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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び性能試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/10 20060101AFI20231109BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20231109BHJP
   H04B 17/15 20150101ALI20231109BHJP
   H01Q 19/12 20060101ALI20231109BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
G01R29/10 E
H04B17/29
H04B17/15
H01Q19/12
H01Q21/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022023851
(22)【出願日】2022-02-18
(65)【公開番号】P2023120791
(43)【公開日】2023-08-30
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】山本 綾
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-184546(JP,A)
【文献】特開2006-029906(JP,A)
【文献】特開2021-060358(JP,A)
【文献】特開2004-145384(JP,A)
【文献】特開2007-078482(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111122989(CN,A)
【文献】特開2002-318254(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0264222(US,A1)
【文献】特開2022-045682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/00-29/26
H04B 17/29
H04B 17/15
H01Q 19/12
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波暗箱と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、保持した試験対象の角度を任意に設定する姿勢可変機構と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、回転放物面を備えたリフレクタと、
前記電波暗箱の内部において前記回転放物面の焦点に配置され、第1の信号を送信する第1のアンテナと、
前記電波暗箱の内部において前記焦点とは異なる特定位置に配置され、第2の信号を送信する第2のアンテナと、
を有するアンテナ装置であって、
前記第1の信号は試験信号であり、前記第1のアンテナは、前記試験信号を送信するとともに、試験対象からの送信信号または受信状態通知信号を受信する試験用アンテナであり、
前記第2の信号は妨害信号であり、前記第2のアンテナは妨害信号送信用アンテナであり、
前記妨害信号送信用アンテナによる前記妨害信号の送信と、前記試験用アンテナによる前記試験信号の送信を同時に行い、前記試験用アンテナが受信した前記受信状態通知信号をもとに試験対象のスループットがしきい値を越えていることを確認する性能試験において、試験対象における前記試験信号の受信レベルが最大となるように前記姿勢可変機構を制御して試験対象の前記角度を設定するとともに、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の送信レベルを前記特定位置に応じて補正する制御を行う制御手段を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させながら、試験対象の前記角度θが、試験対象の前記受信レベルが最大レベルとなる最大角度θ0 となるように前記姿勢可変機構を制御する第1ステップと、
試験対象の前記角度θが、前記最大角度θ0 に、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の試験対象への到来角度θ' を加えた値となるように前記姿勢可変機構を制御するとともに、前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させて試験対象の前記受信レベルとしてオフセットレベルを取得し、前記最大レベルと前記オフセットレベルの差を前記妨害信号の規定送信レベルに加えた値を前記妨害信号の補正送信レベルとして算出する第2ステップと、
