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特許7382569電池用電極、電池、および電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】電池用電極、電池、および電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/02 20060101AFI20231110BHJP
   H01M 50/533 20210101ALI20231110BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20231110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20231110BHJP
   H01M 50/534 20210101ALN20231110BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M50/533
H01M4/04 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/70 A
H01M50/534
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020534110
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2019025282
(87)【国際公開番号】W WO2020026649
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2018142478
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津島 達也
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 勝也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】神山 遊馬
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104956(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204184(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/50-50/598
H01M 4/00- 4/84
H01M10/00-10/39
H01M 6/00- 6/52
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯体と、前記芯体の表面に設けられた活物質層とを備える電池用電極であって、
前記芯体は、芯体表面が前記活物質層に覆われた基部と、前記基部から突出したタブ部とを有し、
前記芯体には、前記タブ部の根元から前記基部にわたって切り欠きが形成され、
前記切り欠きの縁は、第1の円弧からなる第1の曲線と、前記第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで形成されており、
前記タブ部の幅は、先端より根元で細くなっている、電池用電極。
【請求項2】
前記切り欠きは、前記タブ部の根元の幅方向両端部から前記基部にわたって、または前記基部の当該幅方向両端部と隣接する部分にそれぞれ形成されている、請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記切り欠きの縁には、前記タブ部側の第1端と、前記基部側の第2端とが存在し、
前記第2の曲線または前記直線は、前記第2端から形成されている、請求項1または2に記載の電池用電極。
【請求項4】
前記第1の円弧は、楕円の円弧である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池用電極。
【請求項5】
前記活物質層の充填密度は、3.65g/cm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電池用電極。
【請求項6】
芯体と、前記芯体の表面に設けられた活物質層とを備える電池用電極であって、
前記芯体は、芯体表面が前記活物質層に覆われた基部と、前記基部から突出したタブ部とを有し、
前記芯体には、前記タブ部の根元から前記基部にわたって、または前記基部の前記タブ部と隣接する部分に切り欠きが形成され、
前記切り欠きの縁は、第1の円弧からなる第1の曲線と、前記第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで形成されており、
前記電池用電極は、前記タブ部の根元に設けられた保護層をさらに備え、
前記切り欠きの一部は、前記保護層が設けられた部分に形成されている、電池用電極。
【請求項7】
前記切り欠きの縁には、前記タブ部側の第1端と、前記基部側の第2端とが存在し、
前記第2の曲線または前記直線は、前記第2端から形成されている、請求項6に記載の電池用電極。
【請求項8】
前記第2の曲線または前記直線は、前記第2端から前記タブ部の側縁を延長した線を超えない長さで形成されている、請求項に記載の電池用電極。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電池用電極を備えた、電池。
