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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20231109BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D41/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021199527
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2023085057
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 友理恵
(72)【発明者】
【氏名】米丸 智巳
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-038643(JP,A)
【文献】特開2011-252483(JP,A)
【文献】特開平10-047127(JP,A)
【文献】特開2001-071789(JP,A)
【文献】特開平08-254141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気管を開閉するスロットル弁の開度に関する値を検出するスロットル開度検出部と、
前記内燃機関の排気管の触媒部よりも下流側に設けられた酸素濃度センサの検出値の帰還に基づき空燃比フィードバック係数を増減するように設定する空燃比フィードバック部と、
前記内燃機関の運転状態を検出して、該内燃機関が発生するトルクを求めるトルク算出部と、
前記スロットル弁が開くときに、前記トルクが増大し又は減少するかを確認する方向性確認部と、
前記方向性確認部により前記トルクが減少すると確認された場合、該トルクを減少させる該空燃比フィードバック係数の設定を制限するように構成された空燃比フィードバック制限部とを備えることを特徴とする空燃比制御装置。
【請求項2】
前記方向性確認部は、
前記内燃機関が発生するトルクを前記内燃機関の吸気管に設けたスロットル弁の開度に関する値で除算することによってトルク開度比を算出するトルク開度比算出部と、
前記トルク開度比についての閾値を設定する閾値設定部と、
前記トルク開度比と前記閾値との大小関係を判定する判定部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記空燃比フィードバック制限部は、前記空燃比フィードバック係数の変化可能範囲を規制するための規制値を設定する規制値設定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記規制値を変更する規制実行部とを備えることを特徴とする請求項2に記載の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記空燃比フィードバック部は、前記空燃比フィードバック係数の代表値を求める空燃比フィードバック学習部を備え、
前記規制値設定部は、前記規制値を変更して前記空燃比フィードバック係数の変化可能範囲を調節するとともに、前記規制値を介して前記空燃比フィードバック係数を前記代表値に近づくように修整する規制値修整部を備えることを特徴とする請求項3に記載の空燃比制御装置。
【請求項5】
空燃比フィードバック制限部は、前記判定部による判定結果に基づいて前記空燃比フィードバック部の前記空燃比フィードバック係数の増減速度を調整する利得調整部を備えることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における空燃比を、排気管の触媒部よりも下流側に設けられた酸素濃度センサの検出値に基づいて制御する空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関における空燃比を制御する空燃比制御装置として、コストダウンのために、触媒部の上流の酸素センサを廃し、下流の酸素センサだけを用いて空燃比をフィードバック制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の空燃比制御装置では、フュエルカット制御又は減速リーン化が終了した直後に、空燃比制御が一旦オープンループのリッチスパイク制御とされ、そして実空燃比が酸素センサの出力値に基づいてリッチ側になったと判別された段階で、空燃比制御部本体でのクローズドループの空燃比フィードバック制御が再開される。
