(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】レンズ系、撮像装置及び撮像システム
(51)【国際特許分類】
G02B 13/08 20060101AFI20231110BHJP
G02B 13/04 20060101ALI20231110BHJP
G02B 13/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G02B13/08
G02B13/04
G02B13/00
(21)【出願番号】P 2020531201
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025219
(87)【国際公開番号】W WO2020017258
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018135300
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】庄林 寛幸
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-085849(JP,A)
【文献】特開2018-101099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から入射する光を像面側の撮像素子に結像するレンズ系であって、
自由曲面レンズを含む複数のレンズ素子と、前記複数のレンズ素子の間に配置された絞りとを備え、
前記複数のレンズ素子は、前記絞りよりも物体側に配置される前群と、前記絞りよりも像面側に配置される後群とを構成し、
前記前群の最も物体側にある第1レンズ素子は、回転対称な非球面を有し、
前記自由曲面レンズは、前記撮像素子の矩形状の撮像面における第1辺に対応する第1方向と前記撮像素子の矩形状の撮像面における第2辺に対応する第2方向との間で非対称な自由曲面を有し、前記前群と前記後群のそれぞれに配置され、
以下の条件式(1)を満たす自由曲面レンズが、前記複数のレンズ素子において前記後群に配置され、
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
ここで、
IH:前記第1方向において画角30°を有する光線が像面上で結像する高さ
SH:前記第1方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
SV:前記第2方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」であ
り、
前記複数のレンズ素子は、以下の条件式(2)を満たす自由曲面レンズを含み、
D×(SVb-SHb)/IHb<-0.01 …(2)
ここで、
IHb:前記第1方向において画角15°を有する光線が像面上で結像する高さ
SHb:前記第1方向における当該自由曲面の高さIHbのサグ量
SVb:前記第2方向における当該自由曲面の高さIHbのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」である、
レンズ系。
【請求項2】
物体側から入射する光を像面側の撮像素子に結像するレンズ系であって、
自由曲面レンズを含む複数のレンズ素子と、前記複数のレンズ素子の間に配置された絞りとを備え、
前記複数のレンズ素子は、前記絞りよりも物体側に配置される前群と、前記絞りよりも像面側に配置される後群とを構成し、
前記前群の最も物体側にある第1レンズ素子は、回転対称な非球面を有し、
前記自由曲面レンズは、前記撮像素子の矩形状の撮像面における第1辺に対応する第1方向と前記撮像素子の矩形状の撮像面における第2辺に対応する第2方向との間で非対称な自由曲面を有し、前記前群と前記後群のそれぞれに配置され、
以下の条件式(1)を満たす自由曲面レンズが、前記複数のレンズ素子において前記後群に配置され、
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
ここで、
IH:前記第1方向において画角30°を有する光線が像面上で結像する高さ
SH:前記第1方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
SV:前記第2方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」であり、
以下の条件式(3)を満たし、
OAL/SD<7.5 …(3)
ここで、
OAL:レンズ系の光学全長
SD:絞りの直径
である
、
レンズ系。
【請求項3】
前記第1レンズ素子は、以下の条件式(4)を満たし、
nd1>1.6 …(4)
ここで、
nd1:d線に対する当該レンズ素子の屈折率
である、請求項1
又は2に記載のレンズ系。
【請求項4】
前記自由曲面レンズは、以下の条件式(5)を満たし、
ndf>1.5 …(5)
ここで、
ndf:d線に対する当該自由曲面レンズの屈折率
である、請求項1
又は2に記載のレンズ系。
【請求項5】
前記自由曲面レンズは、以下の条件式(6)を満たし、
20<vf<60 …(6)
ここで、
vf:当該自由曲面レンズのアッベ数
である、請求項1
又は2に記載のレンズ系。
【請求項6】
前記自由曲面レンズは、前記前群と前記後群のそれぞれに2枚以上配置される、
請求項1~
5のいずれか1項に記載のレンズ系。
【請求項7】
物体側から入射する光を像面側の撮像素子に結像するレンズ系であって、
自由曲面レンズを含む複数のレンズ素子と、前記複数のレンズ素子の間に配置された絞りとを備え、
前記複数のレンズ素子は、前記絞りよりも物体側に配置される前群と、前記絞りよりも像面側に配置される後群とを構成し、
前記前群の最も物体側にある第1レンズ素子は、回転対称な非球面を有し、
前記自由曲面レンズは、前記撮像素子の矩形状の撮像面における第1辺に対応する第1方向と前記撮像素子の矩形状の撮像面における第2辺に対応する第2方向との間で非対称な自由曲面を有し、前記前群と前記後群のそれぞれに配置され、
以下の条件式(1)を満たす自由曲面レンズが、前記複数のレンズ素子において前記後群に配置され、
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
ここで、
IH:前記第1方向において画角30°を有する光線が像面上で結像する高さ
SH:前記第1方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
SV:前記第2方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」であり、
