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特許7382578プラズマ処理方法および素子チップの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法および素子チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/461 20060101AFI20231110BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20231110BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
H01L21/461
H01L21/302 101C
H01L21/68 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019239421
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021108340
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012732(JP,A)
【文献】特開2006-303077(JP,A)
【文献】特開平06-089883(JP,A)
【文献】特開2002-043246(JP,A)
【文献】特表2017-536701(JP,A)
【文献】特開2000-353688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/461
H01L 21/3065
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に酸化膜が露出した溝を有する溝入り基板を準備する溝入り基板の準備工程と、
前記溝入り基板をプラズマに晒して、前記酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備え、
前記溝入り基板の準備工程は、
第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を備え、シリコンを含むシリコン層と前記シリコン層の前記第2主面側に配置される前記酸化膜とを有し、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された積層基板を準備する積層基板の準備工程と、
前記分割領域における前記シリコン層を、前記第1主面側から前記酸化膜が露出するまで除去して前記溝を形成するシリコン層除去工程と、を備え、
前記酸化膜除去工程は、
前記酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、前記酸化膜エッチングステップの後、前記溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す、プラズマ処理方法。
【請求項2】
前記シリコン層除去工程は、
前記分割領域における前記シリコン層を、プラズマエッチングするシリコンエッチングステップと、
前記シリコンエッチングステップにより形成された溝をプラズマに晒して、前記溝の内壁に保護膜を堆積させる保護膜形成ステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す、請求項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記酸化膜除去工程における前記溝入り基板の温度は、前記シリコン層除去工程における前記積層基板の温度よりも高い、請求項またはに記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記酸化膜エッチングステップは、炭素原子を含むガスにより発生する第1のプラズマにより行われ、
前記クリーニングステップは、酸素ガスを含むガスにより発生するプラズマにより行われる、請求項1~のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を備え、シリコンを含むシリコン層と前記シリコン層の前記第2主面側に配置される酸化膜とを有し、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された積層基板を準備する積層基板の準備工程と、
前記積層基板をプラズマに晒して、前記分割領域における前記シリコン層を、前記第1主面側から前記酸化膜が露出するまで除去して溝を形成するシリコン層除去工程と、
前記シリコン層除去工程の後、前記溝をプラズマに晒して、前記溝の底部に露出する前記酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備え、
前記酸化膜除去工程は、
前記酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、前記酸化膜エッチングステップの後、前記溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す、素子チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理方法および素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上には、MOSのゲート膜、層間絶縁膜あるいは保護膜等として、絶縁性であるシリコン酸化膜が形成されている場合がある。シリコン酸化膜を備える基板を分割する方法として、プラズマを用いてエッチングする方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-190538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、シリコン酸化膜の側面がテーパ状になるようにエッチングすることができる。一方、シリコン酸化膜を備える基板を、プラズマにより垂直にエッチングすることは困難な場合がある。特に、シリコン酸化膜が基板の背面に積層されている場合、基板に続いてシリコン酸化膜を垂直にエッチングするには、溝の底部に到達するイオンやラジカルの量や角度を制御する必要があるためである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一局面は、底部に酸化膜が露出した溝を有する溝入り基板を準備する溝入り基板の準備工程と、前記溝入り基板をプラズマに晒して、前記酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備え、前記酸化膜除去工程は、前記酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、前記酸化膜エッチングステップの後、前記溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す、プラズマ処理方法に関する。