【0004】
上記オープンループのリッチスパイク制御では、リッチスパイクマップを参照しながら、所定供給量の燃料がエンジンの燃焼室に供給される。これにより、触媒部の上流の酸素濃度センサ(特許文献1の実施例ではリニア空燃比(LAF)センサ)を廃し、空燃比の適正化とシステムのコストダウンを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-70600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の空燃比制御装置によれば、空燃比制御がオープンループのリッチスパイク制御とされてから、実空燃比がリッチ側となるまでの間、空燃比制御部本体での空燃比フィードバック制御が停止される。このリッチスパイク制御の間の空燃比の整定精度は、リッチスパイクマップ等の設定精度に左右される。このため、実空燃比を適正値に整定させるために時間がかかる。
【0007】
一方、上記特許文献1のリッチスパイク制御を行わないとすれば、触媒部の機能が健全であればあるほど、内燃機関の触媒部上流側の実空燃比(空気過剰率λ)と、触媒下流側の酸素濃度センサで検出される触媒下流空燃比との間にずれが生じる。この場合、排気中の酸素量が健全な触媒部の作用で良好に減ぜられることにより、たとえば触媒部上流側すなわち内燃機関の気筒内での空気過剰率λが1より大きい状態、すなわちオーバーリーン状態になっていたとしても触媒部下流側の空気過剰率λは1より小さい状態、すなわちリッチ状態を呈することとなる。このずれにより、下流の酸素センサだけを用いて空燃比をフィードバック制御する際にエンストやヘジテーション(機関の息つき)などの事象が生じ、その結果、ドライバビリティが悪化する。
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題に鑑み、上記気筒内のオーバーリーン状態の発生を是正しドライバビリティ悪化を回避できる空燃比制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の空燃比制御装置は、
内燃機関の吸気管を開閉するスロットル弁の開度に関する値を検出するスロットル開度検出部と、
前記内燃機関の排気管の触媒部よりも下流側に設けられた酸素濃度センサの検出値の帰還に基づき空燃比フィードバック係数を増減するように設定する空燃比フィードバック部と、
前記内燃機関の運転状態を検出して、該内燃機関が発生するトルクを求めるトルク算出部と、
前記スロットル弁が開くときに、前記トルクが増大し又は減少するかを確認する方向性確認部と、
前記方向性確認部により前記トルクが減少すると確認された場合、該トルクを減少させる該空燃比フィードバック係数の設定を制限するように構成された空燃比フィードバック制限部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明において、ヘジテーションの予兆は、スロットル弁の加速(開度増加)操作に対して内燃機関のトルクが反比例(減少)する場合に検知(予見)される。このとき、触媒下流の酸素濃度センサによる空燃比フィードバック係数がトルクの減少に比例して減少する傾向にあるとすれば、排気中の酸素量が触媒部で減ぜられることにより、触媒部の下流側の空気過剰率λはリッチだが、触媒部の上流すなわち内燃機関の気筒内の空気過剰率λは1より大きい状態、すなわちオーバーリーン状態に向かっていると考えられる。
【0011】
この点、本発明によれば、スロットル弁が開くときに、トルクが減少することが方向性確認部により確認された場合、空燃比フィードバック制限部は、該トルクが減少するような空燃比フィードバック係数の設定を制限する。これにより、上記オーバーリーン状態によるエンストやヘジテーション等の不都合が発生するのを予見し、これを回避することができる。したがって、触媒部上流側の酸素濃度センサを廃止したにも拘わらずドライバビリティの悪化を抑制し、触媒部上流側の酸素濃度センサの廃止によるコストダウンのメリットを存分に訴求することができる。
【0012】
本発明において、前記方向性確認部は、前記内燃機関が発生するトルクを前記内燃機関の吸気管に設けたスロットル弁の開度に関する値で除算することによってトルク開度比を算出するトルク開度比算出部と、前記トルク開度比についての閾値を設定する閾値設定部と、前記トルク開度比と前記閾値との大小関係を判定する判定部とを備えてもよい。