試験対象の前記角度θが前記最大角度θ0 となるように前記姿勢可変機構を制御するとともに、前記妨害信号送信用アンテナに前記補正送信レベルの前記妨害信号を送信させている状態で前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させ、試験対象が前記試験信号を適正に受信できていることを解析する第3ステップを実行することにより、
前記性能試験を行うことを特徴とする請求項に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
電波暗箱と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、保持した試験対象の角度を任意に設定する姿勢可変機構と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、回転放物面を備えたリフレクタと、
前記電波暗箱の内部において前記回転放物面の焦点に配置され、試験信号を送信するとともに試験対象からの送信信号または受信状態通知信号を受信する試験用アンテナと、
前記電波暗箱の内部において前記焦点とは異なる特定位置に配置され、妨害信号を送信する妨害信号送信用アンテナと、
を有するアンテナ装置を用いた測定方法であって、
前記妨害信号送信用アンテナによる前記妨害信号の送信と、前記試験用アンテナによる前記試験信号の送信を同時に行い、前記試験用アンテナが受信した前記受信状態通知信号をもとに試験対象のスループットがしきい値を越えているか否かを確認するために、試験対象における前記試験信号の受信レベルが最大となるように前記姿勢可変機構を制御して試験対象の前記角度を設定するとともに、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の送信レベルを前記特定位置に応じて補正することを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OTA(Over The Air)環境の電波暗箱を用いて、試験対象のアンテナから送受信される無線信号に対する妨害波の影響を測定するためのアンテナ装置と、これを用いて試験対象の性能を試験するための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアの進展に伴い、セルラ、無線LAN等の無線通信用のアンテナが実装された無線端末(スマートフォン等)が盛んに生産されるようになっている。今後は、特に、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末が求められている。
【0003】
無線端末の設計開発会社又はその製造工場においては、無線端末が備えている無線通信アンテナに対して、通信規格ごとに定められた送信電波の出力レベルや受信感度を測定し、所定の基準を満たすか否かを判定する性能試験が行われる。
【0004】
4G、あるいは4Gアドバンスから5Gへの世代移行に伴い、上述した性能試験の試験方法も変わりつつある。例えば、5G NRシステム(New Radio System)用の無線端末(以下、5G無線端末)を試験対象(Device Under Test :DUT)とする性能試験においては、4Gや4Gアドバンス等の試験で主流であった試験装置とDUTのアンテナ端子とを有線接続する方法は、試験装置の高周波回路にアンテナ端子を付けることによる特性劣化、又は、DUTはアレーアンテナの素子数が多く、アンテナ端子を全素子に付けることがスペース面・コスト面を考慮して現実的でないことなどの理由で使用できない。このため、DUTを試験用アンテナとともに周囲の電波環境に影響されない電波暗箱の中に収容し、試験用アンテナを介してDUTに対する試験信号の送受信を無線通信により行う、いわゆるOTA試験が行われるようになっている。
【0005】
さらに5G無線端末については、5G NR規格の改訂により、上述した性能試験に加えてスプリアス測定が義務付けられることとなった。スプリアス測定とは、5G無線端末の目標発振周波数での通信中にそれ以外の帯域でどの程度の不要な電波、つまり、スプリアス(spurious)波を放射しているかを測定する技術である。
【0006】
5G無線端末の性能試験においては、上述したOTA試験環境、及びスプリアス測定環境を実現する試験用機材として、コンパクト・アンテナ・テスト・レンジ(Compact Antenna test Range:以下、CATR)が知られている。CATRは、OTAチャンバと呼ばれる電波暗箱からなり、DUTと、試験用アンテナと、スプリアス測定用の複数の受信アンテナとを、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を防ぐように収容している。さらに、CATRは、DUTのアンテナと試験用アンテナとの間の電波伝搬経路中に回転放物面を有する反射器(リフレクタ)が配置されているため、リフレクタを用いないものに比べて電波伝搬経路を短くすることができ、一般的な遠方界環境でのOTA試験に比べて文字通りコンパクト化されていることが特徴となっている。
【0007】
