(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】がん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/70 20060101AFI20231110BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231110BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231110BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231110BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20231110BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61K31/70
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/5377
A61K31/444
(21)【出願番号】P 2021525310
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 CN2020109967
(87)【国際公開番号】W WO2022007135
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】202010641456.1
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521199719
【氏名又は名称】ニュウィッシュ・テクノロジー(ベイジン)カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】スン,チョンジー
(72)【発明者】
【氏名】チー,ハイロン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リーゴン
(72)【発明者】
【氏名】シィエ,フアンファン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,デファン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シャオ・イー
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シャオファン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-543712(JP,A)
【文献】特表2016-520066(JP,A)
【文献】特表2016-535591(JP,A)
【文献】国際公開第2019/232403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム/グルコース共輸送体1阻害剤及び血管内皮細胞増殖因子受容体阻害剤を含むことを特徴とする組成物であって、
前記ナトリウム/グルコース共輸送体1阻害剤はソタグリフロジであり、
前記血管内皮細胞増殖因子受容体阻害剤は、アパチニブ、アキシチニブ、ニンテダニブ、セジラニブ、パゾパニブ塩酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、ブリバニブ、カボザンチニブ、ブリバニブアラニナート、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ENMD-2076、ENMD-2076酒石酸塩、チボザニブ、ポナチニブ、フルキンチニブ、テラチニブ、タキシフォリン、パゾパニブ、カボザンチニブリンゴ酸塩、ビタミンE、レゴラフェニブ水合物、ニンテダニブエタンスルホン酸塩、レンバチニブメシル酸塩、セジラニブマレイン酸塩、4-[(1E)-2-[5-[(1R)-1-(3,5-ジクロロ-4-ピリジル)エトキシ]-1H-インダゾール-3-イル]ビニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール、スニチニブ、シトラバチニブ、アンロチニブ、ソラフェニブ、バンデタニブ及び血管内皮細胞増殖因子受容体を標的とするモノクローナル抗体類医薬品から選ばれる少なくとも1つであ
り、
前記ナトリウム/グルコース共輸送体1阻害剤の投与量は、1~100mg/kgである、前記組成物。
【請求項2】
前記ナトリウム/グルコース共輸送体1阻害剤の投与量は、10~50mg/kgである、ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記血管内皮細胞増殖因子受容体阻害剤の投与量は、10~500mg/kgである、ことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記血管内皮細胞増殖因子受容体阻害剤の投与量は、10~100mg/kgである、ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
がんの治療に使用するための、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記がんは、膀胱がん、血液がん、骨がん、脳がん、乳がん、中枢神経系がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、胆嚢がん、胃腸がん、外生殖器がん、泌尿生殖器がん、頭部がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、筋肉組織がん、頸部がん、口腔または鼻粘膜がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、脾臓がん、小腸がん、大腸がん、胃がん、精巣がん及び/又は甲状腺がんを含む、ことを特徴とする請求項
5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物を含む、ことを特徴とするがん治療に使用するための医薬品。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2020年07月06日に中国特許庁へ提出された、出願番号202010641456.1、発明の名称「がん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品」である中国特許出願に基づき優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、医薬技術分野に関し、特にがん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品に関する。
【背景技術】
【0003】
