IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オルガノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-水処理方法および水処理装置 図1
  • 特許-水処理方法および水処理装置 図2
  • 特許-水処理方法および水処理装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20230101AFI20231110BHJP
   C02F 1/78 20230101ALI20231110BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231110BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20231110BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
C02F1/78
C02F1/44 D
C02F1/44 A
C02F1/58 H
A01K63/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019115564
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021000606
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-04-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 明広
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047969(JP,A)
【文献】特開平09-248580(JP,A)
【文献】特開2018-113925(JP,A)
【文献】特開平06-296447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0006122(US,A1)
【文献】米国特許第5273664(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70 - 1/78
1/50
1/58 - 1/64
1/44
B01D 61/00 - 71/82
A01K 61/00 - 61/65
61/80 - 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物飼育水を処理する水処理方法であって、
生物飼育水に過酸化物としてオゾンを添加する過酸化物添加工程と、
前記オゾンによって前記生物飼育水について泡沫分離を行う泡沫分離工程と、
前記過酸化物添加工程によって過酸化物を添加した過酸化物含有水の少なくとも一部を前記過酸化物添加工程の前段に返送する返送工程と、
前記返送工程で返送される過酸化物含有水の残留塩素濃度を測定することによって過酸化物濃度を測定する過酸化物濃度測定工程と、
前記過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~2.0mg/Lの範囲に調整する過酸化物濃度調整工程と、
前記過酸化物添加工程の前段または後段において前記生物飼育水をろ過する膜分離工程と、
を含み、
前記生物飼育水は海水であり、
前記過酸化物添加工程において過酸化物を添加する生物処理水は前記膜分離工程の濃縮水を含み、
前記生物飼育水は、高分子有機物およびフミン質を含み、前記高分子有機物の濃度は、0.01mg/L以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記過酸化物添加工程の後段に、過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程を含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
生物飼育水を処理する水処理装置であって、
生物飼育水に過酸化物としてオゾンを添加する過酸化物添加手段と、
前記オゾンによって前記生物飼育水について泡沫分離を行う泡沫分離手段と、
前記過酸化物添加手段によって過酸化物を添加した過酸化物含有水の少なくとも一部を前記過酸化物添加手段の前段に返送する返送手段と、
前記返送手段で返送される過酸化物含有水の残留塩素濃度を測定することによって過酸化物濃度を測定する過酸化物濃度測定手段と、
前記過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~2.0mg/Lの範囲に調整する過酸化物濃度調整手段と、
