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特許7382669布素材、布素材の製造装置および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】布素材、布素材の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20231110BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20231110BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20231110BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231110BHJP
   B32B 37/06 20060101ALI20231110BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20231110BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
D06M15/643
D06N3/00
B32B27/12
B32B27/00 101
B32B37/06
B05D7/00 B
B05D7/24 302Y
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022117004
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2021031722の分割
【原出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022141873
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504329816
【氏名又は名称】株式会社ニッシリ
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】金子 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 和之
(72)【発明者】
【氏名】本吉 徳義
(72)【発明者】
【氏名】大澤 純一
(72)【発明者】
【氏名】沖園 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 高明
(72)【発明者】
【氏名】石原 佳帆
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】満田 育代
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/093281(WO,A1)
【文献】特表2014-521847(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216443(WO,A1)
【文献】特開2020-125552(JP,A)
【文献】特開2003-048280(JP,A)
【文献】特開2004-027420(JP,A)
【文献】特開平10-100328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00- 15/715
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00- 43/00
B05D 1/00- 7/26
C09D 1/00- 10/00
101/00-201/10
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離紙にシリコーン樹脂を塗布し、
表面がプリントされている布地のその表面が、上記塗布されたシリコーン樹脂に接するようにシリコーン樹脂に上記布地を貼り付け
記布地に貼り付けられたシリコーン樹脂を硬化させ
記硬化させられたシリコーン樹脂から剥離紙を剥がす
素材の製造方法
【請求項2】
シリコーン樹脂は、摂氏100度から摂氏110度の間の温度の熱で硬化するものであり、
上記布地はポリエステルであり、かつ表面が転写プリントされており、
上記布地に貼り付けられたシリコーン樹脂を、摂氏100度から摂氏110度の間の温度の熱で硬化させる、
請求項1に記載の布素材の製造方法
【請求項3】
摂氏100度から摂氏110度の間の温度の熱で硬化する、トップコート層のシリコーン樹脂を、剥離紙に塗布し、
トップコート層のシリコーン樹脂を、摂氏100度から摂氏110度の間の温度の熱で硬化させ、
硬化したトップコート層のシリコーン樹脂に、摂氏100度から摂氏110度の間の温度の熱で硬化する、固着コート層のシリコーン樹脂を塗布し、
表面が転写プリントされている上記布地のその表面が、固着コート層のシリコーン樹脂に接するように布地を貼り付け、
固着コート層のシリコーン樹脂を、摂氏100度から摂氏110度の間の温度で硬化させ、
硬化したトップコート層のシリコーン樹脂から剥離紙を剥がす、
