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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20231109BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/04664 20160101ALI20231109BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231109BHJP
【FI】
H01M8/04 H
H01M8/043
H01M8/04746
H01M8/04 J
H01M8/04302
H01M8/04225
H01M8/04664
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022007081
(22)【出願日】2022-01-20
(65)【公開番号】P2023105998
(43)【公開日】2023-08-01
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】竹越 聖也
(72)【発明者】
【氏名】井上 一秀
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 直裕
(72)【発明者】
【氏名】西尾 仁
(72)【発明者】
【氏名】中居 翔平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 大
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-501324(JP,A)
【文献】特開平11-185782(JP,A)
【文献】特開2003-142131(JP,A)
【文献】特開2019-114351(JP,A)
【文献】特開2020-064785(JP,A)
【文献】特開2007-128802(JP,A)
【文献】特開2004-319318(JP,A)
【文献】特開2008-146900(JP,A)
【文献】特開2011-076816(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 58/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとにより発電する燃料電池スタックと、
該燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給流路と、
前記燃料電池スタックから排出された酸化剤オフガスを流通させる酸化剤オフガス流路と、
前記燃料電池スタックに前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給流路と、
前記燃料電池スタックから排出された燃料オフガスを流通させる燃料オフガス流路と、
前記酸化剤ガス供給流路と前記燃料オフガス流路とを連通する接続流路と、
前記接続流路を開閉する第1開閉弁と、
該第1開閉弁の開閉状態を制御する制御装置と、を備え、
該制御装置は、
前記燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、前記第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御処理を実施する
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御装置が、前記燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、前記第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す前記弁連続開閉制御処理を実施するのは、前記燃料電池スタックの低温環境下での起動時、あるいは前記燃料電池スタックの暖気制御時である
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池スタックの前記燃料オフガス流路を分岐させ、一方の分岐流路は前記接続流路に連通させ、他方の分岐流路には、前記燃料電池スタックから排出される液水及び前記燃料オフガスを外部に排出可能な第2開閉弁を設け、
前記制御装置は、
前記第2開閉弁を閉方向に駆動しても、前記第2開閉弁が開状態で固着されていることを検出したとき、前記第1開閉弁の前記弁連続開閉制御処理を実施する
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
前記酸化剤ガス供給流路を通じて前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給するコンプレッサを備え、
前記制御装置は、
