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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】偏波共用アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20231110BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20231110BHJP
   H01Q 9/32 20060101ALI20231110BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q9/16
H01Q9/32
H01Q21/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019179225
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057753
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/077813(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/164782(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/043470(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/207869(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 9/16
H01Q 9/32
H01Q 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異なる偏波を送受信可能な偏波共用アンテナにおいて、
誘電体基板と、
前記誘電体基板の内部に形成され、それぞれの基端から先端までが前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向に延伸する複数の垂直偏波用素子と、
前記誘電体基板の内部に形成された第1の導体層の一部を構成し、それぞれの基端から先端までが前記第1の方向に直交する第2の方向に延伸する複数の水平偏波用素子と、
前記第1の導体層の一部を構成し、前記複数の水平偏波用素子と所定の距離だけ離れて配置される第1のグランド導体と、
を備え、
前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端は前記第2の方向に沿って所定の間隔で並んで配置され、前記複数の垂直偏波用素子は前記誘電体基板を前記第1の方向から見た平面視で前記複数の水平偏波用素子と重ならない領域に配置され
前記誘電体基板の前記第1の方向に対向する一対の表面のうち一方の表面に形成された第2の導体層の一部として、前記複数の垂直偏波用素子のそれぞれの前記基端と電気的に接続される複数の垂直偏波用給電端子が設けられるとともに、前記第2の導体層の一部として、前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端と電気的に接続される複数の水平偏波用給電端子が設けられる
ことを特徴とする偏波共用アンテナ。
【請求項2】
前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端は、使用周波数帯域の中心周波数に対応する波長λ0に関し、前記第2の方向に沿ってλ0/2の間隔で並んで配置されることを特徴とする請求項1に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項3】
前記複数の垂直偏波用素子は、前記第2の方向に沿ってλ0/2の間隔で並んで配置されることを特徴とする請求項2に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項4】
前記複数の水平偏波用素子は、互いに同一の形状を有し、それぞれの前記基端から前記先端までの延伸方向が互いに同一であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項5】
前記誘電体基板の前記一対の表面のうち他方の表面に形成された第3の導体層の少なくとも一部として、前記第1のグランド導体と電気的に接続される第2のグランド導体が配置されることを特徴とする請求項に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項6】
前記誘電体基板に形成された全ての導体層に、前記第1及び第2のグランド導体を含む多層構造のグランド導体が含まれることを特徴とする請求項に記載の偏波共用アンテナ。
【請求項7】
