(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】トレンチ型MOSFET
(51)【国際特許分類】
H01L 29/12 20060101AFI20231110BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20231110BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231110BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20231110BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20231110BHJP
H01L 29/423 20060101ALI20231110BHJP
H01L 29/49 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
H01L29/78 652T
H01L29/78 653C
H01L29/78 652K
H01L29/78 658F
H01L29/78 652P
H01L29/78 652N
H01L29/06 301F
H01L29/06 301V
H01L29/06 301M
H01L29/78 652C
H01L29/78 652E
H01L29/78 654C
H01L21/28 301B
H01L29/58 G
(21)【出願番号】P 2019234980
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-12-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-67915(JP,A)
【文献】特開2018-56463(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239632(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 21/28
H01L 29/423
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga
2O
3系単結晶からなり、一方の面に開口する複数のトレンチを有するn型半導体層と、
前記複数のトレンチの各々の内面に接して設けられたゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜に覆われた状態で前記複数のトレンチの各々に埋め込まれたゲート電極と、
前記n型半導体層の隣接する前記トレンチの間のメサ形状部に接続されたソース電極と、
前記n型半導体層の前記ソース電極と反対側に直接又は間接的に接続されたドレイン電極と、
を備え、
前記トレンチの幅方向の断面における前記トレンチの底部の縁の曲線の頂点における曲率半径を前記トレンチの幅で除した値が、0.0125以上、0.25以下の範囲内にある、
トレンチ型MOSFET。
【請求項2】
前記n型半導体層における隣接する2つの前記ゲート電極の間の領域におけるドナー濃度であるチャネル濃度が1×10
15cm-
3以下である場合、前記メサ形状部の幅であるメサ幅が0.5μm以下であり、
前記チャネル濃度が1×10
15cm-
3より大きく1×10
16cm-
3以下である場合、前記メサ幅が0.4μm以下であり、
前記チャネル濃度が1×10
16cm-
3より大きく2×10
16cm-
3以下である場合、前記メサ幅が0.3μm以下であり、
前記チャネル濃度が2×10
16cm-
3より大きく6×10
16cm-
3以下である場合、前記メサ幅が0.2μm以下である、
請求項1に記載のトレンチ型MOSFET。
【請求項3】
前記ゲート電極の仕事関数が5.0eV以上である、
請求項1又は2に記載のトレンチ型MOSFET。
【請求項4】
前記ゲート電極のゲート長が1μm以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
【請求項5】
前記n型半導体層が、前記n型半導体層と前記ソース電極とをオーミック接続させるためのコンタクト層を前記ソース電極との界面近傍に有し、
前記ゲート電極と前記コンタクト層との距離が0.1μm以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜における前記トレンチの底部の中心に接する部分の厚さが、0.2μm以上、0.5μm以下の範囲内、又は0.1μm以上、0.2μm未満の範囲内にある、
請求項1~5のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
【請求項7】
前記n型半導体層が、上部の縁に窪みが設けられたメサ形状を有し、
前記窪みの内面に前記ゲート電極が露出した、
請求項1~6のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチ型MOSFETに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲート電極が半導体層に埋め込まれたトレンチ型のGa2O3系MOSFETが知られている(例えば、特許文献1参照)。トレンチ型のMOSFETは、そのトレンチゲート構造により高い耐圧特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トレンチ型MOSFETにおいては、トレンチ構造を構成する各部材の形状やサイズによって耐圧特性が変わるが、優れた耐圧特性を得るための具体的な構造については知られていない。
【0005】
本発明の目的は、高耐圧かつ低損失を高い水準で実現することのできるトレンチゲート構造を有するトレンチ型MOSFETを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[7]のトレンチ型MOSFETを提供する。
【0007】
[1]Ga2O3系単結晶からなり、一方の面に開口する複数のトレンチを有するn型半導体層と、前記複数のトレンチの各々の内面に接して設けられたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜に覆われた状態で前記複数のトレンチの各々に埋め込まれたゲート電極と、前記n型半導体層の隣接する前記トレンチの間のメサ形状部に接続されたソース電極と、前記n型半導体層の前記ソース電極と反対側に直接又は間接的に接続されたドレイン電極と、を備え、前記トレンチの幅方向の断面における前記トレンチの底部の縁の曲線の頂点における曲率半径を前記トレンチの幅で除した値が、0.0125以上、0.25以下の範囲内にある、トレンチ型MOSFET。