前記第1開閉弁の前記弁連続開閉制御処理の実施中は、非実施中に比較してコンプレッサの回転数を上昇させ、前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加させる
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御装置は、
前記コンプレッサの回転数が目標回転数まで上昇しない場合であっても、前記第1開閉弁の弁連続開閉制御処理を継続する
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体等に搭載される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン車に代わる環境負荷の小さい自動車として、水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV:Fuel Cell Vehicle)が注目されている。燃料電池自動車は、空気(酸素を含む)と燃料ガスである水素ガスとを燃料電池に供給する。燃料電池自動車は、燃料電池における電気化学反応によって発電した電力を利用して電動機を駆動することにより走行する。このため、ガソリン車のようにCO、NOx、SOx等の排出がなく水を排出するだけであり、環境にやさしい自動車とされている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、このような燃料電池自動車においては、燃料電池のカソード流路からアノード流路に透過してきた窒素(N)がアノード流路に蓄積されてくると、前記電気化学反応が阻害されて、燃料電池セルの出力電力を低下させることが知られている。
【0004】
そこで、特許文献1では、燃料電池の燃料オフガスの排気通路に開閉弁を設け、該開閉弁を間欠的に開くことで、前記窒素が含まれる燃料オフガスを間欠的に外部に放出する燃料電池の制御装置に係る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-108805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、前記排気通路に設けた前記開閉弁の下流にチャンバ、流量制御弁及びコンバスタを配置して、外部に放出される燃料オフガスの流量が一定になるようにしている。このため、構成並びに制御が複雑になっている。
【0007】
一般に、燃料電池システム中の燃料電池スタックの運転状態が発電電力の小さいアイドル状態であるとき、コンプレッサから燃料電池スタックに供給される酸化剤ガスの流量も少ないことから、この酸化剤ガスの一部を燃料オフガスに混合した排ガス中の燃料ガス濃度が上昇する。
【0008】
しかしながら、特許文献1には、燃料電池システム中の燃料電池スタックの運転状態が前記アイドル状態であるときの外部への排気制御についての記載はない。
【0009】
この発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、この発明の燃料電池システムの態様は、酸化剤ガスと燃料ガスとにより発電する燃料電池スタックと、該燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給流路と、前記燃料電池スタックから排出された酸化剤オフガスを流通させる酸化剤オフガス流路と、前記燃料電池スタックに前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給流路と、前記燃料電池スタックから排出された燃料オフガスを流通させる燃料オフガス流路と、前記酸化剤ガス供給流路と前記燃料オフガス流路とを連通する接続流路と、前記接続流路を開閉する第1開閉弁と、該第1開閉弁の開閉状態を制御する制御装置と、を備え、該制御装置は、前記燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、前記第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御処理を実施する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御処理を実施することで、燃料オフガスに含まれる燃料ガスの濃度を低下させることができる。これにより、アイドル状態のときに燃料オフガスを外部に排気する際の燃料ガスの濃度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、この発明の実施形態に係る燃料電池システムが組み込まれた燃料電池自動車の概略構成図である。
図2図2は、実施形態に係る燃料電池システムの動作説明に供されるフローチャートである。
図3図3Aは、ブリード弁の弁連続開閉制御処理を示す波形図、図3Bは、ブリード弁の弁連続開閉制御処理を行っているときの排気水素濃度の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[構成]