【0013】
これによれば、トルク開度比算出部により算出されるトルク開度比と、閾値設定部により設定される閾値とについて、判定部により判定される大小関係に基づき、スロットル弁の開閉方向と、発生トルクの増減方向とが、変化の方向性を同じくしているか否かを的確に確認することができる。
【0014】
この場合、前記空燃比フィードバック制限部は、前記空燃比フィードバック係数の変化可能範囲を規制するための規制値を設定する規制値設定部と、前記判定部による判定結果に基づいて、前記規制値を変更する規制実行部とを備えてもよい。
【0015】
これによれば、規制実行部は、規制値設定部により設定される空燃比フィードバック係数の変化可能範囲についての規制値を、判定部によるトルク開度比と閾値との大小関係の判定結果に基づいて、適切に変更することができる。
【0016】
この場合、前記空燃比フィードバック部は、前記空燃比フィードバック係数の代表値を求める空燃比フィードバック学習部を備え、前記規制値設定部は、前記規制値を変更して前記空燃比フィードバック係数の変化可能範囲を調節するとともに、前記規制値を介して前記空燃比フィードバック係数を前記代表値に近づくように修整する規制値修整部を備えてもよい。
【0017】
これによれば、空燃比フィードバック係数は、その変化可能範囲が規制値により調節される際、規制値とともに代表値に近づくように徐々に修整・変更される。これにより、空燃比が急激に変化することにより生じ得る衝撃(内燃機関の急激な回転速度変動)を防止しつつ排気ガスを適正値に整定することができる。
【0018】
本発明において、空燃比フィードバック制限部は、前記判定部による判定結果に基づいて、前記空燃比フィードバック部の前記空燃比フィードバック係数の増減速度を調整する利得調整部を備えてもよい。
【0019】
これによれば、利得調整部によって空燃比フィードバック係数の増減速度を調整することにより、空燃比フィードバック係数の変更速度をスローダウンさせ、リーン側への空燃比フィードバック係数の行き過ぎ(オーバーシュート)を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る空燃比制御装置を備える内燃機関の主要部の構成を模式的に示す模式図である。
図2図1の内燃機関のECUにおける主要構成を示すブロック図である。
図3図2のブロック図におけるフィードバック係数演算部の構成を示すブロック図である。
図4図3のフィードバック係数演算部の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る空燃比制御装置を備える4サイクル形式の内燃機関の主要部の構成を示す。この内燃機関の空燃比制御装置は、内燃機関の排気中の酸素濃度に基づいて得られる空気過剰率と目標空気過剰率との偏差に基づいて空燃比フィードバック制御を行う機能を有する。
【0022】
同図に示すように、この内燃機関の機関本体1は、吸入ポートに設けられた吸気管2と、吸気管2内に設けられてエアクリーナ4から吸入ポートに供給される吸気の量を開度に応じて調整するスロットル弁3とを備える。
【0023】
スロットル弁3には、スロットル弁3の開度を検出するスロットルセンサ5が設けられる。スロットルセンサ5は、吸気管2を開閉するスロットル弁3の開度に関する値を検出するスロットル開度検出部を構成する。吸気管2の吸入ポート近傍には、燃料を噴射する燃料噴射弁6が設けられる。燃料噴射弁6には、図示しない燃料タンクから燃料ポンプによって燃料が圧送される。
【0024】
吸気管2には、吸気管2における吸気圧を検出する吸気圧センサ7及び吸気管2内の吸入空気の温度を検出する吸気温センサ8が設けられる。機関本体1の排気ポートに連結された排気管10内には、排気管10の排気中の未燃焼成分を低減させる触媒コンバータ11及び排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ12が設けられる。酸素濃度センサ12は、排気管10に介装された触媒部としての触媒コンバータ11より下流側の排気管10内の排気中における酸素濃度を検出するものである。
【0025】
機関本体1には、点火装置14に接続された点火プラグ13が固着される。ECU(電子制御ユニット)15が点火装置14に対して点火タイミングの指令を発することにより、機関本体1のシリンダ燃焼室内で火花放電が生じる。
【0026】