悪性腫瘍は、現在の社会で人間の生命を脅かす主要な疾患の1つである。腫瘍の成長及び浸潤は血管新生を誘導する必要がある。血管新生を誘導する最も重要な因子は血管内皮増殖因子(VEGF)であり、腫瘍細胞から分泌されるVEGFは、血管内皮細胞受容体(VEGFR)と結合して血管内皮細胞の増殖を促進し、分裂して新しい血管を形成し、腫瘍の成長を促進する(Leung DW、 Cachianes G、 Kuang WJ、 Goeddel DV、 Ferrara N. Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen. Science. 1989; 246:1306-1309. Tischer E、 et al. Vascular endothelial growth factor: a new member of the platelet-derived growth factor gene family. Biochem Biophys Res Commun. 1989; 165:1198-1206. )。従って、小分子でVEGFRチロシンキナーゼの活性を標的として腫瘍の血管新生を阻害し、腫瘍細胞を餓死させるのは、近年、腫瘍治療の新しいアプローチとなる。しかしながら、受容体チロシンキナーゼの小分子阻害剤でVEGFRを標的とするのは、満足のいく治療効果を生み出さなかった。各種のヒト悪性腫瘍の全体的な奏効率は低く、薬剤耐性の急速な進展などの問題を早急に解決する必要がある。
VEGFRファミリーには、主に、VEGFR1、VEGFR2及びVEGFR3の3つの主要メンバーがあり、中でも、VEGFR2は、主に血管内皮細胞の成長を仲介する。最近の研究では、VEGFR2は一部の腫瘍細胞でも高度に発現しているため、腫瘍細胞から分泌されるVEGFは血管新生を誘導するとともに、腫瘍細胞自体または隣接する腫瘍細胞や間葉系細胞に自己分泌または傍分泌で作用し、腫瘍幹細胞の形成及び免疫寛容微小環境の形成を促進することが示されている(Kowanetz M、 Ferrara N. Vascular endothelial growth factor signaling pathways: therapeutic perspective. Clin Cancer Res. 2006; 12:5018-5022. Waldner MJ、 et al. VEGF receptor signaling links inflammation and tumorigenesis in colitisassociated cancer. J Exp Med. 2010; 207:2855-2868. Hamerlik P、 et al. Autocrine VEGF-VEGFR2-neuropilin-1 signaling promotes glioma stem-like cell viability and tumor growth. J Exp Med. 2012; 209:507-520.)。しかし、VEGFRがリガンドと結合して腫瘍細胞の増殖、生存、およびがんの進展を促進する具体的なメカニズムはまだよくわかっていない。
【0004】
腫瘍細胞が正常細胞と異なる特徴の1つは、がん細胞が十分な酸素の条件下でも好気的解糖を優先的に使用して腫瘍細胞にエネルギーを提供することにある。好気的解糖は、酸化的リン酸化よりもエネルギー生産効率がはるかに低いため、腫瘍細胞がグルコースを輸送する能力を大幅に高める必要があり(Hanahan D et al、Hallmarks of cancer:the next generation、Cell、144(5):646-674(2011)、これは、原形質膜トランスポーターの過剰発現によって達成される(Ganapathy V、 et al 、Nutrient transporters in cancer:relevance to Warburg hypothesis and beyond、Pharmacology&Therapeutics 121(1):29-40(2009)。グルコース共輸送体1(SGLT1)は、細胞外ナトリウム濃度に依存してグルコースを細胞に輸送し、グルコース濃度に依存しないアクティブなグルコース輸送体である(Wright EM、 et al、 Biology of human sodium glucose transporters、 Physiological Reviews、91(2):733-794(2011))。研究によると、SGLT1は、複数のがんで高発現しているとともに、卵巣がん、口腔扁平上皮がん、結腸直腸がん、膵臓がん及び前立腺がんを含むがんの予後不良に関し、SGLT1はEGFRに結合して安定化し、腫瘍細胞の成長、増殖を促進する(Madunic J、 Vrhovac Madunic I、 Gajski G、 Popic J、 GarajVrhovac V. Apigenin: A dietary flavonoid with diverse anticancer properties. Cancer Lett 2018;413:11-22.Koepsell H. The Na+ -D-glucose cotransporters SGLT1 and SGLT2 are targets for the treatment of diabetes and cancer. Pharmacol Ther 2017;170:148-65. Yamazaki Y、 Harada S、 Tokuyama S. Sodium-glucose transporter as a novel therapeutic target in disease. Eur J of Pharmacol 2018;822:25-31)。
現在、当分野でVEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性のあるがんの治療を解決するのにSGLT1阻害剤とVEGFR2阻害剤を組み合わせて使用することは報道されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の状況に鑑み、本発明は、がん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品を提供する。本発明は、SGLT1とVEGFR2が相互作用し、腫瘍の発症及び進展を促進し、VEGFR2を標的とする阻害剤とSGLT1阻害剤との組成物が相乗的な抗腫瘍効果を有することを見出した。
本発明は、上記の発明目的を達成するために、以下の技術的態様を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ナトリウム/グルコース共輸送体1(SGLT1)阻害剤及び血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害剤を含む組成物を提供する。好ましくは、有効成分は、SGLT1阻害剤とVEGFR2阻害剤からなる。
