(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/16 20200101AFI20231109BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20231109BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20231109BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B60W30/16
B60W30/10
B62D6/00
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2021565587
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046735
(87)【国際公開番号】W WO2021125163
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019227937
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】小此木 史人
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-072415(JP,A)
【文献】特開2014-203399(JP,A)
【文献】特開2012-155535(JP,A)
【文献】国際公開第2014/054171(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/16
B60W 30/10
B62D 6/00
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
自車が片側複数車線の道路を走行するとき、
前記自車が走行する第1車線に隣接する第2車線において前記自車の前方を走行する
車両のうちの注目車両である第1車両と、前記第2車線において前記第1車両の
直前を走行する第2車両と、の相対距離と、前記第2車両に対する前記第1車両の相対速度と、に基づく車間時間を取得し、
前記第2車両に対する前記第1車両の相対加速度を取得し、
前記第2車両と、前記第1車線において前記自車の前方を走行する車両のうちで前記第2車両よりも後方で最も前記第2車両に近い位置を走行している第3車両と、の相対距離に基づき、前記第1車両が前記第1車線に車線変更するときの前記第1車線における空きスペースである車線変更スペースの情報を取得し、
前記車間時間が長くなるにしたがって前記相対加速度の閾値を高く設定し、
前記相対加速度が前記閾値よりも大きく、かつ、前記車線変更スペースがゼロより大きい第1閾値と前記第1閾値よりも大きい第2閾値とで挟まれる領域内であるときに、前記第1車両を、前記第2車線から前記第1車線への車線変更の要求があるのに車線変更を実行できない状態にある高ストレス車両として判別し、
前記相対加速度が前記閾値以下であるとき、及び/又は、前記車線変更スペースが前記領域内でないときに、前記第1車両は前記高ストレス車両に該当しないと判別し、
前記高ストレス車両
であると判別された第1車両と、前記自車と、の相対距離
が所定範囲内であるときに、前記高ストレス車両であると判別された第1車両に進路を譲るために前記自車の走行状態を変更するための制御指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記第1車両を高ストレス車両として
判別した後、
前記車線変更スペース
が、前記第2閾値以上である第3閾値より大きくなったときに、前記第1車両についての高ストレス車両の判別を解除する、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記車線変更スペースが
前記第3閾値より大きく
なってからの経過時間が所定時間以上になってから、前記第1車両についての高ストレス車両の判別を解除する、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記高ストレス車両として判別された前記第1車両が走行する車線が、前記第1車線の左側に隣接する隣接左車線であり、前記第1車線
の右側に隣接する隣接右車線が存在する
という第1条件と、
前記自車と、前記第1車線において前記自車
の直後を走行する第4車両と、の車間時間が、所定車間時間より短い
という第2条件と、
前記自車と、前記
隣接右車線において前記自車の
直前を走行する第5車両と、の相対距離が、所定の第1距離より長く、かつ、前記自車と、前記
隣接右車線において前記自車の
直後を走行する第6車両と、の相対距離が、
前記所定の第1距離
より短い所定の第2距離より
長く、前記自車が前記隣接右車線に車線変更できるスペースが確保されているという第3条件と、
を満足する場合、
前記自車
を前記隣接右車線へ車線変更させる要求である車線変更要求をセットする、
車両制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記高ストレス車両として判別された前記第1車両が走行する車線が、前記第1車線の右側に隣接する隣接右車線である場合、前記自車の
減速を要求する車間時間調整要求をセットする、
車両制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記高ストレス車両として判別された前記第1車両が走行する車線が、前記第1車線の左側に隣接する隣接左車線であり、かつ前記第1車線が一番右側の車線である場合、前記自車の
減速を要求する車間時間調整要求をセットする、
車両制御装置。
【請求項7】
車両に備えられた車両制御装置が実行する車両制御方法であって、
自車が片側複数車線の道路を走行するとき、
前記自車が走行する第1車線に隣接する第2車線において前記自車の前方を走行する
車両のうちの注目車両である第1車両と、前記第2車線において前記第1車両の
直前を走行する第2車両と、の相対距離と、前記第2車両に対する前記第1車両の相対速度と、に基づく車間時間を取得し、
前記第2車両に対する前記第1車両の相対加速度を取得し、
前記第2車両と、前記第1車線において前記自車の前方を走行する車両のうちで前記第2車両よりも後方で最も前記第2車両に近い位置を走行している第3車両と、の相対距離に基づき、前記第1車両が前記第1車線に車線変更するときの前記第1車線における空きスペースである車線変更スペースの情報を取得し、
前記車間時間が長くなるにしたがって前記相対加速度の閾値を高く設定し、
前記相対加速度が前記閾値よりも大きく、かつ、前記車線変更スペースがゼロより大きい第1閾値と前記第1閾値よりも大きい第2閾値とで挟まれる領域内であるときに、前記第1車両を、前記第2車線から前記第1車線への車線変更の要求があるのに車線変更を実行できない状態にある高ストレス車両として判別し、
前記相対加速度が前記閾値以下であるとき、及び/又は、前記車線変更スペースが前記領域内でないときに、前記第1車両は前記高ストレス車両に該当しないと判別し、
前記高ストレス車両
であると判別された第1車両と、前記自車と、の相対距離
が所定範囲内であるときに、前記高ストレス車両であると判別された第1車両に進路を譲るために前記自車の走行状態を変更するための制御指令を出力する、
車両制御方法。
【請求項8】
車両に設けられた制動装置と、
前記車両に設けられた駆動装置と、
前記車両に設けられた操舵装置と、
コントローラであって、
自車が片側複数車線の道路を走行するとき、
前記自車が走行する第1車線に隣接する第2車線において前記自車の前方を走行する
車両のうちの注目車両である第1車両と、前記第2車線において前記第1車両の
直前を走行する第2車両と、の相対距離と、前記第2車両に対する前記第1車両の相対速度と、に基づく車間時間を取得し、
前記第2車両に対する前記第1車両の相対加速度を取得し、
前記第2車両と、前記第1車線において前記自車の前方を走行する車両のうちで前記第2車両よりも後方で最も前記第2車両に近い位置を走行している第3車両と、の相対距離に基づき、前記第1車両が前記第1車線に車線変更するときの前記第1車線における空きスペースである車線変更スペースの情報を取得し、
前記車間時間が長くなるにしたがって前記相対加速度の閾値を高く設定し、
前記相対加速度が前記閾値よりも大きく、かつ、前記車線変更スペースがゼロより大きい第1閾値と前記第1閾値よりも大きい第2閾値とで挟まれる領域内であるときに、前記第1車両を、前記第2車線から前記第1車線への車線変更の要求があるのに車線変更を実行できない状態にある高ストレス車両として判別し、
前記相対加速度が前記閾値以下であるとき、及び/又は、前記車線変更スペースが前記領域内でないときに、前記第1車両は前記高ストレス車両に該当しないと判別し、
前記高ストレス車両
であると判別された第1車両と、前記自車と、の相対距離
が所定範囲内であるときに、前記高ストレス車両であると判別された第1車両に進路を譲るために前記自車の走行状態を変更するための制御指令を
、少なくとも前記制動装置または前記駆動装置または前記操舵装置のいずれか
を制御するための制御指令として出力する、
コントローラと、
