(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B68G 7/05 20060101AFI20231109BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20231109BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20231109BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
B68G7/05 B
B60N2/64
A47C7/40
B60N2/22
(21)【出願番号】P 2022089150
(22)【出願日】2022-05-31
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 弓子
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182362(JP,A)
【文献】特開2008-302831(JP,A)
【文献】特開2013-001178(JP,A)
【文献】特開2013-121732(JP,A)
【文献】特開2017-030621(JP,A)
【文献】特開平11-019152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/22,2/64
A47C 7/40
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションに着座した着座乗員の上体を支持するシートバックは、
発泡材で形成され、シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドと、
複数の表皮片が縫製されて形成され、前記シートバックパッドを被覆するシート表皮と、
を備え、
前記シート表皮は、
少なくとも前記シート表皮における前記シートバックの背面側に設けられ、ファブリック素材よりも高い剛性を有する高剛性表皮片と、
前記高剛性表皮片に形成され、前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させたときと前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときとで、前記シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能とする寸法差吸収部と、
を含んで構成され
、
前記寸法差吸収部は、シート幅方向に沿って折り返されたタック部とされている車両用シート。
【請求項2】
前記高剛性表皮片は、カーペットで形成されている請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記シートバックは、
当該シートバックの骨格を構成するシートバックフレームと、
前記シートバックフレームにおける車両幅方向の外側に設けられ、車両衝突時に着座乗員を保護するシートベルトの長手方向の一端部が係止されたリトラクタと、
をさらに含んで構成され、
前記タック部は、前記リトラクタとシート前後方向に重なる位置に形成されている請求項
1に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記タック部は、
車両幅方向の内側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成された内側タック部と、
車両幅方向の外側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成されかつ前記リトラクタとシート前後方向に重なり、前記内側タック部の折り返し量よりも折り返し量が大きくなるように設定された外側タック部と、
を含んで構成されている請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記タック部の頂部には前記頂部を形成し2枚に重なった高剛性表皮片を縫製する縫製部が設けられている請求項4に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、着座状態に応じて最適な座席シートの形状に変化させることができる座席シートに関する技術が開示されている。この先行技術では、シートバックの所定位置から下部を前方に傾斜させると共に、所定位置から上部を後方に傾斜させた中折れ状態にして、シートバックの縦断面形状を変更するバック形状変更装置が設けられている。このバック形状変更装置によって、座席シートは、シートクッション及びシートバックを連動させ、乗員の着座状態に応じて形状を可変させることができる。これにより、この先行技術では、乗員の痛みや疲労を軽減することができ、また、乗員に安定した着座姿勢をとらせることができる。また、車両衝突の際に発生するエアバッグ等の乗員保護装置の作動に対しても、適切に保護を受けさせることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の先行技術では、シートバックが中折れする等してその形状が変化するため、シート表皮はシートバックの形状の変化に合わせて伸縮性を有する素材が選択されることになり、シート表皮の素材の自由度が少ない。