【請求項10】
前記電池用電極は、正極である、請求項9に記載の電池。
【請求項11】
芯体と、前記芯体の表面に設けられた活物質層とを備え、前記芯体が、芯体表面が前記活物質層に覆われた基部と、前記基部から突出したタブ部とを有する電池用電極の製造方法であって、
少なくとも前記基部または前記基部となる部分の表面に前記活物質層を設け、
前記タブ部または前記タブ部となる部分の根元から前記基部または前記基部となる部分にわたって、或いは前記基部の前記タブ部と隣接する部分または当該隣接する部分となる部分に切り欠きを形成し、このとき、第1の円弧からなる第1の曲線と、前記第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで前記切り欠きの縁を形成し、
前記切り欠きの形成後に、前記活物質層を圧縮する、電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用電極、電池、および電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池用電極は、一般的に、金属製の芯体と、芯体の表面に設けられた活物質層とを備える。芯体は、例えば、芯体表面が活物質層に覆われた基部と、基部から突出したタブ部とを有する。特許文献1には、芯体のタブ部の根元およびその近傍に切り欠きが形成された電池用電極が開示されている。また、特許文献1には、タブ部の根元およびその近傍に切り欠きを設けた後、活物質層を圧縮することにより、芯体に亀裂が生じることを効果的に抑制できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/204184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、活物質層を強い力で圧縮して活物質層の充填密度を高くすれば、電池の体積エネルギー密度を向上させることができる。しかし、活物質層を強く圧縮すると、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じる場合がある。また、電池の充放電に伴う活物質層の膨張・収縮に起因して、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じる可能性もある。特許文献1に開示された電極によれば、かかる亀裂の発生を抑制する効果が期待されるが、本発明者らの検討の結果、未だ改良の余地があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である電池用電極は、芯体と、前記芯体の表面に設けられた活物質層とを備える電池用電極であって、前記芯体は、芯体表面が前記活物質層に覆われた基部と、前記基部から突出したタブ部とを有する。前記芯体には、前記タブ部の根元から前記基部にわたって、または前記基部の前記タブ部と隣接する部分に切り欠きが形成されている。前記切り欠きの縁は、第1の円弧からなる第1の曲線と、前記第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで形成されている。
【0006】
本開示の一態様である電池は、上記電池用電極を備える。
【0007】
本開示の一態様である電池用電極の製造方法は、芯体と、前記芯体の表面に設けられた活物質層とを備え、前記芯体が、芯体表面が前記活物質層に覆われた基部と、前記基部から突出したタブ部とを有する電池用電極の製造方法であって、少なくとも前記基部または前記基部となる部分の表面に前記活物質層を設け、前記タブ部または前記タブ部となる部分の根元から前記基部または前記基部となる部分にわたって、或いは前記基部の前記タブ部と隣接する部分または当該隣接する部分となる部分に切り欠きを形成し、このとき、第1の円弧からなる第1の曲線と、前記第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで前記切り欠きの縁を形成し、前記切り欠きの形成後に、前記活物質層を圧縮する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様である電池用電極によれば、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じることを十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である電池の断面図である。
図2】実施形態の一例である電極体の分解斜視図である。
図3】実施形態の一例である正極において、正極タブ部およびその近傍を拡大して示す図である。
図4】切り欠きの変形例を示す図である。
図5】切り欠きの変形例を示す図である。
図6】比較例1の切り欠きを示す図である。
図7】比較例2の切り欠きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の駆動用電源として、リチウムイオン電池等の二次電池が使用されており、電池の体積エネルギー密度の向上が以前にも増して求められている。上述のように、電池の体積エネルギー密度を増加させる方法として、活物質層を強い力で圧縮して活物質層の充填密度を高くする方法が考えられる。しかし、この場合、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じる場合がある。
