(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】断熱シートおよびその断熱シートを用いた電子機器と電池ユニット
(51)【国際特許分類】
F16L 59/02 20060101AFI20231110BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20231110BHJP
H01M 10/6554 20140101ALI20231110BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20231110BHJP
【FI】
F16L59/02
H01M10/658
H01M10/6554
H01M10/651
(21)【出願番号】P 2019072764
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】坂口 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 一摩
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-508632(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0171201(US,A1)
【文献】特開2018-091480(JP,A)
【文献】特開平11-340683(JP,A)
【文献】特開2016-079201(JP,A)
【文献】特開2005-180594(JP,A)
【文献】特開2017-198272(JP,A)
【文献】特開2019-049389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/02
H01M 10/658
H01M 10/6554
H01M 10/651
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス繊維と、
前記複数のガラス繊維が互いに交わる部分に位置する炭素粒子と、
シリカエアロゲルと、を含み、
前記複数のガラス繊維が互いに交わる部分において、前記複数のガラス繊維の水酸基と前記炭素粒子の官能基が結合することにより、前記複数のガラス繊維同士が固定されている、断熱シート。
【請求項2】
前記炭素粒子は、平均粒径が50nm~250nmで、比表面積が50~250m
2/gの多孔体である請求項1
に記載の断熱シート。
【請求項3】
5.0MPaにおける圧縮歪率が75%以下である請求項
1に記載の断熱シート。
【請求項4】
発熱を伴う電子部品と筐体との間に、請求項
1に記載の断熱シートを配置した電子機器。
【請求項5】
電池間に、請求項
1に記載の断熱シートを配置した電池ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱シートおよびその断熱シートを用いた電子機器と電池ユニットに関する。特に、高い強度の断熱シートおよびその断熱シートを用いた電子機器と電池ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
車載・産業機器分野において、狭小空間における発熱部品からの熱流制御や製品の安全性、類焼防止性を担保するため、圧縮特性に優れた高性能な断熱シートが要求されている。こうした断熱シートは、例えば、リチウムイオン電池モジュールのセル間セパレータへの適用が期待される。
【0003】
リチウムイオン電池の安全規格では、耐類焼試験を行うこととなっている。耐類焼試験は、電池モジュール内のひとつのセルが熱暴走した際に、隣接セルを含めた他セルへの熱連鎖による発火や破裂の有無を試験する方法である。隣接セルへの熱暴走を食い止めるために、熱絶縁性に優れた材料をセル間に挟む安全設計の考え方がある。理論上は、熱伝導率が高い材料でも、厚みを厚くすることである程度熱連鎖や類焼を防止することは可能である。
【0004】
しかしながら、電池モジュールは機器内に設置するため、実際には敷設する空間が限られており寸法制限があるため、モジュールを高容量化しようとしても、耐類焼化や小型化をも両立させなければならないといった難しさがある。
【0005】
これらを両立させるためには、セル間セパレータには薄くて高い断熱性を有する材料が望まれる。また、電池の充放電サイクルの過程で活物質が劣化、膨張してセルが膨らむことを想定すると、断熱シートには潰れにくい特性も併せ持っていることが望まれる。セル間セパレータの熱絶縁体の材料として、酸化アルミニウム繊維などのセラミック繊維やシリカエーロゲル材料又はガラス繊維織物が用いられている(特許文献1)。
【0006】
すなわち、電池モジュール初期組付時には、セル間セパレータである断熱シートにかかる荷重は1MPa以下と比較的小さいものの、電池が膨張すると最大5MPa程度もの荷重がかかることもあり得る。そのため、圧縮特性を考慮した断熱シートの材料設計が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガラス繊維は、耐熱性、不燃性、耐久性により断熱材として使用されている。セル間セパレータのように薄くて高い断熱性能に加え、電池劣化による膨張から圧縮強度や引張り強度が断熱シートに要求される。しかしながら、ガラス繊維は、長が短くまた繊維同士の絡みも少ない。
