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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】ゼオライト膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20231110BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231110BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20231110BHJP
   C01B 39/02 20060101ALI20231110BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20231110BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20231110BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/42
C23C16/455
C01B39/02
B01D53/04
B01J20/18 B
B01J20/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023505345
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008877
(87)【国際公開番号】W WO2022190994
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021036246
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318004501
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブコーティングス
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英児
(72)【発明者】
【氏名】坂本 仁志
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-079297(JP,A)
【文献】特開2001-269581(JP,A)
【文献】森義晴 他,ALD法を用いたフレキシブルフィルム上へのゼオライト薄膜の試作とイオン吸着特性評価,電子情報通信学会技術研究報告,日本,2018年,Vol.118, No.330,P. 27-30
【文献】今井貴大 他,室温原子層堆積法を用いた人工ゼオライト作製と色素増感太陽電池への応用,電子情報通信学会技術研究報告,日本,2016年,Vol. 116, No. 357,P. 97-101
【文献】森義晴 他,二段階吸着法を用いたアルミナシリケートの室温原子層堆積とイオン吸着応用,2020年第81回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,日本,2020年,P. 8p-Z26-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
B01D 53/04-53/053
B01J 20/18
B01J 20/30-20/34
C01B 39/02-39/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内でALDサイクルの実施により対象物の表面にゼオライト膜を成膜するゼオライト膜の製造方法であって、
前記ALDサイクルは、酸化シリコン膜形成工程と、酸化アルミニウム膜形成工程とを含み、
前記酸化シリコン膜形成工程は、
前記反応容器に、第1原料ガスとして有機Si化合物を充満させる第1工程と、
前記反応容器から前記第1原料ガスを排気する第2工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第3工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第4工程と、
を含み、
前記酸化アルミニウム膜形成工程は、
前記反応容器に、第2原料ガスとして有機Al化合物を充満させる第5工程と、
前記反応容器から前記第2原料ガスを排気する第6工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第7工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第8工程と、
を含み、
前記酸化シリコン膜及び前記酸化アルミニウム膜を、正順または逆順で交互に形成し、
前記対象物は酸化アルミニウムで形成された粉体であり、
