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特許7382399リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図1
  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図2
  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図3
  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図4
  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図5
  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性固体電解質およびリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20231109BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20231109BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231109BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20231109BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231109BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20231109BHJP
【FI】
H01M10/056
C01G25/00
H01B1/06 A
H01B1/06 Z
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/0565
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021518986
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039971
(87)【国際公開番号】W WO2021080005
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-04-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】62/926,015
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】ランドール クライヴ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ソ ジュ ファン
(72)【発明者】
【氏名】岩崎将任
(72)【発明者】
【氏名】中屋裕登
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】篠原 功一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/046915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、リチウムイオン伝導性ポリマーと、を含み、結着材は含まないリチウムイオン伝導性固体電解質であって、
前記リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能であり、
20℃以上80℃以下における当該リチウムイオン伝導性固体電解質の活性化エネルギーが30kJ/mol以下であり、
密度は80%以上である、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質において、
前記リチウムイオン伝導性粉末と前記リチウムイオン伝導性ポリマーとの合計を100vol%としたときの前記リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率が80vol%以上である、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法であって、
リチウム塩と、ポリマーと、前記リチウムイオン伝導性粉末と、複数種類の非プロトン性極性溶媒と、を含み、結着材は含まないスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを加熱しつつ加圧することにより、前記リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質を作製する加熱加圧工程と、
を備え、
前記加熱加圧工程における加熱の温度は、前記複数種類の前記非プロトン性極性溶媒のうちの少なくとも1種の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、前記複数種類の前記非プロトン性極性溶媒のうちの他の少なくとも1種の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より低く、かつ、前記ポリマーの分解温度より低い、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法。
【請求項4】
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法であって、
リチウム塩と、ポリマーと、前記リチウムイオン伝導性粉末と、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒と、を含み、結着材は含まないスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを加熱しつつ加圧することにより、前記リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質を作製する加熱加圧工程と、
を備え、
前記加熱加圧工程における加熱の温度は、前記少なくとも1種の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、前記ポリマーの分解温度より低く、
前記加熱加圧工程における加圧の圧力は、100MPa以上である、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、リチウムイオン伝導性固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の普及、電気自動車の普及、太陽光や風力等の自然エネルギーの利用拡大等に伴い、高性能な電池の需要が高まっている。なかでも、電池要素がすべて固体で構成された全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)の活用が期待されている。全固体電池は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液を用いる従来型のリチウムイオン二次電池と比べて、有機電解液の漏洩や発火等のおそれがないため安全であり、また、外装を簡略化することができるため単位質量または単位体積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0003】
全固体電池の固体電解質層や電極を構成するリチウムイオン伝導性固体電解質として、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)とを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質が知られている。このようなリチウムイオン伝導性固体電解質に含まれるリチウムイオン伝導性粉末としては、例えば、LiLaZr12(以下、「LLZ」という。)や、LLZに対して元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という。))が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下、これらのリチウムイオン伝導性粉末を、「LLZ系リチウムイオン伝導性粉末」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2016-40767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池の固体電解質層や電極を構成するリチウムイオン伝導性固体電解質については、例えば電池の出力密度の向上や出力密度の温度安定性の向上のため、リチウムイオン伝導性が高いことやリチウムイオン伝導性の温度安定性が高いことが求められる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、該粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触であるために粒子間の抵抗が高く、リチウムイオン伝導性が比較的低い。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴う反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。また、結着材(バインダー)を用いてLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の成形体を得ることも可能である。しかし、結着材はリチウムイオン伝導性を有さないため、得られる成形体のリチウムイオン伝導性が低くなる。また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーと溶媒とを用いてスラリーを形成し、該スラリーをキャスティングすることにより成形体を得ることも可能である。しかし、このような方法により成形体を得るためには、リチウムイオン伝導性ポリマーの含有量を比較的多くする必要がある。リチウムイオン伝導性ポリマーは、低温でのリチウムイオン伝導性が比較的低く、かつ、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化も比較的大きいため、得られる成形体のリチウムイオン伝導性が低くなり、かつ、リチウムイオン伝導性の温度安定性も低くなる。