[2]前記n型半導体層における隣接する2つの前記ゲート電極の間の領域におけるドナー濃度であるチャネル濃度が1×1015cm-3以下である場合、前記メサ形状部の幅であるメサ幅が0.5μm以下であり、前記チャネル濃度が1×1015cm-3より大きく1×1016cm-3以下である場合、前記メサ幅が0.4μm以下であり、前記チャネル濃度が1×1016cm-3より大きく2×1016cm-3以下である場合、前記メサ幅が0.3μm以下であり、前記チャネル濃度が2×1016cm-3より大きく6×1016cm-3以下である場合、前記メサ幅が0.2μm以下である、上記[1]に記載のトレンチ型MOSFET。
[3]前記ゲート電極の仕事関数が5.0eV以上である、上記[1]又は[2]に記載のトレンチ型MOSFET。
[4]前記ゲート電極のゲート長が1μm以上である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
[5]前記n型半導体層が、前記n型半導体層と前記ソース電極とをオーミック接続させるためのコンタクト層を前記ソース電極との界面近傍に有し、前記ゲート電極と前記コンタクト層との距離が0.1μm以上である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
[6]前記ゲート絶縁膜における前記トレンチの底部の中心に接する部分の厚さが、0.2μm以上、0.5μm以下の範囲内、又は0.1μm以上、0.2μm未満の範囲内にある、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
[7]前記n型半導体層が、上部の縁に窪みが設けられたメサ形状を有し、前記窪みの内面に前記ゲート電極が露出した、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のトレンチ型MOSFET。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高耐圧かつ低損失を高い水準で実現することのできるトレンチゲート構造を有するトレンチ型MOSFETを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係るトレンチ型MOSFETの垂直断面図である。
【
図2】
図2は、トレンチ型MOSFETのトレンチの底部近傍を拡大した、
図1の部分拡大図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態に係るトレンチ型MOSFETの変形例の垂直断面の部分拡大図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、チャネル層のチャネル濃度とメサ幅を変化させたときの、ソース電極とドレイン電極との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)~(c)は、チャネル層のチャネル濃度とメサ幅を変化させたときの、ソース電極とドレイン電極との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ゲート電極の仕事関数を変化させたときの、ソース電極とドレイン電極との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ゲート電極のゲート長を変化させたときの、ソース電極とドレイン電極との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ゲート電極とコンタクト層との距離を変化させたときの、ソース電極とドレイン電極との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、ゲート絶縁膜の厚さと、n型半導体層中の最大電界強度との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10(a)、(b)は、メサ深さと、n型半導体層中の最大電界強度との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)、(b)は、メサ深さと、n型半導体層中の最大電界強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施の形態〕
(トレンチ型MOSFETの構成)
図1は、第1の実施の形態に係るトレンチ型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1の垂直断面図である。トレンチ型MOSFET1は、トレンチゲート構造を有する縦型の電界効果トランジスタである。なお、本実施の形態のトレンチ型MOSFET1は、後述するゲート絶縁膜13が酸化物以外の材料からなる構成も含むものとする。
【0011】
トレンチ型MOSFET1は、n型半導体基板10と、n型半導体基板10に積層される層であって、そのn型半導体基板10と反対側の面18に開口する複数のトレンチ16を有するn型半導体層11と、複数のトレンチ16の各々の内面に接して設けられたゲート絶縁膜13と、ゲート絶縁膜13に覆われた状態で複数のトレンチ16の各々に埋め込まれたゲート電極12と、n型半導体層11の隣接するトレンチ16の間のメサ形状部17に接続されたソース電極14と、n型半導体基板10のn型半導体層11と反対側の面上に形成されたドレイン電極15と、を備える。
【0012】
トレンチ型MOSFET1は、ノーマリーオフ型でもノーマリーオン型でもよいが、パワーデバイスとして用いられる場合には、安全性の観点から、通常、ノーマリーオフ型に製造される。ゲート回路の断線等によりゲートが制御不能になった時にソース電極14とドレイン電極15が導通することを防ぐためである。
【0013】
ノーマリーオフ型のトレンチ型MOSFET1においては、ゲート電極12とソース電極14との間に閾値電圧以上の電圧を印加することにより、メサ形状部17にチャネルが形成され、ドレイン電極15からソース電極14に電流が流れる。
【0014】