【0006】
本発明の他の一局面は、第1主面および前記第1主面とは反対側の第2主面を備え、シリコンを含むシリコン層と前記シリコン層の前記第2主面側に配置される酸化膜とを有し、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された積層基板を準備する積層基板の準備工程と、前記積層基板をプラズマに晒して、前記分割領域における前記シリコン層を、前記第1主面側から前記酸化膜が露出するまで除去して溝を形成するシリコン層除去工程と、前記シリコン層除去工程の後、前記溝をプラズマに晒して、前記溝の底部に露出する前記酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備え、前記酸化膜除去工程は、前記酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、前記酸化膜エッチングステップの後、前記溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す、素子チップの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸化膜をプラズマ処理によって垂直に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るプラズマ処理方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る積層基板の一部を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る酸化膜エッチングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るクリーニングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る2サイクル目の酸化膜エッチングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る2サイクル目のクリーニングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理により得られた基板の要部を模式的に示す断面図である。
図9A】本発明の一実施形態で使用される搬送キャリアとこれに支持された積層基板とを概略的に示す上面図である。
図9B図9AのA-A線での断面図である。
図10】本発明の一実施形態で使用されるプラズマ処理装置の構造を概略的に示す断面図である。
図11】本発明の一実施形態で使用されるプラズマ処理装置のブロック図である。
図12】本発明の一実施形態に係る素子チップの製造方法を示すフローチャートである。
図13】本発明の一実施形態に係る保護膜形成工程後の積層基板の一部を模式的に示す断面図である。
図14】本発明の一実施形態に係る開口形成工程後の積層基板の一部を模式的に示す断面図である。
図15】本発明の一実施形態に係る第1のシリコン層除去工程により得られた溝入り基板の一部を模式的に示す断面図である。
図16】本発明の一実施形態に係る酸化膜除去工程後の溝入り基板の一部を模式的に示す断面図である。
図17】本発明の一実施形態に係る製造方法により得られた素子チップを模式的に示す断面図である。
図18】本発明の一実施形態に係る保護膜除去工程後の素子チップを模式的に示す断面図である。
図19】実施例1で得られた素子チップの要部の断面におけるSEM画像(倍率3000倍)である。
図20】比較例1で得られた素子チップの要部の断面におけるSEM画像(倍率3000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
二酸化ケイ素等を含む酸化膜のプラズマエッチングには、通常、炭素原子を含むガス(以下、炭素含有ガスと称す。)が用いられる。複数の分割用の溝を有する溝入り基板を炭素含有ガスに晒すと、溝の底部がエッチングされる一方、側壁には炭素含有ガス由来の付着物が堆積する。溝が深いほど、付着物は堆積し易い。そのため、エッチング性のイオンあるいはラジカルは、溝の側壁に堆積した付着物に遮られて、溝の底部に到達することが難しくなる。その結果、酸化膜は先が細くなったテーパ状にエッチングされて、品質が低下する。また、酸化膜の下方にさらに他のプラズマエッチングされるべき層がある場合、酸化膜の側面の垂直性が低いことは、この下方層のプラズマエッチングの精度を低下させる要因となる。さらに、分断された酸化膜の側面が先が細くなったテーパ状になると、所望の深さにまでエッチングすることが困難になる場合もある。
【0010】
本実施形態では、炭素含有ガスを用いたエッチングステップと、溝の内壁、特に側壁に堆積する付着物を除去するクリーニングステップとを繰り返し行う。これにより、分断された酸化膜の側面の垂直性が高くなって、高品質の素子チップを得ることができる。さらに、分割用の溝の幅を狭くすることができるため、基板のロスが少なくなる。分断された酸化膜の側面の垂直性が高いとは、得られる素子チップの一方の主面と酸化膜の側面との成す角度が90±5度であることをいう。
【0011】
本実施形態に係るプラズマ処理方法は、シリコン層と酸化膜とを含む積層基板から素子チップを製造する方法の一工程として特に適している。本実施形態は、プラズマ処理方法を利用した素子チップの製造方法を包含する。
【0012】
A.プラズマ処理方法
本実施形態に係るプラズマ処理方法は、底部に酸化膜が露出した溝を有する溝入り基板を準備する溝入り基板の準備工程と、溝入り基板をプラズマに晒して、酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備える。酸化膜除去工程は、酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、酸化膜エッチングステップの後、溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す。図1は、本実施形態に係るプラズマ処理方法を示すフローチャートである。
【0013】
(i)溝入り基板の準備工程(S01)
プラズマ処理の対象となる溝入り基板を準備する。
溝入り基板は複数の溝を有しており、溝の底部には酸化膜が露出している。複数の溝は、例えば、基板を個片化するのに使用される分割用の溝である。本実施形態は、溝の底部に露出する、エッチングされ難い酸化膜をプラズマエッチングする方法である。本実施形態にかかるプラズマ処理方法によれば、高いアスペクト比を有する溝の底部に露出する酸化膜を、垂直に近い角度でエッチングすることができる。高いアスペクト比を有する溝とは、溝の幅に対して十分に深く掘られた溝をいう。溝の幅と深さとの比(幅/深さ)は、例えば、1/5以上、1/20以下である。