【0006】
なお、このような課題は、全固体電池の固体電解質層や電極に用いられるリチウムイオン伝導性固体電解質に限らず、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるリチウムイオン伝導性固体電解質は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、リチウムイオン伝導性ポリマーと、を含むリチウムイオン伝導性固体電解質であって、リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能であり、20℃以上80℃以下における活性化エネルギーが30kJ/mol以下である。本リチウムイオン伝導性固体電解質によれば、20℃以上80℃以下における活性化エネルギーが比較的小さいため、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が小さくなり、リチウムイオン伝導性の温度安定性を向上させることができる。また、本リチウムイオン伝導性固体電解質によれば、リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能であるため、結着材を含まない。このため、本リチウムイオン伝導性固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有さない結着材の存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。従って、本リチウムイオン伝導性固体電解質によれば、リチウムイオン伝導性を向上させることができると共に、リチウムイオン伝導性の温度安定性を向上させることができる。なお、リチウムイオン伝導性固体電解質は、ポリマーとしてリチウムイオン伝導性ポリマーのみを含むことが好ましい。リチウムイオン伝導性固体電解質は、ポリマーとしてリチウムイオン伝導性ポリマーのみを含むことで、より適正に上述した効果を奏し得る。
【0010】
本リチウムイオン伝導性固体電解質の20℃以上80℃以下における活性化エネルギーは、リチウムイオン伝導における活性化エネルギーであり、好ましくは27kJ/mol以下であり、より好ましくは15kJ/mol以下である。更に、この活性化エネルギーは、好ましくは1kJ/mol以上である。
【0011】
このような活性化エネルギーをリチウムイオン伝導性固体電解質が有するためには、リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率が80vol%:20vol%から99vol%:1vol%までの範囲内であることが好ましく、後述するリチウムイオン伝導性固体電解質の製造過程における加熱加圧工程の加熱温度が50℃以上200℃以下であることが好ましい。更に、製造過程で用いる溶媒として非プロトン性極性溶媒が用いることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導性ポリマーは、後述するように、例えば、リチウム塩とポリマー材料との混合物である。
【0012】
(2)上記リチウムイオン伝導性固体電解質において、前記リチウムイオン伝導性粉末と前記リチウムイオン伝導性ポリマーとの合計を100vol%としたときの前記リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率が80vol%以上である構成としてもよい。本リチウムイオン伝導性固体電解質によれば、リチウムイオン伝導性ポリマーと比較して、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が小さいリチウムイオン伝導性粉末の体積含有率が比較的高いため、リチウムイオン伝導性の温度安定性を効果的に向上させることができる。
【0013】
上述したリチウムイオン伝導性粉末の体積含有率は、好ましくは85vol%以上であり、より好ましくは90vol%以上である。更に、この体積含有率は、好ましくは99vol%以下である。
【0014】
(3)本明細書に開示されるリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法であって、リチウム塩と、ポリマーと、前記リチウムイオン伝導性粉末と、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒と、を含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、前記スラリーを加熱しつつ加圧することにより、前記リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質を作製する加熱加圧工程と、を備え、前記加熱加圧工程における加熱の温度は、前記少なくとも1種の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、前記ポリマーの分解温度より低い。本リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法によれば、水やアルコールではなく非プロトン性極性溶媒を用いてスラリーを作製し、該スラリーを加熱・加圧することにより、スラリー中にポリマーが効果的に分散した状態でスラリーを固化することができるため、ポリマーの添加量が少なくても、結着材を用いることなく、かつ、1200℃程度以上の高温での焼成を行うことなく、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を高い割合で含む固体電解質を作製することができ、高いリチウムイオン伝導性を有し、かつ、リチウムイオン伝導性の高い温度安定性を有する固体電解質を得ることができる。また、本リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法によれば、加熱加圧工程においてポリマーが熱分解することを抑制することができ、該ポリマーの熱分解に起因して固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下することを抑制することができる。また、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質に溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の過度の残存に起因して固体電解質の緻密度が低下したり、固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。
【0015】
(4)上記リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、前記スラリーは、複数種類の前記非プロトン性極性溶媒を含む構成としてもよい。本リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法によれば、複数種類の溶媒を用いることにより、スラリーにおけるポリマーの溶解度を容易に調整することができるため、ポリマーの含有割合を低下させて、固体電解質のリチウムイオン伝導性の温度安定性を効果的に向上させることができる。
【0016】
(5)上記リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、前記加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、少なくとも1種の他の前記非プロトン性極性溶媒の沸点より低い構成としてもよい。本リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法によれば、前記複数種類の前記非プロトン性極性溶媒のうちの少なくとも1種の溶媒については、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質に該溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の残存に起因して固体電解質の緻密度が低下したり、固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。また、前記複数種類の前記非プロトン性極性溶媒のうちの他の少なくとも1種の溶媒については、該溶媒の存在により、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質を耐熱性の高いゲルポリマーとすることができる。
【0017】
(6)上記リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、前記加熱加圧工程における加圧の圧力は、100MPa以上である構成としてもよい。本リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法によれば、スラリー中の粒界に存在する空隙を効果的に潰すことができ、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質の緻密度を向上させることができる。
【0018】
上述した加熱加圧工程における加圧の圧力は、好ましくは100MPa以上500MPa以下であり、より好ましくは300MPa以上500MPa以下である。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質、該リチウムイオン伝導性固体電解質を含む固体電解質層または電極、該固体電解質層または該電極を備える蓄電デバイス、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池102の断面構成を概略的に示す説明図である。
図2図2は、ガーネット型結晶構造を模式的に示す説明図である。
図3図3は、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、性能評価の結果を示す説明図である。
図5図5は、加熱加圧装置20の構成を概略的に示す説明図である。
図6図6は、サンプルS3について作図されたアレニウスプロットを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.全固体電池102の構成:
(全体構成)