下記特許文献1には、上述したDUTのOTA試験環境及びスプリアス測定環境を実現するCATRと、これを用いた測定方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特願2021-60358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、5G NR規格において、ミリ波帯DUTの性能試験の項目の一つとして、妨害波(妨害信号とも称する。)を印加した場合の特性評価である妨害波測定が定められた (blocking characteristics, 3GPP TS 38.521-2参照) 。この妨害波測定とは、妨害信号と試験信号を同時にDUTに送信した状態で、DUTが試験信号を適正に受信できることをスループットで確認する試験である。なお、スループットとは、DUTが単位時間あたりに処理できるデータ量である。
【0010】
例えば5G無線端末の性能試験において妨害波測定を行う場合においても、DUTのアンテナ端子と試験装置を有線接続する従前のような方法は、先に述べた通り特性劣化や構成上のスペース面・コスト面を考慮すると現実的でないことから、前述したようなCATRを用いてOTA試験を行うことが好ましいと考えられる。
【0011】
OTA試験環境下においてDUTの妨害波測定を実現するCATRの機器構成としては、例えば、1つのアンテナから妨害波と試験信号をDUTに同時に送信する構成が考えられる。この構成によれば、種類の異なる2つの信号を合成して1つのアンテナに入力するため、アンテナが1つで済む代わりに、2つの信号を合成するコンバイナが必要となる。また、このコンバイナは、OTA試験を実施するミリ波帯では損失が大きいため、妨害波について必要な出力を達成するためには、コンバイナとアンテナの間に増幅器を設けることが必要となる場合が多い。このように、CATRのOTA試験環境下において、1つのアンテナから妨害波と試験信号を同時に送信する構成によりDUTの妨害波測定を行うためには、機器構成が複雑になり、設備コストが大きくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、以上説明した従来の技術における課題を解決するためになされたものであって、OTA試験環境下で例えばDUTの妨害波測定のように複数の信号を用いる性能試験を行うことができるアンテナ装置と、これを用いた測定方法を、簡素でコンパクトな構成及び低廉な設備コストで実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載されたアンテナ装置は、
電波暗箱と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、保持した試験対象の角度を任意に設定する姿勢可変機構と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、回転放物面を備えたリフレクタと、
前記電波暗箱の内部において前記回転放物面の焦点に配置され、第1の信号を送信する第1のアンテナと、
前記電波暗箱の内部において前記焦点とは異なる特定位置に配置され、第2の信号を送信する第2のアンテナと、
を有するアンテナ装置であって、
前記第1の信号は試験信号であり、前記第1のアンテナは、前記試験信号を送信するとともに、試験対象からの送信信号または受信状態通知信号を受信する試験用アンテナであり、
前記第2の信号は妨害信号であり、前記第2のアンテナは妨害信号送信用アンテナであり、
前記妨害信号送信用アンテナによる前記妨害信号の送信と、前記試験用アンテナによる前記試験信号の送信を同時に行い、前記試験用アンテナが受信した前記受信状態通知信号をもとに試験対象のスループットがしきい値を越えていることを確認する性能試験において、試験対象における前記試験信号の受信レベルが最大となるように前記姿勢可変機構を制御して試験対象の前記角度を設定するとともに、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の送信レベルを前記特定位置に応じて補正する制御を行う制御手段を有することを特徴としている。
【0016】
請求項に記載されたアンテナ装置は、請求項に記載のアンテナ装置において、
前記制御手段は、
前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させながら、試験対象の前記角度θが、試験対象の前記受信レベルが最大値となる最大角度θ0 となるように前記姿勢可変機構を制御する第1ステップと、
試験対象の前記角度θが、前記最大角度θ0 に、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の試験対象への到来角度θ' を加えた値となるように前記姿勢可変機構を制御するとともに、前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させて試験対象の前記受信レベルとしてオフセットレベルを取得し、前記最大値と前記オフセットレベルの差を前記妨害信号の規定送信レベルに加えた値を前記妨害信号の補正送信レベルとして算出する第2ステップと、
