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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/48 20130101AFI20231110BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20231110BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20231110BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20231110BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20231110BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20231110BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231110BHJP
【FI】
H01G11/48
H01G11/46
H01G11/06
H01G11/50
H01G11/26
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0587
H01M4/60
H01M4/48
H01M4/587
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020509947
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012024
(87)【国際公開番号】W WO2019188759
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018068153
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】坂田 基浩
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035836(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003992(WO,A1)
【文献】特開2007-201118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/48
H01G 11/46
H01G 11/06
H01G 11/50
H01G 11/26
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/0587
H01M 4/60
H01M 4/48
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料を含む正極と、負極材料を含む負極と、前記正極および前記負極の間に介在するセパレータと、が巻回された巻回素子、ならびに電解液を備え、
前記電解液は、カチオンとアニオンとを含み、
前記正極材料は、充放電により前記アニオンをドープおよび脱ドープする導電性高分子を含み、
前記負極材料は、充放電により前記カチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含み、
前記負極活物質は、SiOx(0<x<2)を含み、
前記負極材料中の前記SiOxの比率は、0.5質量%以上10質量%以下であり、
前記巻回素子の最内周側の電極および最外周側の電極は、前記負極であり、
前記最内周側において、前記負極の前記正極と対向しない領域の長さL1は、5mm以上20mm以下であり、
前記最外周側において、前記負極の前記正極と対向しない領域の長さL2は、5mm以上20mm以下である、電気化学デバイス。
【請求項2】
前記導電性高分子は、電解重合により形成される、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記xは、0.5≦x≦1.5を充足する、請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記負極材料は、さらに黒鉛を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記導電性高分子は、ポリアニリン類を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性高分子を含む正極を備える電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの中間的な性能を有する電気化学デバイスが注目を集めており、例えば導電性高分子を正極材料として用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。正極材料として導電性高分子を含む電気化学デバイスは、アニオンの吸着(ドープ)と脱離(脱ドープ)により充放電を行うため、反応抵抗が小さく、一般的なリチウムイオン二次電池に比べると高い出力を有する。特許文献1では、負極材料には、イオンを挿入および脱離し得る炭素質材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-35836号公報
【発明の概要】
【0004】
上記のような電気化学デバイスでは、充電時に、電解液に含まれるアニオンが正極に吸着され、カチオンが負極に吸蔵される。このようなイオンの吸着および吸蔵により、充電時には正極および負極の双方が膨張することになる。巻回素子を備える電気化学デバイスにおいて、負極材料にケイ素酸化物を用いた場合には、正極における導電性高分子の剥離が顕著になり、サイクル特性が低下する。
【0005】
