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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】生産管理システム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20231109BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/18 W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021206388
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091580
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 康八
(72)【発明者】
【氏名】後藤 友哉
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-103683(JP,A)
【文献】特開2020-179488(JP,A)
【文献】特開2000-233343(JP,A)
【文献】特開2004-098230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 - 15/28
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 11/00 - 11/10
B24B 49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた加工手順が順次遂行され、該加工手順を遂行する加工装置、及びワークを保持するワーク保持治具が備わる生産ラインの管理を行う生産管理システムであって、
前記ワーク保持治具に保持された状態の前記ワークに係る対象部に対する前記加工装置に係る加工部の相対位置ずれを算出する算出部と、
前記加工装置及び前記ワーク保持治具の両者又はいずれか一方である対象物に係る温度調節を行う温調部と、
前記算出部により算出された前記相対位置ずれに基づいて、当該相対位置ずれを抑制するように、前記温調部において前記対象物の温調制御を行わせる制御部と、
前記算出部により算出された前記相対位置ずれが所定の許容範囲内にあるか否かの判定を行う判定部と、
前記加工手順の遂行態勢が整っているか否かに係る状況を報知する報知部と、を備え、
前記制御部は、前記加工手順の遂行前に、前記温調部による前記対象物の温調制御を行わせると共に、前記判定部の判定結果として前記相対位置ずれが前記許容範囲外である旨の判定が下された場合、前記加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を前記報知部に行わせる、
ことを特徴とする生産管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生産管理システムであって、
前記制御部は、前記判定部の判定結果として前記相対位置ずれが前記許容範囲外である旨の判定が下された場合、前記生産ラインの稼働を待機させる、
ことを特徴とする生産管理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生産管理システムであって、
前記ワークに係る対象部、及び前記加工装置に係る加工部の位置をそれぞれ検出する一対の位置センサと、前記加工装置及び前記ワーク保持治具が載置された基台から垂直に延びる脚部、及び当該脚部の延長側基部から水平に延びる一対の腕部からなるセンサ保持部材と、をさらに備え、
前記一対の位置センサは、前記一対の腕部のうち前記延長側基部に対し対称となる部位にそれぞれ設けられ、
前記算出部は、前記一対の位置センサによる検出結果に基づいて、前記相対位置ずれを算出する、
ことを特徴とする生産管理システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の生産管理システムであって、
前記制御部は、
前記判定部の判定結果として前記相対位置ずれが前記許容範囲外である旨の判定が下された場合、前記温調部による前記対象物の温調制御を開始させる一方、前記相対位置ずれが前記許容範囲内である旨の判定が下された場合、前記温調部による前記対象物の温調制御を終了させる、
ことを特徴とする生産管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の製品の生産ラインにおいてワークに対する加工を行う際に用いられる加工装置の保守管理を行う生産管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の製品の生産ラインには、ワークに対する穴あけ・切削等の加工を行う際に用いられる加工装置が各所に配備されている。
かかる生産ラインでは、不良品の製造を抑える目的で、各加工装置でのワークに関する加工精度を厳密に管理することが強く要請される。
【0003】
