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特許7382746リヒートプレス用ガラス材料、それを用いたリヒートプレス済ガラス材料、研磨済ガラス及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】リヒートプレス用ガラス材料、それを用いたリヒートプレス済ガラス材料、研磨済ガラス及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/00 20060101AFI20231110BHJP
   C03C 3/00 20060101ALI20231110BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
C03B11/00 B
C03C3/00
C03C21/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019119670
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2020007214
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2018124822
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 智明
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119619(JP,A)
【文献】特開平4-6112(JP,A)
【文献】国際公開第2004/041740(WO,A1)
【文献】特開2015-206880(JP,A)
【文献】特開2015-113262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B11/00-11/16
C03C21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヒートプレス用ガラス材料であって、
Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくとも一種を含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆し、リヒートプレス時の前記リヒートプレス用ガラス材料表面に形成される表面結晶層の形成を抑制し、前記リヒートプレス用ガラス材料を軟化させるための表面改質層とを含み、
前記表面改質層は、前記ガラスのガラス組成に対して、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種を多く含む組成を有し、
前記ガラスは、TiO+Nb+Ta+WO+Biを20質量%以上含み、SiO を50質量%以下含む、リヒートプレス用ガラス材料。
【請求項2】
前記表面改質層の厚さは100μm以下である、請求項1に記載のリヒートプレス用ガラス材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリヒートプレス用ガラス材料由来のリヒートプレス済ガラス材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のリヒートプレス用ガラス材料をリヒートプレスする工程と、
リヒートプレス後のリヒートプレス済ガラス材料を研削及び研磨する工程と、を含む研磨済ガラスの製造方法。
【請求項5】
リヒートプレス用ガラス材料の製造方法であって、
Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくも一種を含むガラス原料を熔融し、その後冷却することによりガラスを製造する工程と、
前記ガラスをNa成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種を含む溶融塩に浸漬させることにより、前記ガラスの表面に表面改質層を形成させる工程と、を含み、
前記表面改質層は、リヒートプレス時の前記リヒートプレス用ガラス材料表面に形成される表面結晶層の形成を抑制し、前記リヒートプレス用ガラス材料を軟化させるための層であり
前記ガラスは、TiO+Nb+Ta+WO+Biを20質量%以上含み、SiO を50質量%以下含む、リヒートプレス用ガラス材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法により得られたリヒートプレス用ガラス材料をリヒートプレスする工程と、
リヒートプレス後のリヒートプレス済ガラス材料を研削及び研磨する工程と、を含む研磨済ガラスの製造方法。
【請求項7】
リヒートプレス用ガラス材料であって、
アルカリ金属成分を少なくとも一種含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆し、リヒートプレス時の前記リヒートプレス用ガラス材料表面に形成される表面結晶層の形成を抑制し、前記リヒートプレス用ガラス材料を軟化させるための表面改質層とを含み、
前記ガラスに含まれるアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)とした場合、前記ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)よりも大きく、および/または前記ガラス中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y2)よりも小さく、
前記ガラスは、TiO+Nb+Ta+WO+Biを20質量%以上含み、SiO を50質量%以下含む、リヒートプレス用ガラス材料。
【請求項8】
請求項7に記載のリヒートプレス用ガラス材料をリヒートプレスする工程と、
リヒートプレス後のリヒートプレス済ガラス材料を研削及び研磨する工程と、を含む研磨済ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス表面に処理を施したリヒートプレス用ガラス材料、それを用いたリヒートプレス済ガラス材料、研磨済ガラス及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から光学ガラスの成形方法として、所定の形状のガラス材料(リヒートプレス用ガラス材料)を下型と上型とを備えた金型に供給し、当該ガラス材料を加熱軟化させた後に前記金型でプレス成形し、成形済のガラスを取り出すようにしたリヒートプレス方式が広く知られている。また、大口径の光学レンズは、その他の方式によって製造することが難しく、一般的にはリヒートプレス方式が採用されている。
【0003】
しかしながら、ガラス材料をリヒートプレス方式の金型に配置し加熱すると、表面にガラスの結晶に起因する硬い層が形成され、軟化しにくくなってしまう場合がある。このような状態でプレスを行うと、ガラス材料が角を有する形状の場合、硬い結晶になっている端部や角がレンズ材料の内部に侵入してしまい、その後の研磨等では取り除けなくなってしまう。最悪の場合は、ガラス材料の内部にも結晶が析出し、均質なガラス材料を得ることができなくなってしまう。