本開示の一局面は、正極材料を含む正極と、負極材料を含む負極と、前記正極および前記負極の間に介在するセパレータと、が巻回された巻回素子、ならびに電解液を備え、前記電解液は、カチオンとアニオンとを含み、前記正極材料は、充放電により前記アニオンをドープおよび脱ドープする導電性高分子を含み、前記負極材料は、充放電により前記カチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含み、前記負極活物質は、SiOx(0<x<2)を含み、前記巻回素子の最内周側の電極および最外周側の電極の少なくとも一方は、前記負極である、電気化学デバイスに関する。
【0006】
本開示の上記局面によれば、導電性高分子を含む正極とケイ素酸化物を含む負極とを有する巻回素子を備える電気化学デバイスにおいて、サイクル特性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電気化学デバイスを模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、図1における巻回素子の構成を説明するための概略図である。
図3図3は、図1における巻回素子を概略的に示す横断面図である。
図4図4は、図3の巻回素子の巻回前の正極、セパレータ、および負極の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一局面に係る電気化学デバイスは、正極材料を含む正極と、負極材料を含む負極と、正極および負極の間に介在するセパレータと、が巻回された巻回素子、および電解液を備える。電解液は、カチオンとアニオンとを含む。正極材料は、充放電によりアニオンをドープおよび脱ドープする導電性高分子を含む。負極材料は、充放電によりカチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含む。この負極活物質は、SiOx(0<x<2)を含む。巻回素子の最内周側の電極および最外周側の電極の少なくとも一方は、負極である。以下、SiOxを第1材料と称することがある。
【0009】
導電性高分子を含む正極材料を用いた電気化学デバイスでは、導電性高分子は、充電時に電解液中のアニオンをドープして膨張し、放電時に脱ドープして収縮する。また、導電性高分子は、電解液を吸収して膨潤する。そのため、充電時の正極の膨張が大きい。ケイ素酸化物SiOxは、多くのカチオンを可逆的に吸蔵および放出することができるため高容量化が可能である一方で、充電による膨張が極めて顕著である。つまり、このような電極材料を用いる電気化学デバイスでは、充電時に正極および負極の双方が大きく膨張することになる。電極の膨張が大きくなると、巻回素子では、大きな圧縮応力が電極に加わることになる。
【0010】
また、上記の電極材料を用いる電気化学デバイスでは、正極の容量と負極の容量とのバランスをとる観点から、負極はSOC(充電状態:State of charge)が高い(例えば、SOCが70%以上)の範囲で充放電が行われることになる。その一方で、正極では、広い範囲(例えば、SOCが0~100%の範囲)で充放電が行われる。そのため、負極が膨張して体積が大きくなった状態で、充放電により正極が大きく膨張収縮することになる。よって、電極には大きな圧縮応力が加わり易くなる。巻回素子の最内周側では、電極の曲率が大きく、応力が逃げ難いため、電極に大きな圧縮応力が加わり易い。また、巻回素子の最外周側では、内周側に位置する電極の膨張とケースによる圧力とから、電極に大きな圧縮応力が加わることになる。さらに、巻回素子の最外周の端部は、接着テープにより固定されているため、電極の周囲の空間が少なく、電極に加わる大きな圧縮応力を緩和することが難しい。特に、このような大きな圧縮応力が、正極に加わると、導電性高分子の剥離が顕著になり、サイクル特性の低下を招く。
【0011】
本開示では、上記の電極材料を用いる電気化学デバイスにおいて、巻回素子の最内周側の電極および最外周側の電極の少なくとも一方を負極とする。これにより、最内周側および/または最外周側において正極に大きな応力が加わることが抑制されるため、正極における導電性高分子の剥離を抑制することができる。導電性高分子の剥離が抑制されることで、充放電を繰り返しても高い容量を確保することができる。よって、サイクル特性の低下を抑制することができる。また、上記の電極材料を用いることで、高容量を確保することができる。
【0012】
巻回素子において、少なくとも最内周側の電極は負極であることが好ましい。大きな圧縮応力が加わる最内周側の電極を負極とすることで、正極における導電性高分子の剥離を効果的に抑制することができる。
【0013】
巻回素子の最内周側において、負極の正極と対向しない領域(以下、第1領域と称する。)の長さL1は、5mm以上20mm以下であることが好ましい。第1領域の長さをこのような範囲とすることで、高容量を確保しながらも、正極における導電性高分子の剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0014】
巻回素子の最外周側の電極が、負極である場合、最外周側において、負極の正極と対向しない領域(以下、第2領域と称する。)の長さL2は、5mm以上20mm以下であることが好ましい。第2領域の長さをこのような範囲とすることで、高容量を確保しながらも、正極における導電性高分子の剥離抑制効果をさらに高めることができる。
【0015】
なお、巻回素子は、通常、極性の異なる一対のストリップ状(又は帯状)の電極(具体的には、正極および負極)を、各電極の長さ方向の一端部から、一対の電極間にセパレータを介在させた状態で巻回することにより形成される。本明細書において、最内周側の電極とは、一対の電極のうち、電極の長さ方向の一端部が、より内周側に位置する電極を言う。最外周側の電極とは、一対の電極のうち、電極の長さ方向の他端部が、より外周側に位置する電極を言う。
【0016】