【0011】
活物質層を強い力で圧縮した場合、活物質層だけでなく芯体も強く圧縮されるため、芯体が圧延される。このとき、芯体の活物質層が設けられた部分(基部)は圧延されるものの、芯体露出部(タブ部)は、活物質層が設けられた部分と比べて厚みが小さいため、圧縮荷重が加わらず圧延されない。ゆえに、芯体において活物質層が設けられた部分と、活物質層が存在しない芯体露出部とで長さに差が生じ、これが、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じる原因となる。また、電池の充放電に伴う活物質層の膨張・収縮に起因して、芯体のタブ部の根元およびその近傍に亀裂が生じる可能性もある。
【0012】
本発明者らは、かかる亀裂の発生を抑制すべく鋭意検討した結果、タブ部の根元から基部にわたって、または基部のタブ部と隣接する部分に、第1の円弧からなる第1の曲線、および第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線によって縁取られた切り欠きを有する電極構造を創造するに至った。以下で詳説するように、当該切り欠きによって、上記亀裂の発生が特異的に抑制される。
【0013】
本開示の実施形態の一例について、以下詳細に説明する。なお、本開示に係る電池用電極、電池、および電池用電極の製造方法は以下で説明する実施形態に限定されない。実施形態の説明で参照する図面は模式的に記載されたものであるから、図面に描画された構成要素の寸法比率などは以下の説明を参酌して判断されるべきである。図1図3では、電極体3を構成する電極の積層方向(電極の厚み方向)をz方向、正極端子7と負極端子9が並ぶ方向をx方向、xおよびzと直交する方向をy方向としている。説明の便宜上、x方向を横方向、y方向を上下方向という場合がある。
【0014】
図1は、実施形態の一例である電池1の断面図である。図1に例示するように、電池1は、有底で開口を有する外装体4と、該開口を塞ぐ封口板5とを備える。外装体4は、角形の有底筒状の容器であり、外装体4には、積層型の電極体3が、電解質(図示せず)と共に収容されている。封口板5は、外装体4の開口を塞ぐ蓋体であり、封口板5には、正極端子7、負極端子9、ガス排出弁14、電解液を注液するための電解液注液孔15、電解液注液孔15を封止する封止栓16が設けられている。ガス排出弁14は、電池内部の圧力が所定値以上となったときに破断し、電池内部のガスを電池外部に排出させる機能を有する。
【0015】
電解質は、水系電解質、非水系電解質のいずれであってもよい。本実施形態では、非水電解質を用いるものとする。電池1は、例えばリチウムイオン電池等の非水電解質二次電池である。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF等のリチウム塩が使用される。
【0016】
正極端子7は、外部の要素と正極とを電気的に接続させる機能を有する。負極端子9は、外部の要素と負極とを電気的に接続させる機能を有する。正極端子7は、封口板5に設けられた正極端子取り付け孔5aにおいて、絶縁部材10,11により封口板5と電気的に絶縁された状態で封口板5に取り付けられる。また、負極端子9は、封口板5に設けられた負極端子取り付け孔5bにおいて、絶縁部材12,13により封口板5と電気的に絶縁された状態で封口板5に取り付けられる。
【0017】
電極体3は、側面および底面が絶縁シート17に覆われた状態で外装体4に収容されている。絶縁シート17には、例えば、外装体4の内壁に沿うように箱状に折り曲げられたもの、または電極体3を覆うような袋状のものを用いることができる。本実施形態では、積層型の電極体3が金属製の角形の外装体4に収容されているが、電極体は巻回型であってもよく、また外装体はラミネートフィルムで構成されていてもよい。
【0018】
電極体3は、封口板5側に正極タブ部24および負極タブ部34が延びるように外装体4内に配置されている。正極タブ部24は、外装体4のx方向一端側に配置され、正極端子7とy方向に並び、正極集電体6を介して当該端子と電気的に接続されている。負極タブ部34は、外装体4のx方向他端側に配置され、負極端子9とy方向に並び、負極集電体8を介して当該端子と電気的に接続されている。正極と正極端子7の間の導電経路または負極と負極端子9の間の導電経路に、電流遮断機構を設けてもよい。電流遮断機構は、電池内部の圧力が所定値以上となったときに作動し、導電経路を切断する機能を有する。
【0019】
図2は、電極体3の分解斜視図である。図2に例示するように、電極体3は、複数枚の正極20および複数枚の負極30を、セパレータ40を介して1枚ずつ交互に積層してなる積層構造を有する。積層型の電極体3は、正極および負極を巻回してなる巻回型の電極体のように電極が曲げられず、また巻回型の電極体と比較してデッドスペースが小さい。このため、積層型の電極体3では、巻回型の電極体と比べて、活物質層の充填密度を高くでき、電池のエネルギー密度を向上させ易い。
【0020】
正極20は、正極芯体21と、正極芯体21の表面に設けられた正極活物質層22とを備える。正極活物質層22は、正極芯体21の両面に設けられることが好ましい。正極芯体21は、芯体表面が正極活物質層22に覆われた正極基部23と、正極基部23から突出した正極タブ部24とを有する。正極タブ部24には、正極活物質層22が設けられず、芯体表面が露出した露出部24aが存在する。
