(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】金属板の表面保護装飾方法及び金属板処理ライン
(51)【国際特許分類】
B32B 15/12 20060101AFI20231110BHJP
B32B 37/16 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
B32B15/12
B32B37/16
(21)【出願番号】P 2022161577
(22)【出願日】2022-10-06
【審査請求日】2023-05-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516084088
【氏名又は名称】株式会社城山
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 良一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-214129(JP,A)
【文献】特開2017-128115(JP,A)
【文献】特開2022-066171(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114100(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105636795(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/12
B32B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する金属板の表面に紙製の保護シートを供給して
、前記金属板と前記保護シートとを剥離可能に貼付する保護シート貼付工程と、
前記保護シートの表面に印刷を施して装飾する装飾工程とを、一つの金属板処理ラインにおいて連続して行
い、
前記保護シートは、紙からなる基材シートと、前記基材シートの裏側面に形成された粘着性を有する粘着層とを備えており、
前記保護シート貼付工程において、前記粘着層を前記金属板の表面に接触させる、金属板の表面保護装飾方法。
【請求項2】
前記保護シート貼付工程において、前記保護シートは、前記保護シートがコイル状に巻き上げられた保護シートコイルから巻きほぐされて前記金属板の表面に貼付され、
前記基材シートの表側面には、剥離剤層が積層されている、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項3】
前記金属板の板厚は、0.1mmから10mmの範囲(ただし、0.5mm以下を除く)である、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項4】
前記金属板はストリップ状である、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項5】
前記装飾工程は、保護シート貼付工程の後に、前記保護シートが前記金属板の表面に貼付された状態で行う、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項6】
前記装飾工程の前記印刷は、インクジェット印刷方式により行う、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項7】
前記装飾工程においては、前記保護シートの表面に、格子状の模様を印刷する、請求項1に記載の金属板の表面保護装飾方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の金属板の表面保護装飾方法を実行する金属板処理ラインであって、
走行する前記金属板の表面に前記保護シートを供給して貼付する保護シート貼付装置と、
前記保護シートの表面に印刷を施す印刷装置とを備えた、金属板処理ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の表面保護装飾方法及び金属板処理ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ステンレス板、アルミニウム板等の金属板を加工、運搬等する際に金属板の表面に傷等がつかないよう、保護シートを貼付することが行われている。このような金属板表面の保護シートとしては、例えば、特許文献1に記載のプレス加工用多層フィルムなどの樹脂フィルムを主体とするものが広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の環境保護志向の高まりから保護シートの材料として、石油を原料とした合成樹脂から天然由来の素材への転換が望まれている。また、従来の樹脂フィルムを用いた保護シートは、予め樹脂フィルムに、彩色、模様、文字等の印刷をしておき、これを金属板の表面に貼付することによって、保護シート付き金属板の表面を装飾することが行われている。しかし、保護シートによって金属板の表面に装飾を施す場合、金属板の種類や装飾の種類ごとに印刷内容が異なる保護シートを多数準備しておくことが必要であり、在庫管理が煩雑になる、あるいは、個別の情報を少なくして装飾を統一せざるを得ないなど、不具合も多い。
【0005】
