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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】多孔質材料、分散液、及び美容方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20231110BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20231110BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231110BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20231110BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/92
A61K8/34
A61K8/02
A61Q5/00
A61Q1/00
A61Q19/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019157839
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021035920
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 知子
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】谷池 優子
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025704(JP,A)
【文献】特開2012-025708(JP,A)
【文献】特開平04-057836(JP,A)
【文献】国際公開第2009/060836(WO,A1)
【文献】特開2014-024064(JP,A)
【文献】特開2018-118917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00
A61K47/00
A45D20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースを含む多孔質構造と、
前記多孔質構造に接触しており、生体に有効な有効成分と、を含有し、
100nm以上250μm以下の厚みを有し、
前記多孔質構造は0.01GPa以上1GPa以下の弾性率を有し、
前記多孔質構造において100nm以下の細孔径を有する細孔の容積がcm3/g以上10cm 3 /g以下であり、かつ、前記多孔質構造における前記細孔の比表面積が502/g以上1000m 2 /g以下であり、
前記有効成分の含有量は、重量基準で30%以上99.9%以下であり、
前記再生セルロースは、100,000以上1,000,000以下の重量平均分子量を有する、
多孔質材料。
【請求項2】
シート形状を有する、請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項3】
500μm以下の体積平均径を有する、請求項1又は2に記載の多孔質材料。
【請求項4】
前記多孔質構造は、カチオン性物質をさらに含んでいる、請求項1からのいずれか1項に記載の多孔質材料。
【請求項5】
前記多孔質構造におけるカチオン性物質の含有量は、重量基準で0.01%以上90%以下である、請求項に記載の多孔質材料。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の多孔質材料と、
前記多孔質材料を分散させる分散媒と、を含有している、
分散液。
【請求項7】
カチオン性物質をさらに含有している、請求項に記載の分散液。
【請求項8】
前記分散媒において、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項δHが10MPa1/2以上である、請求項又はに記載の分散液。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の多孔質材料、請求項からのいずれか1項に記載の分散液、又は前記多孔質材料及び前記分散液を、ヘアケア剤又は化粧料に混ぜることを含む、美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質材料、分散液、及び美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美容等の目的で、所定の有効成分を含有する材料が提案されている。例えば、特許文献1には、活性成分を実質的に含まないフィルムを活性成分を含む媒体内に導入して、活性成分をフィルムに移動させる工程を含む、フィルムの作製方法が記載されている。移動した活性成分を含むフィルムは、キャリアーに導入され、組成物が調製される。
【0003】
特許文献2には、生体に作用する成分又は生体を保護する成分が保持されている生体貼付用膜が記載されている。生体貼付用膜は、自己支持型の膜であり、重量平均分子量が150,000以上の再生セルロースで構成されている。生体貼付用膜は、20nm以上1300nm以下の厚さを有する。
【0004】
特許文献3には、フィルム細片が、当該フィルム細片を溶解しない分散媒に分散しているフィルム分散液が記載されている。フィルム細片は、化粧品等の成分を含有させたフィルムを細片にしたものでありうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-543900号公報
【文献】国際公開第2018/092362号
【文献】特開2015-196670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載の技術は、有効成分を長期間含有し、所望のタイミングで有効成分を放出させる観点から再検討の余地を有する。そこで、本開示は、このような観点から有利な多孔質材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
再生セルロースを含む多孔質構造と、
前記多孔質構造に接触しており、生体に有効な有効成分と、を含有し、
100nm以上250μm以下の厚みを有し、
前記多孔質構造は1GPa以下の弾性率を有し、
前記多孔質構造において100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.5cm3/g以上であり、かつ、前記多孔質構造における前記細孔の比表面積が10m2/g以上であり、
前記有効成分の含有量は、重量基準で30%以上である、
多孔質材料を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記の多孔質材料は、有効成分を長期間含有し、所望のタイミングで有効成分を放出させる観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の多孔質材料の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、天然セルロースのX線回折パターンの一例を示す図である。
図3図3は、本開示の分散液の一例を模式的に示す図である。
図4図4は、実施例及び比較例に係るサンプルに加えた荷重と有効成分の放出量との関係を示すグラフである。
図5図5は、所定時間経過後に実施例及び比較例に係るサンプルに所定の荷重を加えたときの有効成分の放出量を示すグラフである。
図6図6は、所定時間経過後に実施例及び比較例に係るサンプルに所定の荷重を加えたときの有効成分の放出量を示すグラフである。
図7図7は、実施例及び比較例におけるヘアスタイリングの持続性の評価結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例及び比較例におけるヘアスタイリングの持続性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
