(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】掻痒治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/20 20060101AFI20231110BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20231110BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20231110BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P17/04
C07K14/54 ZNA
(21)【出願番号】P 2019157118
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 博満
(72)【発明者】
【氏名】野元 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】金蔵 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】椛島 健治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 千紗
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-120724(JP,A)
【文献】特表2008-524242(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002365(WO,A1)
【文献】特表2018-538320(JP,A)
【文献】特表2009-543579(JP,A)
【文献】GSCHWANDTNER M. et al.,Journal of Leukocyte Biology,2012年,Vol.92,pp.21-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン27(IL-27)
を有効成分として含む、掻痒治療剤
(ただし、アレルギー疾患治療薬及び自己免疫疾患治療薬を除く)。
【請求項2】
前記IL-27が、
a) 配列番号1で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型p28タンパク質、
b) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する変異型p28タンパク質、又は
c) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型p28タンパク質
及び、
d) 配列番号2で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型EBI3タンパク質、
e) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する変異型EBI3タンパク質、又は
f) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型EBI3タンパク質
からなり、ヒト野生型IL-27の活性を有する、請求項1に記載の掻痒治療剤。
【請求項3】
前記掻痒がヒスタミン依存性
である、請求項1又は2に記載の掻痒治療剤。
【請求項4】
前記ヒスタミン依存性
の掻痒が蕁麻疹、虫刺症、又は薬疹による掻痒である、請求項3に記載の掻痒治療剤。
【請求項5】
前記
掻痒が、
慢性突発性掻痒
又は老人性皮膚掻痒である、請求項
1又は2に記載の掻痒治療剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の掻痒治療剤
を含む、掻痒治療用組成物
(ただし、アレルギー疾患治療薬及び自己免疫疾患治療薬を除く)。
【請求項7】
抗ヒスタミン剤をさらに含む、請求項6に記載の掻痒治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン27(IL-27)及び/又はIL-27受容体アゴニストを有効成分として含む掻痒治療剤、並びに前記掻痒治療剤を含む掻痒治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本国民の15%以上が何らかの慢性の「痒み(掻痒)」に苦しんでいると推定されている。慢性の痒みは、睡眠障害をもたらすなど、患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を著しく低下させるため、多大な経済損失をも生み出している。大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座皮膚科の試算によれば、痒みを原因とするQOL低下による一か月あたりの日本全体の経済損失は、4,690億円に上るものと推計されている(非特許文献1)。
【0003】
痒みは、皮膚表層(表皮と真皮の境界領域)と粘膜部に生じ、掻きたいとの衝動を引き起こす感覚である。痒みは、皮膚に存在する末梢神経線維(一次求心性感覚神経C線維)の自由終末が、肥満細胞などから放出されるヒスタミンや、ダメージを受けた皮膚や免疫細胞から産生されるメディエーターを受容し、脊髄後角神経細胞を経由して、脳へと情報が伝えられることによって認識される。
【0004】
痒みの感覚は、掻破(引っ掻き、擦過)を引き起こすことによって病原体の侵入や有害な環境刺激を排除する、生体防御応答を構成している。その反面、慢性の痒みを伴う疾患では、掻破によって皮膚バリアーが破壊されることで症状が悪化し、さらに強い痒みが誘発されるという悪循環が生じ得る。したがって、患者のQOLを改善するだけでなく、疾患のさらなる悪化を防ぐためにも、痒みに対する有効な薬剤や治療法の開発が必要である。
【0005】
現在行われている痒みに対する標準治療は、一定の掻痒軽減効果を有するものの、以下に述べるように課題が多く残されている。
【0006】
例えば、蕁麻疹など湿疹性皮膚疾患の痒み治療の第一選択は抗ヒスタミン剤(H1ブロッカー)である。しかし、アトピー性皮膚炎、乾癬などの慢性皮膚疾患では、ヒスタミン以外の因子が痒みの誘発に重要であるため、抗ヒスタミン剤は奏効しない(非特許文献2)。したがって、アトピー性皮膚炎の治療には、炎症を抑制することで間接的に痒みを抑えるという意味で、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬が用いられる。しかし、ステロイド外用薬は皮膚線条、萎縮、局所免疫能低下に伴う皮膚感染症の増加をもたらし、タクロリムス外用薬は局所灼熱感をもたらす上に、十分な鎮痒効果が得られない患者も多く存在する。このような患者群には、ステロイド剤やシクロスポリンの短期経口投与がやむを得ず行われるが、全身性の免疫不全など重篤な有害作用が懸念され、長期間使用できるものではない(非特許文献3)。
【0007】
さらに近年では、重症度の高いアトピー性皮膚炎や、乾癬に対して、抗体医薬が導入され、その有効性が示されている(非特許文献4、5)。しかし、慢性掻痒は様々な炎症メディエーターや内因性起痒物質が複合的に作用した結果生じるものであり、単一のメディエーターを標的とする方法では、これら全ての経路を遮断することは理論的に難しい。さらに、近年登場した抗体医薬の多くは、あくまでも炎症の抑制に働くものであり、直接的に痒みを抑える効果を示すものではない。そのため、老人性皮膚掻痒症(ドライスキン)や慢性突発性掻痒症(Chronic idiopathic pruritis; CIP)のように背景に炎症が存在しない皮膚掻痒症には効果が期待できない。
【0008】
したがって、様々な掻痒症に対して痒みを効果的に抑制することが可能であり、かつ副作用の少ない、新たな掻痒治療薬の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】室田浩之他, PROGRESS IN MEDICINE, 2009, 29(7), 1842-1848.
【文献】Kido-Nakahara M. et al., Immunol Allergy Clin North Am, 2017, 37(1), 113-122.
【文献】Buchman A. L. et al., J Clin Gastroenterol, 2001, 33(4), 289-94.
【文献】Paller A. S. et al., J Allergy Clin Immunol, 2017, 140(3),633-643.