前記複数の垂直偏波用素子の各々は、前記第2の導体層と前記第1の導体層との間を接続するビア導体からなることを特徴とする請求項に記載の偏波共用アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる偏波を送受信可能な偏波共用アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高周波信号を用いた無線通信において、2つの異なる偏波(例えば、垂直偏波と水平偏波)の両方を送受信可能な偏波共用アンテナが知られている。例えば、特許文献1には、誘電体基板の表面に垂直偏波用と水平偏波用のそれぞれのアンテナ素子を金属箔により形成し、垂直偏波及び水平偏波を複数の周波数帯域のそれぞれについて共用し得る周波数共用偏波共用アンテナが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-038636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のアンテナ構造においては、垂直偏波用と水平偏波用のそれぞれのアンテナ素子は、折り返しダイポールアンテナ素子を用いて構成されている。そのため、各々のアンテナ素子自体の長さは信号波長の1/2倍となるため、複数のアンテナ素子を配置するためのスペースが必要となることから、アンテナ全体の小型化が困難であるという課題があった。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、誘電体基板に複数の垂直偏波用素子と複数の水平偏波用素子を構成し、良好なアンテナ性能を保ちつつ小型化に適した偏波共用アンテナを実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、2つの異なる偏波を送受信可能な偏波共用アンテナにおいて、誘電体基板(10)と、前記誘電体基板の内部に形成され、それぞれの基端(11a)から先端(11b)までが前記誘電体基板の厚さ方向である第1の方向(Z)に延伸する複数の垂直偏波用素子(11)と、前記誘電体基板の内部に形成された第1の導体層(20b)の一部を構成し、それぞれの基端(12a)から先端(12b)までが前記第1の方向に直交する第2の方向(Y)に延伸する複数の水平偏波用素子(12)と、前記第1の導体層の一部を構成し、前記複数の水平偏波用素子と所定の距離だけ離れて配置される第1のグランド導体(13)とを備えて構成され、前記複数の水平偏波用素子のそれぞれの前記基端は前記第2の方向に沿って所定の間隔で並んで配置され、前記複数の垂直偏波用素子は前記誘電体基板を前記第1の方向から見た平面視で前記複数の水平偏波用素子と重ならない領域に配置されることを特徴としている。
【0007】
本発明の偏波共用アンテナによれば、2つの異なる偏波を送受信するための構造として、誘電体基板の内部に、第1の方向に延伸する複数の垂直偏波用素子と、第1の方向と直交する第2の方向に延伸する複数の水平偏波用素子と、複数の水平偏波用素子と同じ第1の導体層に配置した第1のグランド導体とを設け、複数の水平偏波用素子を所定の間隔で配置したので、所望の周波数帯域に適合する放射特性を容易に実現可能となる。そして、複数の水平偏波用素子を規則的に配置し、その空きスペースに複数の垂直偏波用素子を容易に配置できるので、誘電体基板の波長短縮効果と相まって偏波共用アンテナ全体の小型化が実現可能となる。また、複数の垂直偏波用素子と複数の水平偏波用素子との方向性から電磁波が誘電体基板の側面方向に放射されるので、偏波共用アンテナを内蔵した携帯端末等の薄型化に適している。
【0008】
本発明において、複数の水平偏波用素子のそれぞれの基端を、使用周波数帯域の中心周波数に対応する波長λ0に関し、第2の方向に沿ってλ0/2の間隔で並んで配置することができる。これにより、複数の水平偏波用素子の放射特性を所望の周波数帯域に確実に適合させることができる。この場合において、複数の垂直偏波用素子についても、複数の水平偏波用素子の配置に合わせて、第2の方向に沿ってλ0/2の間隔で並んで配置することができる。
【0009】
本発明の複数の水平偏波用素子は、互いに同一の形状で形成し、それぞれの基端から先端までの延伸方向を互いに同一とすることができる。これにより、複数の水平偏波用素子を設ける場合、同様の導体パターンを所定の間隔で効率的に配置でき、その空きスペースに複数の垂直偏波用素子を容易に配置することできる。
【0010】
本発明において、誘電体基板の第1の方向に対向する一対の表面のうち一方の表面に形成された第2の導体層の一部として、複数の垂直偏波用素子のそれぞれの基端と電気的に接続される複数の垂直偏波用給電端子を設けるとともに、第2の導体層の一部として、複数の水平偏波用素子のそれぞれの基端と電気的に接続される複数の水平偏波用給電端子を設けることができる。なお、垂直偏波用給電端子又は水平偏波用給電端子において、インピーダンスの整合のための整合回路を設けてもよい。
【0011】