生体に有効な有効成分を長期間含有しつつ所望のタイミングで有効成分を放出できる技術を提供できれば、有効成分によって得られる効果を高めることができる。このため、有効成分を含有する材料を生体に付着させてから所定時間経過後にその材料が有効成分を含有していることが望ましい。さらに、圧力などの所定の物理的刺激をその材料に付与することによって有効成分の放出を促すことができれば、有効成分によって得られる効果が所望のタイミングで発揮される。特許文献1から3にはこのような技術は記載されていない。そこで、本発明者らは、このような技術を開発すべく鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、再生セルロースを含む特定の多孔質構造に有効成分を接触させることが有利であることを新たに見出し、本開示の多孔質材料を案出した。
【0011】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は包括的又は具体的な例示である。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置、及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序などの事項は、一例であり、本開示を限定する主旨で記載されたものではない。以下の種々の実施形態は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、必須の構成要素と理解されるべきではない。以下の説明において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略することがある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0012】
図1に示す通り、多孔質材料10は、再生セルロースを含む多孔質構造11と、有効成分12とを含有している。有効成分12は、生体に有効な成分であり、多孔質構造11に接触している。例えば、有効成分12は、生体に作用し、又は、生体を保護する。多孔質材料10は、100nm以上250μm以下の厚みAを有する。加えて、多孔質構造11は、1GPa以下の弾性率を有する。本明細書において、弾性率は引張弾性率を意味する。多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の容積は、0.5cm3/g以上である。この容積は、多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の合計の容積を意味する。加えて、多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の比表面積は、10m2/g以上である。多孔質材料10における有効成分12の含有量は、重量基準で30%以上である。多孔質構造11における100nm以下の細孔径を有する細孔の容積及び多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の比表面積は、例えば、窒素ガス吸着法に従って多孔質構造11を測定した結果に基づいて決定できる。多孔質構造11の引張弾性率は、例えば、日本工業規格(JIS) K7127:1999に従って測定できる。
【0013】
セルロースには、天然セルロース及び再生セルロースが存在する。本明細書において、再生セルロースは、天然セルロースに特有の結晶構造Iを持たないセルロースを意味する。セルロースの結晶構造は、例えば、X線回折によって確認できる。図2は、50kV及び300mAの条件でCuKα線を用いて得られた天然セルロースのX線回折パターンの一例を示す。図2に示すX線回折パターンでは、結晶構造Iに特有の14-17°及び23°付近にピークが現れている。再生セルロースは、多くの場合、結晶構造IIを有する。このため、再生セルロースのX線回折パターンでは、12°、20°、及び22°付近にピークが現れ、14-17°及び23°付近にはピークが現れない。
【0014】
多孔質構造11に存在する再生セルロースは、実質的に式(1)で表される。「実質的に」とは、式(1)において繰返し単位であるグルコース中のヒドロキシル基が90%以上残っていることを意味する。式(1)において繰返し単位であるグルコース中のヒドロキシル基が98%以上残っていてもよい。セルロースのグルコースにおけるヒドロキシ基の割合は、例えば、X線光電子分光(XPS)等の種々の公知の方法で定量できる。再生セルロースは分岐構造を有していてもよい。再生セルロースには、人為的に誘導体化したセルロースは含まれないが、一旦誘導体化を経て再生されたセルロースは含まれる。再生セルロースは、未架橋であってもよい。
【0015】
【化1】
【0016】
多孔質構造11には再生セルロースが存在していればよく、多孔質構造11は、不可避的不純物、原料、及び他の添加材料等の再生セルロース以外の成分を含んでいてもよい。多孔質構造11における再生セルロースの含有量は、例えば、重量基準で10%以上でありうる。
【0017】
多孔質材料10が100nm以上の厚みを有することにより、多孔質材料10が支持体なしで自立できる。多孔質材料10が250μm以下の厚みを有することにより、多孔質材料10が生体に長期間安定的に付着しうる。多孔質材料10の厚みは、100μm以下であってもよい。この場合、多孔質材料10が視認されにくく、他人が多孔質材料10の使用に気付きにくい。多孔質材料10の厚みは、10μm以下であってもよい。これにより、多孔質材料10が髪及び皮膚等の生体に長期間安定的に付着しうる。加えて、多孔質材料10がより視認されにくく、他人が多孔質材料10の使用により気付きにくい。多孔質材料10の厚みは、1.5μm以上であってもよい。この場合、多孔質材料10に多くの有効成分12が含有され、有効成分12により得られる効果がより長期間発揮されうる。多孔質材料10の厚みは、例えば、多孔質材料10の厚みを複数個所測定し、平均することによって決定される。
【0018】
上記の通り、多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.5cm3/g以上であり、かつ、その細孔の比表面積が10m2/g以上である。これにより、多孔質材料10は、重量基準で30%以上の有効成分12を安定に含有できる。加えて、多孔質構造11がこのような微細な構造であっても、多孔質構造11に再生セルロースが存在していることにより、多孔質材料10が所望の強度を有する。なぜなら、再生セルロースにおいて、分子内に多くの水素結合を有するセルロースが分子レベルで構造体を形成するからである。
【0019】
多孔質構造11において、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積及び比表面積が上記の範囲であることにより、多量の有効成分12が短期間に多孔質材料10から放出されにくい。加えて、外力等の物理的刺激が多孔質材料10に加えられることで、所望のタイミングで有効成分12が多孔質材料10から放出されうる。有効成分12の放出を促すために多孔質材料10に加えられる物理的刺激の例は、圧力、温度変化、摩擦力、風、及び紫外線等の所定の波長の光の照射である。多孔質構造11において、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積及び比表面積が上記の範囲であることにより、多孔質構造11の外部に向かって移動する有効成分12の流動抵抗が大きくなりやすい。このため、多孔質材料10が配置された環境に大きな濃度勾配が発生したとき、又は、所定の物理的刺激が多孔質材料10に加えられたときに、多孔質材料10からの有効成分12の放出が促される。
【0020】
有効成分12は、多孔質材料10の厚み方向における中央付近に存在していてもよいし、多孔質材料10の表面付近に存在していてもよい。
【0021】
多孔質構造11における100nm以下の細孔径を有する細孔の容積は、1cm3/g以上であってもよい。加えて、多孔質構造11における100nm以下の細孔径を有する細孔の比表面積は50m2/g以上であってもよい。この場合、有効成分12がより適切に所望のタイミングで放出されやすい。多孔質構造11における100nm以下の細孔径を有する細孔の容積は、例えば、10cm3/g以下である。多孔質構造11における100nm以下の細孔径を有する細孔の比表面積は、例えば、1000m2/g以下である。
【0022】
多孔質構造11が1GPa以下の弾性率を有することにより、多孔質構造11が外力によって変形しやすく、多孔質材料10に有効成分12が留まりやすい。多孔質材料10の弾性率は、例えば、0.01GPa以上である。これにより、多孔質材料10に有効成分12を長時間留らせることができる。
【0023】