【文献】Szepietowski J. C. and Reich A., Curr Probl Dermatol, 2016, 50, 102-10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、掻痒症に対する掻痒治療剤及び掻痒治療用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
最近、本発明者らは、インターロイキン27(IL-27)の構成因子であるp28若しくはEBI3、又はその受容体の構成因子であるWSX-1の欠損マウスでは、非炎症状態において、皮膚の機械刺激や温熱刺激に対する痛みの感受性が亢進することを報告した(Sasaguri, T. et al., Scientific Reports, 2018, 8, 11022)。
【0012】
IL-27は、IL-12サイトカインファミリーに属するサイトカインであり、p28タンパク質とEBI3タンパク質から形成されるヘテロ二量体タンパク質である(
図1)。IL-27受容体は特異的サブユニットWSX-1タンパク質と、シグナリングサブユニットgp130タンパク質から形成される(
図1)。IL-27は主として活性化したマクロファージや樹状細胞(DC)から分泌され、様々なヘルパーT(Th)細胞の分化や機能を制御することがこれまで報告されている。喘息やアトピー性皮膚炎では、2型免疫応答を引き起こすTh2細胞やILC2(Innate lymphoid cell 2)細胞が産生するサイトカインがその病態形成に関わるが、IL-27はTh2細胞やILC2細胞に直接作用し、その分化やサイトカイン産生を抑制することも報告されている(Yoshimoto, T. et al., The Journal of Immunology, 2007, 179(7), 4415-23; Moro, K. et al., Nature Immunology, 2016, 17(1). 76-86)。しかし、掻痒抑制に関するIL-27の機能に関する報告はこれまでになく、またIL-27を用いた掻痒抑制を目的とする掻痒治療剤の研究開発も未だに行われていない。
【0013】
本発明者らは、機械刺激や温熱刺激に対する痛みの感受性に関する上記の知見(Sasaguri, T. et al., Scientific Reports, 2018, 8, 11022)から、IL-27が炎症の抑制とは関係なく、直接末梢の感覚神経の働きを制御し得ると考えた。この考えに基づき、本発明者らは、IL-27が新たな掻痒治療薬になり得るという着想に至った。
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、マウスを用いて、(1)ヒスタミン皮下投与による急性掻痒試験、及び(2)ハプテン(感作性化合物)の皮膚反復塗布によって誘導されるアトピー性皮膚炎モデルを用いた慢性掻痒試験を実施し、リコンビナントIL-27(rIL-27)の皮下接種によりマウスの擦過行動が有意に抑制されることを見出した。本発明は、上記研究成果に基づくものであって、以下を提供する。
(1)インターロイキン27(IL-27)、及び/又はIL-27受容体アゴニストを有効成分として含む、掻痒治療剤。
(2)前記IL-27が、
a) 配列番号1で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型p28タンパク質、
b) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する変異型p28タンパク質、又は
c) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型p28タンパク質
及び、
d) 配列番号2で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型EBI3タンパク質、
e) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する変異型EBI3タンパク質、又は
f) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型EBI3タンパク質
からなり、ヒト野生型IL-27の活性を有する、(1)に記載の掻痒治療剤。
(3)前記掻痒がヒスタミン依存性掻痒である、(1)又は(2)に記載の掻痒治療剤。
(4)前記ヒスタミン依存性掻痒が蕁麻疹、虫刺症、又は薬疹による掻痒である、(3)に記載の掻痒治療剤。
(5)前記掻痒がヒスタミン非依存性掻痒である、(1)又は(2)に記載の掻痒治療剤。
(6)前記ヒスタミン非依存性掻痒が、アトピー性皮膚炎若しくは乾癬による掻痒、慢性突発性掻痒、又は老人性皮膚掻痒である、(5)に記載の掻痒治療剤。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の掻痒治療剤、並びに抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、シクロスポリン、タクロリムス、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体、抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体、及びヒト型抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体からなる群から選択される1以上を含む、掻痒治療用組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、掻痒症に対する掻痒治療剤及び掻痒治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】IL-27およびIL-27受容体を示す図である。IL-27は、p28タンパク質とEBI3タンパク質から形成されるヘテロ二量体のタンパク質である。IL-27受容体は特異的サブユニットWSX-1タンパク質と、シグナリングサブユニットgp130タンパク質から形成される。
【
図2】ヒスタミン誘発急性掻痒試験におけるIL-27の鎮痒効果を示す図である。この実験では、マウスの頬皮下に起痒物質であるヒスタミンを皮下摂取することで掻痒が惹起された。図のIL-27投与群ではリコンビナントIL-27(rIL-27)をヒスタミンと同時接種した。コントロール群では、PBSをヒスタミンと同時接種した。図は、各群(各n=7個体)におけるヒスタミン接種後の擦過行動回数変化率の平均値を表し、エラーバーは標準誤差を示す。*はP<0.05(t検定)を示す。
【
図3】ハプテン(感作性化合物)の皮膚反復塗布によって誘導されるアトピー性皮膚炎モデルを用いた慢性掻痒試験における、IL-27の鎮痒効果を示す図である。折れ線は、10分毎の各個体の擦過行動の回数を示す(n=5個体)。破線は、リコンビナントIL-27(rIL-27)が皮下接種された時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.掻痒治療剤
1-1.概要
本発明の第1の態様は、掻痒治療剤である。
本態様の掻痒治療剤は、IL-27、及び/又はIL-27受容体アゴニストを有効成分として含む。本態様の掻痒治療剤は、ヒスタミン依存性及び非依存性掻痒に対して掻痒抑制効果を有する。
【0018】
1-2.定義
本明細書で頻用する以下の用語について定義する。