n型半導体基板10は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa2O3系単結晶からなる。n型半導体基板10のドナー濃度は、例えば、1.0×1018cm-3以上かつ1.0×1020cm-3以下である。n型半導体基板10の厚さは、例えば、10μm以上かつ600μm以下である。
【0015】
ここで、Ga2O3系単結晶とは、Ga2O3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa2O3単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa2O3単結晶である(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。なお、上記のGa2O3単結晶は、例えば、β型の結晶構造を有する。
【0016】
n型半導体基板10の面方位は、特に限定されないが、n型半導体層11を構成するGa2O3系単結晶の成長速度が大きくなる(001)面であることが好ましい。または、表面が平坦なGa2O3系単結晶膜を成長できる(011)面であることが好ましい。
【0017】
n型半導体層11は、ドナーとしてのSi、Sn等のIV族元素を含むn型のGa2O3系単結晶からなる。
【0018】
n型半導体層11は、ゲート電極12が埋め込まれ、ゲート電圧を印加した際にチャネルが形成されるチャネル層11bと、チャネル層11bの下の耐圧を保持するための耐圧層11aと、ソース電極14との界面近傍にイオン注入もしくはエピタキシャル成長等により形成された、ソース電極14をn型半導体層11にオーミック接続させるためのコンタクト層11cとを有する。
【0019】
ここで、n型半導体層11における、トレンチ16の底の高さよりも下側(n型半導体基板10側)の領域が耐圧層11aであり、その厚さをTpとする。また、n型半導体層11における、トレンチ16の底の高さよりも上側(ソース電極14側)の領域がチャネル層11bであり、チャネル層11bの上端近傍にコンタクト層11cが設けられている。
【0020】
耐圧層11aの厚さTpは、トレンチ型MOSFET1の耐圧特性を決定するパラメータの1つであり、Ga2O3の絶縁破壊電界強度をバンドギャップからの推定値である8MV/cm一定と仮定すると、例えば、家電や車載などに用いられる耐圧600Vの性能を得るためには少なくとも1~2μm程度以上必要であり、産業機器などに用いられる耐圧1200Vを得るためには3μm程度以上、新幹線など大型の輸送設備に用いられる耐圧3300Vを得るためには8~9μm程度以上、発送電などの大電力用途での耐圧6600Vを得るためには16~17μm程度以上、中圧遮断機での耐圧1.2万Vを得るためには30μm程度以上、高圧遮断機での耐圧10万Vを得るためには250μm程度以上必要である。
【0021】
なお、Ga2O3の最大絶縁破壊電界強度は現時点で実測できておらず、仮に実測されている中での最大値である4MV/cm程度だった場合、上記の膜厚は2倍必要となる。例えば、耐圧10万Vを得るためには500μm程度必要になる。600Vより低い小型家電用の耐圧を得る場合には、厚さTpは1μmより薄くてもよいが、製造安定性の点から、最低でも1μm程度はあることが好ましい。そのため、厚さTpは1μm以上かつ500μm以下であることが好ましい。
【0022】
耐圧層11aのドナー濃度は、トレンチ型MOSFET1の耐圧特性を決定するパラメータの1つであり、Ga2O3の絶縁破壊電界強度を8MV/cm一定と仮定すると、耐圧600Vを得るためには1.8×1017cm-3程度以下、耐圧1200Vを得るためには9×1016cm-3程度以下、耐圧3300Vを得るためには3×1016cm-3程度以下、耐圧1万Vを得るためには1×1016cm-3程度以下が好ましい。600Vより低い耐圧を得る場合や1万Vより高い耐圧を得るためには、それぞれ適切な濃度に設定すればよい。また、Ga2O3の最大絶縁破壊電界強度が4MV/cm程度であった場合、上記の濃度はそれぞれ5分の1程度以下となる。
【0023】
チャネル層11bのチャネル濃度(隣接する2つのゲート電極12の間の領域におけるドナー濃度)とメサ形状部17の幅であるメサ幅Wmは、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型かノーマリーオン型かを決定するパラメータの1つであり、ノーマリーオフ型を形成する場合はチャネル濃度を低くメサ幅Wmを狭く、ノーマリーオン型を形成する場合はチャネル濃度を高くメサ幅Wmを広くすればよい。
【0024】
トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合は、オフリーク電流を抑えるため、例えば、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1015cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.5μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1015cm-3より大きく1×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.4μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1016cm-3より大きく2×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.3μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が2×1016cm-3より大きく6×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.2μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、メサ形状の領域の幅Wmが小さいほどチャネル濃度を高くできるため、チャネル層11bのオン抵抗を低減できる。一方で、幅Wmが狭いほど製造難易度が上がり、それに起因して製造歩留まりが低下するという問題がある。
【0026】
このため、例えば、一般的なステッパーを用いたパターニングによりトレンチ16を形成する場合は、メサ形状の領域の幅Wmは0.5μm以上かつ2μm以下であることが好ましく、より解像度の高いEB(electron beam)描画によるパターニングによりトレンチ16を形成する場合は、メサ形状の領域の幅Wmは0.1μm以上かつ2μm以下であることが好ましい。