セルロースは、親水性材料及び疎水性材料の双方に対し高い親和性を示す材料である。このため、再生セルロースが存在する多孔質構造11には、親水性材料及び疎水性材料の双方が適切に付着しうる。このため、多孔質材料10は、多くの種類の有効成分12を含有できる。
【0024】
多孔質材料10における有効成分12の含有量が重量基準で30%以上であることにより、生体に所望の効果を及ぼすことができる。多孔質材料10における有効成分12の含有量は、重量基準で50%以上であってもよい。この場合、より多量の有効成分12を生体に供給できる。多孔質材料10における有効成分12の含有量は、例えば、重量基準で99.9%以下である。
【0025】
有効成分12は、特定の成分に限定されない。有効成分12は、髪のコンディションを整えるヘアケアのための成分であってもよいし、ヘアスタイリングのための成分であってもよいし、皮膚に保湿、美白、及びアンチエイジングなどの美容効果をもたらす成分であってもよい。再生セルロースを含む多孔質構造11に含有させることが可能な生体に有効な成分としては、ヘアケア及びヘアスタイリングの少なくとも1つための成分が挙げられる。このような成分として、アボガド油、オリーブ油、カカオ脂、牛脂、サフラワー油、大豆油、ヒマシ油、ヒマワリ油、マカデミナッツ油、椿油、小麦麦芽油、山茶花油、茶実油、月見草油、ティーツリーオイル、バーム油、パーム油、マヌカオイル、馬脂、綿実油、モクロウ、モリンガ油、カルナウバロウ、ヤシ油、ラノリン、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ケラチン、ケラチン蛋白誘導体、コラーゲン蛋白誘導体、シルク蛋白誘導体、大豆蛋白誘導体、カチオン化セルロース、カチオン化グァーガム、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、オキシベンゾン、シノキサート、サリチル酸フェニル、パラアミノ安息香酸エステル、グリチルリチン酸ジカリウム、シコンエキス、ジンクビリチオン、ビロクトンオラミン、硫責、サリチル酸、加水分解ケラチン、加水分解コラーゲン、加水分解シルク、リンゴ酸、及びトレハロースが挙げられる。一方、皮膚に保湿、美白、及びアンチエイジングなどの美容効果をもたらす成分の例として、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グァーガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、及びコメ、トウモロコシ、バレイショ、又はコムギに由来するデンプン等の植物由来高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、及びブルラン等の微生物由来高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、及びゼラチン等の動物由来高分子、ヒアルロン酸、ムチン、コンドロイチン硫酸、及び可溶性コラーゲン等の生物由来高分子化合物、ポリエチレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マルチトース、dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、トリメチルグリシン、レチノール、レチナール、レチノイン酸等のビタミンA、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ピリドキサミン、葉酸等のビタミンB、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等のビタミンD、α-トコフェロール(ビタミンE)フィロキノン、メナキノンのビタミンK等で代表されるビタミン、トレチノイン及びパルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体、グリセリルアスコルビン酸及びテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等のビタミンC誘導体、酢酸α―トコフェロール、α―トコフェリルキノン、及びコハク酸α―トコフェロール等のビタミンE誘導体、トラネキサム酸、アルブチン、ハイドロキノン、コウジ酸、4-メトキシサリチル酸カリウム、トラネキサム酸、ルシノール、エラグ酸やアントシアニン等のポリフェノール、3-サクシニルオキシグリチルレチン酸二ナトリウム、ルチン、ミノキシジル、フィナステリド、セファランチン、並びにピロリドンカルボン酸が挙げられる。
【0026】
多孔質構造11に存在する再生セルロースは、例えば、100,000以上の重量平均分子量を有する。これにより、再生セルロースにおいて、1分子鎖あたりに多くの水酸基が存在し、分子間で多くの水素結合が形成される。このため、多孔質材料10の厚みが100nm以上250μm以下であっても、支持体を要することなく多孔質材料10の形状が適切に保たれうる。再生セルロースの重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定できる。
【0027】
再生セルロースの原料のセルロースとしては、パルプ及び綿花等の植物由来のセルロース、又は、バクテリアなどの生物が生成したセルロースを用いることができる。原料としてのセルロースの不純物濃度が20重量%以下であることが望ましい。再生セルロースの重量平均分子量が大きいと、再生セルロースを含む溶液の粘度が高くなり、多孔質材料10の作製が難しい。このため、再生セルロースの重量平均分子量は、1,000,000以下であってもよく、500,000以下であってもよく、300,000以下であってもよい。再生セルロースの重量平均分子量が1,000,000以下であれば、多孔質材料10の作製が容易である。再生セルロースの重量平均分子量が500,000以下であれば、多孔質材料10の作製がより容易である。再生セルロースの重量平均分子量が300,000以下であれば、多孔質材料10の厚さのばらつきが小さい。
【0028】
図1に示す通り、多孔質材料10は、例えば、シート形状を有する。これにより、接着成分を使用しなくても、ファンデルワールス力、再生セルロースによる水素結合力、及び有効成分を含有した多孔質材料の粘弾性などにより、多孔質材料10を生体に長期間安定的に装着できる。接着成分の不使用により、かぶれを防止できる。加えて、多孔質構造11に存在する再生セルロースは生体適合性に優れている。このため、多孔質材料10が生体にかける負担が少なく、多孔質材料10を長期間使用できる。本明細書において、シート形状とは、多孔質材料10の厚みAに対する、多孔質材料10の厚み方向に垂直な方向における多孔質材料10の最小寸法Bの比が2以上である形状を意味する。最小寸法Bは、平面視した多孔質材料10を一対の平行な直線によって挟んだときに、一対の平行な直線同士の距離が最小となる寸法である。本明細書において、生体適合性とは、生体、特に皮膚に、発疹及び炎症等の反応を生じさせにくいことをいう。
【0029】
多孔質材料10は、フレーク形状であってもよい。この場合、多孔質材料10を粒体として提供しうる。この場合、多孔質材料10の厚みAに対する、多孔質材料10の最小寸法Bの比(B/A)が2以上である。比B/Aの値は、2以上である限り特定の値に限定されないが、例えば、1000以下である。多孔質材料10がフレーク形状である場合、最小寸法B及び最大寸法Cは、同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。最小寸法Bに対する最大寸法Cの比(C/B)は、例えば、100以下である。最大寸法Cは、平面視した多孔質材料10を一対の平行な直線によって挟んだときに、一対の平行な直線同士の距離が最大となる寸法である。
【0030】
多孔質材料10が粒体として提供される場合、多孔質材料10は、例えば、500μm以下の体積平均径を有する。これにより、多孔質材料10を髪又は皮膚に装着したときに、ざらつきを低減できる。体積平均径は、体積基準の粒度分布における算術平均径Mvである。多孔質材料10の体積平均径は、望ましくは200μm以下である。この場合、生体に付着した後にザラツキなどの違和感なしに使用することが可能である。多孔質材料10の体積平均径は、より望ましくは100μm以下である。この場合、多孔質材料10を含む噴霧液を安定に噴霧することが可能となる。多孔質材料10の体積平均径は、さらに望ましくは50μm以下である。この場合、多孔質材料10を生体に付着した後、付着していることが装着者自身にも分からないほど、自然に装着され、また噴霧液における多孔質材料10の分散状態が安定する。また、多孔質材料10の体積平均径は、例えば、0.1μm以上である。これにより、多くの有効成分を含む多量の多孔質材料が生体に付着しやすく、ユーザーが良好な使用感を得やすい。多孔質材料10の体積平均径は、望ましくは1μm以上であり得る。この場合、より多くの有効成分を生体に付着させることができるので有用である。