を備える車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両用走行制御装置は、自車両から第1の所定距離以内に、隣接する車線を走行する車両が存在する場合に、当該車両と当該車両の先行車両との車間距離を算出し、車間距離が第2の所定距離より小さいと判断した場合、自車の加速を抑制する制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自車の前方近距離に自車と同一車線を走行する先行車両が存在する場合、隣接する車線を走行する車両が自車の車線に車線変更できるとは限らず、自車の車線に車線変更したいのにできなかった車両はストレスを抱えることになって、自車の安全走行に影響を及ぼすおそれがあった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、片側複数車線の道路において、自車の車線に車線変更したいのにできなかった車両が自車の走行に影響を及ぼすことを抑止することで、自車の走行安全性を向上させることができる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、その1つの態様において、自車が片側複数車線の道路を走行するとき、前記自車が走行する第1車線に隣接する第2車線において前記自車の前方を走行する車両のうちの注目車両である第1車両と、前記第2車線において前記第1車両の直前を走行する第2車両と、の相対距離と、前記第2車両に対する前記第1車両の相対速度と、に基づく車間時間を取得し、前記第2車両に対する前記第1車両の相対加速度を取得し、前記第2車両と、前記第1車線において前記自車の前方を走行する車両のうちで前記第2車両よりも後方で最も前記第2車両に近い位置を走行している第3車両と、の相対距離に基づき、前記第1車両が前記第1車線に車線変更するときの前記第1車線における空きスペースである車線変更スペースの情報を取得し、前記車間時間が長くなるにしたがって前記相対加速度の閾値を高く設定し、前記相対加速度が前記閾値よりも大きく、かつ、前記車線変更スペースがゼロより大きい第1閾値と前記第1閾値よりも大きい第2閾値とで挟まれる領域内であるときに、前記第1車両を、前記第2車線から前記第1車線への車線変更の要求があるのに車線変更を実行できない状態にある高ストレス車両として判別し、前記相対加速度が前記閾値以下であるとき、及び/又は、前記車線変更スペースが前記領域内でないときに、前記第1車両は前記高ストレス車両に該当しないと判別し、前記高ストレス車両であると判別された第1車両と、前記自車と、の相対距離が所定範囲内であるときに、前記高ストレス車両であると判別された第1車両に進路を譲るために前記自車の走行状態を変更するための制御指令を出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、片側複数車線の道路において、自車の車線に車線変更したいのにできなかった車両が自車の走行に影響を及ぼすことを抑止して、自車の走行安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両制御システムの一態様を示すブロック図である。
【
図2】運転行動指令の算出処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【
図3】周辺車両の走行方向を判別する処理を示すフローチャートである。
【
図4】周辺車両の車線を分類する処理を示すフローチャートである。
【
図5】高ストレス車両の抽出処理を示すフローチャートである。
【
図6】自車周辺の車両走行状況の一例を示す図である。
【
図7】車間時間Tdifと急減速判断の閾値Athとの相関を示す線図である。
【
図8】車線変更スペースの算出処理を示すフローチャートである。
【
図9】走行環境の認識処理を示すフローチャートである。
【
図10】走行環境の認識処理を示すフローチャートである。
【
図12】右車線の車両位置を取得する処理を示すフローチャートである。
【
図13】走行状態の決定処理を示すフローチャートである。
【
図14】走行状態の決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
なお、以下の実施形態は、左側通行である日本の道路における自動車の走行を前提とする。
【0010】
図1は、自動車である車両100に設けられた車両制御システム200の一態様を示すブロック図である。
車両制御システム200は、車両100の自動運転を可能にするシステムであって、車両100の制駆動力及び舵角を電子制御する。
【0011】
車両制御システム200は、周辺環境認識部300、運転状態検出部400、制御部500、アクチュエータ部600を備える。
周辺環境認識部300(外界認識部)は、レーザスキャン装置310、カメラ装置320、ミリ波レーダ装置330、及び周辺環境認識装置340を有する。
【0012】
レーザスキャン装置310は、自車の周囲を取り囲んで探査できるように車両100に配置され、自車周辺を走行する他の車両(以下、周辺車両と称する。)の自車に対する相対位置、相対速度、相対加速度などの各情報を取得する。
周辺環境認識装置340は、レーザスキャン装置310からの情報に基づき認識した周辺車両それぞれに識別符号IDを付与し、識別符号IDを付与した周辺車両それぞれのトラッキングデータを集めたデータベースを構築する。
【0013】
ここで、周辺環境認識装置340は、カメラ装置320やミリ波レーダ装置330からの周辺認識情報を加味することで、周辺車両のトラッキングデータの精度を上げることができる。
また、周辺環境認識装置340は、レーザスキャン装置310及び/又はカメラ装置320によって認識した道路の白線の情報や、自車位置及び地図情報などから、自車周辺の走行車線を認識する。
【0014】
運転状態検出部400は、車両100の運転状態を検出する複数のセンサからなり、例えば、車両100の各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ410、車両100の前後加速度、横加速度を検出する加速度センサ420などを有する。
車輪速センサ410は各車輪速の信号を制御部500に出力し、加速度センサ420は加速度の信号を制御部500に出力する。
【0015】
制御部500は、車両制御装置510、速度制御装置520、走行軌道制御装置530、制動制御装置540(ブレーキ制御装置)、駆動制御装置550(パワートレイン制御装置)、操舵制御装置560を有する。
制御部500を構成する各制御装置510-560は、いずれも、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するマイクロコンピュータを主体とする電子制御装置であり、マイクロコンピュータは、MPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備える。
【0016】
アクチュエータ部600は、制動装置610、駆動装置620、操舵装置630を有する。
制動装置610は、油圧を発生させるアクチュエータを備えた電子制御電動油圧式ブレーキなどの、車両100の制動力を電子制御可能な装置である。
【0017】
駆動装置620は、車両100の駆動力を発生する内燃機関や電動モータなどであって、車両100の駆動力を電子制御可能な装置である。
操舵装置630は、電動モータなどの転舵アクチュエータによって車両100の転舵輪の舵角を電子制御可能な、電動パワーステアリング装置やステアバイワイヤシステムなどの装置である。
【0018】
車両100(自車)の走行状態を変更するための制御指令を出力するコントロール部乃至コントローラとしての車両制御装置510は、運転状態検出部400が出力する各種の検出信号を取得し、また、周辺環境認識装置340が構築したトラッキングデータベースの情報を取得する。
そして、車両制御装置510は、取得した各情報に基づき、自車の走行状態を変更するための制御指令(運転行動指令)を決定し、決定した指令を速度制御装置520乃至走行軌道制御装置530に出力する。
【0019】
速度制御装置520は、車両制御装置510からの指令がない場合、周辺環境認識装置340から取得したトラッキングデータベースの情報、及び、設定された目標車間時間に基づき、前走車(先行車両)に追従して走行するための目標加速度を算出する。
なお、車間時間とは、車間距離をそのときの車速で進むのに要する時間である。
【0020】
また、速度制御装置520は、車両制御装置5から指令を取得した場合、取得した指令に基づく追従対象の車両及び目標車間時間に応じて、目標加速度を算出する。
そして、速度制御装置520は、算出した目標加速度を制動制御指令、駆動制御指令に適宜配分して、制動制御指令を制動制御装置540に出力し、駆動制御指令を駆動制御装置550に出力する。
【0021】
制動制御装置540は、速度制御装置520から取得した制動制御指令に基づき制動装置610を制御して、制動制御指令に応じた制動力を発生させる。
また、駆動制御装置550は、速度制御装置520から取得した駆動制御指令に基づき駆動装置620を制御して、駆動制御指令に応じた駆動力を発生させる。
【0022】