図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)102の断面構成を概略的に示す説明図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向という。
【0022】
全固体電池102は、電池本体110と、電池本体110の一方側(上側)に配置された正極側集電部材154と、電池本体110の他方側(下側)に配置された負極側集電部材156とを備える。正極側集電部材154および負極側集電部材156は、導電性を有する略平板形状部材であり、例えば、ステンレス鋼、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、これらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって形成されている。以下の説明では、正極側集電部材154と負極側集電部材156とを、まとめて集電部材ともいう。
【0023】
(電池本体110の構成)
電池本体110は、電池要素がすべて固体で構成されたリチウムイオン二次電池本体である。なお、本明細書において、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。電池本体110は、正極114と、負極116と、正極114と負極116との間に配置された固体電解質層112とを備える。以下の説明では、正極114と負極116とを、まとめて電極ともいう。
【0024】
(固体電解質層112の構成)
固体電解質層112は、略平板形状の部材であり、リチウムイオン伝導性固体電解質202を含んでいる。より詳細には、本実施形態の固体電解質層112は、リチウムイオン伝導性固体電解質202からなる平板状の部材である。
【0025】
(正極114の構成)
正極114は、略平板形状の部材であり、正極活物質214を含んでいる。正極活物質214としては、例えば、S(硫黄)、TiS、LiCoO(以下、「LCO」という。)、LiMn、LiFePO、Li(Co1/3Ni1/3Mn1/3)O(以下、「NCM」という。)、LiNi0.8Co0.15Al0.05等が用いられる。また、正極114は、リチウムイオン伝導助剤としてのリチウムイオン伝導性固体電解質204を含んでいる。正極114は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Ag(銀))を含んでいてもよい。
【0026】
(負極116の構成)
負極116は、略平板形状の部材であり、負極活物質216を含んでいる。負極活物質216としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、LiTi12(以下、「LTO」という。)、カーボン(グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、表面に低結晶性炭素がコーティングされたコアシェル型黒鉛)、Si(ケイ素)、SiO等が用いられる。また、負極116は、リチウムイオン伝導助剤としてのリチウムイオン伝導性固体電解質206を含んでいる。負極116は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni、Pt、Ag)を含んでいてもよい。
【0027】
A-2.リチウムイオン伝導性固体電解質の構成:
次に、固体電解質層112を構成するリチウムイオン伝導性固体電解質202の構成について説明する。なお、正極114に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質204および負極116に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質206の構成は、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導性固体電解質202の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0028】
本実施形態において、固体電解質層112を構成するリチウムイオン伝導性固体電解質202は、リチウムイオン伝導性粉末を含んでいる。より詳細には、リチウムイオン伝導性固体電解質202は、上述したLLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末であり、例えば、LLZやLLZ-MgSr)を含んでいる。なお、「ガーネット型結晶構造」とは、一般式C12で表される結晶構造である。図2は、ガーネット型結晶構造を模式的に示す説明図である。図2に示すように、ガーネット型結晶構造において、CサイトScは酸素原子Oaと12面体配位し、AサイトSaは酸素原子Oaと8面体配位し、BサイトSbは酸素原子Oaと4面体配位している。なお、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末(リチウムイオン伝導性固体電解質)では、通常のガーネット型結晶構造では酸素原子Oaと8面体配位する箇所であって、空隙Vとなる箇所に、リチウムが存在し得る。空隙Vは、例えば、図2におけるBサイトSb1とBサイトSb2とに挟まれる箇所である。空隙Vに存在するリチウムは、BサイトSb1を形成する4面体の面Fb1とBサイトSb2を形成する4面体の面Fb2とを一部に含む8面体を構成する酸素原子Oaと8面体配位している。例えば、LiLaZr12という組成のガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末(リチウムイオン伝導性固体電解質)では、CサイトScをランタンが占有し、AサイトSaをジルコニウムが占有し、BサイトSbと空隙Vとをリチウムが占有し得る。なお、リチウムイオン伝導性粉末がLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであることは、X線回折装置(XRD)で分析することにより確認することができる。具体的には、リチウムイオン伝導性粉末をX線回折装置により分析することにより、X線回折パターンを得る。得られたX線回折パターンと、LLZに対応するICDD(International Center for Diffraction Data)カード(01-080-4947)(LiLaZr12)とを対比し、両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致していれば、該リチウムイオン伝導性粉末はLiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであると判定することができる。例えば、後述の「A-6.LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の好ましい態様」に記載された各リチウムイオン伝導性粉末(LLZ系リチウムイオン伝導性粉末)は、該粉末から得られたX線回折パターンとLLZに対応するICDDカードとの両者における回折ピークの回折角度及び回折強度比が概ね一致するため、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するものであると判定される。
【0029】
また、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202は、さらに、リチウムイオン伝導性ポリマーを含んでいる。なお、リチウムイオン伝導性固体電解質202は、リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能である。すなわち、リチウムイオン伝導性固体電解質202は、リチウムイオン伝導性ポリマー以外の他のポリマー(例えば、結着材として機能するポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等))を含まない。
【0030】
なお、リチウムイオン伝導性固体電解質202がリチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることないということは、例えば、熱重量・質量分析(TG-MS)を用いてポリマーの分子量およびポリマーを構成する官能基を測定することにより、リチウムイオン伝導性固体電解質202に含まれるポリマー種を特定し、ポリマー種が1つのみか否かを判定することにより、特定することができる。
【0031】
リチウムイオン伝導性ポリマーは、リチウムイオン伝導性を有するポリマーであり、例えば、リチウム塩とポリマー材料との混合物である。リチウムイオン伝導性ポリマーを構成するポリマー材料としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(以下、「PEO」という。)、ポリプロピレンカーボネート(以下、「PPC」という。)等が用いられる。また、リチウムイオン伝導性ポリマーを構成するリチウム塩としては、例えば、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SOCF)(以下、「Li-TFSI」という。)、過塩素酸リチウム(LiClO)等が用いられる。また、リチウムイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、PEOとLi-TFSIとの混合物からなるポリマー、PPCとLiClOとの混合物からなるポリマー等が用いられる。
【0032】
このように、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含んでいる。リチウムイオン伝導性固体電解質202におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率(LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの合計を100vol%とする)は、80vol%以上である。なお、リチウムイオン伝導性固体電解質202におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率は、85vol%以上であることがさらに好ましく、90vol%以上であることが一層好ましい。
【0033】