こうした要請に応える例として、例えば特許文献1には、プリント基板等のワークを加工する加工装置において、周囲温度に起因して生じる加工位置の位置ずれを補正するための構成が開示されている。
【0004】
特許文献1に係る加工装置の発明によれば、比較的簡単な構成で周囲温度に起因して生じる加工位置の位置ずれを補正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-112671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る加工装置の発明では、周囲温度に起因した加工装置の位置ずれの補正は可能であるものの、例えば、予め定められる加工手順が順次遂行される生産ラインにおいて、ワーク加工精度を適時かつ適確に向上させることまではできない。
【0007】
その結果、特許文献1に係る加工装置の発明では、予め定められる加工手順が順次遂行される生産ラインの稼働率及び製品品質の向上を図る点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、予め定められる加工手順が順次遂行される生産ラインの稼働率及び製品品質の向上を実現可能な生産管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、自動車の生産ラインの管理業務を遂行する中で、ワーク加工精度が低下する課題の解消に取り組んでいた。ワーク加工精度の推移を経時的に計測したデータの解析を行う中で、本発明者らは、ワーク加工精度の低下は、季節との相関があることに気づいた。
特に、冬季の生産ラインの停止期間(土曜日・日曜日)後の月曜日に生産ラインを立ち上げた直後において、ワーク加工精度の低下が顕著に現れることがわかった。
そこで、本発明者らは、さらなる研究を進めたところ、加工装置周りの温度推移とワーク加工精度の推移との間に相関関係があることを見出し、さらに、生産ライン特有の背景を踏まえて、本発明を遂に完成させた。
【0010】
すなわち、第1の観点に基づく発明は、予め定められた加工手順が順次遂行され、該加工手順を遂行する加工装置、及びワークを保持するワーク保持治具が備わる生産ラインの管理を行う生産管理システムであって、前記ワーク保持治具に保持された状態の前記ワークに係る対象部に対する前記加工装置に係る加工部の相対位置ずれを算出する算出部と、前記加工装置及び前記ワーク保持治具の両者又はいずれか一方である対象物に係る温度調節を行う温調部と、前記算出部により算出された前記相対位置ずれに基づいて、当該相対位置ずれを抑制するように、前記温調部において前記対象物の温調制御を行わせる制御部と、前記算出部により算出された前記相対位置ずれが所定の許容範囲内にあるか否かの判定を行う判定部と、前記加工手順の遂行態勢が整っているか否かに係る状況を報知する報知部と、を備え、前記制御部は、前記加工手順の遂行前に、前記温調部による前記対象物の温調制御を行わせると共に、前記判定部の判定結果として前記相対位置ずれが前記許容範囲外である旨の判定が下された場合、前記加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を前記報知部に行わせる、ことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、予め定められる加工手順が順次遂行される生産ラインの稼働率及び製品品質の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の実施形態に係る生産管理システムの概要を表すブロック構成図である。
図1B】生産ラインに備わる加工装置及びワーク保持治具を側方から視てその一部を透過して表わした図である。
図1C】ワークの例であるクランクシャフトの外観斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る生産管理システムの動作説明に供するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る生産管理システムについて、適宜図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、共通の機能を有する部材には同一の参照符号を付するものとする。また、部材のサイズ及び形状は、説明の便宜のため、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0014】
〔生産管理システム11の概要〕
はじめに、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の概要について、図1A図1Cを参照して説明する。
図1Aは、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の概要を表すブロック構成図である。図1Bは、生産ライン13に備わる加工装置51及びワーク保持治具71を側方から視てその一部を透過して表わした図である。図1Cは、ワーク53の例であるクランクシャフト77の外観斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の動作説明に供するフローチャート図である。
