(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】成型体を製造するための金型、製造装置ならびに製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20231110BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20231110BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20231110BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20231110BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20231110BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20231110BHJP
H01G 9/052 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
B22F3/02 K
B22F3/11 A
C22C1/08 F
H01G9/00 290D
H01G9/15
H01G13/00 371Z
H01G9/00 290E
H01G9/052 500
(21)【出願番号】P 2020563276
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050459
(87)【国際公開番号】W WO2020138018
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2018246630
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隼人
(72)【発明者】
【氏名】小田根 和仁
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-163074(JP,A)
【文献】特開2007-73570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/02
B22F 3/11
C22C 1/08
H01G 9/00
H01G 9/15
H01G 13/00
H01G 9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体型の成型空間を画定する金型であって、
前記直方体は、
第1面と、
前記第1面に対向する第2面と、
前記第1面および前記第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、
前記第1面、前記第2面、前記第3面および前記第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有し、
前記金型は、
前記第1面および前記第2面をそれぞれ画定する一対の第1金型部品と、
前記第3面および前記第4面をそれぞれ画定する一対の第2金型部品と、
前記第5面および前記第6面をそれぞれ画定する一対の第3金型部品と、を有し、
前記一対の第3金型部品の少なくとも一方は、前記第5面または前記第6面の前記第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、前記第5面または前記第6面の前記第2面側の下部領域を画定し、かつ、前記上部金型部品とは独立して滑動可能な下部金型部品と、を備え、
前記下部金型部品は、前記上部金型部品に対して前記成型空間に向かって突出させることにより、前記上部金型部品の位置と前記下部金型部品の位置の差による段部を形成できるように構成され、
前記上部金型部品は、前記段部を小さくするように、前記下部金型部品に対して相対的に滑動できるように構成され、
前記上部金型部品と前記下部金型部品とは、前記段部を維持した状態
で、一体的に滑動し、その後、前記段部のない状態で、一体的に滑動できるように構成される、金型。
【請求項2】
前記段部の前記上部金型部品の滑動方向における長さは、前記成型空間の前記滑動方向における長さの2%以上、15%以下である、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記第5面および前記第6面のそれぞれの面積は、前記第3面および前記第4面のそれぞれの面積より大きい、請求項1または2に記載の金型。
【請求項4】
前記金型は、前記上部金型部品および前記下部金型部品の動作を制御する動作部をさらに備え、
前記動作部は、前記下部金型部品の滑動方向に延びる棒状部材と、スペーサと、付勢部材と、基体と、を備え、
前記棒状部材は、鍔を備え、
前記棒状部材の一方の端部は、前記下部金型部品の一部に、前記成型空間の反対側から当接しており、
前記棒状部材の他方の端部は、前記基体に向かっており、
前記スペーサは、前記鍔と前記基体との間に配置されており、
前記付勢部材は、前記基体と前記スペーサとの間であって、前記基体および前記スペーサに当接するように配置されており、
前記金型は、前記付勢部材が無負荷状態のとき、前記棒状部材と前記基体との間に、前記スペーサの前記下部金型部品の滑動方向における厚みと同じ幅の隙間が形成されることにより、前記段部が形成されるように構成され、
前記付勢部材を縮める方向の負荷が生じることにより、前記段部の前記下部金型部品の滑動方向における長さが小さくなるように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の金型。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の金型と、
前記金型により部分的に画定された空間内に金属粒子を投入するホッパーと、を備える、成型体の製造装置。
【請求項6】
請求項1に記載の金型により成型体を製造する方法であって、
前記一対の第1金型部品の一方と、前記一対の第2金型部品と、前記一対の第3金型部品とにより、前記成型空間より大きい初期空間を部分的に画定する第1工程と、
前記初期空間内に金属粒子を投入する第2工程と、
前記初期空間内で前記一対の第3金型部品の少なくとも一方を前進させて、前記金属粒子を押圧する第3工程と、を備え、
前記第1工程では、前記上部金型部品の位置と前記下部金型部品の位置との差による前記段部が形成されており、
前記第3工程は、
前記上部金型部品と前記下部金型部品とを、前記段部を維持した状態で一体的に前進させる工程と、
前記第3金型部品を前進させながら、前記上部金型部品を、前記段部を小さくするように、前記下部金型部品に対して相対的に前進させる工程と、
前記上部金型部品と前記下部金型部品とを、前記段部のない状態で一体的に前進させる工程と、を備える、成型体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られた成型体を焼成する工程を備える、多孔質焼結体の製造方法。