【0004】
また、光学ガラスの材料が結晶化しやすい組成の場合は、加熱軟化の際に形成される結晶層が厚く、最終製品にするためには多くの結晶層を取り除く必要があるので、材料の損失が多くなり無駄が多くなる。また、ガラスは一般的な金型材料などと比べ熱伝導率が小さいことから、同じガラス材料であっても、リヒートプレス工程において、ガラス材料内の温度分布が当該ガラスの結晶化の度合いに差を生じるほど大きくなる場合(例えばレンズの大口径化のために加工寸法を大きくする場合、ガラスの加工精度を高めようとする場合、および厚みの分布を持った形状を加工する場合など)には、ガラスの中の特定の箇所の結晶化を抑制しようとしても、その別の箇所の結晶化を抑えられないか、或いは目的の形状が得られないことがあり、上記のような結晶化の問題はいっそう深刻になる。
【0005】
このように、リヒートプレス方式のガラス成形では、種々の課題があり、その難易度は近年さらに高まっている。このようなリヒートプレス方式に関する技術として、例えば、特許文献1には、ガラス素材に離型のためのコーティング膜を施す技術が開示されている。また、特許文献2には、炭素原子を含有するガラス成形金型を用いて、金型面の保護膜を不要とする技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献には、リヒートプレス用光学ガラス材料の結晶層の端部が内部に侵入してしまうことを回避するような技術は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-227136
【文献】特開2002-356334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ガラス材料を加熱軟化させ、プレスする時に端部や角等の表面結晶層の一部がガラス材料の内部に侵入してしまうことによる異物の混入を防止し、研削及び研磨する量を低減することができる、リヒートプレス用ガラス材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ガラス表面を改質することによって、ガラスの表面結晶層の形成を抑制し、ガラスを軟化しやすくするための方法を検討し、本発明に至った。本発明は、以下を包含する。
[1] Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくとも一種を含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、
前記表面改質層は、前記ガラスのガラス組成に対して、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種を多く含む組成を有する、リヒートプレス用ガラス材料。
[2] 前記表面改質層の厚さは100μm以下である、[1]に記載のリヒートプレス用ガラス材料。
[3] [1]又は[2]に記載のリヒートプレス用ガラス材料由来のリヒートプレス済ガラス材料。
[4] [3]に記載のリヒートプレス済ガラス材料由来の研磨済ガラス。
[5] Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくも一種を含むガラス原料を熔融し、その後冷却することによりガラスを製造する工程と、
前記ガラスをNa成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種を含む溶融塩に浸漬させることにより、前記ガラスの表面に表面改質層を形成させる工程と、を含むリヒートプレス用ガラス材料の製造方法。
[6] [5]に記載の製造方法により得られたリヒートプレス用ガラス材料をリヒートプレスする工程と、
リヒートプレス後のリヒートプレス済ガラス材料を研削及び研磨する工程と、を含む研磨済ガラスの製造方法。
[7] アルカリ金属成分を少なくとも一種含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、
前記ガラスに含まれるアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)とした場合、前記ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)よりも大きく、および/または前記ガラス中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y2)よりも小さい、リヒートプレス用ガラス材料。
[8] Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくとも一種を含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、
前記表面改質層は、前記ガラスのガラス組成に対して、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種を多く含む組成を有する、リヒートプレス済ガラス材料。
[9] アルカリ金属成分を少なくとも一種含むガラス組成を有するガラスと、
前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、
前記ガラスに含まれるアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)とした場合、前記ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)よりも大きく、および/または前記ガラス中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y2)よりも小さい、リヒートプレス済ガラス材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リヒートプレス用ガラス材料を加熱軟化しても、硬い表面結晶層の形成を抑制し、プレス時に端部や角の表面結晶層の一部がガラス材料の内部に侵入してしまうことを防止し、研削及び研磨する量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、表面改質層がない場合のリヒートプレスの模式図である。
図2図2は、表面改質層がある場合のリヒートプレスの模式図である。
図3図3は、リヒートプレス用ガラス材料1~3及び比較用リヒートプレス用ガラス材料を、所定時間加熱したときの外観の写真である。
図4図4は、リヒートプレス用ガラス材料4~6及び比較用リヒートプレス用ガラス材料を、所定時間加熱したときの外観の写真である。
図5図5は、リヒートプレス用ガラス材料7~9及び比較用リヒートプレス用ガラス材料を、所定時間加熱したときの外観の写真である。
図6図6は、リヒートプレス用ガラス材料3を、SEMEDXで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[リヒートプレス用ガラス材料]