【0014】
このような溝入り基板は、例えば、酸化膜と、シリコンを含むシリコン層との積層基板において、シリコン層の一部を、酸化膜が露出するまで除去して溝を形成することにより得られる。例えば、溝入り基板は、第1主面および第1主面とは反対側の第2主面を備え、シリコンを含むシリコン層と、シリコン層の第2主面側に配置される酸化膜とを有し、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された積層基板を準備する積層基板の準備工程(S011)と、分割領域におけるシリコン層を、第1主面側から酸化膜が露出するまで除去して溝を形成するシリコン層除去工程(S012)と、を含む方法により準備される。
【0015】
(a)積層基板の準備工程
積層基板は、第1主面および第2主面を備えるとともに、複数の素子領域および複数の分割領域に区画されている。また、積層基板は、シリコンを含むシリコン層(第1のシリコン層)と、第1のシリコン層の第2主面側に配置される酸化膜とを備える。素子領域における第1のシリコン層の第1主面側には、さらに配線層が配置されてよい。分割領域における第1のシリコン層の第1主面側には、さらに絶縁膜とTEG(Test Element Group)等の金属材料とが配置されてよい。分割領域における積層基板をエッチングすることにより、複数の素子チップが得られる。
【0016】
積層基板の大きさは特に限定されず、例えば、直径3インチ以上12インチ以下程度である。積層基板の形状も特に限定されず、例えば、円形、角型である。また、積層基板には、オリエンテーションフラット(オリフラ)、ノッチ等の切欠きが設けられていてもよい。
【0017】
第1のシリコン層は、シリコン(Si)を含む。第1のシリコン層の厚みは特に限定されず、例えば、20μm以上1000μm以下であり、100μm以上300μm以下であってもよい。
【0018】
酸化膜は、絶縁性を有している限り特に限定されず、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸窒化ケイ素(SiON)等を含む。酸化膜の厚みは特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。酸化膜の厚みは、例えば、1μm以上50μm以下である。
【0019】
配線層は、例えば、半導体回路、電子部品素子(LED、レーザ、MEMS等)等を構成しており、絶縁膜、金属材料、樹脂層(例えば、ポリイミド)、レジスト層、電極パッド、バンプ等を備えてもよい。絶縁膜は、配線用の金属材料との積層体(多層配線層あるいは再配線層)として含まれてもよい。
【0020】
積層基板は、複数のシリコン層を備えていてよい。例えば、積層基板は、第1のシリコン層と、酸化膜と、酸化膜の第2主面側に配置される第2のシリコン層と、を備えていてもよい。第2のシリコン層は、第1のシリコン層と同様の構成であってよい。
【0021】
分割領域は、素子領域を画定している。分割領域の形状は、直線に限られず、所望の素子チップの形状に応じて設定されればよく、ジグザグであってもよいし、波線であってもよい。なお、素子チップの形状としては、例えば、矩形、六角形等が挙げられる。
【0022】
分割領域の幅は特に限定されず、積層基板や素子チップの大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。分割領域の幅は、例えば、10μm以上300μm以下である。複数の分割領域の幅は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。分割領域は、通常、複数本、基板に配置されている。隣接する分割領域同士のピッチも特に限定されず、積層基板や素子チップの大きさ等に応じて、適宜設定すればよい。
【0023】
(b)シリコン層除去工程(S012)
分割領域における第1のシリコン層を、第1主面側から酸化膜が露出するまで除去して溝を形成する。
シリコン層除去工程は、例えば、プラズマを用いた所謂ボッシュプロセスにより行うことができる。
【0024】
ボッシュプロセスは、分割領域における第1のシリコン層をプラズマエッチングするシリコンエッチングステップと、エッチングにより形成された溝をプラズマに晒して、溝の内壁に膜(保護膜)を堆積させる保護膜形成ステップと、を含むサイクルを繰り返しながら掘り進める方法である。この方法により、高アスペクト比の溝を形成することができる。ボッシュプロセスでは、2サイクル目以降のシリコンエッチングステップと保護膜形成ステップとの間には、保護膜の除去ステップが行われる。
【0025】
図2は、準備された積層基板の一部を模式的に示す断面図である。積層基板10Aは、第1のシリコン層11Aと、酸化膜15と、酸化膜15の第2主面10Y側に配置される第2のシリコン層11Bと、を備える。また、積層基板10Aは、複数の素子領域101と、複数の分割領域102とに区画されている。素子領域101における第1のシリコン層11Aの第1主面10X側の面には配線層12が配置されており、分割領域102における第1のシリコン層11Aの第1主面10X側の面には絶縁膜14が配置されている。配線層12および絶縁膜14の表面は、樹脂膜40により覆われている。
【0026】
図3は、準備された溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。溝入り基板10Bでは、分割領域102における樹脂膜40絶縁膜14および第1のシリコン層11Aが除去されて、複数の溝1021が形成されている。溝1021の底部1021aからは酸化膜15が露出している。
【0027】
(ii)酸化膜除去工程(S02)
酸化膜をプラズマに晒してエッチングする。
酸化膜除去工程では、酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップ(S021)と、酸化膜エッチングステップの後、溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップ(S022)と、を含むサイクルが複数回繰り返される。
【0028】
(a)酸化膜エッチングステップ(S021)
酸化膜エッチングステップでは、異方性エッチングが行われて、溝の底部から露出する酸化膜がエッチングされる。
酸化膜エッチングステップでは、例えば、炭素原子を含むガス(炭素含有ガス)を含むエッチングガスにより発生する第1のプラズマが用いられる。炭素含有ガスは特に限定されず、例えば、CF、C等のフッ化炭素およびCHF等のフッ化炭化水素等が挙げられる。なかでも、エッチングレートが高くなり易い点で、フッ化炭素が好ましい。
【0029】
フッ化炭素のように炭素原子を含むガスは、酸化膜を効率よくエッチングする。その一方で、酸化膜とフッ化炭素との反応により生じる反応生成物は、溝の内壁に付着し易い。基板の温度が低いほど、付着物は多くなる。
