(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20231110BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20231110BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
(21)【出願番号】P 2019200092
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/051073(WO,A1)
【文献】特開2000-071450(JP,A)
【文献】特開平11-216880(JP,A)
【文献】特開2000-052561(JP,A)
【文献】特開2007-022073(JP,A)
【文献】特開2019-055521(JP,A)
【文献】特開2011-177920(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099021(WO,A1)
【文献】特開2006-256094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/015
B41J 2/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルと、
前記複数のノズルに個別に連通すると共に前記液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有するアクチュエータと、
1周期内に複数のパルスを有する駆動信号を、前記アクチュエータに対して印加することにより、前記圧力室の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された前記液体を前記ノズルから噴射させる駆動部と
を備え、
前記駆動信号における前記複数のパルスは、
前記圧力室の容積を膨張させるための
、複数の第1パルスと、
前記圧力室の容積を収縮させるための
、複数の第2パルスと
を含んでいると共に、
前記圧力室内の圧力が、前記1周期内に複数の極値を含んで時間変化するようになっており、
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極値が、前記1周期内に複数の極大値を含んでいると共に、
前記複数の極大値のうちの最後の極大値が、前記1周期内において最も大きくなっており、
前記第1パルスによる前記圧力室の容積の膨張開始タイミングである、第1タイミングと、
前記第2パルスによる前記圧力室の容積の収縮開始タイミングである、第2タイミングとが、
時間軸に沿って互いに前後していると共に、
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極値のうちの、連続する2つの極値の間の期間内に、前記第1タイミングおよび前記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極大値が、前記1周期内において段階的に増加していくように時間変化している
請求項
1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記1周期内における前記複数のパルスのうちの、最初のパルスが、前記第2パルスとなっている
請求項1
または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
液体を噴射する複数のノズルと、
前記複数のノズルに個別に連通すると共に前記液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有するアクチュエータと、
1周期内に複数のパルスを有する駆動信号を、前記アクチュエータに対して印加することにより、前記圧力室の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された前記液体を前記ノズルから噴射させる駆動部と
を備え、
前記駆動信号における前記複数のパルスは、
前記圧力室の容積を膨張させるための、複数の第1パルスと、
前記圧力室の容積を収縮させるための、複数の第2パルスと
を含んでいると共に、
前記1周期内における前記複数のパルスのうちの、最初のパルスが、前記第2パルスとなっており、
前記圧力室内の圧力が、前記1周期内に複数の極値を含んで時間変化するようになっており、
前記第1パルスによる前記圧力室の容積の膨張開始タイミングである、第1タイミングと、
前記第2パルスによる前記圧力室の容積の収縮開始タイミングである、第2タイミングとが、
時間軸に沿って互いに前後していると共に、
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極値のうちの、連続する2つの極値の間の期間内に、前記第1タイミングおよび前記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している
液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記連続する2つの極値としての、極小値から極大値へと変化する期間内に、
前記第1タイミングおよび前記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している
請求項1
ないし請求項4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第1タイミングにおける前記圧力室内の圧力の絶対値が、前記第1タイミングの直前における前記極値の絶対値と比べ、小さくなっている
請求項1
ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置が様々な分野に利用されており、液体噴射ヘッドとしては、各種方式のものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液体噴射ヘッドでは、例えば10(mPa・s)以上の高粘度の液体を使用する場合があるが、そのような場合であっても、液体噴射ヘッドの構造によらずに、液体の吐出安定性を確保することが求められている。したがって、液体噴射ヘッドの構造によらずに、高粘度の液体を噴射させる場合においても、液体の吐出安定性を確保することが可能な、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る第1の液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルと、これら複数のノズルに個別に連通すると共に液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有するアクチュエータと、1周期内に複数のパルスを有する駆動信号をアクチュエータに対して印加することにより、圧力室の容積を膨張および収縮させて、圧力室内に充填された液体をノズルから噴射させる駆動部と、を備えたものである。上記駆動信号における複数のパルスは、圧力室の容積を膨張させるための複数の第1パルスと、圧力室の容積を収縮させるための複数の第2パルスとを含んでいると共に、圧力室内の圧力が、上記1周期内に複数の極値を含んで時間変化するようになっている。圧力室内の圧力についての上記複数の極値が、上記1周期内に複数の極大値を含んでいると共に、これら複数の極大値のうちの最後の極大値が、上記1周期内において最も大きくなっている。また、上記第1パルスによる圧力室の容積の膨張開始タイミングである第1タイミングと、上記第2パルスによる圧力室の容積の収縮開始タイミングである第2タイミングとが、時間軸に沿って互いに前後していると共に、圧力室内の圧力についての上記複数の極値のうちの、連続する2つの極値の間の期間内に、上記第1タイミングおよび上記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している。
本開示の一実施の形態に係る第2の液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルと、これら複数のノズルに個別に連通すると共に液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有するアクチュエータと、1周期内に複数のパルスを有する駆動信号をアクチュエータに対して印加することにより、圧力室の容積を膨張および収縮させて、圧力室内に充填された液体をノズルから噴射させる駆動部と、を備えたものである。上記駆動信号における複数のパルスは、圧力室の容積を膨張させるための複数の第1パルスと、圧力室の容積を収縮させるための複数の第2パルスとを含んでいると共に、上記1周期内における複数のパルスのうちの最初のパルスが、上記第2パルスとなっている。圧力室内の圧力が、上記1周期内に複数の極値を含んで時間変化するようになっている。また、上記第1パルスによる圧力室の容積の膨張開始タイミングである第1タイミングと、上記第2パルスによる圧力室の容積の収縮開始タイミングである第2タイミングとが、時間軸に沿って互いに前後していると共に、圧力室内の圧力についての上記複数の極値のうちの、連続する2つの極値の間の期間内に、上記第1タイミングおよび上記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置は、上記本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッド(第1の液体噴射ヘッドまたは第2の液体噴射ヘッド)を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置によれば、液体噴射ヘッドの構造によらずに、高粘度の液体を噴射させる場合においても、液体の吐出安定性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置の概略構成例を表す模式斜視図である。