前記過酸化物添加手段の前段または後段において前記生物飼育水をろ過する膜分離手段と、
を備え、
前記生物飼育水は海水であり、
前記過酸化物添加手段において過酸化物を添加する生物処理水は前記膜分離手段の濃縮水を含み、
前記生物飼育水は、高分子有機物およびフミン質を含み、前記高分子有機物の濃度は、0.01mg/L以上であることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
請求項に記載の水処理装置であって、
前記過酸化物添加手段の後段に、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段を備えることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物飼育水を処理する水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖や水族館のような生物の飼育水において、飼育に伴いフミン質由来による色度成分が検出されることがある。フミン質とは、植物の枯死体等が微生物によって分解された分子量が100~10万程度の有機物を指し、類黄色または黄褐色を呈している。
【0003】
水からフミン質を含む色度成分を除去する方法として、オゾン等の過酸化物による処理が知られている。例えば、特許文献1には、オゾン処理前後の水質を監視して、オゾン注入量を制御する方法が記載されている。
【0004】
特許文献1に示されるように、一般的にオゾン等の過酸化物の注入量を増加させると色度成分の除去率が向上すると認識されている。しかし、オゾン等の過酸化物の添加量が過剰になると、逆にフミン質の濃度が増大し、処理水の着色化が進む場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-305328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生物飼育水の処理において、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができる水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生物飼育水を処理する水処理方法であって、生物飼育水に過酸化物としてオゾンを添加する過酸化物添加工程と、前記オゾンによって前記生物飼育水について泡沫分離を行う泡沫分離工程と、前記過酸化物添加工程によって過酸化物を添加した過酸化物含有水の少なくとも一部を前記過酸化物添加工程の前段に返送する返送工程と、前記返送工程で返送される過酸化物含有水の残留塩素濃度を測定することによって過酸化物濃度を測定する過酸化物濃度測定工程と、前記過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~2.0mg/Lの範囲に調整する過酸化物濃度調整工程と、前記過酸化物添加工程の前段または後段において前記生物飼育水をろ過する膜分離工程と、を含み、前記生物飼育水は海水であり、前記過酸化物添加工程において過酸化物を添加する生物処理水は前記膜分離工程の濃縮水を含み、前記生物飼育水は、高分子有機物およびフミン質を含み、前記高分子有機物の濃度は、0.01mg/L以上である、水処理方法である。
【0011】
前記水処理方法において、前記過酸化物添加工程の後段に、過酸化物を分解処理する過酸化物分解工程を含むことが好ましい。
【0012】
本発明は、生物飼育水を処理する水処理装置であって、生物飼育水に過酸化物としてオゾンを添加する過酸化物添加手段と、前記オゾンによって前記生物飼育水について泡沫分離を行う泡沫分離手段と、前記過酸化物添加手段によって過酸化物を添加した過酸化物含有水の少なくとも一部を前記過酸化物添加手段の前段に返送する返送手段と、前記返送手段で返送される過酸化物含有水の残留塩素濃度を測定することによって過酸化物濃度を測定する過酸化物濃度測定手段と、前記過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~2.0mg/Lの範囲に調整する過酸化物濃度調整手段と、前記過酸化物添加手段の前段または後段において前記生物飼育水をろ過する膜分離手段と、を備え、前記生物飼育水は海水であり、前記過酸化物添加手段において過酸化物を添加する生物処理水は前記膜分離手段の濃縮水を含み、前記生物飼育水は、高分子有機物およびフミン質を含み、前記高分子有機物の濃度は、0.01mg/L以上である、水処理装置である。
【0016】