「インターロイキン27(IL-27)」とは、前述のように、インターロイキン12(IL-12)サイトカインファミリーに属するサイトカインであり、p28タンパク質とEBI3(Epstein-Barr virus induced-3)タンパク質から形成されるヘテロ二量体のタンパク質である(
図1)。p28タンパク質は、IL-12のp35サブユニットに関連するタンパク質であり、ヒトでは243アミノ酸残基からなるポリペプチドである。EBI3タンパク質は、IL-12のp40サブユニットに関連するヘマトポエチン受容体ファミリーのメンバーである。EBI3タンパク質は、糖タンパク質であり、ヒトでは229アミノ酸残基からなるポリペプチドである。
【0019】
本明細書において単に「IL-27」というとき、任意の生物種に由来する野生型及び変異型のIL-27(それぞれ「野生型IL-27」及び「変異型IL-27」と表記する)が含まれるものとする。同様に、本明細書において単に「p28タンパク質」又は「EBI3タンパク質」というとき、任意の生物種に由来する野生型及び変異型のp28タンパク質(それぞれ「野生型p28タンパク質」及び「変異型p28タンパク質」と表記する)又はEBI3タンパク質(それぞれ「野生型EBI3タンパク質」及び「変異型EBI3タンパク質」と表記する)が含まれるものとする。IL-27の具体例としては、配列番号1で示すアミノ酸配列からなるヒト由来の野生型p28タンパク質(「ヒト野生型p28タンパク質」と表記する)、及び配列番号2で示すアミノ酸配列からなるヒト由来の野生型EBI3タンパク質(「ヒト野生型EBI3タンパク質」と表記する)からなるIL-27(「ヒト野生型IL-27」と表記する)が挙げられる。
【0020】
「IL-27受容体」とは、IL-27がリガンドとして結合する受容体であり、特異的サブユニットWSX-1タンパク質及びシグナリングサブユニットgp130(glycoprotein 130)タンパク質から形成されるヘテロ二量体のタンパク質である(
図1)。WSX-1タンパク質は、TCCRタンパク質、IL27RAタンパク質などとも呼ばれ、グリコシル化膜タンパク質であり、ヒトでは636アミノ酸残基からなるポリペプチドである。gp130タンパク質は、細胞外に5個のフィブロネクチンIII型ドメインと1個の免疫グロブリン様ドメインを有する膜タンパク質であり、ヒトでは、918アミノ酸残基からなるポリペプチドである。本明細書において単に「IL-27受容体」というとき、任意の生物種に由来する野生型及び変異型のIL-27受容体が含まれるものとする。IL-27受容体を構成するWSX-1タンパク質とgp130タンパク質の具体例としては、配列番号3で示すアミノ酸配列からなるヒト由来の野生型WSX-1タンパク質、配列番号4で示すアミノ酸配列からなるヒト由来の野生型gp130タンパク質が挙げられる。
【0021】
本明細書において「受容体アゴニスト」とは、受容体を活性化して完全又は部分的に受容体を介する応答を誘導することができる物質を意味する。本明細書において受容体アゴニストは、内因性物質、外来(外因性)物質のいずれをも含むものとし、特に限定しない。
【0022】
本明細書において「掻痒症」とは、痒み(掻痒)を伴う任意の疾患をいう。本明細書において、掻痒症には、局所性の皮膚疾患、及び体内の異常に起因する全身性の皮膚掻痒症などが挙げられる。局所性の皮膚疾患には、例えばアトピー性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、虫刺症、真菌症(白癬、皮膚カンジダ症など)、乾癬、乾皮症、慢性突発性掻痒、老人性皮膚掻痒症、肥厚性瘢痕、及び薬疹などが挙げられる。体内の異常に起因する全身性の皮膚掻痒症には、例えば慢性腎不全及び尿毒症などの腎疾患、肝硬変及び黄疸などの肝・胆道疾患、鉄欠乏性貧血及びリンパ球白血病などの血液疾患、甲状腺機能異常症及び糖尿病などの内分泌・代謝性疾患、多発性硬化症などの神経疾患、心因性などの精神障害、内臓悪性腫瘍、並びにHIV感染症に伴う全身性の皮膚掻痒症、並びにモルヒネ、アスピリン、カプトプリル、βラクタム系抗菌薬及びエトレチナートなどの薬剤の投与に伴う全身性の皮膚掻痒症が挙げられる。以下に説明するように、さらに掻痒症はヒスタミン依存性とヒスタミン非依存性の掻痒症に分類することもできる。
【0023】
本明細書において「ヒスタミン依存性掻痒」とは、主にヒスタミンに依存して生じる痒みをいう。ヒスタミンは、多様な生体反応を制御する生体アミンメディエーターであり、その受容体にはGタンパク質共役型受容体スーパーファミリーに属するH1~H4の4つのサブタイプがある。ヒスタミンは、標的細胞に発現しているヒスタミンH1~H4受容体に結合し、細胞内に情報を伝達することによって多様な生理機能を発現させる。ヒスタミン依存性掻痒では、肥満細胞や好塩基球が刺激されてヒスタミンが放出され、皮膚に存在する痒み神経の末端によって検出されることで痒みが生じる。本明細書において、ヒスタミン依存性掻痒は、蕁麻疹、虫刺症、薬疹等に伴う掻痒を含むものとする。蕁麻疹は、食品、抗生物質などの薬剤、物理的刺激、発汗、ストレスなどに起因して生じる。蕁麻疹などのヒスタミン依存性掻痒の治療は、主として抗ヒスタミン剤が用いられる。「抗ヒスタミン剤」とは、一般に、ヒスタミン受容体に対してヒスタミンと拮抗的に働く、アレルギー反応などヒスタミンの関与する過剰反応を抑える目的で用いられる薬剤である。蕁麻疹などのヒスタミン依存性掻痒の治療には、主としてH1受容体拮抗薬(H1ブロッカー)が用いられる。
【0024】
本明細書において「ヒスタミン非依存性掻痒」とは、ヒスタミン以外の因子が主に痒みの誘発に関与する掻痒をいう。本明細書では、ヒスタミン非依存性掻痒は、上記のヒスタミン依存性掻痒以外の掻痒を意味するものとする。ヒスタミン非依存性掻痒は、背景に炎症が存在するものと、炎症が存在しないものに分類される。背景に炎症が存在するヒスタミン非依存性掻痒には、限定しないが、アトピー性皮膚炎、乾癬などの慢性皮膚疾患が挙げられる。背景に炎症が存在しないヒスタミン非依存性掻痒には、限定しないが、慢性突発性掻痒、老人性皮膚掻痒などが挙げられる。一般に、ヒスタミン非依存性掻痒には、抗ヒスタミン剤は奏効しない。
【0025】
「アトピー性皮膚炎」とは、表皮における角層の異常によって皮膚の乾燥とバリアー機能異常が生じる、アレルギー性疾患であり、慢性に経過する炎症と掻痒をその病態とするものである。アトピー性皮膚炎では、掻破による皮膚バリアーの破壊がさらなる強い痒みを誘発するという悪循環によって疾患が悪化し、治療の大きな障壁となる。アトピー性皮膚炎では、ヘルパーT(Th)2細胞やILC2細胞などによって分泌されるインターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン13(IL-13)、インターロイキン31(IL-31)や、線維芽細胞や皮膚角化細胞が分泌するTSLP(thymic stromal lymphopoietin)などによって2型の炎症反応が惹起される。アトピー性皮膚炎の治療には、通常、炎症を抑制することで間接的に痒みを抑えるという意味で、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、シクロスポリン、又は抗体医薬が用いられる。
【0026】