ECU15には、スロットルセンサ5、吸気圧センサ7、吸気温センサ8、酸素濃度センサ12、冷却水温センサ17、及び大気圧を検出する大気圧センサ20のそれぞれの検出値を示すアナログ電圧が入力される。また、ECU15には、上記の燃料噴射弁6が接続される。
【0027】
ECU15には、さらに、クランク角度センサ19からのクランク軸18の回転角度位置を示す信号が入力される。すなわち、クランク角度センサ19は、クランク軸18に連動して回転するロータ19aの外周に所定角度(例えば、15度)毎に設けられた複数の凸部を、ロータ19aの外周近傍に配置されたピックアップ19bによって磁気的あるいは光学的に検出し、ピックアップ19bからクランク軸18の所定角度の回転毎にパルス(クランク信号)を発生する。
【0028】
具体的には、クランク角度センサ19は、ピストン9が上死点に至る毎に、又はクランク軸18が360度回転する毎に基準角度を示す信号をECU15に出力する。
【0029】
図2は、ECU15における主要な構成を示す。同図に示すように、ECU15に排気中の酸素濃度の検出信号を供給する酸素濃度センサ12は、排気脈動を有する内燃機関の排気に接するように設けられて排気中の酸素濃度を検出する検出部としてのセンサ素子12aと、センサ素子12aに隣接してセンサ素子12aを加熱するセンサヒータ12bとを備える。
【0030】
センサ素子12aは、内燃機関の排気がストイキメトリック近傍の酸素濃度である際に略ステップ状に変化する抵抗値を有し、該抵抗値から求める検出値がセンサ素子12aの温度と前記排気脈動とに応じた波高値を有するパルス波状を呈する。センサ素子12aとしては、本実施形態では、酸素濃度に応じて抵抗値が変化する抵抗型酸素センサであるチタニア型のセンサ素子が用いられる。
【0031】
ECU15は、センサヒータ12bを制御するヒータ制御器22と、センサ素子12aの温度を示す温度値Tを算出する温度読取部としての温度算出部23と、センサ素子12aの出力信号を、排気中の酸素濃度を示す検出値としての電圧値VHGに変換する電圧算出部24とを備える。
【0032】
ヒータ制御器22によるセンサヒータ12bの温度の制御は、不図示の電源(蓄電池)からセンサヒータ12bに供給される通電電流量IをECU15でパルス幅変調(PWM)制御することにより行われる。また、温度算出部23による温度値Tの算出は、たとえば、センサヒータ12bに印加されたヒータ電圧及び通電電流量Iの各値をECU15で読み取ってセンサヒータ12bの抵抗値を求め、該抵抗値を、ECU15に予め準備されたヒータ抵抗値及び温度値T間の対応関係を示すテーブルデータあるいは計算式によって換算することにより行われる。温度算出部23及び電圧算出部24における算出結果は、後述する過剰率算出部25の代替値演算部26に供給される。
【0033】
また、ECU15は、クランク角度センサ19の検出結果に基づいて内燃機関の回転速度NE及び角速度NETCを算出する回転速度演算部27と、温度算出部23からの温度値T、電圧算出部24からの電圧値VHG、及び回転速度演算部27からの角速度NETCに基づいて空気過剰率λを算出する過剰率算出部25とを備える。
【0034】
さらに、ECU15は、目標とする空気過剰率λcmdを触媒コンバータ11の触媒における貯蔵酸素量の推定値等に基づいて算出する目標値演算部28と、回転速度演算部27からの回転速度NE、及び吸気圧センサ7からの吸気管2内の圧力PMに基づいて基本噴射量BJを算出する基本噴射量演算部29と、過剰率算出部25により算出された空気過剰率λを目標空気過剰率λcmdに一致させるべく、基本噴射量演算部29が算出した基本燃料噴射量BJを補正するためのフィードバック係数Kを求めるフィードバック係数演算部30と、フィードバック係数K及び基本噴射量BJに基づいて燃料噴射量Tiを算出するとともに、燃料噴射弁6を作動させる噴射量演算部31とを備える。この噴射量演算部31は、内燃機関の1回の燃焼のために供給される燃料噴射量Tiを捕捉する燃料噴射量捕捉部として機能する。
【0035】
フィードバック係数演算部30においては、空気過剰率λと目標空気過剰率λcmdとの偏差に基づいたPID制御が行われてフィードバック係数Kが演算される。噴射量演算部31によりフィードバック係数K及び基本噴射量BJに基づいて算出される燃料噴射量Tiに基づき、これに対応する時間だけ、燃料噴射弁6が開弁される。而して、機関本体1のシリンダ燃焼室内には空気過剰率λと目標空気過剰率λcmdとの比較に基づいた上記PID制御のフィードバック係数Kに応じた量の燃料が噴射される。