図1は、この発明の実施形態に係る燃料電池システム10が組み込まれた燃料電池自動車12の概略構成図である。
【0014】
燃料電池システム10は、燃料電池自動車12以外の船舶、航空機、ロボット等の他の移動体にも組み込み可能である。
【0015】
燃料電池自動車12は、該燃料電池自動車12全体を制御する制御装置15と、燃料電池システム10と、該燃料電池システム10に電気的に接続される出力部16とから構成される。
【0016】
制御装置15は、一つではなく、例えば、燃料電池システム10用と出力部16用等、二以上の制御装置に分けてもよい。
【0017】
燃料電池システム10は、燃料電池スタック(単に、燃料電池ともいう)18と、水素タンク20と、酸化剤ガス供給装置22と、燃料ガス供給装置24と、冷媒供給装置26とから構成される。
【0018】
酸化剤ガス供給装置22には、コンプレッサ(CP)28及び加湿器(HUM)30が含まれる。
【0019】
燃料ガス供給装置24には、インジェクタ(INJ)32、エジェクタ34及び気液分離器36が含まれる。インジェクタ32は、減圧弁に代替してもよい。
【0020】
冷媒供給装置26には、冷媒ポンプ(WP)38及びラジエータ40が含まれる。
【0021】
出力部16には、駆動部42、高電圧の蓄電装置(バッテリ)44、及びモータ(電動機)46が含まれる。駆動部42の負荷には、主機である前記モータ46の他に補機である前記コンプレッサ28、その他エアコンプレッサ等の車両補機が含まれる。燃料電池自動車12は、モータ46が発生する駆動力により走行する。
【0022】
燃料電池スタック18は、複数の発電セル50が積層される。発電セル50は、電解質膜・電極構造体52と、該電解質膜・電極構造体52を挟持するセパレータ53、54とを備える。
【0023】
電解質膜・電極構造体52は、例えば、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜である固体高分子電解質膜55と、前記固体高分子電解質膜55を挟持するカソード電極56及びアノード電極57とを備える。
【0024】
カソード電極56及びアノード電極57は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層(図示せず)を有する。ガス拡散層の表面に、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が一様に塗布されることにより、電極触媒層(図示せず)が形成される。電極触媒層は、固体高分子電解質膜55の両面に形成される。
【0025】
一方のセパレータ53の電解質膜・電極構造体52に向かう面には酸化剤ガス入口連通口101と酸化剤ガス出口連通口102とを連通するカソード流路(酸化剤ガス流路)58が形成される。
【0026】
他方のセパレータ54の電解質膜・電極構造体52に向かう面には、燃料ガス入口連通口103と燃料ガス出口連通口104とを連通するアノード流路(燃料ガス流路)59が形成される。
【0027】
アノード電極57では、燃料ガス(水素)が供給されることにより、触媒による電極反応によって水素分子から水素イオンを生じ、該水素イオンが固体高分子電解質膜55を透過してカソード電極56に移動する一方、水素分子から電子が解放される。
【0028】
水素分子から解放された電子は、負極端子106から駆動部42及びモータ46等の負荷を通じ、正極端子108を介してカソード電極56に移動する。
【0029】
カソード電極56では、触媒の作用によって前記水素イオン及び前記電子と、供給された酸化剤ガスに含まれる酸素とが反応して水が生成される。
【0030】
正極端子108及び負極端子106と駆動部42を接続する配線の間には、発電電圧Vfcを検出する電圧センサ110が設けられる。さらに、正極端子108と駆動部42を接続する配線には、発電電流Ifcを検出する電流センサ112が設けられる。
【0031】
コンプレッサ28は、蓄電装置44の電力が駆動部42を通じて供給されるモータ(不図示)により駆動される機械式の過給器等で構成され、外気取入口113から外気(大気、空気)を吸引して加圧し、加湿器30を通じて燃料電池スタック18に供給する等の機能を有する。
【0032】
加湿器30は、流路31Aと流路31Bとを有する。流路31Aには、コンプレッサ28により圧縮され高温化されて乾燥した空気(酸化剤ガス)が流通する。流路31Bには、燃料電池スタック18の酸化剤ガス出口連通口102から排出される排出ガスが流通する。
【0033】
ここで、前記排出ガスは、後述する第1開閉弁としてのブリード弁70の閉弁時には、湿潤な酸化剤オフガス(湿潤なカソードオフガス、湿潤な酸化剤排ガス)とされ、ブリード弁70の開弁時には、前記湿潤な酸化剤オフガスと燃料オフガス(アノードオフガス、燃料排ガス)が混合された湿潤な排出ガス(オフガス)が流通する。