【請求項8】
第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面および前記第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、前記第1面、前記第2面、前記第3面および前記第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する多孔質焼結体と、
前記多孔質焼結体に埋設された第1部分と、前記第1面から延び前記第1部分以外の第2部分を有する陽極ワイヤと、
前記多孔質焼結体上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、
前記固体電解質層上に形成された陰極層と、を備えるコンデンサ素子を具備し、
前記第5面および前記第6面の少なくとも一面は、前記陽極ワイヤの長手方向に交わる方向に延びる境界線を備え、
前記境界線は、前記第5面または前記第6面の前記第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、前記第5面または前記第6面の前記第2面側の下部領域を画定し、かつ、前記上部金型部品とは独立して滑動可能な下部金型部品と、の境界に由来し、
前記多孔質焼結体は、前記第5面または前記第6面の法線方向からみたとき、前記境界線から前記第1面までの前記長手方向における最短の長さLaと、前記境界線から前記第2面までの前記長手方向における最短の長さLbとが、La≦Lbの関係を満た
し、
前記第5面または前記第6面の法線方向からみたとき、前記陽極ワイヤの前記第1部分の端部は、前記多孔質焼結体の前記境界線から前記第2面までの領域にある、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型体を製造するための金型、製造装置ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化および軽量化に伴って、小型かつ大容量の高周波用コンデンサが求められている。このようなコンデンサとして、等価直列抵抗(ESR)が小さく、周波数特性に優れている電解コンデンサの開発が進められている。電解コンデンサの陽極体としては、例えば、タンタル、ニオブ、チタンなどの弁作用金属粒子を焼結した多孔質焼結体が用いられる。
【0003】
多孔質焼結体は、通常、金型により一部が画定された空間内に弁作用金属粒子を投入し、加圧成型した後、焼結することにより製造される。弁作用金属粒子は、通常、上記空間の上方に設けられた開口から投入される。弁作用金属粒子の投入後、当該開口は、陽極ワイヤを保持する金型により塞がれて、加圧成型される。これにより、上方の面から陽極ワイヤが植立する成型体が得られる。しかし、陽極ワイヤが植立する面側の弁作用金属粒子の密度は疎になり易く、加圧成型後の成型体における陽極ワイヤの固定が十分でない場合がある。
そこで、特許文献1では、陽極ワイヤが植立する面側の弁作用金属粒子の密度を高める方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法では、成型体の上記面側の弁作用金属粒子の密度が、過度に高くなる場合がある。弁作用金属粒子の密度が高くなりすぎると、粒子同士が接合し易くなって、成型体の表面積が減少する。この場合、電解コンデンサの容量が低減する。また、上記面側とその反対の面側とで、成型体の密度差が大きくなる場合もある。すると、成型体(あるいは焼結体)の疎な領域と密な領域との界面付近で亀裂が生じ易くなって、電解コンデンサとして使用したときに漏れ電流が増大する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の局面に係る金型は、直方体型の成型空間を画定する。前記直方体は、第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面および前記第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、前記第1面、前記第2面、前記第3面および前記第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。前記金型は、前記第1面および前記第2面をそれぞれ画定する一対の第1金型部品と、前記第3面および前記第4面をそれぞれ画定する一対の第2金型部品と、前記第5面および前記第6面をそれぞれ画定する一対の第3金型部品と、を有する。前記一対の第3金型部品の少なくとも一方は、前記第5面または前記第6面の前記第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、前記第5面または前記第6面の前記第2面側の下部領域を画定し、かつ、前記上部金型部品とは独立して滑動可能な下部金型部品と、を備える。前記下部金型部品は、前記上部金型部品に対して前記成型空間に向かって突出させることにより、前記上部金型部品の位置と前記下部金型部品の位置の差による段部を形成できるように構成される。前記上部金型部品は、前記段部を小さくするように、前記下部金型部品に対して相対的に滑動できるように構成される。前記上部金型部品と前記下部金型部品とは、前記段部を維持した状態および前記段部のない状態で、一体的に滑動できるように構成される。
【0007】
本発明の第2の局面に係る成型体の製造装置は、上記の第1の局面に係る金型と、前記金型により部分的に画定された空間内に金属粒子を投入するホッパーと、を備える。
【0008】
本発明の第3の局面に係る成型体の製造方法は、上記の第1の局面に係る金型により成型体を製造する方法であって、以下の第1工程~第3工程を備える。第1工程では、前記一対の第1金型部品の一方と、前記一対の第2金型部品と、前記一対の第3金型部品とにより、前記成型空間より大きい初期空間を部分的に画定する。第2工程では、前記初期空間内に金属粒子を投入する。第3工程では、前記初期空間内で前記一対の第3金型部品の少なくとも一方を前進させて、前記金属粒子を押圧する。前記第1工程では、前記上部金型部品の位置と前記下部金型部品の位置との差による前記段部が形成されている。前記第3工程は、前記上部金型部品と前記下部金型部品とを、前記段部を維持した状態で一体的に前進させる工程と、前記第3金型部品を前進させながら、前記上部金型部品を、前記段部を小さくするように、前記下部金型部品に対して相対的に前進させる工程と、前記上部金型部品と前記下部金型部品とを、前記段部のない状態で一体的に前進させる工程と、を備える。
【0009】
本発明の第4の局面に係る多孔質焼結体の製造方法は、上記の第3の局面に係る成型体の製造方法により得られた成型体を焼成する工程を備える。
【0010】