【0015】
本発明の実施形態に係る生産管理システム11は、予め定められた加工手順が順次遂行される、例えば自動車の生産ライン13の管理を行う。生産ライン13には、該加工手順を遂行する加工装置51、及びワーク53を保持するワーク保持治具71が備わっている。
【0016】
詳しく述べると、生産管理システム11は、図1A図1Bに示すように、ワーク保持治具71に保持された状態のワーク53に係る対象部55に対する加工装置51に係る加工部57の相対位置ずれDFを、前記加工手順の遂行前の適時に、かつ適確に抑制する制御を行うことにより、ワーク加工精度の向上を図り、これをもって生産ライン13の稼働率及び製品品質の向上を実現する機能を有する。
なお、ワーク53に係る対象部55に対する加工装置51に係る加工部57の相対位置ずれDFについて、詳しくは後記する。
【0017】
前記機能を実現するために、生産管理システム11は、図1Aに示すように、入力系統15、情報処理系統17、及び出力系統19を備えて構成されている。
【0018】
入力系統15は、図1Aに示すように、生産ライン13の立ち上げ時に操作される起動スイッチ21、第1位置センサ23a、第2位置センサ23bを備えて構成されている。
【0019】
生産ライン13の立ち上げ時に起動スイッチ21がオン操作されると、生産ライン13は起動モードに移行する。起動モードでは、安定した精度でのワーク加工が担保される稼働モードに生産ライン13を移行させるための準備が行われる。起動モード、稼働モードでの動作について、詳しくは後記する。
【0020】
ここで、第1位置センサ23a、第2位置センサ23bの説明に先立って、生産ライン13に備わる加工装置51及びワーク保持治具71について適宜図面を参照して説明する。
【0021】
加工装置51及びワーク保持治具71は、図1A図1Bに示すように、水平状態に設置された共通の基台61上に載置されている。
【0022】
本実施例において、加工装置51は、例えば金属製の穴あけ加工機である。加工装置51は、不図示の加工用モータ、及びスピンドル(加工用モータの回転軸)59を備えている。
スピンドル59は、本発明の「加工装置51に係る加工部57」に相当する。
【0023】
一方、本実施例において、ワーク保持治具71は、ワーク53としてのクランクシャフト77(図1C参照)を保持するための金属製の治具である。ワーク保持治具71には、図1A図1Bに示すように、クランクシャフト77の軸端部79周りを把持する把持部78が備わっている。クランクシャフト77の軸端部79は、加工装置51に備わるスピンドル59の先端部に相対している。
クランクシャフト77の軸端部79は、本発明の「ワーク53に係る対象部55」に相当する。
【0024】
第1位置センサ23aは、加工装置51に係る加工部57(スピンドル59)の位置情報を検出する機能を有する。加工装置51に係る加工部57の位置情報を精度よく検出するために、加工装置51には、加工部57の位置を示す基準マーク(不図示)が設定されている。本実施例において、加工部57の位置情報とは、スピンドル59を側方から視た際の二次元の位置情報である。
【0025】
一方、第2位置センサ23bは、ワーク53に係る対象部55(クランクシャフト77の軸端部79)の位置情報を検出する機能を有する。ワーク53に係る対象部55の位置情報を精度よく検出するために、ワーク53(ワーク保持治具71であっても構わない。)には、対象部55の位置を示す基準マーク(不図示)が設定されている。本実施例において、対象部55の位置情報とは、クランクシャフト77の軸端部79を側方から視た際の二次元の位置情報である。
第1位置センサ23a、第2位置センサ23bは、本発明の「一対の位置センサ」に相当する。
【0026】
第1位置センサ23a、第2位置センサ23bは、図1A図1Bに示すように、例えば金属製のセンサ保持部材25に設けられる。
センサ保持部材25は、加工装置51及びワーク保持治具71が載置された基台61に固定された基部25a、基部25aから垂直に延びる脚部25b、及び脚部25bの延長側基部25cから水平に延びる一対の腕部25dからなる。
第1位置センサ23a、第2位置センサ23bは、一対の腕部25dのうち延長側基部25cに対し対称となる部位(図1B参照)にそれぞれ設けられている。
【0027】
次に、情報処理系統17は、図1Aに示すように、情報取得部31、算出部33、判定部35、補正テーブル37を有する制御部39を備えて構成されている。
【0028】
情報取得部31は、起動スイッチ21に係るオンオフ操作情報、第1位置センサ23aに係るスピンドル59(加工部57)の二次元位置情報、第2位置センサ23bに係るクランクシャフト77の軸端部79(対象部55)の二次元位置情報をそれぞれ取得する。
情報取得部31により取得した前記各種の情報は、算出部33に送られる。
【0029】
