(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-09
(45)【発行日】2023-11-17
(54)【発明の名称】防火設備
(51)【国際特許分類】
A62C 2/08 20060101AFI20231110BHJP
【FI】
A62C2/08
(21)【出願番号】P 2019217042
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 亮太
(72)【発明者】
【氏名】増田 有行
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-280854(JP,A)
【文献】実開昭57-044832(JP,U)
【文献】特開2009-148377(JP,A)
【文献】特開2002-095765(JP,A)
【文献】特開2008-086454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00 - 99/00
A62B 1/00 - 5/00
A62B 35/00 - 99/00
E04H 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階と下階を往来可能にする構造物のある建物に設けられる防火設備であって、
前記構造物が設けられるスペースの内側又は近傍に流体を放出する放出部を備え、前記放出部から流体を放出して、前記スペース内に、煙等が下階から上階へ流れるのを阻止するように流体幕を形成する
ものであり、
前記放出部は、水平より下方に僅かに傾斜して流体を放出することを特徴とする防火設備。
【請求項2】
前記スペースは、螺旋階段が設けられるスペースであり、前記流体幕は、螺旋階段が貫通する開口部に形成されることを特徴とする請求項1に記載の防火設備。
【請求項3】
前記放出部は、前記開口部の周縁側及び/又は前記螺旋階段の支柱側に設けられることを特徴とする請求項
2に記載の防火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上階と下階を往来可能にする構造物のある建物に設けられる防火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上階と下階を往来可能にする階段等(エレベータを含む)の構造物のある建物においては、火災発生時、熱や炎、煙(これらを総称して「煙等」という)が下階から上階に階段等が設けられるスペースを通じて流れるため、階段等を使用して避難するのが困難になってしまうことがある。特に、螺旋階段のある建物においては、このスペースと各階の空間とを仕切る防火戸がないことにより螺旋階段が貫通する開口部を通じて煙等が下階から上階に急速に流れるため、そのような問題が起きやすい。
【0003】
そこで、階段等が設けられるスペースに対し、防煙用の垂れ壁を設け、煙等が下階から上階に流れるのを防ぐようにすることが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そのような防煙用の垂れ壁を設けたとしても、その直下で火災が発生した場合や、垂れ壁の遮断能力を超えた場合には、煙等が下階側から上階側に階段等が設けられるスペースを通じて流れるのを防ぐことはできない。
【0005】
この発明は、前記の事情に鑑み、建物の下階から上階に煙等が流れるのを防ぐことができる、防火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上階と下階を往来可能にする構造物のある建物に設けられる防火設備であって、前記構造物が設けられるスペースの内側又は近傍に流体を放出する放出部を備え、前記放出部から流体を放出して、前記スペース内に、煙等が下階から上階へ流れるのを阻止するように流体幕を形成するものであり、前記放出部は、水平より下方に僅かに傾斜して流体を放出することを特徴とする、防火設備である(請求項1)。
【0007】
この発明において、前記スペースは、螺旋階段が設けられる階段スペースであり、前記流体幕は、螺旋階段が貫通する開口部に形成されるものとすることができる(請求項2)。また、前記放出部は、前記開口部の周縁側及び/又は前記螺旋階段の支柱側に設けられるものとすることができる(請求項3)。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、上階と下階を往来可能にする構造物が設けられるスペース内に、煙等が下階から上階へ流れるのを阻止するように流体幕を形成することができる。
【0009】
したがって、この発明によれば、建物の下階から上階に煙等が流れるのを防ぐことができる、防火設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の防火設備の実施形態の一例を示したものであり、その防火設備を螺旋階段のある建物に設けた際の状態を示した縦断面図である。
【
図3】この発明の防火設備の実施形態の他の例を示した、
図2に相当する図である。
【
図4】この発明の防火設備の実施形態のさらに他の例を示した、
図1の一部拡大図に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の防火設備の実施形態について、螺旋階段(上階と下階を往来可能にする構造物の一例)が内部にある建物に設ける場合を例に図面を参照しつつ説明する。なお、この発明の防火設備は、上階と下階を往来可能にする構造物が内部にある建物であれば、螺旋階段に限らず、他の種類の階段がある建物にも設けることができる。さらには、この発明の防火設備は、階段に限らず、エレベータ等がある建物にも設けることができる。