【0031】
多孔質構造11は、生体適合性を有するカチオン性物質をさらに含んでいてもよい。換言すると、カチオン性物質は、多孔質構造11の構成要素の1つでありうる。髪は、摩擦などにより正に帯電しやすい。髪が正に帯電すると、ヘアスタイリングを適切に行うことが難しい。多孔質構造11にカチオン性物質が存在していることにより、多孔質材料10を髪に装着した場合に、カチオン性物質に由来するカチオンが、髪が正に帯電することを抑制する。その結果、所望のヘアスタイルが長期間保たれやすい。
【0032】
カチオン性物質は、特定の物質に限定されない。カチオン性物質の例として、キトサン、カチオン化セルロース、ポリアミン等のカチオンポリマー、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び亜鉛イオン等の金属イオン、金属イオンを含む材料、及びカチオン性界面活性剤が挙げられる。カチオン化セルロースは、例えば、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル又はヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテルである。
【0033】
多孔質構造11におけるカチオン性物質の含有量は、特定の値に限定されない。その含有量は、例えば0.01重量%以上90重量%以下である。多孔質構造11におけるカチオン性物質の含有量が0.01重量%以上であることにより、髪等の生体の特定の部位の帯電を低減できる。多孔質構造11におけるカチオン性物質の含有量は、望ましくは、1重量%以上である。この場合、髪等の生体の特定の部位の帯電をより確実に低減できる。多孔質構造11におけるカチオン性物質の含有量が90重量%以下であることにより、多孔質構造11における再生セルロースの含有量を10重量%以上に調整できる。このため、再生セルロースが有する多くの水素結合に由来して多孔質構造11が高い強度を有しやすい。このため、多孔質構造11において100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.5cm3/g以上であり、かつ、その細孔の比表面積が10m2/g以上であっても、多孔質構造11が十分な強度を有する。
【0034】
多孔質材料10は、例えば、髪、頭皮、顔、腕、及び臓器等の生体の特定の部位に装着されうる。
【0035】
多孔質材料10は、例えば、以下の方法によって製造できる。まず、溶媒にセルロースを溶解させることによりセルロース溶液を調製する。多孔質構造11にカチオン性物質を存在させるために、カチオン性物質を添加してセルロース溶液を調製してもよい。例えば、上述した重量平均分子量を有するセルロースをセルロース溶液の調製に使用できる。セルロース溶液の調製に用いるセルロースは、所定の重量平均分子量を有していれば、パルプ又は綿花等の植物由来のセルロースであってもよいし、バクテリア等の生物が生成したセルロースであってもよい。原料としてのセルロースの不純物濃度は、例えば、重量基準で20%以下である。
【0036】
溶媒として、イオン液体を含有する溶媒を用いてもよい。イオン液体を含有する溶媒を用いることにより、セルロースを比較的短時間で溶解させることができる。イオン液体は、アニオンとカチオンとから構成される塩であり、150℃以下の温度において液体状態を示しうる。セルロースを溶解するイオン液体としては、アミノ酸、アルキルリン酸エステル又はアセテートを含むイオン液体を使用できる。このようなイオン液体を溶媒として用いることにより、分子量の低下をある程度抑制しながらセルロースを溶解させることができる。特に、アミノ酸は生体内に存在する成分であるので、アミノ酸を含むイオン液体の使用により、生体に対して安全な多孔質材料10の作製が可能である。
【0037】
セルロースを溶解するイオン液体として、例えば、下記の一般式(s1)で表されるイオン液体を用いることができる。一般式(s1)で表されるイオン液体は、アニオンがアミノ酸である例を示す。一般式(s1)から分かるように、この例では、アニオンは、末端カルボキシル基及び末端アミノ基を含んでいる。一般式(s1)で表されるイオン液体のカチオンは、第四級アンモニウムカチオンであってもよい。
【化2】
【0038】
一般式(s1)中、R1からR6は、独立して、水素原子又は置換基を表す。置換基は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はフェニル基であってもよく、炭素鎖に分岐を含んでいてもよい。置換基は、アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシル基等の基を含んでいてもよい。nは1以上5以下の整数である。
【0039】
セルロースを溶解するイオン液体は、下記の式(III)で表されるイオン液体であってもよい。式(III)中、R1、R2、R3、及びR4は、独立して、水素原子又は1から4個の炭素原子を有するアルキル基を表す。
【0040】
【化3】
【0041】
セルロース溶液を調製する工程において、第2溶媒をさらに加えてもよい。例えば、所定の重量平均分子量を有するセルロースとイオン液体との混合物に第2溶媒をさらに加えてもよい。第2溶媒は、例えば、セルロースを析出させない溶媒である。第2溶媒は、非プロトン性極性溶媒でありうる。
【0042】
次に、得られたセルロース溶液を所定の基板に塗布し、基板に支持された高分子ゲルシートを得る。その後、セルロースを溶解させない液体であるリンス液に基板上の高分子ゲルシートを浸漬させる。この工程は、高分子ゲルシートからイオン液体を含有する溶媒を除去する、高分子ゲルシートの洗浄の工程であるといってもよい。
【0043】
リンス液として、イオン液体と相溶可能な溶媒が用いられうる。このような溶媒の例は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、トルエン、キシレン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドである。
【0044】
次に、例えば、有効成分12を含む溶液中に高分子ゲルシートを浸漬させて、高分子ゲルシート中に有効成分12を含有させる。高分子ゲルシートをリンス液又は有効成分12を含む溶液に浸漬しているときに、10秒間以上の超音波処理を行ってもよい。超音波などの、例えば1Hz以上の周波数を持つ振動を与えるプロセスを行うことにより、100nm以下の細孔径の細孔が0.5cm3/g以上の体積かつ10m2/g以上の比表面積を有する、再生セルロースを含む多孔質構造を安定に作製できる。振動を与えるプロセスは、リンス液に浸漬した場合に行ってもよい。
【0045】
その後、高分子ゲルシートから溶媒等の不要な成分を除去する。換言すると、高分子ゲルシートを乾燥させる。これにより、多孔質材料10が得られる。高分子ゲルシートを乾燥させる方法としては、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥、及び超臨界乾燥等の種々の乾燥方法を適用できる。真空加熱を行って高分子ゲルシートを乾燥させてもよい。高分子ゲルシートの乾燥における条件は、特に限定されない。セルロース溶液の溶媒及びリンス液の一部又は全部を除去するために、適切な乾燥時間及び乾燥温度が決定されうる。
【0046】
高分子ゲルシートの乾燥の後に、有効成分12を含有させる工程を行ってもよい。この場合、多孔質構造11に対応する構造を形成できるように高分子ゲルシートを乾燥させたうえで、有効成分12を含有させる工程がなされうる。例えば、リンス液に浸漬して高分子ゲルシートを洗浄した後、tert-ブタノール及び酢酸等の所定の液体化合物に高分子ゲルシートを浸漬し、凍結乾燥又は超臨界乾燥により高分子ゲルシートを乾燥させる。これにより、有効成分12を含有させる工程に先立って、多孔質構造11に対応する構造を形成できる。
【0047】