前記水処理装置において、前記過酸化物添加手段の後段に、過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、生物飼育水の処理において、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例を示す概略構成図である。
図3】ヒラメを飼育した飼育水のLC-OCD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。
【0021】
水処理装置1は、生物飼育水を貯留する水槽10と、水槽10からの生物飼育水を貯留する原水槽12と、生物飼育水に過酸化物を添加する過酸化物添加手段として、オゾン発生装置24を備えるオゾン処理装置22と、を備える。水処理装置1は、原水槽12の水を膜分離処理する膜分離手段として、膜分離装置14と、膜分離水槽16と、膜分離装置14による膜分離処理で得られる膜分離水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置18と、処理水槽20とを備えてもよい。
【0022】
図1の水処理装置1において、水槽10の出口と原水槽12の原水入口とがポンプ26およびストレーナ38を介して配管40により接続され、原水槽12の出口と膜分離装置14の入口とがポンプ28を介して配管42により接続され、膜分離装置14の透過水(膜分離水)出口と膜分離水槽16の入口とが配管44により接続され、膜分離水槽16の出口と活性炭処理装置18の入口とがポンプ30を介して配管46により接続され、活性炭処理装置18の出口と処理水槽20の入口とが配管48により接続され、処理水槽20の処理水出口と水槽10とがポンプ32を介して処理水返送配管50により接続されている。処理水槽20の逆洗水出口と膜分離装置14の2次側の逆洗水入口とはポンプ34を介して配管58により接続されている。膜分離装置14の1次側の濃縮水出口と原水槽12の濃縮水入口とが濃縮水返送配管56により接続されている。膜分離装置14の濃縮水出口には、配管66が接続されている。
【0023】
原水槽12の循環水出口とオゾン処理装置22の循環水入口とが循環配管52により接続され、オゾン処理装置22の循環水出口と原水槽12の循環水入口とが循環配管54により接続されている。オゾン処理装置22の下部にはオゾン発生装置24がバルブ88を介して配管60により接続されている。配管60におけるバルブ88の下流側にはオゾンの流量を測定する流量計86が設置されている。循環配管54には、過酸化物濃度測定手段として、残留塩素測定装置11が設置されている。
【0024】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0025】
水槽10において例えば魚類等の水中生物が生物飼育水中で飼育されている。生物飼育水には、水中生物の飼育に伴い、通常、タンパク質等の高分子有機物、フミン質、懸濁物質等が含まれる。水槽10内の生物飼育水、すなわち高分子有機物、フミン質等を含む生物飼育水は、ポンプ26により配管40を通して原水槽12へ送液される。必要に応じて配管40の途中にストレーナ38を設置し、生物飼育水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0026】
原水槽12の生物飼育水の一部は、循環配管52を通してオゾン処理装置22へ送液される。オゾン処理装置22には、オゾン発生装置24で発生させたオゾンが配管60を通して供給される。オゾン処理装置22において、オゾンにより、生物飼育水中の有機物の循環処理(ここでは主にフミン質の分解処理)が行われる。また、オゾン処理装置22において、オゾンの気体を用いた泡沫分離により、泡沫に捕捉された高分子有機物、懸濁物質等が固液分離される。有機物処理が行われたオゾン処理水(過酸化物含有水)は、循環配管54を通して原水槽12に循環、返送される。すなわち、水槽10から原水槽12へ送液された生物飼育水が原水槽12へ循環されながら過酸化物が添加され(過酸化物添加工程)、過酸化物添加工程により得られる過酸化物含有水の少なくとも一部が原水槽12に循環、返送される(返送工程)。循環配管54等が、過酸化物含有水の少なくとも一部を原水槽12に返送する返送手段として機能する。排オゾンは、配管62を通して排出され、オゾン除去装置により処理されてもよい。オゾン処理装置22において発生したスカム等は、配管64を通して排出されてもよい。
【0027】