【0034】
加湿器30は、コンプレッサ28から供給された酸化剤ガスを加湿する機能を有する。すなわち、加湿器30は、前記排出ガス(オフガス)中に含まれる水分を、流路31Bから内部の多孔質膜を介して流路31Aに流通する供給ガス(酸化剤ガス)に移動させて加湿し、加湿した酸化剤ガスを燃料電池スタック18に供給する。
【0035】
外気取入口113から酸化剤ガス入口連通口101までの酸化剤ガス供給流路60(酸化剤ガス供給流路60A、60Bを含む)には、外気取入口113から順に遮断弁114、エアフローセンサ(AFS:流量センサ)116、コンプレッサ28、供給側封止弁118及び加湿器30が設けられている。なお、二重線で描いている酸化剤ガス供給流路60等の流路は、配管により形成されている(以下、同様)。
【0036】
遮断弁114は、酸化剤ガス供給流路60への空気の取り入れを解放又は遮断するために開閉される。
【0037】
エアフローセンサ116は、コンプレッサ28を通じて燃料電池スタック18に供給される酸化剤ガスの流量を計測する。
【0038】
供給側封止弁118は、酸化剤ガス供給流路60Aを開閉する。
【0039】
外気取入口113には、外気温度Taを検出(測定)する温度センサ73が設けられている。
【0040】
酸化剤ガス出口連通口102に連通する酸化剤オフガス流路62には、酸化剤ガス出口連通口102から順に加湿器30及び背圧弁としても機能する排出側封止弁120が設けられている。
【0041】
供給側封止弁118の吸入口と排出側封止弁120の吐出口との間には、酸化剤ガス供給流路60と酸化剤オフガス流路62を連通するバイパス流路64が設けられている。バイパス流路64には、バイパス流路64を開閉するバイパス弁122が設けられている。バイパス弁122は、燃料電池スタック18をバイパスする酸化剤ガスの流量を調整する。
【0042】
バイパス流路64と酸化剤オフガス流路62との合流路は、排出流路62Aに連通している。
【0043】
水素タンク20は、電磁作動式の遮断弁を備え、高純度の水素を高い圧力で圧縮して収容する容器である。
【0044】
水素タンク20から吐出される燃料ガスは、燃料ガス供給流路72に設けられたインジェクタ32及びエジェクタ34を通じ、燃料ガス入口連通口103を介して燃料電池スタック18のアノード流路59の入口に供給される。
【0045】
アノード流路59の出口は、燃料ガス出口連通口104及び燃料ガスの燃料オフガス流路74を通じて気液分離器36の入口151に連通され、該気液分離器36にアノード流路59から水素含有ガスである前記燃料オフガスが供給される。
【0046】
気液分離器36は、前記燃料オフガスを気体成分と液体成分(液水)とに分離する。燃料オフガスの気体成分(燃料排ガス)は、気液分離器36の気体排出口152から排出され、循環流路77を通じてエジェクタ34の吸込口に供給される一方、ブリード弁70が開弁されたとき、燃料オフガスは、接続流路(連絡流路)78、ブリード弁70を介し、酸化剤ガス供給流路60Bにも供給される。
【0047】
燃料排ガスの液体成分は、気液分離器36の液体排出口160から第2開閉弁としてのドレイン弁164が設けられたドレイン流路162を通じ、排出流路62Aから排出される排出ガスと混合され排出流路99及び排ガス排気口168を通じて外気に排出される。
【0048】
実際上、ドレイン流路162には、液体成分と共に、一部の燃料オフガス(水素含有ガス)が排出される。この燃料オフガス中の水素ガスを希釈して外部に排出するために、コンプレッサ28から吐出した酸化剤ガスの一部がバイパス流路64を通じて、排出流路62Aに供給されている。
【0049】
燃料オフガスの循環流路77と酸化剤ガス供給流路60Bを連通する接続流路78に設けられたブリード弁70は、次に説明する二つの理由のいずれかにより開閉制御される。
【0050】
第1に、ブリード弁70は、燃料電池自動車12の走行中に、カソード流路58に存在する窒素ガスが電解質膜・電極構造体52を透過してアノード流路59内の水素濃度を低下させることを原因とするアノード電極57の劣化を防止するために開弁される(走行中におけるブリード弁70の第1弁連続開閉制御処理)。
【0051】
第2に、ブリード弁70は、燃料電池スタック18の運転状態がアイドル状態のとき、排ガス排気口168から外部に排気される排出ガス中の水素濃度を低減するために開弁される(アイドル状態におけるブリード弁70の第2弁連続開閉制御処理)。
【0052】
ブリード弁70が開弁されると、燃料電池スタック18から燃料オフガス流路74を通じ、気液分離器36を介して吐出される燃料オフガスを、接続流路78、酸化剤ガス供給流路60B、及び酸化剤ガス入口連通口101を介してカソード流路58に流通させる。