試験対象の前記角度θが前記最大角度θ0 となるように前記姿勢可変機構を制御するとともに、前記妨害信号送信用アンテナに前記補正送信レベルの前記妨害信号を送信させている状態で前記試験用アンテナに前記試験信号を送信させ、試験対象が前記試験信号を適正に受信できていることを解析する第3ステップを実行することにより、
前記性能試験を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項に記載された測定方法は、
電波暗箱と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、保持した試験対象の角度を任意に設定する姿勢可変機構と、
前記電波暗箱の内部に設けられ、回転放物面を備えたリフレクタと、
前記電波暗箱の内部において前記回転放物面の焦点に配置され、試験信号を送信するとともに試験対象からの送信信号または受信状態通知信号を受信する試験用アンテナと、
前記電波暗箱の内部において前記焦点とは異なる特定位置に配置され、妨害信号を送信する妨害信号送信用アンテナと、
を有するアンテナ装置を用いた測定方法であって、
前記妨害信号送信用アンテナによる前記妨害信号の送信と、前記試験用アンテナによる前記試験信号の送信を同時に行い、前記試験用アンテナが受信した前記受信状態通知信号をもとに試験対象のスループットがしきい値を越えているか否かを確認するために、試験対象における前記試験信号の受信レベルが最大となるように前記姿勢可変機構を制御して試験対象の前記角度を設定するとともに、前記妨害信号送信用アンテナから送信される前記妨害信号の送信レベルを前記特定位置に応じて補正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載されたアンテナ装置によれば、電波暗箱内のOTA試験環境下において、第1のアンテナによる第1の信号の送信と、第2のアンテナによる第2の信号の送信を同時に行い、第2の信号が送信されている状況下において、試験対象が第1の信号を適正に受信できるか否かを確認する性能試験を行うことができる。また、このアンテナ装置は、第1の信号の送信は第1のアンテナにより行い、第2の信号の送信は第2のアンテナにより行う構成であるため、種類の異なる2つの信号を合成して1つのアンテナに入力するためのコンバイナは必要なく、従ってコンバイナにより発生しうる損失を補う増幅器も必要がなく、構成が簡素でコンパクトとなり、設備コストは低廉となる。
また、電波暗箱内のOTA試験環境下において、試験用アンテナによる試験信号の送信と、妨害信号送信用アンテナによる妨害信号の送信を同時に行い、妨害信号が送信されている状況下において、性能試験として、試験対象が試験信号を適正に受信できるか否かを確認する妨害波測定を行うことができる。
また、試験対象における試験信号の受信レベルは姿勢可変機構を制御して最大となる角度となっており、また妨害信号送信用アンテナはリフレクタの回転放物面の焦点以外の特定位置に配置されているが、妨害信号送信用アンテナから送信される妨害信号の送信レベルは、特定位置に応じて増大する方向に補正されているため、適正な妨害波測定を行うことができる。
【0021】
請求項に記載されたアンテナ装置によれば、試験対象の角度θを、試験対象による試験信号の受信レベルが最大値となるような最大角度θ0 に設定したうえで、試験用アンテナに試験信号を送信させる。これと同時に、妨害信号が試験対象に到来する角度である到来角度θ' に基づいて算出した補正送信レベルの妨害信号を、妨害信号送信用アンテナから送信させる。この状態で試験対象における試験信号の受信状態を解析することにより、試験対象が試験信号を適正に受信できるか否かを確認する妨害波測定を行うことができる。
【0022】
請求項に記載された測定方法によれば、妨害信号送信用アンテナによる妨害信号の送信と、試験用アンテナによる試験信号の送信を同時に行い、試験対象が前記試験用アンテナによる前記試験信号の送信を適正に受信できていることを確認することにより、適正な妨害波測定を行うことができる。
また、試験対象における試験信号の受信レベルは姿勢可変機構を制御して最大となる角度となっており、また妨害信号送信用アンテナはリフレクタの回転放物面の焦点以外の特定位置に配置されているが、妨害信号送信用アンテナから送信される妨害信号の送信レベルは、特定位置に応じて増大する方向に補正されているため、適正な妨害波測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係るアンテナ装置の概略構成と機能を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るアンテナ装置において、試験用アンテナと、妨害信号送信用アンテナと、複数の受信アンテナの位置関係を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るアンテナ装置において、試験用アンテナ及び妨害信号送信用アンテナと、リフレクタと、試験対象の位置関係を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るアンテナ装置を用いて妨害波測定を行う際の手順を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るアンテナ装置を用いて行う妨害波測定において、試験対象の角度θを、試験対象の受信レベルが最大値となる最大角度θ0 