「ステロイド外用薬」とは、ステロイド剤を有効成分とする外用薬を意味する。本明細書において「ステロイド剤」とは、ステロイドホルモン又はその誘導体、特に糖質コルチコイド又はその誘導体を意味する。ステロイド剤は、抗炎症作用、免疫抑制作用、リンパ球障害作用、血管収縮作用、気管支拡張作用などの薬理作用を有し、多様な病気に対して奏効することが知られている。ステロイド外用薬は皮膚線条・萎縮、局所免疫能低下に伴う皮膚感染症の増加をもたらすことが知られている。
【0027】
「タクロリムス外用薬」とは、タクロリムスを有効成分とする外用薬を意味する。「タクロリムス」とは、土壌細菌ストレプトマイセス・ツクバエンシス(Streptomyces tsukubaensis)から単離された免疫抑制物質である。タクロリムスは、ヘルパーT細胞においてインターロイキン2(IL-2)などのサイトカイン産生を抑制することが知られている。タクロリムス外用薬は局所灼熱感をもたらすことが知られている。
【0028】
アトピー性皮膚炎の患者には、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬によって十分な鎮痒効果が得られない患者も多く存在する。このような患者群には、ステロイド剤やシクロスポリンの短期経口投与がやむを得ず行われるが、全身性の免疫不全など重篤な有害作用が懸念されるため、この治療方法は長期間使用できるものではない。また、アトピー性皮膚炎の重症例では紫外線療法も用いられる。
【0029】
「シクロスポリン」とは、土壌中の真菌トリポクラジウム・インフラチュム(Tolypocladium inflatum)から抽出された、11個のアミノ酸からなる疎水性の環状ポリペプチドである。シクロスポリンは免疫抑制作用を有し、T細胞においてIL-2などのサイトカインの産生を抑制することが知られている。
【0030】
「抗体医薬」とは、抗体の有する機能を利用した医薬品であり、特に疾患の原因となる生体分子に特異的に結合する抗体を人工的に作製し、医薬品として利用するものである。近年では、重症度の高いアトピー性皮膚炎に対して、抗体医薬が導入され、その有効性が示されている。ステロイド/タクロリムス外用薬による治療が十分に効果を発揮しない重症度の高いアトピー性皮膚炎患者には、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブが開発されている。本薬は炎症の抑制に働くものであり、重症度の高い患者でも約4割に有効であるとされる。また、アトピー性皮膚炎による痒みの発生にはTh2細胞が産生するIL-31が関与していることが知られており、抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体(ネモリツマブ)の第II相国際共同治験では臨床症状や痒みに対する有効性が確認されている。
【0031】
「乾癬」とは、免疫細胞の浸潤及び活性化とそれに伴う表皮肥厚を伴う皮膚の炎症性疾患である。乾癬では、皮膚の最外層の表皮において代謝サイクルが短くなる。すなわち、正常な表皮細胞では代謝サイクルが約28日であるのに対して、乾癬の場合は代謝サイクルが約4~5日と極めて短くなる。典型的には、全身の色々な場所で赤い発疹の上に白色の鱗屑が厚く付着し、それがはがれ落ちる落屑という症状が起こる。乾癬患者の半数以上に痒みが生じる。乾癬には、例えば、尋常性乾癬、膿庖性乾癬、関節症性乾癬、滴状乾癬、乾癬性紅皮症が挙げられる。乾癬には様々な治療法があるが、主要な治療法は外用薬を使用するものである。ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、シクロスポリンなどが外用薬として使用される場合が多い。乾癬の治療には紫外線療法も用いられる。近年では、乾癬に対してもバイオ医薬品が導入されている。ヒト型抗ヒトインターロイキン17(IL-17)受容体Aモノクローナル抗体は、乾癬に対して炎症抑制効果を示すことが知られている。
【0032】
「慢性突発性掻痒(Chronic idiopathic pruritis; CIP)」とは、免疫系の異常に起因する、原因不明の掻痒をいう。CIPの原因として、老化に伴う皮膚バリアー機能不全、感覚神経障害、及び/又はTh2型反応の機能障害等が考えられているが、その詳細な機序は未解明である。
【0033】
「老人性皮膚掻痒」とは、老人性皮膚掻痒症(ドライスキン)による掻痒を意味し、加齢に伴う皮膚の乾燥により生じる掻痒をいう。慢性突発性掻痒及び慢性突発性掻痒症は、背景に炎症が存在しない皮膚掻痒症であり、抗炎症剤が奏効しないため、有効な治療法が限られているのが現状である。
【0034】
1-3.構成
本発明の掻痒治療剤は、必須の構成成分としてIL-27、及び/又はIL-27受容体アゴニストを有効成分として包含する。
【0035】
1-3-1.構成成分
以下、各構成成分について具体的に説明をする。
(1)IL-27
本発明の掻痒治療剤が有効成分としてIL-27を含む場合、IL-27を構成するp28タンパク質及びEBI3タンパク質は、任意の生物種に由来する野生型又は変異型のp28タンパク質及びEBI3タンパク質である。本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27を構成するp28タンパク質及びEBI3タンパク質の由来生物種は、限定しないが、例えばヒト、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウなど)、競走馬、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギなど)、実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル、マーモセットなど)などが挙げられる。例えば、IL-27を構成するp28タンパク質は、配列番号1で示すアミノ酸配列を有するヒト由来のp28タンパク質に由来する野生型又は変異型のp28タンパク質、配列番号5で示すアミノ酸配列を有するマウス由来のp28タンパク質に由来する野生型又は変異型のp28タンパク質であってもよい。また、IL-27を構成するEBI3タンパク質は、配列番号2で示すアミノ酸配列を有するヒト由来のEBI3タンパク質に由来する野生型又は変異型のEBI3タンパク質、配列番号6で示すアミノ酸配列を有するマウス由来のEBI3タンパク質に由来する野生型又は変異型のEBI3タンパク質であってもよい。また、IL-27を構成するp28タンパク質及びEBI3タンパク質が由来する生物種は、同一の生物種であってもよいし、異なる生物種であってもよい。好ましくは、IL-27を構成するp28タンパク質及びEBI3タンパク質は、治療対象の被験体と同一の種に由来する。より好ましくは、IL-27を構成するp28タンパク質及びEBI3タンパク質が由来する生物種は、ヒトである。好ましくは、IL-27は野生型IL-27の活性を有する。「野生型IL-27の活性を有する」とは、野生型IL-27の活性と同等以上の活性を有することをいう。具体的には、掻痒症患者又は掻痒症モデル動物に投与した場合に野生型IL-27と同等以上の掻痒抑制効果を有することをいう。
【0036】
一実施形態では、IL-27を構成するp28タンパク質は、
a) 配列番号1で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型p28タンパク質、
b) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する変異型p28タンパク質、又は
c) 配列番号1で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型p28タンパク質