好ましくは、SGLT1阻害剤は、ソタグリフロジ、ミザグリフロジン(Mizagliflozin)、KGA-2727、カナグリフロジン、ダパグリフロジンから選ばれる少なくとも1つであるが、これらに限定されない、当業者によって実行可能であると考えられるSGLT1阻害剤がいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
好ましくは、SGLT1阻害剤の投与量は、1~100mg/kgである。
好ましくは、SGLT1阻害剤の投与量は、10~50mg/kgである。
好ましくは、VEGFR2阻害剤は、アパチニブ、アキシチニブ(Axitinib)、ニンテダニブ(Nintedanib、 BIBF 1120)、セジラニブ(Cediranib、 AZD2171)、パゾパニブ塩酸塩(Pazopanib HCl、 GW786034 HCl)、スニチニブリンゴ酸塩(Sunitinib Malate)、ブリバニブ(Brivanib、 BMS-540215)、カボザンチニブ(Cabozantinib (XL184、 BMS-907351)、ブリバニブアラニナート(Brivanib Alaninate 、 BMS-582664)、レンバチニブ(Lenvatinib、 E7080)、レゴラフェニブ(Regorafenib、 BAY 73-4506)、ENMD-2076、チボザニブ(Tivozanib、 AV-951)、ポナチニブ(Ponatinib 、 AP24534)、ENMD-2076 酒石酸塩(ENMD-2076 L-(+)-Tartaric acid )、テラチニブ(Telatinib)、タキシフォリン(Taxifolin、 Dihydroquercetin)、パゾパニブ(Pazopanib)、カボザンチニブリンゴ酸塩(Cabozantinib malate、 XL184)、ビタミンE(Vitamin E)、レゴラフェニブ水合物(Regorafenib Monohydrate)、ニンテダニブエタンスルホン酸塩(Nintedanib Ethanesulfonate Salt)、レンバチニブメシル酸塩(lenvatinib Mesylate)、セジラニブマレイン酸塩(Cediranib Maleate)、フルキンチニブ(Fruquintinib)、4-[(1E)-2-[5-[(1R)-1-(3,5-ジクロロ-4-ピリジル)エトキシ]-1H-インダゾール-3-イル]ビニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(LY2874455)、スニチニブ(Sunitinib)、シトラバチニブ(Sitravatinib 、MGCD516)、アンロチニブ(Anlotinib (AL3818) dihydrochloride)、ソラフェニブ、バンデタニブ及びVEGFRを標的とするモノクローナル抗体などから選ばれる少なくとも1つである。
VEGFRを標的とするモノクローナル抗体は、例えば、ベバシズマブであるが、これらに限定されない。当業者によって実行可能であると考えられるVEGFRを標的とするモノクローナル抗体がいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0007】
好ましくは、VEGFR2阻害剤の投与量は、10~500mg/kgである。
好ましくは、VEGFR2阻害剤の投与量は、10~100mg/kgである。
本発明は、さらに、がん治療用医薬品の調製における該組成物の応用。
好ましくは、がんは、膀胱がん、血液がん、骨がん、脳がん、乳がん、中枢神経系がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、胆嚢がん、胃腸がん、外生殖器がん、泌尿生殖器がん、頭部がん、腎臓がん、喉頭がん、肝臓がん、肺がん、筋肉組織がん、頸部がん、口腔または鼻粘膜がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、脾臓がん、小腸がん、大腸がん、胃がん、精巣がん及び/又は甲状腺がんを含む。
本発明は、さらに、上記組成物を含むがん治療用医薬品を提供する。
【0008】
好ましくは、医薬品の投与経路は、経口投与であり、剤形は顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤、カプセル剤、経口液剤又はシロップ剤を含む。
好ましくは、医薬品の投与経路は、注射であり、剤形は注射液又は粉末注射剤を含む。
本発明は、がん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品を提供する。該組成物は、SGLT1阻害剤及びVEGFR2阻害剤を含む。本発明は、以下の技術的効果がある。
本発明は、SGLT1及びVEGFR2が相互作用し、腫瘍の発症及び進展を促進し、且つこのような相互作用が互いに機能を発揮させるのに重要な役割を果たし、VEGFR2のノックダウンが、腫瘍細胞の増殖および成長シグナルの伝達に影響を与えるだけではなく、SGLT1の機能にも影響を及ばすが、逆に、SGLT1のノックダウンは、低グルコース条件下でのがん細胞の生存に影響を与えるだけではなく、VEGFR2シグナル伝達経路及び細胞増殖にも影響を及ばすことを見出した。
本発明は、さらに、VEGFR2を標的とする阻害剤とSGLT1阻害剤との組成物が相乗的な抗腫瘍効果を有し、VEGFR2及びSGLT1を標的とする阻害剤の組成物をがん治療に使用できることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、VEGFR2及びSGLT1の高発現が、肝臓がん、結腸直腸がん患者の予後不良と関連していることを示し、ここで、1Aは、VEGFR2の高発現と肝臓がん患者の予後との関係を示し、1Bは、VEGFR2の高発現と結腸直腸がんの患者の予後との関係を示し、1Cは、SGLT1の高発現と肝臓がん患者の予後との関係を示し、1Dは、SGLT1の高発現と結腸直腸がん患者の予後との関係を示す。
【
図2】
図2は、VEGFR2とSGLT1は、肝臓がん及び結腸直腸がんで正の相関があることを示し、ここで、2Aは、肝臓がんでのVEGFR2とSGLT1の発現が正の相関を示し、2Bは、結腸直腸がんでのVEGFR2とSGLT1の発現が正の相関があることを示す。
【
図3】
図3は、肝臓がん細胞株においてVEGFR2及びSGLT1をノックアウトした損傷細胞の、ヌードマウスでの腫瘍形成能を示す。
【
図4】
図4は、SGLT1をノックダウンするとVEGFR2シグナル伝達経路を損傷し、本発明では、p-ERK1/2をマーカーとしてVEGFR2シグナル伝達経路の強度を示すことを示す。
【
図5】
図5は、VEGFR2及びSGLT1をノックダウンすると肝臓がん細胞株Hep3Bのアパチニブに対する感受性が高まることを示す。
【
図6】
図6は、VEGFR2及びSGLT1をノックダウンするとHep3B細胞のグルコース欠乏に対する感受性が高まることを示す。
【
図7】
図7は、VEGFR2とSGLT1との間のタンパク質間相互作用を示す。
