(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】試料分析装置及び試料分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20231110BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
G01N21/78 A
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2019094648
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】金 翔寿
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-285988(JP,A)
【文献】国際公開第2008/016252(WO,A1)
【文献】特開昭63-145924(JP,A)
【文献】特表2017-510319(JP,A)
【文献】国際公開第2015/134820(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域を有する試験片を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記試験片の前記呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する抽出部と、
前記第1座標と、前記分析対象物質の標準濃度に対応する前記色空間における既定関数とを用いて、前記第1座標から前記既定関数までの距離が最小となる前記既定関数上の第2座標を算出する第1算出部と、
前記既定関数上の所定の座標と前記第2座標
とを結ぶ線分の傾き又は角度に基づいて、前記分析対象物質の濃度を算出する第2算出部と、を備えることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
撮像部により、試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域を有する試験片を撮像する撮像工程と、
抽出部により、前記撮像部により撮像された前記試験片の前記呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する抽出工程と、
第1算出部により、前記第1座標と、前記分析対象物質の標準濃度に対応する前記色空間における既定関数とを用いて、前記第1座標から前記既定関数までの距離が最小となる前記既定関数上の第2座標を算出する第1算出工程と、
第2算出部により、
前記既定関数上の所定の座標と前記第2座標
とを結ぶ線分の傾き又は角度に基づいて、前記分析対象物質の濃度を算出する第2算出工程と、を備えることを特徴とする試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析装置及び試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水質検査、臨床検査、食品検査等において、呈色を利用した試料中の分析対象物質濃度を測定する方法が知られている。例えば、水質検査においては、呈色剤(試薬)を含む試験片に分析対象物質を含む水を滴下し、分析対象物質と呈色剤との反応により呈色した試験片の色と参照表の色見本とを比較して、試料中の分析対象物質の濃度を判定する。しかし、このような色の比較を人間が行う場合には、正確な判定が困難であるという問題がある。
【0003】
そこで、呈色した試験片をCCD等の撮像装置により撮像し、撮像した画像データを色分析することで、分析対象物質の濃度を算出する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、試験片の画像データから、表色系に基づく指数を算出し、分析対象の濃度と前記指数との関係を表す関数に、前記算出した指数を代入し、分析対象の濃度を判定する試料分析方法が開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、試験片の画像データにおける赤色チャンネル、青色チャンネル、緑色チャンネルのうちの少なくとも1つの強度データを第1のデータポイントに変換し、前記第1のデータポイントと厳密に一致する標準曲線から、分析対象物質の濃度を算出する試料分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-133634号公報