【0012】
<螺旋階段のある建物>
まず、この発明の防火設備1が設けられる、螺旋階段10が内部にある建物50について簡単に説明する。
【0013】
螺旋階段10は、支柱11と、その支柱11の回りに螺旋状の配置で設けられる多数の段板12とを備える(
図1参照)。建物50内には、上階と下階(図示の例の場合は1乃至3階)を往来可能にする構造物として、螺旋階段10が上階と下階の間を仕切る床部51に形成される開口部51Aを貫通する配置で設けられる(
図1参照)。
【0014】
<防火設備>
この発明の防火設備1は、例えば、そのような螺旋階段10が設けられる建物50に設けることができるものである。
【0015】
・放出ヘッド(流体を放出する放出部の一例)
防火設備1は、水(流体の一例)を放出して水幕WC(流体幕の一例。詳細は後記で説明する)を形成する、複数の放出ヘッド2(放出部の一例。本実施形態においては複数設けるものとする)を備え、前記の螺旋階段10が設けられるスペース10Sを防護するものとして設けられる(
図1及び2参照)。なお、防火設備1は、図示は省略するが、複数の放出ヘッド2に水を給水源から供給するための配管やポンプ等をさらに備える。
【0016】
この複数の放出ヘッド2は、建物50内の螺旋階段10が設けられるスペース10Sの内側又は近傍に設けられるものとすることができる。螺旋階段10は、前記の通り、床部51の開口部51Aを貫通して設けられる。すなわち、螺旋階段10が設けられるスペース10Sは、開口部51A内のスペースを含んでいる(
図2参照)。
図1及び
図2に示した例の場合、複数の放出ヘッド2は、螺旋階段10が設けられるスペース10Sの内側に設けられるものとする場合の一例として、前記の開口部51Aの周縁部内周面(周縁側の一例)に設けられるものとする場合を示している。
【0017】
・水幕(流体幕の一例)
そして、複数の放出ヘッド2は、火災発生時、手動又は自動で、水を放出して、螺旋階段10が設けられるスペース10S内に水幕WC(流体幕の一例)を水平方向に形成する(
図1及び
図2参照)。この水幕WCは、煙等が下階から上階に流れるのを阻止するように機能する。
【0018】
防火設備1は、火災発生時、そのような水幕WCを形成するものであることにより、螺旋階段10が設けられるスペース10Sを通じて煙等が下階から上階に流れるのを防ぐことができ、螺旋階段10を避難経路として確保(視界確保等)することができる。
る。
【0019】
水幕WCは、螺旋階段10が貫通する開口部51Aを閉塞するように形成されるものとするのが好ましい。本実施形態においては、水幕WCは、螺旋階段10が設けられるスペース10S中、開口部51A内の部分において、その略水平断面形状をなして、開口部51Aを閉塞するように形成されるものとしている(
図1及び2参照)。水幕WCを、開口部51Aを閉塞するように形成されるものとすることで、少ない水量で煙等が下階から上階に流れるのを阻止することができる。すなわち、水損を抑えつつ、煙が下階から上階に流れるのを阻止することができる。また、水幕WCは水等の流体によって形成されるので、下階から上階へ立ち上る熱や炎を遮蔽し、かつ抑制する機能も果たす。
【0020】
複数の放出ヘッド2は、本実施形態の場合、開口部51Aの周縁部内周面に、周方向に等角度間隔の環状の配置で、それぞれが螺旋階段10側に水平に向かい、その方向に(矢印A1方向)水を放出するように設けられるものとしている(
図1及び2参照)。なお、複数の放出ヘッド2は、前記のような水幕WCを形成することができる位置であれば、開口部51Aの内側以外の位置(例えば開口部51Aの近傍位置)に設けられるものとしてもよい。
【0021】
<構成の変更例>
この発明の防火設備1においては、例えば、以下のように構成を変更することができる。
【0022】
・流体、流体幕の他の例
複数の放出ヘッド2から放出されるのは水とし、水幕WCは水により形成されるものとするのが、簡便で好ましいが、水以外の流体が放出されるようにしてもよく、水幕以外の流体幕が形成されるものとしてよい。具体的には、例えば、窒素ガス等の不活性ガスが放出されるものとし、水幕に代えて、窒素ガス等の不活性ガスによる幕が形成されるものとしてもよいし、ハロゲン化物消火薬剤等の消火薬剤を用いても良い。水と不活性ガス、ハロゲン化物消火薬剤等のいずれかのみではなく、混合したものを使用してもよい。また、消火薬剤を含有した水を使用して水幕WCを形成すれば、熱や炎を遮蔽し、かつ抑制する効果を高めることができる。尚、水等の流体の放出状態は、次のようにすると水損を低減させることができる。即ち、複数の放出ヘッド2は粒子径の小さいミスト状の放出を行い、その放出距離が放出ヘッド2から支柱11、又は、放出ヘッド2から対向する放出ヘッド2、となるように放出圧力を調整する。
【0023】
・放出部の他の例
複数の放出ヘッド2は、複数とするのに代えて、1つとしてもよい。また、ヘッドとするのに代えて、例えば、パイプに放出用の穴を開けただけの簡易なものとしてよい。
【0024】
・放出部の配置の他の例
複数の放出ヘッド2の配置については、開口部51Aの周縁部側に設けるのに代えて、螺旋階段10の支柱11側に設けるようにしてもよい。具体的には、例えば、
