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特許7382554レーザ加工装置及びそれを用いたレーザ加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びそれを用いたレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/073 20060101AFI20231110BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20231110BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20231110BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231110BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/00 N
B23K26/064 K
B23K26/064 Z
B23K26/21 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021522718
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017622
(87)【国際公開番号】W WO2020241138
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019100185
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】王 静波
(72)【発明者】
【氏名】西尾 正敏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲三
(72)【発明者】
【氏名】西原 学
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-159514(JP,A)
【文献】特開2005-313195(JP,A)
【文献】実公昭61-016938(JP,Y2)
【文献】米国特許第08781269(US,B2)
【文献】特開2011-253866(JP,A)
【文献】特開昭59-042502(JP,A)
【文献】特開2002-224867(JP,A)
【文献】国際公開第2018/12379(WO,A1)
【文献】特開平8-150485(JP,A)
【文献】特許第2777138(JP,B2)
【文献】特開昭63-84786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/073
B23K 26/00
B23K 26/064
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生させるレーザ発振器と、
コアと、前記コアの外周側に前記コアと同軸に設けられた第1クラッドと、前記第1クラッドの外周側に前記コアと同軸に設けられた第2クラッドと、を少なくとも有し、入射端面および前記入射端面とは反対の出射端を有する光ファイバと、
前記レーザ発振器に設けられ、前記レーザ光を前記光ファイバの入射端面に導入するとともに、前記光ファイバの出射端から出射される前記レーザ光のパワー分布を制御するビーム制御機構と、
前記光ファイバの出射端に取付けられ、前記レーザ光をワークに向けて照射するレーザ光出射ヘッドと、を少なくとも備え、
前記レーザ発振器は、第1波長の第1レーザ光を発生させる第1レーザ発振部と、前記第1波長と異なる第2波長の第2レーザ光を発生させる第2レーザ発振部と、を有し、
前記ビーム制御機構は、
前記第1レーザ光を受け取って所定の倍率で集光する第1集光レンズと、
前記第2レーザ光を受け取って所定の倍率で集光する第2集光レンズと、
前記第1集光レンズで集光された前記第1レーザ光と前記第2集光レンズで集光された前記第2レーザ光とを受け、前記第1レーザ光の光軸が前記第2レーザ光の光軸に一致するように前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを合波して前記レーザ光を形成し、前記レーザ光を前記光ファイバの入射端面に向かわせる光合波部材と、
前記第1集光レンズと前記光合波部材との間の前記第1レーザ光の光路上及び前記第2集光レンズと前記光合波部材との間の前記第2レーザ光の光路上の少なくとも一方に配置され、前記第1レーザ光の光路及び前記第2レーザ光の光路のうち前記少なくとも一方の変更と保持をする光路変更保持機構と、
前記光路変更保持機構の動作を制御するコントローラと、を少なくとも有し、
前記ビーム制御機構は、前記光ファイバの入射端面における前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の少なくとも一方の入射位置を変化させることで、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記光路変更保持機構は、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の前記少なくとも一方を透過させるとともに、前記第1レーザ光の光軸及び前記第2レーザ光の光軸のうち前記少なくとも一方と交差する軸の軸周りに傾動可能に設けられた平行平板状の光学部材と、
前記光学部材に連結されたアクチュエータと、を有し、
前記コントローラが前記アクチュエータを駆動して、前記光学部材を傾動させることで、前記ビーム制御機構は前記光ファイバの入射端面における前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の前記少なくとも一方の入射位置を変化させることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ加工装置において、
前記コントローラは前記第1レーザ光のパワーと前記第2レーザ光のパワーとをそれぞれ制御しており、前記コントローラが前記第1レーザ光のパワーと前記第2レーザ光のパワーに関するパワー比率を変化させることで、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記ビーム制御機構は、前記コア及び前記第1クラッドの少なくとも一方に前記第1レーザ光または前記第2レーザ光を入射させることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工装置において、
前記第2波長は前記第1波長よりも短く、
前記第1クラッドに前記第2レーザ光が入射され、
前記コントローラが前記第1レーザ光のパワーに対する前記第2レーザ光のパワーを変化させることで、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記ビーム制御機構は、前記ワークの材質及び前記ワークにおけるレーザ加工対象部位の形状のうち少なくとも一方に応じて、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を制御することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工装置において、
前記ビーム制御機構は、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を前記ワークのレーザ加工中に切り替えるように構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ加工装置において、
前記ビーム制御機構は、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を前記ワークのレーザ加工中に周期的に切り替えるように構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記第1レーザ発振部はディスクレーザかファイバレーザか、あるいはYAGレーザのいずれかで、前記第1波長は1000nm~1100nmの範囲にあり、