前記自由曲面レンズは、前記前群と前記後群のそれぞれに2枚以上配置される、
レンズ系。
【請求項8】
前記後群の2枚以上の自由曲面レンズは、最も像面側に配置され、
前記前群の2枚以上の自由曲面レンズは、物体側から前記第1レンズ素子の次に配置される、
請求項
6又は7に記載のレンズ系。
【請求項9】
前記前群の自由曲面レンズは、負のパワーを有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載のレンズ系。
【請求項10】
前記複数のレンズ素子における自由曲面レンズは、物体側と像面側の両側に前記自由曲面を有する、
請求項1~9のいずれか1項に記載のレンズ系。
【請求項11】
前記条件式(1)を満たす自由曲面レンズは、2以上66以下の整数jにわたる総和による以下の式(E2)によって規定される自由曲面を有する、
ここで、
c:頂点曲率
K:コーニック定数
c
j:係数
x:前記第1方向における位置
y:前記第2方向における位置
p:xの次数
q:yの次数
z:サグ量
である、請求項1~10のいずれか1項に記載のレンズ系。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のレンズ系と、
前記レンズ系によって結像される像を撮像する撮像素子とを備え、
前記撮像素子は、前記第1方向に対応する第1辺と、前記第2方向に対応する第2辺とからなる矩形状の撮像面を有する
撮像装置。
【請求項13】
請求項12に記載の撮像装置と、
前記撮像装置の撮像素子によって撮像された画像に画像処理を実行する画像処理部と
を備えた撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズ系、撮像装置及び撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、長方形の画像センサによりパノラマ画像を撮像する方法を開示している。特許文献1は、魚眼対物レンズに円環レンズを用いることにより、円形画像を矩形画像にしている。これにより、長方形の画像センサにおいて、矩形の撮像素子に矩形画像を結像させ、パノラマ画像を撮像することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、撮像素子の結像において、互いに交差する二方向の間で相対的に異なる負の歪みを生じさせることができるレンズ系、撮像装置及び撮像システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係るレンズ系は、物体側から入射する光を像面側の撮像素子に結像する。レンズ系は、自由曲面レンズを含む複数のレンズ素子と、複数のレンズ素子の間に配置された絞りとを備える。自由曲面レンズは、互いに交差する第1方向と第2方向との間で非対称な自由曲面を有する。以下の条件式(1)を満たす自由曲面レンズが、複数のレンズ素子において絞りよりも像面側に配置される。
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
ここで、
IH:第1方向において画角30°を有する光線が像面上で結像する高さ
SH:第1方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
SV:第2方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」である。
【0006】
本開示に係る撮像装置は、上記のレンズ系と、撮像素子とを備える。撮像素子は、レンズ系によって結像される像を撮像する。撮像素子は、第1方向に対応する第1辺と、第2方向に対応する第2辺であって、第1辺以下の長さを有する第2辺とを有する。
【0007】
本開示に係る撮像システムは、上記の撮像装置と、画像処理部とを備える。画像処理部は、撮像装置の撮像素子によって撮像された画像に画像処理を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るレンズ系、撮像装置及び撮像システムによると、撮像素子の結像において、上記の第1及び第2方向の間で相対的に異なる負の歪みを生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態1に係る撮像システムの構成を示す図
【
図2】撮像システムにおける撮像素子を説明するための図
【
図3】実施例1に係るレンズ系の構成を示すレンズ配置図
【
図4】数値実施例1のレンズ系における画角と像点との関係を示す散布図
【
図5】数値実施例1におけるレンズ系の面データを示す図
【
図6】数値実施例1におけるレンズ系の各種データを示す図
【
図7】数値実施例1のレンズ系における2番目の面の非球面データを示す図
【
図8】数値実施例1のレンズ系における3番目の面の自由曲面データを示す図
【
図9】数値実施例1のレンズ系における4番目の面の自由曲面データを示す図
【
図10】数値実施例1のレンズ系における5番目の面の自由曲面データを示す図
【
図11】数値実施例1のレンズ系における6番目の面の自由曲面データを示す図
【
図12】数値実施例1のレンズ系における15番目の面の非球面データを示す図
【
図13】数値実施例1のレンズ系における17番目の面の自由曲面データを示す図
【
図14】数値実施例1のレンズ系における18番目の面の自由曲面データを示す図
【
図15】数値実施例1のレンズ系における19番目の面の自由曲面データを示す図
【
図16】数値実施例1のレンズ系における20番目の面の自由曲面データを示す図
【
図17】数値実施例1におけるレンズ系の諸収差を示す収差図
【
図18】実施形態1のレンズ系における諸条件の充足性を示す図表
【
図19】レンズ系における諸条件を説明するための図
【
図20】実施例2に係るレンズ系の構成を示すレンズ配置図
【
図21】数値実施例2におけるレンズ系の面データを示す図
【
図22】数値実施例2におけるレンズ系の各種データを示す図
【
図23】数値実施例2のレンズ系における2番目の面の非球面データを示す図
【
図24】数値実施例2のレンズ系における3番目の面の自由曲面データを示す図
【
図25】数値実施例2のレンズ系における4番目の面の自由曲面データを示す図
【
図26】数値実施例2のレンズ系における5番目の面の自由曲面データを示す図
【
図27】数値実施例2のレンズ系における6番目の面の自由曲面データを示す図
【
図28】数値実施例2のレンズ系における15番目の面の非球面データを示す図
【
図29】数値実施例2のレンズ系における17番目の面の自由曲面データを示す図
【
図30】数値実施例2のレンズ系における18番目の面の自由曲面データを示す図
【
