(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の予防または治療用医薬の調製におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7076 20060101AFI20231110BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231110BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231110BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231110BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
A61K31/7076
A61K9/08
A61K9/20
A61K9/48
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2018533743
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2016112623
(87)【国際公開番号】W WO2017114413
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】201511034199.0
(32)【優先日】2015-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522337772
【氏名又は名称】北京谷神生命健康科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Beijing Gushen Life Health Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】R1202, 11th Floor, Building No.1, No.105 Yaojiayuan Road, Chaoyang District, Beijing 100026, China
(73)【特許権者】
【識別番号】591120284
【氏名又は名称】中国医学科学院葯物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MATERIA MEDICA, CHINESE ACADEMY OF MEDICAL SCIENCES
【住所又は居所原語表記】NO.1, Xian Nong Tan Street, Xuanwu District, Beijing,China
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(72)【発明者】
【氏名】朱 海波
(72)【発明者】
【氏名】史 会杰
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519714(JP,A)
【文献】特開2007-210926(JP,A)
【文献】特開2011-196874(JP,A)
【文献】特開2005-132812(JP,A)
【文献】Lipids in Health and Disease, 2011, 10, p.67(http://www.lipidworld.com/content/10/1/67)
【文献】PLoS One, 2012, 7(3), e32115
【文献】日本消化器病学会雑誌、2014年、111巻1号、4~13頁
【文献】肝臓、1981年、22巻1号、123頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療用医薬の調製における式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンまたはその薬学的に許容可能な塩の使用であって、
前記医薬は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療において肝細胞の損傷を抑える肝機能保護医薬であって、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する
患者に有効量の前記医薬を一日に2回投与することで、前記
患者の血漿の総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、LDL-C(低比重リポタンパク質コレステロール)、HDL-C(高比重リポタンパク質コレステロール)及び遊離脂肪酸(FFA)のレベルを低下させることを特徴とする使用。
【化1】
【請求項2】
前記医薬は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療において血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)のレベルを低下させる肝機能改善医薬であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、高カロリー飲食による
ものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療用医薬の調製における医薬組成物の使用において、前記医薬組成物は、式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン又はその薬学的に許容可能な塩及びその薬学的に許容可能な担体を含み、
前記医薬は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療において肝細胞の損傷を抑える肝機能保護医薬であって、
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する
患者に有効量の前記医薬を一日に2回投与することで、前記
患者の血漿の総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、LDL-C(低比重リポタンパク質コレステロール)、HDL-C(高比重リポタンパク質コレステロール)及び遊離脂肪酸(FFA)のレベルを低下させることを特徴とする使用。
【化1】
【請求項5】
前記医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、丸剤または注射剤であって、
前記医薬組成物は、徐放性製剤、放出制御製剤または各種の微粒子投薬システムであることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪肝の予防または治療用医薬の調製における、トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンおよびそれを含有する医薬組成物の使用に関し、医薬技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease,NAFLD)とは、過度の飲酒およびその他の明らかに肝損傷を与える病気によるものを除く、肝実質細胞損傷および脂肪蓄積を特徴とする臨床病理症候群、インスリン抵抗性(insulin resistance,IR)および遺伝的素因と密接に関連する代謝ストレス性の肝損傷を意味し、その病理学的変化はアルコール性肝炎と類似しているが、患者に過度の飲酒歴がない。その構成には、非アルコール性単純脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪肝線維化、非アルコール性脂肪肝硬変およびそれに関連する肝癌(HCC)等が含まれる。中国の経済発展に伴い、人々の飲食の構成や時間が大きく変化して、非アルコール性脂肪肝の発症率が上昇し続けており、また、低年齢化の趨勢を示しており、人類の心身健康に深刻な脅威をもたらす一般的な疾病となった。
【0003】
NAFLDの正確な発症機序は未だに明らになっていないが、比較的に認められているのは「2ヒット」理論である。この理論の2つの段階において、第1ヒットは、高脂肪食の過剰摂取によって分解量が低下して、脂質蓄積が生じ、単純性脂肪肝を形成することである。第2ヒットにおいて、IRは、インスリンの脂肪代謝に対する調節作用を弱化させ、損なわせて、脂質の溶解を増加させ、遊離脂肪酸(nonesterified free fatty acid,FFA)の濃度を高め、血中FFAの肝臓への摂取を高めてしまう。酸化ストレスと脂質過酸化損傷は、脂肪肝の形成および進行過程で重要な作用を行い、脂肪肝が第2ヒットを受けてさらに進行する際の重要な因子である。ミトコンドリアは細胞の呼吸器官であり、活性酸素種(reactive oxygen species,ROS)の増大によりミトコンドリアが損傷され、肝臓の脂質蓄積をさらに悪化させる。また、酸化ストレスで生じたラジカルが脂質過酸化(lipid peroxidation,LPO)の損傷反応をもたらし、一連の脂質ラジカルおよび分解生成物であるマロンジアルデヒド(malondialdehyde,MDA)を形成するとともに、生体膜の構造と機能を損なわせ、細胞膜の透過性を増加させて、シトクロムCが流出され、アポプトーシスプロセスを起こし、最終的には肝線維化、肝硬変をもたらし、ひいては肝癌へと進行してしまう。現在も特効薬がなく、通常用いられるスタチン系、フィブラート系等の抗高脂血症剤は、治療効果が低く、毒性副作用が大きい。
【0004】
トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(特許番号ZL200980101131.6、公告番号CN101874036B、公告日2012年01月25日)は、Institute of Materia Medica, CAMS & PUMCがコルジセピン誘導体で選別した顕著な血中脂質調節活性を有する新規な構造タイプの化合物であり、また、毒性副作用が少なく、薬物動態学的に優れている等の特徴があり、現在、臨床前の研究段階にある。非アルコール性脂肪肝の予防または治療における当該化合物の使用については現在報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術課題は、非アルコール性脂肪肝の予防または治療用医薬の調製における、化合物トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンおよびその医薬組成物の使用を提供することである。