前記ALDサイクルは、前記酸化シリコン膜形成工程が先に実施されることで、前記粉体の表面に前記酸化シリコン膜を形成する、ゼオライト膜の製造方法。
【請求項2】
反応容器内でALDサイクルの実施により対象物の表面にゼオライト膜を成膜するゼオライト膜の製造方法であって、
前記ALDサイクルは、酸化シリコン膜形成工程と、酸化アルミニウム膜形成工程とを含み、
前記酸化シリコン膜形成工程は、
前記反応容器に、第1原料ガスとして有機Si化合物を充満させる第1工程と、
前記反応容器から前記第1原料ガスを排気する第2工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第3工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第4工程と、
を含み、
前記酸化アルミニウム膜形成工程は、
前記反応容器に、第2原料ガスとして有機Al化合物を充満させる第5工程と、
前記反応容器から前記第2原料ガスを排気する第6工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第7工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第8工程と、
を含み、
前記酸化シリコン膜及び前記酸化アルミニウム膜を、正順または逆順で交互に形成し、
前記対象物は酸化シリコンで形成された粉体であり、
前記ALDサイクルは、前記酸化アルミニウム膜形成工程が先に実施されることで、前記粉体の表面に前記酸化アルミニウム膜を形成する、ゼオライト膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト膜の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトとは、ミクロ多孔性の吸着材料として知られており、ガス吸着剤等の用途がある。特許文献1に示すように、多孔質支持体上のゼオライト膜は、多孔質支持体表面においてゼオライトを膜状に結晶化させる方法、多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、有機バインダーなどで固着させる方法、ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、あるいは、ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法などによって形成される(段落0053等参照)。ここで、多孔質支持体表面においてゼオライトを膜状に結晶化させる方法とは、多孔質支持体表面においてRHO型ゼオライトを水熱合成等により、膜状に結晶化させるものをいう(段落0054等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-130719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、原料ガスと反応ガスとを用いて対象物の表面にゼオライトを成膜する新規なゼオライト膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の一態様は、
反応容器内でALD(Atomic Layer Deposition)サイクルの実施により対象物の表面にゼオライト膜を成膜するゼオライト膜の製造方法であって、
前記ALDサイクルは、酸化シリコン膜形成工程と、酸化アルミニウム膜形成工程とを含み、
前記酸化シリコン膜形成工程は、
前記反応容器に、第1原料ガスとして有機Si化合物を充満させる第1工程と、
前記反応容器から前記第1原料ガスを排気する第2工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第3工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第4工程と、
を含み、
前記酸化アルミニウム膜形成工程は、
前記反応容器に、第2原料ガスとして有機Al化合物を充満させる第5工程と、
前記反応容器から前記第2原料ガスを排気する第6工程と、
前記反応容器に、反応ガスとしてOHラジカルを充満させる第7工程と、
前記反応容器から前記反応ガスを排気する第8工程と、
を含み、
前記酸化シリコン膜及び前記酸化アルミニウム膜を、正順または逆順で交互に形成する、ゼオライト膜の製造方法に関する。
【0006】
本発明の一態様によれば、酸化シリコン膜及び酸化アルミニウム膜を、正順または逆順で交互に形成するにより、ゼオライト膜を形成している。酸化シリコンSiO膜及び酸化アルミニウムAlO膜を規則正しく配列させれば、次に示す化学式で示されるゼオライト膜を形成できる。なぜなら、ゼオライト構造の基本的な単位はSiOあるいはAlOの四面体構造であり、これらが3次元方向に連なり、結晶を形成するからである。吸着-酸化した瞬間は二種の層の積層であるが、時間とともに熱力学的な安定系(すなわちゼオライト)に変化するからである。