このような背景を総合的に勘案し、環境保護を図り、かつ、保護シートの汎用性を確保しながら保護シート付き金属板の表面の装飾を容易に行うことができる方策が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、環境保護を図りつつ、保護シートの汎用性を確保しながら保護シート付き金属板の表面の装飾を容易に行うことができる金属板の表面保護装飾方法、およびそれを実行可能な金属板処理ラインを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、走行する金属板の表面に紙製の保護シートを供給して、前記金属板と前記保護シートとを剥離可能に貼付する保護シート貼付工程と、
前記保護シートの表面に印刷を施して装飾する装飾工程とを、一つの金属板処理ラインにおいて連続して行い、
前記保護シートは、紙からなる基材シートと、前記基材シートの裏側面に形成された粘着性を有する粘着層とを備えており、
前記保護シート貼付工程において、前記粘着層を前記金属板の表面に接触させる、金属板の表面保護装飾方法にある。
【0008】
本発明の他の態様は、上記態様の金属板の表面保護装飾方法を実行する金属板処理ラインであって、
走行する前記金属板の表面に前記保護シートを供給して貼付する保護シート貼付装置と、
前記保護シートの表面に印刷を施す印刷装置とを備えた、金属板処理ラインにある。
【発明の効果】
【0009】
前記金属板の表面保護装飾方法においては、保護シートとして紙製の保護シートを積極的に採用する。これにより、従来の樹脂フィルムを用いる場合に比べて、環境保護に優れた工業生産活動を行うことが可能となる。
【0010】
また、紙製の保護シートを採用することにより、従来の樹脂フィルムに比べて表面への印刷性が格段に向上する。そのため、金属板を走行させるライン上において、紙製の保護シートを表面に貼付する前又は後において、容易に印刷することができる。
【0011】
これにより、金属板の表面保護と装飾を効率よく行うことができるだけでなく、その金属板に最適な装飾柄をその金属板毎に選択して、保護シートの貼付と合わせて必要な分だけ印刷して装飾することができる。そのため、予め印刷した保護シートを準備することが不要となり、幅サイズさえ適合させれば全ての金属板に対して同じ保護シートを使用することができ、保護シートの汎用性を確保することが可能となる。そして、それによる在庫管理の合理化や不要な在庫品の削減を図ることもでき、より一層環境保護を促進させることができる。
【0012】
またこのような優れた金属板の表面保護装飾方法は、既存又は新設の金属板処理ラインにおいて、実質的に、保護シート貼付装置と印刷装置とを備えるだけで実行可能となる。
【0013】
以上のように、上記態様によれば、環境保護を図りつつ、保護シートの汎用性を確保しながら保護シート付き金属板の表面の装飾を容易に行うことができる金属板の表面保護装飾方法、およびそれを実行可能な金属板処理ラインを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における、金属板処理ラインの構成を示す説明図。
【
図2】実施例1における、保護シートの構成を示す説明図。
【
図3】実施例1における、装飾模様の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記金属板の表面保護装飾方法においては、走行する前記金属板がストリップ状であることが好ましい。前記方法は、いわゆる切り板状の金属板が連続して走行する処理ラインに適用することも考えられるが、前記保護シート貼付工程及び前記装飾工程は、切れ目のないストリップ状の金属板に対して、連続的に行うことが好ましい。
【0016】
ストリップ状の金属板は、例えば、コイル状に巻き上げた金属板コイルを巻きほぐしながらストリップ状で走行させ、その状態で前記保護シート貼付工程及び前記装飾工程を実施し、その後、再びコイル状に巻き上げる、あるいは、切り板状に切断する等を行うことが可能である。また、この場合、保護シートについてもコイル状に巻き上げた保護シートコイルから巻きほぐしながら金属板の表面に供給することが好ましい。
【0017】
前記装飾工程は、保護シート貼付工程の後に、前記保護シートが前記金属板の表面に貼付された状態で行うことが好ましい。装飾工程は、例えば、保護シートコイルの表面あるいはコイルから巻きほぐされる保護シート表面において印刷を実行し、その後金属板の表面に保護シートを貼付することも可能であるが、保護シートが前記金属板の表面に貼付された状態で行う方が、印刷位置の位置決めも容易で、より安定的、かつ、容易に精度の高い印刷を実行することが可能となる。
【0018】
前記装飾工程の印刷は、インクジェット印刷方式により行うことが好ましい。インクジェット印刷方式は、紙の表面への印刷技術として広く利用されている公知技術であり、本願方法においても容易に採用することができる。
【0019】
前記保護シートは、紙からなる基材シートと、前記基材シートの裏側面に形成された粘着性を有する粘着層とを備えている構成のものを用いることができ、前記粘着層を前記金属板の表面に接触させることにより、本願方法を容易に実行することができる。
【0020】
前記基材シートは、種々の種類の紙を用いることができるが、例えば、クレープ紙を用いることができる。クレープ紙は、主として木材パルプを原料とした天然繊維が使用される。なお、クレープ紙としては、木材パルプにマニラ麻等の天然パルプ短繊維、レーヨン短繊維、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリオレフイン、ポリエステル、アクリル等の合成短繊維が混抄されてもよい。
