(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】炭化タンタル複合材
(51)【国際特許分類】
C01B 32/914 20170101AFI20231109BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C01B32/914
C23C16/32
(21)【出願番号】P 2021195258
(22)【出願日】2021-12-01
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2020-0166038
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519053658
【氏名又は名称】トカイ カーボン コリア カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】チョ ドンワン
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-517574(JP,A)
【文献】特開2019-108611(JP,A)
【文献】特開2004-084057(JP,A)
【文献】国際公開第2006/085635(WO,A1)
【文献】特開2019-099453(JP,A)
【文献】特表2019-515128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/914
C23C 16/32
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された炭化タンタル膜と、を含み、
前記炭化タンタル膜の表面の水滴との接触角が
70°以上であり、
前記炭化タンタル膜の厚さは10μm~50μmであり、
前記炭化タンタル膜は、(111)、(200)、(220)、(311)及び(222)面のX線回折ピークを含み、そのうち前記(111)面のピークが最大の回折強度を有し、下記の関係式(1)による回折強度比は
2.0~2.5である、炭化タンタル複合材。
I(111)/(I(200)+I(220)+I(311)+I(222)) (1)
【請求項2】
前記炭化タンタル膜は、X線回折分析で(111)面の優先成長である、請求項1に記載の炭化タンタル複合材。
【請求項3】
前記炭化タンタル膜のうち、Ta対Cの原子比は、0.9~1.34である、請求項1に記載の炭化タンタル複合材。
【請求項4】
前記炭化タンタル膜は、結晶粒系表面の単位面積(μm2)当たり30個以下のシワ模様を含む、請求項1に記載の炭化タンタル複合材。
【請求項5】
前記基材の厚さ対前記基材の一面に形成されている前記炭化タンタル膜の厚さの比は、2000:1~100:1である、請求項1に記載の炭化タンタル複合材。
【請求項6】
前記基材は黒鉛を含む、請求項1に記載の炭化タンタル複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化タンタル複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近には、半導体工程で正確な工程制御及び洗浄のような工程を最小化することのできる部品素材が要求されている。すなわち、主に、SiC/AlNエピタキシ(Epitaxy)あるいはSiC/AlN成長(Growth)などに用いられる高温成長設備は、放射温度計を用いて温度を測定し、部品の表面を放射温度計ターゲット(Target、測定する部位)として使用しているが、ターゲットの部位に工程物質や粒子(Particle)などが蒸着されれば、温度測定が正確になり難いという問題が生じる。
【0003】
また、部品上、工程物質が容易に蒸着されれば部品の頻繁な洗浄(Cleaning)が求められ、部品の寿命にも影響を及ぼし、さらに半導体素子の製造工程の収率減少の原因になる恐れがある。従って、半導体工程で半導体素子の収率を向上して部品素材の表面に異物及び粒子などの吸着、蒸着などを防止し、正確な工程制御の可能な部品素材が求められている。
【0004】
このような産業的な要求により、一般に、半導体製造装備に用いられるサセプタ部品は、従来の半導体工程で使用した炭素素材をそのまま使用すれば、腐食性ガスにより炭素素材がエッチングされるという問題があることから、炭素素材の構造物の表面にSiCやTaCをコーティングした部品が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記言及した問題点を解決するために、表面エネルギーが制御されて異物が吸着する可能性を低くし、部品の寿命を向上させ得る炭化タンタル表面層が含まれる炭化タンタル複合材を提供することにある。
【0006】
また、本発明に係る炭化タンタル複合材を適用して半導体工程で正確な工程温度制御、すなわち、放射温度計の正確な温度を測定することができ、異物の吸着、付着、蒸着などの低い半導体工程用部品を提供することにある。
【0007】
しかし、本発明が解決しようとする課題は、以上で言及したものなどに制限されることなく、言及されない更なる課題は下記の記載によって当該の分野当業者にとって明確に理解できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、前記基材上に形成された炭化タンタル膜とを含み、前記炭化タンタル膜の表面の接触角が50°以上である、炭化タンタル複合材に関する。
【0009】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜の表面の接触角は、65°~76°であってもよい。
【0010】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜は、X線回折分析で(111)面の優先成長であってもよい。
【0011】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜は、(111)、(200)、(220)、(311)及び(222)面のX線回折ピークを主ピークとして含み、下記の関係式(1)による回折強度比は1.5以上であってもよい。
【0012】
I(111)/I((200)+(220)+(311)+(222)) (1)
【0013】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜は、(111)、(200)、(220)、(311)及び(222)面のX線回折ピークを主ピークとして含み、下記の関係式(1)による回折強度比は1.8~2.5であってもよい。