【0021】
負極30は、負極芯体31と、負極芯体31の表面に設けられた負極活物質層32とを備える。負極活物質層32は、負極芯体31の両面に設けられることが好ましい。負極芯体31は、芯体表面が負極活物質層32に覆われた負極基部33と、負極基部33から突出した負極タブ部34とを有する。負極タブ部34には、負極活物質層32が設けられず、芯体表面が露出した露出部34aが存在する。
【0022】
本実施形態では、正極基部23の両面の全域に正極活物質層22が設けられている。一般的には、正極芯体21となる金属箔等の表面に正極活物質層22を設けた後、当該金属箔等を電極の形状、サイズに切断して正極20を製造するため、正極タブ部24の根元にもわずかに正極活物質層22が存在する。同様に、負極活物質層32は、負極基部33の両面の全域に設けられ、負極タブ部34の根元にもわずかに存在している。
【0023】
正極基部23、正極タブ部24、負極基部33、および負極タブ部34は、例えば、いずれも略四角形状に形成される。図2に示す例では、正極20を厚み方向(z方向)から見た状態で、正極タブ部24が正極基部23の1つの辺(上辺)の一端側から突出している。また、負極タブ部34が負極基部33の1つの辺(上辺)の他端側から突出している。換言すると、正極20および負極30は、各タブ部が同じ方向(封口板5の方向)に延び、正極タブ部24と負極タブ部34が互いにx方向反対側に位置するように配置される。なお、リチウムイオン電池の場合、リチウムイオンの析出を防止するために、負極基部33は正極基部23より大面積に形成され、正極20および負極30は、正極活物質層22の全体が負極活物質層32と対向するように配置される。
【0024】
正極芯体21には、正極タブ部24の根元から正極基部23にわたって切り欠き25が形成されている。正極20では、この切り欠き25によって、正極タブ部24の根元およびその近傍に生じ易い亀裂が十分に抑制される。本実施形態では、正極芯体21のみに切り欠き25が形成されているが、切り欠き25は負極芯体31に形成されていてもよい。本開示に係る切り欠きを備えた電池用電極は、正極のみ、または負極のみに適用されてもよく、或いは正極および負極の両方に適用されてもよい。
【0025】
以下、電極体3を構成する正極20、負極30、およびセパレータ40について、特に切り欠き25を有する正極20について詳述する。
【0026】
[正極]
正極20は、上述のように、正極芯体21と、正極芯体21の両面に設けられた正極活物質層22とを備える。正極芯体21には、アルミニウム、アルミニウム合金などの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層22は、正極活物質、結着材、および導電材を含む。正極20は、例えば正極芯体21上に正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、乾燥した塗膜である正極活物質層22をローラーで圧縮することにより製造できる。
【0027】
正極活物質は、リチウム含有金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W、Ca、Sb、Pb、Bi、Ge等が例示できる。好適なリチウム含有金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。
【0028】
正極活物質層22に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極活物質層22に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0029】
正極活物質層22の充填密度は、電池1の用途等に応じて適宜変更できるが、正極では、切り欠き25の機能により充填密度を向上させることが可能である。正極活物質層22の充填密度は、例えば3.65g/cm以上であり、3.65g/cm~3.85g/cmの範囲で調整されてもよい。切り欠き25の効果は、正極活物質層22の充填密度が高い場合により顕著に表れる。また、正極活物質層22の厚みは特に限定されないが、一例としては、正極芯体21の片側で10μm~150μm、または30μm~80μmである。
【0030】
本実施形態では、正極タブ部24の根元に保護層28が設けられている。保護層28は、正極タブ部24の根元の正極活物質層22が設けられない部分であって、セパレータ40を介して負極30と対向する範囲に設けられる。また、保護層28は、正極活物質層22との間に隙間なく、正極活物質層22と隣接して設けられる。保護層28を設けることで、例えば正極タブ部24と負極30の間に導電性の異物が混入することで発生し得る低抵抗な短絡を抑制でき、また正極タブ部24の根元が補強されて正極芯体21の破断が抑制される。保護層28は、正極タブ部24の根元において正極タブ部24の両面に設けられる。保護層28の厚みは、正極活物質層22の厚みより薄く、例えば正極芯体21の片側で1μm~10μmである。
【0031】