走行軌道制御装置530は、車両制御装置510からの指令がない場合、周辺環境認識装置340からの車線認識情報などに基づき車両100の目標走行軌道を算出し、算出した目標走行軌道に車両100を追従させるための目標舵角を求める。
また、走行軌道制御装置530は、車両制御装置5から指令を取得すると、車両100を隣接車線へ車線変更させるための目標走行軌道を算出し、算出した目標走行軌道に車両100を追従させるための目標舵角を求める。
【0023】
そして、走行軌道制御装置530は、求めた目標舵角に応じた操舵制御指令を操舵制御装置560に出力する。
操舵制御装置560は、走行軌道制御装置530から取得した操舵制御指令に基づき操舵装置630を制御して、車両100の舵角を操舵制御指令に応じた目標舵角に制御する。
【0024】
次に、車両制御装置510における、トラッキングデータベースを用いた制御指令の算出処理を詳細に説明する。
図2は、車両制御装置510による制御指令の算出処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【0025】
車両制御装置510は、ステップS1000で、トラッキングデータベースから取得した周辺車両の情報のうち、自車と同一方向に走行する車両のトラッキングデータについて、自車と同一方向に走行している車両であることを示す識別符号を付与する処理、換言すれば、自車と同一方向に走行する車両を抽出する処理を実施する。
なお、車両制御装置510は、周辺車両が自車と同一方向に走行する車両であるか否かを、例えば、判定対象の車両(換言すれば、注目車両)の速度ベクトルと自車の速度ベクトルとがなす角度と、所定の閾値との比較に基づき判定する。
【0026】
次いで、車両制御装置510は、ステップS2000で、ステップS1000において選別した、自車と同一方向に走行する車両それぞれの走行車線を分類する。
ここで、車両制御装置510は、走行車線の分類を行う対象車両と、自車との相対横位置に基づき、対象車両の走行車線を、隣接右車線、隣接左車線、自車線、その他(不定)のいずれかに分類する。
なお、車両制御装置510は、車線情報を含む地図データベースを備えるか、或いは、無線通信手段によりアクセス可能な車両外部のデータサーバが存在する場合、これらを照合して、周辺車両について走行方向の判定や走行車線の分類を行うことができる。
【0027】
自車線とは自車が走行する車線(第1車線)であり、隣接右車線とは自車線の右隣の車線、隣接左車線とは自車線の左隣の車線である。
また、その他の車線(車線不定)とは、自車線(第1車線)でなくかつ自車線に隣接する車線(第2車線)でもない車線であり、例えば、片側3車線道路において自車線が左端であるときに、右端の車線が該当する。
【0028】
車両制御装置510は、後述するように、自車線に隣接する車線を走行する車両に進路を譲るために自車の走行状態を変更するための制御指令を、自車線及び隣接車線を走行する周辺車両の走行状態に応じて出力する機能を有する。
但し、車両制御装置510は、自車の走行状態を変更する処理を、自車線及び隣接車線を除くその他の車線を走行する周辺車両に応じて実施することはないので、車線分類として一括してその他に分類する。
【0029】
次いで、車両制御装置510は、ステップS3000で、隣接右車線乃至隣接左車線において自車の前方を走行する車両(第1車両)を高ストレス車両として設定する処理、換言すれば、高ストレス車両を抽出する処理を実施する。
なお、高ストレス車両とは、隣接右車線或いは隣接左車線から自車線へ車線変更したいのに、車線変更できるスペースが十分ではないために実行できない状態にある車両である。
【0030】
ここで、車両制御装置510は、自車線(第1車線)に隣接する隣接右車線乃至隣接左車線(第2車線)において自車の前方を走行する第1車両と、当該第1車両と同じ車線において第1車両の前方を走行する第2車両との相対距離と、第2車両に対する第1車両の相対速度とに基づき車間時間の情報を取得し、また、第2車両に対する第1車両の相対加速度の情報を取得する。
そして、車両制御装置510は、車間時間、相対加速度、及び、第2車両と、自車線において自車の前方を走行する第3車両との相対距離に基づく車線変更スペースに基づいて、第1車両を高ストレス車両として設定する。
【0031】
つまり、車両制御装置510は、隣接右車線乃至隣接左車線において自車の前方を走行する車両(第1車両)のうち、その前走車(第2車両)の所定範囲内で所定値以上の減速度を発生させた車両を検出し、検出した車両が自車線に車線変更できるスペースが無かった場合、この車両のトラッキングデータに、高ストレス車両に該当することを示す判定結果を付与することで、高ストレス車両として設定する。
【0032】
次いで、車両制御装置510は、ステップS4000で、自車の走行環境を認識する処理を実施する。
車両制御装置510は、ステップS4000で、高ストレス車両のうち、隣接右車線及び隣接左車線における自車前方の所定領域内に存在し、かつ、自車が追従している前走車の方が速度の高い高ストレス車両を抽出する。
【0033】
そして、車両制御装置510は、抽出した高ストレス車両の前走車のトラッキングデータID、及び、抽出した高ストレス車両と自車との車間時間を算出し、高ストレス車両に進路を譲るための車間時間調整要求(速度調整要求)をセットする。
但し、車両制御装置510は、自車後方の車両(後続車両)が所定以上に自車に接近していて、自車の減速が後続車両の走行に影響を与える可能性があり、かつ、自車が追い越し車線(隣接右車線)に車線変更することが可能である場合は、車間時間調整要求に代えて、高ストレス車両に進路を譲るための車線変更要求をセットする。
【0034】
車両制御装置510は、次のステップS5000で、ステップS4000において求めた高ストレス車両からの車間時間調整要求乃至車線変更要求を統合し、車間時間調整と車線変更とのどちらかに自車の運動行動を決定する。
そして、車両制御装置510は、決定した運動行動に基づき、速度制御装置520又は走行軌道制御装置530に制御指令を出力する。
【0035】
以下では、上記ステップS1000-ステップS5000の各ステップでの処理の詳細を説明する。
図3は、
図2のステップS1000での処理、つまり、自車と同一方向に走行している周辺車両を抽出する処理の詳細を示すフローチャートである。
なお、車両制御装置510は、ステップS1000で、トラッキングデータベース上の全ての周辺車両のデータに対して同一の処理を実施する。
【0036】
まず、車両制御装置510は、ステップS1010で、周辺車両のうちから選択した走行方向判定処理の対象車両(注目車両)の速度ベクトルと自車の速度ベクトルとがなす角度θtg[deg]を、数式1にしたがって算出する。
なお、数式1において、自車の速度ベクトルをベクトルVegoとし、対象車両の速度ベクトルをベクトルVtgとする。
【数1】
【0037】
次に、車両制御装置510は、ステップS1020で、対象車両について自車と同一方向に走行しているという判定結果を設定しているか否かを判別する。
対象車両が自車と同一方向に走行していないという判定結果を設定している場合、換言すれば、対象車両が自車とは異なる方向に走行しているという判定結果を設定している場合、車両制御装置510は、ステップS1040に進む。
【0038】
車両制御装置510は、ステップS1040で、ステップS1010で求めた角度θtgの絶対値が、第2所定角度θth2(θth2>0)より小さいか否かを判断する。
ここで、角度θtgの絶対値が第2所定角度θth2より小さい場合、車両制御装置510は、ステップS1060に進み、対象車両が自車と同一方向に走行しているという判定結果を設定して、処理を終了する。
【0039】
一方、角度θtgの絶対値が第2所定角度θth2以上である場合、車両制御装置510は、ステップS1060を迂回して処理を終了させることで、対象車両のトラッキングデータに自車と同一方向に走行しているという判定結果を設定しない。
つまり、車両制御装置510は、ステップS1040で、角度θtgの絶対値が第2所定角度θth2以上であると判断した場合、対象車両は、従前の判定結果と同じく、自車とは異なる方向に走行していると判断する。
【0040】
また、車両制御装置510は、ステップS1020で、対象車両について自車と同一方向に走行しているという判定結果を設定していると判断した場合、ステップS1030に進む。
そして、車両制御装置510は、ステップS1030で、ステップS1010で求めた角度θtgの絶対値が、第1所定角度θth1(θth1>θth2>0)より大きいか否かを判断する。
【0041】
角度θtgの絶対値が第1所定角度θth1より大きい場合、車両制御装置510は、ステップS1050に進み、対象車両のトラッキングデータに、自車とは異なる方向に走行しているという判定結果を設定する。
また、車両制御装置510は、ステップS1050で、対象車両について、走行車線情報を不定として、高ストレス車両に該当するという判定結果をキャンセルする。更に、車両制御装置510は、高ストレス車両であるとの判定を行った時刻である検出時間Thsをクリアし、処理を終了する。
【0042】