【0014】
I(111)/I((200)+(220)+(311)+(222)) (1)
【0015】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜のうちTa対Cの原子比は、0.9~1.34であってもよい。
【0016】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタルは、CVDで形成されたものであってもよい。
【0017】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタルは、2000°C以上の温度及び1時間~20時間の間に熱処理されたものであってもよい。
【0018】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜は、結晶粒系表面の単位面積(μm2)当たり30個以下のシワ模様を含んでもよい。
【0019】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル膜は、10μm~50μmの厚さを含んでもよい。
【0020】
本発明の一実施態様において、前記基材の厚さ対前記基材の一面に形成されている前記炭化タンタル膜の厚さの比は、2000:1~100:1であってもよい。
【0021】
本発明の一実施態様において、前記基材は黒鉛を含んでもよい。
【0022】
本発明の一実施態様において、前記炭化タンタル複合材は、単結晶SiC/AlNエピタキシ(SiC/AlN Epitaxy)及びSiC/AlN成長(SiC/AlN Growth)工程設備に用いられる装置の部品であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、表面エネルギーを低くすることで他の物質の吸着が少なく、部品の寿命を向上させ得るだけでなく、半導体製造工程を単純化することで経済性の改善された炭化タンタル複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態による、実施例1の炭化タンタル複合材の表面の微細構造を示したSEMイメージである。
【
図2】本発明の一実施形態による、比較例1の炭化タンタル複合材の表面の微細構造を示したSEMイメージである。
【
図3】本発明の一実施形態による、比較例2の炭化タンタル複合材の表面の微細構造を示したSEMイメージである。
【
図4】本発明の一実施形態による、水滴接触角試験結果をイメージで示したものであり、(A)実施例1の炭化タンタル複合材及び(B)比較例1の炭化タンタル複合材に関する。
【
図5】本発明の一実施形態による、実施例2の炭化タンタル複合材のXRDグラフを示したものである。
【
図6】本発明の一実施形態による、比較例3の炭化タンタル複合材のXRDグラフを示したのである。
【
図7】本発明の一実施形態による、比較例4の炭化タンタル複合材のXRDグラフを示したのである。
【
図8】本発明の一実施形態による、炭化タンタル膜で粒子表面のシワ模様を測定する方法を例示的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付する図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の説明において、関連する公知機能又は構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不要に曖昧にすると判断される場合、その詳細な説明は省略する。また、本明細書で使用される用語は、本発明の好適な実施形態を適切に表現するために使用される用語であって、これはユーザ、運用者の意図又は本発明が属する分野の慣例などによって変わり得る。従って、本用語に対する定義は、本明細書全般にわたった内容に基づいて下されなければならないのであろう。各図面に提示されている同じ参照符号は同じ部材を示す。
【0026】
明細書の全体において、いずれかの部材が他の部材「上に」位置しているとするとき、これはいずれかの部材が他の部材に接している場合だけでなく、2つの部材間に更なる部材が存在する場合も含む。
【0027】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、他の構成要素を取り除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことを意味する。
【0028】
以下、本発明の炭化タンタル複合材について実施例及び図面を参照しながら具体的に説明する。しかし、本発明がこのような実施例及び図面により制限されることはない。
【0029】
本発明は、炭化タンタル複合材に関し、本発明の一実施形態によれば、基材と、前記基材の少なくとも一面又は全体に炭化タンタル膜とを含む。前記炭化タンタル膜は、低い表面エネルギーを介して表面に異物の吸着、付着、蒸着などが発生する可能性を低くし、工程条件が苛酷で精密な工程制御が求められる半導体製造工程で部品素材として活用され得る。
【0030】
本発明の実施例により、前記炭化タンタル膜は、表面の接触角が50°以上又は60°~80°であってもよい。好ましくは、表面の接触角は65°~76°であってもよい。表面の接触角は水滴の接触角(Contact Angle)を意味し、これは液体が固体物質の表面上で熱力学的な平衡をなす角を示し、表面エネルギーの状態を測定する手段である。すなわち、炭化タンタル膜は、前記接触角が増加することにより物質の表面エネルギーが低いことを意味する。
【0031】
すなわち、炭化タンタル複合材は、表面エネルギーの低い炭化タンタルを適用して異物が吸着する可能性を低くし、半導体工程に用いられる部品素材に適用するとき、半導体工程のうち温度などのような工程条件の測定中に部品素材の表面に吸着した異物による温度計の作動を妨害することなく、異物及び工程物質による洗浄工程の回数を低下させ得る。また、異物による部品の寿命低下を防止することができる。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜の表面エネルギーは、結晶粒の形状、結晶方向などにより制御され、優先成長の結晶面、結晶面の強度比、及び構成成分の比率の少なくとも1つ以上の因子を調節し、所望する表面エネルギーを改善させることができる。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜は、X線回折分析で(111)面の優先成長であってもよく、前記炭化タンタル膜は、(111)、(200)、(220)、(311)、及び(222)面のX線回折ピークを主ピークとして含み、下記の関係式(1)による回折強度比は、1.5以上、2以上、3以上であってもよい。好ましくは、前記回折強度比は、1.8以上~2.5以下であってもよい。XRD、すなわち、前記炭化タンタル膜の結晶特性は炭化タンタル膜の表面の接触角を低くするのに有利である。