本発明の第5の局面に係る電解コンデンサは、コンデンサ素子を具備する。前記コンデンサ素子は、多孔質焼結体と、陽極ワイヤと、前記多孔質焼結体上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層上に形成された陰極層と、備える。前記多孔質焼結体は、第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面および前記第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、前記第1面、前記第2面、前記第3面および前記第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。陽極ワイヤは、前記多孔質焼結体に埋設された第1部分と、前記第1面から延び前記第1部分以外の第2部分を有する。前記第5面および前記第6面の少なくとも一面は、前記陽極ワイヤの長手方向に交わる方向に延びる境界線を備える。前記境界線は、前記第5面または前記第6面の前記第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、前記第5面または前記第6面の前記第2面に近い側の下部領域を画定し、かつ、前記上部金型部品とは独立して滑動可能な下部金型部品と、の境界に由来する。前記第5面または前記第6面の法線方向からみたとき、前記境界線から前記第1面までの前記長手方向における最短の長さLaと、前記境界線から前記第2面までの前記長手方向における最短の長さLbとは、La≦Lbの関係を満たす。
【0011】
本発明の第6の局面に係る電解コンデンサは、コンデンサ素子を具備する。前記コンデンサ素子は、多孔質焼結体と、陽極ワイヤと、前記多孔質焼結体上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、前記固体電解質層上に形成された陰極層と、備える。前記多孔質焼結体は、第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面および前記第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、前記第1面、前記第2面、前記第3面および前記第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。陽極ワイヤは、前記多孔質焼結体に埋設された第1部分と、前記第1面から延び前記第1部分以外の第2部分を有する。前記第5面および前記第6面の少なくとも一面は、前記陽極ワイヤの長手方向に交わる方向に延びる境界線を備える。前記境界線は、前記第5面または前記第6面の前記第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、前記第5面または前記第6面の前記第2面側の下部領域を画定し、かつ、前記上部金型部品とは独立して滑動可能な下部金型部品と、の境界に由来する。前記第5面または前記第6面の法線方向からみたとき、前記陽極ワイヤの前記第1部分の端部は、前記多孔質焼結体の前記境界線から前記第2面までの領域にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属粒子の密度差の少ない成型体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る金型を上方から見た展開模式図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係る金型を側方から見た展開模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る製造方法の第1工程における金型の配置を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る製造方法の第2工程における金型の配置を模式的に示す断面図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る製造方法の第3工程における第3金型部品の初期の配置を模式的に示す断面図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る製造方法の第3工程において、上部金型部品および下部金型部品が段
部を維持しながら一体的に前進した様子を模式的に示す断面図である。
【
図5C】本発明の一実施形態に係る製造方法の第3工程において、上部金型部品が相対的に前進する様子を模式的に示す断面図である。
【
図5D】本発明の一実施形態に係る製造方法の第3工程において、上部金型部品
の面と下部金型部
品の面とが面一になった様子を模式的に示す断面図である。
【
図5E】本発明の一実施形態に係る製造方法の第3工程において、上部金型部品と下部金型部品とが、成型空間を画定する所定位置に配置された様子を模式的に示す断面図である。
【
図6A】本発明の一実施形態に係る第3金型部品の動作部の初期状態を模式的に示す断面図である。
【
図6B】本発明の一実施形態に係る第3金型部品の動作部の動作終了時の状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る多孔質焼
結体を用いた電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る陽極ワイヤの一部が埋設された成型体を模式的に示す斜視図である。
【
図9】実施例における評価方法を説明するための多孔質焼結体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態では、加圧成型の開始時に金属粒子が移動できる十分な空間を設けることにより、金属粒子の密度差を小さくする。具体的には、本実施形態に係る金型のうち、陽極ワイヤが植立される第1面に交差する第5面あるいは第6面を画定する第3金型部品を、独立して滑動可能な上部金型部品および下部金型部品に分割する。そして、下部金型部品を上部金型部品に対して成型空間に向かって突出させることにより、成型空間内に前記上部金型部品の位置と下部金型部品の位置との差による段部を形成する。これにより、加圧成型が開始される初期空間には、第1面を画定する第1金型部品と一対の第2金型部品と上部金型部品とにより形成される上部空間と、第2面を画定する第1金型部品と一対の第2金型部品と下部金型部品とにより形成される下部空間とが形成される。
【0015】
第3金型部品の滑動方向A(一対の第3金型部品が、互いに接近する方向および離間する方向)において、上部空間の幅は、下部空間の幅より大きい。この状態で、一対の第3金型部品が互いに接近するように、第3金型部品の上部金型部品と下部金型部品の全体を移動させると、投入された金属粒子は、下部空間から上部空間へと容易に移動することができる。よって、下部空間における金属粒子の密度が過度に高くなることが抑制されるとともに、上部空間内の金属粒子の数が増加する。その後、第3金型部品の上部金型部品のみをさらに移動させることにより、上部空間における金属粒子の密度が高まる。つまり、上部空間と下部空間との金属粒子の密度差が小さくなる。
【0016】
<金型>
本実施形態に係る金型は、陽極ワイヤが植立する成型体を成型するのに用いられる。成型体は、概ね直方体型であって、その一面から陽極ワイヤが植立している。