また、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の20℃以上80℃以下における活性化エネルギーは、30kJ/mol以下である。ここで言う「活性化エネルギー」は、リチウムイオン伝導における活性化エネルギーである。リチウムイオン伝導における活性化エネルギーは、温度変化に対するリチウムイオン伝導性の変化と同様の意味を持つことから、活性化エネルギーが大きいほど、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が大きいこととなる。本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の20℃以上80℃以下における活性化エネルギーは、30kJ/mol以下と比較的小さいため、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が小さく、リチウムイオン伝導性の温度安定性が高いと言える。リチウムイオン伝導性固体電解質202の20℃以上80℃以下における活性化エネルギーは、27kJ/mol以下であることがさらに好ましく、15kJ/mol以下であることが一層好ましい。
【0034】
A-3.リチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法:
次に、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法の一例を説明する。図3は、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0035】
はじめに、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、リチウム塩と、ポリマーと、溶媒とを混合することにより、これらを含むスラリーを作製する(S110)。ここで、本実施形態では、スラリーを作製するための溶媒として、非プロトン性極性溶媒が用いられる。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アセトニトリル(以下、「ACN」という。)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)等が用いられる。スラリーの作製には、1種類の非プロトン性極性溶媒が用いられてもよいし、複数種類の非プロトン性極性溶媒が用いられてもよい。スラリーの作製では、複数種類の非プロトン性極性溶媒が用いられると、スラリーにおけるポリマーの溶解度を容易に調整することができるため、ポリマーの含有量を低下させることができる。このことは、後述するように、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が比較的大きいポリマーの含有量を低下させて、リチウムイオン伝導性固体電解質202のリチウムイオン伝導性の温度安定性を効果的に向上させることに繋がる。S110の工程は、特許請求の範囲におけるスラリー作製工程に相当する。
【0036】
次に、得られたスラリーを加熱しつつ加圧することにより、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質202を作製する(S120)。すなわち、S120の加熱加圧工程により、スラリー中にリチウムイオン伝導性ポリマーが効果的に分散した状態で、スラリーに含まれる非プロトン性極性溶媒を蒸発させ、該スラリーが固化した固化体としてのリチウムイオン伝導性固体電解質202が得られる。また、S120の加熱加圧工程の際には、加圧によって粒子間の空隙が減少し、緻密な(密度の高い)リチウムイオン伝導性固体電解質202が得られる。また、スラリーに含まれる溶媒が、水やアルコールではなく非プロトン性極性溶媒であるため、S120の加熱加圧工程におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末と溶媒との反応が抑制され、該反応に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。S120の工程は、特許請求の範囲における加熱加圧工程に相当する。
【0037】
ここで、S120の加熱加圧工程における加熱の温度は、スラリーに含まれる少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高い。そのため、S120の加熱加圧工程において該溶媒を円滑に蒸発させることができ、S120の加熱加圧工程を経て得られるリチウムイオン伝導性固体電解質202に該溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の過度の残存に起因してリチウムイオン伝導性固体電解質202の緻密度が低下したり、リチウムイオン伝導性固体電解質202のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。また、S120の加熱加圧工程における加熱の温度は、スラリーに含まれるポリマーの分解温度より低い。そのため、S120の加熱加圧工程においては、ポリマーが熱分解することを抑制することができ、該ポリマーの熱分解に起因してリチウムイオン伝導性固体電解質202のリチウムイオン伝導性が低下することを抑制することができる。
【0038】
また、スラリーが複数種類の非プロトン性極性溶媒を含む場合には、S120の加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、少なくとも1種の他の非プロトン性極性溶媒の沸点より低いことが好ましい。このようにすれば、少なくとも1種の溶媒については、S120の加熱加圧工程を経て得られるリチウムイオン伝導性固体電解質202に該溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の残存に起因してリチウムイオン伝導性固体電解質202の緻密度が低下したり、リチウムイオン伝導性固体電解質202のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。また、少なくとも1種の他の溶媒については、該溶媒の存在により、S120の加熱加圧工程を経て得られるリチウムイオン伝導性固体電解質202を耐熱性の高いゲルポリマーとすることができる。
【0039】
また、S120の加熱加圧工程における加圧の圧力は、100MPa以上であることが好ましい。このようにすれば、スラリー中の粒界に存在する空隙を効果的に潰すことができ、S120の加熱加圧工程を経て得られるリチウムイオン伝導性固体電解質202の緻密度を効果的に向上させることができる。S120の加熱加圧工程における加圧の圧力は、300MPa以上あることがさらに好ましく、400MPa以上であることが一層好ましい。なお、S120の加熱加圧工程における加圧の圧力は、製造設備の加圧能力上限値(例えば、500MPa)以下であることが好ましい。
【0040】
A-4.全固体電池102の製造方法:
次に、本実施形態の全固体電池102の製造方法の一例を説明する。はじめに、固体電解質層112を作製する。具体的には、上述した方法によりリチウムイオン伝導性固体電解質202を作製し、該リチウムイオン伝導性固体電解質202によって固体電解質層112を構成する。
【0041】
また、別途、正極114および負極116を作製する。具体的には、正極活物質214の粉末と、リチウムイオン伝導性固体電解質204と、必要により電子伝導助剤の粉末とを所定の割合で混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより正極114を作製する。また、負極活物質216の粉末と、リチウムイオン伝導性固体電解質206と、必要により電子伝導助剤の粉末とを混合し、所定の圧力で加圧成形したり、バインダーを添加してシート状に成形したりすることにより負極116を作製する。
【0042】
次に、正極側集電部材154と、正極114と、固体電解質層112と、負極116と、負極側集電部材156とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の全固体電池102が製造される。
【0043】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を含むと共に、リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能である。また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202において、20℃以上80℃以下における活性化エネルギーは30kJ/mol以下である。本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202によれば、20℃以上80℃以下における活性化エネルギーが比較的小さいため、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が小さくなり、リチウムイオン伝導性の温度安定性を向上させることができる。また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202によれば、リチウムイオン伝導性ポリマーとは異なる他のポリマーを用いることなく当該リチウムイオン伝導性固体電解質の形状を保持可能であるため、結着材を含まない。このため、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202は、リチウムイオン伝導性を有さない結着材の存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。従って、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202によれば、リチウムイオン伝導性、および、リチウムイオン伝導性の温度安定性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202では、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率が80vol%以上である。