【0036】
過剰率算出部25は、温度算出部23からの電圧値VHG及び温度算出部23からの温度値Tに基づき、電圧値VHGを、その温度特性を補償しつつ空気過剰率に対してリニアライズ変換したデータLDを用いて排気の空気過剰率λを算出するものである。ただし、この算出は、電圧値VHGがリーン側の変換限界値(後述の閾値LREF)以下の場合に適用され、電圧値VHGがこの変換限界値より大きいときには、後述の別の方法で空気過剰率λが求められる。
【0037】
過剰率算出部25は、内燃機関のクランク角速度NETCに基づき、例えば特許06254633号公報に記載の方法で内燃機関において増減されるトルク値TQを算出するトルク算出部32と、上述のリニアライズ変換についての変換限界閾値を設定する限界閾値設定部33と、空気過剰率λの代替値Rを算出するのに必要なデータやテーブルを記憶する記憶部34と、代替値Rを算出する代替値演算部26とを備える。
【0038】
限界閾値設定部33は、変換限界閾値として、リーン側の変換限界域値であるリーン側閾値LREF及びリッチ側の変換限界値であるリッチ側閾値RREFを、電圧算出部24からの電圧値VHGについて設定する。ただし、チタニア型のセンサ素子12aは、温度が変化すると、出力値のダイナミックレンジ(センサ出力電圧の線形領域の最小値と最大値の各値)が変化する。このため、変換限界閾値は、温度算出部23からの温度値Tに応じて変更される。
【0039】
記憶部34は、代替値Rの算出に必要なデータとして、電圧算出部24からの電圧値VHGが変換限界閾値LREF以下のとき、燃料噴射弁6による燃料噴射の実行時間Ti1、トルク値TQ1、変換限界閾値LREFに関する空気過剰率λbを記憶する。
【0040】
代替値演算部26は、電圧値VHGが変換限界閾値LREFを超えているとき、直前の燃料噴射の実行時間をTi2、直前のトルク値をTQ2として、次式(1)により代替値Rを算出する。
R=((Ti1÷Ti2)÷(TQ1÷TQ2))×λb (1)
【0041】
そして、過剰率算出部25は、電圧値VHGが変換限界閾値LREFを超えている場合には、上述のリニアライズ変換したデータLDとしての空気過剰率λに代えて、代替値Rを排気の空気過剰率λとみなす。なお、以上の内燃機関の空燃比フィードバック制御については、特願2020-179511号において詳述されている。
【0042】
図3は、上述のフィードバック係数演算部30の構成を示す。本実施形態の空燃比制御装置は、このフィードバック係数演算部30と、内燃機関の吸気管を開閉するスロットル弁3の開度に関する値を検出するスロットル開度検出部としての上述のスロットルセンサ5と、内燃機関の運転状態を検出して、内燃機関において増減されるトルクを求める上述のトルク算出部32とを備える。
【0043】
図3に示すように、フィードバック係数演算部30は、酸素濃度センサ12の検出値の帰還に基づき暫定的な(必要に応じて調整されてフィードバック係数Kに変換される)暫定フィードバック係数MHGを増減するように設定する空燃比フィードバック部35を備える。空燃比フィードバック部35は、暫定フィードバック係数MHGの代表値を求める空燃比フィードバック学習部36を備える。
【0044】
また、フィードバック係数演算部30は、スロットル弁3の開閉方向と、トルク算出部32が算出するトルク値TQの増減方向とが、変化の方向性を同じくしているか否かを確認する方向性確認部37と、この変化の方向性が異なる関係にあると確認された場合、トルク値TQが変化している方向と同じ側への暫定フィードバック係数MHGの変化を制限し、制限されたフィードバック係数Kを出力する空燃比フィードバック制限部38とを備える。
【0045】
方向性確認部37は、トルク値TQをスロットル弁3の開度THで除算することによって、トルク開度比RTOTQTHを算出するトルク開度比算出部39と、内燃機関の回転速度NEに基づいてトルク開度比RTOTQTHについての閾値TVを設定する閾値設定部40と、トルク開度比RTOTQTHと閾値TVとの大小関係を判定し、その判定結果を示すフラグF_DRを出力する判定部41とを備える。
【0046】
空燃比フィードバック制限部38は、暫定フィードバック係数MHGの変化可能範囲を標準的な範囲に設定するための通常の規制範囲と、この通常の規制範囲よりも狭い範囲に暫定フィードバック係数MHGの変化可能範囲を調節するための規制値LVを設定する規制値設定部42と、判定部41による判定結果F_DRと、規制値設定部42による規制値LVとに基づいて、暫定フィードバック係数MHGの値を制限し、フィードバック係数Kへと変換する規制実行部43とを備える。