請求項2に記載の布素材の製造方法
【請求項4】
摂氏100度の熱で硬化する、トップコート層のシリコーン樹脂を、剥離紙に塗布し、
トップコート層のシリコーン樹脂を、摂氏100度の温度の熱で硬化させる、
請求項3に記載の布素材の製造方法
【請求項5】
トップコート層のシリコーン樹脂を硬化させる温度の方を固着コート層のシリコーン樹脂を硬化させる温度よりも低くする、
請求項3に記載の布素材の製造方法
【請求項6】
摂氏110度の温度の熱で硬化する、固着コート層のシリコーン樹脂を、摂氏110度の温度の熱で硬化させる、
請求項3または4に記載の布素材の製造方法
【請求項7】
上記の熱で硬化させる時間は5分である、
請求項から6のうち、いずれか一項に記載の布素材の製造方法
【請求項8】
剥離紙にシリコーン樹脂を塗布するシリコーン塗布装置
表面がプリントされている布地のその表面が、上記シリコーン塗布装置によって塗布されたシリコーン樹脂に接するようにシリコーン樹脂に布地を貼り付ける貼り付け装置
上記貼り付け装置によって布地が貼り付けられたシリコーン樹脂を硬化させる硬化装置、および
上記硬化装置によって硬化させられたシリコーン樹脂から剥離紙を剥がす剥離装置
を備えた布素材の製造装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、布素材、布素材の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在ある皮革には本革、ウレタン、ポリ塩化ビニルなどを利用した合成皮革、人工皮革などがある。本革は動物の皮膚をなめしたものであり、合成皮革、人工皮革は基布にウレタン、ポリ塩化ビニルなどを塗布したものである。
【0003】
合成皮革の製造については、離型紙に関係する制約を解消するものが考えられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-168692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本革を用いた衣料品には、動物愛護、水の大量使用による環境問題、汚染水排出に伴う健康被害、児童労働問題などの社会問題があり、ハイブランドの衣料品メーカの中には本革を使用しないという衣料品メーカも現れている。また、合成皮革や人工皮革の衣料品は石油由来の材料を利用しているので環境問題に直結し、ヨーロッパなどではポリ塩化ビニルなどの使用禁止を打ち出している国もある。このために、新たな布素材の提案が待たれている。
【0006】
この発明は、社会問題などを考慮した新たな布素材ならびに布素材の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明による布素材は、表面がプリントされている布地のその表面にシリコーン樹脂がコーティングされていることを特徴とする。
【0008】
上記プリントの滲みが防止されていることが好ましい。
【0009】
上記シリコーン樹脂は摂氏110度以下の温度の熱で硬化させられていることが好ましい
【0010】
上記シリコーン樹脂は、たとえば、ほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度の間の熱で硬化させられている。
【0011】
上記シリコーン樹脂はトップコート層のシリコーン樹脂と固着コートのシリコーン樹脂とで構成され、上記布地のその表面に上記固着コートのシリコーン樹脂がコーティングされ、上記固着コートのシリコーン樹脂上に上記トップコート層のシリコーン樹脂がコーティングされていることが好ましい。
【0012】
上記トップコート層のシリコーン樹脂は上記固着コート層のシリコーン樹脂よりも低い温度で硬化させられていてもよい。
【0013】
上記トップコート層のシリコーン樹脂は、ほぼ摂氏100度の熱で硬化させられており、上記固着コート層のシリコーン樹脂は、ほぼ摂氏110度の熱で硬化させられていることが好ましい。
【0014】
第2の発明による布素材の製造装置は、剥離紙にシリコーン樹脂を塗布するシリコーン塗布装置、表面がプリントされている布地のその表面が、塗布された上記シリコーン樹脂に接するように上記シリコーン樹脂に上記布地を貼り付ける貼り付け装置、上記シリコーン樹脂を硬化させる硬化装置、および硬化させられた上記シリコーン樹脂から上記剥離紙を剥がす剥離装置を備えていることを特徴とする。
【0015】
第2の発明は、上記布素材の製造装置に適した製造方法も提供している。すなわち、剥離紙にシリコーン樹脂を塗布し、表面がプリントされている布地のその表面が、塗布されたシリコーン樹脂に接するように上記シリコーン樹脂に上記布地を貼り付け、上記布地に貼り付けられた上記シリコーン樹脂を硬化させ、硬化させられた上記シリコーン樹脂から上記剥離紙を剥がすものである。
【0016】
上記硬化装置は、たとえば、上記シリコーン樹脂を上記プリントが滲まない温度で硬化させる。
【0017】
上記硬化装置は、ほぼ摂氏110度以下の温度の熱で上記シリコーン樹脂を硬化させることが好ましい。
【0018】
