IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エスケーシーコーロンピーアイ・インコーポレイテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-08
(45)【発行日】2023-11-16
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20231109BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231109BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022530798
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-30
(86)【国際出願番号】 KR2020014232
(87)【国際公開番号】W WO2021107402
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0157573
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】キム, ドン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク, セ ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ドン ヨン
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065624(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030410(WO,A1)
【文献】特開2003-165850(JP,A)
【文献】特開2007-162005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が250,000g/mol~440,000g/molのポリアミック酸をイミド化して誘導されるポリイミドフィルムであって、
前記ポリアミック酸は、二無水物単量体およびジアミン単量体の反応から形成されたものであり、
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、または前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)との組み合わせであり、
前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)の割合は、前記二無水物単量体中30モル%以上であり、
前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)であり、
前記ポリイミドフィルムは、2GPa~5GPaのモジュラスを有するポリイミドフィルム。
【請求項2】
ポリアミック酸の固形分含有量が14重量%~20重量%のポリアミック酸溶液をイミド化して誘導されるポリイミドフィルムであって、
前記ポリアミック酸は、二無水物単量体およびジアミン単量体の反応から形成されたものであり、
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、または前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)との組み合わせであり、
前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)の割合は、前記二無水物単量体中30モル%以上であり、
前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)であり、
前記ポリイミドフィルムは、2GPa~5GPaのモジュラスを有するポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムは、降伏点が2.1%以上である、請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムは、降伏強度が47MPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
記ポリイミドフィルムは、降伏点が2.35%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記二無水物単量体は、前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)との組み合わせであり、前記ピロメリット酸二無水物(PMDA)および前記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)のモル比(PMDA:BPDA)は、3:7~9:1である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法であって、
前記方法は、
二無水物単量体、ジアミン単量体、および有機溶媒を混合し、反応させてポリアミック酸溶液を形成し;
前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成し;
前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造し;そして、
前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成する;
ステップを含むポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、100℃~700℃で行われる、請求項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。より詳しくは、低い弾性率で高い降伏点を有し、繰り返しの変形でも損傷が少ないポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーブド、ベンダブル、フォルダブル、ローラブルなどのようなフレキシブルディスプレイは、最近、学界と産業界の両方から関心を受けている次世代ディスプレイである。フレキシブルディスプレイを構成する多様な種類の素材の中で機能性フィルム/コーティング材料は、フレキシブルディスプレイを構成する重要な高分子基板材料であって、フレキシブルディスプレイの実現の成功および開発のために欠かせない核心素材といえ、このような素材としてポリイミドが注目されている。
【0003】
ポリイミドは、主鎖にヘテロイミド環を有することを特徴とするポリマーであって、優れた耐熱性以外にも、機械的物性、難燃性、耐薬品性、低誘電率などに優れ、コーティング材料、成形材料、複合材料などの幅広い用途に適用されている。
【0004】
フレキシブルディスプレイ用高分子基板に要求される最も重要な物理的特性は、まさに柔軟性といえる。特に、このような高分子基板は、フレキシブルディスプレイが繰り返し変形を起こすカービング、ベンディング、フォールディング、ローリング、そしてストレッチング過程の中でも損傷が起こらないだけでなく、多様な初期物性も失ってはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低い弾性率で高い降伏点を有し、繰り返しの変形でも損傷が少ないポリイミドフィルムを提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、上述したポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.一側面によるポリイミドフィルムは、重量平均分子量が約250,000g/mol~約440,000g/molのポリアミック酸をイミド化して誘導され、約2GPa~約5GPaのモジュラスを有することができる。