【0047】
さらに、規制値設定部42は、規制値LVを有効化して暫定フィードバック係数MHGの変更範囲を制限するとともに、規制値LVを、後述する代表値MREFHGに近づくように修整する規制値修整部44を備える。
【0048】
また、空燃比フィードバック制限部38は、判定部41による判定結果を示すフラグF_DRに基づいて、空燃比フィードバック部35における暫定フィードバック係数MHGの増減速度を調整する利得調整部45を備える。
【0049】
図4は、空燃比制御装置の動作を示す。同図においては、内燃機関の回転速度NE、スロットル弁3の開度TH、内燃機関が発生するトルクTQ、トルクTQをスロットル開度THで除したトルク開度比RTOTQTH、フィードバック係数K、及び判定部41による判定結果を示すフラグF_DRについて、時間Tの進行に応じた一定時間間隔の制御サイクル毎に行われる空燃比制御装置による処理によって変化する様子が例示されている。
【0050】
図4に示すように、例えば、スロットル弁3の開度THが、内燃機関の回転速度NEがアイドルとなる時の開度状態(全閉)から開度0.8を超えて開かれた状態になるとき、内燃機関の回転速度NEがアイドル時の回転速度IDLEから1800rpmを超えて上昇するように変化する。この場合に、内燃機関においてトルクTQが開度THに追従しないヘジテーション(機関の息つき)が発生する場合がある。
【0051】
このとき、触媒コンバータ11下流の酸素濃度センサ12による暫定フィードバック係数MHGがトルクTQの減少に比例して減少する傾向であるとすれば、排気中の酸素量が排気管10中の触媒コンバータ11で減ぜられることにより、触媒コンバータ11下流の空気過剰率λはリッチだが、触媒コンバータ11上流すなわち内燃機関の気筒内の空気過剰率λは1より大きい状態、すなわち、内燃機関に、ヘジテーションの兆候となるオーバーリーン状態が生じつつあるものと考えられる。
【0052】
そこで、本実施形態の空燃比制御装置においては、このオーバーリーン状態を解消することにより、ヘジテーションを回避している。この目的のため、制御サイクルを繰り返す毎に、フィードバック係数演算部30は、空燃比フィードバック部35が出力する暫定フィードバック係数MHGを必要に応じて調整し、フィードバック係数Kとして出力する。
【0053】
この暫定フィードバック係数MHGの調整は、方向性確認部37によりスロットル弁3の開閉方向と、内燃機関が発生するトルクの増減方向とが、変化の方向性を同じくしているか否かを確認し、変化の方向性が異なる関係にあると確認された場合、空燃比フィードバック制限部38の規制値設定部42により、発生トルクが変化している方向と同じ側への暫定フィードバック係数MHGの変化を制限することにより行われる。
【0054】
すなわち、空燃比制御装置は、制御サイクルを繰り返す毎に、次の処理を行う。まず、角速度NETCに基づいてトルク算出部32によりトルク値TQを求める。また、スロットルセンサ5によりスロットル開度THを取得する。そして、フィードバック係数演算部30により、基本燃料噴射量BJを補正するためのフィードバック係数Kを、次のような手順で取得する。
【0055】
まず、上述の過剰率算出部25で算出される空気過剰率λを目標空気過剰率λcmdに一致させるべく、空燃比フィードバック部35により暫定フィードバック係数MHGを演算する。また、方向性確認部37において、スロットル弁3の開閉方向と、内燃機関が発生するトルクTQの増減方向とが、変化の方向性を同じくしているか否かを確認する。
【0056】
この確認を行うには、まず、トルク開度比算出部39において、トルク算出部32により求められたトルクTQをスロットルセンサ5からのスロットル開度THで除算することによりトルク開度比RTOTQTHを求める。
【0057】
次に、閾値設定部40により、回転速度演算部27からの回転速度NEに基づいて、閾値TV(例えば#0.2)が設定される。この閾値TVは、トルクTQがスロットル開度THに適切に追従しないことにより上述のヘジテーションが生じ得るか否かを判別する観点から、予備実験等を通して予め設定されている。
【0058】