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドにおいて、伸縮性を有しない素材でもシート表皮に用いることが可能な車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートは、シートクッションに着座した着座乗員の上体を支持するシートバックは、発泡材で形成され、シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドと、複数の表皮片が縫製されて形成され、前記シートバックパッドを被覆するシート表皮と、を備え、前記シート表皮は、少なくとも前記シート表皮における前記シートバックの背面側に設けられ、ファブリック素材よりも高い剛性を有する高剛性表皮片と、前記高剛性表皮片に形成され、前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させたときと前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときとで、前記シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能とする寸法差吸収部と、を含んで構成され、前記寸法差吸収部は、シート幅方向に沿って折り返されたタック部とされている。
【0007】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートでは、シートクッションに着座した着座乗員の上体を支持するシートバックは、シートバックパッド及びシート表皮を備えており、シートバックパッドは、発泡材で形成されシート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされ、シート表皮は、複数の表皮片が縫製されて形成され、前記シートバックパッドを被覆している。
【0008】
ここで、本発明では、シート表皮は、高剛性表皮片及び寸法差吸収部を含んで構成されている。高剛性表皮片は、少なくともシート表皮におけるシートバックの背面側に設けられており、ファブリック素材よりも高い剛性を有し、寸法差吸収部が形成されている。
【0009】
本発明では、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部が傾動可能とされている。このため、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させたときとシートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときとで、シートバックパッドの厚み方向に寸法差が生じる。
【0010】
本発明では、シートバックの背面側には、高剛性表皮片が設けられている。高剛性表皮片はファブリック素材よりも高い剛性を有するが伸縮性は低くなる。このため、当該高剛性表皮片には寸法差吸収部が設けられている。この寸法差吸収部によって、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させたときとシートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときとで、シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能としている。
【0011】
つまり、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときは、例えば、寸法差吸収部は閉じた状態となっているが、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させると、シートバックパッドの上部の傾動に従動して寸法差吸収部は開き、これにより、シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分が吸収される。
【0012】
裏を返すと、本発明では、シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を寸法差吸収部により吸収可能とすることで、シートバックの背面側において、ファブリック素材よりも伸縮性が低いにも拘わらず、高い剛性を有する高剛性表皮片を用いることができる。 ここで、本発明では、寸法差吸収部は、タック部とされ、シート幅方向に沿って折り返されており、シート前後方向に沿って開閉可能とされる。当該タック部がシート前後方向に沿って開放されることによって、シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分が吸収される。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の発明に係る車両用シートにおいて、前記高剛性表皮片は、カーペットで形成されている。
【0014】
請求項2に記載の発明に係る車両用シートでは、高剛性表皮片は、カーペットで形成されているため、ファブリック素材よりも高い剛性を有すると共にその形状を維持することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の発明に係る車両用シートにおいて、前記シートバックは、当該シートバックの骨格を構成するシートバックフレームと、前記シートバックフレームにおける車両幅方向の外側に設けられ、車両衝突時に着座乗員を保護するシートベルトの長手方向の一端部が係止されたリトラクタと、をさらに含んで構成され、前記タック部は、前記リトラクタとシート前後方向に重なる位置に形成されている。
【0018】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートでは、シートバックは、シートバックフレーム及びリトラクタをさらに含んで構成されている。シートバックフレームは、当該シート