【
図2】
図1に示した液体噴射ヘッドの概略構成例を表す模式図である。
【
図3】
図2に示したノズルプレートおよびアクチュエータプレート等の断面構成例を表す模式図である。
【
図4】
図3に示したIV部を拡大して表す模式断面図である。
【
図5】駆動部から駆動電極に対して供給される各電位の供給経路例を表す模式図である。
【
図6】比較例1および実施例に係る駆動信号の波形例を模式的に表すタイミング図である。
【
図7】
図6に示した実施例に係る駆動信号における各種の波形例を模式的に表すタイミング図である。
【
図8】駆動信号に含まれる各種パルスにおけるパルス幅の数値範囲の一例を表す図である。
【
図9】駆動部によるコモン駆動の際の動作状態の一例を表す模式図である。
【
図10】比較例2および実施例1,2に係る各種波形例を模式的に表すタイミング図である。
【
図11】実施例3-1~3-3に係るパルス幅と吐出安定性との関係を表す図である。
【
図12】実施例4-1,4-2に係るパルス幅と吐出安定性との関係を表す図である。
【
図13】実施例5に係るパルス幅およびオフセット電圧と吐出安定性との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(圧力室容積の変化開始タイミングや駆動信号のパルス幅を規定した例)
2.変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[A.プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置としてのプリンタ1の概略構成例を、模式的に斜視図にて表したものである。プリンタ1は、後述するインク9を利用して、被記録媒体としての記録紙Pに対して、画像や文字等の記録(印刷)を行うインクジェットプリンタである。なお、この被記録媒体としては、紙には限定されず、例えばセラミックやガラス等の、被記録可能な材質を含むものである。
【0011】
プリンタ1は、
図1に示したように、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、インク供給管50と、走査機構6とを備えている。これらの各部材は、所定形状を有する筺体10内に収容されている。本実施の形態では、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間でインク9を循環させずに利用する、非循環式のインクジェットヘッドを例に挙げて説明する。ただし、この例には限られず、例えば、インクタンク3とインクジェットヘッド4との間でインク9を循環させて利用する、循環式のインクジェットヘッドであってもよい。なお、本明細書の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0012】
ここで、プリンタ1は、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例に対応し、インクジェットヘッド4(後述するインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4K)は、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。また、インク9は、本開示における「液体」の一具体例に対応している。
【0013】
搬送機構2a,2bはそれぞれ、
図1に示したように、記録紙Pを搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送する機構である。これらの搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21、ピンチローラ22および駆動機構(不図示)を有している。この駆動機構は、グリッドローラ21を軸周りに回転させる(Z-X面内で回転させる)機構であり、例えばモータ等によって構成されている。
【0014】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インク9を内部に収容するタンクである。このインクタンク3としては、この例では
図1に示したように、イエロー(Y),マゼンダ(M),シアン(C),ブラック(K)の4色のインク9を個別に収容する、4種類のタンクが設けられている。すなわち、イエローのインク9を収容するインクタンク3Yと、マゼンダのインク9を収容するインクタンク3Mと、シアンのインク9を収容するインクタンク3Cと、ブラックのインク9を収容するインクタンク3Kとが設けられている。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Kは、筺体10内において、X軸方向に沿って並んで配置されている。
【0015】
なお、インクタンク3Y,3M,3C,3Kはそれぞれ、収容するインク9の色以外については同一の構成であるため、以下ではインクタンク3と総称して説明する。
【0016】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、後述する複数のノズル(ノズル孔Hn)から記録紙Pに対して液滴状のインク9を噴射(吐出)して、画像や文字等の記録(印刷)を行うヘッドである。このインクジェットヘッド4としても、この例では
図1に示したように、上記したインクタンク3Y,3M,3C,3Kにそれぞれ収容されている4色のインク9を個別に噴射する、4種類のヘッドが設けられている。すなわち、イエローのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Yと、マゼンダのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Mと、シアンのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Cと、ブラックのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Kとが設けられている。これらのインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kは、筺体10内において、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0017】
なお、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kはそれぞれ、利用するインク9の色以外については同一の構成であるため、以下ではインクジェットヘッド4と総称して説明する。また、このインクジェットヘッド4の詳細構成例については、後述する(
図2~
図4)。
【0018】
インク供給管50は、インクタンク3内からインクジェットヘッド4内へ向けて、インク9が供給される管である。このインク供給管50は、例えば、以下説明する走査機構6の動作に追従可能な程度の可撓性を有する、フレキシブルホースにより構成されている。
【0019】
(走査機構6)
走査機構6は、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って、インクジェットヘッド4を走査させる機構である。この走査機構6は、
図1に示したように、Y軸方向に沿って延設された一対のガイドレール61a,61bと、これらのガイドレール61a,61bに移動可能に支持されたキャリッジ62と、このキャリッジ62をY軸方向に沿って移動させる駆動機構63と、を有している。
【0020】
駆動機構63は、ガイドレール61a,61bの間に配置された一対のプーリ631a,631bと、これらのプーリ631a,631b間に巻回された無端ベルト632と、プーリ631aを回転駆動させる駆動モータ633と、を有している。また、キャリッジ62上には、前述した4種類のインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Kが、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0021】