次に、判定部41において、トルク開度比RTOTQTHと、閾値TVとの関係に応じてフラグF_DRが設定される。すなわち、トルク開度比RTOTQTH<閾値TVのとき、フラグF_DRが「1」に設定される。この場合、フラグF_DRは、スロットル弁3の開閉方向と、内燃機関が発生するトルクTQの増減方向とが異なり、上述のヘジテーションが予見された状態であることを示す。
【0059】
一方、トルク開度比RTOTQTHが閾値TV以上のとき、フラグF_DRが「0」に設定される。この場合、フラグF_DRは、スロットル弁3の開閉方向と内燃機関が発生するトルクTQの増減方向とが同じであることが確認され、すなわち、ヘジテーションが予見されていないことを示す。
【0060】
次に、空燃比フィードバック制限部38は、判定部41からのフラグF_DRに基づき、スロットル弁3の開閉方向とトルクTQの増減方向とが同じであることが確認された場合には、空燃比フィードバック部35からの暫定フィードバック係数MHGをそのままフィードバック係数Kとして出力する。すなわち、設定されたフラグF_DRが「0」である場合には、空燃比フィードバック制限部38は、空燃比フィードバック部35からの暫定フィードバック係数MHGを、通常の規制範囲内で設定し、基本燃料噴射量BJを補正するためのフィードバック係数Kとして出力する。
【0061】
一方、空燃比フィードバック制限部38は、判定部41からのフラグF_DRに基づき、スロットル弁3の開閉方向とトルクTQの増減方向とが異なることが確認された場合には、空燃比フィードバック部35からの暫定フィードバック係数MHGの変化を制限する。
【0062】
すなわち、設定されたフラグF_DRが「1」である場合には、空燃比フィードバック制限部38は、規制値設定部42により、空燃比フィードバック部35からの暫定フィードバック係数MHGの変化可能範囲を通常の規制範囲よりも狭い範囲に規制するための規制値LVを設定する。
【0063】
規制値LVとしては、ここでは、空燃比フィードバック学習部36において暫定フィードバック係数MHGを学習して得られている暫定フィードバック係数MHGの代表値MREFHGから変数αを減算して得た値(=MREFHG-α)が採用される。例えば、通常の規制範囲の上限値が1.15、下限値が0.85であるとすれば、これより狭い規制範囲として、上限値が1.15、下限値が0.95が採用され、この下限値0.95が規制値LVとして設定される。
【0064】
次に、規制実行部43により、空燃比フィードバック係数の変化可能範囲を規制する下側の限界値を、規制値設定部42により設定された規制値LVに変更する。すなわち、暫定フィードバック係数MHGの増減範囲を規制する限界値が、通常の規制範囲よりも狭い範囲に規制する限界値に切り替えられる。例えば、通常の規制範囲の下限が0.85であり、前回の制御サイクルでのフィードバック係数Kが0.95を示しており、かつ、暫定フィードバック係数MHGの代表値MREFHGが1.0を示していた場合に、上述の変数αの値には0.05が設定され、かくして規制値LVの値は、0.85から0.95(=MREFHG-α)に変更される。これにより、フィードバック係数MHGが規制値LVよりも小さい場合には、暫定フィードバック係数MHGの値は強制的に規制値LV(例えば0.95)に規制される。
【0065】
また、フラグF_DRが「1」である場合には、利得調整部45により、暫定フィードバック係数MHGの変化速度、すなわち制御サイクル毎の変化量を減少させることができる。具体的には、積分項及び比例項の利得を、前回の制御サイクルの場合よりも減少させる。これにより、例えば、図4中の実線Aで示される暫定フィードバック係数MHGの変化曲線の傾きは、図4中の破線Bで示されるより緩やかな傾きとなるように変更される。
【0066】
以降の制御サイクルにおいて、フラグF_DRが「1」である場合が続く場合、その連続する制御サイクルにおいて、規制値修整部44は、順次、規制値設定部42において設定される規制値LVを介して暫定フィードバック係数MHGの変更範囲を制限するとともに、規制値LVを、空燃比フィードバック学習部36により得られている代表値MREFHGに近づくように逐次修整する。
【0067】
具体的には、規制値LV(=MREFHG-α)における変数αの値が、連続する制御サイクルにおいて、制御サイクルが進むごとにゼロに向かって徐々に減少される。そうすると、規制実行部43は、連続する制御サイクルにおいて、上述の規制範囲の下限値に設定される規制値LVを、代表値MREFHGに近づくように変更してゆくことになる。これに従って、フィードバック係数K(MHG)は、図4に示されるように、学習値MREFHGに近づき、学習値MREFHGにマージされることになる。