算出部33は、ワーク保持治具71に保持された状態のワーク53に係る対象部55に対する加工装置51に係る加工部57の相対位置ずれDFを算出する。詳しく述べると、算出部33は、第1位置センサ23aに係るスピンドル59(加工部57)の二次元位置情報、第2位置センサ23bに係るクランクシャフト77の軸端部79(対象部55)の二次元位置情報に基づいて、スピンドル59とクランクシャフト77の軸端部79との間の二次元座標上の相対距離である相対位置ずれDFを算出する。
算出部33により算出された相対位置ずれDFの情報は、判定部35に送られる。
【0030】
判定部35は、算出部33により算出された相対位置ずれDFが所定の許容範囲DFth内にあるか否かの判定を行う。所定の許容範囲DFthは、製品設計上適宜定められる公差に基づく値を設定すればよい。
【0031】
補正テーブル37は、相対位置ずれDFの大きさと温調部43による温調状態とを関連付けて記憶する。温調部43による温調状態とは、例えば、温調部43による対象個所・温度調節の種別(加温か冷却か)・温度調節の強さを含む概念である。補正テーブル37の記憶内容は、相対位置ずれDFを解消するための温調部43による温調状態に関する実験、シミュレーション等を通じて適宜設定すればよい。
【0032】
本発明者らの研究によれば、温調に係る対象物(本実施例では、加工装置51・ワーク保持治具71)の呈する質量の大きさと温度調節の速度とは相関があることが分かっている。具体的には、対象物の質量が大きいほど温度調節の速度は遅くなる。そのため、複数の対象物間で質量が異なると、複数の対象物の両者共に基準温度(例えば摂氏20度)に調節するのに要する時間が異なる。その結果、温度に由来する相対位置ずれDFが所定の許容範囲DFth内に収束するまでに要する時間も長くかかる。
こうした実情をも踏まえて、補正テーブル37の記憶内容を適宜設定すればよい。
【0033】
制御部39は、生産ライン13における加工手順の遂行前に、温調部43において予め設定された対象物(加工装置51及びワーク保持治具71の両者/いずれか一方)の温調制御を行わせる。
詳しく述べると、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による前記対象物の温調制御を開始させる一方、相対位置ずれDFが許容範囲内(DF=<DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による前記対象物の温調制御を終了させる。
【0034】
また、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、生産ライン13における加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を報知部41に行わせる。
さらに、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、生産ライン13の稼働を待機させる。
【0035】
出力系統19は、図1Aに示すように、報知部41、温調部43を備えて構成されている。
【0036】
報知部41は、例えば、音声、静止画像、動画像、又はこれらの組み合わせに係る態様を用いて、生産ライン13における加工手順の遂行態勢が整っているか否かに係る状況を報知する機能を有する。報知部41としては、スピーカ、ディスプレイ装置等を適宜採用すればよい。
【0037】
温調部43は、予め設定された対象物(加工装置51及びワーク保持治具71の両者又はいずれか一方)に係る温度調節を行う機能を有する。本実施例では、図1A図1Bに示すように、温調部43は、加工装置51及びワーク保持治具71の両者に予め設定されている。
温調部43による温度調節とは、加温及び冷却の両者を含む概念である。温調部43としては、特に限定されないが、例えば、PTCヒータ(加温用)、ペルチェ素子(冷却用)などを適宜採用すればよい。
なお、温調部43は、温度調節用の部材に加えて、温度調節能を補助的に高めるヒートシンク(不図示)を組み合わせて採用しても構わない。
【0038】
〔生産管理システム11の動作説明〕
次に、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の動作について、図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の動作説明に供するフローチャート図である。
なお、図2に示す生産管理システム11の動作は、起動スイッチ21のオン操作に伴い始まるものとする。
【0039】
ステップS11において、起動スイッチ21のオン操作をトリガとして、情報処理系統17に属する制御部39は、生産管理システム11の動作モードを起動モードへ移行させる。起動モードでは、安定した精度でのワーク加工処理が遂行される稼働モードへと生産ライン13の動作モードを移行させるための準備が行われる。
【0040】
ステップS12において、情報処理系統17に属する情報取得部31は、第1位置センサ23aに係るスピンドル59の二次元位置情報、第2位置センサ23bに係るクランクシャフト77の軸端部79の二次元位置情報をそれぞれ取得する。
【0041】