図31】数値実施例2のレンズ系における19番目の面の自由曲面データを示す図
【
図32】数値実施例2のレンズ系における20番目の面の自由曲面データを示す図
【
図33】数値実施例2のレンズ系における画角と像点との関係を示す散布図
【
図34】数値実施例2におけるレンズ系の諸収差を示す収差図
【
図35】実施例3に係るレンズ系の構成を示すレンズ配置図
【
図36】数値実施例3におけるレンズ系の面データを示す図
【
図37】数値実施例3におけるレンズ系の各種データを示す図
【
図38】数値実施例3のレンズ系における2番目の面の非球面データを示す図
【
図39】数値実施例3のレンズ系における3番目の面の自由曲面データを示す図
【
図40】数値実施例3のレンズ系における4番目の面の自由曲面データを示す図
【
図41】数値実施例3のレンズ系における5番目の面の非球面データを示す図
【
図42】数値実施例3のレンズ系における14番目の面の非球面データを示す図
【
図43】数値実施例3のレンズ系における15番目の面の自由曲面データを示す図
【
図44】数値実施例3のレンズ系における16番目の面の自由曲面データを示す図
【
図45】数値実施例3のレンズ系における17番目の面の自由曲面データを示す図
【
図46】数値実施例3のレンズ系における18番目の面の自由曲面データを示す図
【
図47】数値実施例3のレンズ系における画角と像点との関係を示す散布図
【
図48】数値実施例3におけるレンズ系の諸収差を示す収差図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、或いは実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0011】
なお、出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0012】
(実施形態1)
以下、本開示に係るレンズ系、撮像装置及び撮像システムの実施形態1を、図面を用いて説明する。
【0013】
1.撮像システムについて
本実施形態に係る撮像システムについて、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る撮像システム10の構成を示す図である。
【0014】
本実施形態に係る撮像システム10は、例えば
図1に示すように、撮像装置11と、画像処理部13とを備える。撮像装置11は、レンズ系ILと、撮像素子12とを備える。撮像装置11は、種々の物体を被写体とする画像を撮像する装置であり、例えば各種のカメラを構成する。画像処理部13は、カメラ等に組み込まれてもよい。以下、撮像装置11おけるレンズ系ILの光軸D1の方向をZ方向とし、Z方向に直交する水平方向をX方向とし、Z,X方向に直交する垂直方向をY方向とする。
【0015】
レンズ系ILは、撮像装置11の外部から入射する光を取り込んで、取り込んだ光によるイメージサークル等の像を結像する。レンズ系ILは、例えば屈折光学系で構成される。レンズ系ILの詳細については後述する。以下、
図1に示すように、レンズ系ILにおける+Z側を像面側とし、-Z側を物体側とする。
【0016】
撮像素子12は、例えばCCD又はCMOSイメージセンサである。撮像素子12は、複数の画素が等間隔で二次元的に配置された撮像面を有する。撮像素子12は、撮像装置11において撮像面がレンズ系ILの像面に位置するように配置される。撮像素子12は、レンズ系ILを介して撮像面に結像した像を撮像し、撮像画像を示す画像信号を生成する。
【0017】
画像処理部13は、撮像素子12からの画像信号に基づいて、撮像装置11による撮像画像に所定の画像処理を行う。画像処理は、例えばガンマ補正および歪曲補正等である。画像処理部13は、例えば内部メモリに格納されたプログラムを実行することで種々の機能を実現するCPU又はMPU等を含む。画像処理部13は、所望の機能を実現するように設計された専用のハードウェア回路を含んでもよい。画像処理部13は、CPU、MPU、GPU、DSP、FPGA又はASIC等を含んでもよい。
【0018】
本実施形態の撮像システム10において、撮像素子12の撮像面は、例えば矩形状に構成される。撮像素子12の撮像面について、
図2を用いて説明する。
【0019】
図2は、撮像素子12の撮像面が長方形である場合を例示している。撮像素子12は、撮像面を規定する長辺Dxおよび短辺Dyを有する。
図2の例において、長辺Dxは、短辺Dyに直交し、且つ短辺Dyよりも大きい。撮像素子12は、長辺DxがX方向に平行であり、短辺DyがY方向に平行であるように配置される。以下、X方向を長辺方向といい、Y方向を長辺方向という場合がある。
【0020】
図2では、レンズ系ILによるイメージサークルIsと撮像面との位置関係を例示している。本実施形態のイメージサークルIsは、円形状から楕円などに歪んだ形状であり、長径Ix及び短径Iyを有する。
図2の例において、長径Ixは、短径Iyに直交し、且つ短径Iyよりも大きい。レンズ系ILは、撮像素子12の長辺Dx及び短辺Dyに対応して、イメージサークルIsの長径IxがX方向に平行であり、短径IyがY方向に平行であるように配置される。本実施形態において、X方向は第1方向の一例であり、Y方向は第2方向の一例である。また、長辺Dxは第1辺の一例であり、短辺Dyは第2辺の一例である。
【0021】
レンズ系ILのイメージサークルIsは、例えば、撮像素子12の撮像面の範囲に包含されない部分を有する。
図2の例において、イメージサークルIsの長径Ixは、撮像素子12の長辺Dxよりも大きい。また、イメージサークルIsの短径Iyは、撮像素子12の短辺Dyよりも大きい。撮像素子12は、撮像面の範囲内のイメージサークルIsによる画像を撮像する。
【0022】
以上のような撮像システム10において、本実施形態のレンズ系ILは、短辺方向(即ちY方向)における画角を縮小して、当該方向における撮像画像の高解像度化を実現する。以下、本実施形態のレンズ系ILの詳細について説明する。
【0023】
2.レンズ系について
本実施形態に係るレンズ系ILが具体的に実施される一例として、レンズ系ILの実施例1~3を以下説明する。
【0024】
2-1.実施例1
図3~17を用いて、実施例1に係るレンズ系IL1について説明する。
【0025】
図3は、実施例1に係るレンズ系IL1の構成を示すレンズ配置図である。以下の各レンズ配置図は、例えばレンズ系IL1の無限遠合焦状態において、各種レンズの配置を示す。
図3(a)は、本実施例のレンズ系IL1のYZ断面におけるレンズ配置図を示す。
図3(b)は、レンズ系IL1のXZ断面におけるレンズ配置図を示す。YZ断面及びXZ断面は、それぞれレンズ系IL1の光軸D1に沿った仮想的な断面である。