【0008】
2.他の側面によるポリイミドフィルムは、ポリアミック酸の固形分含有量が約14重量%~約20重量%のポリアミック酸溶液をイミド化して誘導され、約2GPa~約5GPaのモジュラスを有することができる。
【0009】
3.前記第1または第2実施形態において、前記ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.1%以上であってもよい。
【0010】
4.前記第1~第3実施形態のいずれか1つにおいて、前記ポリイミドフィルムは、降伏強度が約47MPa以上であってもよい。
【0011】
5.前記第1~第4実施形態のいずれか1つにおいて、前記ポリアミック酸は、二無水物単量体およびジアミン単量体の反応から形成されたものであり、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、またはこれらの組み合わせを含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)、m-トリジン(m-TD)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、2,2-ビス(4-[4-アミノフェノキシ]-フェニル)プロパン(BAPP)、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0012】
6.前記第5実施形態において、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)を含み、前記ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.1%以上であってもよい。
【0013】
7.前記第5実施形態において、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)を含み、前記ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.35%以上であってもよい。
【0014】
8.前記第7実施形態において、ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)のモル比は、約1:9~約9:1であってもよい。
【0015】
9.さらに他の側面によれば、前記第1~第8実施形態のいずれか1つのポリイミドフィルムの製造方法が提供される。前記方法は、二無水物単量体、ジアミン単量体、および有機溶媒を混合し、反応させてポリアミック酸溶液を形成し;前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成し;前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造し;そして、前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成する;ステップを含むことができる。
【0016】
10.前記第9実施形態において、前記熱処理は、約100℃~約700℃で行われる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリイミドフィルムおよびその製造方法は、低い弾性率で高い降伏点を有し、繰り返しの変形でも損傷が少ないポリイミドフィルムを提供する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不必要にあいまいにしうると判断された場合、その詳細な説明は省略する。
【0019】
本明細書上で言及した「含む」、「有する」、「なる」などが使われる場合、「~のみ」が使われない以上、他の部分が追加できる。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
【0020】
また、構成要素を解釈するにあたり、別の明示的記載がなくても誤差範囲を含むと解釈する。
【0021】
本明細書において、数値範囲を示す「a~b」における「~」は、≧aであり、≦bであると定義する。
【0022】
本明細書において、モジュラス、降伏点、降伏強度は、ASTM D882基準に基づき、引張速度を200mm/minとして引張試験機を用いて測定されるが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の発明者らは、ポリアミック酸の重量平均分子量を制御するか、ポリアミック酸溶液中のポリアミック酸の固形分含有量を制御して、約2GPa~約5GPa(例えば、2GPa、2.1GPa、2.2GPa、2.3GPa、2.4GPa、2.5GPa、2.6GPa、2.7GPa、2.8GPa、2.9GPa、3GPa、3.1GPa、3.2GPa、3.3GPa、3.4GPa、3.5GPa、3.6GPa、3.7GPa、3.8GPa、3.9GPa、4GPa、4.1GPa、4.2GPa、4.3GPa、4.4GPa、4.5GPa、4.6GPa、4.7GPa、4.8GPa、4.9GPa、または5GPa)のモジュラスを有するポリイミドフィルムを製造した時、ポリイミドフィルムが高い降伏点を有することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0024】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、重量平均分子量が約250,000g/mol~約440,000g/mol(例えば、250,000g/mol、260,000g/mol、270,000g/mol、280,000g/mol、290,000g/mol、300,000g/mol、310,000g/mol、320,000g/mol、330,000g/mol、340,000g/mol、350,000g/mol、360,000g/mol、370,000g/mol、380,000g/mol、390,000g/mol、400,000g/mol、410,000g/mol、420,000g/mol、430,000g/mol、または440,000g/mol)のポリアミック酸をイミド化して誘導され、約2GPa~約5GPaのモジュラスを有することができる。この場合、ポリイミドフィルムは、低い弾性率で高い降伏点を有することができる。ここで、「重量平均分子量」は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味することができる。
【0025】
他の実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、ポリアミック酸の固形分含有量が約14重量%~約20重量%(例えば、14重量%、14.5重量%、15重量%、15.5重量%、16重量%、16.5重量%、17重量%、17.5重量%、18重量%、18.5重量%、19重量%、19.5重量%、または20重量%)のポリアミック酸溶液をイミド化して誘導され、約2GPa~約5GPaのモジュラスを有することができる。この場合、ポリイミドフィルムは、低い弾性率で高い降伏点を有することができる。例えば、ポリアミック酸溶液は、約14重量%~約20重量%のポリアミック酸の固形分および約80重量%~約86重量%の有機溶媒を含むことができる。