バックの骨格を構成している。また、リトラクタは、当該シートバックフレームにおける車両幅方向の外側に設けられており、車両衝突時に着座乗員を保護するシートベルトの長手方向の一端部が係止されている。ここで、タック部は、リトラクタとシート前後方向に重なる位置に形成されている。
【0019】
リトラクタが設けられたシートバックでは、シートバックパッドの上部を傾動させる際、当該リトラクタがシート後方側へ向かって突出する可能性がある。このため、タック部が、リトラクタとシート前後方向に重なる位置に形成されることによって、リトラクタがシート後方側へ向かって突出することによるシートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を効果的に吸収することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートは、請求項3に記載の発明に係る車両用シートにおいて、前記タック部は、車両幅方向の内側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成された内側タック部と、車両幅方向の外側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成されかつ前記リトラクタとシート前後方向に重なり、前記内側タック部の折り返し量よりも折り返し量が大きくなるように設定された外側タック部と、を含んで構成されている。
【0021】
請求項4に記載の発明に係る車両用シートでは、タック部は、内側タック部及び外側タック部を含んで構成されている。内側タック部は、車両幅方向の内側に設けられており、外側タック部は、車両幅方向の外側に設けられ、内側タック部及び外側タック部は、シート幅方向に沿ってそれぞれ折り返されて形成されている。
【0022】
車両幅方向の外側にはリトラクタが設けられているため、シートバックパッドの上部を傾動させる際、車両幅方向の外側がシート後方側へ向かって突出することになる。このため、外側タック部は、リトラクタとシート前後方向に重なり、内側タック部の折り返し量よりも折り返し量が大きくなるように設定されている。
【0023】
つまり、本発明では、外側タック部は、内側タック部よりも開き量が大きくなる。したがって、本発明では、外側タック部の方が内側タック部よりもシートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差をより大きく吸収することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートは、請求項4に記載の発明に係る車両用シートにおいて、前記タック部の頂部には前記タック部の頂部には折返し部を縫製する縫製部が設けられている。
【0025】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートでは、タック部の頂部には折返し部を縫製する縫製部が設けられているため、タック部が開いても縫製部を介して当該タック部を復元させることが可能となる。このため、本発明では、シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させた状態からシートバックパッドの上部を復帰させたとき、タック部を閉じた状態とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートでは、シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドにおいて、伸縮性を有しない素材でもシート表皮に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用シートを示す車両幅方向の外側の斜め後方側から見た斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用シートにおいて、(A)は、シートバックフレーム上部を傾動させていない状態を示す模式的な側面図であり、(B)は、シートバックフレーム上部を傾動させた状態を示す模式的な側面図である。
【
図3】
図1で示すA-Aに沿って切断したときの断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用シートを示す背面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用シートのシートバックフレーム上部を傾動させた状態を示す
図3に対応する断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る車両用シートにおいて、(A)は、シートバックフレーム上部を傾動させていない状態を示す
図3の要部を拡大した要部拡大断面図であり、(B)は、シートバックフレーム上部を傾動させた状態を示す要部を拡大した
図5の要部拡大断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る車両用シートにおいて、シートバックフレーム上部を傾動させた状態を示す