ここで、循環配管54において、残留塩素測定装置11によって過酸化物含有水の過酸化物濃度が測定され、残留塩素測定装置11の測定値に基づいて過酸化物含有水の過酸化物濃度が有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲になるように、オゾン発生装置24からのオゾン量が調整される(過酸化物濃度調整工程)。この場合、残留塩素測定装置11の測定値に基づいて過酸化物濃度を調整する過酸化物濃度調整手段として、オゾン発生装置24が機能してもよいし、オゾン発生装置24の出口の流量計86の値に応じて開閉度が調整されるバルブ88等が機能してもよい。
【0028】
例えば、図示しない制御手段である制御装置と、残留塩素測定装置11、オゾン発生装置24とを、または制御装置と、残留塩素測定装置11、流量計86、バルブ88とをそれぞれ電気的接続等により接続し、残留塩素測定装置11の測定値をモニタリングし、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲に調整してもよい。
【0029】
上記の通り、一般的にオゾン等の過酸化物の注入量を増加させると色度成分の除去率が向上すると認識されていたが、本発明者は、条件によって、オゾン等の過酸化物の注入量を増加すると色度成分除去率が低下し、処理水の着色化が進行することを新たに見出した。そのため、特許文献1の方法のようにオゾン処理前後の水質を監視してオゾン注入量を制御する場合、オゾンの過剰添加を招き、過剰運転による運転コストの増大、機材の早期劣化などの問題が生じる可能性がある。本発明者は、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲に調整することによって、生物飼育水の処理において、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができることを見出した。
【0030】
生物飼育水に含まれるフミン質は、高分子有機物に比べてオゾン等の過酸化物によって分解されやすい。そこで、オゾン等の過酸化物の注入量をフミン質が十分に分解される程度とし、分解されにくい高分子有機物についてはオゾン等の過酸化物で分解するよりも、気体を用いた泡沫分離によって泡沫に捕捉して固液分離することにより、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、フミン質由来による色度成分を低減し、効率的に処理水の色度を低減させることができると考えられる。また、高分子有機物を過剰のオゾン等の過酸化物により分解するのを抑制することにより、着色の要因となるフミン質が生成するのを抑制することができると考えられる。
【0031】
このように、本実施形態に係る水処理装置1では、生物飼育水を原水槽12に貯留し、原水槽12の水を循環してフミン質の分解処理、高分子有機物等の泡沫分離処理を行い、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲に調整することにより、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができる。原水槽12の水を循環して有機物処理を行うことによって、多段処理により有機物の効率的な分解が可能となる。後述する逆洗工程中には、有機物の循環処理を行ってもよいし、停止してもよい。また、原水槽12の水を膜分離処理する場合、高分子有機物や生物等による膜のファウリングを抑制し、膜分離装置14の安定した運転が可能となる。
【0032】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置において、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲に調整するが、0.5~2.0mg/Lの範囲に調整することが好ましい。過酸化物含有水の過酸化物濃度が有効塩素濃度換算で0.1mg/L未満となると、フミン質の分解処理が不十分となり、3.0mg/Lを超えると、高分子有機物が分解されてフミン質が生成され、逆に処理水の着色化が進行する。
【0033】
過酸化物濃度測定手段は、残留塩素濃度を測定することができるものであればよく、特に制限はないが、遊離塩素濃度または全塩素濃度(遊離塩素濃度+結合塩素濃度)を測定することができるものであることが好ましく、遊離塩素濃度と全塩素濃度とをそれぞれ測定可能であるものであることがより好ましい。残留塩素濃度は、オンラインで継続的に測定してもよいし、サンプリングによるバッチ測定を行ってもよい。残留塩素濃度の測定箇所は過酸化物が添加されているラインであればどこでもよく、オゾン処理装置22の後段であって活性炭処理装置18の前段で測定することが好ましい。すなわち、残留塩素測定装置11の設置位置は、循環配管54でもよいし、原水槽12や膜分離水槽16に設置されていてもよいし、配管42,44,46に設置されていてもよい。
【0034】