【0006】
本発明の技術課題を解決するため、以下の技術態様を提供する。
本発明に係る技術態様の第一の態様は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
の治療用医薬の調製における、式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンまたはその薬学的に許容可能な塩の使用であって、前記医薬は、前記非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝細胞の損傷を抑える肝機能保護医薬であって、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する
患者に有効量の前記医薬を一日に2回投与することで、前記
患者の血漿の総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、LDL-C(低比重リポタンパク質コレステロール)、HDL-C(高比重リポタンパク質コレステロール)及び遊離脂肪酸(FFA)のレベルを低下させることを特徴とする使用を提供する。
【化1】
【0007】
前記医薬は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療において血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)のレベルを低下させる肝機能改善医薬である。
前記非アルコール性脂肪肝は、高カロリーの飲食によるものである。
【0008】
本発明に係るトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンにより非アルコール性脂肪性肝疾患を治療することは、血清AST、ALTおよびTGレベルを明らかに低下させ、脂肪肝があるゴールデンハムスターの肝機能を顕著に改善し、脂肪肝の程度を軽減して、非アルコール性脂肪性肝疾患
を治療できることを意味する。
本発明に係る技術態様の第二の態様は、非アルコール性脂肪性肝疾患
の治療用医薬の調製における医薬組成物の使用において、前記医薬組成物は、式(I)で表されるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン又はその薬学的に許容可能な塩及びその薬学的に許容可能な担体を含み、前記医薬は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)における肝細胞の損傷を抑える肝機能保護医薬であって、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する
患者に有効量の前記医薬を一日に2回投与することで、前記
患者の血漿の総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、LDL-C(低比重リポタンパク質コレステロール)、HDL-C(高比重リポタンパク質コレステロール)及び遊離脂肪酸(FFA)のレベルを低下させることを特徴とする使用を提供する。
【化1】
【0009】
前記医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、丸剤および注射剤、徐放性製剤、放出制御製剤または各種の微粒子投薬システムを含む。該医薬組成物は当該分野の公知の方法に基づいて調製することができる。本発明に係る化合物を一種以上の薬学的に許容可能な固体または液体の賦形剤および/またはアジュバントと組み合わせることで、ヒトや動物への使用に適したいずれかの剤形を調製することができる。本発明に係る化合物のその医薬組成物における含有量は一般的に0.1~95重量%である。
【0010】
本発明に係る化合物またはそれを含有する医薬組成物は、単位用量の形式で投薬してもよく、投薬経路は、腸または非腸であってもよく、例えば、経口、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、鼻腔、口腔粘膜、目、肺および呼吸器、皮膚、腟、直腸等である。
【0011】
投薬剤形は、液体剤形、固体剤形または半固体剤形であってもよい。液体剤形は、溶液剤(真溶液およびコロイド溶液を含む)、乳剤(o/w型、w/o型およびダブルエマルションを含む)、懸濁剤、注射剤(水性注射剤、粉末注射剤および点滴を含む)、点眼剤、点鼻剤、洗剤および塗布剤等であってもよい。固体剤形は、錠剤(通常の錠剤、腸溶性錠剤、トローチ剤、分散性錠剤、チュアブル錠剤、発泡錠剤、口腔内崩壊錠剤を含む)、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、腸溶性カプセル剤を含む)、顆粒剤、散剤、ピル、滴丸、坐薬、膜剤、パッチ、エアゾールおよび粉末吸入剤、スプレー等であってもよい。半固体剤形は、軟膏剤、ゲル剤、ペースト剤等であってもよい。好ましい医薬組成物の剤形は、錠剤、カプセル剤、丸剤、注射剤から選ばれる。
