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特許7382795二次電池用電解液及びロッキングチェア型二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】二次電池用電解液及びロッキングチェア型二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20231110BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231110BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20231110BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/0525
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019200624
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021077443
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】村山 駿
(72)【発明者】
【氏名】難波 誉昌
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/008428(WO,A1)
【文献】特表2021-520023(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132976(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0105284(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/0567
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩と、エステル結合を含む含酸素溶媒と、グライムとを含んでなる二次電池用電解液であって、
前記エステル結合を含む含酸素溶媒が下記一般式(1)で表され、
R 1 -O-(A-O) n -CH 2 CH(R 3 )-COO-R 2 (1)
式(1)中、R 1 、R 2 は各々独立に炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、R 3 はメチル基またはH を表し、Aは各々独立に炭素数2~4のアルキレン基を表し、かつ、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、0~5の整数を表し、
前記グライムが、下記式(2)で表され、
【化1】
式(2)中、R およびR は、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、A は、炭素数2~4のアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1~5の整数を表し、さらに
前記アルカリ金属塩のアルカリ金属1モル当たり、前記エステル結合を含む含酸素溶媒と前記グライムとに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計が3モル以上、かつ、8モル以下であることを特徴とする、二次電池用電解液
【請求項2】
前記式(1)中、R1とR2が共にメチル基であり、R3がHであり、かつ、nが0である、請求項1に記載の二次電池用電解液。
【請求項3】
前記アルカリ金属塩と、前記エステル結合を含む含酸素溶媒と、前記グライムとを実質的に1:1:1のモル比で含む、請求項1または2に記載の二次電池用電解液。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)及びリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用電解液。
【請求項5】
正極と、負極と、請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池用電解液とを含んでなる、ロッキングチェア型二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電解液及びそれを含むロッキングチェア型二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極間に配置された電解液中をイオンが往復することで充放電を行う、所謂ロッキングチェア型二次電池の開発が進められている。近年、次世代ロッキングチェア型二次電池向けに、酸化安定性と熱安定性に優れる電解液が求められている。例えば、電解質としてのアルカリ金属塩の濃度を高くして充放電性能を向上させるとともに、当該アルカリ金属塩と溶媒とを溶媒和させることで酸化安定性と熱安定性を向上させることに着目した、高アルカリ金属塩濃度の電解液(すなわち濃厚電解液)が注目を集めている。
【0003】