【
図8】
図8は、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による肝臓がん細胞株HepG2への処置効果を示す。
【
図9a】
図9aは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による結腸直腸がん細胞株SW620への処置効果を示す。
【
図9b】
図9bは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による子宮頸がん細胞株HeLaへの処置効果を示す。
【
図9c】
図9cは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による卵巣がん細胞株SKOV3への処置効果を示す。
【
図9d】
図9dは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による胃がん細胞株NGC27への処置効果を示す。
【
図9e】
図9eは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による胆管がん細胞株RBEへの処置効果を示す。
【
図9f】
図9fは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤による食道がん細胞株KYSE30への処置効果を示す。
【
図10】
図10は、ヌードマウスの肝がんの異種移植腫瘍の治療におけるVEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤の有効性を示し、10Aは、投与終了後に解剖された各群腫瘍の拡大図であり、10Bは、投与終了後の各群腫瘍重量を示すグラフである。
【
図11a】
図11-1~
図11-6は、それぞれアキシチニブ(
図11-1)、ニンテダニブ(
図11-2)、セジラニブ(
図11-3)、パゾパニブ塩酸塩(
図11-4)、スニチニブリンゴ酸塩(
図11-5)、ブリバニブ(
図11-6)とSGLT1阻害剤であるソタグリフロジとの併用による腫瘍抑制効果を示す。
【
図11b】
図11-7~
図11-12は、それぞれカボザンチニブ(
図11-7)、ブリバニブアラニナート(
図11-8)、レンバチニブ(
図11-9)、レゴラフェニブ(
図11-10)、ENMD-2076(
図11-11)、チボザニブ(
図11-12)とSGLT1阻害剤であるソタグリフロジとの併用による腫瘍抑制効果を示す。
【
図11c】
図11-13~
図11-18は、それぞれポナチニブ(
図11-13)、ENMD-2076酒石酸塩(
図11-14)、テラチニブ(
図11-15)、タキシフォリン(
図11-16)、パゾパニブ(
図11-17)、カボザンチニブリンゴ酸塩(
図11-18)とSGLT1阻害剤であるソタグリフロジとの併用による腫瘍抑制効果を示す。
【
図11d】
図11-19~
図11-24は、それぞれビタミンE(
図11-19)、レゴラフェニブ水合物(
図11-20)、ニンテダニブエタンスルホン酸塩(
図11-21)、レンバチニブメシル酸塩(
図11-22)、セジラニブマレイン酸塩(
図11-23)、4-[(1E)-2-[5-[(1R)-1-(3,5-ジクロロ-4-ピリジル)エトキシ]-1H-インダゾール-3-イル]ビニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(
図11-24)とSGLT1阻害剤であるソタグリフロジとの併用による腫瘍抑制効果を示す。
【
図11e】
図11-25~
図11-30は、それぞれスニチニブ(
図11-25)、シトラバチニブ(
図11-26)、アンロチニブ(
図11-27)、ソラフェニブ(
図11-28)、バンデタニブ(
図11-29)、フルキンチニブ(11-30)とSGLT1阻害剤であるソタグリフロジとの併用による腫瘍抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、がん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品を開示している。当業者は、本明細書を参照し、プロセスパラメータを適切に改良して実現することができる。特に、全ての類似する置換及び改良は、当業者にとっては自明になり、これらは本発明に含まれることを指摘すべきである。本発明に係る方法及び応用は、好ましい実施形態により説明されているが、当業者は、本発明の内容、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に係る方法及び応用に改良又は適当な変更及び組み合わせを加え、本発明に係る技術を実現して適用することができる。
TCGAデータ分析によると、悪性腫瘍の予後不良は、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)及びナトリウム/グルコース共輸送体1(SGLT1)の過剰発現に関連していることが分かった。前記がん症は、肝臓がん、乳がん、結腸直腸がんを含む。本発明では、がん細胞でVEGFRとSGLT1が相互作用し、互いの機能に影響を与えることを見出した。
【0011】
以下の詳細な説明を通じて、以下の実施形態が本発明において決定されている。
1)肝臓がん及び乳がんにおけるVEGFR2、SGLT1、SGLT2の高発現は、がん患者の予後不良に影響を及ぼす。
2)VEGFR2シグナル伝達経路に対するSGLT1の影響。
3)肝臓がん細胞におけるVEGFR2チロシンキナーゼ阻害剤の感受性に対するSGLT1の阻害効果。
4)SGLT1の正常な機能に対するVEGFR2の影響。
5)VEGFR2とSGLT1の間の相互作用。
6)腫瘍細胞に対するVEGFR2及びSGLT1阻害剤の単剤及び組成物の作用効果。
7)ヌードマウス移植腫瘍に対するVEGFR2及びSGLT1阻害剤単剤及び組成物の作用効果。
本発明の試験結果は、以下の通りである。
(1)VEGFR2とSGLT1の高発現は、正の相関があるとともにがん患者の予後不良に関連する。
一実施形態において、肝臓がん、乳がん患者のVEGFR2及びSGLT1の高発現は、予後不良と正の相関があり、且つVEGFR2の高発現は、SGLT1の高発現とも正の相関がある。他の実施形態において、SGLT1をノックダウンしてVEGFR2シグナル伝達を破壊する場合には、VEGFR2チロシンキナーゼ阻害剤に対する対応する腫瘍細胞株の感受性が高まるが、更に他の実施形態において、VEGFR2をノックダウンすると、同様にSGLT1機能も損傷し、且つSGLT1とVEGFR2の間にも直接的な相互作用がある。これら全てのデータは、VEGFR2の発現及び血管内皮細胞は、血管新生を誘導して腫瘍の進展を促進し、腫瘍細胞自体でSGLT1との相互作用を通じて腫瘍細胞のエネルギー代謝及び増殖シグナルを調節できることを示す。従って、実施形態において、SGLT1は、VEGFR2の機能に関与するタンパク質であり、VEGFR2-SGLT1相互作用は、がん治療の新規の標的であり得る。