一方、角度θtgの絶対値が第1所定角度θth1以下である場合、車両制御装置510は、ステップS1050を迂回して処理を終了させることで、対象車両についての自車と同一方向に走行しているという判定結果を保持し、また、走行車線情報、高ストレス車両の判定結果、及び、高ストレス車両の検出時間Thsを保持する。
【0043】
図4は、
図2のステップS2000での車線分類処理の詳細を示すフローチャートである。
なお、車両制御装置510は、ステップS2000で、トラッキングデータベース上の自車と同一方向に走行する全ての周辺車両のデータに対して同一の処理を実施する。
【0044】
車両制御装置510は、ステップS2010で、車線分類処理の対象車両の自車に対する相対横位置Xtg[m]が、2mを超え4.5mを下回る範囲内(2m<Xtg<4.5m)であるか否かを判断する。
なお、相対横位置Xtgは、自車の重心から右方向をプラスで示し、自車の重心から左方向をマイナスで示すものとする。また、車線の幅員を3.5m程度とする。
【0045】
ここで、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが2mを超え4.5mを下回る範囲内である場合、車両制御装置510は、ステップS2040に進み、対象車両の走行車線情報を、自車線の右隣の車線である隣接右車線に設定する。
一方、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが2mを超え4.5mを下回る範囲内ではない場合、車両制御装置510は、ステップS2020に進み、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-4.5mを超え-2mを下回る範囲内(-2m>Xtg>-4.5m)であるか否かを判断する。
【0046】
そして、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-4.5mを超え-2mを下回る範囲内である場合、車両制御装置510は、ステップS2050に進み、対象車両の走行車線情報を、自車線の左隣の車線である隣接左車線に設定する。
一方、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-4.5mを超え-2mを下回る範囲内でない場合、車両制御装置510は、ステップS2030に進み、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-2m以上でかつ2m以下(-2m≦Xtg≦-2m)であるか否かを判断する。
【0047】
そして、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-2m以上でかつ2m以下である場合、車両制御装置510は、ステップS2060に進み、対象車両の走行車線情報を自車線(第1車線)に設定する。
また、車両制御装置510は、ステップS2060で、対象車両について高ストレス車両に該当するとの判定結果をキャンセルし、高ストレス車両の検出時間Thsをクリアする。
【0048】
車両制御装置510は、ステップS2030で、対象車両の自車に対する相対横位置Xtgが-2m以上でかつ2m以下ではないと判断した場合、対象車両の走行車線が、隣接右車線、隣接左車線、自車線のいずれにも該当しないと判断して、ステップS2070に進む。
車両制御装置510は、ステップS2070で、対象車両の走行車線情報を不定に設定し、また、対象車両について高ストレス車両に該当するとの判定結果をキャンセルし、高ストレス車両の検出時間Thsをクリアする。
【0049】
例えば、片側3車線の道路において自車線が左端であって、対象車両が右端の車線を走行する場合、車両制御装置510は、ステップS2070に進んで、対象車両の走行車線情報を不定に設定することになる。
なお、車線分類処理に用いる相対横位置Xtgの判定閾値は、車線の幅員などに応じて適正値が異なり、上記の2m、4.5mに限定されるものではない。
【0050】
図5は、
図2のステップS3000での高ストレス車両の抽出処理の詳細を示すフローチャートである。
なお、車両制御装置510は、ステップS2000で、トラッキングデータベース上の左隣接車線を走行する周辺車両データ及び右隣接車線を走行する周辺車両データに対して同一の処理を実施する。
また、
図6は、ステップS3000において高ストレス車両が設定される際の自車周辺の車両走行状況を例示する。
【0051】
車両制御装置510は、ステップS3010で、自車線に隣接する車線を自車と同一方向に走行している対象車両βについて、高ストレス車両に該当するという判定結果が設定されているか否かを判断する。
対象車両βが高ストレス車両に設定されていない場合、車両制御装置510は、ステップS3020に進む。
【0052】
車両制御装置510は、ステップS3020で、対象車両βとその直前を走行する前走車γとの車間時間Tdif[sec]、前走車γの自車(車両100)に対する前後方向相対位置Ytf[m]、急減速判断に用いる閾値Ath[m/s
2]、前走車γに対する対象車両βの相対加速度Adif[m/s
2](相対減速度)を算出する(
図6参照)。
なお、相対加速度Adifは、前走車γに対して対象車両βが減速しているときにプラス値として算出されるものとし、閾値Athは、Ath>0を満たす値である。
【0053】
図7は、車間時間Tdifと閾値Athとの相関を示す線図である。
車両制御装置510は、
図7に示す特性にしたがって車間時間Tdifから閾値Athを設定し、車間時間Tdifが長いほど閾値Ath(判断閾値)を高く設定する。
【0054】
これにより、前走車γに対する対象車両βの減速度はさほど大きくなくとも、前走車γに極めて接近するような動きを示す対象車両βを高ストレス車両に設定できるようにしてある。
また、相対加速度Adifの算出処理においては、前走車γと車両βとが同一方向に走行していることが前提になっているため、車両制御装置510は、各加速度ベクトルの車両前後方向成分の差分をとったスカラー値を求めることができる。
【0055】
次いで、車両制御装置510は、ステップS3040に進み、相対加速度Adifが閾値Athを上回っている(Adif>Ath)か否か、つまり、対象車両βが閾値Athを上回る減速度で前走車γに対して減速したか否かを判断する。
換言すれば、車両制御装置510は、対象車両βが前走車γよりも所定以上に速い速度で走行して前走車γに近づき、車線変更することなく減速したか否かを判断する。
【0056】
ここで、Adif>Athが成立しない場合、つまり、対象車両βが閾値Athを上回る減速度で前走車γに対して減速していない場合、車両制御装置510は、そのまま処理を終了し、次に対象とする周辺車両データに対してステップS3000の処理を実施する。
一方、Adif>Athが成立する場合、つまり、車両βが閾値Athを上回る減速度で前走車γに対して減速した場合、車両制御装置510は、ステップS3050Aに進み、隣接車線を走行しかつ前走車γに近づいて急減速した対象車両βが、自車線に車線変更する場合の車線変更スペースYspcを算出する。
【0057】
図8は、車両制御装置510がステップS3050Aで実施する車線変更スペースYspc[m]の算出手順を示すフローチャートである。
車両制御装置510は、ステップS3051で、自車線において自車よりも前を走行する車両の自車に対する前後方向相対位置Ypc[m]を取得する。
【0058】
次いで、車両制御装置510は、ステップS3052に進み、ステップS3051で求めた前後方向相対位置Ypc[m]が、隣接車線を走行する対象車両βの前走車γの自車に対する前後方向相対位置Ytf[m]よりも短く、かつ、前後方向相対位置Ypcの最大値Ymaxよりも長い(Ymax<Ypc<Ytf)か否かを判断する。
なお、最大値Ymaxの初期値は0[m]である。
【0059】
そして、Ymax<Ypc<Ytfが成立する場合、車両制御装置510は、ステップS3053に進み、ステップS3051で求めた前後方向相対位置Ypcの値を最大値Ymaxに設定する。
次いで、車両制御装置510は、ステップS3054に進み、車線変更スペースYspc[m]を、前後方向相対位置Ytfと最大値Ymaxとに基づき、Yspc=Ytf-Ymaxとして算出する。
【0060】
そして、車両制御装置510は、注目する自車線の前走車を、例えば、自車の直前を走行する車両から更にその直前を走行する車両へと切り替えつつ、ステップS3051-ステップS3054の処理を繰り返す。
これにより、車線変更スペースYspcは、自車線を走行する前走車のうちで、隣接車線を走行する対象車両βの直前を走行する前走車γより後方で最も前走車γに近い位置を走行している自車線の車両α(第3車両)と前走車γとの相対距離になる(
図6参照)。
【0061】
つまり、車両制御装置510は、ステップS3052で、注目している自車の前走車が、隣接車線を走行する対象車両βの直前を走行する前走車γよりも後方を走行しているか否かを、前後方向相対位置Ypcと前後方向相対位置Ytfとを比較して判断する。
更に、車両制御装置510は、前後方向相対位置Ypcと最大値Ymaxとを比較することで、隣接車線を走行する対象車両βの直前を走行する前走車γよりも後方を走行している自車線の前走車のうちで、前走車γから最も近い位置を走行している車両αを特定する(