【0053】
カソード流路58に流通された燃料オフガス中の燃料ガスは、カソード電極56での触媒反応により水素イオン化され、該水素イオンは酸化剤ガスと反応して水が生成される。反応しなかった残部の燃料オフガス(窒素ガスと未反応の僅かな水素ガスとからなる)は燃料電池スタック18から酸化剤オフガスとして排出され、酸化剤オフガス流路62に流通する。
【0054】
酸化剤オフガス流路62に流通する酸化剤オフガス(前記反応しなかった残部の燃料オフガスを含む)に酸化剤ガスのバイパス流路64を通じて供給された酸化剤ガスが混合されて、酸化剤オフガス中の燃料オフガス(燃料ガスを含む)の濃度が希釈された酸化剤オフガスが、排出流路62Aに流通する。
【0055】
排出流路62Aは、ドレイン流路162に連通し、合流して排出流路99に連通する。
【0056】
排出流路99では、排出流路62Aからの酸化剤オフガスにより、ドレイン流路162から吐出される液水と燃料オフガスの混合流体中の燃料ガスが希釈され、排ガス排気口168を通じて燃料電池自動車12の外部(大気)に排出される。
【0057】
なお、前記ブリード弁70の開口径は、ドレイン弁164の開口径よりも大きい弁を採用している。この開口径の関係により、仮に、凍結等によりドレイン弁164が開いたままの開故障状態となっても、接続流路78に流入する燃料オフガスの量が、ドレイン弁164に流入する燃料オフガスの量よりも大きくなり、結果として、排ガス排気口168から排出される燃料ガスの濃度を低下させることができる。
【0058】
燃料電池システム10の冷媒供給装置26は、冷媒を流通させる冷媒流路138を有する。冷媒流路138は、冷媒供給流路140と冷媒排出流路142とを有する。冷媒供給流路140は燃料電池スタック18に冷媒を供給し、冷媒排出流路142は燃料電池スタック18から冷媒を排出する。冷媒供給流路140及び冷媒排出流路142には、ラジエータ40が接続される。ラジエータ40は冷媒を冷却する。冷媒供給流路140には、冷媒ポンプ38が設けられる。冷媒ポンプ38は、冷媒の循環回路内で冷媒を循環させる。冷媒の循環回路には、冷媒供給流路140、燃料電池スタック18の内部冷媒流路、冷媒排出流路142及びラジエータ40が含まれる。冷媒排出流路142に温度センサ76が設けられる。該温度センサ76により検出される冷却媒体の温度(冷媒出口温度)Tsは、燃料電池スタック18の(内部)温度であるものとして検出(測定)される。
【0059】
以上の燃料電池システム10の各構成要素は、制御装置15によって統括制御される。
【0060】
なお、開閉が制御装置15により制御される開閉弁である遮断弁114を除く供給側封止弁118、排出側封止弁120、ブリード弁70、ドレイン弁164は、制御装置15により開度が制御される流量調整弁であるが、開閉弁を用いデューティ制御してもよい。
【0061】
制御装置15は、ECU(Electronic Control Unit)により構成される。ECUは、1以上のプロセッサ(CPU)、メモリ、入出力インタフェース及び電子回路を有するコンピュータにより構成される。1以上のプロセッサ(CPU)は、メモリに記憶された図示しないプログラムを実行する。
【0062】
制御装置15のプロセッサ(CPU)は、前記プログラムに従って演算を実行することで、燃料電池自動車12及び燃料電池システム10の運転制御を行う。
【0063】
制御装置15には、燃料電池自動車12の電源スイッチ(電源SW)71が接続されている。電源スイッチ71は、燃料電池システム10の燃料電池スタック18の発電運転を開始乃至継続(ON)させるか終了(OFF)させる。制御装置15には、また、それぞれ図示しないアクセル開度センサ、車速センサ、蓄電装置44のSOCセンサが接続される。
【0064】
[動作]
この実施形態に係る燃料電池システム10は、基本的には以上のように構成される。以下、図2のフローチャートを参照しながら、その動作について説明する。図2のフローチャートによる処理は、制御装置15により所定の周期で繰り返し実行される。
【0065】
ステップS1にて、制御装置15は、電源スイッチ71がON状態であるか否(OFF状態である)かを判定する。
【0066】
電源スイッチ71がOFF状態にある(ステップS1:NO)場合、制御装置15は、処理を終了し、燃料電池システム10及び燃料電池自動車12は停止状態とされる。
【0067】
電源スイッチ71がON状態にある(ステップS1:YES)場合、ステップS2にて、制御装置15は、アクセル開度、車速、道路勾配等に基づき燃料電池スタック18への要求発電電力を算出する。さらに、ステップS2にて、制御装置15は、燃料電池スタック18の発電電力が、算出した要求発電電力になるように、コンプレッサ28を含む酸化剤ガス供給装置22及び水素タンク20を含む燃料ガス供給装置24を制御すると共に、冷媒ポンプ38を含む冷媒供給装置26を制御する。