【文献】特表2015-509582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、試験片の画像データにおける色チャンネルの値は、試料中に含まれる夾雑物により、標準曲線とは厳密には一致しない場合があるため、特許文献2の方法では、試料中の分析対象物質の濃度を正確に算出できない場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、試料中に夾雑物が含まれる場合でも、試料中の分析対象物質の濃度を精度よく算出できる試料分析装置及び試料分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の試料分析装置は、試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域を有する試験片を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された前記試験片の前記呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する抽出部と、前記第1座標と、前記分析対象物質の標準濃度に対応する前記色空間における既定関数とを用いて、前記第1座標から前記既定関数までの距離が最小となる前記既定関数上の第2座標を算出する第1算出部と、前記既定関数上の所定の座標と前記第2座標とを結ぶ線分の傾き又は角度に基づいて、前記分析対象物質の濃度を算出する第2算出部と、を備える。
【0011】
また、本発明の試料分析方法は、撮像部により、試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域を有する試験片を撮像する撮像工程と、抽出部により、前記撮像部により撮像された前記試験片の前記呈色領域の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する抽出工程と、前記第1算出部により、前記第1座標と、前記分析対象物質の標準濃度に対応する前記色空間における既定関数とを用いて、前記第1座標から前記既定関数までの距離が最小となる前記既定関数上の第2座標を算出する第1算出工程と、第2算出部により、前記既定関数上の所定の座標と前記第2座標とを結ぶ線分の傾き又は角度に基づいて、前記分析対象物質の濃度を算出する第2算出工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料中に夾雑物が含まれる場合でも、試料中の分析対象物質の濃度を精度よく算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る試料分析装置で使用される試験片の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る試料分析装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係る試料分析装置の制御部の機能ブロック図である。
【
図4】第1座標及び既定関数が表された2次元色空間の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る試料分析装置の動作の一例を示すフロー図である。
【
図6】既定関数上の所定の座標と他の座標との間の関数上の距離と試料中の分析対象物質の濃度との関係をプロットした検量線である。
【
図7】本実施形態に係る試料分析装置の制御部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る試料分析装置で使用される試験片の一例を示す模式図である。試験片1は、試料中の分析対象物質の濃度に応じて呈色する呈色領域10を有する。また、試験片1は、呈色領域と同一面上にカラーチャート領域20を有することが望ましい。
【0017】
呈色領域10は、試料中の分析対象物質と呈色反応する試薬が固定されている。例えば、水質検査等において、採取した水中の水素イオン濃度(所謂pH)を分析する場合、呈色領域10には、水中の水素イオン濃度(所謂pH)に応じて、色が変化する試薬が固定される。呈色領域10における分析対象物質は、pHに制限されるものではなく、例えば、アルミニウム、ホウ素、銅、クロム、バナジウム、鉄、マンガン、ニッケル、銀、スズ、亜鉛、鉛、ヒ素、カドミウム、水銀、コバルト、モリブデン、シリカ、シアン、水酸化物、亜硝酸、硝酸、亜硫酸、硫化物、硫酸、全窒素、有機体窒素、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素、全りん、リン酸、アンモニウム、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物、臭化物、よう化物、結合残留塩素、活性酸素、過酸化水素、アスコルビン酸、キレート剤、界面活性剤、グルコース、ポリマー、ホルムアルデヒド等が挙げられる。また、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の含有量を示す指標となる硬度や、炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物などのアルカリ成分の含有量を示す指標となる酸消費量(Mアルカリ度やPアルカリ度)や、水に溶けている強酸、炭酸、有機酸及び水酸化物として沈殿する金属元素などの含有量を示す指標となるアルカリ消費量や、酸素、過酸化水素、水素、亜硫酸などの酸化剤または還元剤の含有量を示す指標となる酸化還元電位も測定対象である。