保護層28は、樹脂のみで構成されてもよいが、好ましくは無機物粒子および結着材を含む。無機物粒子を主成分とする保護層28は、混入した導電性の異物が強く当接しても破断し難い。無機物粒子の具体例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン(チタニア)、酸化マンガン、および酸化ケイ素(シリカ)から選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも、アルミナまたはチタニアを用いることが好ましい。保護層28に含まれる結着材には、正極活物質層22に用いられる結着材と同種のものを使用できる。なお、保護層28には、導電材が添加されていてもよい。
【0032】
以下、図3を参照しながら、正極タブ部24の根元およびその近傍に形成された切り欠き25について詳説する。図3は、正極20において、正極タブ部24およびその近傍を拡大して示す図である。
【0033】
図3に例示するように、正極芯体21には、正極タブ部24の根元から正極基部23にわたって切り欠き25が形成されている。そして、切り欠き25の縁は、円弧(第1の円弧)からなる曲線26(第1の曲線)と、直線27とで形成されている。即ち、正極タブ部24の根元およびその近傍には、正極20を厚み方向(z方向)から見た状態で、曲線26および直線27によって縁取られた切り欠き25が形成されている。なお、直線27に代えて、第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線としてもよい。例えば、第2の曲線の曲率は第1の曲線の曲率の50%未満であり、第2の曲線はわずかに湾曲した直線27に近い曲線であってもよい。
【0034】
切り欠き25は、正極活物質層22を圧縮する際、また充放電時において、正極タブ部24の根元およびその近傍に亀裂が生じることを抑制する。切り欠き25が存在しない場合に活物質層を強く圧縮すると、芯体の活物質層が存在する部分は伸びて、活物質層が存在しない部分は伸びないので、例えば各部分の境界部に大きな応力が作用し、タブ部と基部の角から芯体に亀裂が入る場合がある。正極芯体21に切り欠き25を形成することで、正極芯体21の伸びの差に起因して発生する応力を緩和でき亀裂の発生を抑制できると考えられる。
【0035】
本発明者らの検討の結果、切り欠き25の形状によって亀裂の発生確率が大きく変化することが判明した。曲線26および直線27によって縁取られた切り欠き25は、例えば曲線26のみで縁取られた切り欠きと比べて、亀裂の発生確率を大きく低減させる。正極活物質層22の充填密度が高くなると亀裂が生じ易くなるので、切り欠き25の効果は充填密度が高い場合により顕著である。
【0036】
切り欠き25は、正極タブ部24の根元およびその近傍に形成されている。切り欠き25は、正極基部23の上端部において、正極タブ部24と隣接する部分に形成され、正極タブ部24の側縁を延長した仮想線αを越えて正極芯体21の横方向端部側に広がっている。ここで、側縁とは、正極タブ部24が突出する上下方向(y方向)に沿った正極タブ部24の縁部である。切り欠き25は、その縁が正極タブ部24の根元から正極基部23まで途中で分断されることなく連続し、1つのカット部として形成される。このため、正極芯体21には、正極タブ部24と正極基部23の境界部に尖った角が存在しない。
【0037】
切り欠き25は、正極芯体21の亀裂を抑制しつつ、抵抗上昇等の不具合を生じさせないサイズで形成される。上述のように、正極タブ部24は略四角形状に形成されているので、正極タブ部24の幅は、先端より切り欠き25が形成された根元で細くなっている。切り欠き25が形成されていない部分における正極タブ部24の幅W(x方向・横方向長さ)は、例えば10mm~30mm、または15mm~25mmである。切り欠き25が形成された部分における正極タブ部24の幅W、即ち正極タブ部24の最小幅は、例えば5mm~25mm、または10mm~20mmである。幅W,Wが当該範囲内であると、一般的に抵抗上昇等の不具合がなく、ハイレート充放電時の発熱を抑えつつ、充放電に伴う正極タブ部24のシワ、撓みの発生を抑制できる。
【0038】
切り欠き25は、正極タブ部24の幅方向両側から正極基部23にわたってそれぞれ形成されることが好ましい。切り欠き25は、正極タブ部24の幅方向片側だけに形成されてもよいが、好ましくは正極タブ部24の幅方向両側に1つずつ形成される。2つの切り欠き25は、例えば、正極タブ部24の幅方向中央を通る仮想線(図示せず)に対して線対称に形成される。即ち、切り欠き25の幅W(x方向・横方向長さ)、正極タブ部24の側縁から内側に切り込まれた部分の幅W、および後述の長さL,Lは、2つの切り欠き25において略同一である。
【0039】
切り欠き25の幅Wは、例えば正極タブ部24の幅Wの10%~60%、または15%~40%であり、具体例としては3mm~15mmである。切り込まれた幅Wは、例えば正極タブ部24の幅Wの1%~25%、または5%~20%であり、具体例としては1mm~10mmである。幅W,Wが当該範囲内であると、正極活物質層22の減少による容量低下を抑えつつ、正極タブ部24の根元およびその近傍における亀裂の発生を十分に抑制できる。
【0040】