【0027】
トレンチ16の幅Wtについても、露光装置の解像度に依存するため、使用する露光装置の種類に応じて、メサ形状の領域の幅Wmと同様の数値範囲で設定されることが好ましい。
【0028】
コンタクト層11cの厚さは、例えば、10nm以上かつ5μm以下である。コンタクト層11cのドナー濃度は、チャネル層11bのチャネル濃度よりも高く、例えば、1×1018cm-3以上かつ1×1021cm-3以下である。
【0029】
ゲート電極12は、導体、すなわちNi等の金属や、高濃度のドナーを含む半導体からなる。オフリーク電流を抑えるため、例えば、ゲート電極12の仕事関数は5.0eV以上であることが好ましく、ゲート電極12のゲート長(n型半導体層11の厚さ方向の長さ)Lgは1μm以上であることが好ましく、ゲート電極12とコンタクト層11cとの距離Lcは0.1μm以上であることが好ましい。
【0030】
ゲート絶縁膜13は、例えば、ゲート電極12の側面及び底面を覆い、ゲート電極12をn型半導体層11から絶縁する部分13aと、ゲート電極12の上面を覆い、ゲート電極12をソース電極14から絶縁する部分13bを有する。ゲート絶縁膜13の部分13aと部分13bは、例えば、それぞれHfO2、SiO2からなる。ゲート絶縁膜13の部分13aは単一の膜であり、例えば、1つの工程において、1つの材料から一体的に形成される。ゲート絶縁膜13の部分13bの厚さは、例えば、50nm以上かつ2000nm以下である。
【0031】
n型半導体層11は、例えば、HVPE法等により形成されたエピタキシャル成長膜からなる。HVPE法によりn型半導体層11を形成する場合、Ga2O3系単結晶の原料やドーパント原料に塩化物ガスが用いられるため、n型半導体層11はGa2O3系単結晶の原料やドーパント原料に由来するClを含む。
【0032】
HVPE法を用いる場合、結晶成長速度が速いため、成膜時間の短縮やコストの低減を図ることができる。この点、n型半導体層11を厚く形成する場合に特に有利である。また、HVPE法を用いる場合、結晶品質がよいn型半導体層11を形成できるため、製造歩留まりを向上させることができる。また、高純度なn型半導体層11を形成できるため、ドナー濃度を高精度に制御することができる。
【0033】
なお、コンタクト層11cは、エピタキシャル成長により形成されたチャネル層11bの上部に、イオン注入法を用いてドナーを注入することにより形成してもよいが、ドナー不純物を添加しながらのGa2O3系単結晶の結晶成長により形成することにより、製造コストを抑えることができる。
【0034】
ソース電極14は、n型半導体層11の上面18上に形成され、メサ形状部17に接続される。ドレイン電極15は、
図1に示されるように、n型半導体基板10のn型半導体層11と反対側の面に接続されるが、トレンチ型MOSFET1がn型半導体基板10を含まない場合には、n型半導体層11のソース電極14と反対側の面に接続されてもよい。すなわち、ドレイン電極15は、n型半導体層11のソース電極14と反対側に直接又は間接的に接続される。
【0035】
ソース電極14、ドレイン電極15は、n型半導体層11のコンタクト層11c、n型半導体基板10にそれぞれオーミック接続される。ソース電極14及びドレイン電極15は、例えば、Ti/Au積層構造を有する。
【0036】
図2は、トレンチ型MOSFET1のトレンチ16の底部近傍を拡大した、
図1の部分拡大図である。
図2においては、等電位線(点線)により、n型半導体層11中の電界分布の一例が模式的に示されている。また、
図2の電界分布の“E
max”で示される領域は、電界強度が最大値E
maxをとる領域である。
【0037】
n型半導体層11中の最大電界強度E
maxの大きさは、
図2に示されるトレンチ16の幅方向(幅W
tの方向)の断面における、トレンチ16の底部の縁(幅方向の端部)160の曲線の頂点における曲率半径R
1に依存する。
【0038】
図2に示される円C
1は、トレンチ16の幅方向の断面における、トレンチ16の底部の縁160の曲線の頂点近傍を円弧と近似したときのその円弧を含む円であり、円C
1の半径が曲率半径R
1に相当する。また、
図2に示される円C
2は、トレンチ16の幅方向の断面における、ゲート電極12の底部の縁120の曲線の頂点近傍を円弧と近似したときのその円弧を含む円であり、円C
2の半径に相当するゲート電極12の底部の縁120の曲線の頂点における曲率半径をR
2とする。
【0039】
n型半導体層11中の最大電界強度Emaxの大きさを低く抑えるためには、この曲率半径R1をトレンチ16の幅Wtで規格化した値、すなわちトレンチ16の幅Wtで除した値が、0.0125以上、0.25以下の範囲内にあることが好ましい。
【0040】
ここで、曲率半径R1をトレンチ16の幅Wtで規格化するのは、曲率半径R1が同じでもトレンチ16の幅Wtによって最大電界強度Emaxの大きさが変わる場合があるためである。例えば、曲率半径R1に対するトレンチ16の幅Wtが小さい場合は、トレンチ16の底部の両側の縁160の近傍の電界が合成され、最大電界強度Emaxが大きくなる。
【0041】
ゲート絶縁膜13(部分13a)におけるトレンチ16の底部の中心に接する部分の厚さT1は、n型半導体層11(主に耐圧層11a)中の電界強度を低く抑えるため、例えば、0.2μm以上、0.5μm以下の範囲内にあることが好ましい。また、ゲート絶縁膜13の形成容易性の観点からは、厚さT1は0.1μm以上、0.2μm未満の範囲内にあることが好ましい。
【0042】
ゲート絶縁膜13(部分13a)におけるトレンチ16の側部に接する部分の厚さT2は、ゲートリーク電流を抑えるため、例えば、0.02μm以上であることが好ましい。
【0043】
ゲート絶縁膜13は、例えば、原子層堆積法(ALD)により形成される。ALDなどを用いた一般的な工程によりゲート絶縁膜13の部分13aを形成すると、その厚さは均一になる。例えば、ゲート絶縁膜13(部分13a)におけるトレンチ16の底部の縁160の湾曲部の頂点に接する部分の厚さT3と厚さT1を異ならせる場合は、例えば、スパッタリングなどの異方性の強い成膜法とALDを組み合わせる2段階成膜や、成膜後のエッチング加工を用いることができる。
【0044】
図3は、第1の実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1の変形例の垂直断面の部分拡大図である。
図3に示される変形例においては、n型半導体層11が上部の縁に窪み110を有し、その全体がメサ形状となっている。このメサ形状においては、
図3に示されるように、n型半導体層11の上部の縁が、そこに含まれるゲート電極12とそれを覆うゲート絶縁膜13の一部とともに、窪み110によって削り取られており、窪み110の内面にゲート電極12が露出している。なお、図示しないが、通常、表面保護のために、ゲート電極12が露出している窪み110の内面上に絶縁膜が形成される。
【0045】
n型半導体層11がメサ形状を有する場合、窪み110の底部の内側の縁111の近傍に電界が集中し、この電界の大きさは、窪み110のトレンチ16の底からの深さであるメサ深さDmに依存する。このため、ソース電極14とドレイン電極15との間に印加する電圧の大きさなどに応じてメサ深さDmを適切な大きさに設定することにより、n型半導体層11(主に耐圧層11a)中の電界強度を低く抑えることができる。
【0046】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1によれば、トレンチ16の形状により優れた耐圧特性を得られるため、n型半導体層11の抵抗を増加させることなく所望の耐圧を得ることができる。このため、高耐圧と低損失を高い水準で両立させることができる。
【実施例1】
【0047】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、トレンチ16の幅方向の断面におけるトレンチ16の底部の縁160の曲線の頂点における曲率半径R1とn型半導体層11中の電界強度の最大値Emaxとの関係をシミュレーションにより調べた。
【0048】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.05μm、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を38μm、耐圧層11aのドナー濃度を8×1015cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0049】
次の表1に、トレンチ16の幅方向の断面における、トレンチ16の底部の縁160の曲線の頂点における曲率半径R1と、ゲート電極12の底部の縁120の曲線の頂点における曲率半径R2を変化させたときのn型半導体層11中の電界強度の最大値Emax(MV/cm)の値を示す。
【0050】
【0051】
次の表2は、表1の曲率半径R1と曲率半径R2をそれぞれトレンチ16の幅Wtで規格化した曲率半径Rn1と曲率半径Rn2で置き換えた表である。なお、幅Wtでの規格化により、ゲート絶縁膜13の厚さT1は0.125となる。
【0052】
【0053】
表2によれば、曲率半径R1をトレンチ16の幅Wtで規格化した曲率半径Rn1が0.0125以上、0.25以下の範囲内にあるときに、n型半導体層11中の電界強度の最大値Emaxが8MV/cm以下に抑えられている。8MV/cmは、上述のように、バンドギャップの大きさから推定されるGa2O3の絶縁破壊電界強度である。
【0054】
この結果から、n型半導体層11中の電界の最大値Emaxの大きさを低く抑えるためには、この曲率半径R1をトレンチ16の幅Wtで規格化した値、すなわちトレンチ16の幅Wtで除した値が、0.0125以上、0.25以下の範囲内にあることが好ましいといえる。
【0055】
なお、一般に、導体中の電荷は互いに反発するため導体の角部に集中し、その角部の曲率半径が小さいほど電界が集中しやすい。このため、従来は、トレンチ型MOSFETにおけるゲート電極の底部の縁の曲率半径が大きいほど電界の集中が抑えられると考えられていた。しかしながら、本発明者による鋭意研究の結果、表1に示されるように、ゲート電極12の底部の縁の曲線の頂点における曲率半径と等しい曲率半径R2が電界強度に及ぼす影響はそれほど大きくなく、従来は電界強度との関係が薄いと考えられていたトレンチ16の底部の縁160の曲線の頂点における曲率半径R1が電界強度に及ぼす影響が大きいという、従来の考えからは予測し難い結果が得られた。
【0056】
次の表3に、表1の範囲で曲率半径R1と曲率半径R2を変化させたときの、ゲート絶縁膜13(部分13a)におけるトレンチ16の底部の縁160の湾曲部の頂点に接する部分の厚さT3の値を示す。
【0057】
【0058】
次の表4は、表3の曲率半径R1と曲率半径R2をそれぞれトレンチ16の幅Wtで規格化した曲率半径Rn1と曲率半径Rn2で置き換えた表である。
【0059】
【0060】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例2】
【0061】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合の、チャネル層11bのチャネル濃度(隣接する2つのゲート電極12の間の領域におけるドナー濃度)とメサ幅Wmがオフリーク電流(オフ状態で生じるリーク電流)の大きさに及ぼす影響をシミュレーションにより調べた。
【0062】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.05μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を50μmと設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0063】
図4(a)~(c)、
図5(a)~(c)は、チャネル層11bのチャネル濃度とメサ幅W
mを変化させたときの、ソース電極14とドレイン電極15との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
図4(a)~(c)、
図5(a)~(c)の各々においては、チャネルの開閉の指標となるオフリーク電流の大きさである1×10
-4A/cm
2が点線で示されている。
【0064】
図4(a)、(b)、(c)は、それぞれチャネル層11bのチャネル濃度が1×10
15cm-
3、5×10
15cm-
3、1×10
16cm-
3であるときの特性を示す。
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれチャネル層11bのチャネル濃度が2×10
16cm-
3、4×10
16cm-
3、6×10
16cm-
3であるときの特性を示す。
【0065】
図4(a)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が1×10
15cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.5μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0066】
図4(b)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が5×10
15cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.4μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0067】
図4(c)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が1×10
16cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.4μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0068】
図5(a)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が2×10
16cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.3μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0069】
図5(b)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が4×10
16cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.2μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0070】
図5(c)によれば、チャネル層11bのチャネル濃度が6×10
16cm-
3である場合、メサ幅W
mが0.2μm以下であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0071】
これらの結果から、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合は、オフリーク電流を抑えるため、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1015cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.5μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1015cm-3より大きく1×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.4μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が1×1016cm-3より大きく2×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.3μm以下、チャネル層11bのチャネル濃度が2×1016cm-3より大きく6×1016cm-3以下である場合にはメサ幅Wmは0.2μm以下であることが好ましいといえる。
【0072】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例3】
【0073】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合の、ゲート電極12の仕事関数がオフリーク電流の大きさに及ぼす影響をシミュレーションにより調べた。
【0074】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.05μm、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を32.5μm、耐圧層11aのドナー濃度を1×1016cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0075】
図6は、ゲート電極12の仕事関数Wを変化させたときの、ソース電極14とドレイン電極15との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
図6においては、チャネルの開閉の指標となるオフリーク電流の大きさである1×10
-4A/cm
2が点線で示されている。
【0076】
図6によれば、ゲート電極12の仕事関数Wが5.0eV以上であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0077】
この結果から、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合は、オフリーク電流を抑えるため、ゲート電極12の仕事関数は5.0eV以上であることが好ましいといえる。
【0078】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例4】
【0079】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合の、ゲート電極12のゲート長Lgがオフリーク電流の大きさに及ぼす影響をシミュレーションにより調べた。
【0080】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.05μm、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を32.5μm、耐圧層11aのドナー濃度を1.2×1016cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0081】
図7は、ゲート電極12のゲート長L
gを変化させたときの、ソース電極14とドレイン電極15との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
図7においては、チャネルの開閉の指標となるオフリーク電流の大きさである1×10
-4A/cm
2が点線で示されている。
【0082】
図7によれば、ゲート電極12のゲート長L