【0017】
成型体は、陽極ワイヤが植立され得る第1面と、第1面に対向する第2面と、第1面および第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、第1面、第2面、第3面および第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。第3面および第4面は、第5面および第6面より狭小であってよい。
【0018】
金型は、上記成型体に対応する直方体型の成型空間を画定する。成型空間もまた、成型体に対応する第1面と、第1面に対向する第2面と、第1面および第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、第1面、第2面、第3面および第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。
【0019】
金型は、一対の第1金型部品と、一対の第2金型部品と、一対の第3金型部品と、を備える。
一対の第1金型部品は、成型空間の第1面および第2面を画定する。一方の第1金型部品は、陽極ワイヤを保持していてよい。一対の第1金型部品は、互いに対向するように配置され、陽極ワイヤの長手方向に滑動可能である。
【0020】
一対の第2金型部品は、成型空間の第3面および第4面を画定する。一対の第2金型部品は、互いに対向するように配置され、互いに向かって接近する方向および離間する方向に滑動可能である。
【0021】
一対の第3金型部品は、成型空間の第5面および第6面を画定する。一対の第3金型部品は、互いに対向するように配置され、互いに向かって接近する方向および離間する方向(以下、滑動方向Aと総称する場合がある。)に滑動可能である。第3金型部品が、一対の第3金型部品の間の空間を小さくするように滑動することを、第3金型部品が「前進する」と称する。第3金型部品が、一対の第3金型部品の間の空間を大きくするように滑動することを、第3金型部品が「後退する」と称する。
【0022】
一対の第3金型部品の少なくとも一方は、第5面または第6面の第1面側の上部領域を画定する上部金型部品と、第5面または第6面の第2面側の下部領域を画定する下部金型部品と、を備える。上部金型部品と下部金型部品とは、独立して滑動可能である。加圧成型が開始される初期位置において、下部金型部品は、上部金型部品に対して成型空間に向かって突出している。そのため、加圧成型開始時、第3金型部品には、下部金型部品による段部が形成されており、初期空間には、下部金型部品により画定される下部空間と、上部金型部品により画定され、滑動方向Aの幅が下部空間より大きい上部空間とが形成される。
【0023】
加圧成型開始時、下部空間の少なくとも一部には金属粒子が充填されている。上部空間の一部も金属粒子により占められていてもよい。一対の第3金型部品が互いに接近すると、下部空間に充填されていた金属粒子は、狭くなった下部空間から、金属粒子の充填されていない広い空間を有する上部空間へと移動する。上部空間の滑動方向Aの幅が、下部空間の滑動方向Aの幅より広いことにより、金属粒子の上部空間への移動は容易になる。
【0024】
段部の滑動方向Aにおける長さ(幅Wa:上部金型部品に対する下部金型部品の突出長さ)は特に限定されないが、例えば、成型空間の滑動方向Aにおける長さ(幅W40)の2%以上である。幅Waの幅W40に対する割合がこの範囲であると、成型体の第1面側の領域における密度が高くなり易い。幅Waの幅W40に対する割合は、3%以上であってよい。上部空間と下部空間との金属粒子の密度差が小さくなる点で、段部の幅Waは、過度に大きくないことが望ましい。段部の幅Waは、例えば、成型空間の幅W40の15%以下である。幅Waの幅W40に対する割合がこの範囲であると、金属粒子の上部空間への過剰な移動が抑制されて、得られる成型体の第1面側の領域における密度と第2面側の領域における密度とが均一になり易い。幅Waの幅W40に対する割合は、10%以下であってよく、8%以下であってよい。成型空間の幅W40は、成型体の第5面と第6面との間の距離Wと同義である。
【0025】
滑動方向Aに垂直な方向における上部金型部品の長さと下部金型部品の長さの比は、特に限定されない。上部金型部品の滑動方向Aに垂直な方向の長さ(高さHa)と、下部金型部品の滑動方向Aに垂直な方向の長さ(高さHb)との比(Ha:Hb)は、例えば、4:1~1:4であってよく、2:3~1:3であってよい。上部空間と下部空間との金属粒子の密度差が小さくなり易い点で、高さHbは、高さHa以上であることが好ましい。比(Ha:Hb)は、例えば、1:1~1:4であってよく、1:1~1:3であってよい。
【0026】
一対の第3金型部品同士の滑動方向Aにおける初期の最少の間隔W0は、成型空間の幅W40より大きい限り特に限定されない。初期の間隔W0は、例えば、成型空間の幅W40の100%より大きく、300%以上であってよく、500%以上であってよい。初期の間隔W0は、成型空間の幅W40の1000%以下であってよく、800%以下であってよい。一対の第3金型部品が、いずれも上部金型部品および下部金型部品を備える場合、初期の間隔W0は、下部金型部品同士の初期の間隔W0ということができる。
【0027】
加圧成型開始されると、上部金型部品と下部金型部品とは、段部を維持した状態で一体的に前進する。次いで、上部金型部品が下部金型部品に対して相対的に前進して、段部の大きさ(滑動方向Aにおける長さ)は小さくなり、やがて段部はなくなる。その後、所定位置まで、上部金型部品と下部金型部品とは、段部のない状態で一体的に前進する。
【0028】
図1Aは、本実施形態に係る金型を上方から見た展開模式図である。
図1Aでは、便宜上、第1金型部品は省略されている。
図1Bは、本実施形態に係る金型を側方から見た展開模式図である。
図1Bでは、便宜上、第2金型部品は省略されている。また、
図1Bでは、一対の第3金型部品がそれぞれ上部金型部品および下部金型部品に分割されているが、これに限定されるものではない。一対の第3金型部品のうちの一方が、上部金型部品および下部金型部品を備えていればよい。また、第3金型部品は、上部金型部品の下部金型部品とは反対側に、さらに金型部品を備えてもよい。
【0029】
金型30は、成型空間40の第1面40aおよび第2面40bを画定する一対の第1金型部品(31Aおよび31B)と、成型空間40の第3面40cおよび第4面40dを画定する一対の第2金型部品(32Aおよび32B)と、成型空間40の第5面40eおよび第6面40fを画定する一対の第3金型部品(33Aおよび33B)と、を備える。
【0030】
一対の第1金型部品31Aおよび31Bは、互いに対向するように配置され、陽極ワイヤ2の長手方向に滑動可能である。一対の第2金型部品32Aおよび32Bは、互いに対向するように配置され、互いに向かって接近する方向および離間する方向に滑動可能である。一対の第3金型部品33Aおよび33Bもまた、互いに対向するように配置され、互いに向かって接近する方向および離間する方向に滑動可能である。