【0026】
図3(a)において、記号「※」を付した曲面は、自由曲面であることを示す。自由曲面は、光軸D1に対して回転非対称な曲面である。例えば、記号「※」の自由曲面は後述するXY多項式面である(式(E2)参照)。なお、
図3(b)では、各種符号を省略している。
【0027】
本実施形態のレンズ系ILは、例えば
図3(a),(b)に示すように、X方向とY方向との間で非対称な自由曲面を複数、有する。以下、物体側と像面側の少なくとも一方に自由曲面を有するレンズ素子を自由曲面レンズという。
【0028】
実施例1のレンズ系IL1は、第1~第10レンズ素子L1~L10と、絞りAとを備える。
図3(a)に示すように、レンズ系IL1においては第1~第10レンズ素子L1~L10が、物体側から像面側へ順番に、光軸D1に沿って並んでいる。絞りAは、開口絞りである。
【0029】
本実施例のレンズ系IL1において、最も物体側の第1レンズ素子L1は、両凹形状を有する。第1レンズ素子L1は、例えば像面側に回転対称な非球面を有する非球面レンズである。第2レンズ素子L2は、パワー(即ち屈折力)が負となるように、物体側と像面側の両側に自由曲面を有する自由曲面レンズである。また、第3レンズ素子L3は、負のパワーを有するように、両側に自由曲面を有する自由曲面レンズである。
【0030】
第4レンズ素子L4は、例えば両凸形状を有する球面レンズである。第5レンズ素子L5は、例えば正メニスカス形状を有する球面レンズである。第5レンズ素子L5は、凸面を物体側に向けて配置される。第5レンズ素子L5と第6レンズ素子L6との間には、絞りAが配置される。
【0031】
第6レンズ素子L6は、例えば両凸形状を有する球面レンズである。第6レンズ素子L6と第7レンズ素子L7とは、例えば接合されている。第7レンズ素子L7は、例えば両凹形状を有する球面レンズである。第8レンズ素子L8は、例えば物体側に回転対称な非球面を有する非球面レンズであり、例えば両凸形状である。第9レンズ素子L9は、例えば両側に自由曲面を有する自由曲面レンズである。第10レンズ素子L10は、例えば両側に自由曲面を有する自由曲面レンズであり、本実施例のレンズ系IL1において最も像面側に設けられる。
【0032】
以上のように構成されるレンズ系IL1において、第1~第5レンズ素子L1~L5は前群を構成し、第6~第10レンズ素子L6~L10は後群を構成する。前群は、絞りAよりも物体側に配置されるレンズ群である。後群は、絞りAよりも像面側に配置されるレンズ群である。
【0033】
本実施例のレンズ系IL1において、前群は、第2及び第3レンズ素子L2,L3による2枚の自由曲面レンズを含んでいる。また、後群は、第9及び第10レンズ素子L9,L10による2枚の自由曲面レンズを含んでいる。各群において2枚以上の自由曲面レンズにより、入射する光線を4回以上、曲げて、回転非対称な特性を得る際に適切な収差補正を行うことができる。また、絞りA前後の各群にそれぞれ1枚以上の自由曲面が設けられることから、前群で生じた収差を後群で補正することができる。
【0034】
以上のレンズ系IL1によると、自由曲面レンズによって光軸D1に対して非対称な負の歪みを生じさせ、像面において画角を取りこみながら、周辺部に対して中央近傍を拡大した像を得ることができる。このようなレンズ系IL1の作用効果について、
図4を用いて説明する。
【0035】
図4は、本実施例のレンズ系IL1における画角と像点P1との関係を示す散布図である。
図4においては、レンズ系IL1の画角全体における所定の角度幅毎に、入射する光が像面上で結像する像点P1をプロットしている。当該角度幅は、2.5°に設定した。この際、XY平面における回転位相は10°毎に設定した。また、レンズ系IL1は、無限遠合焦状態に設定した。
【0036】
図4のプロットは、実施例1のレンズ系IL1を数値的に実施した数値実施例1に基づいている。レンズ系IL1の数値実施例1については後述する。
図4では、光軸D1の位置を原点とする像面のXY平面において、第1象限の像点P1を例示している。本実施例のレンズ系IL1は、X軸及びY軸に対して線対称であることから、第2~第4象限についても
図4と同様である。
【0037】
図4によると、本実施例のレンズ系IL1において、像点P1間の間隔は、X方向においてもY方向においても、原点に近付くほど大きくなっている。これにより、像面上で中央近傍における所定範囲の領域において、端部よりも相対的に拡大される像を結像することができる。
【0038】
上記のような像の中央拡大によると、相対的に撮像素子12の撮像面上の画素が、中央近傍の拡大された領域において他の領域よりも多く(即ち密に)割り当てられることとなる。よって、本実施形態の撮像装置10は、中央近傍ほど高解像度で撮像することができる。
図4によると、特にY方向において、像点P1間の間隔の変化が顕著である。すなわち、X方向よりもY方向において負の歪みが顕著に生じている。これにより、本実施形態の撮像装置10において、垂直方向における広範囲を撮像可能にしながら、垂直方向の中央近傍を高解像度にすることができる。
【0039】
本実施例のレンズ系IL1における第2及び第3レンズ素子L2,L3のように、前群に負のパワーを有する自由曲面レンズを設けることにより、画角を取り込みながら相対的に中央を拡大する際に、撮像素子12の撮像面の周辺部において非対称な歪みを形成し易い。
【0040】
また、例えば上記のレンズ系IL1における全ての自由曲面の代わりに、アナモルフィック非球面を用いたとすると、X軸及びY軸間の対角方向において、性能が不足することが考えられる。これに対して、本実施形態のレンズ系ILでは、自由曲面を用いることにより、
図4に示すように、対角方向においても画角を確保しながら中央近傍ほど像点P1間の間隔を大きくして、高解像度を得ることができる。
【0041】
以上のような実施例1のレンズ系IL1に対応する数値実施例1について、
図5~17を参照して説明する。
【0042】
図5は、数値実施例1におけるレンズ系IL1の面データを示す図である。
図5の面データは、レンズ系IL1において物体側から順番に並ぶ各面s1~s22について、各々の面のタイプと、mm単位の曲率半径r及び面間隔dと、d線に対する各レンズ素子の屈折率nd及びアッベ数vdとを示している。面のタイプは、球面と、非球面と、自由曲面としてのXY多項式面とを含む。
【0043】
図6は、数値実施例1におけるレンズ系IL1の各種データを示す図である。
図6の各種データは、本数値実施例のFナンバーと、垂直半画角と、水平半画角と、水平半画角における水平像高と、垂直半画角における水平像高と、光学全長とを示している。各種像高及び光学全長の単位は「mm」であり、各半画角の単位は「°」である。