【0068】
これにより、触媒コンバータ11下流の酸素濃度センサ12のみによる空燃比フィードバック制御を行う際に生じ易い、上記オーバーリーン状態が是正される。したがって、オーバーリーン状態によるヘジテーション発生が回避される。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、スロットル弁3の開閉方向とトルクTQの増減方向が異なることが方向性確認部37により確認された場合、空燃比フィードバック制限部38により、トルクTQの変化方向と同方向へのフィードバック係数K(MHG)の変化を制限するので、上記オーバーリーン状態が発生するのを回避することができる。したがって、触媒上流の酸素濃度センサを廃止したにも拘わらずドライバビリティの悪化を抑制し、触媒上流の酸素濃度センサの廃止によるコストダウンのメリットを存分に訴求することができる。
【0070】
また、方向性確認部37におけるスロットル弁3の開閉方向とトルクTQの増減方向とが異なるかどうかについては、トルク開度比算出部39により算出されるトルク開度比RTOTQTHと、閾値設定部40により設定される閾値TVとについて判定部41により判定される大小関係(フラグF_DR)に基づき、的確に確認することができる。
【0071】
また、空燃比フィードバック制限部38は、暫定フィードバック係数MHGの変化可能範囲を規制するための規制値LVを設定する規制値設定部42と、判定部41による判定結果に基づいて、規制値LVを変更する規制実行部43とを備えるので、規制値設定部42により設定される暫定フィードバック係数MHGの変化可能範囲についての規制値LVを、判定部41による判定結果に基づいて、規制実行部43により適切に変更することができる。
【0072】
また、空燃比フィードバック部35は、暫定フィードバック係数MHGの代表値を求める空燃比フィードバック学習部36を備え、規制値設定部42は、規制値LVを有効化して暫定フィードバック係数MHGの変更範囲を制限するとともに、規制値LVを代表値MREFHGに近づくように修整する規制値修整部44を備えるので、暫定フィードバック係数MHGを徐々に変更し、空燃比が急激に変化することにより生じ得る衝撃を防止することができる。
【0073】
また、空燃比フィードバック制限部38は、判定部41による判定結果に基づいて、空燃比フィードバック部35の暫定フィードバック係数MHGの増減速度を調整する利得調整部45を備えるので、利得調整部45によって、暫定フィードバック係数MHGの増減速度を調整することにより、たとえば暫定フィードバック係数MHGの増減速度をスローダウンさせ、リーン側へのフィードバックの行き過ぎ(オーバーシュート)を低減させることができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態の空燃比制御装置は、ヘジテーション発生が予見される状況下でこれを回避することができ、例えば、車体にガクンという空燃比変動ショックが発生した場合に車体のバランスを崩しがちな傾向にある自動二輪車の内燃機関に用いるのが好適な制御装置であるが、四輪車の内燃機関に用いることもできるものである。本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…機関本体、2…吸気管、3…スロットル弁、4…エアクリーナ、5…スロットルセンサ、6…燃料噴射弁、7…吸気圧センサ、8…吸気温センサ、9…ピストン、10…排気管、11…触媒コンバータ、12…酸素濃度センサ、12a…センサ素子、12b…センサヒータ、13…点火プラグ、14…点火装置、15…ECU(電子制御ユニット)、17…冷却水温センサ、18…クランク軸、19…クランク角度センサ、19a…ロータ、19b…ピックアップ、20…大気圧センサ、22…ヒータ制御器、23…温度算出部、24…電圧算出部、25…過剰率算出部、26…代替値演算部、27…回転速度演算部、28…目標値演算部、29…基本噴射量演算部、30…フィードバック係数演算部、31…噴射量演算部、32…トルク算出部、33…限界閾値設定部、34…記憶部、35…空燃比フィードバック部、36…空燃比フィードバック学習部、37…方向性確認部、38…空燃比フィードバック制限部、39…トルク開度比算出部、40…閾値設定部、41…判定部、42…規制値設定部、43…規制実行部、44…規制値修整部、45…利得調整部。
図1
図2
図3
図4