以下、リヒートプレス用ガラス材料について説明する。尚、本明細書では特に断らない限り、ガラス組成を表示する際に使用する「%」は、「質量%」を意味する。また、本明細書において、数値範囲を特定するときに用いる「~」は、上限及び下限のいずれもその範囲に含まれるものとする。例えば、ガラス構成成分の含有量として「10~20%」と表示する場合は、10質量%以上であり、かつ20質量%以下であることを意味する。
また、ガラス構成成分の含有量(含有率)は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができ、本発明において、ガラス構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、当該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容するものである。
また、本明細書において、「アルカリ金属」とは、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)、Fr(フランジウム)を言う。
【0013】
また、本明細書において、ガラスに含まれるアルカリ金属のうち、もっともイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)と表記する。
また、本明細書において、ガラス中に含まれるアルカリ金属(X)の含有率をX1とし(母体ガラス全体に対するアルカリ金属(X)の割合)、ガラス中に含まれるアルカリ金属(Y)の含有率をY1とする(母体ガラス全体に対するアルカリ金属(Y)の割合)。
また、本明細書において、表面改質層に含まれるアルカリ金属(X)の含有率をX2とし(表面改質層全体に対するアルカリ金属(X)の割合)、表面改質層中に含まれるアルカリ金属(Y)の含有率をY2とする(表面改質層全体に対するアルカリ金属(Y)の割合)。
また、本明細書においてリヒートプレス用ガラス材料とは、その材料を用いてリヒートプレス工程を経ることにより、最終的な製品であるガラスを得るための材料である。
【0014】
本発明のリヒートプレス用ガラス材料は、Li成分(リチウム成分)、Na成分(ナトリウム成分)、K成分(カリウム成分)、Rb成分(ルビジウム成分)及びCs成分(セシウム成分)の少なくとも一種を含むガラス組成を有するガラスと、前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、前記表面改質層は、前記ガラスのガラス組成に対して、Na成分(ナトリウム成分)、K成分(カリウム成分)、Cs成分(セシウム成分)及びFr成分(フランシウム成分)の少なくとも一種の成分を多く含む組成を有する。
また、本発明のリヒートプレス用ガラス材料は、アルカリ金属成分を少なくとも一種含むガラス組成を有するガラスと、前記ガラスを被覆する表面改質層とを含み、前記ガラスに含まれるアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)とした場合、前記ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)よりも大きく、および/または前記ガラス中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y1)は、前記表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y2)よりも小さい、ものである。
【0015】
本発明のリヒートプレス用ガラス材料は、加熱により軟化した状態でプレスにより成形することに好適な材料である。
【0016】
リヒートプレス用ガラス材料の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、直方体、立方体等の多角体、及び円柱などが挙げられる。これらの形状は、いずれも、端部や角がある。ガラス材料の端部や角が結晶化してしまうと、軟化しにくくなり、端部又は角の部分の形状がそのまま残ってしまう。しかし、本発明のような表面改質層を有することにより、端部や角がそのまま固化することなく、加熱により軟化し、ガラス材料は丸みを帯び、その状態でプレスをすることにより、結晶層がガラス内部に入り込みにくくなる。なお、リヒートプレス用ガラス材料として、熔融状態のガラスから直接得られるゴブなども使用することができる。
【0017】
リヒートプレス用ガラス材料の母体となるガラスは、光学ガラスが好ましく、レンズ成形を目的とした光学ガラスであることが好ましい。当該ガラスの屈折率ndは特に限定はなく、下限については1.30以上であってもよく、1.40以上、1.50以上、1.60以上、1.70以上、1.80以上、1.90以上、2.00以上、2.10以上、2.20以上であってもよい。屈折率ndの上限については、2.70以下であってもよく、2.60以下、2.50以下、2.40以下、2.30以下、2.20以下、2.10以下、2.00以下、1.90以下、1.80以下、1.70以下、1.60以下、1.50以下、1.40以下であってもよい。アッベ数νdは特に限定はなく、下限については、10以上であってもよく、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、100以上であってもよい。アッベ数νdの上限については、150以下であってもよく、140以下、130以下、120以下、110以下、100以下、95以下、90以下、85以下、80以下、75以下、70以下、65以下、60以下、55以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下であってもよい。
【0018】
本発明のリヒートプレス用ガラス材料の母体となるガラスの成分は、Li成分、Na成分、K成分、Rb成分及びCs成分の少なくとも一種を含むガラス組成を有するガラスであれば、特に限定されるものではないが、ガラス転移点Tgに対してガラスの結晶化温度が低く、加熱した際に結晶化しやすいガラスであると本発明の効果が大きい。
【0019】
リヒートプレス用ガラス材料の母体となるガラス組成は、アルカリ金属の中でより大きいイオン半径を有するアルカリ金属に置換することで安定化する組成であることが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0020】
SiO、P、及びB成分は、ガラスの骨格を構成する成分であり、ガラスの熱安定性を改善する成分である。また、低屈折率、低分散に寄与する成分である。SiO、P、及びB成分の含有量は特に限定されず、任意の含有量にすることできる。SiO、P、B成分の上限は、例えば、それぞれ99%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下であってもよく、下限は、例えばそれぞれ0%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であってもよい。
【0021】
また、SiO、P、B成分の含有量の合計(SiO+P+B)についても特に限定されず、任意の値をとることができ、SiO+P+Bの上限は、例えば、99%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下であってもよい。下限は、例えば0%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であってもよい。