切り欠き25の縁には、正極タブ部24側の第1端Pと、正極基部23の第2端Pとが存在する。第1端Pは正極タブ部24の側縁と切り欠き25の縁との交点にあり、第2端Pは正極基部23の上縁と切り欠き25の縁との交点にある。第1端Pから切り欠き25の下端までの上下方向(y方向)に沿った長さLは、例えば正極タブ部24の長さの1%~30%であり、具体例としては1.5mm~7.5mmである。正極基部23の上縁から切り欠き25の下端までの上下方向に沿った長さLは、例えば正極タブ部24の長さの0.5%~15%であり、具体例としては0.5mm~3.0mmである。
【0041】
上記長さL,L、特に長さLを長くするほど、正極タブ部24の根元およびその近傍における亀裂の発生を抑制し易くなる。一方、長さLを長くすると、正極活物質層22が切除される面積が大きくなるので、電池容量は低下する。このため、亀裂の抑制と容量を考慮して、切り欠き25のサイズを決定することが重要である。切り欠き25の縁の一部を形成する直線27は、亀裂の抑制だけでなく、容量低下の抑制にも大きく寄与する。長さL,Lが当該範囲内であると、正極活物質層22の減少による容量低下を抑えつつ、正極タブ部24の根元およびその近傍における亀裂の発生を十分に抑制できる。
【0042】
本実施形態では、正極タブ部24の根元に保護層28が設けられており、切り欠き25の一部は正極タブ部24の保護層28が設けられた部分に形成されている。保護層28が設けられた部分に切り欠き25を形成することで、切り欠き25の縁から正極芯体21が破断することを抑制できる。図3に示す例では、切り欠き25の第1端Pが、保護層28が設けられた部分に位置する。また、正極タブ部24において、切り欠き25の全体が、保護層28が設けられた部分および正極活物質層22が設けられた部分に形成されている。換言すると、切り欠き25は、露出部24aに形成されていない。
【0043】
切り欠き25の縁の一部を構成する直線27は、正極基部23側の第2端Pから形成されている。また、切り欠き25の縁の一部を構成する曲線26は、正極タブ部24側の第1端Pから形成されている。曲線26は、第1端Pから正極基部23に達する長さで形成され、直線27とつながっている。曲線26と直線27の交点は、例えば切り欠き25の下端に位置している。ここで、切り欠き25の下端とは、切り欠き25の上端である第1端Pから上下方向に沿った長さが最長となる位置である。
【0044】
曲線26は、第1の円弧の一部からなる。第1の円弧は、真円の円弧であってもよく、楕円の円弧であってもよいが、容量低下を抑えつつ、亀裂の発生を効率良く防止するためには、楕円の円弧であることが好ましい。例えば、当該楕円の長軸は正極20の横方向(x方向)に沿い、当該楕円の中心は交点Qよりも第2端P側に存在する。ここで、交点Qとは、仮想線αと正極基部23の上縁を延長した仮想線βとの交点であって、切り欠き25が存在しない場合に角が形成される位置である。第1の円弧に対応する真円または楕円は、交点Qを中心とする真円または楕円であってもよい。
【0045】
直線27は、切り欠き25の第2端Pから正極タブ部24の側縁を延長した仮想線αを超えない長さで形成されている。換言すると、正極基部23のうち正極タブ部24と上下方向に重なる部分には、直線27は形成されず、曲線26のみが形成されている。曲線26は、正極タブ部24の幅方向中央側に大きく湾曲している。直線27は、正極基部23の上縁に対して鈍角で交わり、第2端Pから切り欠き25の下端に向かって斜めに形成されている。正極基部23の上縁と直線27とがなす角度は、例えば100°~160°、または110°~150°である。
【0046】
なお、切り欠き25の縁には、本開示の目的を損なわない範囲で、曲線26および直線27に加えて、他の曲線または直線が存在していてもよい。例えば、切り欠き25の第1端Pから第2の直線が形成されていてもよい。
【0047】
図4および図5に、実施形態の他の一例である切り欠き25x,25yを示す。図4に例示する切り欠き25xは、その縁の一部が、正極タブ部24の根元から正極基部23にわたり楕円の円弧の一部からなる曲線26によって形成されている点で、切り欠き25と共通する。一方、切り欠き25xは、その縁部の残りの一部が、正極基部23の上縁に対して略垂直に交わる直線27xによって形成されている点で、切り欠き25と異なる。直線27xは、正極基部23の上縁から切り欠き25xの下端にわたって形成されており、直線27xと正極基部23の上縁とがなす角度は約90°である。この場合、図3に例示する形態よりも、正極活物質層22の切除面積を減少させることができる。
【0048】
図5に例示する切り欠き25yは、曲線26yおよび直線27yによって縁取られている点で、切り欠き25,25xと共通する。一方、切り欠き25yは、正極基部23の正極タブ部24と隣接する部分のみに形成され、正極タブ部24の根元には形成されていない点で、切り欠き25,25yと異なる。曲線26yは、正極タブ部24の側縁につながって形成されている。この場合、正極タブ部24の幅は、先端から根元にわたって一定である。
【0049】
ここで、上記構成を備えた正極20の製造方法の一例について詳説する。
【0050】
正極20は、少なくとも正極芯体21の正極基部23または正極基部23となる部分の表面に正極活物質層22を設け、正極タブ部24または正極タブ部24となる部分の根元から正極基部23または正極基部23となる部分にわたって切り欠き25を形成し、切り欠き25の形成後に、正極活物質層22を圧縮する工程を経て製造される。切り欠き25を形成する際には、第1の円弧からなる第1の曲線と、第1の円弧よりも曲率が小さな第2の円弧からなる第2の曲線または直線とで切り欠き25の縁を形成する。正極活物質層22の圧縮後に切り欠き25を形成してもよいが、活物質層の圧縮時に生じ得る正極芯体21の亀裂を抑制するために、好ましくは活物質層の圧縮前に切り欠き25を形成する。また、切り欠き25は、生産性等の観点から、正極活物質層22を設けた後に形成することが好ましい。