【0068】
図1中の矢印は、電源スイッチ71がON状態にあるときの流体(酸化剤ガス、燃料ガス、酸化剤オフガス、燃料オフガス、液水)の流れの一例を示している。
【0069】
ステップS3にて、制御装置15は、温度センサ73による外気温度(外部温度)Ta[℃]と、スタック温度を示す冷媒出口温度Ts[℃]を取得する。
【0070】
ステップS3にて、さらに、制御装置15は、外気温度Taが、予め定めた低温閾値Tlow(例えば、0[℃])未満(氷点下)の低温環境下であるか否かを判定すると共に、燃料電池スタック18の内部温度に対応する冷媒出口温度Tsを設定温度(燃料電池自動車12の燃料電池スタック18の目標温度)まで上昇させる暖気制御時であるか否かを判定する。
【0071】
制御装置15が、外気温度Taが低温閾値Tlow未満の低温環境下又は前記設定温度まで未達の暖気制御中のいずれかであると判定した場合、ステップS4に進む。そうでない場合、外気温度Taが低温閾値Tlow以上であるか、暖気制御中ではない(冷媒出口温度Tsが目標温度に到達している)場合、ステップS1に戻る。
【0072】
ステップS4にて、制御装置15は、燃料電池自動車12の運転状態がアイドル状態であるか否かを判定する。
【0073】
アイドル状態とは、燃料電池自動車12が走行停止中又はおおよそ10[km/h]以下等での徐行走行中の状態であって、燃料電池スタック18の小発電状態をいう。
【0074】
アイドル状態ではない(ステップS4:NO)場合には、ステップS1に戻り、アイドル状態である(ステップS4:YES)場合には、ステップS5に進む。
【0075】
ステップS5にて、制御装置15は、ドレイン弁164が開固着状態(弁が開いた状態で固定されている状態)になっているか否かを判定する。なお、ドレイン弁164の開固着は、制御装置15からドレイン弁164に弁閉信号を送っているのに、気液分離器36の内部に配されている図示しない液量計で測定される液水レベルが所定値以下であること等により制御装置15で判断することができる。
【0076】
制御装置15は、ドレイン弁164が開固着状態になっていないと判定した(ステップS5:NO)場合、ステップS6にて、ブリード弁70の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御を行う。
【0077】
図3Aは、ブリード弁70の開閉が所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御中の制御装置15による指令波形を示し、図3Bは、排ガス排気口168から外部に排出される排気水素濃度が閾値濃度以下に維持されている濃度波形を示している(上記したアイドル状態におけるブリード弁70の第2弁連続開閉制御処理に該当する)。
【0078】
図3A図3Bからブリード弁70の開閉動作を素早く繰り返すことで、排気水素濃度の上昇が抑制されていることが理解される。
【0079】
ステップS5にて、制御装置15によりドレイン弁164が開固着状態になっていると判定した(ステップS5:YES)場合、ステップS7に進む。
【0080】
ステップS7にて、制御装置15は、駆動部42を通じてコンプレッサ28の回転数を一定回転数増加させた目標回転数まで上昇させる処理を行った後、ステップS6に進む。
【0081】
ドレイン弁164が開固着状態になっていても(ステップS5:YES)、バイパス流路64から排出流路62Aに供給される酸化剤ガスの流量が増加されているので、制御装置15は、ステップS6にてブリード弁70の第1弁連続開閉制御処理を継続することで、排気水素濃度を閾値濃度以下に維持することができる。
【0082】
この場合、ステップS7のコンプレッサ28の回転数上昇処理を行った際、仮に、コンプレッサ28が不調で、コンプレッサ28の回転数が目標回転数に達しなかった場合でも、ステップS6のブリード弁70の第1弁連続開閉制御処理が実施されるので、排気濃度の上昇を抑制することができる。
【0083】
なお、ステップS3:NO、ステップS4:NO、又はステップS6処理後のステップS2の発電制御中において、制御装置15が、アノード流路59内の水素濃度の低下を検出したとき、図3Aを参照して説明したブリード弁70の第2弁連続開閉制御処理と同様なブリード弁70の第1弁連続開閉制御処理が行われる。水素濃度は、例えば、燃料オフガス流路74に水素濃度センサを設けて計測してもよい。
【0084】
上記実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について、以下に記載する。なお、理解の便宜のために構成要素の一部には上記実施形態で用いた符号を付けているが、該構成要素はその符号を付けたものに限定されない。
【0085】