なお、このような走査機構6と前述した搬送機構2a,2bとにより、インクジェットヘッド4と記録紙Pとを相対的に移動させる、移動機構が構成されるようになっている。なお、このような方式の移動機構には限られず、例えば、インクジェットヘッド4を固定しつつ被記録媒体(記録紙P)のみを移動させることで、インクジェットヘッド4と被記録媒体とを相違的に移動させる方式(いわゆる「シングルパス方式」)であってもよい。
【0022】
[B.インクジェットヘッド4の詳細構成]
続いて、
図2~
図4を参照して、インクジェットヘッド4の詳細構成例について説明する。
【0023】
図2は、インクジェットヘッド4の概略構成例を、模式的に表したものである。
図3は、
図2に示したノズルプレート41およびアクチュエータプレート42等の断面構成例(Z-X断面構成例)を、模式的に表したものである。
図4は、
図3に示したIV部を拡大して、模式的に断面図(Z-X断面図)で表したものである。
【0024】
インクジェットヘッド4は、後述する複数のチャネル(チャネルC1)における延在方向(Y軸方向)の中央部からインク9を吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドである。このインクジェットヘッド4は、
図2~
図4に示したように、ノズルプレート41、アクチュエータプレート42、カバープレート43および駆動部49を有している。
【0025】
なお、ノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43は、例えば接着剤等を用いて互いに貼り合わされており、Z軸方向に沿ってこの順に積層されている(
図3,
図4参照)。また、カバープレート43の上面に、所定の流路を有する流路プレート(不図示)が設けられているようにしてもよい。
【0026】
(B-1.ノズルプレート41)
ノズルプレート41は、ポリイミド等のフィルム材または金属材料により構成されたプレートであり、インク9を噴射する複数のノズル孔Hnを有している(
図2~
図4参照)。これらのノズル孔Hnはそれぞれ、所定の間隔をおいて一直線上に(この例ではX軸方向に沿って)並んで形成されている。なお、各ノズル孔Hnは、下方に向かうに従って漸次縮径するテーパ状の貫通孔となっている(
図2~
図4参照)。
【0027】
なお、このようなノズル孔Hnは、本開示における「ノズル」の一具体例に対応している。
【0028】
(B-2.アクチュエータプレート42)
アクチュエータプレート42は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により構成されたプレートである。このアクチュエータプレート42は、その分極方向が厚み方向(Z軸方向)に沿って一方向に設定されている1つ(単一)の圧電基板によって、構成されている(いわゆる、カンチレバータイプ)。ただし、アクチュエータプレート42の構成としては、このカンチレバータイプには限られない。すなわち、例えば、分極方向が互いに異なる2つの圧電基板を厚み方向(Z軸方向)に沿って積層することによって、アクチュエータプレート42を構成するようにしてもよい(いわゆる、シェブロンタイプ)。
【0029】
このアクチュエータプレート42には、
図3に示したように、複数のチャネルC1が設けられている。これらのチャネルC1は、所定の間隔をおいて互いに平行となるよう、X軸方向に沿って並んで配置されている。各チャネルC1は、圧電体からなる駆動壁Wdによってそれぞれ画成されており、断面視にて凹状の溝部となっている(
図3参照)。各駆動壁Wdは、詳細は後述するが、各チャネルC1(後述する各吐出チャネルC1e)内を個別に加圧するための素子(圧電素子)として機能するようになっている。
【0030】
このようなチャネルC1には、
図3に示したように、インク9を吐出させるための吐出チャネルC1eと、インク9を吐出させないダミーチャネル(非吐出チャネル)C1dとが、存在している。言い換えると、吐出チャネルC1eにはインク9が充填される一方、ダミーチャネルC1dにはインク9が充填されないようになっている。また、各吐出チャネルC1eは、ノズルプレート41におけるノズル孔Hnと連通している一方、各ダミーチャネルC1dは、ノズル孔Hnには連通しないようになっている。これらの吐出チャネルC1eとダミーチャネルC1dとは、上記した駆動壁Wdを介して、アクチュエータプレート42内で所定の方向(この例ではX軸方向)に沿って、交互に並んで配置されている(
図3参照)。
【0031】
なお、アクチュエータプレート42は、本開示における「アクチュエータ」の一具体例に対応し、吐出チャネルC1eは、本開示における「圧力室」の一具体例に対応している。
【0032】
上記した駆動壁Wdにおける対向する内側面にはそれぞれ、
図3に示したように、駆動電極Edが設けられている。つまり、各駆動壁Wdを挟んで、一対の駆動電極Edが互いに対向配置されている。この駆動電極Edには、吐出チャネルC1eに面する内側面に設けられた共通電極Edc(コモン電極)と、ダミーチャネルC1dに面する内側面に設けられた個別電極Eda(アクティブ電極)とが、存在している(
図3,
図4参照)。言い換えると、各吐出チャネルC1eには、駆動電極Edとしての共通電極Edcが個別に内部形成されており、各ダミーチャネルC1dには、駆動電極Edとしての個別電極Edaが個別に内部形成されている。
【0033】
このような駆動電極Edと、駆動基板(不図示)における駆動回路との間は、フレキシブル基板(不図示)に形成された複数の引き出し電極を介して、電気的に接続されている。これにより、このフレキシブル基板を介して、後述する駆動部49を含む駆動回路から各駆動電極Edに対し、後述する駆動電圧Vd(駆動信号Sd)等が印加されるようになっている。
【0034】
(B-3.カバープレート43)
カバープレート43は、
図3,
図4に示したように、アクチュエータプレート42における各チャネルC1を閉塞するように配置されている。具体的には、このカバープレート43は、アクチュエータプレート42の上面に接着されており、板状構造となっている。
【0035】
(B-4.駆動部49)
駆動部49は、
図2に示したように、駆動信号Sd(駆動電圧Vd)を用いたインク9の吐出駆動を行うものである。この際に駆動部49は、プリンタ1内(インクジェットヘッド4の内部)の印刷制御部(不図示)から供給される各種のデータ(信号)に基づいて、そのような駆動信号Sd(駆動電圧Vd)を出力するようになっている。具体的には、駆動部49は、印刷制御部から供給される印刷データが、インク9を吐出するデータである場合には、その印刷データに基づいて、駆動信号Sdを生成する。
【0036】
そして駆動部49は、前述した吐出チャネルC1eに充填されているインク9がノズル孔Hnから吐出されるように、アクチュエータプレート42を駆動して吐出駆動を行う(
図2~
図4参照)。具体的には、駆動部49は、アクチュエータプレート42に対して上記した駆動電圧Vd(駆動信号Sd)を印加して、吐出チャネルC1eを膨張および収縮させることで、各ノズル孔Hnからインク9を噴射させる(噴射動作を行わせる)ようになっている。
【0037】
[C.駆動電圧Vdおよび駆動信号Sdの詳細構成]
続いて、
図5~
図8を参照して、上記した駆動電圧Vdおよび駆動信号Sdの詳細構成例について説明する。
【0038】
図5は、駆動部49から駆動電極Ed(上記した個別電極Edaおよび共通電極Edc)に対して供給される各電位の供給経路例を、模式的に表したものである。具体的には、この
図5では、個別電極Edaに対して供給される電位(個別電位Vda)と、共通電極Edcに対して供給される電位(共通電位Vdc)とについて、供給経路例をそれぞれ示している。
図6は、比較例1および実施例に係る駆動信号Sdの波形例を、模式的にタイミング図で表したものであり、
図6(A)が比較例1の波形例を、
図6(B)が本実施の形態に係る実施例の波形例を、それぞれ示している。また、
図7(
図7(A)~
図7(D))は、
図6(B)に示した実施例に係る駆動信号Sdにおける各種の波形例を、模式的にタイミング図で表したものである。
図8は、駆動信号Sdに含まれる各種パルス(後述する膨張パルスp1および収縮パルスp2等)におけるパルス幅の数値範囲の一例を、表としてまとめて表したものである。
【0039】
なお、
図6,
図7ではいずれも、縦軸は駆動電圧Vdの電圧値(上記した個別電位Vdaと共通電位Vdcとの電位差に相当:Vd=Vda-Vdc)を、横軸は時間tを表している。また、このような駆動電圧Vdの大きさは、上記した吐出チャネルC1eの容積V9に対応しており、駆動電圧Vdが正(+)の値の場合、負(-)の値の場合はそれぞれ、その容積V9が基準値よりも膨張している状態、基準値よりも収縮している状態を、それぞれ示している(
図6参照)。
【0040】
(C-1.コモン駆動について)
最初に、
図5,
図6を参照して、本実施の形態のインクジェットヘッド4に適用される「コモン駆動」について、比較例1(「非コモン駆動」の場合)と比較しつつ説明する。
【0041】
まず、