オゾン処理装置22における気液比(ガス量/水量)は、例えば、0.01~50であり、0.1~10とすることが好ましい。オゾン処理装置22における気液比が0.01未満であると、泡沫分離性能が不十分になる場合があり、50を超えると、オゾンの溶解効率が低下する場合がある。
【0035】
一方で、原水槽12中の原水は、ポンプ28により配管42を通して膜分離装置14に送液される。膜分離装置14において、原水中の残存した高分子有機物、懸濁物質等が膜を用いてろ過されて除去される(膜分離工程)。膜分離工程で得られた濃縮水(過酸化物含有水)の少なくとも一部は、濃縮水返送配管56を通して、原水槽12に返送される(返送工程)。濃縮水返送配管56等が、濃縮水(過酸化物含有水)の少なくとも一部を原水槽12に返送する返送手段として機能する。濃縮水を原水槽12に返送することで、高分子有機物、懸濁物質の濃度が高くなり、オゾン処理装置22における泡沫分離の効率を上げることができる。
【0036】
膜分離された膜分離水は、配管44を通して必要に応じて膜分離水槽16に貯留された後、ポンプ30により配管46を通して活性炭処理装置18に供給される。活性炭処理装置18において、膜分離水中の残オゾン等の過酸化物が活性炭により分解処理される(過酸化物分解工程)。
【0037】
残オゾン等の過酸化物が分解処理された処理水は、配管48を通して必要に応じて処理水槽20に貯留された後、処理水の少なくとも一部はポンプ32により処理水返送配管50を通して水槽10に返送され、飼育水として再利用されてもよい(処理水返送工程)。ポンプ32および処理水返送配管50等が、処理水の少なくとも一部を水槽10に返送する処理水返送手段として機能する。処理水を水槽10に返送して再利用することで、補給水や排水にかかるコストを削減することができる。
【0038】
膜分離装置14の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽20からポンプ34により配管58を通して膜分離装置14の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管66を通して排出される。膜分離水槽16の膜分離水が逆洗水として用いられてもよい。
【0039】
フミン質は、植物の枯死体等が微生物によって分解された重量平均分子量が100~10万の有機物である。高分子有機物は、重量平均分子量が10万を超え、200万以下の範囲の有機物である。重量平均分子量は、生物飼育水中に含まれる有機物の成分を把握する方法として、LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)装置(DOC-LABOR社製、mobel 12007)を用いて、湿式酸化法(カラム:HW50S)で測定することができる。LC-OCDとは、有機物を分子量毎に分け、それぞれの成分の有機物濃度を測定する方法である。LC-OCDの測定例として、ヒラメを飼育した飼育水の分析結果を図3に示す。図3に示すLC-OCDスペクトルは、横軸の保持時間(RT:Retention Time)[min]が短いほど、有機物の分子量が大きいことを示すが、保持時間(RT)が26~34min付近に検出されているピークが、重量平均分子量が10万を超え、200万以下の範囲のタンパク質等の高分子有機物であり、35~40min付近に検出されているピークが、重量平均分子量が500~1200のフミン質である。
【0040】
過酸化物添加手段としては、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置の他に、紫外線酸化処理装置等が挙げられる。処理性能等の観点から、オゾン発生装置を備えるオゾン処理装置が好ましい。過酸化物添加手段としては、オゾンを用いるオゾン処理装置であることが好ましく、オゾンマイクロバブルを用いるオゾン処理装置であることがより好ましい。
【0041】
オゾンマイクロバブルは、例えば、直径が10μm~100μm程度の、オゾンを含む微細なオゾン含有気泡である。オゾンマイクロバブルを用いるオゾン処理装置により、高分子有機物および懸濁物質等を含む生物飼育水に対して、オゾンを含む微細気泡であるオゾンマイクロバブルの表面に高分子有機物や懸濁物質を疎水性吸着させ浮上分離させて除去するとともに、オゾンマイクロバブルによるフミン質等の有機物の酸化効果が得られる。また、オゾンをマイクロバブルとして用いることで、オゾン処理装置22の槽内にオゾンマイクロバブルを長時間保持することができるため、フミン質等の有機物との反応時間が増え、フミン質等の有機物の処理効果が飛躍的に向上すると考えられる。
【0042】