【0012】
研究によると、VEGFR2は、血管内皮細胞で高度に発現しているだけではなく、あるがん細胞でも高度に発現し、SGLT1は、前立腺がんで明確に高発現していることを示す(HuangJ、 et al. Prognostic significance and potential therapeutic target of VEGFR2 in hepatocellular carcinoma. J Clin Pathol. 2011; 64:343-348. Blessing A 、et al.Sodium/Glucose Co-transporter1 Expression Increases in Human Diseased Prostate、J.Cancer Sci.Ther.4(9):306-312(2012) )。本発明は、TCGAデータベースからVEGFR2及びSGLT1、SGLT2の発現量と肝臓がん及び結腸直腸がん患者の全生存期間に生存分析を行ったところ、VEGFR2及びSGLT1の高発現は、肝臓がん、結腸直腸がん患者の予後不良と正の相関があるが、SGLT2にはそのような相関関係はない。
図1A、1Bに示すように、例としてのみVEGFR2及びSGLT1の高発現がこれらの2つのがん患者の予後不良に関連していることが証明されており、両方の腫瘍細胞自体における発現と予後との関係を示している。これは、本発明に係る実施形態の組成物が肝臓がん及び結腸直腸がんのみに使用されるのに限定するものではない。例えば、他の実施形態において、組成物は子宮頸がん、卵巣がん、胃がん、食管がん、胆管がん細胞株に阻害効果を有意に有し、
図9b-9fに示すようになる。
更に他の実施形態において、本発明は、ピアソンのカイ二乗検定でTCGAデータベースから取得されるVEGFR2及びSGLT1、SGLT2の、肝臓がん及び乳がん腫瘍患者での発現量データに相関解析を行うことによりVEGFR2とSGLT1の発現の間に正の相関があるが、SGLT2の発現量との間に相関関係はなく、
図2A、2Bに示すようになる。これは、VEGFR2とSGLT1の機能に一定の相関関係がある可能性が高いことを示している。TCGAデータから示すVEGFR2及びSGLT1の肝臓がんに対する重要性を検証するために、本発明は、肝臓がん細胞株Hep3BにおいてそれぞれVEGFR2及びSGLT1をノックダウンしてヌードマウス移植実験を行ったところ、VEGFR2及びSGLT1をノックダウンした細胞株は、ヌードマウスへの移植による腫瘍形成能が有意に低減したことを示し、これらの2つの遺伝子が腫瘍の発症及び進展に重要な役割を果たすことが明らかになり、
図3に示すようになる。
【0013】
(2)VEGFR2とSGLT1は互いの機能に影響を与える。
本発明に記載のデータ解析から導き出された推論によれば、一実施形態において、本発明は、レンチウイルスを使用して細胞を感染させ、用shRNA技術を利用して肝臓がんHep3B細胞においてそれぞれVEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンし、互いの機能の相互影響を検証する。ERK1/2は、VEGFR2チロシンキナーゼ活性化後の下流分子であり、VEGFR2が活性化された後にERK1/2のリン酸化を引き起こす(Giatromanolaki A、 et al. Hypoxia and activated VEGF/receptor pathway in multiple myeloma. Anticancer Res. 2010; 30:2831-2836.)。一実施形態において、本発明は、VEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンした後のリン酸化ERK1/2の強度を評価し、SGLT1/2のノックダウンがVEGFR2シグナルに影響を与えるか否かを判断する。結果は、
図4に示すように、SGLT1のノックダウンはVEGFR2のノックダウンと一致し、どちらもERK1/2のリン酸化強度のダウンレギュレーションを誘導しているが、SGLT2のノックダウンはその影響がない。SGLT1をノックダウンすることによりVEGFR2シグナル伝達経路の破壊が生じる場合には、SGLT1をノックダウンした対応する細胞はVEGFR2をノックダウンした細胞と同様にVEGFR2阻害剤に対してより感受性が高く、本発明は、VEGFR2阻害剤であるApatinibのみを例として、対照細胞及びVEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンした各細胞株を96ウェルプレートに塗り広げ、異なる濃度のApatinibを加えて各群細胞を処置し、MTT法により各群細胞に対するApatinibのIC50値を測定する。結果は、
図5に示すように、SGLT1のノックダウンは、VEGFR2のノックダウンと一致し、ApatinibのIC50値を半分以上低減させるが、SGLT2のノックダウンにはそのような効果はない。SGLT1は、は、細胞が濃度勾配に逆らって外部環境からグルコースを吸収するためのエネルギーを提供することはよく知られている(Thorens B、 Mueckler M. Glucose transporters in the 21
st Century. Am J Physiol-Endoc M 2010;298:E141-5. doi:10.1152/ajpendo.00712.2009)。従って、SGLT1をノックダウンした腫瘍細胞は、低糖培養条件下でグルコース供給の不足により優先的に死滅する。本発明の一実施態様において低糖培地を使用してVEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンした肝臓がんHep3B細胞を培養し、細胞状態を光学顕微鏡下で一定の期間毎に観察した結果は、
図6に示し、VEGFR2のノックダウンは、SGLT1のノックダウンと一致しグルコース欠乏に対する細胞の耐性を低減させることができるが、SGLT2をノックダウンしてもそのような効果はない。上記により、本発明は、VEGFR2及びSGLT1の2つの分子の間に機能的相互作用があることを初回に発見している。
本発明は、肝臓がんHep3B細胞のみを例として各遺伝子をノックダウンしてそれらの相互影響を評価し、本発明で得られた結論はこのがんのタイプ及び細胞株に限定されないことを指摘すべきである。
【0014】
(3)VEGFR2とSGLT1には分子間相互作用がある。