多孔質材料10を粒体として提供する場合、上記の様にして作製された多孔質材料10を所定の粒径に細断する工程又は微細化する工程がなされうる。多孔質材料10を細断又は微細化する方法は、特定の方法に限定されない。多孔質材料10を細断又は微細化する方法として、例えば、(i)カミソリ、カッター、及びハサミ等の刃物の使用、メッシュの使用、レーザーの使用、又は打ち抜き等による細断、並びに、(ii)ミル、ホモジナイザー、又はメディアレス分散機などによる微細化が挙げられる。
【0048】
図3に示す通り、多孔質材料10が粒体であるとき、例えば、分散液20を提供できる。分散液20は、多孔質材料10と、分散媒25とを含有している。分散媒25は、多孔質材料10を分散させる。このような構成によれば、分散液20を生体に付着させることで、多孔質材料10を生体に容易に装着できる。分散液20は、例えば、ヘアケア等の美容に使用できる。
【0049】
分散媒25は、多孔質材料10を分散させることができる限り、特定の分散媒に限定されない。分散媒25は、典型的には、多孔質構造11をなす成分を溶解させない。これにより、分散液20において有効成分12が多孔質材料10に留まる。分散媒25は、親水性であってもよいし、疎水性であってもよい。親水性の分散媒25は、例えば、水、アルコール、又は多価アルコールである。親水性の分散媒25は、水、エタノール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン、ポリグリセリン、又はポリエチレングリコールであってもよい。疎水性の分散媒25の例は、アボガド油、オリーブ油、ヒマシ油、椿油、及び流動パラフィンである。分散媒25は、有効成分12と同一種類の化合物であってもよい。分散媒25は、複数種類の物質の混合物であってもよい。
【0050】
例えば、分散媒25において、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)における水素結合項δHは10MPa1/2以上である。HSPは、材料同士の親和性を評価するパラメータとして知られている。HSPの値(δ)と、分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHとは以下の式(2)の関係を有する。
δ2=δD2+δP2+δH2 (2)
【0051】
多孔質材料10の多孔質構造11には再生セルロースが存在しており、多くの親水基が存在する。このため、分散媒25のδHが10MPa1/2以上であることにより、多孔質材料10が生体に密着しやすい。δHの値は、例えば、材料の蒸発熱からδを求め、ダイポールモーメントと分子体積とからδPを求め、材料の屈折率からδDを計算する。そのうえで、上記の式(2)の関係からδHを決定できる(C.M. Hansen, “Hansen Solubility Parameters A User’s Handbook”, CRC Press, Boca Raton, 2nd edn., 2007参照)。材料の屈折率として、例えば、ナトリウムのD線を用いた25℃における測定値を使用できる。分散媒25のδHは、10MPa1/2以上である限り特定の値に限定されないが、例えば、43MPa1/2以下である。
【0052】
水素結合項δHが10MPa1/2以上である分散媒25としては、水、グリセリン、エチレングリコール、ブタンジオール、ジプロピルグリコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、及びデカノールなどが挙げられる。特に、水、グリセリン、及びエタノールは、生体との親和性が高く、これらが分散媒25として使用されてもよい。
【0053】
分散液20は、カチオン性物質をさらに含有していてもよい。この場合、髪が正に帯電することを抑制でき、所望のヘアスタイルを長期間保つことができる。カチオン性物質は、特定の物質に限定されない。カチオン性物質の例として、キトサン、カチオン化セルロース、及びポリアミン等のカチオンポリマー、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び亜鉛イオン等の金属イオン、金属イオンを含む材料、及びカチオン性界面活性剤が挙げられる。カチオン化セルロースは、例えば、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテル又はヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドエーテルである。
【0054】
分散液20におけるカチオン性物質の含有量は、特定の値に限定されない。その含有量は、例えば0.001重量%以上50重量%以下である。分散液20におけるカチオン性物質の含有量が0.001重量%以上であることにより、髪等の生体の特定の部位の帯電を低減できる。分散液20におけるカチオン性物質の含有量は、望ましくは、0.1重量%以上である。この場合、髪等の生体の特定の部位の帯電をより確実に低減できる。
【0055】
多孔質材料10又は分散液20を用いて、美容方法を提供できる。例えば、この美容方法は、多孔質材料10、分散液20、又は多孔質材料10及び分散液20を、ヘアケア剤又は化粧料に混ぜることを含む。これにより、美容のための組成物が得られる。得られた組成物は、生体の所定の部位に装着される。ヘアケア剤及び化粧料としては、例えば、市販品を使用できる。このような美容方法によれば、多孔質材料10又は分散液20を用いて、市販品をユーザーの好みに合うようにカスタマイズできる。なお、美容方法において、多孔質材料10及び分散液20が単独で使用されてもよい。
【実施例
【0056】
実施例により、本開示の多孔質材料をより詳細に説明する。なお、本開示の多孔質材料は、以下の実施例に限定されない。
【0057】
(実施例1)
純度が80%以上の、木材を原料とした漂白パルプ由来のセルロースを用意した。漂白パルプ由来のセルロースをイオン液体に溶解させることにより、セルロース溶液を調製した。イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムジエチルフォスフェイトを用いた。ギャップコーティングを適用して基板の表面にセルロース溶液を塗布し、基板上に液膜を形成した。このとき、ギャップの大きさを調整することで、得られるサンプルの厚さを調整した。その後、28kHz及び0.5W/cm2の条件の超音波を10秒間以上かけながら液膜からイオン液体が除去されるように洗浄することにより、高分子ゲルシートを得た。高分子ゲルシートをtert‐ブタノールに1時間浸漬させ、その後冷凍庫で凍結させた。凍結乾燥機(東京理化器械社製、製品名:FDU‐2200)を用いて、凍結させた高分子ゲルシートを1MPaの条件で凍結乾燥し、再生セルロース含有多孔質シートを得た。その後、再生セルロース含有多孔質シートを椿オイルに十分浸漬させ、実施例1に係るサンプルを得た。実施例1に係るサンプルにおける有効成分である椿オイルの含有量は93重量%であった。実施例1に係るサンプルにおいて、厚みが0.16mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。実施例1に係るサンプルの厚みは、マイクロメータを用いてサンプルの複数個所において厚みを測定し、それらの測定値の平均を求めることによって決定した。
【0058】
Gel Permeation Chromatography(GPC)-Multi Angle Light Scattering(MALS)法に従い、実施例1に係るサンプルに含まれる再生セルロースの重量平均分子量を測定した。この測定には、島津製作所社製の送液ユニットLC-20ADを用い、検出器としてWyatt Technology Corporation製の示差屈折率計Optilab rEX及び多角度光散乱検出器DAWN HELEOSを用いた。カラムとしては東ソー社製のTSKgel α-Mを用い、溶媒には塩化リチウムが0.1M添加されたジメチルアセトアミドを用いた。カラム温度:23℃及び流速:0.8mL/分の条件でこの測定を行った。その結果、再生セルロースの重量平均分子量は約200,000であった。
【0059】