図6参照)。
【0062】
そして、車両制御装置510は、隣接車線を走行する対象車両βの前走車γと、自車線において前走車γの直後を走行している車両αとの間隔を、隣接車線を走行しかつ急減速した対象車両βが自車線に車線変更するときの車線変更スペースYspcとして求める。
したがって、車線変更スペースYspcが不十分である場合、対象車両βは、自車線に車線変更しようとしたのに、車両αの前に割り込めずに急減速した可能性が推定できる。
【0063】
車両制御装置510は、
図5のフローチャートのステップS3050Aで車線変更スペースYspcを求めると、次いで、ステップS3060に進む。
車両制御装置510は、ステップS3060で、車線変更スペースYspcが、閾値Ls、Ll(0<Ls<Ll)で挟まれる領域内であるか否か、つまり、Ls<Yspc<Llが成立するか否かを判断する。
【0064】
ここで、車線変更スペースYspcが閾値Ls以下である場合は、車線変更が不能な状態であると推定できるように、閾値Lsは、車線変更の実施を通常想定しない程度の十分に小さい値に設定される。
また、車線変更スペースYspcが閾値Ll以上である場合は、車線変更に支障のない十分なスペースが確保されていると推定できるように、閾値Llは、通常、車線変更可能な程度の十分に大きい値を設定される。
【0065】
したがって、Ls<Yspc<Llが成立する場合、車線変更スペースYspcが、車線変更を試みる程度には確保されているものの十分ではないことを示す。
車両制御装置510は、ステップS3060で、Ls<Yspc<Llが成立しないと判断した場合、つまり、車線変更スペースYspcが閾値Ls以下であるか又は車線変更スペースYspcが閾値Ll以上である場合、処理を終了することで高ストレス車両に該当しないという判定結果を保持する。
【0066】
つまり、車線変更を試みることがないほどに車線変更スペースYspcが短いか、又は、車線変更するのに十分な車線変更スペースYspcが確保されている場合、対象車両βは、高ストレス状態にはなっていないと推定できるので、車両制御装置510は、高ストレス車両に該当しないという判定結果を保持する。
一方、車両制御装置510は、ステップS3060で、Ls<Yspc<Llが成立すると判断した場合、ステップS3090に進み、対象車両βのトラッキングデータに高ストレス判断を設定し、高ストレス車両の検出時間Thsとして現在時刻をセットして処理を終了し、次の周辺車両データに対してステップS3000の処理を繰り返す。
【0067】
この場合、車線変更スペースYspcが、車線変更を試みる程度には確保されているものの十分ではないため、対象車両βは、車線変更しようとするのにできない高ストレス状態になっていると推定でき、車両制御装置510は、対象車両βを高ストレス車両に設定する。
以上のように、車両制御装置510は、対象車両βと対象車両の前走車γとの相対加速度Adifが、対象車両βと前走車γとの車間時間に基づく閾値Athより大きく、かつ、自車線の車線変更スペースYspcが予め設定された所定閾値の範囲内である場合(Ls<Yspc<Ll)、対象車両βを高ストレス車両として設定する。
【0068】
また、車両制御装置510は、対象車両βが高ストレス車両であると判定されている場合、ステップS3010からステップS3030に進む。
車両制御装置510は、ステップS3030で、対象車両βの直前を走行する前走車γの自車(車両100)に対する前後方向相対位置Ytf[m]を算出する。
【0069】
次いで、車両制御装置510は、ステップS3050Bに進み、高ストレス車両に設定されている対象車両βについて、車線変更スペースYspcを算出することで、高ストレス車両に該当すると判定した後における車線変更スペースYspcの変化をモニタする。
なお、車両制御装置510は、ステップS3050Bにおける車線変更スペースYspcの算出処理を、ステップS3050Aと同様に、
図8のフローチャートに示す手順にしたがって実施するので、詳細な説明は省略する。
【0070】
次に、車両制御装置510は、ステップS3070に進み、ステップS3050で算出した車線変更スペースYspcと閾値Lclとを比較し、車線変更スペースYspcが閾値Lclよりも大きいか否かを判断する。
閾値Lclは、車線変更スペースYspcが閾値Lclよりも大きい場合に、車線変更可能な十分なスペースが確保されていると判断できるように適合される。なお、閾値Lclは、閾値Ll以上に設定される(0<Ls<Ll≦Lcl)。
【0071】
車線変更スペースYspcが閾値Lcl以下であって車線変更可能な十分なスペースが確保されている状態ではない場合、車両制御装置510は、ステップS3110に進み、高ストレス車両の検出時間Thsに現在時刻をセットし、次の周辺車両データに対してステップS3000での処理を繰り返す。
つまり、車両制御装置510は、車線変更スペースYspcが閾値Lcl以下である場合、対象車両βが、車線変更したいのに十分な車線変更スペースYspcが確保されていないために車線変更できていない高ストレス状態を維持していると判断する。
【0072】
一方、車線変更スペースYspcが閾値Lclより長く、車線変更可能な十分なスペースが確保されている場合、車両制御装置510は、ステップS3080に進み、検出時間Thsからの経過時間が所定時間以上になっているか否かを判定する。
検出時間Thsは、最後にステップS3070でYspc≦Lclが成立するとの判定を行ったときの時刻であるから、検出時間Thsからの経過時間は、Yspc>Lclが成立するようになってからの継続時間を示す。
【0073】
また、ステップS3080の所定時間は、車線変更しようとする対象車両βが、車線変更可能な十分なスペースが確保されてから実際に車線変更を実施するまでの通常時間よりも長く設定される。
したがって、検出時間Thsからの経過時間が所定時間以上になっている場合は、車線変更可能な十分なスペースが確保された状態になっているのに、対象車両βが車線変更を実施していないことになり、対象車両βは車線変更の意思がないと推定される。
【0074】
そこで、車両制御装置510は、ステップS3080で、検出時間Thsからの経過時間が所定時間以上になっていると判断すると、ステップS3100に進む。
車両制御装置510は、ステップS3100で、対象車両βについての高ストレス車両に該当するという判定結果をキャンセルして、対象車両βを高ストレス車両から解除し、また、検出時間Thsをクリアして処理を終了し、次の周辺車両データに対してステップS3000での処理を繰り返す。
つまり、車両制御装置510は、高ストレス車両に設定した対象車両βについて、車線変更スペースYspcが閾値Lclで示される所定スペースよりも大きく、かつ、高ストレス車両として設定した後から所定時間が経過した場合、高ストレス車両から解除する。
【0075】
一方、検出時間Thsからの経過時間が所定時間未満である場合、経過時間が所定時間に達するまでに対象車両βが車線変更を実施する可能性がある。
そこで、車両制御装置510は、検出時間Thsからの経過時間が所定時間未満である場合、ステップS3100を迂回することで、対象車両βについての高ストレス車両の設定を維持したまま処理を終了し、次の周辺車両データに対してステップS3000の処理を繰り返す。
【0076】
図9及び
図10は、
図2のステップS4000での走行環境認識処理の詳細を示すフローチャートである。
なお、車両制御装置510は、ステップS4000で、トラッキングデータベース上の隣接左車線を走行する周辺車両データ及び隣接右車線を走行する周辺車両データに対して同一の処理を実施する。
また、
図11は、ステップS4000にて自車の走行状態の変更要求が設定される際の走行状況を例示する。
【0077】
車両制御装置510は、ステップS4010で、車間時間調整指令又は車線変更指令が設定されているか否かを判断する。
既に速度調整要求又は車線変更要求が設定されている場合、係る要求に基づく制駆動力制御或いは舵角制御を実施されるため、車両制御装置510は、ステップS4000で新たな要求を設定しないで処理を終了させる。
【0078】
一方、速度調整要求及び車線変更要求が設定されていない場合、車両制御装置510は、ステップS4020に進み、対象車両βが高ストレス車両に設定されているか否かを判断し、高ストレス車両に設定されていない場合は、処理を終了させる。
また、対象車両βが高ストレス車両に設定されている場合、車両制御装置510は、ステップS4030に進む。
【0079】
車両制御装置510は、ステップS4030で、自車に対する対象車両βの前後方向相対位置Ytg[m]が、自車前方の距離Lcr0[m]の位置から距離Lcr1[m](0<Lcr0<Lcr1)の位置までの間として定義される注視領域内にあるという、位置に関する第1条件(Lcr0<Ytg<Lcr1)が成立しているか否かを判断する。
更に、車両制御装置510は、ステップS4030で、自車と同一車線において自車の直前を走行する車両の速度ベクトルVefが対象車両βの速度ベクトルVtgより所定値以上大きいという、速度に関する第2条件(速度ベクトルVef-速度ベクトルVtg>所定値)が成立しているか否かを判断する。