前記第2レーザ発振部は半導体レーザで、前記第2波長は800nm~1000nmの範囲にあることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記第1レーザ発振部はディスクレーザかファイバレーザか、あるいはYAGレーザのいずれかで、前記第1波長は1000nm~1100nmの範囲にあり、
前記第2レーザ発振部は可視光レーザで、前記第2波長は400nm~800nmの範囲にあることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記第1レーザ発振部は半導体レーザで、前記第1波長は800nm~1000nmの範囲にあり、
前記第2レーザ発振部は可視光レーザで、前記第2波長は400nm~800nmの範囲にあることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法であって、
前記ワークに向けて第1のパワー分布を有する前記レーザ光を照射する第1照射ステップと、
引き続き、前記ワークに向けて前記第1のパワー分布とは異なる第2のパワー分布を有する前記レーザ光を照射する第2照射ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項13】
請求項12に記載のレーザ加工方法において、
前記第1照射ステップでは、前記ワークの表面に溶融池及びキーホールを形成し、
前記第2照射ステップでは、前記キーホールの開口を拡げるとともに、所望の溶け込み深さとなるように前記溶融池を成長させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項14】
請求項12に記載のレーザ加工方法において、
前記第1照射ステップでは、第1の厚さを有する前記ワークの第1の部分に向けて前記レーザ光を照射し、前記第2照射ステップでは、前記第1の厚さとは異なる第2の厚さを有する前記ワークの第2の部分に向けて前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載のレーザ加工方法において、
前記第2照射ステップでは、前記レーザ光のパワー分布を所定の周波数で周期的に切り替えることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項16】
請求項15に記載のレーザ加工方法において、
前記所定の周波数は、前記ワークに形成されたキーホールの固有振動周波数に略等しいことを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工装置及びそれを用いたレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のレーザダイオードあるいはレーザダイオードバーから出射されるレーザ光をビーム結合して大出力のレーザ光を生成する技術が知られている。このようなレーザ光は、光ファイバによって伝送されワークをレーザ加工するのに用いられる。
【0003】
一方、ワークの材質や形状に応じて、レーザ光のビーム品質を変化させてレーザ加工を行う技術が近年、提案されてきている。
【0004】
例えば、特許文献1は、レーザ光と光学的に結合可能な束状の複数の光ファイバにレーザ光を入射するレーザシステムを開示している。このレーザシステムは、レーザ光の光路上に配置されたリフレクタ又は集光レンズと、それらを動かすピエゾアクチュエータとを含む。ピエゾアクチュエータは、束状の複数の光ファイバにおけるレーザ光の入射位置を変化させることで、複数の光ファイバのうち、選択された光ファイバにレーザ光を入射させる。また、各光ファイバはマルチクラッドファイバからなる。ピエゾアクチュエータは、光ファイバにおけるレーザ光の入射位置を調整することでレーザ光のビームプロファイルを変化させている。
【0005】
また、特許文献2には、集光レンズの位置を移動させたり、レーザ光の光路上にくさび状の光学素子を挿入したりすることで、マルチクラッドファイバの入射端面におけるレーザ光の入射位置を変化させる構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2018/159299号明細書
【文献】米国特許第8781269号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般に、金属の光吸収率は波長依存性を有している。金属に照射される光の波長が短くなる程、金属の光吸収率は高くなる傾向にある。このような特性を利用して、互いに波長の異なるレーザ光を含む合波レーザ光によりレーザ加工を行うことが提案されている。しかし、特許文献1及び特許文献2には、このような技術は開示されていない。
【0008】
また、特許文献1に開示されたレーザシステムでは、比較的大型の光学部品であるリフレクタや集光レンズをアクチュエータで動かすため、その応答性に問題があり、レーザ光の光路を高速に変更し、光ファイバへの入射位置を変化させることが難しかった。このため、ワークの形状が変化した場合等に、当該変化に応じてレーザ光のパワー分布を制御するのが難しく、ワークの加工品質を維持するのが難しかった。
【0009】
また、特許文献2は、集光レンズの位置を移動させてレーザ光の入射位置を変化させる方法を開示している。この方法は、集光レンズを直線上にアクチュエータで動かす必要があるため、位置精度と応答性を両立させる上で問題があった。また、連続発振中のレーザ光の光路上に光学素子を挿入しながらこれを動かすと、レーザ光が光学素子のエッジ部分によって思わぬ方向に散乱されるため、レーザ加工に不具合を生じるおそれがあった。また、散乱されたレーザ光によってレーザ共振器の内部が損傷するおそれがあった。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、互いに波長の異なるレーザ光を合波するとともに、合波されたレーザ光のパワー分布を制御可能なレーザ加工装置及びそれを用いたレーザ加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、コアと、前記コアの外周側に前記コアと同軸に設けられた第1クラッドと、前記第1クラッドの外周側に前記コアと同軸に設けられた第2クラッドと、を少なくとも有し、入射端面および前記入射端面とは反対の出射端を有する光ファイバと、前記レーザ発振器に設けられ、前記レーザ光を前記光ファイバの入射端面に導入するビーム制御機構と、前記光ファイバの出射端に取付けられ、前記レーザ光をワークに向けて照射するレーザ光出射ヘッドと、を少なくとも備え、前記レーザ発振器は、第1波長の第1レーザ光を発生させる第1レーザ発振部と、前記第1波長と異なる第2波長の第2レーザ光を発生させる第2レーザ発振部と、を有し、前記ビーム制御機構は、前記第1レーザ光を受け取って所定の倍率で集光する第1集光レンズと、前記第2レーザ光を受け取って所定の倍率で集光する第2集光レンズと、前記第1集光レンズで集光された前記第1レーザ光と前記第2集光レンズで集光された前記第2レーザ光とを受け、前記第1レーザ光の光軸が前記第2レーザ光の光軸に一致するように前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを合波して前記レーザ光を形成し、前記レーザ光を前記光ファイバの入射端面に向かわせる光合波部材と、前記第1集光レンズと前記光合波部材との間の前記第1レーザ光の光路上及び前記第2集光レンズと前記光合波部材との間の前記第2レーザ光の光路上の少なくとも一方に配置され、前記第1レーザ光の光路及び前記第2レーザ光の光路のうち前記少なくとも一方の変更と保持をする光路変更保持機構と、前記光路変更保持機構の動作を制御するコントローラと、を少なくとも有し、前記ビーム制御機構は、前記光ファイバの入射端面における前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の少なくとも一方の入射位置を変化させることで、前記レーザ光出射ヘッドから出射される前記レーザ光のパワー分布を制御することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、例えば、第2集光レンズと光合波部材との間の第2レーザ光の光路上に光路変更保持機構を設けることで、第2レーザ光の光路を容易に変更することができる。このことにより、第1レーザ光と第2レーザ光とから形成されたレーザ光のパワー分布を制御することができる。