となるように設定するステップ3(S3)の動作を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係るアンテナ装置を用いて行う妨害波測定において、試験対象の角度θを、最大角度θ0 に、妨害信号送信用アンテナから送信される妨害信号が試験対象に到来する到来角度θ' を加えた値となるように設定し、試験用アンテナに試験信号を送信させて試験対象の受信レベルとしてオフセットレベルを取得するステップ4(S4)の動作を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係るアンテナ装置を用いて行う妨害波測定において、試験対象の角度θを最大角度θ0 に設定し、妨害信号送信用アンテナに補正送信レベルの妨害信号を送信させている状態で試験用アンテナに試験信号を送信させ、試験対象における試験信号の受信状態を解析するステップ6(S6)の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るアンテナ装置及び測定方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各図面に示すアンテナ装置の構成要素は、必ずしも実機と同一の構成を忠実に表すものではなく、明細書の記載と整合的に理解されるように模式的に表現している場合もあり、また各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致するものではない。
【0025】
図1は、本実施形態のアンテナ装置1の構造及び機能を示す図であり、後に詳述する電波暗箱としてのOTAチャンバ10については、側面からの透視図によって内部における各構成要素の配置態様を模式的に示しており、後に詳述する制御手段(統合制御装置20やNRシステムシミュレータ22等)については、ブロック構成図によってOTAチャンバ10内の機器類に対する制御機能を示している。
【0026】
本実施形態のアンテナ装置1は、5G無線端末をDUTとする性能試験、特に妨害信号と試験信号を同時に送信した状態で、DUTが試験信号を適正に受信できることを確認する妨害信号測定(妨害波測定とも称する。)に適した測定装置としての機能を有することを特徴としている。
【0027】
まず、図1を参照して前述した電波暗箱としてのOTAチャンバ10の構成について説明する。
OTAチャンバ10は、5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を提供するCATRであって、例えば直方体形状の内部空間11を区画する金属製の筐体により構成されており、外部からの電波の侵入を防ぐことができる。OTAチャンバ10の内面全域には、電波吸収体12が貼り付けられており、内部での電波の多重反射が抑制される。
【0028】
OTAチャンバ10の内部空間11には、DUT100と、DUT100を保持して任意の姿勢に設定する姿勢可変機構13と、試験用アンテナ5と、妨害信号送信用アンテナ3と、スプリアス測定用の複数の受信アンテナ6と、リフレクタ7が収容されている。
【0029】
試験対象であるDUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末であり、より具体的には、例えば5G NRの無線端末であって、内蔵するアンテナは、5G NR規格に準拠した規定の周波数帯域(ミリ波帯)内の無線信号を送信又は受信するものである。
【0030】
姿勢可変機構13は、図示しない保持部によってクワイエットゾーン(quiet zone、符号QZ、図3に示す。)内でDUT100を保持するとともに、保持したDUT100の角度θを任意に設定する機能を備えている。姿勢可変機構13は、例えば、互いに直交する2軸が回転することによってDUT100の姿勢を変化させる回転機構を備えた2軸ポジショナであり、試験用アンテナ2、妨害信号送信用アンテナ3、及び複数の受信アンテナ46の位置が固定された状態で、DUT100を2軸の自由度をもって回転させることができるOTA試験系(Combined-axes system)を構成している。
【0031】
試験用アンテナ2、妨害信号送信用アンテナ3及び受信アンテナ4としては、例えばホーンアンテナなどの指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。
【0032】
試験用アンテナ2は、DUT100の送信特性又は受信特性の測定、妨害波測定、スプリアス測定を行うための試験信号を、DUT100のアンテナ(図示せず)に送信することができ、またDUT100からの送信信号または受信状態通知信号を受信することができる。