【0051】
正極20は、後工程で正極芯体21となる長尺芯体の両面に正極活物質層22を設けた長尺体(以下、「長尺体Z」とする)を所定の形状、サイズに切断して製造される。正極20の製造工程の一例は、長尺芯体の両面に正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて正極活物質層22を設ける第1工程と、長尺芯体の両面に正極活物質層22が設けられた長尺体Zを切断して正極タブ部24および切り欠き25を形成する第2工程と、正極活物質層22(長尺体Z)を圧縮する第3工程と、長尺体Zを所定のサイズに切断して正極20を得る第4工程とを含む。
【0052】
第1工程では、長尺芯体の長手方向に沿った帯状の芯体露出部を残して正極合材スラリーを塗布することにより正極活物質層22を設ける。当該露出部は、長尺芯体の幅方向一端から略一定の幅で形成され、後工程で正極タブ部24に存在する露出部24aとなる。保護層28を設ける場合は、正極合材スラリーの塗布と同時に、または別工程で、保護層28用のスラリーを長尺芯体の両面に塗布する。
【0053】
第2工程では、長尺体Zの正極活物質層22が設けられた部分を露出部に沿って切断すると共に、略一定周期で露出部を切断することにより正極タブ部24を形成する。切り欠き25は、正極タブ部24と同時に形成されてもよく、正極タブ部24の後に形成されてもよい。長尺体Zは、従来公知の方法で切断でき、例えば金型プレス、カッター、レーザー照射等により切断できる。なお、長尺体Zは、正極活物質層22が設けられた部分と露出部の境界位置に沿って切断することも可能であるが、この場合、切断箇所のわずかなズレで正極タブ部24以外の部分に芯体表面の露出部が形成されるため好ましくない。
【0054】
また、正極タブ部24と切り欠き25は、それぞれ異なる方法で形成されてもよい。例えば、正極タブ部24をプレス打ち抜き加工で形成し、その後、レーザー等のエネルギー線の照射により切り欠き25を形成してもよい。レーザーの照射により切り欠き25を形成した場合、切り欠き25の縁部が滑らかになるため、亀裂の抑制において有利である。
【0055】
第2工程では、正極タブ部24の根元(または正極タブ部24の根元となる部分)および正極基部23(または正極基部23となる部分)に、第1の円弧からなる曲線26および直線27を形成して長尺体Zの一部を切除することで、切り欠き25を形成する。本実施形態では、曲線26が正極タブ部24の根元の保護層28が設けられた部分から正極基部23にわたって形成され、直線27が正極基部23の上縁から曲線26につながるように形成される。曲線26は、楕円の第1の円弧の一部として形成され、正極タブ部24の幅方向中央側に大きく湾曲している。直線27は、正極基部23の上縁に対して鈍角で交わり、正極基部23の上縁から曲線26(切り欠き25)の下端に向かって斜めに形成される。
【0056】
第3工程では、ローラーを用いて長尺芯体の両面に設けた正極活物質層22を圧縮する。正極活物質層22は、従来公知の方法で圧縮でき、例えば一対のローラーの間に長尺体Zを通すことにより圧縮される。正極活物質層22の充填密度は、正極合材スラリーの組成、塗布量、正極活物質層22を圧縮する際の圧力などにより調整できる。正極活物質層22の充填密度は、例えば3.65g/cm以上に調整されるが、充填密度が高くなると、正極タブ部24の根元およびその近傍に亀裂が生じ易くなる。
【0057】
本製造工程では、切り欠き25を形成した後に、正極活物質層22を圧縮することにより、第3工程における亀裂の発生確率を大幅に低減できる。上述のように、曲線26および直線27で縁取られた切り欠き25は、第3工程で正極タブ部24およびその近傍に作用する応力を緩和して亀裂の発生を抑制する。
【0058】
[負極]
負極30は、上述のように、負極芯体31と、負極芯体31の両面に設けられた負極活物質層32とを有する。負極芯体31には、銅、銅合金など、負極30の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層32は、負極活物質および結着材を含む。負極30は、例えば負極芯体31上に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、乾燥した塗膜である負極活物質層32をローラーで圧縮することにより製造できる。
【0059】
負極活物質には、一般的に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素材料が用いられる。好適な炭素材料は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛などの黒鉛である。負極活物質層32には、負極活物質として、Si含有化合物が含まれていてもよい。また、負極活物質には、Si以外のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が用いられてもよい。
【0060】