【0013】
本発明に係るレーザ加工方法は、前記レーザ加工装置を用いたレーザ加工方法であって、前記ワークに向けて第1のパワー分布を有する前記レーザ光を照射する第1照射ステップと、引き続き、前記ワークに向けて前記第1のパワー分布とは異なる第2のパワー分布を有する前記レーザ光を照射する第2照射ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、溶接開始初期にワークに溶融池及びキーホールを確実に形成できるとともに、ワークの溶接品質を高められる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のレーザ加工装置によれば、第1レーザ光と第2レーザ光とから形成されるレーザ光のパワー分布を制御することができる。本発明のレーザ加工方法によれば、ワークの溶接品質を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図2】光ファイバの屈折率分布を示す模式図である。
図3】ビーム制御機構をX方向から見た模式図である。
図4A】ビーム制御機構の要部をY方向から見た模式図である。
図4B】ビーム制御機構の要部をZ方向から見た模式図である。
図5】第1レーザ光の入射位置と第2レーザ光の入射位置を変化させた場合の光ファイバの入射端近傍の状態を示す模式図である。
図6図5に示す状態でのレーザ光のビームプロファイルを示す図である。
図7図5に示す状態で第1レーザ光と第2レーザ光とのパワー比率を変えた場合のレーザ光のビームプロファイルを示す図である。
図8】ワークの溶接箇所の断面模式図である。
図9】ワークの溶接シーケンスである。
図10】実施形態2に係るワークの溶接シーケンスである。
図11】変形例に係るワークの溶接シーケンスである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0018】
(実施形態1)
[レーザ加工装置の構成]
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置の構成の模式図を示し、レーザ加工装置1000は、レーザ発振器10とビーム制御機構20とコントローラ80と光ファイバ90とレーザ光出射ヘッド100とマニピュレータ110とを備えている。また、図2は、光ファイバ90における屈折率分布を示す。
【0019】
レーザ発振器10は、図示しない電源から電力の供給を受けてレーザ光LBを発生させるレーザ光源である。レーザ発振器10は、波長がλ1(以下、第1波長λ1と呼ぶことがある。)の第1レーザ光LB1を発生させる第1レーザ発振部11と、波長がλ2(以下、第2波長λ2と呼ぶことがある。)の第2レーザ光LB2を発生させる第2レーザ発振部12と、を有している。なお、第1波長λ1と第2波長λ2とは互いに異なる値であり、本実施形態では、第1波長λ1は、第2波長λ2よりも長い。
【0020】
例えば、第1レーザ発振部11をファイバレーザかディスクレーザか、あるいやYAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザとし、第2レーザ発振部12を半導体レーザとすることもできる。この場合、第1波長λ1は、1000nm~1100nmの範囲に、第2波長λ2は、800nm~1000nmの範囲にそれぞれ設定される。なお、第2レーザ発振部12を可視光レーザとし、第2波長λ2を400nm~800nmの範囲に設定するようにしてもよい。
【0021】
また、ワーク200の材質に応じて、第1レーザ発振部11及び第2レーザ発振部12を別の構成としてもよい。例えば、第1レーザ発振部11を半導体レーザとし、第2レーザ発振部12を可視光レーザとすることもできる。この場合、第1波長λ1は、800nm~1000nmの範囲に、第2波長λ2は、400nm~800nmの範囲にそれぞれ設定される。
【0022】
また、第1レーザ発振部11及び第2レーザ発振部12はそれぞれ、単一のレーザ光源で構成されていてもよいし、複数のレーザモジュールで構成されていてもよい。後述するように、ビーム制御機構20で第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とが合波されてレーザ光LBとして光ファイバ90に入射される。
【0023】
ビーム制御機構20は、レーザ発振器10に設けられており、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とを合波し、合波されたレーザ光LBを光ファイバ90の入射端面に導入するとともに、光ファイバ90の出射端から出射されるレーザ光LBのパワー分布を制御する。ビーム制御機構20の構成及び動作については後で述べる。
【0024】
光ファイバ90は、いわゆるマルチクラッドファイバである。光ファイバ90は、コア90aと、コア90aの外周側にコア90aと同軸に設けられた第1クラッド90bと、第1クラッド90bの外周側にコア90aと同軸に設けられた第2クラッド90cとを有する。コア90aと第1クラッド90bと第2クラッド90cとはその主成分が石英からなり、図2に示すように、コア90aの屈折率が最も高く、第1クラッド90b、第2クラッド90cの順に屈折率が低くなる。第1クラッド90bと第2クラッド90cとの屈折率は、共に屈折率を下げることのできる、異なった種類または濃度の物質をドーピングすることによって調整されてもよい。また、コア90aの屈折率は、屈折率を上げることのできる、異なった種類または濃度の物質をドーピングすることによって調整されてもよい。このような屈折率分布を持った光ファイバ90では、所定の角度でコア90aに入射されたレーザ光LBは第1クラッド90bに入ることなく、コア90aの中を伝搬することができるが、所定の角度で第1クラッド90bに入射されたレーザ光LBは第2クラッド90cに入ることなく、第1クラッド90bの中を伝搬することができる。このようなレーザ光LBの伝搬方法を実現するための光ファイバの構造として、図2に示す構造はあくまでも一例であり、必ずしもコア90aと第1クラッド90bと第2クラッド90cとで異なった屈折率を持たせる必要はない。例えば、コア90aと第1クラッド90bと第2クラッド90cとを同じ屈折率N1にすると共に、コア90aと第1クラッド90bとの間に、また第1クラッド90bと第2クラッド90cとの間に、屈折率N2(N2<N1)を有する薄い層を設けてもよい。そうすることによって、所定の角度でコア90aに入射されたレーザ光LBは第1クラッド90bに入ることなく、コア90aの中を伝搬することができるが、所定の角度で第1クラッド90bに入射されたレーザ光LBは第2クラッド90cに入ることなく、第1クラッド90bの中を伝搬することができる。屈折率N2を有する層は、その主成分が石英であるが、屈折率を下げることのできる物質をドーピングすればよい。光ファイバ90に入射されたレーザ光LBは、コア90a及び/または第1クラッド90bを伝搬し、光ファイバ90の出射端に到達する。なお、図2に示すように、コア90aの直径をφ1とし、第1クラッド90bの直径をφ2とする。また、図示しないが、第2クラッド90cの外周面には光ファイバ90を機械的に保護する皮膜または樹脂系の保護層が設けられている。
【0025】
レーザ光出射ヘッド100は、光ファイバ90の出射端に取付けられており、光ファイバ90で伝送されたレーザ光LBをワーク200に向けて照射し、ワーク200がレーザ加工される。なお、レーザ光出射ヘッド100の内部には図示しない光学部品、例えば、コリメータレンズや集光レンズや保護ガラス等が配設されている。
【0026】
コントローラ80は、レーザ発振器10のレーザ発振を制御する。具体的には、レーザ発振器10に接続された図示しない電源に対して出力電流やオン時間等の制御信号を供給することにより、第1レーザ発振部11及び第2レーザ発振部12でのレーザ発振制御、例えば、第1レーザ光LB1及び第2レーザ光LB2の出力パワー制御やそのON/OFF制御を行う。