【0031】
第3金型部品33Aおよび33Bはそれぞれ、上部金型部品331と、下部金型部品332と、を備える。上部金型部品331と下部金型部品332とは、独立して滑動可能である。加圧成型が開始される初期位置において、第3金型部品33Aおよび33Bは、上部金型部品331の位置と下部金型部品332の位置との差による段部332aを有している。上部金型部品331と下部金型部品332とは、段部332aを維持した状態で一体的に前進可能である。上部金型部品331は、段部332aを小さくするように、下部金型部品332に対して相対的に前進可能である。上部金型部品331と下部金型部品332とは、段部332aのない状態でも一体的に前進可能である。
【0032】
<成型体の製造装置>
本実施形態に係る成型体の製造装置は、上記の金型と、当該金型により部分的に画定された空間内に金属粒子を投入するホッパー(図示せず)と、を備える。ホッパーは、例えば、陽極ワイヤを保持しない一方の第1金型部品と、一対の第2金型部品と、一対の第3金型部品により画定され、成型空間より大きい初期空間内に、所定の質量の金属粒子を投入する。
【0033】
<成型体の製造方法>
本実施形態に係る成型体は、一方の第1金型部品と、一対の第2金型部品と、一対の第3金型部品とにより、成型空間より大きい初期空間を部分的に画定する第1工程(S1)と、部分的に画定された初期空間内に金属粒子を投入する第2工程(S2)と、画定された初期空間内で第3金型部品を前進させて、金属粒子を押圧する第3工程(S3)と、を備える方法により製造される。
図2は、本実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【0034】
(1)第1工程
陽極ワイヤを保持しない一方の第1金型部品と、一対の第2金型部品と、一対の第3金型部品により、成型空間より大きい初期空間を部分的に画定する。
【0035】
一対の第3金型部品の配置は暫定的である。第2工程より後の工程において、第3金型部品はさらに滑動される。第1金型部品および第2金型部品の配置も暫定的であってよい。例えば、第2工程より後の工程において、第1金型部品および第2金型部品もまた、さらに滑動されてよい。
【0036】
図3は、第1工程における金型の配置を模式的に示す断面図である。
図3では、便宜上、一方の第2金型部品は省略されている。また、
図3では、一対の第3金型部品がそれぞれ上部金型部品および下部金型部品に分割されているが、これに限定されるものではない。
【0037】
下部金型部品332は、上部金型部品331
に対して初期空間S
0に向かって突出しており、
上部金型部品の位置331と下部金型部品332
の位置との差による段部332aが形成されている。段部332aの幅Waは、成型空間の幅W40(
図1B参照)の3%以上、8%以下である。上部金型部品の高さHaと、下部金型部品の高さHbとの比(Ha:Hb)は、1:2である。
滑動方向Aにおける第3金型部品33Aと第3金型部品33Bと
の初期の最少の間隔W0は、例えば、成型空間の幅W40の500%以上、800%以下である。
【0038】
陽極ワイヤ2を保持しない第1金型部品31Bと、一対の第2金型部品32Aおよび32Bと、一対の第3金型部品33Aおよび33Bにより、成型空間40より大きい初期空間S0が部分的に画定されている。初期空間S0は、第1面40aを画定する第1金型部品31Aと一対の第2金型部品32Aおよび32Bと上部金型部品331とにより形成される上部空間Saと、第2面40bを画定する第1金型部品31Bと一対の第2金型部品32Aおよび32Bと下部金型部品332とにより形成される下部空間Sbとを有する。上部空間Saの滑動方向Aの幅は、下部空間Sbの滑動方向Aの幅より、段部332aの幅Waの約2倍大きい。
【0039】
(2)第2工程
部分的に画定された初期空間に、所定質量の金属粒子を投入する。
初期空間は、投入される金属粒子に対して十分に広い。そのため、金属粒子が投入された後であっても、少なくとも上部空間の一部は、金属粒子により充填されず維持されている。
【0040】
図4は、第2工程における金型の配置を模式的に示す断面図である。
図4では、便宜上、一方の第2金型部品は省略されている。初期空間S0に投入された金属粒子1Pは、例えば、図示例のように錐型に広がっている。そのため、上部空間および下部空間の一部は、金属粒子1Pに充填されずに、維持されている。
【0041】
(3)第3工程
例えば、一対の第1金型部品の他方(陽極ワイヤ2を保持する第1金型部品31A)を所定の位置にまで滑動させて、初期空間を画定する。画定された初期空間内で、第3金型部品を前進させる。これにより、金属粒子が加圧されて、成型体が成形される。
【0042】
第3金型部品を滑動させる前に、さらに第2金型部品を、所定の位置まで滑動させておいてもよい。一対の第3金型部品は、それぞれを同時に滑動させてもよいし、一方の第3金型部品を固定し、他方の第3金型部品のみを滑動させてもよい。
【0043】
第3工程は、上部金型部品と下部金型部品とを、段部を維持した状態で一体的に前進させる工程(S31)と、上部金型部品を、段部を小さくするように、下部金型部品に対して相対的に前進させる工程(S32)と、上部金型部品と下部金型部品とを、段部のない状態で一体的に前進させる工程(S33)と、を備える。
【0044】
上部空間は、下部空間よりも滑動方向Aにおいて広い。このように、段部を維持した状態で、上部および下部の金型部品を一体的に前進させると、投入された金属粒子は、下部空間から上部空間へと容易に移動することができる。よって、下部空間の金属粒子の密度が過度に高くなることが抑制されるとともに、上部空間内の金属粒子の数が増加する。その後、第3金型部品の上部金型部品のみをさらに移動させることにより、上部空間の金属粒子の密度が高まる。つまり、上部空間と下部空間との密度差が小さくなる。
【0045】
一対の第3金型部品の間隔がある程度狭くなると、下部空間内に投入された金属粒子の密度が高まって、下部金型部品を後退させる方向に押す力が生じる。一方、下部金型部品よりも間隔を空けて配置されている上部金型部品には、後退する方向に押す力はかかりにくい。そのため、上部金型部品は、下部金型部品に対して相対的に前進し、段部が小さくなっていく。段部がなくなって、上部金型部品の上部空間側の面と下部金型部品の下部空間側の面とが面一になると、上部金型部品の相対的な前進は止まり、上部金型部品と下部金型部品とは、段部のない状態で一体的に前進する。
【0046】
図5A~
図5Eは、第3工程における第3金型部品の動作を示す断面模式図である。
図5A~
図5Eでは、便宜上、第2金型部品は省略されている。
【0047】
図5Aは、第3金型部品の初期の配置を模式的に示す断面図である。