上記硬化装置は、たとえば、ほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度の間の温度の熱で上記シリコーン樹脂を硬化させてもよい。
【0019】
上記シリコーン塗布装置は、たとえば、上記剥離紙にトップコート層の上記シリコーン樹脂を塗布し、上記硬化装置は、上記トップコート装置のシリコーン樹脂を上記剥離紙が焦げない程度の温度の熱で硬化させ、上記シリコーン塗布装置は、硬化したトップコート装置のシリコーン樹脂に固着コート層のシリコーン樹脂を塗布し、上記貼り付け装置は、上記表面がプリントされている布地のその表面が、上記固着コートのシリコーン樹脂に接するように上記布地を貼り付け、上記硬化装置は、上記固着コート層のシリコーン樹脂を、上記プリントが滲まない温度で硬化させ、上記剥離装置は、硬化した上記トップコート層のシリコーン樹脂から上記剥離紙を剥がすことが好ましい。
【0020】
また、上記シリコーン塗布装置は、第1のシリコーン塗布装置と第2のシリコーン塗布装置とを含み、上記硬化装置は、第1の硬化装置と第2の硬化装置とを含んでもよい。この場合、上記第1のシリコーン塗布装置が、上記剥離紙にトップコート層の上記シリコーン樹脂を塗布し、上記第1の硬化装置が、上記トップコート装置のシリコーン樹脂を熱で硬化させ、上記2のシリコーン塗布装置が、硬化したトップコート装置のシリコーン樹脂に固着コート層のシリコーン樹脂を塗布し、上記貼り付け装置は、上記表面がプリントされている布地のその表面が、上記固着コートのシリコーン樹脂に接するように上記布地を貼り付け、上記第2の硬化装置が、上記固着コート層のシリコーン樹脂を、上記プリントが滲まない温度の熱で硬化させ、上記剥離装置は、上記固着コートのシリコーン樹脂から上記剥離紙を剥がすことが好ましい。
【0021】
上記硬化装置は、たとえば、上記トップコート層のシリコーン樹脂を硬化させる温度の方を上記固着コート層のシリコーン樹脂を硬化させる温度よりも低くする。
【0022】
上記硬化装置は、たとえば、上記トップコート層のシリコーン樹脂を、ほぼ摂氏100度の温度の熱で硬化させ、上記固着コート層のシリコーン樹脂を、ほぼ摂氏110度の温度の熱で硬化させる。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によると、布地の表面に自然素材のシリコン由来のシリコーン樹脂がコーティングされているので環境問題を含めた社会問題の発生を未然に防止する新たな布素材となる。
【0024】
第2の発明によると、第1の発明による布素材を製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(A)から(D)は布素材の製造工程の一部を示している。
図2】(A)から(D)は布素材の製造工程の一部を示している。
図3】(A)から(D)は布素材の製造工程の一部を示している。
図4】加熱温度と加熱時間を示すテーブルである。
図5】布素材の製造装置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1(A)から図1(D)、図2(A)から図2(D)および図3(A)から図3(D)は、この発明の実施例による布素材の製造工程を示している。
【0027】
図1(A)に示すように、工程紙(剥離紙の一例である)1を用意する。工程紙1は、後述するように硬化したシリコーン樹脂2を剥がすことができるように、表面がポリプロピレンなどによりコーティングされているものである。工程紙1はシリコーン樹脂2を剥がすことができればよく、どのようなものを用いてもよい。
【0028】
図1(B)に示すように、2液性シリコーンが混ぜられて構成されており、かつトップコート層となる硬化前の第1のシリコーン樹脂2A(1液性のシリコーンでもよい)が入っている第1の塗布装置11が工程紙1の第1の面1Aに向けて配置される。第1の塗布装置11から工程紙1の第1の面1A(工程紙1側の面と反対側の面)に向けてトップコート層となる硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aが吐出される。
【0029】
すると、図1(C)に示すように、工程紙1の第1の面1Aにトップコート層となる硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aが塗り付けられるようになる。第1の加熱乾燥機12により工程紙1の第1の面1Aに塗り付けられたトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aの表面が摂氏100度程度の温度(摂氏100度丁度でもよいし実質的に摂氏100度とみなされる温度でもよい。以下、温度について同様である)となるように加熱され、かつ乾燥される(硬化すればよいので乾燥は必ずしも必要ない)。第1のシリコーン樹脂2Aの表面温度(内部温度)が摂氏100度程度となるように加熱されればよく、第1の加熱乾燥機12と第1のシリコーン樹脂2Aとの表面とが近ければ第1の加熱乾燥機12の含まれるヒータの温度を摂氏100度程度としてもよい。第1のシリコーン樹脂2Aの表面が摂氏100度程度の温度となるように加熱されているので工程紙1が第1のシリコーン樹脂2Aの加熱により焦げてしまうことが未然に防止されている(たとえば、工程紙1の種類によっては摂氏120度程度の熱が加わると焦げてしまうことがある)。