【0044】
図7は、数値実施例1のレンズ系IL1における2番目の面s2の非球面データを示す図である。
図7の非球面データは、それぞれ第1レンズ素子L1の像面側の面について、非球面の形状を規定する次式(E1)の各種係数を示す。
【数1】
上式(E1)において、hは径方向の高さであり、Kはコーニック定数であり、Anはn次の非球面係数である。上式(E1)の右辺第2項において、例えばnは4以上20以下の偶数であり、各nについての総和が取られる。上式(E1)によると、対象とする面上の径方向の高さhにおけるサグ量zが、回転対称に規定される。
【0045】
図8は、数値実施例1のレンズ系IL1における3番目の面s3の自由曲面データを示す図である。
図8の自由曲面データは、第2レンズ素子L2の物体側の面について、自由曲面としてのXY多項式面を規定するXY多項式の各種係数を示す。XY多項式は、次式(E2)のように表される。
【数2】
上式(E2)において、cは頂点曲率であり、Kはコーニック定数であり、c
jは係数である。上式(E2)の右辺第2項において、例えばjは2以上66以下の整数であり、各jについての総和が取られる。上式(E2)によると、アナモルフィック非球面の規則性よりも自由に、対象とする面上の(x,y)座標の位置におけるサグ量zが規定される。
【0046】
図9は、数値実施例1のレンズ系IL1における4番目の面s4の自由曲面データを示す図である。
図9の自由曲面データは、第2レンズ素子L2の像面側の面について、
図9と同様に式(E2)の各種係数を示す。
【0047】
図10,11は、それぞれ数値実施例1のレンズ系IL1における5,6番目の面s5,s6の自由曲面データを示す図である。
図10,11の自由曲面データは、それぞれ第3レンズ素子L3の物体側及び像面側の面について、
図9と同様に式(E2)の各種係数を示す。
【0048】
図12は、数値実施例1のレンズ系IL1における15番目の面s15の非球面データを示す図である。
図12の非球面データは、第8レンズ素子L8の物体側の面について、
図7と同様に式(E1)の各種係数を示す。
【0049】
図13,14は、それぞれ数値実施例1のレンズ系IL1における17,18番目の面s17,s18の自由曲面データを示す図である。
図15,16は、それぞれ数値実施例1のレンズ系IL1における19,20番目の面s19,s20の自由曲面データを示す図である。
図13~16の自由曲面データは、それぞれ第9及び第10レンズ素子L9,L10の物体側及び像面側の面について、
図8と同様に式(E2)の各種係数を示す。
【0050】
図17は、本実施例におけるレンズ系IL1の諸収差を示す収差図である。以下の各収差図は、無限遠合焦状態における各種の縦収差を例示する。
図17(a)は、レンズ系IL1における球面収差「SA」を示す。
図17(b),(c),(d)は、それぞれY方向における非点収差「AST-V」、X方向における非点収差「AST-H」、及び対角方向における非点収差「AST-D」を示す。
【0051】
図17(a)~(d)の横軸は、それぞれmm単位で表される。
図17(a)の縦軸は、瞳高さを基準としている。
図17(a)では、d線、F線及びc線に対する球面収差の特性曲線を示している。また、
図17(b)~(d)の縦軸は、半画角を基準としている。
図17(b)~(d)では、それぞれX方向又はY方向と光軸D1とに沿ったXZ断面又はYZに関する非点収差の特性曲線を示している。
【0052】
なお、本実施形態では、例えば
図8~11,13~16に示すように、各自由曲面においてx及びyの偶数項のみを使用している。このことから、対角方向の収差「AST-D」等は、第1~第4象限のいずれにおいても同じになる。
【0053】
2-2.諸条件について
以上のレンズ系IL1の数値実施例1を用いて、本実施形態に係るレンズ系ILが満たす各種条件について、
図18,19を参照して説明する。
【0054】
図18は、本実施形態のレンズ系ILにおける諸条件の充足性を示す図表である。
図18に示す図表は、本実施形態のレンズ系ILが、各数値実施例1~3においてそれぞれ下記の条件(1)~(6)を満たすことを示している。
図18において、レンズ素子L8~L10の隣に付した「R1」は物体側(即ち-Z側)の面であることを示し、「R2」は像面側(即ち+Z側)の面であることを示す。例えば「L8R1」は、第8レンズ素子L8の-Z側の面を示す。
【0055】
条件(1)は、レンズ系ILにおける絞りAよりも+Z側である後群の自由曲面レンズが、下記の条件式(1)を満たす自由曲面を有することである。
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
【0056】
上式(1)において、IHは、水平方向(即ちX方向)における画角が30°となる光線が像面上で結像する高さである。SHは、水平方向において、対象とする自由曲面の高さIHの箇所のサグ量である。SVは、垂直方向(即ちY方向)における同自由曲面の高さIHの箇所のサグ量である。Dは符号定数であり、当該自由曲面がレンズ素子の物体側の面である場合に「1」であり、当該自由曲面がレンズ素子の像面側の面である場合に「-1」である。
【0057】
上式(1)の左辺は、レンズ系ILの後群の特定の自由曲面について、下記のPV及びPHの差分(PV-PH)を、基準の高さIHで規格化している。
PV=D×SV
PH=D×SH
ここで、PVは、対象とする自由曲面の垂直方向のサグ量SVに応じたレンズ素子のYZ断面におけるパワーの傾向を示す。PHは、同面の水平方向のサグ量SHに応じたXZ断面におけるパワーの傾向を示す。PV,PHについて、
図19を用いて説明する。
【0058】
図19は、-Z側にk番目の自由曲面を有し、+Z側に(k+1)番目の自由曲面を有するレンズ素子LkのYZ断面を例示する。
図19では、レンズ素子Lkが全体的に両凸形状であって、両面において正のパワーを生じさせる場合を例示している。
【0059】
この場合、レンズ素子Lkの-Z側の面のサグ量SV(k)は、
図19に示すように正である。さらに、符号定数D(k)は「1」となることから、PV(k)>0となる。また、レンズ素子Lkの+Z側の面のサグ量SV(k+1)は、
図19に示すように負になる。これとともに、符号定数D(k+1)は反転して、D(k)から「-1」になる。よって、PV(k+1)>0となる。
【0060】
以上のように、PVの正負は、対応する自由曲面がレンズ素子Lkの+Z側であるか-Z側であるかに拘わらず、YZ断面におけるパワーの正負に対応している。XZ断面に関するPHの正負についても同様である。
【0061】