【0021】
基材シートの坪量は、乾燥質量で40~90g/m2が好ましく、60~80g/m2がより好ましい。また、基材シートの厚みは、0.060~0.300mmが好ましく、0.080~0.140mmがより好ましい。
【0022】
基材シートに対しては、含浸加工を行ってもよい。基材シートに含浸剤を浸透させることにより、基材シートの物性を向上させることができる。
【0023】
基材シートにゴムを含浸させることもできる。この場合、基材シートの強度を向上させることができる。含浸剤は、溶剤(水を含む)に溶解、または分散させて用いられ、好ましくはエマルジョンの形態で用いられる。含浸剤の成分としては、例えば、天然ゴム、スチレンーブタジエン共重合ゴム等、任意のゴムを適宜に選択できる。
【0024】
基材シートに紫外線反射材、または紫外線吸収剤を含浸させることにより、基材シート13が紫外線により劣化することを抑制することもできる。紫外線反射材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等、任意の紫外線反射材を適宜に選択できる。紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸フェニル等のサリチル酸誘導体、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系のもの等、任意の紫外線吸収剤を適宜に選択できる。
【0025】
基材シートの表側面(背面)には、インクジェット印刷の印刷性を向上させるコート層を施すこともできる。このコート層としては、例えば、高分子系又は多孔性微粒子系の吸水性を向上させるコート層など、公知の種々のものを用いることができる。
【0026】
また、基材シートの表側面(背面)には、コイル状に巻回した場合に接する接着層との剥離を容易にするための、公知の剥離剤層を設けることもできる。剥離剤層を設ける場合には、基材シートの表側面に下塗剤を塗工し、その上に剥離剤層を設ける構成をとることができる。下塗剤としては、例えば、アクリル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルアルコール(PVA)等があげられる。剥離剤層としては、例えば、セラック樹脂又はその代替品等がある。この剥離剤層はできる限り塗工量が少なくなるよう設けられるため、通常、基材シート本来のインクジェット印刷性は維持される。
【0027】
基材シートに設ける粘着層は、アクリル系粘着剤からなることが好ましい。この場合には、耐候性、耐熱性、及び耐溶剤性に優れた粘着層を形成することができる。粘着層の厚みは、0.005mm~0.050mmが好ましく、0.010mm~0.030mmがより好ましい。
【0028】
アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、及びそれらと共重合可能なビニルモノマーを重合して得ることができる。重合方法としては、ラジカル開始剤を用いた溶液重合又はエマルション重合が好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等から選ばれる1種以上を採用することができ、側鎖のアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート、ヒドロキシルプロピルアクリレート、ヒドロキシルプロピルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアミノアルキルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、グリシジルアクリレート、及びグリシジルメタクリレート等がある。これらのビニルモノマーは、その(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとの共重合体が、常温で粘着剤として機能するように、適宜選択することができる。通常、そのガラス転移点は-60~0℃である。
【0031】
粘着層は、上記の粘着剤をそのまま用いて形成してもよいし、上記の粘着剤に、公知の各種架橋剤、粘着付与剤を上記アクリル系粘着剤に配合して上記粘着層を形成してもよい。また、必要に応じて、増粘剤、造膜助剤、消泡剤を配合することもできる。
【0032】
保護シートは、JIS Z0237(2000)に基づいて測定された、基材シートに含まれる繊維の流れ方向と平行な引張伸び率が、10%以上であることが好ましい。引張伸び率が10%より大きいことにより、保護シートが貼付された金属板がコイル巻きされた場合や、プレス加工された場合でも、基材シートが金属板に追従して伸びるので、保護シートが破れることが抑制される。
【0033】
保護シートは、金属板に貼付した状態で、温度40℃、相対湿度50%の雰囲気中、出力が75Wのキセノンランプを照射する耐候性試験において、基材シートが破断するまでの時間が200時間以上であることが好ましい。これにより、基材シートは優れた耐候性を有するものとなる。
【0034】
保護シートは、JIS Z0237(2000)に基づいて測定された粘着力が2.10N/cm以下であることが好ましい。粘着力が2.10N/cm以下であることにより、保護シートを金属板から剥がす際に、大きな力を必要としない。これにより、最終製品として金属板を使用する際に保護シートを剥がす作業の効率が向上する。