図6(A)に示した比較例1(非コモン駆動の場合)では、インク9の吐出時における吐出チャネルC1eの容積V9が、基準値よりも膨張(「+」側への変化)、および、基準値への復帰、を含む変化を示すように、駆動信号Sdのパルスが設定されている。具体的には、この比較例1の駆動信号Sdには、吐出チャネルC1eの容積V9を膨張させるための1または複数の膨張パルスp1(この例では複数の膨張パルスp1)が、1周期(後述する駆動周期Td)内に設けられている。また、この膨張パルスp1では、個別電位Vdaと共通電位Vdcとの電位差に対応する駆動電圧Vd(=Vda-Vdc)が、Vd>0(上記電位差が正の値)となるように設定されている。
【0042】
一方、
図6(B)に示した実施例(コモン駆動の場合)では、インク9の吐出時における吐出チャネルC1eの容積V9が、基準値よりも膨張、基準値への復帰、および、基準値よりも収縮(「-」側への変化)を含む変化を示すように、駆動信号Sdのパルスが設定されている。具体的には、この実施例の駆動信号Sdには、上記した1または複数の膨張パルスp1(この例では複数の膨張パルスp1)に加え、吐出チャネルC1eの容積V9を収縮させるための1または複数の収縮パルスp2(この例では複数の収縮パルスp2)が、1周期内に設けられている。また、上記したように、膨張パルスp1では、駆動電圧Vd>0(上記電位差が正の値)となるように設定されているのに対し、この収縮パルスp2では、駆動電圧Vd<0(上記電位差が負の値)となるように設定されている。
【0043】
なお、
図6(B)に示したコモン駆動の例では、上記したように、共通電位Vdcを所定の正電位(Vdc>0)に設定することで、駆動電圧Vd(個別電位Vdaと共通電位Vdcとの電位差)が、負の値(Vd<0)に設定されるようにしているが、この例には限られない。すなわち、例えば、共通電位Vdc=0(接地電位)に設定すると共に、個別電位Vdaを所定の負電位(Vda<0)に設定することで、駆動電圧Vdが直接的に負の値(Vd<0)に設定されるようにしてもよい。このような駆動の場合でも、
図6(B)に示したコモン駆動と同様の駆動(アクチュエータプレート42における圧力変動)を行うことが可能であり、以下同様である。
【0044】
(C-2.駆動信号Sdに含まれる各種パルスの詳細波形について)
次に、
図7(A)~
図7(D)を参照して、上記したコモン駆動の場合の駆動信号Sdに含まれる、各種パルス(上記した膨張パルスp1および収縮パルスp2)の詳細波形について説明する。
【0045】
図7(A)~
図7(D)に示した各例の駆動信号Sdは、1周期(以下説明する駆動周期Td)内に、複数の膨張パルスp1および複数の収縮パルスp2をそれぞれ有する信号(いわゆる「マルチパルス方式」が適用される信号)の例となっている。また、これらの
図7(A)~
図7(D)に示した各例では、1周期内における複数のパルスのうち、最初のパルスおよび最後のパルスがいずれも、(膨張パルスp1ではなく)収縮パルスp2となっている。なお、この「1周期(=駆動周期Td)」とは、被記録媒体(記録紙P)上に1画素(ドット)を形成するための時間間隔を、意味している。
【0046】
ここで、これら
図7(A)~
図7(D)に示した駆動信号Sdにおける駆動周波数fdとは、上記した駆動周期Tdの逆数(fd=1/Td)となっている。また、この駆動周波数fdは、換言すると、被記録媒体上において1秒間当たりに形成される画素数(ドット数)に相当する。
【0047】
なお、以下では、これら複数の膨張パルスp1のうちの、駆動周期Td内における最後の膨張パルスp1を、特に最終膨張パルスp1eと称する。同様に、以下では、これら複数の収縮パルスp2のうちの、駆動周期Td内における最後の収縮パルスp2を、特に最終収縮パルスp2eと称する。また、
図7(A)~
図7(D)中に示したように、以下では、これらの膨張パルスp1、収縮パルスp2、最終膨張パルスp1eおよび最終収縮パルスp2eにおけるパルス幅をそれぞれ、パルス幅Wp1,Wp2,Wp1e,Wp2eと称する。更に、
図7(A)~
図7(D)中に示したように、以下では、膨張パルスp1による吐出チャネルC1eの容積V9の膨張開始タイミングを、膨張開始タイミングt1と称する。同様に、以下では、収縮パルスp2による吐出チャネルC1eの容積V9の収縮開始タイミングを、収縮開始タイミングt2と称する。なお、
図7(A)~
図7(D)および後述する
図10(A)~
図10(C)ではいずれも、複数の膨張パルスp1についての各膨張開始タイミングt1、および、複数の収縮パルスp2についての各収縮開始タイミングt2のうち、便宜上、一部の膨張開始タイミングt1および一部の収縮開始タイミングt2についてのみ、図示している。
【0048】
まず、
図7(A)に示した駆動信号Sdは、上記した駆動周期Td内に、2つの膨張パルスp1(および3つの収縮パルスp2)を有しており、いわゆる「2ドロップ(2drop)」の場合の例となっている。また、
図7(B)に示した駆動信号Sdは、駆動周期Td内に、3つの膨張パルスp1(および4つの収縮パルスp2)を有しており、いわゆる「3ドロップ(3drop)」の場合の例となっている。同様に、
図7(C)に示した駆動信号Sdは、駆動周期Td内に、4つの膨張パルスp1(および5つの収縮パルスp2)を有しており、いわゆる「4ドロップ(4drop)」の場合の例となっている。
図7(D)に示した駆動信号Sdは、駆動周期Td内に、5つの膨張パルスp1(および6つの収縮パルスp2)を有しており、いわゆる「5ドロップ(5drop)」の場合の例となっている。
【0049】
なお、このような膨張パルスp1(上記した最終膨張パルスp1eを含む)および収縮パルスp2(上記した最終収縮パルスp2eを含む)はそれぞれ、本開示における「複数のパルス」の一具体例に対応している。また、膨張パルスp1(最終膨張パルスp1eを含む)は、本開示における「第1パルス」の一具体例に対応し、収縮パルスp2(最終収縮パルスp2eを含む)は、本開示における「第2パルス」の一具体例に対応している。更に、最終膨張パルスp1eは、本開示における「最終第1パルス」の一具体例に対応し、最終収縮パルスp2eは、本開示における「最終第2パルス」の一具体例に対応している。また、上記した膨張開始タイミングt1は、本開示における「第1タイミング」の一具体例に対応し、上記した収縮開始タイミングt2は、本開示における「第2タイミング」の一具体例に対応している。
【0050】
(C-3.各種パルスにおけるパルス幅の数値範囲について)
ここで、
図8に示したように、本実施の形態のインクジェットヘッド4では、駆動信号Sdに含まれる各種パルス(上記した膨張パルスp1、収縮パルスp2、最終膨張パルスp1eおよび最終収縮パルスp2e)におけるパルス幅がそれぞれ、所定の数値範囲内に設定されている。詳細には、これらのパルス幅はそれぞれ、以下詳述するように、このようなパルスにおけるオンパルスピーク(AP)を基準とした、所定の数値範囲内に設定されている。
【0051】
ちなみに、このAPとは、吐出チャネルC1e内におけるインク9の固有振動周期の1/2の期間(1AP=(インク9の固有振動周期)/2)に対応している。そして、あるパルスのパルス幅がAPに設定された場合には、通常の1滴分のインク9を吐出(1滴吐出)させる際に、インク9の吐出速度(吐出効率)が最大となる。また、このAPは、例えば、吐出チャネルC1eの形状やインク9の物性値(比重等)などによって、規定されるようになっている。
【0052】
具体的には、まず、
図8に示したように、駆動周期Td内における最終膨張パルスp1e以外の、少なくとも1つの膨張パルスp1(前段膨張パルス)におけるパルス幅Wp1(
図7参照)が、0.2AP~1.0APの範囲内に設定されている(0.2AP≦Wp1≦1.0AP)。なお、この前段膨張パルス(駆動周期Td内において最終膨張パルスp1eよりも前段に位置する膨張パルスp1)は、本開示における「前段第1パルス」の一具体例に対応している。
【0053】
また、
図8に示したように、駆動周期Td内における最終収縮パルスp2e以外の、少なくとも1つの収縮パルスp2(前段収縮パルス)におけるパルス幅Wp2(
図7参照)が、1.0AP~1.8APの範囲内に設定されている(1.0AP≦Wp2≦1.8AP)。なお、この前段収縮パルス(駆動周期Td内において最終収縮パルスp2eよりも前段に位置する収縮パルスp2)は、本開示における「前段第2パルス」の一具体例に対応している。
【0054】
更に、
図8に示した例では、上記した最終膨張パルスp1eにおけるパルス幅Wp1e(
図7参照)が、0.2AP~1.0APの範囲内に設定されている(0.2AP≦Wp1e≦1.0AP)。
【0055】
加えて、
図8に示した例では、上記した最終収縮パルスp2eにおけるパルス幅Wp2e(
図7参照)が、0.5AP~3.0APの範囲内に設定されている(0.5AP≦Wp2e≦3.0AP)。
【0056】
また、
図8に示した例では、上記したパルス幅Wp1,Wp2同士の合算値(=Wp1+Wp2)が、(2AP±0.2AP)の範囲内に設定されている。