負極活物質層32に含まれる結着材には、正極20の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)またはその変性体を用いる。負極活物質層には、例えばSBR等に加えて、CMCまたはその塩、ポリアクリル酸(PAA)またはその塩、ポリビニルアルコールなどが含まれていてもよい。
【0061】
[セパレータ]
セパレータ40は、イオン透過性および絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンおよびプロピレンの少なくとも一方を含む共重合体等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ40は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ40の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いた。正極活物質と、PVdFと、アセチレンブラックとを、97.5:1:1.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて正極合材スラリーを調製した。厚みが12μmのアルミニウム箔からなる長尺芯体の両面に、所定の芯体露出部を残して正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて、長尺芯体の両面に正極活物質層が設けられた長尺体Zを得た。また、芯体露出部の一部の正極活物質層と隣接する部分に、アルミナおよびPVdFを含む保護層を形成した。
【0064】
次に、長尺体Zの正極活物質層が設けられた部分を芯体露出部に沿って切断すると共に、略一定周期で芯体露出部を切断することにより、幅20mm、長さ19.6mmのタブ部を形成した。その後、タブ部の根元の幅方向両端部から芯体の基部にわたって、曲線と直線とで縁取られた、図3に示す形状の切り欠きを形成した。切り欠きの縁の一部を形成する曲線は、長径8mm、短径4mmの楕円の円弧の一部からなる。切り欠きの縁の一部を形成する直線は、基部の上縁から3.5mmの長さで形成される。当該直線と基部の上縁とがなす角度は150°である。また、切り欠きが形成されたタブ部の根元の幅Wは14.6mm、切り欠きの幅Wは8mm、幅Wは2.7mm、長さLは4mm、長さLは2mmである。
【0065】
次に、切り欠きを形成した長尺体Zを一対のローラーの間に通すことにより正極活物質層を圧縮した。なお、正極合材スラリーの塗布量および長尺体Zの圧縮力を調整することにより、正極活物質層の充填密度を3.71g/cmとした正極(1)、および正極活物質層の充填密度を3.8g/cmとした正極(2)を作製した。各正極について、タブ部およびその近傍における亀裂の有無を確認し、評価結果を表1に示した。
【0066】
<比較例1>
図3に示す切り欠きの代わりに、図6に示す切り欠き(楕円の円弧の一部からなる曲線のみで縁取られた切り欠き)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質層の充填密度が異なる2種類の正極を製造し、上記評価を行った。なお、切り欠きが形成されたタブ部の根元の幅Wは14.6mm、切り欠きの幅Wは8mm、幅Wは2.7mm、長さLは4mm、長さLは2mmである。
【0067】
<比較例2>
図3に示す切り欠きの代わりに、図7に示す切り欠き(真円の円弧の一部からなる曲線のみで縁取られた切り欠き)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質層の充填密度が異なる2種類の正極を製造し、上記評価を行った。なお、切り欠きが形成されたタブ部の根元の幅Wは14.6mm、切り欠きの幅Wは6mm、幅Wは2.7mm、長さLは6mm、長さLは3mmである。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1では、正極(1)について亀裂は確認されず(亀裂発生率0%)、活物質層の充填密度が高い正極(2)についても、亀裂の発生確率は低く抑えられた(30%)。他方、比較例2では、正極(1)についても亀裂が確認された。比較例1では、正極(1)において亀裂は確認されなかったものの、正極(2)については亀裂の発生確率が高かった(83%)。この結果から、タブ部の根元およびその近傍における亀裂の発生確率は切り欠きの形状に大きく依存し、曲線および直線で縁取られた実施例1の切り欠きは、かかる亀裂の発生を大幅に抑制することが理解される。さらに、実施例1の正極は、比較例1,2の正極と比べて、容量に対する影響も小さい。
【符号の説明】
【0070】
1 電池、3 電極体、4 外装体、5 封口板、5a 正極端子取り付け孔、5b 負極端子取り付け孔、6 正極集電体、7 正極端子、8 負極集電体、9 負極端子、10~13 絶縁部材、14 ガス排出弁、15 電解液注液孔、16 封止栓、17 絶縁シート、20 正極、21 正極芯体、22 正極活物質層、23 正極基部、24 正極タブ部、24a,34a 露出部、25 切り欠き、26 曲線、27 直線、28
保護層、30 負極、31 負極芯体、32 負極活物質層、33 負極基部、34 負極タブ部、40 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7