図5Aでは、第3金型部品33Aおよび33Bを滑動させる前に、第1金型部品31Aおよび31Bを所定の位置まで滑動させて、初期空間S0の全体を画定している。さらに、第2金型部品32Aおよび32Bは成型空間40の一部を画定する所定の位置まで滑動させている。これにより、成型空間40の一部も画定されている。以降、第1金型部品および第2金型部品は滑動させなくてよい。第3金型部品33Aと第3金型部品33Bとの滑動方向Aにおける最少の初期の間隔はW0である。
【0048】
図5Bは、上部金型部品および下部金型部品が段
部を維持しながら一体的に前進した様子を模式的に示す断面図である。
第3金型部品同士の滑動方向Aの最少の第1間隔W1は、初期の間隔W0より小さい。上部金型部品および下部金型部品は一体的に前進し、上部空間および下部空間はともに狭くなっている。しかし、金属粒子1Pは、滑動方向Aにより広い上部空間へと逃げることができるため、下部空間における金属粒子の密度は過度に上昇しない。一方、上部空間における金属粒子の
数が増加する。
【0049】
図5Cは、上部金型部品が相対的に前進する様子を模式的に示す断面図である。
下部金型部品332同士の滑動方向Aの第2間隔W2が第1間隔W1よりさらに小さくなると、上部空間および下部空間はともに、金属粒子により充填される。そして、より狭い空間である下部空間における金属粒子1Pの密度は、上部空間より先に高くなり、下部金型部品332は、後退する方向に押される。そのため、段部332aの幅Wa1は、初期の幅Waより小さくなる。ただし、第3金型部品全体は、前進する方向に滑動している。
【0050】
図5Dは、上部金型部品の上部空間側の面と下部金型部品の下部空間側の面とが面一になった様子を模式的に示す断面図である。
段部332aの幅Waは徐々に小さくなっていき、最終的に、段部332aはなくなる(Wa=0)。すると、上部金型部品331の相対的な前進は停止して、上部金型部品331と下部金型部品332とは、一体的に前進する。上部金型部品331の相対的な前進が停止するときの第3金型部品同士の第3間隔W3は、第2間隔W2より小さい。
【0051】
図5Eは、上部金型部品と下部金型部品とが、成型空間を画定する所定位置に配置された様子を模式的に示す断面図である。
上部金型部品331と下部金型部品332とは、さらに所定の位置まで一体的に前進する。所定の位置とは、第3金型部品同士の間隔が、成型空間の幅W40になる位置である。第3金型部品同士の間隔が、W3からW40になるまで、上部金型部品331と下部金型部品332とは一体となって前進し、金属粒子を圧縮していく。
【0052】
上部金型部品の位置と下部金型部品の位置との差による段部がなくなった後、上部金型部品と下部金型部品とが一体的に前進して金属粒子を圧縮することにより、上部空間と下部空間との間の圧力差が解消される。さらに、まだ圧縮されていない上部空間および下部空間の金属粒子同士が、同じタイミングで圧縮されるため、上部空間の金属粒子と下部空間の金属粒子との境界が生じ難くなる。よって、本実施形態の成型体を電解コンデンサに用いる場合、漏れ電流が抑制され易くなる。
【0053】
この第3工程における上部金型部品および下部金型部品の動作は、次のような機構を備える動作部により実現することができる。
【0054】
第3金型部品の動作部は、第3金型部品の滑動方向Aに延びる棒状部材(以下、ピンと称す。)と、リング状のスペーサと、付勢部材と、基体と、を備える。
ピンの一方の端部(第1端部)は、下部金型部品の一部に、成型空間の反対側から当接している。ピンの他方の端部(第2端部)は、基体に向かって延びている。ピンの途中には、鍔が設けられている。スペーサは、ピンに設けられた鍔の第2端部側に挿入されている。スペーサの厚みは、段部の幅Waを決定する。付勢部材は、基体とスペーサとの間に配置されており、それぞれに当接している。付勢部材は例えば、バネ等の弾性体である。
【0055】
付勢部材が無負荷状態のとき、ピンの第2端部は基体に当接しておらず、ピンの第2端部と基体との間にはスペーサの厚みと同じ幅の隙間が形成されている。ピンが下部金型部品により押されると、ピンと基体との間の隙間は小さくなり、やがて第2端部は基体に当接する。これにより、下部金型部品の後退(上部金型部品の相対的な前進)は停止する。ピンの第2端部と基体とが当接するとき、上部金型部品の上部空間側の面と下部金型部品の下部空間側の面とは、面一になる。
【0056】
下部金型部品は、ピンの摺動に伴って滑動する。一方、上部金型部品は基体に当接しており、ピンから独立している。初期状態において、付勢部材には負荷がかかっておらず、ピンの第2端部と基体との間には隙間が形成されている。そのため、下部金型部品は、上部金型部品よりもスペーサの分だけ下部空間に向かって突出している。これにより、上部金型部品の位置と下部金型部品の位置との差による段部が形成される。段部は、スペーサの厚みと同じ幅を有している。
【0057】
一対の第3金型部品の間隔がある程度狭くなって、下部空間内の金属粒子の密度が高まると、下部金型部品は後退する方向に押され、上部金型部品は相対的に前進する。そのため、ピンも基体側に押されて、ピンの鍔は、スペーサを介して付勢部材を基体に押しつける。一方、付勢部材は、ピンを下部空間側に押し返そうとする。この付勢部材の付勢力を調整することで、金属粒子にかかる圧力を制御することができる。上部金型部品の相対的な前進は、ピンの第2端部が基体に到達することで終了する。
【0058】
ただし、第3工程において、上記動作部を含む第3金型部品の滑動制御部は、第3金型部品を前進させている。例えば、滑動制御部は、基体を成型空間側に移動させることにより、第3金型部品全体を前進させる。つまり、上部金型部品が下部金型部品に対して相対的に前進しながら、第3金型部品全体も前進しており、経時的に空間は狭くなっている。ピンの第2端部が基体に到達した後も、上部金型部品と下部金型部品とは一体的に前進する。
【0059】
図6Aは、第3金型部品の動作部の初期状態を模式的に示す断面図である。
図6Aでは、動作部50が第3金型部品33Aの動作を規定する場合を示しているが、これに限定されるものではない。
【0060】
動作部50は、第3金型部品33Aの滑動方向Aに延びるピン51と、付勢部材52と、リング状の第1スペーサ53Aと、基体54とを備える。ピン51の途中には、鍔51aが設けられている。第1スペーサ53Aは、鍔51aの第2端部側に挿入されている。鍔51aの第1端部側に、第2スペーサ53Bが挿入されてもよい。付勢部材52は、例えばコイルバネであって、基体54と第1スペーサ53Aとの間に配置されており、それぞれに当接している。
【0061】
ピン51の第1端部は、下部金型部品332の一部に、成型空間の反対側から当接している。ピン51の第2端部は、付勢部材52が無負荷状態のとき、基体54に当接しておらず、基体54との間には第1スペーサ53Aの厚みと同じ幅の隙間Gが形成されている。隙間Gの幅(滑動方向Aの長さ)は、第3金型部品33Aに形成される段部332aの幅Waと同じである。
【0062】
図6Bは、第3金型部品の動作部の動作終了時の状態を模式的に示す断面図である。