本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202によれば、リチウムイオン伝導性ポリマーと比較して、温度変化に伴うリチウムイオン伝導性の変化が小さいLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の体積含有率が比較的高いため、リチウムイオン伝導性の温度安定性を効果的に向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法は、リチウム塩と、ポリマーと、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒と、を含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、該スラリーを加熱しつつ加圧することにより、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質202を作製する加熱加圧工程とを備え、上記加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より低い。本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法によれば、水やアルコールではなく非プロトン性極性溶媒を用いてスラリーを作製し、該スラリーを加熱・加圧することにより、スラリー中にポリマーが効果的に分散した状態でスラリーを固化することができるため、ポリマーの添加量が少なくても、結着材を用いることなく、かつ、1200℃程度以上の高温での焼成を行うことなく、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末を高い割合で含む固体電解質を作製することができ、高いリチウムイオン伝導性を有し、かつ、高いリチウムイオン伝導性の温度安定性を有する固体電解質を得ることができる。また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法によれば、加熱加圧工程においてポリマーが熱分解することを抑制することができ、該ポリマーの熱分解に起因して固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下することを抑制することができる。また、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質に溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の過度の残存に起因して固体電解質の緻密度が低下したり、固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法において、上記スラリーは、複数種類の非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましい。このような構成とすれば、複数種類の溶媒を用いることにより、スラリーにおけるポリマーの溶解度を容易に調整することができるため、ポリマーの含有割合を低下させて、固体電解質のリチウムイオン伝導性の温度安定性を効果的に向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法において、上記スラリーが複数種類の非プロトン性極性溶媒を含む場合に、上記加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、少なくとも1種の他の非プロトン性極性溶媒の沸点より低いことが好ましい。このような構成とすれば、少なくとも1種の溶媒については、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質に該溶媒が過度に残存することを抑制することができ、該溶媒の残存に起因して固体電解質の緻密度が低下したり、固体電解質のリチウムイオン伝導性が低下したりすることを抑制することができる。また、少なくとも1種の他の溶媒については、該溶媒の存在により、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質を耐熱性の高いゲルポリマーとすることができる。
【0048】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法において、上記加熱加圧工程における加圧の圧力は、100MPa以上であることが好ましい。このような構成とすれば、スラリー中の粒界に存在する空隙を効果的に潰すことができ、加熱加圧工程を経て得られる固体電解質の緻密度を向上させることができる。
【0049】
A-6.性能評価:
リチウムイオン伝導性固体電解質を対象として、性能評価を行った。図4は、性能評価の結果を示す説明図である。
【0050】
図4に示すように、性能評価には、7個のリチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル(S1~S7)が用いられた。なお、図4には、今回の性能評価の対象ではないが、参考のために、文献「フェイ・チェン(Fei Chen)、外9名、「全固体リチウム二次電池のための立方晶LiLaZr12を含む固体高分子電解質(Solid polymer electrolytes incorporating cubic Li7La3Zr2O12for all-solid-state lithium rechargeable batteries)」、エレクトロキミカ アクタ(Electrochimica Acta)、エルゼビア(Elsevier)、2017年12月20日、258号、p.1106-1114」に記載された例を参考例R1~R5として掲載している。
【0051】
A-6-1.各サンプルの作製方法:
各サンプルの作製方法は、以下の通りである。サンプルS1については、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末として、LLZに対してTaの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-Ta」という。)が用いられた。このLLZ-Taは、MSE Suppliesより購入した。
【0052】
一方、サンプルS2~S7については、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末として、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(LLZ-Mg,Sr)が用いられた。このLLZ-Mg,Srは、以下の方法により作製した。まず、組成:Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012(LLZ-Mg・Sr)となるように、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを秤量した。その際、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰になるように、LiCOをさらに加えた。この原料をジルコニアボールとともにナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、1200℃で10時間、MgO板上にて還元焼成を行うことにより、LLZ-Mg・Srの粉末を作製した。得られた粉末を大気非曝露環境で遊星ボールミルにて湿式粉砕することにより、LLZ-Mg,Srの粉末の粒径(D90)を3.2μmに調整した。
【0053】
サンプルS1については、LLZ-Taの粉末に対して、ポリマーとリチウム塩との混合物(リチウムイオン伝導性ポリマー)を加えた。LLZ-Taの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率は、87vol%:13vol%とした。この混合比率は、リチウムイオン伝導性粉末であるLLZ-Taの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの合計を100vol%としたときのリチウムイオン伝導性粉末の体積含有率に相当する。なお、ポリマーとしては、PEO(ポリエチレンオキサイド)を用い、リチウム塩としては、Li-TFSI(リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を用い、両者を質量比2:1で混合したものを用いた。LLZ-Taの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物に対して、非プロトン性極性溶媒であるACN(アセトニトリル)を外添加で10wt%分だけ加え、乳鉢にて混合することにより、スラリーを得た。該スラリーを、図5に示す加熱加圧装置20を用いて固化させた。図5に示すように、加熱加圧装置20は、中空部の直径が13.0mmの円筒形状の金型21と、金型21の中空部に挿入され、スラリー等の加圧対象物10を挟んで対峙する下面パンチ23および上面パンチ22と、金型21の外周を覆うカバーヒーター24とを備えている。上記スラリーを0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、120℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、非プロトン性極性溶媒であるACNの沸点は82℃であり、ポリマーであるPEOの分解温度は約200℃であるため、サンプルS1の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(120℃)は、非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より低いと言える。
【0054】