電極の長さ方向は、巻回素子の巻回軸に垂直な方向である。負極の、正極と対向しない領域とは、負極の負極材料が存在する領域において、正極の正極材料が存在する領域と対向していない領域を言う。ただし、第1領域は、負極の長さ方向の両端部のうち、巻回素子の内周側に位置する一端部を含む連続する領域である。また、第2領域は、負極の長さ方向における他端部(つまり、巻回素子の外周側に位置する端部)を含む連続する領域である。第1領域の長さL1は、負極の長さ方向に平行な方向における、第1領域の、負極の内周側の端部からの長さである。第2領域の長さL2は、負極の長さ方向に平行な方向における、第2領域の、負極の外周側の端部からの長さである。
【0017】
第1領域の長さL1および第2領域の長さL2は、それぞれ、巻回素子の巻回軸に垂直な方向の断面写真から求めてもよく、電気化学デバイスから取り出した巻回素子を展開した状態で求めてもよい。また、L1およびL2は、巻回する前の正極、負極、およびセパレータの積層体について求めてもよい。
【0018】
以下に、本開示の一実施形態に係る電気化学デバイスについて、適宜図面を参照しながら、より具体的に説明する。
[電気化学デバイス]
本実施形態に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータとが巻回された巻回素子、および電解液を備えている。
【0019】
図1は、本実施形態に係る電気化学デバイス100の断面模式図であり、図2は、同電気化学デバイス100が具備する巻回素子10の一部を展開した概略図である。
【0020】
電気化学デバイス100は、巻回素子10と、巻回素子10および図示しない電解液を収容する容器101と、容器101の開口を塞ぐ封口体102と、封口体102から導出されるリード線104A、104Bと、各リード線と巻回素子10の各電極とを接続するリードタブ105A、105Bと、を備える。容器101の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封口体102にかしめるようにカール加工されている。
【0021】
図3は、巻回素子10の構成を概略的に示す断面図である。図3では、巻回素子10を巻回軸に垂直な方向に切断したときの断面が示されている。図4は、図3の巻回素子10の巻回前の正極、セパレータおよび負極の構成を概略的に示す断面図である。図4では、巻回軸に垂直な方向に切断したときの断面(つまり、正極や負極の長さ方向に平行な断面)が示されている。図3および図4では、便宜的に、正極集電リード60および負極集電リード70を省略している。また、図3では、巻回素子10の最内周側および最外周側の正極11、負極12、およびセパレータ13の状態を示しており、その間の部分における正極11、負極12、およびセパレータ13の状態については省略している。
【0022】
負極12の全長は、正極11の全長(つまり、正極11の長さ方向に平行な方向における全長)よりも長くなっている。図示例では、巻回素子10における最内周側および最外周側のそれぞれにおいて、負極12は、正極11と対向しない第1領域A1および第2領域A2を備える。第1領域A1の、負極12の最内周側の端部12aからの長さをL1、第2領域A2の、最外周側の端部12bからの長さをL2で示す。なお、図4では、一対のセパレータ13で正極11を挟んだ状態で配置されている。図4に示す、セパレータ13、正極11、セパレータ13、および負極12の積層体を、一対のセパレータ13の一端部を巻芯で挟んで、反時計回りに、負極12の最内周側の端部12aから正極11を巻き込みながら巻回することにより、図3に示すような巻回素子10が形成される。なお、巻芯は、巻回後に抜き取られる。
【0023】
正極11に含まれる正極材料は、充放電により電解液に含まれるアニオンをドープおよび脱ドープする導電性高分子を含む。負極12に含まれる負極材料は、充放電により電解液に含まれるカチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含む。ここで、負極活物質は、第1材料、つまりSiOx(0<x<2)を含む。そして、本実施形態では、上記のように巻回素子10の最内周の電極および最外周の電極をそれぞれ負極12とすることで、正極11に加わる圧縮応力を低減することができる。よって、正極11における導電性高分子の剥離を抑制することができる。なお、図3および図4では、最内周側の電極および最外周側の電極の双方が負極12である例を示したが、これらの場合に限らず、最内周側の電極および最外周側の電極のうち、いずれか一方を負極12としてもよい。
【0024】
以下、電気化学デバイスの構成要素について、より詳細に説明する。
(正極)
正極11は、正極材料を含む。正極11は、通常、正極材料と、正極材料を担持する正極集電体とを含んでいる。
【0025】
正極集電体には、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。
【0026】
正極集電体の材質としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタンなどを用いることができ、好ましくは、アルミニウム、アルミニウム合金が用いられる。
【0027】
正極集電体の厚みは、例えば、10μm~100μmである。
【0028】
正極材料は、充放電により電解液に含まれるアニオンをドープおよび脱ドープする導電性高分子を含む。導電性高分子としては、π共役系高分子が好ましい。π共役系高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、またはポリピリジンを基本骨格とする高分子が挙げられる。このような高分子には、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、およびポリピリジンに限らず、これらの骨格に置換基を有する高分子(置換体とも言う)も含まれる。なお、置換基には、一価の基だけでなく、基本骨格に含まれる環と一体となって架橋環を形成するような多価基も含まれる。例えば、ポリチオフェン類には、ポリチオフェンおよびその置換体が含まれ、置換体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)なども含まれる。