【0027】
また、コントローラ80は、選択されたレーザ加工プログラムの内容に応じて、ビーム制御機構20に設けられたモータ70(図4A,4B参照)の駆動制御を行う。さらに、コントローラ80は、マニピュレータ110の動作を制御する。なお、レーザ加工プログラムは、図示しない記憶部に保存されている。記憶部はコントローラ80の内部に設けられていてもよいし、コントローラ80の外部に設けられ、コントローラ80とデータのやり取りを可能に構成されていてもよい。なお、コントローラ80はビーム制御機構20の一部を構成している。
【0028】
マニピュレータ110はコントローラ80に接続され、前述のレーザ加工プログラムに応じて所定の軌跡を描くようにレーザ光出射ヘッド100を移動させる。なお、マニピュレータ110の動作を制御するコントローラを別に設けるようにしてもよい。
【0029】
[ビーム制御機構の構成]
図3は、ビーム制御機構をX方向から見た模式図を、図4Aは、ビーム制御機構の要部をY方向から見た模式図を、図4Bは、ビーム制御機構の要部をZ方向から見た模式図をそれぞれ示す。なお、本願明細書において、ダイクロイックミラー33から光ファイバ90に向かうレーザ光LBの進行方向をZ方向と、モータ70の出力軸70aの延びる方向をX方向と、X方向及びZ方向をそれぞれ直交する方向をY方向とそれぞれ呼ぶことがある。
【0030】
また、モータ70の出力軸70aの軸線をX軸(第1軸)と呼ぶことがある。図3に示すように、X軸はレーザ光LBと第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の光軸にそれぞれ略直交している。
【0031】
なお、本願明細書において、「略直交」とは、各部品の組立公差を含んで直交しているという意味であり、厳密に直交していることまでを要求するものではない。同様に、「略等しい」とは、各部品の製造公差や組立公差を含んで等しいという意味であり、厳密に比較対象となる両者が等しいことまでを要求するものではない。また、「略等しい」とは、推定値との比較において所定の確度で等しいことも意味するが、厳密に推定値と比較対象とが等しいことまでを要求するものではない。
【0032】
図3及び図4A,4Bに示すように、ビーム制御機構20は、第1集光レンズ31及び第2集光レンズ32と光学部材50とダイクロイックミラー(光合波部材)33とモータ70とコントローラ80とを有している。後で述べるように、モータ70と光学部材50とは、第2集光レンズ32で集光された後の第2レーザ光LB2の光路の変更と保持をする光路変更保持機構40として機能する。
【0033】
第1及び第2レーザ光LB1,LB2は、それぞれ第1レーザ発振部11と第2レーザ発振部12とから発生したレーザ光であり、図示しない光学部品、例えば、コリメートレンズ等により平行光に変換された状態で第1及び第2集光レンズ31,32にそれぞれ入射される。第1及び第2集光レンズ31,32は、図示しないコリメートレンズに対して所定の倍率で第1及び第2レーザ光LB1,LB2をそれぞれ集光する。
【0034】
ダイクロイックミラー33は、第1集光レンズ31で集光された後の第1レーザ光LB1の光路と第2集光レンズ32で集光された後の第2レーザ光LB2の光路とが交差する位置に配置されている。また、ダイクロイックミラー33に入射される前の第1レーザ光LB1の光軸と第2レーザ光LB2の光軸とは互いに直交しており、ダイクロイックミラー33の表面はX方向から見て第2レーザ光LB2の光軸と45度の角度をなすように配置されている。
【0035】
ダイクロイックミラー33は、第1レーザ光LB1をそのまま透過させる一方、99.0%以上、できれば100%に近い比率で第2レーザ光LB2を表面で反射する。モータ70の出力軸70aが初期位置にある場合、光学部材50は第2レーザ光LB2の光軸に対して略直交するように配置される。この状態では、第2レーザ光LB2は、その光軸が第1レーザ光LB1の光軸と重なるようになり、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とが合波される。合波された後のレーザ光LBが光ファイバ90に入射される。
【0036】
光学部材50は、第1レーザ光LB1及び第2レーザ光LB2に対して透明な材質からなる平行平板状の部材である。光学部材50は、例えば、石英からなり、第1波長λ1及び第2波長λ2に対して1よりも大きい屈折率を有する。光学部材50は、入射したレーザ光、この場合は第2レーザ光LB2に対する反射率をできるだけ下げるために、両面に反射防止コーティイングを施されたものを使用してよい。反射防止コーティングを施した場合の光学部材50の反射率は、1%よりはるかに小さいことが望ましい。光学部材50は、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の第2レーザ光LB2の光路上に配置されている。
【0037】
モータ70は出力軸70aを有しており、ホルダ60を介して光学部材50に連結されている。モータ70を駆動させて出力軸70aがX軸周りに回転することで、光学部材50はホルダ60との連結部を中心としてYZ平面内に回転する。なお、モータ70は一方向(図3に示す方向A)のみに回転するのではなく、正逆両方向(図3に示す方向B)に回転可能に構成されている。また、回転周波数は可変であり、溶接加工を行う際には、数Hz~数kHz程度の範囲で変化させることができる。また、後述するように、ビーム制御機構20を動作させる場合、モータ70は一方向に連続して回転動作を行うのではなく、所定の角度範囲を回転する。言い換えると、光学部材50はホルダ60との連結部を中心として所定の角度で傾動する。また、モータ70は、光学部材50を設定された角度範囲で高速に往復回転させることができる。また、モータ70はコントローラ80に接続され、コントローラ80からの制御信号によって駆動される。
【0038】
なお、光学部材50のZ方向の厚さは1mmから数mm程度であるが、特にこれに限定されず、光ファイバ90の入射端面90dにおける第2レーザ光LB2の移動距離とモータ70の回転角度との関係で適宜別の値に変更しうる。当該厚さが数mm程度であると、また、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の、集光された第2レーザ光LB2が通過する狭い位置に設置するため、その必要サイズが小さく、モータ70によって高速、例えば、数kHzの回転周波数で往復回転させることが容易となる。
【0039】
[レーザ光のパワー分布の変更手順]
次に、レーザ光LBのパワー分布の変更手順について説明する。
【0040】
図5は、第2レーザ光の入射位置が第1レーザ光の入射位置とは異なる場合の光ファイバの入射端近傍の状態を示す。図6は、図5に示す状態でレーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光のビームプロファイルの一例を示す。なお、図6に示すビームプロファイルは、レーザ光出射ヘッド100から出射され、焦点位置に結像されたレーザ光LBのパワー分布に相当する。また、図6に示すビームプロファイルは、光ファイバ90の出射端から出射されたレーザ光LBのパワー分布に相当する。
【0041】
コントローラ80からの制御信号により、モータ70を図3に示す方向Aに所定の角度で回転させると、モータ70の回転に応じて光学部材50はホルダ60との連結部を中心としてYZ平面内を所定の角度で傾動する。この角度に応じて、光学部材50の光入射面と第2レーザ光LB2の光軸との角度が変化し、光学部材50の内部で第2レーザ光LB2の光路が変更される。光路が変更された第2レーザ光LB2がダイクロイックミラー33で反射されると、第2レーザ光LB2の光軸とダイクロイックミラー33を透過した後の第1レーザ光LB1の光軸とが近接するものの、所定の距離だけずれて、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とが合波される。その結果、例えば、図5に示すように、第1レーザ光LB1が光ファイバ90のコア90aに入射される一方、第2レーザ光LB2が光ファイバ90の第1クラッド90bに入射される。また、その場合のレーザ光LBのビームプロファイルは、図6に示すように、単峰状の部分とその両側に形成された半値幅の広いテラス状の部分とを含んでいる。前者がコア90a内に伝送される第1レーザ光LB1に対応し、後者が第1クラッド90b内に伝送される第2レーザ光LB2に対応する。言うまでもなく、図5の矢印で示したように、第2レーザ光LB2の全部またはその一部をコア90aの中に入るようモータ70を駆動して光学部材50を傾動させてもよい。