【0018】
試料と呈色領域10との接触は、例えば、試験片1を試料へ浸漬させる、或いは試料を試験片1の呈色領域に滴下する等の方法が挙げられる。
【0019】
カラーチャート領域20は、呈色領域10で生じた呈色と比較するための色見本から構成される。カラーチャート領域20の色見本は、例えば、絵の具、インク、顔料、塗料等を使用したオフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、熱転写印刷、レーザー印刷、インクジェット印刷等によって形成される。なお、カラーチャート領域20は、試験片1とは別のシート等に設けられていてもよい。
【0020】
図2は、本実施形態に係る試料分析装置の構成の一例を示す模式図である。
図2に示す試料分析装置3は、撮像部22、発光部24、制御部26、操作部28、表示部30、記憶部32を有する。試料分析装置3は、例えば、スマートフォン、ラップトップ型のパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末のような汎用型又は多機能型の携帯型コンピュータ、デスクトップ型或いはタワー型のPC等の汎用型のコンピュータ等の端末装置等が適用される。
【0021】
撮像部22は、例えば、CCD或いはCMOS等のイメージセンサを用いた撮像装置であり、試験片1を撮像し、撮像した試験片1の画像データを取得する。発光部24は、撮像部22に隣接して配置され、必要に応じて、撮像部22による撮像時に発光する。
【0022】
操作部28は、ユーザーからの操作を受け付けるためのインターフェースであり、例えば、スマートフォン等の携帯端末等の場合には、タッチパネルやキーボタン等である。表示部30は、撮像部22により撮像した試験片1の画像や制御部26から出力された情報等を表示するためのインターフェースであり、例えば、ディスプレイ等である。スマートフォン等の携帯端末等の場合には、表示部30は、タッチパネルディスプレイとして操作部28と一体化されている。
【0023】
記憶部32は、例えば、半導体メモリー等の記憶装置であり、撮像部22が取得した画像データ、制御部26が読みだす所定の処理プログラム、制御部26から出力される情報等を記憶する。また、記憶部32は、例えば、試料中の分析対象物質の濃度算出に必要な情報を記憶する。
【0024】
制御部26は、例えば、CPU等から構成され、記憶部32に記憶された所定の処理プログラムを読みだし、当該処理プログラムを実行して、試料分析装置3の動作を制御する。
【0025】
図3は、本実施形態に係る試料分析装置の制御部の機能ブロック図である。
図3に示すように、制御部26は、機能ブロックとして、例えば、画像領域選択部35及び濃度解析部36を有する。
【0026】
画像領域選択部35は、撮像部22により撮像された試験片1の画像データから、呈色領域10、カラーチャート領域20それぞれの画像領域を選択する。例えば、画像領域選択部35は、試験片1上の呈色領域10、カラーチャート領域20の位置関係の相対値から、又はユーザーからの操作に応じて、それぞれの画像領域を検出する。
【0027】
濃度解析部36は、呈色領域10の画像データを用いて、分析対象物質の濃度を算出する機能を有し、抽出部38、第1算出部40及び第2算出部42を含んで構成される。
【0028】
抽出部38は、呈色領域10の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する。2つ以上の色チャンネルとしては、RGB空間におけるR、G、B、XYZ空間におけるX、Y、Z、L*a*b*空間におけるL*、a*、b*、CMYK空間におけるC、M、Y、K、HSV空間におけるH、S、V、HLS空間におけるH、L、S等が挙げられる。そして、2つ以上の色チャンネルを有する色空間とは、R、G、Bのチャンネルを例にすると、R軸、G軸が相互に直行する2次元色空間、R軸、B軸が相互に直行する2次元色空間、G軸、B軸が相互に直行する2次元色空間、又はR軸、G軸、B軸が相互に直行する3次元色空間である。また、抽出部により抽出される第1座標は、色空間を構成する色チャンネルの色値(画像信号値)である。すなわち、R軸、G軸が相互に直行する2次元色空間を例にすると、呈色領域10の画像データから抽出したRの色値及びGの色値が第1座標となる。なお、画像データから抽出する色チャンネルの色値は、画像データ内の各画素の色チャンネルの色値の平均値や最頻値など、色値を統計処理することにより算出した値であることが望ましい。
【0029】
第1算出部40は、第1座標と、分析対象物質の標準濃度に対応する色空間における既定関数とを用いて、第1座標から既定関数までの距離が最小となる既定関数上の第2座標を算出する。
【0030】
図4は、第1座標及び既定関数が表された2次元色空間の一例を示す図である。