【0030】
シリコン層をエッチングするボッシュプロセスでは、保護膜形成ステップにおいて、溝の内壁を保護する十分な厚みの保護膜を堆積させることが重要である。そのため、ボッシュプロセスは、積層基板を例えば-10℃程度に冷却しながら行われる。これにより、保護膜が形成され易くなるとともに、素子領域を保護する樹脂膜(後述参照)の厚みが維持され易くなる。
【0031】
一方、酸化膜の除去工程では、付着物の溝の内壁への堆積量は少ない方が望ましい。そのため、酸化膜除去工程では、溝入り基板をボッシュプロセスよりも高い温度に維持して行われる。これにより、付着物の堆積が抑制され易くなるとともに、付着物も除去され易くなる。よって、クリーニングステップの時間が短縮される。酸化膜除去工程では、例えば、溝入り基板の温度が0℃以上になるように維持される。ただし、溝入り基板の劣化等を考慮すると、酸化膜除去工程における溝入り基板の温度は40℃以下が好ましい。
【0032】
上記の通り素子領域を保護する樹脂膜が厚いため、本工程で形成される酸化膜の側面の垂直性はさらに向上し易い。一般に、樹脂膜の厚みが十分でないと、プラズマエッチングにより形成される溝は、先が細くなったテーパ状になり易い。
【0033】
エッチングガスは、さらに、SF、あるいは、ArやHe等の希ガスや、その他のガスを含んでよい。なかでも、他の化合物(例えば、後述する樹脂膜)に対する酸化膜の選択比が大きくなり易い点で、SFが好ましい。ただし、エッチングレートを考慮すると、炭素含有ガスのエッチングガスに占める割合は、3体積%以上30体積%以下であってよく、5体積%以上20体積%以下であってよい。選択比を考慮すると、SFのエッチングガスに占める割合は、3体積%以上30体積%以下であってよく、5体積%以上20体積%以下であってよい。
【0034】
エッチングガス全体の流量は特に限定されず、溝入り基板の厚み等に応じて適宜設定される。エッチングガス全体の流量は、5sccm以上500sccm以下であってよく、50sccm以上400sccm以下であってよい。
【0035】
第1のプラズマは、エッチングガスを減圧された真空チャンバに供給した後、真空チャンバの外側上方に配置された電極(第1の電極)へ高周波電力を印加することにより発生する。真空チャンバ内の圧力は、例えば、0.1Pa以上30Pa以下である。第1の電極に印加される高周波電力は、例えば、500W以上4800W以下である。溝入り基板は、真空チャンバ内のステージに載置される。溝入り基板を第1のプラズマに晒す時間は特に限定されず、例えば、1分以上10分以下である。
【0036】
このとき、さらに、ステージに内蔵された電極(第2の電極)に高周波電力を印加して、ステージにバイアス電圧をかけてもよい。これにより、エッチングレートは大きくなり易い。第2の電極に印加される高周波電力は、例えば、20W以上3000W以下である。
【0037】
(b)クリーニングステップ(S022)
クリーニングステップでは、等方性エッチングが行われて、特に溝の側壁がエッチングされる。これにより、溝の側壁に堆積している付着物が除去される。溝の底部にはイオンあるいはラジカルが到達し難い。
【0038】
クリーニングステップでは、例えば、酸素ガスを含むクリーニングガスにより発生する第2のプラズマが用いられる。クリーニングガスは、さらに、ArやHe等の希ガスや、その他のガスを含んでよい。クリーニング効果を考慮すると、酸素ガスのクリーニングガスに占める割合は、50体積%以上であってよく、90体積%以上であってよい。
【0039】
クリーニングガス全体の流量は特に限定されず、溝入り基板の厚み等に応じて適宜設定される。クリーニングガス全体の流量は、5sccm以上500sccm以下であってよく、50sccm以上400sccm以下であってよい。
【0040】
第2のプラズマは、上記と同様、クリーニングガスを減圧された真空チャンバに供給した後、第1の電極へ高周波電力を印加することにより発生する。真空チャンバ内の圧力は、例えば、0.1Pa以上30Pa以下である。第1の電極に印加される高周波電力は、例えば、500W以上4800W以下である。溝入り基板を第2のプラズマに晒す時間は特に限定されず、例えば、30秒以上5分以下である。
【0041】
このとき、さらに、ステージに内蔵された電極(第2の電極)に高周波電力を印加して、ステージにバイアス電圧をかけてもよい。これにより、エッチングレートが大きくなり易い。第2の電極に印加される高周波電力は、例えば、0W以上100W以下である。
【0042】
酸化膜エッチングステップとクリーニングステップとは、交互に複数回繰り返される。これにより、酸化膜の側面の垂直性が高まる。酸化膜エッチングステップおよびクリーニングステップを含むサイクルの繰り返し数は、酸化膜の厚み、種類等に応じて適宜設定すればよい。厚み10μmの二酸化ケイ素を含む膜を除去する場合、サイクルの繰り返し数は、例えば、10以上100以下であってよい。
【0043】
図4は、本実施形態に係る1サイクル目の酸化膜エッチングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。酸化膜エッチングステップにおいて、溝の底部1021aから露出する酸化膜15の一部がエッチングされる。一方、酸化膜15とエッチングガスとの反応により反応生成物が生じ、溝の側壁1021bに付着物60として堆積している。
【0044】
図5は、本実施形態に係る1サイクル目のクリーニングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。クリーニングステップにおいて、溝の側壁1021bがエッチングされて、側壁1021bに堆積している付着物60が除去される。
【0045】
図6は、本実施形態に係る2サイクル目の酸化膜エッチングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。溝の底部1021aから露出する酸化膜15がさらにエッチングされる一方、側壁1021bには付着物60が再び堆積する。
【0046】
図7は、本実施形態に係る2サイクル目のクリーニングステップ後の溝入り基板の要部を模式的に示す断面図である。側壁1021bに堆積している付着物60が除去される。
【0047】
図8は、本実施形態に係るプラズマ処理により得られた基板の要部を模式的に示す断面図である。
同様にしてサイクル目以降を繰り返し、側壁1021bに堆積する付着物60を除去しながら溝の底部1021aを少しずつエッチングすることにより、溝の底部1021aに対応する酸化膜15が除去される。分断された酸化膜の側面15aは、第1のシリコン層11Aの側壁にほぼ沿っている。酸化膜の側面15aは、ほぼ垂直である。
【0048】