膜分離装置14としては、例えば、限外ろ過膜(UF膜)または精密ろ過膜(MF膜)等のろ過膜を有するものであればよく、特に制限はない。膜分離装置14(膜分離工程)は、オゾン処理装置22(過酸化物添加工程)の前段に設けてもよい。
【0043】
膜分離水中の残オゾンの濃度が高く、水槽10に返送されて生物の飼育に影響を及ぼすことが懸念される場合は、膜分離装置14の後段に活性炭処理装置18等の過酸化物分解手段を設けることが好ましい。膜分離装置14の後段に過酸化物分解手段を備えることにより、残オゾン等の過酸化物による生物の飼育への影響を低減することができる。このため、原水が養殖や水族館等の生物飼育水であり、処理水を水槽10へ返送しても、生物への影響を低減することができる。
【0044】
過酸化物分解手段としては、活性炭を充填した活性炭充填塔等の活性炭処理装置の他に、Pd担持担体、酸化チタン、白金等の過酸化物分解触媒を充填した充填塔等が挙げられ、コスト等の観点から活性炭充填塔等の活性炭処理装置が好ましい。また、過酸化物分解触媒を充填した充填塔への通水方向は、下向流と上向流のどちらでもよいが、過酸化物の分解率を高めるためには下向流が好ましい。
【0045】
図1の例では、処理水の全てが水槽10に返送されて生物飼育水に添加されているが、処理水の少なくとも一部が水槽10に返送されて生物飼育水に添加されればよく、処理水の一部が水槽10に返送されて生物飼育水に添加されてもよいし、処理水の全てが水槽10に返送されて生物飼育水に添加されてもよい。使用する水量を低減する等の観点から、処理水の一部が水槽10に返送されることが好ましく、処理水の全てが水槽10に返送されることがより好ましい。処理水の全てが水槽10に返送される閉鎖循環系とすることにより、使用する水量を低減することができる等の利点がある。また、循環は、常時循環してもよいし、定期的に循環してもよい。通常は、水槽10中の水質をできるだけ保つために、常時循環すればよい。
【0046】
本発明の実施形態に係る水処理装置の他の例の概略を図2に示し、その構成について説明する。
【0047】
水処理装置3は、生物飼育水を貯留する水槽10と、水槽10からの生物飼育水を貯留する原水槽12と、生物飼育水に過酸化物を添加する過酸化物添加手段として、オゾン発生装置24を備えるオゾン処理装置22と、を備える。水処理装置3は、原水槽12の水を膜分離処理する膜分離手段として、膜分離装置14と、膜分離水槽16と、膜分離装置14による膜分離処理で得られる膜分離水の過酸化物を分解処理する過酸化物分解手段として、活性炭処理装置18と、処理水槽20と、濃縮水槽68とを備えてもよい。
【0048】
図2の水処理装置3において、水槽10の出口と原水槽12の原水入口とが配管74により接続され、原水槽12の原水出口と膜分離装置14の入口とがポンプ70およびストレーナ38を介して配管76により接続され、膜分離装置14の透過水(膜分離水)出口と膜分離水槽16の入口とが配管44により接続され、膜分離水槽16の出口と活性炭処理装置18の入口とがポンプ30を介して配管46により接続され、活性炭処理装置18の出口と処理水槽20の入口とが配管48により接続され、処理水槽20の処理水出口と水槽10とがポンプ32を介して処理水返送配管50により接続されている。処理水槽20の逆洗水出口と膜分離装置14の2次側の逆洗水入口とはポンプ34を介して配管58により接続されている。
【0049】
膜分離装置14の濃縮水出口と濃縮水槽68の濃縮水入口とが配管80により接続され、膜分離装置14の逆洗排水出口と濃縮水槽68の逆洗排水入口とが配管78により接続され、濃縮水槽68の出口とオゾン処理装置22の入口とがポンプ72を介して配管82により接続され、オゾン処理装置22の出口と原水槽12の入口とが過酸化物含有水返送配管84により接続されている。オゾン処理装置22の下部にはオゾン発生装置24がバルブ88を介して配管60により接続されている。配管60におけるバルブ88の下流側にはオゾンの流量を測定する流量計86が設置されている。過酸化物含有水返送配管84には、過酸化物濃度測定手段として、残留塩素測定装置11が設置されている。
【0050】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置3の動作について説明する。
【0051】
水槽10において例えば魚類等の水中生物が生物飼育水中で飼育されている。生物飼育水には、水中生物の飼育に伴い、通常、タンパク質等の高分子有機物、フミン質、懸濁物質等が含まれる。水槽10内の生物飼育水、すなわち高分子有機物,フミン質等を含む生物飼育水は、配管74を通して原水槽12へ送液される。生物飼育水は、原水槽12において、後述する過酸化物を添加した過酸化物含有水と混合された後、混合水としてポンプ70により配管76を通して膜分離装置14に送液される。必要に応じて配管76の途中にストレーナ38を設置し、生物飼育水中の比較的大きめの固形物が除去されてもよい。