図4において、x軸及びy軸は、色チャンネルの色値である。すなわち、R軸、G軸が相互に直行する2次元色空間を例にすれば、x軸はRの色値、y軸はGの色値である。点Pは呈色領域10の画像データから抽出した第1座標(s,t)であり、sはx軸の色チャンネルの色値(例えばRの色値)、tはy軸の色チャンネルの色値(例えばGの色値)である。
【0031】
図4の既定関数(y=f(x))は、分析対象物質の標準濃度に対応する既定関数である。分析対象物質の標準濃度がpHであれば、例えば、pH4、5、6、7、8の試料を準備し、これらの試料に対して呈色領域の画像データを取得し、各pHに対応した画像データから、x軸の色チャンネルの色値(例えばRの色値)及びy軸の色チャンネルの色値(例えばGの色値)を抽出することにより得られる。なお、
図4の既定関数上の座標(a1,b1)は、試料中のpHが4の場合に呈色した呈色領域の画像データから抽出したx軸及びy軸の色チャンネルの色値(例えばRの色値及びGの色値)である。同様に、既定関数上の座標(a2,b2)は、試料中のpHが5の場合、既定関数上の座標(a3,b3)は、試料中のpHが6の場合、既定関数上の座標(a4,b4)は、試料中のpHが7の場合、既定関数上の座標(a5,b5)は、試料中のpHが8の場合である。
【0032】
ここで、既定関数上の第2座標を点Q(q,f(q))とすると、下式(1)を満たす点Qが第1座標から既定関数までの距離が最小となる既定関数上の第2座標となる。
(q-s)+(f(q)-t)f’(q)=0 (1)
【0033】
なお、式(1)は以下のようにして求められる。第1座標の点Pと第2座標の点Qの距離の2乗をdとすると、
d=(q-s)2+(f(q)-t)2
d’=2(q-s)+2(f(q)-t)・f’(q)となる。
ここで、第1座標から既定関数までの最小距離はd’=0であるので、上記の式(1)が導かれる。
【0034】
上記は2次元色空間で1変数関数を用いた場合の適用例であるが、3次元色空間もしくは色チャンネルと分析対象物の濃度で構成された多次元空間の場合には、多変数関数もしくは多次元ベクトル等を適用することができる。多次元空間の場合においても、分析対象物質の標準濃度に対応する既定曲線もしくは直線、半直線、線分、円、円周、円弧、弧に対して距離が最小になるように、多変数関数もしくは多次元ベクトル等を用いて解析的・代数的・幾何学的・統計的な手法によって、既定曲線もしくは直線、半直線、線分、円、円周、円弧、弧上の第2座標を求めることができる。
【0035】
第2算出部42は、第1座標から既定関数までの距離が最小となる既定関数上の第2座標に基づいて、分析対象物質の濃度を算出する。
【0036】
具体的な算出方法としては、例えば、既定関数上の座標と試料中の分析対象物質の濃度との対応関係を示す参照情報を参照して、算出した第2座標に対応する試料中の分析対象物質の濃度を算出する方法が挙げられる。当該参照情報としては、例えば、既定関数上の座標(例えば、Rの色値及びGの色値)と試料中の分析対象物質の濃度(例えば、pH)との間の関係を3次元プロットした検量線等である。
【0037】
その他の算出方法としては、例えば、既定関数上の所定の座標から既定関数上の他の座標との間の状態量と試料中の分析対象物質の濃度との対応関係を示す参照情報を参照して、算出した第2座標と既定関数上の所定の座標との間の状態量に対応する試料中の分析対象物質の濃度を算出する方法が挙げられる。
【0038】
算出した第2座標と既定関数上の所定の座標との間の状態量としては、既定関数上の所定の座標と第2座標との間の関数上の距離が挙げられる。この場合の参照情報は、既定関数上の所定の座標と他の座標との間の関数上の距離と試料中の分析対象物質の濃度との関係をプロットした検量線等である。
【0039】
算出した第2座標と既定関数上の所定の座標との間の状態量としては、上記以外に、既定関数上の所定の座標と第2座標とを結ぶ線分の距離、傾き又は角度等である。この場合の参照情報は、既定関数上の所定の座標と他の座標とを結ぶ線分の距離、傾き又は角度と試料中の分析対象物質の濃度との関係をプロットした検量線等である。
【0040】
前述の既定関数や参照情報は、例えば、記憶部32に記憶されている。
【0041】
図5は、本実施形態に係る試料分析装置の動作の一例を示すフロー図である。
図5に示す各ステップの処理は、記憶部32に記憶されている所定の処理プログラムに基づいて、制御部26により、試料分析装置3を構成する各部と協働して実行される。
【0042】
撮像部22は、試料に浸漬させた後の試験片1を撮像する(ステップS10)。画像領域選択部35は、撮像部22によって撮像された試験片1の画像データから、呈色領域10の画像データを選択する(ステップS12)。制御部26を構成する抽出部38は、選択された呈色領域10の画像データから、2つ以上の色チャンネルを有する色空間における第1座標を抽出する(ステップS14)。例えば、分析対象物質の濃度計算に、R軸及びG軸が相互に直行する2次元色空間において定義される既定関数を用いる場合には、抽出部38は、呈色領域10の画像データから、Rの色値及びGの色値を第1座標として抽出する。制御部26を構成する第1算出部40は、記憶部32に記憶されている分析対象物質の標準濃度に対応する色空間における既定関数を読み出し、第1座標から当該既定関数までの距離が最小となる当該既定関数上の第2座標を算出する(ステップS16)。第2座標の算出は既述の通りである。