マイクロトラック・ベル株式会社製のBELSORP-mini2を用いて、椿オイルを含有させる前の再生セルロース含有多孔質シートの細孔構造を窒素ガス吸着法に従って測定した。測定結果によれば、再生セルロース含有多孔質シートにおいて、平均細孔径が約19nmであり、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が2.1cm3/gであり、その細孔の比表面積が264m2/gであった。なお、他の実施例及び比較例についても同様にして細孔構造を測定した。
【0060】
島津製作所社製の引張試験機EZ-Lを用いて、再生セルロース含有多孔質シートの引張弾性率を測定した。その結果、再生セルロース含有多孔質シートの引張弾性率は、0.11GPaであった。なお、他の実施例及び比較例についても同様にして引張弾性率を測定した。
【0061】
(実施例2)
下記の点以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、実施例2に係るサンプルの厚みが22μmになるようにギャップを調整した。その後、28kHz及び0.5W/cm2の条件の超音波を10秒間以上かけながら液膜からイオン液体が除去されるように洗浄することにより、高分子ゲルシートを得た。高分子ゲルシートを椿オイルに繰り返し浸漬させ、その後、高分子ゲルシートを乾燥させた。このようにして、実施例2に係るサンプルを得た。実施例2に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は約80重量%であった。
【0062】
実施例2に係るサンプルから抽出により椿オイルを除去して実施例2に係る多孔質シートを得た。実施例2に係る多孔質シートの引張弾性率は、0.11GPaであった。実施例2に係る多孔質シートにおいて、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が1.96cm3/gであり、その細孔の比表面積が251m2/gであった。
【0063】
(実施例3)
下記の点以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、実施例3に係るサンプルの厚みが1μmになるようにギャップを調整した。その後、超音波をかけながら液膜からイオン液体が除去されるように洗浄することにより、高分子ゲルシートを得た。高分子ゲルシートを椿オイルに繰り返し浸漬させ、その後、高分子ゲルシートを乾燥させた。このようにして、実施例3に係るサンプルを得た。実施例3に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は約70重量%であった。
【0064】
実施例3に係るサンプルから抽出により椿オイルを除去して実施例3に係る多孔質シートを得た。実施例3に係る多孔質シートの引張弾性率は、0.10GPaであった。実施例3に係る多孔質シートにおいて、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が1.06cm3/gであり、その細孔の比表面積が151m2/gであった。実施例3に係るサンプルを皮膚に装着したところ、違和感なく4時間以上装着できた。
【0065】
(実施例4)
椿オイルの代わりにグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るサンプルを作製した。実施例4に係るサンプルにおけるグリセリンの含有量は、95重量%であった。市販の化粧料を皮膚に塗った後、実施例4に係るサンプルを装着したところ、違和感なく30分間以上装着できた。
【0066】
(実施例5)
下記の点以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、実施例5に係るサンプルの厚みが205μmになるようにギャップを調整した。加えて、サンプルの最小寸法を0.5mmに調整し、サンプルの最大寸法を2mmに調整した。実施例5に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、2.4であった。
【0067】
(実施例6)
下記の点以外は、実施例5と同様にして、実施例6に係るサンプルを得た。サンプルの最小寸法及び最大寸法を7mmに調整した。実施例6に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、34であった。
【0068】
(実施例7)
下記の点以外は、実施例2と同様にして、実施例7に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、実施例7に係るサンプルの厚みが22μmになるようにギャップを調整した。サンプルの最小寸法を0.5mmに調整し、サンプルの最大寸法を2mmに調整した。実施例7に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、23であった。
【0069】
(実施例8)
下記の点以外は、実施例2と同様にして、実施例8に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、実施例8に係るサンプルの厚みが1μmになるようにギャップを調整した。サンプルの最小寸法を0.5mmに調整し、サンプルの最大寸法を2mmに調整した。実施例8に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、500であった。
【0070】
(実施例9)
椿オイルの代わりに、水を溶媒とする市販の化粧水(ロート社製、製品名:肌研 極潤(登録商標))を用いた以外は、実施例5と同様にして、実施例9に係るサンプルを得た。実施例9に係るサンプルにおける化粧水の含有量は90重量%であった。なお、水のδHは、42.3MPa1/2である。δHは、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項である。実施例9に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、2.4であった。実施例9に係るサンプルを皮膚に装着したところ、違和感なく30分間以上装着できた。
【0071】
(実施例10)
実施例1で作製した再生セルロース含有多孔質シートを10mm以下のサイズに切って、椿オイルに1時間浸漬し、その後、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、製品名:SONIFIER 450)を用いて、30Wから50Wの出力及び0.5パルス/秒のデューティサイクルの条件で、再生セルロース含有多孔質シートを細断した。その後、この液を20μmから25μmメッシュの濾紙で真空ろ過し、有効成分として椿オイルを含有した多孔質な粒体が椿オイルに分散した実施例10に係る分散液を得た。実施例10に係る分散液における、椿オイルを含有した多孔質な粒体の濃度は、0.3重量%であった。実施例10に係る分散液の分散質である多孔質な粒体における椿オイルの含有量は、93重量%であった。
【0072】
粒度分布計(日機装社製、製品名:MT3300)を用いて、実施例10に係る分散液における分散質である多孔質な粒体の体積基準の粒度分布を測定した。その結果、実施例10に係る分散液における分散質である多孔質な粒体の体積平均径は、約16μmであった。多孔質な粒体の厚みは、約4μmであり、厚みに対する最小寸法の比は、約5であった。多孔質な粒体の厚み及び厚みに対する最小寸法の比は、以下の様にして決定した。2つ以上のピークを含む多孔質な粒体の粒度分布に対しピーク分離を行い、最も小さいピークが厚みに対応し、最も小さいピークよりも大きいピークが最小寸法又は最大寸法に対応していると仮定した。この仮定に従って、多孔質な粒体の厚み及び厚みに対する最小寸法の比を決定した。
【0073】
50μLの実施例10に係る分散液を髪に手で塗布した。このとき、ざらつき等の違和感なく分散液を髪に塗布できた。分散液の塗布から6時間経過した後に、髪に手櫛をかけ又は手で髪に圧力を付与した。このとき、髪がしっとりとし、髪のまとまりが回復するなど、美容効果を実感できた。また、視認性は低く、5名の観察者の全員が分散液を塗布した髪において粒体には気付かなかった。
【0074】
(実施例11)