【0012】
本発明に係る化合物は、通常の製剤に調製してもよく、徐放性製剤、放出制御製剤、標的製剤および各種の微粒子投薬システムに調製してもよい。
【0013】
本発明に係る化合物を錠剤に調製するために、希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤を含む、当該分野で公知の各種の賦形剤を広く使用することができる。希釈剤は、デンプン、デキストリン、スクロース、グルコース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、微結晶セルロース、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等であってもよい。湿潤剤は、水、エタノール、イソプロパノール等であってもよい。結合剤は、デンプンペースト、デキストリン、シロップ、蜂蜜、グルコース溶液、微結晶セルロース、アラビアゴムペースト、ゼラチンペースト、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル樹脂、カルボマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等であってもよい。崩壊剤は、乾燥デンプン、微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよびクエン酸、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ドデシルスルホン酸ナトリウム等であってもよい。潤滑剤および流動促進剤は、タルク、シリカ、ステアリン酸塩、酒石酸、流動パラフィン、ポリエチレングリコール等であってもよい。
【0014】
錠剤を、例えば砂糖コーテイング錠、フィルムコーティング錠、腸溶コーティング錠、または二層錠および多層錠のようなコーティング錠にさらに調製することもできる。
【0015】
投薬ユニットをカプセル剤に調製するために、有効成分である本発明に係る化合物を希釈剤、流動促進剤とまず混合し、混合物を硬カプセル剤または軟カプセル剤中に直接入れてもよい。有効成分である本発明に係る化合物を希釈剤、結合剤、崩壊剤と顆粒またはピルにまず調製してから、硬カプセル剤または軟カプセル剤中に再度入れてもよい。本発明に係る化合物の錠剤の製造に用いられる各種の希釈剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、流動促進剤の品は、本発明に係る化合物のカプセル剤の製造に用いられてもよい。
【0016】
本発明に係る化合物を注射剤に調製するために、水、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールまたはこれらの混合物を溶剤として、当該分野で通常用いられる可溶化剤、助溶剤、PH調整剤、浸透圧調節剤を適量加えてもよい。可溶化剤または流動促進剤は、ポロキサマー、レシチン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等であってもよい。PH調整剤は、リン酸塩、酢酸塩、塩酸、水酸化ナトリウム等であってもよい。浸透圧調節剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、グルコース、リン酸塩、酢酸塩等であってもよい。凍結乾燥粉末注射剤を製造する場合、マンニトール、グルコース等をサポートエージェントとしてさらに加えてもよい。
【0017】
また、必要であれば、医薬製剤中に着色剤、防腐剤、香料、香味料またはその他の添加剤を添加してもよい。
薬物の使用目的を達成し、治療効果を増大させるため、本発明の医薬または医薬組成物は、任意の公知の投薬方法で投薬することができる。
【0018】
本発明に係る化合物の医薬組成物の投薬用量は、予防または治療すべき疾病の性質および深刻度や、患者または動物のそれぞれの状況に基づき、投薬経路および剤形等を広範囲に変化させてもよい。一般的に、本発明に係る化合物の適切な1日の用量の範囲は、0.001~150mg/kg体重であり、好ましくは0.1~100mg/kg体重であり、より好ましくは1~60mg/kg体重であり、最も好ましくは2~30mg/kg体重である。上記用量は、1つの用量単位または複数の用量単位に分けて投薬してもよく、これは、医師の臨床経験、およびその他の治療手段の運用を含む投薬方法によって左右される。
【0019】