【0030】
第1の加熱乾燥機12による加熱および乾燥が行われると、図1(D)に示すように工程紙1に硬化した第1のシリコーン樹脂2が貼り付く。
【0031】
つづいて図2(A)に示すように、2液性シリコーンが混ぜられて構成されており、かつ固着コート層となる硬化前の第2のシリコーン樹脂3A(1液性のシリコーンでもよい)が入っている第2の塗布装置13が硬化した第1のシリコーン樹脂2の第1の面2Bに向けて配置される。第2の塗布装置13から硬化した第1のシリコーン樹脂2の第1の面2Bに向けて固着コート層となる硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aが吐出される。硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aは粘度が高い場合には必要に応じて粘度を低くするためのオイルなどが混ぜられる。
【0032】
すると、図2(B)に示すように、硬化した第1のシリコーン樹脂2の面(工程紙1が貼り付けられている面と反対の面)に固着コート層となる硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aが塗り付けられるようになる。
【0033】
図2(C)に示すように、固着コート層となる硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aの硬化した第1のシリコーン樹脂2が貼り付けられている面とは反対側の面3Bにプリント(昇華転写プリント、シルク・スクリーン・プリント、ダイレクト・インクジェット・プリント、カッティング・プリントなど)された基布(布地の一例である)4の面が接する(合わさる)ように貼り付けられる。
【0034】
図2(D)に示すように、工程紙1、硬化した第1のシリコーン樹脂2(トップコート層となる)、硬化前の第2のシリコーン樹脂3A(固着コート層となる)および基布4の4層が生成される。
【0035】
つづいて、図3(A)に示すように、基布4の側から第2の加熱乾燥機14により工程紙1の第1の面1Aに塗り付けられた固着コート層となる硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aの表面温度が摂氏110度程度の温度となるように加熱され、かつ乾燥される(硬化すればよいので乾燥させることは必ずしも必要ではない)。
【0036】
第2の加熱乾燥機14による加熱および乾燥が行われると、図3(B)に示すように、硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aが硬化させられ、硬化した第2のシリコーン樹脂3となる。この硬化した第2のシリコーン樹脂3が固着コート層である。
【0037】
次に、図3(C)に示すように、工程紙1が第1のシリコーン樹脂2から剥がされる。
【0038】
すると、図3(D)に示すように、第1のシリコーン樹脂2から構成されるトップコート層、第2のシリコーン樹脂3から構成される固着コート層および基布4から構成される布素材5、すなわち、基布4が第1のシリコーン樹脂2および第2のシリコーン樹脂3によりコーティングされている布素材5が完成する。
【0039】
図4は、第1のシリコーン樹脂2Aおよび第2のシリコーン樹脂3Aのそれぞれと、加熱温度および加熱時間との関係を示すテーブルの一例である。
【0040】
図1(C)に示すように第1のシリコーン樹脂2Aに摂氏100度の温度で実際に加熱し、図3(A)に示すように第2のシリコーン樹脂3Aに摂氏110度の温度で実際に加熱したところ、基布4のプリントが滲まないことが分かった。このように、トップコート層の第1のシリコーン樹脂2は固着コート層の第2のシリコーン樹脂3よりも低い温度で硬化させられている。とくに第1のシリコーン樹脂2Aおよび第2のシリコーン樹脂3Aのいずれもほぼ摂氏110度以上で加熱すると基布4のプリントが滲んでしまったことも分かった。つまり、第1のシリコーン樹脂2Aおよび第2のシリコーン樹脂3Aのいずれもほぼ摂氏110度以下で加熱すれば基布4のプリントが滲まないことが分かった。また、製造効率を考えると、第1のシリコーン樹脂2Aおよび第2のシリコーン樹脂3Aのいずれもほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度の間で加熱すれば基布4のプリントが滲まないことが分かった。
【0041】
さらに、第1のシリコーン樹脂2Aに摂氏100度で実際に5分程度加熱し、図3(A)に示すように第2のシリコーン樹脂3Aに摂氏110度で実際に5分程度加熱することで図3(D)に示す布素材5が効率良く製造できることが分かった。
【0042】
図5は、布素材5の製造装置70の一例である。図5において、図1(A)から図1(D)、図2(A)から図2(D)および図3(A)から図3(D)に示すものと同一物については同一符号を付している。