【0029】
導電性高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。正極材料と正極集電体との高い密着性が得られやすい観点から、ポリアニリン類を用いてもよい。ポリアニリン類は、電解重合プロセスにより、正極集電体上に直接生成させることができるため、正極材料と正極集電体との密着性を高めるのに有利である。ポリアニリン類には、ポリアニリンおよびその置換体が含まれる。
【0030】
なお、ポリアニリン類には、アニリン(Bz-NH)および/またはその置換体をモノマーとするポリマーが含まれる。ポリアニリン類は、-Bz-NH-Bz-NH-のアミン構造単位、および/または、-Bz-N=Bz=N-のイミン構造単位を有する。Bzはベンゼン環を示す。各ベンゼン環は、1つまたは複数の置換基を有していてもよい。置換基としては、メチル基などのアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0031】
導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0032】
導電性高分子は、ドーパントが導入されていてもよい。ドーパントとしては、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、メタンスルホン酸イオン(CF3SO3 )、過塩素酸イオン(ClO4 )、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4 )、ヘキサフルオロ燐酸イオン(PF6 )、フルオロ硫酸イオン(FSO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(N(FSO22 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(CF3SO22 )などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
ドーパントは、高分子イオンであってもよい。高分子イオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのイオンが挙げられる。これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
正極11において、正極材料は、正極集電体の少なくとも一方の主面に層状に形成されていてもよい。このような層状の正極材料(以下、正極材料層とも称する。)の厚みは、例えば、正極集電体の片面につき、10μm~300μmである。
【0035】
なお、正極集電体と正極材料との間には、必要に応じて、カーボン層を形成してもよい。カーボン層を設けると、正極集電体と正極材料との間の抵抗を低く抑えることができる。また、電解重合や化学重合により、正極集電体上に正極材料を形成する場合には、正極材料の形成が容易になる。
【0036】
カーボン層は、導電性炭素材料を含む。カーボン層は、導電性炭素材料に加え、高分子材料を含んでもよい。導電性炭素材料には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックなどを用いることができる。高分子材料の材質は特に限定されないが、電気化学的に安定であり、耐酸性に優れる点で、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水ガラス(珪酸ナトリウムのポリマー)等が好ましく用いられる。
(負極)
負極12は、負極材料を含む。負極12は、通常、負極材料と負極材料を担持する負極集電体とを含んでいる。
【0037】
負極集電体には、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。負極集電体の材質としては、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼などを用いることができる。
【0038】
負極集電体の厚みは、例えば、10μm~100μmである。
【0039】
負極材料は、充放電によりカチオンを吸蔵および放出する負極活物質を含む。つまり、負極活物質によるカチオンを吸蔵および放出は、可逆的に行われる。負極活物質は、第1材料であるSiOx(0<x<2)を含む。なお、カチオンは、少なくともリチウムイオンを含むことが好ましい。第1材料は、リチウムイオンなどのカチオンを、電気化学的に吸蔵および放出可能である。第1材料を用いることで、高容量を確保することができる。
【0040】
SiOxにおいて、xは、好ましくは0.5≦x≦1.5であり、0.5<x<1.5であってもよい。xがこのような範囲である場合、リチウムイオンの高い吸蔵量を確保することができ、高容量化の観点から有利である。xがこのような範囲である場合、SiOxの充電時の膨張量も大きい。しかし、本開示によれば、最外周側および/または最外周側の電極を負極とすることで、正極11に加わる圧縮応力を低減できる。そのため、xがこのような範囲の第1材料を用いるにも拘わらず、サイクル特性の低下を抑制できる。
【0041】
負極活物質は、第1材料以外に、リチウムイオンなどのカチオンを吸蔵および放出する第2材料を含むことができる。第2材料としては、炭素材料、金属化合物、合金、セラミックス材料などが挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)が好ましく、特に黒鉛やハードカーボンが好ましい。金属化合物としては、第1材料以外の化合物、例えば、錫酸化物などが挙げられる。合金としては、ケイ素合金、錫合金などが挙げられる。セラミックス材料としては、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、炭素材料(特に、黒鉛)は、リチウムイオンなどのカチオンの吸蔵量が高く、負極12の電位を低くすることができる点で好ましい。なお、黒鉛には、黒鉛型の結晶構造を有する炭素材料が含まれる。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛および/または人造黒鉛が挙げられる。