【0033】
妨害信号送信用アンテナ3は、DUT100のアンテナと同一の規定の周波数帯域の妨害信号を送信することができる。
【0034】
複数の受信アンテナ4は、DUT100が送信する上述した規定の周波数帯域とは異なる周波数帯域において予め設定された複数の区分周波数帯域(スプリアス周波数帯域)の無線信号を各々受信することができる。これら各区分周波数帯域の無線信号を「スプリアス信号」とも称する。
【0035】
リフレクタ5は、回転放物面からなる反射面を備えたオフセットパラボラ型の構造であり、DUT100のアンテナから放射された電波を試験用アンテナ2及び複数の受信アンテナ4の開口面へと折り返す電波経路の一部を構成している。詳細は後述するが、試験用アンテナ2は、リフレクタ5の回転放物面から定まる焦点位置F(図3参照)に配置されており、リフレクタ5は、試験用アンテナ2から放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、姿勢可変機構13に保持されているDUT100に向けて反射させるとともに、上記試験信号を受信したDUT100のアンテナから放射される送信信号または受信状態通知信号を回転放物面で受け、試験用アンテナ2及び複数の受信アンテナ4に向けて反射させることができる機能を持つ。
【0036】
ここで、図2及び図3を参照して、試験用アンテナ2、妨害信号送信用アンテナ3及び受信アンテナ4と、リフレクタ5の配置態様について説明する。
図2に示すように、OTAチャンバ10内に設けられた試験用アンテナ2、妨害信号送信用アンテナ3及び複数の受信アンテナ4は、アンテナ保持部6によって互いに離間した所定の配置で保持されている。アンテナ保持部6は、板状体又は箱体の壁面等から構成されるアンテナの取り付け部であって、試験用アンテナ2と妨害信号送信用アンテナ3は互いに可能な限り隣接して配置されており、複数の受信アンテナ4は、試験用アンテナ2と妨害信号送信用アンテナ3の周囲に配置されている。なお、アンテナ保持部6は図1には示していない。
【0037】
図3は、アンテナ装置1において、試験用アンテナ2及び妨害信号送信用アンテナ3と、リフレクタ5と、DUT100の位置関係を示す図である。図3において、リフレクタ5の焦点位置Fに試験用アンテナ2が配置されており、リフレクタ5の焦点距離をf、妨害信号送信用アンテナ3が配置された位置である特定位置をP、姿勢可変機構13によって設定されるDUT100の角度をθ、妨害信号送信用アンテナ3の焦点Fからのずれ量をδ、特定位置にある妨害信号送信用アンテナ3から送信される妨害信号がDUT100に到来する到来角度をθ’とする。到来角度θ’は、式θ’=tan-1(δ/f)で表すことができる。
【0038】
上に説明したように、試験用アンテナ2は、リフレクタ5の回転放物面から定まる焦点位置Fに配置されているため、既定試験レベルの試験信号を放射すれば、DUT100に到達する電力は、その他の位置に配置した場合に較べて高くなるため、適正な試験を行うための配置として適当である。ところが、妨害信号送信用アンテナ3は、焦点Fに置くことができないため、試験用アンテナ2が配置された焦点位置Fに隣接した特定位置Pに配置されている。このため、ここから規格に定められた既定妨害波レベルの妨害信号を放射すると、DUT100に到達する電波のレベル(電力)は、試験用アンテナ2から放射されてDUT100に到達する試験信号の電波のレベルよりも弱くなってしまうため、適切な試験が行えなくなってしまう。そこで、このアンテナ装置1においては、妨害信号送信用アンテナ3が配置された特定位置Pが、焦点Fからずれているずれ量δに対応して、既定妨害波レベルを上げる方向に補正する。既定妨害波レベルを補正する具体的な手法については、次に説明する制御手段の構成の後に説明するものとする。
【0039】
次に、図1を参照してアンテナ装置1の制御手段について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るアンテナ装置1は、全体を制御する統括的な制御手段として統合制御装置20を有している。またアンテナ装置1は、統合制御装置20に接続された制御手段として、DUT姿勢制御部21と、NRシステムシミュレータ22と、信号解析装置23を有している。さらにNRシステムシミュレータ22には、妨害信号発生部24及び試験信号処理部25が接続されており、また信号解析装置23にはスプリアス信号処理部26が接続されている。妨害信号発生部24には妨害信号送信用アンテナ3が接続され、試験信号処理部25には試験用アンテナ2が接続され、スプリアス信号処理部26には複数の受信アンテナ4が接続されている。
【0040】
統合制御装置20は、DUT姿勢制御部21、NRシステムシミュレータ22、及び信号解析装置23と例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク27を介して相互に通信可能に接続されており、これらを統括的に制御する装置であって、例えばパーソナル・コンピュータ(PC)により構成される。