本発明において、誘電体基板の一対の表面のうち他方の表面に形成された第3の導体層の少なくとも一部として、第1のグランド導体と電気的に接続される第2のグランド導体を配置することができる。この場合、誘電体基板に形成された全ての導体層に、第1及び第2のグランド導体を含む多層構造のグランド導体を含めることができる。これにより、グランド導体を多層構造の各導体層に広く配置することで面積を十分に確保でき、垂直偏波用素子及び水平偏波用素子の反射器として機能するグランド導体を強化し、アンテナ特性を向上させることが可能となる。
【0012】
本発明の複数の垂直偏波用素子の各々は、第2の導体層と第1の導体層との間を接続するビア導体を用いて形成することができる。これにより、誘電体基板の内部の各導体層の導体パターンとビア導体のみを用いた簡素な構造で全体の偏波共用アンテナを構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、互いに直交する方向性を有する複数の垂直偏波用素子及び複数の水平偏波用素子を誘電体基板の内部に形成し、複数の水平偏波用素子を所定の間隔で配置し、誘電体基板の厚さ方向から見て重ならない領域に複数の垂直偏波用素子を配置したので、良好なアンテナ特性を保ちつつ、誘電体基板の波長短縮効果と相まって偏波共用アンテナ全体の小型化に適した構造を提供することができる。また、上記構造により電磁波が誘電体基板の側面方向に放射されるので、携帯端末等に偏波共用アンテナを内蔵する場合の薄型化にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の偏波共用アンテナをX方向から見た断面図(図3(B)のA-A断面)である。
図2図1の偏波共用アンテナをY方向に沿ったY1方向から見た断面図(図3(C)のB-B断面)である。
図3図1の偏波共用アンテナに含まれる5層の導体層に関し、それぞれZ方向の上方から見た平面図である。
図4】本実施形態の偏波共用アンテナの変形例として、4個の垂直偏波用給電端子14のそれぞれに整合回路14aを付加した構造を示す図である。
図5】本実施形態の偏波共用アンテナに対するシミュレーショにより得られた放射周波数特性の検証結果のうち、図1図3の構造を有する偏波共用アンテナを用いた場合を示す図である。
図6】本実施形態の偏波共用アンテナに対するシミュレーショにより得られた放射周波数特性の検証結果のうち、図1図3の構造の一部を図4の変形例に変更した偏波共用アンテナを用いた場合を示す図である。
図7】本実施形態の偏波共用アンテナの作製方法の概要を説明する第1の図である。
図8】本実施形態の偏波共用アンテナの作製方法の概要を説明する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0016】
図1図3を用いて、本発明を適用した一実施例に係る偏波共用アンテナの構造について説明する。図1図3では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向(本発明の第2の方向)、Y方向、Z方向(本発明の第1の方向)をそれぞれ矢印にて示している。図1は、本実施形態の偏波共用アンテナをX方向から見た断面図(図3(B)のA-A断面)であり、図2は、図1の偏波共用アンテナをY方向に沿ったY1方向から見た断面図(図3(C)のB-B断面)であり、図3は、図1の偏波共用アンテナに含まれる5層の導体層に関し、それぞれZ方向の上方から見た平面図である。
【0017】
本実施形態の偏波共用アンテナは、セラミック等の誘電体材料からなる多層構造の誘電体基板10を用いて構成される。そして、誘電体基板10には、Z方向に延伸する4個の垂直偏波用素子11と、Y方向に延伸する4個の水平偏波用素子12と、多層構造のグランド導体13がそれぞれ設けられている。誘電体基板10には5層の導体層20a、20b、20c、20d、20eが形成され、それぞれの導体層20a~20eには多様な導体パターンPが含まれるとともに、それぞれの導体層20a~20eの間をZ方向に接続する複数のビア導体Vが設けられている。前述の4個の垂直偏波用素子11と4個の水平偏波用素子12とグランド導体13のそれぞれの構造は、各導体層20a~20eの導体パターンP及びビア導体Vを組合せて実現される。なお、以下の説明において、垂直偏波用素子11と、水平偏波用素子12と、グランド導体13について、それぞれ複数個を区別する必要がある場合、カッコ内に番号を付して示す場合がある。
【0018】
誘電体基板10は、Y方向に沿う長辺と、X方向に沿う短辺と、Z方向に沿う所定の厚さを有する矩形の板状部材であり、所定の誘電率を有する誘電体層と、導電材料からなる前述の導体層20とを交互に積層してなる。誘電体基板10の複数の導体層20としては、図3(A)~(E)に示すように、Z方向の上方から順に、導体層20a、20b、20c、20d、20eを備えている。それぞれの導体層20の間は、所定の位置に形成されたビア導体Vを介して接続されている。5層の導体層20のうち、導体層20a、20eは、誘電体基板10のうちZ方向に対向する1対の表面に露出し、導体層20b、20c、20dは誘電体基板10の内層を構成する。また、最下層の導体層20eには、4個の垂直偏波用素子11のそれぞれと電気的に接続される4個の垂直偏波用給電端子14と、4個の水平偏波用素子12のそれぞれと電気的に接続される4個の水平偏波用給電端子15が設けられている。