【0057】
更に、本実施の形態では、駆動周期Td内に膨張パルスp1および収縮パルスp2がそれぞれ、3つ以上ずつ設けられている場合において(
図7(B)~
図7(D)参照)、例えば以下のように設定されている。言い換えると、駆動周期Td内における複数の膨張パルスp1が、最終膨張パルスp1eと、複数の前段膨張パルス(前述)とを含んでいると共に、駆動周期Td内における複数の収縮パルスp2が、最終収縮パルスp2eと、複数の前段収縮パルス(前述)とを含んでいる場合において、例えば、以下のように設定されている。
【0058】
すなわち、駆動周期Td内において、少なくとも最終膨張パルスp1e以外の全ての膨張パルスp1(全ての前段膨張パルス)におけるパルス幅Wp1が、互いに同一の値になっている。同様に、駆動周期Td内において、少なくとも最終収縮パルスp2e以外の全ての収縮パルスp2(全ての前段収縮パルス)におけるパルス幅Wp2が、互いに同一の値になっている。ただし、例えば、駆動周期Td内における最初の収縮パルスp2におけるパルス幅Wp2については、他の収縮パルスp2におけるパルス幅Wp2とは、異なる値になっていてもよい。
【0059】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ1の基本動作)
このプリンタ1では、以下のようにして、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。なお、初期状態として、
図1に示した4種類のインクタンク3(3Y,3M,3C,3K)にはそれぞれ、対応する色(4色)のインク9が十分に封入されているものとする。また、インクタンク3内のインク9は、インク供給管50を介して、インクジェットヘッド4内に充填された状態となっている。
【0060】
このような初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bにおけるグリッドローラ21がそれぞれ回転することで、グリッドローラ21とピンチローラ22との間に、記録紙Pが搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送される。また、このような搬送動作と同時に、駆動機構63における駆動モータ633が、プーリ631a,631bをそれぞれ回転させることで、無端ベルト632を動作させる。これにより、キャリッジ62がガイドレール61a,61bにガイドされながら、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って往復移動する。そしてこの際に、各インクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4K)によって、4色のインク9を記録紙Pに適宜吐出させることで、この記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作がなされる。
【0061】
(B.インクジェットヘッド4における詳細動作)
続いて、インクジェットヘッド4における詳細動作(吐出駆動による動作)について説明する。
【0062】
まず、このインクジェットヘッド4では、以下のようにして、せん断(シェア)モードを用いたインク9の噴射動作が行われる。言い換えると、駆動部49からアクチュエータプレート42に対し、前述した駆動信号Sdを用いた吐出駆動が行われることで、吐出チャネルC1e内に充填されているインク9が、ノズル孔Hnから吐出される。
【0063】
このような吐出駆動の際に、駆動部49は、アクチュエータプレート42内の駆動電極Ed(共通電極Edcおよび個別電極Eda)に対し、駆動電圧Vd(駆動信号Sd)を印加する(
図2~
図4参照)。具体的には、駆動部49は、吐出チャネルC1eを画成する一対の駆動壁Wdに配置された各駆動電極Ed(共通電極Edcおよび個別電極Eda)に対し、駆動電圧Vdを印加する。これにより、これら一対の駆動壁Wdがそれぞれ、その吐出チャネルC1eに隣接する非吐出チャネルC1d側へ、突出するように変形する。
【0064】
このとき、駆動壁Wdにおける深さ方向の中間位置を中心として、駆動壁WdがV字状に屈曲変形することになる。そして、このような駆動壁Wdの屈曲変形により、吐出チャネルC1eがあたかも膨らむように変形する(
図4中に示した膨張方向da参照)。このように、一対の駆動壁Wdでの圧電厚み滑り効果による屈曲変形によって、吐出チャネルC1eの容積が増大する。そして、吐出チャネルC1eの容積が増大することにより、インク9が吐出チャネルC1e内へ誘導されることになる。
【0065】
次いで、このようにして吐出チャネルC1e内へ誘導されたインク9は、圧力波となって吐出チャネルC1eの内部に伝播する。そして、ノズルプレート41のノズル孔Hnにこの圧力波が到達したタイミング(またはその近傍のタイミング)で、駆動電極Edに印加される駆動電圧Vdが、0(ゼロ)Vとなる。これにより、上記した屈曲変形の状態から駆動壁Wdが復元する結果、一旦増大した吐出チャネルC1eの容積が、再び元に戻ることになる(
図4中に示した収縮方向db参照)。
【0066】
このようにして、吐出チャネルC1eの容積が元に戻る過程で、吐出チャネルC1e内部の圧力が増加し、吐出チャネルC1e内のインク9が加圧される。その結果、液滴状のインク9が、ノズル孔Hnを通って外部へと(記録紙P等へ向けて)吐出される(
図2~
図4参照)。このようにしてインクジェットヘッド4におけるインク9の噴射動作(吐出動作)がなされ、その結果、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。
【0067】
(C.コモン駆動の際の動作状態)
ここで、
図9(A)~
図9(C)を参照すると、前述したコモン駆動(
図6(B),
図7(A)~
図7(D)参照)の際における動作状態は、以下のようになる。
図9(A)~
図9(C)はそれぞれ、駆動部49によるコモン駆動の際の動作状態の一例を、模式的に表したものである。
【0068】
まず、
図9(A)に示した状態では、個別電位Vda=0および共通電位Vdc=0であるため、駆動電圧Vd=0となっている。したがってこの状態では、吐出チャネルC1eの容積V9が、基準値(初期値)となっており、各駆動壁Wdも初期状態となっている。
【0069】
一方、
図9(B)に示した状態では、個別電位Vda>0および共通電位Vdc=0であるため、駆動電圧Vd(=Vda-Vdc)>0となっている。したがって、
図9(B)中の破線の矢印で示したように、吐出チャネルC1eの容積V9が膨張する方向に、各駆動壁Wdが屈曲変形することになる。
【0070】
また、
図9(C)に示した状態では、個別電位Vda=0および共通電位Vdc>0であるため、駆動電圧Vd(=Vda-Vdc)<0となっている。したがって、例えば
図9(C)中の破線の矢印で示したように、上記した
図9(B)の状態とは逆に、吐出チャネルC1eの容積V9が収縮する方向に、各駆動壁Wdが屈曲変形することになる。
【0071】
そして、このような
図9(A)~
図9(C)の各動作状態が適宜繰り返されることで、駆動部49によるコモン駆動が行われる結果、前述したようにして、インク9の噴射動作がなされることになる。
【0072】
(D.高粘度のインク9について)
ところで、このようなインクジェットヘッド4において、例えば高粘度のインク9を使用して、インク9の噴射動作を行う場合がある。そのような高粘度のインク9を使用する場合、インク9の粘度に比例して、駆動信号Sdにおける駆動電圧Vdを大きくする(高電圧化する)手法が考えられる。ところが、そのような高電圧の駆動信号Sdを使用するには、駆動部49の回路構成等を変更する必要が生じる。また、駆動電圧Vdの大きさにも上限値があることから、条件によっては、高粘度のインク9を吐出できない場合も生じ得る。
【0073】
これらのことから、例えば高粘度のインク9を使用するような場合であっても、例えばアクチュエータプレート42に対して、高電圧の駆動信号Sdを印加せずに(駆動部49の回路構成等を変更せずに)済むような手法が、必要となる。つまり、インクジェットヘッド4の構造によらずに、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を確保する手法の提案が、求められる。
【0074】
(E.本実施の形態の駆動動作)
そこで、本実施の形態のインクジェットヘッド4では、例えば、駆動信号Sdに含まれる各種パルスにおけるパルス幅が、前述した所定の数値範囲内に設定されるようになっている(
図8参照)。また、本実施の形態のインクジェットヘッド4では、前述したコモン駆動の際に、例えば、吐出チャネルC1e(圧力室)の容積V9の変化開始タイミングが、以下のように規定されるようになっている。
【0075】
(容積V9の変化開始タイミングについて)
ここで、
図10(A)~
図10(C)はそれぞれ、比較例2および実施例1,2に係る各種波形例を、模式的にタイミング図で表したものである。具体的には、これらの