本発明において初回に発見されたVEGFR2とSGLT1の間に機能的相互作用がある上で、本発明は、実施形態において、VEGFR2とSGLT1との間の分子間相互作用を共免疫沈降実験により特定する。Flagタグ付きSGLT1を発現するプラスミドで単独してトランスフェクションするか、又は無血清DMEM培地で指定されたGFPタグ付きVEGFR2ベクターと混合し、トランスフェクション試薬PEIを添加した後に共にHEK293T細胞をトランスフェクションする。トランスフェクション6時間後に10%血清培地に交換し、培地を交換してから24時間後、培地を捨て、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)10mlで洗浄し、細胞を吹いて1500rpmで遠心分離し、上清を捨てて得られた細胞ペレット沈澱にプロテアーゼ阻害剤混合物が追加されたRIPAバッファー(50mM Tris-HCl、pH 8.0、150mM 塩化ナトリウム、1.0% Igepal CA-630(NP-40)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム及び0.1%ラウリル硫酸ナトリウムを有する)を加え、シェーカーで4℃、30分間溶解した。その後、細胞溶解物を12000×rpmで10分間遠心分離した。上清にFlag抗体と結合したM2マイクロビーズを加え、4℃で一晩インキュベートした。次いで、サンプルを遠心分離し、RIPAバッファーで3回洗浄し、Laemmleバッファー(Biorad、CA)中で煮沸し、8% SDS PAGEゲルでウエスタンブロット解析を行う。IP=免疫沈降、IB=イムノブロット、及びInput=免疫沈降に使用されるHEK293全細胞溶解物中で指定された外来タンパク質の発現レベルである。結果は、
図7に示す。
【0015】
(4)SGLT1阻害剤によるSGLT1の阻害は、肝臓がん、結腸直腸がん細胞をVEGFR2阻害剤に対して感受性にしている。
図8、
図9は、例としてのみ肝臓がんHepG2細胞株、結腸直腸がん細胞株SW620及び他の5つの通常のがん細胞株でVEGFR2阻害剤であるアパチニブ、SGLT1阻害剤であるソタグリフロジ単剤及び組成物のIC50値を評価することを説明している。これらの結果に基づいて、一実施形態において、SGLT1及びVEGFR2機能の同時阻害は、がん細胞の増殖をより効果的に阻害することができる。他の実施形態において、ソタグリフロジを例としてのSGLT1阻害剤は、肝臓がん細胞株Hep3Bによるヌードマウスへの移植腫瘍をアパチニブの増殖阻害効果に対して顕著に感受性にしていることは、
図10に示す。実施形態において、患者にソタグリフロジなどのSGLT1阻害剤類化合物を静脈内、経口投与してがんを治療することができる。他の実施形態において、ソタグリフロジなどのSGLT1阻害剤類化合物をVEGFR2チロシンキナーゼ阻害剤とともに患者に投与してがんを治療することができる。
本発明で提供されるがん治療用組成物及びその応用、並びに医薬品に使用される試薬又は機器は、いずれも市販として購入されることができる。
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0016】
実施例1
1、細胞及び試薬
本発明で使用される肝臓がん細胞株Hep3B、HepG2、結腸直腸がん細胞株SW620、HCT116、SW480、LOVO、HT29、DLD1、子宮頸がんHeLa;卵巣がんSKOV3、胃がんNGC27、胆管がんRBE、食管がんKYSE30及びHEK293T細胞株は、いずれもアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に由来するとともに、5%CO2含有37℃のインキュベーターで培養し、前記細胞株の維持培地は、10%ウシ胎児血清(Gibico)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibico)を追加したDMEM又はRPMI 1640(Gibico)である。マウス抗Flagタグ抗体(F3165)、Flag抗体結合M2マイクロビーズは、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入され、マウス抗GFPタグ抗体、ウサギGAPDH内部コントロール抗体及びホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗ウサギおよびマウスの二次抗体は、博奥龍公司から購入された。Sotagliflozin、アパチニブ及びレンバチニブは、いずれもSelleckchem(Houston、 TX)から購入された。抗pERKの抗体(4370)は、Cell Signaling(Danvers、 MA)から購入された。MTTキット(カタログ番号 30-1010K)は、ATCCから購入された。
【0017】
2、プラスミドの構築
ヒト野生型VEGFRをPEGFP-N1ベクターにクローン化し、ヒト野生型SGLT1配列をPCDH-EF1-CMVベクターにクローン化した。次のSglt1-1 shRNA配列:5’- AGGAGAGCCTATGACCTATTT-3’、Sglt1-2 shRNA配列:5’-GCCTGATG CTATCAGTCATGC-3’、Sglt2-1 shRNA配列:5’-GCATATTTCCTGC TGGTCATT-3’、Sglt2-2 shRNA配列:5’-GGTCATCACGATGCCACAGTA-3’、Vegfr2-1 shRNA配列:5’-GATGAAAGTTACCAGTCTATT-3’、Vegfr2-2 shRNA配列:5’-GCTGACATGTACGGTCTATGC-3’配列を標的とするshRNAをpLVX-shRNA2-puroベクターに構築し、次いでレンチウイルスをパッケージングしてSGLT1、SGLT2、VEGFR2のノックダウン細胞株を構築するのに使用された。全てのベクターは、シーケンシングにより正しいプラスミドとして検証された。
【0018】
3、一過性のトランスフェクション及び共免疫沈降
Flagタグ付きSGLT1を発現するプラスミドで単独してトランスフェクションするか、又は無血清DMEM培地で指定されたGFPタグ付きVEGFR2ベクターと混合し、トランスフェクション試薬PEIを添加した後、共にHEK293T細胞をトランスフェクションする。トランスフェクション6時間後に10%血清培地に交換し、培地を交換してから24時間後、培地を捨て、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)10mlで洗浄し、細胞を吹いて1500rpmで遠心分離し、上清を捨てて得られた細胞ペレット沈澱にプロテアーゼ阻害剤混合物が追加されたRIPAバッファー(50mM Tris-HCl、pH 8.0、150mM 塩化ナトリウム、1.0% Igepal CA-630(NP-40)、0.5%デオキシコール酸ナトリウム及び0.1%ラウリル硫酸ナトリウムを有する)を加え、シェーカーで4℃、30分間溶解した。その後、細胞溶解物を12000×rpmで10分間遠心分離した。上清をFlag抗体と結合したM2マイクロビーズに加え、4℃で一晩インキュベートした。次いで、サンプルを遠心分離し、RIPAバッファーで3回洗浄し、Laemmleバッファー(Biorad、CA)中で煮沸し、8% SDS PAGEゲルでウエスタンブロット解析を行う。