【0022】
本発明の母体となるガラス中には、LiO、NaO、KO、RbO及びCsO成分の少なくともいずれか一種を含有する。中でもLiO、NaO、及びKOはガラスの熔融性を改善する成分であり、ガラスの熱安定性を改善させる場合がある。また、ガラスの転移温度を低下させる成分である。LiO、NaO、KO、RbO及びCsO成分の含有量は、母体となるガラスに、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOのいずれか一種が含まれていれば、特に限定されず、任意の含有量とすることができる。LiO、NaO、KO、RbO及びCsO成分の含有量のそれぞれの上限としては、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7.5%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.0%以下、0.5%以下である。下限は、例えば、0%以上、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上、5.0%以上、7.5%以上、10.0%以上、15.0%以上、20.0%以上、25.0%以上、30.0%以上、35.0%以上、40.0%以上、45.0%以上、50.0%以上、60.0%以上、70.0%以上、80.0%以上である。なお、本発明において、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOのいずれか一種が含まれていればよいので、LiO、NaO、KO、RbO及びCsO成分のうち、一種が含まれていれば、他の成分は含まれなくてもよい。例えば、ガラス中にLiOが含まれている場合は、他のアルカリ金属であるNaO、KO、RbO及びCsO成分は0%であるガラスを用いてもよい。
【0023】
アルカリ金属の中でLiOとNaO成分は、KO、RbO及びCsO成分よりも屈折率を高め、高分散に寄与する場合がある成分である。LiOとNaO成分の含有量の合計(LiO+NaO)についても特に限定されず、上限ついては、例えば、0.1%以下、0.5%以下、1.0%以下、1.5%以下、2.0%以下、2.5%以下、3.0%以下、3.5%以下、4.0%以下、5.0%以下、7.5%以下、10.0%以下、15.0%以下、20.0%以下、25.0%以下、30.0%以下、35.0%以下、40.0%以下、45.0%以下、50.0%以下、60.0%以下、70.0%以下、80.0%以下、90.0%以下であってもよい。
【0024】
LiOとNaO成分の含有量の合計(LiO+NaO)の下限ついては、例えば、0%超、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上、5.0%以上、7.5%以上、10.0%以上、15.0%以上、20.0%以上、25.0%以上、30.0%以上、35.0%以上、40.0%以上、45.0%以上、50.0%以上、60.0%以上、70.0%以上、80.0%以上であってもよい。
【0025】
O成分は、RbO及びCsO成分よりも、屈折率を高め、高分散に寄与する場合がある成分である。前述のLiO及びNaOの含有量の合計にKOを加えたLiOとNaOとKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)についても特に限定されず、上限については、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7.5%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.5%以下、3.0%以下、2.5%以下、2.0%以下、1.5%以下、1.0%以下、0.5%以下であってもよい。
【0026】
LiOとNaOとKO成分の合計量(LiO+NaO+KO)の下限ついては、例えば、0%超、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、3.0%以上、3.5%以上、4.0%以上、5.0%以上、7.5%以上、10.0%以上、15.0%以上、20.0%以上、25.0%以上、30.0%以上、35.0%以上、40.0%以上、45.0%以上、50.0%以上、60.0%以上、70.0%以上、80.0%以上、90.0%以上であってもよい。
【0027】
MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分は、ガラスの熔融性を改善する成分であり、ガラスの熱的安定性を改善させる場合がある。また、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分は、ガラス転移温度を低下させる成分であり、NaO、KO、及びCsO成分よりも屈折率を高める場合がある。MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分のそれぞれの含有量についても特に限定はなく、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分のそれぞれの含有量の上限は、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0028】
MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分のそれぞれの含有量の下限は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であってもよい。
【0029】
MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分のそれぞれの含有量の合計(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)についても特に限定はなく、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの上限は、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0030】
MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnO成分のそれぞれの含有量の合計(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)の下限は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であってもよい。
【0031】
La、Gd、Y、及びYb成分は、MgO、CaO、SrO、及びBaO成分に比べて屈折率を高める成分であり、高屈折率、低分散に寄与する成分である。La、Gd、Y、及びYb成分を導入することによりガラスの熱的安定性を改善させる場合もある。La、Gd、Y、及びYb成分のそれぞれの含有量は特に限定はなく、La、Gd、Y、及びYbのそれぞれの含有量の上限は、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0032】