ここで、自由曲面においては、垂直方向のサグ量SVと水平方向のサグ量SHとの違いに応じて、PVとPH間の差分が生じる。差分(PV-PH)が正の場合、対応する自由曲面は、レンズ素子LkのXZ断面よりもYZ断面において、即ち水平方向よりも垂直方向においてパワーを正に強める傾向を有する。
【0062】
以上より、条件式(1)を満たす自由曲面は、レンズ系ILの後群において、水平方向よりも垂直方向においてパワーを正に強めることとなる。レンズ系ILの後群における正のパワーは、歪曲収差に負に作用する。よって、条件(1)により、レンズ系ILにおいて水平方向よりも垂直方向の歪みを負にすることができる。
【0063】
条件式(1)の左辺の計算結果を
図18に示す。
図3のレンズ系IL1において、後群の自由曲面レンズは、第9及び第10レンズ素子L9,L10である。
図18に示すように、条件(1)について、実施例1の第9レンズ素子L9の物体側の自由曲面の計算結果「0.176」は、上式(1)の右辺に示す下限値「0.08」を上回っている。これにより、実施例1のレンズ系IL1は条件(1)を満たしている。
【0064】
条件式(1)の下限値を下回ると、サグ量の違いが小さ過ぎて、垂直、対角および水平方向における歪曲を制御することが困難となる。このため、水平方向よりも垂直方向の歪みを負にする効果が得難くなる。また、レンズ枚数の増加が必要になり、コストアップの要因となる。
【0065】
条件(1)において、各サグ量SV,SHの基準とする高さIHは、例えば像面上で歪曲の効果を得たい所望の高さに対応して設定される。特に、光線位置が高い程、歪曲に影響を及ぼし易い。すなわち、歪曲の制御し易さは、光線高さに影響を受けやすい。このことから、条件(1)では基準の高さIHにおける結像性能への影響を規定し、当該高さIHで規格化している。条件(1)により、像面の周辺部でより負の歪曲を得ることができる。
【0066】
条件(2)は、例えばレンズ系ILの後群の自由曲面レンズが、下記の条件式(2)を満たす自由曲面を有することである。なお、条件(2)を満たす自由曲面レンズは、後群に限らず、レンズ系ILの前群に配置されてもよい。
D×(SVb-SHb)/IHb<-0.01 …(2)
【0067】
上式(2)において、IHbは、水平方向において画角15°を有する光線が像面上で結像する高さである。SHbは、水平方向において対象とする自由曲面の高さIHbのサグ量である。SVbは、垂直方向における当該自由曲面の高さIHbのサグ量である。符号定数Dは、上述したように「1」又は「-1」である。条件(2)の高さIHbは、条件(1)の高さIHよりも低い。
【0068】
条件(2)は、条件(1)の副作用を抑制するための条件である。条件(1)によると、水平方向よりも垂直方向において、歪みを負にする作用だけでなく、負の像面湾曲および非点収差を生じる副作用も招くことが想定される。これに対して、条件(2)を満たす自由曲面によると、水平方向よりも垂直方向において、レンズ周辺部のパワーを負に強めて、上記の副作用を抑制することができる。条件式(2)の左辺の計算結果を
図18に示す。
【0069】
条件式(2)の上限値を上回ると、サグ量の違いが小さ過ぎて、条件(1)に起因する非点収差および像面湾曲を、垂直、対角および水平方向の各々で制御することが困難となる。また、レンズ枚数の増加が必要になり、コストアップの要因となる。これに対して、
図18に示す計算結果によると、例えば実施例1のレンズ系IL1において第9及び第10レンズ素子L9,L10の+Z側の面が、それぞれ条件式(2)の上限値を下回っている。これにより、実施例1のレンズ系IL1は条件(2)を満たし、像面湾曲および非点収差を適切に制御できる。
【0070】
条件(3)は、以下の条件式(3)により規定される。
OAL/SD<7.5 …(3)
ここで、OALは、レンズ系ILの光学全長である。SDは、絞りAの直径である。条件式(3)の左辺の計算結果を
図18に示す。
【0071】
条件式(3)の上限値を上回ると、光学全長が長くなり過ぎてレンズ系ILの大型化を招いてしまう。或いは、F値が大きくなり過ぎ、暗いレンズ系となってしまう。これに対して、
図18に示す計算結果によると、例えば実施例1のレンズ系IL1は、条件(3)を満たしている。これにより、レンズ系IL1の明るさを確保しながら小型化を図ることができる。
【0072】
条件(4)は、以下の条件式(4)により規定される。
nd1>1.6 …(4)
ここで、nd1は、d線に対する第1レンズ素子L1の屈折率、すなわちレンズ系ILにおける最も-Z側のレンズ素子の屈折率である。各実施例の第1レンズ素子L1の屈折率を
図18に示す。
【0073】
条件(4)は、第1レンズ素子L1において外部から入射する光の光線を大幅に曲げられるように、屈折率を高くする条件である。条件式(4)の下限を下回ると、第1レンズ素子L1において広範囲からの光を取り込み難くなる等、画角を広くしながら中央近傍を拡大する効果を得難くなる。或いは、レンズ枚数の増加が必要になり、コストアップの要因となってしまう。これに対して、
図18に示す計算結果によると、例えば実施例1のレンズ系IL1は、条件(4)を満たしている。第1レンズ素子L1は、例えばガラス材料で構成される。
【0074】
条件(5)は、以下の条件式(5)により規定される。
ndf>1.5 …(5)
ここで、ndfは、d線に対する自由曲面レンズの屈折率である。レンズ系ILの各自由曲面レンズの屈折率を
図18に示す。
【0075】
条件式(5)の下限値を下回ると、上述した効果を得難くなる。或いは、レンズ枚数の増加を要し、コストアップの要因となる。また、中央拡大および垂直画角を取り込みつつ、球面収差、コマ収差を適切に制御することが困難となる。これに対して、例えば実施例1のレンズ系IL1において、レンズ素子L2,L3,L9,L10の屈折率は、
図18に示すように条件式(5)の下限値を上回っている。条件(5)により、レンズ系ILにおいて高い屈折率の自由曲面レンズを用いて、光線を回転非対称に制御し易くすることができる。
【0076】
条件(6)は、以下の条件式(6)により規定される。
40<vf<60 …(6)
ここで、vfは、自由曲面レンズのアッベ数である。レンズ系ILの各自由曲面レンズのアッベ数を
図18に示す。
【0077】
条件式(6)の上限値を上回ったり、下限値を下回ったりすると、温度変化時等に色収差が大きく変化し、適切に色収差を制御することが難しくなる。これに対して、例えば実施例1のレンズ系IL1において、レンズ素子L2,L3,L9,L10のアッベ数は、
図18に示すように条件(6)を満たしている。条件(6)によると、自由曲面レンズのアッベ数を適切な範囲に設定することにより、レンズ系ILにおいて色収差を制御安くすることができる。