【化1】
【0007】
酸化シリコン膜を形成するための2種類のプリカーサー(前駆体)として、第1原料ガスである有機Si化合物と、反応ガスであるハイドロキシル基OHラジカル(OH)とが用いられる。第1原料ガスである有機Si化合物は、第1工程で反応容器に充満された後、第2工程で排気されても、対象物表面に付着している。第3工程で反応容器に充満される反応ガスであるOHラジカル(OH)は、対象物表面に付着している有機Si化合物と反応し、酸化シリコンSiO膜が原子層レベルで対象物表面に形成される。第4工程で、OHラジカル(OH)は反応容器から排気される。なお、第1原料ガスである有機Si化合物として、TDMAS(Tris(dimethylamino)silane:SiH[N(CH)、TEOS(Tetraethyl orthosilicate:Si(OC)、OMCTS(Octamethylcyclotetrasiloxane:[OSi(CH)、またはTMCTS(Tetramethylcyclotetrasiloxane:[OSiH(CH)])等を用いることができる。
【0008】
酸化アルミニウム膜を形成するための2種類のプリカーサー(前駆体)として、第2原料ガスである有機Al化合物と、反応ガスであるハイドロキシル基OHラジカル(OH)とが用いられる。第2原料ガスである有機Al化合物は、第5工程で反応容器に充満された後、第6工程で排気されても、対象物表面に付着している。第7工程で反応容器に充満される反応ガスであるOHラジカル(OH)は、対象物表面に付着している有機Al化合物と反応し、酸化アルミニウムAlO膜が原子層レベルで対象物表面に形成される。第8工程で、OHラジカル(OH)は反応容器から排気される。なお、第2原料ガスである有機Al化合物として、TMA(trimethylaluminium:Al(CH)、Al(O-sec-C(Aluminum-tri-sec-butoxide)等を用いることができる。
【0009】
この第1~第8工程がALDサイクルであり、これを繰り返すことで、酸化シリコン膜及び酸化アルミニウム膜が交互に形成される。なお、酸化シリコン膜及び酸化アルミニウム膜は、正順または逆順で交互に積層されればよく、対象物に対する最初の成膜では、第5~第8工程を実施し、その後に第1~第4工程を実施しても良い。ゼオライト膜の膜厚は、繰り返し実施されるALDサイクルのサイクル数に比例し、サイクル数を調整することで所望の膜厚とすることが可能である。この高精度積層化によりゼオライト膜の長寿命化が図れ、かつ膜厚が薄くても十分機能するため、低コスト化が実現される。
【0010】
(2)本発明の一態様(1)では、前記対象物は粉体であり、前記粉体の表面に前記ゼオライト膜が形成されても良い。ゼオライトは、分子径に相当するマイクロ孔径を持った多孔体であるので、細孔内に入った分子がその細孔内に吸着され、留まる現象が生じる。対象物に特に限定はないが、表面にゼオライト膜が形成された粉体は、ガス吸着剤等に利用することができる。ゼオライト膜が表面に形成された粉体を密に配置すると一部の気体を細孔内に吸着させる一方で、他の、一部の気体を通過させることができる。
【0011】
(3)本発明の一態様(2)では、前記粉体は酸化アルミニウムで形成され、前記ALDサイクルは、前記酸化シリコン膜形成工程が先に実施されることで、前記粉体の表面に前記酸化シリコン膜を形成することができる。こうすると、粉体表面の酸化アルミニウムと、その上に形成される酸化シリコン膜とが時間とともに熱力学的な安定系(ゼオライト)に変化する。
【0012】
(4)本発明の一態様(2)では、前記粉体は酸化シリコンで形成され、前記ALDサイクルは、前記酸化アルミニウム膜形成工程が先に実施されることで、前記粉体の表面に前記酸化アルミニウム膜を形成することができる。こうすると、粉体表面の酸化シリコンと、その上に形成される酸化アルミニウム膜とが時間とともに熱力学的な安定系(ゼオライト)に変化する。
【0013】
(5)本発明の一態様(1)では、前記対象物は多孔質体であり、前記多孔質体の表面に前記ゼオライト膜が形成されても良い。表面にゼオライト膜が形成された多孔質体は、ガス吸着可能なフィルター等に利用することができる。
【0014】
(6)本発明の他の態様は、
粉体と、
前記粉体の表面を覆うゼオライト膜と、
を有する、ガス吸着剤に関する。
【0015】
本発明の他の態様によれば、本発明の一態様(2)~(4)により初めて形成可能となったガス吸着剤を定義している。
【0016】
(7)本発明のさらに他の態様は、複数のガス吸着剤が密に配置されて構成され、前記複数のガス吸着剤が、本発明の他の態様(6)に記載のガス吸着剤を含む、ガス吸着装置に関する。
【0017】