【0009】
そのため、本願の課題は、引張り強度や圧縮強度が高いガラス繊維を含む断熱シートとその断熱シートを用いた電子機器と電池ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、ガラス繊維101と、複数のガラス繊維101が交わる部分に位置する炭素粒子102と、を含む断熱シートを用いる。
【0011】
また、発熱を伴う電子部品と筐体との間に、上記断熱シートを配置した電子機器を用いる。
【0012】
さらに、電池間に、上記断熱シートを配置した電池ユニットを用いる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本願発明の断熱シートによれば、ガラス繊維と炭素粒子とが結合することにより強度向上させ、かつ、多孔質構造の炭素により耐燃性や断熱性が向上し、セル間セパレータとしての性能が向上する。結果、繊維同士の接合により断熱シートの厚みバラツキが抑制できるとともに、低コストで引張および圧縮強度の高い断熱シートを提供できる。また、断熱シートを用いた電子機器、電池ユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施の形態の炭素粒子によるガラス繊維接合の図
【
図3】実施の形態の断熱シートの引張り強度を示す図
【
図5】実施例1の断熱シートの製造フローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、実施の形態について、図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態における断熱シート100の断面図を示したものである。
【0016】
<断熱シート100の構成>
図1において、断熱シート100は、ガラス繊維101と炭素粒子102で構成されている。ガラス繊維101は、多孔質構造の炭素粒子102が融着している。炭素粒子102の表面には、水酸基やカルボキシル基など各種の官能基が存在している。ガラス繊維101の水酸基と炭素粒子102の水酸基が接合し、ガラス繊維101同士が接合している。
【0017】
図2に炭素粒子102により接合されたガラス繊維101のSEM写真を示す。
【0018】
<ガラス繊維101>
ガラス繊維101は、樹脂系繊維、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、酸化アクリル繊維と比較し、繊維長が6mm以下と短い。そのため、ガラス繊維101は、繊維同士の絡むことが少ない。
【0019】
従って、ガラス繊維101の単体をシート状にするだけでは引張り、圧縮強度は低い。
樹脂系の繊維径が数十um(10umから50um程度)であるのに対し、ガラス繊維101の繊維径は、数um(1umから10um程度)と細い。
ガラス繊維101の径が細いほど炭素粒子102を介在し、ガラス繊維101同士の接合点が増加し、断熱シート100は、強度が高くなる。
【0020】
電池のセル間のセパレータとして、断熱シート100を使用する場合、数MPaの高耐圧下においても、断熱シート100は、高い引張強度および圧縮強度を確保することが出来る。
【0021】
<炭素粒子102>
炭素粒子102の表面は、例えば酸化処理を行い水酸基やカルボキシル基など各種の官能基が存在している。炭素粒子102は、表面処理により水への自己分散が高い。炭素粒子102の平均粒径は50nmから250nm程度である。
【0022】
炭素粒子102は、小さな炭素粒子の凝集体(炭素粒子同士が融着)により形成されている。その結果、炭素粒子102は多孔体な形状となり、比表面積は大きくなる。
炭素粒子102の比表面積は50m2/g以上、250m2/g以下が好ましい。
比表面積が小さいとガラス繊維101同士の接合強度が弱く、引張り強度が低下する。また、比表面積が大きい場合、圧縮時に潰れやすくなるため熱伝導率が高くなる。
【0023】
<断熱シート100の引張り特性>
図3に炭素粒子102の添加量と引張り強度の関係を示す。ガラス繊維101に炭素粒子102を添加し引張り強度を測定した。炭素粒子102の添加量が10wt%未満では添加による引張り強度は無く、10wt%以上の添加により引張り強度は上昇する。従って、炭素粒子102は10wt%以上の添加が必要である。
【0024】
断熱シート100の引張り強度の合格基準は、15N以上の引張り強度が好ましく、そのため、炭素粒子102の添加量を20wt%以上添加するこが望ましい。
【0025】
一方、炭素粒子102を60wt%以上添加すると熱伝導率が低下すするため、引張り強度は50N以下に抑制する必要がある。従って、炭素粒子102の添加量は20wt%から60wt%が望ましい。
【0026】
<断熱シート100の圧縮特性>
図4に炭素粒子102の添加量と5MPaで加圧時の圧縮率(圧縮される割合)の関係を示す。炭素粒子102の添加量とともに圧縮強度は増加する。炭素粒子102によりガラス繊維101同士が固定されることにより圧縮強度が上昇した。