図4に対応する背面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックフレーム上部を傾動させていない状態を示す、(A)は、車両幅方向の外側の斜め後方側から見た斜視図であり、(B)は、車両幅方向の内側の斜め後方側から見た斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る車両用シートにおいてシートバックフレーム上部を傾動させた状態を示す、(A)は、車両幅方向の外側の斜め後方側から見た斜視図であり、(B)は、車両幅方向の内側の斜め後方側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、以下の図において適宜示される矢印FRは、車両前後方向の前方向(着座者の向く方向)を示しており、矢印UPは車両上下方向の上方向を示し、矢印OUTは車両幅方向の外方向を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、車両の進行方向を向いた場合のシート幅方向の左右を示すものとする。
【0029】
(車両用シートの構成)
まず、本発明の実施形態に係る車両用シート10の構成について説明する。
【0030】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、乗員が着座するシートクッション12と、このシートクッション12の後端部にリクライニング機構14を介して連結されシートクッション12に着座した乗員の上体を支持するシートバック16と、シートクッション12に着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト18と、を備えている。
【0031】
本実施形態では、シートバック16におけるシート上下方向の略中央部に、3点式シートベルト装置のシートベルト用のリトラクタ26が設けられている。シートバック16は、図示はしないが、骨格部材として金属製のシートバックフレームを備えており、当該シートバックフレームのシート前方側にシートバックパッド24が設けられている。
【0032】
当該シートバックフレームは、シート正面視で略矩形枠状を成しており、シートバックフレームにおけるシート上下方向の略中央部には、当該シートバックフレームの両側部を構成する一対のサイドフレーム間をシート幅方向に沿って架け渡すセンタフレーム22が設けられている。
【0033】
本実施形態では、例えば、このセンタフレーム22における車両幅方向の外側(本実施形態では、右側)にリトラクタ26は固定されている。また、シートバックフレームの上端部には、ベルトガイド28が固定されている。当該リトラクタ26における図示しない巻取軸には、車両用シート10に着座した乗員によって装着されるウェビング30の長手方向一端部が係止されており、ウェビング30は、ベルトガイド28に巻き掛けられている。
【0034】
一方、当該シートバック16では、シートバック16の骨格を構成するシートバックフレームは、シートバックフレーム上部とシートバックフレーム下部とに分割されており、ヒンジ部32(
図2(A)、(B)参照)を介して、シートバックフレーム下部に対してシートバックフレーム上部が傾動可能とされている。
【0035】
なお、
図2(A)、(B)は、後述するシートバックパッド下部24Bに対してシートバックパッド上部24Aが傾動可能とされる状態を説明するための説明図であり、車両用シート10を模式的に示した動作図である。
【0036】
シートバックパッド24は、当該シートバックフレームのシート前方側に設けられているため、
図2(A)、(B)に示されるように、シートバックフレーム上部に取付られたシートバックパッド上部24Aと、シートバックフレーム下部に取付られたシートバックパッド下部24Bと、に分割されている。そして、シートバックパッド上部24Aは、ヒンジ部32を介して、シートバックパッド下部24Bに対して傾動可能とされている。
【0037】
本実施形態におけるシートバック16は、いわゆる中折れ式とされており、シートバック16が着座乗員の上体にフィットさせることによって、体格差を吸収し、長時間の着座に伴う疲労を抑制可能としている。
【0038】
(シートバック表皮)
ここで、シートバックパッド24の表面は、シートバック表皮34によって被覆されている。以下、当該シートバック表皮34について説明する。
【0039】
シートバック表皮34は、図示はしないが、複数の表皮片が縫製されて形成されている。本実施形態では、表皮片の素材として、カーペット、レザー、ファブリック等が用いられている。つまり、本実施形態では、素材の異なる表皮片が縫製されてシートバック表皮34が形成されている。
【0040】
具体的に説明すると、例えば、本実施形態では、シートバック表皮34の正面側を構成する正面側シート表皮36は、複数の表皮片38等で構成されており、表皮片38にはレザーが用いられている。一方、シートバック16の背面側を構成する背面側シート表皮(高剛性表皮片)40は、複数の表皮片42で構成されており、これらの表皮片42には、例えば、カーペットが用いられている。
【0041】
なお、正面側シート表皮36を構成する複数の表皮片38には、ファブリックが用いられてもよく、複数の表皮片38の一部に、レザー以外の素材が用いられてもよい。また、背面側シート表皮40を構成する複数の表皮片42の一部に、カーペット以外の素材が用いられてもよい。ここで、カーペット、レザー、ファブリックの剛性を比較すると、カーペット>レザー>ファブリックとなる。このため、必要とされる剛性に応じて表皮片の素材を変えてもよい。
【0042】
図4に示されるように、当該背面側シート表皮40は、それぞれ表皮片42としてのヘッドレスト裏面部42Aと、シートバック裏面部42Bと、シートバック裏面サイド部42C、42Dと、テール部42Eと、を含んで構成されており、隣接する表皮片同士が互いに縫製され一体化されている。
【0043】