ハンドリング性の観点から、溝入り基板は、フレームに固定された保持シートに貼着された状態で酸化膜除去工程に供されてもよい。同様の観点から、積層基板をフレームに固定された保持シートに貼着してボッシュプロセスにより溝を形成した後、得られた溝入り基板を、そのまま酸化膜除去工程に供してもよい。フレームとフレームに固定された保持シートとを備える部材を、搬送キャリアと称す。
【0049】
(搬送キャリア)
フレームは、溝入り基板あるいは積層基板(以下、単に基板と称す場合がある。)を囲める程度の開口を有した枠体であり、所定の幅および略一定の薄い厚みを有している。フレームは、保持シートおよび基板を保持した状態で搬送できる程度の剛性を有している。フレームの開口の形状は特に限定されないが、例えば、円形や、矩形、六角形など多角形であってもよい。フレームの材質としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属や、樹脂等が挙げられる。
【0050】
保持シートの材質は特に限定されない。なかでも、基板が貼着され易い点で、保持シートは、粘着層と柔軟性のある非粘着層とを含むことが好ましい。
【0051】
非粘着層の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂フィルムには、伸縮性を付加するためのゴム成分(例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等)、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、導電性材料等の各種添加剤が配合されていてもよい。また、上記熱可塑性樹脂は、アクリル基等の光重合反応を示す官能基を有していてもよい。非粘着層の厚みは特に限定されず、例えば、50μm以上300μm以下であり、好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0052】
粘着層を備える面(粘着面)の外周縁は、フレームの一方の面に貼着しており、フレームの開口を覆っている。粘着面のフレームの開口から露出した部分に、基板の一方の主面(第2主面)が貼着されることにより、基板は保持シートに保持される。基板は、ダイアタッチフィルム(DAF)を介して、保持シートに保持されてもよい。
【0053】
粘着層は、紫外線(UV)の照射によって粘着力が減少する粘着成分からなることが好ましい。これにより、作製された素子チップをピックアップする際、UV照射を行うことにより、素子チップが粘着層から容易に剥離されて、ピックアップし易くなる。例えば、粘着層は、非粘着層の片面に、UV硬化型アクリル粘着剤を5μm以上100μm以下(好ましくは5μm以上15μm以下)の厚みに塗布することにより得られる。
【0054】
図9Aは、積層基板の準備工程で準備された積層基板とこれを保持する搬送キャリアとを模式的に示す上面図である。図9Bは、図9AのA-A線における断面図である。
【0055】
搬送キャリア20は、フレーム21とフレーム21に固定された保持シート22とを備える。フレーム21には、位置決めのためのノッチ21aやコーナーカット21bが設けられていてもよい。保持シート22は、粘着面22Xと非粘着面22Yとを備えており、粘着面22Xの外周縁は、フレーム21の一方の面に貼着している。粘着面22Xのフレーム21の開口から露出した部分に、積層基板10Aの第2主面10Yが貼着される。
【0056】
上記のボッシュプロセスおよび酸化膜除去工程は、プラズマ処理装置を用いて実行される。図10を参照しながら、プラズマ処理装置の一例を具体的に説明する。ただし、プラズマ処理装置は、これに限定されるものではない。図10は、プラズマ処理装置100の構造を概略的に示す断面図である。
【0057】
(プラズマ処理装置)
プラズマ処理装置100は、ステージ111を備えている。搬送キャリア20は、保持シート22の基板10を保持している面が上方を向くように、ステージ111に搭載される。ステージ111は、搬送キャリア20の全体を載置できる程度の大きさを備える。ステージ111の上方には、少なくとも1つの素子チップ200を露出させるための窓部124Wを有するカバー124が配置されている。カバー124には、フレーム21がステージ111に載置されている状態のとき、フレーム21を押圧するための押さえ部材107が配置されている。押さえ部材107は、フレーム21と点接触できる部材(例えば、コイルバネや弾力性を有する樹脂)であることが好ましい。これにより、フレーム21およびカバー124の熱が互いに影響し合うことを抑制しながら、フレーム21の歪みを矯正することができる。
【0058】
ステージ111およびカバー124は、真空チャンバ103内に配置されている。真空チャンバ103は、上部が開口した概ね円筒状であり、上部開口は蓋体である誘電体部材108により閉鎖されている。真空チャンバ103を構成する材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、表面をアルマイト加工したアルミニウム等が例示できる。誘電体部材108を構成する材料としては、酸化イットリウム(Y23)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al23)、石英(SiO2)等の誘電体材料が例示できる。誘電体部材108の上方には、上部電極としての第1の電極109が配置されている。第1の電極109は、第1の高周波電源110Aと電気的に接続されている。ステージ111は、真空チャンバ103内の底部側に配置される。
【0059】
真空チャンバ103には、ガス導入口103aが接続されている。ガス導入口103aには、プラズマ発生用ガス(プロセスガス)の供給源であるプロセスガス源112およびアッシングガス源113が、それぞれ配管によって接続されている。また、真空チャンバ103には、排気口103bが設けられており、排気口103bには、真空チャンバ103内のガスを排気して減圧するための真空ポンプを含む減圧機構114が接続されている。真空チャンバ103内にプロセスガスが供給された状態で、第1の電極109に第1の高周波電源110Aから高周波電力が供給されることにより、真空チャンバ103内にプラズマが発生する。
【0060】
ステージ111は、それぞれ略円形の電極層115と、金属層116と、電極層115および金属層116を支持する基台117と、電極層115、金属層116および基台117を取り囲む外周部118とを備える。外周部118は導電性および耐エッチング性を有する金属により構成されており、電極層115、金属層116および基台117をプラズマから保護する。外周部118の上面には、円環状の外周リング129が配置されている。外周リング129は、外周部118の上面をプラズマから保護する役割をもつ。電極層115および外周リング129は、例えば、上記の誘電体材料により構成される。
【0061】