から選択されるいずれかのポリペプチドであり、さらにIL-27を構成するEBI3タンパク質は、
d) 配列番号2で示すアミノ酸配列を有するヒト野生型EBI3タンパク質、
e) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有する変異型EBI3タンパク質、又は
f) 配列番号2で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換された変異型EBI3タンパク質
から選択されるいずれかのポリペプチドである。好ましくは、IL-27はヒト野生型IL-27の活性を有する。「ヒト野生型IL-27の活性を有する」とは、ヒト野生型IL-27の活性と同等以上の活性を有することをいう。具体的には、掻痒症患者又は掻痒症モデル動物に投与した場合にヒト野生型IL-27と同等以上の掻痒抑制効果を有することをいう。
【0037】
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~24個、2~22個、2~20個、2~18個、2~16個、2~14個、2~12個、2~10個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また、本明細書において「アミノ酸同一性」とは、比較する2つのアミノ酸配列の全アミノ酸残基数における一致したアミノ酸残基数の割合(%)をいう。具体的には、2つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じ、一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このとき、1ギャップは、1アミノ酸残基として全アミノ酸残基数にカウントする。アミノ酸配列の整列化は、例えば、Blast、FASTA、ClustalWなどの既知プログラムを用いて行なうことができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。比較する2つのアミノ酸配列間で全アミノ酸残基数が異なる場合には、長い方を全アミノ酸残基数とする。比較する2つのアミノ酸配列においてアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの同一アミノ酸残基数を全アミノ酸残基数で除して算出される。
【0038】
本明細書において「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性などの性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸群(Phe, Tyr, Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。
【0039】
(2)IL-27受容体アゴニスト
本発明の掻痒治療剤が有効成分としてIL-27受容体アゴニストを含む場合、IL-27受容体アゴニストは、IL-27受容体を活性化して完全又は部分的に受容体を介する応答を誘導し、掻痒抑制効果を有する物質であれば、特に限定しない。本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27受容体アゴニストは、内因性物質、外来(外因性)物質のいずれでもよいが、上記(1)のIL-27を含まないものとする。IL-27受容体アゴニストは、いかなる化合物であってもよく、限定しないが、例えば、核酸(核酸アプタマーを含む)、タンパク質(抗体及び抗原結合性断片を含む)、若しくは多糖などの高分子化合物、或いはヌクレオシド、ヌクレオチド、アミノ酸、ペプチド(ペプチドアプタマーを含む)、糖、脂質、ビタミン、若しくはホルモンなどの低分子化合物であってもよい。
【0040】
一実施形態では、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27受容体アゴニストの具体的な例として、特表2009-543579に記載のように、単離又は組換え可溶性WSX-1/p28ポリペプチド複合体、単離又は組換え可溶性WSX-1/EBI3ポリペプチド複合体、単離又は組換え可溶性WSX-1/IL-27複合体、単離又は組換え可溶性gp130/p28ポリペプチド複合体、単離又は組換え可溶性gp130/EBI3ポリペプチド複合体、単離又は組換え可溶性gp130/IL-27複合体、又はその変異体が挙げられる。ここで、p28タンパク質とEBI3タンパク質は別々のポリペプチドとして分泌され、受容体であるWSX-1タンパク質とgp130タンパク質と会合することで安定化し、受容体シグナルを活性化すると考えられている。IL-27はIL-6スーパーファミリーに属するサイトカインであることから、IL-6とIL-6受容体(IL-6Rα/gp130)の相互作用の結晶構造に基づいて以下の予想がなされている。すなわち、IL-27とIL-27複合体中の各コンポーネント間の結合部位は、p28タンパク質とEBI3タンパク質との結合(サイト1)、p28/EBI3複合体(IL-27)とWSX-1タンパク質との結合又はgp130タンパク質との結合(サイト2)、p28タンパク質とgp130タンパク質との結合(サイト3)によって形成されると考えられる。したがって、これらの結合により形成され得るIL-27コンポーネントとIL-27受容体コンポーネントとの可溶性複合体は、IL-27と同様に、最終的にp28/EBI3/WSX-1/gp130からなる複合体の形成を促すことで、IL-27受容体のアゴニストとして働く可能性がある(Boulanger M. J. et al., Science, 2003, 27, 300(5628), 2101-4; Vignali D. A. and Kuchroo V. K., Nat Immunol, 2012, 13(8), 722-8)。
【0041】
別の実施形態では、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27受容体アゴニストは、IL-27ハイパーカインであってもよい。本明細書において「IL-27ハイパーカイン」とは、p28タンパク質とEBI3タンパク質の融合タンパク質をいう。より具体的には、p28タンパク質のアミノ酸配列とEBI3タンパク質のアミノ酸配列の両方を含むアミノ酸配列を有する、融合タンパク質を意味する。該融合タンパク質において、p28タンパク質部分とEBI3タンパク質部分とは、1つの連続しているポリペプチド鎖として存在するが、いずれの順序で存在していてもよい。また、p28タンパク質部分とEBI3タンパク質部分の間にリンカー配列が含まれていてもよい。好ましくは、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27ハイパーカインでは、IL-27ハイパーカイン中のp28タンパク質部分のアミノ酸配列は、配列番号1で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するか、又は配列番号1で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されており、IL-27ハイパーカイン中のEBI3タンパク質部分のアミノ酸配列は、配列番号2で示すアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上の同一性を有するか、又は配列番号2で示すアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されている。より好ましくは、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27ハイパーカインでは、IL-27ハイパーカイン中のp28タンパク質部分のアミノ酸配列は、配列番号1で示すアミノ酸配列であり、IL-27ハイパーカイン中のEBI3タンパク質部分のアミノ酸配列は、配列番号2で示すアミノ酸配列である。好ましくは、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27ハイパーカインはヒト野生型IL-27の活性を有する。