【0080】
なお、距離Lcr0は、対象車両βが自車前に車線変更できる余地をもった自車からの距離に設定され、距離Lcr1は、自車が対象車両βに進路を譲るべき距離に設定される。
つまり、対象車両βの前後方向相対位置Ytgが距離Lcr0以下である場合は、対象車両βが自車線に車線変更することは難しく、また、対象車両βの前後方向相対位置Ytgが距離Lcr1以上である場合は、自車が対象車両βに進路を譲る必要性が十分に低いことになる。
【0081】
また、第2条件(速度ベクトルVef-速度ベクトルVtg>所定値)は、対象車両βよりも速い速度で自車の前走車が走行していることを示し、対象車両βは、自車の前走車の後ろ、つまり、自車と前走車との間へ割り込み前走車に追従することで、より速い速度での走行を実現できる。
換言すれば、第2条件が成立する場合、自車が対象車両βに進路を譲って対象車両が自車線に車線変更できれば、対象車両βの高ストレス状態は緩和乃至解消し得ると推定できる。
【0082】
車両制御装置510は、ステップS4030で、第1条件(Lcr0<Ytg<Lcr1)と、第2条件(速度ベクトルVef-速度ベクトルVtg>所定値)との少なくとも一方が成立しないと判断した場合、処理を終了し、速度調整要求及び車線変更要求を設定せず、高ストレス車両に対処するための制御を実施しない。
一方、車両制御装置510は、ステップS4030で、高ストレス車両である対象車両βと自車との相対位置に関する第1条件(Lcr0<Ytg<Lcr1)と、高ストレス車両である対象車両βと自車の前走車との相対速度に関する第2条件(速度ベクトルVef-速度ベクトルVtg>所定値)との双方が成立していると判断した場合、自車の走行状態を変更するための制御指令を設定するためにステップS4040に進む。
【0083】
車両制御装置510は、ステップS4040で、対象車両βの走行車線が、自車線の左隣の車線(隣接左車線)であるか否かを判断する。
ここで、対象車両βの走行車線が自車線の隣接左車線である場合、車両制御装置510は、自車について現在の走行車線から右隣の車線(追い越し車線)への車線変更を検討するために、ステップS4050に進む。
【0084】
一方、対象車両βの走行車線が隣接左車線ではない場合、つまり、自車線の右隣車線(隣接右車線)である場合、車両制御装置510は、ステップS4120に進む。
車両制御装置510は、ステップS4120で、隣接右車線からの車間時間調整要求(速度調整要求)をセットし、対象車両βの前走車γと自車(車両100)との車間時間Ttf[sec]を算出する。
なお、車両制御装置510は、算出した車間時間Ttf[sec]のデータに、対象車両βのトラッキングデータID及び前走車γのトラッキングデータIDを付帯させる。
【0085】
車間時間調整要求(速度調整要求)とは、隣の車線を走行する対象車両β(高ストレス車両)が自車線に車線変更できるようにするための、自車の追従走行制御における車間時間の変更指令(換言すれば、自車の速度を調整する制御指令)である。
車両制御装置510は、対象車両βの走行車線(第2車線)が自車線(第1車線)より右側である場合、自車の速度を調整することで、高ストレス車両に設定されている対象車両βに進路を譲る。
【0086】
一方、車両制御装置510は、対象車両βの走行車線が自車線の隣接左車線であって、ステップS4040からステップS4050に進むと、自車線の右隣に走行車線が存在するか否かを判断する。
自車線の右隣に走行車線が存在しない場合、対象車両βに進路を譲るために自車を現在の走行車線よりも右側に車線変更させることができない。
【0087】
そこで、車両制御装置510は、自車線の右隣に走行車線が存在しない場合、つまり、対象車両βの走行車線(第2車線)が自車線(第1車線)より左側であり、かつ、自車線が一番右側の車線である場合、ステップS4110に進み、隣接左車線からの車間時間調整要求をセットし、対象車両βの前走車γと自車(車両100)との車間時間Ttf[sec]を算出する。
ここで、車両制御装置510は、ステップS4120と同様に、算出した車間時間Ttf[sec]のデータに、対象車両βのトラッキングデータID及び前走車γのトラッキングデータIDを付帯させる。
【0088】
また、車両制御装置510は、ステップS4050で、自車線の右隣に走行車線が存在すると判断すると、ステップS4060に進み、自車と、自車線で自車の直後を走行する後続車両との車間時間Teb[sec]を算出する。
次いで、車両制御装置510は、ステップS4070に進み、ステップS4060で算出した車間時間Tebが所定車間時間を下回るか否かを判断する。
【0089】
ステップS4070で車間時間Tebと比較される所定車間時間は、自車が対象車両βに進路を譲るための減速が自車の後続車両の走行に影響するか否かを判定するための閾値であり、車間時間Tebが所定車間時間以上である場合は、自車が対象車両βに進路を譲るために減速しても後続車両の走行への影響が十分に小さいと推定できるように適合されている。
そこで、車間時間Tebが所定車間時間以上である場合、車両制御装置510は、前述したステップS4110に進み、隣接左車線からの車間時間調整要求をセットし、対象車両βの前走車γと自車(車両100)との車間時間Ttf[sec]を算出する。
【0090】
上記のステップS4070での判断処理により、対象車両βに進路を譲るための自車の減速が許容される状況では、車線変更要求よりも車間時間調整要求が優先されることになる。
一方、車間時間Tebが所定車間時間未満である場合、自車が対象車両βに進路を譲るために減速することで後続車両の走行に影響を与える可能性がある。
【0091】
そこで、車両制御装置510は、自車の車線変更が可能か否かを判断するため、ステップS4080に進む。
車両制御装置510は、ステップS4080で、自車線の右隣の車線を走行している車両の自車に対する前後方向相対位置Yref、Yreb[m]を取得する。
【0092】
図11に示すように、前後方向相対位置Yrefは、自車線の右隣の車線で自車よりも前を走行している車両の自車に対する前後方向での相対位置を示し、前後方向相対位置Yrebは、自車線の右隣の車線で自車よりも後を走行している車両の自車に対する前後方向での相対位置を示す。
なお、前後方向相対位置Yref、Yrebは、自車の前方をプラスで表し、自車の後方をマイナスで表すものとする。
【0093】
次いで、車両制御装置510は、ステップS4090に進み、前後方向相対位置Yrefが閾値Lrclf(Lrclf>0)よりも大きいという第1条件(Yref>Lrclf)と、前後方向相対位置Yrebが閾値Lrclb(Lrclb<0、0<|Lrclb|<|Lrclf|)よりも小さいという第2条件(Yreb<Lrclb)との双方が成立しているか否かを判断する。
換言すれば、第1条件は、自車線の右隣の車線で自車よりも前を走行している車両と、自車との相対距離が、第1閾値よりも長いという条件であり、第2条件は、自車線の右隣の車線で自車よりも後を走行している車両と、自車との相対距離が、第2閾値(第1閾値>第2閾値)よりも長いという条件である。
【0094】
つまり、車両制御装置510は、自車線の右隣の車線で自車よりも前を走行している車両が自車から所定の第1距離以上に離れていて、かつ、自車線の右隣の車線で自車よりも後を走行している車両が自車から所定の第2距離以上に離れていて、自車が右隣の車線に車線変更できるスペースが十分に確保されているか否かを判断する。
なお、車両制御装置510は、自車線の右隣の車線において自車の真横を走行している車両については、自車よりも前を走行している車両及び/又は自車よりも後を走行している車両に判別する。
【0095】
車両制御装置510は、ステップS4090で、第1条件と第2条件との少なくとも一方が成立していないと判断した場合、つまり、自車が右隣の車線に車線変更するためのスペースが不十分で車線変更の実施が困難である場合、ステップS4110に進み、隣接左車線からの車間時間調整要求をセットし、対象車両βの前走車γと自車(車両100)との車間時間Ttf[sec]を算出する。
一方、車両制御装置510は、ステップS4090で、第1条件及び第2条件がともに成立していると判断した場合、つまり、自車線の右隣の車線において自車から前方に閾値Lrclfだけ離れた位置と自車から後方に閾値Lrclbだけ離れた位置との間の注視領域に車両が存在せず、自車が右隣の車線に車線変更するためのスペースが十分で車線変更の実施が可能である場合、ステップS4100に進む。
【0096】
車両制御装置510は、ステップS4100で、対象車両βに進路を譲るために自車を隣接右車線に車線変更させる要求である車線変更要求をセットする。
以上のように、車両制御装置510は、以下の3条件を満足する場合に、自車が自車線の隣接右車線へ車線変更するように制御指令を出力する。
【0097】
第1条件:高ストレス車両である対象車両βの走行車線(第2車線)が自車線(第1車線)より左側の車線であり、自車線より右側に車線(第3車線)が存在する。
第2条件:自車と、自車線(第1車線)において自車よりも後方を走行する車両(第4車両)との車間時間Tebが所定車間時間より短い。