【0034】
I(111)/I((200)+(220)+(311)+(222)) (1)
(Iは、XRD回折分析で回折強度である)
【0035】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜のうち、Ta対Cの原子比は0.9~1.34であってもよく、前記原子比を調節することで炭化タンタル粒子表面にシワパターンの形成を防止し、表面積を低くして表面エネルギーを低下することができる。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜は、結晶粒系表面の単位面積(μm2)当たり30個以下、20個以下、又は、10個以下のシワ模様(又は、シワパターン)を含んでもよい。前記シワ模様が単位面積(μm2)当たり30個以下である場合、屈曲した部分による比表面積の増加を低くし、やわらかくて滑らかな表面を形成して表面エネルギーを低減することができる。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、前記シワ模様は、
図8に示すように、粒子表面を50、000倍率でSEMイメージ(モデル名:JEOL、JMS-7900)を測定して単位面積当たり(μm
2)シワの個数をカウントする方法により測定した。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜の厚さは10μm~50μmであってもよい。また、前記炭化タンタル膜は、合成及び/又は蒸着後に熱処理され、例えば、2000°C~2500°C温度、Ar雰囲気及び1~20時間の間に熱処理されてもよい。このような熱処理工程を通じて表面エネルギーを制御することができる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、前記炭化タンタル膜は10μm~50μmの厚さを含んでもよく、前記基材の厚さと前記基材の一面又は全面に形成されている前記炭化タンタル膜の厚さの比は、2000:1~100:1であってもよい。前記厚さ及び厚さ比の範囲内に含まれれば、ガス放出(Outgassing)の防止及び基材と炭化タンタルとの応力を減少することができ、TaCの蒸着後に基材の変形を最小化することができることから好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、前記基材は、炭化タンタル複合材の用途に応じて適切に選択され、例えば、炭素基材であってもよく、すなわち、黒鉛を含んでもよい。
【0041】
本発明は、本発明に係る炭化タンタル複合材を含む部品に関し、前記部品は、半導体工程に用いられる部品であってもよい。例えば、前記部品は、単結晶SiC/AlNエピタキシ及びSiC/AlN成長の工程設備の部品であってもよい。
【0042】
本発明で記載されている数値範囲は、本発明の目的及び範囲を超過しなければ、前記範囲内に特定の数値に対して以下、以上、未満及び/又は超過のように表示されてもよい。
【0043】
実施例1~実施例3
TaCをグラファイト基材上にCVD蒸着法に基づいて蒸着した。
【0044】
比較例1~比較例4
TaCをグラファイト基材上にCVD蒸着法に基づいて蒸着した。
【0045】
特徴の分析
(1)表面の微細構造の分析
実施例及び比較例において製造されたTaCの表面の微細構造をSEMで観察し、その結果を表1及び
図1~
図3に示した。また、表1において、Ta及びCの組成比はEDSで測定したデータであり、Atomic%基準である(モデル名:Oxford INCA x-act)。
【0046】
【0047】
表1をみると、Ta/Cの比率によるTaC表面の微細構造を観察する際に実施例1及び実施例3は、粒子表面が滑らかな(Smooth)形状を有することが確認される。これは、
図1に示した実施例1のSEMイメージで追加的に確認できる。
【0048】
比較例1及び比較例2に示すように、Ta/Cの比率が1.4以上及び0.8以下の条件でシワのある(Wrinkled)TaC粒子表面が形成され、
図2及び
図3から追加的に確認できる。すなわち、このようなシワのあるTaC粒子表面は、高い表面積によって表面エネルギーを増加させる傾向があり、下記の表2に接触角で滑らかな表面を有する実施例1及び実施例3は、比較例1及び比較例2に比べて高い接触角を示している。
【0049】
(2)XRD分析
実施例及び比較例で製造されたTaCのXRDを測定して
図5~
図7に示し、XRDグラフで式1による優先成長ピークと主成長ピークの強度比を計算して表2に示した。成長方向に対する分析は、XRD設備(製造会社:Rigaku/モデル名:Ultima IV)を用いて各方向のピーク強度を測定し、測定条件は、測定角度10°~80°、スキャン速度10、スキャン幅0.2、及び測定パワー40kV、40mAである。
【0050】
(3)接触角の分析
接触角測定装置(製造会社:Dataphysics Instruments/モデル名:OCA20)を用いて水滴接触角を測定し、TaCの表面に異物の吸着有無を判別して表2及び
図4に示した。
【0051】
【0052】
表2において、Ta/C比率及び結晶方向による接触角の変化を確認することができ、(111)面の結晶方向に優先成長され、XRDピーク比(111)/((200)+(220)+(311)+(222))が1.8以上を同時に満足する場合、接触角が大きく増加することが確認される。さらに、半導体工程で温度計で温度測定するとき、ターゲット部位に異物の吸着がほとんど発生しないことが確認される。
【0053】
上述したように実施例がたとえ限定された実施例と図面によって説明されたが、本発明は、上述の実施例に限定されることなく、本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような実施例から様々な修正及び変形が可能である。例えば、説明された技術が説明された方法とは異なる順に実行されたり、及び/又は説明された構成成分が説明された方法とは異なる形態に結合又は組み合わせられたり、異なる構成成分又は均等物によって代替、置換されても適切な結果を達成することができる。従って、他の実現、他の実施例、及び特許請求の範囲と均等のものなども後述する特許請求の範囲の範囲に属する。