【0019】
4個の垂直偏波用素子11は、Y方向に沿って図1の右側から、垂直偏波用素子11(1)、11(2)、11(3)、11(4)の順に配置されている。各々の垂直偏波用素子11は、導体層20eと導体層20bとの間を接続するビア導体Vを用いて構成される。すなわち、各々の垂直偏波用素子11は、ビア導体Vの下端である基端11aからビア導体Vの上端である先端11bまでZ方向に延伸されており、基端11aが下側の導体層20eの垂直偏波用給電端子14に接続される。なお、導体層20eに配置される各々の垂直偏波用給電端子14は、X方向に延伸する導体パターンPからなる。
【0020】
4個の水平偏波用素子12は、Y方向に沿って図1の右側から、水平偏波用素子12(1)、12(2)、12(3)、12(4)の順に配置されている。各々の水平偏波用素子12は、図3(B)の導体層20bにおいて、基端12aから先端12bに延伸する導体パターンからなる。そして、各々の水平偏波用給電端子15と水平偏波用素子12の基端12aとの間は、導体層20eから導体層20bまでを接続するビア導体Vと、導体層20bのX方向に延伸する導体パターンPとを介して電気的に接続される。なお、導体層20eに配置される各々の水平偏波用給電端子15は、垂直偏波用給電端子14と同様、X方向に延伸する導体パターンPからなる。
【0021】
図1に示すように、4個の水平偏波用素子12は、Y方向に沿って一定の間隔で一列に並んで配置されている。この場合の間隔は、偏波共用アンテナの使用周波数帯域の中心周波数f0に対応する波長をλ0としたとき、λ0/2に一致する。ここで、水平偏波用素子12の基端12aを位置基準とすると、4個の水平偏波用素子12の各基端12aがX方向に沿って間隔λ0/2で並ぶ配置になっている。本実施形態において想定する使用周波数帯域に対応する間隔λ0/2は数mm程度の値になる。偏波共用アンテナにおいて、このような寸法条件に応じて複数の水平偏波用素子12を並べて配置することにより、概ね使用周波数帯域に適合するアンテナ特性を実現することができる。
【0022】
また、4個の垂直偏波用素子11も、水平偏波用素子12と同様、Y方向に沿って間隔λ0/2で一列に並んで配置されている。図1図3から明らかなように、4個の垂直偏波用素子11は、Z方向から見た平面視で、4個の水平偏波用素子12と重ならない領域に配置されている。アンテナ特性の観点からは、4個の垂直偏波用素子11を間隔λ0/2に配置することは、4個の水平偏波用素子12とは異なり、アンテナ特性への影響は小さいが、4個の水平偏波用素子12の空きスペースを有効に利用して4個の垂直偏波用素子11を配置することができる。よって、本実施形態のような配置を採用することで、偏波共用アンテナの全体の小型化が可能となる。
【0023】
ここで、4個の水平偏波用素子12の各々はY方向に延伸するので、Z方向から見た平面視で、互いの間隔λ0/2はそれぞれの基端12a同士の間隔として捉えることができる。この場合、それぞれの先端12b同士も同様の間隔λ0/2で配置されている。一方、4個の垂直偏波用素子11の各々はZ方向に延伸するので、Z方向から見た平面視で部分を問わずX方向に沿って間隔λ0/2で配置されている。
【0024】
一方、各々の水平偏波用素子12のY方向の長さは、前述の間隔λ0/2よりも十分に短くなる。これは、各々の水平偏波用素子12を、所定の誘電率を有する誘電体基板10の内部に形成したことによる波長短縮効果が生じるためである。例えば、誘電体基板10が比誘電率εを有する場合、水平偏波用素子12のY方向の長さは空気中に比べて、1/(ε1/2)に短縮される。空気の誘電率を想定すると、水平偏波用素子12のY方向の長さが長くなって前述の間隔λ0/2で配置することは困難となるが、誘電体基板10の誘電率を大きくすれば、波長短縮効果により偏波共用アンテナを小型化することが可能となる。なお、各々の垂直偏波用素子11のZ方向の長さについても、同様の波長短縮効果に基づき短くなる。
【0025】
グランド導体13は、図3に示すように、5層の導体層20a~20eの全体にわたって配置され、各導体層20a~20eのグランド部分が複数のビア導体Vを介して電気的に接続された多層構造となっている。このうち、導体層20a(本発明の第3の導体層)には、グランド導体13のみが配置されており、本発明の第2のグランド導体として機能する。図3の例では、各々の水平偏波用素子12に対応して5本1組のビア導体Vが設けられ、全部で20本のビア導体VがZ方向に沿って5層の導体層20a~20eのグランド部分を接続している。5層の導体層20a~20eのグランド部分はZ方向に概ね対向して配置されるが、それぞれの垂直偏波用素子11及び水平偏波用素子12との位置関係に応じて、各層で形状や面積が若干異なっている。
【0026】