電極層115の内部には、静電吸着(Electrostatic Chuck)用電極(以下、ESC電極119と称す。)と、第2の高周波電源110Bに電気的に接続された第2の電極120とが配置されている。ESC電極119には、直流電源126が電気的に接続されている。静電吸着機構は、ESC電極119および直流電源126により構成されている。静電吸着機構によって、保持シート22はステージ111に押し付けられて固定される。以下、保持シート22をステージ111に固定する固定機構として、静電吸着機構を備える場合を例に挙げて説明するが、これに限定されない。保持シート22のステージ111への固定は、図示しないクランプによって行われてもよい。
【0062】
金属層116は、例えば、表面にアルマイト被覆を形成したアルミニウム等により構成される。金属層116内には、冷媒流路127が形成されている。冷媒流路127は、ステージ111を冷却する。ステージ111が冷却されることにより、ステージ111に搭載された保持シート22が冷却されるとともに、ステージ111にその一部が接触しているカバー124も冷却される。これにより、基板10や保持シート22が、プラズマ処理中に加熱されることによって損傷されることが抑制される。冷媒流路127内の冷媒は、冷媒循環装置125により循環される。
【0063】
ステージ111の外周付近には、ステージ111を貫通する複数の支持部122が配置されている。支持部122は、搬送キャリア20のフレーム21を支持する。支持部122は、第1の昇降機構123Aにより昇降駆動される。搬送キャリア20が真空チャンバ103内に搬送されると、所定の位置まで上昇した支持部122に受け渡される。支持部122の上端面がステージ111と同じレベル以下にまで降下することにより、搬送キャリア20は、ステージ111の所定の位置に載置される。
【0064】
カバー124の端部には、複数の昇降ロッド121が連結しており、カバー124を昇降可能にしている。昇降ロッド121は、第2の昇降機構123Bにより昇降駆動される。第2の昇降機構123Bによるカバー124の昇降の動作は、第1の昇降機構123Aとは独立して行うことができる。
【0065】
制御装置128は、第1の高周波電源110A、第2の高周波電源110B、プロセスガス源112、アッシングガス源113、減圧機構114、冷媒循環装置125、第1の昇降機構123A、第2の昇降機構123Bおよび静電吸着機構を含むプラズマ処理装置100を構成する要素の動作を制御する。図11は、本実施形態で使用されるプラズマ処理装置のブロック図である。
【0066】
基板10へのプラズマ処理は、搬送キャリア20を真空チャンバ103内に搬入し、基板10がステージ111に載置された状態で行われる。
基板10の搬入の際、真空チャンバ103内では、昇降ロッド121の駆動により、カバー124が所定の位置まで上昇している。図示しないゲートバルブが開いて搬送キャリア20が搬入される。複数の支持部122は、上昇した状態で待機している。搬送キャリア20がステージ111上方の所定の位置に到達すると、支持部122に搬送キャリア20が受け渡される。搬送キャリア20は、保持シート22の粘着面22Xが上方を向くように、支持部122の上端面に受け渡される。
【0067】
搬送キャリア20が支持部122に受け渡されると、真空チャンバ103は密閉状態に置かれる。次に、支持部122が降下を開始する。支持部122の上端面が、ステージ111と同じレベル以下にまで降下することにより、搬送キャリア20は、ステージ111に載置される。続いて、昇降ロッド121が駆動する。昇降ロッド121は、カバー124を所定の位置にまで降下させる。このとき、カバー124に配置された押さえ部材107がフレーム21に点接触できるように、カバー124とステージ111との距離は調節されている。これにより、フレーム21が押さえ部材107によって押圧されるとともに、フレーム21がカバー124によって覆われ、基板10は窓部124Wから露出する。
【0068】
カバー124は、例えば、略円形の外形輪郭を有したドーナツ形であり、一定の幅および薄い厚みを備えている。窓部124Wの直径はフレーム21の内径よりも小さく、その外径はフレーム21の外径よりも大きい。したがって、搬送キャリア20をステージ111の所定の位置に搭載し、カバー124を降下させると、カバー124は、フレーム21を覆うことができる。窓部124Wからは、基板10の少なくとも一部が露出する。
【0069】
カバー124は、例えば、セラミックス(例えば、アルミナ、窒化アルミニウムなど)や石英などの誘電体や、アルミニウムあるいは表面がアルマイト処理されたアルミニウムなどの金属で構成される。押さえ部材107は、上記の誘電体や金属の他、樹脂材料で構成され得る。
【0070】
搬送キャリア20が支持部122に受け渡された後、直流電源126からESC電極119に電圧を印加する。これにより、保持シート22がステージ111に接触すると同時にステージ111に静電吸着される。なお、ESC電極119への電圧の印加は、保持シート22がステージ111に載置された後(接触した後)に、開始されてもよい。
【0071】
プラズマ処理が終了すると、真空チャンバ103内のガスが排出され、ゲートバルブが開く。搬送キャリア20は、ゲートバルブから進入した搬送機構によって、プラズマ処理装置100から搬出される。搬送キャリア20が搬出されると、ゲートバルブは速やかに閉じられる。搬送キャリア20の搬出プロセスは、上記のような搬送キャリア20をステージ111に搭載する手順とは逆の手順で行われてもよい。すなわち、カバー124を所定の位置にまで上昇させた後、ESC電極119への印加電圧をゼロにして、搬送キャリア20のステージ111への吸着を解除し、支持部122を上昇させる。支持部122が所定の位置まで上昇した後、搬送キャリア20は搬出される。
【0072】
B.素子チップの製造方法
本実施形態に係る素子チップの製造方法は、第1主面および第2主面を備え、シリコンを含むシリコン層と酸化膜とを有し、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された積層基板を準備する積層基板の準備工程と、積層基板をプラズマに晒して、分割領域におけるシリコン層を、第1主面側から酸化膜が露出するまで除去して溝を形成するシリコン層除去工程と、シリコン層除去工程の後、溝をプラズマに晒して、溝の底部に露出する酸化膜を除去する酸化膜除去工程と、を備える。酸化膜除去工程は、酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップと、酸化膜エッチングステップの後、溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップと、を含むサイクルを複数回繰り返す。
図12は、本実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【0073】
(1)積層基板の準備工程(S1(S011))