La、Gd、Y、及びYb成分のそれぞれの含有量の下限は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上であってもよい。
【0033】
La、Gd、Y、及びYb成分の含有量の合計(La+Gd+Y+Yb)も特に限定されず、La+Gd+Y+Ybの上限は、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下あってもよい。
【0034】
La、Gd、Y、及びYb成分の含有量の合計(La+Gd+Y+Yb)の下限は、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であってもよい。
【0035】
TiO、Nb、Ta、WO、及びBi成分は、高屈折率、高分散に寄与する成分であり、導入することでガラスの熱的安定性を改善させる場合がある。TiO、Nb、Ta、WO、及びBi成分のそれぞれの含有量は特に限定されず、TiO、Nb、Ta、WO、及びBiのそれぞれの含有量の上限は、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0036】
TiO、Nb、Ta、WO、及びBi成分の含有量のそれぞれの下限は、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上であってもよい。
【0037】
TiO、Nb、Ta、WO、及びBiのそれぞれの含有量の合計(TiO+Nb+Ta+WO+Bi)も特に限定されず、TiO+Nb+Ta+WO+Biの上限は、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、7%以下、5%以下、3%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0038】
TiO、Nb、Ta、WO、及びBi成分のそれぞれの含有量の合計(TiO+Nb+Ta+WO+Bi)の下限は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、5%以上、7%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上であってもよい。
【0039】
ZrO及びAl成分は、化学的耐久性を改善させる成分であり、導入することでガラスの熱的安定性を改善させる場合がある。ZrO及びAl成分のそれぞれの含有量も特に限定されず、ZrO及びAlのそれぞれの含有量の上限は、例えば、30%以下、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下であってもよい。
【0040】
ZrO及びAl成分のそれぞれの含有量の下限は、例えば、0%以上、1%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、20%以上、25%以上であってもよい。
【0041】
必要に応じ、As、Sb及びSnOの少なくとも一種をガラスに加えることができる。As、Sb、及びSnOは、ガラス熔融時における清澄効果、及び得られるガラス中の白金ブツを低減させる効果がある。また、ガラスの酸化・還元状態の調整することができる場合もある。Ab、Sb、SnOの含有量は、特に限定されるものではないが、Ab、Sb、SnOのそれぞれの含有量の上限は、1%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下、0.09%以下、0.08%以下、0.07%以下、0.06%以下、0.05%以下、0.04%以下、0.03%以下、0.02%以下、0.01%以下、0.009%以下、0.008%以下、0.007%以下、0.006%以下、0.005%以下、0.004%以下、0.003%以下、0.002%以下、0.001%以下であってもよい。また、As、Sb及びSnOのそれぞれの含有量の下限は、0%以上、0.001%以上、0.002%以上、0.003%以上、0.004%以上、0.005%以上、0.006%以上、0.007%以上、0.008%以上、0.009%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.03%以上、0.04%以上、0.05%以上、0.06%以上、0.07%以上、0.08%以上、0.09%以上、0.1%以上、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上であってもよい。
【0042】
なお、用途により材料に放射性物質が含まれることが問題になる場合は、放射性同位体の含有率を一定量以下に抑える、或いは意図的に含有しないことが好ましい(ただし不純物としての混入を妨げない)。
【0043】
表面改質層は、母体となるガラスに対してNa成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一方の成分を多く含む組成を有することを特徴とする。表面改質層もガラスであるため、母体となるガラスとの境界を確認することは難しいが、本発明のリヒートプレス用ガラス材料を表面から中心に向かって成分を測定した場合に、表面に近い部分はNa成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種が母体ガラスのNa成分、K成分、Rb成分及びCs成分よりも含有量が高い部分があり、この部分を本明細書では表面改質層とする。
【0044】
ガラス、特に光学ガラスでは、ガラスに含まれるアルカリ金属の種類や量によっては屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比PgFへの影響が異なる。このため、所望の特性を満たすためには小さいイオン半径のアルカリ金属を用いる場合があるが、より小さいイオン半径のアルカリ金属を加えると、ガラス転移点Tgに対する結晶化温度が低くなり、ガラスの安定性が低下する傾向にある。特にガラス表面は不均一核生成が起こるため、結晶化しやすい。
【0045】
そこで、光学ガラスの表面及び表面に近い部分のみ、アルカリ金属の中でより大きいカチオンの直径を有するカチオンを増加させた表面改質層を設けることにより、ガラス表面の安定性を高め、表面の結晶化を抑制することができる場合がある。
すなわち、ガラスに含まれるアルカリ金属のうち、もっともイオン半径の小さいアルカリ金属をアルカリ金属(X)とし、アルカリ金属(X)のイオン半径よりも大きなイオン半径を有するアルカリ金属をアルカリ金属(Y)としたとき、ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)は、表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)より大きく、および/またはガラス中のアルカリ金属(Y)の含有量(Y1)は、表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有量(Y2)よりも小さいことにより、安定性を高め、表面の結晶化を抑制することができる。