【0041】
DUT姿勢制御部21は、姿勢可変機構13に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものであり、この制御を実現するために、例えば駆動手段としてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)等の制御データを備えている。なお、DUT姿勢制御部21は、統合制御装置20の一部として、統合制御装置20に一体に設けられていてもよい。
【0042】
NRシステムシミュレータ22は、信号発生機能と信号解析機能を備えており、姿勢可変機構13によりDUT100の姿勢が変化されるごとに、DUT100における試験信号の受信状態を解析する等、所定の情報処理を行うことにより、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行うことができる。
【0043】
試験信号処理部25は、NRシステムシミュレータ22から送られた規定試験レベルの試験信号に必要な処理を施し、試験用アンテナ2に送信させ、また試験用アンテナ2が受信したDUT100からの受信信号に必要な処理を施し、これをNRシステムシミュレータ22に送信する。
【0044】
妨害信号発生部24は、NRシステムシミュレータ22から送られた規定妨害レベルの妨害信号に必要な処理を施し、妨害信号送信用アンテナ3に送信させる。
【0045】
信号解析装置23は、姿勢可変機構13によりDUT100の姿勢が変化されるごとに、DUT100のスプリアス測定を行うものであり、スプリアス信号処理部26から入力されるスプリアス信号に対して、スプリアス測定に関する解析処理や、NRシステムシミュレータ22の信号解析機能と同等の解析処理を施す。
【0046】
スプリアス信号処理部26は、各受信アンテナ4がそれぞれ受信したスプリアス信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択の各処理を施したうえで、該スプリアス信号を信号解析装置23に送信する。
【0047】
次に、本実施形態のアンテナ装置1を用いたDUT100の妨害波測定と、妨害波測定において行われる既定妨害波レベルの補正手法について、図4図7を参照して説明する。なお、以下に説明する既定妨害波レベルの補正と妨害波測定は、制御手段である統合制御装置20、NRシステムシミュレータ22及びDUT姿勢制御部21を含む制御手段によって行われる。
【0048】
図4のステップS1に示すように、妨害波測定が開始されると、まずDUT100を姿勢可変機構13に取り付ける。
【0049】
図4のステップS2に示すように、試験用アンテナ2を使用し、DUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信することにより呼接続制御を実施する。ここでNRシステムシミュレータ22は、DUT100に対して試験用アンテナ2を介して制御信号(呼接続要求信号)を無線送信させる一方で、該呼接続要求信号を受信したDUT100が接続要求された周波数を設定したうえで送信してくる制御信号(呼接続応答信号)を受信する呼接続制御を行う。この呼接続制御により、NRシステムシミュレータ22とDUT100との間には、リフレクタ5の焦点位置Fに配置された試験用アンテナ2とリフレクタ5とを介して無線信号を送受信可能な状態が確立される。
【0050】
ここで、NRシステムシミュレータ22から試験用アンテナ2及びリフレクタ5を介して送られる試験信号をDUT100が受信する処理はダウンリンク(DL)処理とされる。逆に、リフレクタ5及び試験用アンテナ2を介してNRシステムシミュレータ22に対してDUT100が受信状態通知信号を送信する処理はアップリンク(UL)処理とされる。試験用アンテナ2は、リンク(呼)を確立する処理、ならびにリンク確立後のダウンリンク(DL)及びアップリンク(UL)の処理を実行するために用いられるものであり、リンクアンテナの機能を兼ねている。
【0051】
図4のステップS3及び図5に示すように、ステップS2での呼接続の確立後、試験用アンテナ2から規定試験レベルの試験信号を送信させ、姿勢可変機構13により設定されるDUT100の角度θが、DUT100の受信レベルが最大値となる最大角度θ0 に設定されるように姿勢可変機構13を制御し、DUT100のビームをロックする。DUT100によっては、自らが有するアンテナの指向性を、電波の到来方向に合わせて変化させる機能を持つものがあるため、試験対象がそのような機能を有する場合、その機能を停止させることをビームロックと呼ぶ。このステップ3において、最大角度θ0 と、DUT100の受信レベルの最大値が取得される。なお、受信レベルとは、等価等方感度(equivalent isotropic sensitivity, EIS )で示されるDUT100の受電電力を意味し、従って、その最大値とはEISのピーク値を意味する。
【0052】