【0043】
まず、製造装置70の構造について説明する。
【0044】
製造装置70の左側には第1のローラ10があり、この第1のローラ10に工程紙1が巻かれている。第1のローラ10の上には工程紙1の移送方向を変える第2のローラ51が配置されており、この第2のローラ51の右側の上方には第1の塗布装置11が配置されている。第1の塗布装置11の下方のやや右側には第1の均一板71が設けられている。第1の均一板71の下方には工程紙1を移送方向に送る第3のローラ52が配置されている。第1の均一板71の右側には第1の加熱乾燥機12が配置されている。
【0045】
また、第1の加熱乾燥機12の右側には第4のローラ53、第5のローラ54および第6のローラ55を介して第2の均一板72が設けられている。第2の均一板72の下方には工程紙1を移送方向に送る第7のローラ56が配置されている。第2の均一板72の右側には第8のローラ57Aと第9のローラ57Bとから構成されている第1の均一ローラ群57を介して貼付装置20が配置されている。貼付装置20には、表面(裏面でもよい)にプリントされている基布4が巻かれている基布ローラ40が含まれている。また、貼付装置20には対向している第10のローラ58Aと第11のローラ58Bとから構成される貼付ローラ群58も含まれている。さらに、第2の加熱乾燥機14が貼付装置20に含まれている。貼付装置20と第2の加熱乾燥機14とは別々でもよい。
【0046】
さらに、貼付装置20の右側には第12のローラ59、第13のローラ60および第14のローラ61を介して剥離装置30が配置されている。この剥離装置30には第15のローラ62および第16のローラ63が設けられている。また、剥離装置30には対向している第17のローラ64Aと第18のローラ64Bとから構成される第2の均一ローラ群64も含まれている。
【0047】
剥離装置30の右側には第19のローラ65および完成した布素材を巻き取る第20のローラ66が設けられている。
【0048】
次に製造装置70の動作について説明する。
【0049】
第1のローラ10に巻かれている工程紙1の一端が引き出され、引き出された工程紙1が第2のローラ51を介して図5において右方向となる移送方向に移送させられる(図1(A)参照)。第1の塗布装置11からは下方向に向かって第1のシリコーン樹脂2Aが吐出されており、吐出された第1のシリコーン樹脂2Aが第1の均一板71によってせき止められることにより貯留される。第3のローラ52により工程紙1は右方向に移送されるので第1の均一板71によって第1のシリコーン樹脂2Aが工程紙1の上面にほぼ均一に塗布されることとなる(図1(B)参照)。
【0050】
第1のシリコーン樹脂2Aが塗布された工程紙1は第1の加熱乾燥機12に入り、第1のシリコーン樹脂2Aの表面温度がほぼ摂氏100度程度の温度となるように加熱され、かつ乾燥される(図1(C)参照)。第1の加熱乾燥機12から工程紙1が出てくると硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aが硬化された第1のシリコーン樹脂2となる(図1(D)参照)。この硬化された第1のシリコーン樹脂2がトップコート層となる。
【0051】
第1の加熱乾燥機12から出てきた工程紙1は第4のローラ53によって下方向に移送方向が変えられ、かつ第5のローラ54によって上方向に移送方向が変えられる。さらに工程紙1は第6のローラ55によって右方向に移送方向が戻される。これらの第4のローラ53、第5のローラ54および第6のローラ55によって第1のシリコーン樹脂2がコーティングされた工程紙1が撓まないようにされる。
【0052】
第6のローラ55の右側の部分では、第2の塗布装置13からオイルなどで粘度が低くされた第2のシリコーン樹脂3A(必ずしも粘度を低くする必要はない)が下方向に吐出されている(図2(A)参照)。このため工程紙1の硬化された第1のシリコーン樹脂2上に第2のシリコーン樹脂3Aが吐出され、第2の均一板72によって吐出された第2のシリコーン樹脂3Aが第1のシリコーン樹脂2上に貯留される。第7のローラ56によって工程紙1が右方向の移送方向に移送させられると貯留されており硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aが硬化した第1のシリコーン樹脂2上に塗り付けられる(図2(B)参照)。工程紙1がさらに右方向に移送させられると第1の均一ローラ群57を構成する第8のローラ57Aと第9のローラ57Bとの間を通る。この第1の均一ローラ群57により硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aの厚さがほぼ均一とされる。
【0053】