本発明のさらに他の態様によれば、密に配置される複数のガス吸着剤の少なくとも一部、好ましくは全部の表面に形成されたゼオライト膜により、一部のガスを吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明方法の一実施形態のゼオライト膜の製造方法が実施されるALD装置を示す図である。
図2図1に示す反応ガス源の詳細を示す図である。
図3図1に示すALD装置で実施されるALD方法の実施形態を示すタイミングチャートである。
図4】ガス吸着装置の一例である呼吸器用酸素濃縮器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ALD装置
図1に、反応容器10とガス源100とを含むALD装置200の一例が示されている。反応容器10は、粉体Pを収容する容器本体20と、容器本体20内にガス源100からのガスを導入するガス導入口30と、容器本体20内に設けられる第1フィルター40と、容器本体20内を排気する排気口50と、容器本体20内に設けられる第2フィルター60とを含むことができる。第1フィルター40は、ガスの通過を許容する一方で、粉体Pがガス導入口30に向けて通過するのを阻止する。第2フィルター60は、ガスの通過を許容する一方で、粉体Pが排気口50に向けて通過するのを阻止する。そして、容器本体20、第1フィルター40及び第2フィルター60で仕切られる粉体収容室70に、粉体Pが出し入れ可能に収容される。ここで、粉体Pはサイズが例えばミクロン、サブミクロン又はナノオーダーの微粒子とすることができる。粉体Pの材質は問わないが、好ましくは酸化アルミニウムまたは酸化シリコンとすることができる。
【0020】
ALD装置200は、反応容器10のガス導入口30に気密に接続されるガス導入管202と、反応容器10の排気口50に気密に接続される排気管203とを有する。ガス導入管202には、ガス源1010が接続されている。排気管203には排気ポンプ270が接続され、反応容器10内を真空引き可能である。
【0021】
ガス源100は、原料ガス源130及び反応ガス源140を含む。原料ガス源130は、第1原料ガス源131と、第2原料ガス源132と、を含む。本実施形態では、不活性ガス源170がさらに設けられ、ガス導入口30を介して反応容器10内に不活性ガスを供給して、反応容器10内をパージ可能である。なお、パージガスの導入に代えて、真空ポンプ270により容器10内を排気口50を介して排気しても良い。これらのガス源130(131,132)、140及び170からのガスは、流量制御器80A~80D及びバルブ90A~90Dを介して、供給タイミング及び流量が制御されて、ガス導入管202を介して択一的に反応容器10内に供給される。
【0022】
第1原料ガス源131は、第1原料ガスとして有機Si化合物例えばTDMAS(SiH[N(CH)を供給する。第2原料ガス源132は、第2原料ガスとして有機Al化合物例えばTMA(Al(CH)を供給する。反応ガス源140は、OHラジカルを供給する。反応ガス源140は、図2に示すように、不活性ガス例えばアルゴンArの容器141と、水2を含む加湿器142と、活性化装置143と、を含むことができる。加湿器142からは、アルゴンArによりバブリングされた水が水蒸気ガスとなって送出される。活性化装置143では、加湿されたアルゴンガスが通るガラス管143Aの周囲の誘導コイル143Bでプラズマ3を発生させて、水蒸気を活性化させる。それにより、Ar+HO→Ar+OH+Hとなり、OHラジカル(OH)を生成できる。
【0023】
2.ALD工程
反応容器10に粉体Pをセットして、ALDサイクルが実施される。なお、粉体Pが収容された反応容器10を、図示しない分散装置にセットして、粉体Pを拡散しても良い。粉体Pのサイズが小さいほど凝縮し易いので、成膜前に分散させることが好ましい。一般にALDサイクルとは、原料ガスの投入→排気(パージまたは真空引き)→反応ガスの投入→排気の最小4ステップを一サイクルとする。本実施形態では、ALD装置200で粉体P上に成膜される膜は、酸化シリコン膜及び酸化アルミニウム膜であり、これらが正順または逆順で交互に形成される。よって、本実施形態では、本実施形態でのALDサイクルとは、図3に示すように、第1原料ガスの投入→排気→反応ガスの投入→排気→第2原料ガスの投入→排気→反応ガスの投入→排気を一サイクルとする。粉体Pに成膜される膜の厚さはALDサイクルの数Nに比例する。よって、ALDサイクル終了毎にカウントアップされるサイクル数が設定値に達したかが判断され、図3に示すようにALDサイクルが必要数Nだけ繰り返し実施される。
【0024】
2.1.酸化シリコン膜