本発明の化合物または組成物は、単独で服用してもよく、またはその他の治療薬や対症薬と併用してもよい。本発明の化合物は、その他の治療薬との相乗効果がある場合、実際の状況に応じてその用量を調整しなければならない。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、薬力学研究方法を用いて、非アルコール性脂肪肝の予防または治療におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンの顕著な作用を実証しており、このような発症機序が複雑で治療効果が低い慢性疾患に、新しい予防または治療薬であるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシンを提供しており、その治療効果が顕著で、毒性副作用が少なく、安全に使用できるため、非アルコール性脂肪肝の予防または治療方面における臨床使用に科学的な根拠を提供した。
【0021】
本発明の内容がより容易かつ明瞭に理解されるように、以下、本発明の具体的な実施例によりかつ図面を参照しながら、本発明についてさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る前記実験例において、ゴールデンハムスター各群の体重および肝臓係数を比較した図である。
【
図2】本発明に係る前記実験例において、ゴールデンハムスターの血清中のコレステロール、トリグリセリド、高密度リポ蛋白質、低密度リポ蛋白質および遊離脂肪酸の含有量の測定結果を比較した図である。
【
図3】本発明に係る前記実験例において、ゴールデンハムスターのALTおよびAST酵素活性を比較した図である。
【
図4】本発明に係る前記実験例において、各群のゴールデンハムスターの肝組織の脂質含有量の測定結果を比較した図である。
【
図5】本発明に係る前記実験例における、ゴールデンハムスターの肝臓の磁気共鳴イメージング図である。
【
図6】本発明に係る前記実験例において、各群のゴールデンハムスターの肝組織に対するHE病理染色の結果を比較した図である。
【
図7】本発明に係る前記実験例において、各群のゴールデンハムスターの肝組織に対するオイルレッドO染色状況の結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明を何ら制限するものではない。
【0024】
実施例1:非アルコール性脂肪肝の治療におけるトリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(IMM-H007)の使用
一、実験材料
1.試薬
OCT凍結組織包埋剤(Sakura Finetek USA, Inc.)、ペントバルビタールナトリウム(Sigma-Aldrich Co. LLC.)、PEG6000(Sigma-Aldrich Co. LLC.)、グリシン(Sigma-Aldrich Co. LLC.)、パラホルムアルデヒド(Sinopharm Chemical ReagentCo., Ltd)、オイルレッドO(Sigma-Aldrich Co. LLC.)、HE染色液(BaSO Biotech Co., LTD.)、総コレステロール(TC)測定キット(Sekisui Medical Technology(China)LTD)、総トリグリセリド測定キット(BIOSINO BIO-TECHNOLOGY&SCIENCE INC)、遊離脂肪酸測定キット(Sekisui Medical Technology(China)LTD)、アラニントランスアミナーゼ(AST/ALT)測定キット(Nanjing Jiancheng Bioengineering Institute)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST/GOT)測定キット(Nanjing Jiancheng Bioengineering Institute)。
【0025】
2.機器
多用途低温高速遠心分離機(Eppendorf AG)、パラフィンミクロトーム(Leica Camera AG)、凍結ミクロトーム(Leica Camera AG)、En Vision多機能酵素標識機器(PerkinElmer, Inc.)、小動物麻酔器(Matrix USA製品)、小動物磁気共鳴イメージング装置(Bruker PharmaScan 70T/16US)。
【0026】
3.実験動物
体重90~120g、雄性、SPF級の6~8週齢のシリアンゴールデンハムスター(LVG hamster,導入元Charles River Laboratories)20匹を、Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.より購入した。許可証番号は、SCXK(京)2012-0001である。
【0027】
二、実験方法
1.動物群および飼育