基布4のプリント面が工程紙1上に塗布された硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aに接するようにされて、貼付ローラ群58を構成する第10のローラ58Aと第11のローラ58Bと間に工程紙1、硬化した第1のシリコーン樹脂2、硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aおよび基布4の各層が入り込む(図2(C)、(D)参照)。貼付ローラ群58から出てきた工程紙1等は第2の加熱乾燥機14に入る。第2の加熱乾燥機14において工程紙1、硬化した第1のシリコーン樹脂2、硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aおよび基布4の各層がほぼ摂氏110度の温度で加熱され、かつ乾燥される(図3(A)参照)。これにより、硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aが硬化し、硬化した第2のシリコーン樹脂3となる。工程紙1、硬化した第1のシリコーン樹脂2、硬化した第2のシリコーン樹脂3および基布4が互いに貼り付けられることとなる(図3(B)参照)。
【0054】
貼付装置20から出てきた工程紙1等は第12のローラ59によって移送方向が下方向に変えられ、かつ第13のローラ60によって移送方向が上方向に変えられる。さらに、工程紙1頭は第14のローラ61によって移送方向が右方向に変えられる。工程紙1等は、剥離装置30に入り、第15のローラ62によって硬化した第1のシリコーン樹脂2から工程紙1が剥がされる(図3(C)参照)。剥がされた工程紙1は第16のローラ63によって巻き取られる。
【0055】
工程紙1が剥がされ、第1のシリコーン樹脂2および3がコーティングされている基布4は第2の均一ローラ群64を構成する第17のローラ64Aと第18のローラ64Bとの間に入り右方向に移送される。第2の均一ローラ群64によって第1のシリコーン樹脂2および3がコーティングされている基布4の厚さがほぼ均一とされる。
【0056】
剥離装置30から出てきた基布4は第19のローラ65を介して第20のローラ66によって巻き取られて布素材5が完成する(図3(D)参照)。基布4のプリントが滲まない温度の熱でシリコーン樹脂2A、3Aが硬化させられ、新たな布素材5が得られる。
【0057】
上述の実施例においては、第1の塗布装置11からトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aを吐出し、第2の塗布装置13から固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3Aを吐出し、かつ第1の加熱乾燥機12を用いてトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aを加熱し、第2の加熱乾燥機14を用いて固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3Aを加熱している。しかしながら、一つの塗布装置を用いてトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aを吐出し、第1のシリコーン樹脂2Aを硬化させた後に同じ塗布装置を用いて中味を入れ替えて固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3Aを吐出してもよい。また、一つの加熱硬化装置を用いて硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aと硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aとを加熱してもよい。たとえば、加熱硬化装置を用いて硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aを加熱し、第1のシリコーン樹脂2Aが硬化した後に硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aを吐出し、同じ加熱硬化装置を用いて硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aを加熱することもできる。第1の加熱乾燥機12を用いて第1のシリコーン樹脂2Aを加熱後に、第1の加熱乾燥機12を第2の加熱乾燥機14に取り換えて第2の加熱乾燥機14を用いて第2のシリコーン樹脂3Aを加熱して硬化してもよい。
【0058】
さらに、上述の実施例では、基布4にトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2と固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3との2層がコーティングされているが、トップコート層と固着コート層とを一つのシリコーン樹脂でコーティングしてもよい。その場合には、その一つのシリコーン樹脂の表面温度がほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度となるような温度で、その一つのシリコーン樹脂を硬化させる。
【0059】