【0035】
保護シートの厚さは、例えば、0.095~0.140mmという薄いものを適用することができる。
【0036】
装飾工程においては、様々な彩色、模様、文字等の印刷物からなる装飾を施すことができる。特に、保護シートの表面に、格子状の模様を印刷することが好ましい。格子状の模様は、単なる装飾ではなく、保護シートを貼付した金属板の表面に、大まかな寸法の目安を設けることにつながる。例えば、1cm間隔の縦横線の格子を模様として装飾することにより、1cm間隔の寸法の目安を金属板表面に設けることができ、その後の切断や曲げ加工における利便性を向上させることができる。格子の線の種類としては、太線、細線、破線等を使い分けることにより、より寸法目安を使いやすいものとすることも可能である。
【0037】
なお、装飾としては、金属板の製造メーカー名、商品名、材質、厚み等の文字情報や、特定のロゴなど、様々な形態のものを自由に採用することができ、かつ、ロットごとに変更することも可能である。また、保護シートの粘着層に経年変化のおそれがある場合などに、推奨する使用期限などの表記を含めることも可能である。また、需要があれば、広告的な模様なども適宜含めることが可能である。
【0038】
前記金属板の表面保護装飾方法を実行する金属板処理ラインは、例えば、金属板のスリット切断ライン、板切断ライン、洗浄ライン、塗装ライン等、様々な処理を行うラインに適用可能であり、単に、金属板コイルを巻きほぐしてストリップ状に走行させてコイル状に巻き取るだけの機能のラインに、保護シート貼付装置と印刷装置とを備えたシンプルなラインとすることもできる。
【0039】
本願において表面保護及び装飾の対象としうる金属板としては、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金等、任意の金属を適宜に選択できる。アルミニウムまたはアルミニウム合金は、その表面に陽極酸化などの特殊な表面処理をしない無垢の状態では、その軟らかさと自然酸化皮膜の薄さのために、取り扱い時に傷が付き易い。このため、アルミニウムまたはアルミニウム合金に本願における金属板の表面保護装飾方法適用することは特に有効である。
【0040】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板材としては、その材質及び質別には実質的に制限はない。ただし、その後にプレス加工や切断を行うアルミニウム板材においては、保護シートを貼付したままそれらの処理を実施することができ、特に有効である。また、アルミニウム板材は、プレス加工の容易性という観点からみれば、板厚0.1~10mmの範囲、特に、0.1~3mm程度がよく利用される。また、アルミニウム板材の幅寸法は、ライン走行可能な範囲とすることができるが、多くの場合1000mm以下、例えば、500mmあるいは400mm程度が多く適用される。幅は狭くても対応可能であるが、歩留まりや効率の関係から、200mm以上が好ましく、さらには300mm以上が好ましい。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
本願の実施例に係る金属板の表面保護装飾方法及び金属板処理ラインにつき、
図1~
図3を用いて説明する。本例の金属板処理ライン1は、
図1に示すように、金属板8の表面保護装飾方法を実行する金属板処理ラインであって、走行する金属板8の表面81に保護シート7を供給して貼付する保護シート貼付装置2と、保護シート7の表面72(
図2)に印刷を施す印刷装置3とを備える。
【0042】
図1に示すように、金属板処理ライン1は、入側リール11にセットされた金属板コイル80から金属板8を巻ほぐして、複数のロール12~17によって支持しながらストリップ状の金属板8を走行させて出側リール19においてコイル状に巻き取って、保護シート7を貼付した金属板8からなるコイル89を得る装置である。
【0043】
入側リール11及び出側リール19は、それぞれ、図示しない制御装置に接続され、ライン上の金属板8に所定の張力が加わるように張力制御しながら回転し、金属板を走行させるよう構成される。
【0044】
保護シート貼付装置2は、保護シート7をコイル状に巻き上げた保護シートコイル70をセットする保護シートリール21と、これから巻ほぐされた保護シート7を金属板8の表面81に貼付して押し付けるための一対のピンチロール13および14とからなる。保護シートリール21は、保護シート7がしわが生じることなく安定して金属板8上に供給されるよう、図示しない制御装置によって所定の張力制御を加えながら回転するよう構成される。
【0045】
印刷装置3は、インクジェット印刷方式のものであり、予め記憶された装飾模様を保護シート7の表面72に描くようにインク35を吐出するように構成される。この印刷装置3は、図示しない制御装置に接続されており、ラインの運転に同期して印刷制御を行うように構成される。そして、本例においては、印刷装置3は、ピンチロール13および14よりも下流側にある印刷基準ロール15に対面して配置され、保護シート貼付工程の後に、保護シート7が金属板8の表面に貼付された状態で行うように構成される。また、基準ロール15は、前後のロール13及び16を結ぶパスラインを上に押し上げるように配置され、金属板8の印刷位置を安定させる工夫がなされる。なお、印刷装置3とその下流側のロール16との間隔は、印刷された模様の乾燥が十分に行われる距離に調整される。