【0019】
4、ウエスタンブロット解析
ウエスタンブロット(Western blot)解析は、細胞を適当な体積のRIPAバッファー(150mM NaCl、50mM Tris-HCl、pH 7.4、0.1% SDS、1%TritonX-100、1mM EDTA、1mM PMSF、1%デオキシコール酸ナトリウム、1mM NaF、1mM Na3VO4、脱イオン水中)で4℃または氷上で30分間以上溶解させた。12000×rpmで10分間遠心分離し、上清はBCAキット(Thermo)を使用してタンパク質濃度を測定した後、5×loading Bufferを加えて100℃で10分間煮沸した。短時間の遠心分離後、サンプルを10% SDS-PAGEによる電気泳動で分離し、PVDF膜にトランスファーし、次いで5%スキムミルクで1時間以上ブロッキングし、その後、4℃で一次抗体と最適濃度で一晩インキュベートした。膜を0.1% PBST(1×TBS、0.1%Tween-20)で毎回10分間3回洗浄し、その後、二次抗体と室温で1時間インキュベートした。化学発光を増強させることにより信号を可視化した。
【0020】
5、細胞増殖アッセイ
メーカーが提供するプロトコルによると、検出原理は、生細胞のミトコンドリア内のコハク酸デヒドロゲナーゼが外因性MTTを水不溶性の青紫色結晶ホルマザン(Formazan)に還元し、細胞に沈着させることができるが、死んだ細胞はその機能を持たない。ジメチルスルホキシド(DMSO)は、ホルマザンを細胞に溶解することができ、マイクロプレートリーダーを使用してその光吸収値を570nmの波長で測定し、生細胞の数を間接的に反映できる。96ウェルプレートでは3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにより細胞増殖を特定した。具体的には、細胞を消化してカウントし、細胞を培地200μLあたり5000個の細胞を含むシステムに再懸濁し、96ウェルプレートの各ウェルに播種した。翌日、培地を、異なる濃度のソタグリフロジ、アパチニブ、レンバチニブ及びそれらの組成物を含む培地と交換した。医薬品と48又は72時間インキュベートした後、MTT試薬20μLを各ウェルに追加し、2時間インキュベートした。培地を捨て、細胞内のホルマザンペレットをDMSO100μLに溶解させた。マイクロプレートリーダーにより570nmで吸光度を測定した。各群あたり4つのサンプルを使用した。
【0021】
6、ヌードマウス移植腫瘍への薬効評価
Hep3B細胞を10%血清DMEM培地で培養し、対数増殖期に達した後、消化してカウントし、本発明の前期条件下で研究すると、Hep3B細胞を5×106cell/匹でBalbcヌードマウス(維通利華から購入される)の脇の下に皮下播種した後、約21日で移植腫瘍を形成した。従って、本発明は、各ヌードマウスあたり5×106個の細胞の用量を採用し、腫瘍が約21日で平均体積100mm3に成長した後に群分け投与を開始した。投与は、溶剤対照群、アパチニブ50mg/kg経口投与群、ソタグリフロジ20mg/kg腹腔内注射投与群、アパチニブ50mg/kg経口投与しながらソタグリフロジ20mg/kg腹腔注射する併用投与群に分けられた。投与周期は、隔日であり、毎週火曜日、金曜日に腫瘍体積を測定し、数式V=a×b2/2に従って腫瘍体積を算出した(aは、腫瘍長径の測定値であり、bは、腫瘍短径の測定値である)。測定結果は、Graphpad prism 5によりグラフ化して統計解析した。
7、統計解析
t検定を使用してソタグリフロジ、アパチニブ、レンバチニブなどのSGLT1及びVEGFR2阻害剤の異なる濃度、異なる組み合わせ条件で処置された細胞増殖の違い及びヌードマウス移植腫瘍増殖の違いを評価した。0.05未満のP値は、統計学的に有意であると定義される。
【0022】
8、試験結果
図1は、1A、1Bは、TCGAデータベースから肝臓がん、結腸直腸がん患者のがん組織におけるVEGFR2の発現レベルと患者全生存期間の相関性を分析することにより、VEGFR2の高発現を示す患者の全生存期間はより短いであると結論付け、1C、1Dは、TCGAデータベースから肝臓がん、結腸直腸がん患者のがん組織におけるSGLT1の発現レベルと患者全生存期間の相関性を分析することにより、SGLT1高発現を示す患者の全生存期間はより短いであると結論付け、VEGFR2及びSGLT1の高発現は、これらの2つのがん患者の予後不良と関連することを証明し、腫瘍細胞自体の両方の発現と予後の関係を説明した。
図2は、2Aは、さらにピアソンのカイ二乗検定により分析し、TCGAデータベースから肝臓がん患者のがん組織におけるVEGFR2の発現レベルとSGLT1の発現レベルが正の相関があることを示し、2Bは、さらにピアソンのカイ二乗検定により分析し、TCGAデータベースから結腸直腸がん患者のがん組織におけるVEGFR2の発現レベルとSGLT1の発現レベルが正の相関があることを示した。VEGFR2及びSGLT1の両方の機能には一定の相関関係がある可能性が高いことを示した。
図3は、肝臓がん細胞株におけるVEGFR2及びSGLT1をノックアウトした損傷細胞の、ヌードマウスでの腫瘍形成能を示し、VEGFR2及びSGLT1の2つの遺伝子が腫瘍の発症及び進展に重要な役割を果たすことが明らかになる。
図4は、shRNA技術を使用して肝臓がん細胞株Hep3BでSGLT1、SGLT2及びVEGFR2をノックダウンした後、ウェスタンブロッティング法によりVEGFR2の下流シグナル伝達経路ERK1/2のリン酸化強度の変化を検出し、SGLT1のノックダウンはVEGFR2のノックダウンと一致し、ERK1/2のリン酸化強度を低減させるが、SGLT2のノックダウンはそのような効果がない。SGLT1のノックダウンは、VEGFR2のノックダウンと一致しERK1/2リン酸化強度ダウンレギュレーションを誘導するが、SGLT2のノックダウンはそのような効果がないことを示した。
図5は、shRNA技術を使用して肝臓がん細胞株Hep3BでSGLT1、SGLT2及びVEGFR2をノックダウンした後に、それぞれVEGFR2阻害剤Apatinibで対照群細胞及びVEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンした細胞を処置し、各細胞株に対する異なる濃度のapatinibの増殖阻害を検出し、半数阻害濃度であるIC50値を計算し、SGLT1のノックダウンは、VEGFR2のノックダウンと一致しapatinibのIC50値を低減させることができるが、SGLT2のノックダウンはそのような効果がない。
図6は、shRNA技術を使用して肝臓がん細胞株Hep3BでSGLT1、SGLT2及びVEGFR2をノックダウンした後、対照群の細胞及びVEGFR2、SGLT1及びSGLT2をノックダウンした細胞について、それぞれ低糖DMEM培地でグルコース欠乏に対する各細胞株の耐性を検出し、VEGFR2のノックダウンは、SGLT1のノックダウンと一致しグルコース欠乏に対する細胞の耐性を低減させることができるが、SGLT2のノックダウンはそのような効果がない。