濃厚電解液の溶媒としては、グライム系溶媒(アルキル基を末端とするエーテル系化合物)やカーボネート系溶媒(アルキル基を末端とする炭酸エステル系化合物)が主流であり、広く研究されている。例えば特許文献1に、濃厚電解液の溶媒として1,2-ジメトキシエタン(メチルモノグライム)、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、等を用いて作製した充電式リチウム電池が、高いエネルギー密度および向上したサイクル寿命を達成したことが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたリチウム電池は、高いアルカリ金属塩濃度に起因して充放電性能が向上する反面、その電解液の粘度が高くなり易い。一般に、高粘度の電解液においてはアルカリ金属塩由来のアルカリ金属イオンの移動が制限されるため、塩濃度が同等である場合には、電解液粘度の低い方がイオン伝導度の向上により充放電性能が向上する。
【0005】
特許文献2に、優れたサイクル特性やレート特性等の電池特性が得られるリチウムイオン二次電池用電解質を提供することを目的として、メチルモノグライム(G1)およびメチルジグライム(G2)とリチウム塩とを含む溶媒和イオン液体であって、G1とG2に含まれる総酸素原子モル数の当該リチウムのモル数に対する比率が3.0以上4.0未満であるものが提案されている。特に、上記比率が4.0以上である場合、リチウムイオンが電極反応に関与する際、脱溶媒和によりフリーとなる溶媒分子が電極界面で分解反応を起こす結果、二次電池のサイクル特性が悪化し得ることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2018-505538号公報
【文献】特開2017-139068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池の更なる改良が望まれている。すなわち、イオン伝導度と酸化還元安定性等、一般に相反する性質を高いレベルで両立させる技術が求められている。本発明は、そのような技術を新たに提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の含酸素溶媒にグライムを組み合わせることで、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性、熱安定性等の電池特性を高いレベルで実現する二次電池用電解液が得られることを見出した。すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]アルカリ金属塩と、エステル結合を含む含酸素溶媒と、グライムとを含んでなる二次電池用電解液。
[2]前記エステル結合を含む含酸素溶媒が下記一般式(1)で表される、態様1に記載の二次電池用電解液:
R1-O-(A-O)n-CH2CH(R3)-COO-R2 (1)
式(1)中、R1、R2は各々独立に炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、R3はメチル基またはH を表し、Aは各々独立に炭素数2~4のアルキレン基を表し、かつ、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、0~5の整数を表す。
[3]前記式(1)中、R1とR2が共にメチル基であり、R3がHであり、かつ、nが0である、態様2に記載の二次電池用電解液。
[4]前記グライムが、下記式(2)で表される、態様1~3のいずれか一項に記載の二次電池用電解液:
【化1】
式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、Aは、炭素数2~4のアルキレン基を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、1~5の整数を表す。
[5]前記アルカリ金属塩のアルカリ金属1モル当たり、前記エステル結合を含む含酸素溶媒と前記グライムとに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計が3モル以上、かつ、8モル以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の二次電池用電解液。
[6]前記アルカリ金属塩と、前記エステル結合を含む含酸素溶媒と、前記グライムとを実質的に1:1:1のモル比で含む、態様1~5のいずれか一項に記載の二次電池用電解液。
[7]前記アルカリ金属塩が、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)及びリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)からなる群から選択される、態様1~6のいずれか一項に記載の二次電池用電解液。
[8]正極と、負極と、態様1~7のいずれか一項に記載の二次電池用電解液とを含んでなる、ロッキングチェア型二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性、熱安定性等の電池特性を高いレベルで実現する二次電池用電解液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各種電解液の酸化安定性を示すグラフである。
図2】各種電解液の還元安定性を示すグラフである。
図3】各種電解液のレート特性を示すグラフである。
図4図3に続く各種電解液のレート特性を示すグラフである。
図5】各種電解液の酸化安定性を示すグラフである。
図6】各種電解液の還元安定性を示すグラフである。
図7】各種電解液のレート特性を示すグラフである。
図8図7に続く各種電解液のレート特性を示すグラフである。
図9】各種電解液の酸化安定性を示すグラフである。
図10】各種電解液の還元安定性を示すグラフである。