【0026】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.1%以上であってもよい。例えば、ポリイミドフィルムの降伏点は、約2.1%~約2.9%(例えば、2.1%、2.15%、2.2%、2.25%、2.3%、2.35%、2.4%、2.45%、2.5%、2.55%、2.6%、2.65%、2.7%、2.75%、2.8%、2.85%、または2.9%)、他の例として約2.1%~約2.8%、さらに他の例として約2.15%~約2.7%であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
一実施形態によれば、ポリイミドフィルムは、降伏強度が約47MPa以上であってもよい。例えば、ポリイミドフィルムの降伏強度は、約47MPa~約80MPa(例えば、47MPa、48MPa、49MPa、50MPa、51MPa、52MPa、53MPa、54MPa、55MPa、56MPa、57MPa、58MPa、59MPa、60MPa、61MPa、62MPa、63MPa、64MPa、65MPa、66MPa、67MPa、68MPa、69MPa、70MPa、71MPa、72MPa、73MPa、74MPa、75MPa、76MPa、77MPa、78MPa、79MPa、または80MPa)、他の例として約47MPa~約75MPa、さらに他の例として約47MPa~約70MPaであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
一実施形態によれば、ポリアミック酸は、二無水物単量体およびジアミン単量体の反応から形成されたものであってもよい。この時、二無水物単量体およびジアミン単量体の種類は特に限定されないが、例えば、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、またはこれらの組み合わせを含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)、m-トリジン(m-TD)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、2,2-ビス(4-[4-アミノフェノキシ]-フェニル)プロパン(BAPP)、またはこれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態によれば、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)を含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)を含み、前記ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.1%以上であってもよい。他の実施形態によれば、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(ODA)を含み、前記ポリイミドフィルムは、降伏点が約2.35%以上であってもよい。この時、ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)のモル比は、約1:9~約9:1(例として1:9、2:8.3:7、4:6、5:5、6:4、7:3、8:2、または9:1、他の例として約2:8~約8:2、さらに他の例として約3:7~約7:3)であってもよいし、前記範囲でポリイミドフィルムが低い弾性率で高い降伏点を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
ポリイミドフィルムの厚さは、ポリイミドフィルムの用途、使用環境、物性などを考慮して適宜選択可能である。例えば、ポリイミドフィルムの厚さは、約10μm~約500μm、他の例として約20μm~約50μm、さらに他の例として約40μm~約50μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
上述したポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの製造分野にて通常用いられる多様な方法で製造できる。例えば、ポリイミドフィルムは、二無水物単量体、ジアミン単量体、および有機溶媒を混合し、反応させてポリアミック酸溶液を形成し;前記ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成し;前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造し;そして、前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成する;ステップを含んで製造される。二無水物単量体、ジアミン単量体に関する説明は上述したので、これに関する説明は省略する。
【0031】
まず、二無水物単量体、ジアミン単量体、および有機溶媒を混合し、反応させてポリアミック酸溶液を形成することができる。この時、すべての単量体は一度に添加されるか、または各単量体は順次に添加されてもよいし、この場合、単量体間の部分的重合が起こることもある。
【0032】
有機溶媒としては、ポリアミック酸が溶解できる溶媒であれば特に限定されず、例えば、非プロトン性極性有機溶媒(aprotic polar organic solvent)であってもよい。非プロトン性極性有機溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わされて使用可能である。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いて、ポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。一実施形態において、有機溶媒は、アミド系溶媒であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0033】
一実施形態によれば、ポリアミック酸溶液は、25℃で、約100,000cP~約500,000cP(例えば、100,000cP、150,000cP、200,000cP、250,000cP、300,000cP、350,000cP、400,000cP、450,000cP、または500,000cP)の粘度を有することができる。前記範囲でのポリイミドフィルムの製膜時、工程性に優れることができる。ここで、「粘度」は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて測定される。ポリアミック酸溶液は、25℃で、例として約150,000cP~約450,000cP、他の例として約150,000cP~約350,000cPの粘度を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
以後、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成することができる。
【0035】
脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水作用により閉環反応を促進するものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。その中でも、入手の容易性、および費用の観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0036】
イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、および複素環式3級アミンなどが用いられる。その中でも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが使用できる。その例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
【0037】
脱水剤およびイミド化剤の添加量は特に限定されるものではないが、脱水剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.5モル~約5モル(例えば、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、3モル、3.5モル、4モル、4.5モル、または5モル)、例えば、約1.0モル~約4モルの比率で添加されてもよく、イミド化剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.05モル~約3モル(例えば、0.05モル、0.1モル、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、または3モル)、例えば、約0.2~約2モルの比率で添加されてもよいし、前記範囲でイミド化が十分であり、フィルム状にキャスティングすることが容易であり得る。
【0038】
以後、ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造することができる。
【0039】
支持体は、当該技術分野にて通常用いられる支持体が制限なく使用可能であり、このような支持体の例としては、ガラス板、アルミニウム箔、エンドレス(endless)ステンレスベルト、ステンレスドラムなどが挙げられる。
【0040】
乾燥は、例として約40℃~約300℃、他の例として約80℃~約200℃、さらに他の例として約100℃~約180℃、さらに他の例として約100℃~約130℃の温度で行われ、これによって脱水剤およびイミド化剤が活性化され、部分的に硬化および/または乾燥が起こることにより、ゲルフィルムが形成される。ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間ステップにあり、自分支持性を有することができる。
【0041】
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調節し、配向性を向上させるために、ゲルフィルムを延伸させるステップを含むことができ、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)の少なくとも1つの方向に行われる。
【0042】
前記ゲルフィルムの揮発分含有量は、これに限定されるものではないが、約5重量%~約500重量%、例として約5重量%~約200重量%、他の例として約5重量%~約150重量%であってもよいし、前記範囲で以後のポリイミドフィルムを得るために熱処理する過程中、フィルム破断、色汚れ、特性変動などの欠点が発生することを回避する効果がある。ここで、ゲルフィルムの揮発分含有量は下記式1を用いて算出することができ、式1中、Aはゲルフィルムの重量、Bはゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を意味する。
【0043】
<式1>
(A-B)*100/B
【0044】
一実施形態によれば、ゲルフィルムを熱処理するステップでは、ゲルフィルムを約50℃~約700℃、例として約150℃~約600℃、他の例として約200℃~約600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに残存する溶媒などを除去し、残っている大部分のアミック酸基をイミド化してポリイミドフィルムを得ることができる。
【0045】
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを約400℃~約650℃の温度で約5秒~約400秒間加熱仕上げしてポリイミドフィルムをさらに硬化させてもよいし、得られたポリイミドフィルムに残留しうる内部応力を緩和させるために、所定の張力下でこれを行ってもよい。
【0046】
上述したポリイミドフィルムは、低い弾性率(例えば、約2GPa~約5GPa)で高い降伏点(例えば、2.1%以上)を有し、繰り返しの変形でも損傷が少ない効果を有することができる。
【0047】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をより詳しく説明する。ただし、これは本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈されない。
【0048】
実施例
実施例1~8および比較例1~2
ジメチルホルムアミド(DMF)中に、二無水物単量体として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とピロメリット酸二無水物(PMDA)、ジアミン単量体として4,4’-オキシジアニリン(ODA)を下記表1に記載のモル比率で混合した後、重合してポリアミック酸溶液を製造した。この時、二無水物単量体とジアミン単量体のモル数は実質的に等モルをなすようにし、使用される単量体およびDMFの含有量を制御して、ポリアミック酸の固形分含有量を表1に記載の通りに制御した。
【0049】
このように製造されたポリアミック酸溶液に、アミック酸基1モルあたり3.5モル比の酢酸無水物および1.1モル比のイソキノリンを添加してポリイミドフィルム製造用組成物を得て、前記組成物をドクターブレードを用いてSUS板(100SA、Sandvik社)上にキャスティングし、90℃で4分間乾燥させてゲルフィルムを製造した。前記ゲルフィルムをSUS板と分離した後、250℃~380℃で14分間熱処理して、50μmの平均厚さを有するポリイミドフィルムを製造した。
【0050】
評価例1:重量平均分子量(単位:g/mol)の測定
N-メチルピロリドン(NMP)溶媒に2wt%でポリアミック酸溶液を混合してゲル透過クロマトグラフィー(GPC)用サンプルを製造し、前記サンプルに対してHPLC装置(1260 Infinity ll、agilent Technologies社)を用いて、通常の方法で50℃、0.9ml/minの溶媒フロー下の条件でポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。
【0051】
評価例2:モジュラス(単位:GPa)、降伏点(単位:%)、降伏強度(単位:MPa)の測定
製造したポリイミドフィルムを15mm×50mmに切断して試験片を製造し、ASTM D882基準に基づき、引張速度を200mm/minとして引張試験機(Instron5564、Instron社)を用いて室温(room temp.)でモジュラス、降伏点および降伏強度を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
前記表1を通して確認できるように、ポリアミック酸の重量平均分子量またはポリアミック酸の固形分含有量が本発明の範囲に属する実施例1~8のポリイミドフィルムの場合、そうでない比較例1~2のポリイミドフィルムに比べて高い降伏点を有し、その結果、ポリイミドフィルムに加えられる繰り返しの変形に対する損傷程度が少ないことが容易に予測可能である。
【0054】
本発明の単純な変形乃至変更はこの分野における通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれる。