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特許7382564生体貼付用膜、生体貼付用シート、キット、及び美容方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】生体貼付用膜、生体貼付用シート、キット、及び美容方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20231110BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/88 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20231110BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 31/717 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231110BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231110BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/02
A61K8/81
A61K8/88
A61K8/34
A61K8/35
A61K8/42
A61K8/46
A61Q19/00
A61K47/38
A61K31/717
A61K47/32
A61K31/785
A61K47/10
A61K47/08
A61K47/18
A61K47/20
A61K9/70 401
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019136500
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021020861
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】川島 知子
(72)【発明者】
【氏名】谷池 優子
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168518(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092362(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/187404(WO,A1)
【文献】特開2012-025704(JP,A)
【文献】特開2018-002599(JP,A)
【文献】特開2018-197356(JP,A)
【文献】特開2009-091274(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104963086(CN,A)
【文献】上田伸一ほか,添加剤の溶解性パラメータに関する考察,塗料の研究,No.152,2010年10月,p.41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/33-33/44
C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースを含む構造を有し、
分子と、受容体刺激成分とを含有し、
20nm以上2000nm以下の厚みを有し、
前記高分子は、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ポリビニルブチラール、及びナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
前記受容体刺激成分は、メントール、カンフル、バニリルエーテル誘導体、カプサイシン、及びジヒドロカプサイシンからなる群より選択される少なくとも1つである、
生体貼付用膜。
【請求項2】
前記再生セルロースは、100,000以上の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の生体貼付用膜。
【請求項3】
当該生体貼付用膜における前記受容体刺激成分の含有量は、重量基準で0.0001%以上50%以下である、請求項1又は2に記載の生体貼付用膜。
【請求項4】
当該生体貼付用膜における前記高分子の含有量は、重量基準で0.1%以上50%以下である、請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項5】
前記高分子は、100,000以上2,000,000以下の重量平均分子量を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項6】
10nm以下の平均細孔径を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜と、
前記生体貼付用膜の第一主面及び第二主面の少なくとも1つの上に配置され、取り外し可能な第一保護層と、を備えた、
生体貼付用シート。
【請求項8】
前記第二主面は、前記生体貼付用膜の使用時に露出する主面であり、
前記第一保護層は、前記第二主面の上に配置されている、請求項に記載の生体貼付用シート。
【請求項9】
前記第一主面の上に配置された第二保護層をさらに備えた、請求項に記載の生体貼付用シート。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜又は請求項からのいずれか1項に記載の生体貼付用シートと、
前記生体貼付用膜を生体に貼り付けるときに使用される装着液と、を備えた、
キット。
【請求項11】
前記装着液は、水、エタノール、多価アルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含有している、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
請求項1からのいずれか1項に記載の生体貼付用膜の第一主面を前記生体貼付用膜の第二主面と生体組織と間に配置した状態で、前記生体貼付用膜を貼り付けることを含む、美容方法。
【請求項13】
装着液を生体の上に供給することと、
前記装着液の少なくとも一部を覆った状態で前記生体貼付用膜を前記生体上に配置して貼り付けることと、含む、
請求項12に記載の美容方法。
【請求項14】
前記装着液は、水、エタノール、多価アルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含有している、請求項13に記載の美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体貼付用膜、生体貼付用シート、キット、及び美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤等の成分の放出を制御する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルロース、セルロース誘導体、又は再生セルロース等のセルロース系材料からなる多孔性粒子の内部に薬剤が担持された薬剤含有粒子が記載されている。例えば、薬剤放出制御能を付与するために、この薬剤含有粒子の外表面はコーティングされうる。これにより、例えば、薬剤放出制御性に優れた経口投与製剤が提供される。
【0004】
特許文献2には、支持フィルムと、第一の接着剤層と、保護用剥離ライナーを含む経皮薬物送達デバイスが記載されている。第一の接着剤層は、第一の接着剤と、第一のアモルファス型の治療薬と、ポリマー性安定及び分散剤とを含む固体分散物を含有している。ポリマー性安定及び分散剤は、水素結合形成官能基を含む。経皮薬物送達デバイスが皮膚に適用されると医薬品有効成分が経皮的に送達される。経皮薬物送達デバイスの皮膚への適用において、剥離ライナーが除去され、第一の接着剤層が皮膚に接触して接着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-87203号公報
【文献】特表2011-521974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、薬剤等の成分の経口投与のための技術であり、生体に貼り付けることを想定した技術ではない。特許文献2に記載の技術では、所定の装着液を用いて経皮薬物送達デバイスから治療薬を放出させることは想定されていない。
【0007】
そこで、本開示は、所定の装着液を用いて生体に貼り付けたときに所定の成分の放出を適切に調整する観点から有利な生体貼付用膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
再生セルロースを含む構造を有し、
20MPa1/2以上30MPa1/2以下のSP値を有する高分子と、受容体刺激成分とを含有し、
20nm以上2000nm以下の厚みを有する、
生体貼付用膜を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記の生体貼付用膜は、所定の装着液を用いて生体に貼り付けたときに受容体刺激成分の放出を適切に調整する観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の生体貼付用膜の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本開示の生体貼付用膜の別の一例を模式的に示す断面図である。
図3A図3Aは、本開示の生体貼付用膜を貼り付ける方法の一例を示す図である。
図3B図3Bは、本開示の生体貼付用膜を貼り付ける方法の一例を示す図である。
図3C図3Cは、本開示の生体貼付用膜を貼り付ける方法の一例を示す図である。
図4図4は、本開示の生体貼付用シートの別の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
生体貼付用膜に受容体刺激成分を含有させ、所定の装着液を用いて受容体刺激成分を生体に向かって放出させることが考えられる。本発明者らは、このような生体貼付用膜として、再生セルロースを含む構造を有する膜を利用できないか試みた。その結果、本発明者らは、受容体刺激成分の放出を適切に調整するためにはさらなる工夫が必要であること見出した。特に、受容体刺激成分の放出を長時間継続させて、受容体刺激成分による刺激を長時間持続させるためには新たな工夫が必要であることを本発明者らは見出した。そこで、本発明者らは、生体貼付用膜において受容体刺激成分の放出を適切に調整するための技術について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、再生セルロースを含む構造を有する膜に所定の高分子が含有されていると、生体貼付用膜における装着液の浸透速度が適切に調整され、受容体刺激成分の放出を適切に調整できることを新たに見出した。本発明者らは、この新たな知見に基づいて本開示の生体貼付用膜を案出した。
【0012】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は例示に過ぎず、本開示の生体貼付用膜は以下の実施形態に限定されない。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置、及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序などの事項は、一例であり、本開示を限定する主旨で記載されたものではない。以下の種々の実施形態は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、必須の構成要素と理解されるべきではない。以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0013】
図1に示す生体貼付用膜10aは、再生セルロースを含む構造15を有する。生体貼付用膜10aは、20MPa1/2以上30MPa1/2以下のSP値を有する高分子と、受容体刺激成分20とを含有している。生体貼付用膜10aは、20nm以上2000nm以下の厚みを有する。以下、20MPa1/2以上30MPa1/2以下のSP値を有する高分子を「高分子MSP20-30」と表記する。生体貼付用膜10aの厚みは、例えば、生体貼付用膜10aの厚みを複数個所測定し、平均することによって決定される。各箇所における厚みは、例えば、触針式プロファイリングシステム(ブルカー ナノ インコーポレイテッド社製、製品名:DEKTAK(登録商標))を用いて測定できる。
【0014】
再生セルロースを含む構造15により、生体貼付用膜10aの中で受容体刺激成分20の保持が可能である。「保持が可能」とは、生体貼付用膜10aが破壊又は変形していない状態で、生体貼付用膜10aにおいて受容体刺激成分20等の成分が層をなし、又は、生体貼付用膜10aの内部に受容体刺激成分20等の成分が取り込まれている状態でありうる。再生セルロースを含む構造15は、再生セルロースを主成分として含んでいてもよい。本明細書において「主成分」とは、質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。
【0015】
生体貼付用膜10aは、200nm以上2000nm以下の厚みを有していてもよい。生体貼付用膜10aの厚みが200nm以上であれば、生体貼付用膜10aは、高い強度を有し、取り扱いやすい。このため、生体貼付用膜10aが皮膚等の生体組織に貼り付け可能な自己支持型の膜として機能しうる。生体貼付用膜10aの厚みが2000nm以下であれば、生体貼付用膜10aを生体組織に装着するときに生体貼付用膜10aが剥離しにくい。また、生体貼付用膜10aの厚みがこのような範囲であると、例えば、流水によって生体貼付用膜10aを生体組織から容易に剥離させることができる。生体貼付用膜10aは、200nm以上1000nm以下の厚みを有していてもよい。生体貼付用膜10aの厚みが1000nm以下であると、生体貼付用膜10aの存在感が小さくなり、より自然にシミ等の部位を隠すこともできる。生体貼付用膜10aは、200nm以上500nm以下の厚みを有していてもよい。生体貼付用膜10aの厚みが500nm以下であると、例えば、生体貼付用膜10aの存在感がほぼ無くなり自然にシミ等の部位を隠すこともできる。生体貼付用膜10aは、500nm以上1000nm以下の厚みを有していてもよい。この場合、例えば、生体貼付用膜10aにおけるシミ等の部位を自然に隠しつつ、より膜の強度を高められる為、取り扱いやすい。
【0016】
所定の装着液を用いて生体貼付用膜10aを生体に貼り付けたときに、高分子MSP20-30の働きにより、受容体刺激成分20の放出が適切に調整されやすい。なぜなら、高分子MSP20-30と装着液との親和性が低く、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度を遅くしやすいからである。その結果、受容体刺激成分20の放出を長時間継続させやすい。一方、高分子MSP20-30と再生セルロースとの親和性は高く、生体貼付用膜10aにおいて高分子MSP20-30の保持が可能である。
【0017】
高分子MSP20-30のSP値は、より望ましくは20MPa1/2以上25MPa1/2以下である。この場合、高分子MSP20-30は、所定の装着液にはほとんど溶解しないが、装着液を適度に浸透させることができる。このため、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度が所望のレベルに調整されやすい。これにより、より確実に、受容体刺激成分20の放出を長時間継続させやすい。
【0018】
再生セルロースは、例えば、実質的に以下の式(I)で表されるセルロースである。ここで、「実質的に式(I)で表されるセルロース」とは、式(I)で表されるセルロースにおけるグルコース残基のヒドロキシル基が90%以上残っているセルロースを意味する。式(I)で表されるセルロースにおけるグルコース残基のヒドロキシル基の数に対する、膜に含まれるセルロース中のグルコース残基のヒドロキシル基の数の割合は、例えばX線光電子分光(XPS)等の公知の方法で定量できる。なお、生体貼付用膜10aに含まれる再生セルロースは、場合によっては、分岐構造を含んでいてもよい。人工的に誘導体化されたセルロースは、典型的には、「実質的に式(I)で表されるセルロース」には該当しない。一方、「実質的に式(I)で表されるセルロース」からは、誘導体化を経て再生されたセルロースが排除されるわけではない。誘導体化を経て再生されたセルロースであっても、「実質的に式(I)で表されるセルロース」に該当することがある。
【0019】
【化1】
【0020】
再生セルロースは、例えば、100,000以上の重量平均分子量を有する。セルロースは水酸基を多く含む分子構造を有する。セルロースで構成された膜において、分子内部又は分子間で多くの水素結合が生じやすい。このため、セルロースで構成された膜は、他の有機ポリマーで構成された膜と比較して高い強度を有しやすい。しかし、天然セルロースのファイバーを水等の分散媒に分散させた懸濁液から形成された膜の強度は、セルロースのファイバーを構成するナノファイバー間の水素結合が担う。このため、このような膜は、強度をより高める余地を有する。一方、再生セルロースを含む構造15において、ナノファイバーが分子鎖の単位までほぐされた状態であるので、再生セルロースを含む構造15の強度は、セルロース分子鎖間の水素結合が担う。再生セルロースを含む構造15では、ナノファイバーよりも小さい単位同士の水素結合が形成されやすい。そのため、再生セルロースを含む構造15は、天然セルロースのファイバーを水等の分散媒に分散させた懸濁液から形成された膜と比較して、高い強度を有し、かつ、適度な柔軟性を有する。このため、生体貼付用膜10aが再生セルロースを含む構造15を有すると、生体貼付用膜10aの厚みが20nm以上2000nm以下の範囲であっても、生体貼付用膜10aが破れにくく取り扱いやすい。なお、「ナノファイバー」は、「ナノフィブリル又はマイクロフィブリル」とも呼ばれ、セルロース分子が集合した最も基本的な単位であり、約4nm以上約100nm以下の線径及び約1μm以上の長さを有する。
【0021】
生体貼付用膜10aにおいて、再生セルロースが100,000以上の重量平均分子量を有することは、生体貼付用膜10aの強度を高める観点から有利である。なぜなら、分子鎖の延びる方向に沿った強度が高まるのに加えて、1分子鎖あたりにより多くの水酸基が含まれるので、分子間により多くの水素結合が形成されることにより膜の強度が高まると考えられるからである。再生セルロースの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定できる。GPC測定用のサンプルは、生体貼付用膜10aから受容体刺激成分20を抽出することによって作製できる。
【0022】
本明細書において、「再生セルロース」は、天然セルロースに特有の結晶構造Iを持たないセルロースを意味する。セルロースの結晶構造は、XRDパターンによって確認することが可能である。天然セルロースはCuKα線を用いたXRDパターンにおいて、結晶構造Iに特有の、14-17°および23°付近のピークが現れるが、再生セルロースは、結晶構造IIであることが多く、12°、20°および22°付近にピークを有し、14-17°および23°付近のピークを有しない。
【0023】
例えば、生体貼付用膜10aに含まれる再生セルロースの質量基準で90%以上が、化学修飾及び誘導体化がなされていない再生セルロースである。生体貼付用膜10aに含まれる再生セルロースの質量基準で98%以上が、化学修飾又は誘導体化がなされていない再生セルロースでありうる。この場合、生体貼付用膜10aには、化学修飾及び誘導体化がなされていない再生セルロースが多く含まれ、セルロースの1分子鎖あたりにより多くの水酸基が含まれると考えられる。このため、セルロースの分子間により多くの水素結合が形成され、生体貼付用膜10aが高い強度を有しやすいと考えられる。生体貼付用膜10aに含まれる再生セルロースは、未架橋であってもよい。
【0024】
受容体刺激成分20は、典型的には、生体の受容体を刺激し、生体に何らかの反応をもたらす成分である。受容体刺激成分20は、例えば、18MPa1/2以上25MPa1/2以下のSP値を有する。この場合、受容体刺激成分20が水に溶解しにくく、かつ、受容体刺激成分20の疎水性が高すぎないので、受容体刺激成分20が生体に浸透しやすい。
【0025】
受容体刺激成分20は、例えば、冷感剤及び温感剤の少なくとも1つであってもよい。冷感及び温感に関する受容体は皮膚に多く存在している。例えば、生体貼付用膜10aを皮膚に貼り付けることにより、冷感剤及び温感剤の少なくとも1つが皮膚中に浸透して冷感及び温感の少なくとも1つを感じることができる。
【0026】
受容体刺激成分20は、例えば、TRPV1受容体及びTRPM8受容体の少なくとも1つを刺激する。生体において、TRPV1受容体は温感センサとして機能し、TRPM8受容体は冷感センサとして機能しうる。このため、TRPV1受容体が刺激されると、疑似的に温感が感じられ、TRPM8受容体が刺激されると疑似的に冷感が感じられる。
【0027】
受容体刺激成分20に関し、例えば、冷感剤として、メントール、メントン、カンファー、プレゴール、イソプレゴール、シネオール、キュベボール、酢酸メンチル、酢酸プレギル、酢酸イソプレギル、サルチル酸メンチル、サルチル酸プレギル、サルチル酸イソプレギル、3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、2-メチル-3-(l-メントキシ)プロパン-1,2-ジオール、2-(l-メントキシ)エタン-1-オール、3-(l-メントキシ)プロパン-1-オール、4-(l-メントキシ)ブタン-1-オール、3-ヒドロキシブタン酸メンチル、グリオキシル酸メンチル、p-メンタン-3,8-ジオール、1-(2-ヒドロキシ-4-メチルシクロヘキシル)エタノン、乳酸メンチル、メントングリセリンケタール、メンチル-2-ピロリドン-5-カルボキシラート、モノメンチルスクシナート、モノメンチルスクシナートのアルカリ金属塩、モノメンチルスクシナートのアルカリ土類金属塩、モノメンチルグルタラート、モノメンチルグルタラートのアルカリ金属塩、モノメンチルグルタラートのアルカリ土類金属塩、N-[[5-メチル-2-(1-メチルエチル)シクロヘキシル]カルボニル]グリシン、p-メンタン-3-カルボン酸グリセロールエステル、メントールプロピレングリコールカルボナート、メントールエチレングリコールカルボナート、p-メンタン-2,3-ジオール、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブタンアミド、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、3-(p-メンタン-3-カルボキサミド)酢酸エチル、N-(4-メトキシフェニル)-p-メンタンカルボキサミド、N-エチル-2,2-ジイソプロピルブタンアミド、N-シクロプロピル-p-メンタンカルボキサミド、N-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミド、N-(2-ピリジン-2-イル)-3-p-メンタンカルボキサミド、N-(2-ヒドロキシエチル)-2-イソプロイル-2,3-ジメチルブタンアミド、N-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,2-ジエチルブタンアミド、シクロプロパンカルボン酸(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキシル)アミド、N-エチル-2,2-ジイソプロピルブタンアミド、N-[4-(2-アミノ-2-オキソエチル)フェニル]-p-メンタンカルボキサミド、2-[(2-p-メントキシ)エトキシ]エタノール、2,6-ジエチル-5-イソプロピル-2-メチルテトラヒドロピラン、トランス-4-tert-ブチルシクロヘキサノール等の化合物並びにこれらのラセミ体及び光学活性体、キシリトール、エリスリトール、デキストロース、ソルビトール等の糖アルコール、和種ハッカオイル、ペパーミントオイル、スペアーミントオイル、又はユーカリプタスオイルを使用できる。これらの中でも、冷感剤として、メントール又はカンフルが望ましく使用される。メントール及びカンフルは入手しやすく医薬部外品等の幅広い分野に利用されている。
【0028】
受容体刺激成分20に関し、例えば、温感剤として、バニリルメチルエーテル、バニリルエチルエーテル、バニリルプロピルエーテル、バニリルイソプロピルエーテル、バニリルブチルエーテル、バニリルアミルエーテル、バニリルイソアミルエーテル、バニリルヘキシルエーテル、イソバニリルメチルエーテル、イソバニリルエチルエーテル、イソバニリルプロピルエーテル、イソバニリルイソプロピルエーテル、イソバニリルブチルエーテル、イソバニリルアミルエーテル、イソバニリルイソアミルエーテル、イソバニリルヘキシルエーテル、エチルバニリルメチルエーテル、エチルバニリルエチルエーテル、エチルバニリルプロピルエーテル、エチルバニリルイソプロピルエーテル、エチルバニリルブチルエーテル、エチルバニリルアミルエーテル、エチルバニリルイソアミルエーテル、エチルバニリルヘキシルエーテル、バニリンプロピレングリコールアセタール、イソバニリンプロピレングリコールアセタール、エチルバニリンプロピレングリコールアセタール、バニリルブチルエーテル酢酸エステル、イソバニリルブチルエーテル酢酸エステル、エチルバニリルブチルエーテル酢酸エステル、4-(l-メントキシメチル)-2-(3’-メトキシ-4’-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン、4-(l-メントキシメチル)-2-(3’-ヒドロキシ-4’-メトキシフェニル)-1,3-ジオキソラン、4-(l-メントキシメチル)-2-(3’-エトキシ-4’-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、ビスカプサイシン、トリスホモカプサイシン、ノルノルカプサイシン、ノルカプサイシン、カプサイシノール、バニリルカプリルアミド(オクチル酸バニリルアミド)、バニリルペリラゴンアミド(ノニル酸バニリルアミド)、バニリルカプロアミド(デシル酸バニリルアミド)、バニリルウンデカンアミド(ウンデシル酸バニリルアミド)、N-トランス-フェルロイルチラミン、N-5-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2E,4E-ペンタジエロイルピペリジン、N-トランス-フェルロイルピペリジン、N-5-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-2E-ペンテノイルピペリジン、N-5-(4-ヒドロキシフェニル)-2E,4E-ペンタジエロイルピペリジン、ピペリン、イソピペリン、シャビシン、イソシャビシン、ピペラミン、ピペレチン、ピペロレインB、レトロフラクタミドA、ピペラシド、グイネンサイド、ピペリリン、ピペラミドC5:1(2E)、ピペラミドC7:1(6E)、ピペラミドC7:2(2E,6E)、ピペラミドC9:1(8E)、ピペラミドC9:2(2E,8E)、ピペラミドC9:3(2E,4E,8E)、ファガラミド、サンショール-I、サンショール-II、ヒドロキシサンショール、サンショウアミド、ジンゲロール、ショーガオール、ジンゲロン、メチルジンゲロール、パラドール、スピラントール、カビシン、ポリゴジアール(タデオナール)、イソポリゴジアール、ジヒドロポリゴジアール、タデオン、トウガラシ果実エキスなどの化合物並びにこれらのラセミ体及び光学活性体、トウガラシ油、トウガラシオレオレジン、ジンジャーオレオレジン、ジャンブーオレオレジン(キバナオランダセンニチ抽出物)、サンショウエキス、サンショール-I、サンショール-II、サンショウアミド、黒胡椒エキス、白胡椒エキス、及びタデエキス等の天然物を使用できる。これらの中でも、温感剤として、バニリルエーテル誘導体、カプサイシン、又はジヒドロカプサイシンが望ましく使用される。これらは、生体に対してよく利用されている材料であり、医薬部外品としてもよく使用されている。
【0029】
受容体刺激成分20は、望ましくは、メントール、カンフル、バニリルエーテル誘導体、カプサイシン、及びジヒドロカプサイシンからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0030】
生体貼付用膜10aにおける受容体刺激成分20の含有量は、特定の値に限定されない。その含有量は、例えば、重量基準で0.0001%以上50%以下である。その含有量が重量基準で0.0001%以上であると、生体の受容体を刺激し、冷感又は温感等の反応を生体にもたらすことができる。加えて、その含有量が重量基準で0.0001%以上であると、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)又は分光光度計等を用いて、生体貼付用膜10aにおいて受容体刺激成分20の保持を容易に検証できる。一方、生体貼付用膜10aにおける受容体刺激成分20の含有量が重量基準で50%以下であると、生体貼付用膜10aにおいて受容体刺激成分20の保持が容易である。
【0031】
生体貼付用膜10aにおける受容体刺激成分20の含有量は、より望ましくは重量基準で0.01%以上である。この場合、生体貼付用膜10aの重量測定等により、生体貼付用膜10aにおける受容体刺激成分20の含有量を容易に算出できる。加えて、受容体刺激成分20による生体の受容体の刺激により、温感及び冷感等の反応がより実感されやすい。
【0032】
高分子MSP20-30は、20MPa1/2以上30MPa1/2以下のSP値を有する限り、特定の高分子に限定されない。高分子MSP20-30として、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、デンプン、グアーガム、カチオン化グアーガム、ヒアルロン酸、ゼラチン等の多糖類、ポリグルタミン酸、ポリアルギン酸、ポリリシン、ポリアラニン等のポリアミノ酸、タンパク質、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリビニルピロリドン、ポリ-α-ヒドロキシカルボン酸、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリアミジン等の人工高分子、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ポリビニルブチラール、及びナイロンを使用できる。
【0033】
高分子MSP20-30は、望ましくは、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ポリビニルブチラール、及びナイロンからなる群より選ばれる少なくとも1つである。これらの材料は、水には溶解しないものの、適度な親水性を有する。このため、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度を所望の速度に調整でき、受容体刺激成分20の放出を長時間継続させやすい。
【0034】
生体貼付用膜10aにおける高分子MSP20-30の含有量は、特定の値に限定されない。その含有量は、例えば、重量基準で0.1%以上50%以下である。生体貼付用膜10aにおける高分子MSP20-30の含有量が重量基準で0.1%以上であると、高分子MSP20-30が装着液を短期間で膜内に浸透させにくくできる。受容体刺激成分20の放出速度が適切に調整されやすい。一方、生体貼付用膜10aにおける高分子MSP20-30の含有量が重量基準で50%以下であると、生体貼付用膜10aにおける高分子MSP20-30の保持が容易であり、かつ、装着液が高分子MSP20-30によって適度に浸透しにくくなり、受容体刺激成分20の放出速度が適切に調整されやすい。
【0035】
高分子MSP20-30の重量平均分子量は、特定の値に限定されない。高分子MSP20-30は、例えば、100,000以上2,000,000以下の重量平均分子量を有する。高分子MSP20-30の重量平均分子量が100,000以上であると、高分子MSP20-30同士が絡みやすい。加えて、高分子MSP20-30が再生セルロースを含む構造15に保持されやすい。このため、受容体刺激成分20の放出速度が適切に調整されやすい。高分子MSP20-30の重量平均分子量が2,000,000以下であると、高分子MSP20-30が再生セルロースを含む構造15に保持されやすく、加工性に優れる。
【0036】
図1に示す通り、生体貼付用膜10aにおいて、再生セルロースを含む構造15は、再生セルロースと高分子MSP20-30とのコンポジットとして形成されていてもよい。なお、受容体刺激成分20は、例えば、生体貼付用膜10aにおいて分散した状態で存在しうる。
【0037】
生体貼付用膜10aにおける平均細孔径は、特定の値に限定されない。生体貼付用膜10aは、例えば、10nm以下の平均細孔径を有する。この場合、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度が所望のレベルに調整されやすく、受容体刺激成分20の放出速度が適切に調整されやすい。生体貼付用膜10aにおける平均細孔径は、望ましくは3.0nm以下である。この場合、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度がより所望のレベルに調整されやすく、受容体刺激成分20の放出速度がより適切に調整されやすい。生体貼付用膜10aにおける平均細孔径は、例えば、窒素によるガス吸着法の測定結果に基づいて決定できる。
【0038】
生体貼付用膜10aを平面視したとき生体貼付用膜10aの形状は特に限定されない。生体貼付用膜10aは、平面視で、円形、楕円形、又は多角形でありうる。生体貼付用膜10aは、平面視で、不定形であってもよい。
【0039】
生体貼付用膜10aは、自己支持型の膜でありうる。本明細書において、「自己支持型の膜」とは、支持体なしに膜の形態を維持できる膜を意味する。例えば、指又はピンセットを用いて自己支持型の膜の一部をつまんで自己支持型の膜を持ち上げたときに、自己支持型の膜を破損させることなく、支持体なしに自己支持型の膜の全体を持ち上げることが可能である。図1に示す通り、生体貼付用膜10aは、例えば、第一部位11fと、第二部位11sとを有する。第一部位11fは、生体貼付用膜10aの厚み方向において第一主面P1に接するとともに第二主面P2から離れて位置する面状の部位である。第二部位11fは、生体貼付用膜10aの厚み方向において第一部位11fと第二主面P2との間に位置する面状の部位である。例えば、生体貼付用膜10aにおいて、第二部位11sにおける再生セルロースのかさ密度は、第一部位11fにおける再生セルロースのかさ密度よりも高い。このような構成によれば、生体貼付用膜10aの第一部位11fが所望量の受容体刺激成分20を含有しやすい。生体貼付用膜10aは、第一部位11f及び第二部位11sとはかさ密度が異なる少なくとも1つの部位、例えば第三部位を有していてもよい。第三部位は、例えば、第一主面P1と第一部位11fとの間、第一部位11fと第二部位11sの間、又は第二部位11sと第二主面P2との間に配置されうる。
【0040】
生体貼付用膜10aは、例えば、顔及び腕等の部位において皮膚又は爪に貼り付けられて使用される。生体貼付用膜10aは、典型的には、7mm2以上の面積を有する。これにより、生体貼付用膜10aを皮膚に貼り付けるときに広い領域を覆うことができる。なお、生体貼付用膜10aは、臓器等の皮膚以外の生体組織の表面に貼り付けられてもよい。生体貼付用膜10aを臓器の表面に貼り付けることによって、臓器の治癒を促すことができる。また、臓器同士の癒着を防止できる。
【0041】
生体貼付用膜10aを用いて、例えば、図3Aに示す生体貼付用シート50aを提供できる。生体貼付用シート50aは、生体貼付用膜10aと、第一保護層21とを備えている。第一保護層21は、生体貼付用膜10aの第一主面P1及び第二主面P2の少なくとも1つの上に配置されている。第一保護層21は、生体貼付用膜10aから取り外し可能である。
【0042】
第二主面P2は、例えば、生体貼付用膜10aの使用時に露出する主面である。第一保護層21は、例えば、第二主面P2の上に配置されている。
【0043】
第一保護層21は、例えば、(i)ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリウレタン、合成ゴム、セルロース、テフロン(登録商標)、アラミド、及びポリイミド等の高分子材料のシート、織布、不織布、若しくはメッシュ、(ii)シート状の金属、又は(iii)シート状のガラスでありうる。第一保護層21の表面の全体又は一部には、化学的又は物理的な表面処理が施されていてもよい。なお、第一保護層21は、平面視で、生体貼付用膜10aの形状と同一又は異なる形状を有し、生体貼付用膜10aの大きさと同一又は異なる大きさを有する。例えば、単一の第一保護層21の上に複数の生体貼付用膜10aが配置されていてもよい。なお、生体貼付用膜10aは、第一保護層21なしでもその形状を維持できる。このため、第一保護層21が第二主面12から取り外されても、生体貼付用膜10aはその形状を維持できる。
【0044】
図3Aに示す通り、例えば、生体貼付用膜10aの第一主面P1を生体の特定の部位(例えば、皮膚)に向けて生体貼付用シート50aを近づけ、生体貼付用膜10aの第一主面P1を生体の特定の部位に接触させる。このとき、生体の特定の部位又は生体貼付用膜10aに装着剤が供給されてもよい。装着剤は、例えば、水、油脂、アルコール、又は乳化剤等の成分を含有している。装着剤は、所定の有効成分を含有していてもよい。次に、図3Bに示す通り、生体貼付用膜10aの第二主面P2から第一保護層21を剥離する。このとき、生体貼付用膜10aは、生体組織に密着しており、生体貼付用膜10aが生体組織に貼り付いた状態が保たれる。第一保護層21が完全に剥離されると、図3Cに示す通り、生体貼付用膜10aの第二主面P2の全体が露出する。
【0045】
生体貼付用シート50aは、図4に示す生体貼付用シート50bのように変更されてもよい。生体貼付用シート50bは、特に説明する場合を除き、生体貼付用シート50aと同様に構成されている。生体貼付用シート50aの構成要素と同一又は対応する生体貼付用シート50bの構成要素には、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。生体貼付用シート50aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、生体貼付用シート50bにも当てはまる。
【0046】
図4に示す通り、生体貼付用シート50bは、第二保護層22をさらに備えている。第二保護層22は、第一主面P1の上に配置されている。第二保護層22によって、第一主面P1を保護できる。また、第二保護層22によって、生体貼付用シート50bのハンドリングが容易である。
【0047】
第二保護層22の材料は、第一保護層21の材料と同一であってもよいし、第一保護層21の材料と異なっていてもよい。第二保護層22は、平面視で、生体貼付用膜10aの形状と同一又は異なる形状を有し、生体貼付用膜10aの大きさと同一又は異なる大きさを有する。第二保護層22は、平面視で、第一保護層21の形状と同一又は異なる形状を有し、第一保護層21の大きさと同一又は異なる大きさを有する。
【0048】
第二保護層22は、典型的には、第一主面P1から取り外し可能である。生体貼付用シート50bを使用するときには、例えば、先ず、第二保護層22が生体貼付用膜10aから剥離される。これにより、第一主面P1が露出する。その後、第一主面P1を生体の特定の部位に近づけ、生体貼付用シート50aの使用方法と同様にして、生体貼付用膜10aが生体の特定の部位に貼り付けられる。
【0049】
生体貼付用膜10a又は生体貼付用シート50aと、生体貼付用膜10aを生体に貼り付けるときに使用される装着液とを備えたキットが提供されてもよい。生体貼付用膜10a又は生体貼付用シート50aと、装着液とは、別々に提供されてもよい。装着液は、所定の容器に収容された状態で提供されうる。
【0050】
装着液に含まれる成分は、生体貼付用膜10aを生体に貼り付けることができる限り、特定の成分に限定されない。装着液は、例えば、25MPa1/2以上45MPa1/2以下のSP値を有する溶媒を含有している。この場合、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度が調整されやすい。
【0051】
装着液は、より具体的には、例えば、水、エタノール、多価アルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含有している。多価アルコールは、例えば、グリセリン、プロパンジオール、ジグリセリン、ポリグリセリン、1,3―ブタンジオール、又は1,4-ブタンジオールである。これにより、より確実に、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度が適切なレベルに調整されやすい。加えて、高分子MSP20-30が装着液によって徐々に溶解し、受容体刺激成分20が生体貼付用膜10aから徐々に放出される。このため、受容体刺激成分20の放出を長時間継続させやすく、美容効果が高まりやすい。この場合、装着液は、例えば、水、リン酸緩衝液等の無機塩を含む水溶液、液状のエタノール、エタノール含有液、液状の多価アルコール、多価アルコール含有液、液状のジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド含有液、美容液、化粧水、又は乳液でありうる。
【0052】
生体貼付用膜10aを用いて美容方法を提供できる。美容方法は、例えば、生体貼付用膜10aの第一主面P1を生体貼付用膜10aの第二主面P2と生体組織と間に配置した状態で生体貼付用膜10aを貼り付けることを含む。この場合、生体貼付用膜10aは、図3A図3B、及び図3Cで示した手順に従って貼り付けられてもよい。上記の通り、生体貼付用膜10aの内部に装着液が浸透する速度及び生体貼付用膜10aの内部から生体貼付用膜10aの外部に装着液が移動する速度が調整されやすい。このため、この美容方法によれば、受容体刺激成分20の放出を長時間継続させやすく、美容効果が高まりやすい。
【0053】
美容方法において、装着液を生体の上に供給してもよい。加えて、生体の上に供給された装着液の少なくとも一部を覆った状態で生体貼付用膜10aを生体上に配置して貼り付けてもよい。一方、装着液を供給する作業と、生体貼付用膜10aを生体組織に近づける作業との順番は特に限定されない。例えば、生体貼付用膜10aを生体組織に接触させた状態で、装着液を、生体貼付用膜10a及び生体組織に向かって滴下してもよい。
【0054】
装着液は、望ましくは、水、エタノール、多価アルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含有している。この場合、生体貼付用膜10aを生体組織により装着しやすい。装着液に含まれる多価アルコールは、特定の多価アルコールに限定されない。装着液に含まれる多価アルコールは、ブタンジオール、プロパンジオール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンチレングリコール、又はジプロピレングリコールであってもよい。装着液は、多価アルコールとして、グリセリン及びプロパンジオールの少なくとも1つを含有していてもよい。この場合、この場合、生体貼付用膜10aの生体組織への密着性が高く、生体貼付用膜10aを短時間で生体組織に装着できる。装着液におけるプロパンジオールの含有量は、例えば5質量%以上15質量%以下である。装着液におけるグリセリンの含有量は、例えば5質量%以上10質量%以下である。装着液がこのような含有量でプロパンジオール又はグリセリンを含有していると、生体貼付用膜10aの生体組織への密着性がより向上し、より短時間で生体貼付用膜10aを生体組織に装着できる。装着液が水、エタノール、又は多価アルコールを含有している場合、装着液は、純水、蒸留水、生理食塩水、水を含む化粧水、水を含む乳液、水を含む美容液、及び水を含むクリームからなる群より選ばれる1つであってもよい。
【0055】
装着液における、水、エタノール、多価アルコール、及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1つの含有量は、特定の値に限定されない。その含有量は、例えば、1質量%以上である。これにより、生体貼付用膜10aを生体組織に装着しやすい。その含有量は、望ましくは10%以上である。この場合、生体貼付用膜10aを生体組織により装着しやすい。装着液は、例えば、水、油脂、アルコール、又は乳化剤などを含有し、後述の他の有効成分をさらに含有していてもよい。
【0056】
生体貼付用膜10aは、他の有効成分を含有していてもよい。他の有効成分の例は、抗シワ剤、保湿剤、美白剤、UVカット剤、抗ニキビ剤、ヘアケア剤、ボディケア剤、抗糖化剤、育毛剤、強心剤、解熱剤、鎮痛剤、血管拡張剤、狭心症治療薬、喘息治療薬、農薬、防虫剤、消臭剤、芳香剤、石鹸及び洗剤などのサニタリー剤、緩効性肥料、殺菌剤、抗菌剤などがある。
【0057】
有効成分の具体例は、グリセリン、ゼオライト、レチノール、ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲン、アミノ酸、エラスチン、各種エキス、クエン酸、レシチン、カルボマー、キサンタンガム、デキストラン、パルミチン酸、ラウリン酸、ワセリン、酸化チタン、酸化鉄、フェノキシエタノール、フラーレン、アスタキサンチン、コエンザイム、ヒトオリゴペプチド、グリセリン、ジグリセリン、乳酸ナトリウム、ソルビトール、ピロリドンカルボン酸、脂肪酸ポリグリセリル、ポリグリセリン、ホホバオイル、トリメチルグリシン、マンニトール、トレハロース、グリコシルトレハロース、プルラン、エリスリトール、エラスチン、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチルヘキサン酸エチル、アクリル酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、スクワラン、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ステアリン酸グリセリン、エタノール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、エクトイン、レチノール、レチナール、レチノイン酸等のビタミンA、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサミン、葉酸等のビタミンB、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等のビタミンD、α-トコフェロール等のビタミンE、フィロキノン、メナキノンのビタミンK等で代表されるビタミンやトレチノイン、パルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体、グリセリルアスコルビン酸、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド等のビタミンC誘導体、酢酸α―トコフェロール、α―トコフェリルキノン、トコフェリルリン酸等のビタミンE誘導体、トラネキサム酸、アルブチン、ハイドロキノン、コウジ酸、4-メトキシサリチル酸カリウム、ルシノール、エラグ酸やゴッシペチン、ミリセチン、ルチン等のフラボノール、及びプロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ヒスチジン等のアミノ酸でありうる。また、医療材料である有効成分の具体例は、硝酸イソソルビド、インドメタシン、ジフルコルトロン吉草酸エステル、アシクロビル、ケトコナゾール、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、デキサメタゾンプロピオン酸エステル、フェルビナク、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ロキソプロフェン、サリチル酸メチル、及びタクロリムスでありうる。農薬又は防虫剤の有効成分の具体例は、アーデント水和剤、アクタラ粒剤、イッテツプロアラブル、ウララDF、オルトラン水和剤、カルホス乳剤、キラッププロアブル、草枯らしMIC、コロマイト水和剤、サキドリEW,サンダーボルト007、ジェイエース水和剤、ソイリーン、タチガレン液剤、ダブルストッパー、テマカットプロアラブル、トップガンフロアブル、ナティーボフロアブル、バサグラン液剤、バッチリLXジャンボ、ビーラム粒剤、フルーツセイバー、ブイゲットフェルテラ粒剤、ベルクートフロアブル、ポッシブルフロアブル、モーティブ乳剤、モベントフロアブル、ライメイフロアブル、ルーチンエキスパート箱粒剤、及びワイドアタックSCでありうる。
【0058】
生体貼付用膜10aは、例えば、図2に示す生体貼付用膜10bのように変更されてもよい。生体貼付用膜10bは、特に説明する場合を除き、生体貼付用膜10aと同様に構成されている。生体貼付用膜10aの構成要素に対応する生体貼付用膜10bの構成要素には、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。生体貼付用膜10aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、生体貼付用膜10bにも当てはまる。
【0059】
図2に示す通り、生体貼付用膜10bにおいて、例えば、再生セルロースを含む構造15に、受容体刺激成分20と高分子MSP20-30との混合物25が付着している。この混合物25は、生体貼付用膜10bにおいて分散した状態で存在していてもよいし、生体貼付用膜10bにおいて連続した状態で存在していてもよい。混合物25において、受容体刺激成分20が高分子MSP20-30に内包されていてもよいし、受容体刺激成分20の少なくとも一部が露出していてもよい。
【0060】
生体貼付用膜10a又は生体貼付用膜10bの製造方法の一例を説明する。まず、溶媒にセルロースを溶解させてセルロース溶液を調製する。100,000以上の重量平均分子量の再生セルロース膜を得るために、重量平均分子量が少なくとも100,000以上のセルロースを用いる。これにより、20nm以上2000nm以下の厚みを有する生体貼付用膜10aを作製できる。このように、セルロース溶液の調製において使用されるセルロースの重量平均分子量を大きくすることにより、1分子鎖において、より多くの水酸基が含まれる。これにより、多くの分子間水素結合を形成することが可能となり、より薄い生体貼付用膜10a又は10bを安定に作製できる。セルロース溶液の調製に使用するセルロースは、所望の重量平均分子量を有する限り、特に限定されない。
【0061】
セルロース溶液の調製に使用するセルロースとしては、天然セルロース及び再生セルロースのいずれであってもよい。セルロース溶液の調製に使用するセルロースは、例えば、パルプ及び綿花等の植物由来のセルロース、又は、バクテリア等の生物が生成したセルロースでありうる。セルロースの原料における不純物濃度は、例えば20重量%以下である。セルロースの重量平均分子量が大きくなり過ぎると、溶液の粘度が高くなり加工がし難くなることから、最終的に得られる生体貼付用膜10a又は生体貼付用膜10bにおける再生セルロースの重量平均分子量は、望ましくは2,000,000以下であり、より望ましくは1,000,000以下であり、さらに望ましくは500,000以下であり、最も望ましくは300,000以下である。2,000,000以下の重量平均分子量であれば加工が可能となり、1,000,000以下の重量平均分子量であればより加工が容易となり、500,000以下の重量平均分子量であればさらに加工が容易となり、300,000以下の重量平均分子量であれば厚みのバラツキが少ない、より安定なシートを得ることができる。
【0062】
溶媒は、例えば少なくともイオン液体を含有している溶媒(第1溶媒)である。第1溶媒を用いることにより、セルロースを比較的短時間で溶解させることができる。イオン液体は、アニオンとカチオンとから構成される塩であり、150℃以下の温度において液体状態を示しうる。第1溶媒に含まれるイオン液体は、例えば、アミノ酸又はアルキルリン酸エステルを含むイオン液体である。第1溶媒がこのようなイオン液体を含有していることにより、セルロースの分子量の低下を抑制しながらセルロースを溶解させることができる。
【0063】
セルロースを析出させない溶媒によって予め希釈されたイオン液体を用いてセルロースを溶解してもよい。例えば、第1溶媒として、非プロトン性極性溶媒とイオン液体との混合物を用いてもよい。非プロトン性極性溶媒は、水素結合を形成しにくく、セルロースを析出させにくい。
【0064】
第1溶媒に含まれるイオン液体は、例えば、下記の式(II)で表されるイオン液体である。式(II)で表されるイオン液体において、アニオンがアミノ酸である。式(II)に記載の通り、このイオン液体において、アニオンは、末端カルボキシル基及び末端アミノ基を含んでいる。式(II)で表されるイオン液体のカチオンは、第四級アンモニウムカチオンでありうる。
【0065】
【化2】
【0066】
式(II)において、R1からR6は、独立して、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はフェニル基でありうる。置換基は、炭素鎖に分岐を含んでいてもよい。置換基は、アミノ基、ヒドロキシル基、又はカルボキシル基等の官能基を含んでいてもよい。nは、例えば、4又は5である。
【0067】
第1溶媒に含まれるイオン液体は、下記の式(III)で表されるイオン液体であってもよい。式(III)において、R1、R2、R3、及びR4は、独立して、水素原子又は1から4個の炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0068】
【化3】
【0069】
セルロース溶液を調製する工程において、第2溶媒をさらに加えてもよい。例えば、所定の重量平均分子量を有するセルロースと第1溶媒との混合物に第2溶媒をさらに加えてもよい。第2溶媒は、例えば、セルロースを析出させない溶媒である。第2溶媒は、非プロトン性極性溶媒でありうる。
【0070】
セルロース溶液のセルロースの濃度は、典型的には、0.2重量%以上15重量%以下である。セルロース溶液のセルロースの濃度が0.2重量%以上であれば、生体貼付用膜10a又は10bの厚みを薄くしつつ、その形状を保つのに必要な強度を有する生体貼付用膜10a又は10bが得られる。また、セルロース溶液のセルロースの濃度が15重量%以下であれば、セルロース溶液におけるセルロースの析出を抑制できる。セルロース溶液のセルロースの濃度は、1重量%以上10重量%以下であってもよい。セルロース溶液のセルロースの濃度が1重量%以上であると、より高い強度を有する生体貼付用膜10a又は10bが得られる。セルロース溶液のセルロースの濃度が10重量%以下であると、セルロースの析出がより低減された安定したセルロース溶液を調製できる。さらに、セルロース溶液に、高分子MSP20-30又は受容体刺激成分20を溶解又は分散させてもよい。また、高分子MSP20-30又は受容体刺激成を第1溶媒又は第2溶媒に先に溶解又は分散させ、その後セルロース溶液と混合し、溶解または分散させてもよい。また、溶媒を用いず、高分子MSP20-30のガラス転移温度以上に高分子MSP20-30を加熱してセルロース溶液と混合して、この後の工程に用いてもよい。
【0071】
次に、基板の表面にセルロース溶液を塗布して、基板の表面上に液膜を形成する。基板の表面の水に対する接触角は、例えば95°以下である。この場合、セルロース溶液の基板に対する濡れ性が適切であり、基板の表面に沿って広がりのある液膜を安定的に形成できる。基板の材料は、特に限定されない。基板は、典型的には、平滑な表面を有する非多孔構造を有する。この場合、基板の内部にセルロース溶液が入り込むことを防止でき、後工程において生体貼付用膜10a又は10bを基板から分離しやすい。
【0072】
基板は、化学的又は物理的な表面改質がなされていてもよい。基板として、例えば、紫外線(UV)照射又はコロナ処理等の表面改質処理がなされたポリマー材料の基板を用いてもよい。表面改質の方法は特に限定されない。例えば、表面改質剤の塗布、表面修飾、プラズマ処理、スパッタリング、エッチング、又はブラストが適用されうる。
【0073】
基板にセルロース溶液の液膜を形成する方法は、例えば、アプリケータなどにより基板の表面との間に所定のギャップを形成するギャップコーティング、スロットダイコーティング、スピンコーティング、バーコーターを用いたコーティング(Metering rod coating)、及びグラビアコーティング等の方法である。ギャップの厚み又はスロットダイの開口の大きさと塗工スピード、スピンコートの回転数、又はバーコーターやグラビアコートの溝の深さや塗工スピードなどにより調整した液膜の厚みと、セルロース溶液の濃度を調整することによって、生体貼付用膜10a又は10bの厚みを調整可能である。なお、基板にセルロース溶液の液膜を形成する方法は、キャスティング法、スキージを用いたスクリーン印刷、吹付塗装、又は静電噴霧であってもよい。
【0074】
基板にセルロース溶液の液膜を形成するときに、セルロース溶液及び基板の少なくとも一方を加熱してもよい。セルロース溶液の加熱は、例えば、セルロース溶液を安定に保つことができる温度範囲(例えば、40℃以上100℃以下)で実施されてもよい。基板に形成されたセルロース溶液の液膜は、加熱されてもよい。液膜の加熱は、例えば、第1溶媒に含まれるイオン液体の分解温度よりも低い温度(例えば、50℃以上200℃以下)でなされてもよい。このような温度で液膜の加熱を実行することにより、イオン液体以外の溶媒(例えば、第2溶媒など)を適度に除去でき、生体貼付用膜10a又は10bの強度が高くなりやすい。液膜の加熱は、減圧環境下で実行されてもよい。この場合、溶媒の沸点よりも低い温度でイオン液体以外の溶媒をより短時間で適度に除去できる。
【0075】
基板にセルロース溶液の液膜を形成した後に、液膜はゲル化されてもよい。例えば、イオン液体に溶解可能であり、かつ、セルロースを溶解させない液体の蒸気に液膜を曝すことにより、液膜をゲル化させ、高分子ゲルシートを得ることができる。例えば、30%RH以上100%RH以下の相対湿度の環境下に液膜を放置すると、液膜中のイオン液体が水と接触することにより、液膜におけるセルロースの溶解度が低下する。これにより、セルロース分子の一部が析出し、3次元構造が形成される。その結果、液膜がゲル化する。ゲル化点の有無は、ゲル化した膜を持ち上げることが可能か否かによって判断できる。
【0076】
なお、液膜の加熱は、液膜のゲル化の前に行われてもよいし、液膜のゲル化の後に行われてもよいし、液膜のゲル化の前後で行われてもよい。
【0077】
次に、セルロースを溶解させない液体であるリンス液に、基板及び高分子ゲルシートを浸漬させる。この工程において、高分子ゲルシートからイオン液体が除去される。この工程は、高分子ゲルシートの洗浄の工程と理解されうる。この工程において、イオン液体に加えて、セルロース溶液に含まれていた成分のうち、セルロース及びイオン液体以外の成分(例えば、第2溶媒)の一部が除去されてもよい。リンス液は、典型的には、イオン液体に溶解可能な液体である。このような液体の例は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、トルエン、キシレン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドである。
【0078】
次に、高分子ゲルシートを受容体刺激成分20及び高分子MSP20-30の溶液に浸漬させてもよい。その場合には、受容体刺激成分20及び高分子MSP20-30の溶液における溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタンジオール、プロパンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコールブタノール、アセトン、グリセリン、プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ジメチコン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラクロロエチレン、石油エーテル、アセトニトリル、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、N.N-ジメチルホルムアミド、酢酸、ギ酸、ヘキサン、及びデカンからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。セルロース溶液に、受容体刺激成分20又は高分子MSP20-30が加えられている場合には、高分子ゲルシートを高分子MSP20-30の溶液又は受容体刺激成分20の溶液に浸漬させてもよい。受容体刺激成分20及び高分子MSP20-30の溶液への高分子ゲルシートの浸漬に代えて、噴霧法、蒸着、又は塗工によって高分子ゲルシートに受容体刺激成分20を付着させてもよい。また、受容体刺激成分20を高分子ゲルシートに付着させた後に高分子MSP20-30を高分子ゲルシートに付着させてもよい。高分子ゲルシートは、受容体刺激成分20の溶液への浸漬とは別に、上記の有効成分を含む溶液、分散液、又はエマルジョンに浸漬されてもよい。
【0079】
次に、高分子ゲルシートから溶媒等の不要な成分を除去する。換言すると、高分子ゲルシートを乾燥させる。高分子ゲルシートの乾燥方法として、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、及び超臨界乾燥等の乾燥方法を適用できる。高分子ゲルシートの乾燥方法は真空加熱であってもよい。高分子ゲルシートの乾燥の条件は、特に限定されない。高分子ゲルシートの乾燥の条件として、第2溶媒及びリンス液の除去に十分な時間及び温度が選択される。高分子ゲルシートから溶媒が除去されることによって、生体貼付用膜10a又は10bが得られる。
【0080】
高分子ゲルシートを乾燥させる工程において、凍結乾燥又は超臨界乾燥を適用すると、自然乾燥、真空乾燥、又は加熱乾燥を適用した場合と比較して、低いかさ密度を有する多孔構造の生体貼付用膜10aが得られやすい。生体貼付用膜10aが多孔構造であると、生体貼付用膜10aを生体に貼り付けるときに、装着液が生体貼付用膜10aの内部に導かれやすい。高分子ゲルシートを乾燥させる工程において、例えば、凍結乾燥を適用する場合、凍結可能であり、かつ、100℃から200℃付近の沸点を有する溶媒が用いられる。例えば、水、tert-ブチルアルコール、酢酸、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、又はジメチルスルホキシド等の溶媒を利用して凍結乾燥を行うことができる。
【0081】
上記の方法では、高分子ゲルシートの乾燥に先立って、受容体刺激成分20及び高分子MSP20-30の溶液への高分子ゲルシートの浸漬が行われているが、高分子ゲルシートの乾燥の後に受容体刺激成分20及び高分子MSP20-30を付着させる工程が行われてもよい。例えば、高分子ゲルシートの乾燥により得られた高分子シートを受容体刺激成分20の溶液に浸漬させてもよい。その後、浸漬後の高分子シートをさらに乾燥させる。なお、この場合も、噴霧法、蒸着、又は塗工によって高分子シートに受容体刺激成分20を付着させてもよい。
【実施例
【0082】
実施例により、本開示の生体貼付用膜をより詳細に説明する。なお、本開示の生体貼付用膜は、以下の実施例に限定されない。
【0083】
(実施例1)
セルロースの純度が80%以上である、木材を原料とする漂白パルプを準備した。漂白パルプに含まれるセルロースの重量平均分子量をGel Permeation Chromatography(GPC)-Multi Angle Light Scattering(MALS)法によって測定したところ、約230,000であった。この測定には、島津製作所社製の送液ユニットLC-20ADを用い、検出器としてWyatt Technology Corporation製の示差屈折率計Optilab rEX及び多角度光散乱検出器DAWN HELEOSを用いた。カラムとしては東ソー株式会社製のTSKgel α-Mを用い、溶媒には塩化リチウムのジメチルアセトアミド溶液(塩化リチウムの濃度:0.1M)を用いた。カラム温度:23℃及び流速:0.8mL/minの条件で測定を行った。
【0084】
漂白パルプをイオン液体に溶解させ、セルロース溶液を調製した。イオン液体としては、エチルメチルイミダゾリウムジエチルホスフェートを用いた。また、180,000の重量平均分子量及び22.7MPa1/2のSP値を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)をジメチルスルホキシドに溶解させて得られたPVDF溶液と、セルロース溶液とを混合し、PVDF-セルロース溶液を調製した。次に、ギャップコーティングを適用して、ガラス基板の表面にPVDF-セルロース溶液を塗布し、ガラス基板上に塗膜を形成した。このとき、実施例1に係る生体貼付用膜の厚みが500nmになること狙って、ギャップコーティングにおけるギャップの大きさを調整した。その後、塗膜を乾燥、洗浄することによって、塗膜からイオン液体を除去し、高分子ゲルシートを得た。
【0085】
次に、23.1MPa1/2のSP値を有するバニリルブチルエーテルを溶解させたエタノール溶液に高分子ゲルシートをさらに浸漬させた。その後、余分な溶液をふき取り、この高分子ゲルシートを乾燥させ、実施例1に係る生体貼付用膜を得た。実施例1に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの含有量は、0.1重量%であった。これは、生体貼付用膜からエタノールを用いて抽出したバニリルブチルエーテルの溶液を用いて、分光光度計V-770(日本分光株式会社)の吸光度から検量線を用いて確認した。触針式プロファイリングシステム(ブルカー ナノ インコーポレイテッド社製、商品名:DEKTAK(登録商標))を用いて、実施例1に係る生体貼付用膜の厚みを測定した。その結果、実施例1に係る生体貼付用膜10aの厚みは約410nmであった。なお、実施例1に係る生体貼付用膜の厚みは、生体貼付用膜の厚みを複数箇所測定し、平均することによって決定した。また、実施例1に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、ジメチルスルホキシドを用いてPVDFを生体貼付用膜から抽出し、乾燥させた抽出物の重量に基づき求めた。その結果、実施例1に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、5.1重量%であった。
【0086】
マイクロトラックベル株式会社製のBELSORP-mini IIを用いて、実施例1に係る生体貼付用膜の平均細孔径を測定してBET法に従って測定結果を解析した。その結果、実施例1に係る生体貼付用膜の平均細孔径は、2.8nmであった。
【0087】
(実施例2)
表1に示す通り、PVDFの濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る生体貼付用膜を得た。実施例2に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、実施例2に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、10.3重量%であった。また、実施例2に係る生体貼付用膜の厚みは約380nmであった。実施例2に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0088】
(実施例3)
表1に示す通り、PVDFの濃度を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る生体貼付用膜を得た。実施例3に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、実施例3に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、20.3重量%であった。実施例3に係る生体貼付用膜の厚みは約360nmであった。実施例3に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0089】
(実施例4)
PVDF溶液とセルロース溶液とを混合せず、バニリルブチルエーテルを溶解させたエタノール溶液の代わりに、バニリルブチルエーテル及びPVDFをジメチルスルホキシドに溶解させた溶液に高分子ゲルシートを浸漬させた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る生体貼付用膜を得た。実施例4に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。実施例4に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、9.8重量%であった。実施例4に係る生体貼付用膜の厚みは約370nmであった。実施例4に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0090】
(実施例5)
PVDFの代わりにアセチルセルロース(SP値:23.8MPa1/2、重量平均分子量:120,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る生体貼付用膜を得た。実施例5に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、実施例5に係る生体貼付用膜におけるアセチルセルロースの濃度は、9.6重量%であった。また、実施例5に係る生体貼付用膜の厚みは約380nmであった。実施例5に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0091】
(実施例6)
PVDFの代わりにナイロン(SP値:24.8MPa1/2、重量平均分子量:100,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る生体貼付用膜を得た。実施例6に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、実施例6に係る生体貼付用膜におけるナイロンの濃度は、9.1重量%であった。また、実施例6に係る生体貼付用膜の厚みは約350nmであった。実施例6に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0092】
(実施例7)
PVDFの代わりにポリビニルブチラール(SP値:25.8MPa1/2、重量平均分子量:80,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係る生体貼付用膜を得た。実施例7に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、実施例7に係る生体貼付用膜におけるポリビニルブチラールの濃度は、9.5重量%であった。また、実施例7に係る生体貼付用膜の厚みは約380nmであった。実施例7に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0093】
(実施例8)
バニリルブチルエーテルの代わりにd-カンフル(SP値:21.2MPa1/2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る生体貼付用膜を得た。実施例8に係る生体貼付用膜におけるd-カンフルの濃度は0.1重量%であった。d-カンフルの濃度は、d―カンフルをエタノールで抽出し、無水酢酸による滴定で求めた。実施例8に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、10.3重量%であった。実施例8に係る生体貼付用膜の厚みは約410nmであった。実施例8に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0094】
(実施例9)
バニリルブチルエーテルの代わりにL-メントール(SP値:18.9MPa1/2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る生体貼付用膜を得た。実施例9に係る生体貼付用膜におけるL-メントールの濃度は0.1重量%であった。これは、L-メントールをエタノールで抽出し、無水酢酸による滴定で求めた。実施例9に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、10.3重量%であった。実施例9に係る生体貼付用膜の厚みは約370nmであった。実施例9に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0095】
(実施例10)
バニリルブチルエーテルの代わりにカプサイシン(SP値:20.8MPa1/2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る生体貼付用膜を得た。実施例10に係る生体貼付用膜におけるカプサイシンの濃度は0.1重量%であった。この濃度は、実施例1と同様にして求めた。実施例10に係る生体貼付用膜におけるPVDFの濃度は、10.3重量%であった。実施例10に係る生体貼付用膜の厚みは約390nmであった。実施例10に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0096】
(比較例1)
PVDF溶液を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る生体貼付用膜を得た。比較例1に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、比較例1に係る生体貼付用膜の厚みは約350nmであった。比較例1に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0097】
(比較例2)
PVDFの代わりにポリエチレン(SP値:15.8MPa1/2、重量平均分子量:100,000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る生体貼付用膜を得た。比較例2に係る生体貼付用膜におけるバニリルブチルエーテルの濃度は0.1重量%であった。また、比較例2に係る生体貼付用膜におけるポリエチレンの濃度は、10.6重量%であった。また、比較例2に係る生体貼付用膜の厚みは約410nmであった。比較例2に係る生体貼付用膜の厚みは、実施例1と同様にして決定した。
【0098】
<温感又は冷感を感じる時間の評価>
グリセリンと、プロパンジオールと、超純水とを混合して装着液を調製した。装着液におけるグリセリン、プロパンジオール、及び超純水の濃度は、それぞれ、10質量%、5質量%、及び85質量%であった。装着液を被験者の肌に塗布し、実施例1から10に係る生体貼付用膜及び比較例1に係る生体貼付用膜を肌に装着し、その後、温感又は冷感を感じるかを定期的に調べた。その結果を表1に示す。Aが冷感又は温感を感じた場合を表し、Bが冷感及び温感を少し感じた場合を表し、Xが冷感及び温感をほとんど又は全く感じなかった場合を表す。
【0099】
表1に示す通り、実施例1から10と比較例1とを比較すると、実施例1から10に係る生体貼付用膜は、装着後30分間経過後も温感及び冷感ともに被験者にもたらすことができた。一方、比較例1及び比較例2に係る生体貼付用膜は、装着後30分間経過すると温感を被験者にもたらすことができなかった。実施例1から10に係る生体貼付用膜では、比較例1に係る生体貼付用膜に比べて、受容体刺激成分の放出が長時間継続することが示唆された。
【0100】
【表1】
【符号の説明】
【0101】
10a、10b 生体貼付用膜
11f 第一部位
11s 第二部位
15 再生セルロースを含む構造
20 受容体刺激成分
50a、50b 生体貼付用シート
SP20-30 20MPa1/2以上30MPa1/2以下のSP値を有する高分子
P1 第一主面
P2 第二主面
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4