動物が適応するように5日間餌付けた後、体重に基づいてランダムに正常群(n=15)、高脂肪飼料群(n=15)、IMMH007低用量群(25mg/kg、n=15)、IMMH007中用量群(50mg/kg、n=15)、IMMH007高用量群(100mg/kg、n=15)に分けて、一日に2回胃内投与する。動物は、Institute of Materia Medica, CAMS & PUMCの動物実験センター二部で飼育し、飼育条件は、SPF級、温度21±2℃、相対湿度50±5%、光照射周期12/112、各ケージに5匹とする。正常群に正常基礎飼料を与え、高脂肪飼料群に高脂肪飼料(基礎飼料79.8%にラード20%およびコレステロール0.2%を加える)を与え、動物は自由に摂食、飲水する。飼料は、BEIJING HFK BIOSCIENCE CO.,LTDに委託して生産したものである。実験中、2週間毎に体重を一回記録する。
【0028】
2.観察指標および測定方法
2.1 血清生化学指標
動物を12時間断食させた後、眼角静脈から0.5ml採血して、60min静置し、6000gで10min遠心し、できるだけ多くの上清を吸引してから、6000gで10min遠心し、TC、TG、ASTおよびALTキットの説明書に基づいて吸光度値を測定して、各指標濃度を算出する。血清50ulを取りPEG6000 50ulと1:1で混合し、ボルテックスして均一化し、10min静置し、常温下で1900gで20min遠心し、上清を注意深く吸引し、4℃で保存して、TCキットの説明書に基づいてHDL-Cを測定する。血漿LDLレベルは、血漿の総コレステロールTCからHDL-Cおよび0.2倍のTGレベルを減算することによる。すなわちLDL=TC-HLD-0.2TGとする。
【0029】
実験終了前に一晩断食させ、3%ペントバルビタールナトリウムの腹腔注射で麻酔し、腹腔を露出して腹部の大動脈から採血した後、肝臓を迅速に分離する。肝臓一葉を摘出し、固定部位に2つの1×1cm3の小塊を切り取った後、一方の小塊は、OCT包埋を用いて、液体窒素に投入して急冷し、液体窒素中または-80℃で保存し、他方の小塊は、4%パラホルムアルデヒド固定液中に投入し、4℃で保存する。
【0030】
2.2 磁気共鳴イメージング
動物を12時間断食させた後、イソフルランで麻酔し、頭部を固定し、ラット用コイル上に仰臥させて固定し、頭を先に入れて、腹部を中心に位置させる。
高速スピンエコーシークエンスのT2強調画像(T2-weighted imaging,T2WI):TR/TE=200/3ms、FA=30°。視野(FOV)=3.6×3.6、マトリックス=256×256、励起回数=2回。
【0031】
2.2 肝組織脂質含有量分析
肝臓組織100mgを正確に秤り取り、トリグリセリドを加えてバッファを測定し、ホモジナイザーで組織を氷浴中で明らかな組織塊がなくなるまでホモジネートする。氷上に5min放置し、1.5ml遠心管中に移し、14000g、4℃で10min遠心し、上清を移し、上清の一部を取って蛋白定量を行い、TC、TGキットの説明書に基づいて脂質含有量を測定する。
【0032】
2.3 肝組織病理染色
2.3.1 パラフィン切片の作製
パラホルムアルデヒド固定液で固定された肝臓を水道水で清浄し、以下のステップによって脱水する。70%エタノールで一晩、80%エタノールで一晩、90%エタノールIで30min、90%エタノールIIで30min、95%エタノールIで60min、95%エタノールIIで60min、100%エタノールIで60min、100%エタノールIIで60minであって、正常組織は脱水時間を適宜延ばすことができる。組織を脱水した後、CHAOANを用いて透明化する。CHAOANIで60min、CHAOANIIで60min、CHAOANIIIで60minであって、正常対照群の肝臓は透明化時間を適宜延ばすことができる。65℃でパラフィンに浸漬する。パラフィンIで50min、パラフィンIIで50min、パラフィンIIIで50minである。包埋し、切片厚さは7umであり、45℃で切片を伸展し、切片を50℃で一晩乾かす。
【0033】
2.3.2 凍結切片の作製
肝臓組織の切片化前にミクロトームの冷蔵庫の温度を-19℃に設定し、試料ホルダを-21℃に設定する。液体窒素または-80℃で保存された肝臓は、先ず-20℃の環境で温度を平衡させ、さらに組織をミクロトームの試料台に置いて温度を平衡させる。組織塊を速やかにトリミングした後、連続して切り出し、切片厚さは7umであり、清潔なポリリジンが包被されたスライドガラス上に貼り付ける。
【0034】
2.3.3 オイルレッドO染色
凍結切片を4%パラホルムアルデヒド生理溶液に10min固定し、水道水で2min洗浄し、60%イソプロパノールで数秒間リンスし、遮光された染色キット内に0.5%オイルレッドO作用液を用いて10~15min滴下して染色し、60%イソプロパノールで数秒間色分解し、水道水で軽く洗浄して、ヘマトキシリンで3~5min再度染色し、水道水で軽く洗浄して、1%塩酸水で分別し、水道水で2min洗浄して青色に戻し、グリセロゼラチンでシールし、顕微鏡下で観察する。
【0035】
2.3.4 HE染色