また、ヘッドレスト裏面部42Aとシートバック裏面部42Bの間には、シートバック裏面上端部42Fが設けられている。シートバック裏面上端部42Fのシート幅寸法とシートバック裏面部42Bのシート幅寸法は略同じになっており、シートバック裏面上端部42Fからシートバック裏面部42Bに亘って、例えばスライド式のファスナ44がシート上下方向に沿って設けられている。当該ファスナ44を介してシートバック裏面上端部42F及びシートバック裏面部42Bとシートバック裏面サイド部42C、42Dとがそれぞれ一体化されている。なお、当該ファスナ44については、マジックテープ(登録商標)が用いられてもよい。
【0044】
一方、前述のように、本実施形態におけるシートバック16は、いわゆる中折れ式とされている。
図2(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド上部24Aは、ヒンジ部32を介して、シートバックパッド下部24Bに対して傾動可能とされており、シートバックパッド上部24Aを傾動させたとき、シートバック16のヒンジ部32周辺がシート後方側へ向かって突出する。
【0045】
つまり、シートバックパッド下部24Bに対してシートバックパッド上部24Aを傾動させたときと、シートバックパッド上部24Aを傾動させないときとで、シートバックパッド24の厚み方向に寸法差Wが生じる。
【0046】
このため、本実施形態では、
図3、
図4に示されるように、背面側シート表皮40のシートバック裏面部42Bには、シート幅方向に沿って折り返されたタック部(寸法差吸収部)46が形成されている。タック部46は、車両幅方向の内側に設けられた内側タック部48と、車両幅方向の外側に設けられた外側タック部50を含んで構成されている。
【0047】
図3に示されるように、内側タック部48は、山部(頂部)46A及び谷部(頂部)46Bが設けられており、山部46A、谷部46Bには、縫製部52がそれぞれ設けられている。内側タック部48と同様に、外側タック部50には、山部(頂部)50Aと谷部(頂部)50Bが設けられており、山部50A及び谷部50Bには、縫製部54がそれぞれ設けられている。
【0048】
外側タック部50の山部50Aの位置と内側タック部48の山部46Aの位置は、シートバック16のシート幅方向の中心線Pを基準として略同じ位置にも設けられている。ここで、外側タック部50の折り返し量L1は、内側タック部48の折り返し量L2よりも大きくなるように設定されている。
【0049】
本実施形態では、シートバック16における車両幅方向の外側にリトラクタ26が設けられている。このため、
図6(A)、(B)に示されるように、外側タック部50は、リトラクタ26とシート前後方向に重なるように形成されており、
図5に示されるように、外側タック部50の方が内側タック部48よりも開き量が大きくなるように設定されている。
【0050】
(車両用シートの作用及び効果)
次に、本発明の実施形態に係る車両用シート10の作用及び効果について説明する。
【0051】
図4に示されるように、本実施形態では、シートバック16の背面側シート表皮40は、ファブリック素材よりも高い剛性を有する表皮片42及びタック部46(外側タック部50、内側タック部48)を含んで構成されている。表皮片42はカーペットで形成され、タック部46はシートバック裏面部42Bに形成されている。
【0052】
本実施形態では、
図2(A)、(B)に示されるように、当該シートバック16は、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aが傾動可能とされ、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させたときと当該シートバックパッド上部24Aを傾動させないときとで、シートバックパッド24の厚み方向に寸法差Wが生じる。
【0053】
比較例として、例えば、トリコット等のファブリック素材は、伸縮性を有しているため、シートバックパッド24の形状に伴って伸縮し、当該寸法差W分を吸収することができる。一方、シートバック16内には、リトラクタ26(
図1参照)が収容されており、当該リトラクタ26は、シートバック16の後端部かつヒンジ部32の近傍に設けられている。このため、シートバックパッド上部24Aを傾動させた状態でリトラクタ26はシート後方側へ突出する。
【0054】
したがって、図示はしないが、シートバックパッド24の形状に伴ってファブリック素材を伸縮させた場合、当該ファブリック素材を通じてシートバック16の背面側に凹凸が形成される場合があり、その場合、外観上好ましくない。このため、図示はしないが、シートバックの背面側には、いわゆるシートバックボードと称される平板状のプレートが設けられ、当該プレートによって凹凸が目立たないようにしている。
【0055】
これに対して、本実施形態では、
図4に示されるように、シートバック16の背面側、つまり、背面側シート表皮40には、カーペットが設けられている。カーペットはファブリック素材よりも高い剛性を有するが伸縮性は低くなる。このため、本実施形態では、当該カーペットで形成されたシートバック裏面部42Bにはタック部46が設けられている。
【0056】
このタック部46によって、
図9(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させたときと、
図8(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させないときとで、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能としている。
【0057】
つまり、本実施形態では、