ステップS13において、情報処理系統17に属する算出部33は、第1位置センサ23aに係るスピンドル59の二次元位置情報、第2位置センサ23bに係るクランクシャフト77の軸端部79の二次元位置情報に基づいて、スピンドル59とクランクシャフト77の軸端部79との間の二次元座標上の相対距離である相対位置ずれDFを算出する。
【0042】
ステップS14において、情報処理系統17に属する判定部35は、算出部33により算出された相対位置ずれDFが所定の許容範囲DFth内にあるか否かの判定を行う。
【0043】
ステップS14の判定の結果、相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合(ステップS14のNo)、ステップS15において、制御部39は、温調部43において予め設定された対象物(加工装置51・ワーク保持治具71)の温調制御を開始させる。かかる対象物の温調制御によって、相対位置ずれDFの解消が促進される。
【0044】
ステップS16において、制御部39は、生産ライン13における加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を報知部41に行わせると共に、生産ライン13の稼働を待機させる。
【0045】
一方、ステップS14の判定の結果、相対位置ずれDFが許容範囲内(DF=<DFth)である旨の判定が下された場合(ステップS14のYes)、ステップS17において、制御部39は、温調部43において予め設定された対象物(加工装置51及びワーク保持治具71の両者又はいずれか一方)の温調制御を終了させる。このとき、制御部39は、生産ライン13における加工手順の遂行態勢が整った旨の注意喚起を報知部41に行わせてもよい。
【0046】
ステップS18において、制御部39は、生産管理システム11の動作モードを稼働モードへ移行させる。稼働モードでは、起動モードにおいてワーク加工精度の安定性が担保される。その結果、安定した精度でのワーク加工処理を遂行することができる。
【0047】
〔生産管理システム11の作用効果〕
次に、本発明の実施形態に係る生産管理システム11の作用効果について説明する。
第1の観点に基づく生産管理システム11は、予め定められた加工手順が順次遂行され、該加工手順を遂行する加工装置51、及びワーク53を保持するワーク保持治具71が備わる生産ライン13の管理を行う生産管理システム11が前提となる。
第1の観点に基づく生産管理システム11は、ワーク保持治具71に保持された状態のワーク53に係る対象部55に対する加工装置51に係る加工部57の相対位置ずれDFを算出する算出部33と、加工装置51及びワーク保持治具71の両者又はいずれか一方に予め設定された対象物に係る温度調節を行う温調部43と、算出部33により算出された相対位置ずれDFに基づいて、当該相対位置ずれDFを抑制するように、温調部43において予め設定された対象物の温調制御を行わせる制御部39と、を備える。
制御部39は、加工手順の遂行前に、温調部43による対象物の温調制御を行わせる。
【0048】
第1の観点に基づく生産管理システム11では、算出部33は、ワーク保持治具71に保持された状態のワーク53に係る対象部55に対する加工装置51に係る加工部57の相対位置ずれDFを算出する。
制御部39は、算出部33により算出された相対位置ずれDFに基づいて、当該相対位置ずれDFを抑制するように、加工手順の遂行前に、温調部43において予め設定された対象物の温調制御を行わせる。かかる対象物の温調制御によって、相対位置ずれDFの解消が促進される。
【0049】
第1の観点に基づく生産管理システム11によれば、制御部39は、算出部33により算出された相対位置ずれDFに基づいて、当該相対位置ずれDFを抑制するように、加工手順の遂行前に、温調部43において予め設定された対象物の温調制御を行わせるため、予め定められる加工手順が順次遂行される生産ラインの稼働率及び製品品質の向上を実現することができる。
【0050】
また、第2の観点に基づく生産管理システム11は、第1の観点に基づく生産管理システム11であって、算出部33により算出された相対位置ずれDFが所定の許容範囲DFth内にあるか否かの判定を行う判定部35と、前記加工手順の遂行態勢が整っているか否かに係る状況を報知する報知部41と、をさらに備え、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を報知部41に行わせる、構成を採用してもよい。
【0051】
第2の観点に基づく生産管理システム11によれば、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を報知部41に行わせるため、生産ラインにおける加工手順の遂行態勢に不備がある旨を周知させることができる。
その結果、加工手順の遂行態勢に不備があるのに生産ライン13が稼働される事態を未然に防ぐ効果を期待することができるため、第1の観点に基づく生産管理システム11と比べて、生産ラインの稼働率及び製品品質の向上効果を一層高めることができる。
【0052】