図10(A)~
図10(C)ではそれぞれ、そのような各種波形例として、吐出チャネルC1e内の圧力Pと、駆動信号Sd(吐出チャネルC1eの容積V9)との各波形例を、模式的にタイミング図で示している。また、
図10(A)~
図10(C)に示した駆動信号Sdの波形例では、前述した
図7の波形例とは異なり、駆動周期Td内における最初のパルスが、収縮パルスp2ではなく、膨張パルスp1となっている。なお、これらの図において、横軸は時間tを表している。
【0076】
まず、
図10(A)~
図10(C)に示したように、比較例2および実施例1,2のいずれにおいても、吐出チャネルC1e内の圧力P9は、駆動周期Td内に、複数の極値PL(複数の極大値PLmaxおよび複数の極小値PLmin)を含んで時間変化するようになっている。また、比較例2および実施例1,2のいずれにおいても、前出した膨張開始タイミングt1と、前述した収縮開始タイミングt2とが、互いに隣り合っている。
【0077】
ここで、
図10(B),
図10(C)に示した実施例1,2では、圧力P9についての上記した複数の極値PLのうちの、連続する2つの極値PLの間の期間内に、上記した膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2の双方がそれぞれ、位置するようになっている。具体的には、これらの実施例1,2では、連続する2つの極値PLとしての、極小値PLminから極大値PLmaxへと変化する期間内に、膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2の双方がそれぞれ、位置している(
図10(B),
図10(C)参照)。
【0078】
なお、これに対して、
図10(A)に示した比較例2では、上記した連続する2つの極値PLの間の期間(極小値PLminから極大値PLmaxへと変化する期間)内には、膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2のいずれもが、位置しないようになっている。具体的には、例えば、極小値PLminよりも前の期間に、膨張開始タイミングt1が位置するとともに、極大値PLmaxよりも後の期間に、収縮開始タイミングt2が位置している。
【0079】
また、
図10(B),
図10(C)に示した実施例1,2では、駆動周期Td内における複数の極大値PLmaxのうちの、最後の極大値PLmaxが、駆動周期Td内において最も大きくなっている。そして、これら複数の極大値PLmaxは、駆動周期Td内において段階的に(徐々に)増加していくように、時間変化している(
図10(B),
図10(C)中の破線の矢印d11,d12参照)。
【0080】
また、
図10(C)に示した実施例2では、膨張開始タイミングt1における圧力P9の絶対値が、その膨張開始タイミングt1の直前における極値PL(この例では極小値PLmin)の絶対値と比べ、小さくなっている。なお、これに対して、
図10(B)に示した実施例1では、膨張開始タイミングt1における圧力P9の絶対値が、その膨張開始タイミングt1の直前における極値PL(この例では極小値PLmin)の絶対値と比べ、大きくなっている。
【0081】
(F.作用・効果)
このような本実施の形態のインクジェットヘッド4では、例えば、以下のような作用および効果が得られる。
【0082】
(容積V9の変化開始タイミングについて)
まず、本実施の形態では、駆動信号Sdにおける膨張パルスp1および収縮パルスp2による膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2の双方がそれぞれ、吐出チャネルC1e内の圧力P9についての複数の極値PLのうちの、連続する2つの極値PLの間の期間内に位置していることから(
図10(B),
図10(C)参照)、例えば前述した比較例2の場合と比べ、以下のようになる。すなわち、これらの膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2の双方がそれぞれ、そのような連続する2つの極値PLの間の期間内に位置していることで、容積V9の変化(膨張および収縮)のタイミングに起因した、吐出チャネルC1e内の圧力P9における増幅現象の発生が、回避される。これにより、過大な圧力変動によりメニスカスが壊れて(破壊されて)気泡を巻き込むことによって残留する、吐出チャネルC1e内への気泡が抑えられる結果、インク9の吐出特性の低下が防止される。したがって、例えば高粘度のインク9を使用するような場合であっても、例えばアクチュエータプレート42に対して、高電圧の駆動信号Sdを印加せずに(駆動部49の回路構成等を変更せずに)済むようになる。よって、本実施の形態では、インクジェットヘッド4の構造によらずに、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を確保することが可能となる。
【0083】
また、特に本実施の形態では、これらの膨張開始タイミングt1および収縮開始タイミングt2の双方がそれぞれ、連続する2つの極値PLとしての、極小値PLminから極大値PLmaxへと変化する期間内に位置していることで(
図10(B),
図10(C)参照)、上記した圧力P9の増幅現象の発生が、回避され易くなる。その結果、上記した吐出チャネルC1e内への気泡の残留が抑えられ易くなり、インク9の吐出特性の低下が、防止され易くなる。よって、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を確保し易くすることが可能となる。
【0084】
更に、本実施の形態では、膨張開始タイミングt1における圧力P9の絶対値が、その膨張開始タイミングt1の直前における極値PLの絶対値と比べて小さくなっているため(
図10(C)参照)、上記した圧力P9の増幅現象の発生が、より確実に回避されることになる。その結果、上記した吐出チャネルC1e内への気泡の残留が更に抑えられる結果、インク9の吐出特性の低下が、より確実に防止される。よって、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を、より確実に確保することが可能となる。
【0085】
加えて、本実施の形態では、駆動信号Sdにおける駆動周期Td内に、膨張パルスp1および収縮パルスp2がそれぞれ、複数ずつ設けられているため、駆動周期Td内において、ノズル孔Hnから複数の液滴が吐出されることになる。この際に、圧力P9についての複数の極大値PLmaxのうちの最後の極大値PLmaxが、駆動周期Td内において最も大きいことから(
図10(B),
図10(C)参照)、以下のようになる。すなわち、後に吐出された液滴が先に吐出された液滴に追いつくことにより、各液滴が一体化(合一)する結果、吐出対象となる記録媒体(記録紙P)上での複数の液滴の着弾位置のずれが、抑えられる。よって、複数の液滴を吐出する際の印刷画質を、向上させることが可能となる。
【0086】
また、本実施の形態では、圧力P9についての複数の極大値PLmaxが、駆動周期Td内において段階的に増加していくように時間変化していることから(
図10(B),
図10(C)参照)、以下のようになる。すなわち、複数の液滴を吐出する際に、圧力振動のミスマッチが防止され、上記した複数の液滴の着弾位置のずれが、更に抑えられることになる。よって、複数の液滴を吐出する際の印刷画質を、更に向上させることが可能となる。
【0087】
更に、本実施の形態では、上記したようにして、駆動周期Td内にノズル孔Hnから複数の液滴が吐出される際に、駆動周期Td内における複数のパルスのうちの最初のパルスが、収縮パルスp2となっているようにした場合には(
図7参照)、以下のようになる。すなわち、液滴の大きさ(ドロップ・ボリューム)が増大し、吐出安定性が向上する結果、複数の液滴を吐出する際の印刷画質を、向上させることが可能となる。
【0088】
(各種パルスにおけるパルス幅の数値範囲について)
また、本実施の形態では、駆動周期Td内における最終膨張パルスp1e以外の少なくとも1つの膨張パルスp1(前述した前段膨張パルス)のパルス幅Wp1と、駆動周期Td内における最終収縮パルスp2e以外の少なくとも1つの収縮パルスp2(前述した前段収縮パルス)のパルス幅Wp2とがそれぞれ、前述した各数値範囲内に設定されていることから(
図8参照)、以下のようになる。すなわち、これら2種類のパルス幅Wp1,Wp2がそれぞれ、前述した各数値範囲内(0.2AP≦Wp1≦1.0AP,1.0AP≦Wp2≦1.8AP)に設定されていることで、上記した容積V9の変化(膨張および収縮)のタイミングに起因した、吐出チャネルC1e内の圧力P9における増幅現象の発生が、回避される。これにより、上記した過大な圧力変動による吐出チャネルC1e内への気泡の残留が抑えられる結果、インク9の吐出特性の低下が防止される。したがって、例えば高粘度のインク9を使用するような場合であっても、例えばアクチュエータプレート42に対して、高電圧の駆動信号Sdを印加せずに(駆動部49の回路構成等を変更せずに)済むようになる。よって、本実施の形態では、インクジェットヘッド4の構造によらずに、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を確保することが可能となる。