まず、第1主面および第2主面を備えるとともに、複数の素子領域および複数の分割領域に区画された上記の積層基板を準備する。積層基板は、シリコンを含むシリコン層(第1のシリコン層)と、第1のシリコン層の第2主面側に配置される酸化膜とを備える。
【0074】
(2)樹脂膜形成工程(S2)
積層基板の第1主面を被覆する樹脂膜を形成する。樹脂膜は、積層基板の素子領域をプラズマ等から保護するために設けられる。
【0075】
樹脂膜は、例えば、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、フェノール樹脂等のフォトレジスト、あるいは、アクリル樹脂等の水溶性レジスト等の、いわゆるレジスト材料を含む。樹脂膜は、例えば、レジスト材料をシート状に成型した後、このシートを積層基板に貼り付けるか、あるいは、レジスト材料の原料液を、スピンコートやスプレー塗布等の方法を用いて、基板に塗布することにより形成される。
【0076】
樹脂膜の厚みは特に限定されないが、酸化膜除去工程等におけるプラズマ処理により完全には除去されない程度であることが好ましい。樹脂膜の厚みは、例えば、プラズマ処理において樹脂膜がエッチングされる合計の量(厚み)を算出し、このエッチング量以上になるように設定される。樹脂膜の厚みは、例えば、5μm以上60μm以下である。
【0077】
図13は、本実施形態に係る樹脂膜形成工程後の基板の一部を模式的に示す断面図である。積層基板10Aの第1主面10Xに、樹脂膜40が形成されている。また、積層基板10Aの第2主面10Yは、保持シート22に貼着されており、積層基板10Aは、搬送キャリアに保持されている。
【0078】
(3)開口形成工程(S3)
樹脂膜に開口を形成して、分割領域において積層基板を露出させる。
【0079】
開口は、例えば、フォトレジストにより形成された樹脂膜のうち、分割領域に対応する領域をフォトリソグラフィ法によって除去することにより形成される。熱硬化性樹脂あるいは水溶性レジストにより形成された樹脂膜のうち、分割領域に対応する領域をレーザスクライビングによりパターニングして、開口を形成してもよい。
【0080】
開口は、分割領域における樹脂膜および絶縁膜が除去されることにより形成されてもよい。分割領域における絶縁膜の除去は、後述する第1のシリコン層除去工程において行ってもよい。この場合、絶縁膜を除去するためのプラズマを発生させる条件と、シリコン層あるいは酸化膜をエッチングするためのプラズマを発生させる条件とは異なり得る。
【0081】
開口形成工程の後、シリコンエッチング工程を行う前に、開口にレーザ光あるいはプラズマを照射してもよい。この工程は、例えば、開口形成工程に起因する残渣を低減する目的で行われる。これにより、高品質のプラズマエッチングを行うことが可能になる。
【0082】
図14は、本実施形態に係る開口形成工程後の積層基板の一部を模式的に示す断面図である。積層基板10Aの分割領域102における樹脂膜40および絶縁膜14が除去されて、開口から第1のシリコン層11Aが露出している。
【0083】
(4)第1のシリコン層除去工程(S4(S012))
積層基板をプラズマに晒して、開口から露出する第1のシリコン層を第1主面側から酸化膜が露出するまで除去して、複数の溝を形成する。
【0084】
第1のシリコン層除去工程は、例えば、上記のボッシュプロセスにより実行される。すなわち、分割領域における第1のシリコン層をプラズマエッチングするシリコンエッチングステップと、シリコンエッチングステップにより形成された溝をプラズマに晒して、溝の内壁に保護膜を堆積させる保護膜形成ステップと、を含むサイクルが複数回、繰り返される。ボッシュプロセスにより、高アスペクト比の溝を形成することができる。
【0085】
シリコンエッチングステップは、例えば、プロセスガスとしてSFを200sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を5Pa以上15Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を10W以上500W以下として、5秒以上20秒以下、処理する条件で行われる。
【0086】
保護膜除去ステップは、例えば、プロセスガスとしてSFを200sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を5Pa以上15Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を0W以上1000W以下として、2秒以上10秒以下、処理する条件で行われる。
【0087】
保護膜形成ステップは、例えば、プロセスガスとしてCを150sccm以上1000sccm以下で供給しながら、真空チャンバ内の圧力を10Pa以上25Pa以下に調整し、第1の高周波電源から第1の電極への投入電力を1500W以上4800W以下として、第2の高周波電源から第2の電極への投入電力を0W以上50W以下として、2秒以上15秒以下、処理する条件で行われる。
【0088】
上記のような条件で、保護膜除去ステップ、シリコンエッチングステップおよび保護膜形成ステップを繰り返すことにより、第1のシリコン層は、10μm/分以上20μm/分以下の速度で深さ方向に垂直にエッチングされ得る。
【0089】
図15は、本実施形態に係る第1のシリコン層除去工程により得られた溝入り基板の一部を、模式的に示す断面図である。分割領域における第1のシリコン層11Aがエッチングされて、複数の溝1021が形成されている。溝の底部1021aからは、酸化膜15が露出している。
【0090】
(5)酸化膜除去工程(S5(S02))
酸化膜をプラズマエッチングして除去する。
酸化膜除去工程は、上記のプラズマ処理方法により実行される。すなわち、酸化膜をエッチングする酸化膜エッチングステップ(S021)と、酸化膜エッチングステップの後、溝の内壁に付着した付着物を除去するクリーニングステップ(S022)と、を含むサイクルが複数回繰り返される。上記プラズマ処理方法によれば、分断された酸化膜の側面がほぼ垂直になるようにエッチングされる。
【0091】
図16は、本実施形態に係る酸化膜除去工程後の溝入り基板の一部を模式的に示す断面図である。分割領域における酸化膜15がエッチングされ、溝の底部1021aから第2のシリコン層11Bが露出している。
【0092】
(6)第2のシリコン層除去工程(S6)
溝入り基板が第2のシリコン層を備える場合、溝入り基板を再びプラズマに晒して、分割領域における第2のシリコン層をエッチングする。これにより、溝入り基板が分断されて、複数の素子チップが得られる。
【0093】
第2のシリコン層除去工程は、例えば、第1のシリコン層除去工程と同様にボッシュプロセスにより実行される。すなわち、分割領域における第2のシリコン層をエッチングするシリコンエッチングステップと、エッチングにより形成された溝に保護膜を堆積させる保護膜形成ステップと、を含むサイクルが複数回、繰り返される。本実施形態にかかる方法によれば、分断された酸化膜の側面がほぼ垂直であるため、第2のシリコン層も高い垂直性でエッチングされる。