【0042】
このように、モータ70を駆動して光学部材50を傾動させることで、光ファイバ90の入射端面90dにおける第2レーザ光LB2の入射位置を連続的に変化させることができる。また、第2レーザ光LB2の入射位置を変化させることで、例えば、コア90aに伝送される第1レーザ光LB1と第1クラッド90bに伝送される第2レーザ光LB2のパワー比率を変化させることができる。
【0043】
図7は、図5に示す状態で第1レーザ光と第2レーザ光とのパワー比率を変えた場合のレーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光のビームプロファイルを示す。なお、第1レーザ光LB1のパワーと第2レーザ光LB2のパワーはそれぞれコントローラ80からの制御信号によって第1レーザ発振部11と第2レーザ発振部12とを制御して変更される。
【0044】
第1レーザ光LB1のパワーをP1、第2レーザ光LB2のパワーをP2とそれぞれしたとき、P1が有限の値で、P2がゼロの場合、レーザ光LBのビームプロファイルは半値幅の狭い単峰状となる(図7のケース1)。
【0045】
一方、P1とP2との比率を以下の式(1)に示す関係とすると、ビームプロファイルは単峰状の部分とその両側に形成された半値幅の広いテラス状の部分とを含むように変化する(図7のケース2)。前者がコア90a内に伝送される第1レーザ光LB1に対応し、後者が第1クラッド90b内に伝送される第2レーザ光LB2に対応する。
【0046】
P1/P2>φ1/(φ2-φ1) ・・・(1)
P1とP2との比率を以下の式(2)に示す関係とすると、レーザ光LBのビームプロファイルのうち単峰状の部分のピーク値とテラス状の部分のピーク値が一致するようになり、レーザ光LBのビームプロファイルは単峰状となるものの、コア90a内にのみ第1レーザ光LB1が伝送される場合に比べて、そのピーク値は低く、かつ半値幅は大きくなる(図7のケース3)。
【0047】
P1/P2=φ1/(φ2-φ1) ・・・(2)
P1とP2との比率を以下の式(3)に示す関係とすると、レーザ光LBのビームプロファイルのうち、コア90a内に伝送される成分に対応する部分のピーク値が低下し、第1クラッド90b内に伝送される成分に対応する部分のピーク値が高くなり、ビームプロファイルは双峰状となる(図7のケース4)。
【0048】
P1/P2<φ1/(φ2-φ1) ・・・(3)
さらに、P1がゼロで、P2が有限の値の場合、レーザ光LBのビームプロファイルは双峰状となり、かつ中心部でのパワーはゼロとなる(図7のケース5)。
【0049】
以上の説明では、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2のパワーを制御することで図7に示したビームプロファイルを得たが、両者のパワーを固定しても、第2レーザ光LB2の照射位置を変えることで図7に示した一部のビームプロファイルを得ることができる。例えば、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とのパワーが式(1)を満たすケース2について説明する。図7で既に説明したとおり、第2レーザ光LB2を第1クラッド90bに全部入れた場合に、ケース2のビームプロファイルが得られている。図5では図示していないが、第2レーザ光LB2の全部がコア90aに入射すると、図7のケース1と同じ形のビームプロファイルを得ることができる。ただし、このビームプロファイルには第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の両方が含まれる。また、第2レーザ光LB2の照射位置をコア90aと第1クラッド90bとの境界をまたがるようにすると、第2レーザ光LB2の一部のパワーがコア90aにも入るので、図7のケース2において、第1レーザ光LB1に対応する部分のビームプロファイルの高さを制御することができる。ただし、当該部分には第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の両方が含まれる。第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とのパワーが式(2)または式(3)に満たすケース3,4についての説明を省略するが、第2レーザビームLB2の照射位置を制御することによっても図7に示すケース1~4のビームプロファイルを得ることができる。
【0050】
以上説明したように、光ファイバ90の入射端面90dにおいて、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の入射位置をそれぞれ異ならせ、もしくは、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2のパワーを変化させることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのビームプロファイル、つまり、パワー分布を変化させることができる。
【0051】
また、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのビームプロファイルを変化させることで、ワーク200の加工形状、例えば、溶接形状を良好なものとすることができる。このことについてさらに説明する。
【0052】
図8は、ワークの溶接箇所の断面模式図であり、一般に、金属からなるワーク200をレーザ溶接する際、レーザ光LBが照射された部分が加熱されて溶け込みを生じ、溶融池210が形成される。また、レーザ光LBが照射された部分では溶融池210を構成する材料の蒸発が起こり、その反力で溶融池210の内部にキーホール220が形成される。
【0053】
例えば、図6に示すビームプロファイルを有するレーザ光LBをレーザ光出射ヘッド100からワーク200に向けて照射した場合、ビームプロファイルの各部分に含まれる第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の比率により、キーホール220の周囲では、次に示すようにレーザ光LBが吸収または反射される。
【0054】
まず、図8に示す経路Iを通るレーザ光LBの主成分は第1レーザ光LB1であり、第2レーザ光LB2が若干混合されている場合がある。経路Iを通るレーザ光LBは、キーホール220の内壁面で複数回反射されつつ、キーホール220の内部に進入し、溶融池210に吸収される。
【0055】
一方、経路IIを通るレーザ光LBの主成分は第2レーザ光LB2であり、第1レーザ光LB1が若干混合されている場合がある。経路IIを通るレーザ光LBは、一部がキーホール220の内壁面で反射されて溶融池210の外部に放射される。この放射分は、溶融池210及びキーホール220の形成に寄与しないため、損失となる。
【0056】
また、経路IIIを通るレーザ光LBのほとんどは第2レーザ光LB2である。経路IIIを通るレーザ光は、一部が溶融池210の表面で反射されてワーク200の外部に放射される。この放射分は、溶融池210及びキーホール220の形成に寄与しないため、損失となる。
【0057】
以上説明したように、経路II及びIIIを通るレーザ光LBの一部はレーザ溶接に寄与しない損失分となりうる。一方、前述したように、金属の光吸収率は波長が短くなる程高くなる。従って、経路II及びIIIを通るレーザ光LB、言い換えると、第1クラッド90bに入射される第2レーザ光LB2の第2波長λ2を第1レーザ光LB1の第1波長λ1よりも短い値に設定することで、ワーク200の母材金属や溶融池210での第2レーザ光LB2の吸収率が高くなるため、レーザ光LBの全体の損失を減らすことができる。
【0058】