90%以上の純度を有するαセルロース(Sigma-Aldrichから入手)とキトサンとを準備した。キトサンの重量がαセルロースの重量の3倍になるようにαセルロース及びキトサンをイオン液体に溶解させ、セルロース-キトサン溶液を調製した。イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートを用いた。ギャップコーティングを適用して基板の表面にセルロース-キトサン溶液を塗布し、基板上に液膜を形成した。その後、超音波をかけながら液膜からイオン液体が除去されるように洗浄することにより、高分子ゲルシートを得た。高分子ゲルシートをtert‐ブタノールに1時間浸漬させ、その後冷凍庫で凍結させた。凍結乾燥機(東京理化器械社製、製品名:FDU‐2200)を用いて、凍結させた高分子ゲルシートを1MPaの条件で凍結乾燥し、再生セルロース及びキトサンを含有する多孔質シートを得た。この多孔質シートにおいて、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が1.9cm3/gであり、その細孔の比表面積が231m2/gであった。
【0075】
実施例1で作製した再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、再生セルロース及びキトサンを含有する多孔質シートを用いた以外は、実施例10と同様にして、実施例11に係る分散液を得た。実施例11に係る分散液の分散質である多孔質な粒体においてキトサンの重量は再生セルロースの重量の3倍であった。実施例11に係る分散液の分散質である多孔質な粒体における椿オイルの含有量は、89重量%であった。実施例11に係る分散液における多孔質な粒体の濃度は、0.14重量%であった。実施例11に係る分散液における多孔質な粒体の体積平均径は約13μmであった。実施例10と同様にして、多孔質な粒体の粒度分布から実施例11に係る分散液における多孔質な粒体の厚み及び厚みに対する最小寸法の比を求めたところ、それぞれ、約6μm及び約3であった。
【0076】
50μLの実施例11に係る分散液を髪に手で塗布した。このとき、ざらつき等の違和感なく分散液を髪に塗布できた。分散液の塗布から6時間経過した後に、髪に手櫛をかけ又は手で髪に圧力を付与した。このとき、髪がしっとりとし、髪のまとまりが回復するなど、美容効果を実感できた。また、粒体の視認性は低く、5名の観察者の全員が分散液を塗布した髪において粒体には気付かなかった。
【0077】
(比較例1)
再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、結晶構造Iを有する天然セルロースを主原料としたティッシュペーパー(日本製紙クレシア社製、製品名:クリネックス(登録商標))を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るサンプルを得た。比較例1に係るサンプルにおいて、厚みが0.031mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。比較例1に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は66重量%であった。ティッシュペーパーにおいて、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.003cm3/gであり、その細孔の比表面積が0.8m2/gであった。
【0078】
(比較例2)
再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、紙製のウェス(日本製紙クレシア社製、製品名:キムワイプ(登録商標))を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るサンプルを得た。比較例2に係るサンプルにおいて、厚みが0.083mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。比較例2に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は65重量%であった。キムワイプにおいて、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.014cm3/gであり、その細孔の比表面積が2.7m2/gであった。
【0079】
(比較例3)
再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、ろ紙(Whatman FITER PAPERS QUALTATIVE 1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るサンプルを得た。比較例3に係るサンプルにおいて、厚みが0.17mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。比較例3に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は46重量%であった。ろ紙において、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.015cm3/gであり、その細孔の比表面積が3.7m2/gであった。
【0080】
(比較例4)
再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、ポリエチレンテレフタレートを主材料とする不織布(旭化成社製、製品名:エルタス)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係るサンプルを得た。比較例4に係るサンプルにおいて、厚みが0.17mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。比較例4に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は54重量%であった。不織布において、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.016cm3/gであり、その細孔の比表面積が8.1m2/gであった。
【0081】
(比較例5)
再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、ポリプロピレンを主材料とするメッシュを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5に係るサンプルを得た。比較例5に係るサンプルにおいて、厚みが0.83mmであり、最小寸法が5mmであり、最大寸法が10mmであった。比較例5に係るサンプルにおける椿オイルの含有量は14重量%であった。不織布において、100nm以下の細孔径を有する細孔の容積が0.008cm3/gであり、その細孔の比表面積が1.1m2/gであった。また、比較例5に係るサンプルの引張弾性率は、1.3GPaであった。
【0082】
(比較例6)
実施例1で用いた再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、市販の再生セルロースメンブレンフィルター(Whatman RC55)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例6に係るサンプルを得た。再生セルロースメンブレンフィルターは、0.08mmの厚み(A)、5mmの短辺(B)、及び10mmの長辺(C)を有し、比較例6に係るサンプルにおいて、有効成分である椿オイルの含有量は63重量%であった。再生セルロースメンブレンフィルターの100nm以下の細孔の容積は0.0088cm3/gであり、その細孔の比表面積は0.59m2/gであった。
【0083】
(比較例7)
実施例1で用いた再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、市販の再生セルロース多孔体である透析膜(funakoshi, Spectra/Por Standard RC Discs)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例7に係るサンプルを得た。透析膜は、0.035mmの厚み(A)、5mmの短辺(B)、及び10mmの長辺(C)を有し、比較例7に係るサンプルにおいて、有効成分である椿オイルの含有量は14重量%であった。透析膜の100nm以下の細孔の容積は0.00072cm3/gであり、その細孔の比表面積は1.65m2/gであった。
【0084】
(比較例8)