この発明に係る燃料電池システム10は、酸化剤ガスと燃料ガスとにより発電する燃料電池スタック18と、該燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給流路60(60A、60B)と、前記燃料電池スタックから排出された酸化剤オフガスを流通させる酸化剤オフガス流路62と、前記燃料電池スタックに前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給流路72と、前記燃料電池スタックから排出された燃料オフガスを流通させる燃料オフガス流路74と、前記酸化剤ガス供給流路と前記燃料オフガス流路を連通する接続流路78と、前記接続流路を開閉する第1開閉弁(70)と、該第1開閉弁の開閉状態を制御する制御装置15と、を備え、該制御装置は、前記燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、前記第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御処理を実施する。
【0086】
この構成によれば、燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す弁連続開閉制御処理を実施することで、燃料オフガスに含まれる燃料ガスがカソード電極56での触媒反応により水素イオン化され、該水素イオンが酸化剤ガスと反応して水が生成され、燃料オフガスに含まれる燃料ガスの濃度を低下させることができる。これにより、アイドル状態のときに、酸化剤オフガス流路62及びドレイン流路162を通じて外部に排気される燃料ガスの濃度を抑制することができる。
【0087】
また、燃料電池システムにおいては、前記制御装置が、前記燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態のとき、前記第1開閉弁の開閉を所定間隔で連続して繰り返す前記弁連続開閉制御処理を実施するのは、前記燃料電池スタックの低温環境下での起動時、あるいは前記燃料電池スタックの暖気制御時であるとする。
【0088】
これにより、前記燃料電池スタックの低温環境下での起動時、あるいは前記燃料電池スタックの暖気制御時に、燃料電池スタックの運転状態がアイドル状態で発電している場合に、外部に排気される燃料オフガスの燃料ガス濃度を抑制することができる。
【0089】
さらに、燃料電池システムにおいては、前記燃料電池スタックの前記燃料オフガス流路を分岐させ、一方の分岐流路は前記接続流路に連通させ、他方の分岐流路(162)には、前記燃料電池スタックから排出される液水及び前記燃料オフガスを外部に排出可能な第2開閉弁(164)を設け、前記制御装置は、前記第2開閉弁を閉方向に駆動しても、前記第2開閉弁が開状態で固着されていることを検出したとき、前記第1開閉弁の前記弁連続開閉制御処理を実施するようにしてもよい。
【0090】
この発明によれば、燃料電池スタックから排出される液水及び燃料オフガスを外部に排出可能な第2開閉弁が開状態で固着されていても、前記第1開閉弁の弁連続開閉制御処理を実施することで、排気水素濃度の上昇を抑制することができる。
【0091】
さらにまた、燃料電池システムにおいては、前記酸化剤ガス供給流路を通じて前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給するコンプレッサ28を備え、前記制御装置は、前記第1開閉弁の前記弁連続開閉制御処理の実施中は、非実施中に比較してコンプレッサの回転数を上昇させ、前記燃料電池スタックに供給する酸化剤ガスの流量を増加させてもよい。
【0092】
酸化剤ガス流量を増加させることでバイパス流路64に流通する酸化剤ガス流量が増加し、燃料ガスの排気濃度を容易に低下させることができる。
【0093】
さらにまた、前記制御装置は、前記コンプレッサの回転数が目標回転数まで上昇しない不調な場合であっても、前記第1開閉弁の弁連続開閉制御処理を継続してもよい。
【0094】
この構成により燃料ガスの排気濃度の上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0095】
10…燃料電池システム 12…燃料電池自動車
15…制御装置 18…燃料電池スタック
22…酸化剤ガス供給装置 24…燃料ガス供給装置
28…コンプレッサ 50…発電セル
58…カソード流路 59…アノード流路
60、60A、60B…酸化剤ガス供給流路 62…酸化剤オフガス流路
64…バイパス流路 70…ブリード弁
71…電源スイッチ 72…燃料ガス供給流路
73、76…温度センサ 74…燃料オフガス流路
77…循環流路 78…接続流路
99…排気流路 101…酸化剤ガス入口連通口
102…酸化剤ガス出口連通口 103…燃料ガス入口連通口
104…燃料ガス出口連通口 122…バイパス弁
162…ドレイン流路 164…ドレイン弁
168…排ガス排気口
図1
図2
図3