gが1μm以上であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0083】
この結果から、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合は、オフリーク電流を抑えるため、ゲート電極12のゲート長Lgは1μm以上であることが好ましいといえる。
【0084】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例5】
【0085】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合の、ゲート電極12とコンタクト層11cとの距離Lcがオフリーク電流の大きさに及ぼす影響をシミュレーションにより調べた。
【0086】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.05μm、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を32.5μm、耐圧層11aのドナー濃度を1.2×1016cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0087】
図8は、ゲート電極12とコンタクト層11cとの距離L
cを変化させたときの、ソース電極14とドレイン電極15との間に印加される電圧と、オフリーク電流との関係を示すグラフである。
図8においては、チャネルの開閉の指標となるオフリーク電流の大きさである1×10
-4A/cm
2が点線で示されている。
【0088】
図8によれば、ゲート電極12とコンタクト層11cとの距離L
cが0.1μm以上であれば、ソース電極14とドレイン電極15との間に10kVの電圧を印加しても、オフリーク電流の大きさが1×10
-4A/cm
2に達せず、チャネルが閉じているといえる。
【0089】
この結果から、トレンチ型MOSFET1がノーマリーオフ型である場合は、オフリーク電流を抑えるため、ゲート電極12とコンタクト層11cとの距離Lcは0.1μm以上であることが好ましいといえる。
【0090】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例6】
【0091】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、ゲート絶縁膜13(部分13a)におけるトレンチ16の底部の中心に接する部分の厚さT1とn型半導体層11中の最大電界強度Emaxとの関係をシミュレーションにより調べた。
【0092】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)を45μm、耐圧層11aのドナー濃度を8×1015cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した。
【0093】
図9は、ゲート絶縁膜13の厚さT
1と、n型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係を示すグラフである。次の表5に、
図9のプロット点の数値を示す。
【0094】
【0095】
図9によれば、厚さT
1を増加させていくと、およそ0.5μmまで最大電界強度E
maxが急激に減少する。このため、n型半導体層11中の電界強度を低く抑えるために、厚さT
1は0.2μm以上、0.5μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0096】
一方で、厚さT1が大きいほどトレンチ16内へのゲート絶縁膜13(部分13a)の形成が困難になる。このため、ゲート絶縁膜13の形成容易性の観点からは、厚さT1は0.1μm以上、0.2μm未満の範囲内にあることが好ましい。
【0097】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例7】
【0098】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、n型半導体層11が
図3に示されるメサ形状を有する場合の、メサ深さD
mとn型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係をシミュレーションにより調べた。
【0099】
このシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa
2O
3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO
2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT
1を0.15μm、メサ形状部17の幅W
mを0.4μm、窪み110の幅方向の断面(
図3に示される断面)における、窪み110の底部の内側の縁111の曲線の頂点における曲率半径を0.2μmと設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に0.6~10kVの電圧を印加した。
【0100】
まず、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した場合のシミュレーション結果を示す。耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)は33.4μm、耐圧層11aのドナー濃度は8×1015cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定した。
【0101】
図10(a)は、ドレイン電極15に10kVの電圧を印加した場合のメサ深さD
mと、n型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係を示すグラフである。次の表6に、
図10(a)のプロット点の数値を示す。
【0102】
【0103】
図10(a)によれば、メサ深さD
mの増加に伴ってn型半導体層11中の最大電界強度E
maxが減少し、およそ10μm以上でバンドギャップの大きさから推定されるGa
2O
3の絶縁破壊電界強度である8eVを下回る。
【0104】