【0046】
また、本例の金属板処理ライン1は、最終的にコイル89を巻き上げるライン構成を有するが、コイル89を巻き上げる代わりに、印刷装置3よりも下流側に例えばフライングシャーなどの切断装置を設けて切り板状とした保護シート付きの金属板を順次積層して回収する装置とすることも可能である。また、保護シート貼付装置2よりも上流側に、洗浄装置、塗装装置、その他の金属板を処理する様々な機能を追加することも考えられる。さらに、印刷装置3の下流側に、両端部を切断除去するスリット機能を追加することもでき、この場合には、金属板8及び保護シート7の幅寸法のずれがあっても最終的に同一幅に調整することも可能となる。
【0047】
また、金属板処理ライン1の運転は、図示しない公知の制御技術を備えた制御装置により、金属板8の寸法情報、保護シート7の寸法情報、装飾模様情報等の必要な情報を用いて、正確に制御することが可能である。
【0048】
次に、本例において用いる保護シート7は、紙からなる基材シート70と、基材シート70の裏側面に形成された粘着性を有する粘着層73とを備えている。基材シート70は、種々の紙を適用することができるが、本例では、クレープ紙を採用する。また、粘着層73は、本例ではアクリル系粘着剤を用いる。基材シート70の表側面には、アクリル系の下塗剤721と剥離剤層722が設けられる。これらが存在しても、基材シート70本来のインクジェット印刷性は維持される。
【0049】
次に、本例において装飾工程を実施した一例を
図3を用いて説明する。同図に示すように、本例の装飾工程では、金属板8の前面に保護シート7が貼付され、その表面に、格子状の模様を含む装飾が印刷により施される。装飾の構成は、長手方向に沿う縦実線61が幅方向に10cm間隔で施され、これに直交する横実線62が長手方向に10cm間隔で施され、縦実線61と横実線62とにより、基本格子が描かれる。さらに、縦実線61及び横実線62に対してそれぞれ5cmずつスライドして10cm間隔で縦破線63と横破線64が印刷され、これがサブ格子として描かれる。この基本格子とサブ格子の存在により、5cm単位でのおおよその寸法が一目で理解できるようになる。これにより、後に金属板8を切断あるいはプレス加工する際の寸法把握を容易にすることが可能となる。
【0050】
また、上記基本格子およびサブ格子を構成する縦実線61、横実線62、縦破線63及び横破線64の他に、「ABC」と例示されたメーカー名65と、金属板8の「1.5mm」という厚み寸法66と、金属板8の「A5052」という材質情報66がまとまった状態で描かれ、等間隔で配置される。そして、これらと基本格子およびサブ格子が重なる部分は、本例では格子の印刷を省略して上記情報が見やすくなるように工夫される。
【0051】
なお、本例の装飾工程で描く装飾は、ほんの一例であり、印刷装置3によって印刷可能な装飾は、いかなるものでも実現可能である。
【0052】
このように、本例においては、保護シート7として紙製の保護シートを積極的に採用する。これにより、従来の樹脂フィルムを用いる場合に比べて、環境保護に優れた工業生産活動を行うことが可能となる。
【0053】
また、紙製の保護シート7を採用することにより、従来の樹脂フィルムに比べて表面への印刷性が格段に向上する。そのため、金属板を走行させるライン上において、紙製の保護シート7を表面に貼付した直後において、容易に印刷することができる。
【0054】
これにより、金属板8の表面保護と装飾を効率よく行うことができるだけでなく、その金属板8に最適な装飾柄をその金属板毎に選択して、保護シート7の貼付と合わせて必要な分だけ印刷して装飾することができる。そのため、予め印刷した保護シートを準備することが不要となり、幅サイズさえ適合させれば全ての金属板に対して同じ保護シートを使用することができ、保護シートの汎用性を確保することが可能となる。そして、それによる在庫管理の合理化や不要な在庫品の削減を図ることもでき、より一層環境保護を促進させることができる。
【0055】
以上のように、本例によれば、環境保護を図りつつ、保護シートの汎用性を確保しながら保護シート7付き金属板8の表面の装飾を容易に行うことができる金属板の表面保護装飾方法、およびそれを実行可能な金属板処理ラインを提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 金属板処理ライン
11 入側リール
19 出側リール
2 印刷装置
3 保護シート貼付装置
7 保護シート
70 保護シートコイル
71 基材シート
722 剥離剤層
73 粘着層
8 金属板
80 金属板コイル
【要約】
【課題】環境保護を図りつつ、保護シートの汎用性を確保しながら保護シート付き金属板の表面の装飾を容易に行うことができる金属板の表面保護装飾方法、およびそれを実行可能な金属板処理ラインを提供すること。
【解決手段】走行する金属板8の表面に紙製の保護シート7を供給して貼付する保護シート貼付工程と、保護シート7の表面に印刷を施して装飾する装飾工程とを、一つの金属板処理ライン1において連続して行う。金属板処理ライン1は、走行する金属板8の表面81に保護シート7を供給して貼付する保護シート貼付装置2と、保護シート7の表面に印刷を施す印刷装置2とを備える。
【選択図】
図1