【0042】
さらに別の実施形態では、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27受容体アゴニストは、IL-27受容体のアゴニスト抗体、又はその抗原結合性断片であってもよい。本明細書において、「アゴニスト抗体」とは、受容体を活性化して完全又は部分的に受容体を介する応答を誘導することができる抗体をいう。本明細書で使用される「抗体」という用語は、特異的な抗原に結合するあらゆる免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、又は二重特異性(2価)抗体を含む。本明細書で使用される「抗原結合性断片」という用語は、1個以上の相補性決定領域(CDR)を含む抗体の一部から形成される抗体断片、又は抗原に結合するが完全な天然の抗体構造を含まない他のあらゆる抗体断片を指す。抗原結合性断片の例は、以下に限定されることはないが、ディアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvフラグメント、ジスルフィド結合により安定化したFvフラグメント(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド結合により安定化したディアボディ(dsディアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、二量体scFv(2価ディアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化シングルドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、及び2価ドメイン抗体を含む。
【0043】
一実施形態では、本発明の掻痒治療剤に包含されるIL-27受容体アゴニストは、IL-27受容体に結合し、アゴニストとして機能し得るアプタマーであってもよい。本明細書において「アプタマー」とは、特定の分子と特異的に結合する核酸分子又はペプチドをいう。本発明の掻痒治療剤に包含されるアプタマーはDNAアプタマー、RNAアプタマー、又はペプチドアプタマーのいずれであってもよい。
【0044】
1-3-2.剤形
本発明の掻痒治療剤の剤形は、有効成分であるIL-27及び/又はIL-27受容体アゴニストを不活化させないか、又はさせにくく、かつ投与後に生体内でその薬理効果を十分に発揮し得る剤形であれば特に限定しない。
【0045】
剤形は、その形態により液体剤形又は固体剤形(ゲルのような半固体剤形を含む)に分類できるが、本発明の掻痒治療剤は、そのいずれであってもよい。また剤形は投与方法により経口剤形と非経口剤形とに大別できるが、これに関してもいずれであってもよい。
【0046】
具体的な剤形としては、経口剤形であれば、例えば、懸濁剤、乳剤、及びシロップ剤のような液体剤形、散剤(粉剤、粉末剤、飴粉剤を含む)、顆粒剤、錠剤、及びカプセル剤などの固体剤形が挙げられる。また、非経口剤形であれば、例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、及び点鼻剤などの液体剤形、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、及びシップ剤などの固体剤形が挙げられる。好ましい剤形は、非経口剤形であり、より好ましくは、液体剤形の注射剤である。
【0047】
1-3-3.投与方法
本発明の掻痒治療剤を投与する方法は、掻痒症の治療のために、生体に有効量投与することができる方法であれば、当該分野で公知のあらゆる方法を適用することができる。
【0048】
本発明の掻痒治療剤、痒み(掻痒)を伴う任意の疾患を対象とする。本発明の掻痒治療剤の対象となる掻痒は、ヒスタミン依存性掻痒及びヒスタミン非依存性掻痒のいずれであってもよい。例えば、アトピー性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、虫刺症、真菌症(白癬、皮膚カンジダ症など)、乾癬、乾皮症、慢性突発性掻痒、老人性皮膚掻痒症、肥厚性瘢痕、若しくは薬疹、又は全身性の皮膚掻痒症に伴う掻痒などのいずれであってもよい。
【0049】
本明細書において「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、本発明では掻痒治療剤が掻痒を抑制する上で必要な量であって、かつそれを適用する生体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、投与経路、及び投与回数などの条件によって変化し得る。ここで「被験体」とは、本態様の掻痒治療剤又は第2態様に記載の掻痒治療用組成物の適用対象となる生体をいう。例えば、ヒト、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウなど)、競走馬、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギなど)、実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル、マーモセットなど)などが該当する。好ましくはヒトである(この場合、特に「被験者」という)。また、「被験体の情報」とは、本態様の掻痒治療剤又は第2態様に記載の掻痒治療用組成物を適用する生体の様々な個体情報であって、例えば、被験者の場合であれば、全身の健康状態、疾患・病害に罹患している場合にはその進行度や重症度、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性などを含む。有効量、及びそれに基づいて算出される投与量は、個々の被験体の情報などに応じて医師又は獣医師の判断によって決定される。掻痒抑制の十分な効果を得る上で、本発明の掻痒治療剤を大量投与する必要がある場合、被験者に対する負担軽減のために、数回に分割して投与することもできる。
【0050】
本発明の掻痒治療剤の投与方法は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。全身投与の例としては、静脈注射などの血管内注射や経口投与などが挙げられる。また局所投与の例としては、皮下注射などの局所注射、皮膚上投与、経皮投与などが挙げられる。経口投与の場合には、有効成分を分解酵素又は消化酵素による分解から保護するために適当なDDS(薬剤送達システム)を用いるなど、適切な処置を施すことが好ましい。また、局所注射の場合、掻痒を有する皮膚に本発明の掻痒治療剤を投与することが好ましい。掻痒を有する患部に本発明の掻痒治療剤を直接的に送達できる皮下注射による皮下投与が好ましい。
【0051】