【0094】
図17は、本実施形態に係る製造方法により得られた素子チップを、模式的に示す断面図である。分割領域における第2のシリコン層11Bがエッチングされて、複数の素子チップ200が形成されている。
【0095】
(7)樹脂膜除去工程(S7)
第2のシリコン層除去工程の後、プラズマ処理装置においてアッシングを行ってもよい。これにより、樹脂膜が除去される。アッシング用のアッシングガスは、例えば、酸素ガスや、酸素ガスとフッ素含有ガスとの混合ガス等である。アッシングガスの流量は、例えば、150sccm以上300sccm以下である。
【0096】
第2のシリコン層除去工程の後、真空チャンバ内を排気して減圧雰囲気下にし、その後、アッシング用ガスを真空チャンバに供給する。続いて、第1の高周波電源から第1の電極へ高周波電力を印加することにより、アッシングガスが発生する。真空チャンバ内の圧力は、例えば、5Pa以上15Pa以下である。第1の電極に印加される高周波電力は、例えば、1500W以上5000W以下である。このとき、第2の電極には高周波電力を印加してもよいし、しなくてもよい。第2の電極に印加される高周波電力は、第2のシリコン層除去工程における第2の電極への印加電力よりも小さくなるように設定することが望ましい。第2の電極に印加される高周波電力は、例えば、300W以下である。
【0097】
樹脂膜が水溶性である場合、アッシングに替えて、水洗により樹脂膜を除去してもよい。
【0098】
図18は、本実施形態に係る樹脂膜除去工程後の素子チップを、模式的に示す断面図である。素子チップ200を覆っていた樹脂膜40が除去されている。
【0099】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
[実施例1]
a)積層基板の準備工程、樹脂膜形成工程および開口形成工程
シリコン層(厚み約50μm)と酸化膜(厚み約10μm)とを備える積層基板を準備した。スピンコート法により、シリコン層の一方の主面を覆う樹脂膜(厚み約15μm、ノボラック樹脂)を形成した。分割領域に樹脂膜側からレーザ光を照射して、分割領域における樹脂膜を除去した。
【0101】
b)シリコン層除去工程
続いて、図10に示すプラズマ処理装置を用いて、ボッシュプロセスにより分割領域におけるシリコン層を除去して、複数の溝を形成した。ボッシュプロセスでは、保護膜形成ステップと保護膜除去ステップとシリコンエッチングステップとを含むサイクルを繰り返した。繰り返し回数は25回であった。
【0102】
保護膜形成ステップでは、プロセスガスとしてCを用いた。Cの供給量は400sccmとした。真空チャンバ内の圧力は15Pa、第1の電極への投入電力は4800W、第2の電極への投入電力は50Wとして、3秒間処理した。
保護膜除去ステップでは、プロセスガスとしてSFを用いた。SFの供給量は600sccmとした。真空チャンバ内の圧力は20Pa、第1の電極への投入電力は4800W、第2の電極への投入電力は200Wとして、2秒間処理した。
エッチングステップでは、プロセスガスとしてSFを用いた。SFの供給量は600sccmとした。真空チャンバ内の圧力は20Pa、第1の電極への投入電力は4800W、第2の電極への投入電力は50Wとして、5秒間処理した。
【0103】
c)酸化膜除去工程
同じプラズマ処理装置の真空チャンバ内のガスを排気した後、酸化膜除去工程を行い、複数の素子チップを得た。酸化膜除去工程では、以下の酸化膜エッチングステップとクリーニングステップとを含むサイクルを繰り返した。繰り返し回数は20回であった。
【0104】
c-1)酸化膜エッチングステップ
溝入り基板を第1のプラズマに晒して、溝の底部から露出する酸化膜をエッチングした。エッチングガスとしてAr、C、SFの混合ガスを用いた。Ar、C、SFの供給量は、それぞれ300sccm、20sccm、25sccmとした。真空チャンバ内の圧力は1Pa、第1の電極への投入電力は2400W、第2の電極への投入電力は1300Wとして5分間処理した。その後、真空チャンバ内のガスを排気した。
【0105】
c-2)クリーニングステップ
続いて、溝入り基板を第2のプラズマに晒して、側壁に堆積する付着物を除去した。クリーニングガスとしてOを用いた。Oの供給量は200sccmとした。真空チャンバ内の圧力は20Pa、第1の電極への投入電力は3000W、第2の電極への投入電力は50Wとして1分間処理した。その後、真空チャンバ内のガスを排気した。
【0106】
図19は、得られた素子チップの要部の断面におけるSEM画像(倍率3000倍)である。素子チップの底面(第2主面)と酸化膜の側面とが成す角度は約86°であった。
【0107】
[比較例1]
クリーニングステップを行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして素子チップを作製した。
図20は、得られた素子チップの要部の断面におけるSEM画像(倍率3000倍)である。素子チップの底面(第2主面)と酸化膜の側面とが成す角度は約80°であった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のプラズマ処理方法は、酸化膜の側面の垂直性が向上するため、特に酸化膜およびシリコン層を備える基板から素子チップを製造する場合に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0109】
10:基板
10A:積層基板
10B:溝入り基板
10X:第1主面
10Y:第2主面
101:素子領域
102:分割領域
1021:溝
1021a:底部
1021b:側壁
11A:第1のシリコン層
11B:第2のシリコン層
12:配線層
14:絶縁膜
15:酸化膜
15a:側面
20:搬送キャリア
21:フレーム
21a:ノッチ
21b:コーナーカット
22:保持シート
22X:粘着面
22Y:非粘着面
40:樹脂膜
60:付着物
100:プラズマ処理装置
103:真空チャンバ
103a:ガス導入口
103b:排気口
108:誘電体部材(天板)
109:第1の電極
110A:第1の高周波電源
110B:第2の高周波電源
111:ステージ
112:プロセスガス源
113:アッシングガス源
114:減圧機構
115:電極層
116:金属層
117:基台
118:外周部
119:ESC電極
120:第2の電極
121:昇降ロッド
122:支持部
123:昇降機構
125:冷媒循環装置
126:直流電源
127:冷媒流路
128:制御装置
129:外周リング
200:素子チップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20