また、第3の観点に基づく生産管理システム11は、第2の観点に基づく生産管理システム11であって、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、生産ライン13の稼働を待機させる、構成を採用してもよい。
【0053】
第3の観点に基づく生産管理システム11によれば、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、加工手順の遂行態勢に不備がある旨の注意喚起を報知部41に行わせるのに加えて、生産ライン13の稼働を待機させるため、生産ラインにおける加工手順の遂行態勢に不備があるのに生産ライン13が稼働される事態を未然に防ぐことができる。
その結果、第2の観点に基づく生産管理システム11と比べて、生産ラインの稼働率及び製品品質の向上効果をより一層高めることができる。
【0054】
また、第4の観点に基づく生産管理システム11は、第1~第3のいずれか一の観点に基づく生産管理システム11であって、ワーク53に係る対象部55、及び加工装置51に係る加工部57の位置をそれぞれ検出する一対の位置センサ(第1位置センサ23a・第2位置センサ23b)と、加工装置51及びワーク保持治具71が載置された基台61から垂直に延びる脚部25b、及び当該脚部25bの延長側基部25cから水平に延びる一対の腕部25dからなるセンサ保持部材25と、をさらに備え、一対の位置センサ23a、23bは、一対の腕部25dのうち延長側基部25cに対し対称となる部位にそれぞれ設けられ、算出部33は、一対の位置センサ23a、23bによる検出結果に基づいて、前記相対位置ずれDFを算出する、構成を採用してもよい。
【0055】
第4の観点に基づく生産管理システム11では、一対の位置センサ23a、23bは、センサ保持部材25における一対の腕部25dのうち延長側基部25cに対し対称となる部位にそれぞれ設けられるため、センサ保持部材25の温度に起因して生じる加工位置の二次元方向(垂直方向及び水平方向)における位置ずれの差を相殺することができる。算出部33は、一対の位置センサ23a、23bによる検出結果に基づいて、相対位置ずれDFを算出する。
【0056】
第4の観点に基づく生産管理システム11によれば、算出部33は、センサ保持部材25の温度に起因して生じる加工位置の二次元方向における位置ずれの差が相殺された一対の位置センサ23a、23bによる検出結果に基づいて、加工装置51及びワーク保持治具71の温度に起因して生じる相対位置ずれDFを算出するため、第1~第3のいずれか一の観点に基づく生産管理システム11と同様、生産ラインの稼働率及び製品品質の向上を実現することができる。
【0057】
また、第5の観点に基づく生産管理システム11は、第2~第4のいずれか一の観点に基づく生産管理システム11であって、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による対象物の温調制御を開始させる一方、相対位置ずれDFが許容範囲内(DF=<DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による対象物の温調制御を終了させる、構成を採用してもよい。
【0058】
第5の観点に基づく生産管理システム11によれば、制御部39は、判定部35の判定結果として相対位置ずれDFが許容範囲外(DF>DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による対象物の温調制御を開始させる一方、相対位置ずれDFが許容範囲内(DF=<DFth)である旨の判定が下された場合、温調部43による対象物の温調制御を終了させるため、第1~第4のいずれか一の観点に基づく生産管理システム11と比べて、適時かつ適正な温調制御によって、生産ラインの稼働率及び製品品質の向上効果を得ることができる。
しかも、第5の観点に基づく生産管理システム11によれば、適時かつ適正な温調制御によって電力の消費を抑制することが可能となる結果として、脱炭素に貢献するといった作用効果を奏する。
【0059】
〔その他の実施形態〕
以上説明した実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0060】
例えば、本発明の実施形態に係る説明において、ワーク53としてクランクシャフト77を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。
本発明が適用されるワーク53としては、穴あけ、切削等の何らかの加工を要するいかなるワークを適用対象として採用しても構わないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
11 生産管理システム
13 生産ライン
21 起動スイッチ
23a 第1位置センサ(一対の位置センサ)
23b 第2位置センサ(一対の位置センサ)
25 センサ保持部材
25b 脚部
25c 延長側基部
25d 一対の腕部
31 情報取得部
33 算出部
35 判定部
39 制御部
41 報知部
43 温調部
51 加工装置
53 ワーク
55 対象部
57 加工部
61 基台
71 ワーク保持治具
DF 相対位置ずれ
図1A
図1B
図1C
図2