図11】各種電解液のレート特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明は、アルカリ金属塩と、エステル結合を含む含酸素溶媒と、グライムとを含んでなる二次電池用電解液を提供するものである。
【0012】
(アルカリ金属塩)
本発明による電解液に用いられるアルカリ金属塩は、ロッキングチェア型二次電池用の電解質として有用であることが当業者に理解されるいずれのアルカリ金属塩であってもよい。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムから選択されることができるが、入手又は製造の容易性の観点から、好ましくはリチウム、ナトリウム又はカリウムである。さらに、エステル結合を含む含酸素溶媒およびグライムとの錯形成容易性の観点から、より好ましくはリチウムである。すなわち、より好ましい態様における電解液はリチウムイオン二次電池用の電解液である。
【0013】
アルカリ金属塩を構成する対アニオンとしては、Cl、Br、I、BF4、PF6、CF3SO3、SCN、ClO4、CF3CO2、AsF6、SbF6、AlCl4、N(CF3SO22、PF3(C253、N(FSO22、N(FSO2)(CF3SO2)、N(C25SO22、N(C2424)、N(C3624)、N(CN)2、N(CF3SO2)(CF3CO)、C(CF3SO23等を例示できる。
【0014】
アルカリ金属塩の好適例であるリチウム塩としては、ロッキングチェア型二次電池用の電解質として有用であることが当業者に理解されるいずれのリチウム塩であってもよく、例えば、LiTFSI、LiFSI、LiBF、LiPF、LiClO4、LiBETI、LiAsF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiSCN、等が挙げられる。中でも好適なリチウム塩は、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiBF4(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、過塩素酸リチウム(LiClO4)及びLiBETI(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)からなる群から選択される。これらのリチウム塩は市販品として入手可能である。
【0015】
(エステル結合を含む含酸素溶媒)
本発明による電解液に用いられるエステル結合を含む含酸素溶媒は、上記アルカリ金属と錯体を形成し得る化合物である。そのような化合物の一態様として、下記一般式(1)で表されるものが挙げられる。
R1-O-(A-O)n-CH2CH(R3)-COO-R2 (1)
式(1)中、R1、R2は各々独立に炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、R3はメチル基またはH を表し、Aは各々独立に炭素数2~4のアルキレン基を表し、かつ、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、0~5の整数を表す。
【0016】
上記一般式(1)におけるR1、R2は、アルカリ金属との錯体形成性をより高める観点から、直鎖状または分岐状の炭素数1~4のアルキル基である。そのようなアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、等が挙げられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。また、R3はH であることが好ましい。
【0017】
上記一般式(1)におけるR1、R2およびR3の炭素数の合計は、電解液の粘度上昇を抑えながら電解質塩濃度をより高める観点から、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。ここでR1、R2は、置換基を有する構造であってもよいが、その場合のR1、R2の各炭素数は当該置換基を含む数である。R1、R2が有することができる置換基としては、炭素数1~3のアルコキシ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)におけるAは、アルカリ金属との錯体形成性をより高める観点から、炭素数2のエチレン基又は炭素数3のプロピレン基であることが好ましく、特にエチレン基であることが好ましい。また、上記一般式(1)におけるnは、アルカリ金属との錯体形成性をより高める観点から、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、最も好ましくは0である。
【0019】
本発明によるエステル結合を含む含酸素溶媒として特に好ましい化合物としては、3-メトキシプロピオン酸メチル(MMP)、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、等が挙げられる。これらの化合物は、適宜市販品を入手して使用することができる。
【0020】
本発明による電解液において、アルカリ金属塩由来のアルカリ金属の少なくとも一部、好ましくは実質的に全てが、エステル結合を含む含酸素溶媒と錯体を形成している。このような錯体の形成により、二次電池の電解液の酸化安定性と熱安定性が向上する。錯体の存在は、熱重量測定法で確認することができる。
【0021】
(グライム)
グライムは、上記アルカリ金属と錯体を形成し得る化合物である。