図8(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させないときは、例えば、
図3に示されるように、外側タック部50、内側タック部48は閉じた状態となっている。
【0058】
一方、
図9(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させると、
図5、
図7に示されるように、外側タック部50、内側タック部48は開き、これにより、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差W分を吸収することができる。なお、
図7、
図9(A)、(B)では、外側タック部50、内側タック部48が開いた状態を分かり易くみせるため、開き幅を実際よりも大きく図示している。
【0059】
このように、本実施形態では、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差W分を外側タック部50、内側タック部48により吸収可能とすることで、シートバック16の背面側において、ファブリック素材よりも伸縮性が低いにも拘わらず、高い剛性を有する高剛性表皮片としてカーペットを用いることができる。
【0060】
これにより、本実施形態では、
図9(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド上部24Aの傾動によってシートバック16の背面側に形成される凹凸を目立たなくするためのプレートをなくすことができ、その分、コストの削減を図ることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態では、高剛性表皮片としてカーペットで形成されているため、ファブリック素材よりも高い剛性を有すると共に合皮と比較してその形状を維持することが可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態では、
図3、
図5に示されるように、タック部46は、シート幅方向に沿って折り返されており、シート前後方向に沿って開閉可能とされる。当該タック部46がシート前後方向に沿って開放されることによって、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差W分が吸収される。これにより、シートバックパッド24が厚み方向突出したときに背面側シート表皮40が引っ張られることによって生じるファスナ44の外れを防止することが可能となる。
【0063】
さらにまた、本実施形態では、シートバック16は、シートバックフレーム(図示省略)及びリトラクタ26をさらに含んで構成されている。シートバックフレームは、当該シートバック16の骨格を構成している。また、リトラクタ26は、当該シートバックフレームにおける車両幅方向の外側に設けられており、車両衝突時に着座乗員を保護するウェビング30の長手方向の一端部が係止されている。
【0064】
ここで、外側タック部50は、リトラクタ26とシート前後方向に重なる位置に形成されている。リトラクタ26が設けられたシートバック16では、シートバックパッド上部24A(
図1参照)を傾動させる際、当該リトラクタ26がシート後方側へ向かって突出する。
【0065】
このため、外側タック部50が、リトラクタ26とシート前後方向に重なる位置に形成されることによって、リトラクタ26がシート後方側へ向かって突出することによるシートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差W分を効果的に吸収することができる。
【0066】
ここで、本実施形態では、タック部46は、内側タック部48及び外側タック部50を含んで構成され、内側タック部48は、車両幅方向の内側に設けられており、外側タック部50は、車両幅方向の外側に設けられ、内側タック部48及び外側タック部50は、シート幅方向に沿ってそれぞれ折り返されて形成されている。
【0067】
リトラクタ26は、車両幅方向の外側に設けられているため、シートバックパッド上部24Aを傾動させる際、車両幅方向の外側がシート後方側へ向かって突出することになる。このため、外側タック部50は、リトラクタ26とシート前後方向に重なり、外側タック部50の折り返し量L1は、内側タック部48の折り返し量L2よりも大きくなるように設定されている。
【0068】
したがって、
図5に示されるように、外側タック部50は、内側タック部48よりも開き量が大きくなる。つまり、外側タック部50の方が、内側タック部48よりもシートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差Wをより大きく吸収することができる。
【0069】
また、本実施形態では、
図3、
図6(A)、(B)に示されるように、内側タック部48の山部46A及び谷部46Bには縫製部52がそれぞれ設けられ、外側タック部50の山部50A及び谷部50Bには縫製部54がそれぞれ設けられている。このため、内側タック部48及び外側タック部50が開いても縫製部52、54を介して当該内側タック部48及び外側タック部50を復元させることが可能となる。
【0070】
すなわち、本実施形態では、
図9(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させた状態から
図8(A)、(B)に示されるように、シートバックパッド上部24Aを復帰させたとき、内側タック部48及び外側タック部50を閉じた状態とすることができる。
【0071】
(実施形態の補足説明)