例えば、図7のケース1に示すようなビームプロファイルのレーザ光LBでワーク200をレーザ溶接すると、ワーク200の溶け込み量が多くなりキーホール220が深くなる一方、キーホール220の開口221があまり拡がらず、キーホール220の内部でくびれ部(図示せず)を生じてしまうことがある。また、くびれ部が閉じてしまうことにより溶融池210の内部に気泡(図示せず)が残存してしまう。さらに、一度閉じたキーホール220がレーザ光LBの照射を受けて再度キーホール220が形成される際には、表面に向かって溶融金属が急激に噴出すると、ワーク200の表面にスパッタ(図示せず)が付着したり、溶融池210の表面が波立ったりする。このような波が生じると、レーザ溶接の進行方向に沿って、溶融池210の後方でワーク200の表面に凹凸211(後方振動部211ともいう)が生じてしまう。この波は溶融池210が急速に冷却されて固化すると、溶接ビード表面に凹凸211として残ってしまう。
【0059】
また、この波は溶融池210と凝固部分の端で反射して跳ね返ってくる。この反射波がキーホール220まで到達すると、キーホール220を埋めるように流れ込んでしまう。流れ込んだ溶融金属はレーザ光に急速加熱されて、金属蒸気を急に発生させるために、キーホール220の円柱状形状が乱れる。以上説明した、キーホール220の形状乱れや気泡やスパッタの発生や溶融池210の表面に生じる凹凸211は,溶接品質を低下させる要因となっていた。
【0060】
一方、本実施形態によれば、ビーム制御機構20を用いてレーザ光出射ヘッド100からワーク200に向けて照射されるレーザ光LBのパワー分布、具体的には、コア90aから出射される第1レーザ光LB1と第1クラッド90bから出射される第2レーザ光LB2のパワー比を変化させることができる。例えば、光学部材50の傾動角度を調整して、図6に示すようなビームプロファイルのレーザ光LBをワーク200に向けて照射することができる。
【0061】
このような場合、溶け込み深さは若干浅くなるものの、コア90aから出射された第1レーザ光LB1により所望の溶け込み深さが得られる。一方、第1クラッド90bから出射された第2レーザ光LB2によりキーホール220の開口221を拡げることができる。また、第2レーザ光LB2がキーホール220付近のワーク200を加熱し、より大きめの溶融池210をキーホール220の周りに形成する。そのため、キーホール220付近における溶融金属の量が増え、キーホール220から噴出した金属蒸気に伴って発生したキーホール220の開口221付近の溶融池210の振動を小さくすることができる。さらに、第2レーザ光LB2の第2波長λ2は第1レーザ光LB1の第1波長λ1よりも短いため、キーホール220の開口221付近の内壁面や溶融池210の表面でより多くの第2レーザ光LB2が吸収される。このことにより、キーホール220の開口221付近の内壁面同士がくっついて、くびれ部が形成されるのを抑制でき、ひいては溶融池210の内部に気泡が発生するのを抑制できる。また、キーホール220の内部から表面に向かって急激に溶融金属が噴出するのを幾分抑えられ、溶融池210の後方で溶融池210の表面に形成される凹凸211を小さくできる。さらに、キーホール220の開口221付近の溶融池210の振動を小さくすることができ、キーホール220の形状乱れを抑制することにもつながる。以上のことから、レーザ溶接における溶接品質を高めることができる。
【0062】
また、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布をレーザ溶接中に切り替えることによって、溶接品質を高めることができる。
【0063】
図9は、ワークの溶接シーケンスを示し、溶接開始直後では、ワーク200に溶融池210は形成されていない。溶接開始直後では、所望の溶け込み深さを得ることが望まれる。そのために、コントローラ80は、モータ70を駆動して、コア90aに第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2の両方を入射させる。これにより、ワーク200に照射されるレーザ光LBのスポット径を小さくし、溶接箇所におけるレーザ光LBのパワー密度を高めると共に、波長の短い第2レーザ光LB2によってワーク200のレーザ吸収率を高めている(第1照射ステップ)。一方、溶融池210及びキーホール220が形成された後には、前述したようなくびれ部等の形成を抑制することが望まれる。そのために、コントローラ80は、モータ70を駆動して、第1クラッド90bに第2レーザ光LB2を入射させる。これにより、キーホール220の開口221が拡がるようにし、かつ所望の溶け込み深さが得られるようにする(第2照射ステップ)。また、このときに、必要に応じて、第1レーザ光LB1のパワーまたは第2レーザ光LB2のパワーを変化させてもよい。
【0064】
このようにすることで、レーザ溶接において、ワーク200に確実に溶融池210及びキーホール220を形成できるとともに、ワーク200内部の気泡や表面の凹凸211等の発生を抑制して、溶接品質を高めることができる。
【0065】
また、これらに限られず、ワーク200の材質及び/またはワーク200におけるレーザ加工対象部位の形状に応じて、ビーム制御機構20を動作させて、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を制御することで、種々の材質や形状を有するワーク200をレーザ加工することができ、かつその加工品質を高められる。
【0066】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工装置1000は、レーザ光LBを発生させるレーザ発振器10と、コア90aと、コア90aの外周側にコア90aと同軸に設けられた第1クラッド90bと、第1クラッド90bの外周側にコア90aと同軸に設けられた第2クラッド90cと、を少なくとも有し、入射端面90dおよび入射端面90dとは反対の出射端を有する光ファイバ90と、レーザ発振器10に設けられ、レーザ光を光ファイバ90の入射端面90dに導入するビーム制御機構20と、光ファイバ90の出射端に取付けられ、レーザ光LBをワーク200に向けて照射するレーザ光出射ヘッド100と、を少なくとも備えている。
【0067】
レーザ発振器10は、第1波長λ1の第1レーザ光LB1を発生させる第1レーザ発振部11と、第1波長λ1と異なる第2波長λ2の第2レーザ光LB2を発生させる第2レーザ発振部12と、を有している。
【0068】
ビーム制御機構20は、第1レーザ光LB1を受け取って所定の倍率で集光する第1集光レンズ31と、第2レーザ光LB2を受け取って所定の倍率で集光する第2集光レンズ32と、第1集光レンズ31で集光された第1レーザ光LB1と第2集光レンズ32で集光された第2レーザ光LB2とを受け、第1レーザ光LB1の光軸が第2レーザ光LB2の光軸に一致するように第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とを合波してレーザ光LBを形成し、前記レーザ光を光ファイバ90の入射端面90dに向かわせるダイクロイックミラー(光合波部材)33と、を少なくとも有している。ここで、「一致」の用語は、第1レーザ光LB1の光軸が第2レーザ光LB2の光軸に重なること、および、第1レーザ光LB1の光軸が第2レーザ光LB2の光軸に所定の距離を保って近接すること、の両方を含む。
【0069】
また、ビーム制御機構20は、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の第2レーザ光LB2の光路上に配置され、第2レーザ光LB2の光路の変更と保持をする光路変更保持機構40と、光路変更保持機構40の動作を制御するコントローラ80と、を有している。本実施形態では、光路変更保持機構40は、平行平板状の光学部材50と、光学部材50に連結されたモータ70と、を備える。本実施形態では、コントローラ80は、モータ70の動作を制御する。
【0070】
ビーム制御機構20は、光ファイバ90の入射端面90dにおける第2レーザ光LB2の入射位置を変化させることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を制御する。