次に、ドレイン電極15に3.3kVの電圧を印加した場合のシミュレーション結果を示す。耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)は10.4μm、耐圧層11aのドナー濃度は3×1016cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定した。
【0105】
図10(b)は、ドレイン電極15に3.3kVの電圧を印加した場合のメサ深さD
mと、n型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係を示すグラフである。次の表7に、
図10(b)のプロット点の数値を示す。
【0106】
【0107】
図10(b)によれば、メサ深さD
mの増加に伴ってn型半導体層11中の最大電界強度E
maxが減少し、およそ0.8μm以上でバンドギャップの大きさから推定されるGa
2O
3の絶縁破壊電界強度である8eVを下回る。
【0108】
次に、ドレイン電極15に1.2kVの電圧を印加した場合のシミュレーション結果を示す。耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)は3.5μm、耐圧層11aのドナー濃度は9×1016cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定した。
【0109】
図11(a)は、ドレイン電極15に1.2kVの電圧を印加した場合のメサ深さD
mと、n型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係を示すグラフである。次の表8に、
図11(a)のプロット点の数値を示す。
【0110】
【0111】
図11(a)によれば、メサ深さD
mの増加に伴ってn型半導体層11中の最大電界強度E
maxが減少し、およそ0.4μm以上でバンドギャップの大きさから推定されるGa
2O
3の絶縁破壊電界強度である8eVを下回る。
【0112】
次に、ドレイン電極15に0.6kVの電圧を印加した場合のシミュレーション結果を示す。耐圧層11aの厚さTp(n型半導体層11における、トレンチ16の底からn型半導体基板10との界面までの距離)は2.9μm、耐圧層11aのドナー濃度は1.8×1017cm-3、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定した。
【0113】
図11(b)は、ドレイン電極15に0.6kVの電圧を印加した場合のメサ深さD
mと、n型半導体層11中の最大電界強度E
maxとの関係を示すグラフである。次の表9に、
図11(b)のプロット点の数値を示す。
【0114】
【0115】
図11(b)によれば、メサ深さD
mの増加に伴ってn型半導体層11中の最大電界強度E
maxが減少し、およそ0.6μm以上でバンドギャップの大きさから推定されるGa
2O
3の絶縁破壊電界強度である8eVを下回る。
【0116】
上記の結果から、ドレイン電極15への印加電圧が0.6~10kVである場合に、適切なメサ深さDmを有するメサ形状を設けることにより、n型半導体層11中の電界強度を低く抑えられることが確認された。
【0117】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【実施例8】
【0118】
上記実施の形態に係るトレンチ型MOSFET1について、所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpとの関係をシミュレーションにより調べた。
【0119】
このシミュレーションにおいては、トレンチ型MOSFET1n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2、ゲート絶縁膜13におけるトレンチ16の底部に接する部分の厚さT1を0.15μm、トレンチ16の幅方向の断面における、トレンチ16の底部の縁160の曲線の頂点における曲率半径R1を0.06μm、ゲート電極12の底部の縁120の曲線の頂点における曲率半径R2を0.2μm、ゲート電極12のゲート長Lgを0.9μm、メサ形状部17の幅Wmを0.4μm、チャネル層11bのドナー濃度を1×1016cm-3と設定し、ソース電極14及びゲート電極を接地(0Vを印加)し、ドレイン電極15に所望の電圧を印加した。
【0120】
次の表10に、Ga2O3の絶縁破壊電界強度が8MV/cmであると想定した場合の所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpの好適な数値を示す。
【0121】
【0122】
次の表11に、Ga2O3の絶縁破壊電界強度が7MV/cmであると想定した場合の所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpの好適な数値を示す。
【0123】
【0124】
次の表12に、Ga2O3の絶縁破壊電界強度が6MV/cmであると想定した場合の所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpの好適な数値を示す。
【0125】
【0126】
次の表13に、Ga2O3の絶縁破壊電界強度が5MV/cmであると想定した場合の所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpの好適な数値を示す。
【0127】
【0128】
次の表14に、Ga2O3の絶縁破壊電界強度が4MV/cmであると想定した場合の所望の耐圧を得るための耐圧層11aのドナー濃度と厚さTpの好適な数値を示す。
【0129】
【0130】
なお、本実施例のシミュレーションにおいては、n型半導体層11の材料(母結晶)をGa2O3単結晶に設定したが、他のGa2O3系単結晶に設定した場合でも同様の結果が得られる。同様に、ゲート絶縁膜13の材料をHfO2に設定したが、SiO2に設定した場合でも同様の結果が得られる。
【0131】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、本発明のトレンチ型MOSFETのトレンチ構造は、トレンチMOS型SBD(Schottky Barrier Diode)にも適用できる。
【0132】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0133】
1…トレンチ型MOSFET、 10…n型半導体基板、 11…n型半導体層、 12…デート電極、 13…ゲート絶縁膜、 14…ソース電極、 15…ドレイン電極、 16…トレンチ、 17…メサ形状部