下部金型部品332が後退する方向に押されると、付勢部材52が縮んでピン51と基体54との間の隙間Gは小さくなる。下部金型部品332の後退(上部金型部品331の相対的な前進)は、ピン51の第2端部が基体54に当接することで終了する。ピン51の第2端部と基体54とが当接するとき上部金型部品331の上部空間側の面と下部金型部品332の下部空間側の面とは、面一になる。
【0063】
<多孔質焼結体の製造方法>
(4)第4工程
金型をすべて除去した後、成型体を焼成してもよい。これにより、多孔質焼結体が得られる。焼成は、例えば真空中で行われる。焼成温度および時間は特に限定されず、金属粒子の材質等に応じて適宜設定すればよい。
【0064】
<成型体および多孔質焼結体>
成型体(および、その焼成物である多孔質焼結体)は、陽極ワイヤと、陽極ワイヤが植立される第1面と、第1面に対向する第2面と、第1面および第2面と交差し、かつ互いに対向する第3面および第4面と、第1面、第2面、第3面および第4面と交差し、かつ互いに対向する第5面および第6面と、を有する。
【0065】
本実施形態のように、第5面あるいは第6面を画定する第3金型部品を独立して滑動可能な上部金型部品および下部金型部品で構成する場合、成型体の第5面および第6面の少なくとも一面には、陽極ワイヤの長手方向に交わる方向に延びる境界線が形成される。この境界線は、上部金型部品と下部金型部品との境界に由来している。第5面または第6面の法線方向からみたとき、成型体の境界線から第1面側の部分は、上部空間に充填された金属粒子が加圧成型されることにより形成されている。同様に、成型体の境界線から第2面側の部分は、下部空間に充填された金属粒子が加圧成型されることにより形成されている。
【0066】
第5面または第6面の法線方向からみたとき、境界線から第1面までの陽極ワイヤの長手方向における最短の長さLaと、境界線から第2面までの陽極ワイヤの長手方向における最短の長さLbとの比率は特に限定されず、上部金型部品の高さHaと下部金型部品の高さHbとの比に依存する。長さLaと長さLbとの比(La:Lb)は、例えば、4:1~1:4であってよく、2:3~1:3であってよい。陽極ワイヤがより強固に固定され易い点で、長さLbは、長さLa以上であることが好ましい。比(La:Lb)は、例えば、1:1~1:4であってよく、1:1~1:3であってよい。
【0067】
第5面または第6面の法線方向からみたとき、陽極ワイヤの成型体に埋設されている方の端部は、境界線から第2面側の部分にあってよい。このとき、陽極ワイヤの上記端部から第2面までの最短距離H2aは、長さLaよりも短い(H2a<Lb)。これにより、陽極ワイヤはより強固に固定され易くなる。最短距離H2aは、長さLaと長さLbとの和の1/3以下であってよく、1/4以下であってよい。陽極ワイヤの固定性の観点から、長さLbが長さLa以上であって、かつ、陽極ワイヤの上記端部が境界線から第2面側の部分にあることが好ましい。
【0068】
図8は、一実施形態に係る陽極ワイヤの一部が埋設された成型体を模式的に示す斜視図である。
成型体1(および、その焼成物である多孔質焼結体1X)は、第1面1aおよび第2面1bと、第3面1cおよび第4面1dと、第5面1eおよび第6面1fとを有する。第3面1cおよび第4面1dは、第5面1eおよび第6面1fより狭小である。成型体1は扁平しており、例えば平板状である。陽極ワイヤ2の一部は成型体1に埋設され、残部は成型体1の第1面1aから外部に延びている。
【0069】
成型体1の第5面1eおよび第6面1fには、陽極ワイヤ2の長手方向に交わる方向に延びる境界線Bが形成されている。第5面1eまたは第6面1fの法線方向からみたとき、境界線Bから第2面1bまでの長さLbは、境界線Bから第1面1aまでの長さLaより長い(Lb>La)。陽極ワイヤ2の成型体1に埋設されている方の端部2aは、境界線Bから第2面1b側の部分にある。端部2aから第2面1bまでの最短距離H2aは、長さLaよりも短い(H2a<Lb)。
【0070】
<電解コンデンサ>
本実施形態により得られる多孔質焼結体は、例えば、電解コンデンサを構成するコンデンサ素子に用いられる。
図7は、本実施形態に係る多孔質焼結体を用いた電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【0071】
電解コンデンサ20は、対向する3組の平面を含む略六面体の外形形状を有し、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する樹脂外装体11と、樹脂外装体11の外部に露出する陽極端子7および陰極端子9とを備える。
【0072】
コンデンサ素子10は、陽極端子7に電気的に接続される陽極ワイヤ2の一部が埋設された、陽極体である多孔質焼結体1Xと、その表面に形成された誘電体層3と、誘電体層3の表面に形成された固体電解質層4と、固体電解質層4の表面に形成された陰極層5とを有する。
【0073】
多孔質焼結体1Xは、タンタル、ニオブ、チタン、またはこれらの合金などの弁作用金属粒子を加圧成型して焼成することにより得られるが、本発明はこれらの金属粒子に限定されるものではない。
【0074】
多孔質焼結体1Xから突出した陽極ワイヤ2の一部は、抵抗溶接等によって陽極端子7に電気的に接続される。一方、陰極層5は、樹脂外装体11内において導電性接着材8(例えば熱硬化性樹脂と金属粒子との混合物)を介して陰極端子9に電気的に接続される。図7に示す陽極端子7および陰極端子9は、樹脂外装体11から突出し、その下面が樹脂外装体11の底面と同一平面上に配設されるように折曲加工されている。陽極端子7および陰極端子9の下面は、電解コンデンサ20を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続等に用いられる。
【0075】
(誘電体層)
誘電体層は、多孔質焼結体を構成する導電性材料の表面を酸化することにより、酸化被膜として形成することができる。具体的には、電解水溶液(例えば、リン酸水溶液)が満たされた化成槽に多孔質焼結体を浸漬し、突出した陽極ワイヤを多孔質焼結体に接続して、陽極酸化を行うことにより、多孔質焼結体の表面に弁作用金属の酸化被膜からなる誘電体層を形成することができる。電解水溶液としては、リン酸水溶液に限らず、硝酸、酢酸、硫酸などを用いることができる。
【0076】
(固体電解質層)
固体電解質層は、誘電体層を覆うように形成されている。固体電解質層は、例えば、二酸化マンガン、導電性高分子などで構成されている。導電性高分子を含む固体電解質層は、例えば、誘電体層が形成された多孔質焼結体に、モノマーやオリゴマーを含浸させ、その後、化学重合もしくは電解重合によりモノマーやオリゴマーを重合させることにより、または誘電体層が形成された多孔質焼結体に、導電性高分子の溶液または分散液を含浸し、乾燥させることにより、誘電体層上に形成される。
【0077】