パラフィン切片を以下のステップによって脱水する。CHAOANIで5min、CHAOANIIで5min、CHAOANIIIで5min、100%エタノールIで3min、100%エタノールIIで3min、95%エタノールIで3min、95%エタノールIIで3min、80%エタノールで3minであり、水道水で1min洗浄する。ヘマトキシリンで5min染色し、水道水で1min洗浄し、1%塩酸エタノールで数秒間分別し、水道水で洗浄して青色に戻し、80%エタノールに入れて数秒間リンスし、エオジンで10秒染色し、80%エタノールおよび95%エタノールで色を調整し、脱水する。すなわち95%エタノール、100%エタノールI、100%エタノールII、CHAOANI、CHAOANII、CHAOANIII60で各2minである。超洗浄高級Entellanでシールし、顕微鏡下で観察する。
【0036】
3.データ分析
データを平均値±標準誤差で表し、全てのデータはGraphpad Prism5.0ソフトウェアを用いてONEWAY-ANOVA統計分析を行い、画像を比較分析する。
【0037】
三、実験結果
3.1 IMM-H007の、高脂肪食誘導非アルコール性脂肪肝ゴールデンハムスターの体重および肝臓係数への影響
表1および
図1から分かるように、正常群のゴールデンハムスターに比べて、モデル群のゴールデンハムスターは、体重が明らかに増加し、肝臓係数が増加しており、モデル群に比べて、IMM-H007を与えて治療した後に、体重および肝臓係数がいずれも低下した。しかし、シンバスタチンを与えて治療した後には、ゴールデンハムスターの肝臓係数が低下せず、逆に顕著に上昇した。
【0038】
【0039】
3.2 IMM-H007の、高脂肪食誘導非アルコール性脂肪肝ゴールデンハムスター血清中の血中脂質指標への影響
正常群のゴールデンハムスターに比べて、モデル群のゴールデンハムスター血清TC、TG、LDL-C、HDL-CおよびFFAがいずれも顕著に上昇しており、モデル群に比べて、IMM-H007を与えた後に、TC、TG、LDL-C、HDL-CおよびFFAがいずれも顕著に低下した(表2および
図2)。
【0040】
【0041】
3.3 IMM-H007の、高脂肪食誘導非アルコール性脂肪肝ゴールデンハムスターの肝機能への影響
表3から分かるように、モデル群のゴールデンハムスター血清アラニントランスアミナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼのレベルが顕著に上昇し、IMM-H007治療後に、血清ALTおよびASTがいずれも顕著に低下した。しかし、シンバスタチンを与えて治療した後には、アラニントランスアミナーゼが低下せず、逆に顕著に上昇したが(表3および
図3)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼのレベルはモデルと顕著な差がなく、IMM-H007が良好な肝保護作用を有するが、シンバスタチンが肝損傷作用を示すことが提示された。
【0042】
【0043】
3.4 IMM-H007の、高脂肪食誘導非アルコール性脂肪肝ゴールデンハムスターの肝臓脂質の変化への影響
表4および
図4から分かるように、正常群のゴールデンハムスターに比べて、モデル群のゴールデンハムスターの肝臓におけるTC、TGが顕著に上昇し、モデル群に比べて、シンバスタチンおよびIMM-H007を与えた後に、TC、TGがいずれも顕著に低下した。
【0044】
【0045】
3.5 肝臓MRI分析
MRI検査結果が示すように、正常群に比べて、モデル群のゴールデンハムスターの皮下および腹腔脂肪が顕著に増加し、シンバスタチンおよびIMM-H007を与えた後に、皮下および腹腔脂肪を減少させることができた(
図5)。
【0046】
3.6 肝臓組織の病理学的観察
図6に示すHE染色結果から、正常動物肝細胞は、中心静脈を中心として周囲に向かって放射状をなすように配列し、中心静脈およびその他の血管壁にコラーゲン線維が規則的に分布しており、モデル群の動物肝細胞には、空胞化が現われ、肝細胞間にコラーゲン線維が現われ、かつ不規則に分布していた。シンバスタチン群の動物肝細胞内には、空胞が現われ、肝細胞間にコラーゲン線維が現われ、かつ不規則な分布をなし、IMM-H007の各用量群の肝細胞は、中心静脈を中心として周囲に向かって放射状をなすように配列し、中心静脈および肝小葉境界領域にコラーゲン線維の規則的な分布をなすことが見出された。
【0047】
オイルレッドO染色結果から、正常群の動物肝細胞は、中心静脈を中心として周囲に向かって放射状をなすように配列し、肝細胞内の中性脂肪含有量が少なかった。高脂肪食事群の動物肝細胞内には、大量の脂肪蓄積があり、空胞化が現われ、シンバスタチン群の動物肝細胞内には、脂肪蓄積があり、大量の壊死巣があることが見出された(
図7)。IMM-H007の各用量群の動物肝細胞内にも脂肪蓄積が見られるが、モデル群に比べて、明らかに減少した。
【0048】
上述のように、トリアセチル-3-ヒドロキシフェニルアデノシン(IMM-H007)は、非アルコール性脂肪肝ゴールデンハムスターの血中脂質レベルを顕著に低下させて、AST、ALTレベルを明らかに低下させ、肝機能を顕著に改善することができる。よって、IMM-H007が、非アルコール性脂肪肝の予防または治療用医薬の調製に使用可能であることを提示している。