【0089】
更に、本実施の形態では、上記した最終膨張パルスp1eのパルス幅Wp1eが、(0.2AP≦Wp1e≦1.0AP)の範囲内に設定されているため(
図8参照)、以下のようになる。すなわち、まず、この最終膨張パルスp1eは、インク9の吐出速度への寄与率が、駆動周期Td内で最も高いパルスであることから、この最終膨張パルスp1eのパルス幅Wp1eを変えることで、インク9の吐出速度の調整が容易となる。また、この最終膨張パルスp1eのパルス幅Wp1eが、上記した数値範囲内(適切な範囲内)に設定されていることで、この数値範囲外(Wp1e<0.2AP,1.0AP<Wp1e)に設定されている場合と比べ、インク9の吐出安定性も確保されるようになる。よって、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を確保しつつ、インク9の吐出速度の調整を容易に行うことが可能となる。
【0090】
加えて、本実施の形態では、上記した最終収縮パルスp2eのパルス幅Wp2eが、(0.5AP≦Wp2e≦3.0AP)の範囲内に設定されているため(
図8参照)、以下のようになる。すなわち、まず、駆動周期Td内における最終膨張パルスp1eから最終収縮パルスp2eへと切り替わるタイミングにおいてインク9が吐出され、吐出チャネルC1e内の圧力変化が減衰していく。ここで、この最終収縮パルスp2eのパルス幅Wp2eを調整することで、そのような圧力変動の減衰を抑えることができるため、特に高周波でインク9を吐出する場合に、次の駆動周期Tdでのインク9の吐出への悪影響(振動の影響)が低減される。また、この最終収縮パルスp2eは、サテライト滴(小液滴)の発生への寄与率が、駆動周期Td内で最も高いパルスであることから、この最終収縮パルスp2eのパルス幅Wp2eが、上記した数値範囲内(適切な範囲内)に設定されていることで、以下のようになる。すなわち、この数値範囲外(Wp2e<0.5AP,3.0AP<Wp2e)に設定されている場合と比べ、サテライト滴の発生が低減される。よって、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を、より確実に確保することが可能となる。
【0091】
また、本実施の形態では、上記したパルス幅Wp1,Wp2同士の合算値(=Wp1+Wp2)が、(2AP±0.2AP)の範囲内に設定されていることから(
図8参照)、以下のようになる。すなわち、まず、この合算値が2AP付近の範囲内に設定されることで、上記したインク9の吐出安定性が、確保され易くなる。また、2APの前後に許容範囲(±0.2AP)が設けられていることで、上記したパルス幅Wp1,Wp2同士の合算値における多少のずれ(例えば、製造ばらつきによるずれ等を含む)が、許容されることになる。よって、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性を、より確実に確保することが可能となる。
【0092】
更に、本実施の形態では、駆動周期Td内に膨張パルスp1および収縮パルスp2がそれぞれ、3つ以上ずつ設けられている場合には(
図7(B)~
図7(D)参照)、駆動周期Td内において、ノズル孔Hnから3つ以上の液滴が吐出されることになる。この際に駆動周期Td内において、前述した全ての前段膨張パルスにおけるパルス幅Wp1が、互いに同一の値になっていると共に、前述した全ての前段収縮パルスにおけるパルス幅Wp2が、互いに同一の値になっていることで、以下のようになる。すなわち、APを基準として、これらのパルス幅Wp1,Wp2がそれぞれ、最小限のパラメータで規定できるため、複数の液滴を吐出する際の、駆動信号Sdの波形設定が簡便化される。よって、複数の液滴を吐出する際の利便性を、向上させることが可能となる。
【0093】
(G.実施例)
ここで、
図11~
図13はそれぞれ、高粘度のインク9を噴射させる場合における、上記した各種パルスにおけるパルス幅の数値範囲についての実施例(実施例3-1~3-3,4-1,4-2,5)を、示したものである。具体的には、
図11(A)~
図11(C)はそれぞれ、実施例3-1~3-3に係るパルス幅Wp1,Wp2とインク9の吐出安定性との関係を、示している。また、
図12(A),
図12(B)はそれぞれ、実施例4-1,4-2に係るパルス幅Wp1,Wp2とインク9の吐出安定性との関係を、示している。また、
図13は、実施例5に係るパルス幅Wp2eおよびオフセット電圧Vof(AP基準)と、インク9の吐出安定性との関係を、示している。ちなみに、このオフセット電圧Vofとは、基準となるインク9の吐出速度(共通の値)を得るのに必要となる、駆動電圧Vdの大きさのことを意味している。
【0094】
なお、
図11(A)~
図11(C)に示した実施例3-1~3-3ではそれぞれ、前述した2ドロップの波形(2drop波形)、3ドロップの波形(3drop波形)、5ドロップの波形(5drop波形)の例について、示している。また、
図12(A),
図12(B)に示した実施例4-1,4-2ではいずれも、5drop波形の例について示しており、
図13に示した実施例5では、1drop波形の例について示している。ちなみに、この「1drop(1ドロップ)波形」とは、駆動周期Td内に1つの膨張パルスp1(および2つの収縮パルスp2)を有する場合の例である。ただし、この実施例5において、例えば前述した「マルチパルス方式」を適用した場合(2ドロップ以上の波形である場合)でも、同様の結果が得られるものと考えられる。
【0095】
また、
図11(A)~
図11(C)に示した実施例3-1~3-3ではそれぞれ、パルス幅Wp1,Wp2同士の合算値(=Wp1+Wp2)が、前述した2APになる組み合わせにて、設定されている。一方、
図12(A)に示した実施例4-1では、パルス幅Wp2=1.0APに固定したうえで、パルス幅Wp1の値を変化させていくようにしている。同様に、
図12(B)に示した実施例4-2では、逆に、パルス幅Wp1=1.0APに固定したうえで、パルス幅Wp2の値を変化させていくようにしている。なお、これらの実施例3-1~3-3,4-1,4-2,5においては、前述したように、駆動周期Td内における最初の収縮パルスp2におけるパルス幅Wp2が、他の収縮パルスp2におけるパルス幅Wp2とは異なる値である場合となっている。
【0096】
また、
図11~
図13中に示した吐出安定性の項目では、吐出安定性が良好である場合を「〇(A)」で示し、吐出安定性が不良である場合を「×(B)」で示している。なお、吐出安定性が測定不能であった場合については、「-」で示している。
【0097】
ちなみに、各実施例(実施例3-1~3-3,4-1,4-2,5)における吐出安定性の評価条件は、以下の通りとなっている。なお、例えば、下記のマージン電圧の値を上げていった場合でも、吐出安定性については保持されるようになっている。また、以下の各実施例では、前述した循環式のインクジェットの場合について、吐出安定性の評価を行た。
(評価条件)
・駆動電圧Vd:インク9の吐出速度=7(m/s)となる電圧(マージン電圧)
・評価対象のノズル孔Hn:1列タイプの計384個のノズル孔Hn
・吐出パターン:全てのノズル孔(上記した計384個)からの連続吐出
・駆動周波数fd:10(kHz)を基準とし、駆動電流値の上限に応じて適宜変更
・吐出時間:30秒間
【0098】
まず、
図11(A)~
図11(C)に示した実施例3-1~3-3のいずれにおいても、パルス幅Wp1,Wp2が前述した各数値範囲内(0.2AP≦Wp1≦1.0AP,1.0AP≦Wp2≦1.8AP)に設定されている場合には、吐出安定性が良好(〇(A))となっている。一方、パルス幅Wp1,Wp2が、そのような数値範囲外(Wp1<0.2AP,1.0AP<Wp1,Wp2<1.0AP,1.8AP<Wp2)に設定されている場合には、吐出安定性が不良(×(B))または測定不能(-)となっている。これら実施例3-1~3-3の評価結果により、パルス幅Wp1,Wp2が前述した各数値範囲内に設定されている場合には、前述したように、インクジェットヘッド4の構造によらずに、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性が確保されることが、確認された。
【0099】
また、
図12(A),
図12(B)に示した実施例4-1,4-2のいずれにおいても、パルス幅Wp1,Wp2同士の合算値(=Wp1+Wp2)が、前述した(2AP±0.2AP)の範囲内に設定されている場合には、以下のようになる。すなわち、(1.8AP≦(Wp1+Wp2)≦2.2AP)を満たす場合には、吐出安定性が良好(〇(A))となっている。一方、パルス幅Wp1,Wp2同士の合算値が、(2AP±0.2AP)の範囲外に設定されている場合には、以下のようになる。すなわち、((Wp1+Wp2)<1.8AP)または(2.2AP<(Wp1+Wp2))を満たす場合には、吐出安定性が不良(×(B))となっている。これら実施例4-1,4-2の評価結果により、パルス幅Wp1,Wp2同士の合算値が(2AP±0.2AP)の範囲内に設定されている場合には、前述したように、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性がより確実に確保されることが、確認された。