【0052】
膜分離装置14において、原水中の残存した高分子有機物、懸濁物質等が膜を用いてろ過されて除去される(膜分離工程)。
【0053】
膜分離された膜分離水は、配管44を通して必要に応じて膜分離水槽16に貯留された後、ポンプ30により配管46を通して活性炭処理装置18に供給される。活性炭処理装置18において、膜分離水中の残オゾン等の過酸化物が活性炭により分解処理される(過酸化物分解工程)。
【0054】
残オゾン等の過酸化物が分解処理された処理水は、配管48を通して必要に応じて処理水槽20に貯留された後、処理水の少なくとも一部はポンプ32により処理水返送配管50を通して水槽10に返送され、飼育水として再利用されてもよい(処理水返送工程)。ポンプ32および処理水返送配管50等が、処理水の少なくとも一部を水槽10に返送する処理水返送手段として機能する。処理水を水槽10に返送して再利用することで、補給水や排水にかかるコストを削減することができる。
【0055】
膜分離装置14の洗浄が必要になった場合は、処理水の一部が逆洗水として処理水槽20からポンプ34により配管58を通して膜分離装置14の2次側から1次側に逆流されて、膜が洗浄されてもよい(逆洗工程)。逆洗排水は、配管78を通して濃縮水槽68に供給され、膜分離装置14からの濃縮水と混合される。膜分離水槽16の膜分離水が逆洗水として用いられてもよい。
【0056】
膜分離装置14の濃縮水は、配管80を通して必要に応じて濃縮水槽68に貯留された後、ポンプ72により配管82を通してオゾン処理装置22に供給される。
【0057】
オゾン処理装置22には、一方で、オゾン発生装置24で発生させたオゾンが配管60を通して供給される。オゾン処理装置22において、オゾンにより、濃縮水(生物飼育水)中の有機物の処理(ここでは主にフミン質の分解処理)が行われる。また、オゾン処理装置22において、オゾンの気体を用いた泡沫分離により、泡沫に捕捉された高分子有機物、懸濁物質等が固液分離される。有機物処理が行われたオゾン処理水(過酸化物含有水)は、過酸化物含有水返送配管84を通して原水槽12に返送される。すなわち、膜分離工程による膜分離処理で得られる濃縮水(生物飼育水)に過酸化物が添加され(過酸化物添加工程)、過酸化物添加工程により得られる過酸化物含有水の少なくとも一部が原水槽12に返送される(返送工程)。過酸化物含有水返送配管84等が、過酸化物含有水の少なくとも一部を原水槽12に返送する返送手段として機能する。過酸化物含有水を原水槽12に返送することで、膜分離装置14の膜に過酸化物含有水が接触し、ファウリングを抑制することができる。排オゾンは、配管62を通して排出され、オゾン除去装置により処理されてもよい。オゾン処理装置22において発生したスカム等は、配管64を通して排出されてもよい。
【0058】
本実施形態に係る水処理装置3において、生物飼育水を原水槽12に貯留し、原水槽12の水を膜分離処理し、膜分離処理で得られる濃縮水についてフミン質の分解処理、高分子有機物等の泡沫分離処理を行い、原水槽12に返送することにより、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができる。また、高分子有機物や生物等による膜のファウリングを抑制し、膜分離装置14の安定した運転が可能となる。また、膜分離装置14の膜によって懸濁物質等が濃縮され、オゾン処理装置22における泡沫分離の効率を上げることができる。
【0059】
ここで、過酸化物含有水返送配管84において、残留塩素測定装置11によって過酸化物含有水の過酸化物濃度が測定され、残留塩素測定装置11の測定値に基づいて過酸化物含有水の過酸化物濃度が有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲になるように、オゾン発生装置24からのオゾン量が調整される(過酸化物濃度調整工程)。この場合、残留塩素測定装置11の測定値に基づいて過酸化物濃度を調整する過酸化物濃度調整手段として、オゾン発生装置24が機能してもよいし、オゾン発生装置24の出口の流量計86の値に応じて開閉度が調整されるバルブ88等が機能してもよい。
【0060】
例えば、図示しない制御手段である制御装置と、残留塩素測定装置11、オゾン発生装置24とを、または制御装置と、残留塩素測定装置11、流量計86、バルブ88とをそれぞれ電気的接続等により接続し、残留塩素測定装置11の測定値をモニタリングし、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1~3.0mg/Lの範囲に調整してもよい。