誘電体層および固体電解質層の形成工程では、例えば、多孔質焼結体から突出した一部の陽極ワイヤを把持し、多孔質焼結体を懸垂させた状態で、多孔質焼結体の上に誘電体層を形成し、さらにその上に固体電解質層が形成される場合がある。そのため、陽極ワイヤの根元近傍には大きな負荷がかかる。陽極ワイヤの固定が十分でないと、陽極ワイヤの根元近傍から多孔質焼結体にクラックが発生し易くなって、漏れ電流は増大し易い。本実施形態によれば、陽極ワイヤは強固に固定されるため、クラックの発生も抑制される。
【0078】
(陰極層)
陰極層は、例えば、固体電解質層を覆うように形成されたカーボン層と、カーボン層の
表面に形成された金属ペースト層と、を有している。カーボン層は、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂を含む。金属ペースト層は、例えば、金属粒子(例えば、銀)と樹脂とを含む。なお、陰極層の構成は、この構成に限定されない。陰極層の構成は、集電機能を有する構成であればよい。
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1Aおよび
図1Bに示す金型を用いて、タンタル粒子を加圧成型し、幅Wが0.83mm、幅Wに垂直な方向の長さが5.17mmの
図8に示す成型体
1(1X)を作製した。一対の第3金型部品の動作は、
図6Aに示す動作部により制御した。第3金型部品同士の初期の最少の間隔W0は5mmであった。段部の幅Waは0.05mmとした。上部金型部品の高さHaと下部金型部品の高さHbとの比:Ha/Hbは、約1/2であった。得られた成型体
1(1X)を焼成して、多孔質焼結体A1を5個作製した。
【0080】
[比較例1]
上下に分割されていない第3金型部品を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質焼結体Bを5個作製した。
【0081】
[評価]
多孔質焼結体A1およびBについて、以下の評価を行った。
【0082】
(1)破壊強度
多孔質焼結体の第4面を陽極ワイヤの長手方向に3本の直線を引き、その中央の直線Lc上であって第1面から0.5mm離れた点P1、および、中央の直線Lc上であって第2面から0.5mm離れた点P2における破壊強度を測定した(
図9参照)。中央の直線Lcは、第4面の長手方向に垂直な幅を2等分する。中央の直線Lcから約0.25mm離れたところに、中央の直線Lcを挟むように2本の直線L1およびL2を引いた。
【0083】
破壊強度は、引張圧縮試験機を用いて、圧縮端子を荷重をかけながら多孔質焼結体に押し当てることにより測定した。多孔質焼結体に破壊が生じたときに、圧縮端子にかけられていた荷重が破壊強度である。点P2における破壊強度を100%としたときの点P1における破壊強度(相対値)を求めた。破壊強度(%)は、5個の多孔質焼結体の平均値とした。結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
多孔質焼結体A1では、陽極ワイヤが延出する第1面側(点P1)の破壊強度が、その反対の第2面側(点P2)の破壊強度よりやや大きい。そのため、陽極ワイヤは強固に固定される。ただし、点P1における破壊強度は点P2と比較して過度に大きくなく、第1面側と第2面側とで、密度はほぼ均一であるといえる。一方、多孔質焼結体Bでは、陽極ワイヤが延出する第1面側(点P1)の破壊強度が、その反対の第2面側(点P2)の破壊強度より小さい。さらに、点P1における破壊強度と点P2における破壊強度との間で、比較的大きな差がみられる。
【0086】
(2)ビッカース硬度
多孔質焼結体の第4面に、上記直線Lc、L1およびL2を引き、さらに、陽極ワイヤの長手方向とは垂直な方向に12本の直線M1~M12を引いた。第1面に最も近い直線M1は、第4面の第1面側の端部から0.25mm離れたところに引いた。第2面に最も近い直線M12も同様に、第4面の第2面側の端部から0.25mm離れたところに引いた。残りの10本の直線は、直線M1とM
12との間を11等分するように引いた。直線Lc、L1およびL2と、直線M1~M12との36箇所の交点におけるビッカース硬度を測定した(
図9参照)。ビッカース硬度は、JIS Z 2244にしたがって測定した。
【0087】
直線Lc、L1およびL2と直線M1~M3との9個の交点におけるビッカース硬度の平均値(ビッカース硬度HVa)、および、直線Lc、L1およびL2と直線M6~M12との21個の交点におけるビッカース硬度の平均値(ビッカース硬度HVb)を算出し、ビッカース硬度HVbを100%としたときの、ビッカース硬度HVa(相対値)を求めた。結果を表2に示す。ビッカース硬度HVaおよびビッカース硬度HVbは、5個の多孔質焼結体の平均値とした。
【0088】
【0089】
ビッカース硬度についても、破壊強度と同様の傾向が見られた。すなわち、多孔質焼結体A1では、陽極ワイヤが延出する第1面側のビッカース硬度が、その反対の第2面側のビッカース硬度よりやや大きいものの、過度に大きくはない。
【0090】
多孔質焼結体A1において、第4面の第1面側の端部から直線M3までの領域は、上部金型部品により加圧された部分に対応する。多孔質焼結体A1において、第4面の第2面側の端部から直線M6までの領域は、下部金型部品により加圧された部分に対応する。ビッカース硬度HVaとビッカース硬度HVbとの間で大きな差が見られなかったことから、第3金型部品を分割したことによる影響はあまりないことがわかる。
【0091】
[実施例2~4]
段部の幅Waを0.14mm、0.3mm、0.5mmとしたこと以外、実施例1と同様にして多孔質焼結体A2~A4を作製した。得られた多孔質焼結体A2~A4の破壊強度を上記と同様にして測定したところ、幅Waが大きくなるほど、点P1における破壊強度も大きくなっており、幅Waと点P1における破壊強度との間には相関関係がみられることがわかる。
【0092】
多孔質焼結体A2~A4および多孔質焼結体Bの評価結果から、第3金型部品にわずかでも段部が形成されていることにより、多孔質焼結体の第1面側の破壊強度を高めることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、陽極体として多孔質焼結体を具備する電解コンデンサに利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
10:コンデンサ素子
1:成型体
1X:多孔質焼結体
1P:金属粒子
1a:第1面
1b:第2面
1c:第3面
1d:第4面
1e:第5面
1f:第6面
2:陽極ワイヤ
2a:端部
3:誘電体層
4:固体電解質層
5:陰極層
7:陽極端子
8:導電性接着材
9:陰極端子
11:樹脂外装体
20:電解コンデンサ
30:金型
31A、31B:第1金型部品
32A、32B:第2金型部品
33A、33B:第3金型部品
331:上部金型部品
332:下部金型部品
332a:段部
40:成型空間
40a:第1面
40b:第2面
40c:第3面
40d:第4面
40e:第5面
40f:第6面
50:動作部
51:ピン
51a:鍔
52:付勢部材
53A:第1スペーサ
53B:第2スペーサ
54:基体