【0078】
本実施形態に係るレンズ系ILは、上述した実施例1のレンズ系IL1に限らず様々な形態で実施可能である。以下、レンズ系ILの実施例2,3について説明する。
【0079】
2-3.実施例2
図20~34を用いて、実施例2のレンズ系IL2について説明する。
【0080】
図20は、実施例2に係るレンズ系IL2の構成を示す。
図20(a),(b)は、それぞれ
図3(a),(b)と同様に、レンズ系IL2のレンズ配置図を示す。
【0081】
実施例2のレンズ系IL2は、実施例1と同様の構成から、各種レンズ素子L1~L10の形状等を変更している。本実施例のレンズ系IL2における自由曲面レンズは、実施例1と同様に、前群における第2及び第3レンズ素子L2,L3と、後群における第9及び第10レンズ素子L9,L10とである。実施例2のレンズ系IL2に対応する数値実施例を、
図21~32に示す。
【0082】
図21は、数値実施例2におけるレンズ系IL2の面データを示す図である。
図22は、本実施例におけるレンズ系IL2の各種データを示す図である。
図21,22は、それぞれ数値実施例1の
図5,6と同様に各データを示す。
【0083】
図23は、本実施例のレンズ系IL2における2番目の面s2の非球面データを示す図である。
図23の非球面データは、第1レンズ素子L1の像面側の面について、数値実施例1と同様に式(E1)の各種係数を示す。
【0084】
図24~27は、それぞれ本実施例のレンズ系IL2における3~6番目の面s3~s6の自由曲面データを示す図である。
図24~27の自由曲面データは、それぞれ第2及び第3レンズ素子L2,L3の両面について、数値実施例1と同様に式(E2)の各種係数を示す。
【0085】
図28は、本実施例のレンズ系IL2における15番目の面s15の非球面データを、
図23と同様に示す。
図29~32は、それぞれレンズ系IL2における17~20番目の面s17~s20の自由曲面データを、
図24等と同様に示す。
【0086】
以上の数値実施例2に基づいて、
図33に、本実施例のレンズ系IL2における画角と像点P2との関係を示す。また、
図34は、本実施例におけるレンズ系IL2の諸収差を示す。
図34(a),(b),(c),(d)は、それぞれ
図17(a)~(d)と同様に、本実施例におけるレンズ系IL2の各収差図を示している。さらに、本実施例のレンズ系IL2は、
図18に示すように、上述した各条件(1)~(6)を満たしている。本実施例のレンズ系IL2によっても、実施例1と同様に、X方向よりもY方向において負の歪曲を得ることができる。
【0087】
2-4.実施例3
実施例3では、前群における自由曲面レンズが1枚であるレンズ系ILの一例を説明する。
図35~48を用いて、実施例3のレンズ系IL3について説明する。
【0088】
図35は、実施例3に係るレンズ系IL3の構成を示す。
図35(a),(b)は、それぞれ
図3(a),(b)と同様に、レンズ系IL3のレンズ配置図を示す。
【0089】
実施例3のレンズ系IL3は、実施例1と同様に順番に配置された第1~第9レンズ素子L1~L9と、第4及び第5レンズ素子L4,L5間に配置された絞りAとを備える。
【0090】
本実施例のレンズ系IL3において、前群の自由曲面レンズは第2レンズ素子L2であり、後群の自由曲面レンズは第8及び第9レンズ素子L8,L9である。また、本実施例の第3レンズ素子L3は、物体側に非球面を有する回転対称な非球面レンズである。第1及び第7レンズ素子L1,L7は、像面側に非球面を有する回転対称な非球面レンズである。実施例3のレンズ系IL3に対応する数値実施例を、
図36~
図46に示す。
【0091】
図36は、数値実施例3におけるレンズ系IL3の面データを示す図である。
図37は、本実施例におけるレンズ系IL3の各種データを示す図である。
図36,37は、それぞれ数値実施例1の
図5,6と同様に各データを示す。
【0092】
図38は、本実施例のレンズ系IL3における2番目の面s2の非球面データを示す図である。
図38の非球面データは、第1レンズ素子L1の像面側の面について、数値実施例1と同様に式(E1)の各種係数を示す。
【0093】
図39,40は、それぞれ本実施例のレンズ系IL3における3,4番目の面s3,s4の自由曲面データを示す図である。
図39,40の自由曲面データは、第2レンズ素子L2の両面について、数値実施例1と同様に式(E2)の各種係数を示す。
【0094】
図41,42は、それぞれレンズ系IL3における5,14番目の面s5,s14の非球面データを示す図である。
図41は、第3レンズ素子L3の物体側の面についての非球面データを、
図38と同様に示す。
図42は、第7レンズ素子L7の像面側の面についての非球面データを同様に示す。
【0095】
図43~46は、それぞれレンズ系IL3における15~18番目の面s15~s18の自由曲面データを示す図である。
図43~46は、第8及び第9レンズ素子L8,L9の両面についての各自由曲面データを、
図39等と同様に示す。
【0096】
以上の数値実施例3に基づいて、
図47に、本実施例のレンズ系IL3における画角と像点P3との関係を示す。また、
図48は、本実施例におけるレンズ系IL3の諸収差を示す。
図48(a),(b),(c),(d)は、それぞれ
図17(a)~(d)と同様に、本実施例におけるレンズ系IL3の各収差図を示している。さらに、本実施例のレンズ系IL3は、
図18に示すように、上述した各条件(1)~(6)を満たしている。以上のように、本実施例のレンズ系IL3によっても、実施例1と同様にX方向よりもY方向において負の歪曲を得ることができる。
【0097】
(他の実施形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置換、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記各実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施形態を例示する。
【0098】
上記の実施形態1では、
図2において長方形の撮像面を例示したが、撮像素子12の撮像面はこれに限らない。本実施形態において、撮像素子12の撮像面は、長方形でない各種の矩形状であってもよく、部分的にマスクされていてもよい。また、撮像素子12の撮像面は、湾曲していてもよい。このような撮像素子12に対しても、本実施形態のレンズ系ILによって実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0099】