【0042】
負極材料中の第1材料の比率は、例えば、0.5質量%以上であり、1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよく、4質量%以上または5質量%以上であってもよい。第1材料の比率がこのような範囲である場合、最内周側および/または最外周側の電極を負極12とする効果が発揮され易い。また、高容量を確保し易い。第1材料の比率は、例えば、15質量%以下であり、12質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。第1材料の比率がこのような範囲でも、高い容量を確保することができるとともに、正極11の容量とのバランスを取り易い。また、正極11における導電性高分子の剥離を抑制する効果をさらに高めることができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0043】
なお、負極材料中における第1材料の定性分析は、例えば、X線吸収端近傍(XANES)スペクトルなどのX線吸収分光法により行うことができる。例えば、負極材料に第1材料が含まれる場合には、負極材料のXANESスペクトルにおいて、Si単体のピークおよびSiOのピークの双方が検出される。これらのピークの検出により、負極材料における第1材料の存在を確認できる。なお、電気化学デバイスから取り出した負極について第1材料の定性分析を行う場合、取り出した負極を、水洗し、乾燥したものが使用される。
【0044】
負極材料中の第1材料の比率は、負極材料の構成成分(固形分)の総量と、第1材料の質量とから算出してもよい。例えば、負極の作製に使用される負極合剤ペーストについて、このような算出方法で第1材料の比率を求めてもよい。また、電気化学デバイスから取り出した負極について、第1材料の比率を求めてもよい。この場合、電気化学デバイスから負極を取り出して、電解液の非水溶媒(例えば、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒)で洗浄し、十分に乾燥したものが用いられる。より詳細には、負極を乾燥した後、所定量の負極材料を取り出し、酸素雰囲気下、800℃で1時間加熱した際の質量変化を求め、この質量変化分を加熱前の質量から差し引き、このときの差が加熱前の質量に占める比率(質量%)を、負極材料中の第1材料の比率として求めることができる。
【0045】
負極材料は、負極活物質の他に、導電剤、結着剤などを含むことができる。導電剤としては、カーボンブラック、および/または炭素繊維などが挙げられる。結着剤としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ゴム材料、および/またはセルロース誘導体(セルロースエーテルまたはセルロースエーテルなど)などが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体、またはその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩など)などが挙げられる。ゴム材料としては、スチレンブタジエンゴムが挙げられ、セルロース誘導体としては、セルロースエーテル、例えば、カルボキシメチルセルロースまたはその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩など)が挙げられる。
【0046】
負極材料中の導電剤の比率は、例えば、5質量%以下である。導電剤の比率は、0.1質量%以上であってもよい。負極材料中のバインダの比率は、例えば、5質量%以下であり、0.1質量%以上であってもよい。
【0047】
本実施形態によれば、巻回素子10の最内周側の電極および最外周側の電極の少なくとも一方を、負極12とすることで、正極11に過度な圧縮応力が加わることが抑制される。よって、正極11における導電性高分子の剥離を抑制することができ、その結果、高いサイクル特性を確保することができる。特に、少なくとも最内周側の電極を、負極12とすることが好ましい。最内周側の電極には、特に大きな圧縮応力が加わり易いため、この部分の電極が負極12となるようにすることで、より高いサイクル特性を確保し易くなる。
【0048】
巻回素子10の最内周側において、負極12の正極11と対向しない第1領域の長さL1は、3mm以上であってもよく、5mm以上または10mm以上であってもよい。第1領域の長さL1がこのような範囲である場合、正極11における導電性高分子の剥離を抑制する効果をさらに高めることができる。第1領域の長さL1は、25mm以下であってもよく、23mm以下または20mm以下であってもよい。第1領域の長さがこのような範囲である場合、正極11における導電性高分子の剥離を抑制しながらも、より高い容量を確保することができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0049】
巻回素子10の最外周側において、負極12の正極11と対向しない第2領域の長さL2は、3mm以上であってもよく、5mm以上または10mm以上であってもよい。第2領域の長さL2がこのような範囲である場合、正極11における導電性高分子の剥離を抑制する効果をさらに高めることができる。第2領域の長さL2は、25mm以下であってもよく、23mm以下であってもよく、20mm以下であってもよい。第2領域の長さがこのような範囲である場合、正極11における導電性高分子の剥離を抑制しながらも、より高い容量を確保することができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0050】
なお、正極11に加わる圧縮応力を低減し易い観点から、L1およびL2の一方が、3mm以上の場合(例えば、3mm以上5mm以下の場合)には、他方を、例えば、5mm以上または10mm以上としてもよい。