具体的な投与量の一例として、例えば、アトピー性皮膚炎のヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりの掻痒治療剤の有効量は、例えば1μg~1g、10μg~100mg、100μg~10mg、又は1mg~10mgの範囲である。本発明の掻痒治療剤を被験者に投与する場合、有効成分である本発明の掻痒治療剤の有効投与量は、一回につき体重1kgあたり、例えば1μg~100mg、1μg~10mg、又は10μg~1mgの範囲で選ばれる。あるいは、被験者あたり、例えば1μg~1g/body、10μg~100mg/body、100μg~10mg/body、又は1mg~10mg/bodyの投与量を選ぶことができる。ただし、これらの投与量に制限されるものではない。
【0052】
本発明の掻痒治療剤の投与時期は、その投与により掻痒を抑制し得る限り、特に限定されるものではなく、例えば、予防的投与、治療的投与、治療後の再発予防的投与が可能である。
【0053】
1-4.効果
本発明の掻痒治療剤を掻痒症を有する被験体に投与することによって、ヒスタミン依存性掻痒及びヒスタミン非依存性掻痒のいずれに対しても掻痒抑制効果を奏する。特に、抗ヒスタミン剤はアトピー性皮膚炎などのヒスタミン非依存性掻痒に対して奏効しないのに対して、本発明の掻痒治療剤は、アトピー性皮膚炎などのヒスタミン非依存性掻痒に対しても掻痒抑制効果を奏する。
【0054】
本発明の掻痒治療剤は、ヒスタミン依存性、非依存性の掻痒の両方に効果を奏することから、これらの両経路に共通のシグナルを遮断していると考えられる。
【0055】
本発明の掻痒治療剤は、炎症の抑制とは独立に、末梢の感覚神経の働きを直接的に制御すると考えられる。したがって、本発明の掻痒治療剤は、掻痒を複合的に引き起こしている様々な起痒因子を一括して遮断することができる。それ故、本発明の掻痒治療剤は、慢性突発性掻痒や老人性皮膚掻痒などの炎症を背景としない皮膚掻痒症にも奏効すると考えられる。
【0056】
本発明の掻痒治療剤によって、上記の掻痒抑制作用と、既に報告されているTh2サイトカインの産生抑制を介した抗炎症作用との間の相乗効果がもたらされる。
【0057】
また、本発明の掻痒治療剤を構成するIL-27は、生体が元々発現するサイトカインであるため、ステロイド剤や免疫抑制薬に見られる重篤な有害作用を引き起こす可能性が少なく、副作用が少ないという利点を有する。
【0058】
本発明の掻痒治療剤は掻痒症治療のために使用することができる。また、公知の掻痒治療法、例えば紫外線療法と組み合わせて、本発明の掻痒治療剤を掻痒症治療のために使用することもできる。
【0059】
2.掻痒治療用組成物
2-1.概要
本発明の第2の態様は、掻痒治療用組成物である。
本態様の掻痒治療用組成物は、第1態様に記載の掻痒治療剤、薬学的に許容可能な担体、さらに選択成分として他の有効成分を包含して成る。本態様の掻痒治療用組成物は、ヒスタミン依存性及び非依存性掻痒に対して掻痒抑制効果を有する。
【0060】
2-2.構成
本態様の掻痒治療用組成物は、第1態様に記載の掻痒治療剤及び薬学的に許容可能な担体、並びに選択成分として他の有効成分を包含して成る。
以下、第1態様に記載の掻痒治療剤以外の各構成成分について具体的に説明をする。
【0061】
(1)他の有効成分
本発明の掻痒治療用組成物に含まれる「他の有効成分」は、掻痒抑制効果を有する成分であれば、限定しない。本発明の掻痒治療用組成物に含まれる「他の有効成分」は、特に、炎症抑制によらずに直接的に掻痒を抑制する成分、又は炎症抑制を通じて間接的に掻痒を抑制する成分のいずれであってもよい。
【0062】
本発明の掻痒治療用組成物に含まれる「他の有効成分」として具体的な好ましい成分は、以下に述べるように、本発明の掻痒治療用組成物が対象とする掻痒症の種類によって異なる。
【0063】
本発明の掻痒治療用組成物が対象とする掻痒がヒスタミン依存性掻痒である場合、本発明の掻痒治療用組成物は、第1態様に記載の掻痒治療剤に加えて、抗ヒスタミン剤を含んでもよい。本態様の掻痒治療用組成物に使用することができる抗ヒスタミン剤は、H1受容体拮抗薬(H1ブロッカー)が好ましい。H1受容体拮抗薬は、限定しないが、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、メピラミン、トリプロリジン、メキタジン、テルフェナジン、ジメンヒドリナート、プロメタジン、又はこれらの塩などを使用することができる。
【0064】
本態様の掻痒治療用組成物が対象とする掻痒がヒスタミン非依存性掻痒である場合、第1態様に記載の掻痒治療剤に加えて、ステロイド剤、シクロスポリン、タクロリムス、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体、抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体、及びヒト型抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体からなる群から選択される1以上を含んでもよい。
【0065】
本発明のヒスタミン非依存性掻痒治療用組成物に包含されるステロイド剤は、限定しない。例えば、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ジフロラゾン酢酸エステル、モメタゾンフランカルボン酸エステル、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、ジフルプレドナート、フルオシノニド、アムシノニド、コルチゾン、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、デプロドンプロピオン酸エステル、プロピオン酸デキサメタゾン、デキサメタゾン吉草酸エステル、ハルシノニド、ベタメタゾン吉草酸エステル、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、フルオシノロンアセトニド、ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、アルクロメタゾンプロピオン酸エステル、クロベタゾン酪酸エステル、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、吉草酸ジフルコルトロン、パラメタゾン、フルオシノニド若しくはフルオシノロンアセニド、又はこれらの塩からなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0066】
本発明のヒスタミン非依存性掻痒治療用組成物に包含されるヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体は、限定しないが、例えばデュピルマブを使用することができる。
【0067】
本発明のヒスタミン非依存性掻痒治療用組成物に包含される抗IL-31受容体ヒト化モノクローナル抗体は、限定しないが、例えばネモリツマブを使用することができる。
【0068】
本発明のヒスタミン非依存性掻痒治療用組成物に包含されるヒト型抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体は、限定しないが、例えばコセンティクスを使用することができる。
【0069】
(2)薬学的に許容可能な担体
「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用し得る溶媒及び/又は添加剤であって、生体に対して有害性がほとんどないか又は全くないものをいう。