本実施形態では、背面側シート表皮40の表皮片42として、カーペットが用いられているが、ファブリック素材よりも高い剛性を有する高剛性表皮片であればよいため、これに限るものではない。
【0072】
また、本実施形態では、寸法差吸収部として、シートバック裏面部42Bにおいてシート幅方向に沿って折り返されたタック部46が形成された例について説明したが、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差分を吸収することができればよいため、これに限るものではない。例えば、シート上下方向に沿って折り返されたタック部でもよく、また、タック部以外の形状であってもよい。
【0073】
さらに、本実施形態では、タック部46は、内側タック部48及び外側タック部50を含んで構成されているが、外側タック部50側だけに設けられてもよい。
【0074】
さらにまた、本実施形態では、外側タック部50は、リトラクタ26とシート前後方向に重なる位置に形成されているが、シートバックパッド上部24Aを傾動させたとき、シート後方側へ向かって突出する部位であればよいため、必ずしもリトラクタ26である必要はない。
【0075】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【0076】
<付記>
なお、下記の構成を適宜組み合わせて本発明に係る車両用シートとしてもよい。
【0077】
(構成1)
車両用シートは、シートクッションに着座した着座乗員の上体を支持するシートバックは、発泡材で形成され、シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドと、複数の表皮片が縫製されて形成され、前記シートバックパッドを被覆するシート表皮と、を備え、前記シート表皮は、少なくとも前記シート表皮における前記シートバックの背面側に設けられ、ファブリック素材よりも高い剛性を有する高剛性表皮片と、前記高剛性表皮片に形成され、前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させたときと前記シートバックパッドの下部に対して当該シートバックパッドの上部を傾動させないときとで、前記シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能とする寸法差吸収部と、を含んで構成されている。
【0078】
(構成2)
前記高剛性表皮片は、カーペットで形成されている。
【0079】
(構成3)
前記寸法差吸収部は、シート幅方向に沿って折り返されたタック部とされている。
【0080】
(構成4)
前記シートバックは、当該シートバックの骨格を構成するシートバックフレームと、前記シートバックフレームにおける車両幅方向の外側に設けられ、車両衝突時に着座乗員を保護するシートベルトの長手方向の一端部が係止されたリトラクタと、をさらに含んで構成され、前記タック部は、前記リトラクタとシート前後方向に重なる位置に形成されている。
【0081】
(構成5)
前記タック部は、車両幅方向の内側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成された内側タック部と、車両幅方向の外側に設けられ、シート幅方向に沿って折り返されて形成されかつ前記リトラクタとシート前後方向に重なり、前記内側タック部の折り返し量よりも折り返し量が大きくなるように設定された外側タック部と、を含んで構成されている。
【0082】
(構成6)
前記タック部の頂部には前記頂部を形成し2枚に重なった高剛性表皮片を縫製する縫製部が設けられている。
【符号の説明】
【0083】
10 車両用シート
12 シートクッション
16 シートバック
22 センタフレーム(シートバックフレーム)
24 シートバックパッド
24A シートバックパッド上部(シートバックパッドの上部)
24B シートバックパッド下部(シートバックパッドの下部)
26 リトラクタ
34 シートバック表皮(シート表皮)
40 背面側シート表皮
42 表皮片(高剛性表皮片)
42A ヘッドレスト裏面部(高剛性表皮片)
42B シートバック裏面部(高剛性表皮片)
42C シートバック裏面サイド部(高剛性表皮片)
42E テール部(高剛性表皮片)
42F シートバック裏面上端部(高剛性表皮片)
46 タック部(寸法差吸収部)
46A 山部(頂部)
46B 谷部(頂部)
48 内側タック部(タック部、寸法差吸収部)
50 外側タック部(タック部、寸法差吸収部)
50A 山部(頂部)
50B 谷部(頂部)
52 縫製部
54 縫製部
L1 折り返し量(外側タック部の折り返し量)
L2 折り返し量(内側タック部の折り返し量)
W 寸法差(シートバックパッドの厚み方向に生じる寸法差)
【要約】
【課題】シート上下方向の下部側に対して上部側が傾動可能とされたシートバックパッドにおいて、伸縮性を有しない素材でもシート表皮に用いることが可能な車両用シートを得る。
【解決手段】シートバック16の背面側シート表皮40はカーペットで形成され、シートバック裏面部42Bにはタック部46が設けられている。このタック部46によって、シートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させたときとシートバックパッド下部24Bに対して当該シートバックパッド上部24Aを傾動させないときとで、シートバックパッド24の厚み方向に生じる寸法差分を吸収可能としている。これにより、シートバック16の背面側において、ファブリック素材よりも伸縮性が低いにも拘わらず、高い剛性を有する高剛性表皮片としてカーペットを用いることができる。
【選択図】
図3