グライムとは、オキシアルキレン構造を有する(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの総称を意味する。グライムは、オキシアルキレン構造を有する(ポリ)アルキレングリコールジエーテルであれば、特に制限なく用いることができるが、なかでも、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~8の直鎖状または分岐状のアルキル基を表す。該アルキル基は、飽和または不飽和を問わず、さらに、直鎖状、分岐状、もしくは環状のいずれであっても構わない。炭素数1~8の直鎖状、分岐状、もしくは環状の飽和アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数1~8の直鎖状、分岐状、もしくは環状の不飽和アルキル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2―メチルアリル基、3,3-ジメチルアリル基、および2,3,3-トリメチルアリル基、3-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、4-ペンテニル基、2,4-ペンタジエニル基、5-ヘキセニル基、1,3,5-ヘキサトリエニル基、2-シクロペンテニル基、2,4-シクロペンタジエニル基、2-シクロヘキセニル基、2,5-シクロヘキサジエニル基等が挙げられる。また、Aは、炭素数2~4のアルキレン基を表わす。炭素数2~6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、メチルメチレン基、1-メチルエチレン基、ブチレン基、1-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、ペンチレン基、プロピルエチレン基、1-エチル-2-メチルエチレン基、ヘキシレン基、およびブチルエチレン基等が挙げられる。なお、複数あるAは、1種類のアルキレン基であってもよく、2種以上のアルキレン基であってもよい。(AO)で表されるポリオキシアルキレンが2種以上のアルキレン基を含む場合、付加状態はランダム状であってもブロック状であってもよい。そして、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であって、2~20の実数を表す。このうち、nは2~10の実数であることが好ましく、2~5の実数であることがより好ましい。
【0024】
このような構造を有するグライムとしては、具体的には、エチレングリコールジメチルエーテル(G1)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(G2)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル(G5)、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル(G6)、ヘプタエチレングリコールジメチルエーテル(G7)、オクタエチレングリコールジメチルエーテル(G8)、ノナエチレングリコールジメチルエーテル(G9)、デカエチレングリコールジメチルエーテル(G10)、テトラエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルベンジルエーテル、ジエチレングリコールメチル2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、およびトリエチレングリコールブチルオクチルエーテルが挙げられる。このようなグライムは、リチウムイオンの移動に特に適している。これらのグライムは、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明による二次電池用電解液は、上記アルカリ金属塩のアルカリ金属1モル当たり、上記エステル結合を含む含酸素溶媒と上記グライムとに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計が3モル以上(好ましくは4モル以上)、かつ、8モル以下(好ましくは7モル以下)である。ここで、上記エーテル酸素およびカルボニル酸素は、錯体形成に際して上記エステル結合を含む含酸素溶媒と上記グライムとがアルカリ金属イオンに配位するための不対電子対を提供する酸素原子である。例えば、エステル結合を含む含酸素溶媒である3-メトキシプロピオン酸メチル(MMP)の場合、メトキシ基を構成するエーテル酸素1個と、エステル基を構成するカルボニル酸素1個との合計2個の酸素原子がアルカリ金属イオンへの配位に寄与する。また、グライムであるエチレングリコールジメチルエーテル(G1)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(G2)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)は、それぞれ2個、3個、4個、5個のエーテル酸素がアルカリ金属イオンへの配位に寄与する。したがって、アルカリ金属1モル当たり、1モルのMMPと1モルのG1とを組み合わせた電解液の場合、エーテル酸素とカルボニル酸素の合計は4モルとなる。また、アルカリ金属1モル当たり、1モルのMMPと1モルのG2とを組み合わせた電解液の場合、エーテル酸素とカルボニル酸素の合計は5モルとなる。さらに、アルカリ金属1モル当たり、1モルのMMPと1モルのG3とを組み合わせた電解液の場合、エーテル酸素とカルボニル酸素の合計は6モルとなる。このように、アルカリ金属イオンへの配位に寄与する酸素原子の数は、組み合わせる溶媒種を変更することによって調節することができる。同様に、アルカリ金属イオンへの配位に寄与する酸素原子の数は、組み合わせる溶媒種のモル数によって調節することもできる。例えば、アルカリ金属1モル当たりエーテル酸素とカルボニル酸素の合計を4モルに調節する場合、1モルのMMPと0.5モルのG3とを組み合わせてもよい。上記エーテル酸素とカルボニル酸素の合計がアルカリ金属イオン1モル当たり3~8モル(好ましくは4~7モル)の範囲内にあることで、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性、熱安定性等の電池特性をバランスよく高いレベルで実現することができる。