図3に示したように、支柱11の外周面に、周方向に等角度間隔の配置で、それぞれが開口部51Aの周縁部側に水平に向かう向きで設けられるものとしてもよい。この場合、複数の放出ヘッド2に水を供給する配管は、支柱11内に設けるようにすることができる。なお、図示は省略するが、両側に設けられるものとしてよく、開口部51A側に設けられるものと、支柱11側に設けられるものとが混在するものとしてもよい。また、複数の放出ヘッド2を目立たせなくなる配置として以下の2つの方法がある。1つ目は、放出ヘッド2を螺旋階段10の段板12の下方に、水平方向に放出するように設ける方法である。この場合も放出ヘッドは支柱11に設けた配管に接続される。2つ目は、床部51の下方に配置させる方法である。
【0025】
・放出部の向きの他の例(下階側へ向かう気流を発生させる例)
複数の放出ヘッド2の向きについては、
図1乃至3に示したものは、螺旋階段10側又は開口部51A側に向けて、いずれも水平に向かう向きで設けられるものとしているが、それに代えて、例えば、
図4に示したように、水平より下方に僅かに傾斜する向きで設けられるものとし、その方向(矢印A2方向)に水を放出するように設けられるものとしてもよい。そのようにすることにより、水の放出に伴って開口部51Aの部分に下階側に向かう気流を発生させることができ、煙が上階側に流れるのをより防ぐことができる。
【0026】
・垂直方向の水幕の形成
図示は省略するが、螺旋階段10が設けられるスペース10Sに対し、水平方向の水幕WCを形成するのに加えて又は代えて、螺旋階段10が設けられるスペース10Sの周囲を、筒状をなして囲む垂直方向の水幕(流体幕)が形成されるものとしてもよい。その場合、例えば、各階の開口部51Aの周縁部に、下方又は上方に向けて水(流体)を放出する複数の放出部を環状の配置で設けるものとすることができる。
【0027】
・螺旋階段やエレベータ以外の構造物が設けられるスペースへの適用
この発明の防火設備1は、上階と下階を往来可能にする構造物として、螺旋階段やエレベータ以外の構造物、例えば、螺旋階段以外の各種階段や梯子等の構造物が設けられるスペースを防護するものとしても設けることができる。すなわち、人が上階と下階を往来可能にする種々の構造物が設けられるスペースに対し、そのスペースを防護するものとして適用可能であり、そのスペース中を煙等が下階から上階へと流れるのを防ぐものとして設けることができる。
【0028】
・他の装置等とのシステム化
図示は省略するが、この発明の防火設備1は、他の装置等と組み合わせて協働して動作するシステムを構成することができる。具体的には、例えば、以下のような態様のシステムを構成することができる。
・・防火設備+排煙装置(煙吸引式のものを含む)
防火設備1と排煙装置(室内の煙を外部に排出する機能を有する)が協働して動作するものする。
これにより、排煙装置によって室内の煙を外部に排出しながら、防火設備1によってスペース10S内を煙が下階から上階に流れるのを防ぐことができる。すなわち、防火設備1と排煙装置が協働して、螺旋階段10を避難経路として確保(視界確保等)することができ、その有利性を高めることができる。
なお、この排煙装置としては、例えば、自然排煙装置、機械排煙装置、押出排煙装置などを用いることができる。
ここで、機械排煙装置等の吸引式の排煙装置を用いる場合、螺旋階段10が設けられるスペース10S内に煙が流入したとしても、煙吸引装置によってスペース10S内の煙を外部に排出することもでき、前記の有利性をさらに高めることができる。
・・防火設備+排煙装置+火災検知装置等
火災検知装置による火災発報に連動して、防火設備1、前記の排煙装置が起動するものとする。
これにより、火災検知装置による火災発報があったときに、自動で前記の排煙装置が起動して動作するものとすることができる。
なお、この態様においては、防火設備1の防護対象である、螺旋階段が設けられるスペース10S内の煙濃度を計測する煙濃度計とも協働するものとして、例えば、自動火災報知設備による火災発報があったときに、まずは排煙装置が起動して室内の煙を外部へ排出し、その後、スペース10S内の煙濃度が所定値以上になったときに、防火設備1が起動するものとすることができる。
そのようにすることにより、スペース10S内の煙濃度が低く、排煙装置による排煙だけでも避難経路の確保に充分である間は、防火設備1を起動させないものとすることができる。そして、スペース10S内の煙濃度が高くなり、排煙装置による排煙だけでは避難経路の確保や、下階から上階への煙の流入を防ぎきれなくなったときに、防火設備1を起動させるものとすることができる。すなわち、前者の状態の間は、防火設備1を用いずに排煙装置及び/又は煙吸引装置だけで螺旋階段10を避難経路として確保するものとして、防火設備1による水損を防ぐことができる。一方、後者の状態になったときには、排煙装置と防火設備1が協働して、螺旋階段10を避難経路として確保するものとして、前記の通り、その有利性を高めることができる。
なお、火災検知装置としては、自動火災報知設備(無線連動型住宅用火災警報器を含む)、発信機、閉鎖型スプリンクラーヘッド(感熱開放ヘッダーを含む)、画像処理煙感知システム、火災予兆検知システム等、火災を検知する種々の装置を用いることができる。
【符号の説明】
【0029】
1:防火設備 2:放出ヘッド 10:螺旋階段 11:支柱
12:段板 10S:スペース 50:建物 51:床部
51A:開口部 WC:水幕