熱的安定性の高い表面改質層を有する光学ガラス材料は、光学ガラスを軟化させた際の表面結晶層の形成を抑制することができ、加熱により端部や角が軟化させ、プレスしやすい形状にすることができる。
【0046】
具体例を挙げると、ガラス中のアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径が小さいアルカリ金属がLi成分である場合(すなわち、アルカリ金属(X)がLi成分の場合)は、Li成分がより少なく、かつ、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分又はFr成分(アルカリ金属(Y))をより多く含む表面改質層を設けることができる。
また、ガラス中のアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径が小さいアルカリ金属がNa成分の場合(すなわち、アルカリ金属(X)がNa成分の場合)は、Na成分がより少なく、K成分、Rb成分、Cs成分又はFr成分(アルカリ金属(Y))をより多く含む表面改質層を設けることができる。
また、ガラス中のアルカリ金属成分のうち、最もイオン半径が小さいアルカリ金属がK成分の場合(すなわち、アルカリ金属(X)がK成分の場合)は、K成分がより少なく、Rb成分、Cs成分又はFr成分をより多く含む表面改質層を設けることができる。
アルカリ金属(X)が、Rb成分、Cs成分の場合も、上記と同様の考え方に基づく表面改質層を設けることができる。
【0047】
表面改質層の厚さの下限は、特に限定されるものではないが、成分分析の内容からリヒートプレス用ガラス材料の表面から100μm以下が好ましく、50μm以下であればより好ましく、30μm以下であればさらに好ましく、10μm以下であれば一層好ましく、5μm以下であればさらに一層好ましい。100μm以下であれば、プレス後の研削及び研磨により表面改質層を取り除くことが可能である。
表面改質層の厚さの下限については特に限定されないが、0.01μm以上であれば好ましく、0.10μm以上であればさらに好ましく、0.50μm以上であれば一層好ましく、1.00μm以上であればさらに一層好ましい。0.01μm以上であれば、リヒートプレス用ガラス材料の表面部分の安定性が高まり、加熱により軟化しやすくなる。
【0048】
[リヒートプレス済ガラス材料及び研磨済ガラス]
本発明のリヒートプレス用ガラス材料は、研磨済ガラス、特にガラス製の光学素子、例えば光学レンズを製造するための材料として好適である。リヒートプレス用ガラス材料から、研磨済ガラスを製造するためには、まずリヒートプレス用ガラス材料をリヒートプレスすることにより、リヒートプレス済ガラス材料を製造する。次に、リヒートプレス済ガラス材料を研削及び研磨等をすることにより、研磨済ガラスを製造する。本発明のリヒートプレス用ガラス材料を用いた製造は、リヒートプレスによりガラス内部に結晶層が混入しくいため、高品質で歩留まりが高く、加熱によって形成される結晶層をより薄くできるため、研削及び研磨により取り除かれるガラス量を低減することができる。
【0049】
[リヒートプレス用ガラス材料の製造方法]
(浸漬工程)
リヒートプレス用ガラス材料の製造方法について説明する。リヒートプレス用ガラス材料は、板状又は棒状等のガラス材料を、所定の大きさになるように切断したもの(本明細書では、「カットピース」と称する場合もある)、又は熔融状態のガラスから直接得られるゴブなどをアルカリ金属(Y)の溶融塩(例えば、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種の成分を含む溶融塩)に浸漬させることで製造することができる。
【0050】
Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種の成分を含む溶融塩としては、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種の成分を含む溶融塩であれば、特に限定されるものではないが、扱いやすさの観点から、硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸セシウム(CsNO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)、炭酸セシウム(CsCO)、及びこれらの前記溶融塩から選択される2種又は3種からなる混合物が挙げられる。混合物の混合割合は任意で決定できる。成分としては、Na成分が好ましく、Na成分及びK成分の混合物であれば、Na成分が多い方が好ましい。
【0051】
浸漬する際の温度は、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一方の成分を含む溶融塩が溶融状態になっているのであれば特に限定されるものではないが、下限温度としては、各塩の融点以上である。好まくは308℃以上、より好ましくは350℃以上であり、上限温度としては、好ましくは800℃以下、より好ましくは600℃以下である。
【0052】
浸漬時間は、溶融塩のアルカリ金属成分がガラス中に侵入すればよい。例えば、浸漬時間の下限は、好ましくは10分、より好ましくは30分であり、浸漬時間の上限は、上限時間は好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、一層好ましくは6時間以下、さらに一層の好ましくは2時間以下である。
【0053】
前記浸漬工程により、下記のことを考えることができる。すなわち、ガラス中のアルカリ金属(X)の含有率(X1)が、表面改質層中のアルカリ金属(X)の含有率(X2)よりも多く、ガラス中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y1)は、表面改質層中のアルカリ金属(Y)の含有率(Y2)よりも少ないことから、例えば、アルカリ金属(Y)(例えば、Na成分、K成分、Rb成分、Cs成分及びFr成分の少なくとも一種)の成分を含む溶融塩に浸漬することにより、アルカリ金属(Y)と、ガラス中に含まれるアルカリ金属(X)(例えば、Li成分、Na成分、K成分、Rb成分又はCs成分)との間でイオン交換が起こり、安定性の比較的高い表面改質層を形成し、ガラス軟化温度付近まで加熱しても固い結晶層を形成しにくくなると考えることができる。
【0054】
[リヒートプレス工程、研削及び研磨工程]
次にガラスの成形について、説明する。本発明のリヒートプレス用ガラス材料は、リヒートプレスに好適である。
【0055】
(リヒートプレス工程)
リヒートプレスについては、図面を用いて説明する。図1は、表面改質層を有さない材料をリヒートプレスしたときの概念図である。
【0056】
所定の形状のガラス11をプレス機の下金型13に配置し、軟化させるために加熱する(図1(a))。このとき、加熱温度が高すぎると、熔融状態になり型の中でガラスが液状化してしまい、成形できず、また、加熱温度が低すぎると、ガラス材料が硬いままであるため成形できない。したがって、軟化させる温度は、成形しようとするガラスの軟化点より100℃低い温度からガラスの軟化点よりも300℃高い温度の範囲であることが好ましい。ここで、ガラスの軟化点とは、JIS R 3103-1:2001に規定される方法により測定した値である。