実施例1で用いた再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、再生セルロース不織布(フタムラ化学社製、製品名:太閤TCR 407SWJ)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例8に係るサンプルを得た。再生セルロース不織布は、0.51mmの厚み(A)、5mmの短辺(B)、及び10mmの長辺(C)を有し、比較例8に係るサンプルにおける有効成分である椿オイルの含有量は78重量%であった。再生セルロース不織布の100nm以下の細孔の容積は0.003cm3/gであり、その細孔の比表面積は1.1m2/gであった。
【0085】
(比較例9)
実施例1で用いた再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、再生セルロース製スポンジ(日本インソール工業社製、製品名:セルロース水切りマット)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例9に係るサンプルを得た。再生セルロース製スポンジは、6mmの厚み(A)、5mmの短辺(B)、及び10mmの長辺(C)を有し、比較例9に係るサンプルにおいて、有効成分である椿オイルの含有量は67重量%であった。再生セルロース製スポンジの100nm以下の細孔の容積は0.008cm3/gであり、その細孔の比表面積は1.3m2/gであった。
【0086】
(比較例10)
実施例1で用いた再生セルロース含有多孔質シートの代わりに、ポリ乳酸を主材料としたシートを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例10に係るサンプルを得た。
重量平均分子量250,000のポリ乳酸をクロロホルムに溶解することにより、1.5重量%のポリ乳酸溶液を調製した。重量平均分子量500程度のポリビニルアルコール膜が予め形成された基板上に、スピンコーティング(回転速度:2000rpm)によってポリ乳酸溶液を塗布した後、溶媒であるクロロホルムを気化させた。その後、水への浸漬によりポリビニルアルコールを除去して、ポリ乳酸を主材料としたシートを得た。このシートは、1μmの厚み(A)、5mmの短辺(B)、及び10mmの長辺(C)を有し、比較例10に係るサンプルにおいて、有効成分である椿オイルの含有量は65重量%であった。このシートの100nm以下の細孔の容積は0.011cm3/gであり、その細孔の比表面積は4.0m2/gであった。
【0087】
(比較例11)
椿オイルの代わりにグリセリンを用いた以外は、比較例3と同様にして、比較例11に係るサンプルを得た。
【0088】
(比較例12)
下記の点以外は、実施例1と同様にして、比較例12に係るサンプルを得た。液膜の形成におけるギャップコーティングにおいて、比較例12に係るサンプルの厚みが0.4mmになるようにギャップを調整した。加えて、サンプルの最小寸法を0.5mmに調整し、サンプルの最大寸法を2mmに調整した。比較例12に係るサンプルにおいて、厚みに対する最小寸法の比は、1.25であった。
【0089】
(比較例13)
比較例1で用いたティッシュペーパーを1.5mmのピナクルダイ(登録商標)を用いて細かくカットし、椿オイルに分散させた。このようにして、比較例13に係る分散液を得た。
【0090】
(圧力に対する有効成分の放出性能の評価)
実施例1に係るサンプル及び比較例3に係るサンプルをパルプ不織布の下地の上に置いた。このパルプ不織布は、椿オイルを吸収可能な材料であった。さらに、サンプルの上に下地と同一種類のパルプ不織布を被せ、一対のパルプ不織布の間にサンプルが挟まれた積層体を得た。この積層体の上から0g重、35g重、50g重、200g重、500g重、又は2000g重の荷重で10回積層体に圧力をかけた。圧力をかけている時間は各回において約1分間であった。なお、0g重の荷重の場合、積層体を約1分間放置した。圧力をかける前後のサンプルの重量を測定し、圧力をかける前後のサンプルの重量変化から椿オイル(有効成分)の放出量を特定した。その後、椿オイルの放出量[g]を、サンプルの重量から椿オイルの重量を差し引いた値[g]で正規化し、サンプルの多孔質構造1g当たりの椿オイルの放出量を決定した。結果を図4に示す。図4に示す通り、実施例1に係るサンプルでは、外力(圧力)を加えることにより、所望のタイミングで椿オイルを放出できることが示唆された。
【0091】
(所定時間経過後の有効成分の放出性能の評価)
実施例1~4に係るサンプル及び比較例1~10に係るサンプルのそれぞれをパルプ不織布上に置いた。このパルプ不織布は、椿オイル及びグリセリンを吸収可能な材料であった。4時間経過後に、各サンプルをパルプ不織布の下地の上に置き、さらに各サンプルの上に下地と同一種類のパルプ不織布を被せ、一対のパルプ不織布の間にサンプルが挟まれた積層体を得た。この積層体の上から1kg重の荷重で10回サンプルに圧力をかけた。各回において、圧力をかけている時間は約1分間であった。圧力をかける前後のサンプルの重量変化から椿オイル又はグリセリン(有効成分)の放出量を特定した。その後、有効成分の放出量[g]を、サンプルの重量から有効成分の重量を差し引いた値[g]で正規化し、サンプルの多孔質構造1g当たりの有効成分の放出量を決定した。有効成分として椿オイルを含有しているサンプルに関する結果を図5に示し、有効成分としてグリセリンを含有しているサンプルに関する結果を図6に示す。
【0092】
図5によれば、実施例1~3に係るサンプルにおいて、1kg重の荷重を加えることで4時間経過後でも多くの有効成分を放出できることが理解される。一方、比較例1~10に係るサンプルでは、椿オイルを吸収可能なパルプ不織布上に4時間設置した後では、1kg重の荷重を加えても有効成分をほとんど放出できないことが示唆された。
【0093】
図6によれば、実施例4に係るサンプルでは、比較例11に係るサンプルと比較して、1kg重の荷重を加えることで4時間経過後でも多くの有効成分を放出できることが理解される。
【0094】
<密着性評価>
実施例5~9に係るサンプル及び比較例12に係るサンプルのそれぞれを疑似肌(レジーナ社製、製品名:バイオスキンBPS-01)に装着し、サンプルを綿棒で擦った。このとき、疑似肌からサンプルが剥がれる直前における綿棒で擦った回数を数えた。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示す通り、比較例12に係るサンプルと比較して、実施例5、6、7、8、及び9に係るサンプルは高い密着性を示した。特に、厚みに対する最小寸法の比が大きい実施例6、7、及び8に係るサンプルは、綿棒で100回擦っても疑似肌から剥がれなかった。なお、実施例5と実施例9との比較によれば、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項δHが42.3MPa1/2である水を含む場合には、サンプルの密着性が向上する傾向があることが確認された。
【0097】
<ヘアスタイリング効果の持続性の評価>
2束の市販の髪束(人毛)をまとめてクリップで挟み、洗浄した後ドライヤーで乾かした。その後、ヘアアイロンで形状を整えた。このときの髪束の横幅の最大値を測り、この最大値を初期値と決定した。その後、実施例10及び11に係る分散液及び比較例13に係る分散液のそれぞれを20μLの分量で均一に髪束に付着させた。参考例1として、何も付着させない髪束を準備した。参考例2として、20μLの椿オイルを均一に付着させた髪束を準備した。温度20℃及び相対湿度50%RHの環境でこれらの髪束を4時間放置した。4時間放置後の各髪束の横幅の最大値を測った。この測定の結果、髪束の横幅の初期値に対する4時間放置後の各髪束の横幅の最大値の比を決定した。結果を図7に示す。
【0098】
さらに、4時間放置後の各髪束に手櫛を5回かけつつ髪束を握って髪束に10回圧力を加えてスタイリングを実施した。スタイリング後の各髪束の横幅の最大値を測った。この測定の結果、髪束の横幅の初期値に対するスタイリング後の各髪束の横幅の最大値の比を決定した。結果を図8に示す。
【0099】
図7及び8に示す通り、実施例10及び11に係る分散液を使用することにより、4時間経過後でもヘアスタイリングを良好になし得ることが示唆された。
【符号の説明】
【0100】
10 多孔質材料
11 多孔質構造
12 有効成分
20 分散液
25 分散媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8