【0026】
エステル結合を含む含酸素溶媒とグライムとの混合モル比は、当該アルカリ金属1モル当たりの当該エーテル酸素およびカルボニル酸素の合計が上記所定の範囲内にある限り特に制限はないが、一般には1:4~4:1、好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1の範囲とすればよい。
【0027】
(その他の成分)
本発明による電解液は、上記の各成分に加え、粘度調整剤(例えばハイドロフルオロエーテル)、酸化防止剤、皮膜形成剤、防腐剤、界面活性剤、安定化剤、紫外線吸収剤、無機又は有機フィラー、難燃剤等の添加剤を更に含んでもよい。
【0028】
本発明による電解液は、上記のエステル結合を含む含酸素溶媒、グライムおよびアルカリ金属塩を、必要に応じて上記その他の添加剤と共に、通常のドライルーム内等の乾燥雰囲気下で混合することで製造できる。
【0029】
ロッキングチェア型二次電池においては、電極電位に対する安定性(すなわち電位窓)が重要である。電位を制御した電極で電解液の酸化、還元分解を試験したときの、分解電流(電位の関数として得られる)が測定される電位(酸化又は還元分解電位)が電位窓として求められ、これが電解液の酸化安定性の指標となる。電解液の電位窓は、好ましくは3V以上、より好ましくは4V以上、更に好ましくは5V以上である。上記電位窓は、リニアスイープボルタンメトリー法で測定される値である。
【0030】
(ロッキングチェア型二次電池)
本発明は、正極、負極、および本発明による電解液を有するロッキングチェア型二次電池をさらに提供する。好ましい態様において、ロッキングチェア型二次電池はリチウムイオン二次電池である。正極と負極に特に制限はなく、正極用活物質としては、コバルト酸リチウム,マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(NCA)等の金属酸化物、硫黄単体、リチウム多硫化物(Li(0<x≦8))、硫黄系金属多硫化物(MS(M=Ni,Cu,Fe、0<x≦2))、有機ジスルフィド化合物、カーボンスルフィド化合物等の硫黄系化合物を適宜使用することができる。また負極用活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素系材料、結晶質もしくは非晶質のケイ素単体、酸化ケイ素、シリコーン樹脂、含ケイ素高分子化合物等のケイ素を含む化合物、チタン酸リチウム、リチウム金属単体、LiC、LiSi、LiGr、LiAl、LiIn等を使用することができる。一態様において、ロッキングチェア型二次電池は、正極と負極との間に配置されたセパレータを有する。セパレータとしては、電解液を保持し得る種々のシート状材料、例えばポリオレフィン、ポリイミド、セルロース、ガラス等の材料から形成される多孔膜、不織布等を使用できる。
【実施例
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
<溶媒の調製>
エステル結合を含む含酸素溶媒およびグライムとして下記の化合物を用意した。
・MMP:3-メトキシプロピオン酸メチル
・G1:エチレングリコールジメチルエーテル
・G2:ジエチレングリコールジメチルエーテル
・G3:トリエチレングリコールジメチルエーテル
・G4:テトラエチレングリコールジメチルエーテル
MMPは日本乳化剤株式会社製M3MPを、G1は日本乳化剤株式会社製DMGを、G2は日本乳化剤株式会社製DMDGを、G3は日本乳化剤株式会社製DMTGを、G4は日本乳化剤株式会社製DMTeGを、それぞれ使用した。
【0032】
<電解液の調製>
上記のエステル結合を含む含酸素溶媒および/またはグライムと、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)乾燥脱水品(東京化成工業株式会社製ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)とを、表1に記載の所定のモル比で、スターラーにて室温で一晩混合して、各電解液を調製した。各電解液においてリチウムと溶媒との錯体が形成されていることを熱重量測定法(TG-DTA STA7200RV 日立ハイテクノロジーズ社)で確認した。
【0033】
<性能評価>
・剪断粘度
調製した各電解液を、粘弾性測定装置MCR101(Anton paar社製)にセットし、30℃、剪断速度100秒-1にて剪断粘度を測定した。
【0034】
・イオン伝導度
調製した各電解液を、セルロース(厚み25μm)に含浸させ、UFO型二電極式セル(電極:SUS-SUS)に組み込んだ。VSPポテンショガルバノスタット(BioLogic社製)にて30℃にてインピーダンスを測定した。
【0035】
・レート特性