【0057】
しかしながら、軟化点付近の温度はガラスの種類によっては表面に硬い表面結晶層11aが形成されてしまい、ガラス材料の表面結晶層の角が残った状態になる(図1の(b))。この状態で上型12と下型13とでプレスをすると、固まった角が、ガラス材料の内部に侵入してしまい(図1(c)~(d))、リヒートプレス後研削及び研磨をしても、内部に侵入した角部(侵入結晶層11(b))を取り除くことはできない(図1(e))。
【0058】
一方、表面処理層を有するガラスの場合(図2参照。ただし、表面改質層はガラスとの明確な境界がないため図示しない。)はガラス21の表面の安定性が高く、軟化点付近の温度で形成される表面結晶層21aは、表面処理層を有さない図1の場合よりも薄くなる。また、角を有するリヒートプレス用ガラス材料21は加熱により軟化し、角がなくなる(図2の(b))。その状態で上型22と下型23とでプレスしても、図1のような侵入結晶層は生じず、成形後のガラス内部は異物のない状態である(図2(c)~(d))。したがって、リヒートプレス後の研削及び研磨により、表面結晶層21aをすべて取り除くことができる(図2(e)参照)。
【0059】
(研削及び研磨工程)
リヒートプレス後、リヒートプレス済ガラス材料を、研削及び研磨することにより、最終製品の研磨済ガラスを製造することができる。得られた研磨済ガラスは光学レンズとして好適なものである。研削及び研磨は、従来から行われている方法により実施することができる。
【0060】
研削及び研磨は、通常種々の研削及び研磨工程を経て、最終製品となるガラスが得られるが、一般的には表面から100μm~500μm程度研削及び研磨する。本発明のリヒートプレス用ガラス材料を用いると、表面結晶層の厚さが薄く、かつ、結晶表面層が内部に侵入しないため、研削及び研磨量を減らすことができる。
なお、研削及び研磨に用いられる材料は、従来のものを使用することができる。
【実施例
【0061】
実施例
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では、リヒートプレス用ガラス材料として、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料を製造し、光学ガラスレンズを成形した。
【0062】
[光学ガラスのカットピース製造]
まず、下記の組成を有するように、ガラス原料(含有割合は質量%)を調合し、1450℃で熔融し、金型にキャスト後、500℃でアニールすることにより、板状の光学ガラスを得た。
SiO 23.69%
1.08%
LiO 5.23%
NaO 4.98%
O 3.41%
ZrO 7.53%
Nb 49.133%
TiO 4.97%
Sb 0%
熱的特性として、Tg(ガラス転移点)は、566℃、nd(屈折率)は1.86、νd(アッベ数)は25.2、液相温度は1140℃であった。
【0063】
得られた板状の光学ガラスを、10mm(縦)×10mm(横)×7.5mm(高さ)の直方体の形状になるように切断し、同形状の複数のカットピースを得た。
【0064】
[リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料の製造]
(実施例1)
カットピース全体を、460℃に加熱した70mlの100モル%NaNO溶融塩に浸漬させ、120分間浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料1を得た。
【0065】
(実施例2)
浸漬時間を240分に変更した以外は、実施例1と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料2を得た。
【0066】
(実施例3)
浸漬時間を360分に変更した以外は、実施例1と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3を得た。
【0067】
(実施例4)
100モル%硝酸ナトリウム(NaNO)溶融塩を、50モル%硝酸ナトリウム(NaNO)-50モル%硝酸カリウム(KNO)溶融塩に変更した以外は、実施例1と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料4を得た。
【0068】
(実施例5)
浸漬時間を240分に変更した以外は、実施例4と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料5を得た。
【0069】
(実施例6)
浸漬時間を360分に変更した以外は、実施例4と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料6を得た。
【0070】
(実施例7)
100モル%NaNO溶融塩を、100モル%硝酸カリウム(KNO)溶融塩に変更した以外は、実施例1と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料7を得た。
【0071】
(実施例8)
浸漬時間を240分に変更した以外は、実施例7と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料8を得た。
【0072】
(実施例9)
浸漬時間を360分に変更した以外は、実施例7と同様にカットピースを浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料9を得た。
【0073】
[リヒート(再加熱)実験後の厚さ測定]
リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料1~9を、アニール炉内、795℃で5分間保持し、取り出して、加熱後のリヒートプレス用光学ガラスレンズ1~9の高さを測定し、加熱前の高さ(7.5mm)からの減少量(Δt)を算出した。また、加熱後のリヒートプレス用光学ガラスレンズ1~9はすべて表面が白くなっており、表面結晶層に覆われていることを確認した。また、同様に、浸漬していないカットピース(比較用リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料)を同様にリヒート実験し、カットピースの厚さを測定した。浸漬していないカットピースも表面結晶層に覆われていることを確認した。リヒート実験後のリヒートプレス用光学ガラスレンズ材料1~9、及び比較用リヒートプレス用光学ガラスレンズの材料の写真を図3図4図5に示す。
【0074】
[表面結晶層の厚さ]
加熱後のリヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3を切断し、表面結晶層の厚さを写真撮影等により測定したところ65μmであった。同様に、比較用リヒートプレス用光学ガラスレンズを切断し、表面結晶層の厚さを写真撮影等により測定したところ、173μmであった。
【0075】
[表面改質層の成分]
リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料(リヒートプレス前)の表面改質層の成分の測定には、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry、略称:SIMS)や走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、略称:SEM)とエネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy、略称:EDX)による分析機能を兼ね備えたSEMEDX(SEM-EDX)などを使用することができる。SIMS装置としては、例えば、ダイナミックSIMSやTOF-SIMSを用いることができる。SEMEDX(SEM-EDX)装置としては、例えば、日立ハイテクノロジーズ製のSEM(S-3400N)とEDX(HITACHI S3400N)からなる装置を用いることができる。
リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3(リヒートプレス前)について、このような装置を用いて、表面改質層の成分を測定した。結果を図6に示す。表面から所定の距離はNa成分が多いことがわかった。また、表記しないが、表面付近はガラス内部よりLi成分が少ないことがわかった。
【0076】
加熱溶融させた硝酸ナトリウム塩、硝酸カリウム塩、硝酸ナトリウム-硝酸カリウム混合塩に、カットピースを浸漬することにより、カットピース表面付近の組成が変動し、表面結晶層の厚さを低減することができた。また、溶融塩に浸漬したカットピースは、表面結晶層を含めた表面部分の組成が変わり、硬い結晶ではなく、カットピースは、角が取れた球形に近い状態となった。このようなカットピースであれば、リヒートプレス時に、角が中ガラス中に侵入せず、また、薄い表面結晶層は、ガラスの研削及び研磨により十分除去できる程度の厚さであった。
【0077】
(実施例10)
次に、表1に示す組成(含有割合は質量%)を有するガラスが得られるように、ガラス原料を調合し、加熱、熔融し、金型にキャスト後、アニールすることにより、板状の光学ガラスA~Fを得た。光学ガラスA~Eの熔融温度は1300~1450℃、光学ガラスFの熔融温度は1050~1150℃とした。また光学ガラスA~Fのアニール温度は各ガラスのガラス転移点より50℃低い温度とした。
【0078】
【表1】
【0079】
得られた板状の光学ガラスA~Fを、それぞれ10mm(縦)×10mm(横)×7.5mm(高さ)の直方体の形状になるように切断し、同形状の複数のカットピースを得た。
【0080】
実施例1~3と同様、NaNO溶融塩を使用し、光学ガラスA、C~Fからなるカットピースを前記NaNO溶融塩に浸漬させてリヒートプレス用光学ガラスレンズ材料を得た。
また、実施例4~6と同様、硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合溶融塩を使用し、光学ガラスA~Fからなるカットピースを前記混合溶融塩に浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料を得た。
さらに、実施例7~9と同様、100モル%硝酸カリウム(KNO)溶融塩を使用し、光学ガラスA~Fからなるカットピースを、前記硝酸カリウム(KNO)溶融塩に浸漬させ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料を得た。
このようにして溶融塩に浸漬した各リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料(カットピース)をアニール炉内に入れて加熱処理した後、取り出し、観察したところ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料1~9と同様、すべてのカットピースの表面が白くなっており、表面結晶層に覆われていた。
加熱後の各リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料を切断し、表面結晶層の厚さを写真撮影等により測定したところすべて100μm以下であった。
【0081】
リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3(リヒートプレス前)の表面改質層の成分を測定と同じ方法で、光学ガラスA、C~Fからなる各カットピースの表面改質層の成分を測定したところ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3と同様、表面から所定の距離はNa成分が多いことがわかった。また、表面付近はガラス内部よりLi成分が少ないことがわかった。
【0082】
光学ガラスBからなる各カットピースの表面改質層の成分を測定したところ、リヒートプレス用光学ガラスレンズ材料3と同様、表面から所定の距離はK成分が多いことがわかった。また、表面付近はガラス内部よりNa成分が少ないことがわかった。
【0083】
光学ガラスA~Fからなる各カットピースについても、アルカリ金属溶融塩に浸漬することにより、表面結晶層の厚さを低減できること、表面結晶層を含めた表面部分の組成が変わり、硬い結晶ではなく、カットピースを角が取れた球形に近い状態にできることが確認された。このようなカットピースであれば、リヒートプレス時に、角が中ガラス中に侵入することを抑制できる。また、これら実施例の薄い表面結晶層は、ガラスの研削及び研磨により十分除去できる程度の厚さである。
【0084】
このようにして作製した各種リヒートプレス用ガラス材料を、加熱、軟化してリヒートプレス成形し、光学レンズに近似した形状のレンズブランクを作製した。レンズブランクを観察したところ、ガラス材料の端部や角の表面結晶層のガラス内部への侵入は認められなかった。
上記リヒートプレス成形した後のリヒートプレス済ガラス材料の表面について、リヒートプレス用ガラス材料の表面分析と同様の方法により表面分析を行うことによって、リヒートプレス用ガラス材料と同様の表面改質層が存在することを確認した。
次いで、上記レンズブランクを研削及び研磨し、各種光学レンズを作製した。レンズブランクにはガラス材料の端部や角の表面結晶層のガラス内部への侵入がないため、研削及び研磨する量を低減することができた。
なお、上記リヒートプレス成形、研削、研磨は公知の方法を適用することができる。
以上、光学レンズの作製について説明したが、本発明は、光学レンズ以外にもプリズムなどガラス製の各種光学素子の製造、光学素子以外のガラス物品の製造にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は光学ガラスの技術分野において有用である。特に本発明のガラスは再加熱時の表面失透を軽減する特徴を持つことから、特に再加熱工程を含むガラスの製造に好適であるが、リヒートプレス以外にも、多くの用途に用いることができる。
【0086】
符号の説明
11,21 ガラス
11a,21a 結晶層
11b 侵入結晶層
12,22 上型
13,23 下型
図1
図2
図3
図4
図5
図6