【0051】
負極12には、予めリチウムイオンをプレドープすることが望ましい。リチウムイオンのプレドープにより、負極12の電位が低下するため、正極11と負極12の電位差(すなわち電圧)が大きくなり、電気化学デバイス100のエネルギー密度が向上する。
【0052】
例えば、リチウムイオンの負極12へのプレドープは、例えば、リチウムイオン供給源となる金属リチウム膜を負極材料層の表面に形成し、金属リチウム膜を有する負極12を、リチウムイオン伝導性を有する電解液に含浸させることにより進行する。このとき、金属リチウム膜からリチウムイオンが電解液中に溶出し、溶出したリチウムイオンが負極活物質に吸蔵される。プレドープさせるリチウムイオンの量は、金属リチウム膜の質量により制御することができる。
【0053】
負極12にリチウムイオンをプレドープするステップは、巻回素子10を組み立てる前に行なってもよい。また、電解液とともに巻回素子10を電気化学デバイス100の容器101に収容してからプレドープを進行させてもよい。
(セパレータ)
セパレータ13としては、微多孔膜、織布、不織布などが好ましい。セパレータを構成する材料としては、有機材料(ポリオレフィン、セルロースなどの高分子材料など)、無機材料(ガラスなど)などが挙げられる。織布や不織布を構成する繊維としては、ポリオレフィンなどのポリマー繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などが挙げられる。これらの材料が併用されていてもよい。
【0054】
セパレータ13の厚みは、例えば10μm~300μmである。セパレータ13の厚みは、微多孔膜の場合には、例えば10μm~40μmであり、織布や不織布の場合には、例えば、100μm~300μmである。
(電解液)
電気化学デバイス100は、電解液を含む。電解液は、カチオンとアニオンとを含む。カチオンは、少なくともリチウムイオンを含むことが好ましい。リチウムイオンを含む電解液は、リチウムイオン伝導性を有する。このような電解液としては、例えば、リチウム塩と、リチウム塩を溶解させる非水溶媒とを含む非水電解液が好ましい。このとき、リチウム塩のアニオンは、正極11へのドープと脱ドープとを、可逆的に繰り返すことが可能である。一方、カチオン(好ましくはリチウム塩に由来するリチウムイオン)は、可逆的に負極12に吸蔵および放出される。
【0055】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiFSO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、LiN(FSO22、LiN(CF3SO22などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アニオンとして好適なハロゲン原子を含むオキソ酸アニオンを有するリチウム塩およびイミドアニオンを有するリチウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。
【0056】
カチオンは、少なくともリチウムイオン(第1カチオン)を含むことが好ましく、リチウムイオンと、リチウムイオン以外のカチオン(第2カチオン)とを含んでもよい。第2カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどのリチウムイオン以外の無機カチオンの他、有機カチオンなども挙げられる。電解液は、一種の第2カチオンを含んでもよく、二種以上の第2カチオンを含んでもよい。
【0057】
充電状態(SOC90~100%)における電解液中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.2mol/L~5mol/Lである。
【0058】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどの鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-プロパンサルトンなどを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
電解液は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、不飽和カーボネートが挙げられる。不飽和カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。
[電気化学デバイスの製造方法]
以下、本開示に係る電気化学デバイス100の製造方法の一例について、図2図4を参照しながら説明する。ただし、本開示に係る電気化学デバイス100の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0060】
上記の電気化学デバイス100は、例えば、正極11と負極12とセパレータ13とを巻回して巻回素子10を形成するステップと、巻回素子10と電解液とを封止するステップと、を備える製造方法により製造できる。正極11、負極12およびセパレータ13のそれぞれは、例えば、巻回素子10を形成するステップに先立ってそれぞれ準備される。電解液は、例えば、封止ステップに先立って調製される。封止は、巻回素子10と電解液とを容器101内に収容し、容器101の開口を封口体102で塞ぐことにより行うことができる。
【0061】
正極11は、例えば、正極集電体上に正極材料を担持させることにより準備することができる。正極集電体には、上述のようにシート状の金属材料が用いられるが、必要に応じて、親水性処理などの表面処理を行ってもよい。正極11が、カーボン層を含む場合には、正極集電体上にカーボン層を形成し、カーボン層を介して正極集電体上に正極材料を担持させる。カーボン層は、公知の手順で形成すればよい。カーボン層は、例えば、正極集電体上に導電性炭素材料を蒸着することにより形成してもよく、導電性炭素材料を含むカーボンペーストを正極集電体上に塗布し、塗膜を乾燥することで形成してもよい。カーボンペーストは、例えば、導電性炭素材料と、高分子材料と、液体媒体とを含む。