調製した各電解液を、セルロース(厚み25μm)に含浸させ、コイン電池(直径20mm、厚さ3.2mm)に組み込んだ。
充放電試験装置(北斗電工株式会社製HJD1010mSM8)において下記の組合せの電極を用い、30℃において下記の充放電条件下で充放電試験を行った。
電極の組み合わせ:NMC(正極)/LTO(負極)
充放電条件:1.5-3.0V、0.08-5.0C
評価は、3Cで初期放電容量の50%以上を保持した場合を「優良」、0.8Cで初期放電容量の50%以上を保持した場合を「良」、0.32Cで初期放電容量の50%以上を保持した場合を「可」、そして0.32Cで初期放電容量の50%未満を保持した場合を「不可」とした。図3図4図7図8図11参照。
【0036】
・酸化安定性
リニアスイープボルタンメトリー(LSV)法にて、下記条件で、1サイクル目で0.02mA/cmの酸化電流が流れた際の電位を測定した。より高い電位(対Li/Li+)まで酸化電流値が上昇しないことは酸化安定性の指標となる。
測定セル:ポリプロピレン製二電極式セル
試験温度:30℃
電位掃引速度:0.1mV/秒
対極兼参照極:Li
作用極:Pt
評価は、1サイクル目で0.02mA/cmの酸化電流が流れた際の電位(対Li/Li+)が、5.0V超の場合を「優良」、4.8~5.0Vの場合を「良」、4.8V未満の場合を「不可」とした。図1図5図9参照。
【0037】
・還元安定性
サイクリックボルタンメトリー(CV)法にて、下記条件で、2サイクル目で0.05mA/cmの還元電流が流れた際の電位を測定した。より低い電位(対Li/Li+)まで還元電流が上昇しないことは還元安定性の指標となる。
測定セル:ポリプロピレン製二電極式セル
試験温度:30℃
電位掃引速度:0.1mV/秒
対極兼参照極:Li
作用極:Cu
評価は、2サイクル目に0.05mA/cmの還元電流が流れた際の電位(対Li/Li+)が、0.0V未満の場合を「良」、0.0V以上の場合を「不可」とした。図2図6図10参照。
【0038】
・熱安定性
熱重量分析により、試料が5%重量減少した際の温度を測定した。
昇温速度:10℃/分
昇温範囲:25-500℃
結果を表1~3ならびに図1~11に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1のデータから、組成G1:M3MP:LiTFSI=1:1:1の電解液は、リチウム(Li)1モル当たり、エステル結合を含む含酸素溶媒(M3MP)とグライム(G1)とに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計(O/Li)が4モルであり、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性および熱安定性を高いレベルでバランスよく実現していることが分かる。表1のその他の電解液は、溶媒が、エステル結合を含む含酸素溶媒またはグライムのいずれか一方のみからなり、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性および熱安定性のいずれか1項目以上において望ましくないデータが得られた。
【0041】
【表2】
【0042】
表2のデータから、組成G2:M3MP:LiTFSI=1:1:1の電解液は、リチウム(Li)1モル当たり、エステル結合を含む含酸素溶媒(M3MP)とグライム(G2)とに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計(O/Li)が5モルであり、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性および熱安定性を高いレベルでバランスよく実現していることが分かる。また、組成G3:M3MP:LiTFSI=1:1:1の電解液は、リチウム(Li)1モル当たり、エステル結合を含む含酸素溶媒(M3MP)とグライム(G3)とに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計(O/Li)が6モルであり、イオン伝導度、酸化安定性、還元安定性および熱安定性を高いレベルでバランスよく実現していることが分かる。一方、組成G1:G2:LiTFSI=1:1:1および組成G4:LiTFSI=1:1の電解液は、溶媒がグライムのみからなり、イオン伝導度、レート特性、酸化安定性、還元安定性および熱安定性のいずれか1項目以上において望ましくないデータが得られた。
【0043】
【表3】
【0044】
表3のデータから、エステル結合を含む含酸素溶媒とグライムとを含む電解液は、リチウム(Li)1モル当たり、エステル結合を含む含酸素溶媒(M3MP)とグライム(G1~G4)とに含まれるエーテル酸素およびカルボニル酸素の合計(O/Li)が3~7モルの範囲にわたり、イオン伝導度、レート特性(G3:M3MP:LiTFSI=1:1:1はデータなし)、酸化安定性、還元安定性および熱安定性を高いレベルでバランスよく実現していることが分かる。一方、組成G1:G2:LiTFSI=0.7:0.7:1の電解液は、溶媒がグライムのみからなり、酸化安定性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による電解液は、各種ロッキングチェア型二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適に適用される。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11