【0071】
このように、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の第2レーザ光LB2の光路上に光路変更保持機構40を設けることで、第2レーザ光LB2の光路を容易に変更することができる。このことにより、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を制御することができる。
【0072】
なお、第1集光レンズ31及び第2集光レンズ32に入射される前に、第1及び第2レーザ光LB1,LB2は平行光に変換されているのが好ましい。
【0073】
このようにすることで、第1集光レンズ31及び第2集光レンズ32から出射される第1及び第2レーザ光LB1,LB2の光路及び光軸がそれぞれ一定となるため、光路変更保持機構40によって第2レーザ光LB2の光路を容易に変更することができるとともに、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とを互いの光軸が重なるように、または近接させて(すなわち一致させて)合波し、合波されたレーザ光LBを光ファイバ90に入射させることが容易となる。
【0074】
また、光学部材50は、第2レーザ光LB2を透過させるとともに、第2レーザ光LB2の光軸と交差するX軸(第1軸)周りに傾動可能に設けられている。コントローラ80がモータ70を駆動して光学部材50をX軸周りに傾動させることで、ビーム制御機構20は光ファイバ90の入射端面90dにおける第2レーザ光LB2の入射位置を変化させる。
【0075】
第2レーザ光LB2の光路上に配置された平行平板状の光学部材50をX軸周りに傾動させることで、第2レーザ光LB2の光路を確実にかつ高速に変更することができる。このことにより、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を高速に変化させることができる。特に光学部材50の厚さが1mmから数mm程度であると、また、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の、集光された第2レーザ光LB2が通過する狭い位置に設置するため、その必要サイズが小さく、モータ70によって高速に傾動させることが容易となる。また所定の角度範囲で往復回転させることが容易となる。
【0076】
また、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との間の第2レーザ光LB2の光路上に予め光学部材50を配置し、これを傾動させて第2レーザ光LB2の光路を変更するため、特許文献2に開示されたように、レーザ装置の内部でレーザ光がけられることがない。このことにより、レーザ装置の損傷を抑制できるとともに、レーザ加工の加工品質を高く維持することができる。
【0077】
また、コントローラ80は、第1レーザ光LB1のパワーと第2レーザ光LB2のパワーとをそれぞれ制御している。コントローラ80が第1レーザ光LB1のパワーと第2レーザ光LB2のパワーに関するパワー比率を変化させることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布が制御されるようにしてもよい。
【0078】
このようにすることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を多段階にかつ容易に変化させることができる。
【0079】
また、ビーム制御機構20は、第1クラッド90bに第2レーザ光LB2を入射させるのが好ましく、第2波長λ2は第1波長λ1よりも短く第1レーザ光LB1のパワーに対する第2レーザ光LB2のパワーを変化させることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光のパワー分布を制御するのがより好ましい。
【0080】
このようにすることでレーザ光LBのビームプロファイルにおいて外側部分の主成分を短波長の第2レーザ光LB2とすることができ、金属のレーザ加工において、レーザ光LBの外側部分を有効に利用できる。
【0081】
ビーム制御機構20は、ワーク200の材質及びワーク200におけるレーザ加工対象部位の形状のうち少なくとも一方に応じて、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布を制御する。
【0082】
このようにすることで、種々の材質や形状を有するワーク200をレーザ加工することができ、かつその加工品質を高められる。また、本実施形態に係るレーザ加工装置1000をレーザ溶接に用いる場合は、外観が良好な溶接ビードを形成できる。
【0083】
ビーム制御機構20は、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布をワーク200のレーザ加工中に切り替えるように構成されているのが好ましい。
【0084】
また、本実施形態に係るレーザ加工方法は、ワーク200に向けて第1のパワー分布を有するレーザ光LBを照射する第1照射ステップと、引き続き、ワーク200に向けて第1のパワー分布とは異なる第2のパワー分布を有するレーザ光LBを照射する第2照射ステップと、を少なくとも備えている。
【0085】
第1照射ステップでは、ワーク200の表面に溶融池210及びキーホール220を形成し、第2照射ステップでは、キーホール220の開口221を拡げるとともに、所望の溶け込み深さとなるように溶融池210を成長させる。
【0086】
このようにすることで、例えば、ワーク200に照射されるレーザ光LBのパワー密度を高めて、溶接開始初期に溶融池210及びキーホール220を確実に形成できる。また、溶融池210及びキーホール220が形成された後は、ワーク200に照射されるレーザ光LBのパワー密度を低下させて、キーホール220の開口221が拡がるようにすることで、溶融池210の内部に気泡が発生したり、溶融池210の表面に凹凸211やスパッタが形成されたり、キーホール220の形状が乱れたりするのを抑制でき、溶接品質を高められる。また、外観が良好な溶接ビードを形成できる。
【0087】
(実施形態2)
図10は、本実施形態に係るワークの溶接シーケンスを示す。なお、図10において、実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0088】
モータ70を所定の角度範囲内で往復回転(図3に示す方向B)させることで、これに応じて光学部材50も所定の角度範囲内で往復回転する。また、その回転周波数は数Hzから数kHz程度までに設定されている。つまり、ビーム制御機構20は、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布をワーク200のレーザ加工中に切り替えるように構成されている。
【0089】
この場合、図10に示すように、レーザ光出射ヘッド100の出射端から出射されるレーザ光LBのパワー分布は周期的に変化する。具体的には、第2レーザ光LB2が、単峰状のピークを有するビームプロファイル(図7に示すケース1)から、単峰状の部分とその両側に形成された半値幅の広いテラス状の部分とを含むビームプロファイル(図7に示すケース2)、また中心部のパワーがゼロとなるビームプロファイル(図7に示すケース5)に至るまで連続的に変化し、かつその変化は周期的に繰り返される。また、光学部材50の回転周波数が、レーザ光LBのパワー分布が変化する周波数に相当する。
【0090】
このようにすることで、例えば、ワーク200に溶融池210とキーホール220とを確実に形成しつつ、第2レーザ光LB2を主成分とするレーザ光LBの外側部分を溶融池210に吸収させてキーホール220の開口221付近が狭まりすぎるのを防止して、気泡やスパッタの発生が抑制されたレーザ溶接を行うことができる。
【0091】
また、レーザ光LBのパワー分布を所定の周波数、この場合は、ワーク200に形成されたキーホール220の固有振動周波数に略等しい周波数で周期的に切り替えることにより、前述した溶融池210の後方に形成される凹凸211やキーホール220の形状乱れを効果的に抑制することができる。このことについてさらに説明する。