【0062】
正極材料は、例えば、正極集電体(または正極集電体とカーボン層との積層体)を、導電性高分子の原料モノマーを含む反応液に浸漬し、原料モノマーを電解重合または化学重合することにより正極集電体上に担持される。電解重合では、正極集電体をアノードとして重合が行われる。このようにして、導電性高分子を含む正極材料は、正極集電体やカーボン層の表面を覆うように形成される。正極材料は、電解重合や化学重合以外の方法で形成してもよい。例えば、正極材料は、導電性高分子が溶解した溶液、または、導電性高分子が分散した分散液を、正極集電体またはカーボン層に接触させることにより、正極集電体上に担持させてもよい。
【0063】
電解重合または化学重合で用いられる原料モノマーは、重合により導電性高分子を生成可能な重合性化合物であればよい。原料モノマーは、オリゴマーを含んでもよい。原料モノマーとしては、例えばアニリン、ピロール、チオフェン、フラン、チオフェンビニレン、ピリジンまたはこれらの置換体が用いられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。正極集電体やカーボン層の表面に正極材料が担持され易い点で、原料モノマーはアニリンであることが好ましい。
【0064】
電解重合または化学重合は、アニオン(ドーパント)を含む反応液を用いて行うことが望ましい。導電性高分子の分散液や溶液もまた、ドーパントを含むことが望ましい。π電子共役系高分子は、ドーパントをドープすることで、優れた導電性を発現する。例えば、化学重合では、ドーパントと酸化剤と原料モノマーとを含む反応液に、正極集電体(または正極集電体とカーボン層との積層体)を浸漬し、その後、反応液から引き揚げて乾燥させればよい。また、電解重合では、ドーパントと原料モノマーとを含む反応液に、正極集電体(または正極集電体とカーボン層との積層体)とを浸漬し、正極集電体をアノードとし、対向電極をカソードとして、両者の間に電流を流せばよい。
【0065】
反応液の溶媒には、水を用いてもよいが、モノマーの溶解度を考慮して非水溶媒を用いてもよい。非水溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ポロプレングリコールなどアルコール類などを用いることが望ましい。導電性高分子の分散媒あるいは溶媒としても、水や上記非水溶媒が挙げられる。
【0066】
なお、正極材料の正極集電体への担持は、用いられる酸化剤やドーパントの影響により、通常、酸性雰囲気下で行われる。
【0067】
形成される正極材料層の厚みは、例えば、重合時間を調節することにより制御できる。電解重合では、電解の電流密度を調節することによっても、層の厚みを制御することができる。導電性高分子を含む溶液や分散液を用いる場合には、これらの液体中の導電性高分子の濃度を調節したり、液体を正極集電体やカーボン層に接触させる回数を調節したりすることにより正極材料層の厚みを制御することができる。
【0068】
負極12は、例えば、第1材料(および必要に応じて第2材料)と、導電剤および結着剤などとを、分散媒とともに混合して負極合剤ペーストを調製し、負極合剤ペーストを負極集電体に塗布した後、乾燥することにより形成される。
【0069】
正極11の準備ステップでは、正極11には、リード部材(リード線104Aを備えるリードタブ105A)が接続される。負極12の準備ステップでは、負極12に他のリード部材(リード線104Bを備えるリードタブ105B)が接続される。
【0070】
巻回素子10を形成するステップでは、リード部材が接続された正極11と負極12との間にセパレータ13を介在させて巻回することにより、図2に示すような、一端面よりリード部材が露出する巻回素子10を得る。巻回素子10の最外周を、巻止めテープ14で固定する。
【0071】
封止ステップでは、まず、図1に示すように、巻回素子10を、電解液(図示せず)とともに、開口を有する有底円筒形の容器101に収容する。封口体102からリード線104A、104Bを導出する。容器101の開口に封口体102を配置し、容器101を封口する。具体的には、容器101の開口端近傍を内側に絞り加工し、開口端を封口体102にかしめるようにカール加工する。封口体102は、例えば、ゴム成分を含む弾性材料で形成されている。
【0072】
上記の実施形態では、円筒形状の巻回型の電気化学デバイスについて説明したが、本開示の適用範囲は上記に限定されず、角形形状の巻回型の電気化学デバイスにも適用することができる。
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1~8および比較例1)
(1)正極の作製
厚さ30μmのアルミニウム箔を正極集電体として準備した。一方、アニリンおよび硫酸を含むアニリン水溶液を準備した。
【0073】
カーボンブラック11質量部およびポリプロピレン樹脂粒子7質量部を混合した混合粉末と、水とを混錬して、カーボンペーストを調製した。得られたカーボンペーストを、正極集電体の裏表の全面に塗布した後、加熱により乾燥して、カーボン層を形成した。カーボン層の厚さは、片面あたり2μmであった。
【0074】
カーボン層が形成された正極集電体と対向電極とを、アニリン水溶液に浸漬し、10mA/cm2の電流密度で20分間、電解重合を行ない、硫酸イオン(SO 2-)がドープされた導電性高分子(ポリアニリン)の膜を、正極集電体の裏表のカーボン層上に付着させた。
【0075】
硫酸イオンがドープされた導電性高分子を還元し、ドープされていた硫酸イオンを脱ドープした。こうして、硫酸イオンが脱ドープされた導電性高分子を含む正極材料層を形成した。次いで、正極材料層を十分に洗浄し、その後、乾燥を行なった。正極材料層の厚さは、片面あたり35μmであった。
(2)負極の作製