ここで、図3(B)の導体層20bに着目すると、4個の水平偏波用素子12とグランド導体13とはともに導体層20bの一部を構成しており、互いにX方向に距離Dだけ離れて配置される。すなわち、4個の水平偏波用素子12から距離Dよりも近い領域には、グランド導体13が配置されていない。そして、この距離Dは水平偏波用素子12のアンテナ特性に影響を及ぼすので、適切な値に設定することが重要である。例えば、本実施形態では、距離Dとして、誘電体基板10のX方向の寸法の1/5程度の値を設定している。導体層20bのグランド導体13は、本発明の第1のグランド導体として機能する。なお、図3(B)の例では、導体層20bのグランド導体13のうち4個の水平偏波用素子12の近傍側の端部はY方向に水平であるが、水平偏波用素子12に最も近い部分が距離Dだけ離れていれば、グランド導体13をY方向に斜めの形状などの不定形状としてもよい。
【0027】
また、図3(C)の導体層20cのグランド導体13には、L字状の4個の突出部13aが設けられており、4個の突出部13aの上方に4個の水平偏波用素子12が配置される位置関係にある。ただし、4個の突出部13aの先端部分は、4個の水平偏波用素子12と逆方向に延伸されている。また、図3(D)の導体層20dのグランド導体13及び図3(E)の導体層20eのグランド導体13には、4個の垂直偏波用素子11の周囲にグランド導体13の一部が配置されるが、それより上層の導体層20b、20cにおいては4個の垂直偏波用素子11に近い領域にグランド導体13が配置されない。5層の導体層20a~20eの全体のグランド導体13は、偏波共用アンテナの反射器として機能する。すなわち、4個の垂直偏波用素子11及び4個の水平偏波用素子12のそれぞれの鏡像が全体のグランド導体13に形成されるため、アンテナ特性の向上のためグランド全体の面積を十分に確保する必要がある。
【0028】
図3(E)の導体層20e(本発明の第2の導体層)において、4個の垂直偏波用給電端子14は、グランド導体13で囲まれる領域内で、4個の垂直偏波用素子11のそれぞれの基端11aからX方向に所定の長さだけ延伸する形状を有する。また、4個の水平偏波用給電端子15は、グランド導体13で囲まれる領域内で、4個の水平偏波用素子12と電気的に接続されるそれぞれのビア導体Vの下端からX方向に所定の長さだけ延伸する形状を有する。すなわち、垂直偏波用給電端子14は垂直偏波用素子11に直結されるのに対し、各々の水平偏波用給電端子15と各々の水平偏波用素子12の基端12aとの間には、導体層20eから導体層20bに至るビア導体Vと、このビア導体Vから基端12aに至る導体層20bの導体パターンPとが介在する。
【0029】
4個の垂直偏波用給電端子14及び4個の水平偏波用給電端子15を介して所定の周波数の入力信号を給電すると、4個の垂直偏波用素子11からの垂直偏波と4個の水平偏波用素子12からの水平偏波とが一体的に外部に放射される。この場合、本実施形態の構造によれば、偏波共用アンテナからの電磁波の放射方向は、誘電体基板10の側面方向であるX方向に合致する。よって、本実施形態の偏波共用アンテナを携帯端末等の内部に載置する際の薄型化が容易となる。
【0030】
ここで、本実施形態の偏波共用アンテナを構成する際の寸法条件は多様であるが、その具体例としては、図1の誘電体基板10のX方向の長さが8mm、Y方向の長さが21mm、Z方向の厚さが1.5mm、4個の水平偏波用素子12の間隔λ0/2が5.3mmを挙げることができる。この場合、誘電体基板10の最下層の導体層20eを基準とする各導体層20a~20dのZ方向の高さは、導体層20aが1.5mm、導体層20bが1.15mm、導体層20cが0.85mm、導体層20dが0.15mmを挙げることができる。なお、これ以外の寸法条件であっても、本実施形態の偏波共用アンテナの所望のアンテナ性能及びサイズに応じて適宜に採用することができる。
【0031】
図1図3に示す偏波共用アンテナは、4個の垂直偏波用素子11及び4個の水平偏波用素子12を備えているが、それぞれの個数は4個に限られず、任意の個数で複数の垂直偏波用素子11及び複数の水平偏波用素子12を設けることができる。この場合、垂直偏波用素子11及び水平偏波用素子12の個数を増やすほど、偏波共用アンテナから放射される電磁波の強度が大きくなるが、その分だけ誘電体基板10のサイズ(主にY方向のサイズ)が大きくなる。また、図1図3に示す偏波共用アンテナにおいては、5層の導体層20a~20eの全層にわたってグランド導体13が配置されるが、アンテナ性能を良好に保つことができれば、少なくとも4個の水平偏波用素子12が配置される導体層20bのみにグランド導体13を配置してもよい。
【0032】
また、図1図3に示す偏波共用アンテナは、4個の水平偏波用素子12が互いに同一の形状で、それぞれの基端12aから先端12bへの方向性も互いに同一であるが、複数の水平偏波用素子12の形状及び方向性を変更することができる。具体的には、所望のアンテナ特性を保つ範囲内で、複数の水平偏波用素子12の互いの断面形状を変更したり、それぞれの基端12aから先端12bへの方向性としてY方向に沿って互いに逆向き含むように変更することが可能である。
【0033】