サンプルS2の作製方法は、サンプルS1の作製方法に対して、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の種類、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率、および、加熱加圧工程における加熱温度が異なる。すなわち、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、ポリマーとリチウム塩との混合物(リチウムイオン伝導性ポリマー)を加えた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率は、90vol%:10vol%とした。なお、ポリマーとしては、PEOを用い、リチウム塩としては、Li-TFSIを用い、両者を質量比2:1で混合したものを用いた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物に対して、非プロトン性極性溶媒であるACNを外添加で10wt%分だけ加え、乳鉢にて混合することにより、スラリーを得た。該スラリーを0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、100℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、非プロトン性極性溶媒であるACNの沸点は82℃であり、ポリマーであるPEOの分解温度は約200℃であるため、サンプルS2の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(100℃)は、非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より低いと言える。
【0055】
サンプルS3の作製方法は、サンプルS2の作製方法に対して、ポリマーおよびリチウム塩の種類、溶媒の種類、および、加熱加圧工程における加熱温度が異なる。すなわち、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、ポリマーとリチウム塩との混合物(リチウムイオン伝導性ポリマー)を加えた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率は、90vol%:10vol%とした。なお、ポリマーとしては、PPC(ポリプロピレンカーボネート)を用い、リチウム塩としては、LiClO(過塩素酸リチウム)を用い、両者を質量比2:1で混合したものを用いた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物に対して、非プロトン性極性溶媒であるACNおよびDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を、それぞれ外添加で10wt%分および0.15wt%分だけ加え、乳鉢にて混合することにより、スラリーを得た。該スラリーを0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、120℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、非プロトン性極性溶媒であるACNの沸点は82℃であり、同じく非プロトン性極性溶媒であるDMFの沸点は153℃であり、ポリマーであるPPCの分解温度は約200℃であるため、サンプルS3の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(120℃)は、1種の非プロトン性極性溶媒(ACN)の沸点より高く、他の1種の非プロトン性極性溶媒(DMF)の沸点より低く、かつ、ポリマーの分解温度より低いと言える。
【0056】
サンプルS4については、LLZ-Mg,Srの粉末を0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、常温で、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。
【0057】
サンプルS5の作製方法は、サンプルS2の作製方法に対して、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率、および、加熱加圧工程における加熱温度が異なる。すなわち、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、ポリマーとリチウム塩との混合物(リチウムイオン伝導性ポリマー)を加えた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率は、87vol%:13vol%とした。なお、ポリマーとしては、PEOを用い、リチウム塩としては、Li-TFSIを用い、両者を質量比2:1で混合したものを用いた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物に対して、非プロトン性極性溶媒であるACNを外添加で10wt%分だけ加え、乳鉢にて混合することにより、スラリーを得た。該スラリーを0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、250℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、非プロトン性極性溶媒であるACNの沸点は82℃であり、ポリマーであるPEOの分解温度は約200℃であるため、サンプルS5の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(250℃)は、非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より高いと言える。
【0058】
サンプルS6の作製方法は、サンプルS2の作製方法に対して、溶媒添加の有無、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率、および、加熱加圧工程における加熱温度が異なる。すなわち、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、ポリマーとリチウム塩との混合物(リチウムイオン伝導性ポリマー)を加えた。LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率は、87vol%:13vol%とした。なお、ポリマーとしては、PEOを用い、リチウム塩としては、Li-TFSIを用い、両者を質量比2:1で混合したものを用いた。その後、溶媒を添加することなく、LLZ-Mg,Srの粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合物を0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、120℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、ポリマーであるPEOの分解温度は約200℃であるため、サンプルS6の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(120℃)は、ポリマーの分解温度より低いと言える。
【0059】
サンプルS7の作製方法は、サンプルS2の作製方法に対して、リチウム塩の添加の有無、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとの混合比率、および、加熱加圧工程における加熱温度が異なる。すなわち、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、ポリマーを加えた。このとき、LLZ-Mg,Srの粉末に対して、リチウム塩を加えなかった。LLZ-Mg,Srの粉末とポリマーとの混合比率は、87vol%:13vol%とした。なお、ポリマーとしては、PEOを用いた。LLZ-Mg,Srの粉末とポリマーとの混合物に対して、非プロトン性極性溶媒であるACNを外添加で10wt%分だけ加え、乳鉢にて混合することにより、スラリーを得た。該スラリーを0.5g秤量して金型21の中空部に投入し、120℃に設定したカバーヒーター24で金型21を加熱しつつ、プレス機(下面パンチ23および上面パンチ22)により400MPaで一軸プレスした状態を120分間保持することにより、直径13.0mm、厚さ約1.0mmの円板状の固化体(リチウムイオン伝導性固体電解質のサンプル)を得た。なお、非プロトン性極性溶媒であるACNの沸点は82℃であり、ポリマーであるPEOの分解温度は約200℃であるため、サンプルS7の作製の際の加熱加圧工程における加熱温度(120℃)は、非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より低いと言える。
【0060】
A-6-2.評価方法:
各サンプルを対象として、密度、リチウムイオン伝導度、および、活性化エネルギーについての評価を行った。密度の評価については、各サンプルの寸法および重量を測定し、両者の値から各サンプルの密度を算出した。各サンプルの密度の評価においては、密度が80%以上であるサンプルを合格とした。
【0061】
また、密度の評価において合格と判定されたサンプル(S1~S3,S5~S7)を対象として、リチウムイオン伝導度についての評価を行った。具体的には、各サンプルについて、室温(25℃)でのリチウムイオン伝導度を交流インピーダンス法により測定し、リチウムイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であるサンプルを合格とした。なお、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度の測定の際には、直径13.0mm、厚さ約1.0mmのペレット状の固化体(サンプル)の上下面に、集電極としてのカーボン被覆アルミ箔を圧着し、AMETEK製のインピーダンスアナライザ(Solartron Analytical, Modulab XM MTS)を用いて、10mVの振幅で0.1Hzから1MHzの周波数範囲で測定を行った。測定された値からナイキストプロットを作図し、等価回路解析により各固化体(各サンプル)のリチウムイオン伝導度を算出した。
【0062】
また、リチウムイオン伝導度の評価において合格と判定されたサンプル(S1~S3)を対象として、活性化エネルギーについての評価を行った。具体的には、各サンプルについて、20℃以上80℃以下におけるリチウムイオン伝導度を交流インピーダンス法により測定し、測定結果からアレニウスプロットを作図し、該アレニウスプロットから活性化エネルギーを算出し、活性化エネルギーが30kJ/mol以下であるサンプルを合格とした。図6は、サンプルS3について作図されたアレニウスプロットを例示する説明図である。アレニウスプロットの作図にあたっては、測定対象の固化体(サンプル)を恒温槽に設置し、設定温度ごとに、上述した交流インピーダンス法により固化体のリチウムイオン伝導度を測定した。各測定の前には、固化体を均一の温度に保つため、恒温槽の温度が設定温度に達したのち20分間保持した。設定温度ごとに測定した固化体のリチウムイオン伝導度を用いて、図6に示すように、横軸に1000に測定温度の逆数を掛けた値を取り、縦軸にリチウムイオン伝導度の対数を取ったアレニウスプロットを作図した。得られたアレニウスプロットから近似直線の傾きを求め、下記(1)に示すアレニウスの式を用いて活性化エネルギーを算出した。