厚さ20μmの銅箔を負極集電体として準備した。一方、負極活物質(SiO(第1材料)および人造黒鉛の総量)97質量部と、カルボキシセルロース1質量部と、スチレンブタジエンゴム2質量部とを混合した混合粉末と、所定量の水とを混錬した負極合剤ペーストを調製した。SiOと人造黒鉛との質量比は、負極材料(固形分)中の第1材料の比率(質量%)が表1に示す値となるように調節した。
【0076】
負極合剤ペーストを負極集電体の両面に塗布し、乾燥して、厚さ35μmの負極材料層を両面に有する負極を得た。次に、負極材料層に、プレドープ完了後の電解液中での負極電位が金属リチウムに対して0.2V以下となるように計算された分量の金属リチウム箔を貼り付けた。
(3)巻回素子の作製
正極と負極にそれぞれリードタブを接続した後、図2および図4に示すように、セルロース製不織布のセパレータ(厚さ35μm)と、正極と、セルロース製不織布のセパレータ(厚さ35μm)と、負極とを、この順序で重ね合わせた積層体を巻回して、巻回素子を形成した。正極と負極とセパレータとを積層する際には、第1領域の長さL1および第2領域の長さL2が、表1に示す値となるように負極の長さを調節した。ただし、最内周側および/または最外周側の電極が正極である場合には、正極の、負極と対向しない領域の長さを、表1のL1および/またはL2の欄に記載した。
(4)電解液の調製
プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1の混合物に、ビニレンカーボネートを0.2質量%添加して、溶媒を調製した。得られた溶媒にリチウム塩としてLiPF6を所定濃度で溶解させて、カチオンとしてリチウムイオンを、アニオンとしてヘキサフルオロ燐酸イオン(PF )を、それぞれ含む非水電解液を調製した。
(5)電気化学デバイスの作製
開口を有する有底の容器に、巻回素子と電解液とを収容し、図1に示すような電気化学デバイスを組み立てた。その後、正極と負極との端子間に3.8Vの充電電圧を印加しながら25℃で24時間エージングし、リチウムイオンの負極へのプレドープを進行させた。
(評価)
得られた電気化学デバイスについて、下記の評価を行った。
【0077】
電気化学デバイスを3.8Vの電圧で充電した後、5.0Aの電流で2.5Vまで放電した。途中3.3Vから3.0Vに低下する間に流れた放電電荷量(A・s)を電圧変化ΔV(=0.3V)で除算し、初期容量C(F)とした。
【0078】
上記の充電と放電からなるサイクルを100000回繰り返した。100000サイクル目における容量Cを初期容量Cと同様にして求め、初期容量Cに対する、100000サイクル目の容量Cの割合(%)を、容量維持率として求め、サイクル特性の指標とした。容量維持率Rは、R=C/C×100により算出した。
(参考例1)
負極活物質として人造黒鉛のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極および電気化学デバイスを作製し、評価を行った。
【0079】
評価結果を表1に示す。実施例1~8は、A1~A8であり、比較例1はB1であり、参考例1は、R1である。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、負極がSiOを含まないR1では、88%の高いサイクル特性が得られる。一方、負極がSiOを含む場合に、最外周側および最内周側の電極を正極とすると、サイクル特性は40%にまで大きく低下する(B1)。それに対し、負極がSiOを含む場合に、最外周側および/または最内周側の電極を負極とすることで、A1~A8では、60~90%と高いサイクル特性が確保できている。また、A1~A8では、1200F以上の高い容量が得られる。
(実施例9~11)
負極材料中の第1材料の比率を11質量%に変更した。実施例10~11では、さらにL1およびL2が表2に示す値となるように負極の長さを調節した。これら以外は、実施例1と同様にして、負極および電気化学デバイスを作製し、評価を行った。
【0082】
評価結果を表2に示す。実施例9~11は、A9~A11である。表2には、A1~A3、B1、およびR1の結果も合わせて示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示されるように、A9~A11でも、高い容量が確保できるとともに、B1よりも高いサイクル特性が得られた。より高いサイクル特性を確保する観点からは、負極材料中の第1材料の比率を、10質量%以下とすることが好ましい。
(実施例12および13)
L1およびL2が、表3に示す値となるように負極の長さを調節したこと以外は、実施例2と同様にして負極および電気化学デバイスを作製し、評価を行った。
【0085】
評価結果を表3に示す。実施例12および13は、A12およびA13である。表3には、A2、A4~A6、B1、およびR1の結果も合わせて示す。
【0086】
【表3】
【0087】
表3に示されるように、A12およびA13でも、高い容量が確保できるとともに、B1よりも高いサイクル特性が得られた。より高いサイクル特性を確保する観点からは、L1および/またはL2を、5mm以上とすることが好ましい。なお、L1およびL2の一方が3mmの場合でも、他方を大きく(例えば、5mm以上や10mm以上)とすれば、A13よりも高いサイクル特性を確保できる。
【0088】
高容量を確保し易い観点からは、L1および/またはL2を20mm以下とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示に係る電気化学デバイスでは、優れたサイクル特性が得られる。よって、高いサイクル特性が求められる各種電気化学デバイス、特にバックアップ用電源として好適である。
【符号の説明】
【0090】
10:巻回素子
11:正極
12:負極
12a:負極の最内周側の端部
12b:負極の最外周側の端部
13:セパレータ
14:巻止めテープ
100:電気化学デバイス
101:容器
102:封口体
104A、104B:リード線
105A、105B:リードタブ
A1:第1領域
A2:第2領域
L1:第1領域の長さ
L2:第2領域の長さ
図1
図2
図3
図4