第3条件:自車と、自車線の隣接右車線(第3車線)において自車の前方を走行する車両(第5車両)との相対距離が所定の第1距離より長く、かつ、自車と、自車線の隣接右車線(第3車線)において自車の後方を走行する車両(第6車両)との相対距離が所定の第2距離より長い。
【0098】
上記のように、車線変更要求のセットは、自車が車線変更できる十分なスペースが隣接右車線に確保されていること、換言すれば、閾値Lrclf,Lrclbで定められる注視領域(
図11参照)に車両が存在しないことが条件となるため、複数存在し得る高ストレス車両の何れかに基づき車線変更要求がセットされた場合、隣接右車線の注視領域には高ストレス車両が存在しないことになる。
また、隣接左車線の注視領域、つまり、隣接左車線の自車前方の距離Lcr0の位置から距離Lcr1の位置までの領域内(
図11参照)に、複数台の高ストレス車両が存在する場合も、高ストレス車両それぞれを対象車両βとして実施するステップS4050からステップS4090までの処理は同一である。
【0099】
このため、隣接左車線の注視領域内に複数存在する高ストレス車両のうちの1台を対象車両βとしたときの処理で、車線変更可と判断される場合は、他の高ストレス車両についての処理においても車線変更可と判断されることになる。
したがって、車両制御装置510は、ステップS4100に進んで車線変更要求をセットした後は、他の対象車両βに対するステップS4000の処理を中止し、続くステップS5000の処理に移行することができる。
【0100】
なお、ステップS4000での処理でセットされる、隣接右車線からの車間時間調整要求、隣接左車線からの車間時間調整要求、及び車線変更要求は、ステップS3000からステップS4000に遷移してきた初回にクリアされ、個々の周辺車両データ毎に実施されるステップS4000の処理の中で既に要求がセットされている場合は上書きされる構成となっている。
【0101】
図12は、
図10のフローチャートのステップS4080で実施される、隣接右車線を走行する車両の位置を取得する処理を示すフローチャートである。
なお、ステップS4080では、トラッキングデータベース上で自車線の隣接右車線を走行する周辺車両データに対して同一の処理がなされる。
【0102】
車両制御装置510は、ステップS4081で、隣接右車線を走行する車両について、自車に対する前後方向車両位置Yrl[m]が、正(自車よりも前方)でかつ前方最近傍位置Yref未満である(0<Yrl<Yref)か否かを判断する。
そして、0<Yrl<Yrefを満たす場合、車両制御装置510は、ステップS4083に進み、前方最近傍位置Yrefに前後方向車両位置Yrlの値をセットする。
つまり、処理対象とする前後方向車両位置Yrlが、前回までの前方最近傍位置Yrefよりも小さい場合は、前方最近傍位置Yrefは前後方向車両位置Yrlの値に更新される。
【0103】
ステップS4070からステップS4080に遷移してきたときに設定される前方最近傍位置Yref(Yref>0)の初期値は十分に大きな値に設定され、前方最近傍位置Yrefは、ステップS4080の処理が繰り返される間で、最小値に順次更新される。
これにより、隣接右車線を走行する車両のうちで、自車よりも前方を走行し、かつ、自車から最も近い車両の前後方向車両位置Yrlが、前方最近傍位置Yrefに設定されることになる。
【0104】
一方、0<Yrl<Yrefを満たさない場合、車両制御装置510は、ステップS4082に進み、前後方向車両位置Yrl[m]が、負(自車よりも後方)でかつ後方最近傍位置Yrebよりも大きい(Yreb<Yrl<0)か否かを判断する。
そして、Yreb<Yrl<0を満たす場合、車両制御装置510は、ステップS4084に進み、後方最近傍位置Yrebに前後方向車両位置Yrlの値をセットする。
つまり、処理対象とする前後方向車両位置Yrlが、前回までの後方最近傍位置Yrebよりも大きい(絶対値として小さい)場合は、後方最近傍位置Yrebは前後方向車両位置Yrlの値に更新される。
【0105】
ステップS4070からステップS4080に遷移してきたときに設定される後方最近傍位置Yreb(Yreb<0)の初期値は十分に小さい値(絶対値として大きな値)に設定され、後方最近傍位置YrebはステップS4080の処理が繰り返される間で最大値(絶対値としては最小値)に順次更新されることになる。
これにより、隣接右車線を走行する車両のうちで、自車よりも後方を走行し、かつ、自車から最も近い車両の前後方向車両位置Yrlが、後方最近傍位置Yrebに設定されることになる。
また、前後方向車両位置Ytgが、0<Ytg<Yrefを満たさず、かつ、Yreb<Ytg<0も満たさない場合、車両制御装置510は、処理を終了し、前方最近傍位置Yref及び後方最近傍位置Yrebを更新しない。
【0106】
図13及び
図14は、
図2のステップS5000での走行状態決定処理の詳細を示すフローチャートである。
車両制御装置510は、まず、ステップS5010で、車線変更指令がセットされているか否かを判断し、車線変更指令がセットされていない場合、ステップS5020に進んで、ステップS4000で車線変更要求がセットされたか否かを判断する。
【0107】
そして、車線変更要求がセットされている場合、車両制御装置510は、ステップS5100に進み、車線変更指令をセットし、走行軌道制御装置530に対し、自車の走行車線を隣接右車線に車線変更する指令(運転行動指令)を走行軌道制御装置530に出力する。
車線変更指令を受けた走行軌道制御装置530は、自車の走行車線を隣接右車線に変更するための目標走行軌道を算出し、算出した目標走行軌道に自車を追従走行させるための目標舵角を算出し、算出した目標舵角の制御指令を操舵制御装置560に出力する。
【0108】
そして、操舵制御装置560が目標舵角の制御指令に応じて操舵装置630の舵角を変更することで、自車は隣接右車線に車線変更する。
自車が隣接右車線に車線変更すれば、変更前の車線に空きスペースが生じ、係る空きスペースに向けて対象車両βは車線変更を実施することができる。このため、対象車両βは容易に車線変更できるようになり、対象車両βが自車の走行車線への車線変更を強行することで、自車の走行安全性が損なわれることを抑止できる。
【0109】
また、車両制御装置510は、ステップS5010で、車線変更指令がセットされていると判断すると、ステップS5050に進んで、走行軌道制御装置530から車線変更の完了通知を受信したか否か、つまり、高ストレス車両に進路を譲るための車線変更が完了しているか否かを判断する。
走行軌道制御装置530は、車両制御装置510から車線変更指令を受けて車線変更制御を実施し、自車の車線変更が完了すると、車両制御装置510に車線変更の完了通知を送信するよう構成されている。
【0110】
車両制御装置510は、走行軌道制御装置530から車線変更の完了通知を受信した場合、ステップS5090に進んで、車線変更指令をクリアして処理を終了する。
一方、車線変更指令がセットされているものの車線変更の完了通知を受信していない場合、つまり、車線変更指令に基づく車線変更制御中である場合、車両制御装置510は、ステップS5090を迂回して処理を終了させることで、車線変更指令がセットされている状態を保持する。
【0111】
また、車両制御装置510は、ステップS5020で、車線変更要求がセットされていないと判断すると、ステップS5030に進み、車間時間調整指令がセットされているか否かを判断する。
そして、車間時間調整指令がセットされていない場合、車両制御装置510は、ステップS5040に進み、車間時間調整要求がセットされているか否かを判断する。
【0112】
車線変更要求及び車間時間調整要求がともにセットされていない場合は、高ストレス車両に進路を譲るための自車の走行状態の変更は不要であるため、車両制御装置510は処理を終了する。
一方、車間時間調整要求がセットされている場合、車両制御装置510は、ステップS5070に進み、隣接右車線からの車間時間調整要求と隣接左車線からの車間時間調整要求との双方がセットされているか否か、つまり、隣接右車線及び隣接左車線にそれぞれ高ストレス車両が存在していて双方から車間時間調整の要求が発生しているか否かを判断する。
【0113】
ここで、隣接右車線からの車間時間調整要求と隣接左車線からの車間時間調整要求との双方がセットされている場合に、自車が車間時間の調整を実施することで、隣接右車線を走行する高ストレス車両の自車線への割り込みと、隣接左車線を走行する高ストレス車両の自車線への割り込みとが重なると、自車線での安全走行が損なわれる可能性がある。
そこで、車両制御装置510は、隣接右車線からの車間時間調整要求と隣接左車線からの車間時間調整要求との双方がセットされている場合、車間時間調整指令をセットすることなく、処理を終了させる。
【0114】
つまり、隣接右車線及び隣接左車線にそれぞれ高ストレス車両が存在する場合、いずれの高ストレス車両に対しても進路を譲らないようにして、自車線への車線変更が左右から並行して実際されることを抑止する。
これにより、高ストレス車両の車線変更要求は満たされないものの、割り込みが重なることで自車線での安全走行が損なわれることを抑止できる。
【0115】
一方、隣接右車線からの車間時間調整要求と隣接左車線からの車間時間調整要求とのいずれか一方がセットされている場合、車両制御装置510は、ステップS5120に進み、車間時間調整指令をセットする。