図7は、VEGFR2及びSGLT1にはタンパク質相互作用があり、FLAGタグ付きSGLT1及びタグなしのVEGFR2ベクターを共免疫沈降法で293T細胞に同時トランスフェクションし、24時間後に細胞を溶解させ、FLAGビーズを加えて5時間結合させ、VEGFR2抗体及びFlag抗体を使用してウェスタンブロッティングを行った。結果は、VEGFR2及びSGLT1にはタンパク質相互作用があることを示した。
図8は、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤を使用して肝臓がん細胞株HepG2を処置し、MTT法によりそれぞれVEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤の単剤及び両方の異なる用量の組成物の併用投与のVEGFR2阻害剤のIC50値を測定した。組成物が肝がん細胞株に対して有意な阻害効果を有することを証明した。
図9は、
図9aは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で結腸直腸がん細胞株SW620を処置した効果を示し、
図9bは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で子宮頸がん細胞株HeLaを処置した効果を示し、
図9cは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で卵巣がん細胞株SKOV3を処置した効果を示し、
図9dは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で胃がん細胞株NGC27を処置した効果を示し、
図9eは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で胆管がん細胞株RBEを処置した効果を示し、
図9fは、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤で食道がん細胞株KYSE30を処置した効果を示し、組成物が結腸直腸がん細胞株、子宮頸がん細胞株、卵巣がん細胞株、胃がん細胞株、胆管がん細胞株、食道がん細胞株に対して有意な阻害効果を有することを証明した。
図10は、VEGFR2阻害剤及びSGLT1阻害剤を使用して肝臓がん細胞株Hep3Bによるヌードマウス移植腫瘍を処置し、VEGFR2阻害剤(50mg/kg)、SGLT1阻害剤(20mg/kg)単剤及び両方の組成物の併用投与による腫瘍増殖への阻害効果を示した。組成物が腫瘍増殖に対して有意な阻害効果を有することを証明した。
【0023】
実施例2
図8、
図9、
図10は、アパチニブを代表的なVEGFR2阻害剤としてSGLT1阻害剤と併用して、in vivoおよびin vitroの治療効果があり、本発明では、肝臓がん細胞株を使用して現在、臨床的および臨床試験のすべてのVEGFR2阻害剤とSGLT1阻害剤との併用投与の效果を検証した。結果は、アキシチニブ(Axitinib)(
図11-1)、ニンテダニブ(Nintedanib、 BIBF 1120) (
図11-2)、セジラニブ(Cediranib、 AZD2171) (
図11-3)、パゾパニブ塩酸塩(Pazopanib HCl、 GW786034 HCl) (
図11-4)、スニチニブリンゴ酸塩(Sunitinib Malate) (
図11-5)、ブリバニブ(Brivanib、 BMS-540215) (
図11-6)、カボザンチニブ(Cabozantinib (XL184、 BMS-907351) (
図11-7)、ブリバニブアラニナート(Brivanib Alaninate 、 BMS-582664) (
図11-8)、レンバチニブ(Lenvatinib、 E7080) (
図11-9)、レゴラフェニブ(Regorafenib、 BAY 73-4506) (
図11-10)、ENMD-2076(
図11-11)、チボザニブ(Tivozanib、 AV-951) (
図11-12)、ポナチニブ(Ponatinib 、 AP24534) (
図11-13)、ENMD-2076酒石酸塩(ENMD-2076 L-(+)-Tartaric acid ) (
図11-14)、テラチニブ(Telatinib) (
図11-15)、タキシフォリン(Taxifolin、 Dihydroquercetin) (
図11-16)、パゾパニブ(Pazopanib) (
図11-17)、カボザンチニブリンゴ酸塩(Cabozantinib malate、 XL184) (
図11-18)、ビタミンE(Vitamin E) (
図11-19)、レゴラフェニブ水合物(Regorafenib Monohydrate) (
図11-20)、ニンテダニブエタンスルホン酸塩(Nintedanib Ethanesulfonate Salt) (
図11-21)、レンバチニブメシル酸塩(lenvatinib Mesylate) (
図11-22)、セジラニブマレイン酸塩(Cediranib Maleate) (
図11-23)、4-[(1E)-2-[5-[(1R)-1-(3,5-ジクロロ-4-ピリジル)エトキシ]-1H-インダゾール-3-イル]ビニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(LY2874455) (
図11-24)、スニチニブ(Sunitinib) (
図11-25)、シトラバチニブ(Sitravatinib 、MGCD516) (
図11-26)、アンロチニブ(Anlotinib (AL3818) dihydrochloride) (
図11-27)、ソラフェニブ(
図11-28)、バンデタニブ(
図11-29)、フルキンチニブ(11-30)などの医薬品とSGLT1阻害剤との併用はいずれも単剤よりも優れた腫瘍阻害效果を有することを示した。
【0024】
結論
本発明は、SGLT1とVEGFR2が相互作用を有し、且つこの相互作用が互いの機能において重要な役割を果たし、VEGFR2のノックダウンは、腫瘍細胞増殖及び成長シグナルの伝達に影響を与えるだけではなく、SGLT1機能にも影響を及ぼし、逆に、SGLT1のノックダウンは、低糖状態下でのがん細胞の生存に影響を与えるだけではなく、VEGFR2シグナル伝達経路及び細胞増殖にも影響を及ぼす。従って、VEGFR2阻害剤とSGLT1阻害剤からなる組成物は、腫瘍増殖に対して有意な阻害効果を有し、該組成物は、腫瘍抑制に対して有意な相乗効果を有する。
【0025】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明の原理から逸脱することなく、当業者にとっては、若干の改良及び修飾を加えてもよく、これらの改良及び修飾も本発明の保護範囲に含まれることを理解すべきである。