logσ=logA+(1/2.303)×(-E/RT) ・・・(1)
ただし、
σ:リチウムイオン伝導度(S/cm)
A:温度に依存しない定数
E:活性化エネルギー(kJ)
R:気体定数(=8.314kJ/mol)
T:絶対温度(K)
【0063】
密度、リチウムイオン伝導度、および、活性化エネルギーのすべての評価において合格と判定されたサンプルを、総合的に優良である(図4において「〇」で示す)と判定した。
【0064】
A-6-3.評価結果:
密度の評価において、サンプルS1~S3,S5~S7は、密度が80%以上であり、合格と判定されたが、サンプルS4は、密度が80%未満であり、不合格と判定された。上述したように、サンプルS4は、その作製の際にリチウム塩、ポリマーおよび溶媒が用いられず、LLZ-Mg,Srの粉末を常温でプレスすることにより作製されたものである。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、他の酸化物系リチウムイオン伝導体や酸化物系以外のリチウムイオン伝導体(例えば、硫化物系リチウムイオン伝導体)と比較して硬いため、粉末の常温プレスを行うだけでは高い密度を実現できなかったものと考えられる。
【0065】
また、リチウムイオン伝導度の評価において、サンプルS1~S3は、リチウムイオン伝導度が1×10-4S/cm以上であり、合格と判定されたが、サンプルS5~S7は、リチウムイオン伝導度が1×10-4S/cm未満であり、不合格と判定された。サンプルS5は、その作製の際の加熱温度が250℃と、ポリマーの分解温度より高いため、加熱加圧工程においてリチウムイオン伝導性ポリマーが熱分解され、該熱分解に起因してリチウムイオン伝導性が低下したものと考えられる。また、サンプルS6は、その作製の際に溶媒が用いられないため、リチウムイオン伝導性ポリマーが良好に分散されず、リチウムイオン伝導性が低下したものと考えられる。また、サンプルS7は、その作製の際にリチウム塩が添加されないため、ポリマーにリチウムイオン伝導性が付与されず、リチウムイオン伝導性が低下したものと考えられる。
【0066】
また、活性化エネルギーの評価において、サンプルS1~S3は、活性化エネルギーが30kJ/mol以下であり、合格と判定された。これは、これらのサンプルでは、リチウムイオン伝導性ポリマーの含有割合が比較的低い(換言すれば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有割合が比較的高い)ためであると考えられる。すなわち、リチウムイオン伝導性ポリマーは、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と比較して、活性化エネルギーが大きい(換言すれば、温度変化に伴うイオン伝導度の変化が大きい)が、これらのサンプルでは、リチウムイオン伝導性ポリマーの含有割合が比較的低いため、活性化エネルギーが比較的小さくなったものと考えられる。そのため、これらのサンプルでは、温度変化に伴うリチウムイオン伝導度の変化が小さく、リチウムイオン伝導度の温度安定性が高いと言える。
【0067】
特に、サンプルS3は、リチウムイオン伝導度が5.6×10-4S/cmと非常に高く、かつ、活性化エネルギーが12.17kJ/molと非常に小さく、非常に良好な評価結果が得られた。サンプルS3は、その作製の際に複数種類の非プロトン性極性溶媒が用いられたものであるため、スラリーにおけるポリマーの溶解度を容易に調整することができ、ポリマーの含有量を低下させても緻密な固化体として作製することができた。その結果、サンプルS3は、リチウムイオン伝導度を高くし、かつ、活性化エネルギーを小さくすることができたものと考えられる。
【0068】
以上説明した性能評価結果を参照すると、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、リチウム塩と、ポリマーと、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒と、を含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、該スラリーを加熱しつつ加圧することにより、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性ポリマーとを含むリチウムイオン伝導性固体電解質を作製する加熱加圧工程とを備え、該加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、ポリマーの分解温度より低い、という構成を採用すれば、リチウムイオン伝導度が高く、かつ、リチウムイオン伝導度の温度安定性も高い固体電解質を得ることができることが確認されたと言える。
【0069】
また、以上説明した性能評価結果を参照すると、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、上記加熱加圧工程における加圧の圧力は100MPa以上であることが好ましいことが確認されたと言える。
【0070】
また、以上説明した性能評価結果を参照すると、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を含むリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、上記スラリーは、複数種類の非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましいこと、および、その場合に、上記加熱加圧工程における加熱の温度は、少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より高く、かつ、少なくとも1種の他の非プロトン性極性溶媒の沸点より低いことが好ましいことが確認されたと言える。
【0071】
なお、上述した文献に記載された参考例R1~R5は、それぞれ、LLZ粉末0、0.5、1.0、1.7、2.4vol%に対し、モル比がそれぞれ8:1となるPEO(ポリエチレンオキサイド)とLi-TFSI(リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)との混合物からなるポリマー100、99.5、99.0、98.3、97.6vol%を加え、さらに該混合物をACN(アセトニトリル)に溶解させることによってスラリーを作製し、該スラリーをキャスティングによりシート形状化し、60℃、24時間の条件で真空乾燥させることによって作製したリチウムイオン伝導性固体電解質である。これらの参考例では、LLZ粉末の体積含有割合は非常に低いため、リチウムイオン伝導度が低く、かつ、活性化エネルギーも非常に大きな値となっている。そのため、これらの参考例のリチウムイオン伝導性固体電解質は、リチウムイオン伝導度が低く、かつ、リチウムイオン伝導度の温度安定性も低いと言える。
【0072】
A-7.LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の好ましい態様:
上述したように、本実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末)を含んでいる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末としては、Mg、Al、Si、Ca(カルシウム)、Ti、V(バナジウム)、Ga(ガリウム)、Sr、Y(イットリウム)、Nb(ニオブ)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)およびランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含むものを採用することが好ましい。このような構成とすれば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が良好なリチウムイオン伝導率を示す。
【0073】
なお、ガーネット型結晶構造を有するLLZ系リチウムイオン伝導体としては、例えば以下のものが挙げられる。
LiLaZr1.50.512
Li6.15LaZr1.75Ta0.25Al0.212
Li6.15LaZr1.75Ta0.25Ga0.212
Li6.25LaZrGa0.2512
Li6.4LaZr1.4Ta0.612
Li6.5LaZr1.75Te0.2512
Li6.75LaZr1.75Nb0.2512
Li6.9LaZr1.675Ta0.289Bi0.03612
Li6.46Ga0.23LaZr1.850.1512
Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.2512
Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.0512
【0074】
また、ガーネット型結晶構造を有するLLZ系リチウムイオン伝導性粉末として、Mgと元素A(Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素)との少なくとも一方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1)~(3)を満たすものを採用することが好ましい。なお、Mgおよび元素Aは、比較的埋蔵量が多く安価であるため、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の置換元素としてMg及び元素Aの少なくとも一方を用いれば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の安定的な供給が期待できると共にコストを低減することができる。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
【0075】