【0070】
薬学的に許容可能な溶媒には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などが挙げられる。これらは、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0071】
また、薬学的に許容可能な添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤などが挙げられる。
【0072】
賦形剤としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中又は高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0073】
結合剤としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0074】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0075】
充填剤としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0076】
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0077】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0078】
上記の添加剤の他、必要に応じて矯味矯臭剤、溶解補助剤(可溶化剤)、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤(例えば、第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム)、増量剤、皮膚の乾燥を和らげる保湿剤(例えば、ワセリン、グリセリン、澱粉)、吸着剤(例えば、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸)、崩壊抑制剤(例えば、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油)、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、緩衝剤などを含むこともできる。
【0079】
本発明の掻痒治療用組成物の剤形は、「1.掻痒治療剤」の「1-3-2.剤形」に記載の剤形に準じる。それ故、ここではその具体的な説明は省略する。
【0080】
また、本発明の掻痒治療用組成物の投与方法は、「1.掻痒治療剤」の「1-3-3.投与方法」に記載の方法に準じる。それ故、ここではその具体的な説明は省略する。
【0081】
2-3.効果
本態様の掻痒治療用組成物は、第1態様に記載の掻痒治療剤にさらなる掻痒抑制効果を有する成分を加えることによって、掻痒抑制効果が増強されている。
【0082】
本発明の掻痒治療用組成物は掻痒症の治療のために使用することができる。また、公知の掻痒治療法、例えば紫外線療法と組み合わせて、本発明の掻痒治療用組成物を掻痒症治療のために使用することもできる。
【実施例】
【0083】
<実施例1:ヒスタミン誘発急性掻痒試験>
(目的)
ヒスタミン依存性掻痒の動物モデルを用いて、擦過行動を指標としてIL-27の鎮痒効果を評価する。
【0084】
(方法)
マウスの頬皮下に起痒物質であるヒスタミンを皮下接種することによって、マウスにおいて掻痒を惹起した。マウスはSPFで飼育された9週齢のICRを使用し、ヒスタミンを皮下接種する部位をバリカンと剃毛クリームを用いて事前に剃毛した。ヒスタミンは、PBSに溶解した50mMのヒスタミン二塩酸塩(Sigma-ALDRICH、H7250)を2μL使用した。
【0085】
IL-27投与群(n=7個体)では、PBSに溶解した0.1 mg/mlのリコンビナントIL-27(rIL-27、配列番号5及び配列番号6)(BioLegend, Cat #577406, Recombinant Mouse IL-27 (carrier-free))をヒスタミンと同時に18 μL接種した。コントロール群(n=7個体)では、PBSをヒスタミンと同時に接種した。
【0086】
ヒスタミンにより惹起された掻痒を評価するために、ヒスタミン接種前の2時間、及びヒスタミン接種後の2時間における、マウスの擦過行動の回数を計数した。マウスの擦過行動は、ノベルテック社の自動擦過行動測定装置(スクラバリアルシステム)を用いて測定した。当該装置は、近赤外線LEDライトパネル及び画像処理組込型高速カメラ(画像取得速度240フレーム/秒)を用いてマウスの行動を記録し、画像処理により擦過行動を自動的に検出することができる。150フレームにわたって連続擦過する行動を1回の擦過行動として定義した。
【0087】
(結果)
IL-27投与群及びコントロール群における、ヒスタミン接種前1時間に対する接種後1時間の擦過行動回数の変化率を
図2に示す。コントロール群(n=7個体)では、ヒスタミン投与後に擦過行動回数が約300%に増加した(
図2)。一方、IL-27投与群(n=7個体)では、ヒスタミン接種後で擦過行動回数は増加せず、ヒスタミン投与による擦過行動が有意に抑制された(
図2)。この結果から、IL-27がヒスタミン依存性掻痒に対して掻痒抑制効果を有することが示された。
【0088】
<実施例2:アトピー性皮膚炎モデルによる慢性掻痒試験>
(目的)
ハプテン(感作性化合物)の皮膚反復塗布によって誘導されるマウスのアトピー性皮膚炎モデルにおいて、擦過行動を指標としてIL-27の鎮痒効果を評価する。
【0089】
(方法)
5匹の剃毛したマウスの腹部にハプテンとして3%オキサゾロンをピペットマンを使用して直接25μl塗布することで感作を行った。感作の一週間後から、剃毛したマウスの両頬に0.5%オキサゾロン(Sigma-ALDRICH、E0753)を3日毎に計8回反復塗布(20μL/片頬)することで、アトピー性皮膚炎様の炎症による慢性掻痒症を生じさせた。最後の塗布から24時間後にPBSに溶解した0.1 mg/mlのrIL-27をマウスの頬に20 μL皮下接種し、投与前後における擦過行動を記録した。
【0090】
使用するマウスの上記以外の条件や、擦過行動の計数方法は、実施例1に記載した方法に準じた。
【0091】
(結果)
rIL-27投与前後の各1時間における、5匹の個体別の継時的擦過行動回数を
図3に示す。rIL-27投与により、擦過行動回数が有意に減少することが明らかとなった(
図3)。
【0092】
実施例1及び2の結果から、IL-27の投与は、ヒスタミン依存性掻痒、及びヒスタミン非依存性掻痒のいずれに対しても掻痒抑制効果を有することが示された。この結果から、IL-27は、ヒスタミン依存性及び非依存性の両経路に共通のシグナルを遮断していると考えられる。
【0093】
最近、本発明者らは、IL-27が、炎症状態によらず、皮膚の機械刺激や温熱刺激に対する痛みの感受性を制御することを報告している(Sasaguri, T. et al., Scientific Reports, 2018, 8, 11022.)。この知見と本発明の結果とを合わせて考えると、IL-27は炎症抑制効果とは独立に、末梢の感覚神経の働きを制御し得ると考えられる。したがって、IL-27の作用は、慢性突発性掻痒や老人性皮膚掻痒などの炎症を背景としない皮膚掻痒症に対しても奏効すると考えられる。
【配列表】