図4のステップS4及び図6に示すように、DUT100の角度θが、最大角度θ0 に、妨害信号送信用アンテナ3から送信される妨害信号がDUT100に到来する到来角度θ' を加えた値となるように、姿勢可変機構13を制御するとともに、試験用アンテナ2に試験信号を送信させてDUT100の受信レベルとしてオフセット値を取得する。ここで到来角度θ' は、図3を参照して先に説明したように、式θ’=tan-1(δ/f)で算出することができる。取得したオフセット値は、試験用アンテナ2を、焦点Fからのずれ量δの位置に配置して電波を放射した場合に期待できるDUT100の受信レベルを示す。従って、最大値とオフセット値の差は、電波の放射源(アンテナ)が焦点FにあるときのDUT100の受信レベルと、焦点Fからのずれ量δの位置にあるときのDUT100の受信レベルの差を示す。なお、受信レベルとは、等価等方感度(equivalent isotropic sensitivity, EIS )で示されるDUT100の受電電力を意味し、従ってオフセット値とは、DUT100の角度θが変更されたことにより減じられたEISの値を意味する。
【0053】
図4のステップS5に示すように、DUT100の受信レベルの最大値とオフセット値の差を補正値とし、妨害信号の規定送信レベルに補正値を加えた値を、妨害信号の補正送信レベルとして算出する。すなわち、妨害波信号の補正送信レベルの演算式は次の通りである。
補正送信レベル=既定送信レベル+補正値(最大値-オフセット値)
【0054】
図4のステップS6及び図7に示すように、統合制御装置20がDUT姿勢制御部21を制御して姿勢可変機構13を作動させ、クワイエットゾーンQZ内に配置されているDUT100の角度θを、姿勢可変機構13により最大角度θ0 に設定する。この状態で、妨害信号送信用アンテナ3から補正送信レベルの妨害信号を送信しながら、試験用アンテナ2から規定試験レベルの試験信号を送信し、DUT100における試験信号の受信状態を、NRシステムシュミレータ20で解析する。
【0055】
図4のステップS7に示すように、妨害波測定におけるDUT100の合否判定を行う。合否判定においては、試験用アンテナ2が受信したDUT100からの受信状態通知信号をもとに試験対象のスループットがしきい値を越えていると確認された場合、当該DUT100は、規格に定められた妨害波測定に合格したと判定され、それ以外の場合は不合格と判定される。
【0056】
以上説明したように、実施形態のアンテナ装置1によれば、電波暗箱内のOTA試験環境下での妨害波測定において、DUT100の角度θを、DUT100による試験信号の受信レベルが最大値となるような最大角度θ0 に設定したうえで、試験用アンテナ2に試験信号を送信させるとともに、DUT100に妨害信号が到来する到来角度θ' に基づいて補正した補正送信レベルの妨害信号を妨害信号送信用アンテナ3から送信させ、この状態でDUT100における試験信号の受信状態を解析している。
【0057】
このように、既定妨害波レベルに、DUT100における電波の受信レベルの最大値とオフセット値の差を補正値として加えたものを補正妨害波レベルとし、これを焦点Fからのずれ量δの、特定位置Pに配置した妨害信号送信用アンテナ3から放射すれば、妨害信号送信用アンテナ3を焦点Fに置き、既定妨害波レベルの妨害波を放射した場合と同様の状態となる。これは、物理的には不可能な配置であるが、妨害信号送信用アンテナ3と試験用アンテナ2の両方を焦点Fにおいて試験をしているのと同等の状態である。
【0058】
従って、実施形態のアンテナ装置1によれば、OTA試験環境下において、回転放物面を備えたリフレクタ5と、リフレクタ5に対して互いに異なる位置に配置した試験用アンテナ2及び妨害信号送信用アンテナ3を用いて、適正な妨害波測定を行うことができる。
【0059】
また、実施形態のアンテナ装置1によれば、図2を参照して先に説明したように、試験用アンテナ2及び妨害信号送信用アンテナ3を近接して配置し、またスプリアス測定用の複数の受信アンテナ4を、試験用アンテナ2及び妨害信号送信用アンテナ3の周囲に並べ、全体として狭い範囲内にコンパクトに配置したので、多くの種類のアンテナを用いているにも関わらず、全体としてアンテナの配置が密になり、アンテナを配置する空間の利用効率が高く、OTAチャンバ10の構成を一層コンパクト化することができる効果も得られた。
【符号の説明】
【0060】
1 アンテナ装置
2 第1のアンテナとしての試験用アンテナ
3 第2のアンテナとしての妨害信号送信用アンテナ
4 受信アンテナ
5 リフレクタ
10 電波暗箱としてのOTAチャンバ
13 姿勢可変機構
20 制御手段としての統合制御装置
21 制御手段としてのDUT姿勢制御部
22 制御手段としてのNRシステムシミュレータ
23 制御手段としての信号解析装置
100 試験対象(DUT)
F リフレクタの焦点位置
P 特定位置
θ 試験対象(DUT)の角度
QZ クワイエットゾーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7