また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末としては、Mgと元素Aとの両方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(4)~(6)を満たすものを採用することがより好ましい。
(4)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(5)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(6)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0076】
上述の事項を換言すると、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、次の(a)~(c)のいずれかを満たすことが好ましく、これらの中でも(c)を満たすことがより好ましく、(d)を満たすことがさらに好ましいと言える。
(a)Mgを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/La≦3、かつ、0≦Mg/La≦0.5 を満たす。
(b)元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、かつ、0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(c)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、0≦Mg/(La+A)≦0.5、かつ0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(d)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、2.0≦Li/(La+A)≦2.5、0.01≦Mg/(La+A)≦0.14、かつ0.04≦A/(La+A)≦0.17 を満たす。
【0077】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(a)を満たすとき、すなわち、Li、La、ZrおよびMgを、モル比で上記式(1)および(2)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末がMgを含有すると、Liのイオン半径とMgのイオン半径とは近いので、LLZ結晶相においてLiが配置されているLiサイトにMgが配置されやすく、LiがMgに置換されることで、LiとMgとの電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じてLiイオンが動きやすくなり、その結果、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、更に別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるMgの含有量が多くなるほどLiサイトにMgが配置され、Liサイトに空孔が生じ、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、Mgを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。このMgを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなる。Mgを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0078】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(b)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zrおよび元素Aを、モル比で上記式(1)および(3)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が元素Aを含有すると、Laのイオン半径と元素Aのイオン半径とが近いので、LLZ結晶相においてLaが配置されているLaサイトに元素Aが配置されやすく、Laが元素Aに置換されることで、格子ひずみが生じ、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、更に別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末における元素Aの含有量が多くなるほどLaサイトに元素Aが配置され、格子ひずみが大きくなり、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対する元素Aのモル比が0.67を超えると、元素Aを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。この元素Aを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、更に元素Aを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0079】
上記元素Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素である。Ca、SrおよびBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、SrおよびBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるLaサイトに配置されているLaと置換されやすい。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、これらの元素Aの中でもSrを含有することが、焼結により容易に形成されることができ、高いリチウムイオン伝導率が得られる点で好ましい。
【0080】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、上記(c)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1)~(3)を満たすように含むとき、焼結により容易に形成されることができ、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。また、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、上記(d)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(4)~(6)を満たすように含むとき、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末におけるLiサイトのLiがMgに置換され、また、LaサイトのLaが元素Aに置換されることで、Liサイトに空孔が生じ、かつ自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率がより一層良好になると考えられる。さらに、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末が、Li、La、Zr、MgおよびSrを上記式(1)~(3)を満たすように、特に上記式(4)~(6)を満たすように含むことが、高いリチウムイオン伝導率が得られ、また、高い相対密度を有するリチウムイオン伝導体が得られる点から好ましい。
【0081】
なお、上記(a)~(d)のいずれの場合においても、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、Zrを、モル比で以下の式(4)を満たすように含むことが好ましい。Zrを該範囲で含有することにより、ガーネット型結晶構造を有するリチウムイオン伝導性粉末が得られやすくなる。
(4)0.33≦Zr/(La+A)≦1
【0082】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0083】
上記実施形態における全固体電池102の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、リチウムイオン伝導性固体電解質が、固体電解質層112と正極114と負極116とのすべてに含まれているが、該リチウムイオン伝導性固体電解質が、固体電解質層112と正極114と負極116との少なくとも1つに含まれているとしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法や全固体電池102の製造方法は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法では、加熱加圧工程における加圧の圧力は100MPa以上であるとしているが、加圧の圧力は100MPa未満であってもよい。また、上記実施形態におけるリチウムイオン伝導性固体電解質202の製造方法では、スラリーが複数種類の非プロトン性極性溶媒を含む場合、加熱加圧工程における加熱の温度は少なくとも1種の非プロトン性極性溶媒の沸点より低いとしているが、加熱の温度はすべての非プロトン性極性溶媒の沸点より高いとしてもよい。
【0085】
また、本明細書に開示される技術は、全固体電池102を構成する固体電解質層や電極に限られず、他の蓄電デバイス(例えば、リチウム空気電池やリチウムフロー電池、固体キャパシタ等)を構成する固体電解質層や電極にも同様に適用可能である。
【0086】
本出願は、2019年10月25日付けで出願された米国仮出願(US62/926,015)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0087】
10:加圧対象物 20:加熱加圧装置 21:金型 22:上面パンチ 23:下面パンチ 24:カバーヒーター 102:全固体電池 110:電池本体 112:固体電解質層 114:正極 116:負極 154:正極側集電部材 156:負極側集電部材 202:リチウムイオン伝導性固体電解質 204:リチウムイオン伝導性固体電解質 206:リチウムイオン伝導性固体電解質 214:正極活物質 216:負極活物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6