また図4は、本実施形態の偏波共用アンテナの変形例を示す図である。図4の変形例においては、4個の垂直偏波用給電端子14のそれぞれに整合回路14aを付加した構造が示される。すなわち、図3(E)の垂直偏波用素子11の基端11aの位置から一定の幅でX方向に延伸する垂直偏波用給電端子14が矩形状であるのに対し、図4の変形例に係る垂直偏波用給電端子14には、X方向の略中央に整合回路14aが設けられ、整合回路14aの部分で広い幅になっている。このような整合回路14aを設けることにより、図4の変形例における垂直偏波用素子11のインピーダンスを整合させることで反射特性の向上が可能となる。なお、水平偏波用給電端子14にも整合回路を付加することもできるが、整合回路を設けないとしても、水平偏波用給電端子14から水平偏波用素子12に至る導電経路の形状や配置を適切に設定することで比較的容易にインピーダンスを整合させることができる。
【0034】
次に、本実施形態の偏波共用アンテナのアンテナ特性の検証結果について説明する。図5及び図6は、本実施形態の偏波共用アンテナに対するシミュレーショにより得られた放射周波数特性の検証結果を示す図である。ここでは、本実施形態の偏波共用アンテナのうち4個の垂直偏波用素子11及び4個の水平偏波用素子12のそれぞれに周波数範囲23~33GHzの入力信号を供給した場合のリターンロスを求めた。シミュレーション対象として、図5では、図1図3の構造を有する偏波共用アンテナを用い、図6では、導体層20eの垂直偏波用給電端子14の構造を図4の変形例の構造に変更した偏波共用アンテナを用いた。
【0035】
図5及び図6において、使用周波数帯域で良好な放射特性を確保するには、リターンロスの値が-10dB程度を超えないことが望ましい。この場合において、概ね周波数24.5~29GHzにわたる広い周波数帯域で、実用的に十分なリターンロスを得られることが確認された。また、特に図1の右側に配置される水平偏波用素子12(1)については若干リターンロスの劣化が見られるが、4個の水平偏波用素子12を含む全体で偏波共用アンテナの放射特性が定まるため、影響は限られる。また、図5及び図6を比較すると、垂直偏波用給電端子14の整合回路14aを付加したことによる放射特性の若干の向上が確認された。
【0036】
次に、本実施形態の偏波共用アンテナの作製方法の概要について、図7及び図8を参照しつつ説明する。まず、誘電体基板10を構成する複数の誘電体層として、例えば、ドクターブレード法により形成した低温焼成用の複数のセラミックグリーンシート30を用意する。そして、図7(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート30の所定位置に打ち抜き加工を施して、複数のビアホール31を開口する。なお、各セラミックグリーンシート30における各ビアホール31の位置及び個数は、図1の複数のビア導体Vの配置に対応して設定される。
【0037】
次に、図7(B)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート30に開口された複数のビアホール31のそれぞれに、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により充填することにより、複数のビア導体Vを形成する。続いて、図8(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート30の表面又は裏面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、導体層20a~20eのそれぞれの導体パターンPを形成する。このとき形成される導体パターンPと前述のビア導体Vとにより、偏波共用アンテナの基本的な要素である4個の垂直偏波用素子11と、4個の水平偏波用素子12と、グランド導体13とを含む基本構造が画定される。
【0038】
そして、図8(B)に示すように、複数のセラミックグリーンシート30を順に積層した上で、加熱加圧することにより積層体を形成する。その後、得られた積層体を脱脂、焼成することにより、図1を用いて説明した誘電体基板10に構成された偏波共用アンテナが完成する。
【0039】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。すなわち、本実施形態の図1図3の構造例は1例であって、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様な偏波共用アンテナに対して広く本発明を適用することができる。さらに、その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
10…誘電体基板
11…垂直偏波用素子
12…水平偏波用素子
13…グランド導体
14…垂直偏波用給電端子
15…水平偏波用給電端子
20a、20b、20c、20d、20e…導体層
P…導体パターン
V…ビア導体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8