例えば、本実施形態の撮像素子12の長辺Dxと短辺Dyとは直交していなくてもよく、各種の角度で交差してもよい。また、撮像素子12は、長辺Dx及び短辺Dyの代わりに同じ長さの二辺を有してもよい。本実施形態の撮像光学系ILでは、イメージサークルIsの長径Ixと短径Iyとによる第1及び第2方向も、互いに直交していなくてもよく、各種の角度で交差してもよい。また、イメージサークルIsにおける第1及び第2方向の径の長さが同じであってもよい。イメージサークルIsは、必ずしも円形から歪んでいなくてもよい。
【0100】
上記の各実施形態では、自由曲面の一例として、XY多項式面を例示した。本実施形態において、自由曲面は上記に限らず、例えばアナモルフィック非球面、或いはトーリック面を含んでもよい。また、本実施形態のレンズ系において、条件(1)等を満たす自由曲面レンズは、アナモルフィックではない自由曲面を有してもよい。アナモルフィックではない自由曲面は、XY多項式面は含む一方でアナモルフィック非球面を含まない。アナモルフィックではない自由曲面は、例えば対称面を有さなくてもよい。
【0101】
本実施形態の撮像システム10は、各種の用途に適用可能であり、例えば車載用途に適用可能である。例えば、撮像装置11が、車両等の移動体の前方のシーンを撮像するように、車載カメラを構成してもよい。例えば、車両前方のシーンの撮像画像において水平方向よりも垂直方向で負に歪みを持たせることにより、前方の車両と共に上方の信号および標識などの検知を行い易くすることができる。また、車載カメラとしての撮像装置11は移動体の前方に限らず、後方あるいは側方等の各種シーンを撮像する用途に適用されてもよい。また、撮像システム10は車載用途に限らず、例えば種々の状況を監視する監視カメラにも適用可能である。
【0102】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0103】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0104】
また、上述の実施形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、種々の変更、置換、付加、省略などを行うことができる。
【0105】
(態様のまとめ)
以下、本開示に係る各種態様を例示する。
【0106】
本開示に係る第1の態様は、物体側から入射する光を像面側の撮像素子に結像するレンズ系である。レンズ系は、自由曲面レンズを含む複数のレンズ素子と、複数のレンズ素子の間に配置された絞りとを備える。自由曲面レンズは、互いに交差する第1方向と第2方向との間で非対称な自由曲面を有する。以下の条件式(1)を満たす自由曲面レンズが、複数のレンズ素子において絞りよりも像面側に配置される。
D×(SV-SH)/IH>0.08 …(1)
ここで、
IH:第1方向において画角30°を有する光線が像面上で結像する高さ
SH:第1方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
SV:第2方向における当該自由曲面の高さIHのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」である。
【0107】
以上のレンズ系によると、条件式(1)によって第2方向における自由曲面レンズのパワーを第1方向よりも正に強めて、第1方向よりも第2方向において負の歪みを生じさせることができる。
【0108】
第2の態様は、第1の態様のレンズ系であって、複数のレンズ素子は、以下の条件式(2)を満たす自由曲面レンズを含む。
D×(SVb-SHb)/IHb>-0.01 …(2)
ここで、
IHb:第1方向において画角15°を有する光線が像面上で結像する高さ
SHb:第1方向における当該自由曲面の高さIHbのサグ量
SVb:第2方向における当該自由曲面の高さIHbのサグ量
D:当該自由曲面が当該自由曲面レンズの物体側である場合に「1」であり、当該自由曲面が当該自由曲面レンズの像面側である場合に「-1」である。
【0109】
以上のレンズ系によると、条件式(2)によって第2方向における自由曲面レンズのパワーを第1方向よりも負に強めて、条件式(1)の副作用を抑制することができる。
【0110】
第3の態様は、第1の態様のレンズ系であって、以下の条件式(3)を満たす。
OAL/SD<7.5 …(3)
ここで、
OAL:レンズ系の光学全長
SD:絞りの直径
である。これにより、レンズ系の明るさを確保しながら小型化を図ることができる。
【0111】
第4の態様は、第1の態様のレンズ系であって、複数のレンズ素子における最も物体側のレンズ素子は、以下の条件式(4)を満たす。
nd1>1.6 …(4)
ここで、
nd1:d線に対する当該レンズ素子の屈折率
である。これにより、第1レンズ素子において外部からの光線が大幅に曲がるように屈折率を設定して、画角の確保等を行い易くすることができる。
【0112】
第5の態様は、第1の態様のレンズ系であって、自由曲面レンズは、以下の条件式(5)を満たす。
ndf>1.5 …(5)
ここで、
ndf:d線に対する当該自由曲面レンズの屈折率
である。これにより、レンズ系において高い屈折率の自由曲面レンズを用いて、光線を自由に制御し易くすることができる。
【0113】
第6の態様は、第1の態様のレンズ系であって、自由曲面レンズは、以下の条件式(6)を満たす。
20<vf<60 …(6)
ここで、
vf:当該自由曲面レンズのアッベ数
である。これにより、自由曲面を有するレンズ素子において、アッベ数を適切に設定することにより、温度変化に対するレンズ系の結像の性能を確保し易くすることができる。
【0114】
第7の態様は、第1~第6の態様のいずれかのレンズ系と、撮像素子とを備える撮像装置である。撮像素子は、撮像光学系によって結像される像を撮像する。撮像素子は、第1方向に対応する第1辺と、第2方向に対応する第2辺であって、第1辺以下の長さを有する第2辺とを有する。撮像装置においては、レンズ系により、第1及び第2方向の間で相対的に異なる負の歪みを生じさせることができる。
【0115】
第8の態様は、第7の態様の撮像装置と、画像処理部とを備えた撮像システムである。画像処理部は、撮像装置の撮像素子によって撮像された画像に画像処理を実行する。撮像システムにおいては、撮像装置のレンズ系により、第1及び第2方向の間で相対的に異なる負の歪みを生じさせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示に係る撮像システムは、種々の撮像用途に適用可能であり、例えば車載カメラ、監視カメラ、Webカメラ、及びデジタルカメラ等に適用可能である。また、本開示に係るレンズ系は、交換レンズ装置において提供されてもよい。