【0027】
断熱シート100の圧縮特性の合格基準は電池セルの膨張を考慮し、5MPa加圧時の圧縮率が75%以下であることが好ましい。それを実現するため、炭素粒子102の添加量を20wt%以上添加するこが望ましい。
【0028】
5.0MPaにおける断熱シートの圧縮率は、40%以下を合格とした。高負荷時においても、効果的に熱連鎖を抑制するためには、断熱シート100が圧縮にある程度耐えて、固体の伝熱成分の増加を抑制する必要がある。5.0MPaにおける断熱シート100の圧縮率が、40%より高いと従来の断熱シートに対する優位性が損なわれる。
【0029】
<実施例1>断熱シート100
図5に断熱シート100の製造フローチャートを示す。
【0030】
(1)ガラス繊維101を湿式法にて1mm厚をターゲットに目付を160~170g/m2に調整し、厚みバラツキの少ないガラス繊維シートを製作する。ガラス繊維101の繊維線径、平均3um、繊維長は約6mmのガラス繊維を用いる。
【0031】
(2)水に10wt%以上の炭素粒子102を分散させる。炭素粒子102は、酸化処理を行う。例えば、炭素粒子を硝酸水溶液に入れ、加熱し酸化させる。その後、水酸化ナトリウム水溶液を加え余剰の硝酸を中和し、真空濾別した炭素粒子を蒸留水により洗浄、乾燥させる。炭素表面に水酸基やカルボキシル基など各種の官能基が存在している。炭素粒子102の平均粒径110nmである。今回使用した炭素粒子102は、東海カーボン株式会社製のAqua-Blck@162を使用した。
【0032】
(3)炭素粒子102を分散させた溶液にガラス繊維101より製作したガラス繊維シート103を浸漬させる。
【0033】
(4)浸漬後、ガラス繊維シートを常温もしくは乾燥炉を用いて乾燥させる。
【0034】
その後、電池のセル間にセパレータとして挟み込む。断熱シート100は、電池にセル間よりも厚く設定し、自動車の振動による落下や位置ズレが発生しないようにする。
【0035】
<実施例2>断熱シート200
実施例1にて製作した断熱シート100を、下記の(1)から(4)の工程の処理をした。結果、形成された断熱シート200の断面図を、
図6に示す。
【0036】
断熱シート200の空間には、シリカエアロゲル201が充填されている。シリカエアロゲル201は、熱伝導率が小さい物質として知られている。シリカエアロゲル201は、数10nmオーダーのシリカ粒子が点接触で繋がったネットワーク構造からなり、平均細孔径が空気の平均自由工程68nm以下であるため静止空気の熱伝導率よりも低い。したがってシリカエアロゲルは優れた断熱材として採用されている。
【0037】
(1)含浸工程
実施例1にて製作した断熱シート100にゾル液を用いて含浸させる。ゾル液は、水ガラス原料を蒸留水で希釈して調製した水ガラス水溶液(シリカ濃度14%、20.5g)に、炭酸エチレン(白色結晶)を6重量部(1.23g)添加してよく攪拌、溶解させてゾル液を調製した。
【0038】
次に、室温23℃で約20分間放置し、ゾルをゲル化させる。このとき、ゲル化を促進し、時間短縮を行うため、ヒーター(約50℃~130℃)で加熱させてもよい。次に、2軸ロール等を用いて所望の厚みに形成する。
【0039】
(2)養生工程
次に、容器に、乾燥防止のために純水を注ぎ、80℃の恒温槽に12時間入れて、シラノールの脱水縮合反応を促進することにより、シリカ粒子を成長させ、多孔質構造を形成する。
【0040】
(3)疎水化工程
次に、ゲルシートを塩酸(6~12規定)に浸漬後、常温23℃で1時間放置してゲルシートの中に塩酸を取り込む。
【0041】
次に、ゲルシートを、例えばシリル化剤であるオクタメチルトリシロキサンと2-プロパノール(IPA)の混合液に浸漬させて、55℃の恒温槽に入れて2時間反応さをせる。トリメチルシロキサン結合が形成され始めると、ゲルシートから塩酸が排出され、上層がトリシロキサン、下層が塩酸水に2液分離する。
【0042】
(4)乾燥工程
次に、ゲルシートを150℃の恒温槽に移して2時間乾燥させることにより、繊維にナノサイズの多孔質構造を有するシリカエアロゲルを坦持させた断熱シート200が出来る。
【0043】
<効果>
断熱シート100にシリカエアロゲルを含浸し製作した断熱シート200は、シリカエアロゲルがガラス繊維101の空間に存在することで断熱性能が上昇する。また、シリカエアロゲルの内部は網目状の微細構造となっており、断熱シート100と比較し更なる引張りおよび圧縮強度の向上が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法によって製造される断熱シートは、ガラス繊維と炭素が結合することにより強度向上させ、かつ、多孔質構造の炭素により耐燃性や断熱性が向上し、セル間セパレータとしての性能が向上する。かつ、安価にて製造できるため、広く電子機器内に利用される。車載機器、情報機器、携帯電話、ディスプレイなど、熱に関わる製品へ応用される。
【符号の説明】
【0045】
100 断熱シート
101 ガラス繊維
102 炭素粒子
200 断熱シート
201 シリカエアロゲル