また、車両制御装置510は、ステップS5120で、ステップS4000において周辺車両データ毎に算出した、自車から高ストレス車両の前走車γまでの車間時間Ttfのうち、最大のものをTodr(Todr=max(Ttf))にセットする。
【0116】
また、車両制御装置510は、ステップS5120で、車間時間Ttfのうちの最大のデータに付帯されている前走車γのトラッキングデータIDであるIDtfをIDobにセットし、更に、高ストレス車両である対象車両βのトラッキングデータIDであるIDtgをIDyldにセットする。
更に、車両制御装置510は、ステップS5120で、車間時間調整指令をセットしたときの時刻をCodrとして記憶する。
【0117】
車両制御装置510は、ステップS5120で求めたTodr、IDob、IDyldに基づき、対象の高ストレス車両の車線変更スペースYspcが確保されるように、自車の追従対象及び目標車間時間を求め、速度制御装置520に車間時間調整指令として追従対象車両及び目標車間時間の指令を出力する。
速度制御装置520は、車両制御装置510からの追従対象車両及び目標車間時間の指令に基づき目標加速度を算出し、目標加速度を実現するための制動指令及び/又は駆動指令を設定し、設定した指令を制動制御装置540、駆動制御装置550に出力する。
【0118】
例えば、
図11に示すような車両走行状況の場合、車両制御装置510は、高ストレス車両であって隣接左車線を走行する対象車両βが、車線変更して自車の前に割り込めるように、自車の追従走行制御における追従対象を対象車両βの前走車γに切り替え、かつ、自車と前走車γとの車間時間が、対象車両βの車線変更スペースが確保されるように設定する。
図11の車両走行状況において、対象車両βの前走車γの速度よりも、自車の前走車の速度が速い場合、自車の前走車は、対象車両β及び前走車γを追い越すことになるが、自車がこれに追従して走行すると、対象車両βは自車の前に割り込むことが難しく、対象車両βが割り込みを強行すると、自車の走行安全性を損ねる可能性がある。
【0119】
そこで、車両制御装置510は、対象車両βの前走車γを追従対象とし、かつ、追従走行における車間時間を、割り込みの実施が容易な程度に長く設定することで、対象車両βが自車の前に容易に割り込めるようにする。
これにより、対象車両βは、割り込みが容易な状況で割り込みを実行でき、対象車両βの割り込みに対して自車の走行安全性を維持することができる。
なお、対象車両βが隣接車線から自車の前に割り込んだ後、車両制御装置510は、割り込んできた対象車両βを追従走行の対象に設定し、また、車間間隔の目標を追従走行における通常の目標に戻して、自車を前走車(割り込み車両)に追従させることができる。
【0120】
車両制御装置510は、車間時間調整指令をセットした後にステップS5030に進むと、車間時間調整指令がセットされていると判断してステップS5060に進む。
車両制御装置510は、ステップS5060で、車間時間調整指令をセットした時刻Codrからの経過時間が所定時間以上になっているか否かを判断する。
【0121】
そして、車間時間調整指令をセットした時刻Codrからの経過時間が所定時間以上になっている場合、車両制御装置510は、ステップS5110に進み、車間時間調整指令、及びIDtg、IDob、Todrをクリアする。
つまり、車両制御装置510は、自車が高ストレス車両(IDtg)に進路を譲るよう行動しても、高ストレス車両(IDtg)が一定時間以上車線変更しなかった場合、高ストレス車両(IDtg)は車線変更の意思をもっていないと推定し、車間時間調整指令をキャンセルして通常の前走車追従制御に復帰する。
【0122】
ステップS5060において、車間時間調整指令をセットした時刻Codrからの経過時間と比較される所定時間は、進路変更の意思をもっている高ストレス車両(IDtg)が、車線変更スペースが確保されてから進路変更(車線変更)を終えるまでに要する通常の時間に基づき設定される。
上記のように、車間時間調整指令の有効時間を設定すれば、自車が車間を通常よりも大きくとって走行する状態が無用に継続されることを抑止できる。
【0123】
一方、車間時間調整指令をセットした時刻Codrからの経過時間が所定時間に達していない場合、車両制御装置510は、ステップS5060からステップS5080に進む。
車両制御装置510は、ステップS5080で、進路を譲る対象とした高ストレス車両(IDyld)の走行車線が、隣接右車線若しくは隣接左車線から自車線に変更されたという第1条件と、隣接右車線、隣接左車線、自車線のいずれにも該当しない状態(車線不定状態)になったという第2条件とのいずれか一方が成立している状態であるか、第1条件及び第2条件がともに成立していない状態であるかを判別する。
【0124】
なお、隣接右車線、隣接左車線、自車線のいずれにも該当しない状態は、例えば、自車が片側3車線の道路の右端の車線を走行し高ストレス車両(IDyld)が中央の車線を走行していて、高ストレス車両(IDyld)が左端の車線に車線変更した場合や、高ストレス車両(IDyld)が例えば左折車線を走行していて自車から離れていった場合などを含む。
ここで、上記の第1条件及び第2条件がともに成立せず、進路を譲る対象とした高ストレス車両(IDyld)が依然として同じ車線を自車と同じ方向に向けて走行していると判断される場合、車両制御装置510は、処理終了し、車間時間調整指令を保持する。
【0125】
一方、上記の第1条件と第2条件とのいずれか一方が成立している場合、つまり、高ストレス車両(IDyld)が自車線に車線変更し、高ストレス車両(IDyld)に進路を譲るための運転行動がその目的を達したとき、又は、高ストレス車両(IDyld)が注目する車線以外に車線変更し、自車が進路を譲る必要がなくなったとき、車両制御装置510は、ステップS5110に進み、車間時間調整指令、及びIDtg、IDob、Todrをクリアする。
以上のように、車両制御装置510は、自車が片側複数車線の道路を走行するときに、自車線の隣接左車線若しくは隣接右車線に高ストレス車両を認めると、高ストレス車両が自車線に車線変更できるように高ストレス車両に進路を譲るので、高ストレス車両が自車の走行に影響を及ぼすことを抑止して、自車の走行安全性を向上させることができる。
【0126】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0127】
例えば、車両制御装置510は、高ストレス車両のストレス度合いを、減速度や車間時間などに基づきランク分けし、ストレス度合いがより高い車両に対して優先的に進路を譲る処理を実施することができる。
また、車両制御装置510は、高ストレス車両の設定処理を、前走車との車間時間(又は車間距離)が所定以下の状態で継続して走行している時間、車線変更の履歴、自車線での車両の平均走行速度と隣接車線での車両の平均走行速度との差、自車線での平均車間時間と隣接車線での平均車間時間との差、進行方向の先での車線数減少などの条件のいずれかを含めて行うことができる。
【0128】
また、車両制御装置510は、自車線よりも右側の車線に自車が車線変更するスペースが不十分で、かつ、高ストレス車両に進路を譲るために自車が減速することで後続車の走行に影響を与える可能性があるときに、高ストレス車両に進路を譲るための自車の走行状態の変更を停止することができる。
また、車両制御装置510は、高ストレス車両が自車線の隣接右車線を走行するときで、自車線左側に走行車線がある場合に、高ストレス車両に進路を譲るための自車の走行状態の変更として、隣接左車線への車線変更を選択することができる。
【0129】
また、車両制御装置510は、車間時間調整指令をセットするときに、追従対象の車両を変更せずに、目標車間時間を通常よりも長く変更することで、前走車と自車との間に対象車両β(高ストレス車両)の車線変更スペースを確保することができる。
ここで、車両制御装置510は、対象車両β(高ストレス車両)の前走車γの速度と、自車の前走車の速度との速度差が所定速度よりも小さい場合は追従対象の車両を変更せず、前記速度差が所定速度よりも大きい場合に追従対象の車両を前走車γに切り替えることができる。
【0130】
また、上記実施形態は、左側通行の道路を前提とするが、右側通行の道路においても、高ストレス車両の設定、及び、高ストレス車両に進路を譲るための自車の走行状態の変更を実施することができる。なお、右側通行の道路の場合、例えば、高ストレス車両に進路を譲るための自車の車線変更は、自車線から隣接左車線への車線変更を基本とすることになる。
【符号の説明】
【0131】
100…車両、200…車両制御システム、300…周辺環境認識部、310…レーザスキャン装置、320…カメラ装置、330…ミリ波レーダ装置、340…周辺環境認識装置、400…運転状態検出部、410…車輪速センサ、420…加速度センサ、500…制御部、510…車両制御装置(コントロール部、コントローラ)、520…速度制御装置、530…走行軌道制御装置、540…制動制御装置、550…駆動制御装置、560…操舵制御装置、600…アクチュエータ部、610…制動装置、620…駆動装置、630…操舵装置