【0100】
更に、
図13に示した実施例5では、パルス幅Wp2eが、前述した(0.5AP≦Wp2e≦3.0AP)の範囲内に設定されている場合には、吐出安定性が良好(〇(A))となっている。一方、パルス幅Wp2eが(0.5AP≦Wp2e≦3.0AP)の範囲外に設定されている場合(
図13の例では、Wp2e<0.5APとなっている場合)には、吐出安定性が不良(×(B))となっている。この実施例5の評価結果により、パルス幅Wp2eが(0.5AP≦Wp2e≦3.0AP)の範囲内に設定されている場合には、前述したように、高粘度のインク9を噴射させる場合においても、インク9の吐出安定性がより確実に確保されることが、確認された。
【0101】
<2.変形例>
以上、実施の形態および実施例を挙げて本開示を説明したが、本開示はこの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0102】
例えば、上記実施の形態等では、プリンタおよびインクジェットヘッドにおける各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。また、上記実施の形態等で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0103】
具体的には、例えば、上記実施の形態等では、駆動信号Sdに含まれるパルスの種類や個数、パルス幅の数値範囲等の例について、具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の種類や個数、パルス幅の数値範囲等であってもよい。具体的には、例えば、駆動信号Sdに含まれる複数のパルス(複数の膨張パルスp1や複数の収縮パルスp2)における各パルス幅が同一ではなく、互いに異なっているようにしてもよい。
【0104】
また、インクジェットヘッドの構造としては、各タイプのものを適用することが可能である。すなわち、例えば上記実施の形態等では、アクチュエータプレートにおける各吐出チャネルの延在方向の中央部からインク9を吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドを例に挙げて説明した。ただし、この例には限られず、例えば、各吐出チャネルの延在方向に沿ってインク9を吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのインクジェットヘッドであってもよい。
【0105】
更には、プリンタの方式としても、上記実施の形態等で説明した方式には限られず、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式など、各種の方式を適用することが可能である。
【0106】
また、上記実施の形態等では、前述した非循環式のインクジェットヘッドおよび循環式のインクジェットヘッドを例に挙げて説明したが、どちらの方式のインクジェットヘッドにおいても、本開示を適用することが可能である。
【0107】
加えて、上記実施の形態等では、圧力室の容積V9の変化開始タイミングを規定する手法や、駆動信号Sdに含まれる各種パルスのパルス幅の数値範囲を規定する手法等について、具体例を挙げて説明したが、上記実施の形態等で挙げた各手法には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。また、例えば、上記した2つの手法を、適宜組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0109】
更に、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「液体噴射ヘッド」を適用するようにしてもよい。
【0110】
加えて、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0111】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0112】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体を噴射する複数のノズルと、
前記複数のノズルに個別に連通すると共に前記液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有するアクチュエータと、
1周期内に複数のパルスを有する駆動信号を、前記アクチュエータに対して印加することにより、前記圧力室の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された前記液体を前記ノズルから噴射させる駆動部と
を備え、
前記駆動信号における前記複数のパルスは、
前記圧力室の容積を膨張させるための、1または複数の第1パルスと、
前記圧力室の容積を収縮させるための、1または複数の第2パルスと
を含んでいると共に、
前記圧力室内の圧力が、前記1周期内に複数の極値を含んで時間変化するようになっており、
前記第1パルスによる前記圧力室の容積の膨張開始タイミングである、第1タイミングと、
前記第2パルスによる前記圧力室の容積の収縮開始タイミングである、第2タイミングとが、
互いに隣り合っていると共に、
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極値のうちの、連続する2つの極値の間の期間内に、前記第1タイミングおよび前記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している
液体噴射ヘッド。
(2)
前記連続する2つの極値としての、極小値から極大値へと変化する期間内に、
前記第1タイミングおよび前記第2タイミングの双方がそれぞれ、位置している
上記(1)に記載の液体噴射ヘッド。
(3)
前記第1タイミングにおける前記圧力室内の圧力の絶対値が、前記第1タイミングの直前における前記極値の絶対値と比べ、小さくなっている
上記(1)または(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(4)
前記駆動信号が、前記1周期内に、複数の前記第1パルスおよび複数の前記第2パルスをそれぞれ有していると共に、
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極値が、前記1周期内に複数の極大値を含んでおり、
前記複数の極大値のうちの最後の極大値が、前記1周期内において最も大きい
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(5)
前記圧力室内の圧力についての前記複数の極大値が、前記1周期内において段階的に増加していくように時間変化している
上記(4)に記載の液体噴射ヘッド。
(6)
前記駆動信号が、前記1周期内に、複数の前記第1パルスおよび複数の前記第2パルスをそれぞれ有しており、
前記1周期内における前記複数のパルスのうちの、最初のパルスが、前記第2パルスとなっている
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(7)
上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
【符号の説明】
【0113】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3(3Y,3M,3C,3K)…インクタンク、4(4Y,4M,4C,4K)…インクジェットヘッド、41…ノズルプレート、42…アクチュエータプレート、43…カバープレート、49…駆動部、50…インク供給管、6…走査機構、61a,61b…ガイドレール、62…キャリッジ、63…駆動機構、631a,631b…プーリ、632…無端ベルト、633…駆動モータ、9…インク、P…記録紙、d…搬送方向、Hn…ノズル孔、Sd…駆動信号、Vd…駆動電圧、Vof…オフセット電圧、Vda…個別電位(アクティブ電位)、Vdc…共通電位(コモン電位)、C1…チャネル、C1e…吐出チャネル、C1d…ダミーチャネル(非吐出チャネル)、Wd…駆動壁、Ed…駆動電極、Eda…個別電極(アクティブ電極)、Edc…共通電極(コモン電極)、da…膨張方向、db…収縮方向、p1…膨張パルス、p1e…最終膨張パルス、p2…収縮パルス、p2e…最終収縮パルス、Wp1,Wp1e,Wp2,Wp2e…パルス幅、V9…容積、P9…圧力、PL…極値、PLmax…極大値、PLmin…極小値、Td…駆動周期、fd…駆動周波数、t…時間、t1…膨張開始タイミング、t2…収縮開始タイミング。