【0061】
過酸化物濃度の測定箇所は過酸化物が添加されているラインであればどこでもよく、オゾン処理装置22の後段であって活性炭処理装置18の前段で測定することが好ましい。すなわち、残留塩素測定装置11の設置位置は、過酸化物含有水返送配管84でもよいし、原水槽12や膜分離水槽16に設置されていてもよいし、配管76,44,46に設置されていてもよい。
【0062】
本実施形態に係る水処理装置および水処理方法は、例えば、水族館や養殖等、水中生物を飼育する際に用いられる生物飼育水の処理に適用され、飼育水は海水であっても、淡水であってもよい。水族館や養殖のような水中生物を飼育する過程で生じる、タンパク質等の高分子有機物、フミン質を含む生物飼育水の処理に好適に適用される。生物を飼育する場合、給餌等の要因により飼育水中の有機物濃度が変動する(例えば、±0.5~10mg/L)特徴がある。特に、水族館や養殖のような水中生物を飼育する過程で生じる、タンパク質等の高分子有機物、フミン質を含む海水の処理に適しており、魚類等の水中生物の養殖や水族館等の魚類等の水中生物の飼育水処理に用いられる閉鎖系循環処理により適している。すなわち、本実施形態に係る水処理装置は、水中生物の生物飼育水の製造装置または処理装置として、好適に用いることができる。
【0063】
生物飼育水中の高分子有機物の濃度は、例えば、0.01mg/L以上であり、より低い濃度であることが好ましい。生物飼育水中の懸濁物質の濃度は、例えば、0.1~10mg/Lの範囲である。
【0064】
本実施形態に係る水処理装置および水処理方法により、生物飼育水の色度を例えば5度以下にすることができる。
【実施例1】
【0065】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
図2に示す水処理装置を用いて、魚の飼育水についてオゾン注入量を変化させて、過酸化物含有水の過酸化物濃度を有効塩素濃度換算で0.1mg/L以上3.0mg/L以下の範囲に調整して処理を行い、運転開始時(0日)、30日経過後の処理水の全塩素濃度、色度、高分子有機物濃度、フミン質濃度をそれぞれ測定した。保有水量を500Lとし、海水魚としてヒラメを40匹飼育した。運転は、24時間連続運転とした。なお、全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、DPD(ジエテル-p-フェニレンジアミン)法により測定した。色度は、日本電色工業社の色度計WA6000を用いて、積分球法で測定した。高分子有機物濃度、フミン質濃度は、DOC-LABOR社のLC-OCD(Liquid Chromatography Organic Carbon Detection)装置mobel 12007を用いて、湿式酸化法(カラム:HW50S)で測定した。実験結果を表1,2に示す。表1は、運転開始時(0時間)の測定結果を、表2は、運転開始から30日経過時の測定結果を示す。
【0067】
<比較例1>
過酸化物含有水の過酸化物濃度を、有効塩素濃度換算で3.0mg/Lを超え、5.0mg/L以下の範囲に調整して処理を行った以外は実施例1と同様にして処理を行い、運転開始時(0日)、30日経過後の処理水の全塩素濃度、色度、高分子有機物濃度、フミン質濃度をそれぞれ測定した。実験結果を表1,2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1および表2からわかるように、比較例1の方が処理水の全塩素濃度が高いにも関わらず、色度の上昇およびフミン質濃度の上昇が見られた。したがって、実施例の方法によって、過酸化物の添加濃度を低濃度に維持しつつ、フミン質由来の色度を低減することができる。
【0071】
このように、実施例の方法によって、生物飼育水の処理において、過酸化物の過剰添加を抑制しつつ、効率的に処理水の色度を低減させることができることがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1,3 水処理装置、10 水槽、11 残留塩素濃度測定装置、12 原水槽、14 膜分離装置、16 膜分離水槽、18 活性炭処理装置、20 処理水槽、22 オゾン処理装置、24 オゾン発生装置、26,28,30,32,34,70,72 ポンプ、38 ストレーナ、40,42,44,46,48,58,60,62,64,66,74,76,78,80,82 配管、50 処理水返送配管、52,54 循環配管、56 濃縮水返送配管、68 濃縮水槽、84 過酸化物含有水返送配管、86 流量計、88 バルブ。
図1
図2
図3