さらに、上述の実施例ではトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aに加熱する温度はほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度程度であるが、トップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aに加熱する温度は工程紙1が焦げない程度の温度であればよい。工程紙1が焦げない温度は工程紙1の種類に依存する。
【0060】
基布4としては再生ポリエステル、ポリエステル、コットン、ナイロンなどを用いることができる。
【0061】
出願人は実際に次のような条件で基布4にトップコート層および固着コート層によりコーティングされている布素材を製造した。
【0062】
まず、信越化学工業製のシリコーン樹脂CP-001-AとCP-001-Bとを攪拌し脱泡してトップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aを作成した。
【0063】
次に、作成した第1のシリコーン樹脂2Aを工程紙1に厚さ30μmで塗布し、ほぼ摂氏80度からほぼ摂氏150度の間の色々な温度で、かつ3分から10分程度の色々な時間で加熱して硬化させた。
【0064】
つづいて、信越化学工業製のシリコーン樹脂CP-DLシリーズのシリコーン樹脂にKF-96L-1.5CSのオイルを数%程度添加したのち、攪拌し脱泡して固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3Aを作成した。
【0065】
硬化した第1のシリコーン樹脂2上に硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aを塗布し、基布4として利用した再生ポリエステルに貼り付け、ほぼ摂氏85度からほぼ摂氏120度の間の色々な温度で、かつ3分から10分程度の色々な時間で加熱して硬化させた。その後工程紙1を剥がし、布素材5を完成させた。
【0066】
このような様々な思考錯誤の結果、硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aおよび3Aのいずれもほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度の温度で加熱すると基布4のプリントのインクの滲みが防止されることが分かった。また、製造効率を考えると硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aおよび3Aのいずれもほぼ5分程度の時間でほぼ摂氏100度からほぼ摂氏110度の温度で加熱すればよいことが分かった。とくに、トップコート層となる第1のシリコーン樹脂2については硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aをほぼ摂氏100度で加熱すると、工程紙1が焦げてしまうことを未然に防止でき、固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3については硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aをほぼ摂氏110度で加熱すると基布4のプリントのインクの滲みの防止が顕著となることが分かった。さらに、トップコート層となる第1のシリコーン樹脂2Aをほぼ摂氏110度以上で加熱すると工程紙1が焦げてしまうことがあり、固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3Aもほぼ摂氏110度以上で加熱すると基布4のプリントのインクが滲むことがあることが分かった。
【0067】
また、硬化前の第1のシリコーン樹脂2Aはほぼ摂氏100度程度で硬化するが、硬化前の第2のシリコーン樹脂3Aはほぼ摂氏110度程度でなければ硬化しないのは、トップコート層となる第1のシリコーン樹脂2は透明性が担保されており、固着コート層となる第2のシリコーン樹脂3は顔料などの添加物が含まれていることが原因の一つであると考えられることもわかった。
【符号の説明】
【0068】
1:工程紙、1A:第1の面、2:硬化した第1のシリコーン樹脂、2A:硬化前の第1のシリコーン樹脂、2B:第1の面、3:硬化した第2のシリコーン樹脂、3A:硬化前の第2のシリコーン樹脂、3B:面、4:基布、5:布素材、10:第1のローラ、11:第1の塗布装置、12:第1の加熱乾燥機、13:第2の塗布装置、14:第2の加熱乾燥機、20:貼付装置、30:剥離装置、40:基布ローラ、51:第2のローラ、52:第3のローラ、53:第4のローラ、54:第5のローラ、55:第6のローラ、56:第7のローラ、57:第1の均一ローラ群、57A:第8のローラ、57B:第9のローラ、58:貼付ローラ群、58A:第10のローラ、58B:第11のローラ、59:第12のローラ、60:第13のローラ、61:第14のローラ、62:第15のローラ、63:第16のローラ、64:第2の均一ローラ群、64A:第17のローラ、64B:第18のローラ、65:第19のローラ、66:第20のローラ、70:製造装置、71:第1の均一板、72:第2の均一板
図1
図2
図3
図4
図5