【0092】
レーザ溶接の進行方向に沿って溶融池210が順次形成されていく過程で、キーホール220もまた、レーザ溶接の進行方向に沿って移動していく。このとき、キーホール220は、固有の振動周波数(以下、単に固有振動周波数という)で直径方向及び/または深さ方向に伸長及び収縮を繰り返して振動している。固有振動周波数は、溶融池210のサイズや溶融したワーク200の構成金属の溶融時の粘性等によって定まる値であり、多くの場合、数Hzから数kHz程度と推定されている。
【0093】
この固有振動周波数に略等しい周波数でワーク200に照射されるレーザ光LBのパワー分布を周期的に変化させることで、キーホール220の形状が安定し、内部でのくびれ部の発生、ひいてはワーク200の内部での気泡の発生を抑制することができる。また、溶融池210の後方に形成される凹凸211を小さくすることができる。
【0094】
実際のレーザ溶接では、溶融池210の固有振動数を計測する、または求めることが困難であるが、レーザ溶接実験によってレーザ光LBのパワー分布を切り替える周波数を求めればよい。すなわち、予め数種類の切り替え周波数にてレーザ溶接実験を行い、その中で最も気泡の少ない、また良好なビード外観の周波数を決めればよい。
【0095】
<変形例>
ワーク200におけるレーザ溶接対象部位の形状がレーザ溶接の進行方向に沿って変化している場合、溶接対象部位の形状に応じて、ワーク200に照射されるレーザ光LBのパワー分布を適切に切り替えることで、良好なレーザ溶接を行うことができる。図11を用いてさらに説明する。
【0096】
図11は、本変形例に係るワークの溶接シーケンスを示し、ワーク200は、薄板部とそれに連続した厚板部とを有する形状となっている。厚板部の厚さは薄板部よりも厚くなっている。
【0097】
まず、薄板部をレーザ溶接するにあたって、図9に示すシーケンスでワーク200にレーザ光LBを照射する。所定以下の厚さの薄板部では、溶け込み深さをあまり深くしなくてよい。このため、一定した形状のビームプロファイルで溶接を行ってよい。具体的には、溶接開始時に単峰状のピークを有するビームプロファイルの第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2とをワーク200に照射し、安定な溶融池210とキーホール220を形成した後は、レーザ光LBのパワー分布がブロードとなるように、具体的には第1クラッド90bに第2レーザ光LB2を入射させて、キーホール220にくびれ部が形成されるのを抑制する。このとき、第1レーザ光LB1と第2レーザ光LB2のパワー比率は固定された状態でよい。なお、溶接開始時には、第2レーザ光LB2のみをワーク200に照射するようにしてもよい。
【0098】
次に、薄板部の溶接が終了して厚板部の溶接が開始される時点で、図10に示すシーケンスでワーク200にレーザ光を照射する。この場合、厚板部の接合強度を確保するために、溶け込み深さを深くすることが必要になる。溶け込み深さが深くなると、気泡が形成しやすくなるので、これを抑制することが求められる。図10に示すシーケンスを使用することによって溶融池210の固有振動周波数で第2レーザ光LB2のパワー分布を周期的に変化させつつ、ワーク200に向けてレーザ光LBを照射する。
【0099】
このようにすることで、溶け込み深さを深くしつつ、前述したようにワーク200内部の気泡や溶融池220表面の凹凸211やスパッタの発生を抑制して溶接品質を高めることができる。
【0100】
なお、ワーク200の材質や薄板部の厚さによっては、レーザ光LBのパワー分布がブロードとなるように固定した状態で薄板部の溶接を行うようにしてもよい。
【0101】
(その他の実施形態)
変形例を含む実施形態1,2において、図2に示す構造のマルチクラッドファイバを例に取って説明したが、他の構造であってもよい。例えば、第2クラッド90cの外周側に1または複数のクラッドを設けてもよい。この場合、第2クラッド90cから外周側へ向かって隣接するクラッドの屈折率を順次小さくすればよい。そうすることによって、最も外周側のクラッドを除くすべてクラッドに第2レーザ光LB2が入射可能となる。
【0102】
また、図3に示す構成では、ダイクロイックミラー33で第2レーザ光LB2を反射させるようにしたが、ダイクロイックミラー33で第1レーザ光LB1を反射させるようにしてもよい。つまり、図3に示す構成において、第1レーザ光LB1の入射方向と第2レーザ光LB2の入射方向とを入れ替えるとともに、第1集光レンズ31と第2集光レンズ32の配置を入れ替える。さらに、ダイクロイックミラー33は、第2レーザ光LB2をそのまま透過させる一方、第1レーザ光LB1を反射させるように構成される。この場合も、ダイクロイックミラー33を透過する前に、第1レーザ光LB1の光路が光路変更保持機構40、つまり光学部材50とモータ70とによって変更可能であるため、実施形態1,2に示すのと同様の効果を奏する。
【0103】
また、図3に示す構成や上記の構成において、第1集光レンズ31とダイクロイックミラー33との光路上に別の光路変更保持機構(図示せず)を設けるようにしてもよい。その場合、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との光路上に光路変更保持機構40を配置したままでもよい。
【0104】
このようにすることで、レーザ光出射ヘッド100から出射されるレーザ光LBのパワー分布をより細かく多段階にかつ容易に変化させることができ、種々の材質あるいは形状を有するワーク200をレーザ加工する上で有用である。なお、第1集光レンズ31とダイクロイックミラー33との光路上に別の光路変更保持機構を設ける場合に、第2集光レンズ32とダイクロイックミラー33との光路上の光路変更保持機構40を省略してもよい。
【0105】
なお、ワーク200の材質や形状、あるいは加工内容によって、第1レーザ光LB1及び第2レーザ光LB2の出力や波長は適宜変更されうる。
【0106】
また、実施形態1,2において、光学部材50をX軸周りに傾動させるようにしたが、Y方向に延びる軸周りに傾動させるようにしてもよい。その場合は、モータ70の出力軸70aがY方向に延びるようにモータ70及びホルダ60の位置が変更される。また、第2レーザ光LB2の入射方向はZ方向に変更される。また、光学部材50を傾動させるために、モータ70以外のアクチュエータ、例えば、圧電式アクチュエータ等を用いてもよい。
【0107】
なお、本願明細書では、溶融池210にキーホール220が形成される、いわゆるキーホール型レーザ溶接を例に取って説明したが、キーホール220が形成されない、いわゆる熱伝導型レーザ溶接に対して、前述したレーザ加工装置1000が適用可能であることは言うまでもない。ワーク200の材質や形状、また、要求される溶け込み深さや溶接ビードの幅等によってレーザ溶接のタイプは適宜選択しうる。また、レーザ溶接に限らず、レーザ切断やレーザ穴開け加工等に対して、前述したレーザ加工装置1000及び溶接シーケンスが適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のレーザ加工装置は、簡便な構成で互いに波長の異なるレーザ光が合波されたレーザ光のパワー分布を制御できるため、種々の材質あるいは形状を有するワークをレーザ加工する上で有用である。
【符号の説明】
【0109】
10 レーザ発振器
11 第1レーザ発振部
12 第2レーザ発振部
20 ビーム制御機構
31 第1集光レンズ
32 第2集光レンズ
33 ダイクロイックミラー(光合波部材)
40 光路変更保持機構
50 光学部材
60 ホルダ
70 モータ
70a 出力軸
80 コントローラ
90 光ファイバ
90a コア
90b 第1クラッド
90c 第2クラッド
90d 入射端面
100 レーザ光出射ヘッド
110 マニピュレータ
200 ワーク
210 溶融池
220 キーホール
221 開口
1000 レーザ加工装置
LB レーザ光
LB1 第1レーザ光
LB2 第2レーザ光
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11