【0043】
制御部26を構成する第2算出部42は、既定関数上の所定の座標から第2座標までの既定関数上の距離を算出する(ステップS18)。
図4の既定関数を例として、既定関数上の所定の座標を(a
1,b
1)とすると、当該座標から第2座標(q,f(q))までの既定関数上の距離lは、以下の式(2)により算出される。
【数1】
【0044】
第2算出部42は、既定関数上の所定の座標と他の座標との間の関数上の距離と試料中の分析対象物質の濃度との関係をプロットした検量線を参照して、上記算出した距離lに対応する試料中の分析対象物質の濃度を算出する(ステップS20)。
【0045】
図6は、既定関数上の所定の座標と他の座標との間の関数上の距離と試料中の分析対象物質の濃度との関係をプロットした検量線である。具体的には、当該距離とpHとの関係をプロットした検量線である。
図6の横軸は、
図4に示す既定関数上の所定の座標(a
1,b
1)と他の座標との間の関数上の距離Lであり、縦軸は、各距離に対応するpHである。なお、pH5に対応するl
a2は、座標(a
1,b
1)と座標(a
2,b
2)との間の関数上の距離であり、pH6に対応するl
a3は、座標(a
1,b
1)と座標(a
3,b
3)との間の関数上の距離であり、pH7に対応するl
a4は、座標(a
1,b
1)と座標(a
4,b
4)との間の関数上の距離であり、pH8に対応するl
a5は、座標(a
1,b
1)と座標(a
5,b
5)との間の関数上の距離である。各距離は、式(2)のqをa
2、a
3、a
4、又はa
5に置き換えることにより求められる。当該検量線を参照することにより、ステップS18において算出した距離lに対応するpHを算出することができる。
【0046】
ステップS18~S20では、既定関数上の所定の座標から第2座標までの既定関数上の距離から、分析対象物質の濃度を算出する例であるが、既述したように、既定関数上の所定の座標と第2座標とを結ぶ線分の距離、傾き又は角度等から、分析対象物質の濃度を算出してもよい。また、ステップS18を行わず、既定関数上の座標と試料中の分析対象物質の濃度との対応関係を示す参照情報を参照して、ステップS16で算出した第2座標から直接的に試料中の分析対象物質の濃度を算出してもよい。
【0047】
なお、記憶部32は、ステップS18で算出した試料中の分析対象物質の濃度を記憶する。また、必要に応じて、算出した分析対象物質の濃度を表示部30に表示する。
【0048】
図7に、本実施形態に係る試料分析装置の制御部の機能ブロックの他の形態を示す。
図7の制御部27において、
図3に示す制御部26と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7に示す制御部27は、機能ブロックとして、既定関数作成部44を備える。
【0049】
既定関数作成部44は、カラーチャート領域20の画像データから、分析対象物質の標準濃度に対応する色空間における既定関数を作成する。
図4に示す既定関数を例にすれば、既定関数作成部44は、画像領域選択部35により選択されたカラーチャート領域20の画像データのうち、pH4、5、6、7、8の色見本の画像データから、x軸の色チャンネルの色値(例えばRの色値)及びy軸の色チャンネルの色値(例えばGの色値)を抽出し、抽出した色値から既定関数を作成する。作成した既定関数は、例えば、記憶部32に記憶される。
【0050】
実施形態で説明した試料分析装置3の制御部26の各機能をコンピュータに実現させるための所定のプログラムは、磁気記録媒体、光記録媒体などのコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録された形で提供してもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る試料分析装置は、呈色領域の画像データの色値(第1座標)から分析対象物質の標準濃度に対応する色空間における既定関数までの距離が最小となる既定関数上の色値(第2座標)に基づいて、試料中の分析対象物質の濃度を算出しているため、試料中に夾雑物が含まれる場合でも、試料中の分析対象物質の濃度を正確に算出することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 試験片、3 試料分析装置、10 呈色領域、20 カラーチャート領域、22 撮像部、24 発光部、26,27 制御部、28 操作部、30 表示部、32 記憶部、35 画像領域選択部、36 濃度解析部、38 抽出部、44 既定関数作成部。