2種類のプリカーサー(前駆体)として、第1原料ガス源131からのTDMAS(SiH[N(CH)と、反応ガス源140からのハイドロキシル基OHラジカル(OH)とが用いられる。ALDサイクルを実施するにあたり、先ず、排気ポンプ270により反応容器10内が真空引きされ、例えば10-4Paに設定される。次に、ALDサイクルの1ステップ目として、第1原料ガスTDMAS(SiH[N(CH)が反応容器10内に所定の圧力例えば1~10Paで充満される。ALDサイクルの1ステップ目で、粉体Pの表面にTDMAS(SiH[N(CH)が浸透する。所定時間経過後、ALDサイクルの2ステップ目として、反応容器10内にパージガスが導入され、反応容器10内のTDMAS(SiH[N(CH)が排気されてパージガスに置換される。
【0025】
次に、ALDサイクルの3ステップ目として、反応ガスであるハイドロキシル基OHラジカル(OH)が反応容器10内に所定の圧力例えば1~10Paで充満される。ALDサイクルの3ステップ目で、粉体Pの表面にOHラジカル(OH)が浸透する。その結果、粉体Pの表面では、TDMAS(SiH[N(CH)がOHラジカル(OH)と反応して、酸化シリコンSiO膜が生成される。特に、粉体Pの表面のハイドロキシル基(ヒドロキシ基(-OH)上には、有機Si化合物ガスは室温でも飽和吸着が可能である。よって、成膜中に粉体Pを強制加熱する必要がない。所定時間経過後、ALDサイクルの4ステップ目として、反応容器10内にパージガスが導入され、反応容器10内のOHラジカル(OH)がパージガスに置換される。それにより、酸化シリコン膜の成膜工程が終了する。
【0026】
2.2.酸化アルミニウム膜
2種類のプリカーサー(前駆体)として、第2原料ガス源132からのTMA(Al(CH)と、反応ガス源140からのハイドロキシル基OHラジカル(OH)とが用いられる。先ず、排気ポンプ270により反応容器10内が真空引きされ、例えば10-4Paに設定される。次に、ALDサイクルの5ステップ目として、第2原料ガスTMA(Al(CH)が反応容器10内に所定の圧力例えば1~10Paで充満される。ALDサイクルの5ステップ目で、粉体Pの表面にTMA(Al(CH)が浸透する。所定時間経過後、ALDサイクルの6ステップ目として、反応容器10内にパージガスが導入され、反応容器10内のTMA(Al(CH)が排気されてパージガスに置換される。
【0027】
次に、ALDサイクルの7ステップ目として、反応ガスであるハイドロキシル基OHラジカル(OH)が反応容器10内に所定の圧力例えば1~10Paで充満される。ALDサイクルの7ステップ目で、粉体Pの表面にOHラジカル(OH)が浸透する。その結果、粉体Pの表面では、TMA(Al(CH)がOHラジカル(OH)と反応して、酸化アルミニウムAlO膜が生成される。特に、粉体Pの表面のハイドロキシル基(ヒドロキシ基(-OH)上には、有機Al化合物ガスは室温でも飽和吸着が可能である。所定時間経過後、ALDサイクルの8ステップ目として、反応容器10内にパージガスが導入され、反応容器10内のOHラジカル(OH)がパージガスに置換される。それにより、酸化アルミニウム膜の成膜工程が終了する。
【0028】
3.ゼオライトの成膜
酸化シリコンSiO膜及び酸化アルミニウムAlO膜が規則正しく配列されることで、ゼオライト膜が形成される。なぜなら、ゼオライト構造の基本的な単位はSiOあるいはAlOの四面体構造であり、これらが3次元方向に連なり、結晶を形成するからである。吸着-酸化した瞬間は二種の層の積層であるが、時間とともに熱力学的な安定系(すなわちゼオライト)に変化するからである。
【0029】
4.ガス吸着剤及びガス吸着装置
ゼオライト膜で被膜された粉体Pは、ガス吸着剤として好適に利用することができる。ゼオライト膜は、例えば空気内の窒素の吸着率が酸素の吸着率よりも高い。よって、空気を機器に取り込み、その空気から高濃度の酸素を作り出す医療機器に、ゼオライト膜で被膜された粉体Pを利用することができる。
【0030】
図4は、ガス吸着装置の一例である呼吸器用酸素濃縮器300を示している。呼吸器用酸素濃縮器300は、酸素濃縮部310と、酸素濃縮部310に空気を導入する導入部320と、酸素濃縮部310から酸素が濃縮された気体が導出される導出部330と、を有する。酸素濃縮部310内では、ゼオライト膜で被膜された複数の粉体Pが空気の通路に密に配置される。あるいは、酸素濃縮部310内では、ゼオライト膜で被膜された複数の粉体Pが密に配置される多孔体が、空気の通路に配置される。導入部320から酸素濃縮部310に導入された空気は、相対的に酸素よりも窒素が多く吸着されるので、酸素濃縮部310内で酸素が濃縮されて導出部330から導出される。なお、ゼオライト膜が形成される対象物は、粉体や多孔質体に限らず、ゼオライト膜の形成が必要な対象物に適用できる。
【符号の説明】
【0031】
10…反応容器、100…ガス源、130…原料ガス源、131…第1原料源、132…第2原料ガス源、140…反応ガス源、170…不活性ガス源、80A~80D…流量制御器、90A~90D…バルブ、200…ALD装置、202…ガス導入管、203…排気管、300…ガス吸着装置(呼吸器用酸素濃縮器)、310…酸素濃縮部、320…導入部、330…導出部、P…対象物(粉体)
図1
図2
図3
図4