたが、2回非点収差を特定収差としてもよく、二次コマ収差及び2回非点収差の両方を特定収差としてもよい。主補正に際してSRAM法以外の方法が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10 観察部、12 情報処理装置、14 情報処理部、16 ユーザーインターフェイス(UI)、22 収差補正器、26 対物レンズ、27 試料、30 カメラ、34 第1センタリング部、36 第2センタリング部(精密センタリング部)、37A 事前補正部、37B 事後補正部、37C 主補正部、38 第1推定器、40 第2推定器、42 演算器、44 補正制御部、44A 第1制御器、44B 第2制御器、44C 第3制御器、48 システム制御部、49 表示処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12